Archive | 2018年10月
前回ご紹介した展示を観る前に、東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館で「カール・ラーション スウェーデンの暮らしを芸術に変えた画家」を観てきました。

【展覧名】
日本・スウェーデン外交関係樹立150周年記念
カール・ラーション スウェーデンの暮らしを芸術に変えた画家
【公式サイト】
https://www.sjnk-museum.org/program/current/5469.html
【会場】東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館
【最寄】新宿駅
【会期】2018年9月22日(土)~12月24日(月・休)
※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。
【鑑賞所要時間(私のペースです)】
1時間30分程度
【混み具合・混雑状況】
混雑_1_2_3_④_5_快適
【作品充実度】
不足_1_2_3_④_5_充実
【理解しやすさ】
難解_1_2_③_4_5_明解
【総合満足度】
不満_1_2_3_④_5_満足
【感想】
結構お客さんはいましたが自分のペースで鑑賞することができました。
さて、この展示はカール・ラーションというスウェーデンの国民的人気画家と、その妻のカーリン・ラーションを取り上げたもので、カールの絵と共に室内装飾の数々が並ぶ内容となっています。夫妻は画業もさることながら「リッラ・ヒュットネース」と呼ばれる家を入手して理想の家へ改装していき、その暮らしぶりを描いた画集が高く評価されているようです。展覧会はジャンルや年代で章分けされていましたので、気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。
<第Ⅰ部カール・ラーション( 1953-1919)の画業>
まずはカール・ラーションの画業についてのコーナーです。カール・ラーションは首都ストックホルムの貧しい地区から王立美術学校に進み、留学先のフランスで明るい色彩を獲得したようです。結婚すると家族が重要なテーマとなったようで、油彩・水彩・版画で親密(アンティーム)な世界を作り上げていきました。やがてパリやブリュッセルなど各都市で認められ、スウェーデンでは公共建築の壁画に祖国の歴史や伝説を数多く描いていったようです。そして35歳の時に小さな家「リッラ・ヒュットネース」を譲り受け、理想の家へと改築・増築を行い、その成果を描いた水彩画を46歳から18年で4冊の画集にまとめました。この画集はドイツで翻訳されて「太陽の中の家」としてベストセラーとなったようです。ここにはまずは今回の展示のハイライト的な品と絵画が数点並んでいました。
5 カール・ラーション 「《 冬至の生贄》 のための男性モデル」
こちらはスウェーデン国立美術館の装飾壁画の為の習作で、未完の作品です。飢饉に苦しむ国民を救うため、スウェーデン王自ら生贄になるという古い英雄譚のようで、帽子をかぶった裸体の男性が緑の中を俯きながら歩いている様子が描かれています。全身に蔦のような入れ墨があり、足元のひょろ長い草花が足に巻き付くような感じにも見えるかな。筋骨逞しいものの、曲線が柔らかく明るい緑が爽やかな印象となっていました。
この近くにはアトリエの写真や椅子、イーゼルなども並んでました。また、服やクッションなどもあって、この辺は後でまた出てきます。
<第1章 絵画・前期>
続いては絵画のコーナーです。カール・ラーションは王立美術学校でアカデミックな教育を受けると共に、貧しい家族を支える為に新聞の挿絵を描く仕事をしていたようで、それが独自の絵画表現の基盤となっていきました。パリに留学していた時は印象派の画家たちが活動していたものの まだ古典が主流で、カール・ラーションも重い色調の油彩で歴史や神話を描いていたようですが、サロンの評価は得られず落胆と貧困に苦しんでいたようです。しかし29歳(1882年)に芸術家の集まるグレー=シュル=ロワンを訪れたのを契機に 明るい色彩と軽やかな水彩を獲得し始めたようで、印象派から戸外の光を表す色調を取り入れてパリのサロンでも高く評価されるようになったようです。ここにはそうした初期の作品などが並んでいました。
12 カール・ラーション 「水差しのある静物」
こちらは初期の静物画で、水差しの他に植木鉢や瓶などが描かれています。重厚な色彩でやや暗めに見え、明暗や反射などはきっちり描かれているなど絵は上手いけど面白さとしては普通といった感じでした。まだ苦しんでいた時期の作品でしょうね…。
17 カール・ラーション 「野イバラの花」
こちらは奥さんの誕生日にプレゼントした花を描いたもので、ピンク色の花で室内の花瓶に入っている様子となっています。かなり筆致が素早く一部は厚塗されているなど印象派的な作風となっていて、一気に色彩も軽やかになっていました。1892年の作品なので、グレー=シュル=ロワンに行ってから10年くらい後の画風のようでした。
この辺には色々な画風がありました。家族を題材にした作品などもあります。
21 カール・ラーション 「カーリンの命名日のお祝い」
こちらは奥さんのカーリンと同じ名前の守護聖人の祝日を祝っている様子が描かれた水彩画です。白い壁の広い部屋に白いローブに蓮のような葉っぱを巻き付けた衣装の娘が2人と、白いひげの男性が1人立っています。右の方には小さい子と母親らしき人物もいてベッドからそれを観ている感じです。この作品も水彩ということもあって軽やかで明るい色調となっていて、輪郭線も繊細で優美な印象を受けました。神話の女神ような格好と現実の部屋の取り合わせも面白い作品です。
<第1章 絵画・後期>
続いても絵画のコーナーです。1892年に自邸を背景に描いた油彩で明確な輪郭線と平坦な彩色による独特の様式を生み出したそうで、アール・ヌーヴォーやジャポニスムの影響、挿絵の経験などを活かした画風となったようです。当時のスウェーデンではナビ派的な絵画が注目されたそうですが、カール・ラーションは別の道を行ったとのことで、ここにはそうした時期の作品が並んでいました。
28 カール・ラーション 「ポントゥスとエッチングプレス機」
こちらはプレス機の回転するバーに触って立っている少年を描いたテンペラ作品で、全体的に平坦で陰影が浅めの表現になっているように思えます。顔などには明確な輪郭があり、確かに浮世絵などを思わせる要素もあるかな。しかしどちらかと言うとナビ派の方が近いような…w 別の道を行ってるというけどナビ派に影響受けてたんじゃないかと思わせました。
25 カール・ラーション 「絵葉書を書くモデル」
こちらは赤いテーブルと椅子のセットに座って手紙を描く裸婦を描いた水彩作品です。輪郭がきっちりしていて色調は淡く明るい雰囲気となっています。それでもテーブルの赤とカーテンの緑が補色となっているので強く色を感じるかな。裸婦は笑顔を見せていて瑞々しい作品となっていました。
<第2章 挿絵の仕事>
続いては挿絵のコーナーです。前述の通りカール・ラーションは学生の頃から新聞の報道画や風刺画を制作する仕事に携わっていました。当時は挿絵は絵画より劣ると考えられていましたが、カール・ラーションは多くの人の目に触れられる挿絵に重要性を見出していたようです。ここではそうした挿絵の仕事が紹介されていました。
38 カール・ラーション 「『森のなかの城』 エコーの城」
こちらはシンゴアッラ物語という中世スウェーデンの騎士とジプシーの悲恋の物語の挿絵で、湖畔の城が描かれたモノクロの画面となっています。結構細かく描かれていて陰影や装飾性が見事です。中世の舞台らしい詩情豊かな雰囲気でファンタジックな画風となっていました。
この辺には実際の本も並んでいました。
40 カール・ラーション 「小川のほとりのエーランドとシンゴアッラ」
こちらは先程と同じシンゴアッラ物語の一場面で、騎士のシンゴアッラとジプシーの娘が池の近くで寄り添っている様子が描かれています。騎士は凛々しいイケメンな一方、女は黒髪で装身具をつけてミステリアスかつ妖艶な姿となっています。緻密な表現でラファエル前派の作品を観ているような雰囲気がありました。
この他にもこの物語の作品が何点かありました。それ以外の作品もいくつかあります。
<第3章 版画~家族の肖像>
続いては版画のコーナーです。カール・ラーションは1870年代半ば以降エッチングなど112点の銅版画と4点のカラーリトグラフを制作していたそうで、家族や友人など身近な人物をテーマにしたようです。1890年代半ばにはスウェーデンの主導的な版画家アクセル・タールベリに学び共同制作も行っていたようです。自画像や裸婦像など新しい方向も模索していたようで、ここにはそうした版画が並んでいました。
49 カール・ラーション 「ゆがんだ顔」
こちらは大きく目を開いて恐れ慄くような感じの顔を描いたエッチングです。全体的に煙のようなものが湧き上がってくるように見える細い線があり、それが一層に恐怖感を煽っているように思えます。カール・ラーションは不幸な幼少期を心の暗部に持っていたようで、人生への恐れを抱いていたのだとか。これまで観た爽やかな作風とはまた違った雰囲気の作品でした。
53 カール・ラーション 「聖ゲオルギウスとお姫様」
こちらは竜退治で有名な騎士 聖ゲオルギウスと お姫様の格好をした子供を描いたリトグラフです。背景は室内で、民芸品や壁画も描かれています。平坦で明るい色調となっていて、アール・ヌーヴォー的な印象を受けるかな。服装も装飾的で洒落た雰囲気がありました。
この辺には家族や子供の遊びを描いた版画がいくつかありました。
56 カール・ラーション 「朝食のプレートを持つマルティーナ」
こちらはメイドを描いた作品で、食器や料理が沢山載ったお盆を持ちながら こちらを観て微笑んでいる様子が描かれています。同じタイトルの油彩画の上半身部分が ベストセラーとなった「家庭料理の本」の表紙となっていたらしいので、人気作を版画にした感じでしょうか。明るく楽しそうな雰囲気で、洒落た生活の一端も観られるような作品でした。
<第4章 ラーションとジャポニスム>
続いては日本趣味との関連のコーナーです。ジャポニスムが流行するパリに留学して以来、カール・ラーションは日本的モチーフ、大胆な構図、広い余白、ぼかし、にじみ などの表現を取り入れていったようです。また、モチーフの一部を大胆に切り取り、手前を大きく描いて臨場感を出し、日常のありふれたものの中から意外性や面白さを発見するのも浮世絵から学んだようです。ここにはそうしたジャポニスムからの影響が観られる作品が並んでいました。
71 カール・ラーション 「アザレアの花」 ★こちらで観られます
こちらは今回のポスターの作品で、手前に花が大きく描かれ その後ろに振り返っている奥さんのカーリンが描かれています。輪郭が明確で大胆な構図は浮世絵からの影響と思われます。背景には機織り機や室内の庭木なども描かれていて、一家の理想的な家の様子も伺えるかな。軽やかで明るい色彩と相まって幸せそうな気配が漂う作品でした。
この近くにはカール・ラーションがコレクションしていた歌川広重が2点ありました。また、カール・ラーションと日本の繋がりについてのエピソードがあり、白樺派が当時カール・ラーションを日本に紹介していたようで、カール・ラーション自身もそれを知っていたという話を紹介していました。
<第Ⅱ章ラーション家の暮らしとリッラ・ヒュットネース>
最後は自宅である「リッラ・ヒュットネース」の装飾についてのコーナーです。この家は奥さんのカーリンの両親から譲り受けたそうで、当初は休暇ごとに増築・改築していたのが1901年になって移り住んだそうです。イギリスのアーツ・アンド・クラフツ運動が起こったのもこの頃で、ラーションも自分の家造りをスウェーデンのアーツ・アンド・クラフツと考えていたようです。
ここからは個別の作品でなくざっくりとご紹介していきますが、まずは絵付けした皿やカーリンが作ったテキスタイルなどのテーブルセットなどがありました。シンプルながらもセンスあふれる品ばかりで、この辺は今日の北欧デザイン全般に通じるものを感じます。ランプシェードが花びらの形をしているなど、絵だけでなく造形の面でも面白い品がありました。
その先には「私の家」の本がありました。これを観ると日本とイギリスのアーツ・アンド・クラフツから影響を受けているのが伺えます。部屋ごとに時代のスタイルが異なり、ロココ風の部屋など可愛らしい雰囲気なども紹介されていました。 この家造り・装飾品の数々はカーリンが大きな役割を果たしていたようで、自分で自分のウェディング・ドレスを作ってしまうなど かなり器用な人です(ストックホルムの工芸学校出身だったようです) さらにカーリンも王立美術学校で油彩を学んでいたそうで、ラーションにプロポーズのはグレー=シュル=ロワンだったのだとか。カーリンのスケッチや油彩なども展示していて、精緻な画風な一方で 花鳥を象ったデザインではデフォルメしているなど柔軟な画才を持っていたようです。
その先はカーリンのテキスタイルのコーナーで「テーブルク ロス、 家紋風の模様」という作品は日本の家紋をモチーフにしたようなデザインとなっていました。スウェーデンの伝統的な作品や色彩が大胆な作品もあってバラエティ豊かです。テキスタイルは10年くらい作っていたようで、かなりのセンスが伺えます。他にもクッション、カーテン、肘掛け椅子の布部分など様々なデザインがありました。帽子だって作っちゃいますw
展示のラストに「現代版リッラ・ヒュットネースの居間」という撮影コーナーがありました。

リッラ・ヒュットネースの居間をイメージしたイケアの家具ですw イケアはカール・ラーションの暮らしをルーツにしているのだとか。意外と身近なところに影響してたんですね。
ということで、カール・ラーションの絵画はコロコロ画風が変わるような感じがしましたが、室内装飾も含めて面白い展示となっていました。むしろ奥さんのカーリンのほうが才能あるんじゃないか?と思ってみたり。 スウェーデンの魅力的な室内装飾のルーツとも言えるアーティスト夫妻なので、北欧デザインに興味ある方はチェックしてみてください。


【展覧名】
日本・スウェーデン外交関係樹立150周年記念
カール・ラーション スウェーデンの暮らしを芸術に変えた画家
【公式サイト】
https://www.sjnk-museum.org/program/current/5469.html
【会場】東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館
【最寄】新宿駅
【会期】2018年9月22日(土)~12月24日(月・休)
※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。
【鑑賞所要時間(私のペースです)】
1時間30分程度
【混み具合・混雑状況】
混雑_1_2_3_④_5_快適
【作品充実度】
不足_1_2_3_④_5_充実
【理解しやすさ】
難解_1_2_③_4_5_明解
【総合満足度】
不満_1_2_3_④_5_満足
【感想】
結構お客さんはいましたが自分のペースで鑑賞することができました。
さて、この展示はカール・ラーションというスウェーデンの国民的人気画家と、その妻のカーリン・ラーションを取り上げたもので、カールの絵と共に室内装飾の数々が並ぶ内容となっています。夫妻は画業もさることながら「リッラ・ヒュットネース」と呼ばれる家を入手して理想の家へ改装していき、その暮らしぶりを描いた画集が高く評価されているようです。展覧会はジャンルや年代で章分けされていましたので、気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。
<第Ⅰ部カール・ラーション( 1953-1919)の画業>
まずはカール・ラーションの画業についてのコーナーです。カール・ラーションは首都ストックホルムの貧しい地区から王立美術学校に進み、留学先のフランスで明るい色彩を獲得したようです。結婚すると家族が重要なテーマとなったようで、油彩・水彩・版画で親密(アンティーム)な世界を作り上げていきました。やがてパリやブリュッセルなど各都市で認められ、スウェーデンでは公共建築の壁画に祖国の歴史や伝説を数多く描いていったようです。そして35歳の時に小さな家「リッラ・ヒュットネース」を譲り受け、理想の家へと改築・増築を行い、その成果を描いた水彩画を46歳から18年で4冊の画集にまとめました。この画集はドイツで翻訳されて「太陽の中の家」としてベストセラーとなったようです。ここにはまずは今回の展示のハイライト的な品と絵画が数点並んでいました。
5 カール・ラーション 「《 冬至の生贄》 のための男性モデル」
こちらはスウェーデン国立美術館の装飾壁画の為の習作で、未完の作品です。飢饉に苦しむ国民を救うため、スウェーデン王自ら生贄になるという古い英雄譚のようで、帽子をかぶった裸体の男性が緑の中を俯きながら歩いている様子が描かれています。全身に蔦のような入れ墨があり、足元のひょろ長い草花が足に巻き付くような感じにも見えるかな。筋骨逞しいものの、曲線が柔らかく明るい緑が爽やかな印象となっていました。
この近くにはアトリエの写真や椅子、イーゼルなども並んでました。また、服やクッションなどもあって、この辺は後でまた出てきます。
<第1章 絵画・前期>
続いては絵画のコーナーです。カール・ラーションは王立美術学校でアカデミックな教育を受けると共に、貧しい家族を支える為に新聞の挿絵を描く仕事をしていたようで、それが独自の絵画表現の基盤となっていきました。パリに留学していた時は印象派の画家たちが活動していたものの まだ古典が主流で、カール・ラーションも重い色調の油彩で歴史や神話を描いていたようですが、サロンの評価は得られず落胆と貧困に苦しんでいたようです。しかし29歳(1882年)に芸術家の集まるグレー=シュル=ロワンを訪れたのを契機に 明るい色彩と軽やかな水彩を獲得し始めたようで、印象派から戸外の光を表す色調を取り入れてパリのサロンでも高く評価されるようになったようです。ここにはそうした初期の作品などが並んでいました。
12 カール・ラーション 「水差しのある静物」
こちらは初期の静物画で、水差しの他に植木鉢や瓶などが描かれています。重厚な色彩でやや暗めに見え、明暗や反射などはきっちり描かれているなど絵は上手いけど面白さとしては普通といった感じでした。まだ苦しんでいた時期の作品でしょうね…。
17 カール・ラーション 「野イバラの花」
こちらは奥さんの誕生日にプレゼントした花を描いたもので、ピンク色の花で室内の花瓶に入っている様子となっています。かなり筆致が素早く一部は厚塗されているなど印象派的な作風となっていて、一気に色彩も軽やかになっていました。1892年の作品なので、グレー=シュル=ロワンに行ってから10年くらい後の画風のようでした。
この辺には色々な画風がありました。家族を題材にした作品などもあります。
21 カール・ラーション 「カーリンの命名日のお祝い」
こちらは奥さんのカーリンと同じ名前の守護聖人の祝日を祝っている様子が描かれた水彩画です。白い壁の広い部屋に白いローブに蓮のような葉っぱを巻き付けた衣装の娘が2人と、白いひげの男性が1人立っています。右の方には小さい子と母親らしき人物もいてベッドからそれを観ている感じです。この作品も水彩ということもあって軽やかで明るい色調となっていて、輪郭線も繊細で優美な印象を受けました。神話の女神ような格好と現実の部屋の取り合わせも面白い作品です。
<第1章 絵画・後期>
続いても絵画のコーナーです。1892年に自邸を背景に描いた油彩で明確な輪郭線と平坦な彩色による独特の様式を生み出したそうで、アール・ヌーヴォーやジャポニスムの影響、挿絵の経験などを活かした画風となったようです。当時のスウェーデンではナビ派的な絵画が注目されたそうですが、カール・ラーションは別の道を行ったとのことで、ここにはそうした時期の作品が並んでいました。
28 カール・ラーション 「ポントゥスとエッチングプレス機」
こちらはプレス機の回転するバーに触って立っている少年を描いたテンペラ作品で、全体的に平坦で陰影が浅めの表現になっているように思えます。顔などには明確な輪郭があり、確かに浮世絵などを思わせる要素もあるかな。しかしどちらかと言うとナビ派の方が近いような…w 別の道を行ってるというけどナビ派に影響受けてたんじゃないかと思わせました。
25 カール・ラーション 「絵葉書を書くモデル」
こちらは赤いテーブルと椅子のセットに座って手紙を描く裸婦を描いた水彩作品です。輪郭がきっちりしていて色調は淡く明るい雰囲気となっています。それでもテーブルの赤とカーテンの緑が補色となっているので強く色を感じるかな。裸婦は笑顔を見せていて瑞々しい作品となっていました。
<第2章 挿絵の仕事>
続いては挿絵のコーナーです。前述の通りカール・ラーションは学生の頃から新聞の報道画や風刺画を制作する仕事に携わっていました。当時は挿絵は絵画より劣ると考えられていましたが、カール・ラーションは多くの人の目に触れられる挿絵に重要性を見出していたようです。ここではそうした挿絵の仕事が紹介されていました。
38 カール・ラーション 「『森のなかの城』 エコーの城」
こちらはシンゴアッラ物語という中世スウェーデンの騎士とジプシーの悲恋の物語の挿絵で、湖畔の城が描かれたモノクロの画面となっています。結構細かく描かれていて陰影や装飾性が見事です。中世の舞台らしい詩情豊かな雰囲気でファンタジックな画風となっていました。
この辺には実際の本も並んでいました。
40 カール・ラーション 「小川のほとりのエーランドとシンゴアッラ」
こちらは先程と同じシンゴアッラ物語の一場面で、騎士のシンゴアッラとジプシーの娘が池の近くで寄り添っている様子が描かれています。騎士は凛々しいイケメンな一方、女は黒髪で装身具をつけてミステリアスかつ妖艶な姿となっています。緻密な表現でラファエル前派の作品を観ているような雰囲気がありました。
この他にもこの物語の作品が何点かありました。それ以外の作品もいくつかあります。
<第3章 版画~家族の肖像>
続いては版画のコーナーです。カール・ラーションは1870年代半ば以降エッチングなど112点の銅版画と4点のカラーリトグラフを制作していたそうで、家族や友人など身近な人物をテーマにしたようです。1890年代半ばにはスウェーデンの主導的な版画家アクセル・タールベリに学び共同制作も行っていたようです。自画像や裸婦像など新しい方向も模索していたようで、ここにはそうした版画が並んでいました。
49 カール・ラーション 「ゆがんだ顔」
こちらは大きく目を開いて恐れ慄くような感じの顔を描いたエッチングです。全体的に煙のようなものが湧き上がってくるように見える細い線があり、それが一層に恐怖感を煽っているように思えます。カール・ラーションは不幸な幼少期を心の暗部に持っていたようで、人生への恐れを抱いていたのだとか。これまで観た爽やかな作風とはまた違った雰囲気の作品でした。
53 カール・ラーション 「聖ゲオルギウスとお姫様」
こちらは竜退治で有名な騎士 聖ゲオルギウスと お姫様の格好をした子供を描いたリトグラフです。背景は室内で、民芸品や壁画も描かれています。平坦で明るい色調となっていて、アール・ヌーヴォー的な印象を受けるかな。服装も装飾的で洒落た雰囲気がありました。
この辺には家族や子供の遊びを描いた版画がいくつかありました。
56 カール・ラーション 「朝食のプレートを持つマルティーナ」
こちらはメイドを描いた作品で、食器や料理が沢山載ったお盆を持ちながら こちらを観て微笑んでいる様子が描かれています。同じタイトルの油彩画の上半身部分が ベストセラーとなった「家庭料理の本」の表紙となっていたらしいので、人気作を版画にした感じでしょうか。明るく楽しそうな雰囲気で、洒落た生活の一端も観られるような作品でした。
<第4章 ラーションとジャポニスム>
続いては日本趣味との関連のコーナーです。ジャポニスムが流行するパリに留学して以来、カール・ラーションは日本的モチーフ、大胆な構図、広い余白、ぼかし、にじみ などの表現を取り入れていったようです。また、モチーフの一部を大胆に切り取り、手前を大きく描いて臨場感を出し、日常のありふれたものの中から意外性や面白さを発見するのも浮世絵から学んだようです。ここにはそうしたジャポニスムからの影響が観られる作品が並んでいました。
71 カール・ラーション 「アザレアの花」 ★こちらで観られます
こちらは今回のポスターの作品で、手前に花が大きく描かれ その後ろに振り返っている奥さんのカーリンが描かれています。輪郭が明確で大胆な構図は浮世絵からの影響と思われます。背景には機織り機や室内の庭木なども描かれていて、一家の理想的な家の様子も伺えるかな。軽やかで明るい色彩と相まって幸せそうな気配が漂う作品でした。
この近くにはカール・ラーションがコレクションしていた歌川広重が2点ありました。また、カール・ラーションと日本の繋がりについてのエピソードがあり、白樺派が当時カール・ラーションを日本に紹介していたようで、カール・ラーション自身もそれを知っていたという話を紹介していました。
<第Ⅱ章ラーション家の暮らしとリッラ・ヒュットネース>
最後は自宅である「リッラ・ヒュットネース」の装飾についてのコーナーです。この家は奥さんのカーリンの両親から譲り受けたそうで、当初は休暇ごとに増築・改築していたのが1901年になって移り住んだそうです。イギリスのアーツ・アンド・クラフツ運動が起こったのもこの頃で、ラーションも自分の家造りをスウェーデンのアーツ・アンド・クラフツと考えていたようです。
ここからは個別の作品でなくざっくりとご紹介していきますが、まずは絵付けした皿やカーリンが作ったテキスタイルなどのテーブルセットなどがありました。シンプルながらもセンスあふれる品ばかりで、この辺は今日の北欧デザイン全般に通じるものを感じます。ランプシェードが花びらの形をしているなど、絵だけでなく造形の面でも面白い品がありました。
その先には「私の家」の本がありました。これを観ると日本とイギリスのアーツ・アンド・クラフツから影響を受けているのが伺えます。部屋ごとに時代のスタイルが異なり、ロココ風の部屋など可愛らしい雰囲気なども紹介されていました。 この家造り・装飾品の数々はカーリンが大きな役割を果たしていたようで、自分で自分のウェディング・ドレスを作ってしまうなど かなり器用な人です(ストックホルムの工芸学校出身だったようです) さらにカーリンも王立美術学校で油彩を学んでいたそうで、ラーションにプロポーズのはグレー=シュル=ロワンだったのだとか。カーリンのスケッチや油彩なども展示していて、精緻な画風な一方で 花鳥を象ったデザインではデフォルメしているなど柔軟な画才を持っていたようです。
その先はカーリンのテキスタイルのコーナーで「テーブルク ロス、 家紋風の模様」という作品は日本の家紋をモチーフにしたようなデザインとなっていました。スウェーデンの伝統的な作品や色彩が大胆な作品もあってバラエティ豊かです。テキスタイルは10年くらい作っていたようで、かなりのセンスが伺えます。他にもクッション、カーテン、肘掛け椅子の布部分など様々なデザインがありました。帽子だって作っちゃいますw
展示のラストに「現代版リッラ・ヒュットネースの居間」という撮影コーナーがありました。

リッラ・ヒュットネースの居間をイメージしたイケアの家具ですw イケアはカール・ラーションの暮らしをルーツにしているのだとか。意外と身近なところに影響してたんですね。
ということで、カール・ラーションの絵画はコロコロ画風が変わるような感じがしましたが、室内装飾も含めて面白い展示となっていました。むしろ奥さんのカーリンのほうが才能あるんじゃないか?と思ってみたり。 スウェーデンの魅力的な室内装飾のルーツとも言えるアーティスト夫妻なので、北欧デザインに興味ある方はチェックしてみてください。
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1ヶ月ほど前に新宿の駅前にある中村屋サロン美術館で「独往の人 會津八一展」を観てきました。この展示は前期・後期の会期があり、私が観たのは前期の内容でした(この記事を書いている時点で既に後期となっています)

【展覧名】
独往(どくおう)の人 會津八一展
【公式サイト】
https://www.nakamuraya.co.jp/museum/exhibitions/
【会場】中村屋サロン美術館
【最寄】新宿駅
【会期】2018年9月15日(土)~12月9日(日)
※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。
【鑑賞所要時間(私のペースです)】
0時間30分程度
【混み具合・混雑状況】
混雑_1_2_3_4_⑤_快適
【作品充実度】
不足_1_2_③_4_5_充実
【理解しやすさ】
難解_1_2_③_4_5_明解
【総合満足度】
不満_1_2_③_4_5_満足
【感想】
空いていて快適に鑑賞することができました。
さて、この展示は歌人、書家、教育者、美術史家という多彩な顔を持つ會津八一を紹介するもので、絵や書なども展示されています。私は會津八一については名前程度しか知らない状態(早稲田大学に會津八一の記念館があるというのを知っている程度)でしたが、郷里の新潟や早稲田大学の出身者などにはよく知られた人物のようです。この展示ではどのような人物だったのかもざっくり知ることが出来ましたので、簡単に振り返ってみようと思います。
参考リンク:會津八一(創業者つかりの人々)
まず最初にこの中村屋サロン美術館と會津八一の関係について紹介されていました。會津八一は中村屋の創業者相馬愛蔵の長男 安雄の早稲田中学時代の先生だったそうで、安雄が落第した際に両親がお礼に行ったそうです。 落第させた先生にお礼??って感じですが、ちゃんと駄目なものを潔く落としたことに対するお礼のようです。長い目で観れば本人の為ですし、現代のモンペに聞かせてやりたいレベルw やがてその安雄が社長になるとさらに親密になったそうで、中村屋の看板は會津八一が手がけたそうです。最初にその看板が展示されていました。(★こちらで観られます) 書についてはそれほど分かりませんが、親しみやすい感じがするかな。また、今でも使われている羊羹や月餅の包みのデザインもあり、こちらも見覚えがありました。バランスがやや斜めってる感じの独特の書体で個性的です。中には棟方志功とコラボした包み紙なんかもあって、この辺は中村屋ならではの展示かな。
その先の展示室は陶器や絵画、書などが展示されていました。独学で東洋美術を学んで早稲田の東洋美術史を担当するまでになったそうで、まずは中国の雑伎俑という埴輪のような俑(★こちらで観られます)や、丸い瓦とそれを写した拓本などが展示されています。この辺は研究の資料的な感じですが、雑伎俑は可愛らしいので観ていて面白いです。 近くには学校の規則や心構えを書いた書もあり、教育者としての面が強く伺えます。郷里の学生を預かった際に学規を作ったようで、人間としてどう生きていくのかの指針となっているようです。非常に立派な先生ですね…。
その先に油彩画が数点並んでいました(★こちらで観られます) 「鉢 書籍」という静物画では水の入った鉢と積み重ねた2冊の本が描かれ、その下には赤・黄色・青の縞模様のクロスが敷いてある様子が描かれています。ややくすんだ落ち着いた色調ですが、クロスの色の取り合わせは対比的で、色を強く感じます。また、形態はやや誇張されているのでキュビスムやセザンヌに通じるものを感じさせました。(実際にセザンヌに興味があったようです) この絵だけでも十分に絵描きとしての実力もあったと思われますが、會津八一が顧問だった美術部は以前に萬鉄五郎や中村彝も排出しているらしいので、伝統と実績の部を任せられたほどだったことが伺えました。
その先にはメガネや印章、筆などのゆかりの作品が並びます。
その後は賛付きの日本画などがありました。略画のような緩い雰囲気の作品に哲学的な賛がついた感じかな。季節感を感じる作品なんかもあります。また、「独往」という作品は今回の展示名にもなっていて、他人に頼らず自分の力で歩み進めるという意味のようです。今回の展示だけでも独自の世界を切り開いてきた(しかも様々なジャンルで)のが感じられるので、説得力がありました。
そして最後は書のコーナーです。ここには行書や草書で流れるように書いた作品が並びます。やはり素朴な感じがしますが、生まれ故郷の良寛を慕っていたというキャプションを読んで、成る程と合点が行きました。何かデジャブがあると思ったら良寛と方向性が似た書風でした。一見すると拙い感じですがじわじわと親しみが湧くというか、しんみりとした情感が漂っていました。
ということで、多方面に才能を発揮し、教育者としても立派な人物だったことが伺える内容となっていました。中村屋の看板の謎も知ることができたし、予想以上に楽しめました。 ここは新宿駅の高野のすぐ近くにあるので、ご興味ある方は新宿に行った際にでも寄ってみてはと思います。

【展覧名】
独往(どくおう)の人 會津八一展
【公式サイト】
https://www.nakamuraya.co.jp/museum/exhibitions/
【会場】中村屋サロン美術館
【最寄】新宿駅
【会期】2018年9月15日(土)~12月9日(日)
※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。
【鑑賞所要時間(私のペースです)】
0時間30分程度
【混み具合・混雑状況】
混雑_1_2_3_4_⑤_快適
【作品充実度】
不足_1_2_③_4_5_充実
【理解しやすさ】
難解_1_2_③_4_5_明解
【総合満足度】
不満_1_2_③_4_5_満足
【感想】
空いていて快適に鑑賞することができました。
さて、この展示は歌人、書家、教育者、美術史家という多彩な顔を持つ會津八一を紹介するもので、絵や書なども展示されています。私は會津八一については名前程度しか知らない状態(早稲田大学に會津八一の記念館があるというのを知っている程度)でしたが、郷里の新潟や早稲田大学の出身者などにはよく知られた人物のようです。この展示ではどのような人物だったのかもざっくり知ることが出来ましたので、簡単に振り返ってみようと思います。
参考リンク:會津八一(創業者つかりの人々)
まず最初にこの中村屋サロン美術館と會津八一の関係について紹介されていました。會津八一は中村屋の創業者相馬愛蔵の長男 安雄の早稲田中学時代の先生だったそうで、安雄が落第した際に両親がお礼に行ったそうです。 落第させた先生にお礼??って感じですが、ちゃんと駄目なものを潔く落としたことに対するお礼のようです。長い目で観れば本人の為ですし、現代のモンペに聞かせてやりたいレベルw やがてその安雄が社長になるとさらに親密になったそうで、中村屋の看板は會津八一が手がけたそうです。最初にその看板が展示されていました。(★こちらで観られます) 書についてはそれほど分かりませんが、親しみやすい感じがするかな。また、今でも使われている羊羹や月餅の包みのデザインもあり、こちらも見覚えがありました。バランスがやや斜めってる感じの独特の書体で個性的です。中には棟方志功とコラボした包み紙なんかもあって、この辺は中村屋ならではの展示かな。
その先の展示室は陶器や絵画、書などが展示されていました。独学で東洋美術を学んで早稲田の東洋美術史を担当するまでになったそうで、まずは中国の雑伎俑という埴輪のような俑(★こちらで観られます)や、丸い瓦とそれを写した拓本などが展示されています。この辺は研究の資料的な感じですが、雑伎俑は可愛らしいので観ていて面白いです。 近くには学校の規則や心構えを書いた書もあり、教育者としての面が強く伺えます。郷里の学生を預かった際に学規を作ったようで、人間としてどう生きていくのかの指針となっているようです。非常に立派な先生ですね…。
その先に油彩画が数点並んでいました(★こちらで観られます) 「鉢 書籍」という静物画では水の入った鉢と積み重ねた2冊の本が描かれ、その下には赤・黄色・青の縞模様のクロスが敷いてある様子が描かれています。ややくすんだ落ち着いた色調ですが、クロスの色の取り合わせは対比的で、色を強く感じます。また、形態はやや誇張されているのでキュビスムやセザンヌに通じるものを感じさせました。(実際にセザンヌに興味があったようです) この絵だけでも十分に絵描きとしての実力もあったと思われますが、會津八一が顧問だった美術部は以前に萬鉄五郎や中村彝も排出しているらしいので、伝統と実績の部を任せられたほどだったことが伺えました。
その先にはメガネや印章、筆などのゆかりの作品が並びます。
その後は賛付きの日本画などがありました。略画のような緩い雰囲気の作品に哲学的な賛がついた感じかな。季節感を感じる作品なんかもあります。また、「独往」という作品は今回の展示名にもなっていて、他人に頼らず自分の力で歩み進めるという意味のようです。今回の展示だけでも独自の世界を切り開いてきた(しかも様々なジャンルで)のが感じられるので、説得力がありました。
そして最後は書のコーナーです。ここには行書や草書で流れるように書いた作品が並びます。やはり素朴な感じがしますが、生まれ故郷の良寛を慕っていたというキャプションを読んで、成る程と合点が行きました。何かデジャブがあると思ったら良寛と方向性が似た書風でした。一見すると拙い感じですがじわじわと親しみが湧くというか、しんみりとした情感が漂っていました。
ということで、多方面に才能を発揮し、教育者としても立派な人物だったことが伺える内容となっていました。中村屋の看板の謎も知ることができたし、予想以上に楽しめました。 ここは新宿駅の高野のすぐ近くにあるので、ご興味ある方は新宿に行った際にでも寄ってみてはと思います。
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前回に引き続き東京都美術館の「ムンク展―共鳴する魂の叫び」についてです。前編は「叫び」のある4章までご紹介しましたが、今日は残りの5~9章についてです。まずは概要のおさらいです。
前編はこちら

【展覧名】
ムンク展―共鳴する魂の叫び
【公式サイト】
https://munch2018.jp/
https://www.tobikan.jp/exhibition/2018_munch.html
【会場】東京都美術館
【最寄】上野駅
【会期】2018年10月27日(土)~2019年1月20日(日)
※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。
【鑑賞所要時間(私のペースです)】
2時間20分程度
【混み具合・混雑状況】
混雑_1_②_3_4_5_快適
【作品充実度】
不足_1_2_3_4_⑤_充実
【理解しやすさ】
難解_1_2_3_④_5_明解
【総合満足度】
不満_1_2_3_4_⑤_満足
【感想】
「叫び」のある4章が一番混んでいましたが、後半の5章以降は前半に比べると比較的快適に観ることが出来たように思います。後半も代表作が目白押しとなっていましたので、引き続き章ごとに気に入った作品をご紹介していこうと思います。
<5章 接吻、吸血鬼、マドンナ>
5章は「叫び」と同様に「生命のフリーズ」の中核を占める「接吻」、「吸血鬼」、「マドンナ」などが並ぶコーナーです。これらのモティーフは繰り返し描かれ、後年まで多彩な構図や技法により様々なヴァリエーションを生んだようです。ここにはそうしたヴァリエーションも含めて展示されていました。
64 エドヴァルド・ムンク 「マドンナ」 ★こちらで観られます
黒い髪と真っ白な肌の裸婦らしき女性の肖像で、手は背景の中に溶けて腰から下も描かれていません。目を閉じて顎をげている顔は恍惚の表情にも見えて、聖女の名前を冠する割には性的な雰囲気が漂います。女性の周りには幾重にもオーラのように縞模様があり、ちょっと不穏な感じすらするかもw さらにヴァリエーションによっては右下に胎児らしき子がいたり、精子のようなものが枠を囲うなど生命の誕生を思わせるモチーフなどもありました。余談ですが、昔この作品を初めて観た時、目がぐるぐるになって表現されているのかと思いましたw ちゃんと観ると瞼ですね。今回の作品はその辺がよく分かりましたw
マドンナはこちらを合わせて4点ほどありました。いずれもリトグラフや石版画となります。また、「マドンナ」と「吸血鬼」が表裏一体となった石版なんかもあって目を引きました。
50 エドヴァルド・ムンク 「接吻」 ★こちらで観られます
こちらもいくつかのヴァリエーションがあるのですが、いずれも男女が抱き合って接吻を交わしている場面が描かれています。しかし2人の顔は一体化しているような感じで、女性の顔はのっぺらぼうのようになっているものもあります。性的というよりは情熱的な愛の光景のようで、2人だけの世界と言った雰囲気が漂っていました。
接吻のヴァリエーションは屋内だったり屋外だったり、裸だったりと6点ほどありました。技法も様々なのを見比べることができる面白い構成です。
57 エドヴァルド・ムンク 「森の吸血鬼」 ★こちらで観られます
こちらも4点ほどのヴァリエーションがあったのですが、いずれも頭を女性の胸元に垂れる男性と、それを抱きかかえて首筋に口を寄せる女性が描かれています。まるで女性の吸血鬼が血を吸っているような構図で、男を破滅させるファム・ファタールのイメージを表しているのかもしれません。しかし観ようによっては抱き合っているようにも見えて、このヴァージョンでは静かな雰囲気がありポーズとタイトル以外は穏やかな作品に思えました。
他のヴァージョンは版画2点と油彩1点で、さらに版木も2点ありました。版木を観ると女性の形の色の付け方が分かるかも
<6章 男と女-愛、嫉妬、別れ>
続いては男女の愛に関する主題のコーナーです。ムンクは様々な女性に惹かれたり付き合ったりしていたのですが、画家として十分な才能を発揮する為には孤独でなければならないと考え、生涯独身を貫いています。また、売春宿を舞台にした「緑の部屋」シリーズを手がけるなど、男女の情念を表した主題をよく描いていました。ここにはそうした作品が並んでいました。
67 エドヴァルド・ムンク 「別離」
こちらは浜辺に立って海に向かう金髪に白いドレスの女性の横向き姿と、木にもたれ掛かって右手で心臓あたりを押さえている男性が描かれた作品です。女性のドレスは浜辺と一体化するような感じで、顔は描かれず幻影のような感じに見えるかな。一方の男性は沈んだ表情となっていて、別れに心を痛めているのが伝わってきました。男性の下にある謎の植物や右手が赤々としているのが血みたいだし、何とも悲痛な印象の作品です。
79 エドヴァルド・ムンク 「生命のダンス」 ★こちらで観られます
こちらはムンクの代表作の1つで、浜辺に集まって社交ダンスを踊る群像を描いた大型の作品です。真ん中に赤い服の女性と踊る男性、左端に白い服の女性、右端に黒い服の女性、背後に数組の男女と月が浮かぶ海が広がっています。解説によると、白い服の女性は青春期の清らかさ、赤い服の女性は性愛や情熱的な恋人、黒い服の年配の女性は拒絶された愛や人生の終わりに近づいていること をそれぞれ表しているようです。いずれも象徴的で、月も神秘的となっていて全体的に幻想的な光景となっていました。 また、緑の野に映える色彩となっていて、特に白と赤の女性が鮮やかに見えたかな。 それにしても右の方で踊っている禿頭の男性の目が飛び出すようなギョロ目で、異様な雰囲気ですw この人も何か意味ありそうなんだけどなあw
71 エドヴァルド・ムンク 「嫉妬」
こちらは緑の縞模様の売春宿の部屋を描いた「緑の部屋」シリーズのうちの1枚で、左下に口を結んで嫉妬する男が描かれ、その奥の部屋の入口あたりで男女が抱き合っている様子が描かれています。この嫉妬する男と抱き合う男女のモチーフも何度か出てくる構図となっていて、4章にも「赤い蔦」という作品があります。また、同名のタイトルで奥さんに自由恋愛させて嫉妬のパワーで制作する作家を描いた作品なんかも以前観たことがあります。(2007年の展示) ここでは嫉妬する男の髪と髭や女性の髪が赤いのは罪を象徴するとのことで、人の情念の業を表しているようでした。ちなみにムンクも人妻と恋愛関係があったりしたそうで、自身も嫉妬に苛まれる経験をしていたようです。何だか人間のドロドロを煮詰めたような作品ですw
この近くにも同じ売春宿を描いた作品がありました。
74 エドヴァルド・ムンク 「マラーの死」 ★こちらで観られます
こちらは前編の記事でも紹介した「マラーの死」をテーマにしたもので、横たわっている裸体の男性と正面を向いて直立している裸婦が描かれています。この女性は恐らくマラーを刺殺したシャルロット・コルデーではないかと思われますが、血が滴る殺人現場みたいなところに突っ立っている様子が何とも不気味です。肌の色も暗くてちょっと亡霊みたいな…w 解説によると、ムンクはこの作品を描く前に、同郷の女性トゥラ・ラーセンに結婚を迫られたのですが、その際に破局し銃の暴発事件を起こしています。この絵はそれを暗示しているようでムンクがマラーを自分と同一視したのではないかと考えられているようです。ムンクの女性遍歴と結婚感はヤバイですね…w 中々衝撃的な作品でした。
他にも「灰」などの有名作もありました。
この辺で次の階に移るのですが、オスロのムンク美術館について紹介されていました。ムンクとその妹によって寄贈を受けた美術館で、ムンクの作品の半分以上となる2万6000点も所蔵しているようです。2020年にオープン予定の新しい美術館を作っているそうなので、「叫び」を日本で観られるのはこうした機会だからでしょうね。
<7章 肖像画>
続いては肖像画のコーナーです。ムンクは第5回ベルリン分離派展に出品したのを機に支援者や顧客を得たようで、家族の肖像の依頼なども受けていたようです。また、先述の発砲事件の後にアルコールへの依存を悪化させて妄想や幻聴が聞こえるようになると入院し、そこでお世話になったダニエル・ヤコブソン博士の肖像なども残してます。その後、回復してからも友人などの全身肖像を描いて「守護者」と呼んで大切にしたそうです。 ここにはそうした肖像画が並んでいました。
83 エドヴァルド・ムンク 「ダニエル・ヤコブソン」 ★こちらで観られます
こちらはアルコール依存の治療をしてくれた医師の等身大の肖像で、腰に両手を当てて立つ威厳ある姿で描かれています。背景は黄色く輝くような感じで、崇拝しているんじゃないかというくらい堂々たる雰囲気です。しかしムンクはこの医者に疑念も持っていたようで、左足のかかとの辺りが馬の蹄のようになっているのは、キリスト教の神学の伝統では悪魔に結び付けられるモチーフのようです。パッと観た感じでは光の加減に見えなくもないですが、確かに蹄のようになっているのが確認できます。ムンクの患者としての心情を反映したような、面白い解釈の作品でした。
80 エドヴァルド・ムンク 「フリードリヒ・ニーチェ」 ★こちらで観られます
こちらは等身大より一回り大きなニーチェの肖像です。これはフリードリヒ・ニーチェの妹から依頼されて写真を元に描いているそうで、やや横向きで眉間にシワを寄せる気難しそうな表情で描かれています。前編でも出てきた通りムンクはニーチェに傾倒していたのでニーチェの内面もよく知っていたんじゃないかな。背景は黄色と赤が縞模様のような空が広がっていて、「叫び」とよく似た表現となっていました。色彩も強く感じられる作品です。
この隣にはフリードリヒ・ニーチェの妹のエリーザベト・フェルスター=ニーチェの肖像もありました。
<8章 躍動する風景>
続いては風景画のコーナーです。ムンクはヤコブソンの診療所に入院中にノルウェーの勲章を授与され、翌年の1909年に個展を成功させて国立美術館に買い上げされるなど、祖国での評価が確固たるものとなると、放浪の旅をやめ祖国ノルウェーへと帰国しました。そして国家的なプロジェクトである大学の講堂壁画をはじめモニュメンタルな作品に手がけるようになり、その為の下絵なども残されています。また、以前のメランコリックな風景画とは対照的に偉大な自然と人間の知性を主題とするようになり、祖国の自然をダイナミックに描くようになったようです。一方で第一次世界大戦の頃には工業化する近代都市や労働者をモチーフにした作品も残し、力強く躍動感あふれる様子で表したようです。 ここにはそうしたこれまでとは異なる躍動する風景画が並んでいました。
87 エドヴァルド・ムンク 「黄色い丸太」
こちらは雪の積もる森の中に倒れた黄色い丸太を描いた作品で、大画面に極端な遠近法で描かれ飛び出すような力強い雰囲気となっています。解説によると色彩の配置が画面にもたらす調和と装飾性がセザンヌを思わせるとのことで、荒々しいタッチで塗りムラがあったりすることも相まって、確かに似た部分があるように思えました。
89 エドヴァルド・ムンク 「太陽」 ★こちらで観られます
こちらは大学の講堂の装飾画の為の作品(下絵?)で、山間に昇る太陽が光を放つ様子が描かれています。厚塗りされた光線が非常に力強く、強烈な明るさとなっていて、強烈すぎて不穏にすら思えますw ここまで観てきたメランコリックな作風とは違った感じも受けますが、この作品でも神秘的な雰囲気があって好みでした。
<9章 画家の晩年>
最後は晩年のコーナーです。前述の大学の講堂の壁画(現在のオスロ大学)が除幕した年に郊外に家を購入したムンクは、「子供たち」と呼んだ自らの作品と共に隠遁しつつ旺盛な制作を続けたようです。1930年に右目の血管が破裂して失明の危機を感じたようですが徐々に回復し、それまで以上に鮮やかな色彩と軽いタッチで平面的で明るい画面の作品を制作したようです。また、この頃には生命のフリーズなどを含む数十年前に描いた作品の再作成などにも取り組んでいたようです。と、そんな感じで名声も高まり安定したように思えたムンクですが、やがてナチスの時代が来ると退廃芸術と見なされたり祖国を占領されるなど暗い時代を迎えます。それでも戦争を割けるように生活し、とりわけ多くの自画像を残したようです。しかし1943年にナチスの爆撃で家の窓ガラスが吹き飛ばれると、その寒さから気管支炎を患い、戦争終結を前に亡くなってしまいました。ここにはそうした晩年の作品が並んでいました。
93 エドヴァルド・ムンク 「浜辺にいる二人の女」 ★こちらで観られます
こちらは初期の木版画を元に油彩で再制作したもので、浜辺に立つオレンジの髪に白いドレスの女性と、その傍らで座っている黒衣の女性を描いた作品です。ぱっと観ると黒衣の女性は死神かと思うように青ざめていて、白のドレスの女性と対照的な雰囲気です。周りの浜辺はオレンジ色で、水面も薄い水色となっているなど これまでの作品と比べるとかなり色彩も明るく感じられるかな。平坦でゴーギャンのような表現に思えました。
95 エドヴァルド・ムンク 「星月夜」 ★こちらで観られます
こちらはムンクの自宅から観た雪の積もった庭と夜空を描いた作品です。空には輝く星々があり、明るい色調で爽やかさと温かみを感じます。ここまで観てきた不安を感じる作風から一気に変わったように見えるかなw 画面の下にはムンクの横顔らしきものも描かれていますが、ノルウェーの劇作家の物語の登場人物に関連する姿と解釈する説もあるのだとか。 この展覧会で最も爽やかな作品だと思いますw
96 エドヴァルド・ムンク 「狂った視覚」
こちらは室内を描いた作品で、奥には胸に手を当てる女性らしき姿があります。しかし目を引くのは手前にあるモジャモジャした物体で、人の後頭部のようにも言えるかな。しかしこれは右目の破裂で見えなくなっていた視覚をそのまま表現したものらしく、色彩も荒々しく憤りのようなものが感じられました。
101 エドヴァルド・ムンク 「自画像、時計とベッドの間」 ★こちらで観られます
こちらは最晩年の自画像で、部屋の中で真正面を向いて立っている姿で表されています。周りには子供たちと呼んだ自作の絵が描かれ、手前にはベッド、左には針の無い時計が描かれています。このベッドと時計は死の象徴らしく、死を受け入れて覚悟していたのかも。ムンクの顔は真顔ですが、周りが明るい色彩なのでそれほど悲壮感は感じられませんでした。結構、最後は気の毒な境遇だと思いますが…。
ということで、「叫び」以外も充実した内容で、代表作や傑作を楽しむことが出来ました。ムンクはかなりの点数を残しているのでこれだけ観ても画業のほんの一部だと思いますが、これだけ凝縮されているのは貴重な機会だと思います。かなり満足度の高い展示ですので、美術ファンの方は是非どうぞ。今期オススメの展示です。
おまけ1:
今回のグッズショップは会計まで40分待ちとなっていました。ポケモンとのコラボグッズがあったりして大人気となっています。もしグッズを買いたい方は、会計待ちも結構並ぶことを考慮したスケジュールを組むことをオススメします。私は図録だけ欲しかったので、ロビー階のショップで購入しました。図録だけなら並ばずに買えるロビー階が良いと思います(ロビー階には図録1種類しかないですが)

おまけ2:
ロビー階にムンクの絵が動いて変化していく動画がありました。

ぐにゃぐにゃして溶け込む感じで、今回の展示の作品に変化していきます。

1分くらいで1周します。

前編はこちら

【展覧名】
ムンク展―共鳴する魂の叫び
【公式サイト】
https://munch2018.jp/
https://www.tobikan.jp/exhibition/2018_munch.html
【会場】東京都美術館
【最寄】上野駅
【会期】2018年10月27日(土)~2019年1月20日(日)
※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。
【鑑賞所要時間(私のペースです)】
2時間20分程度
【混み具合・混雑状況】
混雑_1_②_3_4_5_快適
【作品充実度】
不足_1_2_3_4_⑤_充実
【理解しやすさ】
難解_1_2_3_④_5_明解
【総合満足度】
不満_1_2_3_4_⑤_満足
【感想】
「叫び」のある4章が一番混んでいましたが、後半の5章以降は前半に比べると比較的快適に観ることが出来たように思います。後半も代表作が目白押しとなっていましたので、引き続き章ごとに気に入った作品をご紹介していこうと思います。
<5章 接吻、吸血鬼、マドンナ>
5章は「叫び」と同様に「生命のフリーズ」の中核を占める「接吻」、「吸血鬼」、「マドンナ」などが並ぶコーナーです。これらのモティーフは繰り返し描かれ、後年まで多彩な構図や技法により様々なヴァリエーションを生んだようです。ここにはそうしたヴァリエーションも含めて展示されていました。
64 エドヴァルド・ムンク 「マドンナ」 ★こちらで観られます
黒い髪と真っ白な肌の裸婦らしき女性の肖像で、手は背景の中に溶けて腰から下も描かれていません。目を閉じて顎をげている顔は恍惚の表情にも見えて、聖女の名前を冠する割には性的な雰囲気が漂います。女性の周りには幾重にもオーラのように縞模様があり、ちょっと不穏な感じすらするかもw さらにヴァリエーションによっては右下に胎児らしき子がいたり、精子のようなものが枠を囲うなど生命の誕生を思わせるモチーフなどもありました。余談ですが、昔この作品を初めて観た時、目がぐるぐるになって表現されているのかと思いましたw ちゃんと観ると瞼ですね。今回の作品はその辺がよく分かりましたw
マドンナはこちらを合わせて4点ほどありました。いずれもリトグラフや石版画となります。また、「マドンナ」と「吸血鬼」が表裏一体となった石版なんかもあって目を引きました。
50 エドヴァルド・ムンク 「接吻」 ★こちらで観られます
こちらもいくつかのヴァリエーションがあるのですが、いずれも男女が抱き合って接吻を交わしている場面が描かれています。しかし2人の顔は一体化しているような感じで、女性の顔はのっぺらぼうのようになっているものもあります。性的というよりは情熱的な愛の光景のようで、2人だけの世界と言った雰囲気が漂っていました。
接吻のヴァリエーションは屋内だったり屋外だったり、裸だったりと6点ほどありました。技法も様々なのを見比べることができる面白い構成です。
57 エドヴァルド・ムンク 「森の吸血鬼」 ★こちらで観られます
こちらも4点ほどのヴァリエーションがあったのですが、いずれも頭を女性の胸元に垂れる男性と、それを抱きかかえて首筋に口を寄せる女性が描かれています。まるで女性の吸血鬼が血を吸っているような構図で、男を破滅させるファム・ファタールのイメージを表しているのかもしれません。しかし観ようによっては抱き合っているようにも見えて、このヴァージョンでは静かな雰囲気がありポーズとタイトル以外は穏やかな作品に思えました。
他のヴァージョンは版画2点と油彩1点で、さらに版木も2点ありました。版木を観ると女性の形の色の付け方が分かるかも
<6章 男と女-愛、嫉妬、別れ>
続いては男女の愛に関する主題のコーナーです。ムンクは様々な女性に惹かれたり付き合ったりしていたのですが、画家として十分な才能を発揮する為には孤独でなければならないと考え、生涯独身を貫いています。また、売春宿を舞台にした「緑の部屋」シリーズを手がけるなど、男女の情念を表した主題をよく描いていました。ここにはそうした作品が並んでいました。
67 エドヴァルド・ムンク 「別離」
こちらは浜辺に立って海に向かう金髪に白いドレスの女性の横向き姿と、木にもたれ掛かって右手で心臓あたりを押さえている男性が描かれた作品です。女性のドレスは浜辺と一体化するような感じで、顔は描かれず幻影のような感じに見えるかな。一方の男性は沈んだ表情となっていて、別れに心を痛めているのが伝わってきました。男性の下にある謎の植物や右手が赤々としているのが血みたいだし、何とも悲痛な印象の作品です。
79 エドヴァルド・ムンク 「生命のダンス」 ★こちらで観られます
こちらはムンクの代表作の1つで、浜辺に集まって社交ダンスを踊る群像を描いた大型の作品です。真ん中に赤い服の女性と踊る男性、左端に白い服の女性、右端に黒い服の女性、背後に数組の男女と月が浮かぶ海が広がっています。解説によると、白い服の女性は青春期の清らかさ、赤い服の女性は性愛や情熱的な恋人、黒い服の年配の女性は拒絶された愛や人生の終わりに近づいていること をそれぞれ表しているようです。いずれも象徴的で、月も神秘的となっていて全体的に幻想的な光景となっていました。 また、緑の野に映える色彩となっていて、特に白と赤の女性が鮮やかに見えたかな。 それにしても右の方で踊っている禿頭の男性の目が飛び出すようなギョロ目で、異様な雰囲気ですw この人も何か意味ありそうなんだけどなあw
71 エドヴァルド・ムンク 「嫉妬」
こちらは緑の縞模様の売春宿の部屋を描いた「緑の部屋」シリーズのうちの1枚で、左下に口を結んで嫉妬する男が描かれ、その奥の部屋の入口あたりで男女が抱き合っている様子が描かれています。この嫉妬する男と抱き合う男女のモチーフも何度か出てくる構図となっていて、4章にも「赤い蔦」という作品があります。また、同名のタイトルで奥さんに自由恋愛させて嫉妬のパワーで制作する作家を描いた作品なんかも以前観たことがあります。(2007年の展示) ここでは嫉妬する男の髪と髭や女性の髪が赤いのは罪を象徴するとのことで、人の情念の業を表しているようでした。ちなみにムンクも人妻と恋愛関係があったりしたそうで、自身も嫉妬に苛まれる経験をしていたようです。何だか人間のドロドロを煮詰めたような作品ですw
この近くにも同じ売春宿を描いた作品がありました。
74 エドヴァルド・ムンク 「マラーの死」 ★こちらで観られます
こちらは前編の記事でも紹介した「マラーの死」をテーマにしたもので、横たわっている裸体の男性と正面を向いて直立している裸婦が描かれています。この女性は恐らくマラーを刺殺したシャルロット・コルデーではないかと思われますが、血が滴る殺人現場みたいなところに突っ立っている様子が何とも不気味です。肌の色も暗くてちょっと亡霊みたいな…w 解説によると、ムンクはこの作品を描く前に、同郷の女性トゥラ・ラーセンに結婚を迫られたのですが、その際に破局し銃の暴発事件を起こしています。この絵はそれを暗示しているようでムンクがマラーを自分と同一視したのではないかと考えられているようです。ムンクの女性遍歴と結婚感はヤバイですね…w 中々衝撃的な作品でした。
他にも「灰」などの有名作もありました。
この辺で次の階に移るのですが、オスロのムンク美術館について紹介されていました。ムンクとその妹によって寄贈を受けた美術館で、ムンクの作品の半分以上となる2万6000点も所蔵しているようです。2020年にオープン予定の新しい美術館を作っているそうなので、「叫び」を日本で観られるのはこうした機会だからでしょうね。
<7章 肖像画>
続いては肖像画のコーナーです。ムンクは第5回ベルリン分離派展に出品したのを機に支援者や顧客を得たようで、家族の肖像の依頼なども受けていたようです。また、先述の発砲事件の後にアルコールへの依存を悪化させて妄想や幻聴が聞こえるようになると入院し、そこでお世話になったダニエル・ヤコブソン博士の肖像なども残してます。その後、回復してからも友人などの全身肖像を描いて「守護者」と呼んで大切にしたそうです。 ここにはそうした肖像画が並んでいました。
83 エドヴァルド・ムンク 「ダニエル・ヤコブソン」 ★こちらで観られます
こちらはアルコール依存の治療をしてくれた医師の等身大の肖像で、腰に両手を当てて立つ威厳ある姿で描かれています。背景は黄色く輝くような感じで、崇拝しているんじゃないかというくらい堂々たる雰囲気です。しかしムンクはこの医者に疑念も持っていたようで、左足のかかとの辺りが馬の蹄のようになっているのは、キリスト教の神学の伝統では悪魔に結び付けられるモチーフのようです。パッと観た感じでは光の加減に見えなくもないですが、確かに蹄のようになっているのが確認できます。ムンクの患者としての心情を反映したような、面白い解釈の作品でした。
80 エドヴァルド・ムンク 「フリードリヒ・ニーチェ」 ★こちらで観られます
こちらは等身大より一回り大きなニーチェの肖像です。これはフリードリヒ・ニーチェの妹から依頼されて写真を元に描いているそうで、やや横向きで眉間にシワを寄せる気難しそうな表情で描かれています。前編でも出てきた通りムンクはニーチェに傾倒していたのでニーチェの内面もよく知っていたんじゃないかな。背景は黄色と赤が縞模様のような空が広がっていて、「叫び」とよく似た表現となっていました。色彩も強く感じられる作品です。
この隣にはフリードリヒ・ニーチェの妹のエリーザベト・フェルスター=ニーチェの肖像もありました。
<8章 躍動する風景>
続いては風景画のコーナーです。ムンクはヤコブソンの診療所に入院中にノルウェーの勲章を授与され、翌年の1909年に個展を成功させて国立美術館に買い上げされるなど、祖国での評価が確固たるものとなると、放浪の旅をやめ祖国ノルウェーへと帰国しました。そして国家的なプロジェクトである大学の講堂壁画をはじめモニュメンタルな作品に手がけるようになり、その為の下絵なども残されています。また、以前のメランコリックな風景画とは対照的に偉大な自然と人間の知性を主題とするようになり、祖国の自然をダイナミックに描くようになったようです。一方で第一次世界大戦の頃には工業化する近代都市や労働者をモチーフにした作品も残し、力強く躍動感あふれる様子で表したようです。 ここにはそうしたこれまでとは異なる躍動する風景画が並んでいました。
87 エドヴァルド・ムンク 「黄色い丸太」
こちらは雪の積もる森の中に倒れた黄色い丸太を描いた作品で、大画面に極端な遠近法で描かれ飛び出すような力強い雰囲気となっています。解説によると色彩の配置が画面にもたらす調和と装飾性がセザンヌを思わせるとのことで、荒々しいタッチで塗りムラがあったりすることも相まって、確かに似た部分があるように思えました。
89 エドヴァルド・ムンク 「太陽」 ★こちらで観られます
こちらは大学の講堂の装飾画の為の作品(下絵?)で、山間に昇る太陽が光を放つ様子が描かれています。厚塗りされた光線が非常に力強く、強烈な明るさとなっていて、強烈すぎて不穏にすら思えますw ここまで観てきたメランコリックな作風とは違った感じも受けますが、この作品でも神秘的な雰囲気があって好みでした。
<9章 画家の晩年>
最後は晩年のコーナーです。前述の大学の講堂の壁画(現在のオスロ大学)が除幕した年に郊外に家を購入したムンクは、「子供たち」と呼んだ自らの作品と共に隠遁しつつ旺盛な制作を続けたようです。1930年に右目の血管が破裂して失明の危機を感じたようですが徐々に回復し、それまで以上に鮮やかな色彩と軽いタッチで平面的で明るい画面の作品を制作したようです。また、この頃には生命のフリーズなどを含む数十年前に描いた作品の再作成などにも取り組んでいたようです。と、そんな感じで名声も高まり安定したように思えたムンクですが、やがてナチスの時代が来ると退廃芸術と見なされたり祖国を占領されるなど暗い時代を迎えます。それでも戦争を割けるように生活し、とりわけ多くの自画像を残したようです。しかし1943年にナチスの爆撃で家の窓ガラスが吹き飛ばれると、その寒さから気管支炎を患い、戦争終結を前に亡くなってしまいました。ここにはそうした晩年の作品が並んでいました。
93 エドヴァルド・ムンク 「浜辺にいる二人の女」 ★こちらで観られます
こちらは初期の木版画を元に油彩で再制作したもので、浜辺に立つオレンジの髪に白いドレスの女性と、その傍らで座っている黒衣の女性を描いた作品です。ぱっと観ると黒衣の女性は死神かと思うように青ざめていて、白のドレスの女性と対照的な雰囲気です。周りの浜辺はオレンジ色で、水面も薄い水色となっているなど これまでの作品と比べるとかなり色彩も明るく感じられるかな。平坦でゴーギャンのような表現に思えました。
95 エドヴァルド・ムンク 「星月夜」 ★こちらで観られます
こちらはムンクの自宅から観た雪の積もった庭と夜空を描いた作品です。空には輝く星々があり、明るい色調で爽やかさと温かみを感じます。ここまで観てきた不安を感じる作風から一気に変わったように見えるかなw 画面の下にはムンクの横顔らしきものも描かれていますが、ノルウェーの劇作家の物語の登場人物に関連する姿と解釈する説もあるのだとか。 この展覧会で最も爽やかな作品だと思いますw
96 エドヴァルド・ムンク 「狂った視覚」
こちらは室内を描いた作品で、奥には胸に手を当てる女性らしき姿があります。しかし目を引くのは手前にあるモジャモジャした物体で、人の後頭部のようにも言えるかな。しかしこれは右目の破裂で見えなくなっていた視覚をそのまま表現したものらしく、色彩も荒々しく憤りのようなものが感じられました。
101 エドヴァルド・ムンク 「自画像、時計とベッドの間」 ★こちらで観られます
こちらは最晩年の自画像で、部屋の中で真正面を向いて立っている姿で表されています。周りには子供たちと呼んだ自作の絵が描かれ、手前にはベッド、左には針の無い時計が描かれています。このベッドと時計は死の象徴らしく、死を受け入れて覚悟していたのかも。ムンクの顔は真顔ですが、周りが明るい色彩なのでそれほど悲壮感は感じられませんでした。結構、最後は気の毒な境遇だと思いますが…。
ということで、「叫び」以外も充実した内容で、代表作や傑作を楽しむことが出来ました。ムンクはかなりの点数を残しているのでこれだけ観ても画業のほんの一部だと思いますが、これだけ凝縮されているのは貴重な機会だと思います。かなり満足度の高い展示ですので、美術ファンの方は是非どうぞ。今期オススメの展示です。
おまけ1:
今回のグッズショップは会計まで40分待ちとなっていました。ポケモンとのコラボグッズがあったりして大人気となっています。もしグッズを買いたい方は、会計待ちも結構並ぶことを考慮したスケジュールを組むことをオススメします。私は図録だけ欲しかったので、ロビー階のショップで購入しました。図録だけなら並ばずに買えるロビー階が良いと思います(ロビー階には図録1種類しかないですが)

おまけ2:
ロビー階にムンクの絵が動いて変化していく動画がありました。

ぐにゃぐにゃして溶け込む感じで、今回の展示の作品に変化していきます。

1分くらいで1周します。

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日付が変わって昨日となりましたが、土曜日に東京都美術館で開催初日の「ムンク展―共鳴する魂の叫び」を観てきました。非常に注目度の高い展示で内容も充実していましたので前編・後編に分けてご紹介していこうと思います。

【展覧名】
ムンク展―共鳴する魂の叫び
【公式サイト】
https://munch2018.jp/
https://www.tobikan.jp/exhibition/2018_munch.html
【会場】東京都美術館
【最寄】上野駅
【会期】2018年10月27日(土)~2019年1月20日(日)
※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。
【鑑賞所要時間(私のペースです)】
2時間20分程度
【混み具合・混雑状況】
混雑_1_②_3_4_5_快適
【作品充実度】
不足_1_2_3_4_⑤_充実
【理解しやすさ】
難解_1_2_3_④_5_明解
【総合満足度】
不満_1_2_3_4_⑤_満足
【感想】
結構混んでいて、チケットを買うのに10分くらい並びました。中に入ってもずっと列を組んでいる感じで、特に「叫び」の前はかなりの人だかりでした。それでもまだ特に入場規制はなかったですが、会期が進むに連れて混む傾向があるので注意です。ツイッターで混雑状況なども呟いているようなのでお出かけ前にチェックしてみるとよろしいかと思います。
参考リンク:公式ツイッター「さけびクン@ムンク展」
さて、この展示は「叫び」で有名なムンクの大規模な回顧展で、初期から晩年まで油彩60点+版画など40点という圧倒的な質・量となっています。2007年にも国立西洋美術館でも大きな回顧展があった(当時はブログ未開設)ので実に11年ぶりのムンク展となりますが、今回は何と言っても誰もが知る「叫び」の中の1点が初来日していることが大きな話題となっています(叫びは4つのバージョンがあり、これはその内の1つ) 展覧会に行く前に2007年の図録を引っ張り出して振り返ってから観に行ったのですが、「生命のダンス」や「吸血鬼」「マドンナ」の連作などの代表作は再来日している一方で、前回は観られなかった作品がかなり多く、多くの方にとって初のお目見えが沢山あると思います。展覧会は9章に分かれていて、時系列というよりは主題ごとに章分けされている感じでした。詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。
<1章 ムンクとは誰か>
まずは自画像のコーナーです。ムンクは19歳に描いた自画像から始まり 亡くなるまで80点を超える自画像を描いているそうです。また、39歳の頃に購入したコダックのカメラを使って自らを撮影した写真も残っているようで、そうした写真を元に自画像を描いていたこともあるようです。ここには様々な時代の自画像が並んでいました。
2 エドヴァルド・ムンク 「地獄の自画像」 ★こちらで観られます
こちらは自ら裸体の写真を撮ってそれを元に描いた自画像で、中央で顔だけこちらを向いている裸体姿となっていて 表情はタッチが粗くて判然としないかな。背後には黒い影が大きく立ち上っていて、周りは赤い炎が燃え盛っているような光景となっています。体はその光に照らされているのか黄色く明るい色となっているのに対して、顔は暗い色調で不穏な雰囲気です。解説によると、これはアルコールに溺れていた40代の頃の作品だそうで、タイトルの通り地獄の中にいるような印象を受けました。粗い筆跡の残るムンクならではの作風も見て取れました。
3 エドヴァルド・ムンク 「青空を背にした自画像」
こちらは横長の画面の中央に真正面を向いている自画像で、黄色いシャツに緑のジャケットを羽織っています。背景には青空が広がっているのですが、色彩の爽やかさとは裏腹に うねるような筆跡が観ていて不安定な気分になりますw 対比的で明るい色調なのに何故か陰を感じると言うか…。まだ若い顔つきですが、この自画像を描いた年に神経衰弱で入院しているらしく やや神経質っぽい顔つきに思えました。
他にもいくつか自画像があり、自画像は他のコーナーにもありました。 また、この先はムンクの撮った写真が並んでいて、自撮りしている感じが出ていました。
9 エドヴァルド・ムンク 「マラー風のセルフポートレート、ヤコブソン博士の診療所にて コペンハーゲン」
こちらはジャック=ルイ・ダヴィッドの「マラーの死」(フランス革命の頃のジャコバン派の指導者ジャン=ポール・マラーが風呂で湯に浸かっている時に刺殺されたのを題材にした作品)に着想を得て撮ったセルフポートレート写真で、半裸で浴槽に横たわっている様子が撮られています。こっちを向いてカメラに手を伸ばしているのは現代のセルフィーによく似ているかもw ちなみにムンクは「マラーの死」に関心が深かったようで、この先にも着想を得て描いた絵画などもありました。
参考記事:ルーヴル美術館展 肖像芸術-人は人をどう表現してきたか 感想前編(国立新美術館)
<2章 家族─死と喪失>
続いてはムンクの絵画の方向性を決定付けたと言える 家族とその死に関するコーナーです。エドヴァルド・ムンクは1863年に軍医の父クリスチャンとその妻ラウラの間に生まれ、5歳にして母を結核で亡くしています。さらにエドヴァルド・ムンクが14歳の時に仲の良かった姉のソフィエも結核で亡くしていて、幼いうちから家族の喪失を2度も経験していました。こうした経験から家族の死から着想を得た作品も残しています。その後、敬虔で厳格な父に育てられ17歳で画家となる決意をしたのですが、20代になると革命的思想家ハンス・イェーゲルを中心としたボヘミアン・グループや世紀末を代表する文学者・芸術家に大いに影響を受けたようです。厳しい躾の反動と言うか…w そして因習の破棄や自由恋愛を標榜する彼らとの接触によって、ムンクの死のテーマと双璧となる愛のテーマに取り組む契機となったようです。ここにはそうした家族の死や世紀末の芸術家たちとの付き合いを伺わせる作品が並んでいました。
14 エドヴァルド・ムンク 「ソファに座るクリスチャン・ムンク」
こちらはソファに座って新聞を読む父の横向きの姿を描いた作品です。左手で顎を触って厳格な雰囲気の漂う父親かな。結構写実的で丁寧に描かれている感じがします。父は軍医なのに給料は安かったらしくムンクの家は貧しかったのだとか。
この近くには画家を目指し始めた頃の自画像や母の肖像などもありました。母が死んだ後は叔母(母の妹)が母の代わりを務めてくれたそうで、ムンクの絵の道にも理解を示してくれたようです。その叔母を情感込めて描いた肖像も展示されていました。いずれも写実的な画風です。
17 エドヴァルド・ムンク 「死と春」 ★こちらで観られます
こちらはベッドで寝ているような女性が描かれた作品で、背景の窓の外は麗らかな春の陽気の林が描かれています。しかし安らかな顔に見えてもこの女性は死んでいるそうで、言われてみれば顔は青ざめていて血の気が無いかな。解説によると、この女性と春の風景の取り合わせは 死が現世と来世を分かつというキリスト教的な死生観と 転生的な生の概念を対比しているのではないかとのことでした。
20-22 エドヴァルド・ムンク 「病める子」「病める子1」「病める子1」 ★こちらで観られます
こちらは似た作品が3点ほど並んでいて、いずれも病んだ子供の横顔が描かれています。1枚だけ傍らで看病している母親がうなだれている姿があって絶望感があるように見えるかな。解説によるとこれは姉のソフィエの死の経験を描いているようで、病める子は悟ったような顔をしているとのことですが 確かに遠くを見つめるような目で呆然として何かを考えているような表情です。髪はボサボサで痩せこけていて、死が迫っている人をつぶさに描いているように思えました。
参考記事:エドヴァルド・ムンク版画展 (国立西洋美術館)
28 エドヴァルド・ムンク 「ブローチ、エヴァ・ムドッチ」 ★こちらで観られます
こちらはイギリスのヴァイオリニストの女性で、ムンクはパリでこの女性と出会って魅力にとりつかれたようです。やや首を斜めにして微笑むような表情は優しく女神のような美しさです。周りの黒髪が画面中に広がるようで艶っぽさもありますが、ムンクが得意としたファム・ファタール的な破滅の陰はあまり感じず清らかな印象かな。ムンクは彼女に憧れを持っていたのではないかと思わせる作品でした。(しかし他の作品ではこの女性を悪女のサロメに見立てた作品も描いているのだとか。ムンクの女性への屈折した考えの一端かもしれませんw)
この近くには「クリスチャニアのボヘミアンたち」や「ハンス・イェーゲル」といったムンクに影響を与えた人たちの肖像などもありました。
<3章 夏の夜─孤独と憂鬱>
続いては浜辺を題材にした作品のコーナーです。ムンクは故郷のノルウェーやパリ・ベルリンなどを行き来しながら制作をしていたのですが、26歳の時にオスロフィヨルドを望む漁村オースゴールストランに小屋を借りて、そこで夏を過ごす生活を続けるようになったそうです。白夜に月光が照らし出すフィヨルドや森が描かれ、象徴主義的な表現が推し進められたようで、ここにはそうした作品が並んでいました。
30 エドヴァルド・ムンク 「メランコリー」
こちらは浜辺で頬杖をついてぼんやり考え込んでいる男性を描いたもので、浜辺は紫色で背景の桟橋には2人の人物の姿もあります。しかし浜辺はぐにゃぐにゃしていたり、縞模様のような空が不安定な雰囲気を出していて、男性の心情を表しているように思えます。なお、この絵を描いた頃にはゴッホやゴーギャンの絵を目にしていたらしく、ゴーギャンの画風に似た雰囲気があるように思えました。
34 エドヴァルド・ムンク 「夏の夜、人魚」 ★こちらで観られます
こちらは丸い石が沢山転がっている浜辺に裸婦が座ってぼんやりこちらを観ている様子が描かれた作品です。背景にも2人の裸婦もいて、水面にはiの字を逆さにしたような月光の反射も映っています。(この表現はムンクの頻出の光の反射の表現です) やや性的な雰囲気もあるようにも思えますが、シュールと言うか神秘的と言うか、ちょっと不思議な光景です。ムンクの女性への複雑な思いも込められているように思えました。
35 エドヴァルド・ムンク 「赤と白」 ★こちらで観られます
こちらは浜辺の森に立つ赤い(オレンジ)服を着た正面を向く女性と、海に向かってやや後ろを向いた白い服の女性を描いた作品です。暗い森やぐにゃぐにゃした浜辺などムンクならではの陰を感じさせますが、何と言っても2人の色彩の対比が目を引きます。解説によると赤は成熟、白は無垢と純粋を表すそうなので、中身も対比的な感じでしょうか。象徴的な意味合いと共に色彩を引き立てているのが面白い作品でした。
この近くには版画が8点ほどありました。ムンクは版画制作に熱心で、版画は油彩などより多くの人に伝えることが出来ると考えていたようです。同じ絵でも色が違う作品も並べて展示しているのが面白かったです。
<4章 魂の叫び─不安と絶望>
そして1階に上がるとついに「叫び」のあるコーナーです。「叫び」は「生命のフリーズ」のシリーズの一環として作成された作品で、1892年の「絶望」を元にして1893年にクレヨン版とテンペラ・クレヨン版、1895年にパステルとリトグラフを制作しているようです。今回の出品作は1893年のテンペラ・クレヨン版の売却を機に制作した後年の作と思われるようで、テンペラ・油彩のバージョンとなってます。
ちなみに「絶望」や「叫び」が描かれた頃の1892年にはベルリン芸術家協会の招きでムンクの個展が開かれ国際的なデビューを果たしています。しかしこの頃は印象派すら浸透していない時代だったこともあり、筆跡を残す大胆なムンクの絵は理解されず観客の怒りや誹謗中傷を招いたそうで、下手くそな画家と批判されたようです。その結果、個展は1週間で打ち切られ「ムンク事件」として知られることとなり、これが却って新しい芸術を求める画家や知識層に名が広まっていったようです。
46 エドヴァルド・ムンク 「叫び」 ★こちらで観られます
あまり絵画を知らない方でも この絵なら知っているという位有名な作品で、橋の上で耳を塞いで苦悶の表情を浮かべている人物を描いています。背景はフィヨルドや赤と黄色が縞模様のようになった空が広がっていて、非常に観ていて不安を覚える色彩となっています。解説によるとこの光景はムンクが妹の入院する精神病院に訪れた際に、疲れ切って夕日の光景を観たら自然が貫く叫けびが聞こえたという原体験を絵にしているようです。(つまり この人物が叫んでる訳ではなく、自然の叫びに耳を塞いでいますw) この観る者の心までえぐるような絵は一度観たら忘れられないくらいのインパクトですが、近くで観ると色ムラやうねり、色の対比などが相まってそうした雰囲気が出ているように思えました。やたら強調された遠近感とかもそう感じさせる要素の1つかな。一生に一度は直に観ておきたい作品です。
この隣には「不安」の版画版もありました。2007年の展示では油彩が来ていましたが、あれも傑作です。
47 エドヴァルド・ムンク 「絶望」 ★こちらで観られます
こちらは叫びの元となった作品で、橋の上で横向きの人物が目を閉じた物憂げな人物が描かれています。背景の風景や空の色は叫びによく似ていますが、2つを比べると叫びの方がぐにゃぐにゃした描写になっているのが分かります。また、こちらは割と黒い輪郭が強めで、クロワゾニスムのような感じにも思えました。絶望とのことですが、諦念のような静かな雰囲気が漂う作品でした。
ということで、展覧会の中盤あたりで念願の「叫び」を観ることが出来ました。人間の負の感情や死といったネガティブな題材が多い画家ですが、それを粗いタッチで力強く訴えてくるので、観ている方も心を揺さぶられるのではないかと思います。後半も代表的な作品が並び見どころが多かったので、次回は残りの5~9章をご紹介していこうと思います。
→ 後編はこちら

【展覧名】
ムンク展―共鳴する魂の叫び
【公式サイト】
https://munch2018.jp/
https://www.tobikan.jp/exhibition/2018_munch.html
【会場】東京都美術館
【最寄】上野駅
【会期】2018年10月27日(土)~2019年1月20日(日)
※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。
【鑑賞所要時間(私のペースです)】
2時間20分程度
【混み具合・混雑状況】
混雑_1_②_3_4_5_快適
【作品充実度】
不足_1_2_3_4_⑤_充実
【理解しやすさ】
難解_1_2_3_④_5_明解
【総合満足度】
不満_1_2_3_4_⑤_満足
【感想】
結構混んでいて、チケットを買うのに10分くらい並びました。中に入ってもずっと列を組んでいる感じで、特に「叫び」の前はかなりの人だかりでした。それでもまだ特に入場規制はなかったですが、会期が進むに連れて混む傾向があるので注意です。ツイッターで混雑状況なども呟いているようなのでお出かけ前にチェックしてみるとよろしいかと思います。
参考リンク:公式ツイッター「さけびクン@ムンク展」
さて、この展示は「叫び」で有名なムンクの大規模な回顧展で、初期から晩年まで油彩60点+版画など40点という圧倒的な質・量となっています。2007年にも国立西洋美術館でも大きな回顧展があった(当時はブログ未開設)ので実に11年ぶりのムンク展となりますが、今回は何と言っても誰もが知る「叫び」の中の1点が初来日していることが大きな話題となっています(叫びは4つのバージョンがあり、これはその内の1つ) 展覧会に行く前に2007年の図録を引っ張り出して振り返ってから観に行ったのですが、「生命のダンス」や「吸血鬼」「マドンナ」の連作などの代表作は再来日している一方で、前回は観られなかった作品がかなり多く、多くの方にとって初のお目見えが沢山あると思います。展覧会は9章に分かれていて、時系列というよりは主題ごとに章分けされている感じでした。詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。
<1章 ムンクとは誰か>
まずは自画像のコーナーです。ムンクは19歳に描いた自画像から始まり 亡くなるまで80点を超える自画像を描いているそうです。また、39歳の頃に購入したコダックのカメラを使って自らを撮影した写真も残っているようで、そうした写真を元に自画像を描いていたこともあるようです。ここには様々な時代の自画像が並んでいました。
2 エドヴァルド・ムンク 「地獄の自画像」 ★こちらで観られます
こちらは自ら裸体の写真を撮ってそれを元に描いた自画像で、中央で顔だけこちらを向いている裸体姿となっていて 表情はタッチが粗くて判然としないかな。背後には黒い影が大きく立ち上っていて、周りは赤い炎が燃え盛っているような光景となっています。体はその光に照らされているのか黄色く明るい色となっているのに対して、顔は暗い色調で不穏な雰囲気です。解説によると、これはアルコールに溺れていた40代の頃の作品だそうで、タイトルの通り地獄の中にいるような印象を受けました。粗い筆跡の残るムンクならではの作風も見て取れました。
3 エドヴァルド・ムンク 「青空を背にした自画像」
こちらは横長の画面の中央に真正面を向いている自画像で、黄色いシャツに緑のジャケットを羽織っています。背景には青空が広がっているのですが、色彩の爽やかさとは裏腹に うねるような筆跡が観ていて不安定な気分になりますw 対比的で明るい色調なのに何故か陰を感じると言うか…。まだ若い顔つきですが、この自画像を描いた年に神経衰弱で入院しているらしく やや神経質っぽい顔つきに思えました。
他にもいくつか自画像があり、自画像は他のコーナーにもありました。 また、この先はムンクの撮った写真が並んでいて、自撮りしている感じが出ていました。
9 エドヴァルド・ムンク 「マラー風のセルフポートレート、ヤコブソン博士の診療所にて コペンハーゲン」
こちらはジャック=ルイ・ダヴィッドの「マラーの死」(フランス革命の頃のジャコバン派の指導者ジャン=ポール・マラーが風呂で湯に浸かっている時に刺殺されたのを題材にした作品)に着想を得て撮ったセルフポートレート写真で、半裸で浴槽に横たわっている様子が撮られています。こっちを向いてカメラに手を伸ばしているのは現代のセルフィーによく似ているかもw ちなみにムンクは「マラーの死」に関心が深かったようで、この先にも着想を得て描いた絵画などもありました。
参考記事:ルーヴル美術館展 肖像芸術-人は人をどう表現してきたか 感想前編(国立新美術館)
<2章 家族─死と喪失>
続いてはムンクの絵画の方向性を決定付けたと言える 家族とその死に関するコーナーです。エドヴァルド・ムンクは1863年に軍医の父クリスチャンとその妻ラウラの間に生まれ、5歳にして母を結核で亡くしています。さらにエドヴァルド・ムンクが14歳の時に仲の良かった姉のソフィエも結核で亡くしていて、幼いうちから家族の喪失を2度も経験していました。こうした経験から家族の死から着想を得た作品も残しています。その後、敬虔で厳格な父に育てられ17歳で画家となる決意をしたのですが、20代になると革命的思想家ハンス・イェーゲルを中心としたボヘミアン・グループや世紀末を代表する文学者・芸術家に大いに影響を受けたようです。厳しい躾の反動と言うか…w そして因習の破棄や自由恋愛を標榜する彼らとの接触によって、ムンクの死のテーマと双璧となる愛のテーマに取り組む契機となったようです。ここにはそうした家族の死や世紀末の芸術家たちとの付き合いを伺わせる作品が並んでいました。
14 エドヴァルド・ムンク 「ソファに座るクリスチャン・ムンク」
こちらはソファに座って新聞を読む父の横向きの姿を描いた作品です。左手で顎を触って厳格な雰囲気の漂う父親かな。結構写実的で丁寧に描かれている感じがします。父は軍医なのに給料は安かったらしくムンクの家は貧しかったのだとか。
この近くには画家を目指し始めた頃の自画像や母の肖像などもありました。母が死んだ後は叔母(母の妹)が母の代わりを務めてくれたそうで、ムンクの絵の道にも理解を示してくれたようです。その叔母を情感込めて描いた肖像も展示されていました。いずれも写実的な画風です。
17 エドヴァルド・ムンク 「死と春」 ★こちらで観られます
こちらはベッドで寝ているような女性が描かれた作品で、背景の窓の外は麗らかな春の陽気の林が描かれています。しかし安らかな顔に見えてもこの女性は死んでいるそうで、言われてみれば顔は青ざめていて血の気が無いかな。解説によると、この女性と春の風景の取り合わせは 死が現世と来世を分かつというキリスト教的な死生観と 転生的な生の概念を対比しているのではないかとのことでした。
20-22 エドヴァルド・ムンク 「病める子」「病める子1」「病める子1」 ★こちらで観られます
こちらは似た作品が3点ほど並んでいて、いずれも病んだ子供の横顔が描かれています。1枚だけ傍らで看病している母親がうなだれている姿があって絶望感があるように見えるかな。解説によるとこれは姉のソフィエの死の経験を描いているようで、病める子は悟ったような顔をしているとのことですが 確かに遠くを見つめるような目で呆然として何かを考えているような表情です。髪はボサボサで痩せこけていて、死が迫っている人をつぶさに描いているように思えました。
参考記事:エドヴァルド・ムンク版画展 (国立西洋美術館)
28 エドヴァルド・ムンク 「ブローチ、エヴァ・ムドッチ」 ★こちらで観られます
こちらはイギリスのヴァイオリニストの女性で、ムンクはパリでこの女性と出会って魅力にとりつかれたようです。やや首を斜めにして微笑むような表情は優しく女神のような美しさです。周りの黒髪が画面中に広がるようで艶っぽさもありますが、ムンクが得意としたファム・ファタール的な破滅の陰はあまり感じず清らかな印象かな。ムンクは彼女に憧れを持っていたのではないかと思わせる作品でした。(しかし他の作品ではこの女性を悪女のサロメに見立てた作品も描いているのだとか。ムンクの女性への屈折した考えの一端かもしれませんw)
この近くには「クリスチャニアのボヘミアンたち」や「ハンス・イェーゲル」といったムンクに影響を与えた人たちの肖像などもありました。
<3章 夏の夜─孤独と憂鬱>
続いては浜辺を題材にした作品のコーナーです。ムンクは故郷のノルウェーやパリ・ベルリンなどを行き来しながら制作をしていたのですが、26歳の時にオスロフィヨルドを望む漁村オースゴールストランに小屋を借りて、そこで夏を過ごす生活を続けるようになったそうです。白夜に月光が照らし出すフィヨルドや森が描かれ、象徴主義的な表現が推し進められたようで、ここにはそうした作品が並んでいました。
30 エドヴァルド・ムンク 「メランコリー」
こちらは浜辺で頬杖をついてぼんやり考え込んでいる男性を描いたもので、浜辺は紫色で背景の桟橋には2人の人物の姿もあります。しかし浜辺はぐにゃぐにゃしていたり、縞模様のような空が不安定な雰囲気を出していて、男性の心情を表しているように思えます。なお、この絵を描いた頃にはゴッホやゴーギャンの絵を目にしていたらしく、ゴーギャンの画風に似た雰囲気があるように思えました。
34 エドヴァルド・ムンク 「夏の夜、人魚」 ★こちらで観られます
こちらは丸い石が沢山転がっている浜辺に裸婦が座ってぼんやりこちらを観ている様子が描かれた作品です。背景にも2人の裸婦もいて、水面にはiの字を逆さにしたような月光の反射も映っています。(この表現はムンクの頻出の光の反射の表現です) やや性的な雰囲気もあるようにも思えますが、シュールと言うか神秘的と言うか、ちょっと不思議な光景です。ムンクの女性への複雑な思いも込められているように思えました。
35 エドヴァルド・ムンク 「赤と白」 ★こちらで観られます
こちらは浜辺の森に立つ赤い(オレンジ)服を着た正面を向く女性と、海に向かってやや後ろを向いた白い服の女性を描いた作品です。暗い森やぐにゃぐにゃした浜辺などムンクならではの陰を感じさせますが、何と言っても2人の色彩の対比が目を引きます。解説によると赤は成熟、白は無垢と純粋を表すそうなので、中身も対比的な感じでしょうか。象徴的な意味合いと共に色彩を引き立てているのが面白い作品でした。
この近くには版画が8点ほどありました。ムンクは版画制作に熱心で、版画は油彩などより多くの人に伝えることが出来ると考えていたようです。同じ絵でも色が違う作品も並べて展示しているのが面白かったです。
<4章 魂の叫び─不安と絶望>
そして1階に上がるとついに「叫び」のあるコーナーです。「叫び」は「生命のフリーズ」のシリーズの一環として作成された作品で、1892年の「絶望」を元にして1893年にクレヨン版とテンペラ・クレヨン版、1895年にパステルとリトグラフを制作しているようです。今回の出品作は1893年のテンペラ・クレヨン版の売却を機に制作した後年の作と思われるようで、テンペラ・油彩のバージョンとなってます。
ちなみに「絶望」や「叫び」が描かれた頃の1892年にはベルリン芸術家協会の招きでムンクの個展が開かれ国際的なデビューを果たしています。しかしこの頃は印象派すら浸透していない時代だったこともあり、筆跡を残す大胆なムンクの絵は理解されず観客の怒りや誹謗中傷を招いたそうで、下手くそな画家と批判されたようです。その結果、個展は1週間で打ち切られ「ムンク事件」として知られることとなり、これが却って新しい芸術を求める画家や知識層に名が広まっていったようです。
46 エドヴァルド・ムンク 「叫び」 ★こちらで観られます
あまり絵画を知らない方でも この絵なら知っているという位有名な作品で、橋の上で耳を塞いで苦悶の表情を浮かべている人物を描いています。背景はフィヨルドや赤と黄色が縞模様のようになった空が広がっていて、非常に観ていて不安を覚える色彩となっています。解説によるとこの光景はムンクが妹の入院する精神病院に訪れた際に、疲れ切って夕日の光景を観たら自然が貫く叫けびが聞こえたという原体験を絵にしているようです。(つまり この人物が叫んでる訳ではなく、自然の叫びに耳を塞いでいますw) この観る者の心までえぐるような絵は一度観たら忘れられないくらいのインパクトですが、近くで観ると色ムラやうねり、色の対比などが相まってそうした雰囲気が出ているように思えました。やたら強調された遠近感とかもそう感じさせる要素の1つかな。一生に一度は直に観ておきたい作品です。
この隣には「不安」の版画版もありました。2007年の展示では油彩が来ていましたが、あれも傑作です。
47 エドヴァルド・ムンク 「絶望」 ★こちらで観られます
こちらは叫びの元となった作品で、橋の上で横向きの人物が目を閉じた物憂げな人物が描かれています。背景の風景や空の色は叫びによく似ていますが、2つを比べると叫びの方がぐにゃぐにゃした描写になっているのが分かります。また、こちらは割と黒い輪郭が強めで、クロワゾニスムのような感じにも思えました。絶望とのことですが、諦念のような静かな雰囲気が漂う作品でした。
ということで、展覧会の中盤あたりで念願の「叫び」を観ることが出来ました。人間の負の感情や死といったネガティブな題材が多い画家ですが、それを粗いタッチで力強く訴えてくるので、観ている方も心を揺さぶられるのではないかと思います。後半も代表的な作品が並び見どころが多かったので、次回は残りの5~9章をご紹介していこうと思います。
→ 後編はこちら
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前回ご紹介した東京都庭園美術館の展示を観た後、近くの松岡美術館で「松岡コレクション ― エコール・ド・パリを中心に」を観てきました。この展示は既に終了していますが、撮影可能となっていましたので写真を使ってご紹介していこうと思います。
【展覧名】
松岡コレクション ― エコール・ド・パリを中心に
【公式サイト】
http://www.matsuoka-museum.jp/exhibition/schedule.html
【会場】松岡美術館
【最寄】白金台駅
【会期】2018年6月5日(火)~10月13日(土)
※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。
【鑑賞所要時間(私のペースです)】
1時間00分程度
【混み具合・混雑状況】
混雑_1_2_3_4_⑤_快適
【作品充実度】
不足_1_2_3_④_5_充実
【理解しやすさ】
難解_1_2_3_④_5_明解
【総合満足度】
不満_1_2_3_④_5_満足
【感想】
空いていて快適に鑑賞することができました。
さて、この展示は松岡美術館のコレクションの中からエコール・ド・パリと呼ばれるパリに集ったフランス国内外の画家たちを特集したものとなっていました。名だたる巨匠の作品が1~5点くらいづつ並んでいて、静かな環境の中でじっくり鑑賞できるのがこの美術館の魅力です。(ついでに撮影可能な上に ぐるっとパスなら提示で観ることが出来ます)
今回はデジカメを忘れてスマフォで撮影したのでやや画質が落ちますが、撮ってきた写真でご紹介していこうと思います。なお、同時開催で「水のうつわ・空のうつわ涼を招く東洋陶磁」という展示もやっていましたので、そちらも少しですが書いていこうと思います。
<松岡コレクション ― エコール・ド・パリを中心に>
まずは早速エコール・ド・パリのコーナーです。
モイーズ・キスリング 「グレシー城の庭園」

こちらはキスリングが戦後(58歳の頃)にフランスで描いた作品。最近キスリングの展示を全然やらないのが残念ですが、風景画よりも人物や静物のイメージがある画家なので目を引きました。色彩の鮮やかさはキスリングっぽさを感じます。
モイーズ・キスリング 「花瓶」

こちらは27歳の頃の作品。対比的で明るい色彩が華やかな印象を受けます。影が少ないので平坦にも観えますが、デフォルメぶりも面白い。
モイーズ・キスリング 「シルヴィー嬢」

こちらは36歳の頃の作品。赤はよく使われる色で、この目もキスリングの特徴と言えると思います。割とイメージ通りの作品。
アメデオ・モディリアーニ 「若い女の胸像(マーサ嬢)」

キスリングと親友だったモディリアーニ。細長い顔がアフリカのお面などを想起させます。これもモディリアーニらしさが出ている作品だと思います。
一角だけ和風となっていて、日本画などが展示されていました。
橋本雅邦 「鶺鴒図」

背景に風が吹き渡るような雰囲気が出ているのが特に目を引きました。日本画は余白の取り方が素晴らしく、余韻と広がりを感じさせます。
再びエコール・ド・パリのコーナーです。
モーリス・ユトリロ 「モンマルトルのジュノ通り」

画面は白っぽいけど、いわゆる「白の時代」(特に評価の高い時期)よりはだいぶ後の作品です。誰もおらずハッキリしない天気と相まってやや寂しげに感じました。
近くにはユトリロの母のシュザンヌ・ヴァラドン(本名マリー=クレマンティーヌ・ヴァラドン)の絵もありました。シュザンヌは母としては最悪の部類ですが、画才はあって作品は中々面白いものが多いです。 元はモデルだった為、老巨匠の為にポーズを取る様子をロートレックに「入浴を盗み見た長老に言い寄られるシュザンヌ」(ダニエル書に基づく話)と呼ばれたのを気に入ってシュザンヌを名乗るようになったのだとか。
モーリス・ユトリロ 「モンマルトルの迷路」

これは制作当時の実景に基づいたものではなく写真などを元にしていると考えられるそうです。色鮮やかで爽やかな雰囲気ですが、これを描いた年には母親のヴァラドンが亡くなっています。ユトリロはショックを受けて礼拝堂に閉じこもったそうで、酷い仕打ちを受けても敬愛していたんでしょうね。
エドゥアール・ヴュイヤール 「フリデット・ファットン夫人の肖像」

ナビ派のヴュイヤールの作品もありました。親しげに視線を向ける先には誰かいるのでしょうか。寛いで幸せそうな雰囲気が出ていました。
マルク・シャガール 「画家と女」

このキャンバスの向かう人は画家自身のようです。シャガールはユダヤ人ですが、キリストを受難の象徴としてよく描いていて、ここでも磔刑の姿で表され足元の街はシャガールの故郷でナチスに焼かれたヴィテブスクと思われます。女は画家の横に逆さに描かれていて、これは恐らく亡くなった妻のベラかな。こうした想い出やアイデンティティが詰まっているのはシャガール独特の画風と言えそうです。
シャガールは他に4点ほどありました(リトグラフ1点)
モーリス・ド・ヴラマンク 「カシの港」

こちらはフォーヴィスムのヴラマンク。「フォーヴ(野獣)」と評されてから12年後の作品で、色は強いものの大分落ち着いた感じがします。この頃は特にセザンヌからの影響があるようで、幾何学的な単純化が観られるように思います。
ヴラマンクも数点あって好みの絵ばかりでした。
キース・ヴァン・ドンゲン 「天使の反逆」

何とも魅力的な女性像で、官能的な雰囲気がドンゲンらしいテーマです。タイトルはアナトール・フランスが1914年に発表した小説『天使の反逆』によるもので、画面右端の本がその本のようです。誘惑するような視線が妖しい気配w
ラウル・デュフィ 「ミュンヘンの風景」

こちらはフォーヴィスムのデュフィがセザンヌ回顧展に感銘し、幾何学的形態への関心を強めてキュビズム的画風となっていた時期の作品。色使いの重厚さもデュフィのその後の軽やかさと対照的で、だいぶデュフィの代表的な作風とは違って観えました。
ベルナール・ビュッフェ 「海水浴場、ドーヴィル」

ちょっと他の画家に比べて時代が後になるビュッフェ。先程のヴラマンクやドンゲンから影響を受けているようですが、なんと言ってもこの引っ掻いたような線と黒々した輪郭が特徴だと思います。静けさと寂しさが漂う画風です。
参考記事:ベルナール・ビュフェ展 (目黒区美術館)
他にも藤田やアーキペンコ、ローランサン、ピカソなどの作品もあって充実していました。割と見覚えがあるコレクションなので、見逃しても近い内にまた観る機会もあるんじゃないかな。
<松岡コレクション ― 水のうつわ・空のうつわ涼を招く東洋陶磁>
続いては隣の部屋で開催されていた東洋陶磁のコーナーです。夏の時期の開催ということもあって、涼しげな作品が並んでいました。(ここも点数はそこそこあったのですが、以前にご紹介したものも多数含まれるので簡単に)
【展覧名】松岡コレクション ― 水のうつわ・空のうつわ涼を招く東洋陶磁
【会期】2018年6月5日(火)~10月13日(土)
「青磁象嵌 花卉鷺文 瓶」 韓国 高麗時代14世紀

スラッとしたフォルムが美しい瓶。一方で側面の鷺の絵は素朴な感じがw ちょこんと枝に乗っかる様子が何とも可愛い作品でした。
景徳鎮窯 「五彩 人物楼閣山水図 壺」 清時代 康煕1662~1722年

こちらは360度にぎっしりと10の場面を設けて鮮やかな色彩で釣りや月見を楽しむ人などが描かれています。隙間なくぎっしり描くと野暮になりがちですが、これだけ密度があっても気品があって面白い作品でした。色のおかげかも??
「ラスター彩 藍帯花文 鉢」 イラン12~13世紀

私はこういうシンプルなようで奥深い器のほうが好きですw ラスター彩の豪華さと落ち着きを兼ね備えたような品格が見事。
「青釉銀化 盤口瓶」 イラン12世紀

こちらは経年で銀化した青釉の瓶。意図してこうしたのかは分かりませんが、鈍く輝いているのも中々美しく感じます。
ということで、今回も松岡美術館のコレクションを堪能することができました。もうこの展示は終わってしまいましたが、コレクション展はちょくちょく行われているので、今後も目にする機会があると思います。都会にあって静かな美術館なので穴場のスポットと言えそうです。
【展覧名】
松岡コレクション ― エコール・ド・パリを中心に
【公式サイト】
http://www.matsuoka-museum.jp/exhibition/schedule.html
【会場】松岡美術館
【最寄】白金台駅
【会期】2018年6月5日(火)~10月13日(土)
※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。
【鑑賞所要時間(私のペースです)】
1時間00分程度
【混み具合・混雑状況】
混雑_1_2_3_4_⑤_快適
【作品充実度】
不足_1_2_3_④_5_充実
【理解しやすさ】
難解_1_2_3_④_5_明解
【総合満足度】
不満_1_2_3_④_5_満足
【感想】
空いていて快適に鑑賞することができました。
さて、この展示は松岡美術館のコレクションの中からエコール・ド・パリと呼ばれるパリに集ったフランス国内外の画家たちを特集したものとなっていました。名だたる巨匠の作品が1~5点くらいづつ並んでいて、静かな環境の中でじっくり鑑賞できるのがこの美術館の魅力です。(ついでに撮影可能な上に ぐるっとパスなら提示で観ることが出来ます)
今回はデジカメを忘れてスマフォで撮影したのでやや画質が落ちますが、撮ってきた写真でご紹介していこうと思います。なお、同時開催で「水のうつわ・空のうつわ涼を招く東洋陶磁」という展示もやっていましたので、そちらも少しですが書いていこうと思います。
<松岡コレクション ― エコール・ド・パリを中心に>
まずは早速エコール・ド・パリのコーナーです。
モイーズ・キスリング 「グレシー城の庭園」

こちらはキスリングが戦後(58歳の頃)にフランスで描いた作品。最近キスリングの展示を全然やらないのが残念ですが、風景画よりも人物や静物のイメージがある画家なので目を引きました。色彩の鮮やかさはキスリングっぽさを感じます。
モイーズ・キスリング 「花瓶」

こちらは27歳の頃の作品。対比的で明るい色彩が華やかな印象を受けます。影が少ないので平坦にも観えますが、デフォルメぶりも面白い。
モイーズ・キスリング 「シルヴィー嬢」

こちらは36歳の頃の作品。赤はよく使われる色で、この目もキスリングの特徴と言えると思います。割とイメージ通りの作品。
アメデオ・モディリアーニ 「若い女の胸像(マーサ嬢)」

キスリングと親友だったモディリアーニ。細長い顔がアフリカのお面などを想起させます。これもモディリアーニらしさが出ている作品だと思います。
一角だけ和風となっていて、日本画などが展示されていました。
橋本雅邦 「鶺鴒図」

背景に風が吹き渡るような雰囲気が出ているのが特に目を引きました。日本画は余白の取り方が素晴らしく、余韻と広がりを感じさせます。
再びエコール・ド・パリのコーナーです。
モーリス・ユトリロ 「モンマルトルのジュノ通り」

画面は白っぽいけど、いわゆる「白の時代」(特に評価の高い時期)よりはだいぶ後の作品です。誰もおらずハッキリしない天気と相まってやや寂しげに感じました。
近くにはユトリロの母のシュザンヌ・ヴァラドン(本名マリー=クレマンティーヌ・ヴァラドン)の絵もありました。シュザンヌは母としては最悪の部類ですが、画才はあって作品は中々面白いものが多いです。 元はモデルだった為、老巨匠の為にポーズを取る様子をロートレックに「入浴を盗み見た長老に言い寄られるシュザンヌ」(ダニエル書に基づく話)と呼ばれたのを気に入ってシュザンヌを名乗るようになったのだとか。
モーリス・ユトリロ 「モンマルトルの迷路」

これは制作当時の実景に基づいたものではなく写真などを元にしていると考えられるそうです。色鮮やかで爽やかな雰囲気ですが、これを描いた年には母親のヴァラドンが亡くなっています。ユトリロはショックを受けて礼拝堂に閉じこもったそうで、酷い仕打ちを受けても敬愛していたんでしょうね。
エドゥアール・ヴュイヤール 「フリデット・ファットン夫人の肖像」

ナビ派のヴュイヤールの作品もありました。親しげに視線を向ける先には誰かいるのでしょうか。寛いで幸せそうな雰囲気が出ていました。
マルク・シャガール 「画家と女」

このキャンバスの向かう人は画家自身のようです。シャガールはユダヤ人ですが、キリストを受難の象徴としてよく描いていて、ここでも磔刑の姿で表され足元の街はシャガールの故郷でナチスに焼かれたヴィテブスクと思われます。女は画家の横に逆さに描かれていて、これは恐らく亡くなった妻のベラかな。こうした想い出やアイデンティティが詰まっているのはシャガール独特の画風と言えそうです。
シャガールは他に4点ほどありました(リトグラフ1点)
モーリス・ド・ヴラマンク 「カシの港」

こちらはフォーヴィスムのヴラマンク。「フォーヴ(野獣)」と評されてから12年後の作品で、色は強いものの大分落ち着いた感じがします。この頃は特にセザンヌからの影響があるようで、幾何学的な単純化が観られるように思います。
ヴラマンクも数点あって好みの絵ばかりでした。
キース・ヴァン・ドンゲン 「天使の反逆」

何とも魅力的な女性像で、官能的な雰囲気がドンゲンらしいテーマです。タイトルはアナトール・フランスが1914年に発表した小説『天使の反逆』によるもので、画面右端の本がその本のようです。誘惑するような視線が妖しい気配w
ラウル・デュフィ 「ミュンヘンの風景」

こちらはフォーヴィスムのデュフィがセザンヌ回顧展に感銘し、幾何学的形態への関心を強めてキュビズム的画風となっていた時期の作品。色使いの重厚さもデュフィのその後の軽やかさと対照的で、だいぶデュフィの代表的な作風とは違って観えました。
ベルナール・ビュッフェ 「海水浴場、ドーヴィル」

ちょっと他の画家に比べて時代が後になるビュッフェ。先程のヴラマンクやドンゲンから影響を受けているようですが、なんと言ってもこの引っ掻いたような線と黒々した輪郭が特徴だと思います。静けさと寂しさが漂う画風です。
参考記事:ベルナール・ビュフェ展 (目黒区美術館)
他にも藤田やアーキペンコ、ローランサン、ピカソなどの作品もあって充実していました。割と見覚えがあるコレクションなので、見逃しても近い内にまた観る機会もあるんじゃないかな。
<松岡コレクション ― 水のうつわ・空のうつわ涼を招く東洋陶磁>
続いては隣の部屋で開催されていた東洋陶磁のコーナーです。夏の時期の開催ということもあって、涼しげな作品が並んでいました。(ここも点数はそこそこあったのですが、以前にご紹介したものも多数含まれるので簡単に)
【展覧名】松岡コレクション ― 水のうつわ・空のうつわ涼を招く東洋陶磁
【会期】2018年6月5日(火)~10月13日(土)
「青磁象嵌 花卉鷺文 瓶」 韓国 高麗時代14世紀

スラッとしたフォルムが美しい瓶。一方で側面の鷺の絵は素朴な感じがw ちょこんと枝に乗っかる様子が何とも可愛い作品でした。
景徳鎮窯 「五彩 人物楼閣山水図 壺」 清時代 康煕1662~1722年

こちらは360度にぎっしりと10の場面を設けて鮮やかな色彩で釣りや月見を楽しむ人などが描かれています。隙間なくぎっしり描くと野暮になりがちですが、これだけ密度があっても気品があって面白い作品でした。色のおかげかも??
「ラスター彩 藍帯花文 鉢」 イラン12~13世紀

私はこういうシンプルなようで奥深い器のほうが好きですw ラスター彩の豪華さと落ち着きを兼ね備えたような品格が見事。
「青釉銀化 盤口瓶」 イラン12世紀

こちらは経年で銀化した青釉の瓶。意図してこうしたのかは分かりませんが、鈍く輝いているのも中々美しく感じます。
ということで、今回も松岡美術館のコレクションを堪能することができました。もうこの展示は終わってしまいましたが、コレクション展はちょくちょく行われているので、今後も目にする機会があると思います。都会にあって静かな美術館なので穴場のスポットと言えそうです。
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10日ほど前の土曜日に東京都庭園美術館で「エキゾティック×モダン アール・デコと異境への眼差し」を観てきました。

【展覧名】
エキゾティック×モダン アール・デコと異境への眼差し
【公式サイト】
https://www.teien-art-museum.ne.jp/exhibition/181006-190114_exotic.html
【会場】東京都庭園美術館
【最寄】白金台駅・目黒駅
【会期】2018年10月6日(土)~ 2019年1月14日(月・祝)
※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。
【鑑賞所要時間(私のペースです)】
1時間30分程度
【混み具合・混雑状況】
混雑_1_2_3_④_5_快適
【作品充実度】
不足_1_2_3_④_5_充実
【理解しやすさ】
難解_1_2_3_④_5_明解
【総合満足度】
不満_1_2_3_④_5_満足
【感想】
お客さんは結構いましたが、特に混んでいるわけではなく快適に鑑賞することができました。
さて、この展示はアール・デコの全盛期にデザインに大きな影響を与えた非ヨーロッパ圏の文化・美術についてで、それがどのようにフランスで再解釈されたかまでを観ることが出来る展示となっています。旧朝香宮邸としてアール・デコ様式で建てられた東京都庭園美術館が会場ということもあって その相性は抜群で、建物と一体化するような親和性となっています。私はデザインの中でもアール・デコが最も好きなので、詳しく展覧会の様子も書いて行きたい所ですが、今回は残念ながら作品リストが無かった為、あまりメモを取りませんでした。(作者と作品名までメモに書くのはしんどくて…w) 今回は各章ごとに簡単に雰囲気だけ書いて行こうと思います。
<SS1 モードのエキゾティシズム>
まずはファッションなどに関するコーナーです(それ以外のものもあります) ファッションデザイナーのポール・ポワレは東洋や中近東、北アフリカなどの服を着想源にしたドレスを作成したようで、単に模倣するだけではなく現代的に再構成することを試みていたようです。また、1922年に見つかったツタンカーメンの王墓はすぐにジュエリーのデザインに反映されたそうで、そうした作品もこの章に展示されていました。
最初に中国風の時計(ヴァン クリーフ&アーペル)やピエール=エミール・ルグランの大理石を使った「アフリカの椅子」(★こちらで観られます) などがあり、やや異国風ですがしっかりとアール・デコ風に仕上がっていました。特にアフリカの椅子は素朴さと先進性の両面が同居するようなデザインとなっていて好みでした。
その先の大客間にはポール・ポワレが自分の為に作った中国風のガウンやイスラム風のコート、当時のファッションの様子などが展示されています。また、この辺ではシガレットケースも面白く、東洋とアール・デコの融合ぶりが洗練された雰囲気となっていました。(★こちらで観られます)
その先の大食堂ではポール・ポワレによるイスラム風のドレスがあったのですが、そのドレスの花柄のデザインはポール・ポワレの友人でもあったラウル・デュフィが手がけているようでした。この辺はデュフィの絵画とはまた違った魅力があるので注目です。他にもヴァン クリーフ&アーペルのエジプト風のジュエリーなども目を引きました。当時のエジプトへの関心がそのまま表れたようで、元々アール・デコと相性が良さそうなデザインに思えました。
<特集展示1 アール・デコ博覧会と旧朝香宮邸>
ここは1925年のアール・デコ博覧会がきっかけとなって朝香宮邸が建てられた経緯などを紹介していました。何度もこの辺は観ているので軽く流し見程度です。
参考記事:
建物公開 旧朝香宮邸物語 & 鹿島茂コレクション フランス絵本の世界 (東京都庭園美術館)
アールデコの館 旧朝香宮邸編(東京都庭園美術館)
<SS2 装飾のエキゾティシズム>
続いては装飾のコーナーです。アール・デコの装飾美術には様々な輸入素材が使われたそうですが、特に漆の人気が高かったようです。スイス出身の工芸家ジャン・デュナンは元々は真鍮の工芸家でしたが、日本から来た菅原精造に出会って漆を学び、同時代の好みを反映した漆作品を作っていったようです。(菅原精造はアイリーン・グレイにも漆を教えながら彼女のスタジオで働いていたそうです)
参考記事:映画「ル・コルビュジエとアイリーン 追憶のヴィラ」(ネタバレあり)
まず2階に上がるとジャン・デュナンによる栗の木の装飾画が展示されています。これは色漆によって栗の木と風景が表されたもので、金地に単純化された画風が琳派的な雰囲気を出していました。金属感もあって非常に見栄えがして、素晴らしい作品です。日本美術もしっかりと再解釈されている様子が伺えました。
その次の部屋には東近美が所蔵するジャン・デュナンの黒漆に金の線と朱色の三角を配した壺がありました。この作品は日本的な色彩と素材でありながら近未来的なデザインのように見えます。これも卓越したセンスで見どころだと思います。
参考記事:アール・デコ 光のエレガンス (パナソニック 汐留ミュージアム)
その後は横浜でフランス人の父と日本人の母の間で生まれたウジェニー・オキンの象牙作品が並んでいました。蓮の花を思わせる杯は薄手で可憐な雰囲気となっていて、造形だけでなく日本のモチーフにも通じていることが伺えました。
また、この辺りには菅原精造のコーナーもあり、女性の頭部の彫刻は縦長で滑らかなデフォルメとなっていて、黒漆を塗ってツヤを出すなど日本の伝統を使いながら新しい芸術に取り組んでいるのがよく分かります。これもかなりの傑作だと思いました。
その先の書斎は遠くから眺める感じですが、3羽のペンギンが描かれたロイヤルコペンハーゲンの皿と、ルネ・ラリックの金魚のガラス皿が展示されていました。ペンギンが列を組んでいるような絵柄は可愛らしいので必見ですw
書斎の隣の殿下居間にはルネ・ラリックのスカラベや魚をモチーフにしたガラス器やカーマスコットなどがありました。この辺は結構見慣れていますが、ジャポニスムを始めとした異国趣味が漂うセレクションとなっているように思います。
少し先の北側ベランダには壺や杯などが並んでいて、日本のものとしか観えないような作品がありました。一方でジョルジュ・セレの壺は色が明るくエメラルドやオレンジといった日本にはない色彩感覚が面白く、モダンな作風となっていました。
<特集展示2 ジョセフィン・ベイカーとナンシー・キュナード>
こちらは1925年のアール・デコ博覧会の頃にパリで「黒いヴィーナス」と呼ばれ一世を風靡したジョセフィン・ベイカーと、黒人ジャズピアニストと結婚して差別と向き合ったナンシー・キュナードに関してのコーナーです。ベイカーはちょくちょくこの時代の展示で目にするので覚えておきたい人物です。
ここはそれほど点数は無かったのですが、ポール・コランによる黒人をモチーフにした大型ポスターや、ベイカーのダンスを誇張して描いた作品などもありました。特にベイカーのダンスは軽やかな雰囲気が出ていて絵としても面白いです。
<SS3 パリ国際植民地博覧会と植民地主義の表象>
続いては新館です。ここには1931年に行われたパリ国際植民地博覧会に関する作品が並んでいました。フランスはアール・デコ様式のパヴィリオンで、他は地域固有の様式を再現した建物となっていたようで、6ヶ月あまりで国内700万人、国外から100万人集まる盛況ぶりだったようです。この博覧会はフランスが未発達な植民地に平和・秩序・教育・産業をもたらしたとする啓蒙する目的があったようですが、アンドレ・ブルトンらシュルレアリストたちは植民地支配に批判的で反対運動を起こしたようです。
ここにはパリ国際植民地博覧会のポスターがあり、インドシナ風・アラブ風・黒人・インディアンの4人が描かれ1日で世界1周というキャッチフレーズも付けられていました。ちょっと時代が違うとは言え、フランスの植民地支配は褒められたものではないので、今となっては黒歴史みたいな感じかな。しかし文化には着実に影響を与え合っていたのが伺えます。この近くにはルイ・ブーケの「ブラック・アフリカ」という今回の展示のポスターにもなっている作品があり、フランスの知的芸術の貢献を表すアポロンと現地の人々を描いていました。下絵ですが躍動感のある作品です。
<SS4 異境の再発見>
続いてはフランス国外に実際に赴いた人たちの作品のコーナーです。 この時代にはサハラ砂漠横断や、アフリカ大陸を縦断しインド洋のマダガスカルまで行った「黒いクルージング」レバノンと北京から2隊が出発してウルムチで合流した「黄色いクルージング」なども行われ、国外へ足を運ぶことができる時代となっていました。 また、アカデミーの美術家たちは植民地各地での滞在研修の機会が与えられるコンクールがあったそうで、西アフリカ・インドシナ、マダガスカル、モロッコ、チュニジア、赤道アフリカ、アルジェリアなどに派遣させたようです。ここにはそうした機会で現地で取材したコロニアルアートが並んでいました。
ここにはアフリカの生活や中東の墓地、サハラ砂漠の遊牧民、アンコールワットなど様々な地を描いた絵画が並んでいました。(★こちらで観られます) 作風も様々ですが、実際に見て描いているだけあってリアリティがあり、当時現地の様子がよく伝わってくる作品が多いかな。割と誇張しないで描いているように思えます。また、彫刻もあって、オウムやバイソン、現地の人など異国を強く感じさせる作品が並んでいました。
そしてここにはジャン・デュナンによる「森」という巨大な衝立があり、鹿や鳥、南方の植物などがデフォルメされて描かれていました。リズミカルな印象を受けると共に所々に金属的な光沢があるのが面白く、幻想的な光景となっています。この作品もかなりの見どころです。
<特集展示3 フランソワ・ポンポンと動物彫刻の流行>
最後は日本の工芸や古代エジプトのレリーフからインスピレーションを得ていたフランソワ・ポンポンの動物彫刻のコーナーです。フランソワ・ポンポンの代表作と言えるシロクマは大理石がキラキラ光っているのが雪のように見えて素材が活かされています。細めの体と顔で手足が大きく見えるのも優美な雰囲気で、まさに歴史的な傑作と言えると思います。他にもライオンやカバなどの石膏像、キジバト、大黒豹、フクロウなどのブロンズ像などもあり、特に歩いている黒豹はしなやかで美しいフォルムとなっていました。この黒豹はセネガル出身の議員のペットをモデルにしたそうですが、特徴をよく捉えていてかなり良かったです。
ということで、建物と共に当時の異国趣味のファッションや工芸を楽しむことが出来ました。それぞれの文化がどのようにアール・デコに反映されたかも分かると共に、作品自体が素晴らしいものが多かったように思います。デザイン好きの方にオススメの展示です。
おまけ:
今回の展示のミュージアムショップでフランソワ・ポンポンのシロクマの模型3600円を購入しました。

8200円の2周りくらい大きな模型のほうが造形のクオリティが高かったのですが、ちょっと手が出ませんでしたw それでも十分に満足です。

【展覧名】
エキゾティック×モダン アール・デコと異境への眼差し
【公式サイト】
https://www.teien-art-museum.ne.jp/exhibition/181006-190114_exotic.html
【会場】東京都庭園美術館
【最寄】白金台駅・目黒駅
【会期】2018年10月6日(土)~ 2019年1月14日(月・祝)
※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。
【鑑賞所要時間(私のペースです)】
1時間30分程度
【混み具合・混雑状況】
混雑_1_2_3_④_5_快適
【作品充実度】
不足_1_2_3_④_5_充実
【理解しやすさ】
難解_1_2_3_④_5_明解
【総合満足度】
不満_1_2_3_④_5_満足
【感想】
お客さんは結構いましたが、特に混んでいるわけではなく快適に鑑賞することができました。
さて、この展示はアール・デコの全盛期にデザインに大きな影響を与えた非ヨーロッパ圏の文化・美術についてで、それがどのようにフランスで再解釈されたかまでを観ることが出来る展示となっています。旧朝香宮邸としてアール・デコ様式で建てられた東京都庭園美術館が会場ということもあって その相性は抜群で、建物と一体化するような親和性となっています。私はデザインの中でもアール・デコが最も好きなので、詳しく展覧会の様子も書いて行きたい所ですが、今回は残念ながら作品リストが無かった為、あまりメモを取りませんでした。(作者と作品名までメモに書くのはしんどくて…w) 今回は各章ごとに簡単に雰囲気だけ書いて行こうと思います。
<SS1 モードのエキゾティシズム>
まずはファッションなどに関するコーナーです(それ以外のものもあります) ファッションデザイナーのポール・ポワレは東洋や中近東、北アフリカなどの服を着想源にしたドレスを作成したようで、単に模倣するだけではなく現代的に再構成することを試みていたようです。また、1922年に見つかったツタンカーメンの王墓はすぐにジュエリーのデザインに反映されたそうで、そうした作品もこの章に展示されていました。
最初に中国風の時計(ヴァン クリーフ&アーペル)やピエール=エミール・ルグランの大理石を使った「アフリカの椅子」(★こちらで観られます) などがあり、やや異国風ですがしっかりとアール・デコ風に仕上がっていました。特にアフリカの椅子は素朴さと先進性の両面が同居するようなデザインとなっていて好みでした。
その先の大客間にはポール・ポワレが自分の為に作った中国風のガウンやイスラム風のコート、当時のファッションの様子などが展示されています。また、この辺ではシガレットケースも面白く、東洋とアール・デコの融合ぶりが洗練された雰囲気となっていました。(★こちらで観られます)
その先の大食堂ではポール・ポワレによるイスラム風のドレスがあったのですが、そのドレスの花柄のデザインはポール・ポワレの友人でもあったラウル・デュフィが手がけているようでした。この辺はデュフィの絵画とはまた違った魅力があるので注目です。他にもヴァン クリーフ&アーペルのエジプト風のジュエリーなども目を引きました。当時のエジプトへの関心がそのまま表れたようで、元々アール・デコと相性が良さそうなデザインに思えました。
<特集展示1 アール・デコ博覧会と旧朝香宮邸>
ここは1925年のアール・デコ博覧会がきっかけとなって朝香宮邸が建てられた経緯などを紹介していました。何度もこの辺は観ているので軽く流し見程度です。
参考記事:
建物公開 旧朝香宮邸物語 & 鹿島茂コレクション フランス絵本の世界 (東京都庭園美術館)
アールデコの館 旧朝香宮邸編(東京都庭園美術館)
<SS2 装飾のエキゾティシズム>
続いては装飾のコーナーです。アール・デコの装飾美術には様々な輸入素材が使われたそうですが、特に漆の人気が高かったようです。スイス出身の工芸家ジャン・デュナンは元々は真鍮の工芸家でしたが、日本から来た菅原精造に出会って漆を学び、同時代の好みを反映した漆作品を作っていったようです。(菅原精造はアイリーン・グレイにも漆を教えながら彼女のスタジオで働いていたそうです)
参考記事:映画「ル・コルビュジエとアイリーン 追憶のヴィラ」(ネタバレあり)
まず2階に上がるとジャン・デュナンによる栗の木の装飾画が展示されています。これは色漆によって栗の木と風景が表されたもので、金地に単純化された画風が琳派的な雰囲気を出していました。金属感もあって非常に見栄えがして、素晴らしい作品です。日本美術もしっかりと再解釈されている様子が伺えました。
その次の部屋には東近美が所蔵するジャン・デュナンの黒漆に金の線と朱色の三角を配した壺がありました。この作品は日本的な色彩と素材でありながら近未来的なデザインのように見えます。これも卓越したセンスで見どころだと思います。
参考記事:アール・デコ 光のエレガンス (パナソニック 汐留ミュージアム)
その後は横浜でフランス人の父と日本人の母の間で生まれたウジェニー・オキンの象牙作品が並んでいました。蓮の花を思わせる杯は薄手で可憐な雰囲気となっていて、造形だけでなく日本のモチーフにも通じていることが伺えました。
また、この辺りには菅原精造のコーナーもあり、女性の頭部の彫刻は縦長で滑らかなデフォルメとなっていて、黒漆を塗ってツヤを出すなど日本の伝統を使いながら新しい芸術に取り組んでいるのがよく分かります。これもかなりの傑作だと思いました。
その先の書斎は遠くから眺める感じですが、3羽のペンギンが描かれたロイヤルコペンハーゲンの皿と、ルネ・ラリックの金魚のガラス皿が展示されていました。ペンギンが列を組んでいるような絵柄は可愛らしいので必見ですw
書斎の隣の殿下居間にはルネ・ラリックのスカラベや魚をモチーフにしたガラス器やカーマスコットなどがありました。この辺は結構見慣れていますが、ジャポニスムを始めとした異国趣味が漂うセレクションとなっているように思います。
少し先の北側ベランダには壺や杯などが並んでいて、日本のものとしか観えないような作品がありました。一方でジョルジュ・セレの壺は色が明るくエメラルドやオレンジといった日本にはない色彩感覚が面白く、モダンな作風となっていました。
<特集展示2 ジョセフィン・ベイカーとナンシー・キュナード>
こちらは1925年のアール・デコ博覧会の頃にパリで「黒いヴィーナス」と呼ばれ一世を風靡したジョセフィン・ベイカーと、黒人ジャズピアニストと結婚して差別と向き合ったナンシー・キュナードに関してのコーナーです。ベイカーはちょくちょくこの時代の展示で目にするので覚えておきたい人物です。
ここはそれほど点数は無かったのですが、ポール・コランによる黒人をモチーフにした大型ポスターや、ベイカーのダンスを誇張して描いた作品などもありました。特にベイカーのダンスは軽やかな雰囲気が出ていて絵としても面白いです。
<SS3 パリ国際植民地博覧会と植民地主義の表象>
続いては新館です。ここには1931年に行われたパリ国際植民地博覧会に関する作品が並んでいました。フランスはアール・デコ様式のパヴィリオンで、他は地域固有の様式を再現した建物となっていたようで、6ヶ月あまりで国内700万人、国外から100万人集まる盛況ぶりだったようです。この博覧会はフランスが未発達な植民地に平和・秩序・教育・産業をもたらしたとする啓蒙する目的があったようですが、アンドレ・ブルトンらシュルレアリストたちは植民地支配に批判的で反対運動を起こしたようです。
ここにはパリ国際植民地博覧会のポスターがあり、インドシナ風・アラブ風・黒人・インディアンの4人が描かれ1日で世界1周というキャッチフレーズも付けられていました。ちょっと時代が違うとは言え、フランスの植民地支配は褒められたものではないので、今となっては黒歴史みたいな感じかな。しかし文化には着実に影響を与え合っていたのが伺えます。この近くにはルイ・ブーケの「ブラック・アフリカ」という今回の展示のポスターにもなっている作品があり、フランスの知的芸術の貢献を表すアポロンと現地の人々を描いていました。下絵ですが躍動感のある作品です。
<SS4 異境の再発見>
続いてはフランス国外に実際に赴いた人たちの作品のコーナーです。 この時代にはサハラ砂漠横断や、アフリカ大陸を縦断しインド洋のマダガスカルまで行った「黒いクルージング」レバノンと北京から2隊が出発してウルムチで合流した「黄色いクルージング」なども行われ、国外へ足を運ぶことができる時代となっていました。 また、アカデミーの美術家たちは植民地各地での滞在研修の機会が与えられるコンクールがあったそうで、西アフリカ・インドシナ、マダガスカル、モロッコ、チュニジア、赤道アフリカ、アルジェリアなどに派遣させたようです。ここにはそうした機会で現地で取材したコロニアルアートが並んでいました。
ここにはアフリカの生活や中東の墓地、サハラ砂漠の遊牧民、アンコールワットなど様々な地を描いた絵画が並んでいました。(★こちらで観られます) 作風も様々ですが、実際に見て描いているだけあってリアリティがあり、当時現地の様子がよく伝わってくる作品が多いかな。割と誇張しないで描いているように思えます。また、彫刻もあって、オウムやバイソン、現地の人など異国を強く感じさせる作品が並んでいました。
そしてここにはジャン・デュナンによる「森」という巨大な衝立があり、鹿や鳥、南方の植物などがデフォルメされて描かれていました。リズミカルな印象を受けると共に所々に金属的な光沢があるのが面白く、幻想的な光景となっています。この作品もかなりの見どころです。
<特集展示3 フランソワ・ポンポンと動物彫刻の流行>
最後は日本の工芸や古代エジプトのレリーフからインスピレーションを得ていたフランソワ・ポンポンの動物彫刻のコーナーです。フランソワ・ポンポンの代表作と言えるシロクマは大理石がキラキラ光っているのが雪のように見えて素材が活かされています。細めの体と顔で手足が大きく見えるのも優美な雰囲気で、まさに歴史的な傑作と言えると思います。他にもライオンやカバなどの石膏像、キジバト、大黒豹、フクロウなどのブロンズ像などもあり、特に歩いている黒豹はしなやかで美しいフォルムとなっていました。この黒豹はセネガル出身の議員のペットをモデルにしたそうですが、特徴をよく捉えていてかなり良かったです。
ということで、建物と共に当時の異国趣味のファッションや工芸を楽しむことが出来ました。それぞれの文化がどのようにアール・デコに反映されたかも分かると共に、作品自体が素晴らしいものが多かったように思います。デザイン好きの方にオススメの展示です。
おまけ:
今回の展示のミュージアムショップでフランソワ・ポンポンのシロクマの模型3600円を購入しました。

8200円の2周りくらい大きな模型のほうが造形のクオリティが高かったのですが、ちょっと手が出ませんでしたw それでも十分に満足です。
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前回に引き続き東京ステーションギャラリーの「横山華山」についてです。前編は初期作品や人物・花鳥についてでしたが、今日は真骨頂の風俗画などについてです。まずは概要のおさらいです。
前編はこちら

【展覧名】
横山華山
【公式サイト】
http://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/201809_kazan.html
【会場】東京ステーションギャラリー
【最寄】東京駅
【会期】2018年9月22日(土)~11月11日(日)
※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。
【鑑賞所要時間(私のペースです)】
1時間30分程度
【混み具合・混雑状況】
混雑_1_2_③_4_5_快適
【作品充実度】
不足_1_2_3_④_5_充実
【理解しやすさ】
難解_1_2_3_④_5_明解
【総合満足度】
不満_1_2_3_④_5_満足
【感想】
上階に比べると下階のほうが空いていたかな。とは言え、祇園祭礼図巻などは結構人だかりが出来ていました。
<風俗 -人々の共感->
この章は横山華山の真価とも言える風俗画のコーナーです。特に祭礼図ではやすらい祭や賀茂競馬など数多くの大作を残しているそうで、その才能は弟子の小澤華嶽や河辺華挙といった絵師にも引き継がれたようです。ここには弟子の作品も含めて当時の様子が伝わる作品が並んでいました。
92 横山華山 「夕顔棚納涼図」 ★こちらで観られます
こちらは外にゴザを敷いてうつ伏せで寝転び、上にある夕顔の花を見上げている ふんどし姿の男と、その隣の上半身裸で団扇を持つ女性を描いた作品です。いずれも楽しそうな顔で夕顔を眺めていて、涼しげな様子です。傍らにはクワが立て掛けてあって農作業の後の夕涼みではないかと思われます。解説によると夕顔の花や実は輪郭線を用いず付立と呼ばれる筆で濃淡をつけているそうで、柔らかな表現は私淑した呉春からの影響が観られるようです。軽やかでささやかな幸せを感じる作品でした。
この隣には「天明火災絵巻」という火事を描いた作品があり、打って変わって迫力を感じるリアリティがありました。また、同様に弟子の小澤華嶽による「本願寺火災図」も展示されています。
この辺で下階に移動です。
93 横山華山 「百鬼夜行図」
こちらは ろくろ首、牛の顔の妖怪、車輪の化物、幽霊 などなど沢山の妖怪が酒盛りしている様子を描いた作品です。戯画的なゆるさがあってユーモアたっぷりに描かれていて、またこれまでと違った画風に思えます。横山華山の風俗画は妖怪であっても感情豊かに見えるのが魅力じゃないかな。この辺から一気に面白い作品が増えてきた感じがしますw
88 横山華山 「紅花屏風」 ★こちらで観られます
こちらは先日の「美の巨人たち」で紹介された作品ですが、既に展示は終了しています。六曲一双の屏風で、右隻には紅花の種まき~収穫~紅餅を作る一連の作業の様子が描かれています。一方の左隻には紅餅を作る様子から桶に詰めて輸送する様子などが描かれているのですが、よく観ると右隻と左隻で紅餅の大きさが違ったりします。先日の美の巨人たちで観た内容によると、右隻の紅餅が人の頭くらいあるのは現在の埼玉の辺りの光景で、左隻の紅餅が小さいのは乾くのが遅い東北の光景のようで、実際に丹念な取材をして描いているのでこうした細かい違いも絵に表しているようです。 みんな総出で多くの人がいるのですが、全部で220人くらい描かれているそうで、楽しそうに和気あいあいとした雰囲気が漂います。遠くに霞む海があって船に荷物を乗せる様子など、紅花の生産から出荷まで明るく伸びやかな雰囲気で描かれていました。非常に面白い作品です。
118 小澤華嶽 「ちょうちょう踊図屏風」
こちらは弟子による作品で、赤い頬かむりをして踊る群像を描いています。唐傘や大根などに化けた人がいたり、釜やカタツムリなんかの格好をしていたりと、仮装のダンスパーティーの様相で、今で言えばハロウィンかコスプレ大会みたいなものでしょうかw 群像の動きには流れがあって、人のうねりとエネルギーを感じられました。これもダイナミックで楽しげな作品です。しかしこの踊りは徳川の時代が傾いていた頃に昼夜を問わず踊り狂っていたとのことで、ちょっと世紀末的なムーブメントなのかもw
<描かれた祇園祭 -《祇園祭礼図巻》の世界->
こちらは30mにも及ぶ「祇園祭礼図巻」のコーナーです。長いのに細やかに描かれていて、これを観るだけでも今回の展示を観た甲斐があったと思います。このコーナーには横山華山が以前はよく知られていたことを示すエピソードが紹介されていて、かつては富裕層に人気があったそうです(先程の紅花の絵なんかも大手の問屋からの依頼で描いたものです。) 明治期にはフェノロサやビゲローといった日本の美術にいち早く注目した外国人のコレクションに加わり、前回ご紹介した「桃錦雉・蕣花猫図」は明治天皇が所有するなど著名な人物が所有していたようです。さらに夏目漱石は『坊っちゃん』や『永日小品』に名前を出すほどだったらしいので、知識層には割と知られていたのだろうと思われます。それでも狩野派などの主流派に属さず、幅広い画域を持つ巧みな面や自由さが美術史の中で分類しづらかったことや、優品が海外に渡ったことで忘れられていったようです。しかし「見れば分かる」のキャッチコピーの通り、このコーナーを観ればその凄さがよく分かるようになっていました。
124 横山華山 「祇園祭礼図巻」 ★こちらで観られます
こちらは上下巻合わせて祇園祭の全貌を描いた作品で、横山華山の代表作です。稚児社参から始まり、八坂神社宵山の提灯などのシーンはモノクロで描かれ、その後に続く山鉾は色付きとなっていて、朱色が目に鮮やかな派手な山鉾が連なります。山鉾は全体ではなく上部だけトリミングしたような構図となっているのが大胆で、実際に目の前で観ている時の光景のような感じを受けます。また、人々の表情までしっかり描きこまれていて、それぞれに個性があるのが驚きです。数える気力も起きないほど沢山いるのに…w これだけ見事な観察ぶりなだけに、今や資料的な価値もあるというのも頷けます(幕末に多くの山鉾が焼失したのもこの図巻で観ることが出来るようです) 下巻は後祭や四条河原の納涼の様子や川床をしている様子、現在は無くなった「祇園ねりもの」という祇園の芸妓の仮装コンテストの様子まで描かれていました。この辺の祭りに付随する様々なイベントまでつぶさに描いているのには単に絵の巧さだけでなく取材や観察の凄さが伺えました。この作品だけでも横山華山の凄さが分かります
この先にあった「祇園祭礼図巻(祇園祭礼図巻下絵)」(★こちらで観られます)もかなり細かく文字を交えて状況を描いていました
<山水 -華山と旅する名所->
最後は山水画のコーナーです。題材は日本だけでなく中国の景色もあるようですが、富士山や天橋立などは現地を訪れて描いているようでそうした作品には現実感に富んだ表現が観られるようです。また、京都の町並みを俯瞰的に描いた「花洛一覧図」によって横山華山の名が世の中に知られたようで、ここにはそうした作品が並んでいました。
84 横山華山 「雪景山水人物図」
こちらは雪の降り積もった湖畔の様子を描いたもので、湖の上に建った茶席のようなところで3人の人物が寛いでいます。一見すると雪は白く塗っているかのように観えますが、解説によるとこれは素地の白を活かして周りに墨で濃淡をつける「外隈」の技法のようで、円山応挙が得意としたこの技法を効果的に使っているようです。雪のモコモコした質感と相まって詩情豊かな光景となっていました。
69 横山華山 「花洛一覧図」
こちらが横山華山の名を知らしめた摺物で、京都を俯瞰した一覧図となっています。似たような作品が4枚ほど展示されていたのですが、これは人気になって版を重ねたためのようで、ちょっとずつ違って見えるかな。カラーで街の細かいところまで描いていて、東寺や二条城、京都御所(昔の)などの名所があり、今はなき方広寺の大仏殿なんかも描かれているようです。所々に地名の書き込みもあって、地図的な面白さもありました。
79 横山華山 「蘭亭曲水図屏風」
こちらは前期のみの展示で、王羲之が主催した蘭亭の曲水の宴の様子が描かれています。川遊びしている人や川辺で敷物を敷いてのんびり酒を飲む人、寝てたり詩を詠んでいたりと人それぞれです。蘭亭では机に向かって2人と談笑する人の姿もあって、実に伸び伸びとした光景です。 背景には金砂子みたいなものがあり、四条派風の画面にも観えるかな。こちらは実際に観た光景ではないですが、風俗画と同様の人の営みを感じられるリアリティがありました。
ということで、前半はそれほど驚かなかったのですが、後半に面白い作品が沢山あって楽しむことができました。画風がよく変わるので、この展示を観ただけでは横山華山の作品を観て判じることは出来ない気はしますが、今後も気になる存在にはなりそうです。忘れられた巨匠の実力が垣間見られる展示でした。
前編はこちら

【展覧名】
横山華山
【公式サイト】
http://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/201809_kazan.html
【会場】東京ステーションギャラリー
【最寄】東京駅
【会期】2018年9月22日(土)~11月11日(日)
※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。
【鑑賞所要時間(私のペースです)】
1時間30分程度
【混み具合・混雑状況】
混雑_1_2_③_4_5_快適
【作品充実度】
不足_1_2_3_④_5_充実
【理解しやすさ】
難解_1_2_3_④_5_明解
【総合満足度】
不満_1_2_3_④_5_満足
【感想】
上階に比べると下階のほうが空いていたかな。とは言え、祇園祭礼図巻などは結構人だかりが出来ていました。
<風俗 -人々の共感->
この章は横山華山の真価とも言える風俗画のコーナーです。特に祭礼図ではやすらい祭や賀茂競馬など数多くの大作を残しているそうで、その才能は弟子の小澤華嶽や河辺華挙といった絵師にも引き継がれたようです。ここには弟子の作品も含めて当時の様子が伝わる作品が並んでいました。
92 横山華山 「夕顔棚納涼図」 ★こちらで観られます
こちらは外にゴザを敷いてうつ伏せで寝転び、上にある夕顔の花を見上げている ふんどし姿の男と、その隣の上半身裸で団扇を持つ女性を描いた作品です。いずれも楽しそうな顔で夕顔を眺めていて、涼しげな様子です。傍らにはクワが立て掛けてあって農作業の後の夕涼みではないかと思われます。解説によると夕顔の花や実は輪郭線を用いず付立と呼ばれる筆で濃淡をつけているそうで、柔らかな表現は私淑した呉春からの影響が観られるようです。軽やかでささやかな幸せを感じる作品でした。
この隣には「天明火災絵巻」という火事を描いた作品があり、打って変わって迫力を感じるリアリティがありました。また、同様に弟子の小澤華嶽による「本願寺火災図」も展示されています。
この辺で下階に移動です。
93 横山華山 「百鬼夜行図」
こちらは ろくろ首、牛の顔の妖怪、車輪の化物、幽霊 などなど沢山の妖怪が酒盛りしている様子を描いた作品です。戯画的なゆるさがあってユーモアたっぷりに描かれていて、またこれまでと違った画風に思えます。横山華山の風俗画は妖怪であっても感情豊かに見えるのが魅力じゃないかな。この辺から一気に面白い作品が増えてきた感じがしますw
88 横山華山 「紅花屏風」 ★こちらで観られます
こちらは先日の「美の巨人たち」で紹介された作品ですが、既に展示は終了しています。六曲一双の屏風で、右隻には紅花の種まき~収穫~紅餅を作る一連の作業の様子が描かれています。一方の左隻には紅餅を作る様子から桶に詰めて輸送する様子などが描かれているのですが、よく観ると右隻と左隻で紅餅の大きさが違ったりします。先日の美の巨人たちで観た内容によると、右隻の紅餅が人の頭くらいあるのは現在の埼玉の辺りの光景で、左隻の紅餅が小さいのは乾くのが遅い東北の光景のようで、実際に丹念な取材をして描いているのでこうした細かい違いも絵に表しているようです。 みんな総出で多くの人がいるのですが、全部で220人くらい描かれているそうで、楽しそうに和気あいあいとした雰囲気が漂います。遠くに霞む海があって船に荷物を乗せる様子など、紅花の生産から出荷まで明るく伸びやかな雰囲気で描かれていました。非常に面白い作品です。
118 小澤華嶽 「ちょうちょう踊図屏風」
こちらは弟子による作品で、赤い頬かむりをして踊る群像を描いています。唐傘や大根などに化けた人がいたり、釜やカタツムリなんかの格好をしていたりと、仮装のダンスパーティーの様相で、今で言えばハロウィンかコスプレ大会みたいなものでしょうかw 群像の動きには流れがあって、人のうねりとエネルギーを感じられました。これもダイナミックで楽しげな作品です。しかしこの踊りは徳川の時代が傾いていた頃に昼夜を問わず踊り狂っていたとのことで、ちょっと世紀末的なムーブメントなのかもw
<描かれた祇園祭 -《祇園祭礼図巻》の世界->
こちらは30mにも及ぶ「祇園祭礼図巻」のコーナーです。長いのに細やかに描かれていて、これを観るだけでも今回の展示を観た甲斐があったと思います。このコーナーには横山華山が以前はよく知られていたことを示すエピソードが紹介されていて、かつては富裕層に人気があったそうです(先程の紅花の絵なんかも大手の問屋からの依頼で描いたものです。) 明治期にはフェノロサやビゲローといった日本の美術にいち早く注目した外国人のコレクションに加わり、前回ご紹介した「桃錦雉・蕣花猫図」は明治天皇が所有するなど著名な人物が所有していたようです。さらに夏目漱石は『坊っちゃん』や『永日小品』に名前を出すほどだったらしいので、知識層には割と知られていたのだろうと思われます。それでも狩野派などの主流派に属さず、幅広い画域を持つ巧みな面や自由さが美術史の中で分類しづらかったことや、優品が海外に渡ったことで忘れられていったようです。しかし「見れば分かる」のキャッチコピーの通り、このコーナーを観ればその凄さがよく分かるようになっていました。
124 横山華山 「祇園祭礼図巻」 ★こちらで観られます
こちらは上下巻合わせて祇園祭の全貌を描いた作品で、横山華山の代表作です。稚児社参から始まり、八坂神社宵山の提灯などのシーンはモノクロで描かれ、その後に続く山鉾は色付きとなっていて、朱色が目に鮮やかな派手な山鉾が連なります。山鉾は全体ではなく上部だけトリミングしたような構図となっているのが大胆で、実際に目の前で観ている時の光景のような感じを受けます。また、人々の表情までしっかり描きこまれていて、それぞれに個性があるのが驚きです。数える気力も起きないほど沢山いるのに…w これだけ見事な観察ぶりなだけに、今や資料的な価値もあるというのも頷けます(幕末に多くの山鉾が焼失したのもこの図巻で観ることが出来るようです) 下巻は後祭や四条河原の納涼の様子や川床をしている様子、現在は無くなった「祇園ねりもの」という祇園の芸妓の仮装コンテストの様子まで描かれていました。この辺の祭りに付随する様々なイベントまでつぶさに描いているのには単に絵の巧さだけでなく取材や観察の凄さが伺えました。この作品だけでも横山華山の凄さが分かります
この先にあった「祇園祭礼図巻(祇園祭礼図巻下絵)」(★こちらで観られます)もかなり細かく文字を交えて状況を描いていました
<山水 -華山と旅する名所->
最後は山水画のコーナーです。題材は日本だけでなく中国の景色もあるようですが、富士山や天橋立などは現地を訪れて描いているようでそうした作品には現実感に富んだ表現が観られるようです。また、京都の町並みを俯瞰的に描いた「花洛一覧図」によって横山華山の名が世の中に知られたようで、ここにはそうした作品が並んでいました。
84 横山華山 「雪景山水人物図」
こちらは雪の降り積もった湖畔の様子を描いたもので、湖の上に建った茶席のようなところで3人の人物が寛いでいます。一見すると雪は白く塗っているかのように観えますが、解説によるとこれは素地の白を活かして周りに墨で濃淡をつける「外隈」の技法のようで、円山応挙が得意としたこの技法を効果的に使っているようです。雪のモコモコした質感と相まって詩情豊かな光景となっていました。
69 横山華山 「花洛一覧図」
こちらが横山華山の名を知らしめた摺物で、京都を俯瞰した一覧図となっています。似たような作品が4枚ほど展示されていたのですが、これは人気になって版を重ねたためのようで、ちょっとずつ違って見えるかな。カラーで街の細かいところまで描いていて、東寺や二条城、京都御所(昔の)などの名所があり、今はなき方広寺の大仏殿なんかも描かれているようです。所々に地名の書き込みもあって、地図的な面白さもありました。
79 横山華山 「蘭亭曲水図屏風」
こちらは前期のみの展示で、王羲之が主催した蘭亭の曲水の宴の様子が描かれています。川遊びしている人や川辺で敷物を敷いてのんびり酒を飲む人、寝てたり詩を詠んでいたりと人それぞれです。蘭亭では机に向かって2人と談笑する人の姿もあって、実に伸び伸びとした光景です。 背景には金砂子みたいなものがあり、四条派風の画面にも観えるかな。こちらは実際に観た光景ではないですが、風俗画と同様の人の営みを感じられるリアリティがありました。
ということで、前半はそれほど驚かなかったのですが、後半に面白い作品が沢山あって楽しむことができました。画風がよく変わるので、この展示を観ただけでは横山華山の作品を観て判じることは出来ない気はしますが、今後も気になる存在にはなりそうです。忘れられた巨匠の実力が垣間見られる展示でした。
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2週間ほど前に東京駅の中にある東京ステーションギャラリーで「横山華山」という展示を観てきました。情報が多く見どころも多かったので、前編・後編に分けてご紹介していこうと思います。なお、この展示は会期が分かれていて、私が観たのは前期の内容でした(この記事を書いた時点で既に後期となっています)

【展覧名】
横山華山
【公式サイト】
http://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/201809_kazan.html
【会場】東京ステーションギャラリー
【最寄】東京駅
【会期】2018年9月22日(土)~11月11日(日)
※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。
【鑑賞所要時間(私のペースです)】
1時間30分程度
【混み具合・混雑状況】
混雑_1_2_③_4_5_快適
【作品充実度】
不足_1_2_3_④_5_充実
【理解しやすさ】
難解_1_2_3_④_5_明解
【総合満足度】
不満_1_2_3_④_5_満足
【感想】
結構混んでいて、たまに人だかりが出来るくらいでしたが概ね自分のペースで観ることができました。
さて、この展示は横山華山という江戸時代の絵師の個展で、サブタイトルもなく「見ればわかる」というキャッチフレーズがポスターに書いてある程度という中々攻めた企画となっています。この絵師の名前を知っているという方がいたら相当な美術通という位に忘れられていた存在で、この展示が系統立てて紹介される初めての機会となっています。(私も今年の頭に年間スケジュール表を作成している時に横山華山って誰やねん?と思わず検索したのを思い出ました。 渡辺崋山じゃないの??ってw) そんな横山華山ですが江戸の絵師に大きな影響を与えると共に 息子を始め弟子たちが画風を明治の頃まで受け継いでいったようで、少なくとも明治くらいまでは知られた存在だったらしく、夏目漱石の『坊っちゃん』にも名前が出てくるようです。しかし主流の画壇と離れていたことや代表作が海外に渡っていたことなどが原因で 昭和以降に忘れられて行き、現在ではほとんど知られていません。有名・実力派だった画家でも忘れられてしまうのはよくある話で、先日放送された「美の巨人たち」では伊藤若冲を引き合いに出していました。果たして伊藤若冲のように現代でブレイクするような二匹目のドジョウとなるのか?と半信半疑で観てきましたが、結論から言うと風俗画に関しては凄い絵師でした。とは言え、前半には風俗画は無く コロコロと画風が変わるので、掴みどころがない感じだったようにも思います。それも含めて画業の始まりから紹介していましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。
<蕭白を学ぶ -華山の出発点->
まずは画業の始まりのコーナーです。横山華山の横山家は鬼才として名高い曾我蕭白と交流があったらしく、幼少の頃から独力で曾我蕭白の絵から学んだようです。最初からいきなり超個性派に学ぶロケットスタートぶりには驚きますが、後に岸派の岸駒に入門したり 四条派の呉春に私淑(自主的に研究して学ぶこと)したりと、画風を広げて折衷していくことになります。ここには曾我蕭白の作品と共に、その影響を感じさせる作品が並んでいました。
参考記事:
蕭白ショック!! 曾我蕭白と京の画家たち 感想前編(千葉市美術館)
蕭白ショック!! 曾我蕭白と京の画家たち 感想後編(千葉市美術館)
蕭白ショック!! 曾我蕭白と京の画家たち 2回目感想前編(千葉市美術館)
蕭白ショック!! 曾我蕭白と京の画家たち 2回目感想前編(千葉市美術館)
11 横山華山 「牛若弁慶図」
こちらは9歳の時に描いた作品で、五条大橋で弁慶と牛若丸が戦っている様子が描かれています。牛若丸は擬宝珠の上に片足で乗って軽やかな雰囲気となっている一方、弁慶は振り返って睨むような迫力があります。線が細かく、やや素朴な雰囲気もありますが これを9歳で描いたとは思えないほどのクオリティです。特にギョロッとした弁慶の表情が面白く、早熟の才能を見て取れました。
なお、横山華山は幼い時に横山家の分家に養子に入ったのだとか。この隣には横山家の本家の当主を描いた作品もあります。この横山家当主が曾我蕭白と交流があったようで、近くには曾我蕭白が横山家に宛てて「依頼された作品を少し待って欲しい」という旨の書状なんかもありました。
6 7 横山華山 「四季山水図(倣蕭白押絵貼屏風)」「四季山水図(倣蕭白押絵貼屏風)」
いずれも水墨の山水画で、切り立った中国風の山の中の光景を描いています。漢画的で確かに曾我蕭白に通じるダイナミックな所がありますが、濃淡が極端過ぎる気もするかな。その為、叙情性があまり感じられませんでしたが、蕭白をよく学んでいる様子が伺えました。
10 横山華山 「山水人物図(倣蕭白押絵貼屏風)」
こちらも先程の四季山水図によく似た六曲一双の水墨の屏風で、手前は濃く、奥は薄く描いていてかなりシャープな印象を受ける山水画となっています。すっきりした描写でこちらのほうが先程の作品より好みでした。
1 曾我蕭白 「蝦蟇仙人図」 ★こちらで観られます
2 横山華山 「蝦蟇仙人図」 ★こちらで観られます
こちらは蕭白とそれを参考にした横山華山による作品が並べて展示されていて、いずれも蝦蟇仙人が足元のガマガエルを観て手を曲げて驚いているようなポーズに観えます。不自然なくらいに強調された姿勢が面白くて、横山華山の絵だけ観たら蕭白の作品と思ってしまうかも。しかし、比べてみると結構違いがあって、蕭白の蝦蟇仙人の衣のヒダは不穏な程に波打ち非常に強い輪郭で、表情も妖怪のようにニヤッと笑っています。対して横山華山はポーズやモチーフは似ていても雰囲気が穏やかで、蕭白ほどの誇張もなく自然で写実的な感じです。また、片足を挙げるようなポーズに改変することで自然な躍動感を出していました。後ろ手に桃を持っていたり、よくよく観るとオリジナル要素もある作品です。
近くの「寒山拾得図」は蕭白っぽい作品でした。
<人物 -ユーモラスな表現->
続いては人物画のコーナーです。横山華山は人物が得意だったようで、中国の故事や同時代の人々の生活を巧みに描いていたようです。後の章に出てくる風俗画でその真価が発揮されているように思いますが、ここには中国風の人物像が並んでいました。
38 横山華山 「西王母図」
こちらは赤い衣を着た中国風の仙女で、桃を持っているので不老長寿の桃を食べた西王母であると分かります。後ろには長い柄の羽を持った従者の姿もあって、いずれも画風が変わったような印象を受けるかな。流麗な線で優美な印象となっていて、西洋の陰影を施すなど新しい技術を取り入れていました。
この辺には七福神や十六羅漢などもあり、作風も様々でした。
22 横山華山 「唐子図屏風」
こちらは六曲一双の金屏風で、無数の中国風の子供(唐子)たちが遊んでいる様子が描かれています。背景は漢画的かな。子供たちは犬の散歩をしたり、闘鶏を見守ったり、どじょうすくいをしたり、喧嘩したり、花を摘んだり… 実に様々な遊びをしていて皆 表情が明るく喜びが伝わってきます。この作品は彩色が鮮やかで陰影が施されているなど完成度も高く、特に目を引きました。
27 横山華山 「関羽図」
こちらは岩に腰掛けて休む関羽と、猿のような顔の従者を描いた作品です。長い鉾は従者が抱えていて、関羽は遠くを観るような感じで物思いに耽るようにも観えます。周りの樹木や点で描かれた苔などには岸駒からの影響があるそうで、また画風が変わったようにも観えました。前述のように岸駒に弟子入りしていたので、それが表れている作品のようでした。
近くには明治期に日本美術を見出したフェノロサが所有していた鍾馗図などもありました。
<花鳥 -多彩なアニマルランド->
続いては花鳥や動物画のコーナーです。特に虎の絵を得意とする岸駒の弟子だったこともあって、虎を題材にした作品も多く残しているようです。ここには様々な花鳥や動物の作品が並んでいました。
57 横山華山 「雪中烏図」
こちらは雪の積もった枝に止まる2羽のカラスを描いた作品で、1羽は口を開けて鳴いているようです。背景は薄っすらと墨で塗られていて、曇天の寒そうな雰囲気が漂っています。この絵では勢いが感じられる筆致となっていて、大胆な印象を受けました。またちょっと画風が違うように思えますが生き生きとした作品となっていました。
58 横山華山 「桃錦雉・蕣花猫図」
こちらは2幅対で、左に朝顔のツルの下で寝ている猫と花に戯れる猫、右に満開の桃にとまる黄色・赤・緑など色鮮やかな錦雉が描かれています。モチーフの配置が右上の桃の枝から下へと伸びてカーブを描き、左下へと向かうような連続性が感じられ、猫の方のツルもそれに繋がって左へと流れるような構図となっていました。いずれも色鮮やかで写実性が高く、見栄えのする作品でした。
この後に虎を描いた作品がいくつかありました。岸駒が虎の剥製を所有していたこともあって、それを写生したのか上を向くポーズの虎が多かったように思えました。
ということで、今日はこの辺にしておこうと思います。前半を観た時点では○○風みたいな画風で変遷していくので それほど個性が感じられなかったのですが、真骨頂はこの後の風俗画のコーナーにありました。次回はそれも含めて後半の展示についてご紹介していこうと思います。
→ 後編はこちら

【展覧名】
横山華山
【公式サイト】
http://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/201809_kazan.html
【会場】東京ステーションギャラリー
【最寄】東京駅
【会期】2018年9月22日(土)~11月11日(日)
※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。
【鑑賞所要時間(私のペースです)】
1時間30分程度
【混み具合・混雑状況】
混雑_1_2_③_4_5_快適
【作品充実度】
不足_1_2_3_④_5_充実
【理解しやすさ】
難解_1_2_3_④_5_明解
【総合満足度】
不満_1_2_3_④_5_満足
【感想】
結構混んでいて、たまに人だかりが出来るくらいでしたが概ね自分のペースで観ることができました。
さて、この展示は横山華山という江戸時代の絵師の個展で、サブタイトルもなく「見ればわかる」というキャッチフレーズがポスターに書いてある程度という中々攻めた企画となっています。この絵師の名前を知っているという方がいたら相当な美術通という位に忘れられていた存在で、この展示が系統立てて紹介される初めての機会となっています。(私も今年の頭に年間スケジュール表を作成している時に横山華山って誰やねん?と思わず検索したのを思い出ました。 渡辺崋山じゃないの??ってw) そんな横山華山ですが江戸の絵師に大きな影響を与えると共に 息子を始め弟子たちが画風を明治の頃まで受け継いでいったようで、少なくとも明治くらいまでは知られた存在だったらしく、夏目漱石の『坊っちゃん』にも名前が出てくるようです。しかし主流の画壇と離れていたことや代表作が海外に渡っていたことなどが原因で 昭和以降に忘れられて行き、現在ではほとんど知られていません。有名・実力派だった画家でも忘れられてしまうのはよくある話で、先日放送された「美の巨人たち」では伊藤若冲を引き合いに出していました。果たして伊藤若冲のように現代でブレイクするような二匹目のドジョウとなるのか?と半信半疑で観てきましたが、結論から言うと風俗画に関しては凄い絵師でした。とは言え、前半には風俗画は無く コロコロと画風が変わるので、掴みどころがない感じだったようにも思います。それも含めて画業の始まりから紹介していましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。
<蕭白を学ぶ -華山の出発点->
まずは画業の始まりのコーナーです。横山華山の横山家は鬼才として名高い曾我蕭白と交流があったらしく、幼少の頃から独力で曾我蕭白の絵から学んだようです。最初からいきなり超個性派に学ぶロケットスタートぶりには驚きますが、後に岸派の岸駒に入門したり 四条派の呉春に私淑(自主的に研究して学ぶこと)したりと、画風を広げて折衷していくことになります。ここには曾我蕭白の作品と共に、その影響を感じさせる作品が並んでいました。
参考記事:
蕭白ショック!! 曾我蕭白と京の画家たち 感想前編(千葉市美術館)
蕭白ショック!! 曾我蕭白と京の画家たち 感想後編(千葉市美術館)
蕭白ショック!! 曾我蕭白と京の画家たち 2回目感想前編(千葉市美術館)
蕭白ショック!! 曾我蕭白と京の画家たち 2回目感想前編(千葉市美術館)
11 横山華山 「牛若弁慶図」
こちらは9歳の時に描いた作品で、五条大橋で弁慶と牛若丸が戦っている様子が描かれています。牛若丸は擬宝珠の上に片足で乗って軽やかな雰囲気となっている一方、弁慶は振り返って睨むような迫力があります。線が細かく、やや素朴な雰囲気もありますが これを9歳で描いたとは思えないほどのクオリティです。特にギョロッとした弁慶の表情が面白く、早熟の才能を見て取れました。
なお、横山華山は幼い時に横山家の分家に養子に入ったのだとか。この隣には横山家の本家の当主を描いた作品もあります。この横山家当主が曾我蕭白と交流があったようで、近くには曾我蕭白が横山家に宛てて「依頼された作品を少し待って欲しい」という旨の書状なんかもありました。
6 7 横山華山 「四季山水図(倣蕭白押絵貼屏風)」「四季山水図(倣蕭白押絵貼屏風)」
いずれも水墨の山水画で、切り立った中国風の山の中の光景を描いています。漢画的で確かに曾我蕭白に通じるダイナミックな所がありますが、濃淡が極端過ぎる気もするかな。その為、叙情性があまり感じられませんでしたが、蕭白をよく学んでいる様子が伺えました。
10 横山華山 「山水人物図(倣蕭白押絵貼屏風)」
こちらも先程の四季山水図によく似た六曲一双の水墨の屏風で、手前は濃く、奥は薄く描いていてかなりシャープな印象を受ける山水画となっています。すっきりした描写でこちらのほうが先程の作品より好みでした。
1 曾我蕭白 「蝦蟇仙人図」 ★こちらで観られます
2 横山華山 「蝦蟇仙人図」 ★こちらで観られます
こちらは蕭白とそれを参考にした横山華山による作品が並べて展示されていて、いずれも蝦蟇仙人が足元のガマガエルを観て手を曲げて驚いているようなポーズに観えます。不自然なくらいに強調された姿勢が面白くて、横山華山の絵だけ観たら蕭白の作品と思ってしまうかも。しかし、比べてみると結構違いがあって、蕭白の蝦蟇仙人の衣のヒダは不穏な程に波打ち非常に強い輪郭で、表情も妖怪のようにニヤッと笑っています。対して横山華山はポーズやモチーフは似ていても雰囲気が穏やかで、蕭白ほどの誇張もなく自然で写実的な感じです。また、片足を挙げるようなポーズに改変することで自然な躍動感を出していました。後ろ手に桃を持っていたり、よくよく観るとオリジナル要素もある作品です。
近くの「寒山拾得図」は蕭白っぽい作品でした。
<人物 -ユーモラスな表現->
続いては人物画のコーナーです。横山華山は人物が得意だったようで、中国の故事や同時代の人々の生活を巧みに描いていたようです。後の章に出てくる風俗画でその真価が発揮されているように思いますが、ここには中国風の人物像が並んでいました。
38 横山華山 「西王母図」
こちらは赤い衣を着た中国風の仙女で、桃を持っているので不老長寿の桃を食べた西王母であると分かります。後ろには長い柄の羽を持った従者の姿もあって、いずれも画風が変わったような印象を受けるかな。流麗な線で優美な印象となっていて、西洋の陰影を施すなど新しい技術を取り入れていました。
この辺には七福神や十六羅漢などもあり、作風も様々でした。
22 横山華山 「唐子図屏風」
こちらは六曲一双の金屏風で、無数の中国風の子供(唐子)たちが遊んでいる様子が描かれています。背景は漢画的かな。子供たちは犬の散歩をしたり、闘鶏を見守ったり、どじょうすくいをしたり、喧嘩したり、花を摘んだり… 実に様々な遊びをしていて皆 表情が明るく喜びが伝わってきます。この作品は彩色が鮮やかで陰影が施されているなど完成度も高く、特に目を引きました。
27 横山華山 「関羽図」
こちらは岩に腰掛けて休む関羽と、猿のような顔の従者を描いた作品です。長い鉾は従者が抱えていて、関羽は遠くを観るような感じで物思いに耽るようにも観えます。周りの樹木や点で描かれた苔などには岸駒からの影響があるそうで、また画風が変わったようにも観えました。前述のように岸駒に弟子入りしていたので、それが表れている作品のようでした。
近くには明治期に日本美術を見出したフェノロサが所有していた鍾馗図などもありました。
<花鳥 -多彩なアニマルランド->
続いては花鳥や動物画のコーナーです。特に虎の絵を得意とする岸駒の弟子だったこともあって、虎を題材にした作品も多く残しているようです。ここには様々な花鳥や動物の作品が並んでいました。
57 横山華山 「雪中烏図」
こちらは雪の積もった枝に止まる2羽のカラスを描いた作品で、1羽は口を開けて鳴いているようです。背景は薄っすらと墨で塗られていて、曇天の寒そうな雰囲気が漂っています。この絵では勢いが感じられる筆致となっていて、大胆な印象を受けました。またちょっと画風が違うように思えますが生き生きとした作品となっていました。
58 横山華山 「桃錦雉・蕣花猫図」
こちらは2幅対で、左に朝顔のツルの下で寝ている猫と花に戯れる猫、右に満開の桃にとまる黄色・赤・緑など色鮮やかな錦雉が描かれています。モチーフの配置が右上の桃の枝から下へと伸びてカーブを描き、左下へと向かうような連続性が感じられ、猫の方のツルもそれに繋がって左へと流れるような構図となっていました。いずれも色鮮やかで写実性が高く、見栄えのする作品でした。
この後に虎を描いた作品がいくつかありました。岸駒が虎の剥製を所有していたこともあって、それを写生したのか上を向くポーズの虎が多かったように思えました。
ということで、今日はこの辺にしておこうと思います。前半を観た時点では○○風みたいな画風で変遷していくので それほど個性が感じられなかったのですが、真骨頂はこの後の風俗画のコーナーにありました。次回はそれも含めて後半の展示についてご紹介していこうと思います。
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前回ご紹介した展示を観た際、同じミッドタウンの地下の通路で開催されていた「Tokyo Midtown Award 2018 EXHIBITION」も観てきました。この展示は無料で撮影可能の展示となっていましたので、写真を使ってご紹介していこうと思います。

【展覧名】
Tokyo Midtown Award 2018 EXHIBITION
【公式サイト】
http://www.tokyo-midtown.com/jp/award/
【会場】東京ミッドタウン プラザB1F メトロアベニュー
【最寄】六本木駅/乃木坂駅
【会期】2018年10月19日(金)~11月11日(日)
※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。
【鑑賞所要時間(私のペースです)】
0時間15分程度
【混み具合・混雑状況】
混雑_1_2_3_4_⑤_快適
【作品充実度】
不足_1_2_③_4_5_充実
【理解しやすさ】
難解_1_2_3_④_5_明解
【総合満足度】
不満_1_2_③_4_5_満足
【感想】
空いていて快適に鑑賞することができました。
さて、この「Tokyo Midtown Award」は毎年開催されているデザインコンペで、今年で11回目となっています。今年のデザインコンペのテーマは「HUMAN」ということで、「人間らしさ」や「人間性」を取り上げたデザインが選ばれているようでした。今年も面白い品が並んでいましたので、いくつか気に入ったものを写真を使ってご紹介していこうと思います。
参考記事:
Tokyo Midtown Award 2017 デザインコンペ受賞作品展示 (東京ミッドタウン3階)
Tokyo Midtown Award 2012 (東京ミッドタウン)
JDS(広川楽馬/迫健太郎/中塩屋祥平)「黄金比箱」

早速こちらが今年のデザインコンペのグランプリ作品。黄金に輝く黄金比のお弁当箱!w ダ・ヴィンチも絵画に取り入れた黄金比ですが、どんどん小さくしながら螺旋の曲線を描いていくと自然界の美しさに通じるものがあります。ここでは四角や曲線が仕切りになっていてアイディアが面白かったです。文句なくグランプリに相応しい。
鈴木康広 「2018 TROPHY」

こちらは今年のトロフィー。メトロノームですが針の部分が人型の鏡になっていて、自分自身を見つめるように出来ているそうです。トロフィーまで機知が富んでいます。
竹下早紀 「SHADOW CLOSE TECHNIQUE」

まるで影のように重なる椅子。シンプルな形と白黒の明快さが洗練されていました。椅子を2人分にしたい時とかにも使えそう
H&F(花井ゆうか/舟橋璃咲)「NENKI-年記-」

こちらは日記ではなく年記。人生の記録をつけるもので、1年に1ページつけていくそうで、展開すると10mくらいになるようです。自分の年表をつくるような楽しさを感じました。
プラマイロク(三原麻里子/野仲胡美)「cocoro ame(ココロアメ)」

自身の感情を円グラフのように表した飴。「尊敬・ありがとう・大好き」というの1/3くらいづつ占めているのは日頃の感謝を伝えるためのものでしょうか。歓送迎会の贈り物に使えそうw
中山桃歌/上田美緒/三浦麻衣 「ぺこぺこストロー」

ストローの曲がる部分がお辞儀するようなデザインとなっています。向かい合わせにすると挨拶しているようなw しかしこんなに深くお辞儀することなんて滅多にないなあw
uruco(漆間弘子/漆間康介) 「ねこに小判」

こちらは猫ちゃんたちのカリカリ!w 大事なお金を食べてしまう様子はまさに猫に小判と言えるかも。実際に猫が食べているところを観てみたいものです。
田口博基 「顔文字体温計」

体温によって顔文字が変わる体温計。36.9度以下は(^-^) 37.9度までは(*_*)、そして38.0以上はこの(#´Д`#)になるようですw 2chのハァハァのAAみたいで私にはちょっと意味合いが違って観えますがw ヒューマンのコンセプト通りのデザインですね。
この他にも面白いデザインの受賞作が並んでいます。どれも発想豊かな作品ばかりです。
過去の受賞作もいくつか展示されていました。

これは膨らませるエアボンサイ。何に使うんでしょうかw 変わったアイディアに驚きです。
今回の好きな作品の投票をすることができました。デザイン部門とアート部門それぞれあります。

月並みですが黄金比箱に入れておきました。奥さんは猫に小判に一票入れてました。
続いてアート部門。
泉里歩 「時は建築家、民衆は石工」

意味深なタイトルで踊るような群像の作品ですが、それ以上に独特の色彩感覚が目を引きました。非常に目に鮮やかで対比的な色使いです。
青沼優介 「息を建てる/都市を植える」

こちらがアート部門のグランプリ作品。遠くから観た時は都市の模型のような作品かな?くらいに思ったのですが…。
近づいてみるとこんな感じ。

なんと白いのはタンポポの綿毛で出来ていました。一体何本の綿毛を植えたんだ!??と非常に驚きました。綿毛という素材も身近で可愛らしくて面白い作品でした。さすがグランプリ取るだけあって面白い。
田中優菜 「愛おもう屋台」

こちらは何かの屋台かな?と思ったら参加型の作品でした。「あいじょう」と書いてあるとおり、愛がテーマです。ちなみに右端に手が写っているのは制作されたアーティストご自身でした。たまたまいらっしゃって、お話を伺いながら鑑賞することができました。
鑑賞者はこの中から1つだけ選んで取ることができます。

包み紙の中に飴が入っていて、包み紙には200人以上の人に考えてもらった「愛とは何か?」が書かれています。
私が引いたのはこんなメッセージでした。

10代でこんな深いことを簡潔に答えられるとは凄いですね。 屋台の横では自分にとっての愛を書くコーナーもあり、書いたものは屋台に飾られるようでした。
ということで、様々な卓越したアイディアのデザインを観ることができました。どこか可笑しみも感じるようなデザインで、ぜひとも商品化してほしいものもいくつかあったかな。この展示は地下通路で行われていて気軽に観ることが出来るので、六本木に行く用事がある方は是非立ち寄ってみてください。

【展覧名】
Tokyo Midtown Award 2018 EXHIBITION
【公式サイト】
http://www.tokyo-midtown.com/jp/award/
【会場】東京ミッドタウン プラザB1F メトロアベニュー
【最寄】六本木駅/乃木坂駅
【会期】2018年10月19日(金)~11月11日(日)
※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。
【鑑賞所要時間(私のペースです)】
0時間15分程度
【混み具合・混雑状況】
混雑_1_2_3_4_⑤_快適
【作品充実度】
不足_1_2_③_4_5_充実
【理解しやすさ】
難解_1_2_3_④_5_明解
【総合満足度】
不満_1_2_③_4_5_満足
【感想】
空いていて快適に鑑賞することができました。
さて、この「Tokyo Midtown Award」は毎年開催されているデザインコンペで、今年で11回目となっています。今年のデザインコンペのテーマは「HUMAN」ということで、「人間らしさ」や「人間性」を取り上げたデザインが選ばれているようでした。今年も面白い品が並んでいましたので、いくつか気に入ったものを写真を使ってご紹介していこうと思います。
参考記事:
Tokyo Midtown Award 2017 デザインコンペ受賞作品展示 (東京ミッドタウン3階)
Tokyo Midtown Award 2012 (東京ミッドタウン)
JDS(広川楽馬/迫健太郎/中塩屋祥平)「黄金比箱」

早速こちらが今年のデザインコンペのグランプリ作品。黄金に輝く黄金比のお弁当箱!w ダ・ヴィンチも絵画に取り入れた黄金比ですが、どんどん小さくしながら螺旋の曲線を描いていくと自然界の美しさに通じるものがあります。ここでは四角や曲線が仕切りになっていてアイディアが面白かったです。文句なくグランプリに相応しい。
鈴木康広 「2018 TROPHY」

こちらは今年のトロフィー。メトロノームですが針の部分が人型の鏡になっていて、自分自身を見つめるように出来ているそうです。トロフィーまで機知が富んでいます。
竹下早紀 「SHADOW CLOSE TECHNIQUE」

まるで影のように重なる椅子。シンプルな形と白黒の明快さが洗練されていました。椅子を2人分にしたい時とかにも使えそう
H&F(花井ゆうか/舟橋璃咲)「NENKI-年記-」

こちらは日記ではなく年記。人生の記録をつけるもので、1年に1ページつけていくそうで、展開すると10mくらいになるようです。自分の年表をつくるような楽しさを感じました。
プラマイロク(三原麻里子/野仲胡美)「cocoro ame(ココロアメ)」

自身の感情を円グラフのように表した飴。「尊敬・ありがとう・大好き」というの1/3くらいづつ占めているのは日頃の感謝を伝えるためのものでしょうか。歓送迎会の贈り物に使えそうw
中山桃歌/上田美緒/三浦麻衣 「ぺこぺこストロー」

ストローの曲がる部分がお辞儀するようなデザインとなっています。向かい合わせにすると挨拶しているようなw しかしこんなに深くお辞儀することなんて滅多にないなあw
uruco(漆間弘子/漆間康介) 「ねこに小判」

こちらは猫ちゃんたちのカリカリ!w 大事なお金を食べてしまう様子はまさに猫に小判と言えるかも。実際に猫が食べているところを観てみたいものです。
田口博基 「顔文字体温計」

体温によって顔文字が変わる体温計。36.9度以下は(^-^) 37.9度までは(*_*)、そして38.0以上はこの(#´Д`#)になるようですw 2chのハァハァのAAみたいで私にはちょっと意味合いが違って観えますがw ヒューマンのコンセプト通りのデザインですね。
この他にも面白いデザインの受賞作が並んでいます。どれも発想豊かな作品ばかりです。
過去の受賞作もいくつか展示されていました。

これは膨らませるエアボンサイ。何に使うんでしょうかw 変わったアイディアに驚きです。
今回の好きな作品の投票をすることができました。デザイン部門とアート部門それぞれあります。

月並みですが黄金比箱に入れておきました。奥さんは猫に小判に一票入れてました。
続いてアート部門。
泉里歩 「時は建築家、民衆は石工」

意味深なタイトルで踊るような群像の作品ですが、それ以上に独特の色彩感覚が目を引きました。非常に目に鮮やかで対比的な色使いです。
青沼優介 「息を建てる/都市を植える」

こちらがアート部門のグランプリ作品。遠くから観た時は都市の模型のような作品かな?くらいに思ったのですが…。
近づいてみるとこんな感じ。

なんと白いのはタンポポの綿毛で出来ていました。一体何本の綿毛を植えたんだ!??と非常に驚きました。綿毛という素材も身近で可愛らしくて面白い作品でした。さすがグランプリ取るだけあって面白い。
田中優菜 「愛おもう屋台」

こちらは何かの屋台かな?と思ったら参加型の作品でした。「あいじょう」と書いてあるとおり、愛がテーマです。ちなみに右端に手が写っているのは制作されたアーティストご自身でした。たまたまいらっしゃって、お話を伺いながら鑑賞することができました。
鑑賞者はこの中から1つだけ選んで取ることができます。

包み紙の中に飴が入っていて、包み紙には200人以上の人に考えてもらった「愛とは何か?」が書かれています。
私が引いたのはこんなメッセージでした。

10代でこんな深いことを簡潔に答えられるとは凄いですね。 屋台の横では自分にとっての愛を書くコーナーもあり、書いたものは屋台に飾られるようでした。
ということで、様々な卓越したアイディアのデザインを観ることができました。どこか可笑しみも感じるようなデザインで、ぜひとも商品化してほしいものもいくつかあったかな。この展示は地下通路で行われていて気軽に観ることが出来るので、六本木に行く用事がある方は是非立ち寄ってみてください。
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今日は写真多めです。日付が変わって昨日となりましたが、国立新美術館に二紀展を観に行ったついでに、六本木ミッドタウンの中にあるFUJIFILM SQUARE(フジフイルム スクエア)で「Now or never. instax Gallery テイラー・スウィフト写真展 A Taylor Swift Photo Collection」を観てきました。色々とネタが溜まっていますが会期末が近いので先にご紹介しておこうと思います。なお、この展示は撮影可能でしたので、会場で撮った写真を使って参ります。

【展覧名】
Now or never. instax Gallery
テイラー・スウィフト写真展
A Taylor Swift Photo Collection
【公式サイト】
http://fujifilmsquare.jp/detail/1810120123.html
【会場】FUJIFILM SQUARE(フジフイルム スクエア)
【最寄】六本木駅/乃木坂駅
【会期】2018年10月12日(金)~2018年10月25日(木)
※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。
【鑑賞所要時間(私のペースです)】
0時間30分程度
【混み具合・混雑状況】
混雑_1_2_③_4_5_快適
【作品充実度】
不足_1_2_③_4_5_充実
【理解しやすさ】
難解_1_2_3_④_5_明解
【総合満足度】
不満_1_2_③_4_5_満足
【感想】
結構多くのお客さんで賑わっていましたが、概ね自分のペースで観ることが出来ました。
さて、この展示は人気絶頂のアメリカのポップシンガーであるテイラー・スウィフトの写真展で、ライブの様子や舞台裏、オフショットなどの写真が並ぶ小規模な内容となっています。テイラー・スウィフトはフジフイルムのインスタントカメラ「instax<チェキ>」の広告モデルとなっているようで、この展示ではミラーレスカメラのFUJIFILM X-H1で撮った写真と共にチェキで撮った写真が並んでいました。テイラー・スウィフトについては今やアメリカの中間選挙にまで影響力を持つと言われるほどのカリスマ的な存在なので説明する必要もないかと思いますが、数多くの受賞歴も持つ現代で最も有名な女性歌手の1人ではないかと思います。私はファンという程でもないですが、「1989」まではウォークマンに入れたりしてそこそこ聴いてる感じです(Reputationはまだ聴いてませんけどw) まあその程度の知識なのであまり詳しいことには気づいていないと思いますがご容赦のほどを。詳しくは会場で撮った写真と共にご紹介して参ります。
こんな感じで入口付近にチェキのカメラが並んでいました。テイラー・スウィフトが広告モデルとは知りませんでした。

テイラー・スウィフトの名前が入っている機種もあったりします。
↓調べたら普通にテイラー・スウィフト Editionというのが売っているようです。


インスタントカメラは現像されて来るまで何が写っているか分からないということで逆に若者には新鮮だと言う話を聞いたことがありますw
展覧会はだいたいこんな感じで、大型のパネルとチェキの2種類が混ざっていました。

割とチェキは小さいですが、フィルムならではの味わいがあります。
こちらはチェキのうちの1枚。

ボケてるのはこういう写真だからですw 昔のポートレート写真ってこんな感じだったなあとちょっと懐かしい。美人なのでサマになりますね。
まずはライブの様子を撮った写真などを観ました。

流石にこれを観て何時の何処のツアーか分かるほどのファンではないですが、結構最近じゃないかな? テイラー・スウィフトがデビューしたのもつい最近だと思っていたらもう10年くらい経ってますがw
こちらもライブのシーン。

楽しそうな表情で輝いていますね。
このライブのセットは蛇だらけとなっています。

以前、不仲とされるキム・カーダシアンに蛇女呼ばわりされたのを逆手に取っているようです。以前から陰謀論者がテイラー・スウィフトは某組織の構成員と言っているので、これも格好のネタにされそうですがw
こちらもライブの写真。後ろ姿で逆光となっているのが凛々しい。

多分、海外の会場だと思いますが、人気ぶりが伺えます。
続いて、打って変わってライブ以外での写真のコーナー。

知的な雰囲気の写真が並んでいました。
こちらはチェキ。

チェキのほうが親密な雰囲気がよく出ているように思えます。この味わいならではですね。
これはライブ前の舞台裏じゃないかな。

このクリアな写真を観た上で、次の写真を観てください。
こちらはチェキで取った先程と同じようなシーンの写真。

だいぶ印象が違います。 これだけ観ると80年代のようなw しかしこちらのほうが楽しそうに思えるんですよね。
最後にオフショットのような写真

カリスマである一方でこうした親密な空気感があるのが人気の理由かも。
ということで、テイラー・スウィフトを撮った2種類の写真を楽しむことが出来ました。無料で撮影可能ということもあって、多くの女性ファンで賑わっていたしファンには嬉しい展示なのではないかと思います。もうすぐ会期末となりますので、気になる方はお早めにどうぞ。
おまけ;
同時開催で以前ご紹介した富山治夫の写真展も開催しています。こちらも面白い展示なので写真自体が好きな方は是非セットでどうぞ。
参考記事:写真ほど素敵な商売はない!「言葉を超えた写真家 富山治夫 『現代語感』」 FUJIFILM SQUARE(フジフイルム スクエア)

【展覧名】
Now or never. instax Gallery
テイラー・スウィフト写真展
A Taylor Swift Photo Collection
【公式サイト】
http://fujifilmsquare.jp/detail/1810120123.html
【会場】FUJIFILM SQUARE(フジフイルム スクエア)
【最寄】六本木駅/乃木坂駅
【会期】2018年10月12日(金)~2018年10月25日(木)
※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。
【鑑賞所要時間(私のペースです)】
0時間30分程度
【混み具合・混雑状況】
混雑_1_2_③_4_5_快適
【作品充実度】
不足_1_2_③_4_5_充実
【理解しやすさ】
難解_1_2_3_④_5_明解
【総合満足度】
不満_1_2_③_4_5_満足
【感想】
結構多くのお客さんで賑わっていましたが、概ね自分のペースで観ることが出来ました。
さて、この展示は人気絶頂のアメリカのポップシンガーであるテイラー・スウィフトの写真展で、ライブの様子や舞台裏、オフショットなどの写真が並ぶ小規模な内容となっています。テイラー・スウィフトはフジフイルムのインスタントカメラ「instax<チェキ>」の広告モデルとなっているようで、この展示ではミラーレスカメラのFUJIFILM X-H1で撮った写真と共にチェキで撮った写真が並んでいました。テイラー・スウィフトについては今やアメリカの中間選挙にまで影響力を持つと言われるほどのカリスマ的な存在なので説明する必要もないかと思いますが、数多くの受賞歴も持つ現代で最も有名な女性歌手の1人ではないかと思います。私はファンという程でもないですが、「1989」まではウォークマンに入れたりしてそこそこ聴いてる感じです(Reputationはまだ聴いてませんけどw) まあその程度の知識なのであまり詳しいことには気づいていないと思いますがご容赦のほどを。詳しくは会場で撮った写真と共にご紹介して参ります。
こんな感じで入口付近にチェキのカメラが並んでいました。テイラー・スウィフトが広告モデルとは知りませんでした。


テイラー・スウィフトの名前が入っている機種もあったりします。
↓調べたら普通にテイラー・スウィフト Editionというのが売っているようです。
インスタントカメラは現像されて来るまで何が写っているか分からないということで逆に若者には新鮮だと言う話を聞いたことがありますw
展覧会はだいたいこんな感じで、大型のパネルとチェキの2種類が混ざっていました。

割とチェキは小さいですが、フィルムならではの味わいがあります。
こちらはチェキのうちの1枚。

ボケてるのはこういう写真だからですw 昔のポートレート写真ってこんな感じだったなあとちょっと懐かしい。美人なのでサマになりますね。
まずはライブの様子を撮った写真などを観ました。


流石にこれを観て何時の何処のツアーか分かるほどのファンではないですが、結構最近じゃないかな? テイラー・スウィフトがデビューしたのもつい最近だと思っていたらもう10年くらい経ってますがw
こちらもライブのシーン。

楽しそうな表情で輝いていますね。
このライブのセットは蛇だらけとなっています。

以前、不仲とされるキム・カーダシアンに蛇女呼ばわりされたのを逆手に取っているようです。以前から陰謀論者がテイラー・スウィフトは某組織の構成員と言っているので、これも格好のネタにされそうですがw
こちらもライブの写真。後ろ姿で逆光となっているのが凛々しい。


多分、海外の会場だと思いますが、人気ぶりが伺えます。
続いて、打って変わってライブ以外での写真のコーナー。


知的な雰囲気の写真が並んでいました。
こちらはチェキ。

チェキのほうが親密な雰囲気がよく出ているように思えます。この味わいならではですね。
これはライブ前の舞台裏じゃないかな。

このクリアな写真を観た上で、次の写真を観てください。
こちらはチェキで取った先程と同じようなシーンの写真。

だいぶ印象が違います。 これだけ観ると80年代のようなw しかしこちらのほうが楽しそうに思えるんですよね。
最後にオフショットのような写真

カリスマである一方でこうした親密な空気感があるのが人気の理由かも。
ということで、テイラー・スウィフトを撮った2種類の写真を楽しむことが出来ました。無料で撮影可能ということもあって、多くの女性ファンで賑わっていたしファンには嬉しい展示なのではないかと思います。もうすぐ会期末となりますので、気になる方はお早めにどうぞ。
おまけ;
同時開催で以前ご紹介した富山治夫の写真展も開催しています。こちらも面白い展示なので写真自体が好きな方は是非セットでどうぞ。
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プロフィール
Author:21世紀のxxx者
多分、年に70~100回くらい美術館に行ってると思うのでブログにしました。写真も趣味なのでアップしていきます。
関東の方には休日のガイドやデートスポット探し、関東以外の方には東京観光のサイトとしてご覧頂ければと思います。
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