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興福寺創建1300年記念 国宝 興福寺仏頭展 【東京藝術大学大学美術館】

前回ご紹介した東博の常設を観る前に、同じく上野にある東京藝術大学大学美術館で「興福寺創建1300年記念 国宝 興福寺仏頭展」を観てきました。この展示は前期・後期で展示替えがあるようで、私が観たのは前期の内容でした。

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【展覧名】
 興福寺創建1300年記念 国宝 興福寺仏頭展

【公式サイト】
 http://butto.exhn.jp/
 http://www.geidai.ac.jp/museum/exhibit/current_exhibitions_ja.htm

【会場】東京藝術大学大学美術館
【最寄】上野駅(JR・東京メトロ・京成)・鶯谷駅・根津駅など


【会期】
 2013年09月03日(火)~10月14日(月・祝)
 2013年10月16日(火)~11月24日(日)
  ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日14時半頃です)】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
入口は空いているように見えましたが中に入ると混雑していて、場所によっては人だかりができるくらいでした。特に地下の展示は混んでいます。しかし、一番肝心な3階の作品は大きめでスペースにも余裕があったので、じっくり自分のペースで観ることができました。

さて、今回は奈良の興福寺が持つ仏像や仏画が並ぶ展覧会となっています。奈良の興福寺の起源は7世紀後半に中臣鎌足の病気平癒のために京都山科に建立された山階寺に遡るそうで、その後 飛鳥に移って厩坂寺となり、710年の平城京遷都を契機に現在の地に移りました。2010年に建立1300年を迎えた興福寺は、その間に幾多の戦乱や災害に遭ったらしく、昔は中金堂、西金堂、東金堂と3つあったのですが焼失と再建を繰り返し、江戸時代の1717年に中金堂や西金堂など多くを焼失して以降、主に東金堂と南円堂が教えや伝統を伝えてきたそうです。東金堂は本尊の薬師如来が完成させた東方の浄土「浄瑠璃光世界」を現世に表現しようとしたものらしく、旧本尊の銅像仏頭(今回の目玉作品)は7世紀後半に作られ15世紀に火災で行方不明になったものの、500年経た昭和時代に発見されたそうです。今回はその仏頭を中心にそれを守護する十二神将像などと共に、貴重な品々が一挙公開されていました。展覧会は4つの章に分かれていましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。
 参考記事:
  国宝 阿修羅展 (東京国立博物館)
  国宝 阿修羅展 2回目(東京国立博物館)


<第1章 法相宗の教えと興福寺の絵画・書跡>
まず1章は興福寺そのものと、その教えである法相宗についてのコーナーです。法相宗は「あらゆる事象は人の心が認識したものである」とする唯識の立場から、一切の事物のあり方(法相)を追求する学問的な宗派らしく、インドの高僧 無著(むじゃく)と世観によって大成されました。唯識はその後、玄奘三蔵(西遊記のお坊さん)によって中国にもたらされ、その弟子の慈恩大師が体系化し、奈良時代に入唐した玄昉によって興福寺に伝わったそうです。その後 興福寺は法相宗の中心となり発展していったようで、ここにはそうしたルーツにまつわる品が並んでいました。

1-1 「木造弥勒菩薩半跏像」 鎌倉時代・13世紀 ★こちらで観られます
これは鎌倉時代に作られた弥勒像で、台座に座って片足を垂らし 頭には冠を被った姿をしています。後光は5つの方向に伸びる珍しい形で、表情は厳しめに見えましたが優美さがあり、全体的には非常に緻密で装飾的な雰囲気に思えます。この弥勒像の後ろにはそれを収めていた厨子もあり、その内側には菩薩や四天王と共に世観などの姿もありました。 格式高さとルーツを感じさせる作品です。

この少し先は資料的な作品が並ぶコーナーで、歴代の興福寺別当(最高責任者)を記録した巻物や、法相宗の始祖とされる玄奘三蔵の一代記、最も重要な教えをかいた成唯識論、鎌倉時代の法相宗の中興の祖師と呼ばれる解脱上人貞慶が書いた晩年の解釈「明本鈔」、経典の版木などが続きます。 この辺の品は貴重だとは思っても門外漢にはあまりピンと来なかったですw

そしてその後は厨子の扉絵のコーナーです。

13 「帝釈天像(護法善神扉絵) 」 鎌倉時代・14世紀
手を胸の前に出し三鈷杵を持つ帝釈天が描かれた扉絵で、背景には火が浮かぶ光輪が描かれています。額には第三の目があり やや厳しい雰囲気の顔をしているかな。保存状態がよく色彩が鮮やかで細部まで分かるくらいくっきりとしていました。解説によると、この護法善神扉絵は元は6角形の厨子の両開きの扉絵だったと考えられるようで、12枚の扉絵があるようです。描かれているのは大般若経に所縁の深い諸像らしく、ここにはそのうちの6点が展示されていました。(会期によって展示替え)

10 「法相祖師像彩絵 厨子扉絵」 鎌倉時代・13世紀
こちらは3方向両開きの厨子の扉絵で、中には弥勒像が入っていたと考えられる品です。兜率天上の6大神像、インド・中国の法相始祖8人などが描かれていて、13世紀半ばの作と考えられるようです。1枚に2~3人くらいが描かれ、頭には名前が書いてあるので誰が誰か分かりやすいです。僧たちは穏やかそうな雰囲気でしたが、神々は堂々たる姿で描かれていて迫力がありました。

2 「慈恩大師像(大乗院伝来) 」 平安時代・12世紀
これは玄奘三蔵の弟子で唯識の教えを体系化した法相始祖の肖像画です。2m以上ありそうな大きな姿で描かれ、手を組んで立っています。言い伝えでは2mくらいの大男だったらしく、その迫力が再現されているように感じました。この慈恩大師は戒賢・玄奘に次ぐ宗祖として重要な人物らしく、手を組んで頭が大きい姿で描かれることが多いそうです。この作品にはその特徴がよく出ていました。

この先には平家の南都焼き討ちの後に興福寺の復興に努めた解脱上人貞慶と信円の像もありました。

11 「持国天像」 鎌倉時代・12-13世紀 ★こちらで観られます
これは剣を持ち炎の光背を背負った鎧姿の持国天?を描いた仏画です。その足元には矢を持って片目をつぶって狙いを定めるような青い邪鬼と、旗を持って立てる赤い邪鬼の姿があります。普通の四天王像は邪鬼を踏みつけているものですが、こうしてお供になっているのは珍しいようです。その邪鬼たちがいるためか、やや愛嬌があるように見えました。


<第2章 国宝 板彫十二神将像の魅力>
続いては今回の目玉の1つである国宝「板彫十二神将像」が一堂に会するコーナーです。興福寺東金堂は726年に建立されてから5回も焼失しているそうで、その都度再建されてきました。その本尊の東方瑠璃光世界教主 薬師如来を守るのが十二神将で、この作品は最初の焼失(1017年)の後に再建された際に作られたと推定されるそうです。板を浮き彫りに個性豊かな十二神将像が表されているのですが、平面なので普段は横一列に並んで展示されているようです。しかし正面向き1体、左向き6体、右向き5体といった感じで向きが違う姿で表されているので、当時は薬師如来の四方を荘厳していた可能性が考えられるらしく、ここではその仮説に則り四方を取り囲むような感じで展示されていました。

41 「真達羅大将像(板彫十二神将)」 平安時代・11世紀
これは正面向きの浮き彫り像で、両手を合わせて合掌している真達羅(寅神)が表されています。左肩には剣を携えていて髪は逆立っていますが、全体的には穏やかな雰囲気です。板はそんなに厚みはなく3cmくらいしかないのですが、実際よりも立体的な感じに見えました。これはかなり見事で、十二神将像をぐるぐると何度も見て回ってきましたw こうして揃って展示されるのは史上初なのだとか。

48 「迷企羅大将像(板彫十二神将)」 平安時代・11世紀 ★こちらで観られます
これは右手を振り上げ左足を上げている姿の迷企羅(酉神)が表された浮き彫りです。非常に動的なポーズで、筋肉の表現も躍動感があり筋に力がみなぎっている感じがあります。口を大きく開ける表情も迫力があり、十二神将像の中でも特に目を引きました。

この先は中金堂の再建についてのコーナーでした。現在、興福寺では中金堂の再建が行われていて、2018年に落慶を予定しているようです。大きな模型があり、その立派な外観をイメージすると共に横から中の様子を覗くこともできました。少し進むと中金堂の法相柱(祖師たちを描いた柱)の下絵などもあり、部屋の中央では、映像で興福寺について説明していました。


<第3章 国宝 銅造仏頭と国宝 木造十二神将立像>
続いては3階の展示室でここは木造の十二神将像と銅造仏頭が一堂に会し、入った瞬間に驚かされました。下階の十二神将像も凄かったですが、ここはまさに国宝に相応しい作品が並びます。
1180年に南都(奈良)は平重衡(平清盛の五男)に率いられた大群に攻撃され、東大寺と興福寺は特に壊滅的な被害を受けました。しかしその衝撃はまもなく復興への決意へと変わったそうで、その機運の中から慶派と呼ばれる優れた仏師たちが登場してきました。 とは言え、急速な再建は容易ではなかったようで、1187年には山田寺の薬師三尊像が東金堂へと運ばれ(強奪みたいな…)、それを守る眷属として木造十二神将像が作られたらしく、その憤怒の表情からは兵火を二度と繰り返させないという悲壮な決意が表れているそうです。 その後、本尊の薬師如来は1411年の東金堂の火災によって失われてしまったのですが、昭和12年(1937年)に現在の東金堂の本尊台座の内部から頭部のみが見つかり、現在に至るようです。ここにはその仏頭と木造十二神将像が並んでいました。


56 「波夷羅大将立像(木造十二神将)」 鎌倉時代・13世紀
あたまに辰を乗せている波夷羅で、一歩踏み出し腰の刀に手をかけて 今にも斬りかかってきそうなポーズをしています。顔は大きく口を開け、目を見開く表情で非常に恐ろしい雰囲気です。憤怒と動きに満ち溢れた力強い表現で、確かに敵への威嚇が感じられました。

ずらりと十二神将像が並んでいるのを比べながら見ていると、表現に若干のバラつきがあることに気が付きます。これは複数の仏師たちが作ったためと考えられるようです。

62 「伐折羅大将立像(木造十二神将)」 鎌倉時代・13世紀 ★こちらで観られます
これは刀を下向きにして突き刺そうとしている伐折羅(戌神)で、頭には戌を載せています。やはり口をクワッと開けていて、右手は大きく手を開くなど動的なポーズです。目はこの頃に流行った水晶ではなく木の目となっていますが、怒りに満ちた感じがよく出ていました。これも緊張感がみなぎっている作品です。

51 「銅造仏頭(興福寺東金堂旧本尊)」 白鳳時代・天武天皇14年(685) ★こちらで観られます
これは落雷の火災で頭部のみを残して焼失した薬師如来像です。元々は山田寺(大化の改新で活躍した蘇我倉山田石川麻呂が発願した寺)にあったものを奪ってきたもので、685年に作られたことが記載されているようです。1mくらいありそうな大きな頭部で、右耳は破損しているものの耳が大きく、目は遠くを見渡すようで、ふっくらとした顔つきが穏やかで優美な印象です。今回は後ろに回って観ることもできるのですが、後頭部の辺りは欠けていて、中は空洞になっていることが分かります。また、後ろから観るとやや傾いて歪んでいるのが分かりやすく、火災による爪あとが今でもありありと残っているのが分かりました。 これだけ傷ついて頭だけになっても国宝になるほどなので、当時は相当見事な仏像だったのでしょうね…。


<第4章 特別陳列 深大寺釈迦如来倚像>
最後は特別展示で、銅造仏頭と同じ白鳳時代に作られた深大寺(東京)の釈迦像が展示されていました。深大寺は733年満功上人によって開山された寺で、当初は法相宗であったのですが平安時代に天台宗へと改宗したそうで、「銅造釈迦如来倚像」は関東における白鳳金銅仏の貴重な遺品のようです。興福寺の仏頭に通じるものがあるそうで、ここにはその1点だけが展示されていました。
 参考記事:深大寺の写真

64 「銅造釈迦如来倚像」 白鳳時代・7世紀 ★こちらで観られます
椅子に座って右手は施無畏印(手のひらを前に見せて少し指を折る感じ)、左手は膝の上に乗せた姿をした釈迦像です。非常に穏やかな微笑みを浮かべ、丸みを帯びた体つきに気品があります。解説によると、若々しい面相は興福寺仏頭に通じるとのことで、白鳳時代の特徴のようでした。

最後は映像で、仏頭をCGで破損前に復元するという内容となっていました。


ということで、予想以上に感動できる内容でした。何と言っても2セットの十二神将像が素晴らしい! 仏頭も貴重ですが私はそちらのほうに時間を割いてきましたw 今季お勧めの展示です。


 参照記事:★この記事を参照している記事



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東京国立博物館 平成25年度 秋の特別公開 【東京国立博物館】

日付が変わって昨日となりましたが、土曜日に上野の東京国立博物館で「東京国立博物館 平成25年度 秋の特別公開」を観てきました。基本的には常設展で、何点か特別出品されている感じです。

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 ※ここの常設はルールさえ守れば写真が撮れます。(撮影禁止の作品もあります)
 ※当サイトからの転載は画像・文章ともに一切禁止させていただいております。

公式サイト:
 http://www.tnm.jp/modules/r_event/index.php?controller=dtl&cid=5&id=6889

期間(「東京国立博物館 平成25年度 秋の特別公開」の該当作品)
 2013年9月18日(水)~9月29日(日)

 参考記事:
   東京国立博物館の案内 【建物編】
   東京国立博物館の案内 【常設・仏教編】
   東京国立博物館の案内 【常設・美術編】
   東京国立博物館の案内 【2009年08月】
   東京国立博物館の案内 【2009年10月】
   東京国立博物館の案内 【2009年11月】
   東京国立博物館の案内 【秋の庭園解放】
   東京国立博物館の案内 【2009年12月】
   東京国立博物館の案内 【2009年12月】 その2
   東京国立博物館の案内 【2010年02月】
   東京国立博物館の案内 【2010年06月】
   東京国立博物館の案内 【2010年11月】
   博物館に初もうで (東京国立博物館 本館)
   本館リニューアル記念 特別公開 (東京国立博物館 本館)
   東京国立博物館の案内 【2011年02月】
   東京国立博物館の案内 【2011年07月】
   東京国立博物館の案内 【2011年11月】
   博物館に初もうで 2012年 (東京国立博物館 本館)
   東京国立博物館140周年 新年特別公開 (東京国立博物館 本館)
   東京国立博物館の案内 【2012年03月】
   東京国立博物館の案内 【秋の庭園解放 2012】
   東京国立博物館の案内 【2012年11月】
   博物館に初もうで 2013年 (東京国立博物館 本館)
   東洋館リニューアルオープン (東京国立博物館 東洋館)
   東京国立博物館の案内 【2013年04月】


特別展が開催されていない時に行ったのですが、意外と多くのお客さんで賑わっていました。とは言え特に混んでいるというわけではなく、自分のペースで鑑賞することができました。

さて、今回は常設に加えていくつか特別展示されている品があるのですが、特に目玉となるのは酒井抱一の「夏秋草図屏風」です。まずは早速「夏秋草図屏風」からご紹介していこうと思います。

酒井抱一 「夏秋草図屏風」
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こちらは元々、尾形光琳の「風神雷神図屏風」の裏面に描かれていた作品です。酒井抱一は尾形光琳から100年程度後の時代の絵師ですが、私淑という形で琳派を継ぎ、江戸琳派として栄えました。表面の風神雷神に呼応するように揺れる夏秋の草花が描かれ、背景も表の金地に対して酒井抱一ならではの銀地となっています。これは琳派好き必見の作品です。
 参考記事:酒井抱一と江戸琳派の全貌 感想前編(千葉市美術館)

しばらく後のコーナーにも抱一の作品がありました。(これは特別展示の対象ではないようです)

酒井抱一 「四季花鳥図巻 (下巻)」
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これは四季の花鳥が並ぶ巻物で、右から左へと春夏秋冬が移ろう様子が描かれています。この単純化が優美で、色の使い方も可憐な雰囲気となっています。よく観ると葉っぱなどに滲みを使ったたらしこみの技法も見られます。

こちらは続き。
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カマキリや花の雄蕊はかなり細かく描かれています。葉脈が金色なのも面白かったです。

ここから先は観てきた順にご紹介していきます。まずは2階を時計回りに見ています。

「土蜘蛛草紙絵巻」
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これは源頼光と渡辺綱が京都洛北に住む土蜘蛛を退治するという話の絵巻。いくつかの場面があり様々な怪異が起こるのですが、ここでは顔が異常に大きな女性が現れた場面が描かれています。奇妙で不気味な雰囲気です。

こちらも土蜘蛛草紙絵巻の続き。
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これが土蜘蛛。源頼光はその首をはねて腹を割くと1990もの髑髏が出てきたそうです。また、反対側の腹には小蜘蛛が数多く入っていたらしくその両方が描かれていました。あまり上手くはないですが物語をよく表していました。

「太刀 大和物(号 獅子号)」
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これは源頼政が鵺を退治して天皇より賜ったとされる太刀。…ってそんな品が実在しているとは驚きです。平安後期の太刀らしく細身で腰反りが強くついているのが特徴のようでした。

「小袖 紫萌黄染分山繭縮緬地流水草木屋形虫籠模様」
「小袖 紫縮緬地家屋中啓風景模様」「帯 萌黄繻子地秋草模様」
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こちらは武家の女性の小袖。特に目を引く左の小袖は源氏物語を題材にしていて、腰上は「野分」、腰下は「藤裏葉」となっているようです。いずれも気品があり何とも艶やか。秋草の帯も今の時期に合っていました。

伝俵屋宗達 「扇面散図屏風」
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これは本人の作かは分かりませんが、扇面散らしの屏風は宗達がよく手がけた作品です。様々な花鳥が描かれ非常に雅な雰囲気です。桜の花などは胡粉を塗り重ねて立体的に描いているのだとか。

鳥居清長 「當世遊里美人合・たち花」
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今回の浮世絵のコーナーは鳥居清長の作品が中心となっていました。三人の美女が化粧や本?を読んでいるのが艶やかです。並び順のせいか流れるような画面に思いました。

続いては企画展示「うつす・つくる・のこす-日本近代における考古資料の記録-」のコーナーです。ここには明治期から昭和初期にかけて制作された模造品や絵画など考古学に関する品々が並んでいました。
  期間:2013年9月10日(火) ~ 10月20日(日)

二世 五姓田芳柳 「群集横穴図」
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これは埼玉県比企郡吉見町北吉見の「吉見横穴」を描いたもの。右下に入口の様子も描かれていて考古学的な作品であることが伺えます。古代人のマンションみたいな感じかな?

長原孝太郎 「暴露石槨図」
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こちらは滋賀県蒲生郡竜王町山面の「山面古墳」を描いたもの。これとそっくりな写真(この絵と近い時期に図録に乗ったもの)があり、写実的に描いているようです。この作品も違う向きから描かれているのが特徴的でした。

ここにはその他にも埴輪や古代の女性の服を描いた作品などもありました。
続いて1階の展示です。ここも時計回りに観て行きました。

「千手観音菩薩坐像」
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これは中国風を取り入れた院派仏師の作と考えられる千手観音像。42本の手を持ち、後ろにある40本の手が1本あたり25の世界を救うので千手観音となります。澄んだお顔が落ち着いた雰囲気でした。

伝 本阿弥光悦 「舞楽蒔絵硯箱」
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これは舞楽の舞人の後ろ姿が表された蒔絵箱。何故後ろ姿をモチーフにしたんだろ?? 結構斬新な作品に思えます。

中山胡民 「虫籠蒔絵菓子器」
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虫の部分に螺鈿細工が施されているのが面白く、本当に虫籠のような奥行きも感じられました。

「十二神将立像 申神」
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こちらは十二神将像のうち申(猿)を表す申神。浄瑠璃寺に伝わったものらしく、頭の上に小さな猿が乗っているのが可愛いw 申神もちょっと猿っぽい顔かも。

続いては「歴史資料 博物図譜」という展示となっていました。日本の博物学は享保期に江戸幕府が全国的な物産の調査を行ったのがきっかけで探求が高まったそうです。
 期間: 2013年8月27日(火) ~ 10月20日(日)

関根雲停・中島仰山他 「野猫」
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これは江戸時代~明治頃の品のようですが、マニラの野猫が描かれています。猫というよりはちょっとチーターっぽいかも。かなり写実的で図鑑のような雰囲気でした。

後藤光生 「随観写真」
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人体解剖図なども含む博物学的な書物が並んでいました。江戸時代でも結構研究が進んでいたように見えます。

「諸鳥獣図(獣図)」
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これは作者不詳ですが、様々な動物が描かれていました。これは狼(ヤマイヌ)で、らんらんとした目が怖いw 毛並みまでしっかり描かれています。

最後は明治期の絵画のコーナーを観てきました。

寺崎広業 「秋苑」
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秋の気配漂うなかで編み物をしている少女。こうした容姿は明治32年頃の雑誌の口絵などで流行した当世の美少女の典型なのだとか。夢見るような雰囲気であどけなさも残っているように見えました。猫も可愛い^^

野口小蘋 「春秋山水」
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右隻は春の景色、左隻は秋の景色となっているようです。同じように見えてよーく観ると草木の色でそれが分かるかな。雄大な雰囲気を湛えていました。

安井曾太郎 「深井英五氏像」
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これは第13代日本銀行総裁の深井英五氏を描いた作品。写実的でありながら明るい色彩で、斜めに配置された構図も面白かったです。

久々に行ったら本館入口正面左手の部屋はミュージアムショップになっていました。
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結構広いし本もかなりありそう。


ということで、今回も豊富なコレクションを観ることができました。ここはいつ行っても作品が変わっているので常設という感じがしないほど豊富ですw その中でも特に「夏秋草図屏風」を観ることができたのは貴重な機会でした。


おまけ:
2013年夏の大ヒットドラマ「半沢直樹」の東京中央銀行本店のシーンで使われた階段は東京国立博物館の正面にあります。
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お守り代わりのネジを落としたり金融庁の役人を迎えたりと結構重要なシーンで使われました。



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再興院展100年記念 速水御舟-日本美術院の精鋭たち- 【山種美術館】

最近仕事が忙しくてちょっとご紹介が遅くなりましたが、2週間ほど前に恵比寿の山種美術館で「再興院展100年記念 速水御舟-日本美術院の精鋭たち-」を観てきました。

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【展覧名】
 再興院展100年記念 速水御舟-日本美術院の精鋭たち-

【公式サイト】
 http://www.yamatane-museum.jp/exh/current.html

【会場】山種美術館
【最寄】JR・東京メトロ 恵比寿駅


【会期】2013年8月10日(土)~10月14日(月・祝)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況(日曜日14時頃です)】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
台風が迫っている日に行ったためか、意外と空いていて快適に鑑賞することが出来ました。

さて、今回の展示は近代日本画家の速水御舟を中心に、その世代に先立ち院展の基盤を作り上げてきた横山大観、下村観山、菱田春草といった先人たちや、速水御舟と同世代で密接に関わった今村紫紅、小茂田青樹ら仲間の作品が並ぶ内容となっています。院展は岡倉天心の理想のもとに1898年に結成され、その後一時期経営難で低迷に陥ったものの天心の没後にその精神を引き継いだ横山大観らを中心に1914年に再興日本美術院(再興院展)として新たにスタートしました。政府主催の官展(文展)に対抗して当時の画壇における先鋭的な役割を担ったそうで、速水御舟はこの再興院展に第1回から出品し、常に新たな日本画の創造に挑み続けていたようです。わずか40年という短い生涯の中で、古典学習、新南画への傾倒、写実に基づく細密描写、幻想的な装飾様式 などの変遷をとげたようで、この展覧会でもそうした画風の変化を観ることができます。
展覧会は3章に分かれる構成となっていましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品をご紹介しようと思います。なお、以前にご紹介した作品も多く展示されていましたので、それについては省略しております。

 参考記事:
  速水御舟展 -日本画への挑戦- (山種美術館)
  五浦六角堂再建記念 五浦と岡倉天心の遺産展 (日本橋タカシマヤ)


<第1章 再興日本美術院の誕生>
まずは再興日本美術院についてのコーナーです。明治維新以降、押し寄せる西洋画に対しそれに並ぶ新たな日本画を作るという機運に包まれていたそうで、岡倉天心はその中心的な存在でした。しかし1898年に校長として勤めていた東京美術学校(今の東京藝術大学)で、人事絡みに端を発した騒動が起きて校長を辞任すると、それに横山大観らも教授職を辞職し後に続きました。そして岡倉天心は退官した横山大観、下村観山、菱田春草らと共に日本美術院を東京の谷中に立ち上げ、展覧会を開催するなどの活動を始めます。しかし1905年には資金難で茨城県五浦(いづら)へと移転し、さらに岡倉天心がボストン美術館に赴任したことによってメンバーの士気が低下し、日本美術院は低迷状態となりました。 その後、岡倉天心の一周忌にあたる1914年になると、その意志を継いだ横山大観・下村観山らにより日本美術院は再興され、これが再興日本美術院と呼ばれる団体となります。その理念は三則を掲げ、中でも「芸術の自由研究を主となす。故に教師なし先輩あり。教習なし研究あり」とあるように、画家の個性が現れる作品の制作を表明したそうです。ここにはそうした新たな時代の日本画が並んでいました。

9 菱田春草 「釣帰」
手前の川で櫂を持って船を漕ぐ人と、その舟に乗って笠を被った3人の人が描かれた作品です。川は奥へと消えていくようで、背景には木々が霧にかすむように描かれています。このぼんやりした輪郭線を用いない背景は当時「朦朧体」と揶揄された技法で、空気感が出ていて西洋絵画のコローなどを思い起こさせます。一方、手前の人たちなどには輪郭線が使われ、存在感を出しているように感じられました。新しい日本画への取り組みが感じられます。

この辺は菱田春草の作品が並んでいました。下村観山も1点あったかな。

1 横山大観 「燕山の巻」
これは横山大観が水墨に初めて挑んだ巻物で、中国を訪問した際に観た光景を描いたものです。山を背景に城壁や楼閣、岩山などが濃淡だけで豊かに表現されています。木々などは輪郭がないのですが、人々や楼閣には輪郭を用いるなど、その表現の違いなども面白いです。これが初の水墨… すでに自由自在に見えました。

7 下村観山 「不動明王」
これは雲に乗って左手を前にかざす姿の不動明王が描かれた作品です。右手は腰の後ろに当てていてちょっと変わったポーズじゃないかな? 筋肉隆々の体は人体に基いているように感じられ、陰影がつけられているため西洋風に見えました。また、不動明王の背後には雲や炎のようなものが直線的にたなびいていて、凄い勢いで移動している感じがします。解説によると、この直線的な軌跡は信貴山縁起絵巻からヒントを得ていたと考えられるそうです。迫力ある作品でした。


<第2章 速水御舟と再興院展の精鋭たち>
続いては今回の主役の速水御舟とその仲間たちの作品のコーナーです(そう言えば速水御舟の展示を観にきたのだった…と忘れるくらい再興院展の作品が続きますw)
速水御舟は1914年に第1回再興院展が開催されると、そこに弱冠二十歳で出品したそうで、第4回展では早くも院友に推挙されるなど若くして才能を認められました。速水御舟はその40年の短い生涯を通じて1つの様式に囚われず、常に新たな画風を突き詰めては壊すということを繰り返していたようです。「梯子の頂きに上る勇気は尊い。さらにそこから降りてきて再び上り返す勇気を持つものはさらに尊い」という言葉も残しているそうで、その姿勢が伺えます。 また、今村紫紅や小茂田青樹といった再興院展の仲間を通じて芸術の理念についても刺激を受けていたそうで、ここにはそうした速水御舟の様々な作品や再興院展を代表する画家の作品が並んでいました。

12 今村紫紅 「早春」 ★こちらで観られます
これは速水御舟の兄貴分と言える画家の掛け軸で、手前に棚田が並び その周りに梅が咲いている様子が描かれています。奥にはひょろ長い松と農家も描かれ、春ののどかな光景となっています。パッと観た感じで南画風に見えるのですが、岡倉天心は南画をあまり評価していなかったそうです。それでもあえて今村紫紅は南画風に描いているわけで、これはあらゆる画風を学習の素材とすべきと考えて取り組んだそうです。また、点々と点描が使われ、松には西洋画からの影響も見て取れるなど進取の精神が伺えます。今村紫紅は「一度つきつめたら壊さないと駄目。壊せば誰かが作ってくれる。自分は壊すから君たちは作ってくれ」と速水御舟ら(御舟は1回り以上年下)に話していたらしく、その考えが御舟の画業に深い影響を与えていったようです。

この隣には速水御舟の南画風の「錦木」や小茂田青樹の「丘に沿える道」もありました。 この2人は速水御舟が14歳の時に同じ日に松本楓湖の画塾に入ったそうです。

21 速水御舟 「桃花」
これは色紙サイズの作品で、桃の木の枝の先のほうが大きく描かれています。ピンクの蕾は今にも花開きそうな感じで、咲いた花は花びらの1枚1枚まで描かれ可憐な印象を受けます。解説によると、これは娘に初節句の祝いのために描いたそうで、この頃は洋画家の岸田劉生と中国の院体画(写実・精密な特徴を持つ)についてよく話していたらしく、こうした細密画を描いていたようです。この近くにも写実的な柿の木の絵もあり、写実への傾倒が伺えました。

17 小茂田青樹 「梅鳩」
これは梅にとまった鳩を描いた作品で、写実的に描かれています。落ち着いた色合いで樹皮などはリアルな質感です。解説によると、小茂田青樹は友人の速水御舟と同様に院体画に関心を寄せていたらしく、その影響が伺えます。また。小茂田青樹は速水御舟に対して君の絵は理想化しすぎると批判し、「桜の爛漫とした趣のみを描くが、実際はもっと汚くて垢がある」と言って真を見つめる姿勢を問いただしたそうです。速水御舟はその言葉を後々まで大切に受け止めていたらしく、小茂田青樹も御舟にとって重要な存在だったことが伺えるエピソードでした。

26 速水御舟 「昆虫二題 葉陰魔手・粧蛾舞戯」
これは2枚セットの作品で、「葉陰魔手」は大きなヤツデの葉っぱの間で蜘蛛が巣を張っている様子が描かれ、「粧蛾舞戯」は上空に向かって渦巻く赤い炎?とそこに吸い込まれていくような蛾たちが描かれています。こちらは速水御舟の代表作「炎舞」を彷彿とさせるかな。解説によると、この二枚は陰と陽となっていて、蜘蛛の巣の広がりに対して光に集まる蛾の動きというように対比的な組み合わせとなっているようです。特に粧蛾舞戯は幻想的で妖しい雰囲気があり好みでした。

この隣には速水御舟の琳派風の「翠苔緑芝」や、「紅梅・白梅」などもありました。どれも作風が違って見えます。

37 速水御舟 「椿ノ花」
これはピンクの花を咲かす椿の枝を描いた作品で、自宅に咲いたものを描いたようです。花には琳派がよく使う「たらしこみ(滲みを使った表現)」が見られ、葉っぱの表は緑が濃く裏は黄緑といった感じで色の対比も強く感じられます。また、明確な線が使われているために葉の硬さが表現されているとのことで、椿らしさを感じさせました。解説によると、この作品の少し前に御舟はイタリアで開催されたローマ展に出品しヨーロッパに8ヶ月ほど滞在したそうです。ヨーロッパの文化・芸術を受けて新たな創作意欲を沸かせたとのことでした。
 参考記事:大倉コレクションの精華II-近代日本画名品選- (大倉集古館)

この近くには同じく枝だけを描いた作品がありました。花枝をクローズアップし画面を横切るような構図はこの頃(39歳頃)の特徴とのことです。

40 速水御舟 「あけぼの・春の宵」
これは2枚セットの掛け軸で、右幅にはピンクやオレンジのグラデーションに染まる空をと朝日が描かれ、手前には黒いシルエットの柳も描かれています。その枝には黒いカラスが空を見上げてとまっていて、全体的に清々しい印象を受けます。一方、左幅には細い月が浮かぶ黒い夜空を背景に、花を散らす桜の木が描かれています。花は5枚ずつ描かれているので、写実的というよりは装飾的な雰囲気がするかな。ハラハラと舞い散る花びらは風を感じさせ、春の夜の幻想を感じさせました。解説によると、この作品には朝鮮紙が使われているそうで、晩年(40歳くらい)は紙と絵の具の性質に対する心構えの必要性を重視していたとのことでした。

この近くには速水御舟の写生帳もありました。芥子やスイートピーなどが写実的に描かれています。

39 速水御舟 「白芙蓉」 ★こちらで観られます
これは大きな白い花を咲かせる芙蓉を描いた作品です。花の中央は赤く、葉っぱと茎は水墨の濃淡で表され、葉っぱには滲みによる表現も使われています。解説によると、花と背景の境の描き分けは、まず花に胡粉を塗り、外から墨で滲ませて自然に止まらせたようで、柔らかい雰囲気を出しています。茎も優美な曲線を描いていて、安田靫彦は「この曲線はまたと引けない天来の線」とまで賞賛したそうです。写生を越えた新たな境地を示す作品でした。

続いては再び再興院展の画家のコーナーです。

51 前田青邨 「腑分」
横たわる女性の胸部と、その周りにいる沢山の医師(江戸時代の医師)が描かれた作品です。これは刑死した女性を解剖して医学的に研究する腑分け(ふわけ)をしている所で、本を開く者や手を合わせている者、メスを入れる者というように人それぞれの表情を見せていて、特に執刀者の顔からは強い意志と緊張感が伺えました。人々の着物には滲みを使った表現などが使われているのも面白かったです。

49 安田靭彦 「出陣の舞」
これは桶狭間の合戦の前に敦盛を舞う織田信長を描いた作品で、鎧兜を前に扇を持って待っています。太めの輪郭線で描かれ目は遠くを観るような感じに見えました。これも独特の緊張感があり、心情表現が面白かったです。

この近くには奥村土牛や小倉遊亀の芸者を描いた作品などもありました。


<第3章 山種美術館と院展の画家たち>
最後は院展と山種美術館との関わりについてのコーナーです。初代館長の山崎種二は院展の画家たちと直接交流しその活動を支えたそうで、その為 良質な作品を所蔵しているようです。ここにはゆかりの画家の作品が並んでいました。

62 吉田善彦 「五月の沼辺」
この画家は速水御舟の妻の従兄弟で弟子になった人です。この絵には手前に水辺、奥に森と大きくそびえる山が描かれ、水辺の上には2羽の蝶が舞っています。全体的に薄くぼんやりとしていて幻想的な光景で、速水御舟とはまた違った画風となっていました。

この近くには今回の見所の1つである速水御舟「炎舞」や横山大観が得意の富士を描いた「心神」などもありました。


ということで、速水御舟展というよりは再興院展の画家たち展といった感じでした。速水御舟を目当てにしていくと肩透かしかもしれませんが、作品自体は素晴らしいので楽しめる内容だと思います。近代の院展の流れを知っておくと今後の鑑賞もグッと楽しくなると思いますので、押さえておきたい展示です。


 参照記事:★この記事を参照している記事



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映画「ウルヴァリン:SAMURAI」(ネタバレなし)

今日は帰りが遅かったので軽めの記事です。先週の休日に映画「ウルヴァリン:SAMURAI」を観てきました。

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【作品名】
 ウルヴァリン:SAMURAI

【公式サイト】
 http://www.foxmovies.jp/wolverine-samurai/

【時間】
 2時間00分程度

【ストーリー】
 退屈_1_2_③_4_5_面白

【映像・役者】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【総合満足度】
 駄作_1_2_③_4_5_名作

【感想】
そこそこお客さんが入っていたので、人気になっているのかな?? 

さて、この映画はX-MENの人気キャラであるウルヴァリンのスピンオフ第2弾で、私はこのシリーズが好きなので楽しみにしていました。
 参考記事:
  映画 「ウルヴァリン:X-MEN ZERO」 を観た (ネタバレなし)

設定としてはX-MEN三部作の後(X-MEN:ファイナルディシジョンの後)の話となっていて、前回のスピンオフ「ウルヴァリン:X-MEN ZERO」は三部作の前だったので、いきなり飛んでいてちょっと面食らいましたw 予習をするとしたら前作よりもX-MENシリーズの方を観てからのほうが良いかと思います。
そして今回は舞台を日本に移しているのですが、これは原作にもある話を改変している感じです。日本が舞台のハリウッド映画といえば「間違った日本観」が気になるところですが、昔の映画に比べるとはだいぶ減っているものの、やはり違和感があるところもチラホラあるかなw 基本的にアメリカから観た奇妙な所を誇張しているように見えます。

肝心のストーリーについてですが、これは歴代シリーズで最も微妙な出来でしたw 恋愛ものじゃないかというほどアクションが少なく内面的な話が多いです。日本うんぬん以前にストーリーが期待している方向と違うw そして歴代シリーズで最もミュータントの数が少ないのも特徴じゃないかな。戦闘が若干地味な感じです。私はimax3Dで観ましたが、何だか損した気分でしたw 

役者に関しては主演のヒュー・ジャックマンをはじめ日本の真田広之など実力派が多いので、安心して見ていられます。ただ私が観たのは吹き替え版だったため棒読みのキャラがいるのがキツかったです。しかも日本語直訳と思われる単語も使うので違和感がありました。やはり吹き替えは駄目駄目です…。


ということで、だいぶ期待していたこともあって、実際に見たらう~ん…という感じでした。つまらないわけでもないのですが、前作や他のシリーズ作と比べると地味です。これは映画館でなくレンタルで十分かもしれませんが、このシリーズが好きな人は今後のシリーズのために押さえておくのは良いと思います。 なお、エンドロールは最後まで観ることをお勧めします。




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福田美蘭展 【東京都美術館】

前回ご紹介した東京都美術館の中のお店でお昼を済ませた後、東京都美術館(ギャラリーA・B・C)で「福田美蘭展」を観てきました。

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【展覧名】
 福田美蘭展

【公式サイト】
 http://www.tobikan.jp/museum/2013/2013_fukudamiran.html

【会場】東京都美術館
【最寄】上野駅(JR・東京メトロ・京成)


【会期】2013年7月23日~9月29日
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間00分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日14時頃です)】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
お客さんは結構いましたが、混んでいるわけではなく快適に鑑賞することができました。

さて、今回の展示は現代の女性画家 福田美蘭 氏の個展となっています。福田美蘭 氏は母方の祖父に童話画家の林義雄 氏、父に世界的なグラフィック・デザイナーの福田繁雄を持つ画家一家の生まれで、東京藝術大学に学び卒業制作展 及び 修了制作展を経て、現代日本美術展や日本国際美術展に出品するなど、上野やこの東京都美術館を舞台にキャリアを積みました。1989年には史上最年少の安井賞(新人洋画家の登竜門)を受賞したそうで、それ以降も現在に至るまで多彩で個性的な表現で活躍し続けています。今回はその活動の中から1990年代以降の作品と、この展示の為に制作した新作を合わせて70点ほどが並び、4つの章で構成されていました。詳しくは気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。


<1 日本への眼差し>
まずは日本の伝統や日本の風景を題材としたコーナーです。

1-18 福田美蘭 「木花開耶姫命」
これは富士山とその前の水辺を描いた大きな絵画作品で、タイトルは「このはなのさくやびめのみこと」と読み、富士山にある浅間神社が祀っている花(桜)のように美しい女神のことです。この絵は一見すると雄大な風景画ですが、よく観ると富士山の中腹に「マツモトキヨシ」と書いてありますw さらに葉っぱの影には「すかいらーく」、森には「HMV」というように沢山のロゴが隠されているのが分かります。こうなると全部探したくなるのが人情で、私が見つけた中ではマクドナルドのM、ピザーラ、NTT、リポビタンD、ASAHI、FUJIFILM、ユニクロ、JTB、ケンタッキー、Kleenex(クリネックス)などのロゴがあり、一番面白かったのは木の枝がくっつき合って出来たカーネルサンダースの顔でしたw 一種のゲーム的な要素がありつつ、美しい風景の中にも広告だらけというのが皮肉のようにも思えました。

1-1 福田美蘭 「湖畔」
これは団扇を持った浴衣姿の美人が湖畔で涼んでいるところを描いた作品で、一見すると明治時代の画家 黒田清輝の同名の作品の模写に見えます。しかし、これはそれをカラーコピーした上で、その景色の続きを描いているというもので、意外と違和感なく湖と黄色い空が広がっています。解説によると、福田美蘭 氏はこの作品について、名画として我々の意識の中に定着している画面の縁を広げてみることで、固定されているイメージ自体も広げようとしたとのことでした。
 参考記事:黒田清輝-作品に見る「憩い」の情景 (東京国立博物館 本館18室)

1-19 福田美蘭 「扇面流図」
これは単純化された琳派風の波の上に、団扇が貼り付けられている作品です。背景は伝統的な感じなのに対して貼られている団扇はそこら辺で配っているケバケバしい広告だらけで、漫画喫茶やキャバクラ、商品紹介などの団扇となっていますw 安っぽいことこの上ない団扇ですが、これは大量の情報が限られた期間の中に流されて消えていくのを表現しているようです。このミスマッチが面白く、啓発されているようにも思えました。

この辺には葛飾北斎の冨嶽三十六景が左右逆転している作品もありました。伝統をモチーフにした作品は福田美蘭 氏の1つのジャンルと言えるかも。

1-5 福田美蘭 「落書き(渋谷駅南口)(渋谷駅東口)(渋谷駅西口)」
これは街で見かける文字のようなマークのような落書きをモチーフにした掛け軸で、墨跡の達筆ように書かれています。その下には市販されている漫画の背景のためのイラストがそのまま使われていて、そのマークがあった場所を選んでいるようでした。これも現代のものを伝統的な表現する感じで面白かったです。

1-12 福田美蘭 「象牙(スプーン)(マドラー)(ストロー)」
これは象牙で出来たスプーンやマドラー、ストローなどで、見た目はマクドナルドのそれそのものですw 象牙と同じように滑らかな肌触りであるプラスティックの製品をモチーフにして肌触りをイメージして貰いたいとのことですが、見た目と素材のギャップが大きすぎて驚きました。これも発想が独特で面白かったです。

この近くには黒人版の市松人形や、水墨画の中にディズニー風の白雪姫が描かれている掛け軸、旭日がハート型になっている掛け軸などもありました。


<2 現実への眼差し>
続いては日常や時事問題をモチーフにしたコーナーでした。

2-5 福田美蘭 「道頓堀」
これは以前にもご紹介しましたが、夜の道頓堀(グリコの看板辺り)の様子を描いた大型絵画で、電飾看板の光が川に反射している様子などが描かれています。絵の中央辺りに蝶番があり、上下で中折りできるようになっているそうで、風景を描いて乾かない内に折り重ねて転写し、水面に光が反射している感じを出しているようです。その反射具合が絶妙で、その技法と発想に驚かされました。
 参考記事:群馬県立近代美術館の常設 (2010年02月)

2-6 福田美蘭 「ニューヨークの星」
これはブルックリン橋付近のにニューヨークの夜景を描いた作品で、空には星が輝いています。背景には今はなき貿易センタービルのツインタワーが描かれ、タワーは無数の丸い穴でくり抜かれています。実はそのくり抜いたものを星として散りばめているようで、その表現からはやはり911の事件を思い起こします。解説によると、これにはメッセージ性はないとのことでしたが、象徴的な作品に思えました。

この隣にはイラクへの報復戦争に向かうブッシュと対話するキリストを描いた作品や、貿易センタービルからの眺め(の写真)を絵画化したものなどもありました。

2-11 福田美蘭 「噴火後の富士山」
これは噴火して火口が崩れてしまった富士山をイメージして描いた作品で、手前には桜の花が咲いています。富士山は日本のアイデンティティに深く根ざしているため、こうした崩壊は精神的にも深刻な影響を与えるため、タブーとなっていると作者は考えているようです。確かにこのショッキングな画面を観ると残念な気分になるかな。逆説的に考えればそれほど深く日本人の心に根ざしているというのを感じさせました。こうなって欲しくないですね。。。

このコーナーには他にも歌舞伎町で配ったポケットティッシュの作品や、ゴミ袋をモチーフにした作品など東京での生活に基づいた変わった作品もありました。


<3 西洋への眼差し>
続いての3章は下の階の展示室です。ここは西洋画をモチーフにした作品などが展示されていました。

3-14 福田美蘭 「ポーズの途中に休憩するモデル」 ★こちらで観られます
これはレオナルド・ダ・ヴィンチのモナ・リザのモデルの女性が石のベンチの上でうつ伏せになってもたれかかって休んでいる様子が描かれた作品です。当時のモデルは必ず休憩していたらしく、その場面を想像して描いているようです。その発想も面白いですが、画風までレオナルド・ダ・ヴィンチっぽいのが驚きでした。

この近くには床の上に描かれた絵を踏みながら鑑賞するという作品もありました。やってはいけない感が半端じゃないw

3-22 福田美蘭 「レンブラント-パレットを持つ自画像」
これはレンブラントの晩年の自画像を元にした作品で、オリジナルには背景に2つの大きな円があり、それが意味するものに関しては様々な解釈を生んでいるそうです。しかしこの作品ではその円は巨大なドラえもんの手として表現されていて、全体的に観るとドラえもんのお腹の辺りにレンブラントの自画像が描かれているというシュールな作品となっています。こうした名画のパロディ的な作品は流石かなw

この辺にはキリストが双子だったらという聖家族の像や、名画を視点を変えて描くシリーズの作品などもありました。どれもオリジナルの画家っぽさが出ているのも面白いです。

3-18 福田美蘭 「リンゴとオレンジ」
これはセザンヌの「リンゴとオレンジ」の静物画をコピーして、その上から美大受験のために通信教育で行われる添削を模した評価が描かれたものです。「この空間が分からない」とか「中心軸」がズレていますとか、「台の設定が不安定です」などのアドバイスがあり、総評価は「視点がバラバラです」としてB+となっていました。その添削がある意味鋭くもあり とぼけているようでもありで、笑えました。

この近くにはミレーの「種まく人」が種を撒いた後の様子を描いたものや、冷蔵庫の中に描かれた作品、壁の隅に折りたたまれたような作品、開閉して鑑賞する絵画(★こちらで観られます(pdf))などもありました。


<4 今日を生きる眼差し>
最後は西洋画をモチーフにした作品の他、様々な品が展示されていました。ここは写真撮影が可能でしたので、写真を使ってご紹介しようと思います(撮れると思っていなかったのでスマフォで撮ってます)

福田美蘭 「受胎告知」
2013-09-21 14.23.20
こちらは一見すると古い宗教画のように見えます。オリジナルがあるのか分かりませんが、動きのある劇的な雰囲気となっていました。

福田美蘭 「山水図」
2013-09-21 14.26.49
これは伝統的な山水のような表現ですが、上空にジャンボジェット機が飛んでいますw 機体には787とあり、最近世間を騒がせているボーイング787のようです。 解説によると、奇怪さと不気味さの魅力を持って描かれる北宋系山水画に飛行させることで、身近に存在する不安と狂気を描いているとのことでした。つい最近の話題も作品になっていて驚きw

この辺には今回のポスターなっている作品もありました。

福田美蘭 「バルコニーに立つ前川國男」
2013-09-21 14.29.36
これはギャラリーA(地下)にある明かり取りのバルコニーに設計者の前川國男氏のパネルを置いた作品です。意外と違和感がないかなw この場所ならではの作品で、前川國男氏が設計した建物への敬意が感じられました。
 参考記事:「東京都美術館ものがたり」展 (東京都美術館)

福田美蘭 「眠れる森の美女・オーロラ姫」
2013-09-21 14.32.40
これは詳しい解説を読むのを忘れましたが、部屋の一角にありました。よく観るとクッションに犬のような顔が…w 残念ながら座ることはできません。


ということで、ユーモアと芸術への深い愛を感じる作品が並んでいて予想以上に楽しめました。その表現方法によって可笑しさや皮肉、敬意、哀悼など様々な意味が感じられるところが特に面白かったです。もうすぐ終わってしまいますが、お勧めの展示です。


 参照記事:★この記事を参照している記事



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IVORY(アイボリー) 【上野界隈のお店】

この前の土曜日に、上野の東京都美術館に行って展示を観てきたのですが、その前に館内にあるIVORY(アイボリー)というお店でお昼をとってきました。

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【店名】
 IVORY(アイボリー)

【ジャンル】
 レストラン

【公式サイト】
 http://www.ivory-restaurant.com/
 食べログ:http://tabelog.com/tokyo/A1311/A131101/13139270/
 ※営業時間・休日・地図などは公式サイトでご確認下さい。

【最寄駅】
 上野駅(JR・東京メトロ・京成)

【近くの美術館】
 東京都美術館 (館内)
 東京国立博物館
 国立科学博物館
 国立西洋美術館
 東京藝術大学大学美術館
 黒田記念館
 上野の森美術館
 東京文化会館
 上野動物園
  など


【この日にかかった1人の費用】
 3500円程度

【味】
 不味_1_2_3_④_5_美味

【接客・雰囲気】
 不快_1_2_3_④_5_快適

【混み具合・混雑状況(土曜日12時半頃です)】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【総合満足度】
 地雷_1_2_3_④_5_名店

【感想】
この日は大人気のルーヴル展の会期末になっていたこともあるのか、結構混んでいて入口で10分くらい待ってからの入店となりました。以前覗いてみた時も待っている人がいたので、人気があるのかもしれません。

さて、このお店は東京都美術館がリニューアルオープンした際に図書室の隣にできたお店です。以前ご紹介したエムカフェからすぐ近くにあり、いずれ訪れてみようと機会を伺っていました。
 参考記事:M Cafe [エムカフェ](上野界隈のお店)

中はこんな感じ。
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美術館に相応しい洒落た雰囲気となっています。

4000円近いコースや展覧会とのコラボメニューなどもあるようですが、この日はブランチコース(2500円)を頼み、前菜はミネストローネ、メインはローストビーフ(+500円)にしました。 (その他にコース外のドリンクも頼んでいます)

まずは夏野菜のミネストローネ。
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玉ねぎやベーコンの他にズッキーニなどの夏野菜が入っていたので、季節によって中身は変わるかもしれません。良い塩梅で中々美味しかったです。

ライスかパンを選べるのでパンにしました。
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これは見た目通りで普通かな。他にも後から2つのパンを頂けました。

こちらはクルミのパン。私の好みはこのパンでした。
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前菜が終わるとメインのローストビーフを目の前で切り分けてくれました。
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そしてこれがローストビーフ! 脇にはフォワグラとキノコもあります。
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このローストビーフは焼き具合もよくて柔らかく、ソースと合って非常に美味しかったです。これには満足。 フォワグラは若干固かったかな。

食後にはコーヒーまたは紅茶がつきました。私はアイスコーヒーで連れは紅茶を選びました。
P1120797.jpg P1120798.jpg
このコーヒーが予想以上に濃くて苦味がありました。私はエスプレッソでもストレートで飲みますが、久々にガムシロップを入れましたw 強めなコーヒーで美味しかったです。


ということで、洒落た雰囲気の中で美味しいランチをとることができました。混むのがちょっと難点ですが、いずれまた利用したいと思います。すぐ隣の図書室では美術書や図録を眺めることもできるので、食後にゆっくりと楽しんできましたw 東京都美術館で展示を観る際には重宝しそうなお店です。



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ル・コルビュジエと20世紀美術 (感想後編)【国立西洋美術館】

今日は前回の記事に引き続き、国立西洋美術館の「ル・コルビュジエと20世紀美術」の後編をご紹介いたします。前編には初期の作品などについても記載しておりますので、前編を読まれていない方は前編から先にお読み頂けると嬉しいです。


  前編はこちら


まずは概要のおさらいです。

【展覧名】
 ル・コルビュジエと20世紀美術

【公式サイト】
 http://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2013lecorbusier.html

【会場】国立西洋美術館 本館
【最寄】上野駅(JR・東京メトロ・京成)

【会期】2013年8月6日(火)~11月4日(月・休)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日15時頃です)】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
前編ではピュリスムの時代をご紹介しましたが、後編ではそれ以降についてのコーナーです。

<2章 自然と創造の根源>
1920年代後半、ル・コルビュジエの絵画は大きく変革したそうで、静物のモチーフは不規則な形に変形され、画面に動きが感じられるようになったそうです。さらに、1930年代に入ると骨、石、貝殻、木の枝などの小さな自然物を着想源として、異質なもの同士を非現実的な空間の中で組み合わせたコンポジションが描かれたそうで、それらはピュリスムの時代から親しい関係にあったフェルナン・レジェの作品に通じる所が多いそうです。
また、ピュリスム時代は全く人物像が無かったそうですが、1928年からは豊満な肉体の女性像が主要な題材の1つになったそうで、やがて 舟、貝殻、流木、海のイメージなどと結びついて生命の誕生や自然の豊かさの象徴となったようです。
1930年代のル・コルビュジエの絵画はピュリスム時代の機械の美学から一転して自然というテーマをめぐって展開したらしく、幾何学的な秩序に変わって生命を宿す自然の有機的な構造に関心が向けられるようになったようです。また、異質なものに接しながら創造の本質に近づこうとする姿勢は他者の芸術への関心にも表れ、アンドレ・ボーシャンやルイ・ステール、ジャン・デュビュッフェといった画家の作品に注目し、無名の作者たちによるプリミティヴ芸術を愛好したそうです。そうした多用な創作物を通じて、ピュリスム時代に掲げたモダニズムの理念に拘束されずにより広い視野の基いて創造について考えられるようになったそうで、それのは制作の大きな力となったようです。ここにはそうした時代の作品が並んでいました。

43 ル・コルビュジエ 「まな板のある静物」
これはまな板と鍋、玉子?、ナイフなどが描かれた静物です。丸みを持った感じで単純化されていて、色も強くなったように思えます。ピンクやクリーム色が使われているためか、より明るい雰囲気に感じられました。

53 ル・コルビュジエ 「レア」
これは最早何を描いたのか判別するのは難しいですが、恐らくバイオリンと扉かな? ぐにゃっとした曲線が多く使われ、色合いも強めです。確かにこれまでの幾何学的な作風から柔らかくなっているように感じられました。(それでもキュビスム風な感じがよく出ています)

この近くには友人のフェルナン・レジェの作品もありました。

49 ル・コルビュジエ 「女性のアコーディオン弾きとオリンピック走者」
これは上を向いてアコーディオンを演奏する女性と、背後でハードルを超える走者?が描かれた作品です。波打つ曲線や色面を使った表現にレジェからの影響が感じられ、その構成を楽しむことができます。何故この2者を合わせたのかは分かりませんが、若干シュールな感じも受けました。

67 ル・コルビュジエ 「二人の浴女と漁網」
顔がやけに小さくて手が巨大な2人の人物を描いた作品で、背景には漁網も描かれています。これも意味は分かりませんが、人物の体のボリューム感が圧倒的で、特にお互いに持った手からは力強い印象を受けました。

この辺にはこうしたボリューム感のある人物像が並んでいました。続いてはル・コルビュジエが賞賛した画家たちの作品が並ぶコーナーです。

73 アンドレ・ボーシャン 「フィアンセを訪ねて」
木々の下で休む赤い服の女性と花束を持ってきた男性が描かれ、その周りにも数人の人たちが集まっています。全体的に遠近感が妙な感じで、人が巨大に見えるかなw 中央辺りには巨大な木が描かれているのも面白く、全体的に素朴な雰囲気がありました。
解説によると、ボーシャンの絵を最初に評価したのはル・コルビュジエで、サロン・ドートンヌで目にし、その翌年の「レスプリヌーヴォー」で大きく紹介したそうです。その後親交を結び作品も購入していたのだとか。
 参考記事:アンドレ・ボーシャン いのちの輝き(ニューオータニ美術館)

この近くにはジャン・デュビュッフェの作品やアフリカの部族の彫刻などもありました。アフリカ彫刻は1906年頃からフォーヴィスムとキュビスムの画家たちの間で熱狂的な関心を呼んで、彼らに大きなを与えたそうです。ル・コルビュジエもレスプリヌーヴォーで取り上げ、自らも蒐集を行っていたのだとか。

80 ルイ・ステール 「腕をあげる裸婦たち」
これはル・コルビュジエの従兄弟に当たる異色の画家が鉛筆で描いたもので、引き伸ばされた落書きのような人物像となっています。しかし結構な密度で描かれていて一種の狂気を感じるかな。見ていて不安になる…w 一種のアウトサイダーアートのような感じに思えました。


<3章 象徴的モチーフの形成>
1930年代末から40年代前半にかけての第二次大戦の時代は、ル・コルビュジエにとっても厳しい現実だったようで、1940年にパリの事務所を閉めてピレネー山麓のオゾンという村に疎開したそうです。そこで自分の殻に閉じこもるように絵を描き続けたらしく、この頃から絵画はまた新たな展開を見せました。オゾン村で生み出された有機的な複合体は「発信すると同時に受信する」性質を持つ「音響的な形態」と名付けられ、製作地から「オゾン」あるいは文学作品の人物にちなんだ題名が当てられたようです。さらに1940~50年代はじめにかけて、例えば切り株とコップから牡牛を見つけるといったメタモルフォーズ(変容)の作用を元に独自の象徴的モチーフが次々と生み出されたそうです。

第二次大戦後になると建築界の巨匠として国際的な名声を確立して行く中で、象徴的モチーフによって彼自身の創造者としての思想を一種の神話的な物語としたらしく、それは1955年に「直角の詩」という詩画集へと帰結していったようです。ここにはそうした時代の作品が並んでいました。

106 ル・コルビュジエ 「牡牛 Ⅱ」
横向きの雄牛と内臓のようなものが描かれた作品です。不定形が多用されていて、晩年のピカソの作風と似ているように思えます。色も強く対比的な感じを受けました。
この隣にも雄牛をモチーフにした作品がありました。解説によると、常に戦う力強い雄牛は彼自身のあるべき姿を表現しているとのことです。

109 ル・コルビュジエ 「直角の詩」
これは19の章から成る詩画集で、人物が単純化されているものや開いた手などが描かれています。色が強く曲線が多用されているので、マティスのジャズを彷彿とするものがありました。これはかなり好みで楽しげな感じでした。


<4章 「諸芸術の総合」に向かって>
ル・コルビュジエは建築、絵画、彫刻という芸術ジャンルが分断され芸術家がそれぞれの領域の専門家として独立した活動を行う風潮に対して、第二次世界大戦の末期から「諸芸術の総合」を提唱し荒廃した社会の再建のために調和の必要性を訴えたようです。こうした主張は共同作業という形では実現することはなかったようですが、彼自身の創造活動を通じて様々なジャンルの作品が共鳴する総合的な芸術空間という理念を追求したようです。その最も典型的なのは壁画で、19304年代から度々手がけ1948年には彼自身の空間と絵画との調和が実現しました。そして1950年代以降の代表的な建築における扉のレリーフやタピスリーなどには彼自身が創造した象徴的なモチーフが加えられているようです。また、1958年のブリュッセル万国博覧会では「電子の塔」によって新しいメディアを利用した空間芸術の可能性を探ったようです。ここにはそうした諸芸術の垣根を越えた作品が並んでいました。

113 ル・コルビュジエ 「スイス学生会館の壁画のための習作」
これはスイス学生会館サロンの壁画のための習作です。隣に実物の壁画の写真があるのですが、絵柄は大体同じ感じで人物らしきものや手、奇妙な不定形なものなどが描かれています。絵はちょっと難解でよく分かりませんが、空間と絵画を一体とするという理念とそのための活動が具体的にイメージできました。

この近くには新聞を使ったコラージュやタピスリーの習作などもありました。

136 ル・コルビュジエ 「奇妙な鳥と牡牛」
これは鳥?や手?などと共に謎のモチーフが描かれているタピスリーで、結構大きめで横は5mくらいありそうです。ここまで観てきた晩年の絵をそのままタピスリーにしたような感じかな。解説によると、ル・コルビュジエはタピスリーを遊牧民の壁と呼んで壁画に変わって空間を演出する効果と持ち運びできる便利さを好んだそうです。

この近くには四角を組み合わせたような図柄のタピスリーの写真もあり、最後にル・コルビュジエが制作している写真や、パレットと絵筆などがありました。


ということで、予想以上に点数が多くて参考になる展示でした。ル・コルビュジエについては以前に森美術館でも大きな展示がありましたが、今回は特に絵画作品が充実していたように思います。また、その思想などにも触れることができ、ル・コルビュジエへの興味関心が強まりました。
同時期に開催されている特別展のミケランジェロ展とはだいぶ時代も作風も違いますが、出来れば一緒の機会に見ておきたい展示だと思います。


 参照記事:★この記事を参照している記事



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ル・コルビュジエと20世紀美術 (感想前編)【国立西洋美術館】

前回ご紹介した国立西洋美術館の版画を観た後、本館の常設スペースに戻って「ル・コルビュジエと20世紀美術」を観てきました。こちらの展示もメモを多めに取ってきましたので、前編・後編に分けてご紹介しようと思います。

P1120642.jpg

【展覧名】
 ル・コルビュジエと20世紀美術

【公式サイト】
 http://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2013lecorbusier.html

【会場】国立西洋美術館 本館
【最寄】上野駅(JR・東京メトロ・京成)


【会期】2013年8月6日(火)~11月4日(月・休)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日15時頃です)】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
こちらは空いていて快適に鑑賞することができました。

さて、今回の展示は国立西洋美術館を設計した建築家ル・コルビュジエについての内容となっています。ル・コルビュジエは20世紀を代表する建築家であると同時に、絵画・彫刻・版画・タピスリー・映像など幅広い分野に渡って活動した多才な芸術家で、毎日の朝をアトリエでの絵画制作にあて、午後は設計事務所で建築の仕事をするなど、デッサンと絵画制作を建築の仕事と同様に重要なものとみなしていたようです。「自分の建築を本当に理解するための鍵は美術作品の中にある」とさえも言っていたらしく、この展覧会では時系列的にル・コルビュジエの絵画を中心とした様々な品が展示されていました。いくつかの章に分かれていましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品をご紹介していこうと思います。
なお、この展示は珍しく常設のスペースで開催されていますが、撮影禁止となっていました。


<冒頭>
常設の部屋に入ってすぐは立体作品が並ぶコーナーでした。ル・コルビュジエとは誰かという説明もないうちに並んでいるので、知らない方には初っ端にこれはハードルが高いかも…。

91 ル・コルビュジエ 「無題」
これは木でできた立体的な彫刻で、着色されて鳥のような形をしています。組木細工のようにいくつかの平面的な木を組んで作った簡潔なもので、キュビスムからの影響を彷彿とさせる(ピュリスム?)形状をしていました。(ピュリスムについてはこの後のコーナーで説明します)

96 ル・コルビュジエ 「イコン」
こちらも立体的作品で、女性の顔と胸、手か内臓を思わせる赤い部分から成っています。これもキュビスム的な多面的性・単純化が観られるかな。ル・コルビュジエの芸術的な志向が一目で分かる作品でした。

スロープの辺りに「電子の詩」という映像が流れていました。これは1958年のブリュッセル万国博覧会においてフィリップス・パヴィリオンでル・コルビュジエが実現したプロジェクトで、電子的な音楽などと共に表現されています。起源、精神と物質、黎明、人間による神々の像、時はいかに文明を築いたか、調和、全人類へ、 といった7つのパートから成るそうで、白黒で様々なものが映しだされました。一見すると脈絡のないものがどんどん映され、その意味を理解するのは難解でした。金属音と相まってむしろ不気味な雰囲気w


<国立西洋美術館>
常設に入ってすぐの奥まった所には国立西洋美術館とル・コルビュジエとの関わりについてのコーナーがありました。構想のスケッチや俯瞰図、創建当初の写真などがありました。この辺の話は以前観た展示に比べるとかなりコンパクトになってたかな。
 参考記事:ル・コルビュジエと国立西洋美術館 (国立西洋美術館)


<1章 ピュリスムとレスプリ・ヌーヴォー>
続いては2階の1章で、実質的にここから展覧会がスタートする感じです。1917年の春、29歳の建築家シャルル=エドゥアール・ジャンヌレ(ル・コルビュジエの本名)は生国のスイスからパリへと写り、1歳年上の画家アメデ・オザンファンと出会いました。第一次世界大戦が終わった1918年から1925年まで二人は密接な協力関係となったらしく、絵画・建築・雑誌の発行など多方面に渡る活動を行い、この数年でシャルル=エドゥアール・ジャンヌレは国際的モダニズム運動の旗手ル・コルビュジエへと変貌していったようです。 
シャルル=エドゥアール・ジャンヌレはアメデ・オザンファンと新しい時代の芸術として「ピュリスム(純粋主義)」を唱え、キュビスム(ピカソが始めた、物事を多面的・幾何学的に捉えて再構成する手法)を出発点としながら、より明快で秩序ある構成を追求していったようです。ピュリスムの絵画の主題はもっぱら静物で、ワインボトル、グラス、水差し、ギターなどが幾何学的規則に従って組み合わせられ、静的でバランスの取れた画面を作り上げました。
また、1920年には2人が創刊した雑誌『レスプリ・ヌーヴォー(新精神)』において、工業化社会が生み出した「機械の美」に通じる合理性と秩序の美学を絵画や建築の領域で打ち立てることを主張したそうです。そしてこの『レスプリ・ヌーヴォー』においてシャルル=エドゥアール・ジャンヌレが建築を論じる際に使ったペンネームが「ル・コルビュジエ」で、創刊号で初めて使われました。
こうしてピュリスムは総合的な芸術運動として発展していったようですが、提唱者のオザンファンとル・コルビュジエの間で意見の対立が深まり、二人の協力関係は1925年で終わったようです。1923~24年頃のル・コルビュジエの絵画には秩序や厳密性というピュリスムの理念に反する作品も観られるとのことで、この章にはそうしたピュリスム時代から次の時代までの作品が並んでいました。

27 [雑誌『レスプリ・ヌーヴォー』]
これがジャンヌレからル・コルビュジエというペンネームに変えて活動した雑誌で、1~28号までが展示されていました。題字があり中央に数字が書かれている表紙で、数字と色以外はだいたい同じデザインかな。解説によると、この雑誌では絵画、彫刻、建築、文学、音楽といった伝統的な芸術分野と並んでエンジニアの美学が対象とされていたのが特徴的なようです。ピュリスムの精神が端的に表されているように思いました。

この近くには家の模型や写真があり、ル・コルビュジエ設計のオザンファンの家などもありました。直線や円を多用してすっきりとしたデザインで、家の中にはフェルナン・レジェの絵も飾られていました(レジェはル・コルビュジエの友人)

24 シャルル=エドゥアール・ジャンヌレ(ル・コルビュジエ) 「サイフォンのある静物」
これはサイフォンらしきものが描かれた静物で、横から観た様子と上から観た様子が混じっているように見えるかな。直線と曲線を使って単純化し色面で表現する画風で、具象と抽象の中間のような感じを受けます。確かにキュビスムよりも簡素で、色使いも幾何学性を強めているように思えました。

この近くにはル・コルビュジエの同様の作品が並ぶ他、ブリヂストン美術館のフェルナン・レジェ作「抽象的コンポジション」や国立近代美術館のフェルナン・レジェ作「女と花」などもありました。

12 アメデ・オザンファン 「静物」
これは協力関係にあったオザンファンの作品で、ワイングラスや瓶、ギターらしきものが描かれた静物です。沈んだ色合いで幾何学的に単純化され平坦な感じで表現されているのですが、何故か奥行きが感じられるのが面白いです。作風はル・コルビュジエとよく似ていて、その違いはじっくり見ても中々分からないくらいでした。

この近くにはオザンファンの自画像やル・コルビュジエによるオザンファンの肖像(素描)などもありました。

1 シャルル=エドゥアール・ジャンヌレ(ル・コルビュジエ) 「コーヒーポット、グラス、パイプ、本のある静物」
これはタイトルに挙がった品々が並んでいる静物画で、1918年頃の作品なのでこの展示では最初期かな。幾何学的なものが描かれ、陰影や質感が出ているものの若干平坦な印象を受けます。まだだいぶ具象的で、ここから発展していったのではないか?と思わせる作品でした。

この辺は素描が多めです。

42 シャルル=エドゥアール・ジャンヌレ(ル・コルビュジエ) 「水差しとコップ―空間の新しい世界」
これは水差しとコップというタイトルですが、作品を見てもよく分からないくらい形が変わって見えますw 色が強く、平坦なパーツが組み合うように描かれていて、静物というよりは何かの装置のように見えました。これは1926年の作品なので、オザンファンとの協力関係も終わった時期のものだと思いますが、確かに更なる変化を感じさせました。


ということで、長くなってきたので今日はこの辺までにしておこうと思います。今回の展示ではル・コルビュジエのコレクションで有名なギャルリー・タイセイの作品やパリのル・コルビュジエ財団の作品なども数多く出品され、一気に詳しく機会となっています。後半にはさらなる展開が展示されていましたので、次回はそれについてご紹介していこうと思います。


  → 後編はこちら



 参照記事:★この記事を参照している記事




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イタリア版画展―新収作品を中心に 【国立西洋美術館】

前回ご紹介した展示を観た後、同じ国立西洋美術館の常設にある版画素描展示室で「イタリア版画展―新収作品を中心に」を観てきました。

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【展覧名】
 イタリア版画展―新収作品を中心に

【公式サイト】
 http://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2013italia.html

【会場】国立西洋美術館 版画素描展示室
【最寄】上野駅(JR・東京メトロ・京成)


【会期】2013年9月6日(金)~11月17日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 0時間30分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日14時半頃です)】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_③_4_5_満足

【感想】
こちらは空いていて快適に鑑賞することができました。

さて、今回の展示はミケランジェロ展と同じ会期で行われ、新しく西洋美術館のコレクションに加わったイタリアの版画を展示するという内容です。いくつかシリーズ物があったりしましたが、作品同士の繋がりやテーマはそれほど感じられなかったかな。解説も少なめでしたので、簡単に気に入った作品だけご紹介していこうと思います。なお、この展示はルールを守れば写真を撮ることもできましたので、写真を使っていこうと思います。

マルカントニオ・ライモンディ 「マルス、ヴィーナスとキューピッド」
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これは戦争の神マルス、美の女神ヴィーナス、その息子のキューピッドが描かれ、マルスは足元に鎧と盾を置いて休んでいるのかな。この二人は愛人関係ですが、何だかヴィーナスは嫌そうでキューピッドも隠れているように見えました。何かの意味がありそうですが、詳しくは分からず。

サイコロ印の版画家 「ヤギに乗る子供のいるフリーズ」
サイコロ印の版画家 「[愛の勝利]のフリーズ」
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どちらも裸の子供が行進している図で、下の子供は背中に羽が生えているのでキューピッドかな? 楽器を打ち鳴らしたり仮面を被ったりと楽しげな雰囲気に見えます。作者の名前が変わっているのでサイコロ印を探したものの、画面にはなさそうでしたw

マルカントニオ・ライモンディ/アゴスティーノ・ヴェネツィアーノ(本名アゴスティーノ・デイ・ムージ) 「魔女の集会(ストレゴッツォ)」
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これはルネサンス期でも奇抜な主題の版画として有名だそうで、ライモンディが制作した版画をアゴスティーノが手を加えたと考えられるそうです。骸骨のような奇妙な怪物やどこかに行進する魔女?が不気味で動的な印象を受けます。こうした人物像にはミケランジェロやデューラーからの引用が観られるそうです。

ドメニコ・ベッカフーミ(本名ドメニコ・デッラ・パーチェ) 「ふたりの男」
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これはルネサンス期の少し後のマニエリスムの時代の作家によるもので、この2人は何をしているのか分からないようですが、奇妙なポーズをしています。喧嘩しているわけでもなさそうだし、何かを見つめているのも気になります。解説によると、こうした複雑なポーズはこの時代ならではの独特なものなのだとか。

モノグラミストM 「虚栄と死」
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これは一種のヴァニタス画(人生の虚しさを表す絵)らしく、鏡を覗くのは虚栄、後ろの砂時計を持っている骸骨は時間の経過と死を表しているようです。作者のことはよく分からないようですが、ミケランジェロ原画の版画として名高いらしく、動きのある人体表現でした。

オラツィオ・スカラベッリ 「『トスカーナ大公フェルディナンド一世とクリスティーヌ・ド・ロレーヌの結婚式』:第5の凱旋門:カント・デ・ビスケリ」
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これは何枚かあったシリーズもので、建物(凱旋門)が描かれたものが並んでいました。特にこの作品は遠近感が強くて奥へと道が続いている感じがよく出ていました。

バルトロメオ・コリオラーノ 「ユピテルの雷電に押し潰される巨人族(上部)(グイド・レーニ原画)」
バルトロメオ・コリオラーノ 「ユピテルの雷電に押し潰される巨人族(下部)(グイド・レーニ原画)」
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この作品は「キアロスクーロ木版」という複数の木版を用いて陰影を強調する技法で作られているそうで、石に彫り込まれているような感じに見えました。巨人とユピテル(ゼウス)との戦いが劇的で、バロック時代のグイド・レーニの作品を版画化したものだそうです。

ステーファノ・デッラ・ベッラ 「『死』:(5)老人を墓に連れ込む死」
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これは死を擬人化したシリーズで、砂時計を差し出す骸骨と連れ込まれていく老人の姿があります。何とも恐ろしげで、やはり砂時計といえば時間の経過を表しているようでした。

ステーファノ・デッラ・ベッラ 「」
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この男は喜劇役者だそうで、下に書かれた文字には役者としての幸運と人間としての不運が書かれているそうです。また、背景に見えるのはパリのシテ島で、パリでの成功を示唆しているとのことでした。陽気そうで卑近な感じの人物に見えました。

ジョヴァンニ・バッティスタ・ティエポロ 「『スケルツィ』:燃える頭を指し示す魔術師」
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これは夢のなかのような世界を描くカプリッチョで、魔術師?が右下に描かれた焚き火の中の頭部を指さしています。生首みたいで怖いw 様々な線や点を駆使して質感を出しているとのことでした。


ということで、様々な作品を楽しむことができました。当時の世相や寓意、宗教観など色々な要素が含まれているのではないかと思います。この美術館は常設も充実しているので、特別展を見に行く際には常設も覗いてみることをお勧めします。


 参照記事:★この記事を参照している記事


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ミケランジェロ展―天才の軌跡 (感想後編)【国立西洋美術館】

今日は前回の記事に引き続き、国立西洋美術館の「ミケランジェロ展―天才の軌跡」の後編をご紹介いたします。前編には混み具合なども記載しておりますので、前編を読まれていない方は前編から先にお読み頂けると嬉しいです。

  前編はこちら


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まずは概要のおさらいです。

【展覧名】
 システィーナ礼拝堂500年祭記念 ミケランジェロ展―天才の軌跡

【公式サイト】
 http://www.tbs.co.jp/michelangelo2013/
 http://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2013michelangelo.html

【会場】国立西洋美術館
【最寄】上野駅(JR・東京メトロ・京成)

【会期】2013年9月6日(金)~11月17日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間30分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日11時半頃です)】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
前編では2章までご紹介しましたが、後編は下階と出口側の上階についてです。後半は彫刻作品なども展示されていました。


<第2章─ミケランジェロとシスティーナ礼拝堂>
下階にはシスティーナ礼拝堂のコピーなどが展示され、実物の凄さを知る内容となっていました。まずはシスティーナ礼拝堂の天井画にある湾曲した逆三角形の区画に描かれているデルポイの巫女(5人の巫女の中で最も若く美しい)の原寸大の陶板複製があり、人間の2倍くらいの大きさとなっていました。半端無くでかい…w その近くには天井画の全体を縮小したコピーがあるのですが、デルポイの巫女はほんのわずかな一部でしかないので、その大きさが伺えました。これは一度実物を観てみたいものです。

この辺には天井画の詳しい区分けや、フィレンツェやローマのミケランジェロ関連の地図なども展示されていました。

そしてその先の部屋は4Kで撮った高解像度の映像があり、システィーナ礼拝堂の内部を流していました。極大しても細かい描写となっていて、ただただ驚くばかりです。


<第3章─建築家ミケランジェロ>
再び上階に戻ると、3章は建築家としてのミケランジェロの功績についてのコーナーです。ミケランジェロの建築に対する関心の萌芽は大規模な霊廟として計画した教皇ユリウス2世の墓碑の初期構想に表れ、それはシスティーナ礼拝堂天井画における建設的構造の騙し絵風描写に応用されたそうです。しかし実際の建築家としての仕事はまずメディチ家の教皇レオ10世の元で実現したそうで、ここにはそうした建築にまつわる品が並んでいました。

43 ミケランジェロ・ブオナローティ 「ユリウス2世の霊廟に使用する大理石のスケッチ」 ★こちらで観られます
これは石工たちに大理石の切り出しを指示する為のスケッチです。定規を使って描いているらしく、図面みたいな感じに見えるかな。細かく文字も書かれ寸法や形体についてかなり几帳面に指示しているようです。解説によると、この大理石の支払いについて教皇に会いに行った際に結局会えなかったらしく、ミケランジェロはその扱いに激怒してフィレンツェを去ってしまい、計画は中止になったそうです。やはり大きなプロジェクトになると制作以外のマネジメントでもめるケースもありますね…。

この辺にはファサードの計画案や円柱の装飾デザインなどもありました。建築というよりは装飾の設計といった感じです。また、少し先には手紙があり、複数のプロジェクトに関わっていて経費や石材の運搬に問題を抱えていらしく、何かの仕事をお望みならば制作を自由にさせて欲しいという嘆願が書かれているようでした。

53 ミケランジェロ・ブオナローティ 「サン・ジョヴァンニ・デイ・フィオレンティーニ聖堂の平面図計画案」 ★こちらで観られます
これは84歳の頃に設計した聖堂のプラン(実現はしなかった)で、八角形や半円を組み合わせた幾何学的な平面図となっています。この隣には初期の平面図もあったのですが、それはもっと簡素で、かなり華やかな印象になっているように思いました。ミケランジェロの建築家としての技量が一番よく分かる作品で、万能ぶりが伺えました。
なお、この聖堂は結局17世紀に入って別の建築家の手で完成されたのだとか。

この他にも門の設計なども展示されていました。


<第4章─ミケランジェロと人体>
最後はミケランジェロの中でも特に評価の高い人体像についてのコーナーです。ミケランジェロの芸術の根幹を成すのは人体への関心だったようで、それはつまり像を作ることだったようです。その表現はマニエリスム(人体を曲げたり引き延ばす表現)に影響を与えたようで、ここにはそうしたミケランジェロの人体像が並んでいました。

54 ミケランジェロ・ブオナローティ 「階段の聖母」 ★こちらで観られます
これは15歳の頃に制作された浮き彫り彫刻で、階段の脇で幼子キリストに母乳を与えている聖母が表わされています。背景には階段にいる天使の姿もあり、これがタイトルの由来のようです。マリアは遠くを見るような顔つきで考え事をしているように見えるかな。意外にも柔らかい彫りで薄布が表現されていて、解説によるとこれはドナテッロが得意とした極薄肉浮彫(スティアッチャート)という技法が用いられているそうです。しかし、マリアはかなり立体的に見えるのが不思議で、そうした存在感を出している点がミケランジェロの特質が既に現れている証のようでした。それにしてもこれを15歳で…。これにはかなり驚かされました。

この近くには人体の素描などもありました。古代彫刻に学んでいる様子が伺えます。

60 ミケランジェロ・ブオナローティ 「キリストの磔刑」 ★こちらで観られます
これは最晩年に作られた木彫のキリストの磔刑像で、腕は無くぐったりした感じの姿で表されています。顔などはハッキリしていないし細部まで彫られていないのですが、それでもボリューム感があり劇的な印象を受けるのが流石です。解説によると、これは等身大以上の巨大な木像のための習作だったと考えられるそうで、甥のレオナルドに贈るためのものだったのではという説もあるようでした。

59 ミケランジェロ・ブオナローティ 「クレオパトラ」 ★こちらで観られます
これは素描作品で、毒蛇に胸を噛ませて自害するクレオパトラの胸像となっています。肩に蛇が絡みついているものの、首を傾げるようなポーズとなっていて自害の割りには穏やかで色気が感じられました。解説によると、これは親しくしていたカヴァリエーリ(同性愛が疑われている相手)に贈るために制作したそうです。緻密で繊細な陰影がつけられていて、まるで石膏像がそこにあるような感じでした。
さらにこの作品は裏面も観ることができるようになっています。裏面には苦悶の表情を浮かべるクレオパトラが描かれ、歯をむき出しにして苦しむ姿が恐ろしげです。これは表面は夢想的な静謐さであるのと対照的に、裏面は敗北と死を目前にした憔悴した深い内面の動揺と苦悶を表しているとのことでした。これは表裏で比べながら観ると、精神性が感じられました。


ということで、素描と資料が中心の展覧会でしたが、最後の最後で見応えのある品が並んでいました。ミケランジェロは後世にも大きな影響を与えた芸術家ですので、この機にその仕事の数々を知っておくと良いのではないかと思います。会期末頃には混むのが予想されますので、気になる方はお早めにどうぞ。


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