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鎮座90年記念展「横山大観」 【明治神宮文化館 宝物展示室】

前回、上野の横山大観記念館をご紹介しましたが、今日は明治神宮で観てきた鎮座90年記念展「横山大観」をご紹介しようと思います。この展示は前期・後期に分かれていて、私が観て来たのは前期でした。

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【展覧名】
 鎮座90年記念展「横山大観」

【公式サイト】
 http://www.meijijingu.or.jp/homotsuden/index.html

【会場】明治神宮文化館 宝物展示室
【最寄】原宿駅、代々木駅、小田急 参宮橋駅、メトロ 明治神宮前駅、北参道駅、都営 代々木駅など


【会期】
  前期:2010年10月02日(土)~10月27日(水)
  後期:2010年10月29日(金)~11月28日(日)

 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 0時間30分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日14時頃です)】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_③_4_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
明治神宮自体が観光客が多いせいか、会場にもそこそこお客さんが入っているようでした(混んでいるわけではありません)
いつも通り気に入った作品をご紹介しようと思うのですが、冒頭にも書いたとおり前期・後期に分かれているようで、私が行った前期は既に終了しています。そんなに全体の点数は多くないのですが、結構な割合で入れ替わっているようですので、ご紹介する作品はもう無いかも… すみません(><)

入口に寒山拾得らしき看板がありましたが、こちらは後期の展示のようです。また、展示室前には「五柳先生」の写真も飾られていました。横山大観記念館にも「五柳先生」の写真があったような…。
 参考記事:東京国立博物館の案内 【2009年11月】

横山大観 「山色連天(さんしょくてんにつらなる)」
大観は細川護立の求めに応じて毎年「勅題」にちなんだ作品を描いていたようです。これもそのうちの一枚で、高い位置から見下ろすように山々の頂が描かれています。雲から頭を出している山々が海に浮かぶ島のようで、霞みがかった光景が雄大かつ神聖な雰囲気に思いました。
 参考記事:細川家の至宝-珠玉の永青文庫コレクション- (東京国立博物館 平成館)

横山大観 「漁舟」
6曲1双の屏風です。右隻には線が細く緑が鮮やかな木々が描かれ、その背後に漁船に乗る人々が描かれています。そこから左隻にかけて余白のように大きな川が広がっています。(微妙に波のようなものも見えます) また、空には沢山の鳥が舞い、左隻に舟の上にいる子供がそれを眺めているように見えました。これまたスケールの大きさを感じ、悠久の流れのように思いました。

横山大観 「八幡緑雨(洛中洛外雨十題のうち)」
京都の雨の風景を描いた10枚の連作のうちの1枚です。柔らかくも鮮やかな緑の竹林の中、3軒の藁葺きの家が描かれています。もや~っとしていのは雨のせいかな。情感があり、幽玄な雰囲気を感じました。
この近くにあった「朧夜」も好みでした。朦朧体っぽさがあるように思います。

横山大観 「柿紅葉(習作)」
習作とは思えないけど、6曲1双の屏風の習作です。右隻には大きな木と竹が入り混じっていて、単純化された大きなオレンジ~赤の葉っぱと竹の葉の緑が目に鮮やかです。左隻には力強さを感じるカクカクした枝、黄色~赤に染まる葉っぱ、柿の実などが描かれています。色合いや単純化された感じが面白く、大観にもこういう作品があるのかと思いました。
この辺には大観が絵付けした陶器などもありました。

横山大観 「明治神宮図」 ★こちらで観られます
これは水墨の掛け軸で、冒頭の写真に写っているポスターにもなっています。下から上にかけて入口から本殿に向かう道を描いていて、高い位置から観たような視点になっています。細密に描かれていましたが、奥の方は霧がかっているようになり、仙境のような雰囲気がありました。どこまで実際の配置と合っているのか分かりませんが、手前の道が湾曲している様子がリズミカルに感じました。

この辺りにはシンガポールの風景を描いた画帖や、横山大観記念館所蔵の文箱と硯箱などがありました。

横山大観 「十二ヶ月」
12枚セットの色紙よりも小さいサイズの作品です。金地に各月の風景が描かれていて、特に気に入ったのは8月と9月でした。8月は虹がかかる上空、9月は稲光がじぐざぐに大胆に描かれていました。大観にも色々な作品があるんですね。

横山大観 「春雨・秋雨」 ★こちらで観られます
2枚セットの作品で、右幅は春雨が描かれています。簡易的な橋がかかる川の上から見下ろすように木々を描いていて、雨でけぶるような雰囲気がよく出ています。左幅は川のそばの崖?の鮮やかな紅葉が描かれ、所々で薄くなっていて霧のような空気感をかもし出していました。
この隣にあった「竹雨」もかなり好みの作品でした。大観の雨の作品は良いですねえ。

横山大観・下村観山 「鉄拐仙人・蝦蟇仙人」
右幅が大観が描いた鉄拐仙人で、口から白い帯のようなものを出し、その先には自分の分身が飛んでいっている様子が描かれています。 それに対して左幅は下村観山が描いた蝦蟇仙人で、頭にガマを乗せガマの口から白い帯のようなものを出している様子となっています。この主題は日本画でよく観ますが、両巨匠の共演とは何とも豪華です。仙人たちは結構真面目な感じがしますが、どこか卑近な感じもしたかな。

ということで、点数は多くないですが中々面白い展覧会でした。ここに来る機会も中々無いので、この機に行っておいて良かったです。この後、明治神宮にお参りしてきました。セットで楽しめるのも魅力かな。


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余白の美 【横山大観記念館】

前回ご紹介した旧岩崎邸を観た後、すぐ近くにある横山大観記念館にハシゴして「余白の美」を観てきました。

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【展覧名】
 余白の美

【公式サイト】
 http://www.tctv.ne.jp/taikan/

【会場】横山大観記念館
【最寄】上野駅、御徒町駅、上野御徒町駅、上野広小路駅、湯島駅、根津駅など


【会期】2010年9月30日~12月12日
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 0時間30分程度

【混み具合・混雑状況(日曜日15時頃です)】
 混雑_1_2_3_4_⑤_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_③_4_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_③_4_5_満足

【感想】
この記念館は横山大観が最晩年に住んでいた邸宅を展示スペースにしたところで、結構普通の日本住宅という感じです。 閉館間際までいたこともあり、お客さんもまばらで非常に静かに鑑賞できました。館員さんも非常に親切で、色々と教えて頂けました。詳しくは展示されている部屋ごとにご紹介しようと思います。

<客間「鉦鼓洞」>
この客間は部屋の真ん中に囲炉裏がある部屋で、家の玄関の近くにあります。

横山大観 「叭叭鳥」 ★こちらで観られます
実際に部屋に掛けられている掛け軸です。もみじの枝にとまる黒い鳥が描かれ、濃淡が繊細に表現されています。恐らくいつも飾られているのだと思いますが、今回のテーマである余白についても見事で、左下から右上に伸びる対角線上の枝に分けられた構図となっていました。解説によると「くよく」という三の丸尚蔵館所蔵の作品とよく似ているそうです。

この部屋の隅の辺りには不動明王もありました。
廊下の辺りに大観にまつわるエピソードが書かれていて、岡倉天心に「酒もタバコもやらないで何故絵が描けるのか」と言われ、酒をやるようになったという話がありました。宴席と洗面所を往復するような飲み方をしたようなことも紹介されていましたw

<画室>
元々の画室は2階だったようですが、晩年は2階に上がるのが大変だったのか1階の部屋を画室としていたようです。

横山大観 「赤壁(習作)」
川の上の船を描いた作品です。船の上で笛を吹いたり、酒を飲んだり、船にもたれた寝ている様子が描かれ、水平線や空、月などはぼんやりしています。どこかのんびりとしつつ静かな雰囲気でした。

この部屋には「冬」という木の枝にとまる鳥の絵もありました。また、この辺りには「五柳先生」など代表作の写真も飾られていました。
 参考記事:東京国立博物館の案内 【2009年11月】

<寝室>
1階の一番奥の部屋は寝室です。

横山大観 「牡丹」
白い花を咲かす牡丹を描いた掛け軸です。右上から蝶がひらひらと飛んでくる様子も描かれ、葉っぱは濃淡が美しかったです。

この部屋には川端龍子が大観の還暦祝いのために描いた作品や、布袋を描いた作品、写生帖などもありました。また、この辺りからは庭の様子がよく分かりました。緑豊かで時が経つのを忘れてしまいそうな穏やかさを感じます。

<2F>
ちょっと急な階段を上って2階に行くと、そちらにも展示品が並んでいます。ここが元々の画室だったようです。

横山大観 「午下り(ひるさがり)」
茄子がなっているところが描かれ、とんぼも飛んできています。ぼかされたような葉っぱや、黒々した茄子など濃淡の使い方は流石で、情感あふれる作品でした。

横山大観 「四時山水」
これは26mもの巻物で、80歳の時の作品だそうです。私が行った時は秋の場面を展示していました。若草山~高雄(京都)が描かれているそうで、紅葉で赤く染まる様子や緑の松、青々とした川など、色が鮮やかでした。所々うっすらとして靄がかかっているようになっていたのも大観らしいかな。

1階に戻ると、書生のための部屋がミュージアムショップとなっていて、玄関に戻る途中には芸大出身者の集合写真が何点かありました。たまに知っている名前もあってこれも面白かったです。

ということで、落ち着いた雰囲気の記念館でした。作品点数は少ないですが、家そのものから大観の人となりが分かる気がします。 旧岩崎邸に行くことがあったらこちらにも足を運んでみるのも良いと思います。


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旧岩崎邸の写真 2010年10月

もう半月くらい前になりますが、2年ぶりに上野の旧岩崎邸庭園に行ってきました。久々に行ったら様子が激変していて驚きました。

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【公式サイト】
 http://www.tokyo-park.or.jp/park/format/outline035.html

【会場】旧岩崎邸庭園
【最寄】上野駅、御徒町駅、上野御徒町駅、上野広小路駅、湯島駅など


 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間00分程度

【混み具合・混雑状況(日曜日13時半頃です)】
 混雑_①_2_3_4_5_快適

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_②_3_4_5_満足

【感想】
旧岩崎邸に向かう途中、近くまで来て妙な気はしていました。やけに団体の人が多く、しかも皆、岩崎邸の方に向かっているぞ?と。 しかし、旧岩崎邸はいつものんびり観られる所なので、何か他の施設にでも行くのかな?と思っていたら…。 全員、旧岩崎邸に入っていきましたw 私が言うのも何ですが、物好きな団体もいるものだと思っていたら、次から次へと団体がひっきりなしに来て、これは一時的な混雑ではないことが分かりました。 何故こんなに人気が出たのか、しばらく悩みましたが、入口に飾ってあった大河ドラマの「龍馬伝」のポスターがヒントでした。そう、龍馬伝に岩崎弥太郎が出てきている関係で、団体ツアーのコースに組み込まれているんですねw テレビに疎い私にはかなりの驚きでした。よく見ると以前には無かった仮設トイレなんかもあって、団体向けになってます。そのせいかわかりませんが、邸宅内の撮影が一切禁止になってしまいました。(以前はOKだった) これは非常に残念。というか、もう撮影できる時代は戻ってこないのか気になるところです。

 参考記事
  旧岩崎邸の写真 その1
  旧岩崎邸の写真 その2

本来ならしっかりご紹介したいところなのですが、何しろ団体が次から次へと来て、邸宅内でメモをするのも面倒になってしまったので、今回は外観の写真だけをご紹介しようかと思います。以前も撮ったような写真ばかりですがw 団体のやかましさにテンション超低でしたw

入口のあたり。この建物はジョサイア・コンドルの設計です。
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中は撮影できないので一気に飛んで、裏庭の写真。結構広々しています。
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屋敷の裏側。この写真の左側には和室もあります。
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屋敷の横側。この写真の左側に撞球場(ビリヤード場)もあります。
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2010年11月6日にはコンサートも開かれるようですが、今の混み具合だと簡単に入れるのか疑問です。
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ということで、施設や館員さんたちには何の非もありませんが、団体客のマナーは最低レベル(大声、余所見しながらぶつかるなど)で辟易しました。NHKのドラマが終わってほとぼりが冷めるまで、あまりお勧めできない状態です。観光地となるのも一長一短と言うところでしょうか。 またしばらくしてのんびり観られるようになったら行きたいと思います。

ジョサイア・コンドルの建築は都内随所にあるので、今はそちらをお勧めしたいところです。
 参考記事
  ニコライ堂と神田明神の写真
  旧古河庭園 外観の写真
  旧古河庭園 内部見学
  三菱一号館竣工記念「一丁倫敦と丸の内スタイル展」 (三菱一号館美術館)

おまけ:すぐ近くの不忍池の写真
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この風景のなかにもスカイツリーが…。恐るべしw
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バウハウス・テイスト バウハウス・キッチン展 【パナソニック電工 汐留ミュージアム】

前回ご紹介した旧新橋停車場 鉄道歴史展示室に行った後、パナソニック電工 汐留ミュージアムにハシゴして「バウハウス・テイスト バウハウス・キッチン展」を観てきました。

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【展覧名】
 バウハウス・テイスト バウハウス・キッチン展

【公式サイト】
 http://panasonic-denko.co.jp/corp/museum/exhibition/10/100918/

【会場】パナソニック電工 汐留ミュージアム
【最寄】JR/東京メトロ 新橋駅  都営大江戸線汐留駅


【会期】2010年9月18日(土)~2010年12月12日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 0時間45分程度

【混み具合・混雑状況(日曜日14時頃です)】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
あまり混んでいないだろうと予想していたのですが、結構お客さんが来ているようで、賑わいをみせていました。(ここはあまり広くないので少しの人数でも多く見えるだけかもしれません)

さて、今回の「バウハウス」についてですが、冒頭に説明があるのですが、美術館の入口前でバウハウスの歴史のDVD(約12分)を流していますので、先にそっちを観ておいたほうが後々理解しやすいかと思います
簡単にまとめると、バウハウスは1919年にドイツの都市ヴァイマールに誕生したデザインの学校です。「すべての造形活動の最終目的は建築である」という理念を持ち、当初は表現主義的で合理的な作品を生み出していたようですが、その後は機械工業との融合を目指し、大量生産を目的とした方向に転換したそうです。パウル・クレーやカンディンスキーもこの学校に関わったメンバーだったそうで、後世に大きな影響を与えています。 しかし、1929年に世界大恐慌が起こり、1933年になると、当時台頭してきたナチスに左翼的であると見なされ、閉校に追い込まれました。…つまり、たった14年しか歴史が無いということになりますが、一瞬の煌きのように面白い品々が生み出されたようで、この展覧会ではそれを垣間見ることができました。
詳しくは章ごとにご紹介しようと思うのですが、様々な品が並んでいましたので、個々に展示物を紹介するのではなく、コーナーの雰囲気をご紹介しようかと。


<冒頭>
最初に雑誌の表紙や女性のポートレートがあって、これは恐らく1章の内容かな。少し進むと「素材訓練」という学生たちの訓練作品があり、これが非常に面白かったです。ボール紙のようなものを切ったり折り曲げたりして、立体的かつ幾何学的に置物のようにしているのですが、切り口や折り方に無駄がなく、芸術的な品格がありました。見た目はシンプルな造りで、見て真似して作ることもできると思いますが、この発想は真似できないw

<1 バウハウスと新しい女性>
この時代はフェミニズムが高まり、女性の立場や権利が向上し、役割も変わっていったようです。このコーナーはバウハウスと新しい女性との関わりをテーマにしていました。実際、バウハウスには女子学生が多数在籍していたらしく、その作品の売り上げがバウハウスの運営を助けていたそうです。

ここにはカンディンスキーやクレーを学んで描いたスケッチや、肖像画、学生寮の写真などが並び、果てには学生証や食堂の食券などまでありましたw 当時の写真が多く並んでいるので、ここだけ写真展みたいになっていますが、確かに女性が多いのがよくわかります。特に織物工房は女子が多いクラスだったようで、詳しい指導者がいなかったものの、それが返って自由な作品を産むきっかけになったとのことです。
少し進むと、刺繍やカーテンの見本、テーブルかけ、ワンピースなどが展示されていました。いずれも格子模様などパターン化されたデザインで、シンプルながらも先進的なスマートさを感じるものでした。


<2 新しいキッチン>
バウハウスの活動期間の中心である1920年代は新しい社会階層が生まれた時代でもあります。自宅の内装に関心を持ち、それを実現できる人々が出てきたそうで、バウハウスも雑誌などで新しいインテリアを提案していったようです。解説によると、現在とはまるで反対の考えも見受けられるとのことでしたが、家族が落ち着けることを望んでいる点は今と変わらないようです。

このコーナーの最初のほうには間取りや家具の写真、雑誌などが並んでいました。そして少し進むと「マスダスナン」という小コーナーがあります。この「マスダスナン」というのはヨガに似た感じの生活改善運動だそうで、呼吸法、瞑想、運動、食事などで自身の内部に神を見出すもののようです。バウハウスではこのマスダスナンに基づいて、ニンニク中心の極端な菜食主義になったこともあるようですが、栄養不足で倒れたり、ニンニク臭を発する学生もいたとのことでしたw …何か欠陥のある運動だったのではw この辺にはマスダスナンの料理法や、料理の写真、写真付きの体操の本、レストランの写真、メニュー、ナイフセットなどが展示されていました。結構変り種の展示品じゃないかなw

また、2章と3章のどちらか分かりませんが、この辺りには「ハウス・アム・ホルン」というコーナーもありました。これは1923年のバウハウス展で建設された実験住宅で、大量生産を目指し大きな積み木を重ねたような構造をしています。パーツを組み合わせることで異なる概観と機能性を兼ねそろえていたようです。 図面が展示されていたのですが、小部屋が集まったような感じでした。


<3 卓上のバウハウスデザイン>
バウハウスは「すべての造形活動の最終目的は建築である」という理念がありますが、多くの人々が豊かになるように、大量生産するためにデザインを考えていたそうです。ここまでは資料的な品が多かったですが、このコーナーは生産された品々が素材ごとに並んでいました。

まず、ガラスのパイ皿、ボウル、ティーセット、コーヒーメーカーなどが並んでいました。大量生産できるように作られているためか、結構シンプルな形をしています。また、近くには磁器のティーセットや、金属製の鉢やランプ、灰皿などもあります。いずれも、円や四角、三角、円筒といった基本的な形を組み合わせたものが中心で、これらも簡素な感じを受けました。…と、観ていると単純化されているように思いますが、洒落た雰囲気があるのは流石です。 シンプルだからこそセンスが出るのかも。


<4 マイスターキッチン>
バウハウスは1925年にデッサウという地に移転しました。そして、移転の際にマイスターたちのために設計された住居があったようで、このコーナーでは「マイスターキッチン」という台所の再現が展示されていました。このコーナーだけは事前に受付で申し込みをすれば写真撮影可能でしたので、早速写真を撮ってきました。 (なお、ブログに貼り付けることもできますが、ルールがあります。詳しくは展覧会の受付で確認してください。)

この2部屋が撮影可能なエリアです。
P1150625.jpg 汐留ミュージアム・バウハウス展、2010年

先ほどの右の部屋。戸棚や引き出しを開けることもできますが、触ってはいけないところもあります(禁止マークがついているところは駄目)
見えない右側には沢山の小部屋に分かれた引き出しもありました。皿の置き場や棚など空間を上手いこと使ってます。コンロは3口もあるし便利そう。
P1150607.jpg 汐留ミュージアム・バウハウス展、2010年

こちらは左の部屋。奥の緑は写真です。 こちらはシンクでしょうか。写真に写っていない左側には沢山の段のついた収納がありました。
P1150615.jpg 汐留ミュージアム・バウハウス展、2010年

とこんな感じでかなり本格的に再現されています。百聞は一見にしかずと言いますが、図面よりだいぶ分かりやすいです。 この部屋だけでも見る価値があります。

また、この辺りでは当時の映像も流れていて、実際にキッチンで働く女性の姿や、キッチンの解説(宣伝?)などが映されていました。

終盤に、「テルテン集合住宅」という小コーナーもありました。これは1926年にデッサウ市から依頼された集合住宅の設計で、結構狭い住宅だったようです。その為、狭くて小さいからこそ、機能的な導線を意識してデザインされているようです。 確か、ミュージアムの前にあった映像だったと思うのですが、ベッドを来客時にソファにするなどの工夫を映像で見ることもできました。

最後にちょっとだけですが、常設でジョルジュ・ルオーの作品もあります。特別展とは関係ないのでご紹介は割愛。

ということで、中々面白い展覧会でした。再現コーナーは特に見所じゃないかと思います。単純にバウハウスの作品が観られるのかと思っていましたが、その理念や生活ぶりまでも網羅した内容でした。近代デザインでも重要な存在ですので、今後の参考になりました。 



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日光道中-江戸の旅・近代の旅- 【旧新橋停車場 鉄道歴史展示室】

この前の土曜日に、新橋の旧新橋停車場 鉄道歴史展示室で「日光道中-江戸の旅・近代の旅-」という展示を観てきました。一応、先日からの流れで、中央通り沿いの展覧会シリーズとしてご紹介しようかとw

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【展覧名】
 日光道中-江戸の旅・近代の旅-

【公式サイト】
 http://www.ejrcf.or.jp/shinbashi/index.html

【会場】旧新橋停車場 鉄道歴史展示室
【最寄】JR/東京メトロ 新橋駅  都営大江戸線汐留駅


【会期】
 2010年8月3日(火)~11月21日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 0時間15分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日14時頃です)】
 混雑_1_2_3_4_⑤_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_③_4_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_③_4_5_満足

【感想】
いつもどおり空いていましたが、それなりにお客さんが入っていました。
今年は明治23年に日光線が宇都宮~日光で全線開通してから120周年だそうで、江戸時代から明治時代、大正時代などの日光への交通網に関する展示となっていました。あまりメモを取らずにさらっと観てきましたので、どんな展示物があったかだけ簡単にご紹介しようと思います。

まず最初に広重の小さい画帖があり、日光街道は江戸時代の五街道の1つであったことなどが説明されていました。 少し進むと大名の日光参詣の行程図など江戸時代のものの他、外国人向けのハンドブック、日本旅行の写真を撮ったアルバムなど明治時代の品々も置かれ、各時代の様子が分かります。 さらに進むと明治や大正の時刻表、小さなハンドブック、昭和初期の乗車券から最近の絵葉書なども展示されていました。
と、部屋の壁際周辺は結構マニア向けな感じですが、部屋の中央には日光にあったルーマニアの公使館の別荘の模型や、電車の模型もあり、これは素人目にも面白いです。電車は157系というオレンジ色とクリーム色の車体(1/15)、キハ55系というクリーム色に赤い線の車体(1/15)、東武鉄道「けごん」(1/20)の3体だったかな。 近くには土瓶や駅弁に関する品々や「けごん」の写真などもありました。この模型は鉄道博物館の所蔵品のようですが、好きな人にはたまらないかも。
 参考記事:鉄道博物館の案内 (コレクション・資料)

また、たまたま映像でジョルジュ・ビゴーの生涯についてやっていました。これはあまり日光に関係がないようで、映像もいくつかをローテーションしているのかも。 簡単に説明すると、ジャポニスムが盛り上がった頃に浮世絵など日本美術を学びに来たビゴーですが、来日して2年ほどの間、お雇い外国人として絵画の講師の職を得ました。 その後、その契約が切れると外国人居留地で絵を描き、一旦帰国したものの再来日して、今度は報道記者として日本に滞在しました。教科書で見ることのできる風刺画はこの頃の作品です。その後、政府に要注意人物として目をつけられたり、外国人居留地が無くなってしまうなど、彼を取り巻く環境は厳しくなり、世相も悪化したことからフランスに帰国してしまいました。…と、まさか日光の展示でビゴーのことを知ることができるとはw

ということで、私は流し観くらいだったので、そんなに感慨深いものは無かったのですが、ここは無料な上、日本で始めての駅舎の跡を見ることもできるので、鉄道好きには面白いかと思います。パナソニック電工汐留ミュージアムのすぐ近くなので、いつもハシゴついでに観ています。 今回もこの後、パナソニック電工 汐留ミュージアムの展示にも行きましたので、次回はそれをご紹介しようと思います。


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夢みる家具 森谷延雄の世界展 【INAXギャラリー】

前回ご紹介した三井記念美術館に行く前に、京橋のINAXギャラリーで「夢みる家具 森谷延雄の世界展」も観てきました。同時開催で、「石塚沙矢香 -かけらはただよひ-展」と「三木陽子 展 -“PET SHOP”installation of ceramics 現実と地続きのファンタジー-」も展示されていました。

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【展覧名】
 夢みる家具 森谷延雄の世界展
 FURNITURE OF FANTASY

【公式サイト】
 http://www.inax.co.jp/gallery/exhibition/detail/d_001659.html

【会場】INAXギャラリー
【最寄】銀座線京橋駅 都営浅草線宝町
【会期】2010年9月3日(金)~2010年11月20日(土)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 0時間20分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日14時頃です)】
 混雑_1_2_3_4_⑤_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_③_4_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_③_4_5_満足

【感想】
会場はいつもどおり空いていて、ゆっくりと鑑賞することができました。
最初に、森谷延雄という人物についてですが、この人は1893年生まれの家具デザイナーで、20代後半に欧米に留学し、家具界に革命を起こし「森谷式」を作ることを目指した人です。養父母の為に和式の家具をデザインしたりもしていたようですが、1923年の関東大震災の後、粗製された洋家具に警鐘を鳴らし、これを機に表現主義的で耽美的な作品を発表していったようです。わずか33歳の若さで夭折してしまったそうですが、この展覧会でも独創的なデザインが伝わってくるようでした。

まず、入口の辺りには壁に欧米留学の際にスケッチした洋家具のの絵がずらりとならんでいました。寸法なども書かれたかなり精密なスケッチで、イギリスのヴィクトリア・アンド・アルバート美術館などで描いたもののようです。

少し進んだ辺りは時代がごっちゃに展示されてたかな。1910年代~1920年代の日本は、洋家具への移行が進みつつあった時代で、森谷は「美と利用と経済」を満たす家具作りを考えていたようです。1926年には「木のめ舎」という工房を結成し、個展のために準備をしていたそうですが、その途中で亡くなってしまったそうです。この辺りにはそうした「木のめ舎」で作られた家具などが並んでいました。(一部は復元です)

「側書架」
小さな本棚です。上から見ると卍の形に区切られていました。シンプルな形ですが、機能性が高そうで、見た目も質実伴った感じでした。

「洋風書見木具と椅子」 ★こちらで観られます
直線と曲線の調和が独特の机です。キュビスム的なものを感じるかな。椅子は背もたれが牛の角のようで、座るところが円形になっていました。実際に試してみたいw 

この辺には着想図と家具の図案も並んでいました。線の細い家具が描かれ(絵の写真)、これはドイツの表現主義の影響らしく、その細さからか「果たしてこれは真剣な家具の作品だろうか」と酷評を受けたそうです。確かに、線のように細い足を持った椅子などは実用に向いているのか疑問に思うかもw カンディンスキーの絵を思い出すような華奢な雰囲気があります。

また、さらに進むと森谷は「家具の詩人」と呼ばれていたと紹介されていました。実際に家具で詩を奏でたりしていたそうで、この辺の作品名も「鳥の書斎」など、詩的な要素がありました。

「鳥の書斎」 ★こちらで観られます
前述の作品です。茶とベージュ、青とベージュの縞模様が入った椅子で、背もたれの中央部分が山形に盛り上がっている特徴があります。色合いの落ち着きとなだらかな曲線から、優美さを醸し出しているようでした。また、足の方や側面にはびっしりと鋲が打ち込まれていて、これは森谷が好んだ手法とのことでした。

「朱の食堂」 ★こちらで観られます
肘掛椅子と茶卓子の再現です。椅子はオレンジ色で、緩やかで細いボディとなっています。背もたれにハートの切り抜きがあるのがちょっと乙女チックかなw 茶卓子はオレンジの逆四角錘のような形で、上面はチェス盤のようになっていました。ちょっと色が明るい気がしますが、あまり観たことがない独特のデザインに思いました。

この近くには「眠り姫の寝室」という作品の椅子もありました。詩人というか乙女っぽい人だったのかな?

この詩人的な作品が一番奥の辺りで、ここから折り返しです。木のめ舎の作品集や写真が並んだコーナーがありました。直線の多いすっきりしたデザインが多かったかな。さらに出口に向かうと、当時の雑誌に載った作品や、著書、草稿、肖像などもありました。


ということで、かなり駆け足気味でそんなに点数も無いのですが、それなりに楽しめる展覧会でした。無料でこれだけのものが観られれば満足かな。 どことなくバウハウスの理念に近いものを感じました。(バウハウスについては近日中に記事にしようと思います。)


この後、同時開催の2つの個展も観てきました。どちらも会期が短く、展示スペースも広くないのでざっくりご紹介。

<石塚沙矢香 -かけらはただよひ-展>
【公式サイト】 http://www.inax.co.jp/gallery/contemporary/detail/d_001689.html
【会期】2010年10月9日(土)~10月28日(木)

天井から無数の釣り下がったプレートの上に、割れた皿や茶碗などが乗っている作品です。公式サイトを観ていただくと様子がよくわかるのですが、まるでプレートの上で浮いているように見えるのが幻想的でした。色鮮やかな陶器は、落とせば割れたり壊れるのですが、壊れたものは元に戻らないけれども、欠片を繋ぎ合わせることでまた違う形が生まれるという意味も込められているようです。 …とは言え、気を付けないと本当に作品を落としかねないので、注意深く室内を歩いていましたw


<三木陽子 展 -“PET SHOP”installation of ceramics 現実と地続きのファンタジー->
【公式サイト】 http://www.inax.co.jp/gallery/ceramic/detail/d_001690.html
【会期】2010年10月8日(金)~11月4日(木)

鳥篭に入った鳥形の陶器や、壁一面にペットボトルを逆さにしたような形の陶器、壁から手が生えるように犬を抱いたり撫でている陶器が展示されていました。ちょっと怖いw 大体白一色なのですが、たまに黒いのがあるのは何か意味があるのかな? 公式サイトの作者のコメントを読むとスティーブン・キングなどのホラー系が好きで、ホラーの世界や霊的な世界のイメージと結びついているそうです。 これもシュールさを感じつつも印象に残る部屋でした。


ということで3つセットで楽しめました。ここも毎回面白い展示をやっていて素晴らしいです。


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円山応挙-空間の創造 【三井記念美術館】

先週の土曜日、三越前にある三井記念美術館で「円山応挙-空間の創造」を観てきました。この展覧会は何度か模様替えがあるようで、私が観たのは10月16日でした。

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【展覧名】
 円山応挙-空間の創造

【公式サイト】
 http://www.mitsui-museum.jp/exhibition/index.html

【会場】三井記念美術館
【最寄】銀座線三越前/新日本橋駅/東京駅/神田駅
【会期】2010年10月9日(土)~11月28日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間10分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日15時頃です)】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
まだ始まって1週間の時点で行ったのですが、既に人気が出ているようで多くのお客さんで賑わっていました。しかし、大きめの作品が多いので、そんなに混雑感は無かったかな。 
今回の展示は作風の変化だけでなく表現方法などで章が分かれているようでした。詳しくは各章ごとにご紹介しようと思います。なお、冒頭に書いたとおり会期途中で作品の入れ替えが何点かあります。お目当ての作品がある方は、事前に公式サイトの出品リストを確認することをお勧めします。
 参考リンク:出品リスト(pdf)

[展示室1]遠近法の習得
まずは画業を始めた頃のコーナーです。円山応挙は1733年に農家の次男として生まれ、幼くして奉公に出ました。10歳で京都に出て、呉服屋で働いていたこともあるそうで、その後、玩具商の尾張屋で「眼鏡絵」を描いたのが画業の出発点となりました。
この「眼鏡絵」というのは遠近法によって描かれた風景画で、レンズを備えた覗き眼鏡を通してみると立体的に見える絵のことだそうです。最初のコーナーにはこうした「眼鏡絵」が並んでいました。

円山応挙 「眼鏡絵 三十三間堂通し矢図」 ★こちらで観られます
朱色の三十三間堂の縁側に座って、矢を射るポーズをした人や見物人が描かれた作品です。建物を斜めからみたような視線で、奥に向かって対象が小さくなるような遠近法が用いられています。これは分かりやすい遠近感かな。奥の的に目線が行くようになっているようでした。

円山応挙 「眼鏡絵 四条芝居図」
四条橋付近を描いた作品。四条橋の近くには役者の名前が描かれた看板があり、このメンバーによっていつの時期に描かれたものか特定できるそうです。(27歳頃の作品) 手前にかかる橋から奥に向かって対象が小さくなっていき、当時の様子を伺わせると同時に遠近感を感じました。
こうした眼鏡絵は絵師達にとってはアルバイトみたいなものだったのだとか。レンズを通して観てみたいですが、この展覧会ではそういう展示はありませんでした。

円山応挙 「眼鏡絵 四条河原納涼図」
夏の夜に沢山の人々が左右に行列を作って賑わっている様子が描かれた作品です。手前の列の人々はシルエットのみなのですが、奥の列の人々は夜店の明かりに照らされて色がつけられているなど、光の加減も丁寧に描かれているようでした。…と、難しいことを考えなくても、夏の夜の楽しい雰囲気が伝わってきます。空に白い点がついているのは多分、星だと思うのですが、結構絵が傷んでいるのでハッキリわからず…。
この近くにはこの展覧会のための調査で発見された「眼鏡絵 北野天満宮図」などもありました。

円山応挙 「眼鏡絵 石山寺図」
右手に石山寺という、急斜面の頂上に立つお寺が描かれ、左側には琵琶湖が描かれています。また、上部の雲には半円状の黒い月が描かれているのですが、これは青いガラスを裏から貼り付けているらしく、背後から光を当てると画面全体が暗くなり、月が青い光を放つそうです。 絵も細密ですが、そこまで凝った造りとは驚きでした。


[展示室2]応挙の絵画空間理論 「遠見の絵」
この部屋は1点だけ展示されています。応挙は前の部屋で観たような眼鏡絵を描きつつ、狩野派を学び、町衆などの支持も受けて活躍の場を広げていきました。

円山応挙 「萬誌」
応挙の大画面絵画に対する考えを書いた書物です。「遠見」という襖絵など遠くから見て真価を発揮する絵について書かれているらしく、「近くで観ると筆離れがあるが、間を置いてみると真の如くに見える」という考えを持っていたようです。近くでみる細密な絵と遠見を分けて考えているのが伺え、これ以降の作品でその特徴を見ることもできました。


[展示室3]応挙の茶掛け
ここはメモを取らなかったのですが、茶室の中に掛けてあった1点だけかな。あまり大きな作品でもなく、ちょっと離れているので雰囲気だけ見てきました。


[展示室4]応挙様式の確立―絵画の向こうに広がる世界
この部屋からは屏風や襖絵の並ぶコーナーでした。部屋に入った瞬間に壮観な眺めとなっていて驚きます。

円山応挙 「松鶴図屏風」 ★こちらで観られます
新発見の作品で、元々は襖絵だったものを屏風にしたものです。4曲1双でかなり大きく、左右に松の下で丹頂鶴が5羽、真鶴が3羽、くつろいでいる様子が描かれています。左隻と右隻が繋がっていないようで、これは元々隣り合っていないためのようでした。優美さがあり、離れて見ても見栄えのする作品でした。

円山応挙 「雲龍図屏風」 ★こちらで観られます
これも6曲1双の大きな屏風です。左右に波の上でうねるような龍が描かれていて、雲や龍が渦巻く姿は圧巻です。解説では実物を見て描いたような写実性があると説明していましたが、確かに迫力と共に質感のようなものがありました。また、この作品には「迫央構図(はくおうこうず)」という構図で左隻は奥から手前に、右隻は手前から奥へ渦巻くように描かれているようでした。

円山応挙 「雪梅図襖・壁貼付」 ★こちらで観られます
墨一色の濃淡で、雪を被った梅の木を描いた襖絵です。所々に花が咲いている様子も見られます。雪のふんわりした感じがあり、囲まれた中に立つと眼前に広がるような見事さがありました。解説では、この襖絵を弟子の長沢芦雪に草堂寺に届けさせたというエピソードも紹介していました。

この辺には東京国立博物館の応挙館の「老梅図襖」も展示されていました。
 参考記事:
  東京国立博物館の案内 (2009年12月)
  東京国立博物館の案内 (秋の庭園解放)

円山応挙 「竹雀図屏風」
これは6曲1双の屏風で、霧の中の細い竹林を描かれ、枝の上は雀がとまっています。濃淡で描かれた竹にはもや~っとした情感を感じ、遠近感も感じます。解説によると、雀は3羽くらいずつ描かれていて、雀の向かう先を見ると次のグループがいるという構図になっているようです。1匹の雀の動きを追ったものとも考えられるとも説明してたかな。雀の重みでたわんでいる様子や、雀の姿など細やかで写実性もありました。


[展示室5]淀川両岸図巻と小画面の中の空間
横長の通路のような展示室では「淀川両岸図巻」という絵巻をずら~~っと広げて展示していました。

円山応挙 「淀川両岸図巻」 ★こちらで観られます
淀川を描いた絵巻で、色鮮やかかつ写実的に上空から観るように描かれています。所々に橋や川が合流しているところなどが描かれているのですが、途中から上下がひっくり返ったように描かれていました。非常に長い絵巻なのですが細やかで壮観な眺めでした。

円山応挙 「海眺山水図」
これは横長の掛け軸です。右に大きく描かれた木々があり、背景には画面をぐるっと右回りするように港湾が取り囲んでいます。真ん中の海は余白のようで、これも先ほどの迫央構図となっているとのことでした。

円山応挙 「竹図風炉先」
2曲の小さな金屏風です。墨の濃淡で竹が描かれていて、この展覧会でも出品される「雨竹風竹図屏風」(展示期間11/9~11/28)の右隻を反転再構成したものなのだとか。両方揃って展示される期間が無さそうなのが残念。情感豊かに描かれた竹が素晴らしい作品でした。


[展示室6]
小部屋には応挙の襖絵のある寺院の紹介や、応挙の印鑑が20個くらい展示されていました。


[展示室7]応挙二大最高傑作―松の競演
最後の部屋は2点しかないのですが、この2点だけで度肝を抜かれます。ずらりと16面くらいの襖絵に囲まれた室内は眼福そのもの。ゆっくりと椅子に座りながら、その空間を楽しんできました。

円山応挙 「松に孔雀図襖」 ★こちらで観られます
金地に松と3羽の孔雀、庭石のような石が墨の濃淡で描かれた襖絵です。孔雀の羽が立派で、写実的に描かれています。L字型に展示しているのは実際のお寺と同じだそうで、奥行きを出しているのだとか。とにかくそのスケールや、墨と金地が生み出す雰囲気やリズムに言いようの無い感動があり、ぞくぞくするほどの作品でした。これは今回の作品の中でも一番の見所じゃないかな。

円山応挙 「雪松図屏風」 ★こちらで観られます
応挙の唯一の国宝作品で、6曲1双の屏風です。金地に雪の積もった松が描かれ、ふんわりとしているように見える雪は、地を塗り残しているそうです近くで見ると荒いようですが、離れて見ると立体的でこんもりしていました。また、背景の金や白、金砂子などから空気感も感じます。
解説によると右は老木で下向き、左は若木で上向きとなっていて、中央が空白となっているようでした。


ということで、作品数は多くないのですが、良質の作品が並んだ素晴らしい展覧会でした。 眼鏡絵という出発点も見ることができたのも収穫でした。ぐるっとパスなら提示するだけで入れるのも嬉しい。今期お勧めの展覧会の1つです。


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大國魂神社と東京競馬場の写真

府中市美術館で常設を観た後、いつもどおり東京競馬場と大國魂神社に行ってきました。実際には東京競馬場から周ったのですが、ルート的には府中市美術館→大國魂神社→東京競馬場と周るのが府中の黄金ルートじゃないかなw なので、大國魂神社からご紹介しようと思います。

参考記事
 青葉賞2010 (東京競馬場の案内)
 JRA競馬博物館とジャパンカップ
 青葉賞 (東京競馬場の案内)

まずは大國魂神社。
 公式サイト:http://www.ookunitamajinja.or.jp/

この神社は素盞鳴尊(すさのおのみこと)の御子神の大國魂大神(おおくにたまのおおかみ)を祀った神社で、京王府中駅と府中本町駅の間にあるので、よそ者の私でもよく通るところにあります。


この日観たバルビゾン派関連の展示でもこの神社の参道を描いた作品がありましたが、今も昔の絵とあまり変わっていないように思います。
 参考記事:バルビゾンからの贈りもの~至高なる風景の輝き (府中市美術館)
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神社独特の清清しく神秘的な雰囲気があります。この近くにお宮もあるのですが、2010年10月現在は工事中のようでした。
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続いて、東京競馬場。神社から歩いて10分くらいのところにあります。


この日は毎日王冠でした。青葉賞と毎日王冠はよく行きますw ダービーや天皇賞は混むので最近行ってないかも。
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正門近くの風景。この競馬場は草木にも手入れが行き届いているので、何気に写真撮影にも適してる気がします。
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毎日王冠のパドックも撮ってきました。これは前回来た時の青葉賞で圧勝したペルーサ。 ダービーは駄目でしたが、復活なるか?
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こちらは安田記念を勝ったショウワモダン。マイルから距離が伸びてどうか?
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馬券はこの2頭を頭に何頭かに流す三連複にしました。そしてレースへ…。


結果は目も当てられない大惨敗w スタート直後に大きく出遅れたペルーサは、何とか5着まで来たあたりで終了。ショウワモダンに至ってはブービーw 勝ったアリゼオは大して強いとも思わないし、ちょっと低調なレースだったのでは…。 天皇賞に向けてあまり参考にならないレースかもw(といってアリゼオが勝ったりしたらどうしよ)

という感じで、今回も府中市美術館とセットで競馬場を楽しんできました。私にとって府中に行って競馬場に行かないことはありえないのですw 中々、今回のような興味のある美術展と大きいレースの日程が重なってくれないのがもどかしいですが、今後もこのルートでハシゴしていこうと思います。


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【府中市美術館】の常設 (2010年10月)

前回ご紹介したバルビゾンからの贈りものを観た後、府中市美術館の常設も観てきました。常設にも期間とテーマがあるようで、この日は「府中・多摩ゆかりの美術」と「小特集 美術館で生まれた作品」という内容となっていました。

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【展覧名】
 府中・多摩ゆかりの美術
 小特集 美術館で生まれた作品

【公式サイト】
 http://www.city.fuchu.tokyo.jp/art/jyosetu/ichiran/jyosetuten/index.html

【会場】府中市美術館
【最寄】京王線府中駅/京王線東府中駅/JR中央線武蔵小金井駅など
【会期】2010年9月17日(金)~11月23日(祝)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 0時間30分程度

【混み具合・混雑状況(日曜日13時半頃です)】
 混雑_1_2_3_4_⑤_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_③_4_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_③_4_5_満足

【感想】
特別展よりも空いていて、ゆっくりと鑑賞することができました。そんなに点数は多くないのですが、近代日本の興味深い作品が並んでいました。

<府中・多摩ゆかりの美術>
最初は府中や多摩に関係するコーナーでした。絵画だけでなくこれも作品なの?というものもありました。

高松次郎 「石と数字」
0~1の間の小数点の数字(0.71とか)が書かれている普通の石が沢山並んだ作品です。石はこの辺りの川原で拾ってきたものらしく、これは何だろ??としばらく悩みましたw どうやら0と1の間には0.7、0.71、0.711というように無限に分割することができるという意味があるようでした。数字や単位を疑うというのも紹介されてた記憶もあります。

藤野龍 「武蔵野」
積み藁が手前に置かれ、その背後には煙を上げて走る機関車が描かれています。モティーフや描き方は印象派のようですが、印象派より淡く日本独特の湿気のようなものを感じました。中々好みの作品です。

大竹敦人 「水面/拾集(多摩川)」
ガラスの球体が4つ並んだ作品です。手前に円形の穴が空いていて、中に黒い模様がついています。 …と思ったら、これは多摩川を撮った写真らしく、このガラスの球体はピンホールカメラの要領となっているそうです。中々面白い発想で驚きの作品でした。

藤野龍  「競馬」
左に向かって2頭の馬が競い合うように走っています。手前の白い馬に白い帽子と白い服の騎手が乗っていて、馬の走りからはスピードと力強さを感じました。絵の表面は岩肌のようにざらざらした質感だったのも印象的です。

児嶋善三郎 「国分寺冬田」
冬の茶色い田んぼを描いた作品です。上のほうは木々が緑鮮やかに描かれ、田んぼには線が引かれています。その形も含めて幾何学的なリズムがありました。

久保田九一 「風景」
四角や三角の面で構成された藁葺きの農家?を描いた作品です。大胆で迫るような構図で、キュビスム的なものを感じる作品でした。これもこの辺の風景なのかな?

この辺には新宿や代々木を描いた作品などもありました。

竹田源太郎 「深大寺門前茶屋」
焼き物に色付けできる茶屋が描かれた作品です。朱色の腰掛に座る2人の人物や、沢山の皿が置かれたお店の様子など、色や物の形が様々で面白いです。今でもこういう風景があるそうで、旅情を感じました。


<美術館で生まれた作品>
次のコーナーは、この美術館で行われている公開制作で作られた作品が並んだコーナーでした。かなり驚きの発想の作品が多かったかな。
 参考リンク:公開制作

篠原有司男 「ボクシング・ペインティング」
9mものキャンバスに、墨が飛び散ったり流れ落ちているような跡が残っています。これも始めは何だかさっぱりわかりませんでしたが、解説によるとこれはモヒカン頭の作者が、ボクシンググローブに墨をつけてキャンバスを殴りつけて描いたものだそうです。右の方から描いたそうで、そう言われてみると右の方は墨が飛び散るようですが左に行くに連れて垂れてくる量が減っているようでした。近くには実際に使われたグローブもあったのですが、こんなもので絵を描こうと考える人がいるとは…w これも発想に驚きました。

中ザワヒデキ 「脳波ドローイング」
小部屋の周りを囲うように、横長の紙に波線が何本も引かれてた作品が並んでいて、まるで脳波計のようだなと思ったら、本当に脳波計でしたw 作者は自力で脳波を調整しているとのことで、脳波で海や山を描いたと言ったそうです。 脳波をコントロールなんてできるのかな?と疑問に思いましたが、起伏が激しい部分があって確かに山と谷のようでもありました。

<牛島憲之記念館 傑作選>
最後は牛島憲之のコーナーです。ここはいつも見ているのでメモは取りませんでしたが、柔らかな形と淡い色彩が心地良い作品が並んでいます。この画家からはアンリ・ルソーのような素朴さも感じます。

ということで、常設も楽しめました。地元関連の作品でこれだけ並べられるのは凄いです。 


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バルビゾンからの贈りもの~至高なる風景の輝き 【府中市美術館】

10日ほど前の日曜日に、府中市美術館に行って「バルビゾンからの贈りもの~至高なる風景の輝き」展を観てきました。この展覧会は開館10周年を記念した展示のようでした。

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【展覧名】
 府中市美術館開館10周年記念展
 バルビゾンからの贈りもの~至高なる風景の輝き

【公式サイト】
 http://www.city.fuchu.tokyo.jp/art/kikakuten/kikakuitiran/barbizon/index.html

【会場】府中市美術館
【最寄】京王線府中駅/京王線東府中駅/JR中央線武蔵小金井駅など


【会期】2010年9月17日(金)~2010年11月23日(祝)

 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間20分程度

【混み具合・混雑状況(日曜日12時頃です)】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
会場はそこそこお客さんが入っていましたが、混んでるという訳ではなくゆっくりと鑑賞することができました。
タイトルから、てっきりバルビゾン派のみの展示かと思っていましたが、「バルビゾンからの贈りもの」の「贈りもの」の部分が結構なウェイトだったりしますw 単にバルビゾン派の作品を並べるというよりは、その周辺の時代の作品や、後世にどのように影響を与えたかが分かる展示となっていました。詳しくはいつも通り気に入った作品を通じて章ごとにご紹介しようと思います。
なお、今回の展覧会には作品リストがあるのですが、作家名の表記がめちゃくちゃ分かりづらいです! (某美術館の影響でしょうか…) 慣れ親しんだ表記と異なり、「テオドール・ルソー」が「ルソー、テオドール」という日本風?の順となっています。発音も微妙に一般的な表記と違うので、長い名前だと本当にややこしい…。なので、このブログでは作品リストとは違う、より一般的な表記としようと思います。


<第1章 ドラマチック バルビゾン>
最初はバルビゾン派そのもののコーナーでした。バルビゾン派とは何ぞや?的な説明はあまり無かったように思いますがざっくり言うと、フランス郊外のバルビゾン村に集まった画家たちの集まりのことです。主に田舎の風景や農民の生活といった、それまであまり描かれなかったものを題材とし(絵画=神話/宗教画という時代です)、屋外で絵を描くなど、当時としては革新的な手法を用いていました。屋外で描くスタイルはその後の印象派などにも連なっていきます。
ということで、この章ではそうしたバルビゾン派の特徴がよく出た作品が並んでいました。

 参考記事:
  山梨県立美術館の常設
  浅井忠・フォンタネージとバルビゾン派 (千葉県立美術館)
  村内美術館の案内

 参考リンク:
  バルビゾン派のwikipedia

ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー  「嵐の近づく風景」
バルビゾン派の展覧の初っ端に何故ターナーが出てくるのだろう?とかなり不思議に思いましたw これは最近八王子で観た覚えがあります。(記事にはしていませんが…)
荒波の上に浮かぶ船が描かれ、海の手前は明るいのですが、空は暗く、奥には影があります。ターナーらしい雄大さとドラマ性を感じる作品なのですが、解説よるとこうした自然に対する畏怖などを込めた創造は、バルビゾン派に連なる要素なのだとか。ちょっと納得。

ジャン=バティスト・カミーユ・コロー 「夜明け」
やや茜色に染まる空や湖を背景に、森の木の下にいる3人の女性を描いた作品です。空の色の柔らかい空気感や、妖精のような女性達など、少し神話的な雰囲気すら漂っていました。コローらしい素晴らしい作品です。

この辺にはエルネスト・ルヌーの野外写生用具一式が展示されていました。当時の野外写生の様子が垣間見れるのは面白い趣向です。

ジュル・デュプレ 「山村風景」
はるか遠くに山々が見え、少し奥にぽつんと立った農家が描かれています。手前の井戸のようなところでは3人の農婦たちが水を汲んだりしているようです。空には雲がかかり、どこか冷たい感じも受けますが、山や家などはキリッとした風格が出ていました。真ん中の家の辺りだけ色が明るいせいか目が行きます。

フェリックス・ジエム 「フォンテーヌブローの森の鹿」
大きく取られた青空を背景に木が風に揺れて、その後ろを鹿が飛び跳ねている様子を描いた作品です。空が爽やかで、鹿に躍動感がありました。

この辺にはブリヂストン美術館のギュスターヴ・クールベの鹿の絵や、ミレーの「乳絞りの女」、村内美術館のデュプレの「小さな荷馬車」などもありました。今回の展示は、予想通り村内美術館の作品が大活躍です。

シャルル・エミール・ジャック 「森はずれの羊飼いの少女」
森のそばの草原で寝そべっている羊飼いの少女と犬が描かれています。羊も沢山休んでいて、のんびりした雰囲気です。一方、森から漏れている光と影になっている表現がくっきりしていて、好みの作品でした。

ジャン=フェルディナン・シェニョー 「砂けむりの中を行く羊の群れ」 ★こちらで観られます
美しいグラデーションの夕日と積み藁を背景に、広々とした平原を歩く羊の群れと羊飼いを描いた作品です。帰路でこちらに向かっているようで、砂煙が舞い上がっている様子も細かく描かれています。ほっとするような、郷愁を誘われるような、情感のある作品でした。

ジョルジュ・ガシ 「バルビゾンの平野に沈む夕日」 ★こちらで観られます
手前から左に向かって緩いカーブの道が描かれ、背景には赤々と染まる夕暮れの空が広がります。道の先には犬を連れた人の姿や、脇で馬を休ませている?人なども描かれ、農村ののどかな光景が広がっていました。全体的に赤っぽいのですが、道のわだちの水に夕日が反射しているなど、色の配置のせいかメリハリがあるように思いました。

テオドール・ルソー 「夕暮れのバルビゾン村」
もうだいぶ暗くなってきた時間帯の風景を描いた作品です。手前から伸びる道を、親子らしき2人が歩いていて、奥には赤い夕焼けと森が描かれています。森は暗いのですが、木々は細やかに描かれているのが驚きでした。森の哲人とも言われるT・ルソーの木々の表現は流石です。神々しさすら感じました。


<第2章 田園への祈り-バルビゾン派と日本風景画の胎動>
続いて、2章はバルビゾン派が日本に伝わり、それを学んだ画家たちが描いた作品が並んでいました。

高橋由一 「墨水桜花輝耀の景」
これは高橋由一の初期の傑作だそうです。左上から右下にかけて、対角線上に伸びる桜の木の枝が大きく描かれています。その背景には隅田川沿いの様子が描かれ、手前の枝のせいか奥行き表現が強調されているように感じました。結構写実的なのも影響を受けた点なのかな。

アントニオ・フォンタネージ 「沼の落日」
この画家はパリ万博でバルビゾン派に感銘を受けた人で、日本人の弟子が何人かいます。この絵は、だいぶ暗い夕暮れの中、川の畔の船と3人くらいの人たちが描かれていて、こうして並んでいるとコローやT・ルソーらバルビゾン派の影響がよくわかります。空、周りの空気感、暗い中の赤などが印象的でした。夕暮れの帰り支度はどれも良いですねえ。

このちょっと先にはフォンタネージの弟子の浅井忠の作品も数点あり、以前ご紹介したポーラ美術館の「武蔵野」も近くにありました。
 参考記事:ポーラ美術館の常設

本多錦吉郎 「豊穣への道」
夕暮れを背景に、鍬やカゴなどの農具を持った日本の農民達が描かれています。こちらを向いて、帰るところかな? 主題や画風はここまで見てきたバルビゾン派そのものと言ったところで、しっかりと立つ農民達には威厳すら感じました。労働を賛歌した姿勢までバルビゾン派から受け継いでいるようでした。

この辺には関東近郊の風景画が並んでいました。また、ミレーの「種まく人」の模写などもありました。当時の日本では貴重な模写だったようです。

小山正太郎 「濁醪療渇黄葉村店」 ★こちらで観られます
小山正太郎もフォンタネージの弟子です。左右に藁葺きの家がある道が描かれ、曲がりくねった道に奥行きを感じます。 どうやら左の方は茶屋のようで、馬に乗った侍達が休憩しようと馬を止めている様子も描かれてます。また、道の脇に生えている木々の紅葉も美しく、秋の風情がありました。ちょっとタイトルは難しいのですが、「濁醪(どぶろく)が喉の渇きを癒してくれる黄葉の美しい村の酒店」という意味なのだとか。侍達が描かれていることで歴史画的な要素もあるようでした。

本多錦吉郎 「景色」
これは開催地である府中にある大国魂神社の参道を描いた作品です。恐らく冬の景色のようで、かれたケヤキ並木を農婦たちがこちらに歩いてくる様子が描かれています。写実的で、晴れた秋冬の爽やかさを感じました。人と比べると並木や木などが大きく見えたかな。並木の奥に目が行くような遠近感のある構図も面白かったです。

この辺にある日本の洋画はかなり良い揃えで、ちょっと驚きでした。

浅井忠 「収穫」
これは浅井忠の代表作です。沢山の藁の中、3人の農民が手作業で脱穀している様子を描いています。結構リアルに描かれているのですが、これは写真を使っているとの説もあるようです。明るい色合いの中、黙々と作業している様子が崇高なものに感じられました。藁の色は似ているのに微妙に違っているのも凄い…。

和田英作 「渡頭の夕暮」
これは東京芸大で見た覚えがあるかな。川に向かって腕を組んで佇む子供と、同じ方向を向いている農民達が描かれています。これは渡し舟を待っている様子のようで、左の方では母親と話しながら右を指差す子供などもいて、その場の雰囲気がよく伝わってくるようでした。水面に映る夕焼けも美しいです。


<第3章 人と風景-その光と彩りの輝き>
3章は再びミレーの作品などもありました。

ジャン=フランソワ・ミレー 「羊毛を紡ぐ少女(オーヴェルニュ地方の山羊飼い)」
土の段差に腰掛けて、槍のようなものに羊毛を紡いでいる農民の少女を描いた作品です。右には後ろを向いている山羊もいるので、山羊飼いのようです。足を組んで黙々とつむいでいる姿が静かな感じでした。 なお、この作品はパステルで描かれていました、油彩よりも淡い感じで明るい印象を受けます。 こうしたパステルは、ドガやピサロ、スーラなどにも影響を与えたそうです。
 参考記事:ドガ展 (横浜美術館)

ジャン=フェルディナン・シェニョー 「シコレ爺さん」
杖を突いている老人と、黒っぽい牧羊犬、そして沢山の羊たちが描かれた作品です。老人は草を食む羊をじっと見ていて温和な印象を受けます。全体的にも柔らかい日差しにつつまれて穏やかな雰囲気でした。

ラファエル・コラン 「フロレアル(花月)習作」
何故かコランもありました。コランもバルビゾン派に影響を受けているのかな?(印象派から影響を受けている流れかも) 川の見える草原の上で寝転がっている裸婦が描かれ、神話に出てくるような瑞瑞しい身体をしています。明るい色彩も美しく上品な印象を受けました。
たしかこの辺に弟子の黒田清輝の作品も1点だけありました。

<第4章 バルビゾンからの贈りもの-光と彩の結実>
最後はバルビゾン派から影響を受けた印象派や、さらにそこから派生していった様子などがわかるコーナーでした。

久米桂一郎 「果園の春」
この画家はコランの弟子です。これは果園の中にある3本の木を描いた作品で、コランや黒田に似た、明るく柔らかい色彩から印象派の影響を感じました。木々と緑の草が目に鮮やかです。

この辺りにはシスレーやモネもありました。  さらに進むと最後のほうはだいぶバルビゾン派から時が経った作品のコーナーになっています。

梅原龍三郎 「霧島(栄の尾)」
山道から望む山を描いた作品です。全体的に緑色で、師事したルノワールよりさらに単純化が進んでいるように思います。梅原らしい、自由奔放な感じを受けました。

児島善三郎 「田植」
田んぼを俯瞰するような視点で描かれた作品です。デフォルメされた田んぼで、身をかがめて田植えをしている人々も描かれ、画面には無数の縦線が引かれ雨が降っているようです。緑の鮮やかさや田んぼの配置のリズム感から軽快な印象を受けました。幾何学的な要素もあるのかな。かなり好みの絵です。

最後はバルビゾン村や府中の森の写真が展示されていました。何枚か府中を描いた作品もあったし、日本人画家にとって府中はバルビゾン村的な農村だったのかな。


ということで、バルビゾン派目当てにこの展示に行ったのですが、それに負けないくらい日本の近代絵画も良い作品が多くて、嬉しいサプライズでした。この美術館は駅からちょっと離れているのが難点ですが、良い展覧会でした。


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