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リストランテ アクアパッツァ 【外苑前界隈のお店】

前回ご紹介したワタリウム美術館の展示を観る前に外苑前駅の近くにあるリストランテ アクアパッツァで早めのランチを摂ってきました。

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【店名】
 リストランテ アクアパッツァ

【ジャンル】
 レストラン

【公式サイト】
 https://acqua-pazza.jp/
 食べログ:https://tabelog.com/tokyo/A1306/A130603/13004578/
 ※営業時間・休日・地図などは公式サイトでご確認下さい。

【最寄駅】
 外苑前駅

【近くの美術館】
 ワタリウム美術館

【この日にかかった1人の費用】
 3300円程度

【味】
 不味_1_2_3_4_⑤_美味

【接客・雰囲気】
 不快_1_2_3_④_5_快適

【混み具合・混雑状況(土曜日11時半頃です)】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【総合満足度】
 地雷_1_2_3_④_5_名店

【感想】
早めに行ったので予約なしで入れましたが、すぐに満席になる人気ぶりでした。急に行くと待つことがあるので、予約があったほうが確実だと思います。

さて、このお店は外苑前駅近くの郵便局裏の落ち着いた雰囲気の場所にあり、横須賀美術館併設のアクアマーレの姉妹店となります。日髙良実シェフはイタリアンでも有名な方のようで、シェフを目当てに来ているお客さんも多いようです。
 参考記事:ACQUAMARE(アクアマーレ) 【横須賀美術館のお店】

お店の中はこんな感じ。
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それほど広くはないですが、洒落ていてお店の方も親切です。窓からの眺めはちょっと微妙w

この日は土日メニューのパスタランチコース(2800円+税)を頼みました。平日だとパスタセットは1400円とお得です。

まずは前菜。
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モッツァレラチーズとコーンのスープ。特にモッツァレラチーズがジューシーで舌触りも良く、驚きの逸品でした。

続いては鯛のカルパッチョ。
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アクアマーレでもカルパッチョを毎回頼んでいますが、こちらのカルパッチョも絶品です。アサリ出汁のソースがかかっていて、お刺身の旨味と相性抜群でした。

こちらはパンにつけていたオリーブオイル
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わざわざオリーブオイルを撮ったのかよw と言われそうですが、このオリーブオイルも香りが鮮烈で、爽やかでした。これだけでパンをいくつも食べてしまいそうなw

メインのパスタはいくつかある中から選びます。私と奥さんで別々のものを頼んでみました。

こちらはカニの入ったアラビアータ
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見た目は普通のパスタですが、カニの風味があって奥深い味わいです。

こちらはラグーソースのパスタ
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私としてはこちらの方が好みでした。やや太めの麺となっていて濃厚かつ繊細なソースによく合います。これはかなりの満足度です。

デザートもつきました。
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柔らかいティラミスで、ふんわりして上品な甘さです。こちらもかなり美味しい。

小さいお菓子もつきます
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これはちょっと忘れましたw

食後のドリンクはコーヒーにしました。
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こちらはそれほど苦味はなく香りが良くて飲みやすかったです。


ということで、非常に美味しいランチを頂くことができました。休日はランチでもちょっと高いですが、それに見合う内容だと思います。ワタリウム美術館からも近いので、美術館に行く際に寄ってみるのもよろしいかと思います。平日のランチはお得です。



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フィリップ・パレーノ展 オブジェが語りはじめると 【ワタリウム美術館】

前々回・前回とご紹介した展示を観る前に外苑前のワタリウム美術館で「フィリップ・パレーノ展 オブジェが語りはじめると」を観てきました。この展示は撮影可能となっていましたので、写真を使ってご紹介していこうと思います。

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【展覧名】
 フィリップ・パレーノ展 オブジェが語りはじめると

【公式サイト】
 http://www.watarium.co.jp/exhibition/1910pareno/index.html

【会場】ワタリウム美術館
【最寄】外苑前駅

【会期】2019年11月2日(土)~ 2020年3月22日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 0時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_4_⑤_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_③_4_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_③_4_5_満足

【感想】
空いていて快適に鑑賞することができました。

さて、こちらはパリに拠点を置き世界中で展覧会を行っている現代アーティストのフィリップ・パレーノ氏の日本初となる大掛かりな個展です。フィリップ・パレーノ氏は映像・彫刻・ドローイング・テキストなど多用な手法を用いて展覧会を1つのメディアとして捉えているのが特徴とのことで、この展示でも会場自体が作品と言えるような独特の空間となっています。一見しただけでは難解な作風ですが、各作品の解説を貰うことができたので それを読みながら鑑賞するともできました。(作品数はそれほど多くないので充実度は3点にしました) 撮影可能となっていましたので、詳しくは写真と共にご紹介していこうと思います。

まず2階の会場に入ると、早速いくつかの作品が展示空間を構成していました。

フィリップ・パレーノ 「花嫁の壁」「ハッピー・エンディング」
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前者はアクリル板とLED証明、プラグから成る作品で、後者は電気スタンドのように観えている作品です。「花嫁の壁」はマルセル・デュシャンのガラス作品の「彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも」に由来するそうで、この展示において「準客体」という存在であるとのことです。準客体というのはサッカーで言えばボールのようなもので、自ら主体的に動くわけではないけど状況を導くのでただの客体ではないものを指すそうです。と、解説を読んでも分かったようで分からない感じですが、透明な板を使ってる点はデュシャンからの着想というのは何となく納得かなw また、「ハッピー・エンディング」の方はたまにチカチカしていてややシュールな雰囲気を漂わせていました。このスタンドはちょっとずつネックと電気コードの形が違うのだとか。
 参考記事:マルセル・デュシャンと日本美術 (東京国立博物館 平成館)

フィリップ・パレーノ 「しゃべる石」
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こちらは先程の電気スタンドの近くにあった石。石の下から日本訳されたフィリップ・パレーノ氏のテキストの朗読が流れてきます。オリジナルはフィリップ・パレーノ氏自身が美学と認知科学における表現について映画監督のゴダールの声真似をしているそうで、むしろそれが聞いてみたかったw 延々と石が話しているような奇妙な空間となっています。

続いて3階の展示。

フィリップ・パレーノ 「マーキー」
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こちらはフィリップ・パレーノ氏がプログラムした照明。これも明滅して、たまに激しく変化します。こちらの動きに合わせて光っているのかと思ったらそうでもなかったw タイトルは20世紀初頭の映画館や劇場で映画のタイトルや役者を知らせた白熱光の庇のことだそうで、確かにそれを彷彿とさせます。これも部屋と作品が一体化するような感じとなっていて、SFの世界や実験所に足を踏み込んだような気持ちになりました。

最後に4階の展示。

フィリップ・パレーノ 「吹き出し(白)」「壁紙 マリリン」
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この部屋に入った時、驚きで思わず声が出ました。 「吹き出し」は漫画の吹き出し型の風船で、現代社会では語られない言葉と言語の象徴とのことですが、最初観た時はクラゲかと思ったw 一方、壁紙はアヤメの花をパターン化したもので、フィリップ・パレーノ氏の映像作品でマリリンモンローをテーマにした舞台の背景にも使われたそうです。と、そういう制作背景よりも圧倒的にシュールなこの光景がインパクト大w

逆側から観るとこんな感じ。
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やはりこちらもチカチカと明滅を繰り返します。しばらくいると慣れるけど、割と不安な気分になるw


ということで、点数が少ないのであっさりと観終わりましたが、意図を理解できたかというと 難しかったというのが正直なところです。しかし実際に足を踏み入れると形容しがたい一種異様な雰囲気を味わうことができたので、体験型の作品と言えるかも?? かなり個性的な展示でした。


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ブダペスト―ヨーロッパとハンガリーの美術400年 (感想後編)【国立新美術館】

今日は前回に引き続き国立新美術館の「日本・ハンガリー外交関係開設150周年記念 ブダペスト国立西洋美術館 & ハンガリー・ナショナル・ギャラリー所蔵 ブダペスト―ヨーロッパとハンガリーの美術400年」についてです。前編は1章についてでしたが、今日は2章の近代絵画についてご紹介して参ります。まずは概要のおさらいです。

 → 前編はこちら

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【展覧名】
 日本・ハンガリー外交関係開設150周年記念
 ブダペスト国立西洋美術館 & ハンガリー・ナショナル・ギャラリー所蔵
 ブダペスト―ヨーロッパとハンガリーの美術400年

【公式サイト】
 https://budapest.exhn.jp/
 https://www.nact.jp/exhibition_special/2019/budapest2019/

【会場】国立新美術館
【最寄】乃木坂駅・六本木駅

【会期】2019年12月4日(水)~2020年3月16日(月)→2020年3月29日(日) ※2月29日から臨時休館。再開日未定
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
後半もそれほど混むことなく快適に鑑賞することができました。引き続き各節ごとに気に入った作品と共にご紹介して参ります。


<II 19世紀・20世紀初頭>
2章は19世紀~20世紀初頭の近代絵画についてで、ここもスタイルごとに7つの節に分かれていました。

[1.ビーダーマイヤー]
2章のはじめは日常生活の平穏さや心地よさを重視したビーダーマイヤーに関するコーナーです。19世紀前半のドイツ・オーストリアでは自宅を心地よく整え 上品な肖像や風景画を飾る「ビーダーマイヤー」と呼ばれる生活様式が流行し、ハンガリーにもそれが伝わったようです。ここにはそうした写実的で優美な肖像と 都市や田舎の日常をやや感傷的に描いた風俗画が並んでいました。

72 マルコー・カーロイ(父) 「漁師たち」 ★こちらで観られます
こちらは両脇に木々の並ぶ川辺の光景を描いた作品で、手前に小舟に乗った漁師や女性たちが集まっているようです。中央には黄金色に染まる夕焼けが描かれていて、その光の表現にはクロード・ロランからの影響が感じられます。黄昏時の理想郷のような美しさで、郷愁を誘われました。

66 フェリーチェ・スキアヴォーニ 「お茶を入れる召使い」
こちらは黒いキャンバスの前にあるテーブルのポットにお湯を注ぐメイドらしき女性を描いた作品です。質感豊かで写実的に描かれていて、精密で柔らかい色彩となっています。しかしこの絵で面白いのは真っ黒なキャンバスから女性が抜け出て来たようにも見える構図で、ちょっと騙し絵的な要素を感じました。

70 バラバーシュ・ミクローシュ 「伝書鳩」
こちらは窓辺の椅子に座って白い鳩を抱く黒髪の若い女性を描いた作品です。こちらも質感豊かで、白いサテンのドレスにはツヤがあり 胸元はややはだけています。解説によると、鳩は無垢の象徴である一方で伝書鳩という近代的なイメージを合わせているそうです。愛らしい笑顔をしていて楽しげな雰囲気で、やや夢見がちな少女のような印象を受けました。ビーダーマイヤーの特徴がよく表されている作品です。


[2.レアリスム-風俗画と肖像画]
続いては1840年代フランスで生まれたレアリスムのコーナーです。ハンガリー出身の画家もパリで活躍したり動向に触れていたそうで、フランス画家と共にハンガリー画家の作品も並んでいました。

74 ムンカーチ・ミハーイ 「パリの室内(本を読む女性)」
こちらは豪華な部屋のテーブルに向かって手紙らしきもの(本?)を呼んでいるドレスの女性が描かれた作品です。近くには子犬と遊んで寝転がる女の子の姿もありブルジョワの家の中のようです。結構粗めのタッチとなっていますが、静かな雰囲気が伝わってきて幸せそうな場面に観えます。解説によると、この作者は貧しい人々をドラマチックに描いた風俗画で名声を確立したハンガリー近代絵画の巨匠で、貴族との女性と結婚してからはブルジョワの婦人や子供の優雅な生活を描くようになったそうです。これもまさにその一枚のようでした。

76 ギュスターヴ・ドレ 「白いショールをまとった若い女性」
こちらは優雅な帽子とドレスを身にまとった若い女性が 本の上に肘をついて扇子を持って右の方を見ている様子が描かれています。背景には明るい草木が描かれ、右上にはパラソルのようなものがあります。女性は逆光で顔は影となっていて、背景の方が明るく見えるのがリアルな日差しに思えます。コルセットで腰が非常に細くなっていてシルエットが綺麗だけど細すぎるようなw 暗い色ですが目鼻立ちの整った美人で、キリッとした目が印象的でした。

この辺は女性像が多く良い作品ばかりでした。

77 シニュイ・メルシェ・パール 「紫のドレスの婦人」 ★こちらで観られます
こちらは今回のポスターにもなっている作品です。作者は近代ハンガリーで最も重要な画家とされているそうで、印象派とは交流が無かったもののミュンヘンで学んで印象派的な画風を試みたそうです。戸外で草むらに腰掛ける紫のドレスの女性が描かれ、やや見上げるような視線で遠くを見ているように思えます。背景は草原の緑や黄色などで、補色関係を意図的に用いて色が響き合うような明るさです。解説によると、この女性のモデルは画家の妻で、この絵は描かれた当時は美術批評家には不評だったようですが 一般観衆の心を掴んで切手やポスターに多用されるようになったそうです。ハンガリーのモナリザとも呼ばれるとのことで、それに相応しい気品と幸せそうな雰囲気が感じられました。

79 シニュイ・メルシェ・パール 「ヒバリ」
こちらは野原で横たわって うろこ雲とヒバリを眺めている裸婦が描かれた作品です。空が大きく取られているので広々として開放感があり、色も鮮やかで爽やかな雰囲気です。一見、神話の女性のようにも思えますが当時の裸婦を描いたようで、その為に非難され理解を得られなかったようです。ちょっとシュールさもあって夢の中の光景のようにも思えるかな。画風は違いますがマネの「草上の昼食」を思わせるエピソードでした。

この近くには先程のムンカーチ・ミハーイが描いたハンガリーの有名な作曲家のリストの肖像画もありました。(★こちらで観られます)リストはムンカーチ・ミハーイの為に作曲したこともあったのだとか。


[3.戸外制作の絵画]
続いては戸外制作された作品のコーナーです。バルビゾン派や印象派の戸外制作はハンガリーにも影響を与えたそうで、そうして描かれた作品が並んでいました。

95 ムンカーチ・ミハーイ 「ほこりっぽい道 II」
こちらは作者が新婚旅行の後に祖国を訪れ、ハンガリー大平原の中の町に滞在した時に描いた作品です。中央には馬車らしき姿があり、周りは粗いタッチで広い道や空の夕日が描かれています。形は曖昧でぼんやりしている一方、筆跡の流れまで感じられて風が吹き渡っているようにも思えました。かなり大胆で印象派のような作風に思えました。

この隣にはモネ、近くにはドービニー、クールベ、コローなどの作品もありました。

97 メドニャーンスキ・ラースロー 「岩山のある水辺の風景」
こちらは一見して洞窟の中かと思いましたが、奥に岩山のある川辺の風景のようです。ひび割れた感じのマチエールとなっていて、ゴツゴツした硬い岩肌を見事に表現しています。また、微妙な水面の反射なども表されていて、近くで観ると粗いのに 離れて観るとリアリティがありました。やや神秘的で自然の重厚さを感じる作品です。


[4.自然主義]
続いてはレアリスムから派生した自然主義のコーナーです。

104 チョーク・イシュトヴァーン 「孤児」
こちらは全体的に青みがかった暗い部屋の中、テーブル脇に座る2人の孤児の少女が描かれています。1人は突っ伏していて、もう1人はボーッと物思いに耽っているように観え、背景は寒そうな町の光景で、中央にあるランプが静かに部屋を照らしています。解説によると、この絵は作者が象徴主義と自然主義の療法に手を染めていた頃の代表的な作品だそうですが、かなり象徴主義的な印象を受けるかな。静かで哀しい内面性が滲み出るような作品でした。


[5.世紀末-神話、寓意、象徴主義]
続いては19世紀末から20世紀初頭の幻想的な傾向の時代のコーナーです。

105 ジュール・ジョゼフ・ルフェーヴル 「オンディーヌ」
こちらは片手を挙げて木の枝を触るオレンジ色の髪の裸婦像です。まるで体が光輝いているように明るく描かれ、滑らかで透き通る肌をしています。こちらをじっと観る目が何かを訴えているように観えて神秘的です。足元にはアヤメらしき花もあり、水のニンフであることを示しているようです。また、アングルの「泉」のオマージュとしての要素もあるようで、女神のような清らかさと色気がありました。

112 ヴァサリ・ヤーノシュ 「黄金時代」 ★こちらで観られます
こちらは森の中のヴィーナス像の前で男女が座り込んで抱き合っている様子が描かれた作品です。女性は花に手を伸ばしていて、供物を捧げる儀式のようです。全体的に淡い緑がかった光景で、透き通るような描写が幻想的です。静かで優美な雰囲気の作風でした。

113 チョントヴァーリ・コストカ・ディヴァダル 「アテネの新月の夜、馬車での散策」 ★こちらで観られます
こちらは建物を背景に3台の馬車が横切る様子が描かれた作品です。手前の公園は真っ暗で、空はピンクから青へと変わる夕景に細長い月が浮かんでいます。明暗が強い表現となっていますが、それでもぼんやりしているように思えるのが不思議で、どこかシュールさえ感じるほど幻想的です。人々も時間が止まったような印象を受けて独特の面白さがありました。


[6.ポスト印象派]
続いてはポスト印象派のコーナーです。ナビ派に属したハンガリーの画家や、ゴーギャンに影響を受けた画家の作品が並んでいました。

117 リップル=ローナイ・ヨージェフ 「赤ワインを飲む私の父とピアチェク伯父さん」 ★こちらで観られます
こちらは画家の父と叔父が赤い円テーブルの前に座ってワインを飲む様子が描かれた作品です。額に手を当てていて飲みすぎたのかな?w 全体的に平坦で強い色彩となっていて、背景の黄色とテーブルの赤の対比が目に鮮やかです。作者はハンガリーのナビ派で、輪郭も強めでナビ派らしい画風となっていました。

この近くにはゴーギャンに影響を受けた作品などもありました。ヴァロットンに似た画風の作品などもあり面白い。

119 ツィッフェル・シャーンドル 「柵のある風景」
こちらは赤い山を背景に村の様子を描いた風景画です。手前には大きく木の柵が風景を遮るように描かれているのが大胆で目を引きます。さらに全体的に色彩が対比的に使われ鮮やかで、輪郭も太いので 力強い画風となっています。平面的でこれもゴーギャンからの影響が感じられました。


[7.20世紀初頭の美術-表現主義、構成主義、アール・デコ]
最後は1905~20年にかけて中央ヨーロッパの主要な潮流となった表現主義などのコーナーです。1920年代にはロシアの構成主義が波及し、シンプルで力強い幾何学的形態の作品が生まれたようです。ここにはそうした作品が並んでいました。

125 ウィッツ・ベーラ 「闘争」
こちらは円と三角を組み合わせた人物像らしき半具象・半抽象の作品です。走っているポーズに観えるかな? 白と黒のはっきりした色彩で陰影もついて立体感も出しています。幾何学的でキュビズムやロシア・アヴァンギャルドの影響を感じさせました。結構かっちりした構図です。

この隣の「6人の人物のコンポジション」という作品もキュビスム的で労働を思わせる力強い作風でした。


ということで、後半は前半以上に楽しめる内容となっていました。特にハンガリーの画家の作品は目にするのが初めてのものばかりで、貴重な機会だったので図録も購入しました。まだ混んでいませんでしたが、会期末は混雑する可能性があるので気になる方はお早めにどうぞ。



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ブダペスト―ヨーロッパとハンガリーの美術400年 (感想前編)【国立新美術館】

10日ほど前に乃木坂の国立新美術館で「日本・ハンガリー外交関係開設150周年記念 ブダペスト国立西洋美術館 & ハンガリー・ナショナル・ギャラリー所蔵 ブダペスト―ヨーロッパとハンガリーの美術400年」を観てきました。見どころの多い内容でメモを多めに取ってきましたので、前編・後編に分けてご紹介していこうと思います。

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【展覧名】
 日本・ハンガリー外交関係開設150周年記念
 ブダペスト国立西洋美術館 & ハンガリー・ナショナル・ギャラリー所蔵
 ブダペスト―ヨーロッパとハンガリーの美術400年

【公式サイト】
 https://budapest.exhn.jp/
 https://www.nact.jp/exhibition_special/2019/budapest2019/

【会場】国立新美術館
【最寄】乃木坂駅・六本木駅

【会期】2019年12月4日(水)~2020年3月16日(月)→2020年3月29日(日) ※2月29日から臨時休館。再開日未定
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
意外と空いていて快適に鑑賞することができました。

さて、この展示は日本とハンガリーの外交関係開設150周年を記念したもので、ハンガリーのブダペスト国立西洋美術館とハンガリー・ナショナル・ギャラリーの所蔵品が130点も観られる内容となっています。両館は2000年の時代に渡り合わせて24万点もの美術品を所蔵していて、ブダペスト国立西洋美術館は中世から18世紀までのコレクション、 ハンガリー・ナショナル・ギャラリーは19世紀以降の作品を扱っているようです。その中から選ばれただけに名品ばかりで、これだけまとめて観られるのは25年ぶりとのことです。2章構成で、それぞれ時代や様式ごとに細かい節に分かれていて、ルネサンス以降の美術品からハンガリーの近代画家まで様々な品が並んでいました。詳しくは各章・各節ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。


<I ルネサンスから18世紀まで>
1章はルネサンスから18世紀までの作品が並んでいました。ほぼ絵画作品で8節目だけ彫刻となっています。

[1.ドイツとネーデルラントの絵画]
1節は北方ヨーロッパの絵画と素描のコーナーです。

1 ルカス・クラーナハ(父) 「不釣り合いなカップル 老人と若い女」 ★こちらで観られます
こちらは歯の欠けた赤い帽子の老人が若い女性の肩に手を回し、もう一方の手で胸の当たりを触っている様子が描かれています。ニヤニヤしたやらしい顔つきで如何にもセクハラオヤジみたいなw 一方の女性は視線を合わせず やや冷ややかに微笑んでいて、老人の腰にある袋に手を入れて財布を探っているようです。解説によると、美と若さを誇る女性と それに惑わされる好色な男性の描写は、人間の愚かさを滑稽に風刺したもので、こうした主題は広く人気を博したようです。クラーナハの巧みな人物描写によって一層にそれが際立っているように観え、一種の可笑しみすら感じられました。駄目な奴らを見せることで 人のふり見て我がふり直せってことでしょうかねw
隣には同じくクラーナハによる老女と若い男のカップルの絵もあり、哀しいほどに人間の愚かさを顕にしていました。

その先には磔刑図や羊飼いの礼拝などキリスト教に関する作品が並んでいました。

7 ヨーゼフ・ハインツ(父) 「アリストテレスとフィリス」
こちらは老人が四つん這いになってその上に裸婦が鞭をふるって乗っている様子が描かれた作品です。一見するとあれなプレイにしか思えませんが、この老人はアレクサンドロス大王の家庭教師でもあったアリストテレスで、女性は大王の侍女のフィリスです。アリストテレスは大王がフィリスに恋したことを憂い 遠ざけるようにしたところ、それを知ったフィリスは仕返しとしてアリストテレスを誘惑し、背中に乗せて欲しいと頼んだ結果、このシーンとなったようです。かの有名なアリストテレスが欲望に負けて言いなりになっている姿は情けなく、エロティックで滑稽な光景となっていました。解説読まなかったらアリストテレス=ドM のイメージがつきそうw

[2.イタリア絵画 聖母子]
続いては18世紀までのイタリア絵画のコーナーです。ここは更に3つに分かれていて、まずは聖母子の主題を集めた内容となっていました。

10 ティツィアーノ・ヴェチェッリオ 「聖母子と聖パウロ」 ★こちらで観られます
こちらは赤ん坊姿の幼子イエスを抱く 赤い服に白いベールの聖母マリアを描いた作品で、手前には本と剣を持った古代ローマの服装をした聖パウロ(12使徒の1人)が2人を見上げる姿勢で描かれています。解説によると、剣と本は伝統的にパウロの持ち物(アトリビュート)ですが、容貌は個性的なので注文主をモデルにしていると考えられるそうです。いずれの人物も血色が良く、色鮮やかで生命感があります。また、光が当たったような明るさで、特に赤が目を引きました。マリアの表情は慈愛と気品に溢れていて、かなりの傑作です。

[2.イタリア絵画 聖書の主題]
続いてもイタリア絵画で、ここは聖書の主題のコーナーです。

17 ジョヴァンニ・バッティスタ・ランゲッティ 「監獄でファラオの料理長と給仕長の夢を解釈するヨセフ」
こちらは3人の人物が描かれていて、中央に上半身裸の中高年姿のヨセフ、右に顎髭の料理長、左に若い給仕頭といった感じで並んでいます。3人はファラオに牢に入れられたらしく、両脇の2人が見た夢についてヨセフがその解釈をしているところのようです。中央の体をひねるヨセフに光が当たっているような表現で、筋肉隆々で力強い印象を受けます。色も劇的でカラヴァッジョからの影響を感じさせました。なお、夢判断の結果は給仕長は牢から出られる、料理長は処刑される というもので、3日後にその通りになったそうです。その結果を聞いた為か料理長はショックを受けているような顔に観えました。また、絵の左上の辺りにはじっと3人の様子を観ている老人もいて、その目が怖くて不吉な予感を漂わせていました。

[2.イタリア絵画 ヴェネツィア共和国の絵画]
続いてもイタリア絵画で、ヴェネツィア派の作品などが並んでいました。

19 20 ボニファーチョ・ヴェロネーゼ(本名:ボニファーチョ・デ・ピターティ)と工房 「春」「秋」
こちらは四季の4点の連作のうちの2点で、左に春、右に秋が並んで展示されていました。春は花の冠を被った緑の衣の女性とプットーらしき子供たち、秋はブドウの樽を持つ赤い服の男性と周りで手伝うプットーらしき子供たち が描かれています。両方とも色鮮やかな所がヴェネツィア絵画らしさを感じるかな。元は天井画だったそうで、秋の男性は雲を踏み出すような構図となっていて、絵から飛び出すような騙し絵的な要素がありました。


[3.黄金時代のオランダ絵画]
続いては17世紀のオランダ絵画のコーナーです。プロテスタントが大多数を占めた国で、教訓的な主題が好まれました。

31 ヤン・ステーン 「田舎の結婚式」
こちらは部屋の中で行われる結婚式の宴を描いた作品で、笛を吹いたり 楽器を弾いたり 女性に抱きついたり 輪になって踊ったり…と賑やかな様相となっています。右上には窓の中に新郎新婦の姿もあるのですが、新婦はあまり楽しく無さそうな…。どうやら訳ありの結婚のようで、周りばかりが馬鹿騒ぎしているのかもしれません。解説によると、右下で弓のようなもので楽器を奏でているのがステーン自身と言われているようです。何か教訓や皮肉が込められていそうな作品でした。

この辺は意外と宗教画が多めとなっていました。


[4.スペイン絵画-黄金時代からゴヤまで]
続いてはスペインの16~19世紀初頭のコレクションのコーナーで、厳選の6枚が並んでいました。

33 エル・グレコ(本名:ドメニコス・テオトコプーロス) 「聖小ヤコブ(男性の頭部の習作)」 ★こちらで観られます
こちらはやや右側を向く面長の男性の肖像で、緑と赤の衣を着ていて背景は青空のように観えます。尖った耳やくぼんだ目など特徴的な顔つきで、以前は自画像と考えられていたものの 今では聖小ヤコブを描いたものと考えられ、12使徒の連作の習作と推測されているようです。ややくすんだ色彩がエル・グレコっぽさを感じるかな。素早く大胆な後期のタッチとなっているようです。解説によると、16世紀以降 12使徒のテーマが人気だったそうで、聖書の人物も写実的に描く当時の風潮を反映しているとのことでした。

38 フランシスコ・デ・ゴヤ・イ・ルシエンテス 「カバリューロ侯ホセ・アントニオの肖像」
こちらは暗い闇を背景に椅子に座る当時の政治家を描いた肖像です。赤い服の上に黒い服を着て、いずれも金の刺繍が施されていて豪華な服装です。胸には勲章をつけ、こちらを観る目は強く自信に満ちているように観えます。しかしこの人物は狡猾でゴヤも嫌っていたようで、やや冷淡な雰囲気も漂わせていました。ゴヤのシニカルさが垣間見える作品でした。


[5.ネーデルラントとイタリアの静物画]
続いては17世紀ころのオランダ・フランドルとイタリアの静物画のコーナーです。

39 アブラハム・ファン・ベイエレン 「果物、魚介、高価な食器のある静物」
こちらはブドウ、桃、ロブスター、剥かれたレモン、カニ、ゴブレット、ガラス器など豪華な食卓を描いた静物画です。オランダ語でプロンクスティルレーフェン(見せびらかしの静物画)というジャンルで、作者はこうした作品で成功をおさめた画家のようです。まさに見せびらかすように所狭しと物が密集していますが、中央辺りには懐中時計(時間)があり、周りには枯れた葉っぱがあるなど この世の儚さを示すヴァニタス(虚栄)となっているようです。リアルさを追求しつつ教訓も込める この時期ならではの静物画のように思えました。


[6.17~18世紀のヨーロッパの都市と風景]
続いてはオランダやイタリアなどの風景のコーナーです。この頃、ヨーロッパ各国の貴族はイタリア旅行(グランドツアー)に出かけるようになり、その旅の土産としてヴェネツィアやローマの名所を描いたヴェドゥータ(都市景観図)を買い求め、爆発的に流行したようです。また、古代遺跡や廃墟の架空の情景を描いたカプリッチョ(奇想画)も人気だったようで、ここにはそうした作品が並んでいます。

44 フランソワ・ド・ノメ 「架空のゴシック教会の内部」
こちらは架空のゴシック教会の内部を描いたもので、アーチ状の巨大な天井となっています。さらにその先には部屋の中に建つゴシック風の建物も描かれていて、まさに奇想の光景です。しかし、周りの柱や壁には細かい聖人像の彫刻なども描かれていて、リアリティも感じさせます。明暗が劇的なのと、教会内の人々の小ささによって圧倒的な迫力を生んでいるように思えました。

46 ヤン・アブラハムスゾーン・ファン・ベールストラーテン 「冬のニューコープ村」
こちらは川の周りの風景を描いた作品で、川辺には教会が建ち その脇を沢山の人達が行列を組んでいます。一方、川ではスケートをしている人やソリで遊ぶ人などの姿があり、のどかで楽しげに観えます。こうした光景を観るとブリューゲルの鳥罠のように何か落とし穴があるのではないか?と勘ぐってしまいますが…w 遠近感があって奥行きがあり、空はどんよりしているなど 当時の様子をそのまま伝えているような作品でした。

近くにはロイスダールの作品などもありました。

50 アポッローニオ・ドメニキーニ 「ローマ、パンテオンとロトンダ広場」
こちらは中央にドーム状の建物が描かれ、入口は円柱の並ぶ三角屋根の建物となっています。また、手前は広場で、人々が集まってのんびりした雰囲気です。かなり写実的で如何にも観光名所の絵といった感じかな。しかし建物の近くでは商売をしたり 布を干そうとしている人がいて、生活感もあって生き生きしていました。


[7.17~18世紀のハンガリー王国の絵画芸術]
続いては17~18世紀に活躍したハンガリー画家のコーナーです。ハンガリー王国は1541年以降に3分割され、北部・西部はハプスブルク家、東部トランシルヴァニアはオスマン帝国の属国、中部・南部はオスマン帝国の直轄地となったそうです。それは150年続き、17世紀末以降にはオーストリアの支配下に入っていきました。ここにはそうした時代の作品が3点並んでいました。

53 マーニョキ・アーダーム 「化粧台の傍らに立つ若い女性」
こちらは化粧台の前に立つ胸元が大きく開いた赤いドレスの女性を描いた作品です。右手で真珠のアクセサリーをつまむポーズで、ドレスは金の糸によって複雑で華麗な文様となっています。タイトルでは若い女性となっていますが、顔がたるみ気味で割と老けて見えるかなw しかし色鮮やかで気品ある姿となっていました。解説によると、このポーズはプロイセンの宮廷画で観ることができるそうで、それを真似て描いたようです。この画家はドイツで画家として活動し、トランシルヴァニア侯国の宮廷画家になったそうで、ザクセンなどの中央ヨーロッパで高い評価を受けたのだとか。


[8.彫刻]
1章の最後は彫刻のコーナーです。15~18世紀のイタリアと北ヨーロッパの品が11点並んでいました。

62 レオンハルト・ケルン 「三美神」
こちらはお互いに肩を組む3柱の裸体の女神たちの像です。1柱は後ろ姿で中央の女性と顔を見合わせて話しかけているように観えます。踏み出す仕草で、3者ともに体のフォルムが流れるような美しさです。頭は小さめな一方でボリューム感ある体つきとなっていて、特にお腹とお尻がそう感じさせました。また、木製なので柔らかみも感じて、特に気に入りました。

65 フランツ・クサーヴァー・メッサーシュミット 「性格表現の頭像 あくびをする人」
こちらは禿げた男が大きく口をあけてアクビする様子を表した頭部像です。かなりリアルで皺や歯までしっかりと表現されています。解説によると、この作者はウィーンで美術アカデミーの教授を務めていたのですが、次第に精神を病んで現在のブラチスラヴァに移住したようです。そこで自分をモデルに様々な表情の奇妙な頭部像の制作に没頭したようで、その理由として自分を苦しめる妄想を治療しようとしたのではないか?とも考えられるようです。しかし人間の性格や気質を表すことは美術アカデミーの学習課題でもあるので、あながち狂気だけが理由ではないのかもしれません。いずれにせよ面白い表情の頭部像です。私は以前この作者の作品を観たことがあり、一瞬で思い出しましたw 強烈なインパクトで記憶に残ります。
この隣にも「子供じみた泣き顔」(★こちらで観られます)という感情むき出しの頭部像がありました。


ということで、今日は1章の内容までにしておこうと思います。流石にハンガリーを代表するコレクションだけあって見事で、観たことが無い傑作ばかりでした。後半はさらにハンガリーならではの作家の作品もありましたので、次回は2章についてご紹介の予定です。

 → 後編はこちら



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映画「ジョーカー」 (ネタバレあり)

2週間ほど前に、レイトショーで映画「ジョーカー」を観てきました。この記事にはネタバレが含まれていますので、ネタバレなしで観たい方はご注意ください。

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【作品名】
 ジョーカー

【公式サイト】
 http://wwws.warnerbros.co.jp/jokermovie/

【時間】
 2時間00分程度

【ストーリー】
 退屈_1_2_3_④_5_面白

【映像・役者】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【総合満足度】
 駄作_1_2_3_④_5_名作

【感想】
公開からかなり経ってから観たので割と空いていました。

さて、この映画はDCコミックスの『バットマン』に出てくる悪役のジョーカーが如何に誕生したかを描く内容で、コミック原作とは言え かなり重く暗い雰囲気となっています。アメリカでは公開初日に軍が出動して警戒するなど、「ダークナイト ライジング」の時の乱射事件が再発するのでは?と懸念されるくらい影響力の高い作品です。日本でも昨今の事件で増えてきた持たざる者による社会への報復(いわゆる無敵の人)に通じる所があり、その懸念もうなずけます。
まず、主人公のアーサーは貧困層で痴呆症気味の母親を養い、さらに障害持ちという過酷な状況で、それでもコメディアンを目指しているという同情せざるを得ない設定です。無力で四方八方から疎んじられて、これでもかと追い込まれていく様子は観ていて心痛むものがありますが、自暴自棄になって自業自得な面もあったりするかな。現実逃避で妄想に耽ることも多く、観ている側も妄想と現実の区別がつかなくなってしまう作りは中々に怖さを感じます。やがて追い込まれすぎて狂気に駆られていく様子は ここ数年の無差別事件の様相に似ていてリアルな問題に思えました。この辺は簡単に答えが出せない複雑な気持ちになるので、かなり切り込んだテーマだと思うけど この胸糞の悪さは昔観た「ダンサー・イン・ザ・ダーク」以来かも。富裕層の傲慢さや そこまで追い込む必要ある?ってくらい意地の悪さにやり過ぎ感があったので 途中から逆に冷めました。 ただ、暴動に発展する流れも昨今のパリの暴動にも通じるところがあり、これも社会問題を取り入れて提示している感がありました。好みではないけど、裁判記録を観るような重厚さがあります。

続いて映像についてですが、何と言っても主演のホアキン・フェニックスが凄みすら感じる演技で見事でした。古い映画ファンとしてはジョーカーと言えばジャック・ニコルソンを思い起こすけど、ダークナイト以降のジョーカーたちもそれに負けず劣らずで、特に今回はヤバいくらいの存在感です。表情や口調だけでなく、痩せ細った体つきまで役作りをしていて 一層にリアリティを出していました。

あとオマケというか、登場人物はしっかりとバットマンに通じていて、バットマン自身の子供時代や両親も出てきます。ジョーカーとの関わりもストーリーで重要なポイントとなっているので、シリーズ自体としても見逃せない所です。ただちょっと親父さんのイメージが変わりそうですが…w また、今回の日本語訳は絶妙な言い回しとなっている箇所があり、それも映画を盛り上げていました。


ということで、単なるアメコミヒーローの映画ではなく格差社会の問題に切り込んでいて、実際の事件のあらましを観ているような気分になりました。高い評価を受けるのも分かりますが、暗澹たる気分になるので満足度としては少し下げました。今年観た映画の中でも特に記憶に残る傑作です。


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【東京国立近代美術館】の案内 (2019年11月後編)

今日も写真多めです。前回に引き続き東京国立近代美術館の常設についてです。まずは概要のおさらいです。

 → 前編はこちら

【展覧名】
 所蔵作品展 MOMAT コレクション

【公式サイト】
 https://www.momat.go.jp/am/exhibition/permanent20191101/

【会場】
  東京国立近代美術館 本館所蔵品ギャラリー

【最寄】
  東京メトロ東西線 竹橋駅

【会期】2019年11月1日(金)~ 2020年2月2日(日)
  ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間00分程度

【感想】
今回も上階から下へと下るルートで観た順にご紹介していこうと思います。

 ※ここの常設はルールさえ守れば写真が撮れますが、撮影禁止の作品もあります。
 ※当サイトからの転載は画像・文章ともに一切禁止させていただいております。

今日は1930年代の作品のコーナーから

長谷川三郎 「アブストラクション」
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タイトル通りの抽象画。かなり単純で図形のような感じですが、落ち着いた色彩の取り合わせが好みでした。どことなく日本っぽい要素があるように思えます。

小出楢重 「海」
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小出楢重は人物や静物が得意なように思いますが、風景画も単純化ぶりが面白い。やや曇りがちで波も高めになっているように観えました。

ポール・ジャクレー  「『世界風俗版画集』より 鯉を売る老婆、茨城県水郷」
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フランス生まれで日本育ちのジャクレーによる版画。浮世絵の技術を使っていて、微妙な濃淡のある多色刷りとなっています。背中に大きな籠を背負って疲れて休んでいるのでしょうか。顔つきに疲労が感じられました。

北川民次 「ランチェロの唄」
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こちらはメキシコで活躍した北川民次の作品で、メキシコの風物を壁画風に描いています。ギターを奏で、人々は踊っているけどあまり楽しく無さそうな…w 実はこれは当時の戦時中の日本への批判が密かに込められているとのことで、民衆が虚ろで無力に「踊らされている」のだとか。色もくすんでやや不吉な感じがするのはその為なんですね。

石垣栄太郎 「リンチ」
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これはストレートにヤバい雰囲気の作品。黒人が大勢の白人にい縛り首にされているようです。明暗も劇的で、人々の狂気が渦巻くような暗い負のエネルギーがありました。

続いては戦時中のプロパガンダの絵画のコーナーです。

松見吉彦 「十二月八日の租界進駐」
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これは1941年12月8日の上海占領の様子を描いたものかな? 意気揚々と旭日旗を掲げて行進する様子は国威発揚にピッタリの画題に思われます。芸術が政治に使われる一例ですね。

新井勝利 「航空母艦上に於ける整備作業(三部作ノ内三)」
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こちらは三部作で三点とも展示されていました。タイトル通り母艦での整備の様子と思われますが、構図が斬新で絵としても面白い。広い空へと飛び立つ雰囲気がよく表されていました。

新井勝利 「航空母艦上に於ける整備作業(三部作ノ内一)」
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こちらも三部作の1つ。翼を曲げて格納され、プロペラを整備している様子が分かります。完成作のはずなのに背景は色が塗られず、手前が目を引くようにしているのかな? 日本画らしからぬ光景となっているのも面白い。

藤田嗣治 「○○部隊の死闘−ニューギニア戦線」
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こちらはエコール・ド・パリの画家として乳白色の裸婦で有名な藤田嗣治による戦争画。裸婦の画風とは全く異なる茶色がかった画面となっています。大画面で劇的な様子となっていて、歴史画への並々ならぬ意欲が感じられます。こうした戦争への積極的な貢献が戦後に叩かれる原因になるわけですが…。

続いては戦後のコーナーです。

「日本の児童画」
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こちらは1954~67年頃の子供が描いた絵画。児童画はアール・ブリュットからは除外されていますが、既存の美術とは異なる自由で純粋な発想においては共通しているように思えます。タッチもへったくれもないですが、強い筆致で生き生きしています。

北川民次 「画家の家族」
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再び北川民次で、こちらは1969年の作品。だいぶ作風も変わって平面的で輪郭が太くなっているように思えます。ミシンとレースはやけに精密に描かれているような…w ちょっと不思議な構成も含めて印象的な作品でした。

この辺には以前ご紹介した山下菊二の「植民地工場」や「あけぼの村物語」などショッキングな作品もありました。
3階のこの先は奈良原一高の写真のミニコーナーがあり、その先は前々回でご紹介した鏑木清方の三部作の展示となっていました。

少し進んで2階は1990年代以降のコーナー。

村上隆 「サインボード TAMIYA」「サインボード TAKASHI」
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上は模型のタミヤのマークとロゴに焼入れしている作品で、下は自分の名前入のサインボードのようです。いずれも兵士の形(恐らくタミヤの模型)の焼印の跡があって、アメリカや戦争を想起するかな。また、ジャスパー・ジョーンズの作品を意識しているようにも思えました。

ゲルハルト・リヒター  「抽象絵画(赤)」
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この日、窓展にもリヒターの立体作品がありましたが、こちらは絵画作品。何が描いてあるのかさっぱり分かりませんが、赤がちょっと不穏な雰囲気に観えますw かすれて流れを感じる画面となっていました。

ちょっと観る順番がおかしくなりましたが、続いては1960年代のコーナー。

赤瀬川原平 「ヴァギナのシーツ(二番目のプレゼント)」
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千円札を印刷して裁判沙汰になるなど かなり攻めてた赤瀬川原平の作品。タイトルからしてこれも問題になりそうな…w 1950年代以降にがらくたを使った作品の流行があったようで、こちらも廃材で女性器を表しています。オリジナルは作者自身によって廃棄され、こちらは1995年に回顧展のために作者監修の元で再作成されたものなのだとか。二番目というのはそういうことかな?

三木富雄 「EAR NO.Y-8」
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アルミで作られた耳が強烈なインパクトの作品。よく観ると1つ1つ形が違います。何で耳なんだろう? 何で中央は耳が無いんだろう?と疑問が次から次へと湧いてきますw 作者は独学で美術を学んだようで、かなり独特な感性に思えました。


ということで、今回も個性的な作品を沢山観ることができました。ここは点数も多く特別展よりもボリュームがあるので、見応えたっぷりです。この美術館に行く際は、スケジュールに余裕を持って常設も観ることをオススメします。


参考記事:
 東京国立近代美術館の案内 (2019年11月前編)
 東京国立近代美術館の案内 (2019年11月後編)
 東京国立近代美術館の案内 (2019年07月前編)
 東京国立近代美術館の案内 (2019年07月後編)
 東京国立近代美術館の案内 (2019年03月)
 東京国立近代美術館の案内 (2018年11月)
 東京国立近代美術館の案内 (2018年06月)
 東京国立近代美術館の案内 (2018年05月)
 東京国立近代美術館の案内 (2017年12月前編)
 東京国立近代美術館の案内 (2017年12月後編)
 東京国立近代美術館の案内 (2017年09月)
 東京国立近代美術館の案内 (2014年01月)
 東京国立近代美術館の案内 (2013年09月)
 東京国立近代美術館の案内 (2013年03月)
 東京国立近代美術館の案内 (2012年02月)
 東京国立近代美術館の案内 (2011年12月)
 東京国立近代美術館の案内 (2011年06月)
 東京国立近代美術館の案内 (2010年12月)
 東京国立近代美術館の案内 (2010年09月)
 東京国立近代美術館の案内 (2010年05月)
 東京国立近代美術館の案内 (2010年04月)
 東京国立近代美術館の案内 (2010年02月)
 東京国立近代美術館の案内 (2009年12月)


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【東京国立近代美術館】の案内 (2019年11月前編)

今日は写真多めです。前回ご紹介した展示を観た際、東京国立近代美術館本館の常設展も観てきました。こちらは撮影可能で 今回も目新しい作品が多かったので、前編・後編に分けて写真を使ってご紹介していこうと思います。

【展覧名】
 所蔵作品展 MOMAT コレクション

【公式サイト】
 https://www.momat.go.jp/am/exhibition/permanent20191101/

【会場】
  東京国立近代美術館 本館所蔵品ギャラリー

【最寄】
  東京メトロ東西線 竹橋駅

【会期】2019年11月1日(金)~ 2020年2月2日(日)
  ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間00分程度

【感想】
この日は結構お客さんが多かったですが、概ね自分のペースで鑑賞することができました。今回も気に入った作品の中から今までご紹介していないものを写真で並べていこうと思います。
 ※ここの常設はルールさえ守れば写真が撮れますが、撮影禁止の作品もあります。
 ※当サイトからの転載は画像・文章ともに一切禁止させていただいております。

松井康成 「練上嘯裂文茜手大壺」
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こちらは「嘯裂」というひび割れのあるピンク色の壺。陶器なのにモコモコした質感に見えて柔らかそうに観えます。段々に縞模様もついていて、非常に凝った作りとなっていました。

小林古径 「加賀鳶」
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こちらは江戸にあった加賀前田藩の屋敷お抱えの火消しを描いた作品。火消したちは前傾姿勢で素早く駆けつけている感じが出ています。題材は江戸時代ですが、幾何学的な家や構図はセザンヌからの影響のように思えました。

尾竹竹坡 「風精」
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こちらは風の精を描いた作品。風を抱えていて、日本的な風神っぽい容貌かな。金の風の流れが軽やかで、幻想的かつ装飾的な印象を受けました。

尾竹竹坡 「火精」
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こちらは火の精。こちらは筋骨たくましい姿をしていて、仏画の四天王や十二神将のような雰囲気があるかな。黒い肌に白と金の輪郭で描いていて力強さがあります。全体的にS字を描くような流れがあるのも面白い効果です。

尾竹竹坡 「流星」
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こちらはイタリアの未来派に影響を受けた作風となっています。円が連なる幾何学的でリズミカルな構図で、大きな身振りで動きやスピードを感じさせます。この女性たちは1人の女性が宙を舞って落下する軌跡を表しているとのことでした。

岸田劉生 「イブを待つアダム」
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体育座りをしてじーーーっと舞っている様子を描いた作品。目は遠くを観るようで待ち疲れて飽きてそうに見えるw 岸田劉生は一時期は牧師を志していたので、こうしたキリスト教関連の題材も残しています。

続いては1923年9月1日に行われた第10回二科展の出品作のコーナー。関東大震災の当日が初日だった展示で、1日で中止となってしまいました。

津田青楓 「出雲崎の女」
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大胆な裸婦像で、何処と無くマティスのオダリスクなどを想起させるかな。太めの輪郭と明るい色彩のため生き生きとした印象を受けます。作者の津田青楓はこの絵を震災当日に会場で話題にしていたのだとか。

津田青楓 「婦人と金絲雀鳥」
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こちらは装飾的な壁紙を背景に座る婦人と、足元の金色の鳥が描かれた作品。周りが黄色っぽいので婦人の肌がやや青白く見えるようにも思えますが、存在感があります。微笑んでいて鳥とは違う画面外を観ているような目が印象的でした。

石井柏亭 「ナポリ港」
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ナポリの港町とヴェスヴィオ山を描いた作品。近景・中景・遠景の流れがCの字になっていて構図に流れを感じます。色も明るく爽やかな現地の様子が伝わってきました。

黒田重太郎 「港の女」
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こちらはキュビスム的なややカクカクした裸婦像。同じ髪型をしているので全員同じ人なのかも?? それぞれ異なったポーズをしていて1枚で多面的に女性を表しているように思えました。

古賀春江 「女」
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シュルレアリストで有名な古賀春江ですが、ここではシュールさはあまり無いように思えます。手が大きくてピカソの新古典主義の時代のような量感があるかな。独特のデフォルメぶりが面白い作品でした。

岡本唐貴 「静物」
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こちらはキュビスム的な静物画。とは言え平面に圧縮されたようにぺったりしていて、あまり多面的には観えないかもw しかし物の配置が心地よく感じられ、デフォルメぶりも好みでした。

住谷磐根 「工場に於ける愛の日課」
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こちらは廃屋となった焼物工場に足を踏み入れた時の印象を元に描いた作品だそうで、右の辺りに人物らしき姿もあります。無機的なものと有機的なものが混じり合っているように思えて、ちょっと不穏な色彩かなw 解説によると、この時代の人間と機械の間のアンビバレントな関係を感じさせるとのことでした。

続いては前回ご紹介した鏑木清方の弟子でもある川瀬巴水の版画のコーナーです。私は川瀬巴水が大好きなので、今回特に良かったのはここでした。

川瀬巴水 「『旅みやげ第二集』より 晴天の雪(宮島)」
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こちらは雪が降っているのに晴れているというちょっと不思議な光景を描いた作品。厳島神社も雪が積もって、爽やかさと神秘性が半々みたいな感じかなw やはり川瀬巴水の版画は色使いが絶妙で、旅情や郷愁を誘いますね。

川瀬巴水 「『旅みやげ第三集』より 加賀八田 秋の虹」
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こちらは強い風で木々や藁が傾いでいる様子と、虹が架かっている様子が描かれた作品。雲の下は青空で急速に晴れて来ているのかも。風とは逆方向に飛ぶ鳥の姿も力強くて目を引きました。

川瀬巴水 「『東海道風景選集』より 田子の浦の夕」
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赤く染まる富士山を背景に 荷馬車と手前を遮る松が描かれた作品。松は画面外にも伸びていって強い生命力が感じられます。日本の原風景のようで、富士の雄大さと 農民の素朴さが印象的でした。


ということで、今回も目新しい作品が多くて楽しめました。後半も面白い作品が多かったので、次回も同様に写真を使ってご紹介の予定です。

 → 後編はこちら


参考記事:
 東京国立近代美術館の案内 (2019年11月前編)
 東京国立近代美術館の案内 (2019年11月後編)
 東京国立近代美術館の案内 (2019年07月前編)
 東京国立近代美術館の案内 (2019年07月後編)
 東京国立近代美術館の案内 (2019年03月)
 東京国立近代美術館の案内 (2018年11月)
 東京国立近代美術館の案内 (2018年06月)
 東京国立近代美術館の案内 (2018年05月)
 東京国立近代美術館の案内 (2017年12月前編)
 東京国立近代美術館の案内 (2017年12月後編)
 東京国立近代美術館の案内 (2017年09月)
 東京国立近代美術館の案内 (2014年01月)
 東京国立近代美術館の案内 (2013年09月)
 東京国立近代美術館の案内 (2013年03月)
 東京国立近代美術館の案内 (2012年02月)
 東京国立近代美術館の案内 (2011年12月)
 東京国立近代美術館の案内 (2011年06月)
 東京国立近代美術館の案内 (2010年12月)
 東京国立近代美術館の案内 (2010年09月)
 東京国立近代美術館の案内 (2010年05月)
 東京国立近代美術館の案内 (2010年04月)
 東京国立近代美術館の案内 (2010年02月)
 東京国立近代美術館の案内 (2009年12月)


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鏑木清方 幻の《築地明石町》特別公開 【東京国立近代美術館】

前々回・前回とご紹介した東京国立近代美術館の展示を観た後、同じ本館の所蔵品ギャラリー第10室で「鏑木清方 幻の《築地明石町》特別公開」を観てきました。

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【展覧名】
 鏑木清方 幻の《築地明石町》特別公開

【公式サイト】
 https://www.momat.go.jp/am/exhibition/kiyokata2019/

【会場】東京国立近代美術館 所蔵品ギャラリー第10室
【最寄】竹橋駅

【会期】2019年11月1日(金)~ 12月15日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 0時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_③_4_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
土曜日の遅い時間に行ったこともあってそれほど混んでいませんでしたが、夕方くらいまではかなり多くの人がいたようでチケット売り場には行列ができていました。

さて、この展示は美人画で名高い近代日本画家の鏑木清方のミニ個展で、普段は常設展示されている3階の一部屋だけとなっています。というのも、今回は新収蔵品のお披露目としての開催で、1975年以来 行方不明となっていた「築地明石町」「新富町」「浜町河岸」の幻の三部作が一気に収蔵されたので、それが今回の主役となります。簡単にメモしてきましたので、いくつか気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。
 参考記事:清方/Kiyokata ノスタルジア (サントリー美術館)

鏑木清方 「墨田河舟遊」
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こちらは4階の常設展示のハイライトのコーナーにあり、これだけは別料金を払わなくても常設として観ることができます。(写真もOK) 文展への出品作で、江戸時代の舟遊びの光景を描いています。

右隻のアップ。
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屋形船の中で人形舞の宴が催されています。影の無い明るく柔らかい色彩で優美な雰囲気です。屋根の上で隣の舟を突いている人も気になるw

さらに屋形船の中をアップにしたもの
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人形の衣装まで華やかに描かれています。そして御簾越しの女性の表現が見事で、柔らかく繊細な印象を受けました。

こちらは左隻のアップ
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こちらも小さめの屋形船が描かれています。

屋形船のアップ
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この清らかで透き通るような肌の女性が清方の真骨頂ではないかと思います。着物の滑らかな輪郭線も優美さを強めているように思えました。

そして今回の展示の会場に入ると、「築地明石町」に描かれた着物の再現や、モデルを務めた江木ませ子のポートレートなどもありました。

鏑木清方 「明治風俗十二ヶ月」
こちらは12幅対の掛け軸で、1幅ごとに1~12月まで各月の風物を交えた美人が描かれています。かるた(一月)、梅やしき(二月)、けいこ(三月)、花見(四月)、菖蒲湯(五月)、金魚屋(六月)、盆燈籠(七月)、氷店(八月)、二百十日(九月)、長夜(十月)、平土間(十一月)、夜の雪(十二月)となっていて、階層や身分の異なる女性たちが季節と共に古き良き時代を感じさせます。髪を整えたりする身振りに気品が感じられ、いずれも華やいだ雰囲気となっています。

左:盆燈籠(七月) 右:氷店(八月)
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こちらの写真は以前に常設展示されていた時に撮ったものです。今回の展示では撮影不可となっています。
特に夏は涼しげなモチーフと共に清涼感があります。のんびりしていて郷愁も誘われました。

左:平土間(十一月) 右:夜の雪(十二月)
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こちらの写真は以前に常設展示されていた時に撮ったものです。今回の展示では撮影不可となっています。
12月はやはり寒そうな感じですが、11月は暖色系で温かみがあるかな。人力車とガス燈が描かれているなど、時代を感じさせるモチーフも清方らしさだと思います。
 参考記事:
  東京国立近代美術館の案内 (2010年09月)
  東京国立近代美術館の案内 (2011年12月)


次の作品をご紹介する前に、ちょっと掛け軸の各部位の名前をご説明。 これも以前に作った画像ですw
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掛け軸というと中央の部分が注目されますが、周りの部分にも絵を描くこともあり、そこに絵を描いたものを描表装と呼びます。

鏑木清方 「端午の節句」
そしてこちらが描表装となっている作品。中央の絵の部分には桃太郎の武者人形が座っていて、丸々と可愛らしい姿となっています。一方、中廻しから天にかけて大きな鯉のぼりと吹き流しが描かれ、青い背景がまるで空のように思えます。紅白の吹き流しは特に色鮮やかで桃太郎より目立っているようなw 力強く昇っていくような面白い表装となっていました。

この隣にも描表装の「弥生の節句」がありました。
そしていよいよ今回のメインである三部作が続きます。三部作は清方の思い出深い街の風情をそれに相応しいモチーフ・似つかわしい女性と共に象徴的に描いたものとなっています。

鏑木清方 「新富町」 ★こちらで観られます
まずこの新富町は 朱色の傘を持つ緑色の着物の女性がうつむいている様子が描かれています。新富町は古くから劇場を抱え 花街としても知られていたので、女性は新富町芸者で背景の建物は新富座だそうです。新富座は明治の頃は近代的な劇場だったものの、大正に入ると衰退して関東大震災で廃座してしまいました。それと関係しているかは分かりませんが、女性のやや憂いを帯びたような顔をしていて内省的に思えるかな。傘の色が明るくも上品で、モチーフにもリズムが感じられました。

鏑木清方 「築地明石町」 ★こちらで観られます
こちら今回の目玉で、木の柵の前でやや振り返る姿勢で立っている水色~緑の着物の上に黒の羽織を着た女性像です。築地明石町は明治期には外国人居留地になっていた為、ハイカラな街だったようで木の柵はそこに洋館があることを示しているようです。また、女性の髪は上流の婦人を思わせる「夜会巻」もしくは「イギリス巻き」と呼ばれる短めの髪型で、この作品では先程の写真のモデルを使って描いているようです。指には金の指輪が光っているので既婚かな。着物からは所々に朱色の部分がのぞいていてアクセントになっています。遠くを観るような目つきで凛とした印象を受けました。 一方、背景の柵には朝顔が巻き付いているので初夏と思われます。 薄っすらとマストのある舟の姿もあって瀟洒で爽やかな雰囲気となっていました。
 参考記事:浜離宮と新橋停車場~東京150年 江戸から明治へ~ (旧新橋停車場 鉄道歴史展示室)

鏑木清方 「浜町河岸」 ★こちらで観られます
続いては浜町で、扇子を持って口元に当てる若い芸子らしき人物と、背景に薄っすらと火の見櫓らしきものが描かれています。こちらは清方が6年暮らした町で、歌舞伎舞踊の振り付けで一時代を築いた2代目 藤岡勘右衛門が家を構えていたそうです。その為、この女性は踊りの稽古帰りらしく、着物も結構派手めです。若々しくて何か悩んでいるような顔が艶かしく思えました。

鏑木清方 「初冬の花」
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こちらの写真は以前に常設展示されていた時に撮ったものです。今回の展示では撮影不可となっています。
こちらは小菊という芸者を描いた作品で、赤と薄紫のストライプの着物姿でキセルを盆に入れれいるのかな? 伏目がちで所作が伝わってくるような奥ゆかしい雰囲気となっていました。この女性とは泉鏡花を囲む会で知り合ったそうで、泉鏡花の小説にも出てきそうな感じかも…w
 参考記事:東京国立近代美術館の案内 (2009年12月)

この辺には泉鏡花の小説のラストシーンを描いた「晩涼」もありました。

伊東深水 「清方先生寿像」
こちらは弟子の伊東深水による清方の肖像です。結構老けている頃の姿で、原稿用紙をテーブルに置いてペンを持っています。遠くを観るような目で物思いに耽っているのかもしれません。テーブルには泉鏡花全集と美術雑誌『アトリエ』の抽象美術特集号が置かれていて、清方の仕事や研究の様子が伺えます。これを観た俳人の久保田万太郎は「清方先生の首を振るクセが出ている」と評したそうで、深水もそれを聞いて喜んだのだとか。確かに人柄までにじみ出てくるような肖像画でした。

この他にも新しく寄贈された「鶴八」という作品もありました。こちらはテレ東の「なんでも鑑定局」で有名な中島誠之助 氏が寄贈した作品で、3部作の発見の報を聞いて寄贈されたそうです。流石、いい仕事してますねw


ということで、ミニ展示ではありましたが3部作を始め清方の魅力の詰まった作品をじっくり鑑賞することができました。もう会期末が迫っていますので、気になる方は今週末にどうぞ。なお、2022年春には同じく東京国立近代美術館で「没後50年 鏑木清方大回顧展(仮)」が開催されるようで、その時にまた3部作を観る機会がありそうです。

おまけ:
北の丸公園の紅葉
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この後、あっという間に冬になってしまい、今年は紅葉の時期は短かった…。



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窓展:窓をめぐるアートと建築の旅 (感想後編)【東京国立近代美術館】

今日も写真多めで、前回に引き続き東京国立近代美術館の「窓展:窓をめぐるアートと建築の旅」についてです。前編は1~5章についてでしたが、今日は6~14章について写真を使ってご紹介して参ります。まずは概要のおさらいです。

 → 前編はこちら

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【展覧名】
 窓展:窓をめぐるアートと建築の旅 

【公式サイト】
 https://www.momat.go.jp/am/exhibition/windows/

【会場】東京国立近代美術館
【最寄】竹橋駅

【会期】2019年11月1日(金)~2020年2月2日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
後半は撮影不可の場所もいくつかありました。撮影できた場所については写真を使って参ります。

<6 窓の外、窓の内 奈良原一高 『王国』>
6章は奈良原一高の初期の代表作『王国』に関するコーナーです。1958年の個展で発表されその後に写真集にまとめられたこの作品は、北海道の男子トラピスト修道院を撮った「沈黙の園」と、和歌山の女子刑務所を撮った「壁の中」の2つのパートから成っています。ここにはその中から窓が写った12点が展示されていました。

奈良原一高 「『王国』より 沈黙の園」
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一見すると西洋風に見えますが、受付口の看板が日本語で書かれていて函館付近のトラピスト修道院だと分かります。禁欲的な世界の内側と言った感じで、中世的な雰囲気がありました。

奈良原一高 「『王国』より 壁の中」
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こちらは監獄の中から外を観る女性の囚人たち。右の女性は話しかけているようにも見えるかな。こちらも閉ざされた世界との境界を感じさせました。


<7.世界の窓 西京人《第3章:ようこそ西京に-西京入国管理局》>
続いては打って変わって現代アートのコーナーで、日本の小沢剛・中国の陳シャオシュン・韓国のギムホンソックという3人から成る「西京人」のコーナーです。西京人はアジアの何処かにある西京国という架空の都市国家を題材にしているそうで、ここでは入国管理局を模した作品がありました。

小沢剛・陳シャオシュン・ギムホンソック 「西京人」
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こちらが入国管理局。パスポートの代わりに「とびきりの笑顔か、お腹の底からの大笑い」または「お好きな歌を1小節」または「チャーミングな踊り」を係員に見せないと入国できないそうです。実際には無理強いされることはないですが、笑顔を見せる人が多かったかなw 

こちらは手書きのイラスト
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ここではチャーミングな踊りを見せている様子が描かれています。こんな平和な審査だったら楽しいでしょうね。

結構凝っていて、様々な小物も展示されていました。
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この近くにあった映像では子どもたちが入国する様子を流していました。


<8.窓からのぞく人II ユゼフ・ロバコフスキ《わたしの窓から》>
続いてはポーランドを代表するアーティストであるユゼフ・ロバコフスキの代表作の1つ「わたしの窓から」に関するコーナーです。ここは映像1点のみで、ユゼフ・ロバコフスキが住む高層アパートの9階から撮った広場の様子が映されていました。

ユゼフ・ロバコフスキ 「《わたしの窓から》」
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こちらはそのワンシーン。警官が車を呼び止めていた時の様子。ユゼフ・ロバコフスキはこうした窓から見える光景を1978年から22年にも渡って撮り続けたそうです。ナレーションで説明が入るのですが、それは真偽が定かではないのだとか。また、この作品では直接的には表現されていませんが、撮っていた期間には政治体制が変わった時期も含まれるので激動の時代の中の日常の風景に思えました。


<9.窓からのぞく人III タデウシュ・カントル《教室-閉ざされた作品》>
続いてもポーランドのアーティストのコーナーで、演劇家でもあるタデウシュ・カントルの「教室-閉ざされた作品」という作品が1点だけ展示されていました。

タデウシュ・カントル 「教室-閉ざされた作品」
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部屋の中に部屋がありました。黒い壁で不吉な雰囲気。元は「死の教室」という演劇で、ポンピドー・センターでの「ポーランド人の存在」展の際に立体作品としたそうです。

中を覗くとこんな感じ。マネキンがいてめっちゃ怖いw
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死者となった年老いた登場人物が自分の子供時代を表すマネキンを腕に抱えて学校に教室に集うという設定の舞台なので、こうしたマネキンが置かれているようです。延々と戦争で死んだ人を点呼したりするそうなので、見た目が怖いのも納得。ポーランドの苦難の歴史を表しているようでした。

壁には戦争の頃と思われる新聞なども貼られていました。


<10.窓はスクリーン>
続いてはテレビやビデオ、PCなどをテーマにしたコーナーです。

JODI 「My%Desktop OSX 10.4.7」
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こちらはオランダ出身の2人組のアーティストによる作品で、マックのOS上でフォルダやファイルを開いたり閉じたりしている映像です。リズミカルで音楽的な感じにも見えるけど、バグってるかウィルス感染したような感じですw プログラムで作ったのではなく手動で作っているとのことで、驚きでした。しかし窓の展示ならそこはwindowsを使って欲しいw

この近くには他にも作品などがありました。意味は分かりづらいですw


<11.窓の運動学>
続いては実際に窓を使った作品などのコーナーです。

ローマン・シグネール 「よろい戸」
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会場で何やらバタンバタンという音が聞こえたのですが、それはこちらの作品でした。部屋の真ん中に鎧戸があり、扇風機のON・OFFで窓が開閉します。

開くとこんな感じ。
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背面の扇風機がONになり、両脇がOFFになっています。それが反転すると閉まる仕組みです。延々と繰り返されて無機質な印象を受けました。デュシャンのようにディメイドが別の意味合いを持ったと考えれば良いのかな?

ローマン・シグネール 「ロケットのあるよろい戸」
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こちらは映像作品で、やはりよろい戸を使っています。ここではよろい戸が開くと中からロケット(の噴煙)が出てくるという仕掛けになっていました。もはや窓というよりは砲門みたいなw これも窓のようで窓でないような作品でした。

近くには池永慶一の神戸での大規模な建築作品のプロジェクトの様子なども展示していました。

ズビグニエフ・リプチンスキ 「タンゴ」
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こちらは36人もの人間が1つの部屋へ出入りする映像作品です。ループしていて何度も繰り返すのですが、上手いこと人々が重ならないように編集されています。これはデジタル合成技術の無かった時代に緻密に計算して役者を別々に撮影し、フィルムを手作業で切り貼りして作ったのだとか。絶妙にタイミングがズレて現れる人々を観ているとアルゴリズム体操を観ているような気分になるw ちょっと可笑しい所もあって面白い作品でした。


<12.窓の光>
続いては山中信夫 氏とホンマタカシ氏の作品が並ぶコーナーです。山中氏はピンホールカメラを使った作品、ホンマタカシ氏は山中氏の発想を転換して富士山を撮った作品が並んでいました。

山中信夫 「ピンホール・ルーム1」
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こちらがピンホールカメラで撮った作品。何枚も張り合わせて大画面にしています。自分の部屋の壁い穴を開けて部屋自体をピンホールカメラにしてこうした写真を撮ったそうです。確かにピンホールは窓の一種ではあるかもしれないけど、発想のスケールが大きいw 他にも室内の様子も撮れている写真もあり、ピンホールカメラの特性を生かした不思議な画面となっていました。


<13.窓は希望 ゲルハルト・リヒター《8枚のガラス》>
こちらは撮影不可となっていました。部屋に8枚のガラス板が等間隔に立ててあるのですが、それぞれが65%の透過率となっていて35%は鏡のように反射するという特殊なガラスとなっています。そのため、見る角度によっては向こう側が見えたり見えなかったりして不思議な仕組みとなっています。ゲルハルト・リヒターは画家として有名ですが、絵画だけでなくこうした立体作品もウィットがあって驚きました。

会場内の作品は以上で、もう1つの章は美術館の入口にありました。


<14.窓の家 藤本壮介>
最後の章は会場の外にある建築作品です。

藤本壮介 「House N」
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こちらは3つの箱が入れ子状の構造になった建物です。これの模型は何度か観たことがありますが、まさか本当に建てるとはw 中に入る事もできるので、構造がよく分かるようになっていました。こうなると何処までを窓というのか悩みますw
 参考記事:日本の家 1945年以降の建築と暮らし感想前編(東京国立近代美術館)


ということで、後半もバラエティ豊かな内容となっていました。ちょっと方向性がバラバラで分かりづらいところもありますが、窓の持つ様々な魅力を改めて感じることができたと思います。この展示は撮影もできますので、気になる方はスマフォやカメラを持ってお出かけすることをオススメします。


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窓展:窓をめぐるアートと建築の旅 (感想前編)【東京国立近代美術館】

今日も写真多めです。前回ご紹介した東京国立近代美術館の工芸館の展示を観た後、本館に戻って「窓展:窓をめぐるアートと建築の旅」を観てきました。この展示は一部を除き撮影可能となっていましたので、写真を使ってご紹介していこうと思います。

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【展覧名】
 窓展:窓をめぐるアートと建築の旅 

【公式サイト】
 https://www.momat.go.jp/am/exhibition/windows/

【会場】東京国立近代美術館
【最寄】竹橋駅

【会期】2019年11月1日(金)~2020年2月2日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
こちらも多くのお客さんで賑わっていましたが、概ね自分のペースで観ることができました。

さて、この展示は「窓」をテーマに古今東西の多様な作品が集まる内容となっています。「窓学」を主宰する一般財団法人 窓研究所とタッグを組んで企画されているそうで、窓の持つ様々な特性を取り入れた作品が14もの章に分かれて並んでいました。詳しくは各章ごとに気に入った作品と共に写真を使ってご紹介していこうと思います。


<1.窓の世界>
まずは序章的なコーナー。ここには映像作品や近現代の絵画などが並んでいました。

バスター・キートン 「キートンの蒸気船」
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こちらはアメリカ無声映画の喜劇で有名なバスター・キートンの映画のワンシーン。特に家の壁が倒れてきてキートンは窓枠の部分に立っていて助かるというちょっと怖いけど面白い発想となっています。このシーンの撮影をどうやったのか気になりますw

郷津雅夫 「<windows>より」
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こちらは作者が住んでいたニューヨークの移民の多い地域を撮った写真シリーズの1枚。沢山の女性や子供の顔が窓から外を伺っている様子となっていて、ちょっと不安げにも見えるかな。窓の存在が内と外を隔てているようにも思えました。


<窓からながめる建築とアート>
続いては建築やアートとの関わりの歴史についてのコーナーです。

こちらは窓をテーマにした美術作品の年表。
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古いものから最近この美術館で展示された作品まで様々なジャンルの美術品と共に振り返っています。こうして観ると窓が効果的な作品って結構あるのを再認識できます。

ジャック・アンドルーエ・デュ・セルソー 「フランスの最も優れた建築」
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こちらは1607年に書かれた本です。フランスの宮廷か貴族の邸宅と思われますが、豪華な装飾です。窓も凝った作りとなっていて、単なる明り取りではなく美術的な装飾の対象となっているのが伺えました。

この他にもル・コルビュジエやフランク・ロイド・ライトの構想図などもありました。


<3.窓の20世紀美術1>
続いては20世紀前半の画家や写真家が捉えた窓のコーナーです。窓は絵画の中では画中画のような効果があり、ここではそれが端的に分かる作品が数点展示されています。 また、19世紀以降にショーウィンドウが発展したことでウィンドウショッピングも生まれたようで、ここではそれをテーマにした作品もありました。

ウジェーヌ・アジェ 「紳士服店」
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これは以前観て気に入っていました。ショーウィンドウの中と外が反射によって一体化していて、境界がちょっとあやふやになっているのが面白い。そして男性の笑みがやや不気味w 構図と発想が秀逸な作品でした。

茂田井武 「<ton paris>より いつも歩道を見ている子犬」
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こちらは作者が1930年から3年間暮らしたパリの日常を描いたスケッチで、タイトルは「君のパリ」という意味だそうです。気品ある女性の横顔と ちょっと不機嫌そうに口をへの字にする犬が簡潔に描かれています。犬はこちらを見ていて何とも可愛い。デフォルメ具合が洒落ていました。

ロベール・ドアノー 「<ヴィトリーヌ、ギャルリー・ロミ、パリ>より」
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こちらは3点セットの1枚。ショーウィンドウの中から人々の様子を撮っていて、それぞれの反応が面白いw 女性は絵を見て何か言っているけどどんな絵かはこちらからは分かりません。一方、男性はお尻を突き出す裸婦の絵をじっと観ていて奥さんの話は聞いて無さそうな…w 撮影者の視点も含めてユーモラスな感性に思えました。

ピエール・ボナール 「静物、開いた窓、トルーヴィル」
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こちらはナビ派のボナールによる作品。窓の外には船が浮かび、爽やかな風景となっています。人は描かれていないものの 日常の品々からは穏やかで幸せそうな雰囲気が感じられました。

アンリ・マティス 「待つ」
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こちらはニースのシャルル=フェリックス公園に面したアパートを借りていた時に描かれた作品。海の見える窓辺を覗いて誰かを待っているのかな? ここに描かれている風景だけでなく、女性たちの視線の先に広がる世界も想像させる面白い構図となっていました。

アンリ・マティス 「窓辺の女」
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こちらもニース時代の作品で、オテル・ド・ラ・メディテラネオというホテルの一室を描いています。全体的に淡い色調で窓の内と外でも明暗の違いはあまり無いかな。幾何学的なリズムもあって好みの作品でした。

エルンスト・ルートヴィヒ・キルヒナー 「日の当たる庭」
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こちらはドイツ表現主義の画家(ブリュッケのメンバー)による作品。平面的で強い色彩となっていて、ややキュビスム的な要素も感じます。タバコの煙が良いアクセントになっているように思えました。

この辺には岸田劉生の「麗子肖像(麗子五歳之図)」もありました。この章は良い作品ばかりです。


<4.窓の20世紀美術2>
続いても20世紀美術のコーナーです。ここには抽象絵画作品などが並んでいました。

パウル・クレー 「破壊された村」
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こちらは具象的ですが、心象風景のように思える作品。夕日の元で廃墟のような雰囲気が漂っていて、タイトル通りの印象を受けました。キュビスム的な要素も感じさせる作品です。

アド・ラインハート 「抽象絵画」
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こちらは真っ暗でもはや窓なのかも分かりませんw しかし、よーく観るといくつかのブロックに分かれてます。最近似た作品を観たばかりなので、何とか気づけましたw
 参考記事:ニューヨーク・アートシーン-ロスコ、ウォーホルから草間彌生、バスキアまで 感想前編(埼玉県立近代美術館)


<5.窓からのぞく人1>
続いては窓からのぞく人をテーマにした1930~40年頃の作品のコーナーです。

安井仲治 「<安井仲治ポートフォーリオ>より 流氓ユダヤ 窓」
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こちらは外国のようで日本の神戸で撮られた写真。この人はユダヤ人で、ナチスから逃れて亡命先への出国を待っているようです。じっと伺う様子は不安や警戒感が感じられ、苦悩がにじみ出ているようでした。神戸のユダヤ人というと手塚治虫の『アドルフに告ぐ』を思い出しますね

この近くにはジェイムズ・キャッスルの作品も数点ありました。

林田嶺一 「キタイスカヤ街のとあるレストランの窓」
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こちらはロシアのレストランの窓をテーマにした立体作品。ロシア兵らしき2人の人物が厳しい表情で立っています。作者は子供の頃に窓越しに上海事変を観たそうで、それがこうした作品を作るきっかけになったようです。左右の看板もちょっと不吉な印象を受けるかな。この作品の他にもいくつか似た作風の作品がありました。


ということで、長くなってきたので今日はここまでにしようと思います。前半は特に20世紀美術のコーナーが見どころではないかと思います。窓をテーマにした作品はこれほど幅広いのかと驚くと同時に、それぞれの発想の豊かさに感心させられました。後半は現代アートなどもありましたので、次回は残りの6章以降をご紹介していこうと思います。

 → 後編はこちら


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多分、年に70~100回くらい美術館に行ってると思うのでブログにしました。写真も趣味なのでアップしていきます。

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■2011/11/21
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■2011/9/29
「週刊文春 10月6日号」に掲載されました
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■2009/10/28
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  → 関東 > 絵画

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