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クリムト 黄金の騎士をめぐる物語 (感想後編)【宇都宮美術館】

今日は前回の記事に引き続き、宇都宮美術館の「生誕150年記念 クリムト 黄金の騎士をめぐる物語」の後編をご紹介いたします。前編には混み具合なども記載しておりますので、前編を読まれていない方は前編から先にお読み頂けると嬉しいです。


 前編はこちら


P1110147.jpg


まずは概要のおさらいです。

【展覧名】
 生誕150年記念 クリムト 黄金の騎士をめぐる物語

【公式サイト】
 http://event.chunichi.co.jp/klimt/index.html
 http://u-moa.jp/exhibition/exhibition.html

【会場】宇都宮美術館
【最寄】宇都宮駅

【会期】2013年4月21日(日)-2013年6月2日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間30分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日14時頃です)】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
前編では物議を醸したウィーン大学講堂の天井装飾画についてまでをご紹介しましたが、後半はその後の作品が並んでいました。

<第2章 黄金の騎士をめぐる物語-ウィーン大学大講堂の天井画にまつわるスキャンダルから「黄金の騎士」誕生へ>
前編でご紹介した「法学」を制作する前年の1902年に、クリムトはマックス・クリンガーによるベートーヴェン像を称賛する為の展覧会を企画し、第14回分離派展として開催されました。そして3面を取り囲む壁画「ベートーヴェン・フリーズ」を出品し、ここで初めて黄金の騎士が描かれました。幸福を求めて武装した騎士が、不幸の蔓延した世界と対面する黄金の騎士像は、大学大講堂の天井画によって非難されたクリムト自身の状況を重ねあわせたイメージとして作られたようです。そして、ベートーヴェン・フリーズの1年後に「人生は戦いなり(黄金の騎士)」が完成すると、第18回分離派展(クリムトの個展)で発表され、自らの意志を託したそうです。この個展では特に平面性を強調し、金を多用した独自の装飾的な様式を打ち出したようで、こうした装飾性は美術と工芸の融合を目指したウィーン工房の方針とも結びつくものだったそうです。
 参考記事:マックス・クリンガーの連作版画―尖筆による夢のシークエンス (国立西洋美術館)

66 グスタフ・クリムト 「人生は戦いなり(黄金の騎士)」 ★こちらで観られます
これは今回の主題にもなっている愛知県美術館所蔵の作品で、黒い馬に乗り槍を持つ金色の鎧の騎士が描かれています。真っすぐの姿勢なので馬の上で硬直して立っているように見えるかな。平坦な描写という特徴も確認できます。頭には赤・銀。黒の模様の兜を被り、背景は緑を基調に金や白などが交じる やや抽象的な画面となっています。馬具や槍にも装飾的な文様があり、全体的にも煌めくような色使いですが、どこかぼんやりと幻想的な雰囲気がありました。解説によると、これはデューラーの銅版画「騎士と死と悪魔」(★こちらで観られます)を下敷きにしているそうで、この作品の近くに展示されていました。…うーん、題材と構図はそのままだけどだいぶ印象は違って見えるかな。
今回はこの「人生は戦いなり(黄金の騎士)」を目当てに宇都宮まで遠征したのですが、都内の展示と違ってじっくりと堪能することができて、これが見られただけでも満足です。

この辺には騎士がかぶっているのとそっくりな兜や、銀色のゴシック式の甲冑、第14回分離派展に出品された椅子などが展示されていました。

59 グスタフ・クリムト 「ベートーヴェン・フリーズ 部分 [完全に武装した強者]」(原寸大写真パネル) ★こちらで観られます
これは写真パネルで、ウィーン分離派会館にある原作と同じ大きさで壁画のように展示されていました。大きな剣を持つ等身大の金色の甲冑の騎士が描かれ、背後には裸の男女3人が騎士に向かって手を伸ばしています。また、奥には女神のような2人の女性が描かれていて、ストーリー性を感じます。平面的で金色が眩く、文様のようなものが多い装飾的な雰囲気です。解説によると、この騎士は背後のか弱い人々の求めに応じて幸福を求めて敵に向かい、楽園に辿り着くという話のようで、これはベートーヴェンの第9から着想を得ているそうです。そのモデルは友人で音楽家のマーラーと考えられているようで、音楽の革新のために宮廷歌劇場の監督から外されたマーラーは、クリムトと同様に社会に受け入れられなかった芸術家とのことでした。また、人物の輪郭や装飾的な曲線で平面性を強調する表現はマッキントッシュ夫妻や彫刻家ジョルジュ・ミンヌからの影響のようです。これはコピーでしたが、もし観られるものなら実物を観てみたいものです。

近くには第14回分離派展関連の作品や、前半でもご紹介したヴェルサクレム(ウィーン分離派の機関誌)の表紙などが並んでいました。

82 グスタフ・クリムト 「アッター湖畔」 ★こちらで観られます
これは正方形の油彩で、湖面を描いた作品です。うっすらと対岸の岩?のようなものも見えますが、ぼんやりした感じです。水面はモザイクのようで、水平線が高い位置にあるためか湖が広く感じられました。解説によると、クリムトは1900年頃から正方形のキャンバスを好んで描いたようで、このアッター湖の周辺に滞在した際は、すべて正方形の作品となっているそうです。静かな風景ですが大胆で面白い構図と表現の作品でした。

87-89 ヨーゼフ・ホフマン/ウィーン工房/金細工オイゲンブラウマー 「ブローチ」
これらは正方形のブローチで、赤・黄色・白・緑など様々な色の宝石が幾何学的な金の板や植物文様と共に配置されています。先進的かつ優美な印象がして、クリムトの絵の中に出てきそうな感じw クリムトもウィーン工房のジュエリーを購入していたことがあったのだとか。…それにしてもこの展示では正方形をよく見ましたw


<第3章 勝利のノクターン - クンストシャウ開催から新たなる様式の確立へ>
ウィーン分離派ではメンバー間の対立が次第に表面化していったそうで、1905年にクリムトは仲間と共に脱退し、翌年にオーストリア芸術家同盟を結成したそうです。そして1908年には仮設展示場でウィーン総合芸術展(クンストシャウ・ウィーン)を開催しました。 ここで初めて出品されたのが かの有名な「接吻」で、この作品は後にオーストリア国家買い上げとなりました。(これは天井画の騒動以来の国家との和解を意味すると考えられるようです。) クンストシャウにはオスカー・ココシュカやエゴン・シーレといった若い芸術家も参加し、次世代の美術の方向性が示されたようです。クリムトも彼らとの接触が刺激的だったのか、クリムトの様式は再び転機を迎えたそうで、それまでの金や緻密な装飾・優雅な曲線に代わり、鮮やかな色彩と絵の具の素材や筆の動きを表した表現主義的なスタイルで、パッチワークのような模様と渾然一体となった人物を描いていったそうです。この変化には膨大な素描が関係しているそうで、その親密な素養は下絵としてではなく、クリムトの独立したジャンルとして評価されているようです。 そうして意欲的に作風を進化させていったクリムトですが、1918年に脳梗塞と肺炎?(スペイン風邪?)で亡くなったそうです。ここにはそうした晩年までの作品が並んでいました。
 参考記事:
  ウィーン・ミュージアム所蔵 クリムト、シーレ ウィーン世紀末展 (日本橋タカシマヤ)

オスカー・ココシュカ 「夢見る少年たち」
これはココシュカの初期作品4点のリトグラフです。平面的で色が強く、単純化されていてちょっとメルヘンチックな感じも受けるかな。これにはジョルジュ・ミンヌからの影響があるそうです。クリムトもこの作品を讃えていたようで、クリムトの賛辞も書き込まれていました。

近くにはヨーゼフ・ホフマンの椅子や分離派展のポスター、コロモン・モーザーの椅子なども並んでいました。

[ストックレー・フリーズ]
クリムトはウィーン工房との共同制作で、ストックレー邸の食堂の装飾の制作に携わりました。1905年に建設が開始されたものの1911年にようやく完成したそうで、壁画はクリムトの下絵を元に、ウィーン工房の職人たちによって ガラス・輝石・珊瑚・金など豪華な素材を用いたモザイク画として仕上げられたそうです。

このコーナーには実物大のコピーが壁三面に渡って貼られていて、枝葉が渦巻くよな木々が描かれ、黄色・金色を基調に所々に黒などのモザイク模様らしきものが描かれていました。また、一部では抱き合う男女の像があり、装飾かつ豪華な服が印象的でした。これぞクリムトという感じです。解説によると、クリムトはこの木を生命の木と呼んだとのことでした。ちょっと異様な迫力がありますが、これも実際に観てみたい…。

[ウィーン工房]
ウィーン工房は1903年にウィーン分離派のヨーゼフ・ホフマンとコロマン・モーザー、実業家のフリッツ・ヴェルンドルファーによって設立され、総合芸術を標榜しデザイナーと職人が共同作業を行う工房だったようです。イギリスのアーツ・アンド・クラフツ運動に影響を受け、妥協を許さない制作を続けたために経営難にもなったようですが、新しいスポンサーがついて1932年まで存続し、デザインの近代化に多大な貢献をしたようです。

122 コロマン・モーザー(プラーク・ルドニカー籐細工工房) 「肱掛椅子」 ★こちらで観られます
柵で囲ったような肘掛けに市松模様の腰掛けのある有名な椅子です。非常に洗練されたデザインで、現在の感覚でもモダンに感じられると思います。解説によると、この椅子はクリムトの個展でもあちこちに置かれていたのだとか。

この辺は部屋の一角になったような展示方法で家具が並んでいました。ランプやグラス、食器なども洒落ています。

[クリムトとジャポニスム]
第6回分離派展にはアドルフ・フィッシャーの日本美術コレクションが展示され、ヴェル・サクレムでは日本の木版画や型紙が紹介されるなど、クリムトをはじめとするウィーンの芸術家は日本美術を熱狂的に迎えたそうです。クリムトへの影響の1つとして代表的なのが金の使用で、「黄金時代」と呼ばれる装飾的なスタイルには屏風や蒔絵の砂子による技法が影響しているようです。また、日本の着物をコレクションし、日本の伝統的な文様から着想を得ていたと考えられるようです。ここにはそうした型紙(着物の染色につかう)や酒井抱一の屏風などが展示されていて、これはこれで見事です。日本らしい工芸・絵画とクリムトの共通点が垣間見れました。

[素描]
最後はクリムトの女性を描いた油彩2点と素描が10点程度並んでいました。

154 グスタフ・クリムト 「リア・ムンク1」
花に囲まれ寝ているような女性の顔を描いた作品です。これはパトロンの娘のようですが、自殺して死んでしまったようです。背景は青く沈んだ雰囲気で、顔は白っぽい色合いとなっていました。これまで観てきた画風とまた変わっていて、装飾的なのは花くらいで静かな作風となっていました。解説ではミレイのオフィーリアのようだとのことでしたが、確かに構図は似てるかも。

161 グスタフ・クリムト 「着物を着て立つ女」
こちらは着物を着て立っている女性の素描で、等身が長く頭の先と足の先は画面からはみ出しています。かなり素早く描かれている印象を受け、着物の模様などは線と円だけのようですが、離れてみると着物の柄であると分かるのがちょっと不思議。微笑んでいて可憐な雰囲気の女性でした。

156 グスタフ・クリムト 「赤子(揺りかご)」 ★こちらで観られます
これは三角形に積まれた服?の上に赤ん坊が顔を出している様子が描かれた作品です。様々な色と模様の衣服が連なっていて、装飾的かつパッチワークのような印象を受けますが、色合いは若干くすんだ感じで、シーレなどを彷彿とさせました。解説によると短期間で描かれたそうです。


ということで、クリムトの油彩は10点ほどでしたが、宇都宮まで遠征した甲斐がありました。「人生は戦いなり(黄金の騎士)」も良かったですが、クリムトと分離派について理解を深めることができたのも参考になりました。会期は残りわずかですが、お勧めの展示です。


おまけ:
今回はじっくり観ていたために、閉館が近づき常設は10分で周る羽目になりましたw 今回もルネ・マグリットの「大家族」や「夢」、デュフィの花の絵など良質なコレクションが展示されていました。
また、この美術館のカフェは非常に美味しいので楽しみにしていたのですが、閉館後すぐにバスの時間になってしまったので残念ながら今回は立ち寄りませんでした…。またの機会を樂しみにしようと思います。
 参考記事:
  joie de sens ジョワ・デ・サンス (宇都宮美術館のお店)
  宇都宮美術館の常設 (2010年03月)


 参照記事:★この記事を参照している記事


 


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クリムト 黄金の騎士をめぐる物語 (感想前編)【宇都宮美術館】

前回ご紹介したお店でお昼を済ませた後、宇都宮美術館で「生誕150年記念 クリムト 黄金の騎士をめぐる物語」を観てきました。メモを多めに取ってきましたので、前編・後編に分けてご紹介しようと思います。この展示は前期・後期の日程があり、私が観たのは後期の内容でした。

P1110146.jpg

【展覧名】
 生誕150年記念 クリムト 黄金の騎士をめぐる物語

【公式サイト】
 http://event.chunichi.co.jp/klimt/index.html
 http://u-moa.jp/exhibition/exhibition.html

【会場】宇都宮美術館
【最寄】宇都宮駅


【会期】2013年4月21日(日)-2013年6月2日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間30分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日14時頃です)】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
会期も残り少なくなっていることもあり、結構混んでいました。バスは宇都宮駅からずっと満員だったかな。 しかし展覧会は自分のペースで見られたので、じっくりと時間をかけて鑑賞しました。(普通に見れば恐らく1時間半くらいだと思います)

さて、今回はウィーンで活躍したグスタフ・クリムトの展示となっています。日本でも大人気のクリムトですが、去年(2012年)は生誕150周年で、本国ウィーンではクリムト関連の展示が大いに盛り上がっていたようです。この展示は愛知県美術館が所蔵する(日本の公立美術館で初めて収蔵された)クリムトの絵画作品「人生は戦いなり(黄金の騎士)」を中心とした内容で、愛知・長崎を巡回しこの宇都宮で最後となります。展覧会は時代によって章分けされ、各章ごとにクリムトの変遷を取り上げていましたので、詳しくは気に入った作品を通してご紹介していこうと思います。


<第1章 闘いのプレリュード>
まずはクリムトの初期のウィーン工芸美術学校入学から分離派結成の頃までコーナーです。クリムトは1862年にウィーン郊外に生まれ、14歳の時にウィーン工芸美術学校に入学しました。そしてそこで古典の模写を重視し手工芸的な技術と知識を基礎とする教育を受けたそうで、初期の卓越したデッサンはこの教育方針を反映しているそうです。在学中の1879年には弟のエルンストと同級生のフランツ・マッチェと共に3人で共同制作のグループを結成し、さらに卒業の1883年には同じメンバーで「芸術家カンパニー」を立ち上げ、室内装飾の仕事を請け負うようになりました。彼らは当時人気を博していた画家ハンス・マカルトのバロック様式に倣ったスタイルだったそうで、高い評価を得ていたようです。 やがて1890年代に入ると、クリムトに転機が訪れます。ベルギーの象徴主義の画家フェルナン・クノップフの作品に出会うと、クリムトはアカデミックな写実性の強い描写から離れ、非現実的なものを描く象徴主義の傾向を強めていきました。そしてウィーン造形芸術家組合に所属していたクリムトをはじめとする若い芸術家たちは古い伝統的な組合を脱退し、1897年に新たにウィーン分離派を結成しました。クリムトはこの分離派の初代会長となり、翌年に開催された第1回分離派展のポスターをデザインしたそうで、そこには新しい芸術を生み出そうとする若い画家の想いが込められていたそうです。また、分離派は高いデザイン性を持つ機関誌「ヴェル・サクルム」を発行し、同組織の展覧会の様子や会員の作品を紹介していきました。 この章にはそうした時期の作品が並んでいました。
 参考記事:
  ウィーン・ミュージアム所蔵 クリムト、シーレ ウィーン世紀末展 (日本橋タカシマヤ)
  ベルギー幻想美術館 (Bunkamuraザ・ミュージアム)
  ベルギー王立美術館コレクション『ベルギー近代絵画のあゆみ』 (損保ジャパン東郷青児美術館)
  アントワープ王立美術館コレクション展 (東京オペラシティアートギャラリー)

1 グスタフ・クリムト 「頭部習作」
これは学生時代の素描で、髪を結った女性の石膏像が描かれています。写真かと見間違うほどに写実的で、陰影や質感をリアルに感じます。学生の頃から高いデッサン力を持ち、絵が上手かったのが伺えました。
この隣には裸婦の素描もありました。

3 グスタフ・クリムト 「横顔をみせる少女」
暗く緑っぽい背景に横向きの髪の長い少女が描かれた肖像画です。胸元には真珠をつけていて、左から光が当たっているような陰影が付けられています。真珠と瞳には白で光が表されていて、解説ではフェルメールのようだとのことでしたが、確かにちょっと似た雰囲気がありました。静かで賢そうな印象を受ける女性像です。 この辺はまだ写実性が強いかな。

この近くには学生時代に鉛筆で描いたオウムの素描3点や花の素描3点もありました。この頃の素描は描写力の高さが伝わってきます。

7 グスタフ・クリムト 「森の奥」 ★こちらで観られます
中央に大きな樹の幹が画面を縦に分割するように描かれ、その周りには森の草木が描かれています。手前は暗く奥が明るくなっていて、明暗が強く感じられます。解説によると、大胆な構図は浮世絵から影響を受けた印象派やポスト印象派と共通するようです。また、クリムトは樹の幹のモティーフに関心が強かったそうで、特に1900年以降に頻繁に描かれるようになるそうです。これもアカデミックな印象を受ける作品でした。

14 グスタフ・クリムト 「詩人とミューズ」 ★こちらで観られます
仰向けで寝ている男性と、沢山の天使のような子供たちを連れて現れるミューズ(裸婦)が描かれた作品です。寝ている男は詩人らしく、これはミューズがインスピレーションを与えている場面のようです。やや淡い色彩で幻想的な印象を受け、よく知られるクリムトの作風とはまだ異なっているように思いました。解説によると、これは建築装飾(天井画?)のための作品と考えられているそうですが、実際に作られた建物はなく構想で終わったもののようです。また、当時人気の宮廷画家ハンス・マカルトのバロック様式を模範とした重厚な表現に影響を受けているのが伺えるようで、ドラマチックな構図や筆さばきに表れているとのことでした。確かにたなびく帯や連なる天使たちなど劇的な印象を受けました。

この両隣には建築装飾の下絵のエッチングなどもありました。

[ウィーン分離派]
19世紀末のウィーンはオーストリア=ハンガリー帝国の首都として栄華を極めていたようで、美術界で主要な位置を占めていたのは歴史主義的な伝統を重んじるウィーン造形芸術家組合でした。1897年にその組合内で革新派とされつつあったクリムトが中心となりそこから分離・独立する形で設立されたのがオーストリア造形芸術家協会(通称:ウィーン分離派)でした。ウィーン分離派は「時代にその芸術を、芸術にその自由を」と掲げ、現代に相応しい芸術の創出を理想としました。
ウィーン分離派の活動の旺盛さ・質の高さは傑出したものとなり、絵画・彫刻・建築・家具など幅広い分野に芸術感性を行き渡らせ、ユーゲントシュティール(青春様式)が豊かに開化したそうです。

16 グスタフ・クリムト 「第1回ウィーン分離派展ポスター」 ★こちらで観られます
これは分離派展のポスターで、検閲が入ってすぐに修正されたのですが、ここには検閲前の作品が展示されていました。上部にミノタウロスを仕留めようとする英雄テセウが描かれ、中央辺りは空白で、右の方には丸い盾と槍を持った女神アテナが描かれています。中央が大きく空いているのが大胆な構成ですが、これはジャポニズムの影響とのことです。また、テセウスには若い画家たちの意志が込められているそうで、最初は全裸で描かれていたものの、局部が描かれているのは好ましくないと検閲されて、その部分に修正が入りました。テセウスは非常に力強く勢いを感じさせる姿勢で、旧態然とした美術界に挑んでいるようでした。 なお、分離派の作品にはよくアテナが出てきますが、アテナは戦いと芸術の神で、彼らのシンボル的な存在と言えそうです。

この近くにはコロマン・モーザーなど分離派の仲間のポスターや、ウジェーヌ・グラッセのアールヌーヴォー的なポスターも並んでいました。

[ヴェル・サクレム]
ウィーン分離派は「聖なる春」という意味の機関誌「ヴェル・サクレム」を1898年~1903年に出版したそうです。この機関誌には様々な傾向の美術・工芸・デザイン・建築・舞台・音楽・文芸を紹介するとともに批評的に論じました。印刷物としてのデザインにも優れていたようで、正方形の版型を特徴とし、様々な表現をするのにうってつけだったそうです。ここにはその正方形のヴェル・サクレムの表紙が並んでいました。ほぼ単色の作品群で、それぞれ画風が異なりますが、先進的な印象を受けました。

このコーナーの近くには分離派展のポスターやロダンの彫刻もありました。ウィーン分離派はロダンを会員に迎え、重要作家として紹介していたようです。クリムトの絵画においても人物画の様々なポーズや主題に影響を与えたとのことでした。

29 マクシミリアン・レンツ 「ひとつの世界(ひとつの人生)」 ★こちらで観られます
こちらはウィーン分離派の仲間の作品で、クリムトとは学生の頃からの付き合いのようです。横2m位ありそうな大型の作品で、薄く青い衣を着た4人の乙女が花畑の上に立ち、花の付いた枝を持っています。その手前には葉巻?を持った帽子にスーツ姿の俯く男性が描かれ、神話的な楽園に現代人が紛れこんだかのような感じです。背景にも楽しそうに踊る女性達が描かれているのですが、その対比の為かこの男性は悩んでいるような表情に見えました。 また、色は強めなのに全体的に少しぼんやりしていて幻想的な雰囲気を感じるのも面白かったです。これはこれで見どころでした。

近くにはジョルジュ・ミンウの彫刻などもありました。その後はまた機関誌のヴェル・サクレムの表紙や分離派展のポスターなどが並びます。

44 チャールズ・レニー・マッキントッシュ 「室内装飾の芸術家[芸術愛好者の家Ⅱ]」
これはチャールズ・レニー・マッキントッシュによる室内装飾を描いた透視図面で、何枚かセットで展示されていました。幾何学的でスッキリした印象を受け、マッキントッシュらしい感じを受けます。解説によると、チャールズ・レニー・マッキントッシュは妻のマーガレット・マクドナルド・マッキントッシュを含む「ザ・フォー」のメンバーと共に第8回分離派展で室内装飾を展示し、絶大な歓迎で受け入れられたそうです。
この近くにはマッキントッシュ夫妻の作品がいくつか並び、椅子や扉の刺繍パネルなどが展示されていました。

少し先には分離派会館の写真もありました。ヨゼフ・マリア・オルブリッヒによって設計された建物で、金の装飾の丸屋根があります。ちょっとモスクみたいな感じに見えるかな。

[ウィーン大学講堂の天井装飾画をめぐるスキャンダル]
クリムトは1894年にウィーン大学大講堂にそれぞれの学部を表す天井画を制作するよう依頼を受けます。大学側は文明や科学の合理性が社会的進歩に貢献するという学問観が示されるのを期待したようですが、描かれたのは合理的思考を超越する「哲学」という作品でした。これには大学から文部大臣に抗議されたそうですが、続いての「医学」では女性の裸体表現が問題視され、帝国議会でも論争に及んだそうです。さらに「法学」では批判にさらされた自らの状況を反映し、処罰と復讐の権力としての「法」を表しました。こうして、1905年には天井画の完成を断念したようで、その後コレクターなどを経てオーストリア美術館の所蔵となりました。しかし、戦時中に疎開先の城で城ごと焼失してしまったそうで、ここにはそのコピーが展示されていました。

52 グスタフ・クリムト 「哲学」 (原寸大白黒写真)
こちらは失われた「哲学」を原寸大(2m×4mくらい?)の大きさにコピーしたものです。まるで宇宙空間に人々が列をなしているかのように浮遊していて、人物は具象的ですが。象徴的な雰囲気です。右にはスフィンクスの顔があり、左には絶望しているようなポーズの人が描かれるなど、学問の勝利とはかけ離れて見えるのは仕方ないかもw 今はカラーが分からないのか、白黒でしたがクリムトらしい作風に思えました。

出入り口のある中央のホールには「医学」と「法学」もありました。医学は女性の裸体が描かれているくらいなので、当時の世相が今より敏感だったのかな?とも思いますが、「医学」は明らかに挑戦的に思えましたw タコのような怪物に食われる?人など、ちょっと過激かも。


ということで、この辺で半分程度なので今日はここまでにしておきます。油彩はそれほど多くありませんが、初期からクリムトの画業を観ていける構成は参考になりました。後半は今回の見所となる作品もありましたので、次回はそれについてご紹介しようと重ます。


  → 後編はこちら


 参照記事:★この記事を参照している記事


 


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宇味家(うまいや) 【宇都宮界隈のお店】

この前の土曜日に宇都宮まで遠征して宇都宮美術館の展示を観てきたのですが、その際にバス待ちの時間を利用して宇都宮駅の駅ビルにある「宇味家(うまいや)」というお店で餃子を食べて来ました。

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【店名】
 宇味家(うまいや)

【ジャンル】
 餃子

【公式サイト】
 http://umaiya.jp/
 食べログ:http://tabelog.com/tochigi/A0901/A090101/9002345/
 ※営業時間・休日・地図などは公式サイトでご確認下さい。

【最寄駅】
 宇都宮駅

【近くの美術館】
 宇都宮美術館(バスで20分程度)


【この日にかかった1人の費用】
 350円程度

【味】
 不味_1_2_③_4_5_美味

【接客・雰囲気】
 不快_1_2_③_4_5_快適

【混み具合・混雑状況(土曜日12時半頃です)】
 混雑_1_2_3_4_⑤_快適

【総合満足度】
 地雷_1_2_③_4_5_名店

【感想】
お昼ちょっと過ぎでしたが、特に待つこともなくすぐに入れました。

さて、このお店は宇都宮駅の駅ビルの中に数店の餃子屋さんが軒を連ねているうちの1軒です。宇都宮は全国でも1位2位を争う餃子の消費量の高い街で、名物としても有名なので宇都宮に行ったら餃子を食べるというのも目的の1つになります。 バスの時間待ちがあったので駅の中のこのフロアに行ったのですが、正直見た目では数店の餃子屋さんはどれも同じように見えたので水餃子があるこのお店を選びました。

お店の中はこんな感じ。
P1110134_20130528014045.jpg
それほど広いわけではありません。

それほどお腹も減っていなかったので、連れと2人で焼き餃子と水餃子を1皿ずつ頼んでみました。

こちらは焼き餃子のシングル(345円)
P1110136.jpg
パリっとした焼き上がりとなっていました。味は結構普通かもw 私には違いが分かりませんが、地元の栃木県産の豚肉やニラも使っているようです(季節によって産地が変わることもあるそうです) たれは結構辛めかな。私は辛くないのが好きなので、これはちょっと残念。

続いてこちらは水餃子のシングル(345円)
P1110138.jpg
こちらはモチモチした食感で美味しかったです。やはり餃子は水餃子の方が好きかも。

この2つ以外にも他にも揚餃子とフライ餃子もありました。


ということで、驚くほど美味しいというわけではありませんでしたが、気軽に食べられる値段で早速 名物を堪能してきました。ここは駅ビルなので、電車待ちやバス待ちをしながら利用することもできるのが便利かと思います。



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竹久夢二 美人画とモデル展 【竹久夢二美術館】

前回ご紹介したカフェでお茶をする前に、弥生美術館と繋がっている竹久夢二美術館で「竹久夢二 美人画とモデル展」を観てきました。

P1110120.jpg

【展覧名】
 竹久夢二 美人画とモデル展 ―描かれた女性の謎とロマンスに迫る―

【公式サイト】
 http://www.yayoi-yumeji-museum.jp/exhibition/yumeji/now.html

【会場】竹久夢二美術館
【最寄】東大前駅、根津駅など


【会期】2013年4月4日(火)~6月30日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 0時間30分程度

【混み具合・混雑状況(日曜日15時頃です)】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_③_4_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_③_4_5_満足

【感想】
冒頭に記載した通りこちらは弥生美術館と繋がっているのですが、何故かこちらの方が空いている感じでした。

さて、ここは竹久夢二の作品を集めた美術館で、今回は特に美人画とモデルについてをテーマにしたコレクションが並ぶ内容でした(とは言え竹久夢二はそもそも美人画が多いと思いますがw) 展覧会は4つの章に分かれていましたので、いくつか気になった作品と共にご紹介していこうと思います。


<1部 美人画>
弥生美術館と繋がっている2階から展覧会は始まり、まずは美人画からです。竹久夢二は明治後半から昭和にかけて活躍した画家で、特に大正期は「夢二式美人」と呼ばれた美人画が人気を博しました。その美人画の特徴はいくつかあるようで、
 目:三白眼でまつ毛が長い、またはつぶらで大きな瞳。伏目がち。
 鼻:鼻筋が通り小鼻か小さめ。
 口:小さい。常に閉じている。微笑んで口角が上がることもある。
 顔:色白。
 首:細く長い。
 肩:肩幅が狭く撫で肩。
 手:大きい。指は細長い。
 姿:華奢。立ち姿は曲線を描く。露出は少なく色白。
といった点が挙げられるようです。ここにはそれが頷ける作品が並んでいました。

竹久夢二 「寝椅子」
着物の女性がやや屈んでいる様子が描かれた作品で、これは婦人グラフの挿絵のようです。先ほど上げた特徴がよく分かり、そのポーズはS字を形づくっていました。スラっとした印象を受ける美人です。

竹久夢二 「Too Late」
正座で座る黒と赤の縞模様の着物を着た女性を描いた作品です。袖で顔を覆うようなポーズで泣いているらしく、膝の上には手紙が置かれています。哀しみがストレートに表されていて、物語性も感じられました。また、この近くにはこの絵と同じポーズの女性が描かれた作品が2点あり、類似性が見受けられました。この構図を気に入っていたのかな?

竹久夢二 「如月伝説」
これはこたつで本を読んで眠り込むような感じの女性が描かれた作品で、前のめりになって気持ち良さそうな顔をしています。 この近くにはこうした仕草をテーマにした作品が並び、特に「もたれる」と「うつむく」ポーズに注目しているようでした。言われてみると確かに夢二の作品はそうした特徴もあるかも。

竹久夢二 「雪の夜の伝説」
紫の頬かむりをした着物の女性を描いた作品で、うつむいていて周りは吹雪が吹いて背景には蔵が立ち並んでいます。これはどういう場面か分かりませんが物語の一部かな? 周りの寒々しい雰囲気と相まってやや哀しげな女性に見えました。

竹久夢二 「鴨東の夏」
鴨東とは鴨川の東のことで、これは恐らく祇園あたりかな? 団扇を持つ舞妓の後ろ姿を描いた作品です。青い着物に長い帯で、白いドクダミの花が描かれています。全体的に幻想的な雰囲気で女性の白く長い首筋が何とも色っぽかったです。


<2部 モデル>
続いてはモデルとなった女性と共に紹介されているコーナーです。

竹久夢二 「みちのくの女1」
こちらは芳賀テフ(ちょう)という女性を描いたスケッチで、横向きで描かれやや伏目がちで、しっとりとした佇まいをしています。夢二はこの女性と結婚を考えていたようですが、女性の父親に反対され叶うことは無かったようです。近くには写真もあったのですが、儚げに見える美人でした。

竹久夢二 「夏姿」
こちらは掛け軸で、水色と白のチェック模様の浴衣を着た美女が描かれています。右手に団扇を持ち左手は頬に当てていて、微笑む表情が爽やかです。デフォルメされた画風で描かれ、色白で可憐な女性でした。解説によるとこの絵は笠井彦乃という女性がモデルらしく、夢二と次男と共に一緒に暮らしたこともあったようですが、やがて引き離されて23歳の若さで亡くなったのだとか。

竹久夢二 「稲荷山」 ★こちらで観られます
これは今回のポスターになっている作品で、傘を持った女性が松の枝といくつかの鳥居を背景に描かれています。目は細めで黒髪の美女で、黒い着物と真っ白な肌の色が対比的で色っぽく感じます。解説によるとこちらのモデルは「お葉」こと佐々木カ子ヨ(かねよ)だそうで、20歳年下の妻となった女性です。やや妖しい雰囲気もあるのですが、この稲荷山とは京都の伏見稲荷らしく、白い肌は白狐を思わせるとのことでした。確かにそう言われると顔もそれっぽい雰囲気があるかも…。
近くにはお葉の遺品のかんざしや写真などが並んでいました。上目遣いをした写真はこの作品とよく似ています。それにしても20歳年下ですか。どうやら夢二は恋愛が旺盛だったようです…w


<3部 女性を描く>
続いてはスケッチなどが並んだコーナーでした。ここは個別の作品のメモは取りませんでしたが、素早く描かれたスケッチは意外と写実的なのが興味深かったです。他にも挿絵なども展示されていました。


<4部 理想の女性>
ここには竹久夢二の日記や著書から恋にまつわる詩のような言葉があり、最後に掛け軸や屏風などが並んでいました。

竹久夢二 「この夜ごろ」
これは2曲1双の屏風で、赤い着物の女性が鏡の前で髪を結っているところが描かれています。黒髪に白い肌で、やや儚い印象を受けました。体の等身は長く、デフォルメされた感じは夢二の美人画ならではのスタイルに思いました。画中には自作の詩もありましたが、それはよくわからずw 



ということで、竹久夢二の作品を堪能することができました。私は竹久夢二はそれほど好きではないので、あまり感慨はありませんでしたが、未だにファンの多い画家なので、好きな人には楽しいところだと思います。夢二についてよく知ることができる美術館でした。


おまけ:
ちょうどこの日はすぐ隣の東大で五月祭が行われていたので、ちょっと覗いてきました。
 参考リンク:東大 五月祭 (2013年は既に終了)
P1110132.jpg

これは農学部の辺り。模擬店なども出てましたが、学術的な内容が多いのが特徴かな。今思えばレゴ部の展示を観に行かなかったのが悔やまれるw




 参照記事:★この記事を参照している記事



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夢二カフェ 港や 【根津界隈のお店】

前回ご紹介した弥生美術館の展示を観た際、併設のカフェにも行ってきました(竹久夢二美術館も観た後で行きましたが先にこちらをご紹介しておきます。)

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【店名】
 夢二カフェ 港や

【ジャンル】
 カフェ

【公式サイト】
 http://www.yayoi-yumeji-museum.jp/institution/cafe.html
 食べログ:http://tabelog.com/tokyo/A1311/A131106/13026180/
 ※営業時間・休日・地図などは公式サイトでご確認下さい。

【最寄駅】
 東大前駅、根津駅など

【近くの美術館】
 弥生美術館、竹久夢二美術館


【この日にかかった1人の費用】
 750円程度

【味】
 不味_1_2_③_4_5_美味

【接客・雰囲気】
 不快_1_2_③_4_5_快適

【混み具合・混雑状況(日曜日15時半頃です)】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【総合満足度】
 地雷_1_2_③_4_5_名店

【感想】
ほぼ満席くらいの混み具合でしたが、落ち着いてお茶することができました。

さて、このお店は弥生美術館と竹久夢二美術館に併設されたカフェで、美術館の入口にあります。1階の席もあるようでしたが、私は2階に通されました。

中はこんな感じ。夢二の絵などが飾ってありました。
P1110126.jpg
古き良き昔ながらの喫茶店といった感じです。窓際は美術館の中庭を眺めることができます。

私はこの日、ケーキセット(750円)を注文しました。まずはチョコレートケーキ。
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甘さ控えめで結構あっさりしているかな。特別な美味しさというわけではないですが、こちらも昔ながらといった感じでした。

飲み物はコーヒーにしました。
P1110130_20130524232644.jpg
こちらは香りが良く、軽い苦味がありました。軽やかな感じです。

連れはバナナのケーキをたのんでいました。
P1110124.jpg
しっとりして、軽いバナナの香りがあり素朴な美味しさだったそうです。

連れは紅茶にしていました。
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こちらも良い香りでした。


ということで、ゆっくりすることができました。結構お手頃な価格なのも良かったです。美術館に入らないでも利用できるので、東大などに行った際にも使えそうです。


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魔性の女 挿絵(イラストレーション)展 【弥生美術館】

この前の日曜日に、東大の近くにある弥生美術館で、「魔性の女 挿絵(イラストレーション)展 -大正~昭和初期の文学に登場した妖艶な悪女たち-」を観てきました。

P1110119.jpg P1110117.jpg

【展覧名】
 魔性の女 挿絵(イラストレーション)展 -大正~昭和初期の文学に登場した妖艶な悪女たち-

【公式サイト】
 http://www.yayoi-yumeji-museum.jp/exhibition/yayoi/now.html
 http://yayoi-yumeji-museum.blogzine.jp/blog/

【会場】弥生美術館
【最寄】東大前駅、根津駅など


【会期】2013年4月4日(木)~6月30日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間00分程度

【混み具合・混雑状況(日曜日14時頃です)】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_③_4_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
意外とお客さんが多くて、狭くなっているところでは若干の混雑感がありました。

さて、この展覧会は「魔性の女」をテーマに大正~昭和初期の文学と共にその挿絵などを紹介する内容となっています。大体は文学者ごとに小コーナーに分かれている感じでしたので、気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。


まずは橘小夢という挿絵画家(黒田清輝/川端玉章の教え子)のコーナーです。

橘小夢 「玉藻の前」 ★こちらで観られます
こちらは今回のポスターにもなっている作品で、御簾から顔を覗かせている十二単の女性が描かれています。等身がかなり長く、御簾の向こう側に女性の影が映っているのですが、その形は狐(九尾の狐)の姿となっています。顔も狐っぽく、これは九尾の狐の化身の玉藻の前のようです。周りは花が舞い散り ますます妖しい雰囲気で、まさに魔性といった雰囲気でした。線が細く影の付け方が独特で、幻想的な作風です。

この近くには佐賀の化け猫騒動の話を題材にした作品もありました。

橘小夢 「刺青」 ★こちらで観られます
黒を背景に、背中全体に大きな女郎蜘蛛の刺青をした女性が、もたれ掛かるようにうつ伏している様子が描かれた作品です。背景の暗闇には蜘蛛の巣があり、女性は肌が白く色気があり、不気味でリアルな蜘蛛の刺青と共に妖しい雰囲気です。解説によると、これは谷崎潤一郎の同名の小説を題材にしているそうで、若い彫師が芸姑の使いとしてやってきた女性を、自分の魂を彫り込むために長く探し求めてきた女と考えて眠らせ、寝ている間にその宿願を果たすそうです。そして、眠りから醒めた女性は女郎蜘蛛のような魔性を自覚する女と成り代わる… というストーリーのようです。こちらの作品もかなりインパクトがあり印象的でした。

橘小夢 「地獄太夫」
火の車や鬼、針の山、血の池など地獄の様子が模様となっている着物を着た遊女を描いた作品です。この地獄太夫という女性は室町時代の遊女のようですが、ここに描かれている女性は明治頃の姿で、この頃に同じく地獄絵をまとっていた幻太夫をモデルにしていると考えられるそうです。幻太夫は上客の気を引くために小指を切って送りつけたこともあるそうで、ちょっとエキセントリックな人物なのかも?? 振り返るようなポーズで微笑んでいて、狂気と魅力が同居する感じでした。

この近くには鏑木清方がミレイのオフィーリアを元に描いた「お宮の死」の口絵などもありました。続いては作家 泉鏡花の挿絵のコーナーです。

鰭崎英朋 「続風流線」
こちらは泉鏡花の本の挿絵で、水の中で着物の女性を持ち上げて泳ぐ男性が描かれています。女性の体は大きく反り返り、目をつぶってグッタリした感じです。どのような話か分かりませんでしたが、儚げな印象を受ける女性でした。

この辺は泉鏡花の小説の挿絵が並び、鏑木清方や小村雪岱などが中心でした。
 参考記事;
  小村雪岱とその時代 (埼玉県立近代美術館)
  清方/Kiyokata ノスタルジア (サントリー美術館)

続いては谷崎潤一郎の小説のコーナーです。

岩田孝太郎 「三代女性鑑 ナオミ」
こちらは谷崎潤一郎の「痴人の愛」を題材にした作品で、四つん這いになった男と、その上で手ぬぐいを手綱にして馬乗りになっている女性が描かれています。この女性がナオミで、主人公が女給から見出して人形のように可愛がっていたものの、やがて増長して主人公は言いなりになってしまうという内容です。主人公もそれに喜びを感じているという倒錯した話なのですが、この絵からは2人の関係と変性がよく伝わってくるかもw やや洋風な画風となっていました。

続いては水島爾保布(みずしまにおう)という画家・小説家のモノクロの挿絵のコーナーです。

水島爾保布 「人魚の嘆き」
これは谷崎潤一郎の小説の挿絵で、何枚かあるのですが私が気に入ったのは人魚が体をくねらせている挿絵です。髪の毛が広がり周りは水の流れのようになっていて、人魚は苦しんでいるようにも見えました。しかし一方では官能的な雰囲気があり、妖艶な印象を受けました。

この近くには河野通勢による聖女の挿絵などもありました。また、部屋の中央にもケースがあり、鰭崎英朋、月岡夕美、名越國三郎といった画家の小さめの挿絵もありました。

続いては2階の展示です。

小村雪岱 「お伝地獄」
これは実在の殺人犯の女性をモデルにした作品だそうで、挿絵が何枚か並んでいました。お伝は夫の病気を治そうと東京に出てくるものの、美しいが為に男たちが群がり、身を守っているうちに罪を重ねていき 最後はユスリや強盗を働くようになるというストーリーのようです。ちょっと気の毒なタイプの魔性の女かも…。これは以前観たことがあったのですが、ストーリーを知るとまた違って見えました。

この近くには江戸川乱歩のコーナーがありました。林唯一による当時の本の挿絵や、現在公開している美輪明宏主演の黒蜥蜴のポスターなども展示されていました。他にも森下雨村の「青斑猫」の挿絵(画 岩田専太郎)、横溝正史の「鬼火」の挿絵(画 竹中英太郎)、内藤良治のアールヌーヴォー的な創作カット画集などもあります。

続いては蕗谷虹児(ふきやこうじ)のコーナーで、彼が表紙を描いた少女雑誌や婦人雑誌などが並んでいました。

蕗谷虹児 「幸福の使者」
こちらは雑誌「令女界」の口絵で、猫を抱いた着物の女性が描かれています。ニンマリした表情で、耳元には白い大きな花を飾っています。背景は直線と円を組み合わせた感じがキュビスム的な雰囲気でした。妖しい感じよりも気品が感じられました。

続いては雑誌の表紙で絶大な人気を博した高畠華宵(たかはたかしょう)のコーナーで、少年誌、少女誌、婦人雑誌、新聞などで活躍していたそうです。

高畠華宵 「ラインの黄金」
こちらはドイツのローレライ(水の精が歌声で誘惑して船を沈めるという伝説)をテーマにして描いた作品で、岩に座った上半身裸の女性が長い髪をとかしているような仕草で描かれています。線が細く気品ある描写で、ファム・ファタール的な魔性の雰囲気がありました。これは中々魅力的です。

この先は高畠華宵が表紙を描いた雑誌が並んでいました。目を細めるような表情の美女が多いかな。 また、部屋の中央には伊藤彦造による写実的な絵や、山六郎による単純化された画風の作品なども展示されていて、最後には実在した魔性の女についても取り上げていました。松井須磨子、林きむ子、お葉(佐々木カ子ヨ)、平塚らいてう等が挙げられ、 平塚らいてうは夏目漱石の三四郎のヒロインのモデルにもなっているそうです。

この辺で魔性の女 展は終わりですが、3階には高畠華宵についてのコーナーがあります。弥生美術館の創設者である鹿野琢見は幼い頃に高畠華宵の表紙に衝撃を受けたそうで、その死後に著作権を譲り受けて美術館に保存しているそうです。

高畠華宵 「情炎」
これは日本画の掛け軸で、雪の降る中でハシゴに登る着物の女性が描かれています。解説はありませんでしたが、恐らくこれは 恋する男に会いたいが為に放火した八百屋お七をテーマにしていると思います。髪を噛んで必死に探しているような表情は狂気や執念と共に悲哀を感じさせました。どことなく儚げな印象です。

この階にはこの他にも高畠華宵による雑誌の表紙やすごろく、ポスターなどもありました。

ということで、挿絵が多いのでやや地味な内容でしたが様々なタイプの魔性の女を観ることができました。美しくも男を破滅に追いやる女は何故か今も昔も人気ですねw 妖しい魅力にあふれた展示でした。


 参照記事:★この記事を参照している記事



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土佐光吉没後400年記念源氏絵と伊勢絵 ―描かれた恋物語 【出光美術館】

前回ご紹介したお店でお茶する前に、出光美術館で「土佐光吉没後400年記念源氏絵と伊勢絵 ―描かれた恋物語」を観てきました。この展示はすでに終わってしまいましたが、参考になりましたので、記事にしておこうと思います。

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【展覧名】
 土佐光吉没後400年記念源氏絵と伊勢絵 ―描かれた恋物語

【公式サイト】
 http://www.idemitsu.co.jp/museum/honkan/exhibition/index.html

【会場】出光美術館
【最寄】JR・東京メトロ 有楽町駅/都営地下鉄・東京メトロ 日比谷駅


【会期】2013年4月6日(土)~5月19日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間00分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日13時半頃です)】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_③_4_5_満足

【感想】
最終日の1日前に行ったのですが、予想以上に混んでいて作品によっては人だかりができるほどでした。

さて、今回は土佐光吉の没400年を記念し、光吉とその時代の源氏絵、そして近接する物語(特に伊勢絵)との関係をテーマにした内容となっていました。源氏物語は先行する伊勢物語を重要な着想源としているそうで、絵画においてもその傾向が観られるようです。テーマによって章分けされていましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介しようと思います。なお、この記事内では源氏物語の各帖の名前の隣に番号を振っておきますが、これは全54帖のうちの帖数となります。


<1 貴公子の肖像-光源氏と在原業平>
まずは源氏物語の主人公の光源氏と、伊勢物語の在原業平の肖像のコーナーです。この2人は両方とも天皇の血を引いていて(源氏物語はフィクションですが)、光源氏は帝王の相を持ちながら帝になると世が乱れるとして臣下に降ろされました。一方、在原業平は実在しましたが平安時代の歴史書「日本三代実録」においては、「見た目に優れ、自分勝手に振るまい、世間の流儀に従わない。漢学はできなかったが和歌に秀でている。」と記載されているだけのようです。やがて在原業平の断片的な伝記などがフィクションの中で肥大化していき、稀代の色好みとしてのイメージがついたと考えられるそうで、我々の知るイメージもフィクションも多分に含んでいそうです。ここにはそうした2人の肖像が並んでいました。

1 岩佐又兵衛 「源氏物語 野々宮図」
墨の濃淡で描かれた掛け軸で、源氏物語の10賢木の場面が描かれています。六条御息所の住む嵯峨野々宮を訪れた光源氏とお供が描かれ、入り口の鳥居の下で上を見上げている姿をしています。背景には薄っすらと柴垣が描かれ、鳥居と柴垣はお互いに対角線となってクロスするようになっていました。その為か、源氏は気品のある雰囲気でしたが、画面全体からは劇的な印象を受けました。

2 岩佐又兵衛 「在原業平図」
弓を持ち矢筒を背中にかけている横向きの在原業平を描いた作品です。在原業平は歌仙絵としての伝統があるようですが、こうした立ち姿で描かれることは珍しいそうです。薄っすらと色が付けられ、地に溶け込みそうなくらい薄いかな。やや幻想的な雰囲気もある作品でした。


<2 源氏絵の恋のゆくえ-土佐派と狩野派>
源氏絵の古い形態は一巻の象徴的な場面を、冊子や扇面といった小型の画面に割り当てたものだったようですが、やがて共通する季節や景物を介して物語の中から限られた場面のみを屏風の大画面に選び出す趣向も観られるようになったようです。そして近世には物語の情景それ自体が絵画の主題として前景化したそうで、ここにはそうした屏風作品などが展示されていました。

5 土佐派(扇面)/海北友松(屏風) 「扇面流貼付屏風」
これは6曲1双の押絵貼り屏風で、川を背景に18枚の扇が散らされ、扇を土佐派の画家、背景の屏風の部分を海北友松が作成しているようです。扇のうち7つは源氏物語の場面を表し、39夕霧、38鈴虫、13明石、26常夏、5若紫×2、32梅枝となっているらしく、それぞれ華麗な雰囲気です。一方で背景の川は渦巻くようで、ちょっとシュールで幻想的な雰囲気でした。これは私のような素人が観ても源氏物語の関連作品とは気づけませんw

6 伝 土佐千代 「源氏物語図屏風」
こちらは6曲1双の屏風で、右隻に5若紫と8花宴、左隻に29行幸と13明石の場面が描かれています。物語では繋がらない4つの場面ですが、季節によってまとめているそうで、右隻は金雲たなびく屋敷で女性たちが花見をしている様子と、柴垣からそれを見ている男性、左隻は雪の積もる松の木や川、部屋の中に2羽の鳥が置かれていてそれを観て話散る3人の男女が描かれています。正直、源氏物語の細部まで覚えていないので、モチーフのそれぞれがどの場面の何か私には分かりませんが、解説によると柴垣から見ているのは源氏と紫の上の出会いのシーン(若紫)のようで、この若紫は伊勢物語の初段「春日の里」に着想を得ていると考えられているそうです。また、この絵も伊勢物語の初段を主題にした東京国立博物館所蔵の伊勢絵に似た構図が観られるそうで、両物語の結びつきが分かるようでした。作品自体も煌びやかで見栄えがしますが、それ以上に興味を惹かれる繋がりでした。

この先には狩野探幽の作品などもありました。


<3 伊勢絵の展開-嵯峨本とその周辺>
続いては伊勢絵の展開についてのコーナーです。1608年に角倉素庵らによって古活字版 伊勢物語(嵯峨本)が登場し、それ以降 嵯峨本の伊勢物語の挿絵は伊勢絵の規範として多くの絵師たちに広く浸透したそうです。ここではその前後に誕生した作品を通して、その様相を眺めるという趣旨となっていました。

12 「伊勢物語図屏風」
こちらは6曲1双の屏風で、伊勢物語の12場面が描かれています。上下を区切るように金雲が描かれ、それぞれ2扇くらいにまたがるように、1隻に6場面ずつ描かれています。各場面は嵯峨本の伊勢物語の図様とほとんど一致しているそうで、これは嵯峨本から派生したもののようです。富士山や八つ橋など有名なシーンもあり、大和絵らしい表現となっていました。描かれているものが細かくて場面もバラバラなので、ちょっと散漫な印象を受けました。

16 俵屋宗達 「伊勢物語 若草図色紙」
こちらは掛け軸仕立ての色紙で、烏帽子の貴族と後ろ姿の十二単の女性が描かれています。これは伊勢物語の49若草の場面らしく画面上部には和歌も書かれています。49若草は妹が他の男に奪われることを悔やんだ歌を詠んだところ、妹は意外な言葉に戸惑うという近親愛の話だそうです。女性が後ろ姿なのはそういうことなのかな?? ちょっと意味深な感じを受けました。

この近くには17 岩佐又兵衛「伊勢物語くたかけ図」、15 伝 俵屋宗達「伊勢物語図屏風」などもありました。


<4 物語絵の交錯-土佐光吉の源氏絵と伊勢絵>
続いては今回の展覧会の名前にも入っている土佐光吉のコーナーです。17世紀始め、土佐光吉はそれまでの源氏絵に見られなかった場面を次々と生み出したそうで、恐らく源氏物語の知識に長けた公家の指示を受けて制作されたと考えられるようです。また、その中には伊勢絵の図様に近いものもあるそうで、伊勢物語は重要な着想源だったようです。ここにはそうした土佐光吉の作品などが並んでいました。

20 土佐光吉 「源氏物語図屏風」
こちらは6曲1隻の屏風で、源氏物語の17絵合、10賢木、40御法、12須磨、53手習の5つの場面が並んでいます。家の屋根が無く上空から眺めるような視点の「吹抜屋台」の技法で各場面が描かれ、ちょっと劣化していますが雅な雰囲気があります。解説によると人々の貴賎の顔の描き分けや、剥落で露出した下書きの絵具などに光吉らしい特徴が観られるとのことでした。

23 土佐光吉 「源氏物語図色紙」
これはA4サイズくらいの色紙の作品で、12枚セットのうち6枚が展示されていました。特に気に入ったのは9葵のシーンで、葵祭を観に沢山の牛車が集まり、烏帽子の人々が大勢集まっています。源氏物語では六条御息所の一行と葵の上の一行が争いと起こす場面で、この作品からもその喧騒が感じられます。かなり細かく色鮮やかで、他の優美な作品と比べて生き生きとした雰囲気がありました。

21 土佐光吉 「源氏物語手鑑」
こちらは絵と詞書がセットになっている手鑑で、4セット展示されているうち28野分のシーンが気に入りました。庭先に沢山の草花が描かれ女性の姿もあります。それぞれ肉眼で見るのは大変なくらい非常に細かく、優美に描かれています。この作品の隣には嵯峨本の伊勢物語の白菊というシーンのコピーがあり、それと比べると庭先にいる女性が同じポーズをしているのが分かりました。こちらも伊勢物語と源氏物語の繋がりを感じさせます。

「源氏物語図屏風」
これは6曲1双の屏風で、右隻の上から縦5段ずつ、源氏物語全54帖のシーンが描かれています。一部は2つ分のスペースを使っていて、微妙に左右が繋がるような感じになっています。とは言え、かなりダイジェスト的で、ごちゃごちゃしてるかなw ちょっとやりすぎなのでは…と思いましたw


<5 イメージの拡大-いわゆる[留守模様]へ>
最後は源氏物語や伊勢物語からのイメージの拡大についてのコーナーで、物語に備わるイメージの世界を大胆に表した「留守模様」の作品が並んでいました。「留守模様」は物語の登場人物は描かず、その場面を象徴する物などを描き物語の情景を暗示するというもので、ここにはその代表的な作品が展示されていました。

31 酒井抱一 「八ツ橋図屏風」
こちらは伊勢物語の第9段の八ツ橋の話を題材にした作品で、尾形光琳の同名の作品を元に作られた金地の6曲1双の屏風です。三河国の八ツ橋に咲く燕子花(かきつばた)の5文字を各句の頭にして歌を詠むという内容で、ここにはその燕子花とその間を縫う板でできた橋が描かれています。燕子花は単純化され、板橋は対角線上のジグザグに並びリズム感を感じます。橋の表面には滲みを使ったたらしこみの技法が見られ、風化した感じが出ていました。燕子花は色数が少ないので平坦な感じがするかな。金地に色が映えて鮮やかでした。
 参考記事:琳派芸術 ―光悦・宗達から江戸琳派― 第2部 転生する美の世界 (出光美術館)


ということで、土佐光吉の作品は多めでしたがそれにこだわる感じでもなく、源氏絵と伊勢絵の方に主眼がある展示となっていました。もう終わってしまいましたが、源氏絵と伊勢絵の関係などは特に参考になる内容でした。


 参照記事:★この記事を参照している記事



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COVA TOKYO 【有楽町界隈のお店】

先週、有楽町の美術館に行った際、有楽町の駅のすぐ側にあるCOVA TOKYOというお店でお茶して来ました。

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【店名】
 COVA TOKYO

【ジャンル】
 レストラン/カフェ

【公式サイト】
 http://www.covajapan.com/location/tokyo.html
 食べログ:http://tabelog.com/tokyo/A1301/A130102/13022064/
 ※営業時間・休日・地図などは公式サイトでご確認下さい。

【最寄駅】
 有楽町駅、日比谷駅、銀座駅など

【近くの美術館】
 出光美術館、三菱一号館美術館など


【この日にかかった1人の費用】
 1650円程度

【味】
 不味_1_2_3_④_5_美味

【接客・雰囲気】
 不快_1_2_3_4_⑤_快適

【混み具合・混雑状況(土曜日15時頃です)】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【総合満足度】
 地雷_1_2_3_④_5_名店

【感想】
ほぼ満席でしたが、待たずに座れました。

さて、このお店は1817年にミラノで創業した200年近い歴史のある老舗の東京支店となっています。王族やセレブリティも愛用しているそうで、かなり敷居が高そうなイメージですが、意外と手が出る価格でお茶することができるようなので入ってみました。

中はこんな感じ。高級感があり落ち着いています。接客のレベルが非常に高いのも流石です。
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このお店はレストランとしてのメニューが多いので、もしかしたらカフェとレストランのスペースが違うのかも。(私の周りはお茶している方ばかりでした)

この日、私はフルーツタルト(800円)とコーヒー(850円)を頼みました。
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まずはフルーツタルト。ちゃんとCOVAのマークも入っています。
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こちらは生地が厚めで若干食べにくかったですが、フルーツの爽やかさと生地の軽い甘さがよく合って美味しかったです。特にチェリーが美味しい^^ 

続いてコーヒー。
P1110110.jpg
こちらは苦みが強めでしたが、意外と後味がすっきりしていました。酸味はあまり無かったかな。


ということで、ちょっと贅沢なお店でゆっくりと美味しいお茶を頂くことができました。 ここはイタリアンのランチとディナーも美味しいらしいので、いずれ試してみたいところです。有楽町駅のすぐ近くという立地も良いので、オススメのお店です。



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貴婦人と一角獣展 (感想後編)【国立新美術館】

今日は前回の記事に引き続き、国立新美術館の「貴婦人と一角獣展」の後編をご紹介いたします。前編には今回のメインとなる作品についても記載しておりますので、前編を読まれていない方は前編から先にお読み頂けると嬉しいです。


 前編はこちら


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まずは概要のおさらいです。

【展覧名】
 フランス国立クリュニー中世美術館所蔵
 貴婦人と一角獣展

【公式サイト】
 http://www.lady-unicorn.jp/
 http://www.nact.jp/exhibition_special/2013/lady_unicorn/index.html
【会場】国立新美術館 企画展示室2E
【最寄】千代田線乃木坂駅/日比谷線・大江戸線 六本木駅

【会期】2013年4月24日(水)~7月15日(月・祝) 
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日15時頃です)】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
前編では「貴婦人と一角獣」についてご紹介しましたが、後編はそれに関する考察や同時代の作品についてのコーナーです。


<高精密デジタルシアター>
こちらは映像のコーナーで、6面のタピスリーの絵の要素を分解したり並べて見るような映像が流されていました。これは別に観ないでも良いかなw 次のコーナーの方が分かりやすかったです。


<一角獣の図像学:想像の動物誌>
こちらは一角獣の起源などについてのコーナーです。一角獣は古くは紀元前400年のギリシャの歴史家クテシアスの「インド史」に記載されているそうで、「インドには馬に似た白いロバが生息していて、額に1本のツノを持ちそれには毒消しの効果がある。また、いかなる動物よりも足が早い。」と伝えているそうです。こうして伝わった(というか創作された?)一角獣ですが、さらにヘブライ語の旧約聖書の原典がギリシャ語に翻訳された際に、牡牛を意味する言葉が一角獣と訳されたそうで、その後も5世紀頃に聖ヒエロニムスがラテン語に翻訳した際にもいくつかの箇所に一角獣の語が当てられたそうです。…伝言ゲームの末に生まれた感じかなw しかし驚くことに西洋では16世紀までは一角獣の存在について疑問を持たれることは無かったそうで、実在すると考えられていたようです。
また、中世美術に一角獣が取り入れられた理由として、2世紀末にギリシャで著された「フィシオロゴス」において、一角獣は乙女の前では獰猛さを捨てるとされ、それがキリストの象徴として多数の言語に翻訳されて流布し、一角獣狩の場面は受胎告知やキリスト受難のテーマと結び付けられたそうです。しかし、その一方では一角獣は宮廷風恋愛という世俗的な文脈にも取り込まれていったらしく、13世紀半ばのフランスの詩人リシャール・ド・フルニヴァによって書かれた「愛の動物寓意集」において、一角獣は恋する男に、乙女は想いを寄せる女性に読み替えられたとのことです。 そういう観点があるのであれば、やはり「貴婦人と一角獣」もキリスト教的な意味と 愛する妻への気持ちを表しているのではないか??と思えてきました。

このコーナーには一角獣に関する古い品々があり、一角獣型の水差しなどが展示されていました。


<自然の表現:植物と動物>
このコーナーも説明が中心で、壁一面に「貴婦人と一角獣」に描かれた(織られた)動物たちの写真が並んでいます。並べてみると、同じ構図の動物たちが多く、若干の差異はあるものの、何度も使いまわされていることがわかります、特にウサギが多く、これは繁殖力の高さが多産や肉体的な愛を示しているようです。

ここには描かれた植物の写真もあり、40種類もの植物があるとのことでした。


<服飾と装身具>
こちらは「貴婦人と一角獣」が制作された頃の服装と装身具についてのコーナーです。前編でも書いたように、「貴婦人と一角獣」は貴婦人の服装などから1500年頃に制作されたと推測されるようで、ここにはその時代の実際の品々が展示されていました。

17 「鉄の小箱」
こちらは「貴婦人と一角獣 我が唯一の望み」で侍女が持っていた小箱と似た鉄製の箱です。ゴシック風の装飾的な箱で、錠前が巧みに隠されているらしく、どこから観ても鍵穴が見つかりません。こうして鍵穴を隠すことで収めたものを確実に守ることができたとのことですが、ちょっと重そうに見えるもののそれほど大きくないので、箱ごと持っていけそう…w(侍女が持てる程度だしw) 解説によると、宮廷恋愛では鍵と錠前は愛する者同士を結ぶ感情と官能世界を暗示しているとのことでした。

13 「運命の女神たち」
こちらは「貴婦人と一角獣」と同時代の作品で、4人の女性が描かれた(織られた)タピスリーの断片です。切り口装飾のある服を着た女性たちが、装飾的な被り物などをしていて当時の流行を伝えているように思います。しかし、実際にこうした服があったのかは分からないようで、一部は創作などもあるのではないかとのことでした。

この近くには司祭の服なども展示されていました。

19 「ベルト」
こちらは非常に長いベルトで、植物文様の装飾が並び宝石もついています。非常に豪華で、こちらも当時の装身具の参考になる品のようでした。


<盾形紋章と襟章>
前編で「貴婦人と一角獣」はル・ヴィスト家が発注者ではないかとの説をご紹介しましたが、その理由として獅子と一角獣がル・ヴィスト家を示すと考えられるようです。「獅子」すなわち「LION」はル・ヴィスト家の出身地である「リヨン」を想起し、一角獣の足の速さからは「速い」を意味する「Vite(Viste)」がル・ヴィスト家の家名と結びつくのではないかとのことです。一方、「貴婦人と一角獣」に頻出する紋章については旗の色の取り合わせなどが紋章のルールで禁じられているようで、一家の当主がこれを使用していたのかは定かではないようでした。ちょっと謎が残っている感じが興味をそそりました。
このコーナーには紋章やステンドグラス、水差しなどが並んでいました。


<中世における五感と第六感>
ここはメモを取りませんでした。説明のみであまり興味を惹かれるものも無かったw


<1500年頃のタピスリー芸術>
最後は同時代のタピスリーのコーナーです。

33 「連作タピスリー[聖母の生涯]より:[受胎告知] [聖母マリアのエリザベト訪問] [聖母マリアを咎めるヨセフ]」
これは「貴婦人と一角獣」と同じく「アンヌ・ド・ブルターニュのいとも小さき時祷書の画家」か、若しくはその工房が原画を描いたと考えられるタピスリーです。聖書の3場面がくっついたような感じで、左から[受胎告知] [聖母マリアのエリザベト訪問] [聖母マリアを咎めるヨセフ]の順となっています。やはり平坦で陰影が少ない作風で、草花がよく登場するのは「貴婦人と一角獣」と共通するものもあるかな。しかし全体的にパッと見た感じでは「貴婦人と一角獣」とは若干違った作風にも見えました。
解説によると、この作品の作者が「アンヌ・ド・ブルターニュのいとも小さき時祷書の画家」と考えられる理由は写本に同じテーマの下絵が再利用されているためとのことでした。

35 「放蕩息子の出発」
これはキリストの喩え話をテーマにした巨大なタピスリーです。人物がひしめき合い、その緻密さや構成が見事です。解説によると、1510~1520年のネーデルラントの状況が反映されているとのことで、高い製織技術も感じさせました。

この近くには千花文様(ミル・フルール)を背地にした作品もありました。また、出口近くでは「貴婦人と一角獣」とについての映像が流れていました。見つかった城の映像や同じ動植物を使いまわしている点などはこの映像を観るとよく分かります。これを先に観てから鑑賞したほうが分かりやすいかもw



ということで、後半は地味な内容でしたが1つの作品をここまで掘り下げて紹介している点が面白く感じられました。ひと通りの謎解きを観た後にもう一度「貴婦人と一角獣」を見なおしてみると、納得感がありました。中世ヨーロッパ美術の最高傑作とも呼ばれるほどの作品なので、じっくりと堪能できて良かったです。中世美術に興味がある方はチェックしてみるとよろしいかと思います。


 参照記事:★この記事を参照している記事




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貴婦人と一角獣展 (感想前編)【国立新美術館】

前回ご紹介した展示を観た後、国立新美術館で「フランス国立クリュニー中世美術館所蔵 貴婦人と一角獣展」を観てきました。メモを多めに取ってきましたので、前編・後編に分けてご紹介していこうと思います。

P1110019.jpg

【展覧名】
 フランス国立クリュニー中世美術館所蔵
 貴婦人と一角獣展

【公式サイト】
 http://www.lady-unicorn.jp/
 http://www.nact.jp/exhibition_special/2013/lady_unicorn/index.html
【会場】国立新美術館 企画展示室2E
【最寄】千代田線乃木坂駅/日比谷線・大江戸線 六本木駅


【会期】2013年4月24日(水)~7月15日(月・祝) 
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日15時頃です)】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
結構お客さんは多かったですが、作品自体が大きいので特に気になりませんでした。

さて、今回は中世ヨーロッパ美術の最高傑作の誉れ高い連作タピスリー「貴婦人と一角獣」を中心に、フランス国立クリュニー中世美術館の至宝42点を公開する展示となっています。この作品は過去に1度(1993~1994年)だけメトロポリタン美術館に貸し出された以外は門外不出だったのですが、展示環境の全面改修に伴い今回の展示が実現したようです。
「貴婦人と一角獣」は1500年頃に北フランスからネーデルラントにかけての地域もしくはパリで制作されたと考えられるそうで、19世紀始めにフランスのクルーズ県にあるブサック城で発見され、プロスペル・メリメやジョルジュ・サンドといった文学者が言及したことによって有名になったそうです。展覧会ではタピスリーと共に描かれたモティーフをテーマに沿って解読する構成となっていましたので、詳しくは章ごとに振り返ってみようと思います。


<貴婦人と一角獣>
まずは早速、「貴婦人と一角獣」のコーナーで、最初にこの作品にまつわる説明が並んでいます。

[作品の来歴]
この作品は19世紀初頭に初めて文献に記されたそうで、1841年には小説家で歴史的建造物保護局の視察官を務めていたプロスペル・メリメがブサック城を調査し、タピスリーの保存状態を案じて フランス国家が買い上げるべきとの報告書を提出したそうです。一方、メリメと同時代の小説家ジョルジュ・サンドは近くの館を相続していたので この作品にも慣れ親しんでいたようで、執筆活動によってこのタピスリーの存在を広く知らしめたそうです。そしてこうした尽力もあり1882年には25500フランで国家買い上げとなりました。

[注文時期と注文者]
注文時期と注文主については大きな論争になったようですが、現在では1500年頃と推定されていて、その根拠として草花に散りばめられた千花文様(ミル・フルール)と呼ばれる背地が15世紀末から16世紀初頭のタピスリーに顕著な様式であることが挙げられるようです。また、画中の貴婦人の衣装や装身具も1500年頃の流行に合致すると考えられているようです。 注文者は連作6面のいずれにも頻出する3つの三日月を配した紋章によって、ル・ヴィスト家と特定できるそうで、この一族は15~16世紀にかけてパリで司法官として活躍した名家のようです。そして特に1500年に同家の当主となったアントワーヌ2世・ル・ヴィストが注文主の可能性が高いと考えられているようです。

[下絵制作と製織]
このタピスリーの下絵制作と製織についてですが、下絵を担当したのは「アンヌ・ド・ブルターニュのいとも小さき時祷書の画家」と呼ばれる芸術家と推定されるようです。この画家はその名の由来となった「アンヌ・ド・ブルターニュのいとも小さき時祷書」をはじめ、いくつかの優れた彩色写本を手がけていたらしく、1490~1508年にパリで活躍していました。 一方、最終工程の製織をした場所は特定できないようですが、フランスからフランドルにかけての地域か、パリと考えられているようです。

[作品に込められた意味]
1921年に美術史家のA.F.ケンドリックが論証して以来、このタピスリーの6面のうちの5面は五感を寓意的に表すとの見方が広く受け入れられているそうで、最後の第6の場面は五感を越えた第六感の表現と考えられるようです。五感を越え自己を制する心、愛の感受を司る心などと読み解くことができらしく、道徳性と世俗性の結び付きは1500年頃の知的芸術環境に特有のものだそうです。また、獅子と一角獣はル・ヴィスト家を示唆する動物で、ル・ヴィスト家の紋章の役割も担っていたとも考えられるとのことでした。

と、こんな感じで予備知識を仕入れてから、1辺が3.5~4mもある6面のタピスリーがぐるりと取り囲む部屋を鑑賞しました。


A 「貴婦人と一角獣 触覚」 ★こちらで観られます
赤地と植物紋を背景に、右手で三日月模様の旗を持ち 左手で一角獣のツノを触っている貴婦人が描かれた(織られた)タピスリーです。その左には獅子が座っていて、獅子と一角獣は三日月の紋章入りのケープを身に着けています。周りには4種類の実のなった木が描かれていて、首輪の着いた猿や鳥達の姿もあります。赤地に女性と一角獣、獅子、4本の木というのはこの後に出てくる他の作品と共通しているようで、いずれの作品も平坦で遠近感や陰影は感じられず、花々は色鮮やかながら押花のように観えました。解説によると、この作品で一角獣に触れる仕草は触覚を示すと考えられるようです。また、物質世界より精神世界(魂)に近い感覚のほうが次元が高いと考えられていたらしく、この展示でもそれに基づく順序で並んでいるとのことでした。

B 「貴婦人と一角獣 味覚」 ★こちらで観られます
背景は赤地と植物紋で、貴婦人と侍女、両脇に長い竿の旗を持つ獅子と一角獣が描かれています。貴婦人は侍女が差し出した豪華な器から砂糖菓子を右手でつまんで、左手の上では鷹がそれを食べているようです。手前では猿がそれを真似して何かを食べていて、これは味覚の寓意と考えれるようです。 先ほどの作品でも服装は豪華でしたが、こちらは顔は同じでも違った装いをしていて、よく観ると全作品で違っているようです。ポーズと相まって優美な雰囲気があります。一方、両脇の獅子と一角獣は前足を上げてケープをはためかせ、獅子は舌まで出すなど動的な印象を受けました。静と動の対比のようになっているのが面白いです。 ちなみに女性のドレスの裾には上を見上げる子犬の姿が… 何とも可愛らしい犬ですw

この辺で気がついたのですが、三日月の文様は半端じゃない押されっぷりですw これでもかと三日月が出てきます。これはどう考えても注文主と関係がありそう。

C 「貴婦人と一角獣 嗅覚」 ★こちらで観られます
こちらは先程の味覚と似た構図で、侍女の差し出す花かごから花をつまんで花輪を作っている貴婦人が描かれています。その背後では花かごから花を取り出して匂いを嗅ぐ猿の姿があり、これは嗅覚と考えられるようです。両脇には旗を持つ獅子と一角獣が描かれているのですが、これは先程と打って変わって置物のようにちょこんとした印象を受け、顔も穏やかに観えました。 他と比べて静かな雰囲気の作品です。解説では2層になっている女性たちの服装について言及していました。

D 「貴婦人と一角獣 聴覚」 ★こちらで観られます
台の上に東洋風の敷物を敷き、携帯用の小さなオルガンを乗せて立ったまま演奏している貴婦人が描かれた作品で、これは聴覚を表しているようです。オルガンの裏では侍女が吹子のようなものを操作してサポートしていて、両脇には獅子と一角獣が旗を持っています。しかし、一角獣は寝そべって前足で押さえる感じで、ライオンも座るような姿勢で持っていて、リラックスしたように見えてのんびりした印象を受けました。また、解説によるとこれまでの作品に比べてモチーフ同士が重なり合うような感じになっているらしく、確かに四隅の木が旗に隠れているなどギュッと詰まった感じでした。
よくよく観るとオルガンの上にも獅子と一角獣の装飾があるのも面白いw

E 「貴婦人と一角獣 視覚」 ★こちらで観られます
金銀細工の鏡を持ち、一角獣を抱き寄せて鏡を見せる貴婦人が描かれた作品で、これは視覚を表すようです。一角獣は貴婦人の膝の上に前足を置いて鏡を見ているようで、左には旗を持った獅子の姿があり、獅子は何故か左の方によそ見しているような感じです。一角獣の穏やかで賢そうな顔が印象的でしたが、鏡にうつるユニコーンはやたら小さくて不自然に見えましたw また、ここまで4本あった周りの木はこの作品では2本しかなく、貴婦人・一角獣・ライオンで三角形になる構図となっているのも面白かったです。

F 「貴婦人と一角獣 我が唯一の望み」 ★こちらで観られます
こちらは他の5点よりもやや大きめの作品で、侍女の差し出す宝石の入った箱に手を寄せる貴婦人が描かれています。背景には青緑のテントがあり、そこから出てきたように思えるかな。両脇では獅子と一角獣がそのテントの裾を持ち上げつつ旗を持っていて、獅子は口を開けています。解説によると、テントの上部には「我が唯一の望み」という銘文が「A」と「I」に挟まれて書かれているらしく、この2文字は注文主と妻のイニシャルではないかとのことでした。また、この作品は五感を支配する心を表しているとのことで、言葉的に妻への愛を題材にしているのかな?と思いました。なお、こちらも三角形の構図となっていて、その配置も興味を引きました。


ということで、長くなってきたので今日はここまでにしておきます。最初に目玉作品が来るのですが、その圧倒的な大きさと緻密さに驚かされました。後半は検証や同時代の作品などが展示されていましたので、次回はそれについてご紹介しようと思います。


  → 後編はこちら


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