関東近辺の美術館めぐり ~美術・美景・美味を楽しむブログ~

吉田謙吉と12坪の家-劇的空間の秘密- 【LIXILギャラリー】

今日はやや写真多めです。前回ご紹介した展示を観に行く前に、京橋のLIXILギャラリーで「吉田謙吉と12坪の家-劇的空間の秘密-」という展示を観てきました。この展示は撮影可能となっていましたので、写真を使ってご紹介していこうと思います。

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【展覧名】
 吉田謙吉と12坪の家-劇的空間の秘密-

【公式サイト】
 https://www.livingculture.lixil/topics/gallery/g-1812/

【会場】LIXILギャラリー
【最寄】京橋駅(東京)

【会期】2019年03月07日(木)~05月25日(土)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 0時間20分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_4_⑤_快適

【作品充実度】
 不足_1_②_3_4_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_③_4_5_満足

【感想】
空いていて快適に鑑賞することができました。

さて、今回の展示は戦前から戦後にかけて舞台装置家・衣装デザイナー・映画の美術監督など幅広い分野で活躍した吉田謙吉が52歳の時に建てた「12坪の家」という自宅について紹介する内容となっています。 この家は自身で設計し港区飯倉(現・麻布台)に建てたもので、その名の通り12坪(約40㎡)程度の狭い家ですが、舞台美術家としてのアイディアが詰まった家だったようです。冒頭に記載したように展示は撮影可能となっていましたので、詳しくは写真と共にご紹介していこうと思います。

こちらは「12坪の家」の1/20模型。
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小さくても赤い壁が洒落ていて、流石は美術監督と言ったセンスです。なぜ12坪なのかと言うと、戦後に戦災者・引揚者の住宅確保を目的とした法令が交付され、1947年~1949年までの間に、全国的に新築住宅の面積上限を12坪以下とするように制限されていたようです。吉田謙吉も内蒙古から引揚げ、この家を建てたわけですが、12坪に妻・娘と3人で暮らしていたようです。

中身はこんな感じ。
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大きな特徴として、これだけ狭いのに家の中に舞台があることです。右上の一番大きいところがステージ兼アトリエ、中央がホール兼居間で、間には緞帳まであったのだとか。ステージの下のに写っている小部屋が寝室らしいので、ステージの存在感がでかいw とは言え、実際にここで本格的な芝居が行われたことはなかったようです。しかし、演劇人としての裏方魂の象徴とも言える空間で、画家・作家・編集者・舞台美術家を目指す研究生なども集まったのだとか。

ステージの再現もありました。確かに緞帳もありますw 意外と余裕があって本格的な劇は無理でもコントくらいは出来そうな感じ…w
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奥に写っているテーブルの足にちょっと違和感があるように思ったのですが、和室の座卓を改造して作ったようです。流石、舞台美術家だけあって器用です。

この先は主に資料が並んでいました。

こちらは吉田謙吉の人柄が伺える資料。丸の内で出会ったサラリーマンの仕草をカウントしたもの。
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吉田謙吉は関東大震災の後にバラックをスケッチしたり、街中の風俗を調査・記録していたそうで、これを採集と呼んでいたそうです。特に使い路について解説は無かったですが、劇にでも活かしたのかな? 私もブログで記録・収集してるようなものなので、こういう活動に共感してしまいますw

こちらは1948年の勤め人の正月三賀日の過ごし方を採集したもの。新聞記者・会社員・三流どころの会社員から採集したのでいくつかあります。
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こたつに入って寝たり、割とダラダラしてますw トランプ遊びとかほのぼのしているのも戦後すぐの時代を感じました。

こちらは関東大震災の翌年に作られた築地小劇場で初公演となった「海戦」の舞台模型。この劇場の創立当初から美術部・宣伝部員として携わっていたそうです。
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当時の前衛芸術運動であるドイツ表現主義風の装置で、この舞台装置で注目されることになったのだとか。さらに役も持って出演もしたというのだから驚き。

吉田謙吉は自宅や舞台装置だけでなく、バーや喫茶店などの内装設計も行っていたそうです。こちらはバーの設計案と、喫茶店のマッチラベルの原画。
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このバーは機関車と名付けられ、信号機を設置して中には実物のレールもあったのだとか。このアイディアも舞台美術家らしいかも。

こちらがバー機関車の当時の写真。
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面白そうなバーなので、鉄道好きとしては気になりますw

吉田謙吉は戦前から新聞や雑誌に暮らしの工夫をテーマに寄稿していたそうで、それもいくつか展示されていました。
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女性向けの雑誌らしく、部屋をお洒落にする方法を書いているようです。押し入れをベッドルームにする提案もあったりして面白いw ドラえもんみたいだけど私も押入れで寝るのが好きだったので妙に心引かれましたw


ということで、狭い家の中に劇場を作るような一風変わったアイディアが面白い展示でした。戦後の貧しい時代でも生活に楽しみを見出す姿勢が特に素晴しいと思います。ここは他にも現代アートの展示なども併設している上に無料で観られますので、京橋付近に行く機会があったらチェックしてみてください。


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ポーラ ミュージアム アネックス展2019-創生と技巧- 【ポーラミュージアム アネックス POLA MUSEUM ANNEX】

前回ご紹介した展示を観た後、銀座のポーラ ミュージアム アネックスで「ポーラ ミュージアム アネックス展2019-創生と技巧-」を観てきました。この展示は撮影可能となっていましたので、写真を使ってご紹介していこうと思います。

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【展覧名】
 ポーラ ミュージアム アネックス展2019-創生と技巧-

【公式サイト】
 https://www.po-holdings.co.jp/m-annex/exhibition/index.html

【会場】ポーラミュージアム アネックス POLA MUSEUM ANNEX
【最寄】銀座駅・京橋駅

【会期】2019年3月20日(水)~4月14日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 0時間20分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_4_⑤_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_③_4_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_②_3_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_③_4_5_満足

【感想】
空いていて快適に鑑賞することができました。

さて、この展示はポーラミュージアムアネックスが毎年行っている若手芸術家の在外研究助成の研究成果を発表するもので、以前ご紹介した「-捨象と共感-」が前期で、今回の「-創生と技巧-」が後期という分け方になっています。今回も助成された8人の作家のうち4人の作品が展示されていて、前回同様にタイトルとは特に関連性は無いようでした。詳しくは写真を使ってご紹介していこうと思います。
 参考記事:ポーラ ミュージアム アネックス展2019-捨象と共感- (ポーラミュージアム アネックス POLA MUSEUM ANNEX)

入口の近くには川久保ジョイ 氏の地図や写真を使った作品が並んでいました。
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最近だと2017年の横浜トリエンナーレなどにも出されていた作家です。
 参考記事:ヨコハマトリエンナーレ2017 島と星座とガラパゴス (横浜美術館)

川久保ジョイ 「イマジナリー・ラインズ#3 エーゲ海西」
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イマジナリー・ラインというと映画でよく使われる用語(対話している2人を結ぶ仮想の線)を思い起こしますが、この作品は元々は2枚の対になる写真の一方だけ展示されているようで、もう1枚は海を挟んだ対岸の写真となっているそうです。薄っすらと向かいに岸が見えているのが対となる場所かな? 説明が無ければ全く分かりませんでしたが、片割れを想像させるような作品となっていました。

この隣にも同様の作品が並んでいました。

池ヶ谷陸 「Metropolitan Paradox」
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こちらはフェンスで囲まれて一際目を引いた作品。この方はベルリンに住んでいるそうで、東西分裂していた頃にフェンスによって西ベルリンが自由な社会を築いていたという逆説的な自由を表しているようです。こうした事象は日本や世界各国でも陰で存在しているのではないかと考えているのだとか。

フェンスの中にはLEDでメッセージが流れてきます。無秩序で文章にならない文字列みたいな。
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これはweb上のビッグデータなどを示しているようで、そう考えると管理された中での自由っていうのも頷けるかな。境界線によって守られているのか囚ええられているのかという面白い発想の作品でした。

木村恒介 「Sakura」
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右の写真は一部をアップにしたものです。遠くからみると薄っすらと色づく桜に見えますが、近くに行くと無数のタイルのようになっていて色も所々に点々と付いているという個性的な表現となっています。

木村恒介 「Teresa」「Rahei」
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こちらもタイル状になっていて、2種類の写真が混じったような表現です。右の女性の目とか横向きと前向きがあるし、多面的な構成になっているように思えました。


あともう1人、展示室の出入り口付近にに柳井信乃 氏の「Happy and Glorious」という映像作品がありました。(これは撮影不可) 昔の映像を使ってナショナリズムや社会に抑圧されている記憶などをユーモアを使って解放する旨の作品でした。


ということで、やや難関でしたがキャプションのおかげでちょっと分かった気になれましたw これからも観る機会がありそうなアーティストですので、今のうちにチェックしておくのも良いかもしれません。ここは無料ですので、銀座に行く機会があったら気軽に寄れるアートスペースです。



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ラファエル前派の軌跡展 (感想後編)【三菱一号館美術館】

前回に引き続き丸の内の三菱一号館美術館の「ラファエル前派の軌跡展」についてです。前編は2章まででしたが、今日は残りの章についてご紹介していこうと思います。まずは概要のおさらいです。

 前編はこちら

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【展覧名】
 ラファエル前派の軌跡展

【公式サイト】
 https://mimt.jp/ppr/

【会場】三菱一号館美術館
【最寄】東京駅/有楽町駅など

【会期】2019年3月14日(木)~6月9日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
前半も混んでいましたが、後半も狭い場所が多いこともあって混雑感がありました。今日も各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。


<第3章 ラファエル前派周縁>
3章はラファエル前派周縁の画家に関するコーナーです。緻密な観察と主体に対する誠実さというラファエル前派の大原則は1850年代になると一層に広範の支持を受けたそうで、さらに1860年代になると欧州大陸の美術教育を受けた芸術家が集まり、フレデリック・レイトンとジョージ・フレデリック・ワッツらによって古代ギリシャ・ローマの理想美の再評価が進んだようです。また、同時期にラファエル前派はドイツやフランスで生まれた美学原理を取り入れて「芸術の為の芸術」と呼ばれる唯美主義の展開をしていきました。ここにはそうした次の世代の作品が並んでいました。

84 ウィリアム・ヘンリー・ハント 「ヨーロッパカヤクグリ(イワヒバリ属)の巣」
こちらはまるで写真のような水彩画で、鳥の巣の中に青い4つの卵が入っている様子が描かれています。周りには花やいちご、砂利などが描かれているのですが、いずれも質感豊かで驚くほどに精密です。解説によると、この画家は鳥の巣を描くのを得意にしていたので「鳥の巣ハント」という称されたとのことでした。

この辺は唯美主義的な作品も並んでいました。夢とか神話とかを描いているので、ラスキンが目指した方向性とは違っているように思える作品もありました。

89 フレデリック・レイトン 「母と子」 ★こちらで観られます
こちらは横たわっている女性と、その傍らでサクランボを差し出す小さな娘を描いた作品です。背景には鶴が描かれた日本の屏風やペルシャ絨毯なども描かれていて、美しいものを集めたような光景です。この作品も質感が見事で、特にサクランボは宝石のよう透き通って輝くような美しさです。全体的に穏やかな雰囲気が漂い、理想の美で満たされた唯美主義的な作品でした。
なお、この女性の着ている衣のヒダの表現は古代彫刻の研究成果が観られるようです。新古典主義とラファエル前派の両方に触れた画家であるので、そうした傾向があるで、フレデリック・レイトンは後に美術アカデミーの会長になったのだとか。 アカデミー批判から始まったラファエル前派の中にはアカデミックになっていく流れがあるというのも面白い話です。

この章の最後の辺りにはラスキンによる模写作品が並んでいました。ティントレット、フラ・アンジェリコ、デューラー、ボッティチェリなど広範な画家を模写しています。また前編でご紹介した『現代画家論』やヴェネツィアの石像をまとめた『ヴェネツィアの石像建築』、後進のための『素描の基礎-初心者への三通の書簡』の本などもあり、美術評論家としての活動を観ることができました。


<第4章 バーン=ジョーンズ>
ここからは下の階です。エドワード・バーン=ジョーンズは元々はオックスフォードで聖職を志していたのですが、ラファエル前派の作品に感銘を受け、ラスキンの芸術論や建築論に心酔して芸術の道に入った画家です。ロセッティに弟子入りし、やがてロマン主義的で中世的な 主題を感情に強く訴える超世俗的な形式で描くようになっていきました。一方のラスキンはこの頃には時を超越したイメージと古典的規範に由来する図像を追う画家を勇気づけたいと切望していたようで、その才能をバーン=ジョーンズに見出していきました。バーン=ジョーンズなら英国芸術の伝統を発展させると見込み、その指導と教育が自分の指名と考えたようで、巨匠画家の作品に学び素描に励むようにとの助言も与えています。そしてバーン=ジョーンズは油彩・水彩だけでなく、デッサン、挿絵、陶磁器、ステンドグラスのデザインなど幅広い場で活躍し、19世紀末の英国で最も広く称賛される画家になりました。さらには象徴主義の原動力にもなっていったようです。ここにはそうしたバーン=ジョーンズの作品、特に宗教や神話などをテーマにしたものが並んでいました。

102 エドワード・バーン=ジョーンズ 「慈悲深き騎士」 ★こちらで観られます
こちらは水彩の大型作品で、ディグビー著『騎士道の誉』の話をテーマにしているようです。兄弟の敵を討とうとした騎士が命乞いする相手を赦したところ、それを見た神が喜び、磔刑のキリスト像が接吻してくるという場面を描いています。膝をついて祈る黒い甲冑の騎士と、上半身だけ乗り出して接吻してくるキリストが中央に描かれ、明暗の効果で劇的な雰囲気があるかな。水彩なのに色が強めに感じられるのも特徴的で、ロセッティからの影響も出ているようです。細部まで緻密だし、まさにラファエル前派の正統後継者といった感じでした。

この辺は聖書などをテーマにした作品が並んでいました。

114 エドワード・バーン=ジョーンズ 「怠惰の庭の巡礼者と踊る人たち」
こちらは裸で踊る男女の姿を描いた作品です。タイトルはネガティブな感じですが、均整の取れた理想的な肉体をしているように思えます。背景はちょっと抽象画のようですが、装飾的な雰囲気もありました。

この隣にも裸体の群像を描いた作品がありました。優美な雰囲気で、見事なデッサン力です。

117 エドワード・バーン=ジョーンズ 「赦しの樹」 ★こちらで観られます
こちらは油彩で、真っ白な花を咲かせるアーモンドの樹の中から裸婦が飛び出てきて裸体の男性に後ろから抱きついている様子が描かれています。陰影が強く立体的で古代彫刻を思わせるような肉付きをしています。解説によると、この女性はトラキア王女のピュリスで、この男性(デーモポーン)に捨てられ自死しようとしたところ、アーモンドの樹になったようです。その後、デーモポーンが後悔して樹を抱きしめたら中からピュリスが現れ、デーモポーンを赦したという話らしく、今まさに変身しているシーンを描いているようです。髪の流れやポーズに躍動感があって、デーモポーンがちょっと引き気味に驚いてるのが面白いw なお、この絵は10年前に同じ構図の水彩作品があったのですが、男性の体を隠さずに描いた為に激しく非難され、バーン=ジョーンズが公的な展示から7年も身を引くきっかけになったのだとか。西洋でもそういう話ってあるんですね…。ダヴィデ像とかどうなんだって気がしますがw


<第5章 ウィリアム・モリスと装飾芸術>
最後はウィリアム・モリスとアーツ・アンド・クラフツ運動についてです。(これを1章でやるのはかなり無理がある気がしますw) ウィリアム・モリスはバーン=ジョーンズと生涯の友で、バーン=ジョーンズ同様にラスキンに強く影響を受けて、工業化された社会の中で中世の手仕事を見直し、アーツ・アンド・クラフツ運動を主導していくことになります。ここには特にウィリアム・モリスと、モリスの作ったモリス商会の作品などが並んでいました。
 参考記事:
  ラファエル前派からウィリアム・モリスへ (目黒区美術館)
  ラファエル前派からウィリアム・モリスへ (横須賀美術館)
  ウィリアム・モリス ステンドグラス・テキスタイル・壁紙 デザイン展 (うらわ美術館)
  ウィリアム・モリスと英国の壁紙展 -美しい生活をもとめて- (松坂屋美術館)名古屋編
  
140 モリス商会 「ポーモーナ(果物の女神)」
こちらは高さ3mくらいのタピストリーで、植物文様の中に赤い衣をまとった果物の女神が描かれています(織り込まれています) 布に果物を抱え、手には果実の付いた枝を持っていて、優美な雰囲気です。この女神はバーン=ジョーンズによるデザインで、背景はモリスによるものらしく2人の仲の良さと作風がよく分かる作品でした。

この章には椅子や壁紙が並んでいました。鳥とバラを組み合わせた最初の壁紙「格子垣」を始め、中世っぽいデザインの品々が並びます。タイルやステンドグラスのデザイン、テキスタイル、本の装幀などがありいずれも植物柄・花柄が多いかな。ウィリアム・モリスのダイジェスト版と言った感じです。
最後にはモリス・マーシャル・フォークナー商会による小型のステンドグラス「巻物を持つ天使(左)」と「巻物を持つ天使(右)」も展示されています。


ということで、中々ボリューム感のある内容となっていました。後半の見どころはバーン=ジョーンズの作品群かな。勿論それ以外もラファエル前派の時代の移り変わりや変容が分かりやすかったので満足できました。会期は長いですが既に混雑しているので、気になる方はお早めにどうぞ。



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ラファエル前派の軌跡展 (感想前編)【三菱一号館美術館】

2週間ほど前に丸の内の三菱一号館美術館で「ラファエル前派の軌跡展」を観てきました。豪華で見どころの多い展示となっていましたので、前編・後編に分けてご紹介していこうと思います。

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【展覧名】
 ラファエル前派の軌跡展

【公式サイト】
 https://mimt.jp/ppr/

【会場】三菱一号館美術館
【最寄】東京駅/有楽町駅など

【会期】2019年3月14日(木)~6月9日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
開催序盤に行ったにも関わらず結構な混雑ぶりでラファエル前派の人気ぶりが伺えました。会期末になると一層に混雑することが予想されますので、気になる方はお早めに足を運ぶことをオススメします。

さて、この展示はイギリスで1848年に結成されたラファエル前派同盟(兄弟団)がタイトルに入っていますが、ラファエル前派だけでなくその前後の時代も取り上げています。今年はジョン・ラスキンの生誕200年ということで、ラファエル前派よりもジョン・ラスキンがメインテーマといった感じです。ジョン・ラスキンはイギリスの美術評論家であり優れた素描家でもありました。そして、ジョン・ラスキンが自然観察の重要性を説いたことに感銘を受けて結成されたのがラファエル前派で、さらにアーツ・アンド・クラフツ運動にも大きな影響を与えています。そうした流れを踏まえて展示は5章構成となっていましたので、各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。


<第1章 ターナーとラスキン>
まずはイギリスで最も偉大な画家であるウィリアム・ターナーとラスキンについてのコーナーです。ラスキンがターナーと初めて対面したのは1840年の夏(21歳)の時で、その頃からラスキンはターナーの作品を買い集めだしたそうです。(ワイン商の息子で裕福だった) その後、1843年には『現代画家論』の第1巻を出版し、この本でラスキンはヴィクトリア朝きっての美術評論家とみなられるようになります。この『現代画家論』は全5巻の大著となるのですが、この本を出したのはターナーの大胆な筆使いを擁護するのが出発点だったようです。特に版画集『研鑽の書』の作品群と水彩を丹念に考察し、自然界をあらゆる角度から知るために素描を重視していたようです。ここにはそうしたターナーとの関わりを示す品などが並んでいました。

1 ジョゼフ・マラード・ウィリアム・ターナー 「ナポリ湾(怒れるヴェスヴィオ山)」
こちらはナポリ湾を書いた水彩で、イギリス人画家ヘイクウィルによる素描を元に描いた作品です。割と小さめの画面に細部まで緻密に描かれていて、ヴェスヴィオ山は噴火してもうもうと赤い噴煙をあげています。手前の海までも赤く染まっているのですが、自然の怖さというよりは色彩の美しさを感じるかなw 解説によると、この作品がラスキンが初めて観たターナーらしく、手に入れて嬉しいという言葉も残っているのだとか。

この辺はターナーの水彩が並んでいました。
 参考記事:
  ターナー展 感想前編(東京都美術館)
  ターナー展 感想後編(東京都美術館)

5 ジョゼフ・マラード・ウィリアム・ターナー 「カレの砂浜-」 ★こちらで観られます
こちらは遠浅の砂浜で小魚を取る女性たちが描かれた作品です。遠くには沈みゆく夕日が見え、水平線がはっきりしないぼんやりした光景となっているかな。油彩なのに水彩のような軽やかさで、大気までも表現するような瑞々しい色彩となっていました。

13 ジョン・ラスキン 「アヴランシュ-モン・サン・ミシェルを望む眺め」
こちらはラスキンが妻エフィとの新婚旅行で訪れたノルマンディの光景を鉛筆とインクで描いた作品です。丘から海を望む光景で、かなり細かくありのままに描こうとしています。場所によっては陰影を付けたりしていて、素描と言っても完成度は高めに思えます。まさに言葉通りの観察眼が伺えました。

この辺は緻密な素描が並んでいました。自然をありのままに描くことを繰り返し主張していたらしく、それを実践しているのがよく伝わってきます。雪山を題材にした作品が多かったかな。

23 ジョン・ラスキン 「ストラスブール大聖堂の塔」
こちらはストラスブールの大聖堂と、その隣の木造の家屋を描いた作品です。木造家屋のほうは部分的に赤く着色していて、聖堂のほうはかなり緻密に装飾を描いています。全体的にはやや歪んでいるようにも思えましたが、高い素描力と建物への関心が見て取れました。

この辺は教会や柱の彫刻などを描いた素描が並んでいました。中世の自由な創造に感銘を受けていたらしく、職人の手仕事を見直すきっかけになったのだとか。確かにアーツ・アンド・クラフツへの流れが既に見え始めてます。


<第2章 ラファエル前派>
続いてはラファエル前派のコーナーです。ラファエル前派同盟(pre-Raphaelite Brotherhood)は1848年に20歳前後の7人の画家によって結成された集団で、公的な芸術家の養成機関であるロイヤル・アカデミーに反旗を翻して指導方針を批判しました。アカデミーではルネサンスの巨匠ラファエロを至上として型通りの描き方に縛り付けていたので、真の人間感情の表現から遠ざかっていると訴えたようです。その為、ラファエロより前の芸術への回帰を意味する名前を掲げ、中世美術の簡潔で真実味のある表現を蘇らせることを目標にしました。もちろん、当初は酷評された訳ですが、ラスキンが1851年に『タイムズ』誌で擁護論を展開し、メンバー(ミレイやロセッティ)と親密な関係を築いて彼らを支援していきました。ここには初期メンバーを始めとしたラファエル前派の作品が並んでいて、大部屋だけ撮影可能となっていましたのでいくつか写真を使おうと思います。
 参考記事:
  ラファエル前派展 感想前編(森アーツセンターギャラリー)
  ラファエル前派展 感想後編(森アーツセンターギャラリー)
  ラファエロ 感想前編(国立西洋美術館)
  ラファエロ 感想後編(国立西洋美術館)

52 ジョン・エヴァレット・ミレイ 「滝」
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こちらはラスキンの肖像を描くためにスコットランドを訪れた際に描いた作品で、右で座っているのはラスキンの奥さんです。非常に緻密で写実的、かつ色彩が濃いめなのが特徴に思えるかな。わざわざ奥さんを描いているのはミレイが恋慕っていた為で、後にこの女性はミレイの妻になっています。若いグループだけあってグループ内で恋愛関係が交錯してた事情なんかも知ると、見る目も変わりそうですねw

ちなみにラスキンは元々はミレイ推しだったみたいですが、奥さんのことで禍根を残しロセッティ推しに変わったようです。しかしロセッティもまた違う理由で離れることになります…。

ウィリアム・ホルマン・ハント 「甘美なる無為」
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こちらは途中でモデルと破局して一時中断した後、妻となる女性に替えて完成したという作品。タイトル通り甘い雰囲気があり、特に教訓などを描いている訳ではないようです。色彩の鮮やかさも相まって質感豊かで現実よりも美しいのではないかと思えました。

この辺にはアーサー王伝説を元にした作品なども並んでいました。聖書の話だけではなく、そうした伝説やテニスンの詩などを題材にしてる点などもラファエル前派の特徴ではないかと思います。

ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ 「祝福されし乙女」
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こちらは自身で発表した詩を絵画化したもので、若くして世を去り恋人と天国での再会を心待ちにしている乙女を描いた作品です。ロセッティの女性は顔が特徴的なのですぐ分かりますw ちょっと物憂げというか…。下の方にいるのが恋人かな? こちらも色鮮やかで目を引きました。解説によると、これはオリジナルと同時期に描かれた再作成作品なのだとか。

63 ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ 「ウェヌス・ウェルティコルディア(魔性のヴィーナス)」
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こちらは今回のポスターにもなっている作品で、手に持っているのは黄金の林檎なのでパリスの審判で貰ったやつかな? ティツィアーノに影響を受けているそうで、透明感のある筆使いにそれが観られるようです。非常に美しくて素晴らしい作品に思えるのですが、ラスキンは気に食わなかったようで「官能性の為に真実を歪めている」と批判し、花の描き方が雑 と指摘したそうです。ロセッティはそれを受けて花を丹念に描き直したようで、どこが雑なの?ってくらいしっかり描かれています。まあ、要するに方向性の変化がラスキンは許せなかったんでしょうね。観たままを描くという信念を一貫しているが故にこの絵は認めないといった所でしょうか。めっちゃ良い絵なのになあw

67 ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ 「ラ・ドンナ・デッラ・フィネストラ(窓辺の女性)」
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こちらはウィリアム・モリスの妻を描いた作品で、ロセッティの作品でよく見かける女性です。ちょっと冷たい雰囲気でつれない表情をしているのに恋い焦がれたのだとか。怪訝な表情にすら見えますねw

この辺でターナーとラファエル前派の共通点についての考察がありました。一見すると両者は全然画風が違っていますが、ラスキンにとっては真実を誇張することなく描くというのが重要だったので、その点において両者は共通するようです。とは言え、ラファエル前派も段々と変質化していくので、前述のように批判もあるようですね。

77 アーサー・ヒューズ 「音楽会」
こちらはラファエル前派の第2世代の画家による作品で、リュートを奏でる女性を中心に 膝で甘える子供と背中でじっと観ている子供、傍らには頭に手を当てて聞き入っている男性(夫?)の姿があります。背景はかなり精密な模様のカーテンが描き込まれていて、色鮮やかに表現している辺りにラファエル前派らしさを感じます。また、目を半分閉じている女性の表情は非常に気品があり、うっとりするような雰囲気となっていました。解説によると、『不思議の国のアリス』の作者のルイス・キャロルも展覧会でこの絵を観て称賛していたのだとか。

この部屋にあったジョン・ウィリアム・インチボルトの「アーサー王の島」という大型の海景画も緑がかった海の色が美しい作品でした。


ということで長くなってきたので今日はこの辺までにしようと思います。何度かラファエル前派の展示は観ていますが、今回も素晴らしい作品が多く、特に2章は満足度高めです。(ラファエル前派だけの展示だったら間違いなく満足度5だったと思います) 後半はラファエル前派の周辺やアーツ・アンド・クラフツなども取り上げていましたので、次回はそれについてご紹介の予定です。


 → 後編はこちら




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ビーンズ・デポ 【用賀界隈のお店】

ここ3日ほど世田谷美術館の展示についてご紹介してきましたが、帰りがけに用賀駅の近くのビーンズ・デポというお店でコーヒーを頂いてきました。

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【店名】
 ビーンズ・デポ

【ジャンル】
 カフェ

【公式サイト】
 https://www.beanzdepot.jp/
 食べログ:https://tabelog.com/tokyo/A1317/A131707/13163764/
 ※営業時間・休日・地図などは公式サイトでご確認下さい。

【最寄駅】
 用賀駅

【近くの美術館】
 世田谷美術館
 静嘉堂文庫
  など

【この日にかかった1人の費用】
 860円程度

【味】
 不味_1_2_3_④_5_美味

【接客・雰囲気】
 不快_1_2_3_④_5_快適

【混み具合・混雑状況(日曜日18時半頃です)】
 混雑_1_2_3_4_⑤_快適

【総合満足度】
 地雷_1_2_3_④_5_名店

【感想】
閉店近くの遅い時間だったこともあり空いていました。

さて、このお店は用賀駅から徒歩2分くらいのところにあるお店で、以前ご紹介した珈琲譚に行こうとしてショートカットに失敗して迷っていたら見つけましたw 店頭にコーヒー豆があってストレートコーヒーもあるようだったので、それが決め手で入ってみました。
 参考記事:珈琲譚(かぴたん) 【用賀界隈のお店】

お店に入る時にこんな感じで豆が並んでいました。この中から選ぶことができます。
DSC03560.jpg
店内だけでなく、豆の販売もしているようでした。残念ながら自宅にちゃんとした道具がないので今回はお持ち帰りは見送り。

店内はこんな感じ。明るくさっぱりした印象です。
DSC03558.jpg
部屋の奥に気になるものを発見。かなり本格的なロースターがあって、これは期待が高まります。

この日はガテマラ(580円)を頼みました。ガテマラも深煎りと中深煎りがある凝りっぷりで、深煎りをチョイス。抽出もじっくりやってくれます。
DSC03551.jpg
非常にまろやかで香りが口の中で広がりました。苦味はあまりなく深煎りにしたので酸味は少なめです。コクもあってかなり美味しいコーヒーです。これは大当たりでした。

合わせてチョコレートケーキ(380円)も頼んでみました。ドリンクとのセットで100円引きとなります。
DSC03552_201903260121000c1.jpg
こちらは冷たくてちょっと硬かったけど、濃厚なのに軽やかな甘さで美味しかったです。


ということで、本格的なコーヒーをお手軽な価格で楽しむことができました。用賀はハイレベルなカフェがいくつかあるので、どの店に行くか迷いが増える…w 美味しくて落ち着いた雰囲気だし、用賀駅から近いのも便利なので(世田谷美術館とは逆方向ですが)、近くに行く機会があったらチェックしてみてください。


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田沼武能写真展 東京わが残像 1948-1964 (感想後編)【世田谷美術館】

前回に引き続き用賀の世田谷美術館の「田沼武能写真展 東京わが残像 1948-1964」についてです。前編は2章まででしたが、今日は残りの章についてご紹介していこうと思います。まずは概要のおさらいです。

 前編はこちら

DSC03542_20190325022137ae6.jpg

【展覧名】
 田沼武能写真展 東京わが残像 1948-1964

【公式サイト】
 https://www.setagayaartmuseum.or.jp/exhibition/special/detail.php?id=sp00192

【会場】世田谷美術館
【最寄】用賀駅

【会期】2019年2月9日(土)~4月14日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
後半の方が混んでいると思ったらギャラリートークをやっていました。この展示はキャプションがほぼ無いので、ギャラリートークで話を聞くと一層楽しめるかも。後編も私の簡単な感想だけですが、気に入った作品と共に各章についてご紹介して参ります。


<第3章 忘れ得ぬ街の変貌>
3章は戦後から昭和の東京オリンピックまでの街の変貌を捉えた写真のコーナーです。復興し豊かになって発展していく反面、社会問題や環境問題も発生した時代で、田沼武能 氏も様々な時代の象徴を撮っていたようです。ここにはそうした時代の作品が並んでいました。

123 田沼武能 「渋谷駅前広場」 1948年 渋谷
こちらは1948年頃の渋谷の駅前を撮った写真です。奥に井の頭線のホームが見えているのですが、その位置から考えると現在とはだいぶ風景が違っていて、木造などまだまだ長閑な印象を受けます。下の方にはハチ公像もあるけど恐らく今とは違う場所じゃないかな。渋谷は時代ごとに大きく異なる街なので、東京の変貌の象徴のように思えました。

131 田沼武能 「山手線電車と有楽町駅界隈」 1952年 千代田区
こちらは有楽町駅のホームから西口方面(今のビックカメラのあたり)を捉えた写真です。山手線はまだ茶色の車体なので古い写真のように思えますが、町並みは割と今も面影が残っているように思えます。この近くにあった有楽町駅駅界隈の写真も見覚えある風景だし、この辺はそれほど大きく変わっていないのかも。

この部屋の中央にはオート三輪や「ジム・ライトvs力道山」のポスター、冷蔵庫やテレビのチラシなどが展示されていました。電化製品の三種の神器とかその辺の時代かな。

139 田沼武能 「新橋駅前広場に設置されたテレビ、この年2月から本放送始まる」 1953年港区
こちらは駅前に設置されたいくつものテレビの前に黒山の人だかりが出来ている様子が撮られた写真です。まだテレビの本放送が始まるかどうかの時期なので街頭テレビの先駆けみたいなものかな。テレビは高めの場所に設置されているので小さくて見えるのだろうかという感じですが、かなり後ろの方まで見物人がいました。最先端の技術に興味津々なのはいつの時代も同じですね。

141 田沼武能 「年々モダーンになったショーウインドウ」 1955年 銀座
こちらはショーウインドウを撮った写真で、額縁にキュビスム風に女性の顔が描かれた絵が入っています。また、服やスカーフの柄も洒落た印象で、戦後10年くらいでだいぶモダンで洋風な雰囲気となっています。ガラスに反射する町並みも綺麗で、戦後からの復興の様子が見て取れました。

149 田沼武能 「尾竹橋と4本のオバケ煙突」 1954年 荒川区
こちらは川の舟から仰ぎ見るような構図の橋と、その背後に立つ4本の通称「オバケ煙突」を撮った写真です。橋にはトラック等に混じって荷馬車の姿があるのがちょっと驚き。一方、煙突はもうもうと黒煙をあげていてまだ環境問題に対する意識の希薄さが伺えます。その背景には工場もあって、この後の時代の公害問題を予兆しているように思えます。この写真ではレガッタしている人も写っているのでまだ大丈夫だったのかな? この近くには1963年に撮られた悪臭を放つ隅田川に鼻をつまむ人たちの写真もあり、公害が悪化していったことを感じさせました。

156 田沼武能 「建設中の東京タワー」 1958年 港区
こちらは東京タワーの建設現場を撮った写真で、見上げるような構図となっています。笑顔を見せるヘルメットの青年が何とも爽やかで生き生きしています。みんな狭い足場で平然と作業していて熟達した職人のように見えました。労働環境は厳しそうだけど労働にも未来への希望がある時代に思えます。
この辺は建設中ラッシュの写真などもありました。戦後日本が最も活気に満ちていた頃ですね。

この辺には皇太子妃時代の美智子様の紙の着せ替え人形なども展示されていました。十二単などの衣装を切り取って人形に乗せる玩具です。1959年にご成婚で、当時は平民出身のお妃様に日本中がお祝いムードだったようですね。もうすぐ平成も終わるのでちょっと感慨深い玩具かも。

159 田沼武能 「通勤ラッシュで押し込む駅員」 1959年 新宿駅
こちらは通勤電車に人が入り切らずに駅員に押し込まれている様子を撮った写真です。今もこうした光景を観ることがよくありますが、当時はエアコンも無いし電車も少ないのでラッシュ時はいまより厳しかったんじゃないかな。この後の1960年代から高度成長期に入るわけですが、その裏ではこういう猛烈で過酷な実態もあったことを思わせました。

164 田沼武能 「国会議事堂近くで座り込む安保反対デモ隊」 1960年 千代田区
こちらは沢山の警官と座り込んでいる人たちを撮った写真です。マイクを持った警官や諭しているような表情の人もいて、当時のデモの一幕を端的に表しています。安保闘争真っ只中といった感じの写真でした。

この辺には新幹線の試乗券やパンフレットなどもありました。(新幹線開業は1964年)

177 田沼武能 「自動車と都電と歩行者で混雑する晴海通り」 1964年 中央区
こちらは沢山の車や市電が行き交う晴海通りで、合間を縫って歩いている人も大勢います。まさに交通戦争と言った様相で道は飽和状態となっていました。都電があちこち走って荷電も縦横に張り巡らされているのが電車好きとしては気になりましたw

この近くには日本橋の上に高速道路を作っている写真もありました。あれは頂けない…。

167 田沼武能 「若いカップルとマイカー時代のはしり」 1962年 深川
こちらは車に乗ってドライブする男女を正面から撮った写真です。車はやけに小さくてカートじゃないか?と思うほどです。しかし2人は楽しげで微笑みあって幸せそうに見えました。マイカー時代の始まりはこんな玩具みたいな車だったのかとちょっと驚き。


<特別展示 世田谷の文化人>
続いては田沼武能 氏のもう1つのライフワークである各界を代表する文化人の肖像写真のコーナーです。前編でも書きましたが、田沼武能 氏が最初に入った会社は給料が期日通りに支払われないような状態だったこともあり、師匠の木村伊兵衛に紹介してもらい、『藝術新潮』の仕事を得て芸術家たちの肖像写真を撮るようになりました。それが出世作となったわけですが、その後も撮り続けたようで ここにはその中から世田谷ゆかりの芸術家の写真が並んでいました。

田沼武能 「柳田國男」 1956年
こちらは民俗学で有名な柳田國男の肖像で、書斎に座った姿で撮られています、丸メガネをかけて笑顔を浮かべ、誰かと話しているような表情に見えます。そのため、柔和そうな印象を受けるかな。また、部屋の中は物が多く置かれているものの整然とした感じで、人となりを感じさせました。

田沼武能 「遠藤周作」 1986年
こちらは椅子に座って電話している作家の遠藤周作を撮った写真です。手前の机には沢山のものが置かれ、ランプの上には十字架が吊り下がっています。この十字架が結構目を引くので、遠藤周作の作品を連想させ、象徴的に思えました。

田沼武能 「岡本太郎」 1963年
こちらは自身の作品の前で腕を組んで座っている画家の岡本太郎を撮った写真です。やや斜めに視線をむけていて何かを観ているのかな。背景の絵は ほとばしるような筆跡があって、岡本太郎のオーラのように見えました。これも岡本太郎のイメージそのものですw

この辺は画家の肖像が多めでした。

田沼武能 「黒澤明」 1968年
こちらカメラの脇に立って何かをチェックしている黒澤明監督を撮った写真です。サングラスをした姿はよく知られる黒澤明のイメージ通りで、気難しそうな緊張感が漂っていました


最後にサザエさんで有名な長谷川町子の写真もありました。長谷川町子の髪型がサザエさんそのもので面白いw


ということで、後半も時代の生き証人的な作品が多くて楽しめました。田沼武能 氏は報道でも活躍した方なので、その面も出ているように思います。この記事を書いている時点でもうすぐ会期末となっていますので、気になる方はお早めにどうぞ。ちなみに裏の砧公園は桜の名所でもあります。
 参考記事:砧公園の桜(2011年4月)

おまけ;
現在、田沼武能 氏の展示は他にもいくつか開催されているようです。写大ギャラリーでも子供をテーマにした展示をやっています。
 参考リンク:写大ギャラリー:田沼武能 写真展「童心 - 世界の子ども」
          2019年3月5日(火) ~ 2019年4月27日(土)


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田沼武能写真展 東京わが残像 1948-1964 (感想前編)【世田谷美術館】

前回ご紹介した世田谷美術館の常設を観る前に、特別展の「田沼武能写真展 東京わが残像 1948-1964」を観てきました。メモを多めに取ってきましたので、前編・後編に分けてご紹介していこうと思います。

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【展覧名】
 田沼武能写真展 東京わが残像 1948-1964

【公式サイト】
 https://www.setagayaartmuseum.or.jp/exhibition/special/detail.php?id=sp00192

【会場】世田谷美術館
【最寄】用賀駅

【会期】2019年2月9日(土)~4月14日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
お客さんは結構いましたが、概ね自分のペースで観ることができました。

さて、この展示は田沼武能(たぬまたけよし)氏という90歳を越えて現役で活躍している写真家について紹介するもので、中でも子供、下町、町の変貌の3つのテーマを取り上げてそれに沿った作品が並んでいます。田沼武能 氏は1949年東京写真工業専門学校(現・東京工芸大学)を卒業後、名取洋之助が主催するサン・ニュース・フォトス社に入り、木村伊兵衛の助手として写真修行をスタートしました。その会社だけでは食べていくことが出来なかったらしく、新潮社の『藝術新潮』の嘱託写真家として昭和を代表する文化人の肖像写真を連載すると、注目を集めるようになり、アメリカのタイム・ライフ社と契約しフォト・ジャーナリズムの分野でも活躍したそうです。1984年からは黒柳徹子ユニセフ親善大使と共に120カ国を超える国で子供を撮影してきたそうですが、今回の展示は戦後の東京に焦点を当てて1964年のオリンピックまでの時代までのチョイスとなっていました。構成はテーマごとに章分けされていましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。(なお、今回の展示は大半が白黒写真です)


<第1章 子どもは時代の鏡>
まずは子供を撮った写真のコーナーです。田沼武能 氏は1966年にパリのブローニュの森で遊ぶ子供たちの姿に魅せられたことをきっかけに世界の子供をテーマに写真を撮ることをライフワークとする決意をしたそうで、『素晴らしい子供たち』や『地球星の子どもたち』といった多くの写真集を出しているようです。しかしそれ以前にも沢山の子供の姿を撮っていたようで、ここにはそうした作品が並んでいました。

4 田沼武能 「子守をする少女」 1950年 浅草
こちらは大通りに向かって立ち、背中に寝ている弟?を背負っている少女の後ろ姿を撮った写真です。弟と比べてもそれほど大きくない体つきですが、しっかりと立っていて子供ながらに姉としての自覚と責任感が感じられます。子供が働き手だった時代を感じると共に、早くから自分の役割を自覚していた立派なお姉さんに思えました。

この辺は戦後の物不足や孤児などを捉えた写真が並んでいました。

5 田沼武能 「上野公園に住む戦災孤児」 1951年 上野
こちらは泥だらけで真っ黒になった戦災孤児を撮った写真です。孤児が大写しになっていて、左目は普通ですが右目は寄り目気味になっていて、ちょっと目つきが尋常ではありません。極度の貧しさや戦後の混乱が感じさせるような驚くほど強烈な写真となっていました。

この辺には「賽銭箱をのぞく子供」など見覚えのある作品もありました。
 参考記事:TOPコレクション たのしむ、まなぶ イントゥ・ザ・ピクチャーズ (東京都写真美術館)

2 田沼武能 「ペコちゃん人形の持つミルキーがほしい戦災孤児」 1950年 銀座 
こちらも戦災孤児を撮った写真で、街角のペコちゃん人形が持っているミルキーの紙袋をじっと見つめる少年の姿が写っています。ペコちゃんの顔は煤けて、目玉が壊れて落ちかけてるのが軽くホラーw こんな人形の紙袋に実物のミルキーが入っているとは思えないのですが、それを欲しがるところに戦災孤児の悲哀が感じられました。銀座でもこういう光景があったんですね…。

17 田沼武能 「空き地でコマ回し、奥ではチンドン屋がひと休み」 1957年 杉並区 
こちらはコマ遊びをしている学生服の子供たちが写っている写真です。紐やコマがブレていて、それが逆に動きを感じさせます。みんな楽しげな表情を浮かべていて生き生きしていていい顔です。背景には一服しているチンドン屋さんたちが談笑していて、のんびりとした雰囲気となっていました。この頃になると貧しさも少しはマシになった感じがします。

22 田沼武能 「紙芝居に夢中の子どもたち」 1955年 佃島 ★こちらで観られます
こちらは紙芝居を観ている子供たちの顔が画面を埋め尽くすような写真です。ぎゅうぎゅうに紙芝居の前に集まって真剣な眼差しで見つめているのが面白いw 女の子はおかっぱ、男の子の中には坊主頭がいたりするのも時代を感じるかな。子供の生きた表情を捉えた1枚でした。

この辺は遊んでいる子供を撮った写真が並んでいました。

30 田沼武能 「神輿をかつぐ少女たち」 1955年 浅草
こちらはお神輿を担いでいる少女たちを撮った写真で、特に手前にいる2人の顔が大きく映されています。後ろにいる子に声をかけるような仕草をしていて、ハツラツとした印象を受けます。お祭りの楽しげな雰囲気が漂い、子供たちの純粋さがよく現れているように思いました。

この辺は神社の行事に参加する子供の写真などが並んでいました。

53 田沼武能 「神宮絵画館とプール[かっぱ天国]」 1960年 新宿
こちらは現在も外苑前にある絵画館の辺りを撮った写真です。しかし現在の様子とは大きく異なっていて、絵画館の池がプールになっていて 狭い池で大勢の子供達が はしゃいでいます。その後ろでは少し高い位置にある絵画館の入口辺りから子供の様子を見守る大人たちの姿もあり、夏の賑わいを感じさせます。この写真の隣にはプールに飛び込む瞬間の写真もあって、あそこがプールとして親しまれていた時代があったことに驚きました。
 参考記事:聖徳記念絵画館/イチョウ祭り/クラシックカーフェスティバルの写真

この辺りの部屋の真ん中には当時の少年誌(少年マガジンなど)やベーゴマ、人形、おままごと用品などの玩具が並んでいました。


<第2章 下町百景>
続いては下町を撮った写真のコーナーです。田沼武能 氏は浅草の写真館に生まれたこともあって、下町は特別な場所だったようです。下町をテーマにした写真集も出しているそうで、自身の故郷の原風景やアイデンティティと深く結びついているようです。また、「昔は物が無かったが人情があった」と回顧しているようで、ここには人情味のある暮らしぶりが感じられる作品が並んでいました。

62 田沼武能 「国際劇場の屋上で憩う踊り子」 1949年 浅草 ★こちらで観られます
こちらは頭に長い白リボンを付けた2人の踊り子が屋上の縁に腰掛けて雑誌を読んでいる様子を上から撮った写真です。2人で1冊を一緒に観ながら会話しているような感じで仲睦まじい雰囲気です。背景にはお墓や簡素な家々が並ぶ町並みとなっていて、戦後の何もない時代を感じさせました。

70 田沼武能 「見るも踊るも共に楽しいお花見」 1954年 上野公園
こちらは上野公園にゴザを敷いて花見をする人々を撮った写真です。中央で踊っている老人とその脇でバイオリンを弾く人、ギターを弾く人の姿があり、みんな桜そっちのけでその様子を観ています。みんな笑顔というわけでもなく物見高い人が集まっているような…w ある種の時代のエネルギーが詰まったような作品でした。

84 田沼武能 「酉の市で記憶術本を売る大学生(?)」 1955年 浅草
こちらは屋台で本を売っている学生帽を被った男性と、その周りに集まった大勢の学生服の学生を撮った写真です。売っている人はちょっとオジサンっぽいので、学生かどうか疑わしい…w 寅さんの話にこんなのあったな…というのがリアルに存在していたことが可笑しく思えました。記憶術ってのもいかがわしいw

97 田沼武能 「深川八幡祭り」 1956年 江東区
こちらは神輿を担ぐ法被を着た大勢の大人を撮った写真です。その群れを押して誘導しているような感じで、よく観ると後ろには路面電車が人に埋もれるに止まっています。お祭りの熱気で路上が大混乱している様子が見て取れて、エネルギーの潮のような写真でした。

この隣には参道が人で埋まっている様子を撮った写真もありました。祭りにかける情熱が今より凄そうw

107 田沼武能 「下町のお惣菜屋」 1956年 本木
こちらは街角にあるお惣菜屋さんを撮った写真で、メニューにはシュウマイ四円、魚フライ十円、コロッケ四円などと書いてあります。もはや物価が違い過ぎて安いのかすら分からないレベルw しかし主婦たちが並んでいるのでお買い得なのかな? 一方、写真の右半分は路地が写っているのですが、舗装されず泥濘んでいて酷い有様です。家も木の板が張り付いてるような感じで、まだまだ貧しい時代だったことが伺えました。

110 田沼武能 「渡し船の船着き場」 1956年 佃島
こちらは平たい渡し船にぎっしりと人が乗っている様子が撮られた写真です。柵も無いのに縁のギリギリまで立っていて落ちないか心配です。狭い甲板に自転車を乗せたりしている様子はちょっと前のアジアやインドみたいな… 船が都営というのもちょっと驚きでした。


ということで、長くなってきたので今日はこの辺までにしておこうと思います。田沼武能 氏の写真を観ていると、戦後の苦しい時代や復興へのエネルギーなど、当時の空気感が伝わってくるようで、濃密な写真ばかりとなっていました。後半は復興の様子や併設で世田谷の著名人の写真などが並んでいましたので、次回はそちらについてご紹介の予定です。

 →後編はこちら




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アフリカ現代美術コレクションのすべて 【世田谷美術館】

先週の日曜日に用賀の世田谷美術館で特別展と常設展を観てきました。まずは会期末が近い常設展についてご紹介しようと思います。今回は「ミュージアム コレクションⅢ アフリカ現代美術コレクションのすべて」というタイトルでアフリカのアートのコレクション展となっていました。

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【展覧名】
 ミュージアム コレクションⅢ
 アフリカ現代美術コレクションのすべて

【公式サイト】
 https://www.setagayaartmuseum.or.jp/exhibition/collection/detail.php?id=col00102

【会場】世田谷美術館 2階展示室
【最寄】用賀駅

【会期】2018年11月03日~2019年04月07日
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 0時間40分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_4_⑤_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_③_4_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
空いていて快適に鑑賞することができました。

さて、この展示は日本でも早くからアフリカの美術に目を向けてきた世田谷美術館が誇るコレクション展で、過去に開催した展覧会をきっかけに蒐集した作品などが並ぶ内容となっています。点数はそれほど多くないのですが、2章構成となっていましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。


<1、アフリカの美術を展示する――仮面と神像から都市の活気へ>
1章は「アフリカ芸術展」(1961年日本)、「大地の魔術師たち」展(1989年フランス)、「インサイド・ストーリー:同時代のアフリカ美術」展(1995年日本)の3つの展示を回顧しながらコレクションを紹介していました。前者の2つの展示では やはりアフリカの魔術的でダイナミックな野生美に目を向けていたようで、当時のアフリカの情勢(1960年代に次々と独立)や、アフリカの美術界にはあまり関心を示されず、西洋社会からの好奇の視点で紹介されていたようです。しかしインサイド・ストーリー展はアフリカの20世紀美術の歩みをたどる試みとなっていたようで、作家たちとの交流もあったようです。ここにはエキゾチックで素朴な作品などが並んでいました。

4 不詳 「マネキン(アクラ、ガーナ)」
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こちらの作品だけ撮影可能となっていました。マネキンと言っても平面的なものですが、手の関節はネジ止めしてあるので動かせそうに見えます。素朴で愛嬌があり、洗練された美術にはない魅力を感じました。

5 不詳 「床屋の看板(バマコ、マリ)」
6 不詳 「床屋の看板(アクラ、ガーナ)」
こちらは壁一面に並んだいくつもの床屋さんの看板です。黄色地に人物の頭部やバリカン・ハサミ・シャンプーなど床屋で使うものが描かれていて、テイストとしては先程のマネキンと似た感じです。不思議と地域が変わっても色合いやモチーフは共通しているので、アフリカではスタンダードなのかな? こちらも下手だけど味わいがあって力強さがあります。何故かリーゼントみたいな髪型が多いのも興味深いw 西洋美術の文脈から好奇の目で観てしまうのも致し方無いかもしれないと思う一方で異文化が感じられました。

この辺には1995年頃の現地の写真が並んでいました。多彩で強い色彩の広告などが写っていて面白いです。他には人形やおもちゃなども並び、素朴な温かみが感じられました。

10 サカ・アクエ 「母子像」
この作家はガーナのアーティストで、アメリカの美術アカデミーで学びガーナの美術を担った第一世代です。お腹の辺りで子供らしきものを抱えた女性像で、首が非常に長くスラッとした印象を受けます。ちょっとジャコメッティに通じるようなものを感じるかな。解説によると作者のサカ・アクエは劇作家としても活躍していたそうですが、その後に彫刻制作に専念したそうです。この作品の近くではサカ・アクエが編曲した「アクドンノ(トウモロコシで出来るお酒)」という民謡が流れていて、ドコドコという鼓のリズムに合わせて陽気なメロディとなっていました。


<2、1990 年代のアフリカ現代美術>
続いては1990年代のアフリカ現代美術のコレクションで、主に西アフリカの作家の作品を蒐集しているようです。第二次世界大戦の後、アフリカでは、新たな「アフリカらしさ」をどのように打ち出していくかが課題となったそうで、主にフランス語圏の国々では「ネグリチュード」という1930年代のパリで生まれた言葉が手がかりとなったようです。、黒人であることの誇りを取り戻す文学運動なども展開されたようで、この章ではアフリカの情勢などを感じさせる作品が並んでいました。

14 アブドゥライ・コナテ 「アフリカの力」 ★こちらで観られます(PDF)
こちらは天井から吊り下がった石と、その下の丘状に無数の卵のような物が並んだものと、背景に赤と黒の垂れ幕に虹のようなものが描かれている 3つセットの作品です。ちょっと意味は分かりませんが、政治や社会的な問題を示唆しているとのことなので、西洋の現代美術と同じような感じかな。赤い大地に虹が昇るようにも見えるし、卵の上に吊り下がる石に危うさがあるようにも思えるし、意味深な作品でした。

15 エル・アナツイ 「あてどなき宿命の旅路」 ★こちらで観られます(PDF)
こちらは今回の展示のポスターにもなっている作品で、使い古された木の臼を人に見立てて作った彫刻です。いくつも似たような像があり、臼の上の方に水平方向に木を括り付けているので手を広げた人に見えなくもないかな。アフリカに生きる人々の行く末を詩的に提示しているとのことですが、ちょっとくたびれた感じに思えました。

20 ムスタファ・ディメ 「空想の動物たち」 ★こちらで観られます(PDF)
こちらは朽ちた木材に釘などを刺して作った空想の動物像です。その風化具合が動物の毛のようで、動物のミイラを観ている気分になります。頭の部分は目鼻をくり抜いていて、結構シンプルながらもリアルな動物の頭蓋骨のように思えました。発想が面白い作品です。

18、19 パスカル・マルチーヌ・タユ 「トーテム94」「トーテム94(女)」 ★こちらで観られます(PDF)
こちらは都市に溢れる廃材を集めてトーテムポールのようにした作品です。プラスチック容器や麻布などを使って胴体を作り、植木鉢などで顔を作っています。人工の大量生産物だけしか使っていないのに、プリミティブなものを感じるのが面白い作品でした。

ソカリ・ダグラス・キャンプ 「私の世界 あなたの世界」 ★こちらで観られます(PDF)
こちらは3体セットの金属製の女性像です。いずれも等身大より大きく存在感があります。動きのあるポーズで、溶接部分が荒々しい点などからもエネルギッシュでパワフルな印象を受けました。


ということで、全く未知の世界でしたが予想以上に楽しめました。アフリカらしさを模索している節もあって、ステレオタイプなアフリカ観だけでは収まらないような展示だと思います。この常設は特別展のチケットで観ることができるので、特別展を観る際にはこちらも合わせてみることをオススメします。



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映画「スパイダーマン:スパイダーバース」(ややネタバレあり)

先週の日曜日に映画「スパイダーマン:スパイダーバース」を3D IMAXで観てきました。この記事には少しだけネタバレが含まれていますので、ネタバレなしで観たい方はご注意ください。

DSC03565.jpg

【作品名】
 スパイダーマン:スパイダーバース

【公式サイト】
 http://www.spider-verse.jp/site/

【時間】
 2時間00分程度

【ストーリー】
 退屈_1_2_3_④_5_面白

【映像・役者】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【総合満足度】
 駄作_1_2_3_④_5_名作

【感想】
結構混んでいて人気ぶりが伺えました。

さて、この映画はマーベル・コミックの人気シリーズ「スパイダーマン」のCGアニメ映画で、同名の漫画を原作とした作品となっています。私は原作は未読ですが、原作からの改変が行われているようで「アルティメット・スパイダーマン」の主人公であるマイルスを主人公にするなど映画独自の設定となっているようです。通常のスパイダーマンと大きく異なる点は、今までの出されてきたスパイダーマンの多くの派生作品を平行世界として、そのスパイダーマンたちが時空を越えて一堂に会するという設定になっています。その為、各作品を知っているとより一層楽しめるようですが、それほど詳しくなくても過去のスパイダーマンを1つでも見ていれば大丈夫だと思います。(1つも知らないと何の説明も無い設定もあるのでついていけないかも)
その点以外は概ね王道のストーリーで、少年マイルスの成長とスパイダーマン同士の絆なんかが見どころとなっています。割と笑えるシーンも多いし、スパイダーマンの歴代の悪役たちもてんこ盛りとなっているのであっという間に観終わった感がありました。昨年亡くなったスタン・リーのカメオシーンも健在だったし、ファン度が高ければ高いほど面白い仕掛けが多いのではないかと思います。スタッフロールの後にも続きがあるので、最後の最後まで席を立たないことをオススメします。

一方、この映画のもう一つの魅力はCGアニメの映像で、3D IMAXで観たら非常に驚きの映像体験となっていました。アニメっぽさと実写が混じったような部分もあれば、各スパイダーマンに合わせたテイストになっていたりと凝りに凝った映像です。どこのシーンか分かりませんが、10秒に1年かけたなんて凝りっぷりのようです。 さらに3Dで観ると違和感のない立体感があって吸い込まれるような感覚になれます。今までのアニメの中でも最高水準の映像であるのは疑いようがないと思いました。

ということで、内容も良かったし映像は驚きっぱなしの映画でした。これは映画館で観ないと駄目なやつだと思います。私はコミックは読んだことがなかったので、観終わってから色々調べている感じですがそれでも十分楽しめました。スパイダーマンシリーズが好きな方にオススメの作品です。



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新・北斎展 HOKUSAI UPDATED (感想後編)【森アーツセンターギャラリー】

前回に引き続き六本木の森アーツセンターギャラリーの「新・北斎展 HOKUSAI UPDATED」についてです。前編は2章まででしたが、今日は残りの章についてご紹介していこうと思います。まずは概要のおさらいです。

 前編はこちら

DSC03233.jpg DSC03234.jpg

【展覧名】
 新・北斎展 HOKUSAI UPDATED

【公式サイト】
 https://hokusai2019.jp/
 https://macg.roppongihills.com/jp/exhibitions/hokusai/index.html

【会場】森アーツセンターギャラリー
【最寄】六本木駅

【会期】2019年1月17日(木)~ 3月24日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 3時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_①_2_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
前編に引き続き、後編も各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。


<第3章:葛飾北斎期─読本挿絵への傾注>
1~2章でも色々と画号を変えてきた様子を観てきましたが、3章はついに葛飾北斎の号を使った頃のコーナーです。1805年に葛飾北斎を名乗った頃は読本に注力して大きく貢献したようで、曲亭馬琴と共に『新編水滸画伝』や『鎮西八郎為朝外伝 椿説弓張月』などで読者を引きつけ、読本挿絵の第一人者と認識されていたようです。(前章でご紹介した通りその後の2人は絶交となります) この時期は中国絵画の影響を受けて豪快で大胆な画風となっているようです。ここにはそうした頃の品が並んでいました。

170 葛飾北斎 「吉原遊郭の景」
こちらは45歳頃に手がけた5枚続の錦絵で、吉原の大見世の店の中を描いています。流石に5枚も並ぶと大パノラマの光景で、数え切れないほどの遊女たちが描かれていて非常に賑わいを感じます。ここは最上級の遊郭らしいのでその豪華さを破格の画面で表現したのかな。料理を用意したり、化粧をしたり、女性たちも生き生きとしていて人物画としても面白い作品でした。

177 葛飾北斎 「在原業平」
こちらは座っている在原業平を描いた作品です。衣の皺を太めの輪郭で描いていて、一筆書きのような軽やかさが感じられます。この頃になると筆の迷いが無いような描写となっていて、達人の域に入っていることを感じさせました。

232 葛飾北斎 「『鎮西八郎為朝外伝 椿説弓張月』前編」
こちらは曲亭馬琴とのコンビで手がけた長編の読本です。中身は冒険ものらしく、武士が弓を放って猿?を退治している場面が展示されています。何かが炸裂したような表現もあって、現代の漫画に通じる手法を既に使っているのに驚きます。動きがあって迫力もあるので、人気になったのも当然と思えるような作品でした。

この近くには2人の代表作でもある水滸伝などもありました。こちらも迫力満点の作品です。

215 葛飾北斎 「猿図」
こちらは烏帽子を被って赤い衣を着た猿が片足で立っている様子を描いた肉筆画です。手には紙垂(稲妻型の紙のついた棒)を持っていて、擬人化されているようにも思えます。薄い墨でフワッとした毛並みを出しているのがさすがです。猿の顔はちょっと呆けて見えますが、この猿は日吉山王権現の神徒なのだとか。肉筆においても表現の幅が広がっているように思えました。

224 葛飾北斎 「鯉亀図」
こちらは水中の鯉と亀が描かれた肉筆画です。水面のゆらぎを微妙な濃淡で表現していて、遠近感や透明感を出しつつ鯉たちの動きも感じるという見事な表現となっています。これは卓越した技術と観察眼が光る作品でした。

解説によると、この頃の北斎は席画(宴会とかで即興で描く絵)でも有名だったらしく、将軍に招かれてパフォーマンスをしたようです。足の裏に朱を塗った鶏を紙の上に歩かせて、竜田川のモミジでござい と言ったというエピソードを紹介していました。将軍相手なのに大胆過ぎて驚きますねw


<第4章:戴斗期─『北斎漫画』の誕生>
続いては戴斗を名乗っていた時期です。1810年~1819年まで戴斗の号を用いていて、この時期は読本から遠ざかり様々な絵手本を発表しています。特に『北斎漫画』は死後の明治時代まで15版も作られ、日本のみならず海外にも大きな影響を与えました。こうした絵手本は自身の門下や私淑(直接の教えを受けていないが、敬意を持って学ぶこと)する者たちに自らの画風を広めようと考えて作ったようです。また、この時期にも数少ないものの版画や肉筆も手がけていたようで、そうした作品も含めて展示されていました。

249 葛飾北斎 「茶筅売り図」
こちらは月の下を歩く茶筅売りを描いた作品です。長い柄の先にいくつもの茶筅が刺さっているものを持っていて、顔を上げて歩いている後ろ姿となっています。粗いタッチとなっていますが月光に照らされてしんみりとした叙情性が感じられました。

この後は北斎漫画がずらりと並んでいました。初編から15編まであって、およそ3900の図があると言われています。各編ごとに特色もあったりします。
 参考記事:
  浦上コレクション 北斎漫画:驚異の眼、驚異の筆 (うらわ美術館)
  北斎とジャポニスム―HOKUSAIが西洋に与えた衝撃 (国立西洋美術館)

北斎漫画以外にも絵手本が多数並んでいて、画風も一様ではなく様々でした。これだけでも展覧会が開けるくらいの充実した内容ですw

次の5章との間には休憩スペースがあり、そこでは最も有名な「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」の版画の摺り工程について展示していました。8回の摺りでそれぞれどの部分を摺っているのかが解説されているので分かりやすくて興味深い企画でした。


<第5章:為一期─北斎を象徴する時代>
続いては北斎の中でも最も有名な作品が作られた時期のコーナーです。1820年(61歳)の頃から為一(いいつ)という号を使い始め、為一期は大きく前期と後期に分けられるようです。前期は1820年~30年頃で、狂歌摺物の連作などを手がけています。一方、後期は1830~34年という短い期間に「富嶽三十六景」や「諸国瀧廻り」といった代表作を制作しました。この時期には風景以外にも花鳥や古典、武者絵、幽霊画など様々な作品を手がけていて、ここには北斎を代表するような作品が並んでいました。

まずは「琉球八景」が並んでいました。北斎は琉球に行ったことはなく想像で描いているので雪が降ってる様子なんかも描かれているシリーズです。 そしてその後は「富嶽三十六景」がならび、「神奈川沖浪裏」や「凱風快晴」、「山下白雨」といった有名作が目白押しです。特に今回の展示の品は発色が良く「ベロ藍」と呼ばれた青が鮮やかでした。(この辺は何度もご紹介しているので詳しくは参考記事を御覧ください) 他にも「諸国瀧廻り」や「諸国名橋奇覧」などのシリーズもあり、これだけの傑作の数々を僅かな期間で制作したのは奇跡としか思えないほどです。
 参考記事:
  北斎とリヴィエール 三十六景の競演 (ニューオータニ美術館)
  ホノルル美術館所蔵「北斎展」 (三井記念美術館)

415 葛飾北斎 「工芸職人用下絵集」
こちらは根付や目貫、煙草入れの表金具などの下絵を集めた画集です。2冊の348図も収められているらしくその数にも驚きますが、とにかく緻密で細かい! 題材も物語・風俗・動植物など幅広いので工芸用の絵手本みたいな感じです。職人たちはこれを写し取って図案として使うことができたのだとか。絵に飽き足らず工芸にも影響を与えるとは流石ですねw

383 葛飾北斎 「百物語 さらやしき」
この写真は他の展示で撮ってきたものです。この展示では撮影禁止です。
 参考記事:博物館できもだめし-妖怪、化け物 大集合- (東京国立博物館 本館)
DSC_18056.jpg
こちらも有名作かな。恐ろしくも首が皿になっている辺りに機知を感じさせます。
この近くにはもっと恐ろしい「百物語 笑ひはんにや」もありました。子供が観たらトラウマになるレベルw

414 葛飾北斎 「六歌仙図」
こちらは肉筆画で、縦長に並んだ六歌仙たちを描いた掛け軸です。上から順に大伴黒主、僧正遍昭、小野小町、在原業平、文屋康秀、喜撰法師、の順で並んでいるのですが、それぞれの向きやポーズが異なっていて、正面を向いている大伴黒主から順に回転しながら流れるような配置となっています。絵も然ることながら発想の面白さが北斎の魅力じゃないかな。これもユーモア溢れる作品でした。


<第6章:画狂老人卍期─さらなる画技への希求>
最後は晩年のコーナーです。1834年に富士図を題材として「富嶽百景」を出版し、この巻末で「画狂老人卍」の号を用いてさらなる画技の向上を表明しています。最晩年には版画から遠ざかり、肉筆画に力を注いだようで、風俗画はほとんど描かず動物・植物・宗教などを題材にしていたようです。ここにはそうした時期の作品が並んでいました。

456 葛飾北斎 「狐狸図」
こちらは2幅対の肉筆掛け軸で、左幅は囲炉裏の側で坊主の姿をした狸、右幅は白蔵主という僧に化けた狐が罠に仕掛けられたネズミを気にしている様子が描かれています。色が濃いめとなっていますが、立ち上る煙の表現などは繊細です。いずれも擬人化されているわけですが、人間そのもののような感情表現が面白かったです。

459 葛飾北斎 「富士越龍図」 ★こちらで観られます
こちらは90歳で世を去る3ヶ月前に描かれた作品で、肉筆では絶筆に近い画業70年の最後を迎えた貴重な掛け軸です。白い縦長の富士と、その後ろに立ち昇る黒い雲の中に昇り龍が墨の濃淡で描かれています。爪を広げて仰け反るような龍は躍動感があり、黒い隅の中で白い姿が目を引きました。晩年まで恐るべし画力を発揮していたのがよく分かる作品です。

455 葛飾北斎 「向日葵図」 ★こちらで観られます
こちらは竹に支えられたヒマワリを描いた肉筆画です。まっすぐ伸びて縦長の構図となっていて、題材共々珍しい作品だと思います。ややピンクがかったヒマワリの花は可憐な印象で、葉っぱの緑は鮮やかでした。どこか人間の立ち姿のようにも思えるんですよね…

462 葛飾北斎 「弘法大師修法図」 ★こちらで観られます
こちらは今回のポスターにもなっている作品で、西新井大師に伝わる大型の絵馬です。左に金棒を持った筋肉隆々の鬼が迫り、右では巻物を持った弘法大師が祈る様子が描かれています。弘法大師の後ろには犬の姿があり、木に巻き付くように身を捩らせ鬼に唸っているように見えます。解説によると、これは弘法大師が西新井で流行の疫病を鎮めた逸話を元にしているようで、この鬼は病魔かな。暗闇に赤い肌が浮かび上がって非常に迫力があります。ポーズも独特で一層に恐ろしい雰囲気を出していました。
また、先日テレビで紹介されていたのですが、木に生えたキノコは木に寄生して朽ちさせる種類らしいので、そういった細かい部分まで幅広い知識を活かしているようでした。


ということで、後半は有名作や傑作が勢揃いといった圧巻の内容となっていました。正直、北斎の展示はしょっちゅう観ているので混雑しているなら観なくても良いかな?なんて思って会期終盤まで行かなかった訳ですが、予想以上の質・量に驚かされました。特に最後のあたりの肉筆画は見事です。もう会期末となっていますので、気になる方はすぐにでもどうぞ。




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