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【番外編】【金沢21世紀美術館】の常設 (2012年02月)

今日も引き続き金沢旅行の際の番外編です。前々回前回とご紹介した金沢21世紀美術館の特別展を観た後、常設も観てきました。この常設スペースには「サイレント・エコー コレクション展 II」と「ピーター・マクドナルド: 訪問者」という2つの展示がありました。

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【展覧名】
 サイレント・エコー コレクション展 II

【公式サイト】
 http://www.kanazawa21.jp/data_list.php?g=45&d=1126

【会期】
 2011年9月17日(土)~2012年4月8日(日)

----------------------------------------------------------

【展覧名】
 ピーター・マクドナルド: 訪問者

【公式サイト】
 http://www.kanazawa21.jp/data_list.php?g=45&d=1121

【会期】
 2011年4月16日(土)~2012年3月20日(火)

----------------------------------------------------------

【会場】
 金沢21世紀美術館  ★この美術館の記事  ☆周辺のお店
  ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【最寄】
 JR金沢駅(バスで20分くらい)


【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 0時間30分程度

【混み具合・混雑状況(日曜日12時頃です)】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
こちらもお客さんは結構いますがそんなに混んでいる感じではなく、自分のペースでゆっくりと観ることができました。

さて、常設展については前述の2つの展示となっていましたが、部屋ごとに区切られてはいるものの同じチケットで観ることができましたので一緒にご紹介しようと思います。常設も勿論 現代アート作品が並んでいて、公式サイトによるとこの美術館の蒐集方針としては、
 1.1980年以降に制作された新しい価値観を提案する作品
 2.1の価値観に大きな影響を与えた1900年以降の歴史的参照点となる作品
 3.金沢ゆかりの作家による新たな創造性に富む作品
となっているようです。詳しくはいつも通り気に入った作品を通してご紹介しようと思うのですが、常に展示されている恒久作品(作品自体が美術館と一体化しているものもあります)と、期間を区切って展示している作品もあるようですので、恒久展示品には●をつけておきます。

 参考リンク:
  金沢21世紀美術館の作品収集方針
  金沢21世紀美術館の恒久展示

アニッシュ・カプーア 「白い闇 IX」 ★こちらで観られます
これは白い円形のオブジェで、中に穴が開いています。下の方は明るく上の方は暗く見えるので、光でも出ているのか?と中のほうを覗き込んでも特に何もなく、光を反射しているようです。無地で真っ白なので、どういう形をしているのかも把握しづらく平面的に観えました。解説によると、この人は幼少期をインドで過ごしたそうで、仏教に影響を受けて無をテーマにした作品も作っているようです。

アニッシュ・カプーア 「L'Origine du monde」 ★こちらで観られます
部屋に斜面になった壁があり、そこに黒く大きな楕円の穴が開いています。実際、近くで見ても黒く塗っただけなのか、本当に穴が開いているのか分からず、作品が2次元なのか3次元なのか分からなくなってくるのが面白いです。真っ黒すぎて影が無いと平面に見えるのかと驚きます。 なお、「L'Origine du monde」はフランス語で、直訳すると「世界の起源」となります。これはギュスターブ・クールベの同名の作品を参照しているとのことでした。

余談ですが、数年前に森美術館の「英国美術の現在史:ターナー賞の歩み展」でこの人のこういう作品があったように思うのですが、当時はブログをやっていなかったのでうろ覚えですw bunkamuraのだまし絵展でも似た作品があったのはメモしていました。。
 参考記事:奇想の王国 だまし絵展 2回目 感想後編(Bunkamuraザ・ミュージアム)

栗津潔 「風流」「コンポジション」「ピアノ炎上」 ★こちらで観られます
これは3点の映像作品が順番に流れている部屋です。部屋の中央にはピアノがあり、鑑賞者はこれを弾くことができます。(「ピアノ炎上」の上映中は弾けません) 「風流」では瓦礫のようなものが映し出されていたのですが、鑑賞者がそれを観た気分でピアノを叩くと、それによって雰囲気が変わって見えるというのが面白いです。私もランダムに適当に鍵盤をポロン… ポロン…と叩いていたら、後から入ってきた人が、何か物哀し気な作品ね~なんて言っていたので、私の演奏(?)が影響したのかも??なんて思いながら楽しんでいました。
「ピアノ炎上」は実際にピアノを燃やす映像で、ぱちぱちと燃えていく中、崩れると共にピアノが鳴っているというショッキングな作品でした。何かタブー的なやっちゃいけないことを見てしまったような衝撃を受けました。

ツェ・スーメイ 「ヤドリギ楽譜」
左から右に流れるように冬の木々が映し出される映像作品です。木には丸っこいヤドリギの葉っぱがこんもりしていて、それを音符に見立てるように音楽に合わせて丸い部分に白い印が出てきます。音楽は重く悲壮な感じの曲で死を連想するような雰囲気でしたが、発想が面白い作品でした。しばらくすると無音になりループしていきます。

山崎つる子 「Work」
Workという作品は数点あり、これはブリキやビニールシンナー、クリアーラッカーなどで銀色に半透明な抽象画?を描いたものです。他にもブリキの円筒の缶を「Work」と同じような素材で光沢感のある青に染め、それを無数に並べた作品「The Cans」(★こちらで観られます)や、同じくブリキの缶を赤紫色に染めて並べた作品など、ブリキを用いた作品が並んでいました。ブリキの鈍く光る質感が作品に活かされているように思います。
また、この人のコーナーの部屋には長方形の台に釘を打ってパチンコ台にしたような作品もありました。これは傾けると大量のビー玉が転がっていくインスタレーションで、その色合いも面白かったです。

ピーター・マクドナルド 「ディスコ」 ★こちらで観られます
今回の2つの展示のうちの1つで、ここは写真撮影可能な部屋だったので、写真を撮ってきました。

部屋をぐるっと取り囲むように斬新で楽しげな絵が描かれています。人々の頭が大きくて丸いのはアフロのイメージかな?w
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部屋の入口の辺り。
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部屋の中はロックっぽい音楽がかかっていました。気分はディスコです。

所々にあるテーブルの上にはこうした作品が並んでいました。
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この作家はイギリスに住んでいるようですが東京生まれだそうで、能面をモチーフにした日本風の絵もありました。

また、この常設展示室以外にも無料で観られるスペース(ミュージアムショップの隣)でもこの人の作品は展示されていました。

久世建二 「土のかたち」 ★こちらで観られます
これは中庭にあった無数の十字架状の黒い陶器作品です。その色形からして墓地を彷彿としますが、それをイメージしたものではないそうです。詳しい意味は分かりませんでしたが、独特の素材感のある作品でした。

角永和夫 「SILK」 ★こちらで観られます
これは9m×15mもある大きな凧のようなものが天井から吊り下がっている作品です。パッと見では和紙で出来てるのかな?なんて思いましたが、これはネットに2万頭もの蚕を放ち、絹を絡ませたもののようです。その為か薄い部分や厚い部分など結構まちまちな厚さとなっていました。その大きさと作成方法に驚く作品です。

レアンドロ・エルリッヒ 「スイミング・プール」 ★こちらで観られます
これはこの美術館でも特に有名な作品かな。ここも写真撮影出来ましたので写真でご紹介します。

こんな感じで中庭にあります。雪が降っている間は立ち入りできませんでした。
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近づいてみるとこんな感じ。プールの中に人が!!
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実は水面の部分は僅かで、その下は透明のガラスになっています。

こちらは下から撮った様子。
P2123065.jpg P2123069.jpg
下から見ても騙し絵的な感じですw 溺れているふりをして上の人を騙してみたり。
それにしても、さっきまで雪が降っていたのにあっという間に青空に…。金沢の冬の天気はコロコロ変わります。

大体これで有料エリアは終わりです。私はうっかり見逃しましたが、有料エリアのトイレにはピピロッティ・リストの●「あなたは自分を再生する」(★こちらで観られます)という作品もあるようです。…ピピロッティ・リストは以前、原美術館での展示でもトイレの作品がありましたw

無料で観られるところにも作品がありましたので、それも紹介しようと思います。

ジェームズ・タレル 「ブルー・プラネット・スカイ」
タレルの部屋という一角があり、部屋の中に入ってみると、何もありません。
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実はこの部屋は天井に正方形の穴があり、外に直結しています。

また曇ってきましたが、見上げるとこんな感じです。雪もちらほら落ちて来ました。
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これは地下へのエレベーター。写真を加工しているので分かりづらいですがガラス張りです。
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これは地下にエレベーターがいると、どうやって上にあがるんだろう?ちょっと疑問に思いますが下から押し上げる方式のようで変わっています。

外にも作品がありました。

オラファー・エリアソン 「カラー・アクティヴィティ・ハウス」 ★こちらで観られます
こんな感じの円形の大きめの作品です。
DSC_18883.jpg

中に入るとカラーフィルムが重なって出来ているのが分かります。
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ピンクと黄色が合わさったところはオレンジ、ピンクと水色で青といった感じで色が混ざっているのが面白いです。

色も形も現代的で綺麗です。
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LAR/フェルナンド・ロメロ 「ラッピング」
これは遊具みたいな感じでした。
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他にもフローリアン・クラールの「アリーナのためのクランクフェルト・ナンバー3」(★こちらで観られます)という作品が美術館の周りに設置されていました。

ミュージアムショップの隣では「ベトナム絹絵画家グエン・ファン・チャン 絵画修復プロジェクト展」という展示も行われていました。映像メインです。
 公式サイト:http://www.kanazawa21.jp/data_list.php?g=46&d=1128
 会期:2011年10月22日(土)~2012年2月12日(日)


ということで、常設展もかなり楽しめる内容となっていました。ここの特徴としてはあまり小難しいことを考えなくても直感的に楽しめる点ではないかと思います。またそのうち行きたい美術館です。



<2012年02月 金沢編>
 【番外編】金沢旅行 兼六園・金沢城の写真
 【番外編】もりもり寿司 (金沢界隈のお店)
 【番外編】押忍!手芸部 と 豊嶋秀樹『自画大絶賛(仮)』 (金沢21世紀美術館)
 【番外編】モニーク・フリードマン展 (金沢21世紀美術館)
 【番外編】金沢21世紀美術館の常設 (2012年02月)
 【番外編】Fusion21 (金沢界隈のお店)
 【番外編】石川県立歴史博物館の案内
 【番外編】金沢市内の写真


 参照記事:★この記事を参照している記事




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【番外編】押忍!手芸部 と 豊嶋秀樹『自画大絶賛(仮)』 【金沢21世紀美術館】

今日も番外編の金沢旅行の記事です。先日ご紹介した兼六園に行った次の日に、兼六園にほど近い金沢21世紀美術館へ行って、特別展2つと常設展を観てきました。今日はまず最初に「押忍!手芸部 と 豊嶋秀樹『自画大絶賛(仮)』」をご紹介しようと思います。

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【展覧名】
 押忍!手芸部 と 豊嶋秀樹『自画大絶賛(仮)』

【公式サイト】
 http://www.kanazawa21.jp/data_list.php?g=19&d=1124

【会場】金沢21世紀美術館  ★この美術館の記事  ☆周辺のお店
【最寄】JR金沢駅(バスで20分くらい)

【会期】2011年11月23日(水)~2012年3月20日(火)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 0時間30分程度

【混み具合・混雑状況(日曜日11時頃です)】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
沢山の観光客が全国から集まっているようでしたが、混み合っているというほどでもなくゆっくりと自分のペースで観ることができました。

さて、この展示は名前がちょっと変わっていますが、これは石澤彰一 氏が部長となって手芸経験のない7人の男性部員から成る「押忍!手芸部」と、様々なジャンルで活躍するアーティスト豊嶋秀樹 氏のコラボレーション展示となります。押忍!手芸部には活動方針と生る教訓があるようで、公式サイトから抜粋すると

 押忍!手芸部 教訓
  一つ、余計なことは考えない。
  一つ、完成図やデザイン画を描かない。
  一つ、型紙を作らない。
  一つ、計りは使わない。
  一つ、待ち針を使わない。
  一つ、まっすぐ縫おうとしない。
  一つ、他人とくらべない。

とのことで、実際にユーモア溢れる作品が並んでいました。豊嶋秀樹 氏はこの部の精神を読み解いて展示空間を構成しているそうで、金沢21世紀美術館の展示室と相まって面白い展示風景となっていました。

細かい作品名などは分からないので、ざっくりと紹介していくと、最初の部屋はガムテープで出来た双頭の人形や、ゼリーで出来たジュエリー、飴の包みで出来た指輪、錠前でできたブレスレット、洗濯ばさみでできた東京タワー、イケアのビニール袋で出来た犬の置物など面白い素材感の作品が並んでいます。この辺は理屈なしで楽しめるので現代アートが苦手な人でも分かりやすいと思います。実際、周りにいた子供も喜びながら観ていました。

その次の部屋には木の部屋があり、ここは作品に触ることもできました。赤い洗濯ばさみを大量に繋げて赤いハートにしたものや、洗濯ばさみのランプカバー、手袋でできたヌイグルミや犬のおもちゃを改造したもの、歪んだ鏡に超細長いウサギのヌイグルミを写して伸び縮みする様子を観る作品、軍手で出来た操り人形 などなど沢山の作品がありました。こちらも発想が面白い上に実際に遊ぶことができるので、難しいことを考えなくても楽しむことが出来ました。遊び心が素晴らしいです。

次の部屋には白いテントのような物があり、これは内部に入って鑑賞します。 (★こちらで観られます
中に入ると犬らしき形のバルーンのように膨らんだ像があり、外側から扇風機でふくらませていました。これもアイディアが面白いです。

さらに進むと棚のような所にTシャツや軍手や手袋、靴下などでできたぬいぐるみが大量に置かれた部の倉庫のようなコーナーがありました。賑やかでポップな感じもしつつ楽しげな空間となっています。中にはミッキーやフィリップスのようなぬいぐるみもありました。

最後は部室となっていて、卓球台が作業場となっていたり、ロッカーに雑然と色々なものが並んでいました。本当に学生時代の部室を観ているような気分になりますw

この他にも作品はあるようでしたが、もう一つの展覧会や常設との境目がよく分からないのでこの展示の作品だと気づかなかったものもあるかもしれませんw とにかく遊び心があって小難しいと敬遠しがちの現代アートが好きになれる展示でした。

この後、もう1つの特別展も続けてみてきました。次回はそれをご紹介しようと思います。


<2012年02月 金沢編>
 【番外編】金沢旅行 兼六園・金沢城の写真
 【番外編】もりもり寿司 (金沢界隈のお店)
 【番外編】押忍!手芸部 と 豊嶋秀樹『自画大絶賛(仮)』 (金沢21世紀美術館)
 【番外編】モニーク・フリードマン展 (金沢21世紀美術館)
 【番外編】金沢21世紀美術館の常設 (2012年02月)
 【番外編】Fusion21 (金沢界隈のお店)
 【番外編】石川県立歴史博物館の案内
 【番外編】金沢市内の写真


 参照記事:★この記事を参照している記事



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フェルメールからのラブレター 2回目【Bunkamuraザ・ミュージアム】

日付が変わって昨日となりましたが、金曜日の夜にbunkamuraに行って、「フェルメールからのラブレター」を再度観てきました。

 参考記事:フェルメールからのラブレター (Bunkamuraザ・ミュージアム)

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【展覧名】
 フェルメールからのラブレター展
 コミュニケーション:17世紀オランダ絵画から読み解く人々のメッセージ

【公式サイト】
 http://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/11_loveletter/index.html
 http://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/11_loveletter.html

【会場】Bunkamuraザ・ミュージアム  ★この美術館の記事  ☆周辺のお店
【最寄】渋谷駅/京王井の頭線神泉駅


【会期】2011/12/23(金・祝)~2012/3/14(水)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間00分程度

【混み具合・混雑状況(金曜日19時半頃です)】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
小雪が舞う寒い夜だったこともあってか、思った以上に空いていて自分のペースでじっくりと観ることができました。絵の前に人だかりが出来たのはフェルメールの作品くらいだったかな。金曜の夜の時間帯は狙い目のようです。

さて、この展覧会については以前もご紹介しましたので、各章のテーマの説明は割愛しますが、以前ご紹介しなかった作品を中心に気に入ったものについてご紹介しようと思います。

 参考記事:
  フェルメール光の王国展 (フェルメール・センター銀座)
  フェルメール 《地理学者》 と オランダ・フランドル絵画展 感想前編(Bunkamuraザ・ミュージアム)
  フェルメール 《地理学者》 と オランダ・フランドル絵画展 感想後編(Bunkamuraザ・ミュージアム)
  フェルメール 《地理学者》 と オランダ・フランドル絵画展 2回目(Bunkamuraザ・ミュージアム)
  ルーヴル美術館展 17世紀ヨーロッパ絵画
  ルーヴル美術館展 17世紀ヨーロッパ絵画 2回目 (国立西洋美術館)


<第1章 人々のやりとり-しぐさ、視線、表情>
まずは人々のやりとりやしぐさを描いた作品が並ぶコーナーです。

ヘラルト・テル・ボルフ 「音楽の仲間」
手前にオルガンのようなヴァージナルという楽器を弾く女性、その左にヴィオラ・ダ・ガンバを演奏する帽子の男性、奥にはバイオリンを演奏する男性が立っています。このヴァージナルの女性は画家の妹、ヴィオラは弟だそうで兄妹揃って演奏に集中しているようです。右奥には暗闇の中で物を運んでいる女性の姿もありますが、3人とも気にしていないようでした。解説によると親密で調和のとれた場面を描いているとのことで、音楽で会話しているような感じのようです。しかし私にはやや緊張感があるように観えました。

ピーテル・デ・ホーホ 「トリック・トラック遊び」
うらぶれた室内でトリック・トラックという遊び(バックギャモン)をする帽子を被った2人の兵士と、スコアをつける女性が描かれています。左に立っている兵士はサイコロを振ろうとしており、何か喋っているようにも見えます。右手前に座っている兵士はタバコをふかしているのですが、これは無駄なことに時間を費やす愚かさの象徴とのことでした。日常の一コマに教訓が込められているような作品でした。

トマス・ウェイク 「宿屋の室内」
中央に宿屋のドアを開けて入ってきた身なりの良い男性が描かれ、その足元には狩猟犬も一緒に描かれています。その男性は左に目を向けていて、そこには宿屋の主人と子供を抱く奥さんがいて、彼らと会話をしているように見えます。宿屋の夫婦は貧しい格好をしているのですが、金持ちの男性とお互いに気軽に話している感じでした。解説によると、当時は身分より経済状態のほうが社会的地位となっていたようなので、意外と身分階級は緩かったのかもしれません。物語性と当時の様子が1枚で伝わるような面白さがありました。


<第2章 家族の絆、家族の空間>
続いては家族に関する作品が並ぶコーナーです。

ルドルフ・デ・ヨング 「室内の家族」
母親と、抱かれながら両手を前に出して暴れている子供を描いた作品です。その左にはお菓子を差し出す男性と、床に座ってガラガラを差し出す子供が描かれています。母親はお菓子の方を観ていますが、「むずがる幼児にはお菓子ではなくガラガラを与えるのが良い選択である」ということを示しているようです。また、光の表現が巧みで、窓際の辺りの表現が見事でした。

ピーテル・デ・ホーホ 「室内の女と子供」
赤と黒の市松模様のタイルが敷かれた室内で、布を頭に巻いた女性が水差しを差し出し、その右にいる小さな女の子(女の子の格好の男の子かも)に見せている様子が描かれています。女の子の表情は見えませんが女性の顔は優しく楽しそうで、温かみのある光景です。右奥にはドアの向こうの部屋や窓の外も見えているのですが、柔らかい光の表現が明るい雰囲気を生んでいるようにも思えました。

ヤン・ステーン 「老人が歌えば若者は笛を吹く」
テーブルを囲んだ10人くらいの家族を描いた作品です。左では白髪の老人が弦楽器を弾きながら歌っていて、その右には笛を吹いている少年もいます。また、周りの家族は水差しに口をつけて飲もうとする子や、胸を顕にして酒を飲む女性、品のない顔で笑う男性など、お行儀の悪そうな一家となっていましたw 解説によるとこれは宴席での無作法や暴飲暴食を戒める意味や、若いものは常に年長者を手本とするということわざに関連があるようです。こうはなりたくないなという反面教師みたいなものかなw


<第3章 手紙を通したコミュニケーション>
続いての3章が今回の目玉であるフェルメールの作品3点が並ぶコーナーです。フェルメールの作品はせっかくなのでもう一度ご紹介しておこうと思います。

ヨハネス・フェルメール 「手紙を書く女」 ★こちらで観られます
手紙を書く黄色い服の女性がちらっとこちらを伺うような様子が描かれた作品です。離れて観ると女性から光が発せられているように思えるほど明るさを感じます。全体の緻密さも見事で、サテンのコートや椅子のビスまで質感豊かに描かれていました。写実的でありながら何かドラマ性があるように感じました。

ヨハネス・フェルメール 「手紙を読む青衣の女」 ★こちらで観られます
じっと手紙を読み青い服の女性を描いた作品です。結構、読む表情に緊張感があるのであまり良い手紙ではないのかもしれません。この作品は最近修復された為か、青が明るく感じられ、背景に描かれた地図もよく分かるほど鮮明になっているのが面白かったです。

ヨハネス・フェルメール 「手紙を書く女と召使い」 ★こちらで観られます
テーブルに向かって手紙を書いている女主人と、その後ろで窓を見ながら待っている召使いの女性を描いた作品です。この作品は特に光の表現が素晴らしく、部屋のカーテンに光が透過する様子やテーブルクロスのたわんだ感じの陰影など、流石と思わせるものがありました。また、何度観ても待たされている召使いが退屈そうで、彼女の気持ちが伝わってくるように思いますw

ピーテル・ラストマン 「ダヴィデとウリヤ」
王座に座って杖のようなものと手紙を持つ赤いマントのダビデ王と、その左でウリヤという家来が片膝をついて右手で手振りしながらダビデと話をしている様子を描いた作品です。実はダビデはウリヤの妻バラシバに横恋慕した挙句に子供を身ごもらせてしまったそうで、それを隠すためにウリヤを戦死させるよう、ウリヤの上官に手紙を送ります。そしてそれを届けるのはウリヤ自身という皮肉な話です。ウリヤは忠実そうに観えるのに対して、ダビデはウリヤの方を見ずに少し上を見て、目を合わせないようにしているようにも観えました。


<第4章 職業上の、あるいは学術的コミュニケーション>
最後は学術などに関するコーナーです。

ハブリエル・メツー 「窓辺で本を読む女」
赤い羽帽子を被って赤紫色の服を着た女性が本を読んでいる様子を描いた作品です。若干目線が本より上の窓を眺めているようにも思えますが、この女性は「知識」の擬人像だそうです。確かに知的な雰囲気がありました。

アドリアーン・ファン・オスターデ 「酒場で読み物をする男(村の弁護士)」
テーブルを囲んでいる3人の男たちを描いた作品です。手紙を読んでいる人物と、その様子を見守る2人で、この手紙を読む人は弁護士だそうです。これは法体系が農村部にも定着していたことを示しているようで、弁護士に相談しているところを描いているようでした。弁護士の真剣な顔と2人の男たちの表情には緊張した雰囲気がありました。


ということで、静かな中でじっくり観ることが出来ました。(特に閉館10分前くらいになると独占状態でフェルメール作品を観ることが出来ました。)2度目ともなると落ち着いて観られるせいか、また違った印象も受けます。フェルメールが3点も観られるのは貴重な機会ですので、気になる方は是非どうぞ。


 参照記事:★この記事を参照している記事




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アンリ・ル・シダネル展 2回目【埼玉県立近代美術館】

10日ほど前の日曜日に埼玉県立近代美術館へ行って、最終日となった「アンリ・ル・シダネル展」を再度観てきました。この展示はすでに終了しましたが、満足度の高い展示でしたので、改めてご紹介しておこうと思います。

 参考記事:アンリ・ル・シダネル展 (埼玉県立近代美術館)

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【展覧名】
 アンリ・ル・シダネル展

【公式サイト】
 http://www.momas.jp/003kikaku/k2011/k2011.11/k2011.11.htm

【会場】埼玉県立近代美術館  ★この美術館の記事  ☆周辺のお店
【最寄】北浦和駅


【会期】2011年11月12日(土)~2012年2月5日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況(日曜日14時半頃です)】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
最終日ということもあり、以前行った時よりはお客さんが増えていましたが、それでも自分のペースで観るのに支障はない程度でした。

さて、この展示は以前にもご紹介しましたが、フランスで活躍した画家アンリ・ル・シダネルの個展となっていました。今回の記事は以前ご紹介しなかった作品を中心に、気に入った作品をご紹介していこうと思います。なお、各章のテーマについては以前と変わっておりませんので割愛します。

<第1章 自画像>
1章は自画像が1点のみとなっていました。改めて見ると陰影が絶妙で、髪の流れがわかるほど精密な作品でした。


<第2章 エタプル>
2章は初期のエタプルという寒村での活動のコーナーです。

2 アンリ・ル・シダネル 「サン=ミッシェル教会(エタプル)」
教会を斜め前から観た構図の作品です。若干ぺったりとした平坦な画面に見えるかな。周りには雪があり、空は抜けるような青さでした。静かな雰囲気の作品です。

7 アンリ・ル・シダネル 「横向きの若い女性(エタプル)」
戸外で樹の下に腰掛けている白いドレスの横向きの女性を描いた作品です。青みがかった色で影の中にいる感じがよく出ています。奥には日の当たる草むらがあり、そのコントラストが明るく感じました。こちらも淡く平坦な感じの作風に思えました。

3 アンリ・ル・シダネル 「農家の庭 [プティット=シンテ]」
横に長く伸びる農家と、その手前にある水辺を描いた作品です。農家の前には白い布を被った女性と数羽の鶏がいて、のんびりした雰囲気があります。全体的に色が落ち着いている作品でした。


<第3章 人物像>
3章は人物像のコーナーです。こうして観て回ると人物像は少なめに思えます。

10 アンリ・ル・シダネル 「ルイ・ル・シダネルの肖像」
鉛筆で描かれた少女の肖像で、これはシダネルの娘のようです。お椀にスプーンを入れてうつむいているようなポーズで、背景は暗く後頭部は暗闇に溶けこむような感じでした。全体的にうねった毛のような質感のタッチで描かれているのも面白いです。

9 アンリ・ル・シダネル 「朝 [モントルイユ=ベレー]」
川の上に左半分だけ描かれたボートが浮かび、ウェディングドレスのようなものを着た女性が描かれた作品です。ボートの右側は画面外ですが、誰か居るはずで気になりますw そもそも何故このような格好でボートに乗っているのかも謎めいて観えました。朝の光景を描いているようでピンクを含んだ光の表現が爽やかでした。


<第4章 オワーズ県の小さな町々>
4章は1900年に移ったオワーズ県のボーヴェにいた頃の作品のコーナーです。

20 アンリ・ル・シダネル 「月明かりのなかの教会 [ビュイクール]」
雪の積もった平原にある村と、塔のある教会を描いた作品です。全体的に青く沈んでいますが、画面には描かれていない月に照らされているらしく教会の辺りはちょっと明るく観えます。寒々とした雰囲気と静けさを感じる作品でした。


<第5章 取材旅行>
5章はジェルブロワを拠点として各地に放浪した頃の作品のコーナーです。

25 アンリ・ル・シダネル 「噴水 [パリ]」
パリの街を背景に、2段の水盤から成る噴水が描かれた作品です。右には樹も描かれていて、水平と垂直の線が多いように思います、街には薄っすらとあかりが灯り、夕方なのかな? パリの風情が伝わってくるような作品でした。

21 アンリ・ル・シダネル 「広場 [プティ=フォール=フィリップ]」
手前に広場、奥に赤い屋根の家が描かれた作品です。広場は右のほうに3人の人物が描かれている以外はガランとした感じです。それに対して、奥の家には窓に明るい光が灯っていて、ここだけ温かみを感じました。

31 アンリ・ル・シダネル 「月明かりのテラス [ヴィユフランシュ]」
手前に植物に覆われた手すりのあるテラスが描かれ、奥には湖と対岸の山が描かれています。水面には白やピンクが使われ、向いから来る月光を強く感じさせました。月自体は描かれていないのですが、神秘的な雰囲気があり人や船の姿すらないのもそれを強めているように思いました。


<第6章 ブルターニュ地方>
6章は1913年頃に訪れたブルターニュ地方を描いた作品のコーナーです。

39 アンリ・ル・シダネル 「朝日のあたる道沿いの川 [ブルターニュ]」
川の両岸にひょろっと伸びたポプラ?の並木が描かれ、その奥に薄っすらと太陽が昇っているようすが描かれた作品です。全体的に霧がかったように淡くぼんやりしていて、昼間なのに幻想的な光景となっていました。ちょっとモネのポプラの連作に構図が似ているかも。

37 アンリ・ル・シダネル 「快晴の朝 [カンペルレ]」
奥で右に曲っている川とその河岸の家々を描いた作品です。手前で船に乗った2人が舟を出す用意をしていて、一日の始まりを感じさせます。また、手前は青みがかった影となっているのに対して、奥の家に明るい日差しが当たっているのも朝ならではの爽やかさを出しているように思いました。


<第7章 ジェルブロワ>
7章は自宅にバラ園など庭園を作ったジェルブロワの時代のコーナーです。

44 アンリ・ル・シダネル 「階段 [ジェルブロワ]」
手前に雪の積もった階段とその両脇の塀が描かれ、奥には明かりの灯った家が描かれています。手前は白や暗めの色が多くて寒々としていることもあり、家の窓からのオレンジの光が一際暖かく感じました。観ているだけで早く家に帰りたくなるような絵です。

40 アンリ・ル・シダネル 「黄昏の古路 [ジェルブロワ]」
左側に明かりの漏れる洒落た建物があり、右側は石畳の道と奥にアーチが描かれています。左の家にはたくさんのピンクの花が飾られ、壁や植木鉢で花を咲かせています。左右で分かれた構図が面白く、花の色は温かみと華やかさを感じさせました。


<第8章 食卓>
8章は絶頂期の食卓の絵を描いたシリーズの並ぶコーナーです。「アンティミスト」と呼ばれる身近なものを描いた作品群です。

60 アンリ・ル・シダネル 「テーブル、白の調和」
円形で白いテーブルクロスのテーブルの上に、白いカップや水差しが置かれ、白い花が入った花瓶もあります。背景には白いドアも描かれているなど白い品が多く描かれています。しかし、陶器には光沢、花にはしっとりした質感があるなど、一口に白と言っても様々に使い分けられていました。円や球体のような形が多い構図も良かったです。

55 アンリ・ル・シダネル 「青いテーブル [ジェルブロワ]」 ★こちらで観られます
今回の展示のポスターになっていた作品です。植物が絡みつくシダネルの家の前に、青いテーブルと2脚の椅子が置かれ、テーブルの上にはワインや籠に入った果物などが描かれています。しかし、今からワインや果物を楽しむように見えるにも関わらず椅子には誰も座っておらず、静かな雰囲気でした。この作品はアンティミストの象徴的な作品のようです。


<第9章 ヴェルサイユ>
最後は冬の時期を過ごしていたヴェルサイユを描いた作品のコーナーです。

67 アンリ・ル・シダネル 「噴水 [ヴェルサイユ]」
暗い夜の森の中の噴水を描いた作品で、手前で水を噴き上げています。奥の木々の間には明かりの灯った家が描かれ、水面に光が反射しています。全体的に静かな雰囲気で、水の音まで聞こえるような光景でした。


ということで、非常に私の好みの画家でかなり満足できました。アンリ・ル・シダネルの作品は中々観る機会が無いのでこの展覧会の図録は大事にしようと思います。


 参照記事:★この記事を参照している記事



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没後150年 歌川国芳展 -幕末の奇才浮世絵師- (後期 感想後編)【森アーツセンターギャラリー】

今日は前回の記事に引き続き、森アーツセンターギャラリーの「没後150年 歌川国芳展 -幕末の奇才浮世絵師-」の後期の後編をご紹介いたします。前編には混み具合なども記載しておりますので、前編を読まれていない方は前編から先にお読み頂けると嬉しいです。

 前編はこちら

 前期:
  没後150年 歌川国芳展 -幕末の奇才浮世絵師- 前期 感想前編(森アーツセンターギャラリー)
  没後150年 歌川国芳展 -幕末の奇才浮世絵師- 前期 感想後編(森アーツセンターギャラリー)

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まずは概要のおさらいです。

【展覧名】
 没後150年 歌川国芳展 -幕末の奇才浮世絵師-

【公式サイト】
 http://kuniyoshi.exhn.jp/
 http://www.roppongihills.com/art/macg/events/2011/12/macg_kuniyoshi.html

【会場】森アーツセンターギャラリー  ★この美術館の記事  ☆周辺のお店
【最寄】六本木駅

【会期】
 前期 2011年12月17日(土)~2012年1月17日(火)
 後期 2012年01月19日(木)~2012年2月12日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日18時頃です)】
 混雑_①_2_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
前回は3章までご紹介しましたが、後編は最後の9章までご紹介しようと思います。

 参考記事:
  歌川国芳-奇と笑いの木版画 (府中市美術館)
  破天荒の浮世絵師 歌川国芳 前期:豪傑なる武者と妖怪 (太田記念美術館)
  破天荒の浮世絵師 歌川国芳 後期:遊び心と西洋の風 感想前編(太田記念美術館)
  破天荒の浮世絵師 歌川国芳 後期:遊び心と西洋の風 感想後編(太田記念美術館)
  奇想の絵師歌川国芳の門下展 (礫川浮世絵美術館)


<第4章 美人画-江戸の粋と団扇絵の美>
4章は美人画のコーナーです。明るい雰囲気の美人画が並びます。

176 歌川国芳 「美人子ども十二ヶ月シリーズ [皐月川開 両国ばし]」
屋形船の屋根のない所に腰掛けて、花火の様子を観る着物の女性と少女が描かれた作品です。花火や提灯、女性の着物などが色鮮やかで華やかな雰囲気があります。見上げる子供の顔は驚いているように見えました。

177 歌川国芳 「美人子ども十二ヶ月シリーズ [文月の七夕]」
竹竿に掴まっている赤い着物の女性と、その脇で長い帯のようなものをもった子供を描いた作品です。周りの七夕飾りや女性の着物は風に揺れているようで、かなりの強風に見えます。また、女性の着物の柄は太陽のような前衛芸術を思わせる派手さがありインパクトがありました。

198 歌川国芳 「[絵兄弟やさすかた]鵺退治」
髪を結った女性が鰹節のようなものをくわえたトラ猫を抑えつけて、右手で叩こうとしている様子を描いた作品です。悪戯っぽい顔をした猫が可愛く、微笑ましい風景です。タイトルは鵺(ぬえ)退治となっていますが、この作品の隣に鵺を退治している作品のコピーがあり、それと結びつけた主題としているようでした。

215 歌川国芳 「人間万事愛婦美八卦意 駄 花鳥茶屋の夕照」
見世物小屋で黒い鳥を見ている女性と、その背中におぶさって鳥を指差している子供を描いた作品です。この鳥はダチョウのようで(本当はヒクイドリ)、タイトルは「駄」となっています。2人とも驚きと楽しそうな表情を見せていました。それにしてもこんな南方の鳥が見世物小屋にいたとはこちらも驚きです。

219 歌川国芳 「三ツの猿夜の賑ひ」
3枚続きの作品で、子供や犬を連れた女性が描かれています。中央から左右に両側の建物が広がり、遠近感が強調されているように見えます。店には恵比寿やオカメなど見世物のようなものがありました。

この近くには226「山海愛度図会 七 ヲゝいたい 越中滑川大蛸」もありました。

174 歌川国芳 「春の虹?」
これは団扇型の作品で、鰻の蒲焼きのようなものを食べようとしている美女が描かれています。その目線の先には7色の虹が架かり、食べる瞬間に気がついたような感じでした。うまいこと虹が団扇の淵を沿うように描かれていたのも面白かったです。

この辺は団扇の作品や鏡面シリーズなどがありました。

414 歌川国芳 「浴衣を抱える美人」
これは肉筆の掛け軸で、タイトルの通り脇に浴衣を抱える結い髪の女性が描かれています。全体的に色は淡く抑えめですが、ひるがえる衣や浴衣が流れるようで優美な雰囲気があります。女性の顔は楽しげで爽やかでした。


<第5章 子ども絵-遊びと学び>
続いては子供を題材にした作品のコーナーです。

252 歌川国芳 「子供大名行列」
海から昇る朝日と富士山を背景に、沢山の子供たちが大名行列を作っている様子を描いた作品です。結構しっかりとした行列ぶりですが、どこか緩い楽しげな雰囲気があります。国芳の子供への愛情を感じさせる作品でした。

この辺には士農工商を絵解きした作品のうち農・工・商などもありました。

245 歌川国芳 「子供あそびのうち 角のり」 ★こちらで観られます
川の上に浮かぶ柱に乗って遊ぶ子供たちを描いた作品です。柱の上で逆立ちしたり、傘に物を乗せて渡る子はまだ理解できるのですが、4段重ねの台に乗っている子や出初式のようにハシゴの上でポーズを取る子など、これは無理だろ!と突っ込みたくなる子もいますw 何か他に意味があるのかもしれませんが、ちょっと可笑しい雰囲気でした。


<第6章 風景画-近代的なアングル>
6章は風景画のコーナーです。西洋画からの影響を感じさせる作品なども並んでいます。

271 歌川国芳 「本朝名橋之内 江都日本橋略図」
赤い太鼓橋に隙間なく沢山の人達が行き交う様子を描いた作品です。人が多すぎて進むも戻るもできなそうな感じですw 橋桁やその下の船なども密度が高く、非常に賑わっている雰囲気がありました。

この辺には264「忠臣蔵十一段目夜討之図」、261「東都三ツ股の図」、267「東都名所 かすみが関」や東海道五十三次を題材にした作品もありました。ちなみに以前も触れましたが、「東都三ツ股の図」に描いてある塔はスカイツリーではなく井戸掘りのやぐらのようですw

265 歌川国芳 「東都名所 てつぽふづ」
海を背景に、海岸の小さな岩に座って釣りをする三人と傘が乗った小舟を描いた作品です。釣竿と釣り糸、傘などそれぞれ曲線や円で描かれ、呼応するようなリズムを感じます。遠近法や陰影など、西洋の技法を取り入れた感じもしました。


<第7章 摺物と動物画-精緻な彫と摺>
続いては摺物という注文制作の作品のコーナーです。

302「禽獣図会 鳳凰・麒麟」、303「禽獣図会 鳳凰・麒麟 校合摺」
空を飛ぶ鳳凰と、地上の麒麟がお互いに睨みあっている様子を描いた作品で、302は色つき、303は白黒となっています。お互いが渦を巻くような配置で、緻密に描かれていました。色鮮やかな302に対して、303のほうは描写がよく分かるように思いました。


<第8章 戯画-溢れるウィットとユーモア>
続いては国芳の魅力が詰まった戯画のコーナーです。想像力豊かな作品が並んでいます。

308 歌川国芳 「化物忠臣蔵」
12の場面から構成された妖怪たちによる忠臣蔵です。ろくろ首や蝦蟇、九十九神や謎の化物たちが化物を襲っているような感じの場面が並ぶのですが、どこかひょうきんで漫画っぽく、愛嬌があります。恐らくこれは天保の改革で様々な規制がかけられた頃の作品じゃないかな。人間ではないのが逆に面白いです。

311 歌川国芳 「欠留人物更紗 十四人のからだにて三十五人にミゆる」
沢山のふんどしの男たちがもつれあって誰の手足が誰のものか、わからない状態になっている様子を描いた作品です。ちゃんと数えるのも至難ですが、確かに手足の数と頭の数は合っていなそうな感じです。その発想も面白いですが、それについていける画力も流石でした。

この辺には猫が集まって当て字になる作品もありました。

321 歌川国芳 「[絵鏡台合かゞ身] 牛若丸・弁慶/おにがハら・かふもり」
団扇型の作品で、背中に沢山の武器を背負って薙刀を持つ弁慶と、長い布を持って跳んでいる牛若丸を描いています。これだけだと何のことかわかりませんが、隣にはそれを障子越しに観た場面が描かれ、弁慶は鬼瓦、牛若丸はコウモリのシルエットとなっていました。鬼瓦の方は若干分かりづらいですが、これも面白いシリーズです。

327 歌川国芳 「[猫の百面相] 忠臣蔵」
これも団扇型の作品で、猫の顔をした役者らしき7人が描かれています。妙にキリッとした表情で、若干キモいw 猫顔でもそれぞれ個性があり元の役者の顔を想像させました。

344 歌川国芳 「駒くらべ盤上太平棊」
将棋の駒が頭となった鎧の武者たちが槍をもって戦っている様子を描いた作品です。かなりの乱戦模様でどちらが優勢か分かりませんが、その白熱ぶりが伝わってきます。大将や金、飛車角などは大きめに描かれ、風格がありました。

この辺には十二支が職人になったシリーズやカエルの忠臣蔵などの作品もありました。

339 歌川国芳 「きん魚づくし ぼんぼん」 ★こちらで観られます
これは新発見の作品だそうで、今回のポスターにも使われています。擬人化された金魚たちが手をつないで涼んでいるようで、楽しそうな雰囲気がありました。色合いも綺麗で可愛らしい作品です。

この辺には360「みかけハこハゐがとんだいゝ人だ」や359「人かたまつて人になる」、356「朝比奈小人嶋遊」などの有名作・代表作も並んでいます。

361 歌川国芳 「其まゝ地口猫飼好五十三疋」
これは猫たちを東海道五十三次に見立てた作品です。3枚セットで様々な猫が描かれ、例えばナマズを見ている猫は沼津、ぶち猫が籠に入って藤川(ぶちかわ)、鯛をくわえている猫は由井といったように言葉遊びのような感じです。特にお気に入りは喉をかいている保土ヶ谷(のどかい)と、手ぬぐいを被って踊るような三毛猫の三島(みけま)で、ちょっと抜けた感じが可愛らしく、猫好きだった国芳の観察眼なども伺える作品です。

この辺には363「おぼろ月猫の盛」、365「其面影程能写絵 弁けい/たいこもち」などの作品もありました。


<第9章 風俗・娯楽・情報>
最後は風俗や娯楽、当時の様子などを伝えてくる作品です。

375 歌川国芳 「林屋正蔵工夫の怪談 百物語化物屋敷の図」 ★こちらで観られます
荒れ果てた廃屋の中に沢山の妖怪が住んでいる様子を描いた作品です。3人の人物が驚いて必死に逃げる様子が描かれていますが、やはり妖怪はそんなに怖くなくちょっと可愛いくらいの表情でした。
 参考記事:博物館できもだめし-妖怪、化け物 大集合- (東京国立博物館 本館)

384 歌川国芳 「盆を拭くお竹」
しゃがんでお盆をふいているお竹という女性を描いた作品です。頭から垂れた髪飾りが仏の白亳(おでこのほくろみたいなもの)のようで、背景には円形のざる?が女性の周りの光背のように見えました。解説によるとこの女性はある修験者の夢で生身の大日如来とされたそうです。人間だけどどこか仏っぽい雰囲気が出ていて面白い構図でした。

388 歌川国芳 「為朝と疱瘡神」
大きな弓と矢を持った鎧姿の武者(為朝)と土下座のような姿勢を取る3人の奇妙な顔の疱瘡神を描いた作品です。これは天然痘の神を平伏させている様子らしく、病気よけの絵とされたようです。為朝の強い視線が威厳を感じさせました。

393 歌川国芳 「七浦大漁繁昌之図」
3枚セットの作品で、大きな鯨を捕鯨する様子が描かれた作品です。一の鉾から十の鉾まで10艘の船が陣形を組むように囲っていて、見物人の姿もあります。荒れた波や鯨の大きさがダイナミックで勇壮な雰囲気がありました。

最後あたりには418「[みかけハこハゐがとんだいゝ人だ] 板木・新摺品」や双六、書簡なども展示されていました。


ということで、歌川国芳の魅力が非常によく分かる展覧会でした。これだけの質と量を観られる機会は滅多に無いと思いますので、浮世絵好きの方は是非どうぞ。絵のことがよく分からない人でも楽しめる内容だと思います。


 参照記事:★この記事を参照している記事




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