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2017年の振り返り

今年も残す所あと1日となりましたので、2017年の展覧会を振り返って終わりにしようと思います。今年も多くの展示を観てきましたが、特に気に入った展示をベスト10をご紹介しようと思います。

参考記事:
 2014年の振り返り
 2013年の振り返り
 2012年の振り返り
 2011年の振り返り
 2010年の振り返り
 2009年の振り返り

カウントダウン方式で行こうかと思ったけど勿体ぶるほどでも無いので1位から行きますw 例年はジャンル別で発表していましたが、今年はガチンコでどれが良かったか選んでみました。基本的に私は個展が好きで、テーマ展は相対的に順位が下がる傾向があります。

1位:ニューヨークが生んだ伝説 写真家 ソール・ライター展 (Bunkamura ザ・ミュージアム)
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今年一番刺さったのはソール・ライター展でした。非常に洗練された視点が面白く、こんな素晴らしい写真家を知ることができて本当に嬉しいです。今でも図録を観て反芻しています。

2位:運慶 (東京国立博物館 平成館)
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これだけの展示は滅多に無いだろうという貴重で傑作揃いの凄い展示でした。八大童子や無著菩薩立像・世親菩薩立像など未だに鮮明に覚えているので、今後も記憶に残っていきそうな印象深い展示でした。

3位:安藤忠雄展―挑戦― (国立新美術館)
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こちらは音声ガイドでの安藤氏の語りも含めて非常に楽しめました。実物大の光の教会も再現されているなど、今年も多くあった建築展の中でも特に充実した内容だったと思います。

4位:カッサンドル・ポスター展 グラフィズムの革命(埼玉近代美術館) ※ブログ再開前で記事なし
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元々カッサンドルが好きだったので、こうした機会があったのが非常に嬉しかった展示です。大判ポスターや図録も買って、部屋に飾っています。カッサンドルの魅力を十二分に楽しめる内容でした。

5位:没後40年 熊谷守一 生きるよろこび (東京国立近代美術館)
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こちらも熊谷守一の決定版と言えるほどの充実ぶりで、初期から晩年まで画風の変遷がよく分かるようになっていたのも良かったです。

6位:レアンドロ・エルリッヒ展:見ることのリアル (森美術館)
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こちらは体験型の作品が多くて、一種のテーマパークのような楽しさがありました。むしろどこかで常設して欲しいくらいw 現代アートも楽しいなと思える展示でした。

7位:装飾は流転する 「今」と向きあう7つの方法 (東京都庭園美術館)
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こちらは作品が庭園美術館と一体化するように展示されていたのが良かったです。久々に館内で写真を撮れたというのも満足度が高い理由ですがw

8位:草間彌生展「わが永遠の魂」(国立新美術館) ※ブログ再開前で記事なし
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草間彌生の展示は最近よく観る気がしますが、こちらは部屋中を埋め尽くすように並んだ作品が圧巻でした。

9位:ゴッホ展 巡りゆく日本の夢 (東京都美術館)
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今年6月にアルルでゴッホのゆかりの地を訪れたこともあり、この展示ではそれを思い出しながら観ることができました。また、この展示を観る前日にゴッホの映画を観たのもあって、全てが展覧会で繋がった感じでした。非常に個人的な理由ばかりですが、展覧会自体も日本との関係性がよく分かり面白かったです、

10位:生誕140年 吉田博展 山と水の風景 (東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館)
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この展示は2016年にも郡山で観ていたので、ベスト10に入れるか迷いましたがランクイン。やはり作風自体の良さに加えて画業の変遷を観ることができたのが良かったです。


番外編:
今回のベスト10は関東限定にしましたが、関東以外でも素晴らしい展覧会に行くことができました。特に国宝展は伝説級のラインナップだったと思います。
 国宝 (京都国立博物館)京都編
 阿修羅 天平乾漆群像展 (興福寺仮講堂)奈良編

次点:
以下はベスト10に入れようか迷った展示。他にも良い展示は色々あったのですが、下記は印象深かった展示ばかりです。
 THE ドラえもん展 TOKYO 2017 (森アーツセンターギャラリー)
 皇室の彩 百年前の文化プロジェクト (東京藝術大学大学美術館)
 江戸の琳派芸術 (出光美術館)
 シャセリオー展―19世紀フランス・ロマン主義の異才(国立西洋美術館)
 届かない場所 高松明日香展 (三鷹市美術ギャラリー)
 雪村-奇想の誕生 (東京藝術大学大学美術館) 

奥さんのベスト5:
普段一緒に展示を周っている奥さんにも選んで貰いました。割と私のヒップアップに近い気がしますが、今年は新しめの作家の展示が充実していたと考えているようです。
 1位:レアンドロ・エルリッヒ展:見ることのリアル (森美術館)
 2位:届かない場所 高松明日香展 (三鷹市美術ギャラリー)
 3位:運慶 (東京国立博物館 平成館)
 4位:装飾は流転する 「今」と向きあう7つの方法 (東京都庭園美術館)
 5位:ヴォルス――路上から宇宙へ(DIC川村記念美術館)


ということで、今年も沢山のアートに出会うことが出来ました。これだけ好きなものを観られるというのは本当に幸運なことだと思います。来年はどうなるか分かりませんが、面白そうな展示が目白押しのようですので、今年と同様に観ることができればと考えています。 このブログを読んで頂いる皆様にも今後もできるだけ情報を還元していく所存です。 また来年もよろしくお願い致します。良いお年を。


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オルビス30周年記念「ケの美」展 【ポーラミュージアム アネックス POLA MUSEUM ANNEX】

先週の土曜日に、銀座のポーラミュージアム アネックスで、オルビス30周年記念「ケの美」展 を観てきました。この展示は既に終了していますが、撮影可能でしたので、写真を使ってご紹介しておこうと思います。

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【展覧名】
 オルビス30周年記念「ケの美」展 

【公式サイト】
 http://www.po-holdings.co.jp/m-annex/exhibition/archive/detail_201711.html

【会場】ポーラミュージアム アネックス POLA MUSEUM ANNEX
【最寄】銀座駅

【会期】2017年11月17日(金)~12月24日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 0時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_③_4_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_③_4_5_満足

【感想】
結構お客さんがいましたが、快適に鑑賞することができました。

さて、今回の展示は「ケ」の美ということで、著名人14名による日常で使用する品々が並ぶ内容となっています。「ケ」は「ハレとケ」の晴れじゃない日のことで、要するに日常ということです。(3つ目にケガレという概念を追加すべきという意見もあります) この概念がいつからあるのか分かりませんが、調べてみると柳田國男が見出したとされていますが、実際にはもっと前の江戸時代よりも前からある概念のようです。美術館では圧倒的にハレの日をテーマにした作品が多いですが、今回はあえてケの日をテーマにしていて、どこかほっとするような品々が並んでいました。冒頭に書いたようにこの展示は撮影可能でしたので、詳しくは写真を使ってご紹介していこうとおもいます。

<小川 糸(おがわ いと)/ 作家>
「鉄瓶とミトン」
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このミトンはラトビアのもので、ラトビアでは結婚式の引き出物として贈られるくらいミトンは特別なものなのだとか。一方の鉄瓶は25年使っているそうで、年季が入っていますが優美な印象を受けました。


<塩川 いづみ(しおかわ いづみ)/ イラストレーター>
「クマのポーチ」
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可愛いクマのポーチ。こちらも結構な年季の入り方ですが中学生の頃から使っているそうです。ハレの日だけでなくケの日も人生を共にしている品って特別な愛着があるだろうと想像に難くありません。

塩川氏の他の日常の品々の写真。
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素朴だけどどこか懐かしいような品々です。


<小山 薫堂(こやま くんどう)/ 放送作家・脚本家>
中川周士 「狐桶」
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これはハレの日に使うものじゃないのかってくらい洗練されたデザインですw 日常にこういう洒落た品があると楽しそう。祇園の芸妓さんに「ものを丁寧に扱うと、その人の動作が優雅にみえる」と言われたそうで、繊細な桶だけに大事に扱うようになり、お湯を大切に思えるようになったそうです。


展示室の奥には「みんなのケ」というコーナーがありました。
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手前のつまみとボタンで映像が変わります。

こちらがつまみとボタン。
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朝食・場所・漢字のうち1つのボタンを押すと、つまみに応じた年代の「ケ」の写真が映るという仕組みです。

こちらは三十代くらいの朝食
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正直、あまり他の年代と違いがない気がしますw 場所のボタンが最も年代差があったように思いました。

<土井 善晴(どい よしはる)/ 料理研究家>
「一汁一菜のひとそろい。」
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料理研究家らしく料理の原点と言えそうな一揃え。しみじみとした幸せが重要だという考えは今回の出品者たちの共通点と言えそうですが、これは特にそれを感じさせてくれるかな。

土井氏のその他の日常の品々の写真。
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何か変わった具材が入っているようにも思えますw

<原田 郁子(はらだ いくこ)/ 「クラムボン」ミュージシャン>
「イヤフォン」
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こちらはミュージシャンらしい音楽関係の品。補聴器屋さんに自分の耳の形に合わせて作ってもらったらしく、何処に行く時も持っていくそうです。私も仕事中に常に音楽を聴いていますが、音楽だけでなく耳栓代わりにも使えるし、自分の世界に没頭できるのはイヤフォンの素晴らしいところじゃないかな。

こちらは原田氏の他の日常の品々。
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やはり音楽関係の品が多いようです。ラジカセとかレコードとか懐かしいw

<松場 登美(まつば とみ)/ 「群言堂」代表・デザイナー>
「モノの一生を全うする」
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松場氏は物を大事にする方のようで、お裁縫でボロを他の品々に再生させたりされるようです。江戸時代の人なんかは皆そうだったと聞いたことがあるので、日本人らしい感性かも。最近は使い捨てが多い世の中ですが、こういう感性を大事にしたいものです。

<皆川 明(みながわ あきら)/ 「ミナ ペルホネン」代表・デザイナー>
「朝ケ」
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皆川氏はケの美とは「足るの美」と捉えているらしく、必要十分な品が潔い佇まいや精神的な美意識へと繋がると考えているようです。やはり食事、特に朝食はケの最たるものなのかも。

<柳家 花緑(やなぎや かろく)/ 落語家>
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こちらは受話器でシンクロニシティをテーマにした噺を聞く作品。知り合いの人のことを考えていたら、その人のプロダクトに出会った とか、それほど大した偶然という程でもない出来事でも、特別な経験ことだと思えばハレとなる といった内容を話していました。仏教の悟りにも通じるような噺で、結局幸せは心の持ちようといった感じでしょうか。

<横尾 香央留(よこお かおる)/ 手芸家>
「急須のボッチ」
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この佇まいが平凡だけど日常を感じさせて、親近感が湧きます。


ということで、ハレの日だけでなくケの日にも美や楽しみがあるという考えが面白い展示でした。今年は「インスタ映え」という言葉が流行ったように特別な体験への憧れというのは誰もが持っていると思いますが、日常の中に美を見つけられる人の方が幸せなのかもしれません。身近な品の並ぶ展示でしたが、ちょっと哲学的な意義のある内容だったと思います。


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THE EUGENE Studio 1/2 Century later. 【資生堂ギャラリー】

先週の土曜日に、銀座の資生堂ギャラリーで「THE EUGENE Studio 1/2 Century later.」という展示を観てきました。この展示は既に終了していますが、撮影可能となっていましたので写真を使ってご紹介しておこうと思います。

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【展覧名】
 THE EUGENE Studio 1/2 Century later. 

【公式サイト】
 http://www.shiseidogroup.jp/gallery/exhibition/past/past2017_06.html

【会場】資生堂ギャラリー
【最寄】銀座駅 新橋駅など

【会期】2017年11月21日(火)~12月24日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 0時間20分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_4_⑤_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_③_4_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_②_3_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_③_4_5_満足

【感想】
結構お客さんはいましたが、快適に鑑賞することができました。

さて、今回の展示はTHE EUGENE Studio(ザ・ユージーン・スタジオ)というアーティストグループの個展です。タイトルの「1/2 Century later.」は日本語にすると50年後という意味で、1968年から数えて現在は50年経過していることを指しています。その為、1968年をテーマにした展示となっているようで、数点程度の作品が並んでいました。詳しくは写真と共にご紹介していこうと思います。


「Beyond good and evil,make way toward the waste land. 善悪の荒野」
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こちらはまるで火事後の部屋か廃墟のように見える作品で、実際に特撮を撮影する場所で燃やして作ったようです。 これは1968年のスタンリー・キューブリック監督の映画「2001年宇宙の旅」のラストシーンに出てくる真っ白な部屋を連想させるとのことで、劇中に出てきたモノリスとの関係性も示唆しているらしく、20世紀のテクノロジー・ディストピア観からの離脱などを示しているそうです。 …と、あの映画が好きな私でもいまいちピンと来ない難解な解説ですw タイトルも謎めいていますが、これはニーチェの『ツァラトゥストラはかく語りき』の一節と関係するようでした。

テーブルの上はこんな感じ。
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単純に、無機物であっても時間が経つとこうなるという無常のほうが感じられる気がします。

こちらはベッド。
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形は綺麗だけど表面はボロボロです。元は豪華なベッドだったんでしょうね。

1968年をテーマにしたのはこの作品だけなのかな? この先は特にそうした解説はありませんでした。

「Drawing; Model landscape for Agricultural Revolution 3.0(農業革命3.0)」
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左の写真が全体図、右の写真が一部のアップです。これはインスタレーション作品の為のドローイングで、スマートアグリとバイオテクノロジーを2本柱として、食料としての農産物だけでなく生活の様々な素材などインフラを構築するというビジョンを描いているようです。

こちらは銅版版。こちあも左の写真が全体図、右の写真が一部のアップです。
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正直、これが新しい農業革命と言われてもピンと来ませんが、これを設計図として作ったインスタレーションは大きな話題となったらしく、ケンブリッジ大学やコロンビア大学などもこの試みに参加したのだとか。

部屋の奥に行くと、謎の白いキャンバスがありました。
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近くには実際に録画した際のiphoneでの映像があったので、これは先程の作品よりは分かりやすいかもw

「Drawing; Model landscape for Agricultural Revolution 3.0(農業革命3.0)」
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これは一見すると何もない真っ白なキャンバスですが、アメリカ・メキシコ・台湾などで道行く人に声を掛けて集めた100人がこのキャンバスにキスしたという作品です。

これはメイキングの写真。
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100人どころか全部で600人分も集めた内の一部だけ展示されているようでした。キリスト教徒たちのイコンへのキス、インタラクション(指示書)アート、SNSとの共通点 など様々な意味や見方があるようでしたが、これも難解でよく分からずw とりあえず、協力してくれる人たちの映像が面白かったです。


ということで、解説を読んでも何のこっちゃという難解さのある展示でしたが、最初にあった部屋には圧倒されました。もうちょっと鑑賞者に伝わるように展示して欲しい気もしますが、真っ白な部屋は記憶に残りそうです。



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THE ドラえもん展 TOKYO 2017 【森アーツセンターギャラリー】

今回は写真多めです。10日ほど前の日曜日に、森アーツセンターギャラリーで「THE ドラえもん展 TOKYO 2017」を観てきました。この展示は撮影可能な場所が大半でしたので、写真を使ってご紹介していこうと思います。

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【展覧名】
 THE ドラえもん展 TOKYO 2017 

【公式サイト】
 http://thedoraemontentokyo2017.jp/
 https://macg.roppongihills.com/jp/exhibitions/439/index.html

【会場】森アーツセンターギャラリー
【最寄】六本木駅

【会期】2017年11月1日(水)~ 2018年1月8日(月)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間00分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
実はこの日より前にこの展示を見に行こうとしたのですが、その際にあまりにも混んでいたのでその日は諦めて改めて日曜の夕方に行ったら、その時間も混んでましたw 帰る頃には割と空いていたので夜遅めの時間帯なら空いているかもしれません。(子連れが多いので子供がいないような時間がいいかも)

さて、今回の展示は日本人なら誰もが知っているキャラクター「ドラえもん」を題材にした現代アートが集まる展示です。注意したいのは決してドラえもんの原画などがあるのではなく、れっきとした現代アートの展示です。それを知ってか知らずか割と子連れの割合が高かったのですが、果たして期待したものを観られたのか若干気になります…。 実はこの展示は2002年にもやっていたようで一部は2002年の時と同じ作品もあるようです。しかし、私は当時は現代アート作品は全然観ていませんでしたので、今回が初見の作品ばかりでした。 冒頭に書いたように一部を除き撮影可能となっていましたので、詳しくは写真と共にご紹介していこうと思います。

村上隆 「あんなこといいな 出来たらいいな」
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村上隆 氏の花がドラえもんと共に描かれた作品。これは壁画のように巨大な作品なので、混んでいる中で全体を撮ることはできませんでしたw 割と違和感なく村上隆 氏の花とドラえもんが1つの世界に溶け込んでる感じ。

福田美蘭 「波上群仙図」
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こちらの作品は拡大して観ると分かりますが、タイトルの通り仙人が数人集まっている様子がドラえもんに見えるというダブルイメージとなっています。鼻のあたりが芭蕉扇になっていたり発想が凄い。福田美蘭 氏は他にもレンブラントとドラえもんを掛け合わせた作品など、面白い作品が並んでいました。
 参考記事:福田美蘭展 (東京都美術館)

鴻池朋子 「しずかちゃんの洞窟」
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こちらは部屋自体が洞窟のようになっている大掛かりな作品で、これもかなり大型なので一部しか写っていません。しずかちゃんが裸で描かれている他、のび太やジャイアンも他の部分で裸で眠るように描かれています。意図は分かりませんが原初的な雰囲気がありました。

会田誠 「キセイノキセキ ~空気~」
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一方で会田誠 氏はしずかちゃんのシャワーシーンをこのように描きましたw キセイノキセキという言葉に時代の変遷を感じますw
 参考記事:会田誠展 天才でごめんなさい (森美術館)

山口晃 「ノー・アイテム・デー」
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ゆる~い漫画仕立ての作品。小中学校の頃に教科書とかにこういう漫画描いてる人がいたのを思い出しましたw とは言え、割と良いこと言ってます。

この辺には撮影できない しりあがり寿 氏の「劣化防止スプレー」というアニメ映像作品がありました。これが非常に面白くて、作画がヤバいレベルで崩壊していますw 作画だけでなく声や音楽もどんどん劣化していくのも可笑かったです。劣化防止スプレーをかけると元通りに戻るのですが、どういうわけかエンディング曲の劣化ぶりはやばかったw 

コイケジュンコ 「二~四次元ドレス」
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このドレスはドラえもんのコミックスになっていて、それで2次元~4次元のドレスということのようです。ドラえもんにドレスを着たキャラはいないので、その発想でキャラクターに寄せて欲しかったかなw

森村泰昌 「時を駆けるドラス」
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こちらはコイケジュンコ氏の作品を着た森村泰昌 氏。なりきりセーフポートレートで有名な森村泰昌 氏ですが、今回はよく分からないキャラクターになってますw

森村泰昌&ザ・モーヤーズ 「ドラス」
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こちらは2002年に出品した作品。等身が人間なのでちょっと不気味w 流石にドラえもんにはなりきれなかったか??

左:奈良美智 「ジャイアンにリボンをとられたドラミちゃん」
右:奈良美智 「依然としてジャイアンにリボンをとられたままのドラミちゃん@真夜中」
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左は2002年の作品で、右は今年の作品です。実に15年間ずっとジャイアンにリボンを取られっぱなしなんでしょうかw 若干、奈良美智 氏の作風が変わっているようにも見えますが、いずれも奈良美智 氏の描く女の子たちの特徴がそのまま出ているのも面白いです。
 参考記事:奈良美智 君や 僕に ちょっと似ている (横浜美術館)

こちらも奈良美智
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ちょっと不機嫌そうな感じが奈良美智 氏の女の子っぽい感じ

篠原愛 「To the Bright ~のび太の魔界大冒険~」
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映画「ドラえもん のび太の魔界大冒険」に出てくる人魚と角クジラをモチーフにした作品。やたらリアルでちょっと怖いw

この辺はこうした映画版をテーマにした作品が並んでいました。

伊藤航 「ドラえもん ひみつ道具図典 ~タケコプター~」
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こちらはリアルに作られたタケコプター。こう見えて紙で出来ています。

山口英紀 「ドラえもん ひみつ道具図典 ~タケコプター~」
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こちらは伊藤航 氏の作品を元に書画に起こした物。一気に昔の発明のように見えてくるのが面白いw

坂本友由 「僕らはいつごろ大人になるんだろう」
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こちらは映画「ドラえもん のび太の宇宙小戦争」を題材にした作品。タイトルで武田鉄矢の主題歌を思い出しました。このしずかちゃんは小人の宇宙人の星でスモールライトの効果が切れて巨人に見えるシーンを描いたもので、海から出た後を表現されているのがこの映画をよく観ている感じ。

この辺には撮影不可だった後藤映則 氏のワイヤーとレーザーを使ったインスタレーションがあり、かなり驚きの作品でした。予めワイヤーで作った作品にレーザーを当てると、ワイヤー部分が光って 映画「ドラえもん のび太の宇宙開拓史」の登場人物の形が現れるというものです。レーザーの当て方のパターンでアニメのように動いて見えるし、これを観ただけでもこの展示に行った甲斐がありました。

近藤智美 「ときどきりくつにあわないことをするのが人間なのよ」
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こちらは映画「ドラえもん のび太と鉄人兵団」でしずかちゃんが少女型ロボットのリルルに言った言葉がタイトルになっています。映画では鏡面世界の中は左右逆転するだけですが、ここではディストピアのような世界と明るい雰囲気の世界で対比的な感じに描かれていました。

増田セバスチャン 「さいごのウエポン」
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これは映画「ドラえもん のび太のドラビアンナイト」をモチーフにした作品。実際にドラえもんがいたら最終兵器そのものかもw 様々なぬいぐるみのようなもので作られていました。


ということで、十人十色の様々なドラえもんを楽しむことができました。よく分からない作品もありましたが、予想以上に面白くて特に写真が撮れなかったしりあがり寿 氏と後藤映則 氏の作品が面白かったです。これだけ豪華な共演は他の現代アート展でも滅多に観られないと思いますので、現代アート好きの方は是非どうぞ。もうすぐ会期末となっています。


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ルネ・ラリックの香水瓶 -アール・デコ、香りと装いの美- 【松濤美術館】

10日ほど前の日曜日に、渋谷の松濤美術館で「北澤美術館所蔵 ルネ・ラリックの香水瓶 -アール・デコ、香りと装いの美-」を観てきました。

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【展覧名】
 北澤美術館所蔵 ルネ・ラリックの香水瓶 -アール・デコ、香りと装いの美- 

【公式サイト】
 http://www.shoto-museum.jp/exhibitions/176lalique/

【会場】松濤美術館
【最寄】神泉駅/渋谷駅

【会期】2017年12月12日(火)~2018年1月28日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間00分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_4_⑤_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
割と空いていて快適に鑑賞することができました。

さて、今回の展示はアール・ヌーヴォー、アール・デコといった近代を代表するデザインの潮流の中で活躍したガラス作家ルネ・ラリックについての展示です。ルネ・ラリックの作品自体はアール・ヌーヴォー展やアール・デコ展、最近なんかはジャポニスムに関する展示等で観る機会がよくありますが、これだけまとまった展示は久々な気がします。日本でラリック展を開催すると北澤美術館からの出展が多く観られるのですが、今回はその北澤美術館のコレクションの中から特に香水瓶をテーマにしているようでした(それ以外の作品も少しあります) 展覧会は4章構成になっていましたので、簡単に各章ごとにご紹介していこうと思います。

 参考記事:
  生誕150年ルネ・ラリック─華やぎのジュエリーから煌きのガラスへ 感想前編 (国立新美術館)
  生誕150年ルネ・ラリック─華やぎのジュエリーから煌きのガラスへ 感想後編 (国立新美術館)
  生誕150年ルネ・ラリック─華やぎのジュエリーから煌きのガラスへ 2回目感想前編 (国立新美術館)
  生誕150年ルネ・ラリック─華やぎのジュエリーから煌きのガラスへ 2回目感想後編 (国立新美術館)
  ラリック家の女神たち (箱根ラリック美術館)
  箱根ラリック美術館 館内の案内


<第1章 ガラスの世界へ>
まずは香水商のフランソワ・コティとの出会いから香水瓶を作るようになったコーナーです。ラリックは元々はジュエリー作家として人気だったのですが、コティから香水瓶の依頼を受けて1910年頃からガラスの香水瓶を作るようになりました。その背景にはコティから大量の注文を得ることができ、ガラスの工場生産に踏み切ることが出来たので採算が取れるという判断もあったようです。

冒頭に箱に入った香水瓶があり、ラベルの蓋だけがラリックで、他はバカラという香水瓶となっていました。また、他にも様々な形のガラス製品が並び、メダル型の「ガラス展」への招待状なんてものもあります。女性像や花など優美なデザインのものが多いのがラリックの特徴ですが、翡翠のような色の透明ガラスなど素材の面でも多彩な工夫が見て取れると思います。


<第2章 挑戦的デザイン>
続いては挑戦的なデザインについてのコーナーです。ラリックの作るガラス作品は鋳型成形が特徴で、これは宝石などの金属細工で鍛え上げた腕前を活かしたものです。ここでは空洞部分がカーネーションの形をした香水瓶に驚きましたが、こうした形を実現できるのも鋳型成形ならではかもしれません。しかしこれはヒビが生じやすいらしく、実用化はされなかったようです。
また、この章には「ティアラ型」と呼ばれる扇状に広がる装飾を持つ蓋の瓶が並んでいます。(一部はランプなどもあります) ティアラ型自体も独創的な形ですが、さらにそのティアラも3羽のツバメが組み合わさってできているなど、意匠についてもジャポニスム的なものを取り入れた面白さがありました。


<第3章 アール・デコの装い>
続いては化粧道具などのコーナーです。ここには青や緑のガラスの作品があり、まるで宝石のような輝きを持つブレスレットなどが並んでいます。他には手紙の封を押すための印章や ガラスのペンダント、パフュームランプという電灯の熱で香りを発散させる作品などもあり、女性の装いだけでなく日常で使うような品までデザインされています。印章なんかはむしろハンコを持つ部分が大きくて、その部分に装飾がされているのが面白いかなw この章で目を引いたのが、色ガラスの裏面に銀引き加工をする技術を使った作品群で、銀によって反射が独特の鈍さを持って高級感が増しているのが驚きでした。

この部屋には壁にデザイン画なども並んでいました。


<第4章 モダン・デザインへ>
最後は2階で、アール・デコ時代の作品や当時の世相を表している写真や服などが展示されています。元々私はアール・デコが最高のデザインだと思っているので、この章は特に満足度が高かったですw

この章の冒頭にある写真家たちによる当時の写真は、古き良き時代といった感じで洗練された文化をしのばせます。そして、その後に今回のポスターにもなっている「真夜中」という青い球体の側面に星型の装飾が施された大きめの香水瓶があります。これは天球儀を模したデザインで、ウォルト者の香水「真夜中」の販売用に作られたそうです。中に香水が入った状態で観ると星は金に見え、入っていない状態では銀に見えるようですが、今回は銀にしか見えなかったかなw 金になっているところを観てみたいw

他にもエジプト風の瓶などが目を引きました。瓶の中に嗅ぎ棒がついている珍しいデザインで、棒の部分が人物像になっているのが面白いです。まるで人物が瓶に閉じ込められているようにも見えますw この辺はこうした凝ったデザインの作品もありますが、アール・デコ時代は総じてスッキリしたデザインと言えそうです。やはり花などが多いですが形はシンプルに思います。
その後、世界的な不況に突入すると香水の売上は大幅に落ち込んだそうで、それに伴い贅沢なデザオンは敬遠されデザインの好みも大きく変わっていったようです。ここには円を組み合わせたような、簡素に見えるものの洒落た雰囲気の香水瓶なんかもありました。
それ以外にも鳥の卵の形をした蓋物、猫の顔の蓋がついたシガレットケース、ドガの踊り子をモチーフにドレスが広がって見える蓋物など意匠の面白さが一目で分かるのもこの章に多かったように思います。

その先にはアール・デコ期のドレスが3着並んでいました。いずれも幾何学的な装飾で、非常に洗練されスッキリとしたデザインです。これは現代で着てもお洒落なドレスだと思います。服の近くにはジョルジュ・バルビエのファッションプレートなどもありました。

そして最後の部屋は1925年にパリで行われたアール・デコ博覧会についてのコーナーとなっていました。オパルセントガラス(乳白色のガラス)を使った花瓶や、ジャポニスムを感じるトンボや魚をモチーフにした作品などが並びます。また、アール・デコ博覧会の当時の写真もあり、ラリック館やラリックがデザインした噴水塔、日本館(民家みたいな)や、日本統治時代の台湾の台湾茶のカフェ(ザ・フォルモーズ)などの様子が写っていました。このアール・デコ博覧会を観た朝香宮殿下がアール・デコを非常に気に入って建てたのが現在の東京都庭園美術館(旧朝香宮邸)で、当時の朝香宮邸の写真などもありました。
 参考記事:アールデコの館 旧朝香宮邸編(東京都庭園美術館)


ということで、ラリックの作品と共にアール・デコの時代のデザインなども合わせて楽しむことができました。ラリックの作品は結構観てきているつもりですが、何度観ても面白くて飽きが来ないのが素晴らしいです。東京圏から北澤美術館まで行くのは大変ですが、今回の展覧会ではその貴重な品々を観ることができますので、ガラス好きやデザイン好きの方は是非どうぞ。


おまけ:
1階のこの作品だけ撮影可能となっています。
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シダをモチーフにしているようです。近くにはシダの香りの香水や、マリー・アントワネットとジョゼフィーヌ・ド・ボアルネをイメージした香水なんかもありました。ジョセフィーヌはナポレオンに風呂に入らないで待ってろなんて言われてたらしいから汗臭そうなイメージなんですが、ここの香水は良い香りでしたw



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東京国立近代美術館の案内 (2017年12月後編)

今回も写真多めです。前回に引き続き東京国立近代美術館の常設についてで、後半部分は猫を描いた絵などがありました。まずは概要のおさらいです。

【展覧名】
 所蔵作品展 MOMAT コレクション

【公式サイト】
 http://www.momat.go.jp/am/exhibition/permanent20171114/

【会場】
  東京国立近代美術館 本館所蔵品ギャラリー

【最寄】
  東京メトロ東西線 竹橋駅

【会期】2017年11月14日~2018年5月27日
  ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間00分程度

【感想】
上階から下っていくルートで観ていて、今日は3階と2階にあった作品をご紹介していこうと思います。

 ※ここの常設はルールさえ守れば写真が撮れますが、撮影禁止の作品もあります。
 ※当サイトからの転載は画像・文章ともに一切禁止させていただいております。

参考記事:
 東京国立近代美術館の案内 (2017年12月前編)
 東京国立近代美術館の案内 (2017年12月後編)
 東京国立近代美術館の案内 (2017年09月)
 東京国立近代美術館の案内 (2014年01月)
 東京国立近代美術館の案内 (2013年09月)
 東京国立近代美術館の案内 (2013年03月)
 東京国立近代美術館の案内 (2012年02月)
 東京国立近代美術館の案内 (2011年12月)
 東京国立近代美術館の案内 (2011年06月)
 東京国立近代美術館の案内 (2010年12月)
 東京国立近代美術館の案内 (2010年09月)
 東京国立近代美術館の案内 (2010年05月)
 東京国立近代美術館の案内 (2010年04月)
 東京国立近代美術館の案内 (2010年02月)
 東京国立近代美術館の案内 (2009年12月)

瑛九 「れいめい」
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水玉で埋め尽くす瑛九らしい作品。どこか宇宙的なものを感じます。

ロバート・フランク 「ニューヨーク1951」
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最近ロバート・フランクの写真コレクションを新たに収蔵したらしく、沢山の作品が並んでいました。背景のプラカードに宗教的なことが書いてあるので開いているのは聖書かな? 手しか映っていないのが逆に劇的な感じに見えました。

笠松紫浪 「春の雪 浅草鳥越神社」
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遠目から川瀬巴水か?と思ったら弟弟子の笠松でした。よく似た題材と画風で、清廉な雰囲気で今の時期によく合う作品です。

金山平三 「猫のいる風景」
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一見すると普通の風景画ですが、この絵の中に猫がいます。ポツンと佇む様子が可愛くも哲学的な雰囲気。

上村松篁 「星五位(ほしごい)」
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上村松園の息子で画家の上村松篁の作品。家で200種1000羽もの鳥を飼ってたそうで、星五位とはゴイサギの幼鳥のことだそうです。鳥の描写もさることながら余白の寄った構図が面白かったです。

速水御舟 「ひよこ」
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こちらはひよこ。ふわふわしていてちょっとトボけた顔をしているのが面白い。口にミミズのようなものを咥えているのも生き生きしています。

望月春江 「香柚暖苑」
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白猫とゆずを装飾的に描いた作品。たらし込みのような技法も使われている一方、ナビ派のような西洋的な雰囲気も感じました。

今回の展示は猫を描いた作品が沢山あったので、猫作品を並べていこうと思います。

奥村土牛 「閑日」
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ちょこんと伏せている猫。赤い背景は絨毯かな? 色の取り合わせが強いので目を引きました。

笹島喜平 「笹島喜平版画集より 1.猫」
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ちょっと悪戯っぽい表情を浮かべる猫。簡素な表現ですが、猫の個性まで出てるように思いました。

下村観山 「唐茄子畑」
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左隻にカボチャ、右隻は立葵と桐の木が描かれていますが、この中にも猫がいます。(鴉もいます)

こちらは猫の部分のアップ。
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視線の先には鴉がいて、鴉の様子を伺っているようでした。 この作品は植物も見事なので、じっくり観てきました。

前田青邨 「猫」
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こちらも何かを伺っているような猫。ちょっと腕を立てているので警戒しているのかな?

竹内栖鳳 「飼われたる猿と兎」
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この作品は好きなので久々に観られて嬉しかった。ふわふわした毛並みが見事。単に可愛い絵に見えますが、従順ですべてを受け入れて食が満足な兎と、利口で飼われることに満足できずに飢える猿、どちらが幸せか?という意味が込められているようです。

Chim↑Pom 「BLACK OF DEATH 2013」
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こちらは映像作品で、カアカアと鴉の声がやかましいと思ったら、大量の鴉が飛び交う様子を映していました。事前に鴉が仲間を呼び寄せる声を録音し、その声を流しながら鴉の模型を持って車やバイクで移動すると沢山の鴉が付いて来るようです。様々な場所で試しているようですが、どこでも不気味なくらいに大群がついてきているのが驚きでした。

今回の13室はこのChim↑Pomの作品も含め、難民をテーマにした作品が並んでいました。

安井仲治 「安井仲治ポートフォリオより 流氓ユダヤ 窓」
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こちらは1941年の作品で、ナチス・ドイツから逃れて神戸に来ていたユダヤ人を撮った作品。亡命のビザ発給を待っている間の逃亡生活らしく、非常に不安そうな顔で外をうかがっています。その心情表現が凄いし、歴史的にも貴重な作品かも。

高松次郎 「遠近法の椅子とテーブル」
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影の絵などトリックアート的な作品を作っている高松次郎の作品。一点透視法で2次元の絵にしたものを再度3次元化したのがこの作品で、極端なほどに遠近感が出ているのが面白かったです。これを横から見ると変な感じがしますw

岡﨑乾二郎 「背後から火事が迫ってきたとでもいうの、この顔の青さは普通じゃないわ、どうしたの?ぽつりと答えます。「惜しいと思うほどの物は捉まえようと追いかけず、一生惜しんで思い出せるようにしておいたほうがいいんだよ」。そうか。胡瓜の漬け方を、老婦人から習ったときみたいに、熟した実がひとりでに落ちる音を聞いた。」
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むちゃくちゃ長い詩的なタイトルで驚きましたw この2枚は一見すると自由に描いている抽象画に見えますが、実はかなり考察して描いているようで、左右で色が違っても構図がほぼ同じになっているのが面白かったです。

松江泰治 「ECUADOR 70346」
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こちらは写真の構図も独特ですが、真ん中に赤い服を着ている人に自然と目が行くのが面白かったです。世界にはこんな場所があるんですね

中西夏之 「コンパクト・オブジェ」「コンパクト・オブジェ 沈む鋏」
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ポリエステル樹脂でできた卵型の作品。パフォーマンス用に作られたそうですが、見た目だけでも十分気になる作品でした。


ということで、かなりの量と質の常設となっていました。ここはいつ訪れても良質な作品に出会えますが、今回は特に面白いものが多かったように思います。東京国立近代美術館に行く機会があったら、常設と工芸館も合わせて観ることをお勧めします。



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東京国立近代美術館の案内 (2017年12月前編)

今回も写真多めです。前回ご紹介した東京国立近代美術館 工芸館の展示を観た後、本館所蔵品ギャラリーで常設作品も観てきました。今回は一気に作品が入れ替わり、まだご紹介したことがない作品が沢山ありましたので前編・後編に分けてご紹介していこうと思います。ここの常設は期間が設けられているので、まずは概要についてです。

【展覧名】
 所蔵作品展 MOMAT コレクション

【公式サイト】
 http://www.momat.go.jp/am/exhibition/permanent20171114/

【会場】
  東京国立近代美術館 本館所蔵品ギャラリー

【最寄】
  東京メトロ東西線 竹橋駅

【会期】2017年11月14日~2018年5月27日
  ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間00分程度

【感想】
今回も多くの人で賑わっていましたが、自分のペースで観ることが出来ました。今回も撮影してきましたので、写真を使ってご紹介していこうと思います。
 ※ここの常設はルールさえ守れば写真が撮れますが、撮影禁止の作品もあります。
 ※当サイトからの転載は画像・文章ともに一切禁止させていただいております。

参考記事:
 東京国立近代美術館の案内 (2017年09月)
 東京国立近代美術館の案内 (2014年01月)
 東京国立近代美術館の案内 (2013年09月)
 東京国立近代美術館の案内 (2013年03月)
 東京国立近代美術館の案内 (2012年02月)
 東京国立近代美術館の案内 (2011年12月)
 東京国立近代美術館の案内 (2011年06月)
 東京国立近代美術館の案内 (2010年12月)
 東京国立近代美術館の案内 (2010年09月)
 東京国立近代美術館の案内 (2010年05月)
 東京国立近代美術館の案内 (2010年04月)
 東京国立近代美術館の案内 (2010年02月)
 東京国立近代美術館の案内 (2009年12月)

平福百穂 「荒磯」
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デフォルメされた描写と非常に深い青が印象的な作品。琳派っぽい雰囲気も感じます。

加山又造 「群鶴図」
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こちらも琳派を研究していた加山又造の作品。酒井抱一の群鶴図に着想を得ているようです。揃って横を向く様子がデザイン的で面白く、銀地の抱一っぽさも好みでした。

坂本繁二郎 「水より上る馬」
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繁二郎と言えば馬です。この色合、この構図、坂本繁二郎らしさが凝縮した1枚と言えるのではないでしょうか。

朝倉文夫 「墓守」
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朝倉文夫の代表作で、文展で2等を取った作品です。こういうお爺さん今でもいそうw 猫の彫像も良いですが、人物も流石です。
 参考記事:猫百態―朝倉彫塑館の猫たち― (朝倉彫塑館)

青木繁 「運命」
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神話的な雰囲気漂う作品。海の中でしょうか。 青木らしい物語性・神秘性が感じられます

岸田劉生 「『帝国文学』表紙絵」(左)、「The Earth 大地」(中)、「<人類の意志>のための下絵」(右)
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太陽や土といった原初的なものを描いた3点。何か哲学的なメッセージが込められていそうな感じがします。

十亀広太郎 「東京新橋銀座通賑之景」
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こちらは関東大震災の直後の新橋・銀座辺りの光景。他にも幾つか同様の作品がありましたが、やはり建物が無くなってガランとした街となっています。地震は今も昔も変わらず恐ろしいものです。

織田一磨 「東京風景より 駿河台」
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大正時代に描かれたニコライ堂。画面下の方は日本風の家屋が建ち並んでいますが、お互いに違和感がなくて美しい街並みです。
 参考記事:ニコライ堂と神田明神の写真

織田一磨 「画集新宿より 新宿カフエー街」
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こちらはカフェの並ぶ街を描いた作品。今の新宿と同様に活気に満ちた雰囲気と、夜のカフェの独特の洒落た雰囲気が出ているようにみえます。

アルベルト・レンガー=パッチュ 「ホーヘンブルク通りとエッセン中央駅の鉄道築堤」
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1920年代ドイツの写真動向「新即物主義」の代表作家による写真。幾何学的な美しさと連続するリズムが面白い写真でした。

アルベルト・レンガー=パッチュ 「ゲルマーニア炭鉱の採掘塔、ドルトムント=マーテン」
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まるでコンパスのような形の採掘塔が撮られた写真。住居の真裏にこんなのがあると結構威圧感を感じるかな。機械への一種の警鐘の意味があるのかも?

谷中安規 「版画集(裏表紙)ロケーション」
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こちらはシュルレアリスム風の版画。フィルムカメラを回す人が描かれているのがちょっと気になりました。解説によると谷中安規はドイツの怪奇映画「カリガリ博士」から強い影響を受けているとのことで、それを示しているのかも。

小野忠重 「工場に進む赤旗」
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沢山の群衆が工場に進む様子と力強く描いた作品。ちょっと不気味だけどエネルギーが伝わってきます。
この辺は共産運動や労働運動に関連しそうな作品がいくつか並んでいました。

津田青楓 「犠牲者」
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小林多喜二の拷問死をテーマにしたプロレタリア芸術。キリストの受難の像に匹敵するものを描きたいと考えたようですが、どちらかと言うと悲惨さが際立っているように思います。

鈴木良三 「衛生隊の活躍とビルマ人の好意」
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第二次世界大戦時に描かれた戦争画。何だかのんびりした雰囲気で、負傷の悲惨さがあまり感じられないかな。想像で描いたのか取材したのか知りたかったけど分かりませんでした。
この辺は戦争画のコーナーでした。

藤田嗣治 「シンガポール最後の日(ブキ・テマ高地)」
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戦争画を積極的に描いて戦後に批判された藤田嗣治。藤田の戦争画は真に迫るものがありますが、英雄的な賛美が含まれているように思います。

岡本太郎 「夜明け」
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強い色同士がぶつかり合う抽象的な作品。それでも岡本太郎らしさを感じるのが面白いです。
 参考記事:生誕100年 岡本太郎展 (東京国立近代美術館)

難波田龍起 「昇天」
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初台のオペラシティの美術館でも観ることができる難波田龍起ですが、こちらは写真が撮れました。淡い色彩と躍動的な雰囲気が好みです。


ということで、長くなってきたので今日はこの辺にしておこうと思います。この美術館の常設は本当に点数が多く、質も高いので特別展と同様に毎回楽しみにしていますが、今回も素晴らしい作品ばかりです。
後半も見どころが沢山でしたので、次回も引き続き常設の写真をご紹介しようと思います。



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日本の工芸ー自然を愛でるー 【東京国立近代美術館 工芸館】

今回は写真多めです。前回ご紹介した東京国立近代美術館を観た後、工芸館まで足を伸ばして「日本の工芸ー自然を愛でるー」を観てきました。この展示は撮影可能となっていましたので、写真を使ってご紹介しようと思います。なお、この展示は熊谷守一展の半券で観てきたのですが、本館の営業時間は土曜日は長めとなっているものの工芸館は17時までなので常設より先に観てきました。

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【展覧名】
 日本の工芸ー自然を愛でるー 

【公式サイト】
 http://www.momat.go.jp/cg/exhibition/shizen_2017/

【会場】東京国立近代美術館 工芸館
【最寄】竹橋駅

【会期】2017年12月01日~2018年02月18日
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間00分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_4_⑤_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
こちらは空いていて快適に観ることができました。

さて、今回の展示は工芸館が誇るコレクションから120点もの名品が並ぶ内容となっています。陶芸、漆芸、彫金、染織などなど様々な工芸品が並ぶ様子は正に豪華絢爛で、予想以上の満足度でした。冒頭に書いたように撮影可能でしたので、早速写真を使ってご紹介して参ります。
なお、一部は会期中に入れ替えがあるようなので、お目当ての品がある方は事前に公式サイトで確認することをお勧めします。

杉浦康益 「陶の博物誌―ボタンの花」
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こちらは今年できたばかりの作品で、陶器で出来ているボタンの花です。こんな複雑な花の重なりをよく陶器で作れるものだと驚かされます。

黒澤千春 「彩漆裂罅箔屏風 華の舞」/面屋庄甫 「祈りの舞」
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現代風の屏風と舞う人形が並んで展示されていました。抽象画のようですが花と枝のように見えるかな。色の取り合わせが美しいです。

三代 宮永東山 「山中暦日なし」
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用途が分からない不思議な陶器。色合いの美しさと現代的な形が目を引きました。

展示風景はこんな感じ。
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ここは部屋に合わせた作品が並んでいました。

南祥輝 「乾漆盛器 おぼろ月」
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こちらも色が美しい作品。凛とした雰囲気が漂っています。

熊谷守一 「一行書 流水不争先」/十二代三輪休雪(龍作)「白嶺蓋物」
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こちらは前回ご紹介した熊谷守一による書と、萩焼の名門陶家である三輪休雪による山の形の蓋物。熊谷守一の字は緩めで和みますw 一方の蓋物は小さくても風格漂う山のように見えました。
 参考記事:
  没後40年 熊谷守一 生きるよろこび (東京国立近代美術館)
  三輪壽雪・休雪 ― 破格の創造 展 (智美術館)

富本憲吉 「色絵金銀彩羊歯文飾壺」
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金銀を使った豪華な壺ですが、形の美しさと緻密なシダの文様のためか落ち着いた印象を受けました。
 参考記事:増田三男 清爽の彫金 - そして、富本憲吉 (東京国立近代美術館 工芸館)

浜田庄司 「柿釉丸紋大平鉢」
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益子焼やバーナード・リーチと深い関係のあった浜田庄司だけに民藝の流れを感じさせる素朴さもありつつ、丸紋が洒落た印象でした。

北大路魯山人 「色絵牡丹文鉢」
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美食家としても知られる魯山人の作品もありました。正直、魯山人の作品はいつも大して面白いと思わないのですが、こちらは対比的な色合いが目を引きました。

高橋誠 「色絵木蓮に四十雀図六角筥」
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てっきり藤本能道の作品かと思ったら、その弟子の高橋誠の作品でした。六角形の形や鳥をモチーフにしているなど、本当によく作風が似ています。
 参考記事:藤本能道 命の残照のなかで (智美術館)

桂盛行 「喜久華文香合」
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こちらの香合はかなり小さめで、恐ろしく精巧にできていました。銅に金銀を象嵌して作っているようです。

藤田喬平 「飾筥 紅白梅」
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こちらはガラスで出来た飾り箱。藤田喬平 氏の作品は海外でもドリームボックスと呼ばれて人気らしいですが、この豪華でモダンな雰囲気は誰もが目を引かれると思います。ガラスとは思えません。
 参考記事:「近代工芸の名品 花」 (東京国立近代美術館工芸館)

中野孝一 「蒔絵箱 秋野」
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こちらは蒔絵の箱。あちこちに兎が飛び跳ねていて躍動感があります。秋草も優美で軽やかな雰囲気。

髙橋節郎 「森響」(左)/並木恒延 「深閑」(右)
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いずれも漆を使って描かれた絵。左の絵は螺鈿や沈金を使い、右の絵では卵の殻が使われているのだとか。絵としても面白い上に、艶があって神秘的な雰囲気が出ています。

こちらは「深閑」のアップ。
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近くで観てもかなり細かくて驚かされます。是非これは近くでじっくり観ていただきたい作品です。

田辺一竹斎 「花籃 飛雲」
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こちらは竹でできた花かご。確かに飛ぶ雲のような動きを感じます。ダイナミックで好みでした。

竹中浩 「白磁面取鉢」
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こちらはシンプルながら螺旋状のねじりが美しく思えました。白磁の白も吸い込まれそうになるほど綺麗です。

番浦省吾 「海どり」
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こちらは金属製かと思いましたが漆で出来ているようです。現代的なセンスを感じる絵も素晴らしいですが、技術も凄い。

藤田喬平 「追う風」
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再び藤田喬平の作品。これと対になるように左右逆転した同名の作品もありました。軽やかな風を感じさせて好み。

三輪壽雪(十一代休雪) 「萩茶碗 峰紅葉」
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こちらは人間国宝だった三輪壽雪の作品。温かみを感じさせる色合いと質感が親しみを持てました。

黒田辰秋 「金鎌倉五稜茶器」
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今回特に気に入ったのはこちらの作品。この色と形! こんなに洗練された作品が観られて眼福でした。


これ以外にも素晴らしい作品が沢山あって、写真を選ぶものかなり迷いましたw 熊谷守一展の半券で観られるというのもお得なので、熊谷守一展に行かれる方はこちらの展示にも足を伸ばすことをお勧めします。



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没後40年 熊谷守一 生きるよろこび 【東京国立近代美術館】

3週間ほど前の土曜日に東京国立近代美術館で「没後40年 熊谷守一 生きるよろこび」を観てきました。

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【展覧名】
 没後40年 熊谷守一 生きるよろこび

【公式サイト】
 http://kumagai2017.exhn.jp/
 http://www.momat.go.jp/am/exhibition/kumagai-morikazu/

【会場】東京国立近代美術館
【最寄】竹橋駅

【会期】2017年12月01日~2018年03月21日
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
思った以上に多くの人が集まっていて、たまに人だかりが出来ていました。

さて、今回は日本洋画界でも個性派として知られる熊谷守一の大規模な回顧展で、まさに決定版といえるほどの点数が揃っています。熊谷守一と言えば単純化された色面で表現する画風をイメージしますが、最初からそうだったわけではなく、そこに行き着くまでに様々な変遷を遂げてきたようです。この展示ではその過程もよく分かるようになっていましたので、展覧会の構成に従って各章ごとにご紹介していこうと思います。


<1.闇の守一:1900-10年代>
まず最初は画業の始まりについてです。熊谷守一は18歳で画家を志し、20歳で東京美術学校で黒田清輝らに学び同級生の青木繁らと切磋琢磨していたようです。この時期の熊谷守一は光と影に関心を寄せていたようで、暗い茶色っぽい画面の人物像が並んでいます。タッチは大胆なものもありますが、しっかりしたデッサンで、晩年の画風とはまるで違うものの共通するものも感じられるように思いました。冒頭あたりにはロウソクに照らされた自画像があり、微妙な明暗の表現によって神秘的な雰囲気出ています。 また、ここには山手線で轢死した女性を描いた「轢死」という衝撃の作品もあり、割とこれが後の熊谷守一自身に大きな影響を与えることになります。今は絵の具の劣化で画面が真っ黒で何だかよく分からないくらいですが、薄っすらと人が横たわっているのがかろうじて分かるかな。この絵を描いた後、「縦に置いたら女性が蘇ったように見えた」と言っていたようです。

そんな学生時代の熊谷守一でしたが、在学中の1902年に父を失い、その8年後の1910年には母も亡くしてしまいます。その為、しばらく故郷に帰っていたのですが、仲間の呼びかけで1915年に再上京して二科会に入り、また東京で活動を始めました。この章には父母の像や二科展への出品作もあり、この二科展出品作に描いた「某夫人像」のモデルの女性が後の奥さんだそうです。割と作品によってタッチも違ったりするので模索の時期だったのかも知れません。

この章の最後には楽譜などもありました。熊谷守一はチェロやバイオリンを鳴らすのが好きだったそうです。


<2.守一を探す守一:1920-50年代>
続いては熊谷守一が作風を確立するまでの過程がよく分かる章です。二科会に入って野外で風景画をたくさん描いたようですが、やはり興味の対象は光と影だったようです。一方、私生活においてはこの頃には結婚し5人の子供が出来ましたが1人は早くに亡くし、長女も21歳で亡くなるなど悲しい出来事も多く経済的に苦しい時代だったようです。

ここでも最初は暗めの色使い(これも絵の具の劣化なのかは分かりませんが)の作品が並び、萬鉄五郎に通じるようなフォーヴィスム的な作品もあります。厚塗りした大胆な感じや、単純化されて筆跡が強い表現など、様々な手法にチャレンジしていた様子が伺えます。 また、ここには「陽が死んだ日」という次男が亡くなった時に描いた作品もあります。貧しかったのもその原因だったようですが、この子は何も残さずに死んでいくと考えた熊谷守一は絵に残そうとしたものの、30分くらいで絵として描いている自分に気づいて嫌になってやめたそうです。短時間で描いたためかかなり粗い早描きに見えますが、ここでも光と影というテーマは貫いているようでした。(轢死の作品といい 先ず絵の事を考えていそうですね)

その少し先には風景画や裸婦像などが並びます。熊谷守一は風景画と裸婦に共通点を見出していたようで、お互い似た構図(横たわっている感じ)で描いているものもあります。ここには半ば抽象画のようにも見える裸婦なんかもありますが、1935年頃の裸婦像や1936年の「夜の裸」あたりから赤い輪郭線を描くようになっていったようです。一方の風景画においても赤い輪郭線が出て来るようになり、1940年の頃にはくっきりと赤い輪郭線が浮かんだ山の風景画が並んでいます。描写も急にスッキリした感じになってきて、一気に晩年の画風に近づいていったように感じられました。この輪郭線は光と影の観察の結果から生まれたものと考えられるようで、1945年以降の作品はシンプルな色面と輪郭線が使われているものが多くなっていきます。単純化もどんどん進んでいき、海や山、田園などを描いた作品が並んでいました。

その先には御嶽山などを描いた作品もありました。3点ほぼ同じに見える作品があったのですが、これはカーボン紙とトレーシングペーパーを使って写しているようです。写して時間帯によって異なる顔を見せる山を描くという連作の形式になっているようでした。また、この辺には4号の小さめの作品が多いのですが、これは山に写生旅行に行く時にちょうど絵の具箱に入るサイズだったので、そのサイズが多いのだとか。画風だけでなく、そうした描くスタイルについても色々と工夫や研究をしていた様子が伺えました。

その先には結核で亡くなった長女を描いた絵もありました。画面を横にしたら蘇ったように見えた「轢死」の視覚的効果を再現していると考えられるようです。これは親としての心情もあったのかな? その他にも葬儀の帰りの絵などもありました。

この先はほぼ単純化されたよく知る熊谷守一の作風になっていました。一方で、外国からの影響ということでアンリ・マティスの「ダンス」に似た雰囲気の「稚魚」を始め、ゴーギャンやポール・セリュジエらとの類似点がある作品なども紹介されています。マティスは嫌いと言っていたようですが、影響は受けてたんじゃないかな? とは言え、それでも独自の路線に見えるオリジナリティは高いと思います。


<3.守一になった守一:1950-70年代>
最後の章は熊谷守一らしい作品が並ぶコーナーです。1950年代になると赤い輪郭線に囲まれた明快な色と形のスタイルはほぼ完成し、同じ下図を複数使う技法もこの頃に確立されたようです。1970年代あたりになると高齢で山や生みに行くのは難しくなったので、自宅の庭で植物や昆虫、猫などを題材にした作品が並びます。文化勲章を貰うのも人が来るの面倒だと言って断って全然家の敷地から出てこなかったようですが、その分 かなり動植物を観察していたようです。

ここではまず菊を描いた作品があり、暗めの背景に明るいオレンジの色で描かれています。こうした対比的な色を使って明暗を強調してるのもこの頃の特徴じゃないかな。色の研究は「雨滴」という作品でも観られ、これは背景と水滴の中間の色を使って波紋を表現していました。(最初見た時にしいたけかと思いましたがw)

そして熊谷守一のエピソードで一番驚いたのがその先にあった蟻を描いた作品です。蟻をじ~~~っくりと観察していた熊谷守一は、2本めの左の足から歩きだすのを見つけたそうです。まるで昆虫学者のような観察眼ですが、本当によく観ていたようで蟻を描いた作品は何枚もありました。

その先には先程の御嶽山と同じように同じ下図を使った作品がセットで展示されていました。輪郭の太さを変えたり色が違ったりと表現がお互いに異なっています。こうして同じものを何度か描くと良いのが生まれると考えていたようで、試行錯誤の様子が伝わってきました。
また、この頃も依然として裸婦も描いていたようで、「畳」という作品では横たわる裸婦を幾何学的な畳の中に描いています。やはり寝ている女性像は一貫したテーマと言えそうですが、この絵では顔が書かれていませんでした。顔を描くと情が湧くからとのことですが、情が湧いたほうが良い絵が描けそうに思えるのは素人だからでしょうかw

この章には何と熊谷守一の描いた書などもありました。「ほとけさま」とか「無」などが書かれていて、脱力系のゆる~い字ですw 何だか人柄が出ているようにも思えるかな。他には日本画なんかもありました。

そして、その後にこの展示で最も人気のありそうな一角があり、猫などの小動物の絵が並んでいます。大半は寝ている可愛い猫ですが身構えた感じのもあり、ここでも観察眼が生かされているように思います。割とデフォルメしているのに柔らかい雰囲気が出ているのが素晴らしいです。たまに幾何学的な感じの描き方の作品なんかもあります。

その後は単純化が進んで抽象画みたいな作品もありますが、最後の部屋は見どころと言えそうな作品が並びます。特に夜の空を描いた作品が良くて、ちょうど先日「美の巨人たち」でも紹介されていました。独特の色彩感覚と優れた観察眼の賜物と言えそうな傑作です。
 参考リンク:美の巨人たち 熊谷守一『宵月』赤い輪郭線の秘密!驚異の観察眼!!
そして最後にはカラフルな円を描いた作品(同心円状のものとか)が並んでいて、何だろ?と思ったら太陽でした。およそ太陽の色とは思えない取り合わせもありましたが、熊谷守一はこれらを自画像と呼んでいたのだとか。最後まで独特の世界と画風が楽しめました。


ということで、熊谷守一について詳しく知ることのできる展覧会で大満足でした。勿論、作品も素晴らしいものが多かったので図録も買いました。来年には熊谷守一を題材にした映画もあるそうなので、それも楽しみです。日本洋画が好きな方にお勧めの展示です。



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Tokyo Midtown Award 2017 デザインコンペ受賞作品展示 【東京ミッドタウン3階】

今日は仕事が忙しくて帰りが遅かったので小さい展示のご紹介。前回ご紹介したサントリー美術館の奥でひっそりと開催されている「Tokyo Midtown Award 2017 デザインコンペ受賞作品展示」を観てきました。この展示は撮影できるようでしたので、写真を使ってご紹介しようと思います。

DSC04604.jpg

【展覧名】
 Tokyo Midtown Award 2017 デザインコンペ受賞作品展示

【公式サイト】
 http://www.tokyo-midtown.com/jp/award/result/2017/

【会場】東京ミッドタウン3階
【最寄】六本木駅

【会期】不明
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 0時間15分程度

【感想】
展覧会といった感じではなく、通路の展示ケースに並べてあるような感じなので、いつもの評価テンプレートは割愛します。私以外にも観ている人はいましたが、ほぼ独占状態で観ることができました。

さて、この「Tokyo Midtown Award」は毎年開催されているデザインコンペで、今年で早くも10年目を迎えたようです。例年、地下通路で発表展示が行われていますが、ここでの展示はその後に行われているようでした。今年は「TOKYO」がテーマだったそうで、それに沿った面白い作品がありましたので、写真を使ってご紹介しようと思います。
 参考記事:Tokyo Midtown Award 2012 (東京ミッドタウン)

加藤 圭織 「東京クラッカー」
DSC04607.jpg
こちらは今年のグランプリ受賞作で、東京タワーの形のクラッカー。中から東京を代表する名所や名物が出て来る仕掛けです。これは他の都市でもフォーマットにできそうなアイディアかもw

山中桃子 「母からの仕送りシール」
DSC04610.jpg
こちらは準グランプリ。仕送りに色んなメッセージを入れるアイディアが微笑ましいです。正月おいで って所にちょっと寂しさも感じたり。

本山拓人・不破健男 「東京はしおき」
DSC04612.jpg
こちらは優秀賞。東京の橋の形をしていて、橋と箸を掛けているようです。勝鬨橋は跳ね橋なので真ん中で割れて欲しかったw

佐藤翔吾・嶋澤嘉秀・深澤冠・木川真里 「スカートせんす」
DSC04617.jpg
こちらは審査員賞の1つ。単にチェック柄のセンスかと思ったら女子高生の制服のスカートをイメージしているのだとか。確かに似てるけどどこが東京なんだ?とも思いましたw 東京の「kawaii」のアイコン的なファッションとのことでした。

富永省吾・綿野賢・浅井純平 「ゲタサンダル」
DSC04620.jpg
こちらも審査員賞の1つ。東京というより日本文化という感じですが、これは日常で使えそうに思えます。売ってたら買うかもw

他にも数点、受賞作が並んでいました。

ついでにいくつか過去の受賞作も並んでいました。こちらはミッドタウン内で販売もされている富士山グラス。
DSC04630.jpg
この作品ほど面白いデザインの受賞作は中々出ないんじゃないかな。単純だけど非常にセンスのある作品。

さらに、商品化パートナー募集中の作品もありました。

吉原まさひこ 「マト良子」
DSC04632.jpg
こちらは2013年の優秀賞作品。可愛いマトリョーシカの中にナイスバディのお姉さんが入っているのが面白いけど、何に使うんだろうかw

市田啓幸「おまもりカイロ」
DSC04634.jpg
こちらは2012年のグランプリ作品。カイロの活躍に時期がちょうど受験シーズンなのでこの発想は面白い。受験生以外にはあまり関心が集まらないかもしれないけど、スポーツ観戦のお供にに必勝祈願とかもあっても良いかもしれない。

竹尾太一郎・竹尾梓 「はしおきガム」
DSC04638.jpg
こちらは2015年の審査員賞作品。私はこれが一番商品化しそうな気がします。非常に合理的。 お洒落なのでガムと気付かない可能性がある気もしますw


ということで、今年のデザインアワードも面白いアイディアが集まっていたようでした。世の中には機知に富んだ人が沢山いるものだと毎回関心させられます。この展示は勿論無料で観られますので、サントリー美術館などに寄った際にはついでに観てみるのも良いかと思います。





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