Category | 過去の美術展 (2017年)
今回は写真多めです。引き続き箱根編で、今日は元箱根港のすぐ側にある成川美術館についてご紹介しようと思います。この美術館では撮影可能となっていましたので、写真を使っていこうと思います。

【展覧名】
開館30周年記念展 戦後日本画の山脈 第一回
【公式サイト】
http://www.narukawamuseum.co.jp/
【会場】成川美術館
【最寄】なし
【会期】2017年9月15日(金)~2018年3月15日(木)
※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。
【鑑賞所要時間(私のペースです)】
1時間00分程度
【混み具合・混雑状況】
混雑_1_2_3_4_⑤_快適
【作品充実度】
不足_1_2_3_④_5_充実
【理解しやすさ】
難解_1_2_3_④_5_明解
【総合満足度】
不満_1_2_3_④_5_満足
【感想】
空いていて快適に鑑賞することができました。
さて、この美術館は以前にもご紹介しましたが、元箱根港から徒歩1分くらいのところに入口がある美術館です。日本の近代作家のコレクションが充実していて、大型作品も結構あります。今回はたまたま開館30周年記念展をやっていて、見ごたえのある作品が数多く並んでいました。冒頭にも書いたように撮影可能となっていました(以前は撮影できなかったと思います)ので、写真を使って気に入った作品をご紹介していこうと思います。
参考記事:
【成川美術館】の案内
季節風 【成川美術館内のお店】
<第1室 現役作家の代表作>
まずは現役作家の代表作のコーナー。最初から見どころと言える作品が並んでいました。
竹内浩一 「艶」

猫の表情はたまに哲学者みたいに凛々しいですが、これはそんな瞬間に見えました。佇まいに気品があります。
平松礼二 「日本の新しい朝の光」

こちらは東日本大震災の後に描かれたそうで、富士山に献花する意味が込められているようです。日本らしいモチーフと琳派や浮世絵へのオマージュが感じられ、非常に見応えがありました。
米谷清和 「雪の日」

これを観たのが2018年1月だったこともあり、つい1週間前に降った大雪の光景を思い出しました。都会に雪という取り合わせや橋脚の大胆な構図も面白い。
平岩洋彦 「白景」「秋の渓」

実に見事な2点の大型作品。どちらも季節感のある渓流の光景で、自然への敬意や美しさが感じられます。細かいところでも秋草が優美に描かれていたりしてしばらくじっくり観てきました。
<第2室 女性画家を含む現役作家の名作>
続いても現役作家のコーナー。こちらには女性画家の作品もありました。
森田りえ子 「秋蒼穹」

4曲1双の屏風で非常に目を引きました。華やかな花々がリズミカルに配置されて色の取り合わせも綺麗です。近くで観ると細やかなので写真だとちょっと伝わらないかな。
吉澤照子 「刻」

すすき野に風が吹き渡るような光景が儚くも懐かしいような印象をうけました。伸びやかなすすきが1本1本描かれているのも驚きです。
<第3室 物故作家の輝き>
3室からは2階です。こちらは既に他界された画家のコーナー。巨匠の作品もズラリと並んでいました。
加山又造 「猫」

私の大好きな加山又造の作品もありました。猫はシャム猫で、花は牡丹です。猫の毛並みや花びらの質感などが見事です。柔らかい表現が多い絵ですが、青い猫の目のおかげで全体的に引き締まって見えました。
加山又造 「中央公論 表紙絵原画」

こちらは色紙大の表紙絵が何枚か並んでいたうちの一枚。どれもデフォルメぶりが優美で、色も雅な作品ばかりです。この辺は琳派の研究の成果じゃないかな。やっぱり加山又造の作品は好みですw
平山郁夫 「敦煌三危」

こちらもかなりの大型作品で大パノラマが眼前に広がるような迫力です。敦煌のオアシスとしての側面や岸壁の遺跡なども垣間見える光景となっていました。
関口雄揮 「白い華」

紅葉の中に白く輝くように立つ華が可憐で神秘的な作品。儚く幻想的で色彩の美しさが目を引きました。
<第4室 文化勲章受章作家を中心に>
4室は文化勲章受章者を中心とした作品が並ぶコーナーでした。
前田青邨 「豊公」

豊臣秀吉を描いた作品で、背景に描かれているのは朝鮮半島の地図のようです。シャープな輪郭線でスッキリした印象に見えるかな。杓を持って座る姿はよく知られている秀吉像そのものといった感じでした。
杉山寧 「和」

色の取り合わせが見事な鯉の作品。すい~っと泳いでいる感じも出ています。背景の水のマチエールが独特なのも杉山寧らしくて好みの作品でした。
松尾敏男 「秋行」

猫の安らかな眠りと紅葉が秋のしんみりした雰囲気を出していました。淡い色彩が幻想的ですらあります。
山本丘人 「地上風韻」

こちらは大型の作品。藤棚の下で静かに座る女性の後ろ姿が夢の中の光景のように思えました。写実的なのに儚さがあるのが面白いです。
麻田辨自 「花菖蒲」

日本画だけど洋画のような趣のある作品。滲みを使った独特の表現と色彩が好みでした。
<研究室>
こちらは2階の奥にあった小部屋。こちらは会期が分かりませんが東山魁夷の「京洛小景」の12ヶ月セットの作品が展示されていました。
東山魁夷 「京洛小景より<一力>(1月)」

祇園の壁を描いた作品。その色も良いけど、日本の生活の中にある幾何学性がこの1枚によく表されているように思いました。かなり気に入ったので、このシリーズの絵葉書も買いました。
東山魁夷 「京洛小景より<桂離宮書院>(8月)」

このシリーズには建物以外にも色々あるのですが、とにかく建物が気に入りましたw こちらも桂離宮の魅力が詰まった1枚だと思います。
東山魁夷 「京洛小景より<落柿舎>(10月)」

木の影が手前の柿の木の存在を教えてくれます。箕笠の円が直線の多い画面にアクセントになっていて非常に面白い。
<常設展示>
再び1階に戻って、常設も観てきました。常設は中国の秘宝や万華鏡などのコレクションが並びます。
常設のコーナーやカフェからは芦ノ湖を望めます。

この日は残念ながら軽く雪がちらつく天気でした。晴れてると富士山も見えます。
この展望を望む足元にはこんな建材が使われています。

よーく観ると化石が沢山含まれています1億5000万年前頃の軟体動物だそうです。模様かと思ったので驚きましたw
こちらが常設の中国の秘宝のコーナー。

数は少なめです。
こちらは牙彫の「華夏文明」 近くで観るとヤバイw

ぎっしりと楼閣や人々などが表されています。こんな大きな作品が1つの象牙なのかも分かりませんが恐るべし細かさで驚きです。
こちらは万華鏡のコーナー。花の万華鏡というのがあったので覗いてみました。

花の本来の美しさとダイヤモンド状になっているのが綺麗でした。この発想も面白い。
ということで、今回も非常に見応えのある内容となっていました。今回は晴れていなかったので観られませんでしたが富士山と芦ノ湖を一望できる景色も見事ですので、箱根に行く際はこの美術館もルートに入れてみると色々楽しめるのではないかと思います。
2018年の箱根シリーズ
仁清と乾山 ―京のやきものと絵画― (岡田美術館)箱根編
岡田美術館の常設 2018年1月(箱根編)
箱根の鉄道と周辺の写真(箱根編)
戦後日本画の山脈 第一回 (成川美術館)箱根編
箱根ラリック美術館のオリエント急行 [LE TRAIN] 箱根編
ラリックの花鳥風月 ジュエリーと、そのデザイン画 (箱根ラリック美術館)
箱根ラリック美術館の常設 2018年1月 箱根編
山のホテルと箱根神社の写真 箱根編
100点の名画でめぐる100年の度 (ポーラ美術館)箱根編
ポーラ美術館の常設 2018年1月 箱根編
竹村京 ーどの瞬間が一番ワクワクする? (ポーラ美術館 アトリウム ギャラリー)
2010年の箱根シリーズ
成川美術館の案内
季節風 (成川美術館内のお店)
芦ノ湖~大涌谷の写真
箱根強羅公園の写真
アンリ・ルソー パリの空の下で ルソーとその仲間たち (ポーラ美術館)
アレイ (ポーラ美術館のお店)
ポーラ美術館の常設(2010年秋)
箱根ガラスの森美術館の案内
カフェテラッツア (箱根ガラスの森美術館のお店)
2009年の箱根シリーズ
鉄道の写真 【箱根旅行】
箱根 彫刻の森美術館 その1
箱根 彫刻の森美術館 その2
箱根 彫刻の森美術館 その3
箱根 彫刻の森美術館 その4
大涌谷の写真 【箱根旅行】
肖像画の100年 ルノワール、モディリアーニ、ピカソ (ポーラ美術館)
ポーラ美術館の常設
箱根ラリック美術館 館内の案内
ラリック家の女神たち (箱根ラリック美術館)

【展覧名】
開館30周年記念展 戦後日本画の山脈 第一回
【公式サイト】
http://www.narukawamuseum.co.jp/
【会場】成川美術館
【最寄】なし
【会期】2017年9月15日(金)~2018年3月15日(木)
※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。
【鑑賞所要時間(私のペースです)】
1時間00分程度
【混み具合・混雑状況】
混雑_1_2_3_4_⑤_快適
【作品充実度】
不足_1_2_3_④_5_充実
【理解しやすさ】
難解_1_2_3_④_5_明解
【総合満足度】
不満_1_2_3_④_5_満足
【感想】
空いていて快適に鑑賞することができました。
さて、この美術館は以前にもご紹介しましたが、元箱根港から徒歩1分くらいのところに入口がある美術館です。日本の近代作家のコレクションが充実していて、大型作品も結構あります。今回はたまたま開館30周年記念展をやっていて、見ごたえのある作品が数多く並んでいました。冒頭にも書いたように撮影可能となっていました(以前は撮影できなかったと思います)ので、写真を使って気に入った作品をご紹介していこうと思います。
参考記事:
【成川美術館】の案内
季節風 【成川美術館内のお店】
<第1室 現役作家の代表作>
まずは現役作家の代表作のコーナー。最初から見どころと言える作品が並んでいました。
竹内浩一 「艶」

猫の表情はたまに哲学者みたいに凛々しいですが、これはそんな瞬間に見えました。佇まいに気品があります。
平松礼二 「日本の新しい朝の光」

こちらは東日本大震災の後に描かれたそうで、富士山に献花する意味が込められているようです。日本らしいモチーフと琳派や浮世絵へのオマージュが感じられ、非常に見応えがありました。
米谷清和 「雪の日」

これを観たのが2018年1月だったこともあり、つい1週間前に降った大雪の光景を思い出しました。都会に雪という取り合わせや橋脚の大胆な構図も面白い。
平岩洋彦 「白景」「秋の渓」

実に見事な2点の大型作品。どちらも季節感のある渓流の光景で、自然への敬意や美しさが感じられます。細かいところでも秋草が優美に描かれていたりしてしばらくじっくり観てきました。
<第2室 女性画家を含む現役作家の名作>
続いても現役作家のコーナー。こちらには女性画家の作品もありました。
森田りえ子 「秋蒼穹」

4曲1双の屏風で非常に目を引きました。華やかな花々がリズミカルに配置されて色の取り合わせも綺麗です。近くで観ると細やかなので写真だとちょっと伝わらないかな。
吉澤照子 「刻」

すすき野に風が吹き渡るような光景が儚くも懐かしいような印象をうけました。伸びやかなすすきが1本1本描かれているのも驚きです。
<第3室 物故作家の輝き>
3室からは2階です。こちらは既に他界された画家のコーナー。巨匠の作品もズラリと並んでいました。
加山又造 「猫」

私の大好きな加山又造の作品もありました。猫はシャム猫で、花は牡丹です。猫の毛並みや花びらの質感などが見事です。柔らかい表現が多い絵ですが、青い猫の目のおかげで全体的に引き締まって見えました。
加山又造 「中央公論 表紙絵原画」

こちらは色紙大の表紙絵が何枚か並んでいたうちの一枚。どれもデフォルメぶりが優美で、色も雅な作品ばかりです。この辺は琳派の研究の成果じゃないかな。やっぱり加山又造の作品は好みですw
平山郁夫 「敦煌三危」

こちらもかなりの大型作品で大パノラマが眼前に広がるような迫力です。敦煌のオアシスとしての側面や岸壁の遺跡なども垣間見える光景となっていました。
関口雄揮 「白い華」

紅葉の中に白く輝くように立つ華が可憐で神秘的な作品。儚く幻想的で色彩の美しさが目を引きました。
<第4室 文化勲章受章作家を中心に>
4室は文化勲章受章者を中心とした作品が並ぶコーナーでした。
前田青邨 「豊公」

豊臣秀吉を描いた作品で、背景に描かれているのは朝鮮半島の地図のようです。シャープな輪郭線でスッキリした印象に見えるかな。杓を持って座る姿はよく知られている秀吉像そのものといった感じでした。
杉山寧 「和」

色の取り合わせが見事な鯉の作品。すい~っと泳いでいる感じも出ています。背景の水のマチエールが独特なのも杉山寧らしくて好みの作品でした。
松尾敏男 「秋行」

猫の安らかな眠りと紅葉が秋のしんみりした雰囲気を出していました。淡い色彩が幻想的ですらあります。
山本丘人 「地上風韻」

こちらは大型の作品。藤棚の下で静かに座る女性の後ろ姿が夢の中の光景のように思えました。写実的なのに儚さがあるのが面白いです。
麻田辨自 「花菖蒲」

日本画だけど洋画のような趣のある作品。滲みを使った独特の表現と色彩が好みでした。
<研究室>
こちらは2階の奥にあった小部屋。こちらは会期が分かりませんが東山魁夷の「京洛小景」の12ヶ月セットの作品が展示されていました。
東山魁夷 「京洛小景より<一力>(1月)」

祇園の壁を描いた作品。その色も良いけど、日本の生活の中にある幾何学性がこの1枚によく表されているように思いました。かなり気に入ったので、このシリーズの絵葉書も買いました。
東山魁夷 「京洛小景より<桂離宮書院>(8月)」

このシリーズには建物以外にも色々あるのですが、とにかく建物が気に入りましたw こちらも桂離宮の魅力が詰まった1枚だと思います。
東山魁夷 「京洛小景より<落柿舎>(10月)」

木の影が手前の柿の木の存在を教えてくれます。箕笠の円が直線の多い画面にアクセントになっていて非常に面白い。
<常設展示>
再び1階に戻って、常設も観てきました。常設は中国の秘宝や万華鏡などのコレクションが並びます。
常設のコーナーやカフェからは芦ノ湖を望めます。

この日は残念ながら軽く雪がちらつく天気でした。晴れてると富士山も見えます。
この展望を望む足元にはこんな建材が使われています。

よーく観ると化石が沢山含まれています1億5000万年前頃の軟体動物だそうです。模様かと思ったので驚きましたw
こちらが常設の中国の秘宝のコーナー。

数は少なめです。
こちらは牙彫の「華夏文明」 近くで観るとヤバイw

ぎっしりと楼閣や人々などが表されています。こんな大きな作品が1つの象牙なのかも分かりませんが恐るべし細かさで驚きです。
こちらは万華鏡のコーナー。花の万華鏡というのがあったので覗いてみました。


花の本来の美しさとダイヤモンド状になっているのが綺麗でした。この発想も面白い。
ということで、今回も非常に見応えのある内容となっていました。今回は晴れていなかったので観られませんでしたが富士山と芦ノ湖を一望できる景色も見事ですので、箱根に行く際はこの美術館もルートに入れてみると色々楽しめるのではないかと思います。
2018年の箱根シリーズ
仁清と乾山 ―京のやきものと絵画― (岡田美術館)箱根編
岡田美術館の常設 2018年1月(箱根編)
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箱根 彫刻の森美術館 その2
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ポーラ美術館の常設
箱根ラリック美術館 館内の案内
ラリック家の女神たち (箱根ラリック美術館)
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10日ほど前の土日に箱根に小旅行をして美術館めぐりをしてきました。今日から断続的に箱根編をご紹介していこうと思います。まず最初に訪れたのは小涌谷の岡田美術館で、「特別展 仁清と乾山 ―京のやきものと絵画―」を観てきました。

【展覧名】
特別展 仁清と乾山 ―京のやきものと絵画―
【公式サイト】
http://www.okada-museum.com/exhibition/
【会場】岡田美術館
【最寄】小涌谷駅
【会期】2017年11月3日(金・祝)~2018年4月1日(日)
※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。
【鑑賞所要時間(私のペースです)】
0時間40分程度
【混み具合・混雑状況】
混雑_1_2_3_4_⑤_快適
【作品充実度】
不足_1_2_3_4_⑤_充実
【理解しやすさ】
難解_1_2_3_④_5_明解
【総合満足度】
不満_1_2_3_④_5_満足
【感想】
空いていて快適に鑑賞することができました。この美術館は先に常設を観てから特別展に進むルートとなっているのですが、この特別展からご紹介していこうと思います。
さて、この展示は京焼の祖と呼ばれる野々村仁清と、京焼を発展させた尾形乾山の名を連ねたものとなっています。いずれも京都の風土に相応しい優美さのある陶器を残していますが、その個性はそれぞれ違います。今回は岡田美術館のコレクションの中からそうした両名の作品と、その周辺(主に琳派)の作品も含めて6章構成で展示されていましたので、各章ごとに簡単に振り返ってみようと思います。
<1 公家の文化と仁清>
まずは野々村仁清や当時の公家文化に関するコーナーです。野々村仁清は瀬戸で修行し陶器の技術を身に着けた後、京都の仁和寺の近くに御室窯を開きました。仁清という名前も仁和寺の「仁」と元々の名前である清右衛門の「清」を合わせたもので、当初はあまり有名ではなかったようです。しかし茶人の金森宗和の指導の元で作陶するようになると、金森宗和の茶会で仁清の作品が使われるようになり、名が広まっていったようです。この時代の京都は後水尾天皇が古典や茶の湯などの文化交流のサロンを開くなど文化的な後押しをしていたのもその背景にあるようで、ここには仁清の作品2点と当時の京都の文化を思わせる品が並びます。
参考記事:
仁和寺と御室派のみほとけ ― 天平と真言密教の名宝 ― 感想前編(東京国立博物館 平成館)
番外編 京都旅行 金閣寺エリアその3
まずは洛外図屏風など江戸時代の京都を描いた作品や、後水尾天皇の宸翰若書などが並びます。修学院図屏風という作品では後水尾天皇が好みの焼き物を焼かせた窯が描かれていて、後水尾天皇の文化推進の様子が伺えます。
そして仁清は2点で、どちらも割と地味ですw 「錆絵星文茶碗」という茶碗は五芒星☆が2つ側面に描かれた器で、さらっと描いたような緩さがありました。仁清は色絵だけでなく銹絵も味わい深い作風ですが、この緩さにはちょっと驚きましたw
ここにはもう1つ見どころがあって、狩野探幽による2幅対の「風神雷神図」がありました。勢いよく風を出す風神と雷を落とす雷神がコミカルな感じで描かれていて、俵屋宗達から琳派へと伝わっていった題材を狩野派が描いていたというのも面白かったです。
<2 二条城行幸図屏風>
こちらは後水尾天皇が二条城へと行幸した時の様子を描いた屏風と絵巻が2点展示されていました。特に絵巻は壮麗な行列が描かれていて、着飾った人々が延々と連なる様子となっていました。この行幸は2年かけて準備されたそうで、二条城では狩野探幽が総指揮をとって行幸に備えたことで知られています。
参考記事:【番外編】 京都旅行 二条城
<3 野々村仁清>
続いては仁清のコーナーです。と言ってもここでの仁清は4点となっています。
まず「銹絵雁香合」という雁の形をした香合が目を引きます。これもちょっとゆるキャラみたいな造形ですが、非常に可愛らしい雰囲気です。最近、三井記念美術館で観た仁清の鶏の香合を思い出しました。こうした鳥型の香合をいくつか作っていたのかも。
参考記事:国宝 雪松図と花鳥 -美術館でバードウォッチング-(三井記念美術館)
打って変わって素朴な信楽焼の「信楽四耳壺」という作品もありました。あまり仁清っぽい華やかさを感じませんが、その分力強さを感じます。これは仁清だと言われても俄には信じられないほど意外でしたw 近くには同じく信楽で焼かれた他の作家(無銘)の作品もありました。
その後には仁清の「色絵輪宝羯磨文香炉」という側面に密教の法輪や三鈷杵が描かれた壺がありました。これは仁和寺に寄贈した壺らしく、モチーフが仁和寺に相応しいものとなっています。これは色絵ですが、意外とあっさりした印象を受けたかな。地に対してモチーフが控え目で色も明るすぎず調和した感じがありました。
もう1点の仁清は「色絵七宝文細水指」という作品で、これは側面上部に朝顔みたいな形の赤と緑のマークが交互に並んでいます。モダンな雰囲気で東南アジアの「安南」という陶器の影響を受けているようです。この展示の仁清の中ではこれが一番好みで、意外なところから影響を受けているのが面白かったです。
<4 尾形乾山>
続いてはもう1人の巨匠、尾形乾山のコーナーです。尾形乾山は琳派の中心人物である尾形光琳の弟で、仁清に学び京焼を発展させました。乾山の作品は仁清に比べてかなり多めにコレクションしているようで、ここは充実の内容となっていました。
ここは結構点数があったのですが、特に目を引いたのは乾山の「色絵立葵図香合」です。立葵の花を思わせる形となっていて、白、赤、緑といった色を使い目に鮮やかです。洒脱という言葉が真っ先に浮かんでくるような素晴らしい作品でした。
少し先には「秋草図扇面」という扇に描いた秋草の絵もありました。乾山は単に陶器を作るだけでなく絵も描いていたのですが、やはりどことなく兄の光琳と似た所があります。しかし乾山のほうがのんびりしているというか、情感ある素朴な味わいがあって親しみが持てる画風です。絵の才能もあって乾山の凄さが分かります。
そしてこの章の最後あたりにこの展示で最も目玉となる「色絵竜田川文透彫反鉢」がありました。これは多分何度か観ている作品だと思いますが、紅葉する木々を鉢の内側・外側 両方に描き、いくつか側面に穴が空いています。この穴が透かしてあることで陶器と絵が一体になった感じを受けます。また、この作品は特に色彩感覚に優れていて赤・黄・緑・白地といった色が響き合うように見えました。これだけでもかなり満足ですw
参考記事:琳派芸術 ―光悦・宗達から江戸琳派― 第1部 煌めく金の世界 (出光美術館)
<5 乾山とその周辺>
こちらも引き続き乾山のコーナーで、兄の光琳や 光琳が私淑した俵屋宗達・本阿弥光悦といった作品もあってかなり豪華です。
ここでまず見どころは尾形乾山の2幅対の掛け軸「夕顔・楓図」で、右幅に夕顔、左幅に楓が描かれています。デフォルメされた表現となっていますが、光琳にも似た画風で、琳派が得意とした滲みを使った「たらし込み」の技巧なんかも使われています。しかしやはり乾山は温和な雰囲気が漂っていて、色も形も柔らかめに感じました。
そしてここには予想外の素晴らしい品がありました。それは俵屋宗達と本阿弥光悦の共作「花卉に蝶摺絵新古今和歌集」で、絵を俵屋宗達 書を本阿弥光悦が担当しています。薄っすらと金と銀で竹や藤?、蝶などが描かれ、そこに流れるような本阿弥光悦の達筆が舞っているかのように書かれています。この2人の共作はいくつか観ていますが、これは掛け値なしの名品です。これが観られただけでも箱根に行った甲斐があったくらいw
その先には尾形光琳の六曲一双の屏風「菊図屏風」もありました。こちらは題名通り金地に菊が描かれているのですが、花の部分が立体的に盛り上がっています。菊の配置もリズミカルで、流石は尾形光琳と思わせるこれまた非常に素晴らしい作品でした。
また、この章には尾形光琳・乾山の兄弟の共作もあります。「銹絵白梅図角皿」という四角い皿で、絵を光琳が担当し明時代の詩を引用して林和靖の生き方への憧れが書かれています。この白梅図がかなり大胆で、抽象画に思えるほどのデフォルメぶりでモダンな雰囲気がありました。兄弟共作もよく観ますがこれも見どころだと思います。
そしてこの章の最後には俵屋宗達の「白鷺図」もありました。全体的に灰色がかった背景に、白鷺が描かれその白さが目に鮮やかです。輪郭を使わない没骨の技法が使われていることもあって柔らかい印象を受けます。また、白鷺が身をかがめるポーズも雅で、気品に溢れる作品でした。
<6 京の焼き物>
こちらは古清水焼きなどが並ぶコーナーです。17~19世紀の品が並んでいたのですが、割と仁清や乾山に似た雰囲気の作品が多いかな。2人の京焼への影響力の強さが感じられます。
<逸品室>
展示室の最後の方には逸品室という小展示スペースが2箇所あります。まず1つめは酒井抱一の「対に秋草図屏風」です。琳派を継承した抱一なので、今回のテーマとはちょっとズレているけどここにあってもそんなに違和感はありませんw この作品は襖絵だったようで、空に半月が浮かぶすすき野とが描かれています。月は現在は黒くなっていますが、元は銀色だったようです。すすきは細い線で伸びやかに描かれていて、月と合わせて幻想的な雰囲気がありました。かなり好みの作品です。
もう1点は伊藤若冲の「月に叭々鳥図」です。もはや江戸時代の京都でしか繋がって無い気がしますが、確かにこれは逸品です。モノクロの水墨で描かれた叭々鳥が、逆三角形となって急降下している様子が非常にスピードを感じさせます。目は真ん丸で口を開けていて、一見すると単純化・簡略化されていますが、羽根には筋目描きを使った様子なども見受けられます。また、月に見える部分は実は余白で、それ以外のところを薄っすらと色を塗って白を際立たせるという手法を用いていました。実は凄腕が随所にある名品です。
ということで、仁清は少なめで琳派が充実といった感じの展示でした。私は日本美術では琳派が最も好きなのでこれは嬉しい誤算ですw とは言え、仁清の作品をもっと観たかったかな。全体的には素晴らしい内容でしたので不満ではないけど、タイトルとはちょっと違った気がしますw
この美術館は更に驚きの常設もありますので、次回はそれについてご紹介の予定です。
2018年の箱根シリーズ
仁清と乾山 ―京のやきものと絵画― (岡田美術館)箱根編
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100点の名画でめぐる100年の度 (ポーラ美術館)箱根編
ポーラ美術館の常設 2018年1月 箱根編
竹村京 ーどの瞬間が一番ワクワクする? (ポーラ美術館 アトリウム ギャラリー)
2010年の箱根シリーズ
成川美術館の案内
季節風 (成川美術館内のお店)
芦ノ湖~大涌谷の写真
箱根強羅公園の写真
アンリ・ルソー パリの空の下で ルソーとその仲間たち (ポーラ美術館)
アレイ (ポーラ美術館のお店)
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鉄道の写真 【箱根旅行】
箱根 彫刻の森美術館 その1
箱根 彫刻の森美術館 その2
箱根 彫刻の森美術館 その3
箱根 彫刻の森美術館 その4
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ポーラ美術館の常設
箱根ラリック美術館 館内の案内
ラリック家の女神たち (箱根ラリック美術館)


【展覧名】
特別展 仁清と乾山 ―京のやきものと絵画―
【公式サイト】
http://www.okada-museum.com/exhibition/
【会場】岡田美術館
【最寄】小涌谷駅
【会期】2017年11月3日(金・祝)~2018年4月1日(日)
※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。
【鑑賞所要時間(私のペースです)】
0時間40分程度
【混み具合・混雑状況】
混雑_1_2_3_4_⑤_快適
【作品充実度】
不足_1_2_3_4_⑤_充実
【理解しやすさ】
難解_1_2_3_④_5_明解
【総合満足度】
不満_1_2_3_④_5_満足
【感想】
空いていて快適に鑑賞することができました。この美術館は先に常設を観てから特別展に進むルートとなっているのですが、この特別展からご紹介していこうと思います。
さて、この展示は京焼の祖と呼ばれる野々村仁清と、京焼を発展させた尾形乾山の名を連ねたものとなっています。いずれも京都の風土に相応しい優美さのある陶器を残していますが、その個性はそれぞれ違います。今回は岡田美術館のコレクションの中からそうした両名の作品と、その周辺(主に琳派)の作品も含めて6章構成で展示されていましたので、各章ごとに簡単に振り返ってみようと思います。
<1 公家の文化と仁清>
まずは野々村仁清や当時の公家文化に関するコーナーです。野々村仁清は瀬戸で修行し陶器の技術を身に着けた後、京都の仁和寺の近くに御室窯を開きました。仁清という名前も仁和寺の「仁」と元々の名前である清右衛門の「清」を合わせたもので、当初はあまり有名ではなかったようです。しかし茶人の金森宗和の指導の元で作陶するようになると、金森宗和の茶会で仁清の作品が使われるようになり、名が広まっていったようです。この時代の京都は後水尾天皇が古典や茶の湯などの文化交流のサロンを開くなど文化的な後押しをしていたのもその背景にあるようで、ここには仁清の作品2点と当時の京都の文化を思わせる品が並びます。
参考記事:
仁和寺と御室派のみほとけ ― 天平と真言密教の名宝 ― 感想前編(東京国立博物館 平成館)
番外編 京都旅行 金閣寺エリアその3
まずは洛外図屏風など江戸時代の京都を描いた作品や、後水尾天皇の宸翰若書などが並びます。修学院図屏風という作品では後水尾天皇が好みの焼き物を焼かせた窯が描かれていて、後水尾天皇の文化推進の様子が伺えます。
そして仁清は2点で、どちらも割と地味ですw 「錆絵星文茶碗」という茶碗は五芒星☆が2つ側面に描かれた器で、さらっと描いたような緩さがありました。仁清は色絵だけでなく銹絵も味わい深い作風ですが、この緩さにはちょっと驚きましたw
ここにはもう1つ見どころがあって、狩野探幽による2幅対の「風神雷神図」がありました。勢いよく風を出す風神と雷を落とす雷神がコミカルな感じで描かれていて、俵屋宗達から琳派へと伝わっていった題材を狩野派が描いていたというのも面白かったです。
<2 二条城行幸図屏風>
こちらは後水尾天皇が二条城へと行幸した時の様子を描いた屏風と絵巻が2点展示されていました。特に絵巻は壮麗な行列が描かれていて、着飾った人々が延々と連なる様子となっていました。この行幸は2年かけて準備されたそうで、二条城では狩野探幽が総指揮をとって行幸に備えたことで知られています。
参考記事:【番外編】 京都旅行 二条城
<3 野々村仁清>
続いては仁清のコーナーです。と言ってもここでの仁清は4点となっています。
まず「銹絵雁香合」という雁の形をした香合が目を引きます。これもちょっとゆるキャラみたいな造形ですが、非常に可愛らしい雰囲気です。最近、三井記念美術館で観た仁清の鶏の香合を思い出しました。こうした鳥型の香合をいくつか作っていたのかも。
参考記事:国宝 雪松図と花鳥 -美術館でバードウォッチング-(三井記念美術館)
打って変わって素朴な信楽焼の「信楽四耳壺」という作品もありました。あまり仁清っぽい華やかさを感じませんが、その分力強さを感じます。これは仁清だと言われても俄には信じられないほど意外でしたw 近くには同じく信楽で焼かれた他の作家(無銘)の作品もありました。
その後には仁清の「色絵輪宝羯磨文香炉」という側面に密教の法輪や三鈷杵が描かれた壺がありました。これは仁和寺に寄贈した壺らしく、モチーフが仁和寺に相応しいものとなっています。これは色絵ですが、意外とあっさりした印象を受けたかな。地に対してモチーフが控え目で色も明るすぎず調和した感じがありました。
もう1点の仁清は「色絵七宝文細水指」という作品で、これは側面上部に朝顔みたいな形の赤と緑のマークが交互に並んでいます。モダンな雰囲気で東南アジアの「安南」という陶器の影響を受けているようです。この展示の仁清の中ではこれが一番好みで、意外なところから影響を受けているのが面白かったです。
<4 尾形乾山>
続いてはもう1人の巨匠、尾形乾山のコーナーです。尾形乾山は琳派の中心人物である尾形光琳の弟で、仁清に学び京焼を発展させました。乾山の作品は仁清に比べてかなり多めにコレクションしているようで、ここは充実の内容となっていました。
ここは結構点数があったのですが、特に目を引いたのは乾山の「色絵立葵図香合」です。立葵の花を思わせる形となっていて、白、赤、緑といった色を使い目に鮮やかです。洒脱という言葉が真っ先に浮かんでくるような素晴らしい作品でした。
少し先には「秋草図扇面」という扇に描いた秋草の絵もありました。乾山は単に陶器を作るだけでなく絵も描いていたのですが、やはりどことなく兄の光琳と似た所があります。しかし乾山のほうがのんびりしているというか、情感ある素朴な味わいがあって親しみが持てる画風です。絵の才能もあって乾山の凄さが分かります。
そしてこの章の最後あたりにこの展示で最も目玉となる「色絵竜田川文透彫反鉢」がありました。これは多分何度か観ている作品だと思いますが、紅葉する木々を鉢の内側・外側 両方に描き、いくつか側面に穴が空いています。この穴が透かしてあることで陶器と絵が一体になった感じを受けます。また、この作品は特に色彩感覚に優れていて赤・黄・緑・白地といった色が響き合うように見えました。これだけでもかなり満足ですw
参考記事:琳派芸術 ―光悦・宗達から江戸琳派― 第1部 煌めく金の世界 (出光美術館)
<5 乾山とその周辺>
こちらも引き続き乾山のコーナーで、兄の光琳や 光琳が私淑した俵屋宗達・本阿弥光悦といった作品もあってかなり豪華です。
ここでまず見どころは尾形乾山の2幅対の掛け軸「夕顔・楓図」で、右幅に夕顔、左幅に楓が描かれています。デフォルメされた表現となっていますが、光琳にも似た画風で、琳派が得意とした滲みを使った「たらし込み」の技巧なんかも使われています。しかしやはり乾山は温和な雰囲気が漂っていて、色も形も柔らかめに感じました。
そしてここには予想外の素晴らしい品がありました。それは俵屋宗達と本阿弥光悦の共作「花卉に蝶摺絵新古今和歌集」で、絵を俵屋宗達 書を本阿弥光悦が担当しています。薄っすらと金と銀で竹や藤?、蝶などが描かれ、そこに流れるような本阿弥光悦の達筆が舞っているかのように書かれています。この2人の共作はいくつか観ていますが、これは掛け値なしの名品です。これが観られただけでも箱根に行った甲斐があったくらいw
その先には尾形光琳の六曲一双の屏風「菊図屏風」もありました。こちらは題名通り金地に菊が描かれているのですが、花の部分が立体的に盛り上がっています。菊の配置もリズミカルで、流石は尾形光琳と思わせるこれまた非常に素晴らしい作品でした。
また、この章には尾形光琳・乾山の兄弟の共作もあります。「銹絵白梅図角皿」という四角い皿で、絵を光琳が担当し明時代の詩を引用して林和靖の生き方への憧れが書かれています。この白梅図がかなり大胆で、抽象画に思えるほどのデフォルメぶりでモダンな雰囲気がありました。兄弟共作もよく観ますがこれも見どころだと思います。
そしてこの章の最後には俵屋宗達の「白鷺図」もありました。全体的に灰色がかった背景に、白鷺が描かれその白さが目に鮮やかです。輪郭を使わない没骨の技法が使われていることもあって柔らかい印象を受けます。また、白鷺が身をかがめるポーズも雅で、気品に溢れる作品でした。
<6 京の焼き物>
こちらは古清水焼きなどが並ぶコーナーです。17~19世紀の品が並んでいたのですが、割と仁清や乾山に似た雰囲気の作品が多いかな。2人の京焼への影響力の強さが感じられます。
<逸品室>
展示室の最後の方には逸品室という小展示スペースが2箇所あります。まず1つめは酒井抱一の「対に秋草図屏風」です。琳派を継承した抱一なので、今回のテーマとはちょっとズレているけどここにあってもそんなに違和感はありませんw この作品は襖絵だったようで、空に半月が浮かぶすすき野とが描かれています。月は現在は黒くなっていますが、元は銀色だったようです。すすきは細い線で伸びやかに描かれていて、月と合わせて幻想的な雰囲気がありました。かなり好みの作品です。
もう1点は伊藤若冲の「月に叭々鳥図」です。もはや江戸時代の京都でしか繋がって無い気がしますが、確かにこれは逸品です。モノクロの水墨で描かれた叭々鳥が、逆三角形となって急降下している様子が非常にスピードを感じさせます。目は真ん丸で口を開けていて、一見すると単純化・簡略化されていますが、羽根には筋目描きを使った様子なども見受けられます。また、月に見える部分は実は余白で、それ以外のところを薄っすらと色を塗って白を際立たせるという手法を用いていました。実は凄腕が随所にある名品です。
ということで、仁清は少なめで琳派が充実といった感じの展示でした。私は日本美術では琳派が最も好きなのでこれは嬉しい誤算ですw とは言え、仁清の作品をもっと観たかったかな。全体的には素晴らしい内容でしたので不満ではないけど、タイトルとはちょっと違った気がしますw
この美術館は更に驚きの常設もありますので、次回はそれについてご紹介の予定です。
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前回ご紹介した根津美術館の展示を観た後、表参道にあるエスパス ルイ・ヴィトン東京で「YANG FUDONG THE COLOURED SKY:NEW WOMEN II」を観てきました。この展示は撮影可能となっていましたので、写真を使ってご紹介しようと思います。

【展覧名】
YANG FUDONG THE COLOURED SKY:NEW WOMEN II
【公式サイト】
http://www.espacelouisvuittontokyo.com/ja/
【会場】エスパス ルイ・ヴィトン東京
【最寄】原宿駅、明治神宮前駅、表参道駅
【会期】2017/10/17 ~ 2018/03/11
※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。
【鑑賞所要時間(私のペースです)】
0時間20分程度
【混み具合・混雑状況】
混雑_1_2_3_4_⑤_快適
【作品充実度】
不足_1_2_③_4_5_充実
【理解しやすさ】
難解_1_②_3_4_5_明解
【総合満足度】
不満_1_2_③_4_5_満足
【感想】
空いていて快適に鑑賞することができました。
さて、今回の展示は中国の現代アーティストであるヤン・フードン(楊福東)の映像作品を紹介する内容となっていました。ヤン・フードンは画家として正規の教育を受けたそうですが、その表現は絵画だけでなく映像やインスタレーションなど多岐に渡るそうで、今回の作品のようにマルチスクリーンを好んで使うようです。これまでは35mmモノクロフィルムでの制作を基本としていたようですが、今回は初のカラーフィルム作品となっているようでした。詳しくは写真を使ってご紹介していこうと思います。
こちらがインタビューに答えるヤン・フードン氏

1971年の北京生まれだそうで、これから先も活躍が期待できそうな年代です。
展示室に入ると真っ暗で、暗闇の中に5つのスクリーンが点在していました。

これらのスクリーンで、太陽、海、浜辺、遊び、食べ物、西洋美術への言及、馬と鹿といった映像が映し出されます。ドゥ~ンと不穏な音響が鳴り響き、ちょっと怖い雰囲気w
こちらは馬と鹿の映像。背景がやけに鮮やかな色合ですw

これは中国の故事「鹿を指して馬と為す」を下敷きにしているようです。権力で鹿を馬と言い張った故事なので、虚実がごっちゃになった世界観に合ってるかも。
こちらも鹿の映像。こうした映像は5つの画面のあちこちで映るので、1箇所で映る訳ではありません。

幻想的な色合いで、初めてのカラー作品とは思えないほど豊かな色彩感覚です。
こちらは食べ物を映していますが、フランドル絵画の静物のようにも思えます。

ナメクジ?がゆっくり這っていて、どこか死や老いをイメージさせました。何しろ音響が怖いのでそう感じるのかもw
こちらは謎のピラミッド。シュルレアリスムの世界に迷い込んだような光景です。

この色合と共にブレードランナーの世界観を思い出しました。 効果音も何となく似てるしw
こちらは浜辺の美女の映像。

背景はセットであるのが一目瞭然で逆にシュールさが際立ちます。無表情なのも怖いw
こちらも美女たち

グラビアのようにも見えますが、マネキンのように精気がない雰囲気でした。この女性たちがスローモーションで動くのも印象的です。
こちらは最も絵画的に思えた映像

背景が不穏な明るさで揺らめくような感じでした。
勿論ご紹介した以外にも印象深い映像が流れていました(何分くらいあるのかわかりませんが、20分ほど観てました)
ということで、詳しい意味などは分かりませんでしたが、シュールな世界が広がる展示となっていました。部屋全体が暗くて重い音響が鳴り響くのも独特の空間となっています。無料で観られる上に写真も観られますので、表参道付近に行く機会があったら立ち寄ってみるのもよろしいかと思います。

【展覧名】
YANG FUDONG THE COLOURED SKY:NEW WOMEN II
【公式サイト】
http://www.espacelouisvuittontokyo.com/ja/
【会場】エスパス ルイ・ヴィトン東京
【最寄】原宿駅、明治神宮前駅、表参道駅
【会期】2017/10/17 ~ 2018/03/11
※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。
【鑑賞所要時間(私のペースです)】
0時間20分程度
【混み具合・混雑状況】
混雑_1_2_3_4_⑤_快適
【作品充実度】
不足_1_2_③_4_5_充実
【理解しやすさ】
難解_1_②_3_4_5_明解
【総合満足度】
不満_1_2_③_4_5_満足
【感想】
空いていて快適に鑑賞することができました。
さて、今回の展示は中国の現代アーティストであるヤン・フードン(楊福東)の映像作品を紹介する内容となっていました。ヤン・フードンは画家として正規の教育を受けたそうですが、その表現は絵画だけでなく映像やインスタレーションなど多岐に渡るそうで、今回の作品のようにマルチスクリーンを好んで使うようです。これまでは35mmモノクロフィルムでの制作を基本としていたようですが、今回は初のカラーフィルム作品となっているようでした。詳しくは写真を使ってご紹介していこうと思います。
こちらがインタビューに答えるヤン・フードン氏

1971年の北京生まれだそうで、これから先も活躍が期待できそうな年代です。
展示室に入ると真っ暗で、暗闇の中に5つのスクリーンが点在していました。

これらのスクリーンで、太陽、海、浜辺、遊び、食べ物、西洋美術への言及、馬と鹿といった映像が映し出されます。ドゥ~ンと不穏な音響が鳴り響き、ちょっと怖い雰囲気w
こちらは馬と鹿の映像。背景がやけに鮮やかな色合ですw

これは中国の故事「鹿を指して馬と為す」を下敷きにしているようです。権力で鹿を馬と言い張った故事なので、虚実がごっちゃになった世界観に合ってるかも。
こちらも鹿の映像。こうした映像は5つの画面のあちこちで映るので、1箇所で映る訳ではありません。

幻想的な色合いで、初めてのカラー作品とは思えないほど豊かな色彩感覚です。
こちらは食べ物を映していますが、フランドル絵画の静物のようにも思えます。

ナメクジ?がゆっくり這っていて、どこか死や老いをイメージさせました。何しろ音響が怖いのでそう感じるのかもw
こちらは謎のピラミッド。シュルレアリスムの世界に迷い込んだような光景です。

この色合と共にブレードランナーの世界観を思い出しました。 効果音も何となく似てるしw
こちらは浜辺の美女の映像。

背景はセットであるのが一目瞭然で逆にシュールさが際立ちます。無表情なのも怖いw
こちらも美女たち

グラビアのようにも見えますが、マネキンのように精気がない雰囲気でした。この女性たちがスローモーションで動くのも印象的です。
こちらは最も絵画的に思えた映像

背景が不穏な明るさで揺らめくような感じでした。
勿論ご紹介した以外にも印象深い映像が流れていました(何分くらいあるのかわかりませんが、20分ほど観てました)
ということで、詳しい意味などは分かりませんでしたが、シュールな世界が広がる展示となっていました。部屋全体が暗くて重い音響が鳴り響くのも独特の空間となっています。無料で観られる上に写真も観られますので、表参道付近に行く機会があったら立ち寄ってみるのもよろしいかと思います。
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2週間程前の土曜日に東京スカイツリーの近くにある たばこと塩の博物館で「和モダンの世界 近代の輸出工芸 ~金子皓彦コレクションを中心に~」を観てきました。この展示は既に終了していますが、参考になる内容でしたのでご紹介しておこうと思います。

【展覧名】
和モダンの世界 近代の輸出工芸 ~金子皓彦コレクションを中心に~
【公式サイト】
https://www.jti.co.jp/Culture/museum/exhibition/2017/1711nov/index.html
【会場】たばこと塩の博物館
【最寄】とうきょうスカイツリー駅
【会期】2017年11月3日(金・祝)~2018年1月8日(月・祝)
※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。
【鑑賞所要時間(私のペースです)】
1時間00分程度
【混み具合・混雑状況】
混雑_1_2_③_4_5_快適
【作品充実度】
不足_1_2_3_④_5_充実
【理解しやすさ】
難解_1_2_3_④_5_明解
【総合満足度】
不満_1_2_3_④_5_満足
【感想】
次の日が最終日だったこともあって結構混んでいました。
さて、この展示は「和モダン」ということで和をベースに洋を折衷したような作品が並びますが、和モダンと聞いてイメージするものというよりは明治期に輸出用として作られた工芸品を集めた内容となっていました。以前にも似た展示を観た記憶があるので、この博物館が得意とする内容なのかもしれません。 大部屋に所狭しと200点ほどジャンルごとに並んでいましたので、簡単に各ジャンルで気に入った作品などをご紹介しておこうと思います。(なお、冒頭にも書いたようにこの展覧会は既に終了しております)
参考記事:華麗なる日本の輸出工芸 ~世界を驚かせた精美の技~ (たばこと塩の博物館)
<海を渡った日本の木工品 寄木細工と木象嵌>
まずは寄木細工のコーナーです。寄木細工は徳川家光の頃に賤機山麓に浅間神社を造営するにあたって全国から集めた職人が造営後もその地に残って基とある技術を創り上げたそうです。またこの時に漆職人たちによって様々な気を寄せ集めて漆で仕上げる寄木塗りが寄木細工の始まりとなりました。その後、江戸時代後期に駿河から箱根に伝えられて発展し、現在でも箱根の伝統工芸となっています。
展覧会に入ると今回のポスターにもなっている全面に寄木が使われたライティングビューロー(大型の机)がありました。草花文の彫刻も施され かなり緻密で圧倒されます。寄木の複雑さも見事で複雑に組合ながら幾何学的な模様等を作っていました。近くには同様の机やチェステーブル、ネストテーブルなどもありチェステーブルは蝶番で開くとテーブルにもなるように作られていました。
そしてしばらく進むと26種類もの文様を寄木で表した飾り棚もありました。これは模様自体の工夫も面白く高い技術と共にデザイン的な美しさも楽しめました。他にも洋風のレターボックスを寄木でモザイク模様のように作った作品や、お馴染みの寄木細工のからくり箱、寄木の材質を使ってレンガのような風合いを出した家型の箪笥、木目を水面の波紋に見立てた「笹に雀図四脚盆」というお盆などもあり、遊び心も素晴らしい作品が多かったです。
そしてもう1つこのコーナーで面白かったのが、寄木細工の濃淡を用いて絵画作品でした。普通の絵かと思うくらい繊細な濃淡で役者絵を描いていて、これもかなりの驚きでした。
<ジャポニスムと日本の輸出陶磁器>
続いては輸出用の陶磁器のコーナーです。陶磁器の輸出に関しては、1867年に開催されたパリ万博で江戸幕府・佐賀藩・薩摩藩が陶磁器を出品すると人気となり、特に金襴手の薩摩焼は高い評価を受けたそうです。その後、明治期にはヨーロッパでジャポニスムというムーブメントが起きるなど、日本の陶磁器は益々人気になって行きました。(明治政府も殖産興業と貿易拡大に力を入れていたので陶磁器は盛んに輸出されたようです。)
1876年のフィラデルフィアの万国博覧会では九谷・有田・淡路・伊勢・京都・瀬戸・美濃・横浜・東京などから陶磁器が出品されていたらしく、東京にまで輸出用の陶磁器生産をする窯があったのだとか。
ここは点数はそれほど多くなかったのですが、薩摩焼や九谷焼、有田焼などの陶磁器が並んでいました。製法は日本でも形はコーヒーポッドやコーヒーセットとなっていて、海外向けというのがよくわかります。横浜焼という横浜産の陶磁器もあり、人物や花卉を絵付けしたカップとソーサーが並んでいました。海外向けの豪華な陶磁器はちょっと趣味じゃないのもあるけど、いかにも外国人が好みそうな感じでした。
<外国人を魅了した日本の輸出漆器>
続いては漆器のコーナー。漆器は江戸時代初期にはオランダ東インド会社との交易で西洋に渡り高い評価を受けていました。イギリスでは漆器のことをジャパンと呼ぶほど驚きを持って受け入れられていたようです。明治維新後は駿河と会津で外国人向けに意匠化された漆器が実用と鑑賞を兼ねて大量に作られ横浜から欧米へと輸出されていったようです。
まずここには黒漆に金蒔絵の衝立がありました。鷹が爪で猿を握っている様子が描かれ、猿の苦悶の表情が恐ろしげです。鷹は力強く雄々しい雰囲気で、威厳を感じさせる衝立となっていました。他にも碁盤や手提げ弁当箱、箪笥、長手箱など様々な品が並びます。ここで面白かったのが黒漆と金の装飾で作られたキリストの磔刑像の十字架で、キリスト自体は銀で作られています。他にも赤漆でできたIHS(イエズス会)のマーク入りの書見台や蝋燭台など、漆器で作る発想が無い品々まであって驚きました。これも海外向けというのがよく分かる品々です。
<麦わら細工の輝き>
続いては麦わら細工のコーナーです。麦わら細工は大麦などの藁をそのまま使ったり染色して使ったりする工芸で、立体的に編んで動物や人物像など様々なものを表現します。また、乾燥させた藁を切り開いて幾何学模様を構成し、模様を組み合わせて文字や花、風景、人物などの文様に切り抜いて箱などに張る「張り細工」という技法もあるようです。
麦わら細工は東京の大森や兵庫の城崎などが産地だったようですが、大森での生産は絶えてしまったようです。海外との関わりについては古くはシーボルトが帰国の際に持ち帰ったそうで、明治期にはパリ万博で高い評価を得るなど、外国から注目された日本の伝統工芸の1つだったようです。
ここは主に箱型の作品が並び、見た目は寄木細工に似ています。藁とは思えないような品ばかりで、筋目が有るのでかろうじて藁と分かる程度かな。シガレットケースやボンボン入れ、郵便配達人の図像のある葉書切手箱、小さい箪笥、髪結い道具箱などが並び、今回の展示では主に張り細工の作品が中心となっていました。あまり馴染みはありませんが、城崎の作品ばかりだったので城崎の麦わら細工のレベルの高さが伺えるようでした。
<貝細工の輝き>
続いては貝細工のコーナー。貝細工というと螺鈿が思い浮かびますが、ここには螺鈿の他に貝殻を使った作品などもありました。螺鈿は昔から作られて日本工芸の代表みたいなものですが、貝細工は江戸後期に菊人形のように貝で人物や花鳥を象った細工が作られるようになったそうで、見世物やおみやげとして人々に親しまれたそうです。
ここで目を引いたのは紫色に輝く貝を使った孔雀の作品です。孔雀の羽根1枚1枚を貝で表現していて、その色合いと形の活かし方が面白いです。身体も貝で出来ていて貝細工となっています。他にも茶色っぽい模様の貝で作った鳥などもあり、色の選び方が絶妙です。色だけでなく帆船を表した作品では貝の形が生かされていて、アイディアが光る作品ばかりでした。
<芝山細工と横浜芝山漆器>
続いては芝山細工のコーナー。芝山細工は貝や珊瑚、象牙、鼈甲などを用いて文様を表して漆面に象嵌するもので、中には蒔絵や螺鈿を施すものもあるようです。元は1770年頃に上総国芝山村で考案されたもので、江戸時代には大名家や富裕層で好評を得ていました。それが開港期になると外国人から高い評価を受けて売れるようになり、横浜へと大量に職人が移っていきました。そこで作られた横浜芝山漆器は家具だけでなく飾額や写真帖など様々な品が作られ隆盛を誇っていたようですが、関東大震災や横浜大空襲といった歴史によって衰退し、現在では伝統が絶えようとしているようです。
ここもそれ程点数は無かったのですが、白蝶貝と獣骨を使って花と蝶を象ったお盆などが目を引きました。虹色に鈍く光る様子が幻想的で、蝶の図様にピッタリです。 他にも額縁の花飾りが立体的に表された飾額などもあり、獣の骨などを使っているようですがかなり精緻に作られていました。 とは言え、中にはちょっと日本が誇張された感のある品もあったかなw 輸出用に作られた作品は多かれ少なかれそんな雰囲気があったりします。
<そのほかの日本の輸出工芸>
最後はそれ以外の様々な工芸品のコーナー。やはりパリ万博などが契機となり輸出された品が並びます。ここには七宝や象牙の牙彫、ガラス絵などがありました。また、出入口付近には「生人形」というリアルな人形も数体あり、驚きました。特に二代山本福松による「羅生門」という人形は肌の色や髪の毛は人間そのものといった感じで、目にも輝きがあります。私は人形が苦手でちょっと怖いですが、技術の高さに感心させられました。
ということで、輸出向けの工芸品が中心となっていました。派手好きの外国人の為かちょっとゴテゴテした感じのものもありましたが、明治期の日本の工芸のレベルが恐ろしく高かったのがよく分かる内容です。特に寄木細工のコーナーが面白くて、机などは圧巻で見応えがありました。中には観た覚えがある品があったように思いますので、いずれまた観られる機会があるかもしれません。記憶にとどめておきたい展示でした。
おまけ:
この日、本当はスカイツリーと すみだ水族館に行こうと思っていたのですが、かなり混んでいたので諦めましたw

新しくなった たばこと塩の博物館は東京スカイツリーから徒歩10分以内にあるので、混んでいたらこちらに足を運ぶのもよろしいかと思います。なお、このブログではこの美術館が移設されてから初めてのご紹介となりますが、美術館自体については次回にご紹介しようと思います。


【展覧名】
和モダンの世界 近代の輸出工芸 ~金子皓彦コレクションを中心に~
【公式サイト】
https://www.jti.co.jp/Culture/museum/exhibition/2017/1711nov/index.html
【会場】たばこと塩の博物館
【最寄】とうきょうスカイツリー駅
【会期】2017年11月3日(金・祝)~2018年1月8日(月・祝)
※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。
【鑑賞所要時間(私のペースです)】
1時間00分程度
【混み具合・混雑状況】
混雑_1_2_③_4_5_快適
【作品充実度】
不足_1_2_3_④_5_充実
【理解しやすさ】
難解_1_2_3_④_5_明解
【総合満足度】
不満_1_2_3_④_5_満足
【感想】
次の日が最終日だったこともあって結構混んでいました。
さて、この展示は「和モダン」ということで和をベースに洋を折衷したような作品が並びますが、和モダンと聞いてイメージするものというよりは明治期に輸出用として作られた工芸品を集めた内容となっていました。以前にも似た展示を観た記憶があるので、この博物館が得意とする内容なのかもしれません。 大部屋に所狭しと200点ほどジャンルごとに並んでいましたので、簡単に各ジャンルで気に入った作品などをご紹介しておこうと思います。(なお、冒頭にも書いたようにこの展覧会は既に終了しております)
参考記事:華麗なる日本の輸出工芸 ~世界を驚かせた精美の技~ (たばこと塩の博物館)
<海を渡った日本の木工品 寄木細工と木象嵌>
まずは寄木細工のコーナーです。寄木細工は徳川家光の頃に賤機山麓に浅間神社を造営するにあたって全国から集めた職人が造営後もその地に残って基とある技術を創り上げたそうです。またこの時に漆職人たちによって様々な気を寄せ集めて漆で仕上げる寄木塗りが寄木細工の始まりとなりました。その後、江戸時代後期に駿河から箱根に伝えられて発展し、現在でも箱根の伝統工芸となっています。
展覧会に入ると今回のポスターにもなっている全面に寄木が使われたライティングビューロー(大型の机)がありました。草花文の彫刻も施され かなり緻密で圧倒されます。寄木の複雑さも見事で複雑に組合ながら幾何学的な模様等を作っていました。近くには同様の机やチェステーブル、ネストテーブルなどもありチェステーブルは蝶番で開くとテーブルにもなるように作られていました。
そしてしばらく進むと26種類もの文様を寄木で表した飾り棚もありました。これは模様自体の工夫も面白く高い技術と共にデザイン的な美しさも楽しめました。他にも洋風のレターボックスを寄木でモザイク模様のように作った作品や、お馴染みの寄木細工のからくり箱、寄木の材質を使ってレンガのような風合いを出した家型の箪笥、木目を水面の波紋に見立てた「笹に雀図四脚盆」というお盆などもあり、遊び心も素晴らしい作品が多かったです。
そしてもう1つこのコーナーで面白かったのが、寄木細工の濃淡を用いて絵画作品でした。普通の絵かと思うくらい繊細な濃淡で役者絵を描いていて、これもかなりの驚きでした。
<ジャポニスムと日本の輸出陶磁器>
続いては輸出用の陶磁器のコーナーです。陶磁器の輸出に関しては、1867年に開催されたパリ万博で江戸幕府・佐賀藩・薩摩藩が陶磁器を出品すると人気となり、特に金襴手の薩摩焼は高い評価を受けたそうです。その後、明治期にはヨーロッパでジャポニスムというムーブメントが起きるなど、日本の陶磁器は益々人気になって行きました。(明治政府も殖産興業と貿易拡大に力を入れていたので陶磁器は盛んに輸出されたようです。)
1876年のフィラデルフィアの万国博覧会では九谷・有田・淡路・伊勢・京都・瀬戸・美濃・横浜・東京などから陶磁器が出品されていたらしく、東京にまで輸出用の陶磁器生産をする窯があったのだとか。
ここは点数はそれほど多くなかったのですが、薩摩焼や九谷焼、有田焼などの陶磁器が並んでいました。製法は日本でも形はコーヒーポッドやコーヒーセットとなっていて、海外向けというのがよくわかります。横浜焼という横浜産の陶磁器もあり、人物や花卉を絵付けしたカップとソーサーが並んでいました。海外向けの豪華な陶磁器はちょっと趣味じゃないのもあるけど、いかにも外国人が好みそうな感じでした。
<外国人を魅了した日本の輸出漆器>
続いては漆器のコーナー。漆器は江戸時代初期にはオランダ東インド会社との交易で西洋に渡り高い評価を受けていました。イギリスでは漆器のことをジャパンと呼ぶほど驚きを持って受け入れられていたようです。明治維新後は駿河と会津で外国人向けに意匠化された漆器が実用と鑑賞を兼ねて大量に作られ横浜から欧米へと輸出されていったようです。
まずここには黒漆に金蒔絵の衝立がありました。鷹が爪で猿を握っている様子が描かれ、猿の苦悶の表情が恐ろしげです。鷹は力強く雄々しい雰囲気で、威厳を感じさせる衝立となっていました。他にも碁盤や手提げ弁当箱、箪笥、長手箱など様々な品が並びます。ここで面白かったのが黒漆と金の装飾で作られたキリストの磔刑像の十字架で、キリスト自体は銀で作られています。他にも赤漆でできたIHS(イエズス会)のマーク入りの書見台や蝋燭台など、漆器で作る発想が無い品々まであって驚きました。これも海外向けというのがよく分かる品々です。
<麦わら細工の輝き>
続いては麦わら細工のコーナーです。麦わら細工は大麦などの藁をそのまま使ったり染色して使ったりする工芸で、立体的に編んで動物や人物像など様々なものを表現します。また、乾燥させた藁を切り開いて幾何学模様を構成し、模様を組み合わせて文字や花、風景、人物などの文様に切り抜いて箱などに張る「張り細工」という技法もあるようです。
麦わら細工は東京の大森や兵庫の城崎などが産地だったようですが、大森での生産は絶えてしまったようです。海外との関わりについては古くはシーボルトが帰国の際に持ち帰ったそうで、明治期にはパリ万博で高い評価を得るなど、外国から注目された日本の伝統工芸の1つだったようです。
ここは主に箱型の作品が並び、見た目は寄木細工に似ています。藁とは思えないような品ばかりで、筋目が有るのでかろうじて藁と分かる程度かな。シガレットケースやボンボン入れ、郵便配達人の図像のある葉書切手箱、小さい箪笥、髪結い道具箱などが並び、今回の展示では主に張り細工の作品が中心となっていました。あまり馴染みはありませんが、城崎の作品ばかりだったので城崎の麦わら細工のレベルの高さが伺えるようでした。
<貝細工の輝き>
続いては貝細工のコーナー。貝細工というと螺鈿が思い浮かびますが、ここには螺鈿の他に貝殻を使った作品などもありました。螺鈿は昔から作られて日本工芸の代表みたいなものですが、貝細工は江戸後期に菊人形のように貝で人物や花鳥を象った細工が作られるようになったそうで、見世物やおみやげとして人々に親しまれたそうです。
ここで目を引いたのは紫色に輝く貝を使った孔雀の作品です。孔雀の羽根1枚1枚を貝で表現していて、その色合いと形の活かし方が面白いです。身体も貝で出来ていて貝細工となっています。他にも茶色っぽい模様の貝で作った鳥などもあり、色の選び方が絶妙です。色だけでなく帆船を表した作品では貝の形が生かされていて、アイディアが光る作品ばかりでした。
<芝山細工と横浜芝山漆器>
続いては芝山細工のコーナー。芝山細工は貝や珊瑚、象牙、鼈甲などを用いて文様を表して漆面に象嵌するもので、中には蒔絵や螺鈿を施すものもあるようです。元は1770年頃に上総国芝山村で考案されたもので、江戸時代には大名家や富裕層で好評を得ていました。それが開港期になると外国人から高い評価を受けて売れるようになり、横浜へと大量に職人が移っていきました。そこで作られた横浜芝山漆器は家具だけでなく飾額や写真帖など様々な品が作られ隆盛を誇っていたようですが、関東大震災や横浜大空襲といった歴史によって衰退し、現在では伝統が絶えようとしているようです。
ここもそれ程点数は無かったのですが、白蝶貝と獣骨を使って花と蝶を象ったお盆などが目を引きました。虹色に鈍く光る様子が幻想的で、蝶の図様にピッタリです。 他にも額縁の花飾りが立体的に表された飾額などもあり、獣の骨などを使っているようですがかなり精緻に作られていました。 とは言え、中にはちょっと日本が誇張された感のある品もあったかなw 輸出用に作られた作品は多かれ少なかれそんな雰囲気があったりします。
<そのほかの日本の輸出工芸>
最後はそれ以外の様々な工芸品のコーナー。やはりパリ万博などが契機となり輸出された品が並びます。ここには七宝や象牙の牙彫、ガラス絵などがありました。また、出入口付近には「生人形」というリアルな人形も数体あり、驚きました。特に二代山本福松による「羅生門」という人形は肌の色や髪の毛は人間そのものといった感じで、目にも輝きがあります。私は人形が苦手でちょっと怖いですが、技術の高さに感心させられました。
ということで、輸出向けの工芸品が中心となっていました。派手好きの外国人の為かちょっとゴテゴテした感じのものもありましたが、明治期の日本の工芸のレベルが恐ろしく高かったのがよく分かる内容です。特に寄木細工のコーナーが面白くて、机などは圧巻で見応えがありました。中には観た覚えがある品があったように思いますので、いずれまた観られる機会があるかもしれません。記憶にとどめておきたい展示でした。
おまけ:
この日、本当はスカイツリーと すみだ水族館に行こうと思っていたのですが、かなり混んでいたので諦めましたw

新しくなった たばこと塩の博物館は東京スカイツリーから徒歩10分以内にあるので、混んでいたらこちらに足を運ぶのもよろしいかと思います。なお、このブログではこの美術館が移設されてから初めてのご紹介となりますが、美術館自体については次回にご紹介しようと思います。
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今日も写真多めです。前回ご紹介した国立科学博物館日本館の地下の展示を観た後、1階の企画展示室に移動して「南方熊楠生誕150周年記念企画展 南方熊楠-100年早かった智の人-」を観てきました。この展示では撮影することが可能でしたので、写真を使ってご紹介しようと思います。

【展覧名】
南方熊楠生誕150周年記念企画展 南方熊楠-100年早かった智の人-
【公式サイト】
https://www.kahaku.go.jp/event/2017/12kumagusu/
【会場】国立科学博物館 日本館1階 企画展示室
【最寄】上野駅
【会期】2017年12月19日(火)~2018年3月4日(日)
※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。
【鑑賞所要時間(私のペースです)】
1時間00分程度
【混み具合・混雑状況】
混雑_1_2_3_4_⑤_快適
【作品充実度】
不足_1_2_3_④_5_充実
【理解しやすさ】
難解_1_2_3_④_5_明解
【総合満足度】
不満_1_2_3_④_5_満足
【感想】
空いていて快適に鑑賞できたのですが、アンデス文明展と地衣類展の予想以上の充実ぶりに時間を取られ、僅か30分くらいで閉館というギリギリの時間となってしまいました。とりあえず後半は写真を撮って周っただけになってしまったw ちゃんと観れば1時間はかかる内容だと思います。
さて、この展示は大正から昭和にかけて活躍した学者、南方熊楠に関する展示です。昭和天皇に講義を行ったエピソードや、破天荒な人物像などで知られる南方熊楠ですが、この展示ではその生涯と研究についてダイジェスト的に紹介されていました。かなり細かく章・項分けされていましたので、要点をかいつまんで写真を使ってご紹介していこうと思います。
<1 熊楠の智の生涯>
まずは南方熊楠の生涯についてのコーナーです。
[1-1 幼少~青年期]
熊楠は1867年に和歌山の商家に生まれ、幼いときから百科事典や本草書といった本の筆写に精を出していたそうです。中でも江戸時代の「和漢三才図会抜書」とい百科事典に出会い、知識を集めることに喜びを見出していました。 その後、中学に進むと西洋から来た博物学を学ぶのですが、数学など理系科目は苦手だったようで、東京帝国大学予備門(現在の教育学部)に進学したものの代数で落第点を取ってドロップアウトし、郷里に戻っています。しかし、予備門時代にアメリカのアマチュア菌学者カーティスがイギリスの菌学者バークレーに6000点の菌類標本を送ったという話を聞いてそれ以上の標本を集めたいと考えていた熊楠は博物学への憧れを捨てきれず、商売のためと称して1886年にアメリカへと留学していきました。
こちらは「和漢三才図会抜書」 「和漢三才図会」を南方熊楠が筆写したものです。

かなり細かいところまで写していて、こうした筆写はこの後も様々な本で行われています。読むだけでなく書くと細部まで覚えますよね。
こちらは予備門時代のノート

ここには植物の名前と科が描かれているようです。漢字と英語が併記されています。ちなみに南方熊楠は非常に語学力があった人で、何カ国語も理解できたそうです。
[1-2 アメリカ時代]
アメリカ時代は最初に商業と英語の勉強をしていたそうですが、商業に関心が持てずに退学して、農学校に入りなおしています。しかし、そこで喧嘩や飲酒事件を起してそこも退学しますw その後、学園都市アナーバーに移り学校には通わずアマチュア菌学者のカルキンスと交流しながら標本採集に精を出します。(熊楠はどこかの大学で研究していたのではなく、個人で研究していました) アメリカ時代にはキューバなどにも採集に訪れたようです。
こちらは旧友に宛てた書簡で、アメリカの生活の様子と共にキノコの標本がつけられたもの。

記号が振られて説明文らしきものもあります。ちょっと読めませんがw
こちらはカルキンすが熊楠に送ったフロリダ産の菌類標本帳

正式な学者でもない熊楠にこうした品をくれるなんて、この人からの影響は大きいのかもしれません。しかしカルキンスとは書簡のやりとりをよくしたものの直接会うことはなかったのだとか。
[1-3 ロンドン時代]
1892年に25歳となった熊楠はロンドンへと渡りました。ロンドンではアメリカ時代と打って変わってフィールドワークではなく大英博物館の図書館で膨大な数の書籍を読み漁ったようで、ここで民俗学や自然科学などの知識を収集し、自分のノートに抜書きしていきました。そしてこの抜書きをもとに雑誌『ネイチャー』に投稿を始めるなどの活動もしていたようです。一方、私生活では酒造会社をやって裕福だった実家の父が亡くなり、その7年後には仕送りが止まってしまったようで生活苦で帰国を決意したようです。
こちらがロンドンで抜書したノート。

やっていることは幼いころの筆写と同じようなことかな。南方熊楠の勉強・研究方法の原点はこうした写しにありそうです。
[1-4 那智・田辺時代]
帰国後、熊楠は那智に住んで採集に明け暮れていました。ここではロンドン時代の抜書を使った論文執筆や、熊楠独自の思考構造を表した「南方マンダラ」を描くなど充実した研究生活を送っていたようです。しかし、投稿した論文は次々に不採択になったようで、1904年には那智での生活を打ち切り紀伊田辺へと移り住みます。そして田辺でも隠花植物 特にキノコの標本採集を行うと共に、城下町だった田辺にある書簡や住民からの聞き取りで抜書なども作っていたようです。そして1906年には神社宮司の娘と結婚し、田辺時代は熊楠の人生で最も長く安定した生活となったようです。
田辺時代の研究面も、変形菌目録という本を出版したり新種を発見したこともあって、摂政宮(後の昭和天皇)に標本を献上するという成果を出し一定の評価を得たようです。
こちらは神社合祀に関して柳田國男とやりとりした書簡。

神社合祀に関しての活動は後の章で出てきますが、民俗学にも精通していたのがこうした運動に繋がったようです。
こちらは変形菌類の進献標本。1926年に後の昭和天皇に献上されました。

90種類程度の菌類があるようです。これはちゃんと献上される感じで綺麗に並んでいます。
[1-5 晩年]
1929年に62才の熊楠は変形菌類に関心を持っていた昭和天皇に対する御進講の機会を得ます。その際、献上標本などをキャラメル箱に入れて持ってきたそうで、これは昭和天皇が後に懐かしんで語っていたなど南方熊楠らしいエピソードとして有名です。その人柄がよく伝わってきますw
そんな熊楠ですが、70歳を迎えるころになると盟友たちが相次いで亡くなり気落ちしてしまったようで、1941年にこの世を去りました。
こちらが献上されたキャラメル箱と同じ型のもの

普通は桐の箱とかに入れるのをこれで持ってきたのには流石に昭和天皇も驚いたようですが、それを嬉しく思っていたようです。熊楠は60を超えても子供っぽいところがあって面白いw
<2 一切智を求めて>
続いては南方熊楠のフィールドワークについてのコーナー。
[2-1 南方のフィールドワーク]
前述の通り、日本に戻った熊楠は積極的にフィールドワークを開始し種類ごとに採集目標を立てたのですが、僅か9ヶ月でそれを達成したそうです。那智で採集した以降は、玉置山、瀞八丁などの紀伊山地、高野山など紀伊半島を中心に活動し、1922年の日光への採集行以外は紀伊半島から出なかったようです。
これは水田や池に生息する藻類を標本する際に使う微細藻類プレパラート入れ

引き出しの中に沢山のサンプルが収まるようです。隣には携帯顕微鏡のレプリカもあったので、その場で観てたのかな。
こちらは絵具と描画道具入り採集箱

今だったら写真に撮りますが、昔は高価だったので採集したての状態で水彩画を描いたようです。熊楠は絵も上手いので本当に多彩な人です。
他にも長持ちなどの道具や、集めた標本なども並んでいました。
[2-2 現在のフィールドワーク]
こちらは現在のフィールドワークのコーナー。いつどこで誰がどのように採集したかを記録し、良好な状態に保ち適切に保存するのという採集に使われる道具などが展示されています。技術の進歩でかなり精度や効率は良くなっているようですが、作業自体は熊楠のやっていたことと同じのようです。
こちらが道具。

GPSなんかは最近っぽさを感じますが、割とアナログな道具が多いかな。地道な研究って感じがします。
[2-3 熊楠の人文系研究]
ここまで菌類の研究の話ばかりでしたが、熊楠は人文系の研究でも名を残しています。説話や民話、伝説などを集めて図譜と同じようにノートに記していったようです。
こちらは抜書をまとめて雑誌や新聞に投書したもの。

「性の研究」とか「変態心理」とか何だか怪しい雑誌もありますw どんな研究を載せたのでしょうか…。
<3 智の広がり>
この章は熊楠が興味を持って集めた隠花植物を紹介するコーナー。現在の標本資料と対比しながら紹介されていました。
[3-1 大型藻類]
こちらは海藻などの大型藻類。熊楠の時代は下等な植物と思われていたようですが、淡水の藻類まで広く収集したようです。しかしその成果は出版されることはなかったのだとか。
熊楠が採集した標本。

綺麗に標本化されていて、隣にあった現代の標本に見劣りしない見事な標本です。
[3-2 微細藻類]
こちらは顕微鏡サイズの藻類のコーナー。熊楠はこうした藻類も多く収集し、日本の微細藻類の分布を1903年のネイチャーで論文で発表しているようです。また、淡水藻類研究では世界の第一線といえるレベルだったようですが、日本国内でその知識を発表したりすることはなかったようです。
こちらが標本。

小さいので1つの箱に沢山入っているようです。1枚1枚にメモ書きもありました。
[3-3 地衣類]
こちらは藻類と菌類が共生する地衣類のコーナー。詳しくは前回の記事をご参照ください。
南方熊楠による地衣類の標本。

南方熊楠は700点以上もの標本を収集したそうですが、大部分は未同定(分類上の所属が決まっていない)ようです。同定するための適切な指導者がいなかったのが原因のようですが、惜しいですね。
[3-4 変形菌類]
変形菌類は熊楠の時代には動物と植物の中間的な原始生物と考えられていたようです。南方熊楠はこの不思議な生物のリストをまとめて発表したそうですが、1920年頃からは自分自身で採集することはあまりせず、弟子たちが採集していたようです。
こちらは熊楠が採集した変形菌類の標本

ちょっと中身が観られませんが、かなりの数を集めているのが分かります。
[3-5 菌類]
カビやキノコ、酵母などの菌類。実は熊楠は変形菌類よりも菌類のほうが沢山集めていたようです。
熊楠hが採集した菌類標本。

これらも残念ながら未同定のものが多数あるようです。
<4 智の集積-菌類図譜->
続いては数千枚にも及ぶ「菌類図譜」に関してのコーナーです。その大部分は国立科学博物館に所蔵されているようですが、欠けている部分もあり、近年発見された部分も展示されていました。
菌名がない図譜。

未同定のものも含まれているようですが、かなり細かい記載が横に書かれていました。
この辺に面白いエピソードがありました。神社合祀に反対して騒ぎを起こした熊楠は牢獄に何日か収監したそうですが、その獄中でキノコを見つけて採取していたようです。図譜にもしているようで、F1252と採番した上で署名入りで獄中で採取した旨が描かれているのだとか。
キノコを集めることで精神を安定に保とうと考えていた話などもあり、やはり何処か普通の人間とは違ったのでしょうねw
<5 智の展開-神社合祀と南方二書->
続いては菌類等の研究以外で成果が出た活動のコーナー。神社合祀への反対について取り上げられていました。
[5-1 神社合祀とは]
神社合祀というのは町村合併に伴って複数の神社を一町村で1つに統合し、廃止した神社の土地を民間に払い下げるという動きで、日露戦争の戦費の借金返済を目的に行われました。南方熊楠は貴重な鎮守の森が消えてしまうことを懸念し、各界の有識者に呼びかけ反対運動を展開したようです。
こちらはアオウツボホコリという新種として報告された変形菌。

これを採取した猿神社が近隣の稲荷神社と合祀されたことで、神社林が完全に伐採されてしまったそうで、これが神社合祀反対運動を展開するきっかけとなったようです。せっかく新種を見つけたのに… 他にも人知れず消えた種もあるのかもしれませんね。
[5-2 南方二書]
南方熊楠は神社合祀反対運動の中で1911年に東京帝国大学教授の松村任三に2通の手紙を書いたそうで、その中で森林伐採で生物が絶滅を招くことや日本文化の精神的な影響などを説いたそうです。それまで収集してきた生物や民俗などの知識を総動員して例示したそうで、これが後に柳田國男に出版されて南方二書と呼ばれるようになったようです。
これが南方二書の原本。

図解なども入れて熱心に反対の旨を伝えているようです。
その甲斐もあって、田辺湾の神島は天然記念物に指定されるなど、実を結んだところもあったようです。
<6 智の構造を探る>
続いては南方熊楠の「腹稿」と呼ばれる構想メモに関するコーナー。
これが腹稿のコピーで、十二支考という連載の為に、虎に関する史話、民俗、生物学的特徴などを羅列したもの。

ひたすら思いついたのを並べたようにみえるかな。項目同士で線をむすんで連続した話題にし、内容をまとめていったようです。
これは「虎」の腹稿

これを観ると、現代のデータ解析を想起します。相関関係を可視化しているみたいな。
こちらは原稿。

腹稿を元に書かれたものですが、この原稿は採用されなかったそうです。まあその御蔭で返却されて今でも残っているみたいなので怪我の功名というか…w
<むすび 一切智の人>
最後は南方熊楠がいかに現代的な思考を持っていたかというコーナーです。先程の虎の腹稿のように、情報を集め、データ化し、必要に応じて自在に取り出す という流れは現代のwebに近いもので、それを100年前にやっていたのだからまさに早すぎた知性だったのかもしれません。
ここには南方熊楠のデータベースの体験コーナーもありました。

私は蛍の光を聴きながら閉館時間にならないうちに必死に周っていたので体験できませんでしたw
ということで、南方熊楠について深く知ることのできる内容で満足でした。大人になっても子供の心を持ってる点や収集癖があるところに親近感が湧きます。もうちょっと時間を取って観るべき展示だったw この展示も常設内で特別展のチケットで合わせて観ることができるので、アンデス文明展に行かれる方はこちらもチェックしてみるとよろしいかと思います。

【展覧名】
南方熊楠生誕150周年記念企画展 南方熊楠-100年早かった智の人-
【公式サイト】
https://www.kahaku.go.jp/event/2017/12kumagusu/
【会場】国立科学博物館 日本館1階 企画展示室
【最寄】上野駅
【会期】2017年12月19日(火)~2018年3月4日(日)
※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。
【鑑賞所要時間(私のペースです)】
1時間00分程度
【混み具合・混雑状況】
混雑_1_2_3_4_⑤_快適
【作品充実度】
不足_1_2_3_④_5_充実
【理解しやすさ】
難解_1_2_3_④_5_明解
【総合満足度】
不満_1_2_3_④_5_満足
【感想】
空いていて快適に鑑賞できたのですが、アンデス文明展と地衣類展の予想以上の充実ぶりに時間を取られ、僅か30分くらいで閉館というギリギリの時間となってしまいました。とりあえず後半は写真を撮って周っただけになってしまったw ちゃんと観れば1時間はかかる内容だと思います。
さて、この展示は大正から昭和にかけて活躍した学者、南方熊楠に関する展示です。昭和天皇に講義を行ったエピソードや、破天荒な人物像などで知られる南方熊楠ですが、この展示ではその生涯と研究についてダイジェスト的に紹介されていました。かなり細かく章・項分けされていましたので、要点をかいつまんで写真を使ってご紹介していこうと思います。
<1 熊楠の智の生涯>
まずは南方熊楠の生涯についてのコーナーです。
[1-1 幼少~青年期]
熊楠は1867年に和歌山の商家に生まれ、幼いときから百科事典や本草書といった本の筆写に精を出していたそうです。中でも江戸時代の「和漢三才図会抜書」とい百科事典に出会い、知識を集めることに喜びを見出していました。 その後、中学に進むと西洋から来た博物学を学ぶのですが、数学など理系科目は苦手だったようで、東京帝国大学予備門(現在の教育学部)に進学したものの代数で落第点を取ってドロップアウトし、郷里に戻っています。しかし、予備門時代にアメリカのアマチュア菌学者カーティスがイギリスの菌学者バークレーに6000点の菌類標本を送ったという話を聞いてそれ以上の標本を集めたいと考えていた熊楠は博物学への憧れを捨てきれず、商売のためと称して1886年にアメリカへと留学していきました。
こちらは「和漢三才図会抜書」 「和漢三才図会」を南方熊楠が筆写したものです。

かなり細かいところまで写していて、こうした筆写はこの後も様々な本で行われています。読むだけでなく書くと細部まで覚えますよね。
こちらは予備門時代のノート

ここには植物の名前と科が描かれているようです。漢字と英語が併記されています。ちなみに南方熊楠は非常に語学力があった人で、何カ国語も理解できたそうです。
[1-2 アメリカ時代]
アメリカ時代は最初に商業と英語の勉強をしていたそうですが、商業に関心が持てずに退学して、農学校に入りなおしています。しかし、そこで喧嘩や飲酒事件を起してそこも退学しますw その後、学園都市アナーバーに移り学校には通わずアマチュア菌学者のカルキンスと交流しながら標本採集に精を出します。(熊楠はどこかの大学で研究していたのではなく、個人で研究していました) アメリカ時代にはキューバなどにも採集に訪れたようです。
こちらは旧友に宛てた書簡で、アメリカの生活の様子と共にキノコの標本がつけられたもの。

記号が振られて説明文らしきものもあります。ちょっと読めませんがw
こちらはカルキンすが熊楠に送ったフロリダ産の菌類標本帳

正式な学者でもない熊楠にこうした品をくれるなんて、この人からの影響は大きいのかもしれません。しかしカルキンスとは書簡のやりとりをよくしたものの直接会うことはなかったのだとか。
[1-3 ロンドン時代]
1892年に25歳となった熊楠はロンドンへと渡りました。ロンドンではアメリカ時代と打って変わってフィールドワークではなく大英博物館の図書館で膨大な数の書籍を読み漁ったようで、ここで民俗学や自然科学などの知識を収集し、自分のノートに抜書きしていきました。そしてこの抜書きをもとに雑誌『ネイチャー』に投稿を始めるなどの活動もしていたようです。一方、私生活では酒造会社をやって裕福だった実家の父が亡くなり、その7年後には仕送りが止まってしまったようで生活苦で帰国を決意したようです。
こちらがロンドンで抜書したノート。

やっていることは幼いころの筆写と同じようなことかな。南方熊楠の勉強・研究方法の原点はこうした写しにありそうです。
[1-4 那智・田辺時代]
帰国後、熊楠は那智に住んで採集に明け暮れていました。ここではロンドン時代の抜書を使った論文執筆や、熊楠独自の思考構造を表した「南方マンダラ」を描くなど充実した研究生活を送っていたようです。しかし、投稿した論文は次々に不採択になったようで、1904年には那智での生活を打ち切り紀伊田辺へと移り住みます。そして田辺でも隠花植物 特にキノコの標本採集を行うと共に、城下町だった田辺にある書簡や住民からの聞き取りで抜書なども作っていたようです。そして1906年には神社宮司の娘と結婚し、田辺時代は熊楠の人生で最も長く安定した生活となったようです。
田辺時代の研究面も、変形菌目録という本を出版したり新種を発見したこともあって、摂政宮(後の昭和天皇)に標本を献上するという成果を出し一定の評価を得たようです。
こちらは神社合祀に関して柳田國男とやりとりした書簡。

神社合祀に関しての活動は後の章で出てきますが、民俗学にも精通していたのがこうした運動に繋がったようです。
こちらは変形菌類の進献標本。1926年に後の昭和天皇に献上されました。

90種類程度の菌類があるようです。これはちゃんと献上される感じで綺麗に並んでいます。
[1-5 晩年]
1929年に62才の熊楠は変形菌類に関心を持っていた昭和天皇に対する御進講の機会を得ます。その際、献上標本などをキャラメル箱に入れて持ってきたそうで、これは昭和天皇が後に懐かしんで語っていたなど南方熊楠らしいエピソードとして有名です。その人柄がよく伝わってきますw
そんな熊楠ですが、70歳を迎えるころになると盟友たちが相次いで亡くなり気落ちしてしまったようで、1941年にこの世を去りました。
こちらが献上されたキャラメル箱と同じ型のもの

普通は桐の箱とかに入れるのをこれで持ってきたのには流石に昭和天皇も驚いたようですが、それを嬉しく思っていたようです。熊楠は60を超えても子供っぽいところがあって面白いw
<2 一切智を求めて>
続いては南方熊楠のフィールドワークについてのコーナー。
[2-1 南方のフィールドワーク]
前述の通り、日本に戻った熊楠は積極的にフィールドワークを開始し種類ごとに採集目標を立てたのですが、僅か9ヶ月でそれを達成したそうです。那智で採集した以降は、玉置山、瀞八丁などの紀伊山地、高野山など紀伊半島を中心に活動し、1922年の日光への採集行以外は紀伊半島から出なかったようです。
これは水田や池に生息する藻類を標本する際に使う微細藻類プレパラート入れ

引き出しの中に沢山のサンプルが収まるようです。隣には携帯顕微鏡のレプリカもあったので、その場で観てたのかな。
こちらは絵具と描画道具入り採集箱

今だったら写真に撮りますが、昔は高価だったので採集したての状態で水彩画を描いたようです。熊楠は絵も上手いので本当に多彩な人です。
他にも長持ちなどの道具や、集めた標本なども並んでいました。
[2-2 現在のフィールドワーク]
こちらは現在のフィールドワークのコーナー。いつどこで誰がどのように採集したかを記録し、良好な状態に保ち適切に保存するのという採集に使われる道具などが展示されています。技術の進歩でかなり精度や効率は良くなっているようですが、作業自体は熊楠のやっていたことと同じのようです。
こちらが道具。

GPSなんかは最近っぽさを感じますが、割とアナログな道具が多いかな。地道な研究って感じがします。
[2-3 熊楠の人文系研究]
ここまで菌類の研究の話ばかりでしたが、熊楠は人文系の研究でも名を残しています。説話や民話、伝説などを集めて図譜と同じようにノートに記していったようです。
こちらは抜書をまとめて雑誌や新聞に投書したもの。

「性の研究」とか「変態心理」とか何だか怪しい雑誌もありますw どんな研究を載せたのでしょうか…。
<3 智の広がり>
この章は熊楠が興味を持って集めた隠花植物を紹介するコーナー。現在の標本資料と対比しながら紹介されていました。
[3-1 大型藻類]
こちらは海藻などの大型藻類。熊楠の時代は下等な植物と思われていたようですが、淡水の藻類まで広く収集したようです。しかしその成果は出版されることはなかったのだとか。
熊楠が採集した標本。

綺麗に標本化されていて、隣にあった現代の標本に見劣りしない見事な標本です。
[3-2 微細藻類]
こちらは顕微鏡サイズの藻類のコーナー。熊楠はこうした藻類も多く収集し、日本の微細藻類の分布を1903年のネイチャーで論文で発表しているようです。また、淡水藻類研究では世界の第一線といえるレベルだったようですが、日本国内でその知識を発表したりすることはなかったようです。
こちらが標本。

小さいので1つの箱に沢山入っているようです。1枚1枚にメモ書きもありました。
[3-3 地衣類]
こちらは藻類と菌類が共生する地衣類のコーナー。詳しくは前回の記事をご参照ください。
南方熊楠による地衣類の標本。

南方熊楠は700点以上もの標本を収集したそうですが、大部分は未同定(分類上の所属が決まっていない)ようです。同定するための適切な指導者がいなかったのが原因のようですが、惜しいですね。
[3-4 変形菌類]
変形菌類は熊楠の時代には動物と植物の中間的な原始生物と考えられていたようです。南方熊楠はこの不思議な生物のリストをまとめて発表したそうですが、1920年頃からは自分自身で採集することはあまりせず、弟子たちが採集していたようです。
こちらは熊楠が採集した変形菌類の標本

ちょっと中身が観られませんが、かなりの数を集めているのが分かります。
[3-5 菌類]
カビやキノコ、酵母などの菌類。実は熊楠は変形菌類よりも菌類のほうが沢山集めていたようです。
熊楠hが採集した菌類標本。

これらも残念ながら未同定のものが多数あるようです。
<4 智の集積-菌類図譜->
続いては数千枚にも及ぶ「菌類図譜」に関してのコーナーです。その大部分は国立科学博物館に所蔵されているようですが、欠けている部分もあり、近年発見された部分も展示されていました。
菌名がない図譜。

未同定のものも含まれているようですが、かなり細かい記載が横に書かれていました。
この辺に面白いエピソードがありました。神社合祀に反対して騒ぎを起こした熊楠は牢獄に何日か収監したそうですが、その獄中でキノコを見つけて採取していたようです。図譜にもしているようで、F1252と採番した上で署名入りで獄中で採取した旨が描かれているのだとか。
キノコを集めることで精神を安定に保とうと考えていた話などもあり、やはり何処か普通の人間とは違ったのでしょうねw
<5 智の展開-神社合祀と南方二書->
続いては菌類等の研究以外で成果が出た活動のコーナー。神社合祀への反対について取り上げられていました。
[5-1 神社合祀とは]
神社合祀というのは町村合併に伴って複数の神社を一町村で1つに統合し、廃止した神社の土地を民間に払い下げるという動きで、日露戦争の戦費の借金返済を目的に行われました。南方熊楠は貴重な鎮守の森が消えてしまうことを懸念し、各界の有識者に呼びかけ反対運動を展開したようです。
こちらはアオウツボホコリという新種として報告された変形菌。

これを採取した猿神社が近隣の稲荷神社と合祀されたことで、神社林が完全に伐採されてしまったそうで、これが神社合祀反対運動を展開するきっかけとなったようです。せっかく新種を見つけたのに… 他にも人知れず消えた種もあるのかもしれませんね。
[5-2 南方二書]
南方熊楠は神社合祀反対運動の中で1911年に東京帝国大学教授の松村任三に2通の手紙を書いたそうで、その中で森林伐採で生物が絶滅を招くことや日本文化の精神的な影響などを説いたそうです。それまで収集してきた生物や民俗などの知識を総動員して例示したそうで、これが後に柳田國男に出版されて南方二書と呼ばれるようになったようです。
これが南方二書の原本。

図解なども入れて熱心に反対の旨を伝えているようです。
その甲斐もあって、田辺湾の神島は天然記念物に指定されるなど、実を結んだところもあったようです。
<6 智の構造を探る>
続いては南方熊楠の「腹稿」と呼ばれる構想メモに関するコーナー。
これが腹稿のコピーで、十二支考という連載の為に、虎に関する史話、民俗、生物学的特徴などを羅列したもの。

ひたすら思いついたのを並べたようにみえるかな。項目同士で線をむすんで連続した話題にし、内容をまとめていったようです。
これは「虎」の腹稿

これを観ると、現代のデータ解析を想起します。相関関係を可視化しているみたいな。
こちらは原稿。

腹稿を元に書かれたものですが、この原稿は採用されなかったそうです。まあその御蔭で返却されて今でも残っているみたいなので怪我の功名というか…w
<むすび 一切智の人>
最後は南方熊楠がいかに現代的な思考を持っていたかというコーナーです。先程の虎の腹稿のように、情報を集め、データ化し、必要に応じて自在に取り出す という流れは現代のwebに近いもので、それを100年前にやっていたのだからまさに早すぎた知性だったのかもしれません。
ここには南方熊楠のデータベースの体験コーナーもありました。

私は蛍の光を聴きながら閉館時間にならないうちに必死に周っていたので体験できませんでしたw
ということで、南方熊楠について深く知ることのできる内容で満足でした。大人になっても子供の心を持ってる点や収集癖があるところに親近感が湧きます。もうちょっと時間を取って観るべき展示だったw この展示も常設内で特別展のチケットで合わせて観ることができるので、アンデス文明展に行かれる方はこちらもチェックしてみるとよろしいかと思います。
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