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アンディ・ウォーホル展:永遠の15分 (感想前編)【森美術館】

10日ほど前の土曜日に、六本木の森美術館で「アンディ・ウォーホル展:永遠の15分」を観てきました。非常に点数が多く作風も多岐に渡っていましたので、前編・後編に分けてご紹介しようと思います。

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【展覧名】
 アンディ・ウォーホル展:永遠の15分

【公式サイト】
 http://www.mori.art.museum/contents/andy_warhol/

【会場】森美術館
【最寄】六本木駅


【会期】2014年02月01日~05月06日
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日16時頃です)】
 混雑_①_2_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
大雪の日の次の日に行ったのですが、結構混んでいてあちこちで人だかりができる程でした。また、その次の週にも下階の展示を観に六本木ヒルズに行ったのですが、その日は晴れていたこともあり地上階のチケット売り場に行列ができていました。私は年間パスで素通りしたのでチケットの購入時間は分かりませんが、多分10分くらいは待つと思います。 展示品も多いので観に行く際には時間に余裕を持ったほうが良さそうです。

さて、今回の展示はアメリカンポップアートの代表的な作家であるアンディ・ウォーホルの個展となっています。アンディ・ウォーホルは元々は商業デザイナーで成功を収めていましたが、やがて絵画の世界でも認められ、時流にも合った世界的なアーティストとなっていきました。今回はその全貌を大規模に回顧するもので、展覧会はまず自画像のコーナーがあり、その後はだいたい年代ごとに章分けされていました。この記事でもその順にご紹介していこうと思うのですが、今回は会場には作品リストが無かったので、作品1点1点ではなく各章の大まかな流れを書いていきます。
 参考リンク:作品リスト

<第1章 ポートレート アンディ・ウォーホルのポートレート ウォーホルとは何者なのか?>
まずはアンディ・ウォーホル自身のポートレートのコーナーです。アンディ・ウォーホルは1928年にピッツバーグに生まれ、両親はスロヴァキアからの移民だったそうです。その為、東方典礼カトリック教会の信者でありその信仰は後の作品でも伺い知ることができます。
この章では幼年期から晩年までのポートレートがあり、最初の入口にアンディ・ウォーホルの子供時代の写真や、自画像などがありました。東京の二重橋で撮った記念写真(20代後半)などもあり、日本との繋がりも感じさせます。アンディ・ウォーホルは幼い頃は体が弱く内向的だったそうですが、家族からは愛されていたそうで、こうした写真にもそれが表れているように思います。 また、ウォーホルは自分の容姿にコンプレックスを持っていたらしく、時代とともに外見が変わっていく様子も分かります。少年時代はアートを学び、1949年に故郷のカーネギー工科大学の絵画デザイン学科を卒業すると、1950年代の商業デザイナーとなり、その頃はニューヨークのクライアントを訪問していたこともあってスタイリッシュな服装をしていたようです。その次の1960年代になると美術や映画の業界に転身し、この頃は銀のかつらをつけて黒いサングラスを掛けたウォーホルのイメージそのものといった感じの格好です。その後活躍して有名になった1970年~80年代になると社交界の有名人と交流を持っていったようで、当時のローマ法王のヨハネ・パウロ2世に謁見している様子などもありました。また、1980年代に訪れた万里の長城や天安門を背景にした写真、女装した自画像、髪が逆立ったかつらなど幅広い活動や姿を観ることが出来ました。自分自身がモチーフであるかのようで、各年代の活動を一目で察することができるような作品が展示されていたと思います。


<第2章 1950S 1950年代:商業デザイナーとしての成功>
ウォーホルはカーネギー工科大学の絵画デザイン学科を卒業しニューヨークに移住すると、そこでファッション誌「グラマー」や「ヴォーグ」のイラストや様々な商品の広告を手がけて成功を収め、アートディレクターズクラブ賞など数多くの賞を受賞しました。婦人誌の広告のためのイラストシリーズなどドローイングでウォーホルが多用したのはブロッテド・ライン(シミつきの線)と呼ばれる技法で、これはペンで紙にイメージを描き、それに別の紙を押し当ててインクを転写する方法でした。これはインクのにじみで独特の線描を可能とし、アンディ・ウォーホルのトレードマーク的な描法となると共に、反復や転写による複製生産を可能にしたという点で、ウォーホルの制作の原点とも言えるようです。ニューヨークの画廊で発表する機会にも恵まれ、次の時代へと繋がっていきます。

ここには赤い靴を描いた広告イラストがあり、確かに線が独特でインクが垂れていたり途切れていたりして面白味があります。また「僕の庭の奥で」という作品集があり、妖精やキューピッドが描かれていました。他にもカクテル、ケーキ、猫、馬など様々なイラストがあり、一部はコラージュが使われているなど、手作り感がある作風となっているのが意外でした。また、ここにはウォーホルの代名詞とも言えるキャンベルスープ缶を描いた作品もあり、有名作への流れを予感させます。

ここには小部屋もあり、その中は素描が並んでいました。男性像や、ブロッテドラインと同じく多用したゴム印を使った作品などもあります。こうした複製的・反復的な手法がシルクスクリーンの作品に繋がって行くようです。他には靴を描いた作品やブロッテド・ラインで描いた静物などもありました。


<第3章 1960S 1960年代:「アーティスト」への転身>
アンディ・ウォーホルは1950年末から60年代はじめにかけて絵画制作に打ち込み、アーティストとして独自の表現を模索していきました。初期は荒々しい筆跡を残す絵画など試行錯誤していたようですが、一方で同時代に誕生したポップアートに同調し、コカ・コーラやテレビなどの商品や広告を主体とした作品を制作し始めました。そして1962年にキャンベル・スープ缶の絵画32点を出品した個展を開催し、これが画家としての実質デビューとなります。これらの主題は大量生産やメディアを通じた商品の広告、大衆の消費という当時のアメリカ社会が反映されたもので、時代に則したものと言えそうです。また、同年に写真をシルクスクリーンでカンヴァスに転写する技法を使い、新聞や雑誌などの既存のイメージや他者の写真を使った作品も制作し始めます。「ファクトリー」と称した自身のスタジオでカンヴァスにプリントを施していたらしく、「機械になりたい」といって同一のイメージを連続反復させアシスタントを雇って対策やシリーズ作品も作られていきました。そしてエルビス・プレスリーやマリリンモンロー、エリザベス・テイラーなどのスターの肖像画、自殺や自動車事故を主題とした「死と惨事」シリーズ、最も多く作られた「花」シリーズなどシルクスクリーンによってポップアーティストとしての地位を不動にしていきました。しかし、1966年のニューヨークの画廊での展覧会では「牛の壁紙」と「銀の雲」を発表して新たな展開を見せ、やがて絵画への興味を失っていきました。
 参考記事:アメリカン・ポップ・アート展 感想後編(国立新美術館)

この章の最初にはキャンベルスープの缶、199ドルのテレビ、バスタブなどの日常品が描かれた作品が並んでいました。この辺はよく知られている作風かな。その先には死んだ胎児を逆さ吊りにしている医師の写真が反復している作品(死と惨事シリーズ)や、自殺の写真、人種暴動の写真、電気椅子の写真などの反復作品があり、悪趣味にも思えますがこれは覗き趣味的反応と暴力に対する鈍感さを表現しているようで、転写はどんどんぼやけて曖昧になっていました。
また、この近くにはケネディ大統領の妻ジャッキーの写真を使ったシリーズがあり、ケネディ暗殺前の笑顔と暗殺後の沈んだ顔が複数枚ずつ並んでいる作品となっていました。これは悲劇も繰り返し報道されると何も感じなくなっていくというのを表しているようで、悲喜が交錯しつつも反復によって意味が曖昧になっているような感じでした。

この近くにはエルビス・プレスリーのシルクスクリーン作品や、シドニー・ジャニス(画商)などがあり、有名なマリリン・モンローは5点並んでいました。これもマリリン・モンローの急死に衝撃を受けて制作されたもので、明るい色が使われているものもあれば、モノクロのものもあり様々です、見ていると人物像というよりはものやシンボルのように思えてきました。

その後にはキャンベルスープの缶を描いた作品が10点展示されていました。ほとんど一緒に見えますが味の違いで缶のラベルが違い、トマトやビーフ、ベジタブルなどがあります。まさに反復と言える作品で、大量生産されたものをモチーフに描くという発想がアメリカンポップアートならではだと思います。解説によると、アンディ・ウォーホルは20年間毎日キャンベルスープを飲んでいたらしく、相当に身近な存在だったのかもしれません。この辺りには花のシリーズの作品もあり、これも大きさや色を変えた反復となっていました。

そして奥の部屋には蛍光の黄色地に蛍光ピンクの牛の顔が繰り返し並んでいる壁紙があり、これが「牛の壁紙」でした。さらに奥の部屋には銀色の枕みたいな形の風船がフワフワ漂う「銀の雲」が展示されていて幻想的な光景となっています。この2つは個展で発表され絵画からそれ以外の表現に関心が移っていった頃のもので、当時としては蛍光色はかなり珍しく、全然知られていなかったため斬新で時代の先端を行くものだったようです。また、この頃はLSDによる幻覚をモチーフにしたサイケデリックな様式が美術や音楽に反映されていた時代だったそうで、この作品からもサイケな色合い/空間表現が見受けられました。ちなみに風船は実際に触れるので子供たちが嬉々として戯れていましたw


ということで、前半はまだアーティストになる前の商業デザイナー時代の作品などもあり、まさにアンディ・ウォーホルの原点から網羅しているような感じでした。後半はさらに活動を広げていった時代の作品が並んでいましたので、次回はそれについてご紹介しようと思います。



  → 後編はこちら



 参照記事:★この記事を参照している記事


 
 


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生誕140年記念 下村観山展 (感想後編)【横浜美術館】

今日は前回に続き、横浜美術館の下村観山展についてです。前編では初期の作品からご紹介していますので、前編を読んでいない方はそちらからお読み頂けると嬉しいです。なお、この展示は既に終了していて私が観たのは後期の展示でした。


 前編はこちら


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【展覧名】
 生誕140年記念 下村観山展

【公式サイト】
 http://www.yaf.or.jp/yma/jiu/2013/kanzan/
 http://www.yaf.or.jp/yma/archive/2014/4032.php

【会場】横浜美術館
【最寄】JR桜木町駅/みなとみらい線みなとみらい駅

【会期】2013年12月7日(土)~2014年2月11日(祝・火) 
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況(日曜日14時半頃です)】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
前編では3章のヨーロッパへの留学までご紹介しましたが、後編は文展の審査員となった頃から晩年にかけてのコーナーです。


<第3章 ヨーロッパ留学と文展>

48 下村観山 「木の間の秋」 ★こちらで観られます
これは2曲1双の金地の屏風で、左右ともに直立する木々と緑の草が描かれ、手前は濃く奥は薄い空気遠近法を使っています。木には蔓や苔のようなものが付き風格を感じさせ、葉っぱの葉脈を金で描くなど装飾的な表現が見られます。これは五浦の研究所で西洋の顔料を使ったそうで、緻密な写実性と装飾性があるのは英国の美術と日本美術の両方からの影響があるのかも?? 神秘的ですらある作品でした。

下村観山 「小倉山」 ★こちらで観られます
これは横浜美術館が誇るコレクションで、6曲1双の金屏風に赤く紅葉した木々の中に烏帽子の男性が座っている様子が描かれています。これは小倉百人一首の藤原忠心(貞信公)が詠った歌の歌意を描いているそうで、金地に緑や赤が映えて大和絵的な色合いと琳派的な雰囲気があります。左右の隻は上部では繋がっているのに下部では繋がりがないのが不思議で、確かあの世とこの世の境であるという説があったと記憶しています。(1つの解釈なので正しいかは分かりませんが) いずれにせよ、観山の傑作であるのは間違いないと思います。

この近くには東博の「弱法師」の下絵などもありました。前期には本図が出ていたようです。
 参考記事:博物館に初もうで (東京国立博物館 本館)

また、その先には下村観山の絵画用具やロンドンで親交のあったアーサー・モリスンとの書簡、アーサーから貰ったトマス・ゲインズボローの素描、日記帳、大観からの手紙、西洋美術の図版、留学中の絵葉書などもありました。

53 下村観山 「美人と舎利」
これは2幅対の掛け軸で、右幅は左向きの着物の美女、左幅は直立した右向き骸骨が描かれています。その組み合わせが実に奇妙で、美人は膝から上のやや枠の下の方に描かれているのに対して、骸骨は全身が描かれているのも不思議でした。骸骨はやけにリアルで解剖したものを観たのかも? 特に解説はありませんでしたが、ちょっと気になる作品でした。

65 下村観山 「虎渓三笑」
これは掛け軸で、3人の中国風の男性が並んで立ち、笑いながら会話している様子が描かれています。これは廬山に隠棲していた慧遠法師が来訪した詩人の陶淵明ち道士の陸修静を見送りに行く際、話に夢中になり二度と越えないと誓っていた橋を渡ってしまい、3人で大笑いしたという伝統的な画題で、この作品でも表情豊かに楽しげに表現されています。輪郭の太い所や濃い所があるなど、筆使いの強弱も巧みで、色数は少ないのに生き生きした雰囲気がありました。

59 下村観山 「唐茄子畑」
これは6曲1双の金屏風で、右隻にはカラスと大きな葉っぱの唐茄子の木?とピンクの花の木が描かれ、左隻には竹組したところにカボチャがなっている様子と、樹の下にうずくまる黒い猫が描かれています。どちらも金地に緑の葉っぱが見事で、左隻の葉は一部が黄色く変色した感じまで表現されています。右隻は垂直に線が多いのに対して、左隻は水平や斜めの線が多いなど、構図の対比も面白かったです。


<第4章 再興日本美術院>
最後は晩年までのコーナーです。大正2年に観山は岡倉天心を通じて原三渓に知遇を得て、招きに応じて横浜に移り住みました。原三渓の支援の元で制作を行い、観山が亡くなるまでその交流は続きます。 また、この頃ボストン美術館で活動していた天心が健康の悪化で帰国すると、療養中に赤倉の山荘で亡くなってしまいました。その臨終に際し、観山は大観と共に日本美術院の再興を計画し、その翌年に大観、木村武山、安田靫彦、今村紫紅、小杉未醒らと共に日本美術院を再興しました。そして観山はそれまでの古典研究や西洋画研究の成果を結実させたそうで、この頃の作風としては場面を大きく占める漠然とした空間が特徴で、静けさと高い精神性を湛えているようです。 それ以降の観山は次第に宋元画の枯淡な画風に傾倒していったそうで、今後の方向を予見させる作品を残したようですが、57歳でその生涯を閉じました。ここにはそうした時代の作品が並んでいました。

87 下村観山 「四眠」
これは椅子に座って寝ている老僧のような羅漢と、その膝の上で寝る龍、脇で机に向かってうつ伏せる童子、その上に樹の枝で寝ている鳥 といった4者の眠りが描かれた作品です。普通、四眠は寒山、拾得、豊干禅師、虎の4者が描かれますが、ここには前述の4者に置き換わっています。淡い色彩で優美な曲線で描かれ、安らかな雰囲気でやや異国情緒がありました。

この隣にも寝ている李白を描いた作品があり、中国の高士や故事を描いた作品が並んでいました。

71 下村観山 「弱法師」
これは謡曲「弱法師(よろぼし)」を題材にした2幅対の掛け軸で、夕日に向かって盲目の俊徳丸が手を合わせ極楽浄土を観想している場面となっています。右幅には手を合わせ杖を持つ盲目の男、左幅にはかなり下の方に赤い夕日が描かれ、独特の余白の使い方となっています。これは東博の屏風の同名作品を掛け軸にしたような作品で、空間表現で言えば東博のほうが大胆かも?? これはこれで面白い作品でした。

77 下村観山 「竹林七賢」
これは中国の魏晋時代に俗世を避けて竹林に集まり、老荘思想にふけった7人の隠士を描いた6曲1双の金屏風の作品で、堀塗りという色面と色面の間を堀のように残して線にする技法が使われています。竹林の中で3人が話し合い、左の方でも座っている3人の姿があり、中央に1人が下を指さして何か呼びかけているように見えます。いずれも表情豊かに微笑みを浮かべていて、所々の竹はにじみを使ったたらし込みのような技法が使われるなど、表現や技法の巧みさも伺えました。

121 下村観山 「游魚」
これは水中の木と戯れている魚を描いた作品で、色数は少なく水墨のようにも見えます。解説によるとこの作品を描いた頃、観山は宋元画風の様式に新たな活路を見出し、枯淡な作風を示していたようです。そしてそれは次第に大型化/濃彩化していく同時代の帝展へのアンチテーゼでもあったそうです。その為か詫びた雰囲気の作品となっていました。

118 下村観山 「維摩黙然」
これは2本の指を突き出して遠くを見つめるような老僧と、その脇で蓮の花を盆に入れて差し出す裸婦が描かれています。解説によると、これは釈迦の在家信者で富豪であった維摩を描いたもので、指は「不二法門」(現象的に対立する2つの事象が根本的には一体であることを悟る道)を説いているようです。柔らかいピンクや緑、肌色などの色合いと、背景のソファ(のようなもの)の草花文など、優美な雰囲気がありつつ威厳が感じられました。上から花びらが舞っているのもそう感じさせるのかも。

132 下村観山 「魚籃観音」 ★こちらで観られます
これは中国の故事を題材にした3幅対の作品で、赤い衣の魚商の女性が中央に立ち。その周りに褐色の肌の半裸の男が3人、右側には犬の姿もあります。女性を中心に光輪が広がっているのですが、実はこの女性の正体は魚藍観音で言い寄ってくる男たちに仏経典をよく読むものに嫁ぐと言っているところだそうです。その顔は非常に西洋画的で、ダビンチのモナ・リザを土台にしているらしく、確かにそっくりな顔となっていました。その為かこの作品を出品した時は賛否両論となったそうです。ちょっと日本人の感覚としてはバタ臭いかもw


ということで、見どころの多い展示となっていました。リストを観る限り前期のほうが面白かったのかもしれませんが、十分満足できる内容でした。下村観山はよく観る画家だけに今後の参考にもなるそうです。



 参照記事:★この記事を参照している記事




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生誕140年記念 下村観山展 (感想前編)【横浜美術館】

前回ご紹介したお店に行く前に、桜木町の横浜美術館で「生誕140年記念 下村観山展」を観てきました。この展示は既に終了していますが、参考になる展示だったので前編・後編に分けてご紹介しようと思います。なお、この展示は前期・後期に期間が分かれていて、私が観たのは後期の内容でした。

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【展覧名】
 生誕140年記念 下村観山展

【公式サイト】
 http://www.yaf.or.jp/yma/jiu/2013/kanzan/
 http://www.yaf.or.jp/yma/archive/2014/4032.php

【会場】横浜美術館
【最寄】JR桜木町駅/みなとみらい線みなとみらい駅


【会期】2013年12月7日(土)~2014年2月11日(祝・火) 
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況(日曜日14時半頃です)】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
混んでいて、あちこちで人だかりができるような感じでした。

さて、今回の展示は近代の日本画草創期を牽引した日本美術院を代表する画家 下村観山の生誕140年を記念したものとなっていました。下村観山は代々 紀州藩徳川家に仕えた能楽師の名門の出身で、幼くして狩野芳崖や橋本雅邦の元で研鑽を積み、13歳で描いた絵が注目され早くから将来を嘱望されていたようです。明治22年(1889年)に16歳で東京美術学校の第1期生となり、横山大観らと共に岡倉天心の薫陶を受けることになりました。古典に通じ優れた描写力を持っていた観山は天心から期待され、天心の指導に最も応えたのが観山と言われているそうです。その後、文部省から2年の英国留学を命ぜられた観山は明治36年(1903年)にロンドンへ旅立ち、西洋画の描法や色彩論の研究に力を注ぎました。そしてその研究の成果も踏まえ、大和絵の伝統と巧みな描写を駆使しながら気品ある日本画を発表していき、後進達の目標となるような画家となっていきました。観山は岡倉天心の紹介で原三渓に知遇を得て、1912年に横浜に居を移し、そこを終の棲家としています。原三渓は古美術に造詣が深く、観山の創作を支援していたそうで、横浜は観山ゆかりの地と言えそうです。展覧会は時代ごとに4つの章に分かれていましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品をご紹介していこうと思います。
 参考記事:
  再興院展100年記念 速水御舟-日本美術院の精鋭たち- (山種美術館)
  横山大観展:良き師、良き友-師:岡倉天心、そして紫紅、未醒、芋銭、溪仙らとの出会い感想前編(横浜美術館)
  横山大観展:良き師、良き友-師:岡倉天心、そして紫紅、未醒、芋銭、溪仙らとの出会い感想後編(横浜美術館)
  三渓園の写真 (2013年6月 外苑編)


<第1章 狩野派の修行>
まずは修行時代の作品です。下村観山(本名 清三郎)は紀州藩 小鼓方幸流の能楽師の家系である下村家に養子に入った父と、小鼓方幸清流の家に生まれた母の3男として和歌山で生まれました。幕藩体制の崩壊によって8歳の時に上京し、祖父の友人であった藤島常興に絵の手ほどきを受けるようになり(絵画修業は明治15年9歳の頃から始まった)、この頃謡曲も始めたようです。常興はほどなく狩野派の狩野芳崖に清三郎を託し、芳崖はその画才を認め、北心斉東秀の号を与えました。この頃の作品はすでに懸腕直筆(筆を垂直に持って肘を机から離し、さらに腕を脇から話して構える筆法)による狩野派特有の線描を忠実に示しているようです。また、明治19年になると制作に多忙を極めた芳崖は同門の盟友である橋本雅邦に北心斉東秀(観山)を紹介し、師事させました。そしてこの年、フェノロサが主催し橋本雅邦が所属していた鑑画会に「雪景山水図」を出品すると、わずか13歳にして老練した画家の筆を思わせる才能が話題となり絶賛されたそうです。ここにはそうした若い頃(というか子供の頃)の作品から並んでいました。

6 下村観山 「許由」
これは北心斉の号が入っている作品で、許由が滝で耳を洗っている場面が描かれています。これは狩野派の粉本模写らしく、輪郭の表現などからは狩野派らしさが感じられます。製作年からして11歳の時かな? これを小学生くらいの時に描いたとは信じられないほどの描写力で濃淡も見事でした。

16 下村観山 「森狙仙 画[猿図]模写」
こちらも模写で、江戸時代に猿の絵で名を馳せた森狙仙の作品を写しています。森狙仙は猿の毛並みを精緻に描いて評価されていたのですが、この絵でも毛並みを絶妙な濃淡と細かい線で表現し、フワフワとした感じを出していました。これは17歳の頃の模写ですが、恐ろしく非凡なのがよく分かります。

この近くには羅漢を描いた作品などもありました。


<第2章 東京美術学校から初期日本美術院>
東京美術学校が開校すると、観山は横山大観らと共に第1期生として入学し、天心の薫陶を受けることとなりました。観山の画号はこの時から使い始めたらしく、天心から与えられたと考えられるようです。美校では再び狩野派の筆法の修練から始めることとなったそうですが、既に一角の画家であった観山は大和絵の研究にも励み、独自の画風を創り出していきます。卒業後はすぐに助教授となって後進の指導にあたりながら作画に励んだそうで、明治29年に天心が組織した日本絵画教会に参加しました。その後、明治31年に天心が東京美術学校の校長の職を追われてしまうと、観山は天心に順じて橋本雅邦、横山大観、菱田春草らと共に学校を去り日本美術院を立ち上げました。第1回展では大観と共に最高賞の銀杯を受賞したそうで、初期の日本美術院は輪郭を用いずにぼかしを伴う「朦朧体」と揶揄された技法が使われていたようです。その中で観山は古典的な傾向と朦朧体に寄った傾向に同時に取り組み、堅実な歩みを進めていったようです。ここにはそうした学生時代から日本美術院設立頃までの作品が並んでいました。

24 下村観山 「熊野観花」 ★こちらで観られます
これは卒業制作の作品で、平宗盛の妾が病気の母に会いに行くことを許してもらえず、清水寺に花見に赴く途中に重い足取りで牛車を降りる場面が描かれています。茶色っぽい背景に薄い色合いで牛車から降りる十二単の女性が描かれ、周りには大勢の人の姿があり賑わっているようです。大勢の人がいるにも関わらず1人1人の動きや表情が豊かに描かれ、モノトーンな背景に対して明るい色合いなこともあってか人々に目が行きました。高い構成力・描写力が伺える作品でした。

30 下村観山 「蒙古調伏曼荼羅授与之図」
これは掛け軸で、龍が描かれた絵を背景に数珠を持った僧が、座った烏帽子の若い武士と向き合っている様子が描かれています。その脇には2人の弟子らしき人物もいて、周りには大勢の聴衆の姿もあります。解説によると、これは蒙古調伏のための大旗曼荼羅を作った日蓮が説法して激励している様子らしく、背後の人々は薄い色なのに対して手前の武士は濃い色彩で存在感があります。また、左下の表装部分にはみ出しているような表現となっているのが、立体感を増しているように思いました。

38 下村観山 「春秋鹿図」
これは6曲1双の屏風で、右隻は藤の垂れ下がる木の下にいる鹿、左隻は白い菊?がたくさん並ぶ花畑に立つ2頭の鹿が描かれています。右の春の鹿は穏やかそうで、濃淡や線で表された毛並みは柔らかそうに見えます。木々も細部が描かれていないなどぼんやりとした感じを受けました。一方、左隻は左から右に向かって風が吹いているように花がしなっていて、2頭の鹿の目がキリッとしているなど、動的かつ威厳を感じる画面となっていました。季節も表現も対になる面白い作品です。


<第3章 ヨーロッパ留学と文展>
続いてはヨーロッパ留学と文展についてのコーナーです。観山は明治34年に教授として東京美術学校に復帰し、その2年後に文部省から2年間のイギリス留学を命ぜられました。観山はそのほとんどの期間をロンドンで過ごし、フランス、ドイツ、イタリアなどを巡遊した後、明治38年に帰国しました。滞欧中は色彩の研究を目的として西洋画の研究や模写を行ったそうです。その一方で日本美術院の活動は次第に停滞し、明治36年には立ち行かなくなり、観山帰国後の明治39年に天心の別荘のある茨木の五浦に拠点を移し、観山も転居することとなりました。 その後、明治40年になると文部省美術展覧会(文展)が設立されると、観山は審査員として出品し、琳派を思わせる装飾性を見せ高い評価を得ました。やがて文展の中で新派・旧派の対立が起きると、天心を会長とする新派の国画玉成会が設立され、観山はそちらにも参加し古典研究の成果を発揮したそうです。ここにはそうした時代の作品が並んでいました。
 参考記事:五浦六角堂再建記念 五浦と岡倉天心の遺産展 (日本橋タカシマヤ)

45 下村観山 「ナイト・エラント(ミレイの模写)」
これはラファエル前派のミレイの作品の模写で、木に縛られた裸婦を甲冑の騎士が剣で縄を切って助けている様子が描かれています。これはオリジナルと見まごうほどのクオリティで、水彩なのに甲冑の質感や裸婦の肉感などが見事に表現されていました。

47 下村観山 「まひわの聖母(ラファエロの模写)」
これはルネサンス期の巨匠ラファエロの模写で、掛け軸仕立てになっています。本を持った赤と青の服のマリアが赤ん坊のキリストと洗礼者ヨハネの肩を抱き寄せているような姿で、これも油彩のような強い色彩に驚きます。ひと目でラファエロと分かるほどに画風が似ていて、緻密描く優美な雰囲気が特に見事でした。


ということで、3章の途中ですがこの辺で半分くらいなので今日はここまでにしておこうと思います。今年は日本美術院に関する展示の当たり年となっていて、各地で開催されますので、その中でも有力な観山を知っておくと、それらの展示もより有意義なものになると思います。後半も見どころになる作品がありましたので、次回はそれについて書いていこうと思います。



 参照記事:★この記事を参照している記事


  


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Cafe Cocktail-Do(コクテール堂)【桜木町界隈のお店】

もう3週間位前になりますが、横浜に美術展を見に行った際、横浜美術館の前にできた「MARK IS みなとみらい」の中にあるCafe Cocktail-Do(コクテール堂)というお店でお茶してきました。

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【店名】
 Cafe Cocktail-Do(コクテール堂)

【ジャンル】
 カフェ

【公式サイト】
 http://www.cocktail-do.co.jp/
 食べログ:http://tabelog.com/kanagawa/A1401/A140101/14051198/
 ※営業時間・休日・地図などは公式サイトでご確認下さい。

【最寄駅】
 桜木町駅/みなとみらい駅など

【近くの美術館】
 横浜美術館
 横浜みなと博物館 など


【この日にかかった1人の費用】
 900円程度

【味】
 不味_1_2_3_④_5_美味

【接客・雰囲気】
 不快_1_2_③_4_5_快適

【混み具合・混雑状況(日曜日17時半頃です)】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【総合満足度】
 地雷_1_2_3_④_5_名店

【感想】
結構並んでいて、5分くらい待って相席のテーブル席となりました。この施設にはいくつかカフェがあったのですが、どこも混んでいました。

さて、このお店は最近できた施設の中にあるので初めてだったのですが、お店の近くを通ったらコーヒーの良い香りがしたので釣られて入ってみましたw 主に東京西部にカフェを持っているコーヒー屋さんのようです。

中はこんな感じ。
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結構広くて開放感があり洒落ています。

この日はいちごタルト(580円)とコーヒー(420円、セットで-100円)を頼みました。
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まずはタルト。
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これはイチゴ自体が甘くてジューシーで、クリームはカスタードと普通のクリームの二種類でまろやかな甘みでした。爽やかで美味しいです。

続いてコーヒー。
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こちらは軽い苦味と豊かな香りで、まろやかだけどコクもありました。このコクテール堂はエイジングコーヒーといって豆を熟成・乾燥させて香りとコクを出しているようです。

ということで、美味しいコーヒーとケーキを楽しむことが出来ました。900円でこれなら納得の美味しさです。ちょっと混んでいるのが難でしたが、横浜美術館の目の前でみなとみらい駅のすぐ側という立地も良いので、今後も訪れてみようと思います。




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Kawaii(かわいい) 日本美術 -若冲・栖鳳・松園から熊谷守一まで- 【山種美術館】

忙しくて1ヶ月ほど前のこととなりましたが、恵比寿の山種美術館で「Kawaii(かわいい) 日本美術 -若冲・栖鳳・松園から熊谷守一まで-」を観てきました。この展示は前期・後期に分かれていて、私が観たのは前期の内容でした(既に後期の内容となっています。)

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【展覧名】
 Kawaii(かわいい) 日本美術 -若冲・栖鳳・松園から熊谷守一まで-

【公式サイト】
 http://www.yamatane-museum.jp/exh/current.html

【会場】山種美術館
【最寄】JR・東京メトロ 恵比寿駅


【会期】2014年1月3日(金)~3月2日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日15時頃です)】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
結構混んでいて、ロッカーは空きがなく展覧会でも人だかりができるくらいでした。前期は伊藤若冲の「樹花鳥獣図屏風」が無かったのに混んでいたので、出品されている後期はますます人気が出ているのではないかと思います。なるべく時間を取って出かけることをお勧めします。

さて、今回の展示はその名の通り「可愛い」を主題にした展示です。この言葉はいまや海外にも広がっているそうですが、遡ると平安時代には既にこうした感覚があったそうです。この展示では特に可愛いとされるモチーフを3つの章に分けて、古今の日本画を中心に展示していましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。
 参考記事:かわいい江戸絵画 (府中市美術館)

<冒頭>
まず冒頭に趣旨説明のような感じで1点展示されていました。

85 伊藤若冲 「伏見人形図」 ★こちらで観られます
これは掛け軸で、芭蕉扇のようなものを持った坊主頭の伏見人形が7体描かれています。縦に並んでいて、皆同じポーズとなっていますが服の色が赤、緑、青と3種となっています。顔が大きく目鼻が小さいのですが、単純化されころっとした感じがほのぼのとしていました。配置も流れになっているのが面白かったです。


<第1章 描かれた子ども ― 人物の中の Kawaii>
1章は子供を描いた作品のコーナーです。古くは枕草子の中で「うつくしきもの(=可愛いもの)」として子供の例示が半数を占めるなど、子供と可愛いは強く結びついています。ここでは物語絵や風俗画、肖像画など様々な作品の中の子供が紹介されていました。

2 伝 長沢芦雪 「唐子遊び図」
これは唐子(からこ)という中国風のパンダみたいな髪型の子供達が描かれた作品で、文人が嗜むべき4つの琴棋書画に興じている様子が描かれています。下の方には絵(画)を描く子と集まって見ている子、背中を向けて書を書いている子、テーブルに琴を置く子と見ている子、その右には碁盤が置かれています。しかし囲碁は喧嘩になってしまったようで、周りで取っ組み合いしている様子で子供らしい感じがしますw また、書では頭に紙を乗せて破っているなど、文人とはかけ離れたヤンチャな姿が可愛らしく、生き生きとしていました。

6 上村松園 「折鶴」 ★こちらで観られます
これは折り鶴を折る着物の女性と、その傍らで同じように折っている少女を描いた作品です。女性は白い肌で指が長く、気品と色気が感じられます。一方の少女も賢そうで凛とした雰囲気があり、いずれも上村松園らしい女性像となっていました。

7 伊藤小坡 「虫売り」
これは明治から昭和にかけてあった虫売りという職業を描いた作品で、女性が市松模様の屋根のついた屋台で、頬かむりをして網に入れた虫を売っているところが描かれています。その傍らには買った虫籠を見る姉弟らしき子供の姿があり、喜んでいるようです。全体的に爽やかな色合いで、子供のあどけない雰囲気と共にほのぼのした作品となっていました。

この少し先には小出楢重の息子の肖像などもありました。

9 川端龍子 「百子図」 ★こちらで観られます
これは赤い頭飾りをつけた象と、その周りの9人の子供たちを描いた作品です。子供たちは周りで踊ったり、背中の籠に乗ったり、鼻を触ったりと無邪気な様子で、童話の挿絵のような目の大きな表情で描かれています。解説によると、これは戦後に「象が見たい」と東京の子供たちがインドに手紙を送って、本当に象を送って貰った時の様子だそうで、その際に港から上野動物園まで歩いて行ったらしく、多くの見物人が集まってきたそうです。また、川端龍子は子供向けの雑誌の挿絵を描いていたこともあったそうで、この絵はまさに挿絵的な作風となっていました。楽しげで躍動感のある作品です。

17 小山硬 「天草(納戸)」
これは長い黒髪に黒い着物の少女が描かれた作品で、背中に十字架のある小さなマリア像に向かって合掌しています。輪郭が太くボリューム感のある表現で、つぶらな瞳が純粋無垢な内面を感じさせます。周りは暗く、納戸の中で密かに祈る隠れキリシタンを彷彿とさせました。(タイトル的にもその主題だと推測できます) しんみりとした雰囲気の作品です。


<第2章 生きもの大集合 ― 動物の中の Kawaii>
続いては動物を描いた作品のコーナーです。

36 「藤袋草子絵巻」 ★こちらで観られます
これは擬人化された猿達の輿入れの行列を描いた作品です。この作品は以前にもご紹介したので今回はストーリーは割愛しますが、ここでは鹿に乗ったり、弓を持っていたり、神輿に乗ったり、酒盛りをして花嫁の女性を楽しまそうとしている様子が描かれています。結構のほほんとした雰囲気なのですが、この話は結構理不尽なので、可愛い猿達がどうにも気の毒に思えました。なお、この作品は会期によって場面替えがあるようです。
 参考記事:お伽草子 この国は物語にあふれている (サントリー美術館)

この近くには奥村土牛の兎の絵などもありました。

25 西山翠嶂 「狗子」
これは寝ている2匹の子犬を描いた作品で、手前は白犬でチラリとこちらを見ています。もう1匹は黒っぽい犬で、ぐっすり眠っているのが気持ちよさそうです。お互い寄り添って寝ている姿は文句なしに可愛らしいのですが、どこか円山応挙に通じるものがあると思ったら、この画家はその流れを組む竹内栖鳳の娘婿だそうです。そう言われてみると確かに栖鳳にも通じるものもあるかな。円山四条派の伝統的な画題ですね。

19 野崎真一 「四季草花鳥獣図巻」
これは巻物で、朝顔やススキなどの中に白いウサギが描かれ、上を見上げています。よく観ると他にもカマキリやバッタなど様々な昆虫の姿もあり、単純化され鮮やかな色彩で描かれています。解説によると、作者の野崎真一は酒井抱一の弟子の長男として生まれて鈴木其一の門人となった人物だそうで、確実に琳派の様式を受け継いでいることが伺えました。可愛らしさよりも雅な雰囲気の作品じゃないかな。

33 守屋多々志 「波乗り兎」
これは水色の水面の上を走る白兎を描いた作品で、金色の波が立ち疾走感のある描写となっています。解説によると、波に兎は古くから絵画や工芸に取り上げられてきた主題らしく、謡曲「竹生島」の一説に基づいているそうです。兎が何とも可愛らしいと共に、表現が面白い作品でした。

この近くには伊藤若冲の鶴亀図や竹内栖鳳の鴨の絵などもありました。

53 柴田是真 「墨林筆哥」
これは全30図から成る画帖の一部で、6図が展示されていました。色紙サイズの画面それぞれに、蛙が琵琶を弾く姿と夏草、冬の富士山、傘、枇杷の枝?、藁束などが描かれています。全て濃い色合いで描かれているのですが、実はこれは漆で描かれた漆絵で、柴田是真ならではの超絶技巧となっています。特に枯れ葉の琵琶を弾く蛙はユーモアを感じさせ、画力・技術だけでなく絵そのものの面白さも素晴らしいものがありました。
 参考記事:
  ZESHIN 柴田是真の漆工・漆絵・絵画 (根津美術館)
  柴田是真の漆×絵 (三井記念美術館)


<第3章 小さい・ほのぼの・ユーモラス ― Kawaii ってなに?>
最後の章は小さいものやほのぼのしたもの、ユーモラスなものなどのコーナーです。「可愛い」とされる要素にも色々な側面があり、それをさらに細分化して紹介していました。

84 伊藤若冲 「托鉢図」
これは大きな鉢を持って行列している黒い衣の僧侶たちを描いた作品です。ぎっしりつまって歩いていて簡略化されているのですが、1人1人の表情が少しずつ違っているのが面白いです。ゆるキャラ的な雰囲気で、ちょっと可笑しさが感じられました。

59~78 「紅板」
小型の紅入れが20点ほど展示されていて、これらは女性が外出先で化粧直しをするために使われたものです。象牙、漆塗り、金属製など様々な材質が使われ、かなり精密な細工で肉眼で鑑賞するにはちょっと大変なくらいです。女性用らしく蝶や花、鳥などが描かれていて可憐で洒落た雰囲気がありました。化粧道具を可愛く飾るのは今も昔も変わらないのかも。

83 川﨑小虎 「伝説中将姫」
これは六曲一双の屏風に当麻寺の縁起にまつわる伝説上の姫君を描いた作品で、お告げで蓮の中から出た糸を洗ったところ五色の糸が出てきて、それを使って曼荼羅を編んだというシーンです。ここでは髪の長い白い衣の女性たちが井戸の周りで手を合わせて糸を洗おうとしている様子が描かれ、周りには白い蓮の花が咲いています。全体的に清純な雰囲気があり、可愛いというよりは厳かな感じにも思えました。

続いては2室です。

94 谷内六郎 「ほ ほ ほたるこい」 ★こちらで観られます
これは昭和45年に小学生向けに刊行された学研の「学習 絵本シリーズ」のうちの1冊で、全国的に知られるわらべうたを題材にした絵が描かれています。4つ展示されていたのですが、特に好みだったのがこの絵で、笹を持った浴衣の男の子と団扇を持った女の子が描かれ、周りは青くそこに無数の蛍の光が描かれています。蛍に夢中になって追いかける姿が可愛らしいとともに、郷愁を誘われました。 谷内六郎の作品はほのぼのしていながら心に響くので好みです。
 参考記事:横須賀美術館の常設 (2013年08月)

最後には熊谷守一の作品のコーナーなどもありました。


ということで、様々な可愛い絵画を楽しむことができました。これは特に美術の知識がなくても楽しめる展示じゃないかな。後期は伊藤若冲の「樹花鳥獣図屏風」もあるし、癒されたい人におすすめの展示です。


 参照記事:★この記事を参照している記事



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第17回文化庁メディア芸術祭 【国立新美術館】

この前の祝日に、六本木の国立新美術館で「第17回文化庁メディア芸術祭」を観てきました。だいぶ記事がたまっていますが、すぐに終わってしまう展覧会なので先にご紹介しておこうと思います。

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【展覧名】
 第17回文化庁メディア芸術祭

【公式サイト】
 http://j-mediaarts.jp/
 http://www.nact.jp/exhibition_special/2013/jmaf17/index.html

【会場】
  メイン会場:国立新美術館 企画展示室1E
  サブ会場(一部分)東京ミッドタウン、シネマート六本木、スーパー・デラックス

【最寄】
 千代田線乃木坂駅/日比谷線・大江戸線 六本木駅


【会期】2014年2月5日(水)~2月16日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況(祝日14時頃です)】
 混雑_①_2_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
今年も非常に混んでいて会場内は人でごった返していました。人気の作品は全然人が進まないし、観るのも一苦労です。毎年こんな感じなので、この先も多分こうなると思います。混雑は諦めるしかないですw

さて、この展示は毎年開催されている文化庁主催の芸術祭で、今年で17回目を迎えました。会場は4つあるのですが、主な会場は国立新美術館で、他は映像作品が観られたり一部の作品がある程度のようです。(今年も私はメイン会場のみを観てきました) 受賞作品の全てが展示されているわけではないようですが、アート、エンタメ、漫画、アニメの4つの部門でそれぞれの受賞作が並んでいましたので、気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。なお、今回も基本的に撮影可能でしたが、一部は撮影禁止となっていました。

参考記事:
 平成24年度(第16回)文化庁メディア芸術祭 (国立新美術館)
 平成23年度(第15回)文化庁メディア芸術祭 (国立新美術館)


<アート部門>
まずはアート部門です。今年はインスタレーションが多めでした。

カールステン・ニコライ 「crt mgn」
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こちらはアート部門の大賞作品。2つの振り子がテレビの上を行ったり来たりするのですが、この振り子の先に磁石があり、テレビに近づくとノイズが走るという仕組みになっています。ブオンブオンと音もするので、それも含めての作品のようでした。理屈は分かりませんが、TVの性質を使った面白い作品です。

三原聡一郎 「を超える為の余白」
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こちらはモクモクと発生する泡を使ったインスタレーション作品。その場で加工していて、生きた彫刻みたいでした。結構泡が丈夫みたいで面白い形ができています。

ラオ・ホチィ 「Learn to be a Machine DistantObject #1」
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これは手前のトラックボールを動かすと、画面内の作者の視線が動くというインタラクティブな作品。見ていたら子供が高速で動かしていましたが、流石にそんなに早くは動かず、まばたきしながら自然な感じで動いてました。ちょっとキモいけどこの発想は楽しいw

和田永 「時折織成 -落下する記録-」
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これは会場内で爆音で一際目立っていた作品。ガラスケースの中にあるのは音楽テープで、その上のリールが再生機器となっています。どんどんケースの中にテープが落ちてきて、一定のところまで来ると音楽を流しながら巻き上げていき、音楽が止むとまたテープが落ちていきます。結構ヘロヘロな音を出していて、劣化しながら繰り返しているのがシュールなようで何か意味深な感じを受けました。


<エンターテインメント部門>
続いてはエンタメ部門。大賞は私にはイマイチな感じだったので、それ以外で気に入ったものをご紹介します。

トラヴィス 「ムーヴィング」
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これはイギリスのバンドであるトラヴィスのミュージックビデオ。メンバーの吐息にプロジェクターで映像を映すというシンプルな手法ですが、魔法のような映像となっていました。これは今回の作品の中でも特に面白かったです。

参考:youtube


池内啓人 「プラモデルによる空想具現化」
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これはアート部門かと思ったらエンタメ部門でしたw パソコンや周辺機器をジオラマと一体化させた作品で、要塞のようになっています。単純なジオラマでなくパソコンと融合させている発想が楽しめました。

宇治茶 「燃える仏像人間」
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これは劇メーションという原始的なアニメのような映像作品。楳図かずおや漫☆画太郎のような濃い絵柄と、仏像人間というシュールな物語に魅力を感じますw これは是非観てみたい。

↓これを劇メーションに使ったのかな? かなりの数のキモい仏像人間が展示されていました。
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最後の手段(有坂 亜由夢/おいた まい/コハタ レン) やけのはら 「RELAXIN’」
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こちらはタイトル通りゆるい雰囲気のミュージックビデオ。普通の部屋が写されたりアニメが出てきたりするのですが、部屋のものがひとりでに動き出すようなコマ割りの動画が目を引きました。こんなに沢山のものを少しずつ動かして撮ったのか…と素直に驚きます。

参考:youtube


リラクシンのアニメに使われた絵も展示されていました。
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河野 通就/星 貴之/筧 康明 「lapillus bug」
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これはコバエのようなものがブンブン飛んでいる作品。見た目や動きはコバエそのものといった感じですが、実はただの粒で、超音波の力で空中を舞っているという作品。ペンライトで照らした所に寄ってきたり、本当に生きているように見えるのが驚きでした。

本多 大和/泉 聡一/市川 葵/割石 裕太/佐々木 晴也/矢吹 遼介  「FONTA」
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これはウェブサイトでフォントを作るという作品。7000人が参加しているそうで、ユニークな文字が集まっていました。本の装幀やフォントは古くから芸術家も取り組んでいただけに、この取組は価値あるものだと思います。
 参考リンク:http://fonta.kayac.com/

なんも(柳原 隆幸) 「TorqueL prototype 2013.03 @ E3」
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こちらは転がったり柱を伸ばしてゴールを目指すゲーム。見た目はシンプルですがかなり難しく、クリアするのは至難の業w こういうゲームが一番熱中してしまいそうです。


<アニメーション部門>
続いてはアニメ部門。こちらも大賞は何でこれなんだろ?という感じだったので、それ以外をご紹介します。

鋤柄 真希子/松村 康平 「WHILE THE CROW WEEPS ―カラスの涙―」
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こちらはカラスを通じて生きることをテーマにした作品。全部は観られないのですが、寂しげでどこか神秘的な雰囲気の映像で心惹かれるものがありました。

撮影禁止でしたが「ヱヴァンゲリヲン 新劇場版:Q」も展示されていました。
 参考記事:
  映画「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」(ややネタバレあり)
  エヴァンゲリオン展 (松屋銀座)


<マンガ部門>
最後はマンガ部門。ここが一番人が集まっていて、全然進みませんでした(皆、原画を読んでいる為かなw)

 「ジョジョリオン ―ジョジョの奇妙な冒険 Part8―」
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今回の大賞はジョジョでした。昨年25周年とアニメ化があったこともあり再評価されているジョジョですが、8部が今回の受賞大賞だったようです。正直、遅すぎるくらいじゃないかなw 8部の最初の方の原画も展示されていました(原画は撮影禁止)

 参考記事:
  Japan Original Beauty (『ジョジョの奇妙な冒険』とのコラボレーション)(資生堂銀座ビル 花椿ホール)
  ジョジョの奇妙な冒険25周年記念「荒木飛呂彦原画展 ジョジョ展」 (森アーツセンターギャラリー)
  【番外編】荒木飛呂彦原画展 ジョジョ展 in S市杜王町 (せんだいメディアテーク)


バスティアン・ヴィヴェス/訳:原 正人 「塩素の味」
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こちらはフランスの漫画。日本とは違ったテイストで、色使いや平面的な表現が絵画的で興味を引かれました。


ということで、今回は特にエンタメ部門を楽しんできました。4つの部門いずれも明確な面白さがあるので、美術展とはまた違った面白味があります。もうすぐ終わってしまいますが、おすすめの展示です。


 参照記事:★この記事を参照している記事



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モネ、風景をみる眼―19世紀フランス風景画の革新 (感想後編)【国立西洋美術館】

今日は前回に引き続き国立西洋美術館の「国立西洋美術館×ポーラ美術館 モネ、風景をみる眼―19世紀フランス風景画の革新」についてです。前編には混み具合も記載していますので、前編をお読みになっていない方はそちらから読んで頂けると嬉しいです。

  前編はこちら

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まずは概要のおさらいです。

【展覧名】
 国立西洋美術館×ポーラ美術館 モネ、風景をみる眼―19世紀フランス風景画の革新

【公式サイト】
 http://www.tbs.co.jp/monet-ten/
 http://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2013monet.html

【会場】国立西洋美術館
【最寄】上野駅(JR・東京メトロ・京成)

【会期】2013年12月7日(土)~2014年3月9日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日13時半頃です)】
 混雑_①_2_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_③_4_5_満足

【感想】
前編では2章までご紹介しましたが、後編では3~5章について書いていきます。なお、前編同様にこの記事で使用している写真は以前に西洋美術館の常設展示で撮影したものです。今回の展示は特別展なので撮影はできません。

 参考記事:
  ポーラ美術館コレクション展 印象派とエコール・ド・パリ 感想前編(横浜美術館)
  ポーラ美術館コレクション展 印象派とエコール・ド・パリ 感想後編(横浜美術館)
  ポーラ美術館の常設(2010年秋)
  ポーラ美術館の常設(2009年春)


<Ⅲ 反映と反復>
3章は2章と同じく風景画を中心に、象徴的要素のある作品が並んでいました。印象派の活動が終焉を迎えると、時代は彼らの自然主義を批判し、より内面的な表現を求める象徴主義が活発になっていったそうで、後期のモネは連作形式やモティーフの反復、水面の反映像などを用いつつ、自然に内在する造形や詩的な喚起力を絵画空間における装飾的、象徴的要素として活かし始めたそうです。ここにはそうしたモネの作品や象徴主義の画家の作品が並んでいました。

55 56 クロード・モネ 「グラジオラス」
ほぼ同じような絵画が2点 同じ構図で描かれていて、日本の陶器らしき花瓶に黄色いグラジオラスの花が一輪入っている様子が描かれています。縦長で平面的な感じで、モティーフも含めて当時ブームだった日本美術から影響を受けているようです。背景は萌え立つような抽象的な感じで、空間なのか壁なのか分かりません(この辺も日本っぽく感じるかな) 色合いのせいか象徴主義の作品との共通点もあるように思いました。

59 クロード・モネ 「陽を浴びるポプラ並木」 ★こちらで観られます
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これは水辺のポプラ並木を描いた連作の1つで、手前に背の高い木3本、その奥にはS字のカーブに並ぶ並木が見えています。そのリズムが何とも心地よく、明るい色彩から陽光が感じられました。爽やかな雰囲気なので人気のシリーズです。

65 クロード・モネ 「セーヌ河の朝」
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川とその両岸の木々を描いた作品で、川の上で描いたと思われる視点となっています。水平線が曖昧になるくらいぼんやりした明るさが今までの強い光とは違った印象を受け、象徴性の感じられる作品のようでした。

この近くにはコローの「ナポリの浜の思い出」や シャヴァンヌの「貧しき漁夫」、ピカソの「海辺の母子像」、ルドンの「ヴィーナスの誕生」などもありました。いずれも素晴らしい作品なので、モネ展としてではなくそれ相応の展覧会として出して欲しいかなw


<Ⅳ 空間の深みへ>
続いては下階の4章で、モネが晩年に魅せられた水面の表現についてです。モネはジヴェルニーで後半生を過ごし、自宅の庭、特に睡蓮の池を中心として数多くの作品を残りました。当初は描き込まれていた周囲の草木や太鼓橋はモネの目から姿を消し、やがて光と影が揺らめく水面だけで画面を覆うようになりました。ここにはそうした水面を描いた作品や、モネが敬愛し共同で展示を行ったロダンの水に関する作品、世紀末に隆盛したアール・ヌーヴォー(のガレのガラス器)などが並んでいました。 …うーん、ちょっと無理矢理な感じが…。モネ展って言わなきゃ良いのにw
 参考記事:番外編 フランス旅行 ジヴェルニー モネの家

72 クロード・モネ 「バラ色のボート」 ★こちらで観られます
ピンク~朱色の明るい色のボートに、ピンクのドレスを着た2人の女性が乗って舟遊びしている様子が描かれた作品です。周りは緑や茶色で水面を表し、渦がうねるような感じに見えます。岸か水面か曖昧な感じになっているところが抽象的で、筆もかなり大胆なタッチとなっていました。

近くにはモネと同様に日本美術から影響を受けたガレの花器や、ロダンの作品もありました。

75 クロード・モネ 「睡蓮」 ★こちらで観られます
これはモネの作品の中でも最も有名な連作の1つで、水に浮かぶ睡蓮の葉っぱと花が描かれています。水面には反射した木が映っていて、全体的にまだ精緻な感じを受けすっきりした印象を受けます。この隣にはその9年後に描かれた睡蓮が展示されていたのですが、そちらはオランジュリー美術館の習作と考えられるらしくかなり大胆で作品自体も大型となっていました。
 参考記事:番外編 フランス旅行 オランジュリー美術館とマルモッタン美術館

少し先にはロダン展(モネと2人で開催)のカタログなどもありました。ロダンはこの時、新作だった「カレーの市民」をモネの主要作品の前に置いたそうで、そのことについてモネと怒鳴り合いの喧嘩になったそうですが、その後も2人の親交は続いたそうです。


<V 石と水の幻影>
最後は1890年代から1900年代にかけてモニュメンタルな建造物を描いた幻想的な都市風景を描いた作品のコーナーです。

87 クロード・モネ 「国会議事堂、バラ色のシンフォニー」 ★こちらで観られます
これはロンドンに行った際に描いたイギリスの国会議事堂で、全体的にピンクと水色の色合いで霧がかった感じとなっています。国会議事堂はシルエットとなっているのが幻想的で、どちらかと言うと建物より大気を描いたようにも感じられられました。

この近くには同じくロンドンのウォータールー橋を描いた作品もありました。

86 クロード・モネ 「ルーアン大聖堂」
これは繰り返し描いたルーアン大聖堂の連作の1つで、午後の夕日の時間帯の大聖堂が描かれています。ぼんやりとした陽光を感じる一方で、重厚なゴシック様式の大聖堂が描かれているため、堅牢さと揺らめくような光が合わさった面白さがありました。これは連作を並べてみるとより面白いのですが、今回は1点のみなのがちょっと残念。

90 クロード・モネ 「サルーテ運河」
これはヴェネツィアで描いた作品で、運河とその両脇の家や壁が描かれています。水面には景色がぼんやりと反射して抽象性があるる一方で、建物は意外とくっきり描かれていてその表現の違いがその後の作品を考えると興味深かったです。

最後にはシニャックやマルタン、ドンゲンなどの作品もありました。また、松方コレクションの松方幸次郎とモネの交流についての解説などもありました。


ということで、実際にはモネ展というよりは印象派とその前後の時代展といった趣きで、西洋美術館の常設とポーラ美術館の常設が一気に観られるような展示でした。逆に言うと、わざわざこのタイトルで特別展にする必要があったのかな?という感じで、普段の西洋美術館の常設で観られるものが半分くらいありました。(今は改装中です) とは言え、良い作品が多いのは確かなので、これを機に美術館に足を運んでみようという方にはお勧めできる展示だと思います。


 参照記事:★この記事を参照している記事


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モネ、風景をみる眼―19世紀フランス風景画の革新 (感想前編)【国立西洋美術館】

前回ご紹介した展示を観る前に、国立西洋美術館の特別展「国立西洋美術館×ポーラ美術館 モネ、風景をみる眼―19世紀フランス風景画の革新」を観てきました。これは注目されている展示となっておりますので、前編・後編に分けてご紹介していこうと思います。

P1140629.jpg

【展覧名】
 国立西洋美術館×ポーラ美術館 モネ、風景をみる眼―19世紀フランス風景画の革新

【公式サイト】
 http://www.tbs.co.jp/monet-ten/
 http://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2013monet.html

【会場】国立西洋美術館
【最寄】上野駅(JR・東京メトロ・京成)


【会期】2013年12月7日(土)~2014年3月9日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日13時半頃です)】
 混雑_①_2_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_③_4_5_満足

【感想】
混んでいてチケット購入までに10分程並びました。中もかなりの混み具合で、あちこちで人だかりが出来るなど、人気の展示となっていました。

さて、今回の展示は「印象派」の代表的な画家で、その語源ともなった作品を描いたクロード・モネを主役とした展示です。モネ展はちょくちょく開催されていますが、今回は国立西洋美術館とポーラ美術館の所蔵品から集めた内容で、モネは1/3くらいで他は同時代とその前後の有名画家の作品となっておりました(モネ展というよりは印象派展といった感じかも) 5つの章に分かれていましたので、詳しくは各章ごとにモネ作品(特にポーラ美術館の所蔵品)を中心にご紹介していこうと思います。 なお、この記事で使用している写真は以前に西洋美術館の常設展示で撮影したものです。今回の展示は特別展なので撮影はできません。

 参考記事:
  ポーラ美術館コレクション展 印象派とエコール・ド・パリ 感想前編(横浜美術館)
  ポーラ美術館コレクション展 印象派とエコール・ド・パリ 感想後編(横浜美術館)
  ポーラ美術館の常設(2010年秋)
  ポーラ美術館の常設(2009年春)


<Ⅰ 現代風景のフレーミング>
モネは1840年代にパリに生まれ、ノルマンディーの港町ルアーブルに育ち、そこで出会ったブーダンによって風景画に開眼しました。やがてパリで画家の道を歩みだし、戸外制作に励みながら1874年からグループ展を開催して行きました。ここにはモネに影響を与えた画家や印象派の仲間の作品と共に風景画が並んでいました。

1 クロード・モネ 「並木道(サン=シメオン農場の道) 」
DSC_13165.jpg
これはバジールと共に訪れたノルマンディ地方の農場を描いた作品で、並木道とその奥の家が見える光景です。落ち着いた色合いはモネというよりはコローに通じるものを感じるかな。道に落ちた木漏れ日の表現など光を感じさせる表現は見事でした。

この近くにはコローの作品もありました。

8 クロード・モネ 「セーヌ河の支流からみたアルジャントゥイユ」
恐らく川の上の船で描いたと思われる構図の作品で、川の中央にボートに乗る人が描かれています。奥にもヨットやボートに乗った人の姿があり、雲の色合いはやや暗く背の高い木がなびいているのでちょっと天気が悪そうな感じです。その場の空気感まで伝わるようなのにタッチは粗めなのが面白かったです。

6 クロード・モネ 「散歩」
日傘を差している女性と、その後ろにいる女性と子供を描いた作品です。背景には背の高いポプラ並木と草原が広がり、人の顔は詳細が描かれていないなどかなり粗めのタッチですが、色合いが明るく緑や青が鮮やかです。まるで光に包まれているような表現はまさに印象派といった感じでした。

この近くには同時代のマネの作品もありました。

17 アルフレッド・シスレー 「セーヴルの跨線橋」
これは煙をあげて右から左へと走っていく汽車と、その先にある跨線橋を描いた作品です。手前にはカーブしていく道が描かれ、やや暗い色合いが多いように思えますが、煙のもくもくした表現や近代化を感じさせるモチーフなど印象派の特徴がよく現れているように思いました。

この近くには鉄道や工業化を描いた作品が並んでいました。印象派の時代は近代へと移り変わっていった様子が伺えます。

15 クロード・モネ 「サン=ラザール駅の線路」 ★こちらで観られます
これは駅というか車両基地のようなところが描かれた作品で、画面全体を蒸気がゆらめき ぼんやりと機関車の姿が浮かんでいます。近代的なモチーフを叙情的に描いている点や、実体の無い蒸気を光と影で表現している点などはモネらしく思います。この駅で描いた作品は名作が多いです。


<Ⅱ 光のマティエール>
1880年代にモネは近代生活の画題から離れ、転居先のヴェトゥイユやジヴェルニーで身近な田園風景を描く一方で、より力強く原初的な自然の姿を求めてフランス各地への旅を繰り返したそうです。野山や海辺にイーゼルを立て、刻々と変わり行く光の効果を飽きずに追いかけて描き、やがてそれぞれのモティーフに光が生み出すマチエール(質感)へと接近していったようです。この章では1880~90年代を中心に光のマチエールを色彩と筆触で表現するモネの探求を考察するとともに、次の世代の光と色彩の探求を取り上げていました。

25 ジャン=バティスト=カミーユ・コロー 「森のなかの少女」
水辺の道とそこで振り返る少女が描かれ、その目線の先には川の中にいる牛が描かれています。全体的にぼんやりしていて、木々はかすむように表現されているのはコロー独特の表現です。やや幻想的にも思えてくるほど詩情あふれる光景となっていました。

この辺にはコローから影響を受けた印象派の画家たちや同時期からやや後の時代の作品が並んでいました。シスレー、ピサロ、クールベ、ゴッホといった感じでちょっと方向性がバラバラな展示内容かもw

38 カミーユ・ピサロ 「エラニーの花咲く梨の木、朝」
これは点描を取り入れた頃のピサロの作品で、梨の木と手前の柵、奥には家が描かれています。全体的に細かい点で表現され、スーラやシニャックといった年下の画家からも学んでいたことが伺えます。ピサロの点はその2人に比べてさらに点が細かく緻密な感じかな。のどかな風景を当時最先端の手法で表現していました。

近くにはエドモン・クロスやボナールの点描風の作品もありました。

30 クロード・モネ 「ジヴェルニーの積みわら」 ★こちらで観られます
これは有名な連作の1つで、緑と黄色の草原の上に3つの積みわらが並んでいる様子が描かれています。奥には背の高いポプラ並木があり、全体的に強い日差しを感じる明るい色彩となっています。結構写実的に描かれているようにも思いますが、真昼間の光を捉えた感じが良く出ていました。

この近くにはモネの「セーヌ河の日没、冬 」もありました。

42 クロード・モネ 「エトルタの夕焼け」
これは故郷ノルマンディー地方の海辺を描いた作品で、左の方には断崖の岩山があり手前には3艘の船が入り江に置かれています。空の雲はオレンジ~ピンクに染まり、夕焼けの風景のようです。太陽自体は描かれていませんでしたが、光の表現が見事で、自然の驚異と温かみの両方が感じられる雰囲気となっていました。

54 ピエール=オーギュスト・ルノワール 「ムール貝採り」
これは振り返って立つ籠を背負った女性と、ムール貝を入れた籠を持つ小さな子供たちを描いた作品です。2人の女の子は手をつないでいるなど非常に可愛らしく、背景の海も柔らかな色合いで青やピンクに染まっていることもあり、温かみが感じられます。ルノワールらしい観るものを幸せにする作品でした。


ということで今日はここまでにしようと思います。モネの割合が低いものの、2つの美術館の名品が並んでいる感じでした。後編も有名作が並んでいましたので、次回は残り半分をご紹介していこうと思います。


  → 後編はこちら



 参照記事:★この記事を参照している記事


 


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エドヴァルド・ムンク版画展 【国立西洋美術館】

この前の日曜日に、上野の国立西洋美術館で展示を観てきました。特別展は記事を作成中なので、先に常設展の「生誕150周年記念 国立西洋美術館所蔵 エドヴァルド・ムンク版画展」をご紹介しようと思います。

P1140639.jpg

【展覧名】
 生誕150周年記念 国立西洋美術館所蔵 エドヴァルド・ムンク版画展

【公式サイト】
 http://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2013munch.html

【会場】国立西洋美術館 版画素描展示室
【最寄】上野駅(JR・東京メトロ・京成)


【会期】2013年12月7日(土)~2014年3月9日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 0時間30分程度

【混み具合・混雑状況(日曜日15時半頃です)】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
お客さんは結構いましたが、混んでいるわけではなく快適に鑑賞することができました。
さて、今回は「叫び」などで有名なムンクの版画を集めた展示で、2013年はムンクの生誕150周年だったらしく、生国のノルウェーでは空前のムンク回顧展が開かれていたようです。 

ムンクが版画制作に取り組み始めたのは1894年のベルリン滞在中で、安価な版画を通じて顧客を増やすことを目的としていたようです。しかし油彩の再生産にとどまらず新しい要素を加えた技法の工夫を試み、30代はじめから50年間に渡って約850点の作品を残したそうです。今回はそうした作品の中から34点が展示されていました。今回も版画室は写真を撮ることができましたので、写真を使ってご紹介していこうと思います。


エドヴァルド・ムンク 「病める子ども」
P1140642_20140205004150a9f.jpg
これは最も早い版画作品で、初期の油彩作品を左右反転させたものです。ムンクは姉を14歳の頃に亡くしていて、その追憶をこの作品に込めているようです。少女は顔が真っ白でいかにも病的な感じかな。暗く哀しい雰囲気がありました。

エドヴァルド・ムンク 「接吻」
P1140645.jpg
裸で抱き合う男女が官能的で退廃的な雰囲気に感じられます。ムンクらしいテーマかな。

エドヴァルド・ムンク 「ヴァンパイアⅠ」
P1140648.jpg
これは吸血鬼と呼ばれているシリーズですが、吸血鬼を描いたのではなくこのポーズに由来しているためだったと記憶しています。とは言え確かに女性の目がそれっぽいかなw ムンクの女性観が現れているようにも思えました。

エドヴァルド・ムンク 「マドンナ」
P1140661.jpg
これは油彩でも5点の類似作があるリトグラフ。目が闇のようになっているのが恐ろしく死を彷彿としますが、額縁のように精子と胎児のようなものも描かれ生を感じさせる要素もありました。この精子と胎児はリトグラフのみの特徴のようです。

エドヴァルド・ムンク 「眼鏡を掛けた自画像」
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ムンク自身を描いた自画像。先入観かもしれませんが、ちょっと神経質そうな雰囲気があるように見えます。

エドヴァルド・ムンク 「光に向かって」
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これはオスロ大学の壁画の習作を発表した1914年の展覧会のポスターの図案。輝く太陽と覚醒する人間をモチーフにした希望を感じさせる作品で、色合いも明るめとなっていました。

展示の後半は版画集[アルファとオメガ]が並んでいました。ムンクは1908年に重い神経衰弱を患いコペンハーゲンの療養所に入院したそうで、医師のすすめでこの物語を作りました。18点の版画と2点の表紙、2点の小挿絵から成り、アダムとイブの物語に基いているようですが、若干狂気を感じる内容となっていました…。

エドヴァルド・ムンク 「アルファとオメガ 版画集[アルファとオメガ]より」
P1140693.jpg
こちらはアルファ(男)とオメガ(女)の出会いのシーン。オメガがアルファに興味を持ち羊歯の葉っぱでツンツンつついて起こしています。

エドヴァルド・ムンク 「月の出 版画集[アルファとオメガ]より」
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アルファはオメガを愛し、2人は身を寄せているところ。十字架のような月の表現はムンクの作品でよく出てきます。

この後、2人は森のなかへ入って行きました。

エドヴァルド・ムンク 「熊 版画集[アルファとオメガ]より」
P1140708.jpg
左はハイエナに月桂樹の冠を与えているオメガ、右は熊と戯れている様子。他にも蛇や虎、ロバ、ダチョウなどとも関係し、お互いに争ったりしています。この辺りの物語はムンクが恋した女性にとってムンクは愛人の1人に過ぎなかったというエピソードを思い起こさせました。

エドヴァルド・ムンク 「アルファの子供たち 版画集[アルファとオメガ]より」
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これはオメガの子どもたち。豚や蛇や猿や野獣など色んなところで子供ができたようですが、アルファを父と呼んで集まってきました。

エドヴァルド・ムンク 「オメガの死 版画集[アルファとオメガ]より」
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ついにアルファはオメガを殺してしまった場面。愛憎の交じり合った感情もムンクの心情を反映しているんじゃないかな。

エドヴァルド・ムンク 「アルファの死 版画集[アルファとオメガ]より」
P1140746.jpg
アルファもオメガの死後すぐにオメガの子供たちに襲われ、その場で引き裂かれました。こうして「ろくでもない連中」がこの島を満たしたそうです。


ということで、版画作品ながらもムンクの心情が伺えるような内容だったように思います。この版画室はいつも興味深い展示をやっているので、西洋美術館の特別展を観に行く際には合わせて観ることをお勧めします。


 参照記事:★この記事を参照している記事

 
 


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ジョセフ・クーデルカ展 (感想後編)【東京国立近代美術館】

今日は前回に引き続き東京国立近代美術館の「ジョセフ・クーデルカ展」についてです。(この展示は既に終了しています) 前編は初期からご紹介しておりますので、前編をお読み頂いていない方は前編から読んで頂けると嬉しいです。


  前編はこちら


P1140398_20140204013703d3b.jpg

【展覧名】
 ジョセフ・クーデルカ展

【公式サイト】
 http://www.momat.go.jp/Honkan/koudelka2013/

【会場】東京国立近代美術館
【最寄】竹橋駅

【会期】2013年11月6日(水)~2014年1月13日(月)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間00分程度

【混み具合・混雑状況(日曜日14時頃です)】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
前編では亡命前の初期の作品をご紹介しましたが、後編はワルシャワ条約機構軍の侵攻の前後から現在に至るまでの時代についてです。


<4 ジプシーズ Gypsies 1962-1970>
「ジプシーズ」はジョセフ・クーデルカの最初の大きなテーマを持った連作で、ほとんどは1960年代に主としてスロバキアとルーマニアにあるロマ(ジプシー)の居留地で撮影されました。これには膨大な写真が含まれ、その中にはドキュメンタリーもあれば個々の独立した作品、複数の写真で構成されるフォトストーリーなど様々なものがあるようです。 そしてこのシリーズでは同時期の演劇写真と同様に現実を生き生きとした可塑的で可変的な素材として扱い、彼自身の作品として明確な形を与えていたようです。シリーズの初期に撮影された写真は1967年に「門のむこう」劇場のロビーで展示されたそうで、現在ではこの作品は写真史における古典の1つと位置づけられているようです。なお、この作品はジプシーについて正確かつ客観的に記録したものではないそうですが、写真家の個人的なヴィジョンとして提示されたものが並んでいました。

タイトル通りいずれもロマの人々を撮った作品で、家族と一緒にいたり楽器を演奏している姿が撮られ、意外と家の中を撮った写真が多く放浪している感じはしません(居留地だからかな) 特に子供の写真が多くて、生き生きとした感じが伝わってくるのですが、一方ではどこか寂しげで儚い印象も受けました。結構写真に向かってポーズをとっていたり、抱き合ったりしているので生活をそのまま撮ったというよりはカメラを向けて若干演出している感じもするかな。 また、このシリーズは実験的なものや劇場を撮ったものなどの抽象的な作風とは違い、くっきりと写実的な作風となっていました。


<5 侵攻 Invasion 1968>
続いてはジョセフ・クーデルカの運命を大きく変えたワルシャワ条約機構軍のプラハ侵攻を撮った作品のコーナーです。(ここは点数少なめ) 「侵攻」はジョセフ・クーデルカの中でも最も写実性の高い作品で、プラハの春と呼ばれるチェコスロバキアにおける政治改革(自由改革)を抑えこむために1968年8月にソ連を主とするワルシャワ条約機構軍が軍事介入した様子を捉えています。このシリーズの目的はその軍事介入を可能な限り正確に伝えるためにあり、プラハ侵攻1周年に際して初めて各国の雑誌に匿名で掲載されました。ジョセフ・クーデルカはジャーナリストではありませんが、このシリーズは第二次大戦以降のフォトジャーナリズムにおいて最高傑作の1つと評されるほどらしく、彼の写真はチェコスロバキアの悲劇に留まらずあらゆる地域の軍事介入のシンボルとなっていきました。 しかし一連の作品は本国チェコスロバキアでは1990年まで発表されることは無かったそうで、彼自身もこの作品を発表後に亡命するなど、当時は非常に苦しい立場だったことが伺えます。
 参考記事:ジョセフ・クーデルカ 「プラハ1968」 (東京都写真美術館)

街中の戦車をじっとみているアパートの人たち、兵士に抗議をする人、旗を持って歩く英雄的な人、市民に銃を構える兵士など、劇的で憤りや不安が見事に表われた写真が並んでいました。とは言え、この章だけ点数が少なめだったのはちょっと残念。


<6 エグザイルズ Exiles 1970-1994>
続いては漂流者を意味する「エグザイル」のシリーズです。流浪という支店はクーデルカの作品世界を新たな段階へと導いたそうで、プラハ侵攻をきっかけに1970年にイギリスに亡命した亡命者の視点から捉えられた写真は、ノスタルジーや内省、疎外感に満ちていて、切り離され追放された立場の自らの感情を吐露しているようです。

このシリーズは写実性が高いものの たまに影絵のような作品もあり、かつての初期の作風を彷彿とさせるものもありました。 打ち捨てられた材木、ベンチで死んだように寝る人、暗闇に舞い散る雪、切り刻まれた人物のポスター、長い影の人々、誰もいない町の中のヤギ、片足がなく杖をつく人の後ろ姿、うらぶれた路地、逆さ吊りになった鳥、何もない草原 などとにかく寂しげなものが多く、漠然とした不安を覚えるモチーフが主となっています。構図の面白さはあるものの、内面的な部分が強調されているように思いました。


<7 カオス Chaos 1986-2012>
最後は現在に至るまでのコーナーです。ジョセフ・クーデルカは1986年からパノラマカメラを使い始めたそうで、それによって彼のスタイルは根本的な変化がもたらされました。 その成果の1つが破局にある自然の風景を捉えた黙示録的な写真シリーズで、それは永劫に消滅しつつある世界についての暗い前兆・警告というべきものを提示したようです。このシリーズはカオスという表題の元にゆるやかにまとめられ、人間と環境の間の関係のもろさを示すと同時に、破壊を恐れつつ魅了されもする人間の性向を表しているようです。

ここには大型の作品が多く、自然の雄大さを感じるものもあれば、廃墟や古代文明の遺跡などもあり、確かにテーマは多様に感じられました。ギリシアの倒れて分解した石柱や、イスラエルの靄に包まれた戦車、フランスの激しい波の海と堤防、イスラエルの壁の壊れた家と荒野、ドイツの尾根と谷が幾重にも並んだ山、イギリスの長い↑矢印(ポスターにもなった作品)、ごみだらけの川、レバノンの破壊されたマンションのような建物とその前の道を歩く人など その大半は荒涼として寒々しい感じを受けました。カオスというよりはまさに黙示録と言えるのではないかな。エグザイルと根底は同じようにも思えました。


ということで、以前観たプラハ侵攻関連の写真展以降 気になっていた写真家だっただけに今回はそれ以外の作品も多数観られて貴重な機会でした。てっきり報道写真がメインなのかと思っていましたが、ジプシーやエグザイルを観るとそれだけではないことがよく分かりました。もうこの展示は終わってしまいましたが、今後も注目したい写真家です。


 参照記事:★この記事を参照している記事


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■2011/9/29
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■2009/10/28
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