関東近辺の美術館めぐり ~美術・美景・美味を楽しむブログ~

ゴッホ展 (感想後編)【上野の森美術館】

今回は前回に引き続き上野の森美術館の「ゴッホ展」についてです。前編は上階の内容についてでしたが、後編は下階についてご紹介してまいります。まずは概要のおさらいです。

 → 前編はこちら

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【展覧名】
 ゴッホ展

【公式サイト】
 https://go-go-gogh.jp/
 http://www.ueno-mori.org/exhibitions/article.cgi?id=913189

【会場】上野の森美術館
【最寄】上野駅

【会期】2019年10月11日(金)~2020年01月13日(月・祝)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_①_2_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
下階も上階同様に混雑していて、あちこちで人だかりが出来ているような感じでした。後編も引き続き各節ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。なお、後編で使っている絵の写真も表にあった看板をアップで撮ったものです。展覧会では撮影禁止となっていますのでご注意ください。


<Part 2 印象派に学ぶ>
パリに出るまでゴッホはハーグ派に影響を受けた作品を描いていましたが、パリで出会った新たな傾向はこれまでの価値観を打ち壊すものでした。モンティセリによる厚塗りや宝石のように輝く色彩、印象派による科学的な理論に基づいた筆触分割など、ゴッホは彼らの作品を評価し 技法を取り入れることで作風を劇的に変化させていったようです。その後のパリからアルルに移った時期は最も色鮮やかで強烈な色彩が使われ、絵の具も厚く塗られる画風となりました。そして精神病でサン=レミに移るとまた異なる段階に進み、ミレーの模写や自作の再制作を行い 幾分落ち着いたトーンになります。同じ向きや長さのタッチを緻密に並べたりうねるようなものになっていき、最期まで自身の芸術を追い求めました。この章ではパリ以降の晩年までの作品が並んでいました。

[印象派の画家たち]
まずはゴッホに影響を与えた印象派やモンティセリの作品が並んでいました。モンティセリの名前はアルルに移って間もない頃にテオへの手紙の中に出てくるようで、卓越した色彩家として崇拝し厚塗りを積極的に取り入れていきました。それに対して印象派は既に名声を得ていたようで、大通りの画廊で扱われていたのでゴッホは「大通りの印象派」と呼んでいたようです。一方でゴッホ自身を含む若い世代の画家を「裏通りの印象派」と呼び、共にスケッチに出たり展覧会を開いて親密な仲になりました。

54 カミーユ・ピサロ 「ライ麦畑、グラット=コックの丘、ポントワーズ」 ★こちらで観られます
こちらは手前にライ麦畑が描かれ、左側に木があり 奥には向こうの丘が見えている風景画です。画面半分は空で清々しい印象を受け、穏やかな光景が広がります。ライ麦畑は厚塗りされていて実際に目の前にライ麦があるかのような立体感を感じます。穂の流れもあってリズミカルな躍動感もありました。
ゴッホはピサロ親子と仲良くなったようです。ピサロは気難しい印象派の画家たちをまとめあげる人格者だったので、ゴッホにも優しかったのかもしれません。ゴッホはピサロの「色を調和させたり不調和にすることで生まれた効果は思い切って強調しなければならない」という言葉に賛同してテオへの手紙に残しているようです。ゴッホの作風そのものとも言える言葉だけにピサロの教えもしっかり受け継いでいるように思えました。

この辺には著名な印象派の作品があり、シスレー、シニャック、ゴーギャンなどが1~2点ずつ並んでいます。新印象主義からの影響についてあまり言及されていませんが、後の細長い筆致は点描に通じるものを感じます

51 アドルフ・モンティセリ 「ガナゴビーの岩の上の樹木」
こちらは白っぽい岩とその上に立つ樹木、そして近くに人の後ろ姿がポツンと描かれた作品です。厚塗りされて細かくグニャグニャした筆致で、岩の重厚感を出しています。モンティセリは晩年にアルコール中毒で目が見えなくなっていき一層にグニャグニャして何だか分からなくなっていくのですが、これはしっかりと対象が判別できましたw ゴッホに影響を与えたのがよく分かる筆致です。

この近くにあったセザンヌの「オワーズ河岸の風景」(★こちらで観られます)も良かったです。他にモネ3点、ルノワール2点と巨匠の作品が続きます。

50 アドルフ・モンティセリ 「陶器壺の花」
こちらは花束の入った陶器の壺を描いた作品で、厚塗りされていて大きな筆致を重ねています。全体的にモコモコした感じの質感に見えるかな。ゴッホはモンティセリをドラクロワ以来の画家と賞賛し、宝石のような色彩と讃えたようです。自分をモンティセリの後継者と考えていたくらいに傾倒していたようなので非常に重要な存在です。


[パリでの出会い]
続いてはパリ時代のコーナーです。ゴッホは1886年2月末に突然パリに出てきて、モンマルトルのテオの部屋に転がり込んで、さっそく風景を書き留めました。そして2年の間にモンティセリや日本の浮世絵、印象派などの大きな出会いを果たし 大きく影響を受けて明るい色調へと変わっていきました。ここにはそうした過渡期の作品が並んでいました。

49 フィンセント・ファン・ゴッホ 「花瓶の花」
こちらは1886年の夏に花の静物を35~40点程度 集中して描いて色を研究した時の作品です。モンティセリに影響を受けているようで、暗い背景に鮮やかな色を厚塗していて その研究ぶりが伺えます。よく観ると背景などにも筆跡が残っていて、そうした点もよく似ているように思えました。

46 フィンセント・ファン・ゴッホ 「パリの屋根」 ★こちらで観られます
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こちらが急にパリに来てテオの部屋から描いた町の風景画です。縦長の画面の半分は空となっていて開放的な印象を受けるものの 落ち着いた色調で家々は茶色や灰色となっています。まだハーグ派に近い色彩かな。

ちなみにテオとゴッホの住んだ家はまだ残ってたりします。割とモンマルトルの丘でも下の方だったと記憶しています。
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何の変哲もないアパルトマンに見えますw テオとの生活はまあまあ上手く行ってたようです。
 参考記事:【番外編 フランス旅行】 パリ モンマルトル界隈


[アルルでの開花]
続いては主にアルル時代のコーナーです。ゴッホは1887年頃から印象派風の明るい色と筆触を取り入れて劇的に画風が変化しました。そして翌年に南仏のアルルに移住して色彩も筆使いもより大胆なものになったようです。ゴッホはアルルで画家の共同体を作るという夢を持ちましたが、結局それに応じたのはゴーギャンだけ(しかもテオの支援金目的)でした。そのゴーギャンとも2ヶ月で耳切事件を起こして破綻するのは有名な話ですが、その2ヶ月の間にゴーギャンの作風に影響を受けて落ち着いた筆触で詩的な雰囲気の絵を描くこともあったようです。ここには引き続きパリ時代の品やアルルの頃の作品が並んでいました。
 参考記事:ゴッホゆかりの地めぐり 【南仏編 サン・レミ/アルル】

69 フィンセント・ファン・ゴッホ 「パイプと麦藁帽子の自画像」
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こちらは黄色い麦わら帽子を被った自画像で、パイプを咥えてヒゲを生やした姿となっています。これは34歳頃でパリに到着して印象派に影響を受け始めた頃のようで、粗いタッチで色彩が明るく筆致の素早さを感じさせます。目の力も強く感じられるかな。解説によると、麦わら帽子はモンティセリに通じるアイテムだったそうです。ゴッホのトレードマークのように思っていましたが、これもモンティセリからの影響だったとは驚きでした。

この近くには画材屋で若手画家に親切だった「タンギー爺さん」やクレラー・ミュラー美術館所蔵の「男の肖像」などがありました。この先はクレラー・ミュラー美術館の品が多くて、何年か前に日本で観た覚えがあるのもあったかな。

73 フィンセント・ファン・ゴッホ 「ぼさぼさ頭の娘」
こちらはオレンジ色のぼさぼさの髪をした浮浪少女を描いた肖像です。上半身だけ描かれていて、画面の半分くらいはオレンジの髪が占めてるほどですw 背景と服は青なので補色関係となっていて一層に髪が明るく見えます。解説によると、この少女はゴッホが戸外で風景を描いている時に見かけて、モンティセリの絵に出てくるフィレンツェ人の面影を感じて描いたそうです。以前よりも色彩が強まっているのが一目で分かる作品でした。

この近くにあった「麦畑とポピー」という作品もポピーが立体的に見える厚塗りとなっていて、輝くような色彩でした。

72 フィンセント・ファン・ゴッホ 「麦畑」 ★こちらで観られます
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こちらは収穫期を迎えた麦畑を描いた作品で、10点描いた内の1点のようです。金色の麦が短い縦線で表され、生き生きとした雰囲気です。所々に赤い線を交えているのがアクセントになっているように思えます。背景は澄んだ青で、爽やかな光景となっていました。


[さらなる探求]
最後は晩年のコーナーです。アルルでの耳切事件の後、サン=レミの精神療養院に移り そこでも絵を描き自分の進む道を見つめ直したようです。かつてのようにミレーの複製に取り組み、糸杉やオリーブといった木をゴッホ独自のモティーフに仕上げようとしました。その色彩はやや落ち着いて繊細になり、筆触は細かく緻密に塗り重ねられていったようです。その後、オーヴェールの地でガシェ医師に見守られながら制作を行いましたが、拳銃自殺で亡くなりました。ここにはそうしたサン=レミ以降の作品が並んでいました。
 参考記事:映画「ゴッホ~最期の手紙~」(ややネタバレあり)

75 フィンセント・ファン・ゴッホ 「サン=レミの療養院の庭」 ★こちらで観られます
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こちらは療養院の庭の風景で、緑の木々や病院の壁などが描かれています。緑が明るく感じられ、草などは単純化して表現されている部分があります。間近で観ると厚塗り具合がよく分かり、葉っぱや花の部分は盛り上がって迫りくるような印象を受けます。実際に絵の具に光が反射してるので光って見えるしw ゴッホ独自のスタイルの集大成を感じさせる作品でした。

76 フィンセント・ファン・ゴッホ 「糸杉」 ★こちらで観られます
こちらは今回のポスターにもなっている作品で、天高く伸びる糸杉が描かれ、右上には三日月も浮かんでいます。うねるようなタッチで一部は渦巻くような表現となっています。解説によるとゴッホは手紙の中で糸杉について「エジプトのオベリスクのように美しい ~中略~ 糸杉は青を背景に…というよりは青の中にあるべきだ」と書いているそうで、それがそのまま絵で表現されているようにも思えます。糸杉は複数の色が複雑に絡み合い、まるで緑の火焔のような力強さがありました。なお、以前の展示の解説によると糸杉は墓地に植える習慣がありゴッホもそれを知っていたそうです。そうだとすると生命力と死を連想させる作品とも言えそうです。
参考記事:メトロポリタン美術館展 大地、海、空-4000年の美への旅  感想後編(東京都美術館)

この近くには「ガシェ博士の肖像」(エッチング)などもありました。

81 フィンセント・ファン・ゴッホ 「薔薇」 ★こちらで観られます
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こちらは薄い緑を背景に白いバラが沢山入った花瓶が描かれた静物です。背景は右上から右下へと斜線で表され、こぼれ落ちた花などと共に流れを感じます。解説によると描かれた当時はバラのつぼみは赤だったようですが、現在は色あせたようです。それでも筆致の厚みや背景・配置によって生き生きとした印象を受けました。
 参考記事:ワシントン・ナショナル・ギャラリー展 印象派・ポスト印象派 奇跡のコレクション 2回目感想後編(国立新美術館)


ということで、後半は見応えのある作品が並んでいました。やはりアルル以降の作品がゴッホのイメージ通りの作風ではないかと思います。私は見覚えがある作品が多かったので満足度は4にしていますが、これだけの内容を観られるのは贅沢なので、ゴッホがお好きな方は必見だと思います。会期末になると一層に混雑するので、お早めに行くことをオススメします。



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ゴッホ展 (感想前編)【上野の森美術館】

この前の土曜日に上野の森美術館でゴッホ展を観てきました。メモを多めに取ってきましたので、前編・後編に分けてご紹介していこうと思います。

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【展覧名】
 ゴッホ展

【公式サイト】
 https://go-go-gogh.jp/
 http://www.ueno-mori.org/exhibitions/article.cgi?id=913189

【会場】上野の森美術館
【最寄】上野駅

【会期】2019年10月11日(金)~2020年01月13日(月・祝)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_①_2_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
混んでいてチケットを買うのに15分くらいかかりました。事前にチケットを買っておけば並ぶ必要もなかったので、他で買ってから行ったほうが良いかもしれません。中もお客さんがぎっしりで予想以上に観るのに時間がかかりました。観に行く際はスケジュールに余裕を持っておくことをオススメします。

さて、この展示は日本でも大人気の画家フィンセント・ファン・ゴッホをメインにしたもので、ハーグ派 と 印象派 という2つの潮流との出会いをテーマに時系列的に作風を追う内容となっています。ゴッホは毎年のように展覧会をやっているような気がしますが、ハーグ派に目を向けるのは久々の機会だと思います。前半がハーグ派関連、後半が印象派関連という構成となっていて、ゴッホに影響を与えた画家たちの作品も展示されていました。詳しくは各節ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。なお、この記事で使っている写真は表にあった看板をアップで撮ったものです。展覧会では撮影禁止となっていますのでご注意ください。

参考記事:
 ゴッホ展 巡りゆく日本の夢 (東京都美術館)
 ゴッホ展 こうして私はゴッホになった 感想前編(国立新美術館)
 ゴッホ展 こうして私はゴッホになった 感想後編(国立新美術館)
 ゴッホ展 こうして私はゴッホになった 2回目感想前編(国立新美術館)
 ゴッホ展 こうして私はゴッホになった 2回目感想後編(国立新美術館)
 メトロポリタン美術館展 大地、海、空-4000年の美への旅  感想後編(東京都美術館)
 映画「ゴッホ~最期の手紙~」(ややネタバレあり)
 ゴッホゆかりの地めぐり 【南仏編 サン・レミ/アルル】


<Part I ハーグ派に導かれて>
まずは初期のコーナーです。ゴッホは神父などを目指していましたが27歳の頃に画家になることを決心し、独学で絵を学び始めました。色彩理論や素描についての本を読み、過去の巨匠の作品を模写していたようで、フランソワ・ミレーの農民への眼差しに共感してまずは農民画家を目指しています。1881年末にハーフ派の中心的な画家であるアントン・マウフェに教えを請うと、翌年にはハーグに移住し他の画家とも交流し指導を受けて制作を共にしています。この時に得た 戸外で風景を観察したりモデルを前にして描く姿勢は その後も一貫して守り続けていくことになります。1884年にようやく油彩画の大作に取り掛かり、翌年の春に「ジャガイモを食べる人々」を仕上げました。初期の代表作であるこの絵は複雑な構図と明暗を表現した自信作でしたが、仲間には不評だったようです。この章ではまだ地味な色彩だった頃の作品が並んでいました。

[独学からの一歩]
ゴッホは画廊に勤めていた間にハーグ、ロンドン、パリなどに移り、その度に展覧会や美術館に足を運んでいたようです。特に惹かれた作品は手紙で弟のテオに語ったり複製画を自分の部屋に飾ったりしていたようです。そして本から学ぶ一方で地元の農民の日常を題材にデッサンを重ね、その後マウフェの助言でモデルを観て描くようになっていきました。ゴッホは地道な訓練を重ねて技術を高めなければならないと考えていたようで、この節にはそうした研鑽の日々の作品が並んでいました。

9 フィンセント・ファン・ゴッホ 「馬車乗り場、ハーグ」
こちらは馬車乗り場に立つ帽子の女性を描いた作品です。全体的に茶色っぽい画面で、背景はあまり詳細には描かれていませんが しんみりとした情感が漂います。落ち着いていて郷愁を誘うような色調なので晩年の作風とはかなり異なる印象でした。
この辺は同様の画風の茶色っぽい重厚な色彩の作品が並んでいました。水彩やデッサンもあります。

7 フィンセント・ファン・ゴッホ 「永遠の入口にて」
こちらは椅子に座り顔を手に当てて うずくまるような姿勢の老いた農夫を描いたデッサンです。足の部分がちょっと奇妙だったり全体的に硬い描写のように見えますが、絶望しているような感じがよく伝わるかな。農民に寄り添うような視線の作品です。

6 フィンセント・ファン・ゴッホ 「疲れ果てて」 ★こちらで観られます
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こちらも先程の作品と似た姿勢の農夫を描いたデッサンで、少し色も塗られています。タイトル通り疲れ果てて寝ているようで、周りの生活用品も貧しそうな雰囲気です。マウフェの教えに従い生きた人間をモデルに描いたようで、足がやけに長いように見えますがだいぶ質感などが出ているように思えました。

5 フィンセント・ファン・ゴッホ 「籠を持つ種まく農婦」
こちらは畑の上で籠を持って立つ農婦を描いた作品です。右手から種がこぼれていて、無気力にぼーっと立って物思いに耽っているような感じです。こんな直立不動で種まきなんてできるの?って不自然さがあるかなw 全体的に暗い印象を受ける作品でした。


[ハーグ派の画家たち]
続いてはハーグ派の画家たちの作品のコーナーです。ハーグ派は19世紀後半にハーグを拠点に活動した一派で、17世紀オランダ黄金時代から続くレアリスムの流れに属し 田園や海岸に赴いて風景を描きました。自然や素朴な暮らしを描いた作品がゴッホを強く魅了したようで、ゴッホは彼らに教えを請い共にスケッチに出かけるようになりました。直接の交流は1885年までにほぼ無くなりますが(1886年2月末にはパリに出ている)、この頃教わった画材の扱いや観察する姿勢はゴッホの土台を築き上げたようです。ここにはゴッホと交流したハーグ派の作品が並んでいました。

19 アントン・マウフェ 「雪の中の羊飼いと羊の群れ」 ★こちらで観られます
こちらは大型で横長の作品で、雪の中を沢山の羊の群れが移動している様子が描かれています。白い雪に灰色の空、羊たちは茶色がかった感じで地味な色彩となっています。しかし大胆な厚塗りとなっていて、画面からは質感や寒々とした雰囲気が伝わってきます。冬の情感と自然の厳しさが詰まったような大作でした。

この辺はマウフェの作品がいくつかありました。マウフェはゴッホの親戚でもあったようです。

29 アントン・ファン・ラッパルト 「ウェスト=テルスへリングの老婦たちの家」
こちらはテーブルに向かう5人の老婆たちが描かれ、背景にも1人の姿が描かれています。貧しい農家の家の中のようで、裁縫をしたり立っていたりとそれぞれ異なるポーズをしていて、画面構成に主眼が置かれているようです。解説によるとこの作者は王立アカデミーを出た画家で、ゴッホと親しく交流しゴッホから影響を受けて 貧しい農民たちを描くようになったようです。しかしこの絵を観ても方向性の違いがあり、後にゴッホの「ジャガイモを食べる人々」を酷評して仲違いしています。貧しい人々を描いているけどアカデミックな本格派であることが伺える作品でした。

近くにはマリス3兄弟の作品などもありました。こうしてハーグ派の作品を観ていると茶色っぽく静かな色使いはハーグ派を通しての特徴のようで、ゴッホがいかに影響を受けていたかが分かります。

12 ヤン・ヘンドリック・ウェイセンブルフ 「黄褐色の帆の舟」
こちらは川に浮かぶ3艘の小舟と、川沿いの道が描かれた風景画です。空を広く取って雲から光が漏れているような光景で、広々として光の表現が見事で、川面が光っているように見えます。解説によると、この画家はハーグ派の中でも傑出した画家で、ゴッホを高く評価してゴッホと関係が悪化したマウフェとの間を取り持ったりもしたそうです。ゴッホ抜きにしても良い作品なので、この画家はもっと観てみたくなりました。

14 ヨゼフ・イスラエルス 「縫い物をする若い女」
こちらは窓辺で縫い物をしている女性を描いた作品で、黙々と作業している静かな光景となっています。落ち着いた色調であるものの、光が当たっている感じが出ていて、構図や題材的に同じオランダのヨハネス・フェルメールやピーテル・デ・ホーホなど17世紀の巨匠に通じるものがあるようです。そこまで細密な描写ではありませんが、温かみもあって静謐な印象の作品でした。

この近くにはイスラエルスの作品がいくつかありました。イスラエルスはゴッホが特に称賛していた画家で、当時は第2のレンブラントと称されていたようです。この他にも海老を取る漁師を描いた作品など、巧みな光の表現の作品がありました。


[農民画家としての夢]
ゴッホは1884年後半から翌年にかけて初めて油彩による大作に取り組みました。これが暗い室内で農民の一家が慎ましい食事を摂る「ジャガイモを食べる一家」で、この作品の為に まず数ヶ月をかけて習作を描き、40点近くの農民の頭部を仕上げているそうです。そして完成作に大きな自信を持ったゴッホは 家族や友人にその成果を知らしめる為に同じイメージを版画に起こして送ったそうで、そのために版画工の元に通って版画制作を学んだりもしています。しかし友人のアントン・ファン・ラッパルトに酷評されて5年の友情は終わってしまいました。ここにはその頃の作品が並んでいました。

30 フィンセント・ファン・ゴッホ 「ジャガイモの皮を剥くシーン」
こちらは粗末な台の上に座って膝の上でジャガイモの皮を向いている女性を描いた素描です。明暗が強く全体的にカクカクした描写で硬い印象を受けるかな。解説によるとこの女性は1882年1月から1年半ほどゴッホと一緒に暮らしたシーン(クラシナ・マリア・ホールニク)という子連れの娼婦だそうです。アルコール中毒でもあり悲惨な境遇に同情してモデルにして同棲したようですが、この女性によって貧窮しただけでなく父やマウフェとの関係が悪化したようです(テオもシーンとの関係を反対し、別れなければ仕送りを止めると迫っています) しかしゴッホは別れた後も未練があったようなので愛情もあったのかも?? 色々とトラブルを招いた女性なのは間違いないですね…。

37 フィンセント・ファン・ゴッホ 「農婦の頭部」 ★こちらで観られます
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こちらは人物の頭部ばかりを集中していた時期の作品で、デップロート家の娘のホルディーナがモデルとなっています。(この娘は何度もモデルを務めています)女性であるものの浅黒い肌で眉が濃く、割と逞しくて素朴な雰囲気に見えるかなw この習作はこの後に出てくる「ジャガイモを食べる人々」に活かされていました。

フィンセント・ファン・ゴッホ 「ジャガイモを食べる人々」 ★こちらで観られます
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こちらは同名の作品を版画にしたもので、これをラッパルトやテオに送ったようです。5人の農民がテーブルを囲ってジャガイモを食べている様子ですが、ちょっと明暗が浅くて動きがぎこちない感じで、お互いに無関心なようにも見えます。近くにはラッパルトからの手紙もあり「真剣に描いたとは思えない ~中略~ 上辺だけで動きを勉強していない。芸術を横柄に扱うな」といった批判が書かれています。確かにミレーの「種蒔く人」を持ち上げいただけに動きの無さは否めないような…。それに対してゴッホは「リトグラフを1日で描いたし実験的なもの 油彩はコントラストの点でもっと成功した」と弁明しています。試しに油彩の写真を調べて観るとリトグラフに比べて明暗表現が緻密で劇的なので、版画の出来の問題もあるのかも。とは言え、既に印象派に接していたテオの反応も微妙だったようなので、本人の思ったほど周りは傑作とは思っていなかったのは間違いなさそうでした。

44 フィンセント・ファン・ゴッホ 「秋の夕暮れ」
こちらは木々に囲まれた道に女性らしき人影がポツンと立っていて、背景には夕焼け雲が描かれた作品です。全体的に暗くこの頃の作風らしいかな。晩年の明るい色彩とは対極にすら思えます。しかし寂しげな雰囲気が叙情的で、これはこれで好みの作品でした。

41 フィンセント・ファン・ゴッホ 「器と洋梨のある静物」 ★こちらで観られます
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こちらはニューネンに移った頃に描いた作品で、この時期に先程のホルディーナが妊娠してゴッホが父親ではないかと疑われ、ニューネンの村ではゴッホのモデルになるのを禁止されて、ゴッホは人物ではなく静物を描いていたようです。暗い背景に皿に入った山盛りの洋梨が描かれ、明暗が強く艷やかに光っています。しかし全体的に茶色っぽくて沈んだ色調なのでジャガイモのような色にも見えますw 素朴で力強い雰囲気で、この頃のゴッホの画風がよく出ていました。

この辺は同様に暗い色調の農夫を描いた作品などが並んでいました。解説ではテオは給料の半分をゴッホに仕送りしていたエピソードを紹介していて、絵の所有権は全てテオにあったようですが兄さん思いの優しい人柄がよく分かる逸話でした。


ということで、前半は地味な色彩で農民を描いた作品が中心となっていました。正直、ここで終わっていたらゴッホは無名のままだったような気がしますw 後半は印象派に傾倒して一気に花開いた時期から晩年までの作品が並んでいましたので、次回はそれについてご紹介の予定です。

 → 後編はこちら



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バスキア展 メイド・イン・ジャパン (感想後編)【森アーツセンターギャラリー】

今回は前回に引き続き森アーツセンターギャラリーの「バスキア展 メイド・イン・ジャパン」についてです。後半も撮影可能な作品がいくつかありましたので、一部は写真と共にご紹介していこうと思います。まずは概要のおさらいです。

 → 前編はこちら

DSC05726_20191020013347239.jpg

【展覧名】
 バスキア展 メイド・イン・ジャパン

【公式サイト】
 https://www.basquiat.tokyo/
 https://macg.roppongihills.com/jp/exhibitions/basquiat/index.html

【会場】森アーツセンターギャラリー
【最寄】六本木駅

【会期】2019年9月21日(土)~11月17日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
後半も前半と同じくらいの混雑具合でした。引き続き気に入った作品と共に展示の様子を振り返ってみようと思います。なお、写真を使っているのは全て撮影可能だった作品となります。

ジャン=ミシェル・バスキア 「オニオンガム」
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「ONION GUM MAKES YOUR MOUHT TASTE LIKE ONIONS」(玉ねぎガムはあなたの口を玉ねぎ味にする)という言葉が3回繰り返し書かれ、舌を出して辛いものを食べたような顔をしています。右上にはメイドインジャパンの文字もあって、オニオンガムは日本製なのかな?w 解説によるとこの頃アメリカにはメイドインジャパンの家電などが溢れていたらしく、行き渡り過ぎたことを皮肉っているのかも知れません。頭の上で操っているような人もいて日本製品の操り人形になっているイメージのようにも思えました。

ジャン=ミシェル・バスキア 「メイドインジャパン1」「メイドインジャパン2」
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こちらも当時のメイドインジャパン旋風を題材にしたと思われる作品。電話らしきものを持って日本製品でしょうか。こちらも難解な作品ですが、カリカチュア的な肖像となっていました。

この近くには空手をしている人のドローイングもありました。

ジャン=ミシェル・バスキア 「木」
こちらはポップアートの巨匠アンディ・ウォーホルとの共作で、中央に木が描かれ その周りにシリンダーや目に「EYE」と書いてある人の横顔が火を吹いています。周りには「WOOD」や「FEET」といった言葉もあり謎めいたシュールな雰囲気となっています。どこをどう共作しているのか分かりませんが、2人は何度か共作を作っていてバスキアはウォーホルを敬愛していたようです。バスキアが売れる前の18歳の時、レストランでウォーホルに出会って自作のポストカードを売ることに成功したそうで、その6年後にはスターダムに登りつめてこの作品を作ったことになります。2人の作風は異なりますが、お互いの才能を認め合っていたのはよく分かりました。
 参考記事:アンディ・ウォーホル展:永遠の15分 感想後編(森美術館)

この近くにはウォーホルとの2人展のポスターが2枚ありました。両方とも一見するとボクシングの試合のポスターみたいな感じで、1枚はウォーホルがバスキアの顔にパンチを入れていますw もう1枚は2人でファイティングポーズを取っていて割とサマになってました。

その後はバスキアの日本滞在時の作品などが並んでいました。南青山のレストランCAYの壁に残した絵の一部や、日本で撮った写真(大きな瓦屋根の写真など)が展示されています。また、その先には音楽に関するドローイングなどもあり、その中にジャズのアーティストの名前を入れたりしています。バスキア自身もミュージシャンとして活動していたようで、映像でラップ調の音楽も流していました。(DJの手だけ写ってたりするので本人なのかは分からず…)

ジャン=ミシェル・バスキア 「消防士」
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右側は確かに消防士っぽい人物像かな。左側は何故か腹にパンチを入れてて「BOF」っと効果音までついているのがちょっと可笑しいw 塗り残しのような所があったりして、非常に大胆な構成に思えました。

ジャン=ミシェル・バスキア 「プラスティックのサックス」
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断片的に貼り付けたような画面で、いくつか人の顔があります。中央あたりの人が何か吹いているようにも見えるからそれがサックスなのかな?と思ったけど詳細は不明です。(シャツの襟かもしれませんw)

一部をアップすると日本語が書かれています。
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トーヨーの折り紙をトレースしたのかな。何箇所か同じように書いてあるけど、一部は おしがみ となってたりしますw 意図は分かりませんが、これも日本との関わりを感じさせました。

近くには日本の五重塔をモチーフにした作品もありました。

ジャン=ミシェル・バスキア 「シー」
こちらは自らのドローイングを敷き詰めた背景に骸骨のような人物が目に手をあてて座っている様子が描かれた作品です。タイトルの「シー」は法王を示すらしいので、玉座に座る法王と考えることもできそうです。白黒の髑髏姿で描かれているのはちょっと不気味な雰囲気に思えます。前半の展示にも史上最悪と言われる法王アレクサンデル6世を題材にしたものがあったので、法王に対してちょっと批判的な意味合いがあるのかも?と思いましたが、自身の作品を背にしたバスキア自身の自画像と考えることもできるようです。この絵を描いた1985年にはニューヨーク・タイムズマガジンの表紙に載るなど時代の寵児となっていたらしいので、自らを法王に見立てつつ皮肉しているのかもしれませんね。

ジャン=ミシェル・バスキア 「炭素/酸素」
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こちらは都市や宇宙開発を想起させるモチーフが並んだ作品。オカルト好きとしては中央の影が宇宙人に見えるw

こちらは一部をアップしたもの。
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炭素+酸素→一酸化炭素といった化学式のようなものが描かれているのがタイトルの由来のようです。

こちらも一部をアップしたもの
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日本の五重塔も入っています。割とお気に入りのモチーフだったのかな。科学をモチーフにした中に伝統的な建物が入っていて日本的なものを感じました。

この後にあった作品はちょっと作風が変わったものがありました。1986年以降、新しいスタイルに挑戦したそうで、ソ連のグラスノスチ(ゴルバチョフによる情報公開)を皮肉った作品ではかなりシンプルな色面と人物像が描かれていました。

ジャン=ミシェル・バスキア 「無題(ドローイング)」
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こちらは最後にあった1986年の作品。かなり大きくて壁画のような感じです。これもかなり読み解くのは難しいけど、とにかくHEY!が目につくw

HEY!のあたりのアップ
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さらに小さくHEY!HEY!HEY!HEY!と書いてありますw たまにおかしくなってYEHになってるしw 最後まで謎めいた作風でした。

1987年にウォーホルが亡くなって、バスキアはその翌年の1988年に27歳の若さで亡くなりました。展覧会では言及されていませんでしたがヘロインの過剰摂取(オーバードース)が死因となっています。ウォーホルの死によって孤独が深まりヘロインに溺れたと考えられています…。


ということで、私は大満足で図録も購入しました。難解なところもありますがエネルギッシュな作品の数々を観ることができ、展覧会のサブタイトルにある「メイド・イン・ジャパン」についても作品で何度も取り上げられていて、日本との関わりなども伺えました。かなり人気の展示で日によっては待ち時間が発生すると思われますが、素晴らしい展示なので興味がある方は是非足を運ぶことをおすすめします。


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バスキア展 メイド・イン・ジャパン (感想前編)【森アーツセンターギャラリー】

日付が変わって昨日となりましたが、金曜日に午後休みを取って六本木の森アーツセンターギャラリーで「バスキア展 メイド・イン・ジャパン」を観てきました。充実の内容となっていましたので、前編・後編に分けてご紹介していこうと思います。

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【展覧名】
 バスキア展 メイド・イン・ジャパン

【公式サイト】
 https://www.basquiat.tokyo/
 https://macg.roppongihills.com/jp/exhibitions/basquiat/index.html

【会場】森アーツセンターギャラリー
【最寄】六本木駅

【会期】2019年9月21日(土)~11月17日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
チケットを買うのに10分程度の待ちがあり お客さんはかなり多かったですが、作品が大きめなので自分のペースで観ることができました。とは言え、開催2日目(休日)に行った時は入場1時間待ちだったので、休日はかなり混むと思われます。(わざわざ平日の休みを取ったのは混むのが嫌だったからですw)

さて、この展示は1980年代のアメリカで活躍し若くして亡くなったジャン=ミシェル・バスキアの日本初の本格的な展覧会となります。バスキアは僅か10年の間に新たな具象表現的な要素を取り入れた3000点を越えるドローイングと1000点以上の絵画を残したそうで、生前に日本を訪れて日本をモチーフにした作品もあるようです。2017年に当時ZOZOの社長だった前澤氏がバスキアを123億円で購入したことで日本での知名度も一気に上がったように思えますが、今回の展示にはその作品も出品されていました。一部は撮影可能となっていましたので、いくつか写真を使いながら気になった作品をご紹介していこうと思います。

まず入口で音声ガイドを無料で貸し出していました。入場料が高いけど音声ガイド代もインクルードされていると思えば相場通りかなw この展示には章立て、作品リスト、解説のキャプションの類は無く 理解しづらい部分もありますので、音声ガイドが非常に参考になりました。


ジャン=ミシェル・バスキア 「無題」
こちらは王冠のようなものをかぶり、手に黄色い杖を持った王様らしき人物を描いた作品です。グチャグチャっと渦巻くような筆致で落書きのような印象も受けますw しかし色も描写も鮮烈な個性があり、ひと目でバスキアと分かる特徴が感じられました。この後も同様の作風が多く並んでいるので典型的な作風なのかもしれません。 この絵の意図は分かりませんが、何か皮肉めいたものがあるように思いました。

ジャン=ミシェル・バスキア 「無題(フライドチキン)」
こちらは全体的にオレンジがかった画面に男性の顔や沢山の文字が書かれた作品です。その中に「POLLO FRITO」という文字があり、これはスペイン語でフライドチキンのことだそうです。と、その単語の意味が分かったところで絵の解釈ができるわけではないのですが、バスキアの住むブルックリンの喧騒が詰められたような感じでしょうか。スペイン語なのはバスキアの父はハイチ人、母はプエルトリコ人である為のようで、たまにその出自を思わせるモチーフの作品もあったりします。解説によると、21歳の頃に描いたこの作品が世界進出のきっかけになったとのことでした。

ジャン=ミシェル・バスキア 「ポーク」
こちらは赤いドアの上に絵を描いた作品で、上部の6つの窓枠の中にはマークや人の顔、文字などが描かれています。一方、ドアの胴体部分にはアフロヘアのような黒人らしき顔が描かれていて、絵の一部にPorkと書いてあるのが作品名となったようです。ドアに描くというのが破天荒な印象ですが、これはストリートで拾ってきたドアだそうです。バスキアはストリートにこだわったアーティストでそれが端的に現れているとも言えそうです。また、この作品より前の時期は詩を中心に活動していたようなので、過渡期の貴重な作例のようでした。

ジャン=ミシェル・バスキア 「フーイー」
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こちらは撮影可能でした。タイトルを日本語訳するなら愚か者という意味ですが、左下の方にいる人がちょっとそれっぽいかなw 王冠のようなものがいくつかあって意味深ですが読み解けませんでした。

ジャン=ミシェル・バスキア 「無題」
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こちらは今回のポスターにもなっている作品で、前澤氏が購入したことで話題になりました。スプレーなどを使って人の顔を描いていますが、具象のような抽象のような。ストリートの落書きのようでもあり、強烈な色彩と髑髏を思わせる顔で一度観たら忘れられないインパクトです。

ジャン=ミシェル・バスキア 「ナポレオン」
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VERSUS PORK(対 豚肉?)、SHOE POLISH(靴磨き)の打ち消し、そして100万円…。どこがナポレオンなのかも含めて謎だらけですw しかし意味を離れて色と文字のバランスだけ観るとリズムがあるように思えました。

その先には無数のドローイングが並んでいました。スケッチブックだけでなく紙の切れっ端のようなものにまで描いています。一見すると子供の絵のようなものもあり、太い輪郭と歪んだ線や飛び出すような色彩が特徴です。解説によるとバスキアは子供の頃から絵が好きで、漫画家になりたかったそうです。バスキアの母親は美術館に連れて行ったりして後押ししてくれたとのことでした。そのせいかゴッホをモチーフにして「ゴッホはアムステルダムの蝋人形館にいる」と書かれた作品もありました。リスペクトなのか皮肉なのか…w

少し先には作品制作している映像もありました。スプレーを使って下書きも無くささっと即興で描いているように思えます。本当に壁に落書きしているようなw 詩を書いていただけあって絵画作品でも文字を多用していて、映像の中でも文字を書くシーンが多かったように思います。

ジャン=ミシェル・バスキア 「自画像」
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こちらも何かの板のようなものに描かれた作品。意地悪そうにニヤっと笑うシルエットが自画像で、バスキアは実際にこういうドレッドヘアをしています。

こちらは右側の部分のアップ
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これについては解説がなかったですが、恐らく拾ってきた王冠だと思います。何故これを無数に貼り付けたか分かりませんが、アンディ・ウォーホルと仲が良かったのでポップアート的な表現にも思えました。王冠はバスキアの作品でよく出てくるのでシンボル的な意味があるのかな?

この隣にはモナリザをモチーフにした作品もありました。

ジャン=ミシェル・バスキア 「無題(100円)」
こちらは中央に赤い王冠と¥マークが描かれ、上部に「100YEN」 下部に「DUNCE CAP」と文字が書かれた作品です。これはバスキアが初めて日本を訪れた1982年に描いたもので、この頃の日本経済はバブルに向かって絶好調でした。「DUNCE CAP」というのはアメリカの学校で怠け者に罰として被らされた帽子のことらしいので、私の解釈としては ワーカーホリックとまで言われた日本がアメリカを脅かすようになったのは、怠惰による罰と考えたのかも?と思いました。バスキアの作品は一見すると子供の落書きのようですが詩的で難解な文字の組み合わせが深い意味があるように思えます。

この近くには200YENと書かれた「New」と「Fake」というお互い似たような作品もありました。


ということで中途半端なところですが長くなってきたので今日はここまでにしようと思います。作品の理解が難しいものの大型作品やドローイングなど予想以上の充実ぶりで、各作品が圧倒的なパワーを放っていました。後半も日本との関係を思わせる作品や、撮影可能な作品がありましたので次回は残りについてご紹介の予定です。

 → 後編はこちら


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DECODE/出来事と記録-ポスト工業化社会の美術 【埼玉県立近代美術館】

2週間ほど前に北浦和の埼玉県立近代美術館で「DECODE/出来事と記録-ポスト工業化社会の美術」を観てきました。

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【展覧名】
 DECODE/出来事と記録-ポスト工業化社会の美術

【公式サイト】
 http://www.pref.spec.ed.jp/momas/?page_id=414

【会場】埼玉県立近代美術館
【最寄】北浦和駅

【会期】2019年9月14日(土)~11月4日(月・振休)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_4_⑤_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_③_4_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_②_3_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_③_4_5_満足

【感想】
空いていて快適に鑑賞することができました。

さて、この展示は1960年代末から70年代にかけての日本の「もの派」と呼ばれるアートをテーマに、当時の映像や資料と共にその活動状況を振り返るという内容となっています。タイトルに「ポスト工業化社会の美術」とあるように、工業製品を用いたり素材感を前面に出した作品が多く、まさに「もの」が主体となっているような感じです。章分けは特に無く解説も少なめなので理解するのが難しかったですが、簡単にその様子を振り返ってみたいと思います。


まずは金村修の大きなモノクロ写真が並んでいて、いずれも都市のゴチャゴチャした光景を写した作品となっていました。路地の看板やアパート、電信柱などが写っていて無機質で工業的な雰囲気です。また、街中の様子を撮った映像もあり、こちらは場面がよく切り替わって目がチカチカするw 人はあまり映らず、写真と同様に廃墟のような印象を受け、意図は分からないものの不安を覚えるような作風でした。

続いては関根伸夫のコーナーで、「位相-大地」という作品の写真を中心に紹介していました。この作品は巨大な円筒の土の塊(直径220cm×高さ270cm)と、それと同じサイズの穴が地面に空いているという作品で、まるで地面から円筒をくり抜いて脇に置いたような感じです。近くでその当時の制作の様子を映像を流していて、ツルハシとシャベルを使って掘って 隣に置いた木組みの円筒形の型に入れていくような工程となっていました。流石に土を入れるのはクレーンを使っていましたが、かなりの労力がかかっています。完成すると側面んは地層のような模様が出来ているのがちょっと不思議でした。
 参考記事:日本の70年代 1968-1982 感想後編(埼玉県立近代美術館)
その先には関根伸夫の?型の椅子やモアイのような彫刻、様々なアイディアノートなどがありました。万里の長城に「位相-大地」を作る構想などがあって、これは実現したら面白かったかもw
さらに「位相 No.9」というメビウスの輪のような立体作品があり、壁から飛び出すような感じで赤・黄色・オレンジのグラデーションが付けられていました。土塊の位相とはだいぶ違って未来的な印象を受けました。
その後は再び関根伸夫の作家活動に関する資料が並び、「位相」以前の作品や展覧会の設置の様子、環境美術研究所に関する資料、会社の資料や計画書、都庁広場の「水の神殿」というオブジェの設計図、見積書、志木駅東口立体遊歩道のモニュメントの写真や設計図、関根伸夫の刊行物(自伝、関根伸夫が選ぶ庭10選)、個人的な資料(年賀状、手帳、子供の頃の記念写真)などなど、割とカオスな内容ですw この辺は関根伸夫に詳しい人でないとあまり有難味が実感できないような…

その次は小清水漸のテーブルや楕円を半分にしたような「鉄 I」という立体作品や、吉田克朗の「赤・カンヴァス・糸など」という抽象画の垂れ幕のような大型作品がありました。いずれも素材感を押し出したような作品で、モノ派という言葉が感覚で理解できたように思います。近くには他にも数人の立体作品やメイキングの写真などもありました。

その先の通路では4つの映像があり、高松次郎や野村仁の作品を紹介していました。やはり質感・素材感がテーマになっている作品が多いようで、野村仁などはこの後にも作品が出てきます。また、通路は小松浩子の「内方浸透現象」という白黒写真が壁中に貼られているだけでなく床にまで敷き詰めてあって、その上を歩いて鑑賞するようになっていました。工業製品や工場を写したと思われる機械的な写真が多く、無機質で雑多な廃墟に迷い込んだかのような感覚になります。垂れ幕や床には映像も写っていて、異様な展示風景となっていまいた。

次の部屋には野村仁の「Tardiology」という京都市美術館の前に置かれたダンボール4階建ての建造物の写真が並んでいました。最初はしっかりとそびえ立っているのですが、徐々にへたってきて横の壁が壊れて行き、自重を支えきれず潰れてしまいます。最後はただのゴミの山のようになっていて、時間の流れと形態の移ろいを感じさせました。近くにはスライドでこの作品をクレーンなどを使って建てている様子もありました。

その先には関根伸夫の「空相ー石を切る」という石を水平に切って表面を鏡張りした作品がいくつか並んでいました。見た目は椅子っぽいw 自然物を使いながらスパッと切れた断面が人工的な印象を受けました。

最後の部屋は様々な作家の作品が並んでいました。柏原えつとむの「これは本である」という本は、本文中に「THIS IS A BOOK」とか「コレハ本デアル」といったトポロジー的な言葉が延々と書いてありますw 本だと主張しているのに、本とは思えない内容の無さという矛盾が面白いw また、 飯田昭二の「Paper」は「Paper」と印字された紙がぐちゃぐちゃになって山になっています。これもPaperと主張しているけどゴミにしか見えないのが皮肉に思えました。 最後に野村仁の「Dryice」という記録映像があり、正六面体のドライアイスを並べて、それが小さくなっていく様子を映し出していました。野村仁の作品は時間の経過を見て取れる作品が多いので一種の実験を観ているような面白さがあります。
 参考記事:
  これは本ではない―ブック・アートの広がり (うらわ美術館)
  野村仁 変化する相―時・場・身体 (国立新美術館)


ということで、しっかり理解したかは怪しいですが既存のアートの範疇を越えるようなスケールの大きな作品を観ることができました。7年前に同じ埼玉県立近代美術館で観た展示と似た部分もあったかな。現代アートに興味がある方向けの展示だと思います。

おまけ:
今回の常設は以前見た内容と同じようだったので今回は見ませんでした。ぐるっとパスだと常設展は別料金になるので…w
 参考記事:2019 MOMASコレクション 第2期 (埼玉県立近代美術館)



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