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くまのもの 隈研吾とささやく物質、かたる物質 (感想後編)【東京ステーションギャラリー】

今回も写真多めで、前回に引き続き東京ステーションギャラリーの「くまのもの 隈研吾とささやく物質、かたる物質」についてです。前回は上階の展示をご紹介しましたが、今回は下階について写真を使ってご紹介していこうと思います。まずは概要のおさらい
 前編はこちら

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【展覧名】
 くまのもの 隈研吾とささやく物質、かたる物質

【公式サイト】
 http://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/201803_kengo.html

【会場】東京ステーションギャラリー
【最寄】東京駅

【会期】2018年3月3日(土)~5月6日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
上階に比べると下階のほうが鑑賞スペースが広めなので、若干混雑が緩和した感じがしました。後半はちょっと章立てが入り組んでいたので、実際の展示順ではなく素材別にご紹介していこうと思います。


<土>
下階の最初にあったのは土をテーマにしたコーナーです。土は固体・液体・気体(ほこりのような状態)の3つの間を漂っている素材と言えるそうで、日本では昔から土を建築に持ち込もうとしていました。そんな親しみある土ですが、ここでは新たな使い方をした作品が並んでいました。

隈研吾 「虫塚」
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こちらは虫を供養する為のモニュメントで発案者は脳科学者で虫好きでもある養老孟司 氏だそうです。虫かごの迷路のように見えますが…w

こちらは実際の虫塚の写真。鎌倉の建長寺にあるのだとか。
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ステンレスメッシュにガラス繊維と現地の土を接着剤をまぶして吹き付けているそうで、このような素材感になっているようです。この斬新な構造も驚きですが、土を使っていることも意外です。

他にも日干し煉瓦や苔の生えた建築など、土を大胆に使った作品が並んでいました。


<石>
続いては石のコーナーです。隈研吾 氏はガウディの建築を観て石が好きになったそうで、石を塊として使おうと心がけるようになったようです。そうすることで石には内部構造があり、方向性のある繊維も見えてきたようで、それに気づいて生物と生物以外との境界線も消滅するように感じたようです。ここにはそうした石の素材を使った建物の模型などが並んでいました。

隈研吾 「石の美術館」
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こちらは大正時代の石蔵を増改築した「石の美術館」で使った芦野石の石組み。石だけあって堅牢な印象を受けます。

実際の建物はこんな感じで、栃木県にあるようです。
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ここでは光を透かす大理石を厚さ6mmにして組み込んだりしているようです。同じ石でも特性によって使い分けるとは流石です。

隈研吾 「ストーンカードキャッスル」
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トランプのカードキャッスルから着想を得た作品。10mmの砂岩の薄い板が使われているようで、軽やかな印象すら受けます。

こちらはヨーロッパでの展示の様子。
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これを観る限り石には見えませんw しかしこの砂岩はミケランジェロも好んだフィレンツェの砂岩なのだとか。割と軽いのかな?

隈研吾 「ヴィクトリア&アルバート・ミュージアム ダンディ」
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こちらは部屋の真ん中にあった巨大な模型。イギリスのスコットランドの建物で、横に無数にギザギザして見える部分は地層から着想を得たようです。

こちらが実際の写真。
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水辺で形が逆の台形になっているので石舟のようにも見えるかな。陰影が見事なアクセントになっています。

隈研吾 「LVMH Osaka」
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こちらはホワイトオニキスをガラスでサンドイッチにした素材。これを使って発光するファサードを作ったそうで、オニクスはわずか4mmしかないそうです
横から見るとガラスに挟まれているのがよく分かります。模様も独特で、面白い素材でした。


<瓦>
続いては瓦やタイルのコーナーです。アジアでもヨーロッパでも家は木と瓦(タイル)との組み合わせで作られたとも言え、その土地の瓦はその家の建つ環境によって焼成温度や釉薬が決められるそうです。その為、瓦はその場所を構成する環境が可視化されているとも考えられるようで、ここにはそうした瓦(タイル)を使った作品が並んでいました。

隈研吾 「セラミッククラウド」
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こちらはセラミックタイルでガラス繊維メッシュをサンドイッチして作った素材を使っているそうです。非常に先進的な印象を受けますが、何の建物かは分からずw イタリアの草原の中に建っているそうです。

隈研吾 「新津 知・芸術館」
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こちらは中国の道教の聖地に建つミュージアム。地元の野焼きで作られる粗くランダムな表情を持つ瓦をワイヤーに固定して使っています。瓦と言うと屋根のイメージですが、まさか側面に使うとはw


<金属>
続いては金属のコーナー。隈研吾 氏は自由に形が変わる形状記憶合金と出会うことで金属を友人や生き物のように感じて金属の実験を始めたそうです。形状記憶合金を用いる際には建築を強すぎず弱すぎず造るそうで、それによって形が変えられるようです。ここにはそうした金属を使った作品が並んでいました。

隈研吾 「ポリゴニウム」
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こちらは先程の「ストーンカードキャッスル」で追求した形をアルミに応用した作品。ボルトやビスを使わずにピンを打ち込むだけで繋がっているようで、短時間で分解・増設が可能なのだとか。繋ぎの部分を作りやすいのも金属ならではなのかも。よーく観ると、板と板の間に6方向に繋がっている継ぎ目があるのが分かります。

隈研吾 「北京 前門」
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こちらは古い建物を保存しながらアルミのスクリーンを付けたプロジェクト。「透明なレンガ」を目指したデザインだそうですが、日中は庇にもなるそうです。中国風の文様のようにも見えるので古い建物にもマッチして見えました。これも細かく分解できるようで、将来的な増設にも対応可能なんだとか。


<樹脂>
続いては樹脂のコーナー。樹脂は工業的なイメージがありますが、隈研吾 氏はその自由さを突き詰めれば木にも匹敵する優しさや暖かさを示すことができると考えたようです。ここにはそうした樹脂の可能性を感じさせる作品が並んでいました。

隈研吾 「Water Branch House」
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こちらは自由に触って体験できる作品でした。変わった形のポリタンクみたいな素材で、ブロックのようにお互いを組合すことで自在に広がっていきます。組み合わせるのも簡単なので、実際にやってみると面白いと思います。中に冷水や温水を入れて一種の環境装置としても機能するのだとか。

隈研吾 「織部の茶室」
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カットしたプラスティックダンボールを結束バンドで固定して作った茶室。歪んだ形が古田織部の茶碗に似ていることから敬意を表してこの名前にしたそうです。何かの繭のような温かみと近未来的なデザインが融合しているようにも思えます。現地で手に入る材料(ポリカーボネート樹脂)に変えて世界各国で再現されたようで、応用力や汎用性にも優れていそうでした。


<ガラス>
続いてはガラスのコーナーです。隈研吾 氏は、ガラスは透明でも無でもなく物質として様々に振る舞うことに着目して、それを引き出そうと試みているそうです。また、ガラスは厚み(端部)が特に大事だと考えているようで、そこに重さや硬さがストレートに出てくるようです。ここにはそうしたガラスの特性を活かした作品が並んでいました。

隈研吾 「マルセイユ現代美術センター」
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こちらは障子のような半透過の効果をもつ外壁ユニットを使った建物。これで南仏の強い日差しをコントロールすると共に、内部・外部の視線もコントロールしているようです。実際の建物は1枚1枚ちょっとずつ角度が違っているようで、可変性に富んだファサードになっているようでした。

この近くではティファニー銀座も紹介されていました。あれも隈研吾 氏のデザインだったんですね。


<膜・繊維>
最後は膜や繊維のコーナーです。建築を柔らかくしたいと考えると、最も面白くて可能性のある素材は繊維だそうです。隈研吾 氏は布のように柔らかくてふわふわした建築に今一番興味があるそうで、ここにはそうした膜や繊維を使った作品が並んでいました。

隈研吾 「浮庵」
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こちらは石のコーナー辺りにありました。塩ビ製の風船にヘリウムガスを入れて浮かせて、スーパーオーガンザという世界最軽量のポリエステル繊維の布をかけて茶室としています。絶妙なバランスで浮いているようで、これには非常に驚かされました。これより軽い建築は無いのでは??w

隈研吾 「てっちゃん」
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こちらは廃材となったLANケーブルを再利用して、家具や照明、壁、天井を柔らかくふわふわした印象にしたもののようです。離れてみると毛糸の束のようにも見えるw 単なるリサイクルを越えた発想が面白かったです。

隈研吾 「Tee Haus」
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こちらも茶室。空気を入れて膨らますそうで、昔デパートの屋上にあったビニールのテントを思い起こしましたw ピーナッツみたいな丸みのある形もなんだか柔らかそうに見えます。

隈研吾 「New Shinagawa Station 品川新駅(仮称)」
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こちらは現在 計画が進んでいる田町駅と品川駅の間にできる新駅のデザイン。屋根が半透明の膜材となるそうで、障子のような効果が得られるようです。駅の中でも天気が感じられるそうなので、天気がいい日は明るいのかも。

隈研吾 「New Shinagawa Station 品川新駅(仮称)」
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品川新駅はもう1つ模型がありました。側面もガラス張りになっていて外光が入ってきそうです。中々開放感がありそうで完成が待ち遠しいです。


ということで、隈研吾 氏が伝統から着想を得たり様々な素材を研究して、それを活かす挑戦をしている様子がよく分かる展示となっていました。中には実験的なものもありますが、しっかりと実際の建物に機能的に応用されている点が面白かったです。最近は建築展が盛り上がりを見せていますが、建物好きはこの展示は特に見逃せないと思います。非常に満足度の高い内容でした。


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くまのもの 隈研吾とささやく物質、かたる物質 (感想前編)【東京ステーションギャラリー】

今日は写真多めです。1週間ほど前の日曜日に東京駅構内にある東京ステーションギャラリーで「くまのもの 隈研吾とささやく物質、かたる物質」を観てきました。この展示は撮影可能な上、非常に濃密な内容となっていましたので前編・後編に分けてご紹介しようと思います。

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【展覧名】
 くまのもの 隈研吾とささやく物質、かたる物質

【公式サイト】
 http://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/201803_kengo.html

【会場】東京ステーションギャラリー
【最寄】東京駅

【会期】2018年3月3日(土)~5月6日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
予想以上に混んでいて、場所によっては人だかりができるような感じでした。会期も残り少なくなってきたので、この先も土日は混んでいると思われます。

さて、この展示は今日の日本で最も著名な建築家の1人である隈研吾 氏の約30年に及ぶプロジェクトを振り返る内容となっています。模型と 実際の建物の写真、そしてそれを形作る素材等と共に紹介していて、素材別に章分けされていました。冒頭に記載した通り、会場内の作品はすべて撮影可能となっていましたので写真を使ってご紹介していこうと思います。


<竹>
隈研吾 氏は幼い頃に家の近くに竹林があったようで、竹に慣れ親しんで育ったそうです。竹は昔からル・コルビュジエの弟子の板倉準三や、数寄屋建築の巨匠吉田五十八、ドイツから来たブルーノ・タウトなども魅了されて使ってきた素材ですが、20世紀に竹を本格的に使った建築はありませんでした。それは乾燥すると割れる為、構造材として使いにくいのが理由だそうで、隈研吾 氏を始めとした建築家たちはその限界に挑み続けているようです。ここにはそうした竹を使った建築物の模型などがありました。

隈研吾 「ナンチャンナンチャン」
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会場入口付近にはこんな感じで竹を曲げた素材が展示されていました。これはヨシホリカワ氏とのコラボ作品で、竹の床を踏むと端部まで振動が伝わる仕組みになっているそうです。竹の持つ柔軟性を活かしたパビリオンだったようで、これは昔ながらの使い方からの発想じゃないかな。

この他にも隈研吾 氏は竹を使う方法を研究していて、節を取ってコンクリートを流し込んだ「竹の家(2000)」や、南米のグアドゥアという肉厚で割れない竹を取り寄せて醤油蔵の再生に挑んだ「浜田醤油(2009)」といった作品があるようです。

隈研吾 「Great (Bamboo) Wall」
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こちらがコンクリートを流し込んだ竹を使った作品。スチールパイプにコンクリートを流し込む手法から着想を得て鎌倉の住宅で実験した後、万里の長城のすぐ脇に建つホテルの内外装で用いたようです。竹の寿命を伸ばすために炙ったり油を塗ったりしたのだとか。竹を使っているだけあってモダンなのにどこか古い家屋のような落ち着きが感じられます。


<木>
続いては木を使った建築のコーナーです。かつて19世紀の建築理論家ゴットフリート・ゼンパーは建築は「地面の仕事」(基礎工事)、「火の仕事」(空調や電気設備等の設備工事)、「編む仕事」の3つの作業で作られると示したそうです。アジアやアフリカではまさに編むように家を造り、日本でも小径木を編んで造るそうです。木は最も編みやすい素材であり、日本では錆びやすい金属を使って固定することを避けてきたようで、緩い木同士のジョイントによって自由に変化し形の変わる建築も作れるようです。ここにはそうした木の特性を活かした設計が並んでいました。

隈研吾 「木霊」
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こちらは木片を組み合わせて釘を使わないで作られた作品。この木材の組み合わせ次第でどんな形にもできるのだとか。

これが欠き込みを付けた木の面材
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確かに自在に組み合わせることができそうな発想で面白い。ジョイントが緩い方が木の伸び縮みや反りにも対応できるのだとか。

隈研吾 「浅草文化観光センター」
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こちらは木造平屋建てを8層積層するというアイディアから生まれた作品です。家が斜めに乗っかっているようにも見えるw 格子が非常に洒落た雰囲気ですが、これは太陽光をカットする役目もあるようです。同じく隈研吾 氏が手がけたサントリー美術館にも似ているように思えました。

隈研吾 「GCプロソミュージアム・リサーチセンター」
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グリッド状の木組みが整然とした印象を受ける作品。これも釘も接着剤も使わずにくっつけているようです。

実際はこんな感じみたいです。中から観てもカッコイイ。
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この枠はそのまま展示ケースや家具にも使われるのだとか。実物は愛知県にあるそうですが、実物はイメージしたほど大きくなさそう。
 参考リンク:隈研吾建築都市設計事務所の紹介ページ

隈研吾 「スターバックスコーヒー 太宰府天満宮表参道店」
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こちらは何とスターバックスコーヒーの店舗。木が飛び出してくるような斜めの立体格子となっているようです。奥へ奥へと引き込むような流動性が狙いのようです。

こちらはスターバックスコーヒーの木組み
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直行のグリッドは3本の交わりですが、斜行グリッドは4本が交わるので欠き込みは複雑になるそうです。こうして一部分を観るだけでもかなり複雑な作りなのが分かります。

隈研吾 「香柱」
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こちらは個室のような所で展示されていて、非常に爽やかな香りがしました。香りをテーマとした竹ひごのパビリオンで、香りを最大化するのに挑戦して香りが渦巻く効果を狙ってこうした形になっているのだとか。この部屋の中は香りが充満していて狙い通りになっているように思いましたが、それだけでなく流れるようなフォルムも優美な感じを受けました。

隈研吾 「梼原木橋ミュージアム」
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こちらはちょっと前に「美の巨人」でも取り上げていました。山梨県の奇橋として有名な猿橋から着想を得た作品です。

幾重にも層を重ねて、短い木材だけで長い橋を造る構造となっています。
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この建築の特徴は何と言っても1本の柱で支えているところ! ヤジロベーみたいに絶妙なバランスで立っているようでした。これは実物を観に行ってみたいけど高知なので関東からは遠いw

隈研吾 「新国立競技場整備事業」
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隈研吾 氏が現在の日本で最も注目を浴びているのはこの建築物の為ではないでしょうか。2020年のオリンピックのメイン会場となるスタジアムです。

色々な要件があったので冷房がないとか一抹の不安がありますが、スタジアムに風を取り入れる量をコントロールしようと試みているようです。
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ファサードが庇のようで日本らしさを感じる素晴らしいデザインなのは確かです。

隈研吾 「coeda House」
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こちらは解説がありませんでしたが一際目を引く模型がありました。先程の梼原木橋ミュージアムにも似ているかも。


<紙>
続いては紙のコーナーです。紙の持つ柔らかさや、加工しやすいドロドロした液体状態から作られることを活かした作品が並んでいました。

展示室はこんな感じになっていました。
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「青海波」と名付けられたメッシュ状の紙などがあります。

隈研吾 「ペーパーブリック」
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こちらは古新聞を水で溶かしてから型に入れて乾燥成形したもの。卵のケースの技術の応用ですが、ここでは凹凸を噛み合わせて積み上げるアート作品として使っていました。確かにこれは何か建築物にも応用できそうな感じがします。

隈研吾 「ペーパーコクーン」
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こちらはバルカナイズドペーパーという塩化亜鉛によって強化された特殊な紙です。高い剛性があるそうで見るからに硬そうな感じ。それでも紙らしさもあるのが不思議

こんな感じでトンネル状の作品を作ったようです。
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これを支えられるくらいの強度があるようで驚き。素材の持つ力を見極めて自由自在に使う発想にも驚愕するばかりです。

この辺で上階は終了で、下階に展示は続きます。

ということで、前半から非常に見事な設計と豊かな発想を観ることができました。研究熱心なのも伝わってきて、隈研吾 氏の魅力がよく分かる展示だと思います。後半もまだまだ面白い作品がありましたので、次回は下階についてご紹介していく予定です。

 後編はこちら


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モダンアート再訪ーダリ、ウォーホルから草間彌生まで 福岡市美術館コレクション展 【埼玉県立近代美術館】

今日も浦和周辺についてです。1週間ほど前の日曜日に埼玉県立近代美術館で「モダンアート再訪ーダリ、ウォーホルから草間彌生まで 福岡市美術館コレクション展」を観てきました。

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【展覧名】
 モダンアート再訪ーダリ、ウォーホルから草間彌生まで 福岡市美術館コレクション展 

【公式サイト】
 http://www.pref.spec.ed.jp/momas/?page_id=382

【会場】埼玉県立近代美術館
【最寄】北浦和駅

【会期】2018年4月7日(土)~5月20日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_4_⑤_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
空いていて快適に鑑賞することができました。

さて、この展示は1979年に開館した福岡市美術館が工事休館となっているのを機に、そのコレクションを一挙70点紹介する巡回展となっています。福岡市美術館は国内でもいち早くモダンアートの収集をしていたようで、今回の展示ではその充実ぶりを楽しむことが出来ます。また、九州の美術館らしい九州で活躍したグループのコレクションなども紹介していて、目新しい作品もありました。展示は6章に分かれていましたので各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。


<第1章 夢の中のからだ>
まずは近代絵画のコーナーです。ここは7点ですがシュルレアリスムを始め、見応えのある作品が並んでいました。

1 レオナール・フジタ 「仰臥裸婦」
こちらは藤田らしい見事な裸婦像で、横たわった裸婦が手を挙げて地面に髪を垂らす様子が描かれています。足元には猫もいてこちらも可愛いw 細い輪郭線と乳白色の色合いはパリで絶賛された様式そのものといった感じでした。構図も素晴らしい作品でした。

3 ジョアン・ミロ 「ゴシック聖堂でオルガン演奏を聞いている踊り子」
黒地に記号のようなものが並ぶ抽象的な作品です。たまに*とか顔とか目玉らしきものがありますが、タイトル通りの踊り子なのかはさっぱり分かりませんw しかし原色の色合いと軽やかなモチーフはミロの典型的な画風に思います。こちらも見事なコレクションで、以前観たのを覚えていました。
 参考記事:日本の美術館名品展 感想前編(東京都美術館)

この辺にはダリやシャガールなどもありました。

5 ポール・デルヴォー 「夜の通り(散歩する女たち学者)」
画面が2つに分かれたような構図の作品で、左にアンモナイトを単眼鏡で覗き込む男性、右は上半身裸で夜の街を歩く貴婦人たちが描かれています。女性たちの奥には蒸気機関車などもあり、デルヴォーが好きなモチーフてんこ盛りみたいな感じですw 女性達の目は虚ろで、非常にシュールな印象を強めていました。デルヴォー好きとしてはこんな良い作品を観られて嬉しい限り。
 参考記事:ポール・デルヴォー展 夢をめぐる旅 (埼玉県立近代美術館)


<第2章 不穏な身体>
続いては不穏さを秘めたちょっとグロい人体を描いた作品が並ぶコーナーです。

13 ジャン・デュビュッフェ 「もがく」
こちらは厚塗りされた白地を背景に、色をぐちゃぐちゃに塗ったような人物像です。目鼻があるのと手の部分が分かる程度で、これが人物とは思えないほどですが、色のインパクトがかなり強くてタイトルのように痛みや苦しみが伝わってくるような感じもしたかな。

12 海老原喜之助 「傷身」
上を向いて 後ろ手を縛られた裸の人物が、右の人物に首の紐を引っ張られている様子を描いた作品です。左にはそれを後ろから見張るような人までいて、背景に2つの×印があることなどからも磔刑を思わせます。強い赤や青が人体表現に使われていて、こちらも痛みのようなものが感じられました。拷問のシーンを観ているような恐ろしげな光景です。

15 イヴ・クライン 「人体測定(ANT 157)」
青色の渦みたいなものがあちこちに描かれている作品で、これはモデルが体に絵の具を塗ってキャンバスい押し付けて描いているようです。解説によるとイヴ・クラインが日本滞在中に力士の手形や魚拓を観て着想を得たとも言われているようですが、原爆で焼き付けられた人の影との関係も指摘されるようです。同様の作品をいくつか観たことがありますが、こちらはうねるような感じで躍動的にも見える一方、這いずり周るような痛みもあるように思いました。


<第3章 身体と物質 九州派・具体・アンフォルメル>
続いては福岡で活動していた「九州派」と、阪神間で活動した「具体美術協会」についてのコーナーです。お互いが接することは無かったようですが、東京の権威に反発する点で共通するようで、ここには強烈な表現方法の作品が並んでいました。

19 石橋泰幸 「オヒサマ」
薄黒い赤地に黒い蜘蛛の巣のようなものが渦巻いている作品です。これはアスファルトらしく物質的な存在感があるのですが、近くに三井三池炭鉱のあった九州派の作家たちにとってアスファルトは社会的な意味もあるのだとか。ややグロテスクにも思えますがジャクソン・ポロックみたいな技法のようにも思えました。

この近くには同様にアスファルトを使った九州派の作品が並んでいました。他にも色々材料を使っていて、ざらついたマチエールの作品ばかりでした。

17 山内重太郎 「作品5」
こちらはベニヤ板にアスファルトを流し込んで顔料を垂らした上に、ガソリンをかけて火を放つという荒っぽい技法で描かれた?作品です。まさに焼け跡のようで真ん中には穴まで空いていますw ここまで破壊的な表現は観たことがなかったので衝撃を受けると共に、九州派の強い個性が感じられました。

34 ジャン・フォートリエ 「直方体」
こちらはアンフォルメルの画家フォートリエの作品で、白地に緑がかった長方形が描かれています。抽象的にも思えますが、塗り重ねたマチエールと引っ掻いたような痕跡が独特の雰囲気を出していました。
 参考記事:アンフォルメルとは何か?-20世紀フランス絵画の挑戦 (ブリヂストン美術館)

26 白髪一雄 「丹赤」
こちらは具体美術協会のメンバーだった白髪一雄の作品で、黄色と赤がうねるように描かれた抽象画です。絵の具はかなり盛り上がっていて、流れるような痕跡となっているのですが、これは天井から吊り下げられた綱に掴まって足で板を操作して描いているようです。同様の作品を結構観たことがありますが、こちらも独特の技法によって力の伝わり方がよく分かる作品に思えました。

24 嶋本昭三 「作品」
こちらも具体美術協会の創立メンバーの作品で、緑や赤、オレンジなどの色が炸裂するように飛び散っている抽象画?です。 これはキャンバスの上に石を置いて、それをめがけて絵の具の入った瓶を投げて制作したそうで、たまにガラス片も混入しているそうですw これまた破壊的な技法ですが、まるで火山の噴火のようなエネルギーを感じる表現となっていました。


<第4章 転用されるイメージ ポップアートとその周辺>
続いては1960年代以降のポップアートのコーナーです。この辺からリストと実際の展示順の章分けが異なっているのもありますが、展示で観た順でご紹介していきます。

40 菊畑茂久馬 「ルーレット No,1」
こちらは今回のポスターにもなった作品で、ルーレットのような円と その上に謎の器具がついていてピンボールを想起させます。解説によるとこれはギャンブルに象徴される世俗的イメージや、資本主義社会における物欲といった面を映しているとのことです。私にはそこまでは分かりませんでしたが、単純にゲーム盤のようなポップさがあって絵としても面白さを感じました。

37 赤瀬川原平 「千円札(風倉匠の肖像)」
こちらは千円札を模した3枚の肖像画です。横顔が描かれているのですが、タイトルから察するにこれは仲間の風倉匠の顔なのかな? 解説によると作者はネオダダの反芸術的な思想と方法を学んだそうで、この作品では紙幣の持つ物神性と権力性への挑発が意図されているとのことでした。確かにこれはやってはいけない感がする… お札をコピーしたり落書きするとアウト的なw

近くに風倉匠の作品もありました。


<第5章 イメージの消失 抽象と事物>
続いても現代アートのコーナーです。

36 アンディ・ウォーホル 「エルヴィス」
こちらはエルヴィス・プレスリーが拳銃を構えているシルクスクリーンが2枚並んだ作品です。このモチーフは映画「燃える平原児」の広報用スチル写真を元にしているそうで、2つともほぼ同じに思えますが、左の方はやや かすれて消えかかっているようにも見えます。解説によると、これはテレビや映画で複製された儚いイメージに過ぎず、消費されることが有名である資本主義社会をシニカルに提示しているとのことです。アンディ・ウォーホルはコピーや転用を繰り返すことで元の意味を希薄化させる作品が多いので、この意図は分かったような気がしましたw
 参考記事:アンディ・ウォーホル展:永遠の15分 感想前編(森美術館)

46 草間彌生 「夏(1)」「夏(2)」
赤地に白い水玉模様の細長い棒状のものが無数に組み合わさってイソギンチャクみたいな形になった作品です。一見すると謎のオブジェですが、蠢く触手のようにも見えるかなw ちょっと不気味さもありますが、水玉と男性器を思わせる突起は草間彌生のお得意のモチーフで、ポップな印象も受けました。

この辺にはリキテンスタインや瑛九の作品などもありました。

50 マーク・ロスコ 「無題」
上半分は深い赤、下半分は白、絵のフチは黄土色という色だけの抽象画です。相変わらずロスコの作品の意味は分かりませんが、滲みがあって揺らめくような印象を受けるかな。観ていて落ち着くような瞑想的な作品に思えました。


<第6章 再来するイメージ>
最後は1980年代以降のコーナーです。この頃になるとイメージが作品の中に再び登場したようです。ここには巨大な作品も多々展示されていました。

56 山崎直秀 「Book 1」 「Book 2」 「Book 3」
これは1977年頃の作品ですが、この章にありました。一見すると3冊の岩波書店の文庫本みたいに見えますが、Book1は文章のところが6段階の明度の■になっていて、Book2は文字が意味の通じないデタラメな順序に置き換わっています。さらにBook3は行ごとに上から順に明度の高い文字順に並び替わっていて(下に行くほど画数の多い文字になっていく)、面白い発想でした。どうしてこんな作品を作ったのか知りたかったw

60 ジャン=ミシェル・バスキア 「無題」
こちらは黒を背景に人の顔や犬、手、五重塔、人体など様々なモチーフが描かれた作品です。沢山の文字なども描かれていて、ちょっと落書きみたいにも思えますw 原色でペンキのローラーやチョークも使っているなど技法も独特で、具象と抽象の混ざったような独特の雰囲気となっていまいた。


ということで、充実したコレクションを堪能することができました。巨匠たちは典型的な作品が多くて非常に見事な一方、九州派や具体美術協会のような作品は目新しくて驚きがありました。関東から九州に行くのは大変ですが、この機会に一気に観ることができるのでモダンアートがお好きな方にお勧めの展示です。


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【浦和くらしの博物館民家園】と周辺の写真(2018年3月)

今回は写真多めです。3週間ほど前の日曜日に、東浦和にある浦和くらしの博物館民家園に出かけて写真を撮ってきました。近くには桜並木もあったので、そちらと合わせてご紹介していこうと思います。

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【公式サイト】
 http://www.city.saitama.jp/004/005/004/005/003/index.html

【会場】
 浦和くらしの博物館民家園

【最寄】
 東浦和駅

【感想】
空いていて快適に観覧することができました。ここは無料で観覧できますが、あまり知られていないし駅から割と離れているせいかな。

さて、こちらの施設は埼玉県のさいたま市(旧浦和市の地区)にある民家園で、中山道の宿場町だった浦和の古民家や周辺の農家などを移築して集めた施設となっています。それほど敷地は広くなく、川崎の民家園に比べるとかなり小規模(7軒程度)なので、苦労して行く割にはあっという間に見終わってしまいますw しかし桜の季節は東浦和駅から延々と続く桜並木を歩いて近くまで行くことができるので、それと合わせれば穴場のスポットとも言えそうです。風情ある家々と付近の桜並木を撮影してきましたので、写真を使ってご紹介していこうと思います。

 参考記事:
  【川崎市立日本民家園】の写真 (2017年05月)
  【川崎市立日本民家園】の写真 (2013年10月)

こちらは浦和くらしの博物館民家園の地図
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駐車場がやけに広いのは市内の小学生たちがバスで社会科見学に来る為でしょうかw あちこちに社会科見学用と思われる説明や体験用の器具なんかもありました。

こちらは元々は中山道にあった高野煎餅店。
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柔らかめの煎餅を売っていたお店だったそうです。

もちろん、中も見学できます。安政の頃に建てられたらしいので、割と江戸末期あたりの建物です。
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階段になっている箪笥や火鉢など、当時の道具が展示されています。左奥あたりにお煎餅が陳列されています!w

こちらはお煎餅の形を造る時に使う型抜き
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これを生地の上で転がすと丸型の型が抜けるようです。シンプルかつ効率的な道具ですね。

続いてこちらは綿貫商店。漆屋造りという現存の少ない建物で、2階の虫籠窓などが特徴的でした。
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元は肥料と荒物を扱ったお店です。いつ頃から商売していたかは分からないようですが、江戸時代後期には浦和の地にあったそうです。

こちらはお店の中。先程のお煎餅屋さんとは置かれているものもだいぶ違います。
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レジスターとかは近代のものだと思いますが、肥料を扱ってただけあって秤なんかが置かれていました。

続いては元は庫裏だった旧野口家住宅。明治初年に廃寺となって民家となったようです。
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茅葺寄棟造りというこの地方の典型的な民家で、安政5年と書かれた墨書が残っていたことから、その時期かそれ以前の頃に建てられたと考えられるようです。

外観も立派でしたが、内部も非常に美しい建物です。
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この幾何学的な調和が日本民家の美じゃないかな。この家は土間なども広くて見事でした。

続いてこちらは旧武笠家表門。
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民家のように見えますが、大きな門です。しかしこの門を開けるのは冠婚葬祭などの特別な日だけで、基本的には別にあった通用門を通ったようです。我々も通用門を通って入りました。

門をくぐると家が見えてきます。
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この光景が美しく感じられて写真を撮ってみました。

この門は立派なだけでなく、物置としても使われていたようです。
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唐箕や大八車はともかく、舟は何に使うんだ?と思ったら、この辺の川での漁や洪水の時に使ったようです。なかなか備えが良いですねw

こちらは門の内側から外を観た所。
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小さい戸口が見えるのが通用門です。こんなに大きな門なのにこれしか空いていませんw

こちらは旧蓮見毛住宅。さいたま市で最も古い古民家なのだとか
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こちらもこの地方の典型的な古民家ですが、格子窓(シシマド)や柱が直接 礎石の上に立つこと、柱の断面が正方形でなく不揃いな点などは古い特徴となっているようです。

中はこんな感じ。
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豪農だったのかな? 割と広くて立派です。

古民家はこれくらいで、冒頭にある建物に戻ってきました。大正時代のかんぴょう問屋の倉庫だったもので、旧浦和市の農業共同組合の支所として使われていたそうです。

倉庫の中では小さな展覧会も開かれていました。
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展覧会名:「見沼の虫たち」
会期:2018/3/24~6/3

こんな感じでこの地域のいくつかの昆虫標本が展示されていました。
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蝶や蝉、カブトムシなど割と身近な虫ですが結構種類がいて驚きました。

小さな展示なので昆虫の標本は少なかったですが、常設で農具なども展示されていました。
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これも少ないので15分もあれば観られますが、機能的な農具の数々を観ることができました。


ということで、民家園を楽しんできました。ここは浦和といっても街から離れた郊外にあるので中々行くのは大変ですが、桜の時期にだけ一緒に楽しめるスポットが近くにあります。

それがこちらの桜並木。東浦和駅の近くから民家園の近く辺りまで延々と並木が続いています。
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この日は都内やさいたま市内も満開だったのですが、ここはちょっと寒いらしくて5~7分咲きといった感じでした。都内より2日くらい遅れているようです。

場所によっては満開近い所もありました。
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日当たりの関係かな?w

桜のアップ。
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こちらは最近買ったデジタル一眼のnikon D5600で撮りました。コンデジより鮮やかに撮れて嬉しいw

この川は見沼代用水と呼ばれる用水路で、たまに水門もあります。
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かつてはパナマ運河のように水位を調整していたそうで、中々ハイテクな用水路だったようです。

桜だけでなく他の花も綺麗に咲いていました。
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ちょっとこちらの花は何だか分かりませんが、鮮やかなピンクで華やかでした。

花の根元には黒猫がお散歩していました。
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春爛漫といった感じでお花見も楽しめました。


ということで、民家園と共にお花見という一挙両得で楽しむことができました。もう今年はお花見シーズンが過ぎてしまいましたが、来年以降に桜の穴場を探したいという機会があったら思い出してみてください。






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桜 さくら SAKURA 2018 ―美術館でお花見!― 【山種美術館】

前回ご紹介した根津美術館に行く前に山種美術館で「〔企画展〕桜 さくら SAKURA 2018 ―美術館でお花見!―」を観てきました。この展示では1点だけ撮影可能となっていましたので、その写真も含めてご紹介していこうと思います。

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【展覧名】
 〔企画展〕桜 さくら SAKURA 2018 ―美術館でお花見!―

【公式サイト】
 http://www.yamatane-museum.jp/exh/2018/sakura2018.html

【会場】山種美術館
【最寄】恵比寿駅

【会期】2018年3月10日(土)~5月6日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間20分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
結構お客さんが多くて賑わっていました。とは言え、混んでいるというほどでもなく自分のペースで鑑賞することができました。

さて、この展示は山種美術館が誇る日本画のコレクションの中から桜をテーマにした作品を集めたものとなっています。(一部に山種美術館以外のコレクションも含まれています) 以前にも同様の展示があって、毎年恒例のように思っていたら今回は6年振りということで、そんなに経ってたのかと逆に驚きです。3つの章に分けて展示していましたので、各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。
 参考記事:桜・さくら・SAKURA 2012 -美術館でお花見!- (山種美術館)


<第1章 名所の桜>
まずは桜の名所を描いた作品が並ぶコーナーです。

12 東山魁夷 「春静」
山の緑の森を背景に桜が咲く様子が描かれた作品です。斜めに山の斜面が描かれ、空の黄色、山の緑、桜の淡いピンクといった感じで画面が斜めに3色に分割されているような構成が面白いです。静かな気配が漂い、タイトル通りの雰囲気の作品でした。

13 石田武 「月宵」
やや暗い夜の空を背景に、どっしりとした見事な枝垂れ桜が描かれた作品です。空には丸い月があり神秘的な雰囲気もありますが、花が多い所は霞むような表現となっていたり花弁が1枚1枚描かれているところがあったりと、静けさと華やかさが同居するような作品でした。

この辺には速水御舟による色紙よりもちょっと大きめの画帖が並んでいました。写実的でシャープな線で描かれた写生となっています。

6 奥村土牛 「醍醐」
こちらはこの美術館でも特に人気の高い作品で、画面の中央に1本の木の幹が描かれています。幹は「たらし込み」のような滲みを使った表現で年季を感じさせる一方、霞むようなピンクの花が周りにあり、軽やかな色合いが可憐です。まさに春の温もりが伝わってくるような傑作です。

27 奥田元宋 「奥入瀬(春)」
こちらは奥入瀬の渓流が右から左へと流れる様子が描かれた作品で、白い水しぶきが流れの速さを感じさせます。周りは緑が生い茂り、中央あたりに薄っすらと桜が観られます。絵自体が大きくて、その場にいるような臨場感が味わえる大パノラマとなっているもの見どころでした。

25 橋本明治 「朝陽桜」
金地を背景にデフォルメされた花弁が画面中に描かれた作品です。ところどころに金箔を散らしていて花の香る雰囲気が出ている一方、デフォルメぶりがデザイン的で軽やかな連続性を感じさせました。近くで観るとと凹凸が結構深いのも分かると思います。

4 土田麦僊 「大原女」
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この作品だけ撮影可能となっていました。京都の大原の女性たちが薪を頭に載せて都に売りに行く様子が描かれたもので、ここでは手前中央に桜が置かれる大胆な構図となっています。片足を上げているのが足取りを感じさせて、3人並ぶことでリズミカルな雰囲気を生み出しているように思いました。


<第2章 花を愛でる>
続いては文学や歴史において桜と関わりのある人物などを描いた章となっていました。

31 伊東深水 「吉野太夫」
間道縞と呼ばれる複雑な幾何学文様に扇面散らしのような柄の着物を着た遊女と、お盆に小さな壺を載せて向き合っている禿(かむろ)らしき小さい女の子を描いた作品です。背景には桜も少しだけ描かれているかな。この女性は吉野太夫という遊女で、茶人の家に落籍され 後に茶室の創案などもした風流人だそうです。そんな才女だけあってキリッとした表情をしていて、凛々しい雰囲気がありました。

37 上村松園 「桜可里」
白い布を被った着物の女性と、手折った桜の枝を持つ侍女らしき女性が歩いている様子を描いた作品です。非常に可憐な女性たちですが、菱川師宣の「上野花見の躰」に同様の図があり、ポーズも似ているのでそれを参考にしたと考えられているそうです。髪型などもその当時のものらしく、上村松園が古画を学んだ様子も伺えます。絵には作者の人格が出ると考えていた上村松園らしい気品ある作品でした。

40 松岡映丘 「春光春衣」
十二単の女性が縁側で桜を観ている様子を描いた作品で、画面には松などもあって桜吹雪も吹いている感じです。題材自体は古くからあるようにも思えますが、色面を使って表現した松や、色彩が軽やかつ鮮やかに表現されている所に現代的なセンスも感じられます。私としてはこの作品がこの展示でもベストじゃないかというくらい好みの作品でした。(もともと松岡映丘の作品は全部好きな勢いだったりしますがw)


<第3章 桜を描く>
最後は桜の咲く風景や、花や幹にクローズアップした作品、夜桜を描いた作品などが並ぶコーナーです。

47 渡辺省亭 「桜に雀」
こちらは桜の枝に留まる3羽の雀を描いた作品で、写実的で抑えた色調で描かれています。身をかがめて様子を伺う姿などはよく観察して描いているのが伝わってきます。桜も静かな雰囲気で、単に華やかに表現するだけではない面白さを感じました。

51 川端龍子 「さくら」
画面中央にドカッと大きな幹が描かれた作品で、桜の花は脇役になっていて幹が主役というちょっと変わった構図ですw たらし込みのように滲みを幾重にも重ねて風格を出していて、ちょっとあざといくらいに立派な幹となっていました。中々インパクトのある絵でした。

52 上村松篁 「日本の花・日本の鳥 のうち[日本の花]」
2曲1隻の屏風で、6つの扇形の中に桜や燕子花など四季の花々が描かれています。デフォルメされて柔らかい雰囲気の花が、可憐でちょっと素朴な感じも受けました。なお、この作品は元々は一双の屏風で、もう片方には鳥たちが描かれているのだとか。

56 速水御舟 「あけぼの・春の宵 のうち[春の宵]」
細い月の浮かぶ暗闇の中に立つ1本の桜を描いた作品で、花弁が舞い散り儚げな印象を受けます。暗い中でも満開の桜が神秘的で、どこか心象風景のようにすら見える光景となっていました。

この近くにあった加山又造の「夜桜」も見事でした。


ということで、大半は観たことがありましたが桜尽くしの華やかな展示となっていました。日本人は昔から桜を愛してきたのもよく分かる内容だったと思います。既に関東では桜は散って緑となっていますが、まだここで桜の絵の数々を観ることができるので、その余韻を味わってみてはと思います。

なお、次回の展示は琳派の展示のようです。根津美術館でも琳派の展示が始まるので、ハシゴすると楽しいかも(この2館は一本道でタクシーで5分くらいしか離れていませんのでハシゴしやすいです)



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【根津美術館】の桜 2018

前回ご紹介した根津美術館の展示を観る前に、桜の咲いていた庭園も観てきました。撮影してきたので、写真を使ってご紹介していこうと思います。

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 参考リンク:根津美術館の公式サイト

根津美術館は燕子花と紅葉の時期によく行くのですが、桜の時期に行くのはいつ以来か覚えていないほど久々でした。3月末くらいに行ったら五分咲きくらいに見えたのですが、場所によっては満開くらいになっていました。

こちらは後ろにカフェが見える辺り。
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桜の木が密集していないので、割と地味かもw しかし可憐な花を咲かせていました。

こちらは庭園の入口から舗装された坂を下って行った辺り。
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この木はかなり高い位置に花が咲いていたので、上を見上げる感じで観てきました。

こちらは池の周辺の桜。曇りがちだったので映えませんが、青空だったらより綺麗だったのかも
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ここはまだ蕾も多い感じでした。3日くらい早く咲いて欲しかったw

こちらは最近改修された辺り。
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手前は恐らく燕子花かな。5月上旬には美しい花を咲かせると思います。

茶室の辺りにはピンク色の花が咲いていました。
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ちょっと季節的に遅い気がしますが梅かな?

花のアップ。非常に華やかです。
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近くに行くとちょっと甘い香りがした気がしました。

こちらは椿
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もう終わりかけで花弁がゴロゴロと転がっていました。

こちらも恐らく椿(乙女椿?)
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バラ科だけあってバラのようにも見えます。幾重にも重なる花弁が美しい。

これも白い椿じゃないかな。
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清廉な印象を受ける白さでした。


ということで、桜だけでなく他の花もあちこちに咲いていました。点々とある感じなので、お花見スポットという程でもないですが美しい庭と共に楽しむことができました。
なお、この後の5月上旬には根津美術館の誇る尾形光琳の「燕子花図屏風」の展示と共に、庭園の燕子花も見頃を迎えます。ちょうどゴールデンウィーク頃になりますので、連休のお出かけの参考にして頂ければと思います。

 参考記事:
  根津美術館の燕子花 2013  
  根津美術館の燕子花 2012  
  根津美術館の燕子花 2011
  根津美術館の燕子花 2010
  燕子花図と夏秋渓流図 (根津美術館)



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香合百花繚乱 【根津美術館】

2週間程前の土曜日に表参道の根津美術館で「香合百花繚乱」を観てきました。この展示は既に終了していますが、参考になる展示でしたので、展示の様子をご紹介しておこうと思います。

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【展覧名】
 香合百花繚乱

【公式サイト】
 http://www.nezu-muse.or.jp/jp/exhibition/past2018_n02.html

【会場】根津美術館
【最寄】表参道駅

【会期】2018年2月22日(木)~3月31日(土)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間00分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
最終日に行ったこともあって結構お客さんがいましたが、混んでいるというほどでもない程度でした。

さて、この展示は香合をテーマにしたものとなっています。香合は香を入れる茶道具で、掌に入るサイズとユニークな形をしたものが多く、焼き物や漆工など素材もバラエティに富んでいます。香を焚くというのは墨の匂いを和らげるのと共に空間や心身を浄化する意味もあるようで、19世紀くらいには相当に流行したようです。 今回はそうした香合を根津美術館の250点のコレクションの中から170点も展示していて、初期から近代までの品が並んでいました。簡単にメモしてきましたので、構成に従って章ごとに展示の様子を振り返ってみようと思います。


<初期の香合-唐物初期の時代>
初期の香合は南宋時代の中国の堆朱を使っていたそうです。他にも南宋~明時代頃の屈輪文や花鳥文といった文様の香合や、根太と呼ばれる宝珠型の香合、独楽のような文様の香合などもあったそうで、ここにはそうした品が並びます。

まずは堆朱の香合がありました。堆朱は漆を塗り重ねてから彫刻するもので、ここにあった品は立体的に渦巻き模様が施されていました。やや粗目の堆朱の香合が並んでいたのですが、小さな分 彫るのも難しいのかも。堆朱なので小さくてもかなり高価な品と思われます。

その先には同心円状の模様のついた独楽文様の香合がありました。これは東南アジアで作られたそうですが、見事な漆芸の技術が感じられます。また、宝珠のような形の香合は香合というよりは仏具のようにすら見えました。


<焼物香合の登場-和物->
続いては国産の焼き物の香合のコーナーです。国産の最も古い記録は1599年の古田織部の茶会で用いられた「今焼」で、当時焼かれた楽焼系や黄瀬戸や志野などが使われたと考えられるようです。それ以降は備前、信楽、織部なども登場したようで、ここにはそうした焼き物の香合が並んでいました。

この章の最初の方には黄瀬戸や志野の香合が並び、素朴ながらも土の質感が温かみを感じさせます。また、その先には織部の香合があり、こちらは緑釉が使われ幾何学的な模様と形をしていました。この辺は織部の美意識がよく出ているように思います。この時代辺りはまだ素朴さもありますが、段々と凝った作りの香合がでてきます。


<次世代の漆香合-蒔絵・螺鈿・鎌倉彫り・蒟醤(きんま)>
焼き物の香合と同じ頃、古い蒔絵の化粧道具なども香合として使ったりしていたようです。ここにはそうした古い蒔絵から東南アジアの品まで様々な漆芸の香合が並んでいます。
まず見事な金蒔絵の香合があり、繊細に草花を表していました。螺鈿入りのものもあり華麗な雰囲気が漂います。そしてその先には、再び堆朱の香合もありました。こちらは先程に比べてかなり彫りの深いものがあり、高い技術力を感じさせます。その近くに鎌倉彫りという唐物の彫漆を模した漆器もあったのですが、この鎌倉彫りは技術的には唐物とは異なるそうで、木を彫って文様を表し上から漆をかけているようです。堆朱に比べると色が黒っぽい部分もあって、ややパチモノ感が否めないかもw 他にも東南アジアの蒟醤なんかもあって珍しい品が観られました。

この辺には香木なども並んでいました。


<舶来の焼き物の香合>
寛永年間に入ると中国の焼き物の香合が現れるようになり、赤絵や染め付けなどの香合が日本の茶人向けに作られたそうです。ここにはそうした中国磁器の香合が並びます。

ここにあった景徳鎮の染め付けの香合は民間で焼かれたものらしく、やや粗い仕上がりに見えたかな。しかし描かれているものは様々で、鳥や風景、牛など面白いモチーフとなっています。また、形も以前より凝っていて、犬を象った蓋の香合や、蓮の花のような形、雀の形、瓢箪の形など、かなり自由な発想で作られているようでした。
その先には青磁や呉須赤絵の香合もあります。青磁は緑の葉っぱのような形の面白い香合がありましたが、呉須赤絵はちょっと派手かな。この辺は色が どぎつい品もあって色彩感覚の違いを感じるかもw


<色絵の香合-京と備前>
続いては17世紀中期に作られた色絵の香合のコーナーです。ここには仁清の錆絵2点・色絵2点の合計4点だけですが、いずれも面白い品でした。まず錆絵は太鼓文様と琴の形の品があり、遊び心を感じさせます。また、「色絵ぶりぶり香合」という変わった名前の香合は六面体の細長い形の香合でした。これは「ぶりぶりぎっちょう」という遊戯で使う槌を象ったものだそうで、鶴や松竹梅などおめでたいモチーフが描かれていました。これは今回の展示の中でも特に気に入りました。(展示場所としてはもう少し後の方にありました)


<麗しの漆の香合>
再び漆芸のコーナーです。漆塗りの技術が大きく向上し、変り塗と呼ばれる新しい技術が香合にも使われるようになったようで、ここにはそうした品が並びます。「色紙巻物蒔絵香合」という香合はかなり凝った作りで、半円と長方形を組み合わせたような形で色紙や巻物が描かれていました。この緻密な表現は時代の移り変わりを感じさせます。
また、この頃は螺鈿の漆芸も凄くて、蜘蛛の巣を螺鈿で表した作品なんかもありました。素材を上手く活かす構図の発想などは江戸時代ならではの洒落っ気と高い技術が伺えました。


<楽焼と京焼と地方の窯>
ここはバラエティ豊かな焼き物の香合が並んでいました。木魚、琵琶、蓑笠を被った人の形、亀の形など、ユーモア溢れる造形ばかりです。他にも、染め付けや乾山の写し等の優品や、小屋の形の香合、牛車のような形の香合(これは蒔絵)など、もはや香合とは思えないような品までありましたw さらにかなり小さな香合もあって、可愛らしい雰囲気でした。産地もバラバラだけどこういうミニサイズを造るという発想は各地であったのかな?

この辺にはヨーロッパ製の花模様の袱紗などもありました。江戸時代にもこうした品があったことに驚きます。


<香合大流行-「形物香合番付」の時代へ>
続いては香合が大流行した19世紀前半のコーナーです。この頃日本からの注文で中国で新たな香合が制作され、それ以前の香合と区別して「新渡」と呼ばれたそうです。焼き物の香合が大量に求められた時代で、1855年には210点の香合を番付した「形物香合番付」というものまで発刊されるなど、大いに流行していたようです。

まず景徳鎮の染め付けがあり、冠、2匹の鯉、象などの形となっていました。中国の香合もこの頃には形がだいぶユーモラスになってきています。一方の日本の香合もますます色々なモチーフがあり、にっこり笑う福々しい布袋の形をした香合なんてものもありましたw この時代くらいが一番個性豊かな品があるように思いました。


<幕末・近代の取り立て 明治 大正 昭和の頃>
最後は近代のコーナーです。ここも様々な品が並んでいて、根来塗と呼ばれる朱と黒の香合(寺社の什器だった簡素な形のもの)、唐三彩の香合、青磁、白磁、東南アジアの品など様々な香合がありました。この辺まで来ると現代の揃えと同じくらい幅があるので、時代の特徴というのもあまり無いですが、使う人の個性が伺えるような気がしました。

ここで香合の展示は終わりで、展示室2は茶釜の展示となっていました。一口に窯と言っても側面に文様を入れたり形が変わっていたりして、こちらも楽しめました。灯籠みたいな窯まであって驚きでしたw


ということで、香合の歴史や様々な産地について知ることができました。香合は根付と同じように幅広い題材と素材があるのがよく分かって面白かったです。もう終わってしまいましたが、今後の美術鑑賞に役立ちそうな内容でした。



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ドゥ マゴ パリ  (2018年3月)【渋谷界隈のお店】

前回ご紹介したbunkamuraの展示を観る前に、美術館の眼の前にあるドゥ マゴ パリでお茶をしてきました。このカフェは以前もご紹介したことがありますが、8年も前なので改めてご紹介しようと思います。

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【店名】
 ドゥ マゴ パリ

【ジャンル】
 レストラン/カフェ

【公式サイト】
 http://www.bunkamura.co.jp/magots/
 食べログ:https://tabelog.com/tokyo/A1303/A130301/13001940/
 ※営業時間・休日・地図などは公式サイトでご確認下さい。

【最寄駅】
 渋谷駅/京王井の頭線神泉駅

【近くの美術館】
 Bunkamuraザ・ミュージアム
 松濤美術館
 戸栗美術館
  など

【この日にかかった1人の費用】
 1500円程度

【味】
 不味_1_2_3_④_5_美味

【接客・雰囲気】
 不快_1_2_3_④_5_快適

【混み具合・混雑状況(土曜日15時頃です)】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【総合満足度】
 地雷_1_2_3_④_5_名店

【感想】
結構お客さんがいましたが、満席になるほどでもなく待ち時間無しで入ることができました。

さて、このカフェは以前もご紹介しましたが、最近 運営会社が変わったようでいくつか以前と異なる点もあります。まず、このカフェは1885年にパリ(サン=ジェルマン・デ・プレ教会の前。ポンヌフやオルセー美術館からも近い所)に創業された「カフェドゥマゴ」の提携店です。本場のドゥマゴはピカソ、アンドレ・ブルトンらのシュルレアリスト、作家のヘミングウェイやアルベール・カミュ、哲学者のサルトルやボーヴォワールなども通った(時代はそれぞれ分かれています)文化人の集うお店で、今でもパリの観光地として繁盛しています。そんな有名店の雰囲気が渋谷で気軽に楽しめるので、bunkamuraに行く際には毎回のように利用しています。
 参考記事:ドゥ マゴ パリ  (渋谷界隈のお店)

席は屋内と屋外がありますが、花粉症なのでこの日は屋内にしました。お店の入口にはこのお店の名前の由来になった中国人形もあります。
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もちろんこちらは複製です。ドゥ=「2つの」 マゴ=「中国人形」です。

中はこんな感じ。ちょっと作者が分かりませんが、ここに飾ってある写真が非常に好みだったりします。
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この日は「猪熊弦一郎展 猫たち」と映画「しあわせの絵の具」とのコラボメニューもありました。(2018/3/3~4/18)
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せっかくなので、猫たちのコラボメニュー1450円を頼みました。半券を見せるとコーヒーまたは紅茶がついてきましたので、それもセットにしました。


こちらはポワソン・ダブリルというお菓子。4月の魚という意味で、フランスでは4/1に魚の形のお菓子を楽しむ習慣があるのだとか。
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目玉の部分はホワイトチョコで、胴体はパイ生地、鱗の部分はイチゴです。猫たち とのコラボなので猫型のパイも付いていました。パイなので若干切りづらかったですが、サクサクした生地と非常に甘くてジューシーなイチゴが美味しかったです。猫パイは食べるのがちょっと勿体無いような気もしましたw

飲み物はコーヒーにしました。
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香りが良くて、割と軽やかな口当たりかな。それでも苦味とコクはしっかりしていて酸味はそれほどもなかったように思います。中々好みの味で満足でした。ちなみに昔は飲み物にチョコレートがついてきましたが、今は無くなりました。また、以前はテーブル会計だったのですが、今は普通にレジ会計となっています。


ということで、今回はコラボメニューを楽しんできました。以前はフランスのカフェそのままといった感じでしたが、今は日本風のフレンチと融合させた「ネオ・クラシック」をコンセプトにしているようなので、多くの人が楽しめると思います。ちょっと値段が高めですが、bunkamuraに相応しい歴史あるカフェだと思います。bunkamuraに行かれる際には是非チェックしてみてください。


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猪熊弦一郎展 猫たち 【Bunkamura ザ・ミュージアム】

10日ほど前の土曜日に渋谷のBunkamura ザ・ミュージアムで「猪熊弦一郎展 猫たち」を観てきました。この展示では一部で撮影することもできたので、写真も使ってご紹介していこうと思います。

20180331 154554 20180331 154547

【展覧名】
 猪熊弦一郎展 猫たち

【公式サイト】
 http://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/18_inokuma/

【会場】Bunkamura ザ・ミュージアム
【最寄】渋谷駅

【会期】2018/3/20(火)~4/18(水)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間20分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
意外と多くのお客さんで賑わっていましたが、混んでいるという程でもなく自分のペースで観ることができました。

さて、この展示は「いのくまさん」の愛称で知られる猪熊弦一郎の猫を描いた作品ばかりを集めた内容となっています。まず簡単に猪熊弦一郎についてご説明すると、1902年生まれで東京美術学校を卒業した洋画家で、学生時代は藤島武二などに学びました。1938~1940年にはフランスに渡り、アンリ・マティスにも学んでいます。太平洋戦争を挟んで戦後の1955年にはパリに行く途中に立ち寄ったニューヨークに魅了され、そのまま20年程度留まって具象から抽象へと変化しながら活動していました。その後帰国すると東京とハワイを行き来しながら制作していたそうで、具象と抽象の間のような独特の作品を多く残し、1993年に亡くなっています。そんな猪熊弦一郎は猫を非常に可愛がっていて、絵のモチーフとしても(ニューヨーク時代を除いて)多く作品を残していて、今回は各時代の作風と共にそれを紹介していました。 簡単にメモを取ってきたので、各章ごとにその様子を振り返ってみようと思います。


<初期作品>
まずは初期の作品のコーナーです。ここで目を引いたのは猫を抱いた奥さんの横向きの肖像で、割と粗めのマチエールで描かれていました。この作品が初めて猫を描いた作品だそうで、猫はこちらを観て愛らしい顔をしています。奥さんについてはプロフィール(横顔)が美しい女だと言っていたらしいので、その魅力を活かした構図なのかも知れません。
近くには学生時代の自画像や、奥さんと猫の素描があり、確かなデッサン力を感じさせました。

この章でもう1つ目を引くのは「マドモアゼルM」という作品です。これはやや上目遣いの女性像で、顔は丹念に描かれ 身体や服は簡素に素早く描かれています。女性は端正な顔立ちで、暗めの青の背景と相まって落ち着いた雰囲気がありました。これは猫とあまり関係ないですが傑作の1枚です。なお、この女性はドイツ軍の迫るフランスの語学学校で出会った同級生のハンガリー人だそうです。
 参考記事:猪熊弦一郎展 『いのくまさん』 (そごう美術館)


<猫のいる暮らし>
続いては猫との暮らしを描いた作品のコーナーです。猪熊弦一郎は猫を貰ったり、家の前に捨てられた猫を保護したりで一度に1ダース(12匹)以上は飼っていたそうで、まさに猫屋敷みたいな感じの生活だったようです。ここにはテーブルの魚を狙ったり、火鉢にあたって暖まっていたりと 伸び伸びした様子の素描が並びます。戦時中は生活も困窮しているのに疎開先にまで猫を2匹連れて行って驚かれたそうです(そのうちの1匹が鶏を襲ったそうで大事になったのだとかw)

この章には今回のポスターにもなっている「猫と食卓」がありました。青いテーブルの上に6匹の白猫が乗って、ご飯を食べています。上から見下ろすような構図で強い輪郭線と濃いを使って表現していて、マチエールも重厚感があります。それにしてもお行儀の悪い猫たちですが、猫の顔は険しくて必死な感じがありましたw 

この章には夫人と猫を描いた作品が並んでいました。結構画風が異なるものもありますが、マティスからの影響を感じるかな。ベッドにぎっしりと猫が寝ているスケッチなんかは驚くと共に微笑ましい光景でした。


<猫のスケッチ>
猪熊弦一郎が猫を片っ端から描いたのは戦後から1955年の渡米までと、1985年くらいからの晩年だそうです。ここにはそのうちの渡米前までの猫のスケッチが並んでいて、猫の親子が授乳している様子や、伸びて寝ている猫、じゃれている猫、水を飲んでいる猫などが描かれています。いずれも猫をつぶさに観察していて、単に猫が好きなだけでなく画家としてどう捉えていたのかが伺えます。「猫はありふれているが、これを描けば他の動物も同じことだ」と言っていたそうで、人間も含めて動物を深く知りたいという欲求が根底にあったようです。また、「猫の小さな猛獣性を描くのは難しい」とも考えていたようで、「猫は沢山飼ったほうが習性が分かって面白い、猫同士で楽しく生活していて、観ていて楽しい」と話していたようです。おかげで猫だらけになって、粗相をしても良い山水画だと言って甘やかしていたらしく家中臭いがキツかったというエピソードも紹介されていましたw その甲斐あってか、素描は簡素なものから緻密な描写まで、猫の可愛さと野性が同居する魅力が表れていました。

この辺には自作の猫を模した文具や玩具などもありました。絵だけでなく日用品のモチーフにするほど好きだったんですねw


<モニュメンタルな猫>
1950年代に入ると、人物は中性化・抽象化していき、猫の愛らしさも影を潜めていったようです。丸や四角、五角形などの集合体で表現していた時代で、ここにはそうした「モニュメンタル」な作品が並びます。
ここにあった「猫達」という作品では四角や丸、五角形などと線を使って猫たちが描かれていました。幾何学的でちょっとパウル・クレーみたいな雰囲気もあるかな。独特のマチエールの上に輪郭だけで描いています。確かに抽象的に簡素化されていて可愛い感じではないかもw それでも猫らしい仕草をしているのが伝わってくるのは、猪熊弦一郎が猫の特徴をよく知っているからだろうと思いました。

この章でもう1つ目を引いたのは「猫によせる歌」というかなり大型の作品です。これは猫と人が群像のように描かれていて、顔はどちらともつかないような感じです。トーテムポールや埴輪、歌舞伎などを参考にしてこの作品を描いたそうで、確かにその要素を感じさせつつキュビスム的なものもあるように思いました。近くにはデュビュッフェのような作風のものもあったので、原始的な前衛芸術を模索していた時期なのかもしれません。


<人と猫>
1950年代前半頃、丸い頭の上に猫が立っている という構図の絵を数点描いていたそうで、この章にはそうした作品が並んでいます。その根底には埴輪のような原始的で普遍的な美への憧れがあったようで、それを表現したようです。
ここでまず目についたのは「頭上猫」という作品で、子供?の頭の上に猫が乗っている様子が描かれています。人も猫もかなり簡略化されていて、色も茶色のモノトーンに単純化されています。素朴で可愛らしいですが、何故頭の上に乗っているのだろうか?という疑問が真っ先に浮かぶのが正直な所ですw 確かに埴輪っぽいけどこちらもキュビスムあたりの要素もあるように思えました。
この辺には似た構図で画風の異なる作品が並んでいました。この構図が気に入っていたのかも。


<にらみ合う猫>
続いては雄が縄張り争いで威嚇しあっている様子を描いた作品が並んでいました。猪熊弦一郎は面白がっていたようですが、マーキングで部屋中が臭くて、ついに知人が昼寝している時に頭に粗相をしてしまい、雄は全部去勢されることとなったそうですw

ここに並ぶのは 向き合って威嚇しあう猫たちが描かれた作品ばかりなのですが、シルエットだけだったり、かなり簡略化されていたり、手足が長く描かれて姿勢が強調されていたりと、表現は様々です。しかし牙をむき出しにした緊迫感が伝わって来るものもあって、猫の猛獣性が特に表れたコーナーだったように思います。


<猪熊弦一郎の世界>
こちらは猫の作品ではなくニューヨーク時代の抽象や晩年の作品などが並ぶコーナーです。猪熊弦一郎は1955年にフランスに向けて旅立つ途中にニューヨークに立ち寄った際、街のエネルギーに惹かれて留まり アトリエを構えて20年ほど活動していたようです。この頃のニューヨークは抽象表現主義の全盛期だったようで、猪熊弦一郎もニューヨーク時代は抽象を中心に描いていました。

ここにはビルか線路のような細長い幾何学的なモチーフと、単色~2色程度の背景が描かれた作品が並びます。丸なども組み合わせていて、何処となく都会の街を想起させるかな。いずれもリズム感があって、これはこれで面白い画風です。
その後には割と色が対比的に使われた抽象画が並んでいました。こちらもやはり四角や三角、丸などの組み合わせが多いかな。

猪熊弦一郎はニューヨークで20年過ごした後、1975年に帰国し日本とハワイを行き来するようになったそうです。この頃になると色彩が豊かになって具象性も戻ってきたようで、いずれもマティスにも劣らない色彩感覚や造形感覚となっています。この辺りには顔や鳥を描いた作品なんかもあったのですが、1988年に奥さんが亡くなると、原色の色使いは影を潜め、格子に顔や裸婦を入れるような作品を描くようになったようです。これは奥さんを描いているとのことで、いつも奥さんのことを考えていたのだとか。しかしその翌年にはパリに旅行をして再び色彩が戻ったそうで、プライベートによって画風が変わっていく様子も伺えました。
 参考記事:猪熊弦一郎展『いのくまさん』 (うらわ美術館)


<再び猫を描く>
ここから先は撮影可能となっていました。再び猫を描き始めた晩年の作品が並ぶコーナーです。

猪熊弦一郎 「題名不明」
DSC03215.jpg
猫の素描。色々なポーズが可愛らしい! 同じ猫だと思いますが、この子は目がぱっちりしているのが特徴に思えました。

猪熊弦一郎 「題名不明」
DSC03228.jpg
こちらは今回のポスターにもなっている有名な作品。香川県では小学校の通信簿の表紙でも使われているそうです。みんな一様にこちらを観ていてちょっと怖いですが、多頭飼いだとこういう光景をよく観るようです。同じようで顔がみんな違うのも面白い。

猪熊弦一郎 「葬儀の日」
DSC03253.jpg
こちらは亡くなった奥さんを描いた作品。周りには不安を埋めるように猫を描いているとのことでしたが、奥さんも猫好きだったらしいので手向けに描いてあげたんじゃないかな。顔が笑っているようにも見えますが切なくなる1枚。

<猫のコンポジション>
最後は大型の油彩作品などが並んでいました。

猪熊弦一郎 「顔2 猫2 鳥8」
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いのくまさんらしい晩年の作品。ゆるキャラのようで今までの集大成のようでもあるw 一見すると子供の絵のようにも見えますが、猫の寝る姿なんかは非常に特徴を捉えています。

猪熊弦一郎 「二人の裸婦と一つの顔」
DSC03273.jpg
これは猫がどこにいるか分かりませんが、気に入った作品です。何故か1枚だけ真っ暗なパネルがあるけど、欠けたのか元々なのかは分かりませんでした。この人物の顔はいのくまさんの作風そのものといった感じ。

猪熊弦一郎 「不思議なる会合」
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それぞれに意味があるのか無いのか分からない、具象と抽象の間のような作品。様々な青が使われていて、爽やかで洒落た印象でした。


ということで、猫づくしの展示となっていました。やはり猪熊弦一郎の作品を観る度に「いのくまさんは楽しいな!」という感想が真っ先に出てきますw これだけ自由で伸びやかな絵を沢山観ると、絵の楽しさを再認識できるのではないかと思います。ましてや今回は猫がテーマなので、それが一層感じられました。この展覧会は何故か会期が短くてもうすぐ終わってしまいますので、気になる方はお早めにどうぞ。




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日本の四季 ― 近代絵画の巨匠たち ― 【パナソニック 汐留ミュージアム】

前回ご紹介した展示を観る前に汐留(新橋)のパナソニック 汐留ミュージアムで「パナソニック創業100周年特別記念展 日本の四季 ― 近代絵画の巨匠たち ―」を観てきました。この展示は2週間しか会期がないので、優先してご紹介しておこうと思います。

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【展覧名】
 パナソニック創業100周年特別記念展 日本の四季 ― 近代絵画の巨匠たち ―

【公式サイト】
 https://panasonic.co.jp/es/museum/exhibition/18/180402/

【会場】パナソニック 汐留ミュージアム
【最寄】新橋駅/汐留駅

【会期】2018年4月2日(月) ~4月15日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間20分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
予想以上に混んでいて、会場が狭めなこともあって所によっては列を組んで観るような感じでした。

さて、この展示は松下電気器具製作所(現パナソニック)の創設100年を記念したもので、パナソニックが所蔵する近代日本画家による日本画・洋画を春夏秋冬の季節ごとに章分けして展示するものです。画家同士や作品同士の繋がりは特にないのですが、著名な画家の作品が並び季節感に溢れた画題ばかりでした。詳しくは展示構成に従って各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。


<春>
まずは春の画題のコーナーです。日本画と洋画が順不同に並んでいました。

伊藤小坡 「醍醐の花」
こちらは満開の桜の下、扇子を持って薄布を被った着物の女性と、その後ろで赤い傘を持つ男の子が描かれています。花見をしている女性は気品ある雰囲気で、伊藤小坡らしい理想的な美人像です。、解説によると、これは豊臣秀吉の開いた醍醐の花見から取材したのではないかと考えられるとのことでした。この季節にぴったりな華やかな作品です。

林武 「椿」
こちらは真っ赤な椿と緑の葉っぱが描かれた洋画で、物凄い厚塗りとなっています。色も重厚で、ステンドグラスのような印象すら受けるかな。緑と赤がお互いを強調して力強い雰囲気となっていました。

前田青邨 「双鯉」
こちらは水の中を2匹の鯉が泳ぐ様子を描いた日本画です。青が鮮やかで爽やかな雰囲気があるのですが、ムラのある独特のマチエールが水の中にいる様子を表現しているようでした。解説によると、これはミョウバン液を下地に施した後に顔料を塗り重ねているようで、表現の工夫が見て取れて面白かったです。


<夏>
続いて夏のコーナー。こちらも日本画と洋画が入り混じった内容となっていました。

小野竹喬 「厳島」
青や緑の山を背景に、海の中に立つ鳥居を描いた日本画です。タイトルからも広島の厳島神社と推測されるかな。鳥居が小さく描かれているので自然の雄大さを感じます。軽やかな線描と柔らかい色彩で描かれていて、竹喬らしい優しい雰囲気と夏の明るさが感じられる作品でした。

横山操 「暁富士」
画面一杯にオレンジ色の富士山が描かれ、手前には松の木々が描かれた日本画です。重厚な色彩で一見すると洋画のようにすらみえました。作品自体も大きくて見栄えのする富士図です。

梅原龍三郎 「牡丹図」
こちらは花瓶に入った牡丹がかなり簡略されて描かれている洋画です、背景は黄土色で牡丹の色が映えます。筆跡が強く残っていて大胆な表現ですが、華やかな印象を受けるのが流石と言った感じでした。

中川一政 「ばら」
濃い茶色を背景に花瓶に入った赤やピンクの薔薇と、ミカンのような3つの果実を描いた洋画です。花瓶には横向きの人の顔も描かれていますが、この作品もかなり簡略化されていて辛うじて分かる程度です。太い輪郭線も使われていて、力強い印象を受けると共に生命感が画面にあふれているようでした。

中川一政のばらはこの他にも2点ありました。割とそれぞれ違った画風に見えたかな。

中村岳陵 「燕子花」
こちらは燕子花(かきつばた)の花と葉っぱを軽やかな色彩で描いた日本画です。燕子花はデザイン的な簡略化や平面的な表現となっていて、題材と共に琳派的な雰囲気が感じられます。しかし、少ない色数でこれだけ可憐に見せてくれるのも面白く、静かな画面となっているのも不思議な感じで好みでした。

小倉遊亀 「メロン」
こちらは古九谷と思われる鉢に入ったメロンと、その脇に置かれた徳利を描いた日本画の静物です。その下には銀のお盆があり、それぞれの質感が異なって表現されているのが見事ですが、それ以上に楕円、円、球といった丸い品々がそれぞれ響き合うような構図となっているのが面白かったです。色合いも爽やかで好みの作品でした。


<秋>
続いては秋のコーナーです。

堂本印象 「朝陽」
こちらは2幅対の掛け軸で、左幅は針?に糸を通す坊さんが描かれ、右幅は三毛の母猫と白猫・黒猫・三毛猫・灰虎の4匹の子猫が描かれています。一見するとお互い無関係な題材で、猫が可愛いという感想に終始してしまいそうな感じかなw しかしこれは禅の古典から着想を得ているそうで、猫を描いた方は通常は月に読経する様子が描かれるのですが、ここでは身近で分かりやすい存在として猫にしているようでした。この辺は古典を知らないと理解できないですが、中々変わった表現で興味を引きました。

橋本明治 「舞妓」
こちらは展覧会の最後に記念撮影のスポットに複製がありましたので、それを使ってご紹介。
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紅葉の着物を着ているのが秋っぽいところかな。輪郭線が軽やかで、姿勢と相まって流れるような描写が優美に見えます。顔はちょっと好みじゃないけど、微笑んで愛らしい雰囲気をたたえていました。

竹内栖鳳 「錦秋」
こちらは曲がりくねった柿の木の枝を描いた日本画です。勢い良く描かれていて生命感を感じると共に、木の葉などは滲みを使って秋の風情を感じさせます。右上には鳥の姿もあり、厳しい冬への備えをする様子も表われていました。

熊谷守一 「紅葉」
こちらはかなり単純化が進んだ洋画で、山の紅葉を描いているはずですが、点々と赤くなっている程度ですw 輪郭線はなく全て色面で表現されていて、手前は緑、中景は茶色、後ろの山は青というように色で距離感を出しているようでした。
 参考記事:没後40年 熊谷守一 生きるよろこび (東京国立近代美術館)

東山魁夷 「山峡朝霧」
こちらは今回のポスターにもなっている作品で、六曲一隻の屏風です。立派な木々が並ぶ山の斜面に霧が立ち込める様子が描かれ、墨の濃淡でその空気感が緻密に表現されています。右下には滝が流れ落ちる様子も描かれていて、深山の趣きと湿気が感じられるような幽玄の世界となっていました。長谷川等伯の作品を想起するような素晴らしい作品です。


<冬>
最後は冬のコーナーです。やはり雪景色が多かったように思います。

石本正 「雪景図」
冬の雪山を描いた日本画で、枯れ木が無数に並び寂しい雰囲気が漂います。何処と無く西洋のフランドル絵画を思わせるような光景となっていて、自然の厳しさと静けさを感じさせました。

川合玉堂 「雪景の図」
こちらは展覧会の最後に記念撮影のスポットに複製がありましたので、それを使ってご紹介。
DSC03297.jpg
掛け軸で、水辺の村に雪が積もった家々や農作業する人の姿が見受けられます。伝統的な漢画風にも思えますが、この雪の部分は白く塗っているわけではなく元々の余白の白さを活かす外隈のような表現となっていて、これは円山応挙が「雪松図」でも用いた技法です。川合玉堂も勿論そのことを知っていたはずなので円山四条派を意識して描いたのではないかとのことでした。寒さの中でも人々の営みが感じられ、何処か郷愁を誘う作品です。
ちなみに、この作品の複製ではスマフォのアプリを使うとARで雪が降って見えるという仕掛けが用意されていました。今回はこのアプリで解説も読めるみたいなので、DLしてみても良いかもしれません。
 参考記事:国宝 雪松図と花鳥 -美術館でバードウォッチング-(三井記念美術館)

速水御舟 「橙の図」
こちらは金地に枝付きの黄色い橙を2つ描いた日本画です。表面には赤い点々があったり、枝の切り口がリアルに表現されているなど全体的に写実的な感じがするかな。その観察眼に感心する一方で、気品ある雰囲気に仕上げているのが見事でした。小さい絵ですが、好みの作品でした。

竹内栖鳳 「兎」
こちらは草むらで伏せている兎を描いた日本画です。ちょっと眠そうな顔をしているのが可愛らしく、ヒゲや体毛は勢いのある細い線で描かれていて毛の柔らかさまで感じられました。それにしても兎って題材的に冬なのかな?w

最後辺りには見ごたえのある杉山寧の作品なんかもありました。


ということで、日本の近代の有名画家がずらりと名を連ねる豪華な内容となっていました。これだけ見ごたえがあるのに会期がたった2週間というのは何とも勿体無い気がします。この記事を書いている時点で会期は残り1週間となっていますので、気になる方はお早めにどうぞ。


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