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《地衣類》 テーマ別紹介

今日はテーマ別紹介で、地衣類を取り上げます。地衣類は藻類と共生する菌類で、菌類10万種のうちの2割ほどを占めています。「地衣体」と呼ばれる構造により極限状態のような場所でも生存することができるため世界中に多様な種がある上、地衣類に特有な化学物質も生成しています。中にはリトマス試験紙に使われるなど意外と身近なところで役に立つものもあります。今日はそんな知られざる地衣類について2018年の国立科学博物館 日本館の展示を振り返る形でご紹介しようと思います。
 参考記事:地衣類―藻類と共生した菌類たち― (国立科学博物館 日本館地下)

地衣類は○○コケという名前が多いのですが、実は苔ではありません。日本語ではコケを「小毛」または「木毛」とも書くので、それが由来になって紛らわしい感じです。 では地衣類は何かというと、藻類と菌類が共生して「地衣体」と呼ばれる構造になっているもので、要するに菌類の一種です。菌類は10万種ある中で地衣類は2万種程度を占め、日本では1800種程度の地衣類が存在するようです。藻類が光合成して作った糖を菌類が利用し、菌類は乾燥や紫外線から藻を守る共生となります。地衣化すると自給自足のように独立した栄養系を確立し、単独の菌類では作らないような化学物質を作ったりします。その為、単独では生きていけないような所でも生存できるようになり、極限状態のような場所にまで地衣類は存在しています。むしろ適合する藻が見つからないと枯死するみたいなので、単独では生きられない生態系のようです。

[針葉樹林帯の地衣類]
まずはモミの木やカラマツといった針葉樹林で観られる地衣類のコーナー。

こちらはナメラカブトゴケという地衣類。
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見た目は木の葉みたいであまり菌類といった印象を受けません。

こちらはナガサルオガセ
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先程とまったく異なる形態で、およそ同じ種類の生物とは思えません。何かモコモコしてるしw

こんな感じで、全く色も形も違う生態となっているようです。
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木の皮かと思うようなものもあるので、意外と目にしても気づいていないだけなのかも。

[高山の地衣類]
続いて高山の地衣類。高山では日本も世界と共通した地衣類が多く観られるそうで、地球が氷期だった頃に各地で分布を広げた種が暖かくなった後に高山に残ったと考えられるそうです。もしくは遠く離れた高山や極域圏の間で現在も地衣類が移動している可能性も示唆されているのだとか。

こちらはアオウロコゴケ
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確かに青い鱗のように見えます。きのこを作る担子菌の地衣類らしいので、苔よりきのこと似た生態なのかも。

こちらはアカウラヤイトゴケ
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これもよく見るとちょっと菌類っぽさが分かるような気がします。こういうのって葉っぱが腐ったのかと思ってましたが地衣類なんですね。

[熱帯~亜熱帯の地衣類]
続いては熱帯の地衣類。熱帯は湿度が高いので多様な地衣類が生育しているそうで、いまだに毎年多くの新種が見つかるなど研究も発展途上のようです。

こちらは葉っぱの上に多様な地衣類が混在しているもの。
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「生葉上地衣類」と呼ばれるようで、熱帯地域ではこうした混在は珍しくないのだとか。こういう葉っぱの染みみたいなのは地衣類だったんですね。

[街なかの地衣類]
続いては我々の生活にも溶け込んでいる地衣類。街路樹や石垣などにも地衣類は存在するそうです。
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こんな白っぽいのが多いんじゃ、普通に生活してて気づかないのは当然と言えそうw

これは瓦屋根に張り付いたヤマキクバゴケ
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瓦は安定しているので格好の生育場所なのだとか。地衣類は光合成さえできれば土なんか無くても生きていけるんですね。

こちらは逆にエナガという鳥が地衣類を巣に使っている様子。
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カモフラージュのためにこうした地衣類を巣に使うようです。自然の共存関係って奥深いですね。

[特殊環境の地衣類]
続いては極域や砂漠、重金属汚染地域など他の生物には生育が困難な場所で育つ地衣類。

こちらはテマリチイという地衣類
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オーストラリアやタスマニア、ニュージランドの乾燥地帯に分布するそうで、風に吹かれて転がっていくようです。観た感じかなり乾燥しているけど、水が少なくても生育できるのか気になります。

こちらはクジラの化石についた地衣類
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そういえばクジラには苔みたいなのがついてたりしますが、地衣類もくっついてるんですね。 地衣類は陸地だけではなかった… しかも南極w

こちらはイオウゴケ
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なんと硫黄の多い温泉地などでも生育する地衣類があるようです。たくましいにも程があるw
他にもきのこの上とか地衣類の上に生える地衣類とかもあり、恐るべし生命力を感じます。

[地衣類に含まれる化学物質]
続いては地衣類の中に含まれている化学物質についてのコーナー。
わかっているだけでも700種類以上におよぶ化学物質を作っているようで、そのうち650種類は地衣類に特有なもののようです。中には人間の役に立つものまであります。

こちらはリトマス試験紙に使われるリトマスゴケ
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日本にはリトマスゴケは無いようですが、代わりにウメノキゴケで同様のものが簡単に作れるようです。ウメノキゴケをアンモニアを薄めた水と僅かなオキシドールを入れて1ヶ月ほど浸しているとリトマス原液になるのだとか。意外過ぎる用途で驚き。

こちらはウメノキゴケとマツゲゴケで染めたウール
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地衣類は最も有用で最も知られていない染料と言われているそうで、多くの地衣類は良質な染料となるそうです。この見本でも分かるように、元の色からは想像もつかないような鮮やかな色を作れるようで、これも驚きでした。

こちらは紫外線によって光る地衣類と光らない地衣類を組み合わせて作った一種のアート。小さな覗き窓から中を覗いて光を照らします。
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光を照らす前は全部同じに見えますw

こちらが光を照らした後。
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青白く光るのがタイワンサンゴゴケ、白っぽいのがトキワムシゴケ、黄色いのがゴンゲンゴケという地衣類だそうです。見事にニコニコマークとひまわりが浮かんできました。これもまた不思議な生態ですね。


[地衣類と人の暮らし]
最後は地衣類と人の暮らしについてです。

こちらはカラタチゴケの一種を食用としたもの。
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え、食べられるの!?と思いましたが、きのこと同じ菌類だしモノによるのかなw 中国で炒め物に使う他、結婚式の時も食べたりするそうです。

こちらはマンナチイという地衣類
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出エジプト記のモーセの物語で、天からマンナが降ってきてそれを食べて飢えを凌いだとされるそうです。神話にまで出てくる地衣類! 何だか地衣類を知らなかったのが申し訳ないくらいですw

こちらは地衣類を使った香水
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染料や食用を観た後なので、これくらいではもう驚きませんが本当に様々な所で使われているようです。


ということで、太古の昔や極地から身近なところまで様々な地衣類があり驚くべき生態となっています。知れば知るほど面白い世界です。


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《放散虫》 テーマ別紹介

今日はテーマ別紹介で、放散虫を取り上げます。放散虫は海のプランクトンの一種で、単細胞の原生生物です。5億年前の地層からも化石が見つかっていて、5回の大量絶滅でも生き残り 1万種以上にもなる驚異的な生き物です。現在でも世界中の海に暮らしていて、アメーバ状の体にガラス質(シリカ、二酸化ケイ素からできている)の骨格を持ち、奇妙なほどに複雑な形となっています。今も謎が多い生き物ですが、地層の年代測定に使われるという意外な側面もあり、地質学で大きな役割を担っています。今日は2019年の写真展を振り返る形で、当時使わなかった写真を追加しながらご紹介してまいります。
 参考記事:「放散虫(ほうさんちゅう)」~ 小さな ふしぎな 生き物の 形 ~ (FUJIFILM SQUARE フジフイルム スクエア)

まずこちらは様々な形をした放散虫の写真。
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幾何学的な文様みたいな不思議な形をしているだけでなく、骨格は石英やガラス製品と同じ物質の二酸化ケイ素(SiO2)で出来ています。単細胞なのに複雑な形をしていて一層に謎が深まるw 最大でも数ミリ程度しかないようですが、肉眼で見えない世界にこんなのがいるんですね。5億年前のカンブリア紀からこうした骨格を持つようになったようで、どうやってこうした形を作り出すのかはまだ謎のままだそうです。

こちらは放散虫の一種の体の仕組みを図解したもの
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こうして観ると生物っぽいかな。 北極海から赤道まであらゆる海に漂っているそうで、海面から深海5000m(8000mでも確認あり)まで生息している意外とポピュラーな生物です。

一体何を食べているのか気になりますが、このようになっています。
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さらに小さな生き物を捕食しているようです。消化器官はなく体に取り入れて消化する細胞内消化を多なっています。群体になったり藻類と共生する種もいるようで予想以上に複雑な生態のようですね…。

1993年に「しんかい6500」がマリアナ海溝の水深6300m付近で採取した石の中からも放散虫が見つかっています。およそ1億4000年前の中生代白亜紀最初期の頃の化石で本当に驚くべき存在です

「アーケオセノスフェラのなかま」
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綺麗な球体で、中にもう1層骨格があると考えられているようです。骨格がこんなに規則正しく作られるのが不思議で仕方ないですね。

「ループス・プリミティヴス」
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9個の筒を重ねた塔みたいな形となっています。筍とかにも見える… 一番下にはヒダが無く、どういう理由でこうした形になるのか気になります。

ちなみにこれらの放散虫の大きさはアメーバ状の体を入れても3mmに満たず、骨格の大きさは0.1~1mmと非常に小さい生き物です。

「ヘキサスチルス?のなかま」
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ウルトラマンのブルトンかエヴァのラミエルか…w こんなエイリアンじみた生物がいるとは…  しかもこれがガラス質なのもヤバいw

「シューム・フェリフォルミス」
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網状の中に外側の骨格を支える柱のようなものがあるそうです。猫の後ろ姿のように見えると思ったら、フェリフォルミスは猫のことなのだとか。

「オービキュリフォルマのなかま」
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かつてはドーナツ状の真ん中に骨格があったはずと考えられるようです。これが生物の化石とは信じがたい形ですw

生態だけでも驚きの連続の放散虫ですが、放散虫を調べると時代ごとに特徴的な種類がいるので年代測定に使えるそうです。地殻変動が多く地層が変形する日本において、1970年代に発見された放散虫による年代測定方法は「放散虫革命」と呼ばれるほど大きな役割を果たしているのだとか。

「アリエヴィウム・ヘレネ」
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3つの大きな棘と小さな棘が無数にある形が花のようにも見えます。真ん中の球体は層になっていて結構複雑な構造です。

「アカントサークス・エキノサークス」
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こちらは泡状の孔が空いていないツルッとした表面に見えるかな。メリケンサックみたいなw

「デヴィアトゥス・ヒッポシデリクス」
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こちらは半円形の珍しい形。無機的な幾何学模様のが多い中で有機的な雰囲気があるかも。

「アーケオディクチオミトラのなかま」
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なにかの蕾のような形の放散虫。中にはドーナツ型のしきり板があるそうで、これも見た目以上に複雑な構造なのかも

「パンタネリウムのなかま」
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まるで金剛杵みたいな形でどうしてこんな形に進化するのか想像もつきません。

放散虫は種類が多すぎて名前がついていない種類もいるそうです。まだまだ新種発見があるかもしれませんね。

「シュードポウルプス(?)のなかま」
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穴の入り口が結び目のように見える謎の構造。ここから餌を食べるのだろうか?? 何本もの柱で骨格を支えています

「ウィリリーデルムのなかま」
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まるで蜂の巣みたいですが、六角形は安定性が高く自然界によくある形なのでこれはある意味納得。しかし六角形以外にも五角形や七角形などもあるようです。

「アーケオトリトラブス・グラシリス」
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もはや何かの建造物のように見える3方向に伸びた骨格の種類。編み込まれたような無数の穴もきれいに並んでいます。

「ナポラのなかま」
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古代中国の鼎に似ていることから明治時代にはこのような3本足の放散虫は「かなえ」と呼ばれたそうです。足が4本ならエッフェル塔とか東京タワーみたいにも見えたかもなあw

放散虫は英名はラジオラリアというそうで、ラジオはラテン語で光線、放射、車輪を支える棒などを示すそうです。確かに放出して散った形の虫ですね。

「クロコカプサのなかま」
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一見すると棘のあるホネガイみたいに見えますが、巻き貝と違って螺旋に巻いていないのが特徴となっています。

「ミリフスス・ディアネ」
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こちらは綺麗に均整の取れたフォルムの放散虫。貝殻とかを思い起こしました。

エルンスト・ヘッケル 「自然の芸術的形態」(複写)
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こちらは約100年前に亡くなったドイツの生物学者いよる放散虫のスケッチ。放散虫の形に魅了されたらしく、こうしたスケッチを沢山残しているそうです。



ということで、恐竜より前からいるのに現在でもたくさんいて非常に不可思議で驚異的な生き物となっています。その形も面白いので観ていて飽きません。
ちなみに現在開催中の神保町ヴンダーカンマー(2021年9月4日~9月26日)の展示の1つとして9月12日、23日にはワークショップで放散虫を実際の顕微鏡で見るイベントもやっているようです。まだコロナで外出は難しい状況ですが気になる方はチェックしてみてください。
 参考リンク:神保町ヴンダーカンマー
 





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《恐竜》 テーマ別紹介

今日はテーマ別紹介で、恐竜を取り上げます。恐竜というと「数億年前に哺乳類より先に地球の覇権を得たものの隕石の落下で滅びた巨大生物」といったイメージがあると思いますが、実際にはペルム紀末の大絶滅(PT境界)の後は恐竜の先祖よりも哺乳類の先祖が栄えていました。また、ワニの先祖も恐竜を捕食するなど、決して恐竜が先に王者となったわけではありません。最初は二足歩行の小型の動物に過ぎなかった恐竜が三畳紀の後期からジュラ紀にかけて大型化して、ジュラ紀、白亜紀を通し一般に絶滅と言われるK-T境界まで栄えました。しかしそれも正確ではなく、獣脚類の一部の子孫は鳥となり、現在でも哺乳類の倍の1万種程度が繁栄しています。今日も過去の展示で撮った写真とともにご紹介していこうと思います。

 参考記事:
  世界最大 恐竜王国2012~恐竜オールスター、幕張に大集結。~ (幕張メッセ)
  恐竜博2011 (国立科学博物館)
  地球最古の恐竜展 (森アーツセンターギャラリー)


まずは何とか紀の時系列についてです。時期と特徴はこんな感じになります。

 古生代
  カンブリア紀 (約5億4500万年前~約5億0500万年前) 三葉虫などの時代
  オルドビス紀 (約5億0900万年前~約4億4600万年前) オウムガイや三葉虫の時代
  大量絶滅 6000光年以内の超新星爆発のガンマ線バーストによって全生物の85%程度が絶滅
  シルル紀 (約4億3500万年前~約4億1000万年前) 陸上植物の生まれた時代
  デボン紀 (約4億1600万年前~約3億6700万年前) 両生類、昆虫、シダ植物などが生まれた時代
  大量絶滅 気候変動によって海洋生物の大量絶滅。全生物の85%程度が絶滅
  石炭紀 (約3億6700万年前~約2億8900万年前) 爬虫類、哺乳類型爬虫類(単弓類)などが生まれた時代
  ペルム紀 (約2億9000万年前~約2億5100万年前) 豊かな生態系の時代
  P-T境界 火山活動(スーパープルーム?)による気候の大変動で90~95%程度の生物が絶滅

 中生代
  三畳紀 (約2億5100万年前~約1億9500万年前)恐竜の先祖、ワニの先祖、哺乳類の先祖が覇権を争っていた時代
  大量絶滅 火山活動?によって全生物の76%程度が絶滅
  ジュラ紀 (約1億9500万年前~約1億3500万年前) 大型恐竜の時代。被子植物や始祖鳥なども生まれた。
  白亜紀 (約1億4550万年前~約6550万年前) ティラノサウルスやトリケラトプス、プテラノドンなどの時代
  K-T境界 隕石?によって恐竜やアンモナイトが絶滅 全生物の70%程度が絶滅

 新生代
  第三紀 (約6500万年前~約250万年前) 哺乳類・鳥類が栄えてきた時代
  第四紀 (約258万8000年前~現在) 人類の時代


上記のように、地球は5回ほど大量絶滅に見舞われてきましたが、その次に来る時代は逆にチャンスの時代で、がら空きとなったニッチ(生態的地位)を埋めるように新しい種が台頭してきます。今回のテーマである恐竜は史上最大規模の絶滅(P-T境界)を生き残ったものから生まれたわけですが、この頃は地球上のすべての大陸が1つの「パンゲア大陸」で火山活動が活発で、スーパーブルーム(巨大噴火)がペルム紀末のP-T境界を引き起こしたとされています。恐竜は三畳紀から広大なパンゲア大陸で進化していくわけですが、三畳紀の初期は恐竜の先祖、ワニの先祖、哺乳類の先祖が新たな王者となるべく覇権を争っていたようで、意外にも最初は哺乳類の先祖が栄えていました。また、ワニの先祖も恐竜を捕食するなど、決して恐竜の時代ではなかったようです。 


<三畳紀> 約2億5100万年前~約1億9500万年前)
この時代は哺乳類とワニの先祖も重要なライバルなので合わせてご紹介。

まずこちらは「イスチグアラスティア」という「ディキノドン類」の生物。
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恐竜ではなく爬虫類と哺乳類の特徴を併せ持っていた生物で「キノドン類」はP-T境界を生き延びてこの時代に栄え、哺乳類の先祖になっていきます。

こちらは「フレングエリサウルス」という恐竜類の生物。
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恐竜の先祖で、現在見つかっている中で最古の恐竜です。恐竜は三畳紀に生まれました。

こちらは「シロスクス」という「クルロタルシ類」の生物で、ワニの先祖のグループです。
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恐竜そっくりで、骨格から速く走れたと考えられるそうです。

こちらは「サウロスクス」というクルロタルシ類の生物(ワニの先祖)。
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三畳紀後期に捕食者として頂点に君臨していたそうです。これも速く走れたと考えられているそうです。

先ほどの「フレングエリサウルス」もそうでしたが、最初は恐竜といってもそんなに大きくなかったのですが、三畳紀の後期にかけて次第に巨大化していきます。巨大化の理由は諸説あるようですが、その1つに「大きいほうが食べられないから」という理由が挙げられます。(以前に観たディスカバリーチャンネルの恐竜番組でも体が大きいほど安全だったと言ってたのを思い出しました) 

これは「エクサエレトドン」という哺乳類になりきれていないキノドン類です。
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子供に乳や餌をやるなど哺乳類と共通する特徴があったようです。

哺乳類はこの三畳紀の末に現れたそうです。ちなみに哺乳類は、乳をやること、毛があって自分で発熱できること、よく聴こえる耳の3つの特徴があります。

と、ここまで哺乳類・ワニ・恐竜の先祖たちの三つ巴の戦いでしたが三畳紀後期に大きくなった恐竜が繁栄していきます。

左からエオラプトル、プラテオサウルス、エオドロマエウス。
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エオドロマエウスは2011年命名されたばかりの新種のようです。化石が確認されている最古の恐竜なのだとか。


<ジュラ紀> 約1億9960万年前~約1億4550万年前~
三畳紀に続くジュラ紀は、恐竜の多様化と大型化が進んだ時期です。ジュラ紀になるとパンゲアは北のローラシアと南のゴンドワナに分裂し、大陸間に海が入り込み砂漠だった内陸が温暖湿潤になるなど気候も変わっていきました。やがてローラシアはさらに東西に分裂し、その間にはサンゴ礁の発達によって多島海が広がり、羽毛で空を飛ぶ獣脚類(鳥類)の進化の舞台となりました。また、西ローラシアでは広大な低地が広がり大型化した恐竜たちの生息地となっていきました。

ジュラ紀には有名な始祖鳥(アーケオプテリクス)もいました。
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注目は足の親指で、現代の鳥とは違い後ろ向きの親指が無いそうです。現在の研究では始祖鳥より前に最古の鳥が出現していたことが確実となっています。

これは2009年に始祖鳥より古い空飛ぶ恐竜として発表されたアンキオルニス
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手足に羽が付いていて、恐竜から鳥類に進化したという仮説の問題点の1つを解消してくれる発見だったようです。

こちらはアロサウルス。
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最近の研究ではアロサウルスに羽毛があった可能性が高いと考えられています。2010年に発見された近縁の獣脚類コンカヴェナトルに羽毛が確認されたためにアロサウルスもそうではないかと考えられるようです。

一昔前は恐竜の再現といえば鱗のような肌をしていましたが、最近では羽毛が生えている再現を見るようになりました。中国で発掘された恐竜によって恐竜には羽毛があったのではないかという説が有力になってきているようです。羽毛は恐竜が1億年以上に渡って繁栄した大きな要因としても考えられているようで、恐竜と同じ先祖を持つ翼竜からも羽毛が見つかっていることから、恐竜と翼竜が枝分かれする前の原始爬虫類から備わっていた可能性もあるようです。恐竜の羽毛には体温調節、求愛行動、繁殖機能という3つの利点が考えられています。

こちらはヘスペロサウルス。
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てっきりステゴサウルスかと思ってしまいますが背中の板状の骨の形が違うそうで、ここで体温調節を行っていたと考えられているようです。

先述の体が大きくなったのは食べられない為という説の他に、気候がとても乾燥し植物の質が悪くなったため、草食恐竜が巨大化したという説もあります。つまり、干ばつになると植物が育ちませんが、体が大きくなると体内に長い時間エネルギーを蓄えられるようになるため、どんどん大きくなったという考えです。(現代の象の体が大きいのと同じような理屈のようです) そして、草食恐竜が大きくなると、それを狩る肉食恐竜も大きくならざるをえなかったらしく、こちらも巨大化していったと考えられます。


<ジュラ紀から白亜紀>
この時代はかつて恐竜研究の空白期となっていたそうですが、最近 中国などで見つかった新種の化石によって空白が埋まりつつあるようです。前期白亜紀になると大陸の分裂はかなり進行したそうで、恐竜は各地で進化していきました。

左から順にラプトレックスとプシッタコサウルス
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ラプトレックスはティラノサウルスに似た小型恐竜で、もしかしたら大型種の子供かもしれないそうです。ラプトレックスは毛が生えたいた可能性があります。
プシッタコサウルスは角竜類だそうで、後のトリケラトプスの先祖なのかな。

<白亜紀末期> 約7060万年前~約6550万年前
後期白亜紀になると北半球は現在の大陸の配置にかなり近づきました。そして白亜紀最末期には恐竜のなかでも最も有名なティラノサウルスやトリケラトプスが現れました。

こちらはトリケラトプス。
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最近の研究で、前足の甲を前向きではなく外向きであることがわかったそうです。

こちらはティラノサウルス。
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なんだかやけにお腹が大きな感じがしますが、これも近年の研究成果に基づく展示で立ち上がる時に前足を着いて前傾姿勢となる姿のようです。


<絶滅> 約6550万年前
恐竜は約6550万年前に絶滅したのですが、2010年の研究でその原因は隕石落下によるものだった可能性が高いと確かめられたそうです。私がよく観ているディスカバリー・チャンネルの番組では隕石はとどめの一撃であってその他の原因が複合的だと言ってましたが、結局のところ隕石が原因なのかな??

しかし恐竜は完全に滅びたわけではなく、ジュラ紀に飛行能力を獲得した獣脚類の子孫は鳥類へと進化し、現在でも鳥は哺乳類の倍の1万種程度が繁栄しています。



ということで、恐竜の研究が進むごとに姿や生態のイメージが変わって行っています。今回取り上げた元記事も2010年代なので更にアップデートされているかもしれません。恐竜展は定期的に行くとその変化ぶりも味わえるので今後もチェックしていきたいところです。


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《インドネシアの現代美術》 テーマ別紹介

今日はテーマ別紹介で、インドネシアの現代美術を取り上げます。インドネシアはクーデーターによる強権政治の時代を経験し、その反発をエネルギー源とした作品が多く存在します。また、伝統文化や宗教といった歴史的な土壌を活かした作品や、近代化を取り上げた作品などが主なテーマと言えそうです。インドネシアのアートは意外と目にする機会が多く、表現方法も豊富となっています。今日も過去の展示で撮った写真とともにご紹介していこうと思います。

まずは近代のインドネシアを代表するアーティストの作品からご紹介

FXハルソノ 「もしこのクラッカーが本物の銃だったらどうする?」
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こちらの銃はクラッカーでできています。インドネシアはクーデーター以降に強権的な政治の時代があり、それを批判するのも許されなかったようですが、この作家らが立ち上がって新しい美術運動を起こしました。

クラッカーのアップ
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色もピンクで玩具っぽい感じですが、背景に辛い時代があったのは推察できますね。

FXハルソノ「声なき声」
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こちらは指文字で「民主主義」を表している写真。右端には指が縛られた写真があり、民主主義を唱えることが困難だったことを示しているようです。その前に置かれているのはスタンプで、左から順に押していくと「DEMOKRASI」(インドネシア語で民主主義)となります。これは体験して持ち帰ることもできました。

FXハルソノは他にも「遺骨の墓地のモニュメント」というお墓をモチーフにした作品も観たことがあります。1968年~1998年のスハルト政権の負の側面がテーマになっている作品が多いのかも。
続いては他の作家による政治と歴史をテーマにした作品。

ジョンペット・クスウィダナント 「言葉と動きの可能性」
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こちらは30年間に渡ってインドネシアを独裁していたスハルト大統領の辞任スピーチを流しながら展示されていた作品。オートバイの上の旗はイスラームや学生のグループのもので、様々な思想が示されているそうです。独裁の終わりと民主主義の始まりを祝うという意味合いが込められているとのことでした。

アディティア・ノヴァリ 「NGACOプロジェクト--国家への提案」
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こちらはスーパーマリオのコインの音みたいなSEを使うインスタレーション。沢山の「NGACO」というブランドの建材が並び、モニタでCMのような動画を流しています。

よく見るとデタラメな品々ばかりで、目盛りの無い巻き尺など実際には役立たないものばかりです。「NGACO」はインドネシア語でデタラメさを意味する口語です。
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CM動画ではそれを叩き売りのようにどんどん値下げをしていました(コインの音はその値下げの時の音)最終的には90%オフだったかなw 国家への提言というタイトルに反して いい加減さを表していて皮肉しているのかなw

メラ・ヤルスマ「ワニの穴」
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こちらは作品に触れることができて、ワニの口の中に頭を突っ込むことができますw これは1965年ワニの穴を意味する場所で起きた「9月30日事件」を表しているそうです。調べたところ9月30日事件は先述の政権に繋がる軍事クーデターで、現在でもこの事件を取り扱うのは現地ではタブーとなっているのだとか。当時、鑑賞者はみんな面白がって頭を突っ込んでいましたが、そんな意味があったとは…。

ここまでクーデーター後の政権の暗い歴史をテーマにしたものでしたが、それより古い歴史や文化をテーマにした作品もあります。それを観る前に知っておきたいのがインドネシアの伝統工芸の品々。

「クリス」
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これは17~18世紀のインドネシアの霊剣で、神秘的な力があると信じられているそうです。現代でもインドネシアの結婚式の正装としてこうした剣を携帯するそうです。

インドネシアは7世紀頃は仏教国でしたが13世紀以降にイスラム教が広まり、現在ではイスラム教が86.7%、キリスト教が10.7%となっています。

「ワヤン・クリ ブトロ・グル」
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こちらは20世紀後半にインドネシアの中部ジャワで作られた影絵人形芝居用の伝統的な工芸品で、操作棒の部分には牛のツノが使われます。影絵なのにかなり細かい装飾でエキゾチックな雰囲気が面白い。
 参考記事:東京国立博物館の案内 【2010年11月】

このワヤン・クリはインドネシアの現代アートにも影響を与えています。

ヘリ・ドノ 「ガムラン・オブ・飲むニケーション」
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こちらは部屋全体が機械仕掛けの作品で、人形たちが楽器を鳴らすような感じです。

一部分をアップにするとこんな感じ。この人形たちは先程のワヤン・クリです。
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このワヤン・クリはガムランと呼ばれるインドネシアの民族音楽を奏でています。考えてみれば人形劇とロボットは似たようなものなので、違和感がないかな。伝統とテクノロジーの融合は昔からあったのかも??と思わせました。

ヘリ・ドノ「政治指導者へのショックセラピー」
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こちらもワヤン・クリから着想を得た作品で、指導者が最高位を巡って争う様子が表されているようです。私は観られませんでしたが30分に1回くらい電動で動くようです。皮肉が効いてて面白いw

政治や歴史だけでなく、宗教をテーマにした作品もあります。

アグス・スワゲ「社会の鏡」
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これはトランペットから「アザーン」というイスラームの礼拝時間を告げる呼びかけが流れてくる作品。目の前で立っている人が耳を澄ましているのが象徴的な感じです。他者に耳を傾けることの重要性を示唆しているようです。

メラ・ヤルスマ「プリブミ・プリブミ」
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これは先程のワニの作者で、路上で蛙の揚げ物を作って振る舞うという活動を撮影した作品。蛙は中国では食用である一方でイスラームでは不浄とされるようです。様々な民族が行き交う国ならではの文化的禁忌に疑問を呈するようです。意外と宗教にも客観的な目を向けてますね。

途上国やアジアのアートに多い近代化/現地の風習をテーマした作品もあります。

ジャカルタ・ウェイステッド・アーティスト(JWA) 「グラフィック・エクスチェンジ」
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こちらは新しい看板と無料で交換することを提案して古い看板を集めたもの。映像ではその過程やインタビューなども流れています。消え行く風景をコレクションするような感じで、非常に興味深いです。日本でもノスタルジックな看板が消えていくのは寂しいものですが、その感覚は万国共通なのかも。

ファジャール・アバディ・RDP 「ありがとうの拍手」
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これは一種のドッキリ企画で、バスのない街の乗り合いタクシーに乗ってくる人に仕掛ける内容です。この乗り合いタクシーはサービスの悪さで有名なようですが、乗って10秒すると同乗者の仕掛け人達から厚い歓迎を受け、チョコレートまで貰えます。また、乗車料金も無料にしてもらえるというサプライズで、それをお互い楽しむというものでした。急に歓迎されて驚く様子はドッキリそのものw しかし晴れやかな顔をしているのが好印象でした。

続いては近代化に伴う人権などをテーマにした作品

ロラニタ・テオ 「妻たちのリスク」
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こちらは映像作品で、ロウケツ染めをするインドネシアの女性たちが映されています。

歌いながら作業をしているので楽しげに見えますが歌詞は中々に社会的で、働く女性の地位向上について歌っています。
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また、男性の役割の変化なども歌っていて、経済発展による社会構造の変化も伺える内容となっています。

ムラティ・スルヨダルモ「アムネシア」
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これは壁に何やらチョークで書かれている作品。手前にはミシンと黒い服のようなものがあります。

壁に書いてあるもののアップ。
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実はこれは黒い服を縫った枚数をカウントしているそうで、同じ動作を繰り返すのがこの作者が得意とする表現のようです。カウントしながらごめんなさいと言い続けるそうで、記憶と感情の欠如を集めるという意味があるそうです。ちょっとよく理解できませんが、これだけの枚数を縫うとか途方もないので驚きました。

アングン・プリアンボド「必需品の店」
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タイトルを観ると、どこが必需品やねん!とツッコミ待ちにしか思えませんw 明らかに要らなそうなものが沢山並んでいて、本当に必需品と言えそうなものってこの中にあるのか?と探してしまいましたw 解説によると今日のグローバル消費社会で本当に必要なものは何かを問いかけているということなので、私の反応は作者の意図通りだったのかもしれませんw

最後に現地で人気の文化をテーマにした作品をご紹介。

トロマラマ 「戦いの狼」
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88x31.png この写真は「クリエイティブ・コモンズ表示・非営利・改変禁止2.1日本」ライセンスでライセンスされています。
これはインドネシアでカリスマ的人気の「セリンガイ」というヘヴィメタルバンドのために作った映像作品と、それを作るのに使った版木です。コマ送りのアニメーションとなっていて、素朴で力強いのにスタイリッシュな雰囲気も感じました。 (ちなみに私はメタル好きなのですが、このバンドは全く知りませんでしたw)

トロマラマのこの作品は何度か目にしたことがあるので有名作なのかも?

こちらも映像の一部。
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木版画を1つ1つアニメーションにするという恐ろしく手間のかかる作品で、400枚以上の木版画を使っています。音楽もプリミティブな雰囲気の映像とよくマッチしていました。これと同様にボタンとビーズで作ったトロマラマのミュージックビデオを観たことがあります。どちらも発想が面白い。

他にも以前ご紹介したアルベルト・ヨナタンもインドネシアのアーティストです。
 参考記事:《アルベルト・ヨナタン》 作者別紹介

ということで、多彩なアーティストが活躍しているようです。アジアのアート展などではインドネシアは必ずと言って良いほど紹介されるので、そうした機会で観る機会があると思います。アートをきっかけにインドネシアについて調べてみるのも良いかも。



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《Google Design Studio》 テーマ別紹介

今日はテーマ別紹介で、Googleのデザインを担うGoogle Design Studioを取り上げます。IT企業の最前線であるGoogleだけに、さぞかし合理的なデザインを目指しているのか?と思ってしまいますが、実際には感性とテクノロジーのよりよいバランスを目指し、色・音・手触り・匂いなどの力で無機質なデジタル化を解決しようとしています。美的経験と脳の働きの関係を調べる神経美学のアプローチを応用し、『どうデザインするか』を重要視して哲学をもってデザインするようです。また、サスティナビリティ(持続可能性)と見た目の美しさの両立も図るなど、最先端のIT企業である故に環境や美意識といった領域にまで踏み込んでいます。今日はそんなGoogle Design Studioについて2019年の21_21 DESIGN SIGHTでの展示を振り返る形で、当時の記事で使わなかった写真を追加しながらご紹介してまいります。なお、作品名や解説などは特にありませんので私の簡単な感想のみとなります。

 参考記事:Google Design Studio | comma (21_21 DESIGN SIGHT)
 参考リンク:https://design.google/


2019年時点の情報ですが、Google Design Studioはアイビー・ロス氏という女性が率いていて、上記の展示は彼女の40年来の友人であるトレンド・クリエイターのリドヴィッチ・エデルコート氏(この方も女性)がキュレーションを手掛けていました。
まずアイビー・ロス氏についてですが、ニューヨーク州ヨンカーズに生まれ育ち、子供の頃はドラムに夢中だったようで、やがてインダストリアルデザイナーの父の影響でクリエイティブな世界に入っていきます。高校と大学ではアートと心理学を専攻し、ニューヨーク州立ファッション工科大学でジュエリーデザインを学び、23歳で自身のジュエリーブランド「スモールワンダーズ」を設立しました。タイタニウムやニオブといったメタル素材を使った作品は名だたる美術館のコレクションになるほどの評価を受けたようです。 さらに30代にはコーチ、カルバンクライン、マテル、ディズニー、ギャップといった会社でデザイナーとして働き、ファッション、時計、おもちゃなど様々なプロダクトをデザインしていったそうで、2014年からテクノロジーの世界に踏み込みました。2019年時点ではGoogleのハードウェア部門にてデザインを担当するバイスプレジデントとなり、グーグル ピクセルやグーグル ホームを含む30以上の製品デザインに携わって、70以上のデザイン賞をグローバルで受賞しています。
 引用元:https://www.axismag.jp/posts/2020/05/206635.html

一方のリドヴィッチ・エデルコート氏は詳細な経歴は分かりませんがトレンド予測のパイオニアで、上記の展示で厳選した日本の美意識を感じさせる日用品とともに、暮らしに溶け込むテクノロジーのあるべき姿を提案していて、展覧会のタイトルを「comma(カンマ)」としました。これは「忙しい日常に一呼吸を置いてみて」というメッセージが込められていて、Google が表現する新しいテーマとなっています。

と、前置きが長くなったので、ここからは写真を観ながら補足していきます。

こちらは和風の鉄瓶とお皿
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一部分が伸びてカンマのような形になっています。テーマに合わせて洒落っ気を感じると共にいずれも簡潔な美しさを感じるデザイン。

エデルコート氏はこの時の展示の意図について、下記のように語っています。
「今回の展示のコンセプトは、デジタルデバイスが人間にストレスを与えている側面について考えながら決めていきました。私などは毎週メールで質問が寄せられて、もっと早く返事をくれないかと言われ続けてストレスを感じています。でも、デジタルデバイスは必ずしもそういうことではないはずです。パートナーであり友達であり、日常を加速させるものではなくスローダウンさせることもできるものではないかと考えています。ゆっくり料理をつくったり、思慮深い時間を過ごしたり、ヨガで瞑想したり……そうやって日常生活に一呼吸を置くことを、この空間で表現してみました」
 引用元:https://casabrutus.com/design/120756/2

こちらは漆器のセット
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何気なくスマートフォンが置かれています。すっかりスマートフォンも日常に溶け込んだ感があるかな。黒と白のコントラストは伝統的な色彩だし、しっくりきます。

どこか懐かしさや心地よさを感じるのは先述のコンセプトに基づいているからでしょうね。

こちらもスマフォと民芸の品のような組み合わせ。
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匙がカンマのような形をしていました。 こうして置かれてるとスマフォが硯のように見えるw

アイビー・ロス氏も「私にとって『何をデザインするか』はそこまで重要ではありません。大事なのは『どうデザインするか』であり、自分の哲学をあらゆるものに応用することが好きなのです」と語っています。哲学に基づいているから安っぽさがなく伝統工芸に引けを取らないんでしょうね。

こちらは朱色をテーマにした一連の作品の1つ
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テキスタイルに描かれているのはスマフォかな? これも伝統工芸のような佇まい。

もちろん、展示のためだけでなく実際のデザインに活かされています。

こちらは当時発表されたGoogle Pixel 4の限定色
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先程の写真にも写っているのですが、めっちゃ馴染んでます。

アイビー・ロス氏は気分と関係すると考えるのは、色だけでなく、音、手触り、匂いなどの要素が人間の感情や精神に大きく作用すると考えているようです。そしてアイビー・ロス氏はこの美的経験と脳の働きの関係を調べる神経美学のアプローチを、テクノロジーに応用することをGoogleでやろうとしています。心理学を学んでいたのも活かされてそう。

こちらは淡い青を基調としたコーナー
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置かれた静物も淡い色彩で落ち着いた気分になります。今回のコンセプトがよく分かる品々じゃないかな。

このタペストリーは、古布をはぎ合わせて、抽象的なイメージを具現化しているようです。古布というのも1つのポイントとなります。

下に置かれていた静物のアップ
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お盆の上に乗っているのは恐らくGoogle Nest Mini(スマートスピーカー)

Google Nest Miniのファブリックは100%ペットボトルからリサイクルされた素材(使用済み再生プラスチック)を使っています。Google Design Studioのデザイナーたちは、サスティナビリティ(持続可能性)を重要視していて、サスティナビリティと見た目の美しさは両立できると考えているようです。

こちらは淡いピンクで統一した品々。
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この色彩感覚が温かみがあってどこか古風なものを感じます。洒落ていて華美ではないというか。

Googleは10数年前からオフィスやデータセンターでのカーボンニュートラルを実践しているそうで、2022年までにすべてのハードウェアに使用済み再生プラスチックを使うことを宣言しています。落ち着くだけでなく、そうした方向性も含んだデザインになってるんですね。

こちらはアトリエコーナー。
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当時、Googleデザインのインスピレーションの元やプロダクトを直接触れて体験できるようになっていました。有機的な雰囲気のデザインが多かったのが印象的でした。

Googleは2019年8月にマウンテンビューのキャンパスにハードウェアデザインチームのための7万平方フィートの「デザインラボ」を新設したと発表しました。つまりそれだけデザインが重要性だと考えているわけですね。

このコーナーにはたまにスマフォやweb画面のようなデザインもあったかな。
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そのうちgoogleのプロダクトに反映されるようなアイディアもあるのかも。

Google Design Studioには約150人の多様なメンバーが在籍いているようです。

こちらはオレンジ色のコーナー
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よく観るとテキスタイルは縞模様のようになっていて味わいがあります。椅子や静物はビビットな印象を受けるかな。

Googleは将来を見据えて「アンビエントコンピューティング」という考え方をしているそうです。これは流動的に、個別の端末などを意識せずに、自分の取り巻く環境全体をコンピュータのように操作できることで、テクノロジーは背景に隠れているべきではないか、という考え方です。

こちらはカニとGoogle Nest Mini
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見た目は完全に溶け込んでますねw クッションのようにすら見える。

20代半ばで既に世界的に注目されるジュエリーデザイナーになっていたロス氏は当時の経験について、「いちばんの教訓は、人生とは目的を達成したら終わるものではないということに気づけたこと」と語っています。流石に一流の人の言葉は重みが違いますねw

こちらは白っぽいコーナー
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これも茶道具の棗のように見えてデバイスじゃないかなw 和風の部屋にも馴染みそうです。

ロス氏は「この道具はどうやって人々を次のレベルに引き上げてくれるのだろう?」と自分たちのデザインに常に問いかけているそうです、

最後にこちらは薄い緑のコーナー
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緑は特に落ち着きますね。こういう雰囲気に馴染むデバイスならデジタル世界にも安らぎを求められそう。


ということで、Googleは最先端のIT企業である故に環境や美意識といった部分に踏み込んでデザインを重視しているのが伺えます。余談ですがGoogleはこれとは全く別に「Google Arts & Culture」というプロジェクトでアートを世界に公開していたりするので、美術好きにも馴染みのある企業かもしれません。こうした背景を知っておくと今後、Googleのプロダクトデザインを観る目も変わりそうです。
 参考リンク:Google Arts & Culture


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