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【横須賀美術館】の常設 (2013年08月)

日付が変わって昨日となりましたが、土曜日に横須賀の横須賀美術館に行って展示を観てきました。最初に併設のレストランで食事をしようとしたら5組くらい待っていたので、名前だけ記入しておいてその待ち時間に谷内六郎館の展示を観てきました。

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【展覧名】
 谷内六郎〈週刊新潮 表紙絵〉展 「谷内六郎の見立ての世界」

【公式サイト】
 http://www.yokosuka-moa.jp/exhibit/taniuchi/tani1302.html

【会場】横須賀美術館
【最寄】馬堀海岸駅、浦賀駅、JR横須賀駅など


【会期】2013年6月29日(土)~10月20日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 0時間20分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日13時半頃です)】
 混雑_1_2_3_4_⑤_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
この展示は空いていて自分のペースで観ることができました。

さて、この谷内六郎館は横須賀美術館の別館のようになっているところで、谷内六郎 氏の作品が並んでいます。谷内六郎 氏の名前を知らない人でも昭和期の週刊新潮の表紙を描いていた人と言えば分かるかも?? 今回はその中でも「見立て」に注目した作品を集めて展示していましたので、いくつか気に入った作品をご紹介しようと思います。

 参考記事:
  横須賀美術館の常設 (2010年11月)
  横須賀美術館の常設 (2011年09月)
  横須賀美術館の常設 (2012年08月)
  

谷内六郎 「布地の海」
青と水色のチェック柄の布にアイロンをかけているお母さんと、その脇で体育座りをしてその布をじっと観ている男の子が描かれた作品です。男の子の目線の先には半透明の船が布の上を走っていて、これは男の子が布を海に見立てて船も想像している様子のようです。確かにアイロンは見方によっては船のように見えるかも? 微笑ましくて想像力に富んだ作品でした。

谷内六郎 「船の編むレース」
これは丘から海岸を見下ろす2人の姉妹が描かれた作品で、砂浜には白い波が押し寄せ、海には飛沫を上げて進む船の姿があります。この波と飛沫はレースを切り取ってコラージュされていて、レースを波に見立てているのが面白かったです。ちょうど網の密集しているほうを波打ち際にしているのもそう見える要因かな。

谷内六郎 「白い帽子の夏」
白い帽子を被った2人の少女と、その背景にある断崖の上の燈台を描いた作品です。真っ白な燈台も2人の帽子と同じような形で、3者の帽子が響き合っているような感じが面白いです。夏らしい空模様なども含めて爽やかな雰囲気でした。

谷内六郎 「朝露の涙」
これは山の麓の村(安曇野?)を背景に手前には籠を背負った女性と男の子が描かれ、お地蔵さんを見ています。お地蔵さんの目には朝露があり、泣いているように見えるのが見立てとなっているようでした。のどかで郷愁を誘われるような雰囲気の作品でした。

谷内六郎 「ツバメフィルハーモニー訪日」
これは雨上がりの空の下、電線にとまっているツバメたちがバイオリンや管楽器を持っている様子が描かれ、その手前には姉弟らしき子供がツバメたちを見上げています。電線とツバメが五線譜のようになっているのが見立てかな? これも面白い発想でした。
この近くにはこれと似た発想で「空の楽譜」という作品がありました。

谷内六郎 「車窓のフィルム」
これは雪が積もった森のなかを駆ける汽車と、その上の陸橋から汽車を眺める2人の子供が描かれた作品です。周りは夜で、汽車の窓から漏れた光が地面を照らしているのですが、それが映画のフィルムのようにコマ割りされて連続しているのがタイトルの由来のようでした。これもそういう発想で物事を捉えているのに感心させられました。

谷内六郎 「雪野のファスナー」
これは雪原を走る汽車とそれを観る2人の子供が描かれていて、奥には雪山がそびえています。横一直線に走る線路は言われてみるとファスナーのようになっていて、これもタイトルの妙が楽しめました。やや寂しげな光景なのにどこか心温まるのも不思議な作品です。

谷内六郎 「髪の毛のスキーヤー」
これは床屋さんで白い布をかけられた女の子と、後ろで絵本を読んで待っている男の子が描かれた作品です。白い布からは髪の毛が落ちる代わりに黒い人影のようなスキーヤーたちが描かれ、女の子の肩からお腹にかけてするするとスキーをしていました。これも髪の毛と白い布をゲレンデとスキーヤーに見立てる発想が面白かったです。

谷内六郎 「田んぼもカスリを着ている」
これは傘を被りカスリを着て田植えをする女性と、脇でそれを観ている姉弟が描かれています。田んぼは空模様や山陰を反射していて、奥のほうは暗くなっています。そこに規則正しく並ぶ稲が合わさると、カスリの模様と同じように見えてくるのがタイトルの由来のようでした。これも視点と発想が素晴らしい作品だと思います。


ということで、今回も谷内六郎の懐かしさや可愛さなどを感じる作風に触れることができました。それに加えてウィットに富んだ作品があることも知ることが出来てだいぶ満足できました。


おまけ;
谷内六郎館を観た後、順番待ちしていた美術館併設のレストラン「アクアマーレ」でお昼にしました。ここは以前ご紹介したので、今回はちょっと長めのおまけとしてご紹介しておきます。
 参考記事:ACQUAMARE アクアマーレ(横須賀美術館のお店)

ここは非常に眺めの良いお店で外の席もあります。(私は中の席でした)
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これは前菜として頼んだカルパッチョ(1360円)
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今日の魚はヒラメでした。上に乗っているドレッシングも含めて非常に美味しいです。

続いてはピザセットのサラダ
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ややビネガーが効いています。これはまあ普通。

ピザセット(1300円)の本日のピザ。2種類あるうち獅子唐、ベーコン、トマトのアラビアータにしました。
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窯焼きされた風味が美味しく、獅子唐の辛味がちょっと効いていました。これもかなり満足。

これは連れが頼んだパスタセット(1200円) 5種類あるうちタコとチェリートマト、甘長唐辛子のオイルベースというのを頼んでいました。
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実際に入っていたのはタコではなく魚でしたw 思ったものとは違ったようですが、美味しかったので結果オーライw このトマトが特に甘みがあってよかったようです。

食後はケーキも頼みました。これはイチジクとクルミのケーキ(500円) 飲み物は先ほどのピザセットにつけたアイスコーヒーです。
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甘さ控えめでしっとりしたイチジクが美味しく、中に入っているクルミの食感も良かったです。コーヒーも好みで、ここは何を頼んでも美味しいw

連れはリコッタチーズケーキ(500円)とアイスティーを選んでいました。
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こちらも絶妙な甘さで後味が爽やかなくらいで美味しかったです。


ということで、レストランもこの美術館を訪れる楽しみの1つです。やや高めですが景色も味も良いのでこの美術館に行く際には是非寄ってみることをお勧めします。



 参照記事:★この記事を参照している記事



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<遊ぶ>シュルレアリスム -不思議な出会いが人生を変える-(感想後編)【損保ジャパン東郷青児美術館】

今日は前回の記事に引き続き、損保ジャパン東郷青児美術館の「<遊ぶ>シュルレアリスム -不思議な出会いが人生を変える-」の後編をご紹介いたします。前編には混み具合なども記載しておりますので、前編を読まれていない方は前編から先にお読み頂けると嬉しいです。


  前編はこちら

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【展覧名】
 <遊ぶ>シュルレアリスム -不思議な出会いが人生を変える-

【公式サイト】
 http://www.sompo-japan.co.jp/museum/exevit/index_shuru.html

【会場】損保ジャパン東郷青児美術館
【最寄】新宿駅

【会期】2013年7月9日(火) ~8月25日(日) 
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日14時頃です)】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
前編ではシュルレアリスムでの様々な遊びについてご紹介しましたが、後編にも実験的な作品が並んでいました。


<第4章 写真の超現実>
シュルレアリスムと写真は切っても切れない関係にあったそうで、カメラは外界の現実をまずオブジェとして写し撮ることをマン・レイはよく知っていたそうです。事物や人物をオブジェとして撮り、その上 物を印画紙の上に乗せて感光させるレイヨグラフや、現像中に光を入れて物の輪郭に縁取りをつけるソラリゼーションなど新しい方法を発明したそうです。ここにはそうした写真を使った作品が並んでいました。
 参考記事:マン・レイ展 知られざる創作の秘密 (国立新美術館)

106 マン・レイ 「コート・スタンド」
手を広げて立つ裸婦を撮った写真で、コート掛けの後ろに立ち胸から上はコラージュのように見えるかな。人なのか物なのかよく分からない感じで、まさにオブジェ化した人間と言えそうでした。
この隣には偶然のブレで目が二重に写っている作品などもありました。

103 マン・レイ 「レイヨグラフ」
渦巻きのような白黒写真で、これは印画紙の上に直接 物を乗せて感光させるレイヨグラフの手法で作成されています。ここでは何を使って撮ったのか不明でしたが、真実を写すはずの写真が抽象的で現実離れした感じになっているのが面白かったです。

125 植田正治 「コンポジション」 ★こちらで観られます
こちらはマグリットやイヴ・タンギーに影響を受けた日本の写真家の作品で、黒い帽子や骨組みだけの傘、マネキンの上半身などが置かれ、その周りに帽子が舞い飛んでいる様子が撮られています。こちらも現実の風景のはずなのに、背景はタンギーの砂漠か海の底のような感じで、飛んでいる帽子からはマグリットのような超現実的な雰囲気が出ていました。これは鳥取砂丘かな? 植田正治らしい作品だと思います。
 参考記事:植田正治写真展 写真とボク (埼玉県立近代美術館)

近くには瑛九のレイヨグラフ風の作品などもありました。


<第5章 人体とメタモルフォーズ>
シュルレアリスムは人体とその変容に関心があったそうで、デ・キリコのマヌカン(人体模型)のような個性を持たない人物像が出発点と言えるそうです。また、シュルレアリスムにも実在人物をモデルにした肖像画はあることはあるものの、彫像に近いオブジェ感を漂わせているそうです。ここにはそうしたシュルレアリスムの人物像が並んでいました。

143 サルバドール・ダリ 「アン・ウッドワード夫人の肖像」
海岸で岩を背にして立つ女優を描いた作品です。背景は平坦な感じで、女優のドレスの青い帯は横に伸びて水平線に溶けこむように重なっています。また、背景の岩のアーチは女優のポーズと同じようにくり抜かれているのも面白く、一種の騙し絵みたいな感じかな。解説によると、この作品は女優自身は気に入らずにダリに返されたそうです。
 参考記事:奇想の王国 だまし絵展 感想後編(Bunkamuraザ・ミュージアム)

この近くには一時期シュルレアリスムのグループに入っていたピカソの作品やマグリットの作品などもありました。

154 オスカル・ドミンゲス 「無題(デカルコマニー)」
これは横浜美術館の常設の作品で、ブロック塀のようなものと大きな石像の頭部らしきものが描かれています。全体的にザラついた質感で、これはデカルコマニーという技法で描かれていて、絵の具を塗ってから紙を重ね、上から抑えて紙を剥がすとこのような不思議な不定形のイメージが現れるそうです。作者のドミンゲスはこれを油彩で試みて、それによって出来たマチエールを活かして独特の風化したような感じを出しているようでした。これも個性的な画風で好みです。

146 ジョルジョ・デ・キリコ 「広場での二人の哲学者の遭遇」
これは机や分度器のような物が重なってできたマネキンが2体向き合っている様子が描かれている作品で、右上には平面的な建物も描かれています。奥の方は砂漠のようで、汽車が走っているのは見え、奇妙で漠然とした不安のようなものを感じます。様々な要素をそぎ落として平面的にした結果、夢の中のような光景となっていて、それが何故か心惹かれる作風でした。

この隣にはジョアン・ミロの作品もありました。

152 アレクサンダー・コールダー 「角ばった肩のいきもの」
これは真っ黒な薄い金属板で出来た彫刻作品で、非常に単純化された生き物の姿をしています。尻尾が生えた人のような怪獣のような感じで、目と口は切り抜かれて表現され、その表情はニヤニヤ笑っているように見えました。これも人のメタモルフォーズなのかな? シュールな雰囲気でインパクトがある作品です。


<第6章 不思議な風景>
シュルレアリスムの絵画にはガランとした不思議な平面の光景がよく表されています。中でもデ・キリコの画面(形而上絵画)は典型的で、この種の空間はその後のシュルレアリスムに受け継がれていったそうです。ここにはそうした不思議な風景を持つ作品が並んでいました。

170 ルネ・マグリット 「囚われの美女(版画集[マグリットの捨て子たち]より)」
これは垂れ幕とその背後に広がる砂浜と空が描かれた作品です。その手前には球体とキャンバスにかかった海の絵があり、絵と背景の海が連続しているように見えるのが面白いです。マグリットは同様の作品を残していますが、一見するとパーツは写実的でも全体を通すと不思議な光景となっているのが好みです。
 参考記事:
  奇想の王国 だまし絵展 感想後編(Bunkamuraザ・ミュージアム)
  ベルギー幻想美術館 (Bunkamuraザ・ミュージアム)


173 イヴ・タンギー 「火・色彩」
これは海底のような砂漠のような所に様々なオブジェが置かれているところを描いた作品です。丸っこくて有機的なものや、カラフルな布のようなものがあり、タンギーの作風の特徴がよく伝わってくるようでした。


<第7章 驚異と自然のコレクション>
シュルレアリスムには驚異(メルヴェイユ)が欠かせないそうで、不思議とも訳せるこの言葉には見るという行為も含まれているそうです。ここにはそうした不思議で驚異的な作品が並んでいました。


180-8 ルネ・マグリット 「魅せられた領域:二羽の雉鳩たちは、彼らの家の暖かい薄あかりのなかで(版画集[マグリットの捨て子たち]より)」 ★こちらで観られます
これは今回のポスターにもなっている作品で、花輪を掛けたライオンと鳥かごに手足がついて帽子をかぶっている人のようなオブジェが描かれています。手には仮面のようなものを持っているのがますます奇妙な感じかな。背景には三角と丸を組み合わせたような穴が開いていて、その向こうには青空が広がっているように見えました(両脇の作品では背景は青空になっていて繋がっている) これも1つ1つは写実的ですが組み合わさるとコラージュ的な奇妙さがありました。


この辺には同様に版画集[マグリットの捨て子たち]が並んでいました。これはクノック・ルズ-トのカジノの壁画(1952年~1953年)だったものが版画の連作となり版画集に収められたそうです。

少し先にはデルヴォーの「海は近い」(埼玉県立近代美術館)やマックス・エルンストの「鳩のように」(徳島県立近代美術館)、エルンストの版画集なども並んでいました。そして最後には瀧口修造の「贈り物」のコーナーがあり、蒐集した様々な品が並んでいました。
 参考記事:
  マックス・エルンスト-フィギュア×スケープ 時代を超える像景 感想後編(横浜美術館)
  ポール・デルヴォー展 夢をめぐる旅 (埼玉県立近代美術館)

ということで、様々な作品を見ることが出来ました。日本の作家が混じっていたり時代が違っていたりするので作品同士の繋がりが散漫な感じもしましたが、「遊び」という観点で見るという趣旨に沿った内容で楽しめました。(夏休み企画にしてはちょっと子供には難しいかも??) シュルレアリスムが好きな方は是非どうぞ。


おまけ:
ビルの1階ではワークショップが設けられていました。ここでシュルレアリスムの技法を使って作品を作ることもできるようです。
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 参照記事:★この記事を参照している記事
 
 


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<遊ぶ>シュルレアリスム -不思議な出会いが人生を変える-(感想前編)【損保ジャパン東郷青児美術館】

お盆休みで少し間が空きました。10日ほどまでの土曜日に、新宿の損保ジャパン東郷青児美術館で、「<遊ぶ>シュルレアリスム -不思議な出会いが人生を変える-」を観てきました。メモを多めに取ってきましたので、前編・後編に分けてご紹介しようと思います。

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【展覧名】
 <遊ぶ>シュルレアリスム -不思議な出会いが人生を変える-

【公式サイト】
 http://www.sompo-japan.co.jp/museum/exevit/index_shuru.html

【会場】損保ジャパン東郷青児美術館
【最寄】新宿駅


【会期】2013年7月9日(火) ~8月25日(日) 
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日14時頃です)】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
思ったよりも多くのお客さんで賑わっていましたが、混んでいるというほどでもありませんでした。たまに人だかりができるくらいかな。

さて、今回の展示は「シュルレアリスム」を「遊ぶ」という観点か俯瞰するような内容です。シュルレアリスムは第一次世界大戦直後のパリで生まれやがて世界に広がった運動で、1924年の「シュルレアリスム宣言」以来シュルレアリストを自称した青年たちは夢や狂気、偶然、非道理、オートマティスム(自動現象)などを拠り所に現実の新しい見方・生き方を探り実験的冒険を続けました。また、彼らは集団で行う遊びを試みたそうで、遊びを労働の対極として積極的に捉え、オブジェやコラージュ、フロッタージュといった様々な新しい技法を試み、誰にでもできる手作業ブリコラージュ(計画的にではなく身近な材料で気ままに組み立てる行為)の側面もあったようです。展覧会は部屋ごとにテーマが分かれていましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品をご紹介していこうと思います。
 参考記事:
  シュルレアリスム展 感想前編(国立新美術館)
  シュルレアリスム展 感想後編(国立新美術館)
  シュルレアリスム展 2回目 (国立新美術館)


<第1章 友人たちの集い>
まずはシュルレアリスムのメンバー同士の繋がりなどについてです。シュルレアリスはアンドレ・ブルトンの「シュルレアリスム宣言 溶ける魚」が発表される前からグループでカフェに集まって夢の技術やオートマティスム、アンケートや採点などの遊びを試みていたそうで、1922年のマックス・エルンストの有名な「友人たちの集うところ」では既に超現実のイメージを含んでいたそうです。そしてグループはその後もパリのカフェを拠点として討論やゲーム、街歩き、デモンストレーション、機関紙やパンフレットの発行、集団による展覧会などを日々行いました。彼らは要領や方針を定めてそれに従っていたわけではないらしく、メンバー間の交友から自然に生まれてくる新しい発想と、それに基づく自由な集団活動を重んじる運動が本来のシュルレアリスだったようです。ここにはそうした仲間たちの作品が並んでいました。

 参考記事:
  マックス・エルンスト-フィギュア×スケープ 時代を超える像景 感想前編(横浜美術館)
  マックス・エルンスト-フィギュア×スケープ 時代を超える像景 感想後編(横浜美術館)


17 マックス・エルンスト 「王妃とチェスをする王」
これはブロンズ像で、牛の頭の人物を単純化したような作品です。その前にはチェスの駒らしきものが並んでいて、タイトルから察すると王妃と向かい合っているようにも思えますが、王だけの像となっています。解説によると、シュルレアリストたちはチェスやビリヤードを好んでいたそうで、マルセル・デュシャンはチェスの競技研究所を出したりフランスの代表選手になるほどだったそうです。そしてその相手をしていたマン・レイやマックス・エルンストらもかなりの腕前だったとのことでした。この作品は色々な所で観ていますがエルンストもそれほどの腕前だったいうのはちょっと意外です。チェス好きがこの作品にも反映されているのかな?

この辺にはマン・レイのチェス盤もありました。また、マン・レイによるシュルレアリストたちの肖像写真が並んでいました。ブルトン、マルセル・デュシャン、ジョルジョ・デ・キリコ、マックス・エルンスト、ジョアン・ミロ、イヴ・タンギー、サルバドール・ダリなどの写真が展示されています。
 参考記事:マン・レイ展 知られざる創作の秘密 (国立新美術館)

13 アンドレ・ブルトン、イヴ・タンギー、ヴァランティーヌ・ユゴー、ジャネット・タンギー 「甘美な死骸」
これは4人の合作とも言える作品で、上から順にジャネット・タンギー、ヴァランティーヌ・ユゴー、イヴ・タンギー、アンドレ・ブルトンが描いたものが合わさって1つの絵?になっています。まずタイトルが変わっていますが、これは言葉合わせのゲームで「甘美な」「死骸が」「新しい」「ワインを」「飲むだろう」という5つの言葉が組み合わさってたまたま生まれたものです。そしてそれを絵画に応用したのがこの作品で、お互いの絵は何か分からないけれども繋がり合うように描いていて、上から塔、木、女性と髪、木の根か人の足のようなもの、内臓か波のようなものとなっていました。そこに意味などは無いと思いますが、まさにシュールな偶然の妙のようなものがありました。

この近くにはトランプなどもありました。また、部屋の中央にはブルトンの「シュルレアリスム宣言」をはじめとした書籍も展示されています。

37 サルバドール・ダリ 「回顧された女性の胸像」 ★こちらで観られます
ミレーの「晩鐘」とフランスパンを頭に乗せた女性の胸像で、おでこの辺りに蟻が群がりトウモロコシを首飾りにしている奇妙な姿をしています。これは今までも何度かご紹介しましたが、1936年に作られた時にはパンは本物だったそうで、ピカソの飼い犬にかじられたというエピソードが紹介されていました。まさか本物のパンを使っていたとは…w やや不気味な像ですがちょっと面白いエピソードでした。
 参考記事:
  描かれた不思議 トリック&ユーモア展 エッシャー、マグリット、国芳から現代まで (横須賀美術館)
  【番外編 フランス旅行】 パリ モンマルトル界隈

この辺にはマン・レイの写真集「マネキンの人形たち」の映像と本などもありました。


<第2章 オブジェと言葉の遊び>
続いては「オブジェ」と言葉遊びについてのコーナーです。シュルレアリスムの基本にはオブジェ(物)の表現という思想があったそうで、オブジェは用途や機能もない、時には意味も分からないという正に物自体のことを指します。マルセル・デュシャンによるレディ・メイド(既成品)こそはオブジェ芸術の始まりで、例えば有名な「泉」は男性用便器そのものですが、題名と署名を入れて展覧会に持ち込んだことで本来の用途や意味から開放され「オブジェ」となりました。
一方、マン・レイは言葉遊び(語呂合わせ)などを用いた作品を作り、彩色されたパン(フランス語で彩色はパンの同音異義語。つまりパンパン)などを作ったそうです。ここにはそうしたオブジェや語呂合わせの作品などが並んでいました。

40 マルセル・デュシャン 「L.H.O.O.Q」 ★こちらで観られます
これはレオナルド・ダ・ヴィンチの「モナ・リザ」の図版に髭をつけた作品で、タイトルをフランス語にすると「彼女はお尻があつい」(=好色だ)と聞こえるそうです。どうみても小中学生が教科書にやる落書きみたいな感じですが、これによって違う意味を持たせているようでした。我々の知っている常識とは違う視点があるというのに気づかされるような作品です。
 参考記事:【番外編 フランス旅行】 ルーヴル美術館

42 マルセル・デュシャン 「ロトレリーフ(6枚のディスクのうち3枚を展示)」
円形の紙のディスクに円などが描かれた作品で、これをレコード盤に乗せて回転させると立体に見えてくるという仕掛けになっています。作品の隣に回転している映像があり、片目をつぶって見ると確かに立体に見えてくるのが面白かったです。一種の騙し絵みたいな感じかも。

52 マン・レイ 「マン・レイ(手・光線)」
これは黄色いボールをつまんでいる手の彫刻です。フランスでは手(Main)とマン(Man)はほぼ同じ音らしく、Rayは英語で光線となるので、光の玉を持つ手でマン・レイ自身を語呂合わせしているようです。…これは解説が無いと気づかないかもw アイディアマンのマン・レイらしい面白い発想の作品でした。

この近くには真っ青に塗られたフランスパン(先述の彩色パン)や言葉遊びで即興で作った作品などが並んでいました。また、少し先には日本にシュルレアリスムを伝えた瀧口修造のコーナーなどもありました。


<第3章 コラージュと偶然の出会い>
続いてはコラージュに関するコーナーです。「コラージュ」とはフランス語で糊で貼ることを意味するそうで、印刷物などを画面に貼りこむこの技法は既にキュビスムやダダイズムにもあったそうです。しかしシュルレアリスムはそれらとは一味異なり、例えばエルンストは1919年に身近にある教材カタログを見ていた際、いくつかの図像同士が自然に結びつて幻覚を呼び起こすことに気が付きました。そしてそれ切り取って貼り合わせると思いがけない不思議なイメージが生まれ、これもオートマティスムの一例とみなされるようになり、シュルレアリスムに不可欠なものとなったそうです。ここにはそうしたコラージュ作品が並んでいました。

82 マックス・エルンスト 「愛すべき宇宙飛行士はサン・モリッツで冬を過ごす」
簡潔に描かれた鳥の絵と人が走っている連続のシーンが貼られている作品です。まったく意味はわかりませんが不思議な光景で、タイトルも含めて謎だらけです。それが何故か心に残って面白く感じられました。

この近くにはマン・レイヤジョセフ・コーネル、エルンストのコラージュなどが並んでいました。

96 岡上淑子 「はるかな旅」 ★こちらで観られます
これは瀧口修造(日本にシュルレアリスムを紹介した人物)に見出された女性の画家の作品です。フードのコートが宙を浮くように配され、顔の部分には花がコラージュされています。左下には犬の横姿があるのですが、お腹の辺りが時計になっているなど現実離れした光景です。それが何故か怖く感じられ、見ていて漠然と不安を覚えるような作品でした。


ということで、今日はこの辺りにしておこうと思います。時系列的ではなく作家で分かれているわけでもないので流れを把握するのは難しいかもしれませんが、シュルレアリスムを概観するには良いのではないかと思います。後半にも面白い作品がありましたので、次回はそれについてご紹介していこうと思います。


  → 後編はこちら


 参照記事:★この記事を参照している記事
 
 


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I PRIMI GINZA(イ プリミ 銀座) 【銀座界隈のお店】

前回ご紹介した松屋銀座の展示を観た後、同じフロアにあるI PRIMI GINZA(イ プリミ 銀座)というお店で夕食を摂りました。

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【店名】
  I PRIMI GINZA(イ プリミ 銀座)

【ジャンル】
 イタリアン

【公式サイト】
 http://iprimi.jp/ginza/
 http://tabelog.com/tokyo/A1301/A130101/13014884/
  ※営業時間・休日・地図などは公式サイトでご確認下さい。

【最寄駅】
 銀座、銀座一丁目、東銀座、有楽町など

【近くの美術館】
 松屋銀座ギャラリー
 資生堂ギャラリー
 ポーラミュージアム アネックス POLA MUSEUM ANNEX
 警察博物館
  など
  

【この日にかかった1人の費用】
 2500円程度

【味】
 不味_1_2_3_④_5_美味

【接客・雰囲気】
 不快_1_2_③_4_5_快適

【混み具合・混雑状況(土曜日20時頃です)】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【総合満足度】
 地雷_1_2_3_④_5_名店

【感想】
遅い時間だったこともあり、空いていてゆっくりと食事することができました。

さて、このお店は松屋のレストラン街にあるイタリアンで、松屋銀座ギャラリーのすぐ近くにありました。
店内はこんな感じ。
P1120099.jpg
デパートの中なので窓が無いのは残念ですがこざっぱりした印象。店員さんの気配りが良かったです。

パスタとピザには前菜がつくらしく、サラダかスープが選べました。連れと合わせて3皿頼んだので、スープ2杯とサラダ1皿を頼みました。

こちらはカリフラワーのスープ
P1120088.jpg
濃厚でまったりとして美味しかったです。

こちらはサラダ。
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私はビネガーが若干苦手なのでドレッシングはあまり好みではありませんでしたが、サラダは普通。

メインはエヴァンゲリオン展とのコラボメニューの3色プチトマトとモッツァレラチーズのスパゲティ エヴァンゲリオンカラー(1470円)を頼みました。これは2013年8月7日~26日までの期間限定メニューです。
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トスカーナバイオレットが初号機、ピッコロカナリアが零号機、ミディトマトが弐号機のイメージらしいですが、まあそれほどコラボしてる感じはしないかもw 単純に美味しそうなので頼みました。このお店は「丹念に素材を吟味すること。季節の恵みを味わえるイタリア料理に仕立てる事」が信念らしく、シンプルな味付けとなっていました。やや塩分少な目くらいですがトマトが甘かったり、確かに素材が引き立っていて美味しかったです。

連れは沖縄県産海ぶどうと北海道産帆立のフルーツトマトスパゲッティ(1680円)を頼んでいました。
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これは海ぶどうの食感が良く、帆立が特に味が濃くて美味しかったです。

こちらは北海道産濃厚モッツァレラチーズのマルゲリータ。
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トマトの良い香りのするソースで、チーズも期待通りの美味しさでした。


ということで、素材の味にこだわった感じの味付けのお店でした。若干高めですが夜でこれなら安い方かな? 松屋の中というのも便利なので、今後も機会があったら利用してみようと思います。



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エヴァンゲリオン展 【松屋銀座】

日付が変わって昨日となりましたが、土曜日の夕方に銀座の松屋で「エヴァンゲリオン展」を観てきました。
 ※今回は「エヴァンゲリオン」(アニメ・漫画)の内容を知っている方向けの記事になります。この作品自体の説明などは省略します。

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【展覧名】
 エヴァンゲリオン展

【公式サイト】
 http://www.asahi.com/event/evangelion/
 http://www.matsuya.com/m_ginza/exhib_gal/details/20130807_eva.html

【会場】松屋銀座
【最寄】東京メトロ 銀座駅・銀座一丁目駅 JR有楽町駅


【会期】2013年8月7日(水)~8月26日(月)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間20分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日18時半頃です)】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
遅く行った割に結構混んでいて、場所によっては人混みができる感じでした。

さて、今回の展示はアニメ・漫画の中でも屈指の人気を誇るエヴァンゲリオンに関する展覧会です。最近よく開催されるようになったアニメ・漫画の展示ですが、今回は新劇場版の原画や設定など300点もあるという濃密な内容で、こだわりぬいているのが分かる品々が並んでいました。展覧会は4つの章に分かれていましたので、簡単にどんなものが並んでいたかご紹介していこうと思います。
 参考記事:
  館長 庵野秀明 特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技 エヴァの原点は、ウルトラマンと巨神兵。 (東京都現代美術館)
  映画「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」(ややネタバレあり)
  映画 『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』 を観た (ネタバレなし)

<1 エヴァンゲリオンの歴史>
まず最初はエヴァンゲリオンの歴史についてです。ファンには今更ですが、エヴァンゲリオンにはいくつかのメディアが存在し、1995年にTVシリーズ、それに先駆けて連載された漫画、1997年の劇場版、そして2007年からの新劇場版があります。ここには最初にTVシリーズの制作資料があり、その後にアニメのセル画が並んでいました。ミサトさん、シンジくん、プラグスーツを着るアスカ、カヲル君、最終話のドジっ子なレイ 等お馴染みの面々のセル画がありファンには嬉しいカットとなっています。たまにこんなのあったっけ?というものもあったような…(アニメ版はもう何年も見てないから忘れているだけかも…w) 少し先にはネルフの内部のレイアウトを厚紙で作ったものや、初号機の参考模型(全身と頭部だけの2つ)などもありました。

その後は貞本義行によるコミカライズ(漫画化)のコーナーです。これは月刊少年エースで1995年から連載され、最近(2013年7月)完結して話題となっていたのも記憶に新しいところです。1巻はTVアニメ放送時にリリースされたそうで、当時は最初の2話あたりまで見逃した人たちがキャッチアップするのに便利だったようです。 ここにはその漫画の原画が並び、1巻あたりに1ページずつ印象的なシーンが並んでいました。4巻のアスカの初登場シーン、5巻のゲンドウの墓参り、7巻の「今動かなきゃ」のシーン、8巻の加持さんが血を流しているシーン、8巻のカヲル君と話しているシーン等などがあり、観ていてストーリーが蘇ってきました。絵は漫画そのものといった感じですが、台詞が書かれず吹き出しだけのものもあるのが原画ならではでした。


<2 エヴァンゲリオンのできるまで>
続いてはエヴァの新劇場版 破の第8使途(高速落下してくるやつ)との戦闘シーンのメイキングのコーナーで、作画やカット集が並んでいます。

[イメージボード]
まずはイメージボードです。最初の大枠を作るもので、ラフな感じのイメージ図が並びます。初号機がダッシュする足場などさらっと描かれているけど、書き込みが細かくて構想を伝えているようでした。これを元に画コンテにブレイクダウンされます。

[画コンテ]
これはカット数や秒まで設定されているラフで、連続した絵でそのシーンを形作っています。これを観ると大体出来上がりも想像つくんじゃないかな。これもだいぶ簡素な絵ですが、誰が誰かすぐ分かる特徴が出ていて面白かったです。音声の欄にはズザザザザザザ~とか擬音がそのまま書かれているのが漫画みたいかもw

この隣には同じ絵でレイアウト、レイアウト修正、原画、原画修正、動画、裏という6枚の絵が並んでいました。微妙にちょっとずつ違いますが、わずか1枚にこれだけ気合を入れているとは… 驚きました。

[レイアウト]
こちらは被写体の配置や動き、フレーミング、カメラワークなどを集約したもので、最終画面の設計図に位置づけられるものだそうです。その為か かなり細かく指示が書かれていて「ゆっくり」「止めパクで」「もう少しあごを引いて」など様々な指示がありました。これがエヴァの映像の面白さの源泉なのかも。

[原画・動画]
続いては連続した原画です。これも気が遠くなるほどの枚数が並んでいて、いずれも細かく描かれていました。わずか数分のシーンで何枚描いているんだろう…。

[タイムシート]
これは1コマ単位で動画がどう変わっていくか、何コマずつ撮影するのか升目状に書いてあるものです。アスカが「わかってるっちゅ~~の~~~」と叫ぶシーンだけで1枚のタイムシートになっていました。これもえらい手間がかかりそうですね…、

[エフェクトアニメーション]
これはキャラクター以外の現象を描いたもので、第3新東京市の鳥瞰や建物が壊されていく様子などが並んでいました。アニメで観てもあまり気づかない破片の飛び散りまでコマ単位で描かれています。爆発や水柱などもこうして描かれているようで、そのこだわりぶりが良く分かります。

[3DCG]
3DCGとはコンピューター内に3D情報のモデルを作成し、仮想的な光を当てることで映像を作成する技術だそうです。これには2種類あって人の動きを取り込むモーションキャプチャとアニメーターがキーフレームを指示する「手づけ」があるそうです。ここには初号機、零号機、弐号機が仮想空間でダッシュしている様子が映されていました。周りにはそのラフ原画も展示されていて、このラフを作画してそれを確認し、3DCGに反映するようです。何度も微調整を繰り返すらしく、ここの映像も変わっていったのかも。

[ミニチュアのCG作成]
第8使途との戦闘シーンでは株式会社特撮研究所に現存するミニチュアの図面から起こした民家やビルのCGモデルが使われているそうです。ビルだけでなくタンクやアンテナなど様々な部品のCGもあり、そういったものが並んで町並みとなっているようでした。これも実写で撮ったほうが早いのではないかというほどの細かさですw 監督の庵野氏は特撮に造詣が深いので、こういうところでもそれが生かされているようでした。

[メイキング]
これはBDの特典映像かな? 同じ場面を効果を変えた何種類かの映像を並べて比較するような感じです。使途の色合いなどが変わるとだいぶ印象も違いました。
そしてこの章の最後に出来上がりの映像が流れていました。僅か数分の映像だけどここまで来るのにえらい大変だったw 先にこの映像を観てから2章を観るほうが色々気づいて良いかもしれません。私は2往復しました。


<3 エヴァンゲリオンの設定>
続いてはエヴァのキャラクター設定などです。設定は複数のスタッフでルックを統一する為の設計図として配られるそうで、ディテールまで誤解のないように指示が入っています。貞本義行によるシンジやレイのプラグスーツや学生服姿、アスカ、マリ、カヲル達チルドレンは数枚ずつ並んでいました。他のキャラは1枚ずつの展示で、ミサト、リツコ、加持、ゲンドウ、マヤ、トウジ、ケンスケなどが並びます。部屋の中央には黒プラグスーツのレイの等身大フィギュアも展示されていました。
その後はエヴァ初号機、零号機、ビーストモードの弐号機、局地仕様仮設5号機1(模型もある)、Mark06などあるのですが、驚くことに二子山や松代の重機や変電設備、UNの戦闘機などまでありました。しかもどれも半端なく細かい…w アスカのパペットとリツコの猫なんてものもあるぞ?と思ったらこれは安野モヨコ(漫画家で庵野秀明氏の奥さん)による設定でした。他には色設定のコーナーがありヴンターの全体模型や操縦室の模型などもありました。


<4 原画で見る ヱヴァンゲリヲン新劇場版>
最後は新劇場版の序、破、Qの原画が並んでいました。このコーナーは点数も多くて、この部屋に入った瞬間に驚かされます。

[序]
序は内容がTVシリーズと似てるのでテレビシリーズをベースにしたカットも多いそうです。しかし流用カットでも画面サイズが違っているのだとか。ここには名シーンの原画も多くて、多くの人があのシーンだと話し合いながら観ていました。

[破]
破はTVシリーズから離れていっているので完全新作で、CGとのハイブリッドも増えているようです。部屋の中央には使途たちの設定が展示され、アダムが磔になっているオブジェなどもありました。

[Q]
現時点で最新作のQはすべて新要素で、前2作よりもさらにワイドなスコープサイズに拡大しているそうです。ここは修正原画のキャラクターのアップが多かったかな。

この辺で展示は終わりですが、まだお楽しみは続きます。


<グッズ>
今回はグッズもかなり多めで、ポスターやフィギュア、Tシャツ、携帯用アクセサリー、お菓子など定番のものだけでなく、靴とか服などもありました。
サンプルはこんな感じ。
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期間中は松屋の中のあちこちにエヴァ関連の品があるようで、普通の売り場にアスカのマネキンがあったりするのも気合が入っていますw 一般客には唐突なのではw

グッズショップの近くには巨大フィギュアも。
P1120066.jpg P1120068.jpg

ショップの柱にはパイロットたちの普段着姿の絵もありました。
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私は結局お菓子を購入しました。ちなみに原宿にもエヴァのグッズショップがあるそうです。
 参考リンク:EVANGELION STORE TOKYO-01

会場外にも記念撮影スポットがありました。
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そう言えば会場前で記念品の引き換えをやっていました。どうやったら貰えたのか分かりませんが、ラリー的なものかも。

ということで、エヴァは恐ろしく緻密な準備をして作りこんでいるということが分かる展示でした。これだけこだわっているなら3年4年かかってしまうのも致し方ないのかもw エヴァが好きな方には非常に楽しめる内容だと思います。特に新劇場版が多いので、映画を観てから行くとより楽しめそうです。


 参照記事:★この記事を参照している記事



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岩合光昭写真展 ~ねこ~ 【渋谷ヒカリエ】

先週の日曜日に、渋谷のヒカリエの9階で「岩合光昭写真展 ~ねこ~」を観てきました。

2013-08-04 14.50.15

【展覧名】
 岩合光昭写真展 ~ねこ~

【公式サイト】
 http://www.hikarie.jp/event/detail.php/?id=1005

【会場】渋谷ヒカリエ 9F HALL A
【最寄】渋谷駅


【会期】2013年08月01日(木)~08月25日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間00分程度

【混み具合・混雑状況(日曜日15時頃です)】
 混雑_①_2_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_4_⑤_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
だいぶ混んでいて、チケットを買うのに10分くらいかかりました。中も場所によってはごった返すような感じで早くも人気の展覧会となっています。

さて、今回の展示は動物写真家の岩合光昭 氏の個展で、タイトルの通り猫を撮った作品が並ぶ内容となっています。この方はNHKBSで「世界ネコ歩き」という番組を持っているほど猫を撮っているようで、この展示でも猫への愛情が伺える写真が並んでいました。かなり点数は多めでしたが作品名などはなかったので、コーナーごとにどのような様子だったか簡単に振り返っていこうと思います。
 参考記事:ねこ歩き 岩合光昭写真展 (日本橋三越)
 参考リンク:岩合光昭の世界ネコ歩き NHK


<1 生きるとは動くこと>
まず最初の章はいくつかの小テーマに分かれていて、それに沿った写真が並んでいます。

[こんにちは]
ここは冒頭なので、まるで我々を出迎えてくれるような写真が並んでいました。その中でも猫の家族が並んだ写真が印象的だったのですが、かなり目つきが鋭いw 可愛いだけではないところもまた面白いです。

[散歩する]
ここは道の真中や屋根の上、厳島神社など様々なところを散歩する猫達の写真が並んでいました。縦横無尽にお構いなしに散歩する姿が何とも自由な感じです。

[運動する]
ここにあった写真の中で特に驚きだったのがトルコの湖を泳いでいる猫の写真でした。猫って泳げるんだ…w 他にもモロッコの崖を登る猫など、普段観られないような様々な場面の写真が並んでいました。

[確かめる]
これは猫が外の様子を確かめている写真が並ぶコーナーで、猫の形の穴が空いた戸板の中から外を覗く猫の写真が目を引きました。猫の中から猫が出てきたみたいで面白いです。他にも、側溝から外を見る猫、窓からじっと見る猫などの写真などもあり、目と耳だけをひょこっと出している写真も可愛らしかったです。

[伸びる]
ここにはゴロゴロして伸びたり、手を着いて背中を伸ばしている様子などが撮られた写真が並んでいました。街の道の真ん中やお寺の中、紅葉の前など様々な所で伸びていてマイペースですw 手つきと肉球がとても可愛い…。それにしても何を背景にしても猫がいるだけで猫が主役の写真になってしますw

[ジャンプ!]
ここにはジャンプする猫達の躍動的な写真が並び、草むらで跳ぶ猫、漁船を背景に跳ぶ猫など決定的瞬間が撮られていました。飛んでいる間も目標をまっすぐ見つめている目も印象的です。

[考える]
ここにはじーっと何かを観ている猫の写真が並んでいました。ぼーっとしているようにも見える表情で、錦帯橋や雪景色、ヴェネツィアなどを背景に撮られていました。特に何か考えているわけではないと思うけどw

[集う]
ここには沢山の猫が上を見上げている姿が撮られた写真があり、どうやら食事を待っているようです。めっちゃガン見してる…w 他には玄関で主人の帰りを待つ猫達や、陽だまりで重なり合う猫達、屋根に等間隔で並んで毛づくろいしている猫達などの写真もありました。意外とお互いのプライバシーを大切にしているのかな。

[ミャー]
ここは猫が鳴いている様子を撮った写真が並んでいました。目を細めて牙を見せて鳴いています。あくびしているみたいにも見えるかな。やはり猫は野性的な面もありますね。

[眠い]
ここは眠そうな猫の写真が並び、目を閉じてウトウトしていたり、材木を枕にしたり、上を向いて仰向けで寝ていたりします。無防備と言うかちょっと抜けていると言うか…w 豆を叩く槌のような道具を枕にしている猫もいて、思わず笑ってしまうような可愛さでした。

[眺める]
ここには遠くを眺めるような猫の写真が並んでいました。棚田で働く人を見る猫、海の船を見る猫、ヴェネツィアの広場で鳩を見る猫などで、後ろ姿が中心でした。興味でもあるのかな?

[見上げる]
ここは見上げる猫の写真が並び、五島列島の教会を背景にしたり、地べたに寝転がっていたりします。興味津々な顔をした写真もあり何とも可愛らしかったです。

[一緒に]
ここは子猫同士でじゃれていたりくっついて寝ていたり、連れ添って歩いている仲良しの猫達の写真が並んでいました。ここは特に和みます。

[メークアップ]
ここは猫達の毛づくろいを撮った写真が並んでいました。ペロッと舌を出していたりしてキュートです。シーサーの隣で同じような顔をしている猫の写真もあり、ちょっと驚き。猫にもわかるのでしょうかw

[店番する]
ここは店の中の猫達を撮った写真が並んでいました。タバコ屋の窓口に立つ猫、美容室の中から覗いている猫、駄菓子屋の猫などの写真で、特にタバコ屋の猫は確かに店番をやっているかのように見えて面白かったです。

[友達]
ここは他の動物と一緒に仲良くしている猫の写真のコーナーです。犬と猫がお互いにくっついていたり、親代わりになった犬と一緒だったりと、犬猫は仲が悪いというイメージを覆すようなのんびりとした写真が並びます。また、牛や鶏と一緒の写真もあって癒されました。
ここには↓の写真もありました。どちらかが雄で、もう一方は雌のようです。猫の方が雄かな??
2013-08-04 15.00.19
 ※写真は会場外の撮影可能な場所で撮影しています。

[集中]
ここには蟻や蛙、トンボなどを見つめる猫の写真が並んでいました。狙っているのか嫌がっているのか分かりませんが、観察するような表情が真剣そうな感じです。

[育てる]
ここは親猫と子猫が一緒にいる写真が並んでいました。虎縞の猫たちが重なりあって寝ているのが非常に可愛い…。母猫と一緒にお出かけしている子猫の写真などもあって、見る人みんなが口々に可愛いを連呼していましたw とにかく圧倒的な可愛さですw

[マーキング]
ここには自分の匂いをなすりつけて縄張り作りをする猫達の写真が並んでいました。招き猫にマーキングしている写真もあるのが面白かったです。

[きめる]
ここにはこちらを見てポーズを取っているかのような猫の写真が並んでいました。小首を傾げていたり、手を出していたりと千両役者並の仕草です。富士山を背景に茶畑からひょこっと顔だけ出している猫の写真が特に目を引きました。…かなり目が鋭いw

[冬物語]
ここには雪の中で活発に動いている猫の写真が並んでいました。雪まみれになっていたり雪を踏みしめていたりと、童謡の中のイメージと違って果敢に雪の中に踏み出しています。手を伸ばしている写真では、まるで舞い散る雪を猫がキャッチするように見えたのも面白かったです。

[おつかれさま]
ここは1枚だけかな? ご主人の両目を両手で抑えている猫の写真がありました。自分も目を閉じていてゆっくり休んでいるつもりかな? いたづらっ子みたいで可愛かったです。


<2 くらしの中で>
ここまではあまり人と写っている写真はありませんでしたが、続いてのこの章では人との関わりを感じさせる写真が並んでいました。おんぶされている猫、餌を貰っている猫、人に擦り寄って行く猫、漁船の魚をじっとみつめる猫、畑仕事についてくる猫、子供の携帯ゲームを興味ありげに覗きこむ猫など、無邪気な感じの猫達が並んでいました。中にはエジプトのガイドの猫もいて、大事にされている感じで微笑ましかったです。

この近くには映像もありました。岩合氏が猫を撮っている様子が映されるのですが、猫の目線に合わせて寝っ転がって撮ったりしているのが驚きでした。


<3 海ちゃん>
続いては岩合氏の亡き愛猫である海ちゃん(かいちゃん)のコーナーです。海ちゃんは30年以上前に初めて飼った猫だそうで、白と茶色の毛並みをしています。タンスに寄りかかったり窓の外を眺めたり、口を開けたり、毛づくろいをしたり、牛と戯れたり、雪の中を歩いたり、木に登ったり …と様々な表情を見せてくれます。猫にもこんなにも表情があるのかというくらいですw 岩合氏によると海ちゃんはカメラを向けると近寄ってきてポーズを取るモデルのような猫だったのだとか。その後子供を産んで子孫も増えたらしく、子猫にお乳をあげている様子なども展示されていました。16歳まで生きたらしいので大往生じゃないかな。 岩合氏の海ちゃんへの思いが伝わってくる章でした。


<4 田代島の猫たち>
最後は島民よりも猫のほうが多いという宮城県田代島の猫たちを撮った写真が並ぶコーナーです。まず坂道に15~16匹の猫がひなたぼっこしている写真を見て驚きました。 確かにこれなら島民よりも猫のほうが多そうw 他には漁師さんたちが網の用意をしている間で寝ていたり、猫同士で魚を取り合っていたり(かなり大きい魚)、網の中の魚を思い切り引っ張っている姿などもあり、食べるものにも事欠かなそうです。夏に木陰で12~13匹連なっている写真などを見ると本当に猫だらけの島なのかもw 猫の神社の写真もあり猫好きには羨ましい島でした。 そしてここには尻尾がハート型の猫の写真があり、確かにくるりとした尻尾とおしりの毛の色でハート型に見えました。


ということで、猫好きにはたまらない写真展だったと思います。可愛いだけでなく野性味があったり、変わった猫もいたりと様々な猫の魅力が表されていました。グッズも盛況で、写真集だけでなく様々な猫グッズが売られていました。これも思わず買ってしまいそうになりますw 猫が好きな方にお勧めの展示です。
ちなみに近いうちに写美でも岩合光昭 氏の展覧会が開かれますので、そちらにも足を運んでみようと思います。
 参考リンク:岩合光昭写真展 ネコライオン
    会期:2013年8月10日(土)~10月20日(日)

おまけ:
この1つ下の階(8階)にはギャラリーがいくつか軒を列ねている感じでした。そちらはメモを取ってきませんでしたが、中々楽しい所です。


 参照記事:★この記事を参照している記事


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浮世絵 Floating World 珠玉の斎藤コレクション 第2期(感想後編)【三菱一号館美術館】

今日は前回の記事に引き続き、三菱一号館美術館の「浮世絵 Floating World 珠玉の斎藤コレクション」(第2期)の後編をご紹介いたします。前編には混み具合なども記載しておりますので、前編を読まれていない方は前編から先にお読み頂けると嬉しいです。


  前編はこちら


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まずは概要のおさらいです。

【展覧名】
 浮世絵 Floating World 珠玉の斎藤コレクション
  第1期:浮世絵の黄金期 江戸のグラビア
  第2期:北斎・広重の登場
  第3期:うつりゆく江戸から東京

【公式サイト】
 http://www.mimt.jp/ukiyoe/

【会場】三菱一号館美術館
【最寄】東京駅・二十橋前駅・有楽町・日比谷駅

【会期】
  第1期:2013年06月22日(土)~07月15日(月・祝)
  第2期:2013年07月17日(水)~08月11日(日)
  第3期:2013年08月13日(火)~09月08日(日)
   ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日14時半頃です)】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
2期の前編では主に葛飾北斎の作品が展示されていましたが、後半は歌川広重や歌川国芳の作品などが展示されていました。後半も解説は少なめなので、参考記事などを参照して頂ければと思います。


<東海道五拾三次之内、旅立ち駿河へ>
こちらは有名な東海道五十三次が並ぶコーナーで、日本橋から駿河辺りまでの内容となっていました。
 参考記事:
  殿様も犬も旅した 広重・東海道五拾三次-保永堂版・隷書版を中心に- (サントリー美術館)
  浮世絵入門 -広重《東海道五十三次》一挙公開- (山種美術館)
  広重と北斎の東海道五十三次と浮世絵名品展 (うらわ美術館)

62-63 初代歌川広重 「東海道五拾三次之内 日本橋 朝之景」「東海道五拾三次之内 日本橋」 ★こちらで観られます
これは東海道五十三次の出発地である日本橋を描いた作品で、2枚展示されています。作品番号62の方が早い摺りで、63は後に摺られたもので改変されています。まず62は日本橋を渡る大名行列と、手前に天秤を担ぐ魚商人たちが描かれています。一方、63は配置こそ62と同じものの、手前の人々が画面を埋め尽くすように描かれているのが大きな違いです。見比べてみると他にも様々な変更点が確認できるので、これは興味深い展示方法でした。

この辺にはロートレックなどフランスの版画などもありました。

71 初代歌川広重 「東海道五拾三次之内 平塚 縄手道」
両脇に田んぼ?がある道を描いた作品で、奥には山が描かれています。道にはこちらに向かって走ってくる飛脚と、奥の方へと荷物を担いで歩く人達が描かれていて、今まさにすれ違おうとしています。そんな光景をモチーフにした点が面白く、人々の営みが伝わってくるように感じました。

この辺には私の好きな雪の蒲原もありました。ちなみに蒲原には滅多に雪は降らないそうですw


<東海道五拾三次之内、尾張へ>
続いても東海道五十三次のコーナーです。次は尾張辺りまでの作品が展示されていました。

97 初代歌川広重 「東海道五拾三次之内 亀山 雪晴」
一面雪景色の山の斜面を描いた作品で、上の方には白らしき建物が見えています。全体的に斜めの構図となっているせいか広がりがあり、やや赤く染まる朝焼けが清々しい雰囲気です。山の中腹にいるのは大名行列かな。構図の大胆さが楽しめる1枚です。

このコーナーには傑作として名高い庄野白雨なども展示されていました。この辺で上階は終わりで、休憩所では版画制作の映像を流していました。


<東海道五拾三次之内、京都へ>
続いては終点の京都までのコーナーです。

103 初代歌川広重 「東海道五十三駅続画」
これは絵ではなく表紙で、大きく「廣重画 東海道五十三驛続画 保永堂」と書かれています。判も押されていて版元なども分かります。絵の作品はよく見ますが、表紙が展示されているのは珍しいかも。

この辺には京や大津などの作品がありました。


<広重の名所絵>
続いては歌川広重の東海道五十三次以外の名所絵のコーナーです。

124 初代歌川広重 「甲陽猿橋之図」
これは縦2枚続きの縦長の作品で、川の上の崖と崖の間にかかる橋が描かれています。そこに馬に乗った旅人が通っていて、橋の下には満月があり やや木に隠れた感じとなっています。また、橋の下には町並みも描かれていて、画面の構成が非常に面白く感じられました。


<美人東海道と役者東海道>
続いては東海道五十三次と美人絵や役者絵を組み合わせた作品のコーナーです。

108 渓斎英泉 「大磯駅 九」
大磯の宿場町を背景に、下半分にタライを使って水浴びしている半裸の女性が描かれた作品です。手をついて座り首の辺りを洗っている様子が艶かしい感じですが、健康的な色気のように思えました。
この辺には初代広重の3枚続きの風景画もありました。

117 三代目歌川豊国 「東海道五十三次の内 庄野 中野藤兵衛」
広重の庄野白雨を背景に役者が描かれた作品です。口を結んで手を広げ、凛々しい雰囲気の役者で、背景との関連は分かりませんが、東海道五十三次から20年経った頃に出た作品らしく、広重の衰えない人気を伺わせました。

141 三代目歌川豊国・初代歌川広重 「双筆七湯廻 塔の沢三代目岩井粂三郎」
これは広重の風景画を背景に歌川豊国(三代)の美人画が描かれた夢のコラボ作品で、箱根七湯のうち塔ノ沢が描かれています。キセルを持って布を頭に巻く美人(岩井粂三郎)が温泉宿と川を背景にしていて、着物の柄は井○井となっています。つまり「井○井」は「いわい」と読め、岩井粂三郎を表しているようでした。2人の豪華なコラボも面白いですが、そうした遊び心も楽しめる作品でした。

119 初代歌川広重 「月に雁」 ★こちらで観られます
これは切手で有名な「月に雁」で、大きく画面からはみ出さんほどの満月を背景に、下に向かって滑空する3羽の雁が描かれています。対角線上に連なり、空中で観てきたかのような構図に躍動感があります。絵の下の中央の辺りには馬の後ろ姿と鹿を組み合わせた印があり、馬鹿印となっていました。これは色合いも良かったです。


<国貞(三代豊国)>
続いては美人画で名を馳せた国貞(三代豊国)のコーナーです。

135 歌川国貞(三代目歌川豊国) 「当世 ちよのたのしみ」
軒先で柱にもたれかかって座り、左手で丸めた手紙を持って右手を頭に当てて考え事をしている美人を描いた作品です。ポーズは悩んでいるように見えますが、顔は楽しそうに見えるかな。この隣にはほとんど同じ構図で昼夜や着物の柄、背景の花などが変わった作品がありました。同じ構図でも要素が変わるとガラリと雰囲気が違うのが面白かったです。

<国芳>
最後は歌川国芳のコーナーです。奇想天外な作品が並んでいました。

 参考記事
  歌川国芳-奇と笑いの木版画 (府中市美術館))
  破天荒の浮世絵師 歌川国芳 前期:豪傑なる武者と妖怪 (太田記念美術館))
  破天荒の浮世絵師 歌川国芳 後期:遊び心と西洋の風 感想前編(太田記念美術館)
  破天荒の浮世絵師 歌川国芳 後期:遊び心と西洋の風 感想後編(太田記念美術館)
  奇想の絵師歌川国芳の門下展 (礫川浮世絵美術館)
  没後150年 歌川国芳展 -幕末の奇才浮世絵師- 前期 感想前編(森アーツセンターギャラリー)
  没後150年 歌川国芳展 -幕末の奇才浮世絵師- 前期 感想後編(森アーツセンターギャラリー)
  没後150年 歌川国芳展 -幕末の奇才浮世絵師- 後期 感想前編(森アーツセンターギャラリー)
  没後150年 歌川国芳展 -幕末の奇才浮世絵師- 後期 感想後編(森アーツセンターギャラリー)
  浮世絵猫百景-国芳一門ネコづくし- 前期 感想前編(太田記念美術館)
  浮世絵猫百景-国芳一門ネコづくし- 前期 感想後編(太田記念美術館)
  浮世絵猫百景-国芳一門ネコづくし- 後期 感想前編(太田記念美術館)
  浮世絵猫百景-国芳一門ネコづくし- 後期 感想後編(太田記念美術館)
  はじまりは国芳 ~江戸スピリットのゆくえ~ (横浜美術館)

150 歌川国芳 「建久四年 源頼朝冨士牧狩之図」
3枚続きの作品で、富士山を背景に沢山の武者たちが集まり、右には馬に乗った頼朝らしき人物が描かれています。目を引くのは左のほうにいる大猪で、すごい勢いで飛び出してきていて周りには転げて助けを求めている人たちの姿もあります。画面の上には吹き飛ばされた人までいて、滑稽な感じが出ていました。国芳らしい生き生きとした作品です。

この近くには168「讃岐院眷属をして為朝をすくふ図」もありました。また、猫を役者に見立てた作品もあります。

171 歌川国芳 「浅茅原一ツ家之図」
これは3枚続きの作品で、中央に包丁を持った上半身裸の鬼婆、左にそれを止める娘、右には衝立の向こうに座っている女性の姿があります。これは確か、泊めた女性を襲おうとする鬼婆を娘が止めているシーンだったと記憶していますが、女性は観音の化身で背景にある糸巻きがまるで光背のようになっているのが面白いです。恐ろしげでありつつ機知に富んだ作品です。


ということで、観たことがある作品も多かったですが改めて浮世絵の凄さ・楽しさを実感できる内容となっていました。特に2期は冨嶽三十六景と東海道五十三次という有名作品が並んでいますので、浮世絵に詳しくない人にも入門として良いのではないかと思います。2期は残り僅かですが、気になる方は是非お早めにどうぞ。


 参照記事:★この記事を参照している記事




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浮世絵 Floating World 珠玉の斎藤コレクション 第2期(感想前編)【三菱一号館美術館】

10日ほど前の土曜日に、三菱一号館美術館で「浮世絵 Floating World 珠玉の斎藤コレクション」を観てきました。この展示は3期に分かれていて、私が観たのは2期の内容でした。メモを多めに取ってきましたので、前編・後編に分けてご紹介しようと思います。

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【展覧名】
 浮世絵 Floating World 珠玉の斎藤コレクション
  第1期:浮世絵の黄金期 江戸のグラビア
  第2期:北斎・広重の登場
  第3期:うつりゆく江戸から東京

【公式サイト】
 http://www.mimt.jp/ukiyoe/

【会場】三菱一号館美術館
【最寄】東京駅・二十橋前駅・有楽町・日比谷駅


【会期】
  第1期:2013年06月22日(土)~07月15日(月・祝)
  第2期:2013年07月17日(水)~08月11日(日)
  第3期:2013年08月13日(火)~09月08日(日)
   ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日14時半頃です)】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
結構混んでいて、特に狭くなっている所や入口付近は人だかりができるような感じでした。また、中はやや温度が低めで寒いくらいでしたので、これから行かれる方はその点も気をつけたほうが良いかもしれません(ストールを借りる事もできるようです)

さて、今回の展示は川崎・砂子の里資料館の館長である斎藤文夫 氏が50年近くに渡って蒐集してきた江戸時代~明治時代の浮世絵を中心とした内容となっています。海外でも展示が開かれるほど有名なコレクションらしく、この展覧会でも3期に渡って600点もの作品が出品されています。斎藤氏は恩師の「蒐集は創作なり」との言葉を胸に、時代的・系統的にコレクションしているそうで、2期は特に葛飾北斎と歌川広重の作品が中心となっていました。詳しくはいつも通り気に入った作品とともにご紹介していこうと思います。
なお、今回は特に詳しい解説は無かったので、参考記事などを参照して頂ければと思います。(過去の記事の説明をそのまま引用していますがw)
 参考リンク:川崎・砂子の里資料館
  

<名所八景/琉球八景>
まずは名所八景と琉球八景についてのコーナーです。北斎は実際には琉球に訪れたことはありませんでしたが、清国の使いが記した琉球国志略という本の挿絵を参考にして描いていたようです。
 参考記事:ホノルル美術館所蔵「北斎展」 (三井記念美術館)

2 二代目歌川豊国 「名所八景 大山夜雨 従前不動頂上之図」
右にうず高い山が描かれ、奥に富士山が見えている風景を描いた作品です。山の麓には建物があり、中腹には人々が描かれ山を登っているようです。また、画面全体に斜めに線が引かれていて凄い勢いで雨が降っている感じがしました。風雨の強さを感じさせます。

7 葛飾北斎 「琉球八景 龍洞松濤」
雲のたなびく海岸沿いを描いた作品で、雪を被った松が並び遠くに山々がそびえています。これは琉球の風景を描いたものですが、実際に観て描いたわけではないので雪のように沖縄にはありえないものも描かれています。また、全体的に青が深く、北斎ならではのベロ藍のように思えました。中々摺りも良さそうなコレクションです。


<北斎の富士/名所絵>
続いてはかの有名な冨嶽三十六景です。元々は名前の通り36枚の予定でしたが、人気のため10枚追加されて全46枚からなるシリーズです。
 参考記事:北斎とリヴィエール 三十六景の競演 (ニューオータニ美術館)

17 葛飾北斎 「冨嶽三十六景 常州牛堀」
手前に対角線上に伸びる屋形船があり、奥に富士山が描かれた作品です。屋形船の曲線や直線、富士の三角など幾何学的な要素が面白く、響きあうような配置の妙が心地よく感じられます。全体的に青味がかった色合いも好みです。

22 葛飾北斎 「冨嶽三十六景 東海道程ヶ谷」
手前に並木の街道が描かれ、奥に富士山が描かれた作品です。道の真横から観たような視点が面白く、人々は富士山を眺めながら行き交う様子も楽しげです。松と道が連続したリズム感を生んでいるように思いました。

14 アンリ=ギュスターヴ・ジョソ 「波」
これは北斎の最も有名な「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」をモチーフにして描いたフランスの画家の作品です。手前にはボートの舳先と人の足、奥には襲いかかるような大波がデフォルメされて描かれています。一見して「神奈川沖浪裏」を元にしているのが分かる簡略化で、北斎からの直接的な影響がうかがえました。解説によるとこれはジャポニスムの波に翻弄される同時代の画家を表しているのではないかとのことで、若干皮肉もあるのかも。

この作品と同じように、展覧会場のあちこちに浮世絵から影響を受けたヨーロッパ作品なども展示されていました。また、この近くには「神奈川沖浪裏」や「凱風快晴(赤富士)」(★こちらで観られます)「山下白雨(黒富士)」なども展示されています。少し先には諸国瀧巡りや雪月花といったシリーズなどもありました。


<北斎 和歌と名所>
続いては和歌と名所に関する作品です。「百人一首乳母かえ説」は乳母が子供に教えるように百人一首を絵解きするようなシリーズだそうで、その名の通り100図を予定していたようですが、28図で中断してしまいました。その理由は絵解きの独自解釈など絵解きをする難解さなどがあったと考えられるようです。結構強引なのもあるしw

39 葛飾北斎 「百人一首乳母か絵とき 参議篁」
百人一首を題材に、乳母が絵解きをするという趣旨の作品です。これは中央あたりに家があり、手前には網を引っ張る漁師たちが描かれ、右下には焚き火がありモクモクと上に向かって煙が伸びています。解説によるとこれは柿本人麻呂の「あしひきの 山鳥の尾の しだり尾の 長々し夜を ひとりかも寝む」を表しているそうで、煙は長々し夜を表しているそうです。 …ってそんな解釈で良いのかなw 若干無理やりな感じも受けました。

この近くにも百人一首を題材にした作品が何点かありました。

25 葛飾北斎 「鎌倉江ノ嶋大山 新板往来双六」
これは日本橋から神奈川の名所めぐりをするという唯一の双六絵です。長谷の大仏や鶴ヶ岡八幡宮の大銀杏、七ヶ浜など名所が細かく描かれています。今でもあまり変わっていないところもあって、我々現代人にも楽しめるような感じでした。


<肉筆浮世絵>
続いては浮世絵師たちによる直筆の浮世絵=肉筆浮世絵のコーナーです。驚くほどに数多くの肉筆画が並んでいました。

13 司馬江漢 「相州鎌倉浦」
これは掛け軸で、左に断崖がある海岸の風景が描かれ、2人の人物が魚を運んでいます。背景には薄っすらと富士山の姿もあり、タイトル通り鎌倉辺りの光景のようです。作者の司馬江漢はいち早く洋画を描いていた人ですが。ここでは遠近感などを感じるものの和風な作風でのびのびとした雰囲気があるように思いました。

17 初代歌川広重 「箱根二子山」
これは歌川広重が織田信長にゆかりのある天童藩から依頼を受けて作った2幅対の作品で、その際に200幅も作られたことから天童広重と呼ばれ珍重されているものの1つです。
右幅は箱根の二子山とお玉ヶ池が描かれ、左幅は芦の湖の湖畔と権現社の大鳥居などが描かれています。人の姿はなく、霞がかった静かな画面で、上半分は余白になっているためか広々した印象を受けました。

この近くには浮世絵に関するヨーロッパの本などもありました。アール・ヌーヴォーを広めたジークフリート・ビングの「芸術の日本」なども展示されています。


<北斎の東海道>
続いては北斎の摺物(注文制作の非売品。こだわりの贅沢な作りの貴重な作品)です。意外と思われるかもしれませんが、有名な歌川広重の東海道五十三次より20年前に北斎も東海道をテーマにした連作を作成しています。
 参考記事:広重と北斎の東海道五十三次と浮世絵名品展 (うらわ美術館)

55 葛飾北斎 「原」
絵葉書よりも1回り大きいくらいの作品が東海道の順にならんでいたのですが、特に気に入ったのはこちらの作品でした。見晴らしの良いところから旅人の男女が富士山を眺めている様子が描かれているのですが、左下に見きれるような感じの構図に成っていて立ち去っていくかのような印象を受けました。画面の形なども含めて大胆で面白い作品です。


ということで、前半は葛飾北斎の作品が中心となっていました。何度観ても北斎の構図や遊び心には驚くばかりです。後半には歌川広重の東海道五十三次なども展示されていましたので、次回はそれについてご紹介していこうと思います。


  → 後編はこちら



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色を見る、色を楽しむ。ールドンの『夢想』、マティスの『ジャズ』… 【ブリヂストン美術館】

前回ご紹介したカフェに行った次の日に、すぐ近くのブリヂストン美術館へ行って「色を見る、色を楽しむ。ールドンの『夢想』、マティスの『ジャズ』…」を観てきました。(カフェに行った日は閉館時間を過ぎてしまい入れませんでしたw)

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【展覧名】
 コレクション展 色を見る、色を楽しむ。ールドンの『夢想』、マティスの『ジャズ』…
 併設:追悼 ザオ・ウーキー

【公式サイト】
 http://www.bridgestone-museum.gr.jp/exhibitions/

【会場】ブリヂストン美術館
【最寄】JR東京駅・銀座線京橋駅・日本橋駅・都営浅草線宝町駅


【会期】2013年6月22日(土)~2013年9月18日(水) 
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間00分程度

【混み具合・混雑状況(日曜日14時頃です)】
 混雑_1_2_3_4_⑤_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
空いていてゆっくり鑑賞することができました。

さて、今回の展示は大きくわけて2つの内容となっていて、1つはタイトル通りの内容で、もう1つは今年(2013年)に亡くなったザオ・ウーキーの追悼展示となっています。とは言え、いずれも常設中心の展示ですので、今回は私が「初めてみる作品」(他の美術館の所蔵品など)と、「最近入れ替わって展示されたと思われる作品」を中心にいくつかご紹介しようと思います。(代表的なコレクションというわけではありません。代表的なものは公式ページで確認できます)
 参考リンク:現在展示中の収蔵作品


<色を見る、色を楽しむ。ールドンの『夢想』、マティスの『ジャズ』…>
まずは今回のテーマの展示です。所々に絵の具の歴史などについてのキャプションがあり、色に関する各時代の取り組みなども分かるようになっていました。作品自体はほぼいつもどおりの内容かな。

エドゥアール・マネ 「裸婦」
これはチョークの素描で、座って頭の後ろに手を回して髪を直すような裸婦が描かれています。顔はやや描き込まれていますが、他は輪郭線だけで結構簡素に描かれています。しかし形態をよく捉えていて、簡素だからこそマネの力量が伝わってくるように思いました。

モーリス・ド・ヴラマンク 「風景」
これは水彩の風景画で、手前に道が斜めに走り奥に家々が描かれています。濃い目の色で水彩とは思えないほどの強さですが、水彩ならではの透明感もあります。素早く描かれた感じも面白い作品でした。

オディロン・ルドン 「夢想(わが友アルマン・クラヴォーの想い出に) Ⅴ 月世界の巡礼」
こちらは今回の展示のタイトルにもなっているルドンの白黒の版画集です。アルマン・クラヴォーというのはルドンの創作の元となる様々な事物を教えた植物学者で、このシリーズはルドンが敬愛するクラヴォーが自殺した翌年に作られました。聖ヴェロニカがキリストの汗を拭った際に、ベールに顔が写ったという奇跡を題材に、キリストはクラヴォーの顔で描かれています。今回注目したその中の1枚では、右上に輝く月?のようなもの、左下には馬に乗ったフードの人物が描かれ、その人は月を観ているのかな。人と月は白っぽく、馬は黒いなど明暗によって物の形や空間を表していました。幻想的な作品です。
 参考記事:
  オディロン・ルドン ―夢の起源― 感想前編(損保ジャパン東郷青児美術館)
  オディロン・ルドン ―夢の起源― 感想後編(損保ジャパン東郷青児美術館)

アンリ・マティス 「ジャズ」 ★こちらで観られます
これも今回の展覧会名に入っているマティスのリトグラフで、音楽とは関係なくサーカスや民話、旅行などの思い出を題材にしています。元々は切り絵で、助手がグワッシュで紙に色をつけてマティスがハサミで切り抜いて作ったそうで、印刷の際にはマティス自身が再現性にこだわって様々な印刷法を試したそうです。そのこだわりの為か完成までに3年もかかったらしく、最後まで苦労したのは紫色だったようです。また、元々は「サーカス」というタイトルになる予定だったそうですが、即興性がジャズの精神と一致する為にこの名前になったそうです。
そのジャズは全20枚あるのですが、私が好きなのは「Ⅸ形体」(女性の体とそれが反転したような作品)や、「ⅩⅤナイフ投げの男」などで、今回のポスターになっているのは「Ⅷイカロス」です。いずれも非常に簡素ながらも色彩と形が軽やかで、楽しげな雰囲気があります。しかしよくよく見るとサーカスの事故を思わせたりするのも興味深い作品でした。
 参考記事:マティス Jazz (ポーラミュージアム アネックス POLA MUSEUM ANNEX)
マティスは所蔵品が一気に観られる部屋となっていてそれだけでも楽しめました。


<併設:追悼 ザオ・ウーキー>
続いては今年の4月に92歳で亡くなったザオ・ウーキーの追悼企画です。ザオ・ウーキーは1921年に北京で生まれ、出身校である杭州美術学校で教鞭をとった後、1948年に27歳でパリに渡りました。(1964年にフランス国籍を取得) パリではパウル・クレーを知り、その記号的な題材の扱い方を模倣したそうで、その後の1957年には渡米してフランツ・クラインやマーク・ロスコ等アメリカ抽象表現主義の作家と知り合いました。1960年代は中国の書を思わせる不定形が画面に現れ、やがて動的な筆致が画面全体に広がるようになったそうです。1980年代以降は色彩を空間に解き放つかのような作品を制作したそうで、ここにあったのは恐らく晩年の作品じゃないかな。ブリジストン美術館は国内最大のザオ・ウーキーの作品コレクションを持っている(と思われる)ようで、ここにはそうした作品が並んでいました、

ザオ・ウーキー 「無題」
墨で描かれた作品で、左下のあたりに濃淡で描かれた抽象的なもの(岩山みたいなものに見えました)があり、右下には賛らしきものがあります。「石橋主人??趙無?筆」と書かれていました。(?は読めない部分) この美術館と関係がある品かな? それにしてもザオ・ウーキーって中国人だったとは知りませんでした。

この辺にはいつも展示されている「07.06.85」(深海の底を思わせる作品)もありました。1985年の作品です。

ザオ・ウーキー 「風景2004」
これは全体的に黄緑色の画面で、右の方に山らしきものがあり、中央からやや左のあたりはオレンジがかっていて夕焼けを思わせます。緑の筆跡は恐らく山の植物を表しているのかな? 他の作品と比べると何となく風景だなという具象性が感じられました。色合いの深さが印象的な作品です。


<色を見る、色を楽しむ。ールドンの『夢想』、マティスの『ジャズ』…>
最後は日本の洋画家の作品が並ぶ部屋となっていました。

猪熊弦一郎 「女の肖像」
これは水彩で、座っている白いワンピースの女性が乗り出すように右の方を観ている様子が描かれています。周りには赤い花などがあり、単純化が進みどことなくマティスを思わせる色形かな。女性の服のせいか夏を思わせる作品でした。

川上涼花 題名失念…
丘とその上に立つ黄色い葉をつける木を描いた作品です。一見してナビ派風で、樹の下の辺りには赤が使われるなど大胆な色使いです。筆跡も大きく、色が強く感じられました。


ということで、久々にジャズを観ることが出来て楽しめました。コレクション展なだけに今回ご紹介しなかった常設作品も見応えありますので、ここに訪れたことがない方は1度は観に行ってみるとよろしいかと思います。


 参照記事:★この記事を参照している記事


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PEN STATION Museum & Cafe 【京橋界隈のお店】

先週の土曜日に京橋近くの「PEN STATION Museum & Cafe」というお店でお茶をしてきました。前々回から銀座界隈の展示をご紹介しているのでこのタイミングでご紹介しておこうと思います。

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【店名】
 PEN STATION Museum & Cafe

【ジャンル】
 カフェ

【公式サイト】
 http://www.pilot.co.jp/service/museum/
 食べログ;http://tabelog.com/tokyo/A1302/A130202/13007603/
 ※営業時間・休日・地図などは公式サイトでご確認下さい。


【最寄駅】
 京橋駅、宝町駅など

【近くの美術館】
 ブリジストン美術館
 警察博物館
 国立近代美術館フィルムセンター
 ポーラミュージアム アネックス
  など


【この日にかかった1人の費用】
 650円程度

【味】
 不味_1_2_3_④_5_美味

【接客・雰囲気】
 不快_1_2_3_④_5_快適

【混み具合・混雑状況(土曜日17時半頃です)】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【総合満足度】
 地雷_1_2_3_④_5_名店

【感想】
空いていてゆっくりすることができましたが、土曜日は6時までということで、長居はできませんでした。

さて、このお店は「PEN STATION Museum & Cafe」という名前の通り、文具メーカーのPILOT(パイロット)が運営するペンのミュージアムに併設されているカフェです。2階がミュージアムになっていて、早速観てみようと思ったら17時までで終了してしまっていてこの日は観られませんでしたw もしこのお店に行くなら17時前に行くのがお勧めです。

お店は先にカウンターで注文して席に持っていくスタイルとなっていました。お店の中はこんな感じ。
P1120013.jpg P1120014.jpg
店内にもペンが展示されています。


この日はケーキセット(650円)を頼みました。時間が遅かったので600円にディスカウントしてもらえました。その代わり残っているケーキも少なめですw


ケーキは「シュー・オ・ショコラ」にしました。
P1120009.jpg P1120012.jpg
若干食べづらいのが玉に瑕ですが、二層のクリームがまったりして美味しいです。側面から見るとクリームが詰まっています。結構甘めでした。

飲み物はブレンドコーヒーにしました。
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こちらは軽い酸味と軽い香りがあり、飲みやすい味でした。


ということで、ミュージアムを観られなくて残念でしたが、意外と安くて気軽に寄れるお店でした。実はこのお店は何度か利用したことがあって、京橋の駅の目の前にあるというのも便利なので、仕事から直帰の際に寄ったこともあります。その度にミュージアムは閉まっていましたがw  いずれまたミュージアムも観に行ってみたいと思います。


おまけ:
この後ブリジストン美術館に行ったのですが、こちらも18時までで閉館でしたw ブリジストンは以前は20時までやっていたので勘違いしてしまったw


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プロフィール

21世紀のxxx者

Author:21世紀のxxx者
 
多分、年に70~100回くらい美術館に行ってると思うのでブログにしました。写真も趣味なのでアップしていきます。

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画像を大きめにしているので、解像度は1280×1024以上が推奨です。

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■2011/9/29
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