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桃源郷展―蕪村・呉春が夢みたもの― 【大倉集古館】

前回ご紹介した大倉集古館の1階の展示を観た後、2階の「桃源郷展―蕪村・呉春が夢みたもの―」も観てきました。

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【展覧名】
 大倉集古館リニューアル記念特別展
「桃源郷展―蕪村・呉春が夢みたもの―」

【公式サイト】
 https://www.shukokan.org/exhibition/

【会場】大倉集古館
【最寄】六本木一丁目/溜池山王/神谷町

【会期】2019年9月12日(木)~11月17日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 0時間40分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_4_⑤_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_③_4_5_満足

【感想】
こちらも空いていて快適に鑑賞することができました。

さて、この展示は大倉集古館が新収蔵した呉春の「武陵桃源図屏風」の初公開に合わせたもので、師匠の与謝蕪村を始め 多くの画家が描いた「桃源郷」を主題にした作品が並んでいます。そもそも桃源郷とは中国の宋の頃の詩人 陶淵明による『桃花源記』に出てくる村を指すもので、武陵の漁夫が桃に囲まれた川を迷っているうちに洞穴を抜けると、そこには秦の頃に戦乱を逃れて外界との接触を絶っている村があった… という今で言えば千と千尋のような異世界に迷い込む話となっています。平和で豊かな桃源郷は理想郷そのものと解釈され、多くの人の心を魅了し絵にも描かれていきました。この展示ではそうした作品が3つの章に分かれて並んでいましたので、各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。


<第一章 呉春《武陵桃源図屏風》―蕪村へのオマージュ―>
まず1章は新収蔵された呉春の「武陵桃源図屏風」に関連して四条派の始祖となる呉春と、その師である与謝蕪村の作品が並ぶコーナーです。
 参考記事:円山応挙から近代京都画壇へ 感想前編(東京藝術大学大学美術館)

1 与謝蕪村 「桃林結義図」
こちらは満開の桃の樹の下に3人の中国の男たちが集まって酒席を用意している様子が描かれている作品です。これは三国志の桃園の誓いのエピソードを絵画化したもので、キリッとした劉備、ひげの長い関羽、どんぐり眼の張飛といった感じでそれぞれの特徴が表されています。崖のような所ですが、満開の桃が爽やかで明るい印象を受けるかな。しかし、解説によると 与謝蕪村はこれを描いた年に俳諧の盟友や愛弟子を相次いで失ったそうで、親しい友人たちとの永遠の絆をこの絵に託しているとも解釈できるようです。悲しみの反動で幸せな雰囲気になっているのかも知れませんね…。
 参考記事:特別展「三国志」 感想前編(東京国立博物館 平成館)

7 呉春 「柳陰帰漁図屏風」
こちらは2曲1隻の屏風で、柳が生い茂る坂道を3人の漁夫が釣り竿を持って歩く様子が描かれています。それぞれ老いた男、壮年の男、若い男となっているようで、三世代の様子を表しているようです。南画の様式で全体的に簡素な筆使いで素朴な印象を受けますが、顔の部分は緻密に描かれているかな。解説によると、これは呉春が滞在した敏馬浦(みぬめのうら。現在の神戸市灘区)あたりの光景を描いたのだとか。

この辺は2人の作品が並び、与謝蕪村と呉春の合作の「陶淵明画讃」(★こちらで観られます)などもありました。

10 呉春 「武陵桃源図屏風」 ★こちらで観られます
こちらが今回の新収蔵品となる六曲一双の屏風です。桃源郷に迷い込む武陵桃源の話を主題にしていて、右隻は桃の木々に囲まれた川を行く武陵の舟人、左隻は大樹の下に仙人のような人たちが集まる様子が描かれています。左端には箒で掃除する人の後ろ姿があり、拾得に似た雰囲気があるようにも思えるかな。桃などは細かい点描で表されていて、全体的に薄い色彩となっています。それが夢幻のような淡さで、幻想的な印象を受けました。

隣には呉春の「武陵桃源図巻」もありました。


<第二章 桃の意味するもの―不老長寿・吉祥―>
続いては桃をモチーフにした作品のコーナーです。中国では桃は不老長寿や吉祥の意味があり、仙女の西王母の桃は三千年に一度 実をつけ、食べれば不老長寿の力を得られるとされていました。ここにはそうした縁起の良い画題の作品が並んでいました。

12 伝 明・呂紀 「鶴桃図」 ★こちらで観られます
こちらは川を背景に大きな実を付けている桃の木が描かれ、その上に舞い降りてくる鶴の姿が描かれた作品です。鶴はやや振り返るような姿勢で、桃を観ているのかな?? 解説によると、中国の明代院体花鳥画の様式で写実的に描かれていて、江戸時代には呂紀の作品であると考えられたようですが、その作風に近いものの清時代の表現なども観られることから、現在では清初期の頃の作品ではないかと考えられるようです。それにしても丸々とした桃が瑞々しくて美味しそうw 鶴も長寿を象徴するので、おめでたい雰囲気の作品に思えました。

14 沈南蘋 「双寿図」
こちらは桃の木とそこにとまる2羽の小鳥が描かれた作品です。白く尾の長い鳥は優美で、桃は質感が分かるくらい緻密かつ濃密な筆致となっています。この沈南蘋は鎖国中の長崎に来て写実的な画風を日本に伝えた画家で、「南蘋派」と呼ばれる流派を生んだだけでなく 円山応挙や伊藤若冲に多大な影響を与えています。その為か、この絵の鳥も伊藤若冲に通じるものが感じられました。


<第三章 「武陵桃源図」の展開―中国から日本へ―>
最後は「武陵桃源」の話をテーマにした作品が並ぶコーナーです。ここには15世紀の中国の作品から明治時代の日本の作品まで、様々な画家に描かれた「武陵桃源図」が並んでいました。

23 谷文晁 「武陵桃源図」
こちらは南画で、山の谷間沿いに桃の木が並び その先に家々が並ぶという桃源郷を俯瞰するような構図となっています。漁夫の姿もあって、まさに『桃花源記』のワンシーンを上から観ている感じです。所々に霧のような白く棚引く帯があり、異世界へと迷い込む幻想的な雰囲気が出ていました。

この辺にはいずれも『桃花源記』の物語を絵画化した作品が並んでいました。画風は違えど場面は似ていて見比べると面白い。

27 河村文鳳 「武陵桃源図屏風」 ★こちらで観られます
こちらは六曲一双の屏風で、ほとんどモノクロで一見して水墨画かと思いました。しかし右隻の川沿いに並ぶ桃の木には薄っすらとピンクと緑の点々があり、頭上の雲は無数の細かい金銀箔のようなもので表されています。左隻は水田や家のある村で、人々ものんびり農作業をしたりしていて平和そのものです。全体的にはかっちりした筆致で個性的な印象を受けました。

2階展示室の先にはテラスもあって、そこに出ることもできるようでした。目の前にはビルになったホテルオークラがあるだけですが…w


ということで、点数は少なめですが桃源郷や桃という限られたテーマの作品を比較しながら観ることができました。私は南画はそれほど好みではないですが、それぞれの画家の個性も感じられました。1階の展示と合わせて楽しめるので、日本美術好きな方はチェックしてみてください。

おまけ:
庭にあった武石弘三郎の「大倉鶴彦翁像」
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写真だと分かりづらいですが、実寸サイズより2周りくらい大きくて 立派な像です。


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大倉集古館名品展 【大倉集古館】

日付が変わって昨日となりましたが、虎ノ門の大倉集古館で「大倉集古館名品展」を観てきました。

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【展覧名】
 大倉集古館名品展

【公式サイト】
 https://www.shukokan.org/exhibition/

【会場】大倉集古館
【最寄】六本木一丁目/溜池山王/神谷町

【会期】2019年9月12日(木)~11月17日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 0時間20分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_4_⑤_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_③_4_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_③_4_5_満足

【感想】
空いていて快適に鑑賞することができました。

さて、この展示は2014年4月1日から休館していた大倉集古館が2019年9月12日にリニューアルオープンしたことに伴うもので、大倉集古館が誇るコレクションの中から選りすぐりの品が1階展示室に並んでいました。リニューアルの様子と共に気になった作品をいくつかご紹介していこうと思います。

冒頭の写真は正面からで、こちらは裏から観た様子。外観がかなり綺麗になりました。
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館内も綺麗になっていて、1階2階はあまり変わっていないものの地下に入れるようになり、ロッカーやミュージアムショップも地下にあります。エレベーターも完備されてバリアフリー化も進みました。

大倉集古館の目の前には立派なホテルオークラの本館もあり、「The Okura Tokyo」という名前でビルに生まれ変わりました。
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そう言えば今年は毎年恒例のホテルオークラ(別館)のチャリティー展示が無かった訳ですが、別館も建て替えの計画があるそうです。
5年に及ぶ改修の様子を見て回った後、1階の展示を見て回りました。正直、全部見覚えはありますが何しろ久々のご対面となる作品もありました。

「能装束 鬱金地垣夕顔模様縫箔」
こちらは落ち着いた金色の地に藁束のような垣と夕顔が表された能装束です。これらは源氏物語の「夕顔」の帖を連想させるモチーフで、この装束が作られた江戸時代のモチーフの選び方の特徴が現れているようです。よく観ると金地の部分には細かい幾何学的なパターン文様もあり かなり緻密です。一方、垣の配置は大胆で流れるような勢いを感じさせます。夕顔の可憐さと対象的に思えて面白い模様でした。

この辺は能関連の品が並んでいました。

宗達派 「扇面流図屏風」
こちらは六曲一双の屏風の左隻のみが展示されていました。単純化された川の流れを背景に、無数の扇が散らされています。扇面にはいずれも異なる絵が描かれている訳ですが、新古今和歌集に因むものが11図あるようです。川の流れは勢いがあるけど、扇面は緻密に描かれた草花が多く 雅な雰囲気なのが面白いかな。扇自体の連なりもリズミカルで、動きを感じさせました。

尾形光琳・尾形乾山 「銹絵寿老図六角皿」 ★こちらで観られます
こちらは六角形で縁の付いた皿で、中には巻物を読む寿老人のやや後ろ向きの姿が描かれています。表情は笑っているように見えて嬉しそう。銹絵なのでモノクロの世界となっていて、簡素で素朴な絵柄と共にゆるキャラ的な可愛さを感じました。この兄弟の合作は名品ばかりです。

藤原定実 「古今和歌集序」 ★こちらで観られます
こちらは国宝で、古今和歌集の平安時代の写本となります。およそ正方形の料紙が連なるような巻物で、料紙はそれぞれ白・赤・藍・オレンジ・黄色など色とりどりで、植物文様が表されているものもあります。それだけでも華やかな雰囲気ですが、そこに流れるような筆致で ひらがなで歌が詠まれていて、軽やかな印象を受けました。あまり書の良し悪しが分からない私でも これは一目でその美しさが分かるくらい見事な作品です。

「普賢菩薩騎象像」 ★こちらで観られます
こちらは国宝で、象の背に乗せた蓮華の台に座る普賢菩薩が表された仏像です。象と普賢菩薩のサイズを比べると、普賢菩薩は結構大きいかもw 象は口を開けていて、中を覗くと歯が生えて舌まで表されています。また、今は木目が露出していますがかつては截金などで装飾していたようで、その痕跡も伺えます。普賢菩薩は薄っすらと目を開けて見通すような眼差しで、穏やかな雰囲気でした。解説によると作者は不明のようですが円派仏師との関わりを指摘する説があるようです。

横山大観 「夜桜」 ★こちらで観られます
こちらは六曲一双の屏風で、篝火に照らされた桜や木々が描かれています。背景は暗い山で、画面中央辺りの山間から月が顔を出しています。明暗がハッキリしているため全体的に色が明るく感じられ、桜の美しさが際立ち華やかな印象を受けます。迫りくるような臨場感があって、この大倉集古館を代表する名作だと思います。
 参考記事:生誕150年 横山大観展 感想後編(東京国立近代美術館)

下村観山 「不動尊」
こちらは掛け軸で、紺地の身体と金色の輪郭で表された不動明王が描かれています。倶利伽羅剣と羂索を持つ典型的な不動明王で、脇侍の制多迦童子(せいたかどうじ)と矜羯羅童子(こんがらどうじ)も同様の色合いとなっています。紺と金の対比によって非常に神々しく力強い雰囲気で、光背の火焔も金の濃淡で表されていてオーラのように揺らめいていました。一際 存在感のある作品です。

小林古径 「木菟図」
こちらは紅梅の枝にとまるミミズクを描いた掛け軸です。背景はぼんやりした暗闇に金泥が塗られていて、静けさが感じられます。ミミズクはじっと前を見つめていて凛々しい佇まいで、紅梅は可憐な印象となっていました。色の使い方が見事です。


ということで、実に5年半ぶりにコレクションを観られました。内容もまさに名品展の名に相応しい選りすぐりの作品ばかりです。ここは ぐるっとパスの提示で入れるのも嬉しい点で、近くには智美術館や泉屋博古館などもあります。今後の展覧会が楽しみになるような綺麗な美術館に生まれ変わっていました。



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コートールド美術館展 魅惑の印象派 (感想後編)【東京都美術館】

今日は前回に引き続き東京都美術館の「コートールド美術館展 魅惑の印象派」についてです。前編は2章の途中まででしたが、後編は最後までご紹介して参ります。まずは概要のおさらいです。

 → 前編はこちら

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【展覧名】
 コートールド美術館展 魅惑の印象派

【公式サイト】
 https://courtauld.jp/
 https://www.tobikan.jp/exhibition/2019_courtauld.html

【会場】東京都美術館
【最寄】上野駅

【会期】2019年9月10日(火)~12月15日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
前編に引き続き、各章ごとに気に入った作品と共にご紹介して参ります。


<2 時代背景から読み解く>
2章の後半はルノワールやマネの傑作が並んでいました。コートールドが近代フランス絵画蒐集をした大きなきっかけの1つは1922年にロンドンで開催されたヒュー・レーン卿のコレクションを紹介した展示だったそうで、フランス絵画に魅了されて その年のうちにルノワールを2点購入しています。その中の1点はルノワール最晩年の「靴紐を結ぶ女」で、この章の途中で観ることができます。コートールドはルノワールを近代美術の動向を代表する画家の1人と考えていたようで、ルノワールについても傑作コレクションが展示されていました

26 ピエール=オーギュスト・ルノワール 「アンブロワーズ・ヴォラールの肖像」
こちらは有名な画商のヴォラールを描いた肖像で、やや禿げ気味で 丸々とした顔と体つきをしています。裸婦の彫刻を手にもってしげしげと眺めていて、作品の出来栄えを見ているのかな。背景は茶色く全体的に割としっかりした輪郭で、身体に沿ってやや影がついているように見えます。現実よりもかなり魅力的に描いているとのことで、穏やかな紳士といった雰囲気でした。
 参考記事:ルノワール-伝統と革新 感想前編 (国立新美術館)

27 ピエール=オーギュスト・ルノワール 「靴紐を結ぶ女」 ★こちらで観られます
こちらは最晩年にカーニュで描かれた作品で、コートールドが初めて購入したフランス絵画です。椅子に腰掛けて靴紐を結んでいる女性が描かれ、肉付きが良く顔は赤っぽく染まっています。全体的に温かみを感じる色彩で、背景はベッドがありますが形態よりも色を重視しているように思えます。ルノワールが得意とした女性像の特徴がよく出ていて、最初のコレクションから良い品を手に入れたように思いました。
 参考記事:ルノワール美術館 【南仏編 カーニュ・シュル・メール】

29 ピエール=オーギュスト・ルノワール 「桟敷席」 ★こちらで観られます
こちらは劇場の桟敷席に座る花飾りを付けた女性と、その右後ろで双眼鏡で上の方を見ている男性が描かれています。女性は流行のドレスらしく、白と黒の縞模様で洒落た雰囲気です。それにしても2人とも舞台ではなく別の所に目線が行っている訳ですが、これは当時の桟敷席はパリの最新のファッションが観られる場所だったこともあり、それを観たり観られたりするのを意識しているようです。恋の駆け引きなんかもあったらしいので、社交の場として機能していたと思われ 華やかで当時の流行の様子なども伝わってきます。解説によると、この女性のモデルはお気に入りだったニニ・ロペス、男性は弟のエドモンとのことです。また、当時のモード誌では盛んに桟敷席のファッションを取り上げていたようですが、これを絵画の主題にするのは当時は革新的だったそうです。コートールドはこれを特別に大切にしたというのも頷ける素晴らしい傑作で、人間模様も伺えて面白い作品でした。

31 エドガー・ドガ 「舞台上の二人の踊り子」 ★こちらで観られます
こちらは手を広げて舞っている2人のバレリーナを描いた作品で、2人はやけに右上の方に立っていて余白が多い画面となっています。この斬新な構図は日本美術からの影響のようで、下から光が当たって絶妙な陰影となっている点と合わせて 動きを感じさせます。よく観ると左のほうにもう1人の姿があり、衣装の一部だけが描かれています。これもまるで何処かの席からの光景の一瞬を切り取ったような臨場感を感じさせました。

この近くにはドガの彫刻作品もありました。

33 アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック 「個室の中(「ラ・モール」にて)」
こちらは「死んだネズミ」という意味のパリのカフェ・レストランの個室を描いた油彩作品で、真っ赤な口紅の女性が紳士と逢引している様子が描かれています。この女性は高級娼婦らしく着飾っていますが顔は不気味な笑みを浮かべて妖怪っぽい雰囲気ですw ロートレックらしい皮肉の効いた誇張気味の人物像に思えました。

34 エドゥアール・マネ 「草上の昼食」
こちらは一大スキャンダルを巻き起こしたオルセー美術館所蔵の作品と同じ名前ですが、別物です。オルセーの作品を製作している時に背景の検討の為に描いたと考えられるそうで、全体的に構成はかなり似ています。手前で3人の男女が草の上に座って寛いでいるのですが、女性は何故か裸体で これが批判される要因となりました。(裸婦は神話ならOKだけど現実の裸婦は不道徳と思われていた) 奥には川に入ってかがんでいる人物もいて、神話の世界に男性たちが迷い込んだみたいな感じにも思えるかな。習作のためかオルセーで観た本作に比べると若干粗めのタッチになっているように見えました。
 参考記事:【番外編 フランス旅行】 オルセー美術館とセーヌ川

35 エドゥアール・マネ 「フォリー=ベルジェールのバー」
こちらは今回のポスターにもなっているマネの晩年の傑作で、思ってた以上に大きくて目を引きます。パリのミュージック・ホールのバーが描かれ、中央にバーメイドが立ち その背後には鏡に写ったバルコニー席や曲芸師の足などが見えています。ちょっと妙なのが鏡に映るバーメイドの後ろ姿とシルクハットの紳士で、実際にはこんな角度で反射しないだろうという位置になっています(そのせいで私は別の人物だと思ってましたw) しかしこの2人は何度も描き直してこの場所にしていることが科学分析で分かっているそうで、バーメイドの存在感を引き立たせる為ではないかと考えられているようです。他にも瓶の位置とかも違ったりしますが、手前と鏡の中では筆の精密さが違っているように見えました。鏡によってバーの賑わいを感じさせると共に、自在に配置することで面白い効果を生んでいました。
ちなみにマネはこの絵の為に自宅のアトリエの一部にバーを作ってバーメイドにポーズを取らせたのだとか。その徹底ぶりがこの傑作に繋がったんでしょうね。


<3 素材・技法から読み解く>
最後は素材と技法から作品を読み解くコーナーです。コートールド美術館ではX線や赤外線を用いた科学的な調査・研究が行われているそうで、この章では普段観ることが出来ない画面の下に目を向けて 筆使いや使われた絵の具など 制作の痕跡に光を当てていました。

40 ジョルジュ・スーラ 「クールブヴォワの橋」 ★こちらで観られます
こちらはスーラが点描を画面全体に用いた最初の作品とされる風景画です。桟橋のあるセーヌ川の川岸が描かれ、川にはヨット、対岸には工業地帯が見えています。手前の草原の斜面には2人の人物が川に向かって立っていて、ポツンとしてちょっと黄昏れているような雰囲気です。全体的に点描で静かな色彩となっていることもあって寂しげに思えるかな。点はかなり細かく、新しい表現の始まりを目にすることができました。この後の新印象主義の影響を考えると時代を変えた作品とも言えそうです。

この隣にはスーラの小さな準備習作が並んでいました。まだ点描ではなく、中には有名作「グランドジャット島の日曜日の午後」の為の習作もありました。

58 ポール・ゴーガン 「メットの肖像」
こちらは妻の肖像彫刻で、大理石で出来ていてかなり滑らかな仕上がりとなっています。鼻が高く知的で、こんな高度な彫刻技術がゴーギャンにあったの??と疑問に思えるくらいの完成度ですw 解説によると、これは妻の29歳頃の姿らしく、大理石の加工には専門的な技術が必要なのに質感には熟練された技術が観られることから 当時の家主だった彫刻家が制作に関わった可能性が指摘されているそうです。その仮設がしっくり来るくらい、恐ろしく熟練した肖像彫刻でした。

なお、コートールドがポスト印象派に関心を持ったきっかけは1922年の「フランス美術の100年展」だったそうで、同年にゴーギャンを2点購入しています。感性に訴える色彩に魅了されて、1924年に初のゴーギャン個展が開催されると、その出品作の一部も購入しました。やがて油彩5点・版画10点・彫刻1点・素描2点ものコレクションを蒐集したのだとか。

60 ポール・ゴーガン 「テ・レリオア」 ★こちらで観られます
こちらは2人のタヒチの女性が座わる姿と、その傍らの犬や うつ伏せで寝ている子供などが描かれた作品です。背景には窓なのか絵なのか分かりませんが馬に乗った男の後ろ姿もあり、周りは壁画のようなもので囲まれています。平坦でやや沈んだ色調ですが力強い色となっていて、太めの輪郭線も人と物の存在感を強めているように思います。何をしているのか謎めいていますが、ゴーギャン自身はこの絵について「この絵の中ではすべてが夢だ。子供か 母親か 小道にいる馬に乗る男か、あるいは画家の夢なのか」と手紙に描いていたそうです。ってことは夢の中なのかな? 現実感はあるけどやや不思議な雰囲気はそのせいなのかも?と思いながら観ていました。

隣には「ネヴァーモア」(★こちらで観られます)もありました。これもタヒチの裸婦を描いていて、謎めいた神秘性を感じる作品です。

47 ピエール・ボナール 「室内の若い女」
こちらは後に結婚するマルトを描いた作品で、ソファに座っている姿となっています。やや口を開けて笑っているような表情で、誰かと話しているのかもしれません。(もしくはブドウをもって食べようとしている?) 全体的に俯瞰的な視点となっていて、静かな色調と共に親密な印象となっていました。日常の一場面を描いたような感じかな。
 参考記事:ピエール・ボナール展 感想前編(国立新美術館)

近くにはヴュイヤールやスーティンなどもありました。

45 アメデオ・モディリアーニ 「裸婦」 ★こちらで観られます
こちらは頭を肩に乗せて目を瞑る裸婦を描いた作品で、後ろの壁にもたれ掛かるような姿勢をしています。単純化され 顔は引き伸ばされていて、アフリカやオセアニアの彫刻からの影響が伺えます。とは言え、まだそれほど誇張されていないように思えるかな。解説によると、髪の部分には乾かないうちに引っ掻いた線があり、顔には細い筆で薄く絵具が置かれ一層滑らかな仕上がりを目指した痕跡があるそうです。また、この絵はモディリアーニの個展の際にショーウィンドウに飾られたものの騒ぎになり、公序良俗に反するとして警察に撤去を求められたそうです。色々と逸話があるようですが、いずれにせよモディリアーニの個性がよく分かる名作じゃないかな。隣にはX線写真で筆跡を写したものがあり、その痕跡がよく分かりました。

最後はドガやロダンなどの彫刻が並んでいました。


ということで、後半も名作が目白押しとなっていました。特にルノワールの「桟敷席」とマネの「フォリー=ベルジェールのバー」は傑作中の傑作だと思います。これだけのコレクションを日本で観られる機会は中々無いので、洋画好きの方は是非どうぞ。会期は長いけど会期末は混むので行くなら早めがオススメです。



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コートールド美術館展 魅惑の印象派 (感想前編)【東京都美術館】

2週間程前に上野の東京都美術館で「コートールド美術館展 魅惑の印象派」を観てきました。非常に濃密な内容でメモを多めに取ってきましたので、前編・後編に分けてご紹介していこうと思います。

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【展覧名】
 コートールド美術館展 魅惑の印象派

【公式サイト】
 https://courtauld.jp/
 https://www.tobikan.jp/exhibition/2019_courtauld.html

【会場】東京都美術館
【最寄】上野駅

【会期】2019年9月10日(火)~12月15日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
沢山のお客さんで賑わっていて 列を組んでいる場所が多かったですが、少し待てば目の前で観られるくらいの混雑具合でした。会期末には混雑すると思われますので、気になる方は早めに行くことをオススメします。

さて、この展示はロンドンにあるコートールド美術館で改修工事が行われていることから、選りすぐりの絵画・彫刻など60点が20年ぶりに来日しているもので、研究機関としての側面にも注目して 各テーマごとに読み解くという内容となっています。コートールド美術館は20世紀初頭にレーヨン(人造絹糸)産業で成功した実業家のサミュエル・コートールドが収集したコレクションを核にしていて、当時はまだ評価の定まっていなかった印象派の作品に魅了され、イギリスの市民にその魅力を紹介するために1920年代を中心に精力的に蒐集されたようです。1932年にはロンドン大学附属コートールド美術研究所を創設し、サミュエル・コートールドはコレクションの大半を寄贈しました。この展示では3つの視点からそれらのコレクションを読み解いていましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。


<1 画家の言葉から読み解く>
まずは画家自身の言葉から作品を読み解くコーナーです。画家たちは画商・画家仲間・友人・家族に多くの手紙を書いていて、大半は失われてしまいましたがゴッホは820通以上残されているなど手がかりがあるようです。そして今日に伝わる手紙や生前のインタビューは画家の日常や芸術観・生前の様子を伝えてくれるようで、この章ではそうした画家の言葉に注目しながらゴッホ・モネ・セザンヌなどの作品が展示されていました。

2 フィンセント・ファン・ゴッホ 「花咲く桃の木々」 ★こちらで観られます
こちらはアルルの小高い場所から見渡すような光景を描いた作品で、手前から横に連なる柵と脇の道、桃の木々、畑、まばらな家々、山並みなどが描かれています。遠くに見えている山は雪が積もってやや富士山のような形をしていると解説していて、確かにそう見えなくもないかな。ゴッホは「この地のすべては小さく、庭、畑、庭、木々、山々でさえ まるで日本の風景画のようだ。だから私はこのモティーフに心ひかれた」と語っていたようで、日本を意識していたのは間違いなさそうです。細かい線を重ねる点描の発展のような技法で厚塗りされていて、筆致は強いものの全体的には長閑な雰囲気が漂い心休まるような風景でした。
 参考記事:ゴッホゆかりの地めぐり 【南仏編 サン・レミ/アルル】

この隣にはホイッスラーの日本の桜をイメージした作品がありました。当時のジャポニスムの興隆が見て取れます。

3 クロード・モネ 「アンティーブ」 ★こちらで観られます
こちらは南仏のアンティーブの海岸の風景画で、手前に大きな松の木が描かれ 奥には海、さらに奥には対岸が霞んで見える光景となっています。粗めのタッチですが臨場感のある陰影を深い青で表現していて爽やかです。中央に松が大きく描かれているのは浮世絵からの影響じゃないかな。モネ自身はロダン宛ての手紙に「私は太陽と刃を交え闘っています。~中略~ 黄金と宝石で描かねばならないのです」と書いていたようです。煌めくような海がその言葉通りの美しさとなっていました。

続いてはセザンヌのコーナーです。セザンヌはコートールドが最も多く作品を購入した画家で、「プロヴァンスの風景」を観て魅了されたようです。驚くような傑作ばかりが並んでいました。

1-1 「エミール・ベルナールに宛てたセザンヌの手紙 1904年4月15日」
こちらは1904年4月15日の手紙で、後のキュビスムにも繋がる非常に重要な内容が書かれています。「自然を円筒、球、円すいによって扱いなさい。物や面の各側面が1つの中心点に向かって集中するように全てを遠近法の中に入れなさい」とベルナールに説いていて、この理論が近代絵画の父と呼ばれる由縁だったりします。まさに歴史的な資料で、絵画作品同様に見どころになると思います。

この辺は手紙がずらりと並んでいました。自然観察の大切さなどを語っているのが多いかな。これもセザンヌの特徴がよく表れた考えだと思います。

9 ポール・セザンヌ 「大きな松のあるサント=ヴィクトワール山」 ★こちらで観られます
こちらは高いところから眺めたサント=ヴィクトワール山を描いた作品で、左側には大きな松が描かれ その枝のたわみが山の稜線と平行している部分があります。緑が多く清々しい光景で、家や石橋の形などに幾何学的なリズムもあって セザンヌ独特の色合いと形態になっています。サント=ヴィクトワール山はセザンヌがよく描いた故郷の山ですが、これは特に見ごたえがある作品だと思います。
 参考記事:セザンヌゆかりの地めぐり 【南仏編 エクス】

11 ポール・セザンヌ 「カード遊びをする人々」 ★こちらで観られます
こちらは有名作で、小さなテーブル越しに向かい合ってカード遊びをしている2人の帽子を被った農民が描かれています。お互いに自分の手元をじっと見ていてゲームに没頭しているようで、心なしか右の男性は浮かない顔に見えるかなw テーブルが妙に傾いていたり人の身体のバランス(特に左の人の足の長さなど)がおかしいようですが、細部よりも画面全体の調和を重視しているそうです。筆を重ねてちょっとくすんだ質感で描かれている点なども面白く、セザンヌの作品の中でも特に名作といえると思います。
実はこの絵はそっくりの絵が他に2点(オルセー美術館所蔵・カタール王族所蔵)あり、さらにメトロポリタン美術館とバーンズ財団に同様のカード遊びの主題の作品があります。この絵を含む3点の2人バージョンの中で、この絵は2点目となるのだとか。オルセーのも観たことがあるのであと1点! …ってカタールの王族の所蔵のは観られそうもないかなw

この隣には同じ人物を描いたと思われる「パイプをくわえた男」もありました。他にも「キューピッドの石膏像のある静物」などどれも素晴らしい作品で、セザンヌだけでもかなりの満足度です。


<2 時代背景から読み解く>
続いて2章は時代背景から作品を読み解くコーナーです。印象派の時代、中産階級が台頭し都市生活や余暇を謳歌する人々が増えました。また、鉄道網が整備され郊外に気軽に足を運べるようになり、汽車や蒸気船・工場の煙突など近代化の波も押し寄せてきていたようです。印象派以降の画家たちはそうした光景をよく描いていて、ここには時代を象徴するモティーフの作品などが並んでいました。

15 ウジェーヌ・ブーダン 「ドーヴィル」
こちらは広々とした砂浜と海を描いた作品で、地面はかなり下の方に描かれ空を大きく取った開放的な画面となっています。青空に雲がもくもくと浮かび、「空の王者」と評されたブーダンらしい空の表現を堪能できます。一方、人々は小さく描かれていて手前に馬車の姿もあります。リゾート地となったドーヴィルの楽しげな雰囲気が伝わり、明るい印象を受けました。

16 エドゥアール・マネ 「アルジャントゥイユのセーヌ河岸」
こちらは手前に母と子が川岸に並び、目の前の小舟とセーヌ川を眺めている様子が描かれた作品です。対岸には四角い洗濯船の姿があり、当時のセーヌ川の日常の風景と言ったところでしょうか。全体的に筆致は大きく大胆で、色が明るく感じられます。特に水面は揺らめいているように見えました。また、母子の後ろ姿を観ていると、2人は何を想って川を眺めているのか?と色々と想像が膨らんできて面白かったです。

この近くにあったモネの「秋の効果、アルジャントゥイユ」(★こちらで観られます)も爽やかな傑作でした。

18 カミーユ・ピサロ 「ロードシップ・レーン駅、ダリッジ」 ★こちらで観られます
こちらは印象派が描いた最初の鉄道絵画とされる作品です。跨線橋の上から見た光景のようで、向こうから汽車がこちらに向かってきています。ピサロは普仏戦争でロンドンに疎開していた時期があり、これはその頃に描いたもののようです。白い噴煙を上げて貨車を引っ張っている汽車は力強いというよりかは小さくポツンとした感じで、どんよりしたロンドンらしい曇り空と相まってやや寂しい印象を受けました。

この隣にあったシスレーの「雪、ルーヴシエンヌにて」も好みでした。

23 アンリ・ルソー 「税関」
こちらは税官吏だったルソーが自分の職場を主題とした唯一の作品です。しかし当時の資料に類似した風景はなく、現実と想像を組み合わせて描いているようです。木々に囲まれ 黒い鉄の門があり、奥に2本の細い煙突も見えていて、煙突は近代化の象徴とのことです。2人の黒い制服の人物もいつのですが、玩具の人形のように見えるかなw この素朴さがルソーの魅力です。 解説によると、滑らかな絵肌は新古典主義からの影響ではないかとのことで、下手なのか上手いのか何とも絶妙な味わいが出ていました。


ちょっと長くなってきたので、中途半端な所ですが今日はここまでにしておこうと思います。前半の見どころは何と言ってもセザンヌだと思います。傑作の数々が一気に観られてそれだけでも行った甲斐がありました。後半にもマネをはじめ見どころばかりでしたので、次回は最後までご紹介の予定です。

 → 後編はこちら




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Cafe THE SUN 【六本木ヒルズのお店】

前回ご紹介した展示を観た後、森アーツセンターギャラリーの前にあるCafe THE SUNで夕食を摂ってきました。このお店は期間によってコラボレーション企画があり、この記事は2019/9/20時点の内容となります。

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【店名】
 Cafe THE SUN

【ジャンル】
 レストラン/カフェ

【公式サイト】
 http://thesun-themoon.com/sun/
 食べログ:https://tabelog.com/tokyo/A1307/A130701/13187214/
 ※営業時間・休日・地図などは公式サイトでご確認下さい。

【最寄駅】
 六本木駅

【近くの美術館】
 森美術館
 森アーツセンターギャラリー

【この日にかかった1人の費用】
 1700円程度

【味】
 不味_1_2_3_④_5_美味

【接客・雰囲気】
 不快_1_2_3_④_5_快適

【混み具合・混雑状況(金曜日20時半頃です)】
 混雑_1_2_3_4_⑤_快適

【総合満足度】
 地雷_1_2_3_④_5_名店

【感想】
金曜日の夜ということもあり空いていて快適に食事することができました。

さて、このお店は六本木ヒルズ内の森美術館と森アーツセンターギャラリーのフロアにあるレストラン・カフェで、よく森アーツセンターギャラリーの展示に合わせてコラボ企画を行っています。店内の内装やメニューが企画展にちなんだものになることが多く、展覧会を楽しむ前後の気分も盛り上げてくれます。

この日は次の日から始まるバスキア展に合わせたコラボとなっていました。
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まあ内装はこの垂れ幕くらいですが。軽快なジャズが流れてニューヨークっぽい雰囲気です。

中はこんな感じ。この日は空いていましたが、いつもは凄く混んでいるイメージがあります。
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久々に行ったので忘れていましたが、会計はテーブル会計になっているようです。

この日は9/10~9/20のメニューとなっていて、タコラグーのフェデリーニ 香草パン粉かけ のセット(1580円)を頼みました。

まずはサラダ。飲み物はアイスティにしました。
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ナッツなどが入っているけど普通のサラダかなw アイスティは確かアールグレイだったかな。苦くないのでストレートでも美味しかったです。

こちらがタコラグーのフェデリーニ。
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タコラグーは細かいタコをひき肉を合わせたソースで、フェデリーニは素麺のように細いパスタのことです。香草の香りが良く、たっぷり乗ったパン粉はしっとりめでした。食べてると舌触りのアクセントになって美味しかったです。


ということで、今回は比較的コラボっぽい感じは薄かったように思いますが、展示に合わせてメニューや内装が変わるのは面白い趣向だと思います。展示の混雑具合に比例して混む傾向があるように見受けられますので、人気展の時はちょっと時間に余裕を持って行くことをオススメします。
ちなみにこの2日後の日曜の昼過ぎにバスキア展を観に行ったら、入場1時間待ちだったので諦めましたw また空いてそうな時に行くか覚悟を決めて並んで観てこようと思っています



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塩田千春展:魂がふるえる 【森美術館】

今日は写真多めです。この前の金曜日の会社帰りに六本木の森美術館で「塩田千春展:魂がふるえる」を観てきました。この展示は撮影可能となっていましたので、写真を使ってご紹介していこうと思います。

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【展覧名】
 塩田千春展:魂がふるえる

【公式サイト】
 https://www.mori.art.museum/jp/exhibitions/shiotachiharu/index.html

【会場】森美術館
【最寄】六本木駅

【会期】2019年6月20日(木)~ 10月27日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間00分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
金曜日の夜だったこともあり、それほど混むこともなく快適に鑑賞することができました。

さて、この展示はベルリンを拠点にグローバルな活躍をされている塩田千春 氏の過去最大規模の個展となっています。記憶、不安、夢、沈黙など 形の無いものを表現したパフォーマンスやインスタレーションで知られているとのことで、この展示でも会場そのものを作品にしてしまうような大掛かりなインスタレーションがいくつかあり、驚きの連続となっていました。撮影可能となっていましたので、気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。

塩田千春 「手の中に」
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cc1.pngこの写真/動画は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスでライセンスされています。
手が針の束を持っているように見えるかな。この後もいくつか手や針をモチーフにした作品があったので、よく使われるモチーフなのかもしれません。

塩田千春 「不確かな旅」
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cc1.pngこの写真/動画は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスでライセンスされています。
こちらは部屋全体が赤い毛糸で包まれた大型作品。毛細血管のように張り巡らされていて驚きの光景が広がっていました。

所々に針金で出来た舟があり、そこから毛糸が出ている感じです。
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cc1.pngこの写真/動画は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスでライセンスされています。
赤い糸は縁を結ぶイメージがあるので、人との繋がりかな?と思いましたが実際の意味は分かりませんでした。

塩田千春 「蝶のとまっているひまわり」
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cc1.pngこの写真/動画は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスでライセンスされています。
こちらは5歳の頃の絵。ミロ的な簡略化を想起してしまうのは考えすぎかなw 何故か鏡文字になっているサインや色彩感覚など、非凡なものを感じさせます。

ここで簡単な略歴がありました。塩田千春 氏は1972年に大阪生まれ、1992~1996年に京都精華大学美術学部で洋画を専攻、彫刻科で村岡三郎 氏の助手も務めたそうで、在学中にオーストラリアに留学もしています。19歳の時滋賀県立近代美術館でポーランドのマグダレーナ・アバカノヴィッチの個展を観たのを契機に、彼女のもとで学ぶためにドイツ留学を決意し、1996年に渡欧しハンブルグ美術大学に入学。1997~1998年はブラウンシュヴァイク美術大学でマリーナ・アブラモヴィッチに師事し、その後ベルリン芸術大学でレベッカ・ホルンにも師事したそうです。その後はベルリンを拠点に数多くの展覧会で作品を発表していて、すべて合わせると300以上もの展覧会に出品しているのだとか。

塩田千春 「絵になること」
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cc1.pngこの写真/動画は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスでライセンスされています。
こちらは大学在学中にオーストラリアに交換留学に行っていた頃の作品。自分が絵になる夢を観たそうで、自身が絵画の一部となった感覚を表そうとしているようです。血まみれの事件じゃないのねw この後も全身を使った作品がいくつかあり、こうした作風も特徴のように思えました。

塩田千春 「物質としての存在のあり方」
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cc1.pngこの写真/動画は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスでライセンスされています。
こちらは京都の法然院を会場にしたインスタレーションの記録写真。生と死、輪廻転生などを表現しているそうで、「生まれた時に物質として見えるのはへその緒、死ぬ時に残るのは灰」という言葉からへその緒をイメージしました。ここでも作品と一体化してますね。

この辺は過去のインスタレーションの写真と解説が並んでいました。本人の言葉を交えた解説がわかりやすくてありがたい。

塩田千春 「私の死はまだ見たことがない」
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cc1.pngこの写真/動画は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスでライセンスされています。
こちらは180個もの牛の頬骨を使った作品。タイトルはマルセル・デュシャンの墓碑の「されど、死ぬのはいつも他人ばかり」に呼応しているとのことで、確かに他者の死を連想させるモチーフになっています。水を求めて集まってきたような配置になっていて、その中心には本人が首だけ出して埋まってるという…w 死んでいるのに生き物のように見えるのが面白い作品でした。

塩田千春 「親戚の顔」
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cc1.pngこの写真/動画は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスでライセンスされています。
こちらは塩田千春 氏の親戚の写真を並べた作品。ドイツの地で自分の帰り道がないように感じて昔のことを思い起こしたそうです。記念写真が多くて一家の歴史を観るような感じかな。一種のノスタルジーなのかもしれません。

塩田千春 「眠っている間に」
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cc1.pngこの写真/動画は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスでライセンスされています。
こちらは映像作品。糸が張り巡らされている中で何人か寝ている様子が映されていました。糸が繭のようで人々は荘子の「胡蝶の夢」を観て夢と現実の狭間にいるとのことで、シュールさも感じられます。やはりここでも糸を使っていて幻想的な雰囲気を出していました。

塩田千春 「アフター・ザット」「皮膚からの記憶」
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cc1.pngこの写真/動画は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスでライセンスされています。
「皮膚からの記憶」は第1回ヨコハマトリエンナーレでも出品された作品。泥だらけのドレスをシャワーで流し落とすインスタレーションですが、「ドレスは身体の不在を表し、どれだけ洗っても皮膚の記憶は洗い流すことができない」とのことです。この時は観に行ってないので、また別の機会で観てみたい…。

塩田千春 「皮膚からの記憶」
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cc1.pngこの写真/動画は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスでライセンスされています。
これだけ並ぶと無茶苦茶怖いですw このインパクトは一度観たらトラウマレベル

塩田千春 「ウォール」
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cc1.pngこの写真/動画は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスでライセンスされています。
こちらも映像作品。またもや自ら体を張っていますw 血が連想させる家族・民族・国家・宗教などの境界線を壁に喩えているそうで、「その壁を超えることの出来ない人間の存在を表現」しているとのことです。チューブの中の血が巡る様子は中々美しく、これもへその緒などを思わせるものがありました。

他にも色々と衝撃的な作品はいくつかありましたw

塩田千春 「セルI」
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cc1.pngこの写真/動画は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスでライセンスされています。
こちら水彩作品。確かに植物の断面の細胞のように見えるかな。下の方に人間らしきものが描かれ、魂なのかも…。

塩田千春 「存在の状態」
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cc1.pngこの写真/動画は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスでライセンスされています。
こちらも赤い糸を使った作品。こちらは意図は分かりませんでしたが、少しづつ異なる幾何学的な形が意味深ですね。

塩田千春 「外在化された身体」
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cc1.pngこの写真/動画は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスでライセンスされています。
こちらは心と身体がバラバラになっていくの表現しているようです。下の方に手が転がっていて、ボロボロのネットは心なのかな?

塩田千春 「小さな記憶をつなげて」
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cc1.pngこの写真/動画は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスでライセンスされています。
先程の写真の奥にも写っていた作品です。沢山の玩具が赤い糸で繋がっています。ここは解説がないで詳細不明ですが、この糸は子供の頃の記憶の糸なのではないかと思いました。

塩田千春 「静けさのなかで」
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cc1.pngこの写真/動画は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスでライセンスされています。
こちらは9歳の頃に隣の家が火事になり、次の日に外にぽつりとピアノが置かれていたという体験に基づく作品。言い知れぬ不安と死を感じる一方で、廃墟的な美しさも感じられました。

塩田千春 「静けさのなかで」
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cc1.pngこの写真/動画は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスでライセンスされています。
椅子も焼けて座る部分が無い残骸となっています。この空間の世界観にはかなり圧倒されました。説明しづらい恐怖と好奇心が混じったような気持ちになります。

塩田千春 「時空の反射」
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cc1.pngこの写真/動画は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスでライセンスされています。
こちらは鏡を使ってドレスが2つあるように見えています。黒い糸はどうしても死を連想させるかな。純白のドレスなのにちょっと不穏というかw

塩田千春 「内と外」
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cc1.pngこの写真/動画は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスでライセンスされています。
こちらは外側。割れた窓枠がいくつも重なってできた要塞のようにも見えます。

塩田千春 「内と外」
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cc1.pngこの写真/動画は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスでライセンスされています。
こちらは内側。外側とは印象が違って見えるかな。いくつもの世界に繋がっているような光景に思えました。

塩田千春 「集積-目的地を求めて」
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cc1.pngこの写真/動画は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスでライセンスされています。
こちらは沢山のスーツケースを階段状に赤い糸で吊るした作品。かなり圧倒的な光景です。

塩田千春 「集積-目的地を求めて」
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cc1.pngこの写真/動画は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスでライセンスされています。
裏から観ることもできます。作者の言葉によると「スーツケースの山を見るとその数だけ人の生をみてしまう。故郷を離れどこかに目的地を求め、どうして旅に出たのか。その出発の日の朝の人々の気持ちを思い起こしてしまう」ということで、このスーツケースは持ち主の人生そのものを表しているのかもしれません。連なり混じり合うような配置も作者の境地を反映しているようでした。

塩田千春 「魂について」
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cc1.pngこの写真/動画は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスでライセンスされています。
こちらはドイツの小学生に魂(ゼーレ)って何?と聞いたインタビュー映像。割と深い回答が多くてちょっとビックリ。作者も病気で生きることに精一杯だったそうで、魂について今一度考えさせられるような映像でした。


ということで、非常に印象深い展示となっていました。単に見栄えがするというだけでなく、生と死に真摯に向き合うような作品が多く「魂がふるえる」というのも大袈裟ではない内容でした。解説もわかりやすいので現代アート好きだけでなく幅広い層が楽しめる展示だと思います。


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アーキテクテン・デ・ヴィルダー・ヴィンク・タユー展 ヴァリエテ/アーキテクチャー/ディザイア 【TOTOギャラリー・間】

今日は写真多めです。前回ご紹介したミッドタウンのカフェでお茶した後、TOTOギャラリー・間(TOTO GALLERY・MA)で「アーキテクテン・デ・ヴィルダー・ヴィンク・タユー展 ヴァリエテ/アーキテクチャー/ディザイア」を観てきました。この展示は撮影可能となっていましたので、写真を使ってご紹介していこうと思います。

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【展覧名】
 アーキテクテン・デ・ヴィルダー・ヴィンク・タユー展 ヴァリエテ/アーキテクチャー/ディザイア

【公式サイト】
 https://jp.toto.com/gallerma/ex190913/index.htm

【会場】TOTOギャラリー・間(TOTO GALLERY・MA)
【最寄】千代田線乃木坂駅/日比谷線・大江戸線 六本木駅など

【会期】2019年9月13日(金)~11月24日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 0時間40分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_②_3_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_③_4_5_満足

【感想】
結構お客さんが多く賑わっていましたが、概ね自分のペースで観ることができました。

さて、この展示はベルギーのゲントを拠点に活動し2018年にはヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展で銀獅子賞を受賞した世界的な建築家ユニット「アーキテクテン・デ・ヴィルダー・ヴィンク・タユー」(略称:ADVVT)の日本初の展覧会です。ADVVTは時間を掛けて建築と向き合うそうで、自分たちがコントロールできない偶然性や既存条件も積極的に設計に取り入れているようです。また、教育も設計活動の重要な一部分と考え、この展示にあたって東京工業大学においてワークショップを実施し、学生たちにADVVTの作品コンセプトを読み取らせ、それを再解釈して日本に合わせて設計させるという取り組みを行ったようです。この展示ではADVVTの模型に加え、そうしたワークショップでのエッセンス模型と再解釈の模型も合わせて展示されていました。詳しくは写真と共にいくつかご紹介していこうと思います。

こちらがアーキテクテン・デ・ヴィルダー・ヴィンク・タユーのメンバー。
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「ヴァリエテ(Variete。多様性)/アークテクチャー(Architecture。建築)/ディザイア(Desire。文化を理解し表現しようとする飽くなき欲求)」をテーマに多種多様な作品の実践をしている前衛的なグループです。中央のヤン・デ・ヴィルダー、右のインゲ・ヴィンク、左のヨー・タユーの3人の名前を冠してこの設計グループ名にいるようです。彼らの特徴として住宅と都市との関係を診断し、人のふるまいを観察することが挙げられるのだとか。

ギャラリーの壁に穴が合いていて、その奥でADVVTの建築の映像が流れていました。
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この穴はこのギャラリーの名前の「間」の言葉の意味を理解して解釈したもののようです。会場設計でも文化を理解しようとする姿勢が伺えます。

アーキテクテン・デ・ヴィルダー・ヴィンク・タユー 「フェルブランデ・ブルク」
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こちらは古い車庫を改装した家。古い壁を活かしているそうで、リビングは2階にあります。

今回の展示ではこうした作品が11点あり、それぞれに対するワークショップの成果と、アトリエ・ワンによる設計なども並びます。

模型製作:東京工業大学 「フェルブランデ・ブルク エッセンス模型」
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こちらは先程の家のエッセンスで、階段の部分に注目したようです。

東京工業大学 「フェルブランデ・ブルク京都」
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こちらが再解釈したもので、外観は日本の建築のようで先程のとは別物のように思えますが、複数の階段を設けるという点を重視したようです。異なるタイプの階段が異なる秩序・つながりの感覚をもたらすのだとか。

アーキテクテン・デ・ヴィルダー・ヴィンク・タユー 「ベルン・ハイム・ベーク」
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こちらは解説が難解でよく分かりませんでしたが、屋根が特徴的な建物

模型製作:東京工業大学 「ベルン・ハイム・ベーク エッセンス模型」
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エッセンスは家の構造に着目しているのかな。元の雰囲気がよく出ています。

東京工業大学 「ベルン・ハイム・ベーク東京」
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形は変わっても元の家と共通する部分が多いように思えます。この辺は解説がかなり専門的なので門外漢には中々難しいw

アーキテクテン・デ・ヴィルダー・ヴィンク・タユー 「ハウス・フォス」
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こちらは2つの家がくっついたような変わった形の設計。

模型製作:東京工業大学 「ハウス・フォス エッセンス模型」
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エッセンスは斜線の切り込みがテーマになっているようです。

東京工業大学 「ハウス・フォス東京」
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こちらが再解釈。これも斜線が重要な役割とのことですが、ちょっと何処の部分のことか分からず…。元の建物と似た雰囲気はあるかな。

壁には設計図などもありました。他にも様々な建物の模型があります。
続いて上階。上にも4~5点ありました。

アーキテクテン・デ・ヴィルダー・ヴィンク・タユー 「ハウスBM」
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こちらは部屋の中央に吊るしてあった模型。円を描くような斬新な設計でちょっと宇宙船みたいな。

模型製作:東京工業大学 「ハウスBM エッセンス模型」
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エッセンスでも窓のつながりに注目しているようで、元に似た雰囲気です。

東京工業大学 「ハウスBM東京」
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部屋がひと続きとなっている点では同じようですが、かなり分解されて高さも異なるなどオリジナルとは違った面白い設計になっていました。


ということで、解説がかなり難解であまり理解できませんでしたが、模型があるのでオリジナル・エッセンス・再解釈のセットでどのようなコンセプトなのかを観ることができたと思います。新進気鋭の建築グループのようですので、建築業界の方や建築家を目指す方には注目の展示ではないかと思います。



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HARBS(ハーブス)【六本木界隈(東京ミッドタウン内)のお店】

前々回・前回とご紹介したサントリー美術館の展示を観た後、すぐ下の階にあるHARBS 東京ミッドタウン店でお茶してきました。

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【店名】
 HARBS 東京ミッドタウン店

【ジャンル】
 カフェ 

【公式サイト】
 https://www.tokyo-midtown.com/jp/restaurants/SOP0018004/
 http://www.harbs.co.jp/harbs/shop.html#kanto
 食べログ:https://tabelog.com/tokyo/A1307/A130701/13222028/
 ※営業時間・休日・地図などは公式サイトでご確認下さい。

【最寄駅】
 六本木駅/乃木坂駅

【近くの美術館】
 サントリー美術館
 21_21 DESIGN SIGHT
 国立新美術館
  など

【この日にかかった1人の費用】
 1500円程度

【味】
 不味_1_2_3_④_5_美味

【接客・雰囲気】
 不快_1_2_3_④_5_快適

【混み具合・混雑状況(日曜日15時頃です)】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【総合満足度】
 地雷_1_2_3_④_5_名店

【感想】
いつもは混んでいますが、この日は待つことなく入ることができました。しかし帰り際には数組が並んでいたので、やはり並ぶのが日常的なお店だと思います。

さて、このお店は当ブログでも何回かご紹介してきたハーブスの支店で、2018年5月23日にオープンした比較的新しいお店となります。サントリー美術館の1つ下(真下辺り)にあるので、ますます選択肢が広がった感じでshop×cafeやukafeなどとローテーションして通っています(今までも何度か通っていたのに何故か記事にし忘れていました。) この日もお目当てはケーキでした。

 参考記事:
  HARBS(ハーブス)【六本木界隈のお店】 (六本木ヒルズ)
  HARBS(ハーブス)【東京駅界隈のお店】
  HARBS(ハーブス)【桜木町界隈のお店】
  HARBS(ハーブス)【恵比寿界隈のお店】
  ukafe(ウカフェ)【六本木界隈のお店】
  shop×cafe(ショップ・バイ・カフェ)  2018年3月【六本木界隈のお店】

お店の中はこんな感じ。
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どの支店も大きな違いは無く、清楚な印象を受ける明るい店内となっています。

このお店に行くと大体ミルクレープ(830円)を頼みますw 他のも美味しいのですが、これが一番好きです。
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結構大きいので2人で分けても十分くらいです。幾重にもフルーツが入っていて、この日はメロン・キウイ・バナナなどが入っていました。季節によって若干中身も変わると思われます。やや食べづらいですが、滑らかなクリームとジューシーなフルーツがよく合って、爽やかな甘さとなっていました。大好物です。

飲み物はアイスコーヒー(650円)にしました。
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これが思った以上に苦味があって、酸味はそれほどなく焙煎した香りが強めとなっていました。甘いケーキとよく合うコーヒーです。


ということで、今回も美味しいミルクレープとコーヒーを楽しんできました。サントリー美術館のすぐ近くという立地なので、展覧会を観た後に寄りやすいのもポイントだと思います。いつも混んでるのが難点ですが、それだけ人気のお店だと思います。



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黄瀬戸・瀬戸黒・志野・織部 -美濃の茶陶 (感想後編)【サントリー美術館】

今日は前回に引き続きサントリー美術館の「サントリー芸術財団50周年 黄瀬戸・瀬戸黒・志野・織部 -美濃の茶陶」についてです。前半は上階についてでしたが、後半は下階の内容についてご紹介して参ります。まずは概要のおさらいです。

 → 前編はこちら

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【展覧名】
 サントリー芸術財団50周年
 黄瀬戸・瀬戸黒・志野・織部 -美濃の茶陶

【公式サイト】
 https://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/2019_4/

【会場】サントリー美術館
【最寄】六本木駅

【会期】2019年9月4日(水)~11月10日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
前半はテーマごとに美濃焼を観てきましたが、後半は昭和の陶芸家による作品と、昭和の名だたる数寄者によるコレクションが並ぶ内容となっていました。後編も引き続き気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。


<第2章 昭和の美濃焼復興>
前述のようにここは昭和の陶芸家の作品と、数寄者のコレクションのコーナーです。

[1.荒川豊蔵と加藤唐九郎-美濃焼の美に挑んだ陶芸家]
美濃焼は近代以降に高い評価と人気を得るようになったそうで、美濃茶陶の美意識を自らの作品へと昇華させた陶芸家も現れたようです。ここにはそうした陶芸家の荒川豊蔵と加藤唐九郎の代表作が並んでいました。

69 荒川豊蔵 「志野茶碗」
こちらは荒川豊蔵の代表作の1つで、オレンジっぽい色の茶碗です。割と薄手で側面にひび割れがあり小さなポツポツした穴があるのは志野らし特徴です。雪が降る景色のようにも見える質感で、優美な雰囲気でした。

72 荒川豊蔵 「黄瀬戸竹花入」 ★こちらで観られます
こちらは円筒形の花入れで、縦に2筋の窯切というヒビ割れが入っています。黄瀬戸の色合いと共につややかな竹を思わせる質感となっていて、荒川豊蔵は竹に似せようとしていたようです。黄瀬戸を知り尽くしていなければ出来なそうな見事な花入れでした。

71 荒川豊蔵 「志野水指」
こちらは円筒形の大きな水指で、白い長石釉が全体的に厚くかかっていて、クリームが溶けたケーキみたいに見えますw 形は歪んでどっしりとしていて、滑らかさと力強さが同居しているような雰囲気です。上階で観てきた水指に似ているけど、釉薬のかかり具合などに違いがあるようにも思えました。

87 加藤唐九郎 「茜志野茶碗」
こちらは加藤唐九郎の絶作で、全体が朱色(茜色)っぽい志野茶碗です。側面はさらに濃い赤に染まっていて、燃え立つような色合いです。こんな色の志野は観たことないかも?? 絶作とは思えないほどに情熱的な印象を受ける作品でした。

79 加藤唐九郎 「瀬戸黒茶碗 銘 初雪」
こちらは黒地の瀬戸黒で、側面に白い粒とか雲のような感じの模様が散られています。これが暗闇の中の雪景色のようにも思えて、銘の「初雪」も納得かな。絶妙な明暗が面白い作品でした。

65 「練上志野茶碗」 桃山時代
こちらは魯山人が魅了されて所有した茶碗で、「練上」と呼ばれるマーブル状の色合いになっています。これは複数の土を混ぜることで出していて、不思議な模様を見せてくれます。桃山時代に既にこんな斬新なものがあったのかと驚くような品でした。


[2.近代数寄者と美濃焼-選ばれ、伝えられた名品]
続いては近代の数寄者たちのコレクションのコーナーです。現代でも名の残る人物たちが集めた名品が並んでいました。

91 「志野茶碗 銘 羽衣」 桃山時代
こちらは表千家7世の如心斎宗左による銘を持つ大きめの志野茶碗です。胴の部分は歪んでいて、柳などが描かれ一部は焦げたような赤い部分もあります。内側はすらっと描いたような鉄絵の線があり、如心斎宗左はこれを天女の羽衣に見立てたようです。茶道の家元のコレクションだけあって風流で見事な名品でした。

101 「志野呼継茶碗 逸翁歌銘 与三郎」 桃山時代
こちらは大阪の数寄者 小林一三(阪急東宝グループの創業者)の旧蔵で、厚手の志野茶碗です。白っぽく側面に太陽のような文様があり、一度割れたらしく それを金でついでいます。銘は歌舞伎の演目の登場人物の名前で、34箇所の刀傷を持つ人物のようです。つまり継ぎ目を傷に見立てた粋なネーミングですね。素朴でプリミティブな雰囲気の絵も面白い作品でした。

98 「鼠志野茶碗 銘 山の端」 桃山時代 ★こちらで観られます
こちらは根津嘉一郎(東武鉄道の社長などを務めた実業家。根津美術館のコレクションを築いた)が所有した茶碗で、水色がかった鼠志野となっています。胴に線彫りで暦のような文様があるとのことですが、私には雪の結晶か象形文字のように思えますw 銘は「五月雨ははれんとやする山端に かかれる雲のうすくなりゆく」」という『玉葉和歌集』の花園天皇の和歌に因んでいるそうで、教養深いネーミングです。根津嘉一郎はこの器を観て、五月雨が去り遠ざかる雲をイメージしてそう名付けたようです。私にはどこら辺がそう思わせたの分かりませんでしたが、どこか神秘的で静かな印象もありました。

この近くには三渓園で有名な原三渓の旧蔵品もありました。

128 「黒織部沓形茶碗 銘 わらや」 桃山時代
こちらは五島慶太(東急の創業者で五島美術館のコレクションを築いた)の所蔵品で、沓形の歪んだ茶碗の側面に○や格子のようなものを組み合わせた白い模様があります。これがまるで現代アートの抽象画を思わせる斬新さで面白い意匠です。上階にもこうした幾何学文様の黒織部がありましたが、いずれも素朴さの中に洗練を感じさせました。

139 「美濃古窯跡出土陶片一括(箱十二、三十一、三十六)」 桃山時代
こちらは茶人の森川如春庵が37箱に1030もの陶片を集めたもので、その内の3箱が展示されていました。箱ごとに似た陶片をまとめているようで、本でこの陶片を紹介して美濃焼の評価基準になったそうです。美濃焼の研究に欠かせない重要な資料のようでした。
 参考記事:原三溪の美術 伝説の大コレクション 感想後編(横浜美術館)


ということで、後半は昭和の品とコレクターの名品を楽しむことができました。限られた地域でこれだけ個性豊かな陶器が作られていたことに驚くと共に、コレクターたちの審美眼にも感服しました。それぞれの代表的な器が集まっているので、お茶や陶器に興味がある方にオススメの展示です。



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黄瀬戸・瀬戸黒・志野・織部 -美濃の茶陶 (感想前編)【サントリー美術館】

前回ご紹介した展示を観た後、同じミッドタウンの中にあるサントリー美術館で「サントリー芸術財団50周年 黄瀬戸・瀬戸黒・志野・織部 -美濃の茶陶」という展示を観てきました。メモを多めに取ってきましたので、前編・後編に分けてご紹介していこうと思います。なお、この展示は4つの会期に分かれていて、私が観たのは第1期でした。

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【展覧名】
 サントリー芸術財団50周年
 黄瀬戸・瀬戸黒・志野・織部 -美濃の茶陶

【公式サイト】
 https://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/2019_4/

【会場】サントリー美術館
【最寄】六本木駅

【会期】2019年9月4日(水)~11月10日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
意外と空いていて快適に鑑賞することができました。

さて、この展示は現在の岐阜県の美濃(東濃地域)で生まれた黄瀬戸・瀬戸黒・志野・織部の4つの陶器について取り上げていて、前半は桃山時代の名品、後半は近代陶芸家の代表作が並ぶ 2章構成となっています。これらの陶器が美濃で焼かれたとわかったのは昭和のことで、それ以前は瀬戸で焼かれたと考えられていたらしく、昭和5年(1930年)に荒川豊蔵が岐阜県可児市の古窯で志野の茶碗の陶片を発掘したことにより瀬戸ではなく美濃で焼かれたことが判明したそうです。この発見によって美濃焼に関心が集まり、数寄者や陶芸家・研究家の審美眼も鍛えられていったそうで、後半ではそうした好事家のコレクションも紹介されています。構成はその2つの章ごとにいくつかの節に分かれていましたので、詳しくは各コーナーごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。


<冒頭>
まず冒頭にハイライト的に今回の展示を象徴するような作品が並んでいました。

89 「志野茶碗 銘 卯花墻」 桃山時代
こちらは志野茶碗を代表する名碗で、国宝指定を受けています。銘の「卯花墻」は白く清浄な釉景色と籬(まがき。垣根)の絵を垣根に咲く卯の花に例えているそうで、淡くピンクのざらついた志野独特の地の側面に ほぼ等間隔に縦の茶色い線が並んでいます。横に入った線もあって確かに垣根みたいに見えるかな。やや歪んだ形や細かいポツポツした穴など志野のイメージそのものと言った感じです。落ち着いた華やぎと温かみが感じられる陶器でした。


<第1章 美濃における茶陶創造>
1章は美濃焼について6つのキーワードで魅力を探るコーナーです。黄瀬戸・瀬戸黒・志野・織部は16世紀末から17世紀はじめに次々と花開いた独創的で力強い美しさを持つ陶器で、これらの美濃焼は今の岐阜県の可児市、多治見市、土岐市、瑞浪市辺りで生まれたようです。この地域は7世紀の須恵器制作にまで遡る古い窯業の歴史があるそうで、現在でも窯業が盛んな地です。この章では主に桃山時代の作品が展示されていました。

[姿を借りる]
まずは美濃焼がお手本にした中国磁器と見比べるコーナーです。美濃焼には桃山時代までに中国陶磁・古銅器・漆工品など様々な茶道具を象ったものが作られたようですが、決して模倣にとどまらずに新しい茶陶として作られたようです。ここにはそうした作品が並んでいました。

1 「黄瀬戸立鼓花入」 桃山時代 ★こちらで観られます
こちらは鼓のような形をした「立鼓」という形態の黄瀬戸の花入れで、黄色っぽく薄手で光沢のある釉薬がかかっています。鉄分の加減でちょっと縞模様のようになっていて、くびれの部分にはシミのような模様もあります。全体的に気品があってシンプルな造形美を感じるかな。隣には同様の品を参考にしたと思われる中国の明時代の「黄銅立鼓花入」が置いてあり、これはくびれが一層に細くなっていました。両者を比較するとただ真似しただけではないというのも分かり面白い趣向です。

8 「織部鷺文輪花皿」 桃山時代
こちらは全体的に緑色の円形の皿で、表面に葦・蓮・つがいの鷺などが簡略化して描かれています。これらは中国由来の吉祥文様で、その意匠から中国からの影響が伺えます。また、この隣には中国明時代の「華南三彩鉢」もあり、色と緑が多めの三彩となっています。ぱっと観ると織部とそれほど似ていませんが、共通点も多いようで華南三彩は目指していたものの1つであると考えられるようです。私には織部にも独特な簡略化もあるように見えて、これも日本らしさを感じさせる部分があるように思えました。。

[描く]
続いては絵が描かれた陶器のコーナーです。鉄を絵具として釉薬の下に筆で描く「鉄絵」の技法により様々な絵が描かれた作品が並んでいました。

10 「志野織部傘鷺文向付」 桃山時代
こちらは雲のような形の向付けで、中に傘・鷺・柳などが描かれ、側面の縁には縦縞が描かれています。これは判じ絵(なぞなぞ的な絵)として観ると歌言葉である「かささぎの橋」と読むことが出来るそうで、当時流行した『扇の草子』に通じる文様のようです。鉄で描かれていて、風流な題材の割には素朴な絵に見えるかなw 隣には箕と笠を描いた「三笠の山」を示す作品もあり、判じ絵が流行っていた様子も伺えました。

この辺は判じ絵風の皿がいくつか並んでいました。志野にも判じ絵があります。

20 「鼠志野鶺鴒文鉢」 桃山時代
こちらは青みがかった地の「鼠志野」の鉢で、川の中にある岩にとまる鶺鴒を掻き落として白く表現しています。青っぽい地が川の意匠にぴったりで、涼し気な印象を受けます。また、器の歪みも川の流れのように思えて面白い趣向となっていました。

23 「志野草花文向付」 桃山時代
こちらはやや四角っぽい円筒形の向付で、側面にアヤメやワラビ、籬などが描かれています。一筆でさらさらっと描いたような素朴でゆるい雰囲気で、形もやや歪んでいることから日本的な美意識が感じられました。


[歪む]
続いては歪んでいる器についてのコーナーです。歪みの造形は、伊賀焼・唐津焼・信楽焼・備前焼など他の地域も含めた桃山時代の和物茶陶に共通して現れた美意識で、あえて歪めて1点1点に個性を与えているようです。ここにはそうした作品が並んでいました。

40 「備前矢筈口水指」 桃山時代
こちらは円筒形の分厚く大きな水差しです。深い茶色で蓋の部分に歪みがあるのがよく分かります。どっしりとしていて歪みによって自然物のような力強さが生まれているように思えました。

この辺には本阿弥光悦と俵屋宗達の合作の「鹿下絵新古今集和歌巻断簡」がありました。この内容の展示で急に出てきて驚きましたが、これも見逃せない名品です。

37 「黒織部花文茶碗」 桃山時代
こちらは真っ黒な黒織部の茶碗で、口の部分はハマグリのような形に歪んでいます。側面には白く☆のような文様や、蝶か花のような文様、三角を3つ並べたような文様もあり、地の黒と模様の白のコントラストが強く感じられます。解説によると、これは黒釉を塗る際に型紙を貼って釉薬を掛け残すことで表しているそうです。それにしても斬新な幾何学文様で、まるでシュプレマティスムの絵画のようなモダンな感性があるように思えました。

この辺には黒織部の歪んだ茶碗などがありました。整った形でなく歪んだ形が好まれたあたりに日本らしさを感じます。


[型から生まれる]
続いては型を用いて作られた器のコーナーです。轆轤で成形した後の素地や粘土板を型に押し当て器を形作る「型打」の技術は、大量生産を実現にした上、円形や円筒形以外の自由な造形を可能にしたそうです。ここにはそうした「型打」によって作られたと思われるユニークな品々が並んでいました。

45-47 「黄瀬戸六角猪口」「瀬戸六角猪口」「織部六角猪口」 桃山時代
こちらはいずれも小ぶりな六角形のお猪口で、薄手となっています。黄瀬戸は黄色、瀬戸は鉄が錆びたような色、織部が薄い緑色で、釉薬の微妙な変化も見どころとなっています。六角形は轆轤で大量に作るのは困難と思われるので、こうした造形は型打ならではのものかもしれませんね。

43 「土型(四方入隅形、六角形)」 桃山時代
こちらは型打に用いる土製の型で、この型に布をかぶせて伸ばした生地を押し付けて形を作るようです。型打によって作られた多種多様な器が現存しているわけですが、土型はここで展示されている2つしか見つかっていないとのことで、かなり貴重な品のようです。製造元にとっては型の方が重要な気がするのに見つからないのがちょっと不思議。製法が見て取れて面白い品でした。

48 「織部扇面形蓋物」 桃山時代
こちらは扇形の蓋付きの織部の器です。格子の幾何学文様や花のようなもの、扇の骨に当たる部分には凹凸をつけるなど非常に凝った模様が付けられています。緑釉と9種類の鉄絵を掻き落として表しているとのことで、かなり手がこんでいます。形も洒落ていて一際目を引く作品でした。

53 「織部切落向付」 桃山時代
こちらは四角い凹形の5つセットの向付で、対角線上に深い緑とオレンジっぽい色の境があります。その色の対比が鮮やかで、緑の部分は山のようにも見えるかな。団扇や梅などの文様もあり、華やかで楽しげな印象を受けました。

55 「織部葛屋形向付」 桃山時代
こちらは傘の形の向付で、中の絵には傘骨らしきものも描かれています。その他の部分は木の枝のような感じの文様となっていて、形は若干UFOみたいにも思えるw これも型を使った作品ならではの造形の面白さがありました。


[異国情緒]
続いては異国情緒を感じさせる器のコーナーです。ここには南蛮屏風が置かれ、南蛮人に関する器などが置かれていました。

61 「織部南蛮人燭台」 桃山時代 ★こちらで観られます
こちらは腰に壺をぶら下げた南蛮人を象った人物像で、頭の帽子の先に針があり そこに蝋燭を刺す燭台となっているようです。今は何も持っていませんが、手の部分には穴が開いていて何かを掴んでいたと考えられるそうで、竿状のもの(釣り竿?)を持っていたのではないかとのことです。ユーモラスな雰囲気で、異国情緒とエビスさん的なものを混ぜた感じに見えました。


[掌中の美]
上階の最後は小さめの香合が2点並んでいました。

56 「織部分銅形香合」 桃山時代
こちらは分銅形(銀行の地図記号みたいな形)の香合で、緑釉と白を斜めに染め分けています。菊の花のような文様もあり、小さいのに形や絵に趣向を凝らしている様子が伺えました。


この辺で上階の展示は終わりなので今日はここまでにしておこうと思います。今まで何度も観てきた美濃焼の品々ですが、まだまだ知らない話ばかりで特に型打のコーナーが面白く感じました。後半は近代の名品も展示されていましたので、次回は残りの下階についてご紹介の予定です。



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