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内藤コレクション展Ⅲ「写本彩飾の精華 天に捧ぐ歌、神の理」 【国立西洋美術館】

今日は写真多めです。前回ご紹介した国立西洋美術館の常設を観た際に、版画室で内藤コレクション展Ⅲ「写本彩飾の精華 天に捧ぐ歌、神の理」という展示を観てきました。この展示は撮影可能となっていましたので、写真を使ってご紹介していこうと思います。

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【展覧名】
 内藤コレクション展Ⅲ「写本彩飾の精華 天に捧ぐ歌、神の理」

【公式サイト】
 https://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2020manuscript2.html

【会場】国立西洋美術館
【最寄】上野駅

【会期】2020年9月8日(火)~10月18日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 0時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_②_3_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_③_4_5_満足

【感想】
それほど混んでおらず快適に鑑賞することができました。

さて、この展示は2016年に内藤裕史 氏が寄贈した中世の聖書などの写本のコレクションを紹介するもので、昨年末から今年頭にかけて開催された同様の趣向の展示の第3弾となっています。(第2弾は観に行けませんでした) 今回は聖歌集に由来するリーフが中心となっていましたので、気に入った作品の写真をいくつかご紹介していこうと思います。
 参考記事:内藤コレクション展「ゴシック写本の小宇宙――文字に棲まう絵、言葉を超えてゆく絵」 (国立西洋美術館)

「聖務日課聖歌集零葉:イニシアルQの内部に[書物と剣を手にした聖パウロ]」 イタリア、ピサ 1330~40年頃
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こちらは聖パウロの祝日(6月30日)に歌う聖歌の記譜の一葉。剣を持っているのは斬首されたためで、険しい表情となっています。一方、赤や青は聖人によく使わえる色ですが、鮮やかでデザイン的には楽しげな雰囲気に見えますねw

序盤には内藤コレクションについての解説もありました。ルオーを観て芸術に関心を持った話など以前ご紹介した内容となります。これだけのものを1人で集めたとは驚きです。

「聖務日課聖歌集由来のビフォリウム:イニシアルAの内部に[神殿奉献]」 イタリア、ローマ 1285~1300年頃
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こちらはAの形の中に聖母子らしき姿があり、エルサレムの神殿にイエスを捧げに行く神殿奉献のシーンとなっています。ここでもSやAの文字がリズミカルに書かれていて枠は天使でしょうか。軽やかで音楽に相応しい感じですね。

「典礼用詩篇集零葉:イニシアルBの内部に[プサルテリウムを奏でるダヴィデ王と祝福する神]」 イタリア、フィレンツェ 1380年頃
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こちらは公的な礼拝で使用された詩篇集由来の一葉だそうで、Bの上段は祝福のポーズの神、下段はダヴィデがプサルテリウムという古代の弦楽器を奏でている姿で描かれています。これも草花や鳥が流れるような紋様となっていて彩りも非常に美しい。ルネサンス以前にこうした躍動感あるデザインがあったんですね。

「司教用定式書零葉:イニシアルBの内部に[聖母子像を祝福する司教]」 イタリア、ウンブリア地方 1480~90年頃
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こちらはアヴィニョンに教皇庁があった頃に高位聖職者の為に作られた写本と考えられている一葉。解説によると、アヴィニョン教皇庁では写本制作の需要が高まり、アヴィニョン派と呼ばれる一流派が生まれたそうで、この作品にはパリ派とイタリアからの影響を受けた折衷的な様式が表れているようです。聖母子や司教の線画的な表現、赤・青・バラ色を基調とし金地を使うのがパリ派、SとAのイニシアルを縁取る赤色の線状装飾や余白装飾、字体などはイタリアの様式とのこと。素人には全くわかりませんが、数多く観ていくと分かるのかな??

「ミサ聖歌集零葉:イニシアルGの内部に[諸聖人]」 イタリア、パヴィア 1480~85年頃
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こちらは諸聖人の祝日(11月1日)のミサで歌われる入祭唱の冒頭の記譜。金の四角の中のGの字に多くの聖人が集まっていて、厳かさと華やかさが感じられます。

「ミサ典書零葉:[ミサをあげる司祭]を内部に描くふたつのイニシアルA」 イタリア、ウンブリア地方 1300~10年頃
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こちらはミサで朗読するテキストや聖歌を収めたミサ典書からの一葉。ミサをあげる司教の姿だけでなく、所々にある文字の装飾も面白い模様で目を引きます。何か意味がある紋章なのかな? 金色の文字のフォントも美しいですね。

「聖務日課聖歌集零葉:イニシアルAの内部に[キリスト復活]」 南ネーデルラント、トゥルネー 1330~40年頃
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こちらは復活祭の聖務日課の為の聖歌を記した一葉。復活祭だけあってキリストが棺から足を出していて、周りは見張りの兵士のようです。下にある絵では天使が空になった布を持ち上げて墓参りの女性たちに見せています。割と素朴な感じで色も控えめに見えるかな。しかし、こちらはかつて英国の美術批評家のジョン・ラスキンが持っていたほどの品のようです。ラスキンに影響を受けたラファエル前派やアーツ・アンド・クラフツも確実に中世美術の影響を受けているので、そう考えると価値ある一葉ですね。

「聖務日課聖歌集零葉:イニシアルQの内部に[福音書記者聖ヨハネ]」 南ネーデルラント、おそらくトゥルネー 15世紀初頭
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こちらは毒杯を祝福する福音書記者聖ヨハネを描いた作品。毒を祝福で無毒化したという伝承を元にしているそうで、ちょうど2本の指で祝福のポーズをしています。こうした小さい絵1つ1つに物語が込められているのは宗教美術ならではですね。

「聖歌集零葉:イニシアルRの内部に[羊飼いへのお告げ]」 スペイン、おそらくサンタ・マリア・デ・グアダルーベ修道院(エストレマドゥーラ地方) 1450~75年
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こちらは修道院の合唱隊の為の聖歌集からの一葉。金が多く使われ、びっしりと紋様で埋まった枠がこれまでのものとちょっと違って見えるかな。豪華で密度の高い雰囲気に思えました。

「ウェールズのヨハンネス著『説教術書』零葉:装飾イニシアルDおよびE」 アラゴン連合王国、カタルーニャ地方(バルセロナ?) 1400年頃
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こちらはバルセロナ付近で作られたと思われる一葉。先程のと年代が近いのにえらく雰囲気が違っていて面白いw こちらは流麗な印象を受けました。

「ガブリエル・デ・ケーロの貴族身分証明書」 グラナダ王立高等法院発行 カスティーリャ王国、グラナダ 1540年
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こちらは貴族の身分を証明するもので、ドラゴンはスペイン王カルロス1世のDon CarlosのDを表しているそうです。これだけ豪華なのに貴族の身分証明書としてはかなり地味なのだとか。爵位のない貴族に使われたようですが、証明しないと分からない程度の貴族なんていたのだろうか…。

「カスティーリャ女王フアナ1世の印章」 
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こちらは先程の証明書とセットで並んでいました。カルロス1世の母親のもので、杖を持った人物が鉛に彫られています。女王の印章って、こっちの方が凄いコレクションなのでは?w

「『グラティアヌス教令集』零葉:司教に訴え出る巡礼者」 フランス、トゥールーズ 1320年
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こちらは婚姻に関する法的案件が書かれている一葉。巡礼の途中で死んだと思われた夫が生還した場合、妻の再婚は取り消されるべきかという内容らしく、跪いて懇願しているのが行方不明だった夫です。しかし右の方で抱き合うような現夫婦の様子を観ると、女性の心が離れているというのも伺えます。こんな人間模様まで写本に描いてあるとは驚きましたw

「『クレメンス集』(およびヨハンネス・アンドレアエによる注釈)零葉:装飾イニシアルDおよびR」 フランス南西部、おそらくトゥールーズ 1330年~50年頃
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こちらは注釈付きの写本。面白いのが文字の配置が「中」の字のようになっているところで、右隣にも杯のような形になっている文字があります。このデザインセンスの自由さにも感心させられました。


ということで、今回も知られざる写本の世界を垣間見られたように思います。中身を知るにはキリスト教の深い理解が必要だとは思いますが、装飾の美しさやデザイン性などは一目で分かる面白さがあったと思います。

ちなみにこの展示をもって国立西洋美術館は2022年春まで設備整理のため休館に入ります。この前リニューアルしたばかりなのにまたかよ!?とも思うけど、コロナでしばらくは苦慮しそうだし丁度良いタイミングかもしれませんね。


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ロンドン・ナショナル・ギャラリー展 (感想後編)【国立西洋美術館】

今日は前回に引き続き国立西洋美術館の「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」についてです。前編は4章までご紹介しましたが、後編では残りの5~7章以降についてご紹介して参ります。まずは概要のおさらいです。

 → 前編はこちら

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【展覧名】
 ロンドン・ナショナル・ギャラリー展

【公式サイト】
 https://artexhibition.jp/london2020/
 https://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2020london_gallery.html

【会場】国立西洋美術館
【最寄】上野駅

【会期】2020年6月18日(木)~10月18日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
後半も混んでいて、特にゴッホの「ひまわり」の周辺は混んでいました。後編も引き続き各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。


<5章 スペイン絵画の発見>
5章はスペイン絵画のコーナーで、17世紀~19世紀序盤くらいまでの画家の作品が並んでいました。

34 エル・グレコ(本名ドメニコス・テオトコプーロス)  「神殿から商人を追い払うキリスト」 ★こちらで観られます
こちらは聖書の物語の1つで、神殿で商売していた者たちにキリストが激怒して追い出すシーンが描かれています。身を捻って鞭を振るうキリストや手を挙げて逃げ惑う商人たちに動きを感じる一方、右側の老人たちはキリストを見て何やら話しているようです。左右で動と静になっている謎解きのヒントは背景のレリーフにあり、左には失楽園、右にはイサクの犠牲の場面が描かれています。つまり左側は罪を犯して楽園から追い出される者たち、右側は神の恩寵を受ける者たちってことですね。全体的に引き伸ばしや青みがかった色使いなど エル・グレコならではの個性もあって、非常に見応えのある作品でした。

35 ディエゴ・ベラスケス 「マルタとマリアの家のキリスト」 ★こちらで観られます
こちらは厨房で女性が何かを容器の中ですり潰す様子と、その後ろで老婆が奥の窓枠の向こうを指し示していて、そこにはキリストがマルタとマリアに教えを説いている場面が広がっています。これは「ボデゴン」と呼ばれる厨房など食べ物のある室内の様子を描く主題と聖書の場面が一体となっているもので、この作品を描いた頃のベラスケスはボデゴンを得意としていました。一方、マルタとマリアの話は、2人の家にキリストが訪れた際にマルタはその接待のための支度に追われる反面、マリアはキリストの話を聞いてばかりいるのでマルタが咎めた所、キリストは「マリアは良い方を選んだ」と言った逸話です。つまりキリストの話を聞くことが何よりも重要だという話なわけですが、この絵ではマルタの勤勉さを倣えと言わんばかりに老婆が指差しているように見えます。働いている女性はこちらを向いて煩そうな顔をしていてちょっと同情w 見る人によって解釈は変わりそうですが、ベラスケス初期の特徴がよく表れているように思いました。
 参考記事:《ディエゴ・ベラスケス》 作者別紹介

39 バルトロメ・エステバン・ムリーリョ  「幼い洗礼者聖ヨハネと子羊」 ★こちらで観られます
こちらは幼い子供が荒野の中で子羊を抱きかかえている様子が描かれた作品で、足元に葦の十字架が転がっていることからキリストに洗礼を施した洗礼者ヨハネの幼い頃の姿であることが分かります。キリストと洗礼者ヨハネは親戚で、お互いの子供の姿を描いた聖家族の主題でよく見かけますが、ここではヨハネのみとなっていてこの時代にヨハネをソロで描いた作品が人気を博していたようです。また、洗礼者ヨハネが羊を抱く左手の指で天を指しているのはキリストの降臨を示し、子羊は犠牲となるキリストの象徴となっています。周りが荒野になっているのも彼が荒野で修行していることを示すなど、信者にはすぐに連想されるモチーフと言えそうです。絵としても明暗が強くドラマチックで、ヨハネの聡明そうな笑顔が何とも可愛い。一方の子羊は毛並みがフワフワしているけど凛々しい表情なので、可愛いというよりは威厳を感じました。

ムリーリョはもう1点の「窓枠に身を乗り出した農民の少年」という作品も面白い絵でした。ニヤッと笑う少年の表情が生き生きしています。

33 フランシスコ・デ・ゴヤ 「ウェリントン公爵」 ★こちらで観られます
こちらは黒っぽい背景に斜め向きの男性の肖像で、赤っぽい服に無数の勲章が付けられています。この人物はワーテルローの戦いでナポレオンを打ち負かした英雄で、長嶋一茂に似てる気がしますw こちらを見ているものの、目に力はなく虚ろな表情に見えて とてもナポレオンに勝つような覇気が感じられません。戦いに疲れ切った感じなのかな?? 普通は理想化して描きそうなものですが、容赦なくリアルを追求しようとする辺りにゴヤっぽさを感じました。
 参考記事:《フランシスコ・デ・ゴヤ》 作者別紹介


<6章 風景画とピクチャレスク>
続いては風景画のコーナーで「ピクチャレスク」と呼ばれる絵になる風景を求めた作品が並んでいました。現代風に言うとインスタ映えみたいなニュアンスの風景画です。

42 クロード・ロラン(本名クロード・ジュレ)  「海港」 ★こちらで観られます
こちらは港の様子を描いた作品で、朝日か夕日か分かりませんが水平線の向こうに太陽が輝き水面に光が反射しています。周りに建物や人々が描かれているけど、恐らく実景ではなく様々なものを組み合わせた空想の光景だと思われます。この光り輝く港はクロード・ロランの代名詞的な画題で、一目でロランと分かりますw ドラマティックで雄大な雰囲気となっていました。

45 ヤーコプ・ファン・ロイスダール  「城の廃墟と教会のある風景」 ★こちらで観られます
こちらはフェルメールと同時代に活躍した17世紀オランダの画家ロイスダールの作品で、田園地帯の中にある城の廃墟と教会が見えています。地平線が低めに描かれ、広々とした光景となっていて空の雲がうねるような迫力です。手前では羊飼いが休んでいて長閑な雰囲気もあるかな。写実的でありながら詩情ある風景で、当時のオランダの様子が伝わってくるようでした。

49 ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー 「ポリュフェモスを嘲るオデュッセウス」 ★こちらで観られます
こちらはホメロスの『オデュッセイア』を題材にした作品で、巨人ポリュフェモスに一度は捕まって洞窟に閉じ込められたオデュッセウスと仲間たちが脱走し、船で逃げていく場面が描かれています。船のマストの上辺りに巨人の姿があって、ちょっと巨大過ぎるだろ!?と驚いてしまいますw 右下にある太陽からは放射線状に光が放たれ、全体的に輝くような色彩となっているので、先程のロランからの影響が見て取れます。やや粗めに見えるタッチや光を捉える表現などは印象派の先駆け的な雰囲気も感じられました。


<7章 イギリスにおけるフランス近代美術受容>
最後はフランス絵画のコーナーです。新古典主義やバルビゾン派から印象派、ポスト印象派などの作品が並んでいました。

50 ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングル 「アンジェリカを救うルッジェーロ」 ★こちらで観られます
こちらは新古典主義の巨匠アングルによる作品。ルドヴィーコ・アリオストの「狂えるオルランド」の1シーンを絵画化したもので、ヒッポグリフに乗ったルッジェーロが鎖に繋がれたアンジェリカを助けにきています。って、この絵はルーヴル美術館の所蔵じゃないの?と思ったら、ヴァリアントのようで ルーヴル美術館の作品は横長ですがこちらはやや縦長になって両脇がトリミングされたような感じです。アンジェリカは滑らかな肌で官能的ではありますが、首から肩の辺りが不自然で解剖学的にはおかしなことになっています。これは女性美を最大限にするための表現で、アングルはこうした作品を数多く残しています。イギリスの美術館がこれだけ見事なアングルの作品を持っていることに驚きました。
 参考記事:《ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングル》  作者別紹介

55 ピエール=オーギュスト・ルノワール 「劇場にて(初めてのお出かけ)」 ★こちらで観られます
こちらは桟敷席から劇場を観る少女の横顔を描いた作品で、タイトルから察するに初めて劇場に来た上流階級の娘だと思われます。少女の横顔にはあどけなさと緊張感もあって初々しい感じです。昨年のコートールド美術館展にも「桟敷席」という劇場の観客たちを描いた作品がありましたが、この作品でも舞台よりも観客を題材にしているのが面白いところです。背景には他のお客さんも群像として描かれていて当時の劇場の賑わいを感じさせました。ちなみにこの作品は1876年~77年頃なので、第1回印象派展から2年後(第3回頃)で、代表作の「ムーラン・ド・ラ・ギャレット」を描いた頃となります。群像に凝ってたのかな??
 参考記事:《ピエール=オーギュスト・ルノワール》 作者別紹介

この辺にはピサロの印象派らしい頃の作品やドガの踊り子を描いた作品、ファンタン・ラトゥールの花の作品などもありました。モネも太鼓橋と睡蓮を描いた作品があったので、少数でも各画家の代表的な作風が観られる品揃えとなっています。

60 ポール・セザンヌ 「プロヴァンスの丘」 ★こちらで観られます
こちらはセザンヌの故郷のプロヴァンス地方の風景を描いた作品です。観るものを円筒・球・円錐として捉えるという理論を持っていたセザンヌですが、ここでも後のピカソのキュビスムに繋がるような幾何学的な要素が感じられる風景となっています。色彩も緑とオレンジがかった色が対比的で一層にリズムを感じます。この作品もセザンヌらしい題材・技法が観られて好みでした。
 参考記事:セザンヌゆかりの地めぐり 【南仏編 エクス】

58 フィンセント・ファン・ゴッホ 「ひまわり」 ★こちらで観られます
こちらはゴッホ作品で特に有名な「ひまわり」の1点で、連作7点の中でも最高傑作とされる作品です。明るい黄色を背景に花瓶に入ったひまわりが描かれ、花びらは厚塗りされて生命力がほとばしるような雰囲気です。まだ蕾だったり花を落としているのもあるのは人生の縮図のようでもあり ゴッホの出身地であるオランダのヴァニタスの伝統からの影響なのかもしれません。花瓶にはヴィンセントのサインがあり、ひまわりでサインが残されているのは7点の中で2点しかありません。これはアルルで共同生活したゴーギャンの部屋を飾るに相応しい作品であると考えた為で、ゴーギャンもこの絵を絶賛したようです。間近で観るとマチエールと相まって迫りくるものがあるので、これは実際に観られて本当に良かったです。それにしても黄色地に黄色って発想が天才すぎますよねw

近くにはゴーギャンが描いた花の絵もありました。

その後には「ひまわり」に関するパネルがあり、7点の写真が並んでいました。この展示の作品は4点目で、1~3点目は青や緑がかった背景となっています。(2点目は戦時中に芦屋で消失) 3点目と4点目がゴーギャンの部屋に相応しいとサインされたもので、ひまわりは常に太陽を向くので伝統的に忠誠の意味があったようでゴーギャンへの忠誠の意味もあったようです。SOMPO美術館のひまわりは5点目で、4点目の自己模作です。写真を見比べるとオリジナルより若干 背景が黄緑がかっているように見えるかな。7点目のひまわりもそっくりです。写真とは言え、こうして比較して観られるコーナーは参考になりました。

最後にロンドン・ナショナル・ギャラリーの歴史がありました。1824年に開館していて、1897年にはイギリス美術専門の別館ができています(別館は今では独立してテート・ギャラリーになっています。)


ということで、後半も有名画家の名作が目白押しでした。西洋絵画の歴史そのものといった品揃えで今年一番の豪華な展示だったのは間違いないと思います。コロナ禍で翻弄されましたが、それだけに一層に思い出深いものとなりました。


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ロンドン・ナショナル・ギャラリー展 (感想前編)【国立西洋美術館】

前回ご紹介した常設を観る前に国立西洋美術館の特別展「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」を観てきました。この展示は既に終了していますが、見どころが多く大阪にも巡回するので前編・後編に分けてご紹介していこうと思います。

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【展覧名】
 ロンドン・ナショナル・ギャラリー展

【公式サイト】
 https://artexhibition.jp/london2020/
 https://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2020london_gallery.html

【会場】国立西洋美術館
【最寄】上野駅

【会期】2020年6月18日(木)~10月18日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
10日くらい前に事前予約をしたのですが、残っていたのは平日の昼と夜間開催の夜のみと言った感じでした。大阪でも同様になると思いますので、もし足を運ぼうと考えている方は早めに予約することをオススメします。ちなみに時間区切りの予約制でも入場待ちが10分くらいあって、中に入っても結構混んでいました。場所によっては人だかりが出来ていて、割と三密なのではという危惧が…。

さて、この展示はイギリスのロンドンにあるロンドン・ナショナル・ギャラリーのコレクションが約60点観られるもので、同館が海外にこれだけ大規模に貸し出すのは200年の歴史で初めてのことだそうです。すべてが日本初公開で今後もこんな機会があるのか?って感じなので非常に楽しみにしていたのですが、コロナによって開催延期でどうなるかという時期もありました。ようやく開催されてからも世の中の感染状況があまり芳しい状況でなかったので行くのが会期末になってしまいました。しかし行った甲斐のある名画ばかりで61点全てが傑作という奇跡のような内容でした。7章構成となっていましたので、各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。(章の概要はメモしなかったので割愛します)


<1章 イタリア・ルネサンス絵画の収集>
まずはイタリア・ルネサンス期の作品のコーナーです。非常に有名な絵画が並び、早くも貴重な機会となっていました。

2 カルロ・クリヴェッリ 「聖エミディウスを伴う受胎告知」 ★こちらで観られます
こちらは建物の中にいるマリアに空から光線が差し込み、受胎告知するという場面を描いた作品です。光を発する天の雲がUFOっぽいのでUFOのTV番組とかでよく出てきますw 光は謎の小窓を通って手を交差するマリアに当たり、書見台で本を読んでいたり整然とした室内の描写となっています。これはマリアの純血や敬虔さを象徴するものを考えられるようで、マリアは恭しく静かな表情をしています。しかし普通は受胎告知というとガブリエルが告知する場面な訳ですが、この絵ではガブリエルは窓の外にいて 聖エミディウスというこの絵を依頼したアスコリ・ピチェーノの街の聖人を伴っているなど、ちょっと変わった構成となっています。聖エミディウスはこの街の模型を持っていて、これはローマ教皇から自治権を獲得したことを示しているようで、その奥のアーチ状の橋の上で手紙を読む人はその書状を読んでいると思われるのだとか。他にも孔雀がユノを表すなど様々なメタファーが込められているようで、様々な読み解きができそうです(左上の物陰に隠れた子供とかどんな意味があるのか知りたいw) それにしてもこの絵を観て最初に出た感想は思ってたよりデカい!でしたw 高さ207cm 幅146.7cmで見上げるような感じです。 細部まで緻密な上にこの大きさなのでかなり迫力がありました。やはり直接観ないとわからないことがありますね。

4 サンドロ・ボッティチェッリ 「聖ゼノビウス伝より初期の四場面」 ★こちらで観られます
こちらはフィレンツェ出身の聖ゼノビウスの物語を描いた4枚セットのうちの1枚で、この作品の中にも4つの場面が描かれています。左から順に4コマ漫画みたいな感じとなっていて、左から順に キリスト教に改宗するので結婚できないと許嫁に告げるシーン、洗礼を受けるシーン、母親が洗礼を受けるシーン、教皇に跪き司教を拝命するシーンとなっています。4つの時系列が違和感なく繋がっているのは日本の絵巻物と通じるものを感じるかな。500年前の作品とは思えないほど色鮮やかで優美な印象を受けます。出てくる人々も生き生きしていてボッティチェリらしさを感じました。

この近くにはミケランジェロの師匠のドメニコ・ギルランダイオの作品などもありました。

5 ティツィアーノ・ヴェチェッリオ 「ノリ・メ・タンゲレ」 ★こちらで観られます
こちらは聖書の復活したキリストとマグダラのマリアの話を絵画化したもので、白い衣と杖のようなものを持った復活後のキリストと、その足元で跪いて触れようとしているマグダラのマリアが描かれています。「ノリ・メ・タンゲレ」はラテン語で「我に触れるな」という意味で、マグダラのマリアがキリストの遺骸が無くなったので庭師らしき男に探すのを手伝って貰おうとしたところ、この言葉を言われてこの庭師が復活したキリストであると悟るというシーンです。繊細で気品ある描写と色合いとなっていて、見上げるマグダラのマリアの顔には驚きの様子が伺えます。全体的に色は明るめで特に2人は目を引くような明るさとなっていました。これはかなりの傑作だと思います。

8 ヤコポ・ティントレット(本名ヤコポ・ロブスティ) 「天の川の起源」 ★こちらで観られます
こちらはユピテル(ゼウス)がアルクメネとの間の子のヘラクレスに、本来の妻であるユノ(ヘラ)が寝ている隙にユノの乳を飲ませようとしている様子を描いた作品です。アルクメネは人間なのでヘラクレスは半人半神な訳ですが、ユノの乳を飲めば神になれます。しかしヘラクレスが強く吸ったのでユノが起きてしまい、空に吹き上げたミルクが天の川になったというストーリーです。ここでは乳房から星が舞い上がっていて、ちょうどユノが起きたところのようです。登場人物の動きが誇張気味なくらいダイナミックなポーズとなっていて、明るい色彩と共に見栄えがします。この作品も結構大きいのですが、元々はもっと大きな絵だったと考えられるようで下の方などちょっとカットされたような感じもするかな。とは言え、この状態としても絵として面白く、空飛ぶ人物たちが渦巻くような構図となっているので中心のヘラクレスが非常に目を引きました。

<2章 オランダ絵画の黄金時代>
続いては17世紀オランダ絵画のコーナーです。

9 レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン 「34歳の自画像」 ★こちらで観られます
こちらはレンブラントの自画像で、黒い服に黒い帽子をかぶり、やや斜めになった姿勢でこちらを観ている姿で描かれています。肘を手前の柱に置くポーズはティツィアーノやラファエロに倣ったもので、つまり自分はそうした巨匠と匹敵する存在であると自認していたようです。やや神経質そうな表情にも思えましたが、顔の細部から服の質感に至るまで恐ろしく精密で真に迫るものがあり、その自己評価も納得です。明暗の表現にレンブラントらしさを感じます。レンブラントの34歳は人生の絶頂期で、この少し後に人生が暗転してしまいます。まさにレンブラントの頂点と言った作品かもしれませんね。
 参考記事:《レンブラント・ファン・レイン》 作者別紹介

13 ヨハネス・フェルメール 「ヴァージナルの前に座る若い女性」 ★こちらで観られます
こちらは寡作の画家フェルメールの晩年近くの作品で、普段ならこれをメインに展覧会が組まれてると思いますw オルガンのようなヴァージナルという楽器に向かう女性が ふとこちらを見ているような場面で、周りには弦を挟み込んだヴィオラ・ダ・ガンバがあり、背景にはフェルメールの義母が所持していたと考えられているディルク・ファン・バビューレンの「取り持ち女」らしき絵が飾ってあります。この辺の物には意味が込められていそうですが、読み解くのは難しいですw 絵の中で特に目を引くのはやはり女性で、こちらを気遣っている表情でしょうか。鍵盤に手をおいているので演奏のタイミングを伺っているのかも?? また、着ている豪華な衣装も目を引き、反射してツヤが出ています。豊かな質感に見えるので感心しますが、近寄ってみると意外と大胆な筆致となっていて一層に驚かされます。観れば観るほど発見があるのは名画の特徴ですね。なお、ロンドン・ナショナル・ギャラリーにはフェルメールの「ヴァージナルの前に立つ女」という作品もあるので、対になっているのではないかという説もあります。


<3章 ヴァン・ダイクとイギリス肖像画>
続いてはフランドル出身でルーベンスの工房で学び、イギリスに渡ってイングランド国王チャールズ1世の宮廷画家として活躍したヴァン・ダイクに関するコーナーです。ヴァン・ダイクの描く肖像画は当時のイギリス貴族の間で絶対的な人気を誇り、イギリスの画家たちにも大きな影響を与え、イギリス肖像画の確立に貢献しました。

17 アンソニー・ヴァン・ダイク 「レディ・エリザベス・シンベビーとアンドーヴァー子爵夫人ドロシー」 ★こちらで観られます
こちらは貴族の姉妹を描いた作品で、右に新婦の妹、左に未婚の姉の姿があり、下の方には翼の生えた子供(プットー)が花束を妹に渡しています。やけに色白でちょっとぎこちないポーズで目線も合ってないので、正直なところ虚ろな印象を受けるかなw しかしこのポーズや衣装にも貞節や純血といった意味があるようで2人が目立つようにプットーは陰影が強くなっているなど様々な技巧が施されているようです。解説によると、実際の姿から理想化もしているようで絵とのギャップに驚かれたという人もいたのだとかw 肖像を盛るのは今も昔も変わらずですかねw

22 トマス・ゲインズバラ 「シドンズ夫人」 ★こちらで観られます
こちらはヴァン・ダイクの150年ほど後の作品で、大きな黒い帽子を被る横向きの貴婦人が描かれた肖像です。知的な雰囲気の美人で、顔は写真のように精緻ですが服などは割と大胆な筆致となっています。ポーズや色彩のバランスも良くて かなり好み。モデルが美人だから2割増しくらい良く見えますw この女性は舞台女優でもあり、得意だったのはシェイクスピアの『マクベス』のマクベス夫人で、この役は夫を殺害し、夢遊病となって 手を洗い、いくら洗っても血の汚れが取れないと言うシーンが有名です。あまりにハマり役で有名だったので、この女優が生地を買いに言った時に、「これは洗えるのかしら」と呟いたら店の主人が凍りついたというエピソードまであったのだとか。この絵ではそんな怖い感じはしないですが、文句なしの傑作です。


<4章 グランド・ツアー>
続いてはイギリス貴族の子弟たちが今で言う卒業旅行でイタリアを訪れて見聞を広める「グランド・ツアー」についてのコーナーです。このグランド・ツアーで訪れた地の絵をお土産として持ち帰るのが流行り、イタリアの風景画が多くイギリスにもたらされました。

27 カナレット(本名ジョヴァンニ・アントニオ・カナル)  「ヴェネツィア:大運河のレガッタ」 ★こちらで観られます
こちらはヴェネチアの年中行事であるレガッタレースの様子を描いた作品です。中央には傾いたレガッタの姿があり、これが競技者かな。周りにも無数の小舟が浮かび、両岸の建物も含めて数え切れないほどの人たちが見物しています。空も明るくヴェネチアの華やかさが凝縮されたような雰囲気で、祭りの熱気が伝わってきます。一点透視図法で緻密に描かれ実景そのものに見えますが、実際には奥に描かれたリアルト橋はこの場所からは見えないようで、ヴェネチアらしさを強調しているのかもしれません。これは確かにヴェネチアの思い出として持ち帰りたくなる気持ちも分かります。それにしても縦117.2cmx横186.7cmと結構大きいので運ぶのは大変だったのではw

カナレットはイギリスに渡って描いた作品もありました。

30 ジョヴァンニ・パオロ・パニーニ  「人物のいるローマの廃墟」 ★こちらで観られます
こちらは前回の常設の記事でもご紹介したパニーニの作品で、現実と空想が融合した風景画「カプリッチョ」となっています。この画家はローマの画家アカデミーの総裁にもなっているほどの人物で、グランド・ツアーの貴族たちにも人気だったようです。ピラミッドはローマに実在するガイウス・ケスティウスのピラミッドで、それ以外は空想の品々のようです。空想ではあるけどローマっぽさを集めたような絵で、神話の時代を思わせました。

クロード=ジョゼフ・ヴェルネ  「ローマのテヴェレ川での競技」 ★こちらで観られます
こちらはフランスの画家ですがローマに長く滞在し、後に海景画で名を馳せました。ここではローマの川の競技の様子が描かれ、先程のカナレットの作品に通じるものを感じます。たくさんの見物人たちの身なりも良く、上流階級の社交場のような雰囲気もあるかな。風景も理想化されたような美しさで、特に雲の表現が見事でした。
 参考記事:《クロード=ジョセフ・ヴェルネ》 作者別紹介


ということで、本来であれば展覧会の主役級ばかりが並ぶ凄い内容となっていました。今年は何としてもこの展示だけは見たいと思っていたので非常に満足です。後半にも驚く作品が沢山ありましたので、次回は残りの5~7章をご紹介予定です。

 → 後編はこちら



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もうひとつの江戸絵画 大津絵 【東京ステーションギャラリー】

今日は久々に展覧会の記事で、今週の水曜日にお休みを取って東京ステーションギャラリーで「もうひとつの江戸絵画 大津絵」を観てきました。

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【展覧名】
 もうひとつの江戸絵画 大津絵

【公式サイト】
 https://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/202008_otsue.html

【会場】東京ステーションギャラリー
【最寄】東京駅

【会期】2020年9月19日(土)~11月8日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間00分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
この展示はローソンチケットでの事前予約制で、14時~15時の入場回のチケットを当日に買うことができました。簡単に取れたし平日だからそんなに混んでいないだろうと思ったら、結構お客さんが多くて場所によっては人だかりができていました。予約制は入場開始時間直後が混むので、少し間を開けたつもりだったんだけど…w 

さて、この展示は江戸時代初期から東海道の大津周辺で量産された「大津絵」をテーマにしています。大津絵はお土産品の絵画で、最初は仏画だったものがより売れる絵となっていきました。当時は人気だったようですが護符などの実用品として扱われた為 現存作品は少なくなっています。江戸時代が終わると急速に失われていったものの、明治以降に多くの文化人を惹き付け 名だたる目利きたちが集めた品がこの展覧会に集まっています。大津絵がこれだけまとまって紹介される機会は滅多になく、私も非常に楽しみにしていました。展示は4章構成となっていましたので各章ごとの様子を書いていこうと思います。


<1.受容のはじまり ~秘蔵された大津絵~>
まずは大津絵がコレクションされるようになった頃のコーナーです。大津絵はいずれも作者不明の為、今回の展示ではかつて誰が所有していたか というコレクターごとの構成となっていて、この章では明治時代に蒐集を始めた洋画家の浅井忠や文人画の富岡鉄斎などの旧蔵品が並んでいました。

1-1 「瓢箪鯰」 ★こちらで観られます
こちらは富岡鉄斎から柳宗悦へと渡った品で、巨大な鯰の頭の上に瓢箪を押し付ける猿が描かれています。これは有名な禅問答を絵にしたもので、禅画ではよく観る主題です。しかしその表現が激ユルで、漫画というか戯画というかw キャラクターのような可愛さと可笑しさがあって親しみやすい画風です。また、左上には杯と共に教訓を含んだ「道歌」があり「無喜成功 是猿智慧 辛労只中 以湮押滑」と書かれているようです。見た目はゆるいけど教訓があるのは禅画に通じるものがあるかも??

この先、同じタイトル同じ構図の作品が何回も出てきます。先に3章にあった大津絵の特徴のまとめを書くと、
・江戸時代に大津宿近辺で売られた旅人相手のお土産物
・作者不詳
・旅の安全を祈る仏画からスタートし、次第に人気のある売れる絵になった。
・教訓を込めた歌「道歌」が添えられ江戸末期には護符となる
・画題をまとめると
  聖:仏画、吉祥、庶民の神々
  邪:鬼、雷
  美男/美女/英雄:藤娘、鷹匠、為朝、源頼光
  動物:猿、猫、馬、鯰、象、虎
 などがあり、江戸末期には「大津絵十種」と呼ばれる画題に集約される
・和紙に木版やステンシルで単純な模様を作り、あとは手書き
・泥絵具と呼ばれる比較的安い絵具が使われている
・時代が下ると縦長の枠2枚を繋げたものから1枚へと簡略化された
・江戸時代が終わると急速に廃れた
・国内だけでなくピカソやジョアン・ミロも所有した
とのことです。

1-2 「大黒天」
こちらも富岡鉄斎の旧蔵品です。頭巾をかぶり 打ち出の小槌を持って大きな袋を担ぎ、米俵の上に立つ大黒天が描かれていて顔は黒くなっています。しかしその表情は印刷がズレたかのように目が顔からはみ出しているのが何とも言えない味わいです。まわりには流れるような文字で道歌が書かれていて、確かにこれは護符っぽい印象も受けました。

1-4 「雷と太鼓」
こちらは黒雲の中の赤鬼のような雷公が 地上に向かって錨のようなものを投げて落とした太鼓を拾おうとしている様子を描いたものです。怖いはずの雷がここでは滑稽な様子となっていて、懸命に手繰り寄せるのがちょっと可愛いw この画題は人気だったようで、後の大津絵十種にも残ったようです。この後にも同様の作品があります。

1-11 「猫と鼠」 ★こちらで観られます
こちらは鼠が自分と同じくらいの杯で酒を飲んでいる様子を描いたもので、隣で猫がそれを楽しそうに勧めています。傍から観ると魂胆ミエミエって感じでしょうか。酔わされた鼠の運命や如何に。 こうした動物の擬人化の主題も大津絵の特徴じゃないかな。この先の展示では猫と鼠が逆転していて猫が酒を飲んでいる作品もありました。

1-15 「提灯釣鐘」 ★こちらで観られます
こちらは洋画家の浅井忠が晩年の京都時代に蒐集した品で、擬人化された猿が肩に天秤を吊り下げ、足元には釣り鐘が置かれています。口をへの字に曲げた顔つきがトボけた感じに見えてちょっとイラッとくるw これは釣り鐘と提灯という釣り合わないものを天秤にかける滑稽さを描いているんじゃないかな。簡潔な線ですらっと描かれた体つきとか、下手なようで結構上手い画家が描いたのではないかと思えました。

この辺には浅井忠がコレクションした品が並んでいました。懐月堂派の浮世絵のような「太夫」などはお土産品とは思えないほどの出来栄えです。浅井忠は晩年の図案作成に大津絵も取り入れたりしています。
 参考記事:《浅井忠》 作者別紹介

1-21 「鬼の行水」 ★こちらで観られます
こちらは小説家の渡辺霞亭の旧蔵品で、今回のポスターにもなっているオレンジ色の鬼です。大津絵の魅力を凝縮したような、緩さと滑稽さと軽妙洒脱な雰囲気となっていて、表情も憎めないw 慎重にお湯に入ろうとする瞬間の様子が見事に表されているように思えました。これは確かに名作です。

この辺は渡辺霞亭や同時期のコレクターの旧蔵品が並んでいました。「相撲」など躍動感溢れる作品もあります。


<2.大津絵ブーム到来 ~芸術家のコレクション~>
続いては大津絵がブームになった時代のコーナーです。大正期に入ると大津絵はコレクターズアイテムとして認知されたようで、多くのコレクターが台頭して競うように集めました。1912年(明治45年)には「吾八」で大津絵展が開かれ、吾八のオーナーの山内神斧はコレクターでもあり仲介者としての役割も果たしました。この時期のコレクターの中には浅井忠に師事した洋画家の梅原龍三郎などもいたようです。

2-1 「鬼の念仏」 ★こちらで観られます
こちらは山内神斧の旧蔵品で、鬼が僧の格好をして歩く姿が描かれています。大きな牙に真っ赤な肌、足の爪は獣のように尖っていて、荒々しい雰囲気です。タッチや簡略化の仕方にも勢いがあって存在感のある絵となっています。鬼と念仏は真逆な存在だと思うんだけど、それを1つにしてしまうのが面白い所ですね。この主題も頻出となっています。(同じ章の山村耕花の旧蔵品も良かった)

ちなみに山内神斧は日本画家でもあります。そのせいか旧蔵品は面白い作品ばかりです。

吉川観方 編集 「大津絵」
こちらは日本画家の吉川観方が自ら所有した26図の大津絵を編集して作った画集です。26枚ズラりと並び、ここまで出てきた主題や藤娘や鷹匠など定番となった主題もあって正に大津絵の縮図とも言えるような画集となっています。解説はないものの画風に割と統一感もあって、大津絵に相当に精通していた様子が伺えました。

2-14 「座頭」
これは山村耕花の旧蔵品で、やはり頻出の画題です。三味線を背負った盲目の坊主が歩いている所、犬がふんどしを噛んで引っ張っている様子が描かれています。パッと観ただけではちょっと意味不明w 解説によると、目の不自由な座頭は幕府によって保護され、特権的に金貸しを許されていたそうで庶民から敬遠される存在だったようです。それで犬にふんどしを引っ張られて困惑する様子が人気になったのだとか。ちょっと意地悪な感じはしますが、シュールな印象を受けましたw

この辺で下の階へと続きます。

2-22 「傘さす女」 ★こちらで観られます
こちらは梅原龍三郎の旧蔵品で、これも頻出画題の1つです。着物の女性が傘を持って立つ姿が描かれ、簡略化されていて中々の曲線美を感じます。顔はヘタウマにも思えるけど味わいがあって、これを観た岸田劉生は「これだけの味のあるものは一寸世界的に稀であらう」と言ったのだとか。巨匠たちにそこまで愛されるとは凄いことです。


<3.民画としての確立 ~柳宗悦が提唱した民藝と大津絵~>
続いては民藝運動の中心人物である柳宗悦に関する品々のコーナーです。柳宗悦が大津絵を集めたのは他のコレクターに比べると遅めでしたが、先述の浅井忠や富岡鉄斎の旧蔵品などの逸品に焦点を当てて集めていったようです。また、江戸時代の文献などを調べて成り立ちや画題を整理し『初期大津絵』にまとめ、「民画」として位置づけました。ここにはそうした時代のコレクターの品が並んでいました。

3-2 「阿弥陀三尊来迎図」
こちらは阿弥陀如来、観音菩薩、勢至菩薩の三尊が描かれた仏画で、阿弥陀如来の光背が画面に放射状に凄い勢いで広がっています。絵はちょっとヘタウマだけど割と真面目な雰囲気かな。他の大津絵よりもサイズが大きめで、柳宗悦は現存する大津絵の中でも最古のものの1つと考えていたようです。大津絵のルーツ的な作品なので一際貴重な逸品ではないかと思います。

この辺には仏画が並んでいました。聞いたことがない神仏もいたかな。

3-7 「達磨大師」
こちらは達磨大師の肖像を描いたもので、顔は細めの輪郭、体は大胆な墨の流れで描かれています。ギョロッとした目をしたやや漫画チックな顔つきですが、少ない線で特徴をよく捉えていて作者の描写力の高さが伺えます。現存する大津絵の中で達磨の主題はこれだけらしく、これも貴重な品となっています。

3-10 「鬼の三味線」
こちらは赤鬼が三味線を引いている様子を描いたもの。目は黄色くギョロッとしていて、大きな牙や角が生えています。しかし恐ろしいというよりは親しみを感じて、ギタリストみたいでかっこいいw なぜ鬼と三味線の組み合わせか分かりませんが中々ロックな絵でした。

この辺は「鬼の念仏」や「藤娘」など何度も出てきた主題の作品も並んでいます。作者によって味わいが変わるのも見どころかな。そういった意味では大津絵はスタンダード・ナンバーを即興でアレンジするジャズみたいなものかもw

3-11 「薙刀弁慶」
こちらは左手に刀を持ち、背中に様々な武器を背負った弁慶を描いた作品。左のほうを向いて右手で様子を伺うようなポーズをしています。その顔は青みがかっていて、何だかタコみたいな顔つき…w デフォルメ具合や絵としての収まりが良くて愛嬌もたっぷりでした。

3-22  「大黒外法の相撲」
こちらは山口財閥の当主 山口吉郎兵衛の旧蔵品で、大黒と外法(異教の者)と相撲をしている様子が描かれています。お互いに首に腕を巻きつけたり足を絡めたり、スープレックスでもしそうな体勢になっていて緊張感ある姿です。なのに顔はやけにニヤけているような…w そのせいでハシゴ酒しようと肩組んでいる酔っぱらいのようにも見えるw 何だか妙な味わいが癖になりそうな作品でした。

3-31 「頼光」
こちらは民藝運動を支えた医師の内田六郎から洋画家の小絲源太郎へと伝わった品で、酒呑童子を退治した源頼光が描かれています。源頼光は刀を持ち赤く厳しい表情をしているのですが、その兜に噛み付いている頭だけの酒呑童子の顔の方に目が行きます。源頼光の頭の3倍くらいはある大きな頭で、ギョロ目が中々のインパクトです。描写は粗めだけど迫力がありました。

3-44 「鬼の念仏(看板)」
こちらは北大路魯山人の旧蔵品で、先程もご紹介した主題です。ここでは板に描かれていて、木目も見えています。それが一層に素朴で力強い雰囲気となっていて面白い効果となっていました。元は大津絵を売っていた店の看板と考えられるのだとか。

他にも木に描かれた作品がありました。


<4.昭和戦後期の展開 ~知られざる大津絵コレクター~>
最後は昭和の戦後のコレクターについてのコーナーです。戦災で多くの名品が失われ、大津絵コレクターも亡くなってしまったためコレクションの大半は散逸し、一部は海外へと渡って欧米の博物館やピカソら芸術家にも渡って行きました。一方、柳宗悦が設立した日本民藝館は戦災を免れ、戦後最大のコレクター米浪庄弌からの寄贈などもあって国内最大のコレクションとなりました。また、洋画家の小絲源太郎は山内神斧や山村耕花と交流があり、戦後に彼らの旧蔵品や富岡鉄斎、梅原龍三郎(先述の「傘さす女」)などの名品を入手していたようです。しかし生前はそのコレクションはほとんど知られていなかったようで、この展覧会で初公開となる品も多いのだとか。ここにはそうした戦後のコレクターの作品が並んでいました。

4-16 「十三仏」
こちらは染色家の芹沢けい介のコレクションで、中央上部に大日如来、その下に3列×4段で12の諸仏菩薩明王が描かれています。と言ってもみんな顔は同じで、右下の不動明王だけ火炎の光背があって判別できます。仏達は同じ版木を使っているので同じ顔のようで、これは仏事の際に掛ける用途なのだとか。意図的なのか分かりませんが、同じ顔でも微妙に印刷がズレたような揺らぎがあるのが独特の味わいでした。

4-23 「天狗と象」
こちらは吉川観方から米浪庄弌に渡った品で、上部に天狗、下に象がいて 象の鼻が天狗の鼻に絡みついて引っ張り合いをしているようです。どちらも鼻の長いもの同士ってことだと思いますが、中々にナンセンスでシュールですw こういう肩肘張らない可笑しみが大津絵の魅力ですね。


ということで、愉快な絵ばかりで8ヶ月ぶりに美術館に足を運んだ甲斐がありました。貴重な機会でもあるので図録も買って大満足です。未だにコロナ禍の真っ只中なので外出をオススメする訳にはいきませんが、公式サイトには書留を使った図録の販売の案内もあるので、気になる方はチェックしてみてください。


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白髪一雄 【東京オペラシティアートギャラリー】

前回ご紹介した常設を観る前に東京オペラシティアートギャラリーの企画展「白髪一雄」を観てきました。この展示は一部で撮影可能となっていましたので、写真と共にご紹介していこうと思います。

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【展覧名】
 白髪一雄 

【公式サイト】
 http://www.operacity.jp/ag/exh229/

【会場】東京オペラシティアートギャラリー
【最寄】初台駅

【会期】2020年1月11日(土)~3月22日(日) ※2月29日(土)~ 3月16日(月)は臨時休館
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
空いていて快適に鑑賞することができました。しかしこの展示はコロナウィルス予防の影響で臨時休館していて、その後の予定も変わる可能性もあるみたいです。お出かけの際は公式サイトをチェックした上、感染予防の注意を最大限するようお願いいたします。

さて、この展示はロープに掴まって足で床においたキャンバス等に直接描く「フット・ペインティング」で名高い現代画家 白髪一雄の個展となっています。白髪一雄は具体美術協会に参加し立体作品なども残していますが、波打つような大迫力の大型作品が特に魅力ではないかと思います。今回の展示ではそうした作品に加えて制作資料などを含めて120点ほど並んでいました。展示は8つの章に分かれていましたので、各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。なお、今回は作品解説も章立てのキャプションもほぼ無いので、私の簡単な感想が中心となります。


<第1章 知られざる初期作品>
まずは初期のコーナーです。白髪一雄は幼少期より書画骨董、チャンバラ映画や芝居、浮世絵版画や中国の怪異小説(特に水滸伝)などに親しんでいたそうで、最初は日本画を学んでいたものの京都の美術専門学校を出てから油彩画に転向したそうです。少年時代には地元の尼崎のだんじり祭で山車と山車が衝突による流血の情景を目にしたことがあるらしく、それが白髪一雄の原風景となり後に血のイメージを意識した作品に繋がっていくようです。ここには初期の1949~52年頃の作品が並んでいました。

1 白髪一雄 「鳥監」
こちらは黒い鳥かごに入った4羽の鳥を描いた作品です。フラミンゴのような鳥の姿が確認できますが、かなり簡略化されていて筆致は早めです。まだ具象は残っているものの 既に大胆な表現となっていて、色も明るく塗り方も荒い感じでした。

この辺はまだ具象的な作品がありました。キュビスムを取り入れた感じのもあったりして 画風は安定せず、模索している様子が伺えました。

6 白髪一雄 「妖草II」
こちらは暗い背景に三角が無数に並ぶような抽象的な作品です。白い部分があって目に鮮やかだけど、不穏な色彩に思えるかな。初期の岡本太郎を思わせるような不協和音と不気味さを感じる作品でした。

この近くには既に抽象化が進んでいる作品が並んでいました。


<第2章 「具体」前夜:抽象からフット・ペインティングへ>
続いて2章はフットペインティングを始めた頃のコーナーです。白髪一雄は1952年に金山明・村上三郎・田中敦子らと先鋭的な表現をめざして「0会(ゼロ会)」を結成し、1953年~54年辺りから手を使って制作するようになり、更に素足で描く「フット・ペインティング」を創始していきました。当時はキャンバスではなく紙に描いていたようです。ここには1953~1954年頃の抽象画が並んでいました(フットペインティングっぽいのは次の章だったような…)

11 白髪一雄 「作品」
こちらは赤い渦巻のような抽象画です。中心に目のような物があり、暗い赤バラと言うか台風の目と言うかw 隣にも似た感じの作品があり、それは中心から無数に放射線状に線が飛び出すような感じでした。明暗があって微妙に花のようにも思えるけど、視覚的効果が面白い作品でした。


<第3章 「具体」への参加>
続いては具体美術協会に加入した頃のコーナーです。白髪一雄は1955年に「0会(ゼロ会)」の仲間とともに、吉原治良率いる「具体美術協会」に参加し、実験的な作品やパフォーマンスを発表していきました。1956年あたりは野外作品なども手掛けていたようです。ここにはそうした時代の作品が並んでいました。

19 白髪一雄 「ミスター ステラ」
こちらは巨大なキャンバスに足で描いたアクションペインティング作品で、赤と黒が渦巻いて流れを感じます。この頃には代名詞的なフットペインティングの作風が出来上がっていたように見えるかな。タイトルはフランク・ステラを意識したのではないか?と思えました。

17 白髪一雄 「作品(赤い材木)」 ★こちらで観られます
こちらは赤い四脚のような木製の作品です。側面がギザギザしていて色と共に荒々しい造形に思えます。何に使った作品か分かりませんでしたが、力強い印象を受けました。


<第4章 「水滸伝シリーズ」の誕生>
続いては『水滸伝』の登場人物の名前などがつけられた水滸伝シリーズのコーナーです。豪傑たちの名前と共に血を連想させる赤・黒に染まる大型作品が多く並んでいます。一部、3章の内容もこの章に展示されていました。

22 白髪一雄 「天異星赤髪鬼」
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とにかく赤黒く染まった画面がおどろおどろしい程のインパクトです。赤髪鬼というタイトルも納得ですが、むしろ血みどろの事件現場みたいな…w 少年時代のトラウマ炸裂と言った所でしょうか。

16 白髪一雄 「赤い液(再制作:大)」(複製)
こちらはガラスの水槽のようなものに謎の白い物体と赤い液体状に見えるものが入っている作品です。まるで実験室で臓器を入れたガラス瓶のようなイメージかなw やや不気味さを感じつつ、こんな立体作品もあったのかと驚きました。 わざわざ再制作するほど気に入ってたのかな?

26 白髪一雄 「長義」
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こちらは床に置かれて展示されていました。実際に描く時もこんな感じで置いていると思われます。やや小さめですが、飛び散るような勢いがあり大型作品と同じくらい力強く感じられました。

33 白髪一雄 「猪狩壱」
こちらはイノシシの毛皮をキャンバスの上に張り、その上から赤と黒の絵の具を塗りたくった作品です。やはり絵の具は飛び散っていて、首がもがれて血を出して倒れているような印象を受けます。中々スプラッターな感じでショッキングです。年表によると1961年に初めてイノシシの毛皮を使った作品を制作したそうで、白髪一雄は当時 猟友会に入っていたそうです。そしてその時に観た石仏・石塔・梵字などに強く惹かれ、密教への関心を深めていきました。(この後、密教関連の章があります。)

14 白髪一雄 「指で強く押してください」
これは前章の内容ですがこの章にありました。茶色いウレタンのザラついた表面に×や+に見える切り込みがあり、切り込みに沿って赤が塗られています。タイトルのように実際に押すことは出来ませんが、何かの傷のように見えたかな。この頃の作品は痛みのようなものを感じさせるように思いました。

28 白髪一雄 「地暴星喪門神」
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こちらは水滸伝の豪傑のあだ名を作品名にしたもの。天○星とか地○星というあだ名で108人いるうちの1人です(聖闘士星矢のスペクターではなく水滸伝が元ネタですw) 何だか馬が跳ねるような感じに見えるかな。具象的ではないけど躍動感があるのが面白い。

この辺は同様に水滸伝の豪傑の名前のシリーズが並んでいました。


<第5章 スキージ・ペインティングと制作の変容>
続いては素足にかわってスキージ(長いヘラ)を用いて描いていた頃のコーナーです。1965年からスキージを用いる制作が始まり、スキージをコンパスのように用いて扇形や半円をモチーフにした作品を制作していたようです。ここにはそうした素足では描けないような作品が並んでいました。

39 白髪一雄 「色絵」
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見事に半円形になった作品。勢いは変わりませんが、流れに方向性が出たように思えます。色彩についても確かに色絵の陶器を思わせるような感じかな。以前より明るくなったように思えました。

41 白髪一雄 「平治元年十二月二十六日」
こちらはかなり巨大な作品で、先程の「色絵」のキャンバスを2枚繋いでいます。うねりのような幅の広い流れがあり、やはりスキージならではの表現となっていました。とにかく間近で観ると迫力があります。


<第6章 「具体」の解散と密教への傾倒>
続いては密教への傾倒に関するコーナーです。猟友会の活動の際に観た梵字などから1960年代頃から密教への関心を深め、1971年には比叡山延暦寺で得度して天台宗の僧侶(法名は白髪素道)にまでなっています。一方この頃、具体美術協会の吉原治良が亡くなり具体美術協会は解散したようです。ここには密教の教えを取り入れたような大型作品が並んでいました。

45 白髪一雄 「貫流」
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白黒で流水や山水を思わせるかな。今までの赤っぽい色合いから一気にモノクロの水墨的な印象を受ける色彩に変わったように思えます。

50 白髪一雄 「密呪」
こちらは暗い背景に9の字肩に赤黒いものが描かれた作品です。周りには絵の具が飛び散っていて、ブラックホールのような印象を受けるかな。もしくは曼荼羅のようなものでしょうか。やはりスキージを使っているようで、これまでにない神秘性も加わっているように思えました。

この辺には密教の仏の名前のタイトルの作品が多く並んでいました。


<第7章 フット・ペインティングへの回帰と晩年の活動>
続いては再びフットペインティングに回帰した晩年のコーナーです。仏道修行の後、スキージで円相を多く描いていたようですが、動きに乏しい円の反復で制作は停滞したようで 1978年に久しぶりに足だけで描く作品を制作したようです。そして仏教的なタイトルは減っていき、代わりに中国史などにまつわるタイトルが増えたようです。1984~90年代なかばになると黒・白黒・白のみの作品が制作されたようですが、一方で1990年代には黄色・オレンジ・ピンクなど明るい色彩が以前よりも頻繁に使用されるようになったようです。ここにはそうした時期の作品が名編んでいました。

58 白髪一雄 「酔獅子」
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たしかに獅子が下向きで身構えているようにも見えるかもw 足だけで描いた作品はスキージに比べると有機的で無秩序な動きで、炸裂するような勢いを感じさせますね。

54 白髪一雄 「扶桑」
こちらは白地に白のペインティングをした作品です。厚塗り具合は他の作品と同じですが、白一色なのが何とも斬新。厚塗りで物理的に立体感があるので、影がついて流れが確認できます。これまでの色彩感覚とは全く異なる方向性で驚きました。

55 白髪一雄 「游墨 壱」
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こちらは黒一色。墨跡のようで日本っぽさを感じるかな。モノクロの作品も新しい境地のように思えました。

57 白髪一雄 「うすさま」
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こちらが晩年の作品。青やオレンジ、ピンクなどこれまで観なかった明るい色彩が特徴です。色というのは不思議なもので、これは何となく温かみを感じますw タイトルは恐らく烏枢沙摩明王のことでしょうね。


<第8章 水彩・素描にみる形成期の模索と制作の裏側>
こちらは資料のコーナーです。制作に使われた品などが並んでいました。

62 白髪一雄 「尼崎与茂川夜景」
こちらは夜の川の畔の家々を描いた水彩画です。家の明かりが川面に映って揺らめく様子が叙情的で、ここまで観てきた作品とはえらく作風が違っています。1948年頃の作品のようで、1章よりも前の頃はこういう絵を描いていたのかと驚きました。

65 白髪一雄 「無題」
こちらは1952年頃の椅子に座る裸婦を描いた素描です。やけにカクカクしていてキュビスム的な感じもしつつ、細長い身体がベルナール・ビュフェの作風に似ているように思えます。生きる痛みのようなものを感じさせる裸婦でした。

この先には1960~70年代に使っていたスキージ(スキー板みたいな)や天井から吊り下がるロープ、絵の具、絵の具を入れた缶などがありました。また、水彩による下絵のようなものもあり、画風は油彩に似ているものの墨一色や赤黒が多かったように思えます。

少し進むと『具体』誌に載せた文章の原稿などもあり、最後に映像で制作風景を流していました。上半身裸で缶に絵の具を入れて床に置いた画面に撒くように塗っています。そしてロープに掴まり、足で滑るように伸ばして描くスタイルとなっていました。サポートを務める奥さんの存在も大きいように思えます。


ということで、白髪一雄の作風の変遷を代表作と共に観ることができました。もうちょっと解説やキャプションが欲しかった所ですが、ダイナミックな作品ばかりで間近で観ると圧倒されました。休館期間もありますが、騒動が落ち着いたら現代アートの好きな方はチェックしてみてください。


おまけ:
この記事で コロナウィルス騒動による休館ラッシュ前に行った展示のメモが尽きましたw 次回はとりあえず現在の休館状況のまとめでも書こうかと思います。



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