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鶯谷園 【鶯谷駅界隈のお店】

前回、前々回と上野の展示をご紹介しましたが、先日その隣の鶯谷駅の近くにある鶯谷園というお店で焼肉を食べてきました。(実際には前回の展示を見た日とは違いますが、近いのでこのタイミングでご紹介しておきます)

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【店名】
 鶯谷園

【ジャンル】
 焼肉

【公式サイト】
 無し
 食べログ:http://tabelog.com/tokyo/A1311/A131104/13012243/
 ※営業時間・休日・地図などは公式サイトでご確認下さい。

【最寄駅】
 鶯谷駅

【近くの美術館】
 東京国立博物館


【この日にかかった1人の費用】
 7500円程度

【味】
 不味_1_2_3_4_⑤_美味

【接客・雰囲気】
 不快_1_2_③_4_5_快適

【混み具合・混雑状況(日曜日18時頃です)】
 混雑_①_2_3_4_5_快適

【総合満足度】
 地雷_1_2_3_④_5_名店

【感想】
このお店は超人気店なので、1日前に予約して行きました。お店にいる間は常に満席だったので、予約なしで入れるかは分かりません。また、制限時間があり、土日は1時間半以内となっているようです。

鶯谷の北口から徒歩3分くらいのところにあるのですが、お店の周りはめっちゃいかがわしいw 風俗の無料案内所とかがあちこちにあるような場所です。

お店の中はこんな感じ。
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2階もあります。そんなに煙くないのが嬉しい。

火はガスと炭かコークスのようなものを併用しているように見えました。
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何を何人前頼んだかは忘れましたが、とりあえず色々な種類を頼んで行きました。(写真は1人前のと2人前のが混ざっています)

まずはキムチ。
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あまり辛さや酸っぱさはなく、味が染みていて美味しかったです。

これは特上タン(1人前1200円)
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タンとは思えないくらい脂が乗っていて、非常に美味しかったです。最初から期待以上でテンションが上がりましたw

これは特上ヒレ(1人前1600円)
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こんなにコロっとした感じなのに、これも驚くほど柔らかくて美味しかったです。

こちらはハラミ(1人前950円)
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私はハラミが一番好きなので、これもかなり満足。どれを食べてもジューシーで美味しいw

特上カルビ(1人前1600円) 
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これはかなり脂があって焼くと一気に火が強くなりました。とろりとして甘みすら感じます。

こちらは特上ランプ(1人前1300円)
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腰からおしりにかけての部分で、結構カルビに似た味でした。お勧めの逸品です。

ここら辺で脂っこい肉を連打しすぎて舌がダレてしまったので、さっぱり目のお肉に切り替えました。貧乏舌なもんで良い肉を食べ慣れていないのかな…w

これはガツ塩(1人前700円)
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豚の胃袋で、クニュクニュして中々かみ切れない感じは牛のミノと似てます。モツが好きな人向けです。

これは生ハツ(1人前600円)
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何故かこれだけやや臭みがありましたが、ハツの割に柔らかくて美味しかったです。

これは何のスープか忘れましたが、あっさり目で焼肉と相性が良かったです。
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この他にもタンやヒレを再度注文したりしました。


ということで、ガッツリと2人で15000円分食べて来ました。しかしこれだけ良い肉をお腹いっぱい食べてこの値段だったら安いと思います。流石人気のお店と言った感じでした。ちょっと胡散臭いところにあって予約は必須ですが、また近いうちに再訪してみようと思います。



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ルーヴル美術館展-地中海 四千年のものがたり- (感想後編)【東京都美術館】

今日は前回の記事に引き続き、東京都美術館の「ルーヴル美術館展-地中海 四千年のものがたり-」の後編をご紹介いたします。前編には混み具合なども記載しておりますので、前編を読まれていない方は前編から先にお読み頂けると嬉しいです。


  前編はこちら


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まずは概要のおさらいです。

【展覧名】
 【特別展】ルーヴル美術館展-地中海 四千年のものがたり-

【公式サイト】
 http://louvre2013.jp/
 http://www.tobikan.jp/museum/2013/2013_louvre.html

【会場】東京都美術館
【最寄】上野駅(JR・東京メトロ・京成)

【会期】2013年7月20日(土)~ 2013年9月23日(月・祝)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間30分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日13時半頃です)】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
前編では古代の地中海についてご紹介しましたが、後半は近代までのコーナーです。

<第Ⅲ章 中世の地中海 ──十字軍からレコンキスタへ(1090-1492年)──>
10世紀まで地中海には3つの大文明が徐々に構築されていったそうで、地中海の北側は西方のキリスト教に支配され、東地中海はビザンティン帝国(東ローマ帝国)がローマ帝国を継承し、南地中海はイスラームが制圧してスペインに王朝を建国していました。11世紀になりキリストが生涯を過ごした聖地奪還を目的とした十字軍が結成されると、その均衡が崩され結果的にラテン国家建設へと至るそうで、カトリックはスペインのイスラーム王朝に対するレコンキスタ(再征服運動)を開始したそうです。その後、12世紀以降は地中海はイタリア商人たちに支配され商業と文化の交流が行われました。
13世紀末になるとサラディン(サラーフッディーン)率いるイスラームの軍がラテン国家を再び征服し、1453年にはコンスタンティノープル(イスタンブール)はオスマン帝国のトルコ人に攻略されたようです。しかし1492年にスペインのグラナダはキリスト教徒の手に落ちたそうで、東方と西方を代表する都市の陥落は新たな時代の到来を告げたようです。ここにはその1492年頃までの作品が並んでいました。

139 「杯:鎖帷子を着た十字軍兵士」 キプロス 1200年頃
盾と剣を持った鎖帷子の姿の十字軍の兵士が描かれた杯です。茶色と緑色の釉薬で描かれ、漫画のような緩い画風です。絵自体は十字軍ですが、その製法はイスラームで見られるもので、これは十字軍の遠征の中で生まれたキプロス王国の品とのことでした。ちなみに十字軍は200年で8年の攻防があったそうです。長い長い戦いですね…。

近くにはエルサレムにまつわる品々が並んでいました。

162 「キリストのモノグラムIHS が記された大皿」 マニセス、スペイン 1450年頃
キリストを表す「IHS」の文字が金字で書かれ、周りに青の花文様が描かれた大皿です。キリスト教を表す柄ですが、ファイアンス焼きのラスター彩で、これもイスラームの製法です。アラブ人から製法が伝えられたようで模様などもイスラム風かな。キリスト教社会とイスラーム社会が敵対しながらも交流していたことが伺えました。

155 「聖ジョスの骸布:2頭の向かい合う象で装飾され、中央アジアのトルコ人地方総督の名前がアラビア語で記された布(1134年以降、フランスのサン=ジョス=シュル=メール修道院に保管されていた)」 メルヴ(?)、トルクメニスタンあるいはニーシャープール(?)、イラン 950年頃 ★こちらで観られます
向かい合う象やラクダなどが表された装飾的な布で、これはフランスの修道院で聖人の遺骸を包む骸布として使われていたようです。元はイランで作られ、これを寄進した英国王の父が十字軍に参加して、彼の地から持ち帰ったのではないかと推測されるようです。イスラームの品がキリスト教社会で珍重していたのがよく分かると思います。品物自体も緻密で見事な布でした。


<第Ⅳ章 地中海の近代 ──ルネサンスから啓蒙主義の時代へ(1490-1750年)──>
1453年にビザンティン帝国(東ローマ帝国)がオスマン帝国(オスマントルコ)に滅ぼされたことによって、地中海の均衡が大きく崩れたそうで、オスマン帝国が東ヨーロッパからマグレブ地方に至る地中海沿岸のほぼすべての国々を支配下として、その歴史上ただ1度だけ地中海がイスラーム勢力の手に渡りました。オスマン帝国の領土拡大は中央ヨーロッパのウィーンで、そして1571年に起きたギリシア沖のレパントの海戦で食い止められ、スペイン・オーストリアのハプスブルク家はオスマンに対抗する唯一の巨大勢力で在り続けたようです。しかし、コロンブスの探検以降ハプスブルク家の経済的な関心はアメリカ大陸に向けられたそうで、他方ではイタリアのヴェネツィア、ジェノヴァだけが各地に置かれた商館を頼りに東地中海を探索したようです。また、トルコと西洋諸国の対立がきっかけとなり、敵対する両陣営は互いの文化を知ってそれに魅了されていったらしく、この章ではそうした作品も展示されていました。ここから先は絵画作品が多めになっています。

169 ヤコポ・ネグレッティ、通称パルマ・イル・ジョーヴァネ 「ヴェネツィア艦隊提督ヴィンチェンツォ・カペッロ(1467-1541年)の肖像」 イタリア 1610年頃
黒い鎧と赤いマントを身につけた白いヒゲの老人が描かれた肖像画です。これはヴェネツィア艦隊の提督だった人物で、東西の交易をしていたそうです。絵自体はちょっとくすんでいますが、堂々とした感じで威厳がありました。

この近くには海上での戦いを書いた作品などもありました。また、イギリス、ギリシア、フランスなどの人物を描いた素描のような作品もあり当時の人々の文化が伝わってきました。

177 ジャン=エティエンヌ・リオタール 「トルコ風衣装のイギリス商人レヴェット氏と、クリミアの元フランス領事の娘グラヴァーニ嬢」 スイス 1740年頃 ★こちらで観られます
これはトルコの男女が描かれた作品です。…と思ったら、これはイギリスの商人とフランス領事の娘がトルコ風の格好をしているようです。ソファ?の上で女性は琵琶のような楽器を弾き、男性はターバンを巻いています。これを見れば当時のヨーロッパのトルコ趣味への傾倒がつぶさに分かるかなw 写実的に描かれていて、陰影表現なども真に迫るものがありました。
なお、オスマンでは逆にロココ風の工芸品やイギリス製の時計がもてはやされたそうです。

196 「煙草入れ」 ヨーロッパ 1800年頃
これはオリエント市場向けの工芸品で、楕円形の赤い地の小箱にダイヤや金で花のようなものが表されています。これは一目で高そうな感じがする豪華さで、可憐さもあります。ヨーロッパ風のものがオリエントで求められていたことが伺えました。

続いてはギリシア神話に関するコーナーです。ギリシア神話は当時のヨーロッパのエリート層の文化に深く根付いていたようです。

205 グイード・ドゥランティーノ工房 「ラファエロに基づくエウロペの掠奪を描いた、ウルビーノ司教ジャコモ・ノルディの紋章入りの皿」 イタリア 1535-40年頃
これは丸い皿に鮮やかな色で「エウロペの掠奪」が描かれた品です。(ストーリーについては前編を参照) 元はラファエロの作品を元に絵付けされているのですが、ラファエロとはだいぶ違った若干野暮な色使いかな。やりすぎなくらい色が鮮やかな感じを受けましたが、この主題が人気だったことを伺わせました。
 参考記事:
  ラファエロ 感想前編(国立西洋美術館)
  ラファエロ 感想後編(国立西洋美術館)

この辺にはエウロペをモチーフにした作品が並んでいました。そしてその後にはクレオパトラの自殺をモチーフにした作品が並びます。

213 ジョヴァンニ・ピエトロ・リッツォーリ、通称ジャンピエトリーノ「エジプト最後の女王、クレオパトラの自殺」 イタリア 1500-50年頃
これはローマ軍に敗れ自らに毒蛇を噛ませて自殺するクレオパトラの肖像で、裸婦の姿で描かれています。横を向いて体は豊満な肉体表現で描かれ、ややエロティックな雰囲気がありつつ人体をよく観察しているように思いました。

この近くにはこれと同じ主題の彫刻作品のクロード・ベルタン「エジプト最後の女王、クレオパトラの自殺」(★こちらで観られます)などもありました。

この辺で中階は終わりで、エスカレーター付近では中世からビザンティン帝国までの遺跡を撮った映像が流れていました。


<第Ⅴ章 地中海紀行 (1750-1850年)>
18世紀から19世紀にかけて、オスマントルコは深刻な危機(軍事費増による財政難・インフレなど経済の混乱、それによる反乱の頻発、後継者争い等)に直面し、衰退していきました。 それによってヨーロッパ人たちが地中海世界を再び探索できるようになり、18世紀のエリートたちはグランドツアーという旅に出かけるようになったそうです。これは芸術家や教養人がイタリア、シチリア、ギリシアなどを見て回るもので、そこでのスケッチなども多く残されました。また、1738年からナポリ近郊のポンペイとヘルクラネウムの遺跡の発掘が始まったことで古代に関する知見が一新されたそうで、1788年にはナポレオンのエジプト遠征によって東方趣味が流行しました。
この時代の西洋列強の武力征服とナショナリズムによって地中海世界は均衡が乱され、ギリシアは1821年から30年の独立戦争を経て独立し、イギリスはエジプトやオマーンを、フランスはアルジェリアやチュニジアを手に入れていったそうです。ここにはそうした時代の品々が並んでいました。
 参考記事:
  巨匠たちの英国水彩画展 感想前編(Bunkamuraザ・ミュージアム)
  ポンペイ展 世界遺産古代ローマ文明の奇跡 感想前編(横浜美術館)
  ポンペイ展 世界遺産古代ローマ文明の奇跡 感想後編(横浜美術館)  

220 「トロイアの王子パリス」 ティヴォリ、イタリア 130年頃 ★こちらで観られます
「パリスの審判」の話で有名なトロイアの王子パリスの彫像で、元々はハドリアヌス帝の庭から出てきたものだそうです。腰に左手を当てて右手で木に持たれ、足を組んで立っている姿で表されていて、均整の取れた理想的な肉体表現に見えます。滑らかで艶かしい雰囲気にも思えるかな。解説によると、これはギリシアの彫刻をローマ時代にコピーしたものと考えられるそうで、これを発掘したのは画家でもあったギャヴィン・ハミルトンだったそうです。この作品の隣にはギャヴィン・ハミルトンの絵もありました。

219 「アルテミス:信奉者たちから贈られたマントを留める狩りの女神、通称[ギャビーのディアナ]」 ギャビー(現オステリア・デル・オーザ)イタリア 100年頃
これは今回のポスターにもなっている目玉作品で、肩に右手を当てて左手で服の裾を持って立つ女神像です。小顔でやや首を傾げるようなポーズが非常に優美で、大理石なのに布が柔らかそうに見えます。解説によると、これはギリシアのプラクシテレスが作ったものをローマ時代にコピーしたものではないかとのことで、これもギャヴィン・ハミルトンが発掘したそうです。その衣装から女神アルテミス(ディアナ)と考えられるそうで、気品ある佇まいとなっていました。コピーなのにこの見事さには驚きです。

続いては水彩のスケッチのコーナーです。ローマ、ポンペイ、シチリアなどの神殿や風景などグランドツアーで描かれた作品が並んでいました。

240 ジャン=バティスト・カミーユ・コロー 「ハイディ:ギリシアの若い娘、イギリスの詩人バイロン卿(1788-1824 年)による『ドン・ジュアン』の登場人物」 フランス 1870-72年頃 ★こちらで観られます
こちらは3度もイタリアを訪れたフランスの画家コローの作品で、楽器を持って岩場にもたれ掛かるギリシアの女性が描かれています。背景は海で、娘の身なりは庶民的な感じです。解説によると、これは詩人バイロンの「ドン・ジュアン」という物語に出てくるハイディという名前の海賊の娘らしく、主人公が難破したした際に介抱してくれた人物だそうです。全体的にぼんやりした表現はコローらしい感じで、留学の際に見てきた地中海が背景に描かれているようでした。

続いてはナポレオンの遠征関連の作品が並ぶコーナーです。この遠征は軍事的には失敗したものの、フランスをエジプト趣味の虜にしたそうで、それを伺わせる作品が並びます。

249 「『エジプト誌』:口絵(古代、第1巻、第2葉)」 パリ、「ナポレオン1世の命により出版」 1809年
これはナポレオンがエジプト遠征の際に連れて行った画家たちが描いたエジプトの風景が口絵になった本です。オベリスクやスフィンクスなどエジプトらしいものが描かれていて、これによってヨーロッパは空前のエジプトブームとなったそうです。

この近くにはエジプト風の人物が描かれたカップとソーサーや、風景素描、トルコ人を描いたパステル画などもありました。

その後はオリエント・イスラーム風景を描いた作品が並ぶコーナーです。当時まだヨーロッパ人にはその地域への旅行は危険で、実際に訪れた人は稀だったそうです。

250 テオドール・シャセリオー 「モロッコの踊り子たち:薄布の踊り」 フランス 1849年
建物の中で薄い布を持って踊る2人の女性を描いた作品で、イスラム風の衣装が異国情緒豊かに表現されています。周りにはターバンを巻いた人々の姿があり、作者は実際に2週間くらいモロッコに行ってこうした人々をスケッチしてきたそうです。華やかで異国への憧れのようなものが感じられる作品でした。
この近くにはレバノンの風景を描いた作品などもありました。

続いてはオスマントルコの衰えに乗じて地中海を植民地化していったイギリスとフランスについてのコーナーです。チュニジアやシリアの服や、建築装飾などが展示されていました。また、その逆にトルコに伝わったロカイユ様式の鏡や、アルジェリア太守からフランス王に贈られた豪華な時計なども展示されています。

最後は地中海への観光に関するコーナーです。交通環境が整備され1883年にはオリエント急行がイスタンブールへと伸びたとのことで、イスタンブールに関する品が展示されていました。

273 ピエール・プレヴォ 「コンスタンティノープル(現イスタンブール)のパノラマ」 フランス 1818年
これはイスタンブール(コンスタンティノープル)の眺めをパノラマにして見せるための絵で、見た感じ180度くらいに見えるかな。写実的に見渡すように描かれていて、当時の様子を伝えています。交通環境が整備されてもまだ旅行は困難な時代なのでこれを見て彼の地に思いを馳せたのかな。


ということで、一気に地中海の歴史をたどるような展示でした。私としてはキリスト教とイスラームが対立しながらもお互いの文化に惹かれ合っていたのが特に面白く感じました。これだけ様々な品を所蔵しているルーヴルはやはり凄いですね。今後もますます人気が出そうな展覧会ですので、気になる方はお早めにどうぞ。


 参照記事:★この記事を参照している記事




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ルーヴル美術館展-地中海 四千年のものがたり- (感想前編)【東京都美術館】

先週の土曜日に上野の東京都美術館で「ルーヴル美術館展-地中海 四千年のものがたり-」を観てきました。かなり多数の作品が並び、メモも多めに取ってきましたので、前編・後編に分けて感想を書いていこうと思います。

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【展覧名】
 【特別展】ルーヴル美術館展-地中海 四千年のものがたり-

【公式サイト】
 http://louvre2013.jp/
 http://www.tobikan.jp/museum/2013/2013_louvre.html

【会場】東京都美術館
【最寄】上野駅(JR・東京メトロ・京成)


【会期】2013年7月20日(土)~ 2013年9月23日(月・祝)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間30分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日13時半頃です)】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
私が観たのは初日の土曜日の午後1時半頃でしたが、チケット購入と入場はすんなり行けたものの、中はかなりの混雑で場所によっては人だかりができている感じでした。初日でこれだけお客さんが来ているようなら、今後もますます人気が出てきそうです。会期末はチケットを買うのも大変になってくる可能性があるので、公式サイトのオンラインチケットを活用してみるのも良いかもしれません。
 参考リンク:オンラインチケット

さて、この展示は誰もが名前を知っているパリのルーヴル美術館の所蔵品が並ぶ展覧会です。今までも何度も開催されているルーヴル美術館展ですが、今回は地中海の歴史をテーマに、273点もの作品が来日しています。その内容はルーヴルの8部門全てに及び、
 ・古代ギリシア・エトルリア・ローマ美術
 ・古代エジプト美術
 ・古代オリエント美術
 ・イスラーム美術
 ・絵画
 ・彫刻
 ・美術工芸
 ・素描・版画
が横断的に展示されていました。流れとしては時代を追っていく感じでしたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。
 参考記事:番外編 フランス旅行 ルーヴル美術館


<序 地中海世界 ──自然と文化の枠組み──>
まず入口に地中海の様々な地域の自然の景観の映像があり、それを観てから地中海の文明の初期のコーナーから観て行きます。地中海はアフリカ・アジア・ヨーロッパの囲まれ、地中海海域と統一して呼ぶには南部と北部では気候の差もかなりありますが、松・コナラ・オリーブのような特有の植生を発達させる気候によって成り立っていたそうです。冬は穏やかで夏は暑く乾燥していてる気候のおかげで、地中海は麦と葡萄酒とオリーブを享受する文化圏となりました。また、海上交通によって孤立した陸路が繋がれ、食料用作物が交易されたそうです。しかし地中海の気候は帆船での航海が困難になるほどの激しい風雨があるそうで、その為に島々の存在に重要性があり、島によって多難な航海でも日中であれば沿岸から沿岸へと航海ができたそうです。ここにはそうした自然との関わりが感じられる品々が並んでいました。

[敵対する海]
地中海は危険な海として知られ、特に冬はきまぐれに変化するそうです。ここには舟や航海に関する品があり、側面に船が描かれた杯、お守り、船の模型、船が彫刻された石の墓碑などが並んでいました。イメージとしては内海みたいに思っていましたが、そんなに荒い海なんですね…。ちなみに、かつて地中海を航海していたのはギリシア人とフェニキア人だけだったそうです。(それについては次の章でご紹介します)

[麦]
麦は主要な農作物の1つで、シチリア島、エジプト、ウクライナ辺りがかつての地中海最大の穀倉地帯だったと考えられるそうです。ここには麦に関する品が並んでいます。

005 「赤像式クラテル(壺):農業の女神デメテルの麦の穂を受け取る、ギリシアの英雄トリプトレモス」 アテネ、ギリシア 前470年頃
黒地に赤い絵が描かれた大きな壺で、側面には羽の着いた戦車に乗るギリシアの英雄トリプトレモスと棒を持つ農業の女神デメテルが描かれています。(もしかしたら人物は逆かもしれません。) これは農業の女神デメテルがトリプトレモスに麦を授けているところらしく、トリプトレモスは有翼の戦車に乗ってすべての地上に麦を撒くことを使命としているとのことでした。結構保存状態がよく、絵も見栄えがする品です。

[オリーブ油]
オリーブは冬の最も寒い時期に気温が4度を下回ることがない気候に適しているらしく
地中海に向いた作物だそうです。オリーブ油は照明、体の手入れ、食用などに使われ、地中海の文化に根ざしていたようです。
 参考記事:地中海古代クルーズ -オリーブとワインと・・・- (古代オリエント博物館)

011 「競技者に与えられるオリーヴ油を入れる黒像式アンフォラ:アテネの守護女神アテナ(A面)、競技者(B面)」 アテネ、ギリシア 前323-前322年頃 ★こちらで観られます
これはアンフォラという両脇に取っ手の着いた大型の壺で、側面には茶色地に黒で丸盾と兜を身につけ槍を持った女神アテナが描かれています。衣を翻しやや腰をひねった姿が優美です。 裏面には丸盾を持って走る3人の男性の姿が描かれていて、解説によるとこれは競技者達らしく、このアンフォラにオリーブ油を入れて優勝賞品としていたそうです。現代人の私の感覚だと中身よりこの壺のほうが貰って嬉しいかなw 平面的でデフォルメされた画風が好みの品でした。

[ロドス島、クレタ島、シチリア島、キプロス島]
続いては地中海の4つの島についてのコーナーです。キプロスとかここで地図を見るまでどこにあるか知らなかった…w ここには装飾品や小さい彫刻、壺、石碑などが並んでいました。

017 「ギリシア語の大碑文、通称「ゴルテュンの法典」の断片:養子の相続をめぐる法律の一部」 ゴルテュン、クレタ島、ギリシア 前480-前460年頃
これは文字が刻まれた石碑で、クレタ島で発見された品です。クレタ島はアルファベットの登場とヨーロッパへの普及に特別な役割があったそうで、この石碑にもA・N・S・P・Tなど今でも使っている文字らしきものも刻まれています。2500年も前の地中海と我々が繋がっている感じがして、歴史を目の当たりにしたような面白さがありました。


<第Ⅰ章 地中海の始まり ──前2000年紀から前1000年紀までの交流──>
続いては地中海の様々な文明についてのコーナーです。古代では少数の民族(ギリシアとフェニキア)だけが地中海を大航海していたそうで、他の民族は局地的な航海か領土内の海賊行為のみだったそうです。ギリシア人とフェニキア人は鉄や錫を求めて西地中海へと向かい、それを加工して再び西方へと輸出していたようです。一方、養殖・冶金・文字などの重要な革新のあったエジプトとメソポタミアは大河流域で生まれ、前2000年中葉になると海への玄関口となるシリアを支配して地中海へと目を向けました。前1200年頃にはガラスやアルファベットといった革新がレバント(シリア・レバノン)で生まれ、ユダヤの一神教も登場し、オリエントやエジプトの神々に信仰が生まれたのもこの辺りのようです。古代の芸術や神話は近隣との交流によって、時に偏見を交えながら描写していたそうで、ここにはそれを伺わせる品もありました。

025 「赤像式クラテル(壺):牡牛に変身した主神ゼウスによる王女エウロペの掠奪」 アプリア地方(現プーリア州)、イタリア 前360年頃 ★こちらで観られます
ワインを水で割るための大きな壺の側面に、岩に座る女性と近づいてくる白い牛が描かれ、周りには羽の生えた人など様々な人達が描かれた品です。解説によると、この女性はフェニキアの王女エウロペで、白い牛は全能の神ゼウスが化けている姿のようです。この後、エウロペが白牛に心を許して乗ると、猛然と海に走りだしクレタ島まで連れ去られ、そこでゼウスの子供をもうけたそうです。その子供は後にクレタ王となったそうで、ギリシア人は自分たちのルーツが東にあると考えていたらしく、現在でもエウロペの名前はヨーロッパの語源にもなっています。この壺は緻密で装飾的な雰囲気があり、2000年以上前のものとは思えないほど色鮮やかな白が使われていました。

041 「柄と注ぎ口のついた容器、通称「ソース入れ」」 ギリシア 前2200-前2000年頃 ★こちらで観られます
これは恐らく異国からギリシアに伝わったと考えられる金色の器です。丸っぽくて金ピカの器で、ソース入れには見えませんでしたが、用途はいまいち想像できません。むしろ制作年を見て4000年も前からこうした品が作られていたという事と、既に交易があったという事に驚きました。

047 「受け皿を持つ女性の形の奉納用スプーン」 エジプト 前700-前650年頃 ★こちらで観られます
これは大きな皿を持ったうつ伏せの女性が象られた木像で、どうやらスプーンになっているようです。これは泳いでいる姿らしく、その意匠が面白く感じられます。ここでは奉納用としていましたが、実際には使った形跡はないようで、用途はいまいち分からずお守りではないかとのことでした。(以前に行った展示では化粧用として似たような品を展示していた記憶があります) この近くにも似たようなスプーンがあり、類似の品が結構作られていたのかも。
 参考記事:
  エジプト考古学博物館所蔵 ツタンカーメン展 感想前編(上野の森美術館)
  エジプト考古学博物館所蔵 ツタンカーメン展 感想後編(上野の森美術館)

この近くには半透明のガラスの品や、ファイアンスという石英の粉末から作られた青いガラス質の品が並んでいました。動物の形の香油入れなどもあり、面白い意匠です。その後には大理石の壺などもありました。

074 「人物頭部のついたエジプト型の木棺」 フェニキア(?)、現レバノン 前500年頃
これは木製の棺で、上面はエジプト風の人物彫刻となっています。結構大きいけど中は意外と狭いかな。見た目はエジプトそのものといった感じですが、今のレバノンで見つかったというのは意外です。エジプトの死生観を感じるけど木というのも珍しいかも。
 参考記事:
  大英博物館 古代エジプト展 感想前編(森アーツセンターギャラリー)
  大英博物館 古代エジプト展 感想後編(森アーツセンターギャラリー)

この先には楔文字(くさびもじ)やフェニキア文字など文字が刻まれた石碑やアンフォラが並んでいました。

082 「[ロゼッタ・ストーン](大英博物館蔵)の石膏レプリカ:この石碑にエジプト文字とギリシア文字で刻まれた法令の研究により、1824 年にJ. F. シャンポリオンがヒエログリフの解読に成功した」 エジプト、メンフィス(オリジナル) 前196年(オリジナル)
これは、かの有名なロゼッタストーンのレプリカです。2種類の文字が上下に分かれていて、それぞれの中身は同じで、上はエジプトの文字で下はギリシア文字で描かれています。これによって文字の翻訳に成功したのは有名な話ですが、レプリカながらも文字の解読に繋がった理由がよく分かる品でした。

086 「彫像断片:ディアデマ(宝石入り帯状髪飾り)を冠したエジプトの地母神イシスの頭部」 ローマ(?)、イタリア 150-250年
これは髪飾りをつけた女性の頭部象で、髪を巻いていて見た目はギリシア彫刻そのものに見えますが、エジプトの女神イシスを表しているそうです。解説によると、アレクサンドロスによってエジプトは征服され、それを継いだプトレマイオス(ギリシア人)がファラオになると、イシスはギリシアの女神アフロディーテと見なされ融合していったようです。異なる宗教が融和されていく様子が見て取れる興味深い品でした。
 参考記事:
  大英博物館 古代ギリシャ展 究極の身体、完全なる美 感想前編(国立西洋美術館)
  大英博物館 古代ギリシャ展 究極の身体、完全なる美 感想後編(国立西洋美術館)

この近くにはエジプトから伝わった神の像なども並んでいました。舌を出している像など、個性的な品もあります。


<第Ⅱ章 統合された地中海 ──ギリシア、カルタゴ、ローマ──>
続いては各文明がローマへと統合していく時代の品々が並ぶコーナーです。古代が終焉する時、地中海はローマ帝国の下で統一国家となりましたが、これは歴史上ただ1度のことだそうで、諸地域は同じ行政単位に属し、キリスト教を分かち合っていました。しかし、その前の前280年頃は3つの勢力があったようで、他にはエジプトや西アジア、東地中海を支配したギリシアと、前800年にフェニキア人がレバノンからチュニジアに移り住んで建国したカルタゴが存在していました。結局は前752年に建国され着々と支配していったローマが勝つわけですが、ここにはローマを始めとする同時代の文明の品も並んでいました。

101 「彫像:エジプト風に表されたクレオパトラ7世(在位前51-前30年)」 エジプト 前51-前30年
緑色の石でできたクレオパトラの像で、目が細く髪は細長い長方形の連なりで表現されています。これはいかにもエジプト風といった感じの像ですが、近くにはギリシア風のクレオパトラ像もあり、当時のエジプトの情勢が伺えました。ちなみにクレオパトラは毒蛇に自分を噛ませて自殺したのですが、この話は後世の芸術家にインスピレーションを与えたようで、後半の展示にもそうした品が出品されています。(詳しくは後編で)

111-114 「ひだのある服をまとった女性小像、通称[タナグラ人形]」
4点ほど同じ名前の品があり、これらは地中海の各地域から出土した 通称「タナグラ人形」と呼ばれる小さな女性像です。イタリア、リビア、エジプト、トルコなど本当に広範囲に及ぶ地域で見つかっていて、いずれもよく似た姿形をしています。解説によると、これは元はギリシア中部の小さな街タナグラで生産されたものだったらしく、それが模倣されて広がっていったようです。いずれもひだのある布をまとった像で、優美な雰囲気がありました。それにしても古代といっても相当に交易範囲が広いようですね…。

115 「ひげのある男の頭の形をしたペンダント」 カルタゴ、チュニジア 前350-前200年 ★こちらで観られます
これは真ん丸の目をした髭面の男の顔のペンダントです。ガラス質で艶やかな感じで
お守りなのではないかとのことですが、ちょっとひょうきんな感じがしましたw なお。カルタゴは今のアフリカ北部にあった有力都市ですが、ローマ都の戦いに敗れて破壊され、今に伝わる品は少ないようです。彼の地の英雄ハンニバルによる象でのアルプスを越えのエピソードは度々見聞きします。
 参考記事:古代カルタゴとローマ展 ~きらめく地中海文明の至宝~ (大丸ミュージアム・東京)

下階はこの辺までで、続いて中階に進みます。

125 「彫像断片:最高神官としてのローマ皇帝アウグストゥス(在位前27-後14年)の肖像」 ローマ(?) 前27年頃
これは布を被った神官風の姿をしたローマ皇帝アウグストゥスの彫刻像です。布のひだが深く。顔も凹凸が深いものの滑らかな感じを受けました。皇帝としての威厳や、神官としての厳粛さが感じられます。

この隣には鎧姿のローマ皇帝ハドリアヌス(イギリスに長城を築いた皇帝)と、鎧姿のローマ皇帝セプティミウス・セウェルス(アフリカ生まれの皇帝)もありました。また、モザイク模様の床も展示されています。

129 「ローマの石棺:人間の創造とその運命を表すティタン族プロメテウスの伝説」 アレラテ(現アルル)近郊、フランス 240年頃 ★こちらで観られます
これは粘土から自分の姿に似せて人間を作ったというプロメテウスの物語を石棺の側面に彫った作品です。沢山の人々(神々)の姿があり、彫りが深くダイナミックな構図となっていて劇的な印象を受けます。解説によると、プロメテウスは毛皮も牙も無い人間のために神々から火を盗みだして人間に与えたとのことで、ここにはアテナやヘルメスなどが表されているようでした。

134 「ローマ皇帝ルキウス・ウェルス(在位161-169年)の妻ルキッラの巨大な頭部」 カルタゴ、チュニジア 150-200年
これは人の背丈くらいある女性の頭部像です。これはローマ皇帝の妻の顔らしく、建物を飾っていたそうです。大理石で出来ていてかなり大きいのですが、ふっくらとした唇など優美な雰囲気もありました。とにかく大きいですw


ということで、前半は地中海の文明を一挙に見て回るような感じでした。範囲も時代も広いので、これは理解するには情報量が多すぎる気もするかなw ある程度の事前知識を持って観たほうが楽しめるかもしれません。後半は前半に比べて美術品らしい品が中心となっていましたので、次回は残りの内容についてご紹介しようと思います。


  → 後編はこちら



 参照記事:★この記事を参照している記事


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生誕140年記念 川合玉堂 【山種美術館】

先週の日曜日に、恵比寿の山種美術館で「生誕140年記念 川合玉堂」を観てきました。この展示は前期・後期に分かれていて、私が観たのは後期の内容でした。

P1110983.jpg

【展覧名】
 生誕140年記念 川合玉堂

【公式サイト】
 http://www.yamatane-museum.jp/exh/current.html

【会場】山種美術館
【最寄】JR・東京メトロ 恵比寿駅


【会期】
  前期:2013年06月08日(土)~07月07日(日)
  後期:2013年07月09日(火)~08月04日(日)
   ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況(日曜日15時頃です)】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
結構お客さんは多かったですが、混雑というほどでもありませんでした。

さて、今回の展示は近代日本画の巨匠 川合玉堂の展覧会となっています。川合玉堂は1873年に愛知県に生まれ、1887年(14歳)で京都の円山四条派の流れをくむ望月玉泉のもとで日本画を学び始めました。そしてその3年後、第3回内国勧業博覧会で入選し華々しくデビューすると、より高みを求めて京都画壇の重鎮で円山四条派の幸野楳嶺の門下に移りました。(幸野楳嶺の弟子には竹内栖鳳などもいて切磋琢磨していたようです) その後、師が亡くなった1895年に第4回内国勧業博覧会で「鵜飼」が3等を受賞した際、そこで観た橋本雅邦の作品(龍虎図、羅漢像)に衝撃を受け、その翌年には上京して橋本雅邦に入門、上京後も入選を重ねて画家の地位を高めていきました。
1898年には橋本雅邦に従って日本美術院の創立に参加し、文部省美術展覧会(文展)では第1回から審査員を務めたそうです。また、1915年には東京美術学校の教授として確固たる地位を築き後進の指導に貢献しました。
展覧会は3つの章に分かれていましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。


<第1章 研鑽の時代(青年期から壮年期へ)>
まずは10代から50代までの作品が並ぶコーナーです。

10 川合玉堂 「鵜飼」
切り立った崖の下、かがり火をつけた小舟に乗った鵜匠と鵜たちが描かれた作品で、上方は闇に溶けこむような感じで暗さを表現しているようです。鵜飼は玉堂が少年時代を過ごした岐阜の風物詩で、玉堂はこの主題の作品を数多く残しています。この作品では鵜飼は下の方に描かれ、上のほうに大きく描かれた雄大な崖に対して、どこか郷愁を誘われるものがありました。
なお、この作品は第4回内国勧業博覧会で3等の銅牌を受賞したそうで、この展覧会に出ていた橋本雅邦の作品(龍虎図、羅漢像)に衝撃を受けて、橋本雅邦への弟子入りを決意したそうです。
 参考記事:三菱が夢見た美術館 - 岩崎家と三菱ゆかりのコレクション (三菱一号館美術館)

12 川合玉堂 「焚火」
林の中で焚き火を囲んで座る3人の女性が描かれた作品で、2人は背を向け、1人は煙を避けるような仕草で描かれています。濃淡で表された煙のモワモワした表現が見事な一方、霜の降りた落ち葉の質感なども冬の寒さを感じさせました。解説によると、少女の顔には緑などを使って陰影が表されていて、これは西洋絵画の技法を取り入れているとのことでした。卓越した技法とセンス、そして研究の成果が伺われます。

この隣には東京近代美術館にある「行く春」の下絵もありました。紙をつぎはぎしていて、直しを入れている様子がよく分かります。

1 川合玉堂 「写生画巻[花鳥 15 歳写生]」
これは巻物の写生帖で、15歳の時に描いた彩色のスケッチです。鴛鴦、唐辛子、葡萄、オコゼなど様々なものが写実的ながらも風情ある描写で描かれていて、15歳で早くも凄い才能を見せていたようでした。

この近くには20代までのスケッチのような作品がありました。どれも流石といった感じです。

11 川合玉堂 「小松内府図」
烏帽子の人物と鎧を着た人物が言い争っている場面を描いた歴史画です。周りには3人の武者が座っていて、2人のやりとりを伺っています。解説によると、これは平清盛の2人の息子で、烏帽子の方が兄の平重盛で、鎧の方が弟の平宗盛だそうです。清盛が怒って後白河法皇の屋敷に攻め込もうとした際に重盛がそれを諌めようと訪れ、そこにいた宗盛から何故鎧も着てこないのかと問い詰められ、それに対して逆に重盛が叱りつけている場面のようです。その為か重盛は鋭い目をしていて、周りは不安げな感じで緊迫したシーンとなっていました。

18 川合玉堂 「紅白梅」
これは6曲1双の金屏風で、右隻に白梅、左隻にピンク色の紅梅が描かれています。幹には滲みを使ったたらしこみの技法が見られるなど、全体的に琳派風の作品で、大正期に琳派風の作風が流行っていたそうです。また、これはMOA美術館が所蔵している「紅白梅図屏風」を意識して描いているそうで、間に川は無いものの確かに雰囲気は似ているかな。金地の装飾性を高める点では根津美術館所蔵の燕子花図屏風を意識しているのではないかとのことで、堂々たる絢爛さと軽やかな配置の妙が楽しめました。
玉堂の琳派っぽい作品はこの後もいくつかありました。
 参考記事:
  国宝「紅白梅図屏風」と所蔵琳派展 (MOA美術館)
  国宝燕子花図屏風〈琳派〉の競演 (根津美術館)


<第2章 玉堂とめぐる日本の原風景>
様々な流派や西洋絵画を研究しながら、常に実験を重ねた玉堂は1930年代(50歳代~60歳代)になると日本の自然や風物を詩情豊かに表現することに主眼を置くようになったそうです。これは伝統的な絵画表現に根ざしながらも従来の山水画とは一線を画すもので、新たな表現を目指して行き着いた玉堂ならではの世界と言えるようです。
1940年代は、以前から好んで写生に訪れた奥多摩の御岳に疎開していたそうで、戦争で自宅が焼失したこともあって戦後もそこで制作を進め、更なる円熟の時期を迎えたそうです。ここにはそうした時代の日本の原風景を描いたような作品が並んでいました。

34 川合玉堂 「鵜飼」
小舟に乗って篝火をつけ、魚を取る鵜飼の様子が描かれた作品です。篝火の煙を表す空気感がよく表れ、人々の掛け声や水音まで聞こえて来そうなくらい勇壮な場面となっています。玉堂お得意の画題だけに見応えがありした。ちなみに玉堂の鵜飼の作品は500点程度もあるそうです。道理でよく観るわけだw

33 川合玉堂 「雪亭買魚」
これは縦長の掛け軸で、一面に湖が広がっている冬の光景が描かれています。手前には雪の降り積もった木と、その下にある湖の上に立つ小屋が描かれ、その小屋の前には船に乗った人が 吊るした魚を差し出して魚を売っているようです。冬の寒々しい雰囲気の中、そのやりとりが生き生きしていて、ちょっとほっとするような感じを受けました。それ以外の部分は湖や背景の山となっていて、広々とした感じです。中景には橋を渡る人の姿もあり、しんみりとした叙情性がありました。

20 川合玉堂 「磯千鳥図」 ★こちらで観られます
これは2曲1双の金屏風で、右隻には意匠化された波とその上に飛ぶ千鳥、左隻には岩場で休む千鳥たちが描かれています。岩にはたらしこみが使われ、意匠化の具合も含めて琳派っぽさを感じます。大胆な簡略化で迫力ある画面となっていました。

42 川合玉堂 「荒海」
これは前述の磯千鳥図の近くにあった作品ですが、打って変わって意匠化と写実が入り混じったような画風で、岩場の荒海が描かれています。手前でしぶきを上げる様子がダイナミックで、力強さを感じます。解説によると、これは戦意高揚を目的とした画題に基づく「戦時特別美術展」への出品作品だそうで、戦闘場面は1回も描いたことがない玉堂にとって唯一の戦争画と言えるのではないかとのことでした。

この近くには以前ご紹介した「雪志末久湖畔」もありました。これもかなり好きな作品です。
 参考記事:美しき日本の原風景 -川合玉堂・奥田元宋・東山魁夷- (山種美術館)

43 川合玉堂 「早乙女」 ★こちらで観られます
これは今回のポスターにもなっている作品で、戦時に疎開していた頃に描かれたそうです。空から見下ろすような構図で、5人の女性が田植えをする様子が描かれ、1人は頭の手ぬぐいを締め直しているようです。全体的に楽しげな雰囲気があり、戦争中とは思えないくらいのどかな風景です。よく観ると水面には波紋があり、あぜ道にはたらしこみの技法が使われるなど、技法や構図も興味深い作品でした。

この少し先には「水声雨声」などもありました。これも好きな作品です。

56 川合玉堂 「遠雷麦秋」
これは山の上の麦畑を描いた作品で、手前には刈り入れに勤しんでいる農夫たちが描かれ、背景には山々と暗い空模様が描かれています。太陽が陰って雷雨が近づいてきているような感じで、山間にはもやが立ち込めているようでした。天候や自然の情感が溢れ、せっせと働く人々の営みが感じられました。


<第3章 玉堂のまなざし>
最後は、風景画家としての側面とは異なる余技の楽しみとも言える作品や、親しい画家との交流を伺わせる作品、動物を描いた作品などが並ぶコーナーです。玉堂は幼少から漢籍に親しみ、書、俳句、和歌にも秀でていたらしく、晩年には「多摩の草屋」という歌集も刊行しています。また、自分自身の楽しみの1つとして夕食後の一時に歌を詠み、画賛の制作もしていたそうです。
終戦後は新しい日本画を目指し、流派の垣根を超えて多くの画家と交流し合同の展覧会や合作の制作も行ったようです。ここにはそうした作品が並んでいました。

[-1 余技の楽しみ]
69 川合玉堂 「秋夜」
扇型の作品で、実寸大くらいのカマキリ(キリギリス?)とカナブンが描かれ、そこに「紙のうへに とび来 はたおり かなぶんぶん 絵にかけ うたに よめと 飛びくも」と書かれています。この歌は玉堂の俳句・和歌集の「多摩の草屋」にもほぼ同一の歌が載っているそうで、「はたおり」とははキリギリスのことだそうです。ユーモアたっぷりで、虫達や自然への愛情が感じられる作品でした。

67 川合玉堂 「氷上(スケート)」
黒い服を着た少女がスケートをする様子が描かれた作品で、足元にはその軌跡が白い線で残っています。まずモチーフが日本画っぽくないので、こんな作品があるということに驚きました。よく見ると粉雪が舞っていて、少女と共に可憐な雰囲気です。解説によると、この少女は12歳でオリンピックに出た稲田悦子という日本フィギュアスケート界の草分け的な人物だそうで、この絵の隣には「もろてを広げ 片足のみを氷上に リンク狭しと 舞滑り舞う」と書かれた書もあり、この女性からインスピレーションを得ている様子が伺えました。

この近くには玉堂の書いた俳句集や書簡などがありました。また、次男の川合修二(元は洋画家で陶芸家へと転身)との合作の香炉も並んでいます。

[-2 松竹梅]
73 横山大観「松」 川合玉堂「竹」 竹内栖鳳「梅」
これは3幅対の掛け軸で、日本画の巨匠3人による合作です。中央は横山大観の黒々とした松、右幅は玉堂が描いた竹、左幅は竹内栖鳳の描いた梅となっています。3人とも淡交会という集まりに入っていて、そこでも交流でこの合作が生まれたそうです。玉堂は爽やかな緑で竹が風に揺れているような感じがよく出ていました。3幅はお互いに画風が違うのですが、揃いで観るとバランスが取れているように思えるのが面白かったです。

第1会場はここまでで、最後は小部屋の第2会場です。

[-3 動物をいつくしむ]
87 川合玉堂 「猿」
崖の蔦を登る猿と、それを見上げる2匹の猿が書かれた作品です。お互いに目を合わせ会話するかのような表情が面白く、細かい毛の表現がある一方で大胆な描写や濃淡があるなど変化に富んだ感じを受けます。動物への慈しみも感じられる作品でした。

81 川合玉堂 「虎」
岩の上の虎を横から描いた作品です。前足は伏せて後ろ足は立ち上がっている姿で、険しい表情には獲物を狙っているような緊張感が漂います。尻尾は画面からはみ出すほどで、迫力や力強さ、躍動感がありました。縞々の部分など結構さらっと描いているように見えるけど写実性があるのも面白いです。

この近くには猫やウサギの可愛らしい作品もありました。


ということで、玉堂の様々な作品を観ることができました。琳派風の作品やスケートを描いた作品などはあまり知らなかった側面だったので、予想以上に楽しめました。川合玉堂は実力の割にあまり個展が開かれませんので、お好きな方はこの機に是非どうぞ。


 参照記事:★この記事を参照している記事


 


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マルモキッチン 【池袋界隈のお店】

最近仕事が忙しいので今日は軽めの記事です。前回ご紹介した西武ギャラリーの展示を観る前に、池袋パルコの7階にある「マルモキッチン」というお店で夕飯を摂っていました。

【店名】
 マルモキッチン

【ジャンル】
 丼もの

【公式サイト】
 http://marumo-kitchen.com/index.php
 食べログ:http://tabelog.com/tokyo/A1305/A130501/13133267/
 ※営業時間・休日・地図などは公式サイトでご確認下さい。

【最寄駅】
 池袋駅

【近くの美術館】
 西武ギャラリー
 

【この日にかかった1人の費用】
 1100円程度

【味】
 不味_1_2_3_④_5_美味

【接客・雰囲気】
 不快_1_2_③_4_5_快適

【混み具合・混雑状況(日曜日18時頃です)】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【総合満足度】
 地雷_1_2_3_④_5_名店

【感想】
結構お客さんが多くてほぼ満席くらいでした。

さて、このお店はパルコの7階にあり、丼ものを中心としたお店です。と言っても、伝統的な丼ものではなく洒落た創作料理といった感じで、栄養バランスを考えたメニューのようです。

お店の外観は撮り忘れましたが、中はこんな感じ。
P1110990.jpg
スッキリとした感じで、まあ普通かな。

色々変わり種の丼がありましたが、この日は炙りサーモンといくらのアボカドごはん(1200円)を頼みました。
P1110987.jpg
セットでサラダとスープが付いてきます。それほど量は多くないので女性向けなのかも。

炙りサーモンといくらのアボカドごはんのアップ。
P1110988.jpg
意外と温かくて、アボガドがトロっとして美味しかったです。サーモンはコロコロして肉厚な感じ。

連れは彩り野菜のスパイシーガパオごはん(1050円)を頼んでいました。
P1110984.jpg

ガパオのアップ。
P1110986.jpg
こちらはちょっと味濃いめでスパイシーな感じだったようです。


ということで、洒落た丼を楽しむことができました。池袋パルコは世界堂などに行く機会が多いのでまたそのうち使ってみようと思います。カルボドリアという変わったメニューも気になったのでいずれ食べてみたいですw



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「風立ちぬ」原画展 【西武ギャラリー】

前回ご紹介した、スタジオジブリの映画「風立ちぬ」を観た次の日に、池袋の西武別館の中にある西武ギャラリーで、[初公開]スタジオジブリ最新作 宮崎駿監督作品「風立ちぬ」原画展 を観てきました。

P1110997_20130724013012.jpg P1110991_20130724013015.jpg

【展覧名】
 [初公開]スタジオジブリ最新作
 宮崎駿監督作品「風立ちぬ」原画展

【公式サイト】
 https://www2.seibu.jp/wsc/010/N000058443/0/info_d

【会場】西武ギャラリー
【最寄】池袋駅


【会期】2013年7月20日(土)~29日(月)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間00分程度

【混み具合・混雑状況(日曜日19時頃です)】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
やや遅めの時間に行ったのですが、結構混んでいました。会場も狭いのであちこちで人だかりが出来ていて、列を組んでみるような感じです。

さて、この展覧会はその名の通り、2013年夏に公開されたスタジオジブリのアニメ映画「風立ちぬ」の原画展となっています。流れとしては映画の冒頭からラストへと物語の筋に沿った展示で、凄い勢いでネタバレを含んでいますw というか、この展示を先に見たら内容が全部分かってしまう可能性があります。 今回は混んでいたのであまりメモは取れず、この記事では大まかな流れだけをご紹介しようと思いますが、それでもネタバレが強いので、ここから先、ネタバレを読みたくない方は映画をご覧になられた後で読んで頂ければと思います。展覧会の内容も基本的に映画を観た人向けとなります。


以下30行空白送り






























************** ネタバレここから **************

まず入口付近に菜穂子のパラソルとキャンバスが置かれていました。背景も青空で、再開のシーンを再現したような感じです。

そしてその後からが原画展示で、冒頭の夢の中の鳥型飛行機や街の風景、少年時代の二郎のイメージボード、カプローニさんと飛行機の設定などが並びます。他にも山や自宅の背景、学校の中の様子の原画などもあり、映画で観たシーンが思い出されます。夢の中は色合いが現実世界とちょっと違って見えるかな。現実世界は古き良き日本の風景といった感じです。この辺りには外国の航空雑誌も展示してあり、冒頭のシーンで二郎が読んでいた英語の雑誌を思わせました。

少し先に行くと、菜穂子と出会った時の列車(3等の方かな?)を再現した所があって驚きました。たった10日の展示の為にこんなものまで作るとは…w その辺りには車窓や震災の描写、火の海となった風景、焼ける直前の里見家の周辺、東京帝国大学時代の二郎、洋装の菜穂子、お絹など、震災と出会いのシーンの原画が並んできました。

少し進むと、定食屋の中、東大の入口付近、下宿などの原画が並び、二郎が吸っていたタバコ(CHERRYと書いてあるタバコ)や映画の中でも出てきたポール・ヴァレリーの本なども並んでいました。原画以外にも映画とリンクする品々が並んでいるのが面白いです。

その先には名古屋駅前の光景、三菱内燃株式会社とその周りの風景、喫茶店フライヤの店内などの原画が並び、その向かい側には下宿風の部屋もありました。部屋の中には定規や設計図があり、二郎の生活の場を再現した感じです。これも結構気合が入っていて、短期間の展示なのが惜しい限り。

さらに進むと、ユンカース社視察のシーンの原画が並び、巨大なG38、脇にあったF13、二郎と本庄が泊まっていた部屋、帰国の際に乗っていた列車の廊下などの絵が展示されていました。飛行機の描写は特に細かく感じるかな。堂々たる雰囲気です。

続いては二郎と菜穂子の再開の森の中がボードで再現され、避暑地の軽井沢でのシーンの原画が並びます。碓氷峠のレンガ造りの橋、アプト式線路のトンネル、草刈ホテルと周辺の森、ハンス・カストルプ氏の表情集、10年後の里見家などの原画で、特に草刈ホテルの内部などは魅力的に描かれていました。ちなみに、スタジオジブリには2011年までスティーブン・アルパートという方が働いていたそうで、仕事を通して宮崎駿 氏と友人となっていたそうです。そのスティーブン・アルパート氏が家庭の事情で帰国する際にお礼として似顔絵を描いたものの、満足するものが出来ずに帰国の日を迎えてしまったそうです。しかし翌年に「風立ちぬ」の絵コンテの中アルパート氏の姿があり、それがこのカストルプ氏のようです。アルパート氏はその声を務めるためにわざわざ来日されたのだとか。
 参考リンク:プロダクションノート

この近くには雨上がりの虹の原画もあったのですが、これは虹の部分が上からかぶせてあるのがよく分かりました。その後は避暑以降のシーンの原画で、里見家の内装は特に趣味が良いかな。他にも高原病院、黒川家とその離れ、工場内、九試単座戦闘機(ポスターの飛行機)、ラストの夢のシーンなどがありました。この辺りには二郎の紙飛行機も展示されていて、これは来場者プレゼント(毎日先着500名)もあるようです。

出口辺りには約4分の映画予告と、映画に関するプロダクションノートがありました。プロダクションノートは先ほどのアルパート氏のエピソードを含めて公式サイトにあるものと同じですが、飛行機のプロペラ音や蒸気機関車の蒸気の音を人間の声でやっているというのには驚きました。…全然気が付かなかったw プロペラを回す時の音はこんな音がするのか~なんて思いながら観ていましたw

展覧会の後にはグッズも販売されていました。風立ちぬ以外のスタジオジブリのグッズもたくさんあり、書籍、CD・DVD、文房具、ぬいぐるみ、イベント限定品などもあります。これはファンには嬉しいんじゃないかな。


************** ネタバレここまで **************

以下30行空白送り































ということで、この展覧会は映画を観てから行ったほうがよろしいかと思います。映画の中では特に詳しい説明が無かった事物に対する補完にもなるので、両方観ておくと理解が深まるかもしれません。原画ならではの魅力もあるので、映画を観てファンになった方は是非どうぞ。会期がかなり短いので、行くならすぐに行かないとあっという間に終わりますw


おまけ:
この展示は各日先着500名に二郎の紙飛行機がプレゼントされるようです。
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こちらはグッズの一例。(会場外にあったサンプルを撮っています)
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 参照記事:★この記事を参照している記事




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映画「風立ちぬ」(ややネタバレあり)

先週の土曜日に、公開初日だった映画「風立ちぬ」を観てきました。

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【作品名】
 風立ちぬ

【公式サイト】
 http://kazetachinu.jp/

【時間】
 2時間10分程度

【ストーリー】
 退屈_1_2_3_4_⑤_面白

【映像・役者】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【総合満足度】
 駄作_1_2_3_④_5_名作

【感想】
初日ということもあって映画館は満員で、チケットも早々に売り切れるほどの人気ぶりでした。

ここから先の感想にはややネタバレを含んでいますが、公式サイトで分かること以上のネタバレは記載しておりません。

さて、この映画はスタジオジブリの宮崎駿 氏が手がけるアニメ映画で、宮崎駿 氏が監督を務めたのは「崖の上のポニョ」以来5年ぶりとなるようです。ジブリとしては「コクリコ坂から」以来2年ぶりかな。
 参考記事:映画「コクリコ坂から」 (ネタバレなし)

この映画には宮崎駿 氏による同名の原作漫画があり、堀越二郎(零戦の設計開発者)と堀辰雄(作家)に敬意を込めてとクレジットされているように、堀越二郎 氏の若き日をベースに堀辰雄 氏の作品世界を織り交ぜるという、ノンフィクションとフィクションが混ざる形の物語となっています。ジブリとしては実在の人物をモデルにした作品は初で、主人公の成長を長期に渡って綴るというのも初めてのようです。

物語は、今回のキャッチコピーの「生きねば。」に沿っていて、これが全編に渡って押し出されている感じがします。生きづらい時代にあって夢を追いかけ続ける主人公や、一緒に働く仲間たち、そして恋愛と、苦しみや困難の中で輝くように生きています。しかし、主人公は飄々として感情を内に秘めているような感じなので、劇的な盛り上がりというよりはジワジワと後から考えさせるような場面が多かったように思います。ある人物とのやり取りが少年時代からラストまで要所要所に挟まれるのですが、そこでの会話には印象的な言葉が多く、懸命に生きている人には特に刺さるのではないかと思います。また、今回は恋愛の要素も強く、ここは堀辰雄 氏の作品がベースのようですが、静かに強く結ばれている描写が印象的でした。

零戦の開発者と聞くと戦争を思いつくかもしれませんが、宮崎駿 氏は戦争反対のイデオロギーを持ちつつ戦闘機が好きという矛盾を抱えているのを指摘され、それがこの映画を作る契機の1つだったようです。しかし、この映画の中には様々な航空機の専門知識や世相などは描かれていたものの、戦争の是非についてはあまり触れられていないように感じました。勿論、反戦メッセージと受け取れる部分もありましたが、物語の本質はそこに無く、夢を持って懸命に生きるという点に主眼があるようでした。受け取り手によって様々な解釈ができそうです。

一方、映像や声優についてですが、今回もジブリらしい美しい映像を楽しむことができました。緑の森、雑多な街、昔ならではの日本家屋など、やや理想的な美しさです。(これについては別の記事でご紹介します)ただし、単に美しいだけではなく、当時の人々の苦しい生活を表すシーンが随所にあり、絵は理想的でも影の部分を強く感じさせました。

声優に関してはエヴァンゲリオンシリーズなどを監督した庵野秀明 氏が主役を務めたことが大きな話題となっています。声優どころか俳優でもない庵野秀明 氏ですが、流石によく主人公を理解されているようで、特に違和感無く独特の味わいとなっていました。強いて言えば、青年期にしては声が老けてるように感じたかなw そこはすぐに慣れました。他のキャラクターの声に関しても良かったと思います。テーマソングの松任谷由実のひこうき雲も驚くほどにこの世界に合っています。
 参考記事:館長 庵野秀明 特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技 エヴァの原点は、ウルトラマンと巨神兵。 (東京都現代美術館)

ということで、非常に楽しめる映画でしたが、すぐに全部を飲み込めたわけではありませんでした。ジブリの作品の中でも見終わった後に考えさせられる部分が多いのではないかと思います。次に観る時はまた感じるものも違いそうなので、今の段階で最高の満足度と結論するのは早いと判断し、満足度は④にしておきます。とりあえず、子供が観てもよく分からない大人向けの作品なのは確かなので、家族連れというよりは大人だけで観に行ったほうが良さそうです。


この次の日に、原画展も観て来ました。(既に映画を観た人向けの展示です)
 参考記事:「風立ちぬ」原画展 (西武ギャラリー)





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アートアクアリウム展2013 & ナイトアクアリウム 【日本橋三井ホール】

先週の金曜日の会社帰りに、三越前の日本橋三井ホールで「アートアクアリウム展2013 & ナイトアクアリウム」を観てきました。今年も去年同様に時間帯でアートアクアリウムとナイトアクアリウムに分かれていて、私が行ったのはナイトアクアリウムでした。(19時からはナイトアクアリウム。夜は中でお酒も売っていました。)

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【展覧名】
 アートアクアリウム展2013 & ナイトアクアリウム

【公式サイト】
 http://h-i-d.co.jp/art/

【会場】日本橋三井ホール
【最寄】銀座線三越前/新日本橋駅/東京駅/神田駅


【会期】2013年7月13日(土)~9月23日(月・祝)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間00分程度

【混み具合・混雑状況(金曜日20時半頃です)】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_4_⑤_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_③_4_5_満足

【感想】
昨年も金曜の晩に行って大混雑に巻き込まれたのですが、今回はより遅い20時半くらいに行ってみたところ、それほど混んでいませんでした。小さな水槽も前あたりは人だかりもありましたが、ちょっと待てば観られたので比較的快適でした。とは言え、去年かなり人気を博したイベントなので、今後は混雑することも予想されます。これからお出かけされる方はなるべく早めに行っておくことをお勧めします。

さて、今回の展示は毎年恒例となりつつある金魚を中心としたアクアリウムです。普通の水族館とは異なり、映像や光を使ったり、変わった水槽を使って、「和」を演出する趣向となっています。今年もアートアクアリウムプロデューサーの木村英智 氏が手がけたそうで、この場所では今年で3回目になります。会場ではフラッシュを使わなければ写真を撮れました(動画は駄目)ので、詳しくは撮ってきた写真を使ってご紹介しようと思います。

 参考記事:
  アートアクアリウム展2012 & ナイトアクアリウム (日本橋三井ホール)
  スカイ アクアリウム2011 (森アーツセンターギャラリー)
  スカイアクアリウムⅢ (TOKYO CITY VIEW)

「水中造形アート The First Lady's Beautiful Memory」
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これは入り口にあった作品。プロデューサーの木村氏が総理大臣(2013年時点)の安倍晋三 氏の妻である安倍昭恵 氏と会った際、昭恵 氏が棚田の再生活動を行なっていることを知ったそうで、この作品では晋三氏の故郷の山口県油谷の棚田をモチーフにしているそうです。言われてみると確かに段々になっているかな。背景も夕焼けみたいで綺麗でした。

「Kingyo」
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これはヴェネツィアのガラス工房とのコラボ作品。確か去年はこの中に金魚がいましたが、今年は器だけが展示されていました。

こちらは作品名はわかりません。
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最初に細長い通路を通るのですが、これはその通路に何箇所か置かれていました。これは至って普通な感じの水槽かな。金魚と藻の色合いが涼しげです。

こちらも名前は分かりませんが、変わった形の水槽。
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泡が意外と幻想的な感じです。

これは宝石のカットのような形の水槽。
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光線も綺麗で、洒落た雰囲気。

金魚たちのアップ。
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ヒレが長いのがなんとも優美です。

「カレイドリウム」
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これは側面の三角の所を覗きこむと万華鏡のように見えるという作品。これは毎年定番かな。時間と共に光の色が変わっていくのも綺麗です。

こちらも名前は分かりませんが、初めて見る作品。
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枯れ木とカラフルなガラスの組み合わせが斬新な感じがします。

上の写真より近づいた様子。
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木とガラスの隙間を金魚たちが揺らめく様子が綺麗です。

この先は大きなフロアになっていました。
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このステージは夜になると音楽ライブなども行われるようです。(公式サイトにはそのスケジュールも載っています) また、このフロアでは夜になるとお酒を売っていて、立ち飲みできるテーブルなども設置されています。

「アンドンリウム」「華魚撩乱」
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行灯をモチーフにした照明と、細長い水槽にたくさんの金魚が入っている作品。

華魚撩乱を横から見るとこんな感じ。
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非常に幻想的な光景となっています。

「花魁」
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これも恒例かな。時間とともに色が変わっていき、タイトルのような妖しさと華やかさがあります。

花魁のアップ。
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ゆらゆらと揺れる姿が何とも艶やか。

このフロアの壁面には様々な変わった金魚たちが、色の変わる光線に照らされて展示されていました。

「赤蝶尾」
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こちらは金魚らしい赤々とした金魚。目の周りが白っぽいのが可愛らしい。

「ランチュウ」
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なんだかモコモコした感じの金魚。ゆっくりと漂うように泳いでいました。

「ピンポンパール」
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ピンポン球みたいに丸々した感じの金魚。面白い体つきをしていますw

「白オランダ」
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オランダという種類の中でも白い金魚。頭の形も変わっていますが、真っ白なのも金魚らしからぬ感じ。

「黒オランダ」
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こちらは黒っぽい金魚。形はオランダですが、色はフナみたいw

「ミルク和金」
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白っぽいピンクの金魚。スラっとした体型で、群れていると非常に綺麗でした。

「ショートテール琉金」 もしくは 「ブロードテール琉金」
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これは2種類の金魚が入っていて、どっちがどっちか分かりませんでしたw 立派なヒレを持っています。

「水中四季絵巻」
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これは4~5分の映像作品で、水槽の背景に日本の四季の美しい光景が映し出されます。

水中四季絵巻をアップするとこんな感じ。
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まるで空中を金魚が浮遊しているかのようです。これも定番かな。

通路に金魚の番付がありました。
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東京になってからも江戸っ子はランキングが大好きなようで、何でも番付を作りますねw

出口付近にもお酒が飲めるカウンターがありました。
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「キモノリウム」
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これは去年同じ場所にあったビョウブリウムに似た作品。映像の柄と金魚が合わさって模様を作り出していました。まるで模様が動いているような感じです。


ということで、綺麗なものをより綺麗に見せるものなので、非常にわかりやすい展示でしたが、内容はほぼ去年と同じだったんじゃないかな。去年もその前と似た内容だったので、ちょっと物足りない感じがしました。しかし今まで観たことが無い方には、また観られるチャンスとも言えるので、去年見逃した!という人には良いかもしれません。夏を感じさせる展示です。


おまけ
夏は涼を求めて水族館に行きたくなる季節です。以前ご紹介した水族館も参考までに。
 参考記事:
  葛西臨海水族園の案内 前編
  葛西臨海水族園の案内 後編
  サンシャイン水族館の案内 (2011年11月)



 参照記事:★この記事を参照している記事




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【江戸東京博物館】の案内 (2013年07月)

前々回前回とご紹介した江戸東京博物館の特別展を観た後、常設展も観てきました ここの常設はルールを守れば写真を撮ることが出来ます(企画展はNGの時もあります)ので、今回も撮ってきた写真と共にいくつかご紹介しようと思います。

 参考記事:
 江戸東京博物館の案内 (2013年01月)
 江戸東京博物館の案内 (2012年12月)
 江戸東京博物館の案内 (2012年09月)
 江戸東京博物館の案内 (2011年10月)
 江戸東京博物館の案内 (2011年06月)
 江戸東京博物館の案内 (2010年03月)
 江戸東京博物館の案内 (東京編 2009年12月)
 江戸東京博物館の案内 (絵画編 2009年12月)
 江戸東京博物館の案内 (江戸編 2009年12月)


常設の中にある企画展では「発掘された日本列島2013」という企画展示が行われていました。今回の展示は写真OKでした。

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【展覧名】
 発掘された日本列島2013

【公式サイト】
 http://www.edo-tokyo-museum.or.jp/exhibition/project/2013/6/index.html

【会期】2012年06月08日(土)~2013年07月25日(木)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。


特別展が非常に混んでいたこともあってか、いつも以上に多くのお客さんで賑わっていました。(鑑賞に差し障るほどではありません)

今回も色々と面白い品々が並んでいましたが、以前ご紹介したものも多いので、この記事では企画展と、私が気になった常設のコーナーについてご紹介していこうと思います。


<発掘された日本列島2013>
まずは企画展を観てきました。この展示は古代から江戸時代まで、様々な遺跡で発見されたものを歴史順に俯瞰的に並べたもので、結構大型の作品などもありました。

「貝塚」
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これは縄文時代晩期(約3000年前)の上境旭台貝塚(茨城県つくば市)の貝塚。昔の人のゴミ捨て場と言った感じかな。捨てた貝が積み重なっている様子がよく分かります。

「土偶」
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こちらも上境旭台貝塚のコーナーにあった土偶。人間をデフォルメした像ですが。宇宙人説を信じたくなるくらい人間離れして見えますw 
 参考記事:国宝 土偶展 (東京国立博物館 本館特別5室)

「囲・家型埴輪」
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こちらは少し後の品で、御廟山古墳(大阪にある5世紀後半頃の古墳)から出土した埴輪。埴輪というと人型を思い浮かべますが、こうした家の形のものもあります。

「人形(ひとがた)」
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こちらは8世紀頃の下佐野遺跡から出土した人形。祭祀の場から出土したらしいので祭礼か呪術にでも使ったのかな? 神秘的な雰囲気がありました。

「築地塀剥ぎ取り」
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これは2011年に京都の教王護国寺(東寺)の東側の地塀が切りだされたもので、天井近くまで高く積み重なっています。解説によると、これは江戸時代前期に作られたのが分かるとともに、その下層には平安時代前期からの各時代の築地塀の基礎も積み重なっていたようです。まさに地層のように時代を感じさせる品でした。
 参考記事:番外編 教王護国寺 (東寺)の写真 【京都】

「伊達家屋敷出土肥前染付 磁器」
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これは江戸時代後期の品で、今の汐留シオサイトのあたりにあった伊達家の屋敷跡から出土した肥前の染付。龍や花鳥の文様があり、落ち着きのある色合いです。この他にもかなり多くの品が展示されていて、伊達家の権威を感じさせました。

「735号遺構出土 理兵衛焼」
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これは理兵衛焼(りへいやき)という高松藩の官用に使われた御庭焼(おにわやき)で、御庭焼とは江戸や国元の大名屋敷などで制作された焼物のことだそうです。江戸初期の京都の作陶から生まれたそうで、私は初めて観ました。かなり独特のデザインが面白い。


<常設>
続いては、常設のコーナーです。ここは数が多いので今回は江戸の庶民の暮らしや夏の過ごし方についてのコーナーをピックアップしてみました。

これは江戸時代の大工さんの年間収支。
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ほとんど食費と光熱費でエンゲル係数が高そう…w 意外と衣服代にはお金がかかっていないようでした。

「大江戸古着店日之出番付」
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これは古着屋さんのランキングといった感じの番付。かなりのお店が書かれていますが1723年の記録では江戸に1182人もの古着屋さんが登録されていたそうで、古着は大きな市場だったそうです。江戸庶民があまり衣服代にお金をかけてなかったのも納得w それにしても江戸っ子は何でもランキングを作りますw

続いて瓦版のコーナー。

「四谷太宗寺ゑんま大王像眼玉くり抜き事件」
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これは1847年3月6日に、四谷太宗寺の閻魔大王像の水晶でできた眼玉がくり抜かれるという事件を伝える瓦版。犯人は閻魔大王像に祈願したのにその甲斐なく子供が疱瘡で死んでしまったそうで、それを恨んでの犯行のようです。くり抜いた時に光って転落したと語られていたのだとか。ちょっと迷信っぽいけど面白い事件です。

「舶来大象図」
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これは江戸に見世物としてやってきた象に関する瓦版。こうした象やラクダ、ロバなど珍しい動物は見世物としてやってきていたようで、浮世絵などでも見世物の様子や、その時に写生した動物の絵を結構観たことがあります。江戸の人たちの興奮の様子が伺えます。

「安政二卯十月二日大地震」
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これは1855年10月2日に起きた安政江戸地震(マグニチュード6.9の直下型)の被害状況を伝える瓦版。安政の頃は全国的に大地震が連発していたらしく、この大地震に関しても何度か浮世絵で目にしたことがあります。最近も地震が多いですが、昔も苦労していたようです。
 参考リンク:安政の大地震

「大女」
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これは肥後国天草郡に住む三姉妹の体が大きいことを報じた瓦版。姉は2m4cmもあったそうで、江戸の見世物となり大人気だったようです。計測が正しいとすれば江戸の人から見たら巨人みたいだったのかも。江戸っ子の物見高い性格も推して知るべしかなw

続いては夏の過ごし方に関する浮世絵のコーナーとピックアップしてみます。

鳥居清長 「子宝五節遊 七夕」
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今も昔も変わらぬ七夕の飾り付けを描いた作品。女性を中心に子どもたちがめいめいに飾り付けしています。楽しげでこの時期に合った作品でした。

歌川国貞 「東都名所四季之内 両国夜陰光景」
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これは隅田川の河畔にある料亭での宴席の様子が描かれたもの。3枚続きで迫力ある画面となっていて、背景には両国橋も見えています。団扇を持った女性たちは涼しげで、江戸の夏の風情が楽しめました。

渓斎英泉 「浮世美人十二箇月 七月星まつり」
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団扇を持った女性の周りに七夕の短冊が舞う様子が描かれた美人画。タイトルから察するに12ヶ月あるうちの7月に該当する作品かな。翻る幾何学的な模様の着物を含め、華やかな印象を受けました。

歌川国貞 「浮世人情天眼鏡」
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こちらは湯上りの美人画。団扇には空をとぶ鯉のぼりが描かれ、青い着物を着ているなど涼を感じさせます。上に書いてある賛は山東京伝のものなのだとか。

橋本貞秀 「絵兄弟」
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ちょっと変わったタイトルのうちわ型の美人画。解説によると、美女が持っている団扇に描かれているのは琵琶湖で、扇子に描かれているのは富士山らしく、両方とも日本一であることから絵兄弟というタイトルになっているようです。浮世絵はこういう機知があるのも魅力ですね。


ということで、今回も江戸東京博物館ならではの内容となっていました。特に瓦版の展示は浮世絵などの題材にもなっている事件があったので面白く感じられました。もし江戸東京博物館行く機会があったら、特別展だけでなく常設も観ることをお勧めします。



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ファインバーグ・コレクション展 江戸絵画の奇跡 (感想後編)【江戸東京博物館】

今日は前回の記事に引き続き、江戸東京博物館の「ファインバーグ・コレクション展 江戸絵画の奇跡」の後編をご紹介いたします。前編を読まれていない方はまずは前編から先にお読み頂けると嬉しいです。


  前編はこちら

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まずは概要のおさらいです。

【展覧名】
 ファインバーグ・コレクション展 江戸絵画の奇跡

【公式サイト】
 http://edo-kiseki.jp/
 http://www.edo-tokyo-museum.or.jp/exhibition/special/2013/05/

【会場】江戸東京博物館
【最寄】JR両国駅/大江戸線両国駅

【会期】
 前期:2013年5月21日(火)~6月16日(日)
 後期:2013年6月18日(火)~7月15日(月・祝)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況(日曜日14時頃です)】
 混雑_①_2_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
前編では琳派と文人画のコーナーをご紹介しましたが、後編は残り3つの章についてです。

<円山四条派 写生と装飾の融合>
江戸時代の御用絵師であった狩野派は、中国や日本の古典絵画に学ぶ一方で写生から遠ざかっていたそうで、その弊害に気づいた円山応挙は写生の重要性を自覚し、それを実践することで新鮮な作品を送り出したそうです。円山応挙は多くの門弟を育て、共鳴者である呉春と共に円山四条派は隆盛を極めたそうで、森狙仙の森派や岸駒の岸派といった派生も生んだようです。ただし、彼らの写生は外面的な形似に留まっているようで、物の本質に鋭く迫るものではなく、装飾的な効果を追い求めていたようです。ここにはそうした写生と装飾の両面性を持つ作品が並んでいました。

44 円山応挙 「孔雀牡丹図」 ★こちらで観られます
鮮やかな色合の孔雀が振り返っている様子が描かれた作品です。周りは岩のある渓流らしく、ピンクの牡丹の花も咲いています。緻密で陰影などもリアルに描かれ、写実的な印象を受けます。また、画面の側面を沿うように描かれた尾にボリューム感があるように思いました。題材が孔雀なだけに装飾的な雰囲気のある作品です。

50 森狙仙 「滝に松樹遊猿図」 ★こちらで観られます
2幅対の掛け軸で、左幅は松の樹にのぼっている猿たちが描かれています。一方、右幅は滝が落ちる様子が描かれ、奥行きを感じさせます。作者の森狙仙は猿を描くのを得意としていたようで、刷毛を用いて表現したフサフサした毛並みや、豊かな猿の表情が見事です。親猿にしがみつく小猿の姿もあり、写実的ながらもどこか愛らしい表現に思えました。
この近くには岸駒の子供の作品などもありました。南蘋派風の雰囲気かな。

52 森徹山 「春鶴秋鹿図屏風(もと襖) 秋鹿図」
これは4枚の襖絵で、金地を背景に真っ赤に染まるモミジの樹の下に何匹かの鹿が集まっている様子が描かれています。鹿の毛並みまで細かく表されているものの、装飾的な雰囲気があり、落ち着きと美しい色合いが特徴となっていました。解説によると、この作者は応挙に学び森狙仙の養子になった画家とのことでした

55 柴田是真 「二節句図」
2幅対の掛け軸で、右幅には立派な邸宅の中でこちらに背を向けて座る子供が描かれています。その庭先には吹流しがあり、これは端午の節句を描いているようです。一方、右は農家の中にひな壇らしきものが描かれ、ひな祭りを題材にしているのですが、周りは秋の風景となっています。解説によると、現代の我々にはひな祭りといえば春の節句ですが、昔は秋の重陽の節句の際に行われていたこともあったようです。この作品は漆絵でも有名な柴田是真の作品ですが、恐らくこれは普通の彩色じゃないかな。緻密で独特の重厚感は出ているように思いました。

この近くには円山四条派の後継者ということで近代の竹内栖鳳の作品なども展示されていました。


<奇想画 大胆な発想と型破りな造形>
江戸時代は封建社会であり革新を嫌う風潮のだったようですが、そうした時代にあって経済力を増した庶民たちは、自分たちの文化や美術を育てるようになったそうです。彼らは型破りな造形を歓迎したようで、江戸狩野派に反発した京狩野の狩野山雪をはじめ、伊藤若冲、曾我蕭白、長沢芦雪など個性的な画家も生まれました。ここにはそうした奇想の作品が並んでいました。

58 狩野山雪 「訪戴安道・題李かん幽居図屏風」
6曲の屏風で、賈島(かとう)という人が「題李かん幽居」という詩を作るときに言葉の選択に悩んだという「推敲」の故事に基づく話が描かれています。広々とした湖の畔に立派な邸宅と、その周りの切り立った岩山が描かれ、屋敷はかなり精緻に描かれている一方で、岩山は太い輪郭が使われていて大胆な印象を受けます。その岩山がどことなく雪舟を思わせるかな。雄大で落ち着きがありました。

59 伊藤若冲 「菊図」
3幅対で、様々な菊が描かれた作品です。ほぼ単色でやや簡略化されていて、左右は向き合うような配置と成っています。若干地味にも思えますが、装飾性と写実が入り混じったような雰囲気がありました。

63 曾我蕭白 「宇治川合戦図屏風」 ★こちらで観られます
これは平家物語の宇治川の先陣争いの様子を描いた作品で、赤い鎧の梶原景季と緑の鎧の佐々木高綱が馬に乗っている様子が描かれています。馬は口を開けて振り返り、梶原景季は刀を振り上げて左から飛んでくる矢を防いでいるようです。単純化された川は渦巻き、全体的に迫力ある画面となっています。馬は若干妖怪のような顔をしているのが蕭白らしいかなw

近くには蕭白のお得意の鉄拐仙人を描いた作品などもありました。

65 曾我蕭白 「大黒天の餅つき図」
満面の笑みで片足を上げて杵を振り上げる大黒天を描いた作品です。これはお酒の席で即興で描いたものらしく、非常に簡素な感じを受けますが、動きと楽しさが伝わってきます。大黒様も可愛らしく、面白い作品でした。

66 長沢蘆雪 「拾得・一笑・布袋図」
これは3幅対の掛け軸で、左は箒を持って片足を上げる拾得、中央は竹の側でじゃれあう3匹の子犬、右は杖を持った布袋が描かれています。画題がバラバラなので元々は対ではなく別々の作品と思われるようです。特に気に入ったのは中央の犬の絵で、「竹」と「犬」の漢字を合わせると「笑」になるので一笑図と呼ばれるようです。コロコロした感じは芦雪の狗子図によく見られる得意のモチーフかな。いずれも伸びやかな雰囲気がありました。

<浮世絵 都市生活の美化、理想化>
最後は浮世絵のコーナーです。江戸時代始めに京都で流行した風俗画は江戸にその場を移し、浮世絵として受け継がれていきました。浮世絵には版画と肉筆画(浮世絵師が直接描いた作品)がありますが、ここには肉筆画が並んでいました。

71 菱川師宣 「吉原風俗図」
これは吉原の遊郭の中を描いた作品で、たくさんの人々が描かれ、食事の支度をしている部屋や、客が遊女を呼ぶ際に相手をさせた「揚屋」の様子が描かれています。揚屋の中では客と床入りしている遊女の姿もあり、当時の遊郭の雰囲気がそのまま描かれているような活気がありました。

79 勝川春章 「文を破る女図」
軒先で柱によりかかり引きちぎった手紙を噛んでいる紫の着物の女性を描いた作品です。この女性は眉を落としているので人妻らしく、夫に届いた恋文を読んで心を乱している様子のようです。そんなに怒っているような顔ではないのですが、若干ぼーっとした感じが逆に怖いかもw 今も昔も変わらぬ人間模様を描いた面白い風俗画でした。

近くには懐月堂の肉筆画などもありました。

83 酒井抱一 「遊女立姿図」
琳派の継承者として有名な酒井抱一ですが、この作品は琳派研究の前の20代の頃の作品で、歌川豊春の特色を受け継いでいます。青い桜模様の打掛を着た吉原の遊女が描かれ、緻密で優美な立ち姿となっています。20代で既に卓越したセンスを持っていたのが伺える作品でした。

89 葛飾北斎 「源頼政の鵺退治図」 ★こちらで観られます
これは北斎の最晩年の肉筆で、やや斜め上に向けて弓を構える烏帽子の武者が描かれています。これは鵺(ぬえ)退治をする源頼政の姿らしく、筋肉隆々で厳しい表情からは緊張感が伝わってきます。鵺の姿はありませんが、上方の黒雲から二条の光が落ちていて、これが鵺の存在を示しているようです。北斎の衰えを知らない意欲が伺える作品でした。


ということで、個人のコレクションとは思えないくらいの品々でした。浮世絵も肉筆画が多くて驚き…。もう終わってしまいましたが、江戸時代の絵画の多様性も俯瞰できる内容でした。


 参照記事:★この記事を参照している記事



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■2012/1/27
NHK BSプレミアム 熱中スタジアム「博物館ナイト」の収録に参加してきました
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■2011/11/21
海の見える杜美術館の公式紹介サイトに掲載されました
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■2011/9/29
「週刊文春 10月6日号」に掲載されました
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■2009/10/28
Yahoo!カテゴリーに登録されました
  → 絵画
  → 関東 > 絵画

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美術鑑賞のお供
細かい美術品を見るのに非常に重宝しています。
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このブログの写真を撮ってます。上は気合入れてる時のカメラ、下は普段使いのカメラです。
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