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天皇と宮中儀礼 【東京国立博物館 平成館】

今日は写真多めです。前々回・前回とご紹介した東京国立博物館平成館の特別展を観た後、同じ平成館の1階で「天皇と宮中儀礼」という特集を観てきました。この展示は撮影可能となっていましたので写真を使ってご紹介していこうと思います。

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【展覧名】
 天皇と宮中儀礼

【公式サイト】
 https://www.tnm.jp/modules/r_free_page/index.php?id=1983

【会場】東京国立博物館 平成館 企画展示室
【最寄】上野駅

【会期】2019年10月8日(火)~2020年1月19日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 0時間20分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_4_⑤_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_③_4_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_③_4_5_満足

【感想】
空いていて快適に鑑賞することができました。

さて、この展示は令和元年の御即位に合わせて天皇の宮中行事を紹介する内容で、「即位礼と大嘗祭」「悠紀主基屏風」「御所を飾る絵画」「年中行事」「行幸と御遊」という5つのテーマ35点(入れ替え含む)から成っています。宮中行事は大きく年中行事と臨時行事の2つに分けられ、年中行事はその名の通り毎年行われ、臨時行事は天皇即位や大嘗祭などが含まれます。こうした行事は過去の先例を重視するので絵画や資料が多く残されたようで、この展示ではそうした品々が並んでいました。詳しくは気に入った作品をいくつか写真と共にご紹介していこうと思います。

森田亀太郎(模) 「高御座図」
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こちらは天皇の御座を描いた作品です。頂点にいるのは鳳凰で、その周りにいるのも鳳凰のようです。台座の部分にも鳳凰や麒麟らしき姿があるかな。いずれも名君の時代に現れる霊獣なので、天皇に相応しいモチーフだと思います。解説によると、高御座は皇位の象徴であるとのことでした。先日の即位礼でこれに似たのを観ましたね。
 参考記事:不滅のシンボル 鳳凰と獅子 (サントリー美術館)

「延喜式 巻七(甲)」 平安時代・11世紀
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こちらは国宝で、延喜5年(905年)から醍醐天皇の命によって編纂された律令制における施行細目です。この巻7には大嘗祭について書かれていて、悠紀地方・主基地方を定めることから始まって大嘗宮を作ることなど、詳細な規定が記載されているようです。結構ボロボロになっていて読めませんが、悠紀主基の斎田選びは現在でも行われているのでその影響力が伺えます。ちなみに明治以降は悠紀地方は京都以東、主基地方は以西が選ばれるようになり令和は下野(栃木県)と丹波(京都府)で、平成の際は羽後(秋田県)と豊後(大分県)でした。

藤島助順 「旧儀式図画帖 第三 剣璽渡御」 明治時代
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こちらは明治末期に光格天皇から仁孝天皇へと譲位された際の記録画です。内裏の新帝の元に宝剣と神璽が届けられた時の様子とのことで、それぞれの役割も伝えているようです。こうした儀式の記録をしっかり残しておくことで次世代へと受け継がれていったんですね。

「御即位大嘗祭絵巻」 大正4年(1915)
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こちらは御即位と大嘗祭の様子が描かれた絵巻で、会期によって場面替えして展示しているようです。明治維新後に天皇の即位などを規定する登極令が制定され、大正・昭和の即位礼と大嘗祭はそれに基づいて行われたそうです。絵巻だけ観ると平安時代の様子にも思えますが、時代と共に即位礼や大嘗祭も変わっていったんですね。

この辺に大嘗祭の説明がありました。大嘗祭は即位後初めて行われる新嘗祭(五穀豊穣を祈る宮中祭祀)なので、一世に一度だけとなります。 亀卜の占いによって悠紀・主基の2国を選んで、それぞれの国の斎田で祭祀のための稲を栽培し、11月の祝日になると天皇は純白の御斎服を着用して悠紀・主基の神殿に向かい、自ら祭神に新穀を備えられるそうです。
ちなみに令和の大嘗祭の詳細なスケジュールは11月14日~15日が大嘗宮の儀、16~18日が大饗の儀となっていて、皇居内に設けた大嘗宮で夕方から翌日の夜明けにかけて行われます。つまり この記事を書いた時点から約2週間後に一大イベントが行われるので注目です。

土佐光貞 「悠紀屏風 明和元年度正月・二月帖」「主基屏風 明和元年度三月・四月帖」
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こちらは大嘗祭の際に両斎国から献上される悠紀主基屏風で、令和でも作成され大饗の儀で飾られる予定です(調べても令和は誰が描いたのかまだ分からず…) この屏風にはそれぞれ同時代の一流の歌人が四季の風物を2ヶ月ごとに詠んだ3首の和歌が色紙になって貼られていて、2扇ずつ歌に合わせた絵柄になっているようです。この時は後桜町天皇の大嘗祭で、悠紀は近江・主基は丹波となっていたようです。現存最古の大嘗会屏風ということで貴重な品となっていました。

続いては「行幸と御遊」に関するコーナーです。

「十訓抄」 江戸時代・享保6年(1721)
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『十訓抄』は鎌倉時代に成立した説話集で、10箇の徳目に相応しい話が書かれているそうです。この場面では白河天皇が小野宮に隠棲している皇太后(後冷泉院の后)のところに雪見に行幸した際に、人々が機転をきかせて華やかにもてなした「小野雪見御幸」が描かれています。天皇が急に行く気になったのでお供がダッシュで先方に知らせにいって、何とか上手く行った…とそんな話ですw 後日、天皇が謝礼を小野宮に送った所、宮は知らせにきてくれたお供にそれを賜ったのだとか。ここではうやうやしくお出迎えしていて準備バッチリと言った感じですね。

「小野雪見御幸絵巻(模本)」
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こちらも小野雪見御幸を描いた作品。童女に蜜柑とお酒を捧げさせてもてなしているようです。割といつでも家にありそうなものだけど、お供のファインプレーが無かったら何を出したんでしょうかねw

藤島助順 「旧儀式図画帖 第七 修学院御幸始」 明治時代
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こちらは京都郊外の修学院離宮に御幸している様子を描いた作品。描かれているのは どの天皇か分かりませんが、後水尾天皇や霊元天皇はしばしばここに御幸していたそうです。その後はしばらく途絶えてしまったそうですが、文政7年(1824)に光格上皇が再興したそうです。雅な色彩でその様子を鮮明に伝えているようでした。

近くの「御所を飾る絵画」のコーナーには中国風の人物たちが描かれた「大宋屏風」がありました。その後は「年中行事」のコーナーです。

狩野〈勝川院〉雅信 他(模) 「近代年中行事絵(模本) 巻二」
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こちらは3月3日の宮中行事を描いたもので、2羽の雄鶏による闘鶏が行われています。庭先に2羽いて みんなで見守っているようですが、見てる場所が遠すぎないか?w 桃の節句にそんな儀式があるというのも初めて知って驚きでした。

住吉如慶 「年中行事図屏風」 江戸時代・17世紀
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こちらは平安時代の儀式の様子を参考にしながら描いた作品で、正月十八日に行われる「賭弓(のりゆみ)」という弓の技芸を競う儀式が描かれています。

一部をアップするとこんな感じ
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流石は住吉如慶だけあって人々の表情も豊かで臨場感があります。弓を弾いている姿には緊張感もありました。

「年中行事絵(模本)」 江戸時代・19世紀
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こちらは様々な年中行事を描いた絵巻の模本で、ここでは天皇が年始に上皇・皇太后の住まいを訪れ拝謁する「朝覲行幸」が描かれているそうです。1人だけ赤くてやけに目立つけどこれが天皇なのかな?? そうは思えないポーズですが…w 素人には全く分かりませんが、この年中行事絵は当時の宮中儀式や生活を知る百科事典のような存在とのことでした。


ということで、様々な宮中儀礼について知ることができました。即位礼は既に終わりましたが、11月14日の大嘗祭に関して詳しく知っておくと、より深みを感じるイベントになると思います。タイミングの良い内容なので、正倉院展を観に行かれる方はこちらも合わせて観ることをオススメします。


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正倉院の世界―皇室がまもり伝えた美― (感想後編)【東京国立博物館 平成館】

今回は前回に引き続き東京国立博物館 平成館の御即位記念特別展「正倉院の世界―皇室がまもり伝えた美―」についてです。前編は第一会場についてでしたが、後編は第二会場についてご紹介して参ります。まずは概要のおさらいです。

 → 前編はこちら

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【展覧名】
 御即位記念特別展「正倉院の世界―皇室がまもり伝えた美―」 

【公式サイト】
 https://artexhibition.jp/shosoin-tokyo2019/
 https://www.tnm.jp/modules/r_free_page/index.php?id=1968

【会場】東京国立博物館 平成館
【最寄】上野駅

【会期】
  前期:2019年10月14日(月)~11月04日(月・休)
  後期:2019年11月06日(水)~11月24日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_①_2_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
第二会場は第一会場に比べると若干空いていたように思います。後編も引き続き各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。なお、この展示には前期・後期に会期が分かれていて私が観たのは前期の内容となります。


<第4章 正倉院の琵琶>
4章は琵琶のコーナーです。正倉院に伝わる「螺鈿紫檀五絃琵琶」は唯一実物が伝わる5弦の琵琶だそうで、インドに起源があり既に現地では失われているため世界の音楽史上でも貴重な品だそうです。この章では前期は「螺鈿紫檀五絃琵琶」後期は「紫檀木画槽琵琶」を中心に紹介されていました。

69 「螺鈿紫檀五絃琵琶」 中国 唐時代・8世紀 ★こちらで観られます
こちらは聖武天皇 遺愛の琵琶で、世界唯一現存の五絃琵琶です。紫檀に螺鈿と玳瑁(タイマイ)で装飾していて、表面にはラクダに乗って琵琶を弾く人、背面には宝相華文様が表されています。360度ぐるりと観られるようになっていて、表面は規則正しく 背面は華やかに装飾されているように思えます。

こちらは6章の最後にあった明治32年の模造の写真(6章は撮影可能)
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紫檀の色などがちょっと違う以外は本物とほぼ同じで、デザイン性においても非常に優美な形をしています。

表面のアップ。
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ラクダに乗っている人が表され、異国情緒が感じられます。

側面と背面
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側面と背面は宝相華文様がびっしりと表されていて華やかです。本物は背面もこれより観やすい展示方法だったので、全体を詳しく観ることができました。

70 [模造:木地]坂本曲齋(三代)[模造:象嵌]新田紀雲[模造:加飾]北村昭斎・松浦直子[模造:絃]丸三ハシモト株式会社 「模造 螺鈿紫檀五絃琵琶」 平成31年(2019)
こちらは今年完成したばかりの「螺鈿紫檀五絃琵琶」の模造です。明治の模造に増して正確に作られているようで、全体的に新しさを感じる色合いになっている以外は本物そっくりです。オリジナルと同じ素材・技法で忠実に再現しているようで、紫檀や鼈甲など今では入手困難な素材も使われています。8年かけて作成したとのことで、600ものパーツから成るようです。また、近くではこちらを奏でて当時の音楽を再現しようと試みた曲が流れていました。ギターや琴とはまた違った響きで、ちょっと哀しげで雅な雰囲気でした。

この近くではこの模造のメイキング映像もありました。多くの人達がかなり苦労して制作しているのが分かります。


<第5章 工芸美の共演>
続いては様々な工芸品のコーナーです。ここには法隆寺献納宝物と正倉院宝物が並び、飛鳥時代から奈良時代にかけての美意識の変化とともに紹介されていました。

77 「伎楽面 酔胡王」 飛鳥~奈良時代・7~8世紀 ★こちらで観られます
こちらは法隆寺献納宝物で、ペルシア系民族「胡人」の王が酔った姿を表した伎楽に使われる面です。天狗のように高い鼻が特徴で、目の部分には穴が開いていてこれを被って踊ります。やや緊張感ある面持ちですが微笑んでいるようにも見えるかな。 顎にヒゲを貼った跡があるようで、当時は長いヒゲが生えていたようです。 隣にはこの面を制作当時の姿で再現した作品があり、全体的に真っ赤に塗られて長く立派な黒ひげが貼られていました。どうやら時代の変化で色が褪せてしまったようですが、それでも見事な造形の面でした。

近くには正倉院に伝わる同名の作品もありました。(★こちらで観られます) お互いよく似た特徴ですが、正倉院のほうは赤っぽい色が残っていて、一層に笑っているような表情に思えました。

91 「鵲尾形柄香炉」 朝鮮 三国時代または飛鳥時代・6~7世紀
こちらは香炉に柄を付けた真鍮製の柄香炉です。三国時代の朝鮮または飛鳥時代の日本で作られたと考えられるそうで、柄の端が裾広がりで三叉になっているのがカササギの尻尾のように見えるのでこの名前になったようです。この柄香炉は国宝で学生の頃に教科書でも観たような気がします。聖徳太子の師匠の慧慈法師が使ったとも伝えられる貴重な品です。

87 「黄銅合子」 中国 唐または奈良時代・8世紀 ★こちらで観られます
こちらは壺を逆さにしたような胴部の上に、五重塔のような装飾がついた香を入れる容器です。塔の側面にはミリ以下の細かいギザギザが付いていていたり文字のような文様もあり、ガラスを象嵌していたりするようです。と、言っても細かすぎて肉眼で観るのが大変なくらいですw 形自体が優美で、その超絶技巧と共に驚かされる逸品でした。

この近くにはこの作品の模造もありました。顔料の劣化やガラス玉が取れる前の姿で、一層にツヤツヤした雰囲気です。

96 「ガラス皿」 西アジア・5世紀以前
こちらは深い藍色のガラスの皿で、表面に白いシミのようなものがあります。実はこれはシミではなく絵の痕跡で、ササン朝ペルシアに由来する馬や人物が描かれていて、光の具合によっては見づらいものの かなり精緻な図像となっています。当時は今以上に美しかったのではないかと想像しながら観てきました。

この隣には「瑠璃壺」というガラス壺がありました。何とツバを入れる壺とのことですが、そうとは思えないくらい綺麗なガラスですw


<第6章 宝物をまもる>
最後は宝物を守り伝える事に関するコーナーです。正倉院の宝物は江戸時代から調査・修復・模造が行われていたようで、明治以降に本格化したそうです。この章にはそうした事業に関連する品が並んでいました。

100 「東大寺正蔵院天平御道具図」 江戸時代・元禄8年(1695)
こちらは1693年の正倉院開封で修理が行われた際に作られた絵図です。碁盤が描かれた箇所が展示されていて、正面・斜め・裏といった感じで3つの面をそれぞれ描いて、サイズや素材についても併記されています。江戸時代の頃から既に文化財を大切にしていた様子が伺え、一層に正倉院の歴史の重みが感じられました。

101 「正倉院天保四年御開封図」 明治時代・19世紀
こちらは140年ぶりに開封された1833年の正倉院開封の様子を描いた絵図です。上空から見渡す地図のような感じで、儀式や点検している様子が描かれていて その時の事柄をきっちりと記録しているようです。これも正倉院の歴史を知る上で貴重な資料のようでした。

107 「鴨毛屏風(模造 鳥毛篆書屏風)」 明治11年(1878)
こちらは前編でご紹介した「鳥毛帖成文書屏風」によく似た作品で、後期展示される「鳥毛篆書屏風」を模造したものです。明治11年(1878年)のパリ万国博覧会に出品する為に作られたそうで、文字には羽毛が貼り付けられています。明治以降の模造品の最初期のものとのことですが、かなり完成度が高いように思えました。

108 「甘竹簫」「楸木帯」 奈良時代・8世紀
こちらは竹で作られた笛で、管と帯から成っています。明治時代に修復が行われた際、12本の管で出来ていたと考えられてそれに合わせて修復したようですが、その後に帯が発見されて18本の管だったことが判明しました。その為、明治時代の間違った修復を一旦取り除いて再修復する必要があるそうで、中には虫食いなども見つかっているようです。薄い色の竹の管が混じっていて一目で明治の修復の様子が分かるw 修復にも誤りがあるというのが興味深い品でした。ちなみにこの笛の中には墨を浸した紙が入っているそうで、それで音を調整するとのことです。どんな音色か聞いてみたいですね。

114 「塵芥(塵芥、麻布描絵片、描絵類、刺繍類、平織雑色裂・緯浮文錦類、平織雑色横縞裂、経絣類、綴錦類、経錦類、金銀糸類、糸類、組紐類、金具類、御冠残欠類)」 飛鳥~奈良時代・7~8世紀
こちらは塵芥(じんかい)というその名のとおりのチリやホコリのような小さな残骸の集まりです。もはや何に使われたかも分からないようなものですが、それでも一切捨てることなく木の箱などに入れて保存しているようです。ピンセットで摘んで分類する作業は今も地道に続いているらしく、映像でその様子を流していました。一見するとゴミですが、ここから宝物の破片が出てくるみたいなので侮れないのかも。

最後は撮影可能エリアとなっていました。

こちらは正倉院南倉の再現
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高床になっていて中には東大寺の儀式用品などが入っている倉です。

こちらは正倉院中倉の再現。
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前編でご紹介した「正倉海老錠」がかけられています。

この近くで2018年の開封の儀の映像を流していました。今でも勅使が正倉院にやってきて勅封が解かれていないことを確認し、奈良国立博物館の館長や東大寺別当と共に各宝物を詳しく点検しているようでした。

最後に明治時代に模造された「模造 螺鈿紫檀阮咸」 先程の明治時代の「模造 螺鈿紫檀五絃琵琶」と共に並んでいます。
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オウムのような鳥や花文様が非常に鮮やかで、これもかなりハイレベルな模造です。


ということで後半も見どころが多く、特に琵琶が目を引きました。細かい装飾も多いのでミュージアムスコープを持っていった方が良いかもw 最後の章では守り伝えることの難しさを知ることもできて、参考になる内容でした。 会期が短い上に2期に分かれているので、お目当ての品がある場合は事前に公式サイトで出品リストを確認することをオススメします。



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正倉院の世界―皇室がまもり伝えた美― (感想前編)【東京国立博物館 平成館】

この前の土曜日に上野の東京国立博物館 平成館で御即位記念特別展「正倉院の世界―皇室がまもり伝えた美―」を観てきました。メモを多めに取ってきましたので、前編・後編に分けてご紹介していこうと思います。なお、この展示は前期・後期に会期が分かれていて私が観たのは前期の内容となります。

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【展覧名】
 御即位記念特別展「正倉院の世界―皇室がまもり伝えた美―」 

【公式サイト】
 https://artexhibition.jp/shosoin-tokyo2019/
 https://www.tnm.jp/modules/r_free_page/index.php?id=1968

【会場】東京国立博物館 平成館
【最寄】上野駅

【会期】
  前期:2019年10月14日(月)~11月04日(月・休)
  後期:2019年11月06日(水)~11月24日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_①_2_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
入場制限はなかったものの、かなり混雑していて あちこちで列を組んで観るような感じでした。会期が進むと一層の混雑が予想されます。

さて、この展示は令和元年および天皇陛下の即位式を迎えたのを記念したもので、正倉院宝物と法隆寺献納宝物の貴重な品々が並ぶ内容となっています。正倉院は東大寺大仏殿の北北西に位置し、光明皇后が亡き聖武天皇の宝物を奉納した北倉、それ以外の奉納品などを収めた中倉、東大寺の儀式用品などを収めた南倉で構成されます。北倉と中倉の開扉は歴代の天皇の許可を必要としたので勅封倉とも呼ばれたそうで、南倉はかつては東大寺に管理されていましたが明治時代から勅封になって現在に至るようです。展覧会はそうして収められた品をジャンルごとに章分けして展示していましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。
 参考記事:東大寺大仏―天平の至宝― (東京国立博物館 平成館)


<第1章 聖武天皇と光明皇后ゆかりの宝物>
まずは聖武天皇と光明皇后ゆかりの品が並ぶコーナーです。天平勝宝8歳(756年)6月21日に行われた聖武天皇の四十九日の法要の日に光明皇后は天皇の愛した650件の宝物を盧遮那仏(東大寺の大仏)に捧げ、聖武天皇の浄土での安住を願いました。ここにはそうして収められた品に加え、その中に含まれる「東大寺献物帳(国家珍宝帳)」に記載された宝物などが並んでいました。

1 「正倉海老錠」 江戸時代・天保4年(1833)
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写真は6章で撮影可能だったレプリカを撮ったものです。これは正倉院の錠で、名前の通り海老のように沿った形をしているのが特徴です。6章の映像で2018年の開扉の様子を流していましたが、中に勅令が入っていて封が開けられていないことを確認しているシーンもありました。1章で観られるのは江戸時代のもので、当時も今と変わらず厳重に鍵をしていたことが伺えました。

4 「東大寺献物帳(国家珍宝帳)」 奈良時代・天平勝宝8歳(756) ★こちらで観られます
こちらは20mくらいはありそうな長い宝物の目録で、「国家の珍らしき宝」として各品の個数・材質・サイズ・技法・付属品なども書かれています。さらに巻物全体に正方形の「天皇御璽」という朱印が連続して押されていて、書き換えられないようにしているようです。かっちりした楷書で品名などが書かれていて、かなり精緻なリストです。所々に矢印と写真で今回の展示物の名前を示してくれるのが分かりやすい。 また、冒頭と最後には光明皇后の願文もあり 品物を観ているだけで天皇のことを想い出す旨が書いてるようで、光明皇后の思慕の深さも伺えました。

この隣には同様に国宝の「法隆寺献物帳」もありました。こちらも天皇御璽が押されているけど点数は少なめのリストです。

11 「海磯鏡」 中国 唐または奈良時代・8世紀 ★こちらで観られます
こちらは青銅製の大きな円形の銅鏡です。背面には海の波と四方の山が表されているように見え、波の中には船に乗る人物や鳥の姿もあります。解説によると、中央にある孔を通す部分も山とみなし、鳥は鴛鴦であることなどから海ではなく川であると考えられるようで、中国で崇拝された5つの山と4つの川を表しているとのことです。かなり細かく刻まれた線描で文様の単純化なども見事な鏡でした。

9 「平螺鈿背円鏡」 中国 唐時代・8世紀
こちらは円形の鏡で、背面に赤い花(宝相華文様)を螺鈿や琥珀で表しています。鎌倉時代に盗難されて大破したようですが明治に修復されたため赤い花も非常に鮮やかな色合いです。孔を通す部分まで花があり、可憐な雰囲気となっていました。

15 16 「紅牙撥鏤碁子」「紺牙撥鏤碁子」 中国 唐または奈良時代・8世紀
こちらは象牙製の碁石で、白と黒ではなく赤と黒の石が展示されています。碁石というと平べったいイメージですが、これは丸々していて表面には花を咥えた鳥の模様が表されています。摩耗が見られないことからあまり使われなかったと考えられるそうで、それも納得するくらい緻密な細工となっています。元囲碁部の私としては碁石に模様をつけるという発想自体が驚き。碁石なんて絶対摩耗するのに豪華な装飾をするとは…w

近くには碁笥もありました。

18 「直刀 無銘 (号 水龍剣)」 奈良時代・8世紀
こちらは真っ直ぐの刃の短めの刀です。水龍剣なんてファンタジックな名前になっているのは柄の辺りに波と龍を象った金の飾りがあるためのようです。近くには鞘「梨地水龍瑞雲文宝剣」もあったのですが、鞘は明治の品で 梨地に金雲の蒔絵装飾が見事です。それにしても8世紀の頃の刀がこんなに綺麗に残っていることに驚きました。

20 「鳥毛帖成文書屏風」 奈良時代・8世紀
こちらは六曲一隻の屏風のうちの第3~4扇のみで、縦8文字2行に渡って楷書で君主の座右の銘が書かれています。よく観ると字の部分は輪郭は黒いものの 中央あたりはキジや山鳥の羽が使われているようです。輪郭にそって上から貼ったのかな? 解説によると、鳥は不老不死の神仙世界への飛翔をイメージさせるとのことで、聖武天皇の浄土への安住の祈りに相応しい品に思えました。 なお、6章でこれによく似た作品の複製品が出てきます。


<第2章 華麗なる染織美術>
続いては染織美術のコーナーです。正倉院は世界最古の伝世品(発掘ではなく人から人へと伝わった品)の染織品が保管されているそうで、大仏の開眼会や聖武天皇一周忌で大量に作られて東大寺に収められたものが 現在まで正倉院宝物として伝わったようです。ここにはそうした正倉院伝来品と共に天平時代の染織美術に関する品が並んでいました。

25 「墨画仏像」 奈良時代・8世紀 ★こちらで観られます
こちらは麻布に墨で描かれた菩薩像で、雲に乗って天衣をなびかせ 印を組んだ姿で描かれています。輪郭だけで下描きなしに描いたらしく 簡素な感じですが、滑らかで優美な筆使いとなっています。特に指や衣の表現が軽やかで、作者の力量の高さが伺えました。

32 「白橡綾錦几褥」 中国 唐時代・8世紀
こちらは仏前に供物を献じる際に敷いて使った布地で、椰子の木を中心に2頭のライオンが立ち上がっていて それぞれの後ろには猛獣使いが鞭を持っている様子が表されています。布の上部と下部ではそれと同じ絵柄が並んでいてパターン化されているようです。元の色は分かりませんが茶色地に茶色なのでちょっと模様が見づらいものの、かなり精緻で明らかに国外で作られた文様であるのが分かります。解説によると、ササン朝ペルシアの美術や中国の織物の特徴も見られるとのことで、異国情緒あふれる布となっていました。

この近くにはフェルト製の「花氈」という布もありました。こちらもポロのような遊びをする唐子が描いてあって国際色豊かな作品です。


<第3章 名香の世界>
続いてはお香に関するコーナーです。香は仏に対する最大の供物とされた為、東大寺には貴重な香木が保管されたそうで、特に「蘭奢待」とも呼ばれる「黄熟香」は有名です。また、日本書紀に書かれている595年に淡路島に流れ着いた「沈水香」(と伝承される)なども保管しているようで、ここにはそうした品と共に香に使う道具なども並んでいました。
 参考記事:香り かぐわしき名宝 (東京藝術大学大学美術館)

64 「白石火舎」 中国 唐または奈良時代・8世紀
こちらは香を炊く為の火炉で、足ん部分が5頭の立ち上がった獅子のようになっています。獅子たちが押さえて支えているような感じでちょっと可愛いw 側面には金属製の輪っかがあり、それを使って吊り下げたりしたそうで、1つで色々な使い方が出来たのかも。炉の中には当時の灰の塊が残っているとのことで、そんなものまで取っておくのか…とちょっと驚きでした。

66 「銀薫炉」 中国 唐または奈良時代・8世紀
こちらは球形の香炉で、周りは透かしになっていて中にお香を置く皿があります。中央あたりに上下に分かれるようになっている他、中には3つの輪があって転がっても水平を保つ作りになっているようです。そこまでして球形にする必要性が分かりませんが、見た目とギミックに惹かれますw 隣には中を開いた感じの模造品があり、その仕組みも分かるようになっていました。 なお、この香炉には衣を掛けて香を焚き染めたりしていたようです。

60 「黄熟香」 東南アジア ★こちらで観られます
こちらは「蘭奢待」という別称を持つ特に有名な香木で、ジンチョウゲ科のジンコウ属植物に樹脂が沈着することで出来た沈香です(比重が重くて水に沈むので沈香と呼ぶ) 蘭奢待の蘭には東、奢には大、待には寺という文字が入っていて、東大寺を雅に表す名前として室町時代に名付けられました。以前に蘭奢待の小さな木片を見たことがありますが、今回の出品物は1mくらいはある木で、3箇所に付箋が付けられています。これは今までに蘭奢待を削った場所で、それぞれ足利義政、織田信長、明治天皇が削ったようです。素人目には空洞のある流木に見えますが、長い歴史でも3人しか使っていない貴重な香木のようです。明治の際には宮中に香りが漂ったとの記録があるようなので、何世紀経ってもその香りは失われていないようです。こちらも歴史の深さを感じさせる品でした。


ということで、この辺までが第一会場の内容となります。日本のみならずシルクロードの終着点として外国から伝わった品もあり、世界的にも非常に貴重な収蔵品と言えると思います。後半には正倉院の中でも特に有名な品もありましたので、次回は残りの第二会場についてご紹介の予定です。

 → 後編はこちら



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内藤コレクション展「ゴシック写本の小宇宙――文字に棲まう絵、言葉を超えてゆく絵」 【国立西洋美術館】

今日は写真多めです。前回ご紹介した国立西洋美術館の常設を観た際に、版画室で内藤コレクション展「ゴシック写本の小宇宙――文字に棲まう絵、言葉を超えてゆく絵」という展示を観てきました。この展示は撮影可能となっていましたので、写真を使ってご紹介していこうと思います。

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【展覧名】
 内藤コレクション展「ゴシック写本の小宇宙――文字に棲まう絵、言葉を超えてゆく絵」

【公式サイト】
 https://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2019gothic_manuscripts.html

【会場】国立西洋美術館
【最寄】上野駅

【会期】2019年10月19日(土)~2020年1月26日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 0時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_②_3_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_③_4_5_満足

【感想】
閉館時間が近かったこともあり空いていました。とは言え、ダッシュで観ることになったのでとりあえず写真だけ撮ってきた感じですw

さて、この展示は中世の聖書などの写本のコレクションを集めた内容で、大半は2016年に内藤裕史 氏が寄贈した作品のようです。内藤コレクションは約150点もあり、今回はまとまって展示される初の機会となっています。この展示は撮影可能となっていましたので、写真と共にご紹介していこうと思います。

「ラテン語聖書零葉:シラ書(イニシアルO、Qおよび枠装飾)」 ロレーヌ地方(メッス?) 1310~1320年頃
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こちらが聖書の写本。単にラテン語の文字だけでなく所々に装飾があるのが特徴です。

「時祷書零葉(ラテン語およびフランス語):死者のための聖務日課(イニシアルD/女性の胸像)」 フランス、おそらくアミアン 14世紀頃
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こちらはXとDの字のような所が絵柄になっていました。確かに女性の胸像があります。彩色も綺麗に残っていて保存状態も良さそうです。

この近くに前回ご紹介したルオーの作品がありました。内藤氏は戦後間もない時代の高校生3年生だった時、美術雑誌に載ったルオーを観て芸術への情熱に火がついたそうです。やがて医師になり 忙しい仕事や研究の傍らでも情熱を失わずに中世写本をコレクションしたそうです。また、内藤氏の写本収集のきっかけは、パリで美術館めぐりをした際にセーヌ川河畔の古本屋の屋台で中世ゴシック期の彩色写本の零葉を手にとって魅了されたことだったのだとか。

「ラテン語聖書零葉:創世記(イニシアルI/天地創造)」 イングランド 1225~1235年頃
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こちらは創世記の冒頭部分らしく、メダイヨンの中には天地創造やアダムとエヴァの話、楽園追放、アダムとエヴァの労働、カインとアベルなどが描かれているのだとか。ちょっと素朴な絵柄で確かに追放されたり労働してたりして、簡略的に示されていました。

「ラテン語詩篇集零葉8葉:詩篇67,71,73-77(シャンピ・イニシアルと装飾枠)」 フランドル(ブルージュ) 13世紀
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こちらは本になっているけど、かなりページ数が少なくて一部分と思われます。金や色彩で装飾されていて美術的な要素を感じます。ページの上部と下部に鳥の顔みたいなのが描いてあるデザインも面白い。

「ラテン語詩篇集零葉:暦 [表面] 7月(干草刈)」 フランドル(ブルージュ) 13世紀
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こちらは暦を描いた詩篇集。7月は鎌を持って干し草を刈る季節のようです。こちらも文字装飾は美しいけど絵は素朴なところが可愛いw

「ラテン語詩篇集零葉:暦  [裏面] 8月(麦刈)」 フランドル(ブルージュ) 13世紀
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裏面も観ることができました。こちらは女性がかがんで麦を刈り取っています。膝まで服をまくりあげていたり、当時の様子も伺えます。

「ラテン語詩篇集零葉:詩篇25(イニシアルI:教会の中に立つ男とドラゴン)」 マース川流域あるいはフランドル 1250~1260年
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教会に立つ男は左側、その足元と右上辺りにドラゴンがいます。男の下にいるのは鳥っぽく見えるかなw 頭文字が装飾されていたり、空白部分に幾何学文様があったりしてカラフルな印象を受けました。こうした装飾からどの地域で作られたがが推定できるようです。

「ラテン語詩篇集零葉:詩篇109(イニシアルD/聖三位一体)」 パリ 1270~1280年
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ちょっと細部がかすれているけど、Dの字の中に左にキリスト、右に父なる神、その間に聖霊の鳩がいて三位一体となっているようです。その上にいるのはドラゴンらしく、絵の構成も面白く思えました。普通、挿絵ってこんな真ん中に入れないでしょ…w

シュトゥットガルト:ミュラー&シンドラー 「ファクシミリ版『ランベス黙示録』」 1990年
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こちらは東京藝術大学附属図書館の所蔵品で、ファクシミリ版なので精巧なレプリカです。と言っても、どう観ても古い本にしか思えない完成度ですね。オリジナルは1260年頃のイギリスで作られたらしく、黙示録を挿絵を使って書いているようでした。

グラーツ大学出版会 「ファクシミリ版『ドゥース黙示録』」 1983年
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こちらも東京藝術大学附属図書館所蔵のレプリカ。オリジナルはイギリスの1270年で作られたもので、やはり黙示録が描かれています。

アップするとこんな感じ。
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ちょっと何のシーンだか分からないかなw Sの字の中に描かれているようでした。

グラーツ大学出版会 「ファクシミリ版『聖王ルイの詩篇』」 1972年
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こちらもレプリカですが、一際豪華な印象を受けました。オリジナルはフランスのルイ9世が所有していた詩篇だそうで、13世紀パリで作られた写本の傑作とされているようです。フォントまで美しく、装飾も細部まで見事です。

「ファクシミリ版『ピーターバラ動物寓意集』」 2003年
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こちらもレプリカ。動物の寓意を集めた内容らしく、中世に大いに人気を博したそうです。100点もの動物図があるようで、ここにも鹿やヤギらしきものが描かれていました。中世キリスト教の動物図鑑みたいな感じでしょうか。

「詩篇集零葉:キリストの鞭打ち・十字架を担うキリスト」 パリ 1260~1270年
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こちらは挿絵のみとなっている作品。どちらもキリストの受難をテーマにしていて、マリアらしき人物も描かれています。それにしても素朴な絵で、キリストは平然としている感じがしますw

「ラテン語詩篇集零葉:詩篇69(イニシアルS/水中から天の神に祈るダヴィデ王)」 ロレーヌあるいはシャンパーニュ地方 1310~1320年代
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こちらはSの字の中にダビデと神が描かれた作品。画面の所々にある横に区切る帯みたいなものや 音符のような文様が軽やかに感じられます。装飾的で美しい1枚でした。

「ポワティエのペトルス著『キリスト系図史要覧』(ラテン語) 断片:モーセとアーロン(左欄)、イスラエルの部族の宿営地一覧(右欄)」 イングランド 1270~1280年
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こちらはアダムとエヴァからイエス・キリストまでの主要な登場人物を系図にして事績を要約したもの。座っているのが恐らくモーセとアーロンでしょうか。聖書を読むと〇〇の子の△△が延々と続いて挫折しかけるので、こういう解説図があると嬉しいかもw 昔の人も図解して理解していたんですね。

「ポワティエのペトルス著『キリスト系図史要覧』(ラテン語) 断片:エルサレム概念図(左欄)、アレクサンドロス大王(右欄) イングランド 1270~1280年
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こちらも概念図や人物の系図。登場人物が多すぎてギッシリ書いてもほんの一部というw 当時の人たちの研究熱が伝わってきます。



ということで、全く観たことが無かった中世の写本の数々を観ることができました。内容を理解するのは難しいですが、絵・文字・装飾が一体となった独特の美しさがありました。この展示は常設の一部となっていますので、ハプスブルク展に行かれる方はこちらも寄ってみるのも良いかと思います。



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【国立西洋美術館】の案内 (常設 2019年10月)

前回ご紹介した展示を観た後、国立西洋美術館の常設も観てきました。今回も最近増えたコレクションはいくつかしか見当たらなかったのですが、今までご紹介していない作品と共に撮影してきたので、写真を使ってご紹介していこうと思います。

公式サイト:
 http://collection.nmwa.go.jp/artizeweb/search_5_area.do

 ※常設展はフラッシュ禁止などのルールを守れば撮影可能です。(中には撮ってはいけない作品もあります。)
  掲載等に問題があったらすぐに削除しますのでお知らせください。

参考記事
 国立西洋美術館の案内 (常設 2018年10月)
 国立西洋美術館の案内 (常設 2018年03月)
 国立西洋美術館の案内 (常設 2017年11月)
 国立西洋美術館の案内 (常設 2011年10月)
 国立西洋美術館の案内 (常設 2011年07月)
 国立西洋美術館の案内 (常設 2010年10月 絵画編)
 国立西洋美術館の案内 (常設 2010年10月 彫刻編)
 国立西洋美術館の案内 (常設 2010年06月)
 国立西洋美術館の案内 (常設 2010年02月)
 国立西洋美術館の案内 (常設 2010年01月)
 国立西洋美術館の案内 (常設 2009年10月)
 国立西洋美術館の案内 (常設 2009年04月)

アンソニー・ヴァンダイク・コプリー・フィールディング 「ターベット、スコットランド」
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長い名前でヴァン・ダイクと似ていますが別人です(ヴァン・ダイクにちなんで命名されたそうです) この絵はかつて松方コレクションの一部だったようで、昨年の松方コレクション展でも観た記憶があります。山の間から光が差し込むような明暗表現で、神々しささえ感じられます。遠くの空の空気感まで伝わってくうようでした。

クロード・モネ 「睡蓮、柳の反映」
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こちらも昨年の松方コレクションに出品されていたもので、2016年に再発見された際には一部が破損していた大型作品。下半分しか残っていないけど確かにモネの筆致を感じます。破損前は名作だったんだろうなと想像しながら観てきました。
 参考記事:松方コレクション展 感想後編(国立西洋美術館)

ジョルジュ・ルオー 「エバイ(びっくりした男)」
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こちらは洋画家の梅原龍三郎から寄贈された作品。晩年のルオーならではの厚塗りされてザラついたマチエールと 重厚な色彩となっています。驚いているというよりは笑っているように見えるかなw 恐らくサーカスの道化で、モチーフもルオーらしさを感じさせました。

シャルル・コッテ 「行列」
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こちらは黒の一団(バンド・ノワール)と呼ばれた画家の1人であるコッテによる1913年の作で、フランス・ブルターニュ地方の女性たちが描かれています。近くではポンタヴェン派と呼ばれるポスト印象派も活動していましたが、お互いの関心は異なるものだったようです。聖母子像をお神輿のように担いでいるけどみんな鎮痛な面持ちでまるでお葬式のような暗さです。それでもグループ名の割には色彩は明るく感じられるかな。バンドノワールは日本で紹介される機会がないので展覧会をやってもらいたいなあ。

モーリス・ドニ 「ロスマパモン」
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こちらはナビ派(ポンタヴェン派)のドニの作品。このピンク~オレンジっぽい色彩はドニの作品でよく観るように思います。平面的で明るく、それでいて何処か心温まるような雰囲気となっていました。

モーリス・ドニ 「ヴィラ・メディチ、ローマ」
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こちらはかつてメディチ家の領地で今は美術館となっている場所の眺めのようです。シンメトリーの構図で、背景の建物や 木々の合間の半円、噴水の円などが呼応しているようで面白く思えます。中景の人々がのんびりと寛いでいるように見えて静かな雰囲気でした。

リュシアン・シモン 「婚礼」
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こちらは先程のシャルル・コッテの仲間でバンド・ノワールの1人です。こちらも意外と色彩が明るいw 簡略化されているものの写実的な感じで、やはりこれもブルターニュ地方の服らしきものを着た人物が描かれていました。

ロヴィス・コリント 「樫の木」
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こちらはドイツの印象派を代表する画家だそうで、写実主義、ベルリン分離派、表現主義といった様々な作風の絵を残しているそうです。まず大胆な構図に驚くと共に、うねるような枝に力強さを感じます。筆致はモネに通じるものがあるかな。この画家も未知なので、まとまって観られる機会が欲しいところです。

ローラ・ナイト 「屋内訓練場のジョー・シアーズとW・エイトキン衛兵伍長」
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こちらは最近 修復している様子がテレビで放送された作品。ボクシングする様子を臨場感たっぷりに描いていて、筋肉の張りなども見て取れます。作者はイギリスの女性画家で印象派で、バレエ(特にバレエ・リュスの公演)や舞台などをよく描いたそうです。女性画家の先駆者だし、この人の絵ももっと観てみたいものです。

アルベール・グレーズ 「収穫物の脱穀」
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こちらは2.5m×3.5mくらい大型作品で、キュビスム絶頂期の1912年に開催された「セクション・ドール(黄金分割)」展で注目を集めた作品のようです。多面的かつ幾何学的で まさにキュビスムの特徴を凝縮したような画風で、所々に人らしき姿もあります。じっくり観ていると村の賑わいが伝わってくるようにも思えました。


ということで、今回はモネの「睡蓮、柳の反映」が増えているのが特に目を引きました。日本ではあまり知られていない画家の作品もちょいちょいあるのも貴重です。 ここのコレクションは意外と入れ替わりもあるので、特別展に行く際は毎回寄ってみると新しい発見もあると思います。(特別展の半券で入ることができます)


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ハプスブルク展 600年にわたる帝国コレクションの歴史 (感想後編)【国立西洋美術館】

今回は前回に引き続き国立西洋美術館の「ハプスブルク展 600年にわたる帝国コレクションの歴史」についてです。前編は3章の途中まででしたが、後編では3~5章についてご紹介して参ります。まずは概要のおさらいです。

 → 前編はこちら

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【展覧名】
 日本・オーストリア友好150周年記念
 ハプスブルク展 600年にわたる帝国コレクションの歴史 

【公式サイト】
 https://habsburg2019.jp/
 https://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2019haus_habsburg.html

【会場】国立西洋美術館
【最寄】上野駅

【会期】2019年10月19日(土)~2020年1月26日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
後半も前半同様に混んでいました。引き続き各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。


<III コレクションの黄金時代:17世紀における偉大な収集>
3章は1節までご紹介済みなので、今日は2節からとなります。

[2.フェルディナント・カールとティロルのコレクション]
こちらはハプスブルク家の傍系でティロルを拠点とするフェルディナント・カールに関するコーナーです。フェルディナント・カールはハプスブルク家の重要なコレクターの1人で、特に16~17世紀にフィレンツェ派の作品収集につとめたようです。しかし死後は世継ぎがいなかった為、本流の神聖ローマ皇帝レオポルド1世の直轄となり、その340点あまりのコレクションもウィーンと運ばれていったようです。ここにはそうしたコレクションが並んでいました。

53 チェーザレ・ダンディーニ 「クレオパトラ」 ★こちらで観られます
こちらは楕円の画面に自らの胸に毒蛇を噛ませているクレオパトラが描かれた肖像です。肌が青白いのがちょっと怖いけど、天を見るようなポーズで左手を前に大きく出していて動きを感じさせます。色彩と陰影も強く、ドラマチックな印象を受けました。

56 ヤン・ブリューゲル(父)の作品に基づく 「東方三博士の礼拝」
こちらは中央下辺りにキリストを膝に乗せたマリアがいて、その手前に東方三博士が跪いて礼拝している様子が描かれています。キリストは祝福のポーズをしていてキリスト生誕の場面となっている訳ですが、馬小屋の中ではないし周りには沢山の兵士や市民が集まっていて賑やかです。観た感じこの絵が描かれた頃の格好をしているんじゃないかな?? 緻密で色鮮やかで、やや風景画や風俗画の要素もあるように思えました。
 参考記事:ブリューゲル展 画家一族 150年の系譜 感想前編(東京都美術館)


[3.レオポルト・ヴィルヘルム:芸術を愛したネーデルラント総督]
続いては最も重要なコレクターであるオーストリア大公レオポルト・ヴィルヘルムのコレクションのコーナーです。レオポルト・ヴィルヘルムは1646~1656年にネーデルラントの総督としてブリュッセルに滞在し、赴任中に絵画だけで1400点以上集めたそうです。特にヴェネツィア派の名品を数多く獲得したようで、ここにはそうした作品が並んでいました。
 参考記事:世界遺産 ヴェネツィア展 ~魅惑の芸術-千年の都~ 感想前編(江戸東京博物館)

62 ティントレット(本名ヤーコポ・ロブスティ) 「甲冑をつけた男性の肖像」 ★こちらで観られます
こちらは黒い甲冑を着て、手前の兜と腰に手を置いたポーズの男性の肖像です。誰なのかは分かりませんでしたが、顔をこちらに向けて威厳ある雰囲気となっていてます。左上の窓の外には沢山のオールが突き出た船が描かれているので軍人なのかな? 鎧は黒光りして艷やかな表面となっているなど、質感表現も見事でした。

64 ヴェロネーゼ(本名パオロ・カリアーリ) 「ホロフェルネスの首を持つユディト」 ★こちらで観られます
こちらは敵将ホロフェルネスを酒に酔わせて寝首を掻いた ユディトという女性の物語を描いた作品です。ユディトは振り返って侍女を見ていて、ホロフェルネスの首を袋に詰めようとしているようです。ユディトには光が当たったように明るい色が使われ、透明感のある肌となっています。一方、侍女は浅黒くお世辞にも可愛くないのでユディトの美しさの引き立て役のような感じでした。恐ろしくも気品があり、劇的な雰囲気の作品です。

70 ペーテル・パウル・ルーベンス工房 「ユピテルとメルクリウスを歓待するフィレモンとバウキス」
こちらは2人の旅人が何件もの宿屋に断れた後、老夫婦の営む宿屋に迎え入れられたという話をモチーフにした作品です。実はこの2人の旅人はローマ神話のユピテル(≒ゼウス)とメルクリウス(≒ヘルメス)で、老夫婦が食事をもてなすと飲み干したはずのワインが一杯になったので、この2人は神だと気づきました。そこで1匹しかいないガチョウを落として振る舞おうとしたところ、ユピテルが手でそれを制止するジェスチャーを示しているという場面のようです。全体的に強い明暗で、特にユピテルの逞しい体つきの表現にルーベンスならではの画風が感じられます。また、解説によるとこの絵の中の動物と静物は専門の画家(スネイデルス)が手掛けているとのことでした。と言われても私には見分けが出来ないくらいマッチして融合していますw 人々の表情や構成も見事で、非常に見応えのある1枚でした。
 参考記事:
  ルーベンス展―バロックの誕生 感想後編(国立西洋美術館)
  ルーベンス 栄光のアントワープ工房と原点のイタリア 感想後編(Bunkamuraザ・ミュージアム)

この辺はフランドル絵画が多かったかな。静物や風俗画などもありました。

79 ヤン・ステーン 「だまされた花婿」
こちらは家の中に大勢の農民らしき人々が集まっている様子が描かれた作品で、子供にお乳を与える女性や 後ろの女性に駆け寄る子供、手を挙げて驚くような仕草をする人、外にも野次馬のような人たちがいるなど 老若男女が賑やかな感じとなっています。床にも花が散らかっていたり何かの騒ぎのようです。ヤン・ステーンは風俗画に皮肉や教訓を混ぜてくる作風なので、この作品もいかにもそうした感じがするのですが 読み取るのは難しくタイトルの意味も分かりませんでした。というか花婿どの人?って感じで…w まあ意味は分からなくても当時の農村の雰囲気が伝わってくるように思えました。

80 ヤーコプ・ファン・ロイスダール 「滝のある山岳風景」
こちらは山の中の滝を描いた作品で、全体的に薄暗く それによって滝の飛沫が明るく感じられます。緻密かつ写実的ながら叙情性もあって、静けさの中に滝の音が響いている様子を想像させました。

77 レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン 「使徒パウロ」
こちらは使徒パウロの老齢の姿を描いた作品です。パウロは伝導の為に多く手紙を書いた聖人であるため、手紙の上に肘をついてペンを持っています。また、右上には剣があり これは斬首で殉教したことを表しているようです。非常にリアルな描写で、暗い背景にパウロが浮かび上がってくるような感じで、光が当たっているように見えました。余談ですが、このパウロは元々はキリスト教信者を迫害していたものの、キリストの声を聞いて回心しました。洗礼の際に目から鱗のようなものが落ちて目が見えるようになり、そこから「目から鱗」という諺も生まれました。キリスト教が世界的な宗教になったのはこの聖人によるところが大きかったりします。


<IV 18世紀におけるハプスブルク家と帝室ギャラリー>
続いては18世紀頃のコーナーで、ここには女帝マリア・テレジア、その娘マリー・アントワネット、最後の神聖ローマ皇帝で初代オーストリア皇帝のフランツ1世といったハプスブルク家でも特に有名な人物の肖像があります。この時代、カール6世が各地に分散していたコレクションをウィーンに集めて帝室画廊を整備したそうで、娘のマリア・テレジアの時代には手狭になってベルヴェデーレ宮殿上宮に移されたようです。そこでは画派別・時代順に展示したり一般公開するなど近代の美術館に繋がるあり方も示されていたのだとか。ここにはそうした時代の作品が並んでいました。

84 マルティン・ファン・メイテンス(子) 「皇妃マリア・テレジア(1717-1780)の肖像 」 ★こちらで観られます
こちらは王笏を持った30歳頃の肖像で、重厚なマントを羽織った姿となっています。実年齢よりも年上に見えるような堂々とした雰囲気で、まさに女帝の風格を漂わせています。マリア・テレジアの背後には3つの王冠があり、それぞれハンガリー、ボヘミア、オーストリアの王であることを示しているようでした。歴史上でも評価が高い人物ですが、当時の敵国からも稀にみる「男」と評価されるほどの女傑だったようです。それでいて16人も子供を生んだスーパー母ちゃんです。

88 マリー・ルイーズ・エリザベト・ヴィジェ=ルブラン 「フランス王妃マリー・アントワネット(1755 -1793)の肖像」 ★こちらで観られます
こちらはマリア・テレジアの娘で、フランス革命時に断頭台の露と消えたことで有名なマリー・アントワネットの肖像です。嫁ぎ先のフランスから母に贈るために描かれた肖像で、髪の毛を高く持って白い帽子をかぶり、真珠色のサテンのドレスを着た姿となっています。右上には夫のルイ16世の胸像もあり、その身分を表しているようです。華やかで瑞々しい雰囲気となっていて、髪型や服装は当時流行したものとなっています(というより、自らがファッションリーダー的存在で広まった) 作者は女性画家ということもあって、男性画家にはない優美な感性を持って描いているように思えました。
なお、母には別れ際や手紙で何度も派手な格好を控えてフランス国民に愛されるように努めろと注意されていたようで、マリー・アントワネットも自分なりにそうしている旨を伝えていたようです。実際にはそれほど悪い王妃という訳ではなく悪意にハメられた感がありますが、母の話をもっと真剣に聞くべきでしたね…。
 参考記事
  マリー・アントワネット物語展 (そごう美術館)
  マリー=アントワネットの画家ヴィジェ・ルブラン -華麗なる宮廷を描いた女性画家たち- 感想前編(三菱一号館美術館)
  マリー=アントワネットの画家ヴィジェ・ルブラン -華麗なる宮廷を描いた女性画家たち- 感想後編(三菱一号館美術館)

94 カルロ・ドルチ 「聖母子」
こちらは赤と青の服を着たマリアが幼いキリストを抱いている聖母子像です。キリストは祝福のポーズを取っていて、足は踏み出すような姿となっています。全体的に滑らかな色彩で、特に青が美しく感じるかな。マリアはうつむいて目を半開きにしていて慈愛に満ちた雰囲気となっていました。この作品は今回の展示でも特に気に入った作品です。


<V 18世紀におけるハプスブルク家と帝室ギャラリー>
最後はハプスブルク家による帝国支配終焉の時代のコーナーです。ナポレオン戦争をきっかけに神聖ローマ帝国は解体し、1804年にオーストリア帝国が誕生しました(1867年からはオーストリア=ハンガリー二重帝国)。しかし第一次世界大戦の敗戦で帝国は崩壊し終焉を迎えます。ここでは最後の皇帝フランツ・ヨーゼフ1世ゆかりの品と、その后のエリザベートに関する品などが並んでいました。

96 ヴィクトール・シュタウファー 「オーストリア=ハンガリー二重帝国皇帝フランツ・ヨーゼフ1世(1830 -1916)の肖像」 ★こちらで観られます
こちらは晩年の頃のフランツ・ヨーゼフ1世の肖像で、青い軍服を着て椅子に座った姿となっています。白いヒゲをたくわえて鋭い視線を向けていて やや緊張感があります。解説によるとフランツ・ヨーゼフ1世は常に軍服を着ていたそうで、これは第一次世界大戦の間に描かれたそうです。最後の皇帝となったとは言え有能な政治家で、ウィーンの画期的な都市計画をはじめ 現代でもこの人から恩恵を受けた文化は数多く残っています。

97 ヨーゼフ・ホラチェク 「薄い青のドレスの皇妃エリザベト(1837-1898)」 ★こちらで観られます
こちらは20歳頃の皇妃エリザベートを描いた作品です。ほんのり青いサテンのドレスを着た姿で かなり細密な描写となっていて豪華で気品ある印象を受けます。生き生きしていて目や唇は輝いているようにすら見えるほどです。「蜂腰」と呼ばれていた細いウェストは驚くほどで、スラリとした体型となっていました。その美貌と悲劇の多い波乱の人生で 今でも多くの人を魅了しているのもうなずけました。


ということで、後半はハプスブルク家の有名人が多く出てきました。この辺は歴史を知っていると一層に楽しめるので、軽く予習してから行った方が良いかも知れません。会期は長めですが既に大人気となっていますので気になる方はお早めにどうぞ。




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ハプスブルク展 600年にわたる帝国コレクションの歴史 (感想前編)【国立西洋美術館】

先週の日曜日に上野の国立西洋美術館で「ハプスブルク展 600年にわたる帝国コレクションの歴史」を観てきました。メモを多めに取ってきましたので、前編・後編に分けてご紹介していこうと思います。

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【展覧名】
 日本・オーストリア友好150周年記念
 ハプスブルク展 600年にわたる帝国コレクションの歴史 

【公式サイト】
 https://habsburg2019.jp/
 https://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2019haus_habsburg.html

【会場】国立西洋美術館
【最寄】上野駅

【会期】2019年10月19日(土)~2020年1月26日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
予想以上に混んでいてチケットを買うのに10分くらい待ちました。会場内も基本的に列を組んでいるような混雑ぶりで観るのにやや時間がかかりました。

さて、この展示はかつてヨーロッパに広大な帝国を築き上げたハプスブルク家に関する展示で、ハプスブルク家の歴史と共にそのコレクションを紹介する内容となっています。ハプスブルク家は13世紀後半にオーストリアに進出してそこを拠点に勢力を拡大し、15世紀以降は神聖ローマ帝国の位を独占しました。16~17世紀にはオーストリア系とスペイン系に分化し、後者がアジア・アフリカ・南アメリカに領土を持ったことで「日の沈むことのない帝国」となっていきます。その後ナポレオン戦争を引き金として神聖ローマ帝国が解体されると、オーストリア帝国(1867年からはオーストリア=ハンガリー二重帝国)となり、第一次大戦まで統治していきました。また、ハプスブルク家は豊かな財とネットワークを生かして質・量ともに世界屈指のコレクションを築き、1891年に開館するウィーン美術史美術館の礎となったようです。この展示ではそのウィーン美術史美術館のコレクションが100点ほど来日し、5章7セクションで紹介されていましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。
 参考記事:THE ハプスブルク(ハプスブルク展) (国立新美術館)


<I ハプスブルク家のコレクションの始まり>
まずはコレクションの始まりについてのコーナーです。ハプスブルク家が本格的な収集を始めたのは15世紀後半から16世紀の頃で、その中でも神聖ローマ帝国皇帝のマクシミリアン1世とオーストリア大公フェルディナント2世の存在が大きいようです。マクシミリアン1世は戦争ではなく政略結婚によってハプスブルク家を繁栄させていく方針を打ち出した人物で、自らの結婚によってブルゴーニュ公国(文化的に栄えていた)の後継者のマリーと結婚して、その豊富な美術品も流れ込んできたようです。マクシミリアン1世にとって芸術は自身とハプスブルク家の名声を高める手段であり、特に肖像は有効な手段と考えていたようです。また、槍試合に自ら出ることもあったため、武具にも情熱を傾けました。一方、フェルディナント2世はハプスブルク家きっての大コレクターで、特に甲冑に関心があったようです。この章ではそうした2人に注目した品が並んでいました。

1 ベルンハルト・シュトリーゲルとその工房、あるいは工房作 「ローマ王としてのマクシミリアン 1世(1459 -1519)」 ★こちらで観られます
こちらは横向きのマクシミリアン1世を描いた油彩の肖像画です。赤いタピストリーを背景に、鎧を身につけ錫杖を持って王冠を被った姿となっていて、細密な筆致で描かれています。タイトルのローマ王というのは教皇から戴冠される前のローマ皇帝の称号だそうで、皇帝になる前の姿のようです。このマクシミリアン1世は政略結婚によってブルゴーニュを手に入れ、息子と娘はスペイン王家と結婚して、後にスペインもハプスブルク家の支配下に入っていきます。「戦争は他家に任せておけ。幸いなオーストリアよ、汝は結婚せよ」という言葉があるくらいハプスブルク家といえば政略結婚のイメージですが、この人の業績によるところが大きいのかもしれません。厳格そうな雰囲気の肖像でした。

この作品を観た後はすぐに下階へと移動となります。

12 エントリス(アンドレアス)・デーゲン2世  「ほら貝の水差し」
こちらは大きな法螺貝を水差しに仕立てたもので、台座の部分にトリトンの彫刻があり法螺貝を背負っているような意匠となっています。近くには椰子の実を使った杯などもあり、これらが作られた16世紀には遠くの国から届いた貴重な品々だったようです。帝国の影響力を示す意味合いもあったのかな。珍しいだけでなくウィットに富んだデザインでした。

この後の章でルドルフ2世を紹介していますが、この辺りでクンストカンマー(驚異の部屋/芸術の部屋)の解説もありました。後ほどまた出てきます。

6 ヤーコプ・ザイゼネッガー 「オーストリア大公フェルディナント2世(1529 -1595)の肖像」
こちらはティツィアーノらも手本にした画家によるオーストリア大公フェルディナント2世の等身大の全身肖像です。羽根帽子に半ズボンみたいな服装をしていて、若々しく血色の良い姿で描かれています。19歳の頃だそうで、緻密な描写で堂々たる雰囲気となっていました。

2 ロレンツ・ヘルムシュミット 「神聖ローマ皇帝マクシミリアン 1世(1459 -1519)の甲冑」 ★こちらで観られます
こちらは鋼鉄の甲冑で、装飾は少なめでツヤツヤした表面となっています。腰や背中のあたりは鎖帷子になっていて意外と覆っている割合は少ないのかも。中世の鎧のイメージそのものと言った感じで、見栄えがしました。

8 イェルク・ゾイゼンホーファー(甲冑) およびハンス・ペルクハマー(エッチング) 「徒歩槍試合用甲冑、オーストリア大公フェルディナント2世(1529 -1595)の[鷲の紋章付き甲冑セット]より」
こちらはフェルディナント2世が作らせた全身を覆う鎧で、銀地に金色の緻密な植物文様が施されています。スカート状になっているのが特徴で、これは馬に乗らない徒歩での槍試合の為のデザインらしく自由に動けるようになっているようです。横から観ると顔の部分が前方に尖っているのも面白いかな。全部で80ものパーツで出来ているらしく、用途に合わせて組み合わせるとのことでした。見た目の豪華さだけでなく実用性が高いのが魅力です。

甲冑は5体並んでいました。360度ぐるりと観ることができるので、歴史好きや武具好きにはたまらない展示方法だと思います。


<II ルドルフ2世とプラハの宮廷>
続いては神聖ローマ帝国皇帝ルドルフ2世についてのコーナーです。ルドルフ2世はコレクションを集めたクンストカンマー(驚異の部屋/芸術の部屋)という陳列室を設け、工芸品・標本・異国の珍しい品・時計・天球儀など様々な品を収めました。また、好みの芸術家を雇ったり庇護した為、プラハは独特の芸術文化が花開いたようです。ここにはそうしたルドルフ2世に関する品が並んでいました。
 参考記事:神聖ローマ皇帝ルドルフ2世の驚異の世界展 (Bunkamura ザ・ミュージアム)

16 ヨーゼフ・ハインツ(父) 「神聖ローマ皇帝ルドルフ2世(1552 -1612)の肖像」 ★こちらで観られます
こちらは宮廷画家だったヨーゼフ・ハインツによる作品で、黒い帽子にスペイン風の黒い服を着たルドルフ2世の肖像画です。面長でヒゲを生やし恰幅の良いの姿となっていて威厳を感じますが、装飾は少なめです。華美でないのに威厳を出させているのは画家の力量によるものらしく、絵自体が小さいのに存在感がありました。写実的で生き生きとした描写も見事です。

この辺にはヘラクレスの彫像や水晶でできた壺などもありました。

33 34 作者不詳 「スプーン」「フォーク」
こちらは水晶をベースに金とルビーで装飾したスプーンとフォークで、セイロンから贈られた品のようです。一見してガラスかと思うほど透明感があり、硬い水晶をこれだけ綺麗に加工しているのには驚かされます。ルドルフ2世も実用性よりはその高い技術と装飾に目をとめたとのことで、小品ながら面白い作品でした。

この部屋には他にラファエロの原画をタピストリーにした作品が2点(ヤーコプ・フーベルス(父)の工房(織成) 「《アナニアの死 》、連作〈聖ペテロと聖パウロの生涯〉より」「《アテネにおける聖パウロの説教 》、連作〈聖ペテロと聖パウロの生涯〉より」)が目を引きました。これは複製品とのことでしたがコピーとはいえ見上げるような大きさと緻密な織りとなっていて、聖ペテロと聖パウロの物語と劇的に表わしていました。

続いては上階に戻って絵画作品のコーナーです。この先の展示物は主に絵画となります。

35 アルブレヒト・デューラー 「アダムとエヴァ」 ★こちらで観られます
こちらは版画でアダムとエヴァ(イヴ)の話が描かれています。アダムは枝を持ち、そこにデューラーの名前入りの板が掲げられています。一方のエヴァは後ろ手に知恵の実と持ち、もう一方で木に巻き付く蛇に知恵の実を与えているようです。股間はイチジクの葉っぱで隠されているので既に知恵の実を食べたのかも?? 解説によるとルドルフ2世はデューラーを特に熱心に集めていたようで、この作品の原盤までも所有していたそうです。非常に精密で1枚だけでも物語性を感じる作品でした。
 参考記事:アルブレヒト・デューラー版画・素描展 宗教/肖像/自然 (国立西洋美術館)

この辺はデューラーの版画の他、油彩も1枚ありました。また、ホルツィウスという作家によるローマの英雄を描いた連作もありました。やけにずんぐりむっくりした英雄像ですw

20 バルトロメウス・スプランゲル 「オデュッセウスとキルケ」
こちらは魔女キルケの島にたどり着いた英雄オデュッセウスの物語を描いた作品です。2人の他にイノシシ・キツネ・馬・牛・ライオンなどの動物が描かれていて、この動物たちはキルケによってオデュッセウスの部下が変身させられた姿のようです。そこでオデュッセウスは魔法を解くようにキルケに頼もうとしているのですが、キルケは足を絡めたりして誘惑しているようです。その妖しい雰囲気と対照的に嫌そうなオデュッセウスの顔や複雑なポーズも面白い作品でした。解説によると、部下を救う英雄の物語は 民を救う皇帝とイメージを重ねて考えられたようです。一種のプロパガンダ的な側面もあったのかもしれませんね。


<III コレクションの黄金時代:17世紀における偉大な収集>
続いての3章は3つのセクションに分かれていました。

[1.スペイン・ハプスブルク家とレオポルト1世]
1555年に皇帝の地位を退いたカール5世は、弟のフェルディナントに神聖ローマ皇帝の位とオーストリアの支配権を譲り、一方で長男のフェリペにはスペイン王位を継承しました。これによってハプスブルク家はオーストリア系とスペイン系に分裂し、17世紀にスペイン系が消滅するまで分立が進みました。お互いに対抗意識を持ちつつも密接な関係を保っていたようで、両者の間で縁組も行われています。そして近況を知らせたり婚約者の姿を相手に示すために肖像画が利用されたようで、ここにはそうして描かれた肖像や当時の宮殿の華やかさを伝える作品が並んでいました。

49 ヤン・トマス 「神聖ローマ皇帝レオポルト1世(1640 -1705)と皇妃マルガリータ・テレサ(1651-1673)の宮中晩餐会」
こちらは宮殿内の部屋で U字型のテーブルを多くの貴族が囲んでいる様子が描かれた作品です。これは仮装晩餐会らしく、U字のフチで宿屋の夫妻に扮している皇帝夫妻の姿もあります。貴族たちも様々な職業の格好をしていて、平たく言えばコスプレパーティーみたいなw 部屋ぎっしりの人たちが楽しげで、当時の盛り上がりが伝わってきます。解説によると、この晩餐会は出世の為に重要な場だったとのことで、見た目ほど呑気じゃないのかもw 飲み会で人事が決まるブラック企業みたいなことが昔からあったんですね…w

44 ディエゴ・ベラスケス 「宿屋のふたりの男と少女」 ★こちらで観られます
こちらはテーブルで向き合う2人の男と、中央でワインを注ぐ少女が描かれた作品です。少女と言っても少年みたいに見えるかな。テーブルには皿やグラス、ミカンのような果実もあり質感豊かに描かれています。3人の視線はグラスに集まっているようで、自然とそこに目が行きました。明暗が強くドラマチックな作品です。
 参考記事:
  プラド美術館展 ベラスケスと絵画の栄光 感想前編(国立西洋美術館)
  プラド美術館展 ベラスケスと絵画の栄光 感想後編(国立西洋美術館)

45 ディエゴ・ベラスケス 「スペイン国王フェリペ 4世(1605 -1665)の肖像」 ★こちらで観られます
こちらは黒い服を着たスペイン国王フェリペ 4世の肖像で、優しそうな表情をしています。特徴は何と言っても長く尖った顎で、ハプスブルク家と言えば顎です。オーストリア系とスペイン系で密接に政略結婚を繰り返して行った結果、近親婚によって段々と遺伝的な特徴が強調されていったのが見て取れます。色もやけに白いしちょっと虚弱そうにも見えるかな。競馬ファンもびっくりのインブリードを重ねた家系だけに、末代になると色々と悲劇もあったようです。ちょっと絵とは関係ない方向で考えさせられました。

47 ディエゴ・ベラスケス 「青いドレスの王女マルガリータ・テレサ(1651-1673)」 ★こちらで観られます
こちらは今回のポスターにもなっている王女マルガリータ・テレサが9歳の頃の作品です。この子の肖像は何度となく展覧会で観ているので、親戚の子供か?というくらい成長過程を知っていますw この絵も許嫁のレオポルド1世に贈るためにベラスケスに描かせた3枚のうちの1枚で、青いドレスを着た姿となっています。大きく膨らんだドレスは離れて観ると緻密に見えますが、近くでじっくり観ると意外と大胆な筆致で表現されていました。つぶらな瞳をしていて何とも可愛らしい。この子はこの後15歳で結婚し、夫とも仲が良かったのですが21歳の若さで亡くなってしまいました。

この隣にそっくりな姿のフアン・バウティスタ・マルティネス・デル・マーソによる肖像もありました。しかしそちらは人形のような顔をして色も沈んでいたので、ベラスケスの凄さの引き立て役みたいに感じました。


ということで、長くなってきたので今日はここまでにしておこうと思います。ハプスブルク家の歴史はヨーロッパの歴史を知る上でも重要なので、この展示は非常に意義深いものだと思います。特にルドルフ2世などは美術に多大な影響を与えているので、美術好きの方は抑えておきたい内容です。後半も有名な人物に関する品々が並んでいましたので、次回は残りの章についてご紹介予定です。

 → 後編はこちら



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Cafe MORI 【上野の森美術館のお店】

前々回・前回とご紹介した展示を観た後、同じ上野の森美術館の中にあるCafe MORIというお店でお茶してきました。

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【店名】
 Cafe MORI 

【ジャンル】
 カフェ 

【公式サイト】
 http://www.ueno-mori.org/shopcafe/
 食べログ:https://tabelog.com/tokyo/A1311/A131101/13111760/
 ※営業時間・休日・地図などは公式サイトでご確認下さい。

【最寄駅】
 上野駅 

【近くの美術館】
 上野の森美術館(館内のお店です)

【この日にかかった1人の費用】
 900円程度

【味】
 不味_1_2_3_④_5_美味

【接客・雰囲気】
 不快_1_2_③_4_5_快適

【混み具合・混雑状況(土曜日17時頃です)】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【総合満足度】
 地雷_1_2_③_4_5_名店

【感想】
展覧会は混雑していましたが、こちらは閉店近い時間だったこともあってそれほど混んではいませんでした。

さて、このお店は上野の森美術館の1階の奥にあり、それほど広くはないもののお茶と甘味を楽しめるカフェとなっています。この日は17時過ぎまで営業していましたが普段のラストオーダーは16:30のようです。

お店の中はこんな感じ。
20191019 173411
何故か白い壁のようになっていたけどいつもはガラス張りで外の庭が見えたりします。最近はsuicaも使えるようになって便利

この日はりんごのタルトセット(900円)を頼みました。ドリンクはコーヒーをチョイス。
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普通のカフェのようにテーブルで注文して運んできてくれる形式です。展示によってはコラボメニューなんかもあったりします。

まずはりんごのタルト
20191019 172202
軽いシナモンの香りがして生地は結構甘くてねっとりしています。りんごはシャクシャクした食感で、やや酸味があってジューシーでした。

続いてコーヒー。
20191019 172206
苦味はあまりなくややフルーティーな感じで酸味とコクがありました。まろやかで飲みやすかったです。


ということで、簡素なお店ですがタルトとお茶を楽しむことができました。混雑した展示で疲れた後だったので地獄に仏のような感じです。上野の森美術館は人気の展示が多いので、休憩や待ち合わせに使うのもよろしいかと思います。


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ゴッホ展 (感想後編)【上野の森美術館】

今回は前回に引き続き上野の森美術館の「ゴッホ展」についてです。前編は上階の内容についてでしたが、後編は下階についてご紹介してまいります。まずは概要のおさらいです。

 → 前編はこちら

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【展覧名】
 ゴッホ展

【公式サイト】
 https://go-go-gogh.jp/
 http://www.ueno-mori.org/exhibitions/article.cgi?id=913189

【会場】上野の森美術館
【最寄】上野駅

【会期】2019年10月11日(金)~2020年01月13日(月・祝)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_①_2_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
下階も上階同様に混雑していて、あちこちで人だかりが出来ているような感じでした。後編も引き続き各節ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。なお、後編で使っている絵の写真も表にあった看板をアップで撮ったものです。展覧会では撮影禁止となっていますのでご注意ください。


<Part 2 印象派に学ぶ>
パリに出るまでゴッホはハーグ派に影響を受けた作品を描いていましたが、パリで出会った新たな傾向はこれまでの価値観を打ち壊すものでした。モンティセリによる厚塗りや宝石のように輝く色彩、印象派による科学的な理論に基づいた筆触分割など、ゴッホは彼らの作品を評価し 技法を取り入れることで作風を劇的に変化させていったようです。その後のパリからアルルに移った時期は最も色鮮やかで強烈な色彩が使われ、絵の具も厚く塗られる画風となりました。そして精神病でサン=レミに移るとまた異なる段階に進み、ミレーの模写や自作の再制作を行い 幾分落ち着いたトーンになります。同じ向きや長さのタッチを緻密に並べたりうねるようなものになっていき、最期まで自身の芸術を追い求めました。この章ではパリ以降の晩年までの作品が並んでいました。

[印象派の画家たち]
まずはゴッホに影響を与えた印象派やモンティセリの作品が並んでいました。モンティセリの名前はアルルに移って間もない頃にテオへの手紙の中に出てくるようで、卓越した色彩家として崇拝し厚塗りを積極的に取り入れていきました。それに対して印象派は既に名声を得ていたようで、大通りの画廊で扱われていたのでゴッホは「大通りの印象派」と呼んでいたようです。一方でゴッホ自身を含む若い世代の画家を「裏通りの印象派」と呼び、共にスケッチに出たり展覧会を開いて親密な仲になりました。

54 カミーユ・ピサロ 「ライ麦畑、グラット=コックの丘、ポントワーズ」 ★こちらで観られます
こちらは手前にライ麦畑が描かれ、左側に木があり 奥には向こうの丘が見えている風景画です。画面半分は空で清々しい印象を受け、穏やかな光景が広がります。ライ麦畑は厚塗りされていて実際に目の前にライ麦があるかのような立体感を感じます。穂の流れもあってリズミカルな躍動感もありました。
ゴッホはピサロ親子と仲良くなったようです。ピサロは気難しい印象派の画家たちをまとめあげる人格者だったので、ゴッホにも優しかったのかもしれません。ゴッホはピサロの「色を調和させたり不調和にすることで生まれた効果は思い切って強調しなければならない」という言葉に賛同してテオへの手紙に残しているようです。ゴッホの作風そのものとも言える言葉だけにピサロの教えもしっかり受け継いでいるように思えました。

この辺には著名な印象派の作品があり、シスレー、シニャック、ゴーギャンなどが1~2点ずつ並んでいます。新印象主義からの影響についてあまり言及されていませんが、後の細長い筆致は点描に通じるものを感じます

51 アドルフ・モンティセリ 「ガナゴビーの岩の上の樹木」
こちらは白っぽい岩とその上に立つ樹木、そして近くに人の後ろ姿がポツンと描かれた作品です。厚塗りされて細かくグニャグニャした筆致で、岩の重厚感を出しています。モンティセリは晩年にアルコール中毒で目が見えなくなっていき一層にグニャグニャして何だか分からなくなっていくのですが、これはしっかりと対象が判別できましたw ゴッホに影響を与えたのがよく分かる筆致です。

この近くにあったセザンヌの「オワーズ河岸の風景」(★こちらで観られます)も良かったです。他にモネ3点、ルノワール2点と巨匠の作品が続きます。

50 アドルフ・モンティセリ 「陶器壺の花」
こちらは花束の入った陶器の壺を描いた作品で、厚塗りされていて大きな筆致を重ねています。全体的にモコモコした感じの質感に見えるかな。ゴッホはモンティセリをドラクロワ以来の画家と賞賛し、宝石のような色彩と讃えたようです。自分をモンティセリの後継者と考えていたくらいに傾倒していたようなので非常に重要な存在です。


[パリでの出会い]
続いてはパリ時代のコーナーです。ゴッホは1886年2月末に突然パリに出てきて、モンマルトルのテオの部屋に転がり込んで、さっそく風景を書き留めました。そして2年の間にモンティセリや日本の浮世絵、印象派などの大きな出会いを果たし 大きく影響を受けて明るい色調へと変わっていきました。ここにはそうした過渡期の作品が並んでいました。

49 フィンセント・ファン・ゴッホ 「花瓶の花」
こちらは1886年の夏に花の静物を35~40点程度 集中して描いて色を研究した時の作品です。モンティセリに影響を受けているようで、暗い背景に鮮やかな色を厚塗していて その研究ぶりが伺えます。よく観ると背景などにも筆跡が残っていて、そうした点もよく似ているように思えました。

46 フィンセント・ファン・ゴッホ 「パリの屋根」 ★こちらで観られます
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こちらが急にパリに来てテオの部屋から描いた町の風景画です。縦長の画面の半分は空となっていて開放的な印象を受けるものの 落ち着いた色調で家々は茶色や灰色となっています。まだハーグ派に近い色彩かな。

ちなみにテオとゴッホの住んだ家はまだ残ってたりします。割とモンマルトルの丘でも下の方だったと記憶しています。
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何の変哲もないアパルトマンに見えますw テオとの生活はまあまあ上手く行ってたようです。
 参考記事:【番外編 フランス旅行】 パリ モンマルトル界隈


[アルルでの開花]
続いては主にアルル時代のコーナーです。ゴッホは1887年頃から印象派風の明るい色と筆触を取り入れて劇的に画風が変化しました。そして翌年に南仏のアルルに移住して色彩も筆使いもより大胆なものになったようです。ゴッホはアルルで画家の共同体を作るという夢を持ちましたが、結局それに応じたのはゴーギャンだけ(しかもテオの支援金目的)でした。そのゴーギャンとも2ヶ月で耳切事件を起こして破綻するのは有名な話ですが、その2ヶ月の間にゴーギャンの作風に影響を受けて落ち着いた筆触で詩的な雰囲気の絵を描くこともあったようです。ここには引き続きパリ時代の品やアルルの頃の作品が並んでいました。
 参考記事:ゴッホゆかりの地めぐり 【南仏編 サン・レミ/アルル】

69 フィンセント・ファン・ゴッホ 「パイプと麦藁帽子の自画像」
DSC06880.jpg
こちらは黄色い麦わら帽子を被った自画像で、パイプを咥えてヒゲを生やした姿となっています。これは34歳頃でパリに到着して印象派に影響を受け始めた頃のようで、粗いタッチで色彩が明るく筆致の素早さを感じさせます。目の力も強く感じられるかな。解説によると、麦わら帽子はモンティセリに通じるアイテムだったそうです。ゴッホのトレードマークのように思っていましたが、これもモンティセリからの影響だったとは驚きでした。

この近くには画材屋で若手画家に親切だった「タンギー爺さん」やクレラー・ミュラー美術館所蔵の「男の肖像」などがありました。この先はクレラー・ミュラー美術館の品が多くて、何年か前に日本で観た覚えがあるのもあったかな。

73 フィンセント・ファン・ゴッホ 「ぼさぼさ頭の娘」
こちらはオレンジ色のぼさぼさの髪をした浮浪少女を描いた肖像です。上半身だけ描かれていて、画面の半分くらいはオレンジの髪が占めてるほどですw 背景と服は青なので補色関係となっていて一層に髪が明るく見えます。解説によると、この少女はゴッホが戸外で風景を描いている時に見かけて、モンティセリの絵に出てくるフィレンツェ人の面影を感じて描いたそうです。以前よりも色彩が強まっているのが一目で分かる作品でした。

この近くにあった「麦畑とポピー」という作品もポピーが立体的に見える厚塗りとなっていて、輝くような色彩でした。

72 フィンセント・ファン・ゴッホ 「麦畑」 ★こちらで観られます
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こちらは収穫期を迎えた麦畑を描いた作品で、10点描いた内の1点のようです。金色の麦が短い縦線で表され、生き生きとした雰囲気です。所々に赤い線を交えているのがアクセントになっているように思えます。背景は澄んだ青で、爽やかな光景となっていました。


[さらなる探求]
最後は晩年のコーナーです。アルルでの耳切事件の後、サン=レミの精神療養院に移り そこでも絵を描き自分の進む道を見つめ直したようです。かつてのようにミレーの複製に取り組み、糸杉やオリーブといった木をゴッホ独自のモティーフに仕上げようとしました。その色彩はやや落ち着いて繊細になり、筆触は細かく緻密に塗り重ねられていったようです。その後、オーヴェールの地でガシェ医師に見守られながら制作を行いましたが、拳銃自殺で亡くなりました。ここにはそうしたサン=レミ以降の作品が並んでいました。
 参考記事:映画「ゴッホ~最期の手紙~」(ややネタバレあり)

75 フィンセント・ファン・ゴッホ 「サン=レミの療養院の庭」 ★こちらで観られます
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こちらは療養院の庭の風景で、緑の木々や病院の壁などが描かれています。緑が明るく感じられ、草などは単純化して表現されている部分があります。間近で観ると厚塗り具合がよく分かり、葉っぱや花の部分は盛り上がって迫りくるような印象を受けます。実際に絵の具に光が反射してるので光って見えるしw ゴッホ独自のスタイルの集大成を感じさせる作品でした。

76 フィンセント・ファン・ゴッホ 「糸杉」 ★こちらで観られます
こちらは今回のポスターにもなっている作品で、天高く伸びる糸杉が描かれ、右上には三日月も浮かんでいます。うねるようなタッチで一部は渦巻くような表現となっています。解説によるとゴッホは手紙の中で糸杉について「エジプトのオベリスクのように美しい ~中略~ 糸杉は青を背景に…というよりは青の中にあるべきだ」と書いているそうで、それがそのまま絵で表現されているようにも思えます。糸杉は複数の色が複雑に絡み合い、まるで緑の火焔のような力強さがありました。なお、以前の展示の解説によると糸杉は墓地に植える習慣がありゴッホもそれを知っていたそうです。そうだとすると生命力と死を連想させる作品とも言えそうです。
参考記事:メトロポリタン美術館展 大地、海、空-4000年の美への旅  感想後編(東京都美術館)

この近くには「ガシェ博士の肖像」(エッチング)などもありました。

81 フィンセント・ファン・ゴッホ 「薔薇」 ★こちらで観られます
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こちらは薄い緑を背景に白いバラが沢山入った花瓶が描かれた静物です。背景は右上から右下へと斜線で表され、こぼれ落ちた花などと共に流れを感じます。解説によると描かれた当時はバラのつぼみは赤だったようですが、現在は色あせたようです。それでも筆致の厚みや背景・配置によって生き生きとした印象を受けました。
 参考記事:ワシントン・ナショナル・ギャラリー展 印象派・ポスト印象派 奇跡のコレクション 2回目感想後編(国立新美術館)


ということで、後半は見応えのある作品が並んでいました。やはりアルル以降の作品がゴッホのイメージ通りの作風ではないかと思います。私は見覚えがある作品が多かったので満足度は4にしていますが、これだけの内容を観られるのは贅沢なので、ゴッホがお好きな方は必見だと思います。会期末になると一層に混雑するので、お早めに行くことをオススメします。



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ゴッホ展 (感想前編)【上野の森美術館】

この前の土曜日に上野の森美術館でゴッホ展を観てきました。メモを多めに取ってきましたので、前編・後編に分けてご紹介していこうと思います。

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【展覧名】
 ゴッホ展

【公式サイト】
 https://go-go-gogh.jp/
 http://www.ueno-mori.org/exhibitions/article.cgi?id=913189

【会場】上野の森美術館
【最寄】上野駅

【会期】2019年10月11日(金)~2020年01月13日(月・祝)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_①_2_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
混んでいてチケットを買うのに15分くらいかかりました。事前にチケットを買っておけば並ぶ必要もなかったので、他で買ってから行ったほうが良いかもしれません。中もお客さんがぎっしりで予想以上に観るのに時間がかかりました。観に行く際はスケジュールに余裕を持っておくことをオススメします。

さて、この展示は日本でも大人気の画家フィンセント・ファン・ゴッホをメインにしたもので、ハーグ派 と 印象派 という2つの潮流との出会いをテーマに時系列的に作風を追う内容となっています。ゴッホは毎年のように展覧会をやっているような気がしますが、ハーグ派に目を向けるのは久々の機会だと思います。前半がハーグ派関連、後半が印象派関連という構成となっていて、ゴッホに影響を与えた画家たちの作品も展示されていました。詳しくは各節ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。なお、この記事で使っている写真は表にあった看板をアップで撮ったものです。展覧会では撮影禁止となっていますのでご注意ください。

参考記事:
 ゴッホ展 巡りゆく日本の夢 (東京都美術館)
 ゴッホ展 こうして私はゴッホになった 感想前編(国立新美術館)
 ゴッホ展 こうして私はゴッホになった 感想後編(国立新美術館)
 ゴッホ展 こうして私はゴッホになった 2回目感想前編(国立新美術館)
 ゴッホ展 こうして私はゴッホになった 2回目感想後編(国立新美術館)
 メトロポリタン美術館展 大地、海、空-4000年の美への旅  感想後編(東京都美術館)
 映画「ゴッホ~最期の手紙~」(ややネタバレあり)
 ゴッホゆかりの地めぐり 【南仏編 サン・レミ/アルル】


<Part I ハーグ派に導かれて>
まずは初期のコーナーです。ゴッホは神父などを目指していましたが27歳の頃に画家になることを決心し、独学で絵を学び始めました。色彩理論や素描についての本を読み、過去の巨匠の作品を模写していたようで、フランソワ・ミレーの農民への眼差しに共感してまずは農民画家を目指しています。1881年末にハーフ派の中心的な画家であるアントン・マウフェに教えを請うと、翌年にはハーグに移住し他の画家とも交流し指導を受けて制作を共にしています。この時に得た 戸外で風景を観察したりモデルを前にして描く姿勢は その後も一貫して守り続けていくことになります。1884年にようやく油彩画の大作に取り掛かり、翌年の春に「ジャガイモを食べる人々」を仕上げました。初期の代表作であるこの絵は複雑な構図と明暗を表現した自信作でしたが、仲間には不評だったようです。この章ではまだ地味な色彩だった頃の作品が並んでいました。

[独学からの一歩]
ゴッホは画廊に勤めていた間にハーグ、ロンドン、パリなどに移り、その度に展覧会や美術館に足を運んでいたようです。特に惹かれた作品は手紙で弟のテオに語ったり複製画を自分の部屋に飾ったりしていたようです。そして本から学ぶ一方で地元の農民の日常を題材にデッサンを重ね、その後マウフェの助言でモデルを観て描くようになっていきました。ゴッホは地道な訓練を重ねて技術を高めなければならないと考えていたようで、この節にはそうした研鑽の日々の作品が並んでいました。

9 フィンセント・ファン・ゴッホ 「馬車乗り場、ハーグ」
こちらは馬車乗り場に立つ帽子の女性を描いた作品です。全体的に茶色っぽい画面で、背景はあまり詳細には描かれていませんが しんみりとした情感が漂います。落ち着いていて郷愁を誘うような色調なので晩年の作風とはかなり異なる印象でした。
この辺は同様の画風の茶色っぽい重厚な色彩の作品が並んでいました。水彩やデッサンもあります。

7 フィンセント・ファン・ゴッホ 「永遠の入口にて」
こちらは椅子に座り顔を手に当てて うずくまるような姿勢の老いた農夫を描いたデッサンです。足の部分がちょっと奇妙だったり全体的に硬い描写のように見えますが、絶望しているような感じがよく伝わるかな。農民に寄り添うような視線の作品です。

6 フィンセント・ファン・ゴッホ 「疲れ果てて」 ★こちらで観られます
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こちらも先程の作品と似た姿勢の農夫を描いたデッサンで、少し色も塗られています。タイトル通り疲れ果てて寝ているようで、周りの生活用品も貧しそうな雰囲気です。マウフェの教えに従い生きた人間をモデルに描いたようで、足がやけに長いように見えますがだいぶ質感などが出ているように思えました。

5 フィンセント・ファン・ゴッホ 「籠を持つ種まく農婦」
こちらは畑の上で籠を持って立つ農婦を描いた作品です。右手から種がこぼれていて、無気力にぼーっと立って物思いに耽っているような感じです。こんな直立不動で種まきなんてできるの?って不自然さがあるかなw 全体的に暗い印象を受ける作品でした。


[ハーグ派の画家たち]
続いてはハーグ派の画家たちの作品のコーナーです。ハーグ派は19世紀後半にハーグを拠点に活動した一派で、17世紀オランダ黄金時代から続くレアリスムの流れに属し 田園や海岸に赴いて風景を描きました。自然や素朴な暮らしを描いた作品がゴッホを強く魅了したようで、ゴッホは彼らに教えを請い共にスケッチに出かけるようになりました。直接の交流は1885年までにほぼ無くなりますが(1886年2月末にはパリに出ている)、この頃教わった画材の扱いや観察する姿勢はゴッホの土台を築き上げたようです。ここにはゴッホと交流したハーグ派の作品が並んでいました。

19 アントン・マウフェ 「雪の中の羊飼いと羊の群れ」 ★こちらで観られます
こちらは大型で横長の作品で、雪の中を沢山の羊の群れが移動している様子が描かれています。白い雪に灰色の空、羊たちは茶色がかった感じで地味な色彩となっています。しかし大胆な厚塗りとなっていて、画面からは質感や寒々とした雰囲気が伝わってきます。冬の情感と自然の厳しさが詰まったような大作でした。

この辺はマウフェの作品がいくつかありました。マウフェはゴッホの親戚でもあったようです。

29 アントン・ファン・ラッパルト 「ウェスト=テルスへリングの老婦たちの家」
こちらはテーブルに向かう5人の老婆たちが描かれ、背景にも1人の姿が描かれています。貧しい農家の家の中のようで、裁縫をしたり立っていたりとそれぞれ異なるポーズをしていて、画面構成に主眼が置かれているようです。解説によるとこの作者は王立アカデミーを出た画家で、ゴッホと親しく交流しゴッホから影響を受けて 貧しい農民たちを描くようになったようです。しかしこの絵を観ても方向性の違いがあり、後にゴッホの「ジャガイモを食べる人々」を酷評して仲違いしています。貧しい人々を描いているけどアカデミックな本格派であることが伺える作品でした。

近くにはマリス3兄弟の作品などもありました。こうしてハーグ派の作品を観ていると茶色っぽく静かな色使いはハーグ派を通しての特徴のようで、ゴッホがいかに影響を受けていたかが分かります。

12 ヤン・ヘンドリック・ウェイセンブルフ 「黄褐色の帆の舟」
こちらは川に浮かぶ3艘の小舟と、川沿いの道が描かれた風景画です。空を広く取って雲から光が漏れているような光景で、広々として光の表現が見事で、川面が光っているように見えます。解説によると、この画家はハーグ派の中でも傑出した画家で、ゴッホを高く評価してゴッホと関係が悪化したマウフェとの間を取り持ったりもしたそうです。ゴッホ抜きにしても良い作品なので、この画家はもっと観てみたくなりました。

14 ヨゼフ・イスラエルス 「縫い物をする若い女」
こちらは窓辺で縫い物をしている女性を描いた作品で、黙々と作業している静かな光景となっています。落ち着いた色調であるものの、光が当たっている感じが出ていて、構図や題材的に同じオランダのヨハネス・フェルメールやピーテル・デ・ホーホなど17世紀の巨匠に通じるものがあるようです。そこまで細密な描写ではありませんが、温かみもあって静謐な印象の作品でした。

この近くにはイスラエルスの作品がいくつかありました。イスラエルスはゴッホが特に称賛していた画家で、当時は第2のレンブラントと称されていたようです。この他にも海老を取る漁師を描いた作品など、巧みな光の表現の作品がありました。


[農民画家としての夢]
ゴッホは1884年後半から翌年にかけて初めて油彩による大作に取り組みました。これが暗い室内で農民の一家が慎ましい食事を摂る「ジャガイモを食べる一家」で、この作品の為に まず数ヶ月をかけて習作を描き、40点近くの農民の頭部を仕上げているそうです。そして完成作に大きな自信を持ったゴッホは 家族や友人にその成果を知らしめる為に同じイメージを版画に起こして送ったそうで、そのために版画工の元に通って版画制作を学んだりもしています。しかし友人のアントン・ファン・ラッパルトに酷評されて5年の友情は終わってしまいました。ここにはその頃の作品が並んでいました。

30 フィンセント・ファン・ゴッホ 「ジャガイモの皮を剥くシーン」
こちらは粗末な台の上に座って膝の上でジャガイモの皮を向いている女性を描いた素描です。明暗が強く全体的にカクカクした描写で硬い印象を受けるかな。解説によるとこの女性は1882年1月から1年半ほどゴッホと一緒に暮らしたシーン(クラシナ・マリア・ホールニク)という子連れの娼婦だそうです。アルコール中毒でもあり悲惨な境遇に同情してモデルにして同棲したようですが、この女性によって貧窮しただけでなく父やマウフェとの関係が悪化したようです(テオもシーンとの関係を反対し、別れなければ仕送りを止めると迫っています) しかしゴッホは別れた後も未練があったようなので愛情もあったのかも?? 色々とトラブルを招いた女性なのは間違いないですね…。

37 フィンセント・ファン・ゴッホ 「農婦の頭部」 ★こちらで観られます
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こちらは人物の頭部ばかりを集中していた時期の作品で、デップロート家の娘のホルディーナがモデルとなっています。(この娘は何度もモデルを務めています)女性であるものの浅黒い肌で眉が濃く、割と逞しくて素朴な雰囲気に見えるかなw この習作はこの後に出てくる「ジャガイモを食べる人々」に活かされていました。

フィンセント・ファン・ゴッホ 「ジャガイモを食べる人々」 ★こちらで観られます
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こちらは同名の作品を版画にしたもので、これをラッパルトやテオに送ったようです。5人の農民がテーブルを囲ってジャガイモを食べている様子ですが、ちょっと明暗が浅くて動きがぎこちない感じで、お互いに無関心なようにも見えます。近くにはラッパルトからの手紙もあり「真剣に描いたとは思えない ~中略~ 上辺だけで動きを勉強していない。芸術を横柄に扱うな」といった批判が書かれています。確かにミレーの「種蒔く人」を持ち上げいただけに動きの無さは否めないような…。それに対してゴッホは「リトグラフを1日で描いたし実験的なもの 油彩はコントラストの点でもっと成功した」と弁明しています。試しに油彩の写真を調べて観るとリトグラフに比べて明暗表現が緻密で劇的なので、版画の出来の問題もあるのかも。とは言え、既に印象派に接していたテオの反応も微妙だったようなので、本人の思ったほど周りは傑作とは思っていなかったのは間違いなさそうでした。

44 フィンセント・ファン・ゴッホ 「秋の夕暮れ」
こちらは木々に囲まれた道に女性らしき人影がポツンと立っていて、背景には夕焼け雲が描かれた作品です。全体的に暗くこの頃の作風らしいかな。晩年の明るい色彩とは対極にすら思えます。しかし寂しげな雰囲気が叙情的で、これはこれで好みの作品でした。

41 フィンセント・ファン・ゴッホ 「器と洋梨のある静物」 ★こちらで観られます
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こちらはニューネンに移った頃に描いた作品で、この時期に先程のホルディーナが妊娠してゴッホが父親ではないかと疑われ、ニューネンの村ではゴッホのモデルになるのを禁止されて、ゴッホは人物ではなく静物を描いていたようです。暗い背景に皿に入った山盛りの洋梨が描かれ、明暗が強く艷やかに光っています。しかし全体的に茶色っぽくて沈んだ色調なのでジャガイモのような色にも見えますw 素朴で力強い雰囲気で、この頃のゴッホの画風がよく出ていました。

この辺は同様に暗い色調の農夫を描いた作品などが並んでいました。解説ではテオは給料の半分をゴッホに仕送りしていたエピソードを紹介していて、絵の所有権は全てテオにあったようですが兄さん思いの優しい人柄がよく分かる逸話でした。


ということで、前半は地味な色彩で農民を描いた作品が中心となっていました。正直、ここで終わっていたらゴッホは無名のままだったような気がしますw 後半は印象派に傾倒して一気に花開いた時期から晩年までの作品が並んでいましたので、次回はそれについてご紹介の予定です。

 → 後編はこちら



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