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《インドネシアの現代美術》 テーマ別紹介

今日はテーマ別紹介で、インドネシアの現代美術を取り上げます。インドネシアはクーデーターによる強権政治の時代を経験し、その反発をエネルギー源とした作品が多く存在します。また、伝統文化や宗教といった歴史的な土壌を活かした作品や、近代化を取り上げた作品などが主なテーマと言えそうです。インドネシアのアートは意外と目にする機会が多く、表現方法も豊富となっています。今日も過去の展示で撮った写真とともにご紹介していこうと思います。

まずは近代のインドネシアを代表するアーティストの作品からご紹介

FXハルソノ 「もしこのクラッカーが本物の銃だったらどうする?」
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こちらの銃はクラッカーでできています。インドネシアはクーデーター以降に強権的な政治の時代があり、それを批判するのも許されなかったようですが、この作家らが立ち上がって新しい美術運動を起こしました。

クラッカーのアップ
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色もピンクで玩具っぽい感じですが、背景に辛い時代があったのは推察できますね。

FXハルソノ「声なき声」
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こちらは指文字で「民主主義」を表している写真。右端には指が縛られた写真があり、民主主義を唱えることが困難だったことを示しているようです。その前に置かれているのはスタンプで、左から順に押していくと「DEMOKRASI」(インドネシア語で民主主義)となります。これは体験して持ち帰ることもできました。

FXハルソノは他にも「遺骨の墓地のモニュメント」というお墓をモチーフにした作品も観たことがあります。1968年~1998年のスハルト政権の負の側面がテーマになっている作品が多いのかも。
続いては他の作家による政治と歴史をテーマにした作品。

ジョンペット・クスウィダナント 「言葉と動きの可能性」
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こちらは30年間に渡ってインドネシアを独裁していたスハルト大統領の辞任スピーチを流しながら展示されていた作品。オートバイの上の旗はイスラームや学生のグループのもので、様々な思想が示されているそうです。独裁の終わりと民主主義の始まりを祝うという意味合いが込められているとのことでした。

アディティア・ノヴァリ 「NGACOプロジェクト--国家への提案」
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こちらはスーパーマリオのコインの音みたいなSEを使うインスタレーション。沢山の「NGACO」というブランドの建材が並び、モニタでCMのような動画を流しています。

よく見るとデタラメな品々ばかりで、目盛りの無い巻き尺など実際には役立たないものばかりです。「NGACO」はインドネシア語でデタラメさを意味する口語です。
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CM動画ではそれを叩き売りのようにどんどん値下げをしていました(コインの音はその値下げの時の音)最終的には90%オフだったかなw 国家への提言というタイトルに反して いい加減さを表していて皮肉しているのかなw

メラ・ヤルスマ「ワニの穴」
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こちらは作品に触れることができて、ワニの口の中に頭を突っ込むことができますw これは1965年ワニの穴を意味する場所で起きた「9月30日事件」を表しているそうです。調べたところ9月30日事件は先述の政権に繋がる軍事クーデターで、現在でもこの事件を取り扱うのは現地ではタブーとなっているのだとか。当時、鑑賞者はみんな面白がって頭を突っ込んでいましたが、そんな意味があったとは…。

ここまでクーデーター後の政権の暗い歴史をテーマにしたものでしたが、それより古い歴史や文化をテーマにした作品もあります。それを観る前に知っておきたいのがインドネシアの伝統工芸の品々。

「クリス」
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これは17~18世紀のインドネシアの霊剣で、神秘的な力があると信じられているそうです。現代でもインドネシアの結婚式の正装としてこうした剣を携帯するそうです。

インドネシアは7世紀頃は仏教国でしたが13世紀以降にイスラム教が広まり、現在ではイスラム教が86.7%、キリスト教が10.7%となっています。

「ワヤン・クリ ブトロ・グル」
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こちらは20世紀後半にインドネシアの中部ジャワで作られた影絵人形芝居用の伝統的な工芸品で、操作棒の部分には牛のツノが使われます。影絵なのにかなり細かい装飾でエキゾチックな雰囲気が面白い。
 参考記事:東京国立博物館の案内 【2010年11月】

このワヤン・クリはインドネシアの現代アートにも影響を与えています。

ヘリ・ドノ 「ガムラン・オブ・飲むニケーション」
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こちらは部屋全体が機械仕掛けの作品で、人形たちが楽器を鳴らすような感じです。

一部分をアップにするとこんな感じ。この人形たちは先程のワヤン・クリです。
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このワヤン・クリはガムランと呼ばれるインドネシアの民族音楽を奏でています。考えてみれば人形劇とロボットは似たようなものなので、違和感がないかな。伝統とテクノロジーの融合は昔からあったのかも??と思わせました。

ヘリ・ドノ「政治指導者へのショックセラピー」
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こちらもワヤン・クリから着想を得た作品で、指導者が最高位を巡って争う様子が表されているようです。私は観られませんでしたが30分に1回くらい電動で動くようです。皮肉が効いてて面白いw

政治や歴史だけでなく、宗教をテーマにした作品もあります。

アグス・スワゲ「社会の鏡」
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これはトランペットから「アザーン」というイスラームの礼拝時間を告げる呼びかけが流れてくる作品。目の前で立っている人が耳を澄ましているのが象徴的な感じです。他者に耳を傾けることの重要性を示唆しているようです。

メラ・ヤルスマ「プリブミ・プリブミ」
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これは先程のワニの作者で、路上で蛙の揚げ物を作って振る舞うという活動を撮影した作品。蛙は中国では食用である一方でイスラームでは不浄とされるようです。様々な民族が行き交う国ならではの文化的禁忌に疑問を呈するようです。意外と宗教にも客観的な目を向けてますね。

途上国やアジアのアートに多い近代化/現地の風習をテーマした作品もあります。

ジャカルタ・ウェイステッド・アーティスト(JWA) 「グラフィック・エクスチェンジ」
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こちらは新しい看板と無料で交換することを提案して古い看板を集めたもの。映像ではその過程やインタビューなども流れています。消え行く風景をコレクションするような感じで、非常に興味深いです。日本でもノスタルジックな看板が消えていくのは寂しいものですが、その感覚は万国共通なのかも。

ファジャール・アバディ・RDP 「ありがとうの拍手」
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これは一種のドッキリ企画で、バスのない街の乗り合いタクシーに乗ってくる人に仕掛ける内容です。この乗り合いタクシーはサービスの悪さで有名なようですが、乗って10秒すると同乗者の仕掛け人達から厚い歓迎を受け、チョコレートまで貰えます。また、乗車料金も無料にしてもらえるというサプライズで、それをお互い楽しむというものでした。急に歓迎されて驚く様子はドッキリそのものw しかし晴れやかな顔をしているのが好印象でした。

続いては近代化に伴う人権などをテーマにした作品

ロラニタ・テオ 「妻たちのリスク」
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こちらは映像作品で、ロウケツ染めをするインドネシアの女性たちが映されています。

歌いながら作業をしているので楽しげに見えますが歌詞は中々に社会的で、働く女性の地位向上について歌っています。
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また、男性の役割の変化なども歌っていて、経済発展による社会構造の変化も伺える内容となっています。

ムラティ・スルヨダルモ「アムネシア」
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これは壁に何やらチョークで書かれている作品。手前にはミシンと黒い服のようなものがあります。

壁に書いてあるもののアップ。
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実はこれは黒い服を縫った枚数をカウントしているそうで、同じ動作を繰り返すのがこの作者が得意とする表現のようです。カウントしながらごめんなさいと言い続けるそうで、記憶と感情の欠如を集めるという意味があるそうです。ちょっとよく理解できませんが、これだけの枚数を縫うとか途方もないので驚きました。

アングン・プリアンボド「必需品の店」
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タイトルを観ると、どこが必需品やねん!とツッコミ待ちにしか思えませんw 明らかに要らなそうなものが沢山並んでいて、本当に必需品と言えそうなものってこの中にあるのか?と探してしまいましたw 解説によると今日のグローバル消費社会で本当に必要なものは何かを問いかけているということなので、私の反応は作者の意図通りだったのかもしれませんw

最後に現地で人気の文化をテーマにした作品をご紹介。

トロマラマ 「戦いの狼」
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88x31.png この写真は「クリエイティブ・コモンズ表示・非営利・改変禁止2.1日本」ライセンスでライセンスされています。
これはインドネシアでカリスマ的人気の「セリンガイ」というヘヴィメタルバンドのために作った映像作品と、それを作るのに使った版木です。コマ送りのアニメーションとなっていて、素朴で力強いのにスタイリッシュな雰囲気も感じました。 (ちなみに私はメタル好きなのですが、このバンドは全く知りませんでしたw)

トロマラマのこの作品は何度か目にしたことがあるので有名作なのかも?

こちらも映像の一部。
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木版画を1つ1つアニメーションにするという恐ろしく手間のかかる作品で、400枚以上の木版画を使っています。音楽もプリミティブな雰囲気の映像とよくマッチしていました。これと同様にボタンとビーズで作ったトロマラマのミュージックビデオを観たことがあります。どちらも発想が面白い。

他にも以前ご紹介したアルベルト・ヨナタンもインドネシアのアーティストです。
 参考記事:《アルベルト・ヨナタン》 作者別紹介

ということで、多彩なアーティストが活躍しているようです。アジアのアート展などではインドネシアは必ずと言って良いほど紹介されるので、そうした機会で観る機会があると思います。アートをきっかけにインドネシアについて調べてみるのも良いかも。



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《田根剛》 作者別紹介

今日は作者別紹介で、今まさに日本を代表する建築家になりつつある田根剛 氏を取り上げます。田根剛 氏は26歳の若さでエストニア国立博物館の国際コンペを勝ち抜き、その壮大なスケールの設計で世界的な注目を浴びました。建設する土地について調べ、時には負の遺産を活かすというスタイルで「Archaeology of the Future(未来の考古学)」と呼称しています。周囲に調和しつつ斬新さ・大胆さが一目で分かるのも特徴で、これからの一層の活躍が見込まれる方です。今日も過去の展示で撮った写真とともにご紹介していこうと思います。

 参考記事:
  田根 剛|未来の記憶 Archaeology of the Future ― Search & Research (TOTOギャラリー・間)
  田根 剛|未来の記憶 Archaeology of the Future ─ Digging & Building (東京オペラシティアートギャラリー)
  CITIZEN“We Celebrate Time”100周年展 (スパイラルガーデン)


田根剛 氏は1979年の東京生まれで、北海道東海大学芸術工学部建築学科に入学し、在学中にスウェーデンの工科大学へ留学して建築を学びました。卒業後にはデンマーク王立アカデミーにて客員研究員となりデンマークやイギリスの設計事務所に務めています。そして2006年に26歳の若さで国際コンペ「エストニア国立博物館」で最優秀賞授賞し、一夜にして世界的な注目を集めました。そして、2008年にはフランスで新進建築家賞を受賞し「世界の最も影響力ある若手建築家20人」にも選出されるなど、今注目の建築家です。2012年には日本の世間を騒がせたザハ・ハディド氏の新国立競技場のデザイン案がありましたが、その際、惜しくも採用されなかった11名のファイナリストに名を連ね、そのデザイン案の「古墳スタジアム」が更に注目を集める機会となったようです。 

田根剛 「エストニア国立博物館」
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まずは出世作の実際の写真。上から観るとこんな感じで、むちゃくちゃ長くて滑走路みたい…と思った方は勘が鋭い。この博物館は元ソ連の軍用地の滑走路に接続する感じで建ってます。

この設計は負の遺産である軍用滑走路をエストニアの記憶として継承しようと活かした点が評価され、「メモリーフィールド(記憶の原野)」と名付けられました。2006年に最優秀案として選ばれ、2016年に開館しています。

こちらはエストニア国立博物館の模型。
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入口の大屋根も特徴かな。こんな大胆な案を26歳で考案したのかと驚きます。

こちらはサイズが小さめの模型。
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10年かかって作っただけあって、もはや地形と化しているくらいでかいw

田根剛 氏の大きな特徴として、徹底的に現地を調査し、その歴史やロケーションを建築に活かす点が挙げられます。

これは田根剛 氏の個展の際に床にあった資料。
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TRACE 記憶が発掘される といったことが書いてあり、遺跡のような写真がいくつも並んでいます。こうした資料からインスピレーションを受けて設計をしているようです。

このスタイルを「Archaeology of the Future(未来の考古学)」と自ら呼称しているようです。

田根剛 「古墳スタジアム」
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続いてこちらは先述の新国立競技場の最終選考案の模型。一見驚きですが、古代から続くオリンピックを日本の古代の古墳の形の競技場でというアイディアは秀逸ですね。お墓だけどw

この案を作る際にも古墳を調べたりしていたようです、神宮の森というロケーションを考えると緑が多いのもよく合いそうです。ちなみにご存知の通り、このコンペを勝ったザハ・ハディド氏の案は費用面などでケチが付き、後任の案は隈研吾 氏が選ばれました。

田根剛 「A House fro Oiso」
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こちらは大磯の家の模型で実際に完成した建物です。大磯は縄文の古代から人が住んでいた地で、縄文=竪穴、弥生=高床、中世=掘立柱、江戸=町家、昭和=邸宅 という各時代の住居を統合するというコンセプトとなっています。

こちらが実際の家の映像。
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違和感なく周囲に溶け込んでいて、落ち着きと洒落た感じがあります。確かに高床式倉庫っぽい見た目ですね。

こちらは部屋の中の様子。
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石壁の土台のような所が1階のようです。中もモダンさがありつつ落ち着くものを感じるのは日本の住居の歴史の結晶だからでしょうか。

田根剛 「カイタック・ツインタワー」
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こちらは香港の複合施設の選考案。九龍城や高層ビル群などをイメージしているようです。九龍城は魔境みたいなイメージですが、確かに多くの人の記憶に残っているしロマンがありますよねw これもワクワクさせてくれます。

田根剛 「Todoroki House in Valley」
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こちらは木々に囲まれた等々力渓谷の近くの家。森と共生するような佇まいで、洗練されているのにどこか懐かしくもあって、楽しそうな家です。

田根剛 「10 Kyoto」
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こちらは京都のプロジェクト。角度によってはピラミッドみたいな形をしていて、「条」で区切る京都の碁盤の目の歴史なども考察しているようです。この木は古材を再生させて使うようで、京都の山間部の工場で古材を集ています。

田根剛 「アルチュール・ランボー美術館」
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こちらはフランスの美術館の設計案で優秀案を受賞した作品。詩人のアルチュール・ランボーにまつまる建築として美術館と劇場の統合を試みているそうです。アルチュール・ランボーの故郷の風車小屋の中身を解体し、展示室と劇場にする計画だったようです。

田根剛 「LIGHT is TIME シチズン、ミラノサローネ」
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こちらは2014年にミラノのシチズンに作られたインスタレーションのデザイン。トンネルみたいなw

こちらもミラノのインスタレーション。時計の地板を8万枚・ワイヤー4000本以上使っているようです。
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こちらは2018年末に南青山のシチズンでミラノのインスタレーションを再現した際の写真。
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規則的にびっしりと金色の粒粒が並んでいる空間となっています。

そのうちの1つをアップで撮るとこんな感じ。
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これは「地板」という時計を支える基盤の部品だそうで、全部で12万個もの地板を使っているようです。

写真で観ると放射状のように見えますが、整然と並んでいます。
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光と時をテーマにしていて「光は時間であり、時間は光である」という考えで作られているのだとか。理屈抜きでも星空のように輝いて美しい光景です。


ということで、土地の歴史や文化を取り入れた設計が特徴の建築家となります。まだ40代なのでこれからの一層の活躍が期待される方です。最近では2020年に弘前れんが倉庫美術館が竣工するなど、大型プロジェクトを国内で観られる機会も増えるかも知れませんね。


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《Google Design Studio》 テーマ別紹介

今日はテーマ別紹介で、Googleのデザインを担うGoogle Design Studioを取り上げます。IT企業の最前線であるGoogleだけに、さぞかし合理的なデザインを目指しているのか?と思ってしまいますが、実際には感性とテクノロジーのよりよいバランスを目指し、色・音・手触り・匂いなどの力で無機質なデジタル化を解決しようとしています。美的経験と脳の働きの関係を調べる神経美学のアプローチを応用し、『どうデザインするか』を重要視して哲学をもってデザインするようです。また、サスティナビリティ(持続可能性)と見た目の美しさの両立も図るなど、最先端のIT企業である故に環境や美意識といった領域にまで踏み込んでいます。今日はそんなGoogle Design Studioについて2019年の21_21 DESIGN SIGHTでの展示を振り返る形で、当時の記事で使わなかった写真を追加しながらご紹介してまいります。なお、作品名や解説などは特にありませんので私の簡単な感想のみとなります。

 参考記事:Google Design Studio | comma (21_21 DESIGN SIGHT)
 参考リンク:https://design.google/


2019年時点の情報ですが、Google Design Studioはアイビー・ロス氏という女性が率いていて、上記の展示は彼女の40年来の友人であるトレンド・クリエイターのリドヴィッチ・エデルコート氏(この方も女性)がキュレーションを手掛けていました。
まずアイビー・ロス氏についてですが、ニューヨーク州ヨンカーズに生まれ育ち、子供の頃はドラムに夢中だったようで、やがてインダストリアルデザイナーの父の影響でクリエイティブな世界に入っていきます。高校と大学ではアートと心理学を専攻し、ニューヨーク州立ファッション工科大学でジュエリーデザインを学び、23歳で自身のジュエリーブランド「スモールワンダーズ」を設立しました。タイタニウムやニオブといったメタル素材を使った作品は名だたる美術館のコレクションになるほどの評価を受けたようです。 さらに30代にはコーチ、カルバンクライン、マテル、ディズニー、ギャップといった会社でデザイナーとして働き、ファッション、時計、おもちゃなど様々なプロダクトをデザインしていったそうで、2014年からテクノロジーの世界に踏み込みました。2019年時点ではGoogleのハードウェア部門にてデザインを担当するバイスプレジデントとなり、グーグル ピクセルやグーグル ホームを含む30以上の製品デザインに携わって、70以上のデザイン賞をグローバルで受賞しています。
 引用元:https://www.axismag.jp/posts/2020/05/206635.html

一方のリドヴィッチ・エデルコート氏は詳細な経歴は分かりませんがトレンド予測のパイオニアで、上記の展示で厳選した日本の美意識を感じさせる日用品とともに、暮らしに溶け込むテクノロジーのあるべき姿を提案していて、展覧会のタイトルを「comma(カンマ)」としました。これは「忙しい日常に一呼吸を置いてみて」というメッセージが込められていて、Google が表現する新しいテーマとなっています。

と、前置きが長くなったので、ここからは写真を観ながら補足していきます。

こちらは和風の鉄瓶とお皿
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一部分が伸びてカンマのような形になっています。テーマに合わせて洒落っ気を感じると共にいずれも簡潔な美しさを感じるデザイン。

エデルコート氏はこの時の展示の意図について、下記のように語っています。
「今回の展示のコンセプトは、デジタルデバイスが人間にストレスを与えている側面について考えながら決めていきました。私などは毎週メールで質問が寄せられて、もっと早く返事をくれないかと言われ続けてストレスを感じています。でも、デジタルデバイスは必ずしもそういうことではないはずです。パートナーであり友達であり、日常を加速させるものではなくスローダウンさせることもできるものではないかと考えています。ゆっくり料理をつくったり、思慮深い時間を過ごしたり、ヨガで瞑想したり……そうやって日常生活に一呼吸を置くことを、この空間で表現してみました」
 引用元:https://casabrutus.com/design/120756/2

こちらは漆器のセット
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何気なくスマートフォンが置かれています。すっかりスマートフォンも日常に溶け込んだ感があるかな。黒と白のコントラストは伝統的な色彩だし、しっくりきます。

どこか懐かしさや心地よさを感じるのは先述のコンセプトに基づいているからでしょうね。

こちらもスマフォと民芸の品のような組み合わせ。
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匙がカンマのような形をしていました。 こうして置かれてるとスマフォが硯のように見えるw

アイビー・ロス氏も「私にとって『何をデザインするか』はそこまで重要ではありません。大事なのは『どうデザインするか』であり、自分の哲学をあらゆるものに応用することが好きなのです」と語っています。哲学に基づいているから安っぽさがなく伝統工芸に引けを取らないんでしょうね。

こちらは朱色をテーマにした一連の作品の1つ
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テキスタイルに描かれているのはスマフォかな? これも伝統工芸のような佇まい。

もちろん、展示のためだけでなく実際のデザインに活かされています。

こちらは当時発表されたGoogle Pixel 4の限定色
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先程の写真にも写っているのですが、めっちゃ馴染んでます。

アイビー・ロス氏は気分と関係すると考えるのは、色だけでなく、音、手触り、匂いなどの要素が人間の感情や精神に大きく作用すると考えているようです。そしてアイビー・ロス氏はこの美的経験と脳の働きの関係を調べる神経美学のアプローチを、テクノロジーに応用することをGoogleでやろうとしています。心理学を学んでいたのも活かされてそう。

こちらは淡い青を基調としたコーナー
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置かれた静物も淡い色彩で落ち着いた気分になります。今回のコンセプトがよく分かる品々じゃないかな。

このタペストリーは、古布をはぎ合わせて、抽象的なイメージを具現化しているようです。古布というのも1つのポイントとなります。

下に置かれていた静物のアップ
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お盆の上に乗っているのは恐らくGoogle Nest Mini(スマートスピーカー)

Google Nest Miniのファブリックは100%ペットボトルからリサイクルされた素材(使用済み再生プラスチック)を使っています。Google Design Studioのデザイナーたちは、サスティナビリティ(持続可能性)を重要視していて、サスティナビリティと見た目の美しさは両立できると考えているようです。

こちらは淡いピンクで統一した品々。
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この色彩感覚が温かみがあってどこか古風なものを感じます。洒落ていて華美ではないというか。

Googleは10数年前からオフィスやデータセンターでのカーボンニュートラルを実践しているそうで、2022年までにすべてのハードウェアに使用済み再生プラスチックを使うことを宣言しています。落ち着くだけでなく、そうした方向性も含んだデザインになってるんですね。

こちらはアトリエコーナー。
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当時、Googleデザインのインスピレーションの元やプロダクトを直接触れて体験できるようになっていました。有機的な雰囲気のデザインが多かったのが印象的でした。

Googleは2019年8月にマウンテンビューのキャンパスにハードウェアデザインチームのための7万平方フィートの「デザインラボ」を新設したと発表しました。つまりそれだけデザインが重要性だと考えているわけですね。

このコーナーにはたまにスマフォやweb画面のようなデザインもあったかな。
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そのうちgoogleのプロダクトに反映されるようなアイディアもあるのかも。

Google Design Studioには約150人の多様なメンバーが在籍いているようです。

こちらはオレンジ色のコーナー
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よく観るとテキスタイルは縞模様のようになっていて味わいがあります。椅子や静物はビビットな印象を受けるかな。

Googleは将来を見据えて「アンビエントコンピューティング」という考え方をしているそうです。これは流動的に、個別の端末などを意識せずに、自分の取り巻く環境全体をコンピュータのように操作できることで、テクノロジーは背景に隠れているべきではないか、という考え方です。

こちらはカニとGoogle Nest Mini
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見た目は完全に溶け込んでますねw クッションのようにすら見える。

20代半ばで既に世界的に注目されるジュエリーデザイナーになっていたロス氏は当時の経験について、「いちばんの教訓は、人生とは目的を達成したら終わるものではないということに気づけたこと」と語っています。流石に一流の人の言葉は重みが違いますねw

こちらは白っぽいコーナー
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これも茶道具の棗のように見えてデバイスじゃないかなw 和風の部屋にも馴染みそうです。

ロス氏は「この道具はどうやって人々を次のレベルに引き上げてくれるのだろう?」と自分たちのデザインに常に問いかけているそうです、

最後にこちらは薄い緑のコーナー
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緑は特に落ち着きますね。こういう雰囲気に馴染むデバイスならデジタル世界にも安らぎを求められそう。


ということで、Googleは最先端のIT企業である故に環境や美意識といった部分に踏み込んでデザインを重視しているのが伺えます。余談ですがGoogleはこれとは全く別に「Google Arts & Culture」というプロジェクトでアートを世界に公開していたりするので、美術好きにも馴染みのある企業かもしれません。こうした背景を知っておくと今後、Googleのプロダクトデザインを観る目も変わりそうです。
 参考リンク:Google Arts & Culture


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《蛭田美保子》 作者別紹介

今日は作者別紹介で、食物を使って本来の意味とは異なる写実を描く蛭田美保子 氏を取り上げます。蛭田美保子 氏は1991年の京都生まれで、2017年に京都市立芸術大学大学院美術研究科を修了したまだ若い画家です。寿司や植物といったものをモチーフに、装身具や動物のような別のものにも見えてくる不思議な静物を描き、時に神々しく、時に生々しい 独特な色彩感覚も特徴となっています。学生時代から注目を集め、2017年には東京都美術館のグループ展「現代の写実―映像を超えて」の出品者の1人に選ばれるなど、これからの活躍も期待されています。今日はその2017年の展示を振り返る形で、当時の記事で使わなかった写真を追加しながらご紹介してまいります。なお、解説は特にありませんので私の簡単な感想のみとなります。

先述の通り、蛭田美保子 氏は2017年に京都市立芸術大学大学院美術研究科を修了しました。その前年の2016年には京都銀行の「美術研究支援制度」で作品を買上げられていて、現在は主に新制作協会の会員として活躍されています。2013年以降、新制作展に出品されることが多いようで、それ以外のグループ展や個展も毎年のように開催されているのでそうした機会に目にすることができます。


蛭田美保子 「貴婦人」
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こちらは2016年の水彩作品で装身具をまとったトウモロコシ。タイトルの通り貴婦人のような華麗さがありますね。擬人化のようでもあり装身具のようでもあり、こうした本来の意味と異なるものに見えるのはシュルレアリスム的にも思えます。

こうした作品は食物を実際に加工してオブジェ化し、写実するという手法で制作しているようです。自分で食材を買い、料理してそれを自由に組み合わせて構成し水彩で写実的に描いてから大きな油彩に仕上げるというステップを踏んでいます。

蛭田美保子 「捕食」
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こちらは2017年の水彩作品。一種の食虫植物のようなグロさもあり、写実で描いたものとは思えないほどのモチーフとなっています。この発想力も魅力の1つと言えそうです。

蛭田美保子 「タコとラディッシュのサラダ」
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こちらは2017年の水彩作品。確かにサラダにこの組み合わせは有り得るかもしれませんが、こんな見た目で並べるのは斬新ですw ラディッシュも穴を開けてタコの吸盤に似せるなどユーモアを感じます。写実という枠でもまだまだこれだけ表現ができることに驚きますね。

蛭田美保子 「よそ行き」
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こちらは2016年の水彩作品。海苔巻を豪華な紐で包んだような不思議なモチーフで、陰影もついて実在感があります。この華麗さや豪華さ、鮮やかな色彩なども特徴の1つではないかと思います。

蛭田美保子 「絢爛豪華な装身具」
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こちらは2017年の油彩の大型作品。先程の作品をパワーアップさせたような装身具をまとった巻き寿司みたいなものが描かれています。米粒だけでなく金糸の一本一本まで丁寧に描き込まれている描写力も凄いですが、何故こうしたものを思いつくのか驚きます 全体的に陰影や立体感があるのに無重力みたいに見えるのも奇妙で面白い。

蛭田美保子 「食像崇拝」
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こちらは2016年の油彩作品。赤い部分は肉を思わせるけど何だろう… 下の方は波打っていたりして動きのようなものを感じます。爽やかさとグロさが同居するような色彩が印象的。

蛭田美保子 「光来フラガンシア」
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こちらは2016年の油彩作品で、フランガンシアはスペイン語で「香気」を意味します。トウモロコシが装身具をまとい、柔らかい光を浴びてどこか神聖さすら感じさせるかな。背景も不思議な空間で神話画みたいなw

蛭田美保子 「捕食-被食関係」
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こちらは2017年の油彩作品。トマトやナス、パスタのようなものがモチーフになっていると思いますが毒々しい色彩で血や腐食を思わせるグロさがあります。蔦のようにうねる様子がタイトルの捕食の様子を思わせるかな。ダイナミックでインパクトが大きい作品です。


ということで、食物を使った静物を得意とされています。非常に覚えやすい個性で 新制作展などで見かけるとすぐに分かると思いますので、目にする機会があったらじっくりと細部まで観てみると面白いと思います。



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《カルティエ》 テーマ別紹介

今日はテーマ別紹介で、フランスの宝飾ブランドのカルティエを取り上げます。カルティエは1847年にフランスでルイ=フランソワ・カルティエが師であるアドルフ・ピカールから工房を引き継いで創設されたジュエリーと高級腕時計のブランドです。王侯貴族を顧客に繁盛し、1872年には息子のアルフレッド、1898年に孫のルイが経営を任されていきました。そして孫世代のルイ・カルティエが現在のカルティエの中興の祖とも言える人物で、革新的な挑戦によって人気と評価を不動のものとしていきます。それまで主流だった懐中時計ではなく腕時計を開発し、宝飾品には世界各国の文化や珍しい動物のデザインを取り入れ、新しい素材を使うことで表現力も豊かになっていきました。今日はそんなカルティエについて2019年の国立新美術館での展示を振り返る形で、当時の記事で使わなかった写真を追加しながらご紹介してまいります。なお、作品名や解説などは特にありませんので私の簡単な感想のみとなります。

 参考記事:
  カルティエ、時の結晶 感想前編(国立新美術館)
  カルティエ、時の結晶 感想後編(国立新美術館)
  「Story of …」 カルティエ クリエイション~めぐり逢う美の記憶 (東京国立博物館)


まずはよくモチーフになる動植物から。

「ネックレス」
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こちらは2001年制作で、オウムが8羽並んでいるネックレス。ホワイトゴールドを地に細かい宝石が文様のようになっています。サファイアやエメラルドも驚くほど使われていますね。

今回の写真は2019年のカルティエ展で撮ったものですが、年代がごっちゃになって展示されていました。とは言え、作品を観ても年代を超越しているような感じで、ルイ・カルティエの時代からの精神が受け継がれているのが伺えます。

「[フラミンゴ]ブローチ」
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こちらも南国の鳥をモチーフにした作品で1949年制作。フラミンゴはピンク色のイメージだけど、これは様々な色彩となっています。羽だけでなく顔が可愛くて好み。

宝飾品全般に言えることですが、素材を上手く組み合わせてモチーフの雰囲気を出しているのが見どころです。

「[オーキッド]ブローチ」
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こちらは1937年制作の蘭の花をモチーフにしたブローチ。宝石の色を生かしたデザインと言えるかも。有機的で宝石なのに柔らかみが感じられます。一際可憐な作品です。

カルティエの素材の追求については、ハイジュエリーでプラチナを最初に試みたという話があります。当時はプラチナは貴金属とはされていなかったようですが、使用することでそれまでのシルバーと違って硬い特性を生かして繊細な表現が可能になりました。また、プラチナは19世紀末から普及し始めた電灯光を反射し、時が経っても黒ずまない点なども重宝されたそうです。

「ネックレス」
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こちらは2018制作のネックレス。こうした複雑で緻密なデザインには強度も必要で、そのためにも素材の取捨選択が重要になるようです。美しいだけでなく計算されているんですね。

ルイ・カルティエはイスラム美術の本、インド・ペルシャ・東アフリカ等への旅行の写真、豹のスケッチ、動物の写真、印籠や日本の型紙、ビングの『芸術の日本』、鈴木春信の浮世絵など世界中から様々な資料を集め、デザインに生かしていきました。中にはちょっとグロいものもw

「[スネーク]ネックレス」
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こちらは1919年制作のネックレス。蛇というとブルガリのイメージだけど、カルティエでも結構よく観るモチーフのようです。鱗のような模様まで表現されています。

「[スネーク]ネックレス」
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こちらは1968年制作のかなりリアルなヘビ型のネックレス。蛇腹の部分が毒々しい配色にも思えますw 今にも動き出しそうなくらい見事な出来栄えで自在置物みたいに見えるw

先述の通り、日本趣味の作品も結構あります。ルイ・カルティエの時代はジャポニスムと呼ばれる日本趣味がフランスを中心にヨーロッパ各地で人気を博していました。

「[日本風のノット(結び目)] ブローチ」
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こちらは1907年の制作で結び目をデザインに取り入れたもの。星型に結ばれているようで結構複雑な形になっています。こんなものまでデザインに取り入れるとはちょっと驚き。飽くなき探究の成果ですね。

日本だけではなく、着想源は中国やアジア全体に及びます。

「[バンブー]ネックレス」
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こちらは1998年の制作で、竹を象ったネックレス。東洋的な雰囲気が漂いますね。

「[中国風]卓上シガレットケース」
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こちらは1925年の制作。中国風の装飾となっていて、これだけ観ると中国の伝統工芸品かと思ってしまいますw

「時計付きデスクセット」
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こちらは1931年制作の中国風の時計のセット。楼閣や木の葉っぱまで珊瑚などを使って表しています。宝石を使ったジオラマみたいw

今回、これしか時計の写真がありませんでしたがカルティエの時計は名高く、先述の腕時計の他に「ミステリークロック」と呼ばれる時計が有名です。ミステリークロックは水晶盤の中に長針と短針が浮かぶように表されている時計で、針を動かすムーブメントが見当たらないという不思議な作りとなっています。その謎を解き明かすと、ムーブメントは中ではなく台座や装飾の部分に巧妙に隠れていて、長針・短針それぞれが別々のガラス盤に乗っていて、盤ごと回転させて時間を示すという仕組みになっています。

「ブローチ」
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こちらは2008年の制作で宝珠らしきものを掴む龍のブローチ。まさにドラゴンボール!w 大きなオパールを支えるようになっているのも龍というデザインを生かしているように思えます。

「[タイガー]クリップブローチ」「ブローチ」「ブレスレット」
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こちらはそれぞれ1957年,2007年,1986年の制作で虎の形そのものといった感じ。ちょっと胴が長めになっていて可愛いw 左のは猫掴みされた子猫みたいなポーズだしw

タイトル失念
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こちらも虎がモチーフ。じろっとこちらを観る虎の顔がリアルで迫力あります。これも宝飾品ってことを忘れてしまいそうw

タイトル失念
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こちらはコブラかな。異郷の生物はよくモチーフになりますが、これは特にバランスや動きが見事に思えます。

アジアだけでなく古代エジプトからも着想を得ています。

「[エジプトのサルコファガス]ヴァニティケース」
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こちらは1925年制作のケース。まるで石棺か神殿の柱を思わせるデザインが秀逸ですね。

「[スカラベ]ブローチ」
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こちらは1925年制作の品。スカラベをモチーフにしていて、黄金の羽をつけています。神々しくて蝶のように華麗な雰囲気

「[クロコダイル]ネックレス」
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こちらは1975年制作のワニ。これをどうやって首に巻くんだろうか?とちょっと疑問w 目を引くけど不気味じゃないのかなw

「ヘアバンド」
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こちらは1923年制作の品。幾何学的なので何処と無くイスラムっぽいデザインにも思えるかな。精巧な作りにも注目です。

これだけでも驚きですが、2009年の東京国立博物館表慶館での展示には金色に光る月面着陸船の模型なんかもあって、こんなデザインまであるのか?と思ったのを鮮明に記憶していますw


ということで、非常に多彩かつ優美なデザインのブランドとなっています。私にはちょっと高級過ぎて縁のないブランドですが、宝飾品が好きな方は成り立ちなどを知っておくと一層に愛着が湧くのではないかと思います。


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《田中智》 作者別紹介

今日は作者別紹介で、ミニチュア作家の田中智 氏を取り上げます。田中智 氏は経歴があまり公表されていないので詳しいことが分かりませんが、食べ物やお菓子、花などをモチーフにミニチュアを作成されている方で、「nunu's house」というブランド名で活躍しています。全て素材から作る事をコンセプトに参考資料を忠実に再現、リアリティを追求する事を目標にしているそうで、その再現性は圧巻です。今日も過去の展示で撮った写真とともにご紹介していこうと思います。

先述の通り田中智 氏のプロフィールの詳細はあまり分かりませんが、ミニチュアは2001年から制作を開始して関西、東京を中心に活動されています(以前、大阪在住と紹介されていました)。SNSや公式サイトで作品を発信しつつ、依頼を受けて制作することもあるようで企業や雑誌の仕事でメディアで取り上げられることもあります。また、ミニチュアアート展などに出品し、2018年には銀座のポーラミュージアム アネックスで個展が開催されました。今日はその2018年の展示を振り返る形で、当時の記事で使わなかった写真を追加しながらご紹介してまいります。なお、作品名や解説などは特にありませんので私の簡単な感想のみとなります。

 公式インスタグラム:https://www.instagram.com/nunus_house/?hl=ja
 公式twitter:https://twitter.com/miniature_mh?lang=ja
 公式サイト:http://nunus-house.boo.jp/
 
 参考記事:田中智 ミニチュアワールド「Face to Face もっとそばに」(ポーラミュージアム アネックス POLA MUSEUM ANNEX)


今回ご紹介するミニチュアは概ね1/12スケールとなっています。これとかはもっと小さいと思いますがw
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指より小さい土鍋に具がぎっしり入ったおうどんです。モチーフも可愛らしい。

こちらはフルーツジュース
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キウイの種とかオレンジのツブツブとかも表現されています。この作品を観ていた際、スモールライトで小さくしたんじゃないか?という話をしていた人達がいて、完全に同意ですw

こちらはコンビニのデリ
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普通にコンビニの品を撮ったようなリアリティがありますがミニチュアです。パッケージまでしっかり作られています。

パンとジャムのセット。
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このパンも質感が本物みたい…。ジャムのツヤもジャムらしさがよく出ていました。

こちらはオムライス
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色艶や素材感もそれぞれ異なっているのが分かると思います。その出来栄えに驚くばかり。

こちらは素麺。
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麺も1本1本丁寧に作られています。ここまで来ると執念すら感じるw

こちらは卵かけごはん。
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米の1粒1粒まで作られていて驚きますが、こうしたお米のミニチュアの作り方は後ほどご紹介。

こちらはお寿司
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かなり拡大すれば作り物と分かりますが、それぞれの特徴がよく出ていると思います。

ここまで何度か出来ていたお米のミニチュアの作り方はこんな感じ。
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彫刻している訳ではなくて米粒を本当に握る感じで作るんですね… しかもミリとかそういう単位じゃないw 

更に手のかかる販売棚のような作品もあります。
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1つ作るもの大変そうなのにこの数w 華やかで美味しそうです。

こちらも沢山のケーキやアフタヌーンティーみたいなセット
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熊?のキャラクターの容器に入っている芸の細かさ!

食べ物だけでなく対象は静物にも及びます。
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紫陽花の花1枚1枚丁寧に作られていて可憐ですね。

こちらはPC
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ファンの細かい穴まで表現。ディスプレイの鈍い反射も素材感がすごい

こちらは白木のスッキリした印象のキッチン。
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この展示を観ていた際、会場内で作者は男性なのか女性なのか?という会話を何度も耳にしましたが、確かにこのセンスは女性的なものも感じます。

キッチンのアップ。
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よく観るとボードや小物に文字がしっかり描かれています。電気もついて凝りに凝っています。


ということで、驚くばかりのミニチュアを作られている方です。実物を観られる機会はそれほど多くありませんが、ネットや著書でも観ることが可能なので興味がある方はSNSなどをチェックしてみてください。また展示があったら見に行きたいと思います。






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《カンパニー・デ・キダム》 テーマ別紹介

今日はテーマ別紹介で、フランスのパフォーマンス集団「カンパニー・デ・キダム」を取り上げます。カンパニー・デ・キダムは演劇、ダンス、音楽、サーカスなど、様々な異なるジャンルのアーティストや技術者を集めた集団で、神秘的な音楽と光などを用いた摩訶不思議なパフォーマンスを繰り広げます。近年では六本木アートナイトや香川県の「せとうちサマーナイトフェスティバル」などに招聘されて披露されることがあり、一度観たら忘れられない光景を展開してくれます。今日は六本木アートナイトで撮った映像や公式映像などを交えながらご紹介していこうと思います。


カンパニー・デ・キダムは、1994年に、演出家ジャン=バティスト・デュペレにより設立されました。先述のように様々なジャンルのアーティストが音響や装置を使って一種の野外劇のような感じのパフォーマンスを行います。ストリートアートの認識を高めるために公開リハーサルやワークショップなども行っているようで、目の前で繰り広げられるライブ感も魅力です。その評価は世界的にも高く、世界各国で上演され人気を集めています。


まずは2010年に六本木アートナイトで行われた「ハーバードの夢」についてです。1997年に製作されて以降、世界中で約400回上演されている代表的なパフォーマンスです。

こちらは演目が始まる前の入場の様子。既に何かの宗教儀式のような雰囲気が漂ってますw

手前の人と比べると、光るバルーンの大きさが分かるかな。かなり巨大です。

何かの意思を伝えるように点滅しながら行進中。正面から観ると白塗りの外国人が腕などを操作しているのがわかります。足は竹馬かな?

この光るバルーンを多用するのが1つの特徴となっています。ゆったりとしたジェスチャーで、お互いに歩み寄ったり離れたりしながら集団で意思疎通を図ってる感じ。

やがて球体の前で音楽に合わせて、踊り始めました。

何とも幻想的でシュールさと神秘性が感じられます。

球体に集まって祈りのようなものをしていると、球体が浮き上がりました。

まるで夢の中の光景みたいで、タイトルも頷けるかなw

球体は光を発しながら不思議な揺らめきで上昇していきました…。

この辺の不思議さはマジックショーやサーカスに通じるところがあるように思えます。仕掛けも気になるところですね。。。


続いては2016年に六本木アートナイトで行われた「FierS a Cheval~誇り高き馬~」についてです。

こちらは丸い人影ではなく巨大な光る馬が主役となります。(この時はブログを休止していたので当時撮った映像を見つけられず写真です)
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この馬たちが回転したり駆けたりして幻想的な光景を展開してくれます。手前にいる白い服の人はリングマスターで、この人の魔法にかかってるような感じ。

この時、ぽわ~っとした宇宙っぽい音楽と馬のいななきが響き渡っていました。
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この馬は平和と純真さ、魂をシンボライズしているそうです。

今年(2021年)の2月に、六本木アートナイトのスピンオフ・プロジェクトとして過去のパフォーマンスの映像が公開され、カンパニー・デ・キダムの「FierS a Cheval~誇り高き馬~」もオープニングアクトの時の映像が公開されました。33分たっぷり楽しめますので、下記リンクか公式youtubeの埋め込みでお楽しみください。
 参考リンク:https://www.roppongiartnight.com/spinoff/contents/295/

カンパニー・デ・キダムの「FierS a Cheval~誇り高き馬~」



この他に香川県のサンポート高松で行われている「せとうちサマーナイトフェスティバル」に2015年、2017年、2019年に出演したことがあるようです。2017年には「ハーバードの夢」と「FierS a Cheval~誇り高き馬~」をあわせた「カンパニー・デ・キダム 2つの光の物語」、2019年には「Love Song of TOTEMS」という最新作も披露されたそうで、六本木より頻度が高いかも。


ということで、非常に魅力的なパフォーマンス集団となっています。コロナの世の中になってしまい今後のイベントはどうなってしまうのか分かりませんが、日本でも観られる機会が多かったアーティスト集団なので今後もまた来日して披露してほしいところです。今は過去の映像などを観て我慢ですかね。。。


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美術関連の映画

今日は久々に映画の記事です。と言っても最新の映画ではなく、過去にこのブログでご紹介した映画の中から美術鑑賞に関係がありそうなものをピックアップしてまとめてみました。緊急事態宣言が出されコロナの感染者数が連日過去最高を更新するような状況でお盆を迎え、お家で過ごす時間も長いと思われますので この機に映画で美術の知識をつけるというのも一興かと思います。それぞれ簡単な説明で振り返るとともに、NetflixおよびAmazon prime Videoで視聴可能かどうかを調べてみました。当時の記事もリンクしておきますので気になる映画があったらチェックしてみてください。
 ※NetflixおよびAmazon prime Videoの視聴情報は2021年8月8日時点のものです。



ゴッホ~最期の手紙~
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参考記事:映画「ゴッホ~最期の手紙~」(ややネタバレあり)
Netflix:取り扱い無し
Amazon:視聴不可

【総合満足度】駄作_1_2_3_4_⑤_名作

こちらはその名の通りフィンセント・ファン・ゴッホについての映画で、推理小説のようにゴッホの人間関係を深掘りしながら亡くなった当日の様子なども詳細に描写されます。この映画が革新的なのが全編に渡って油彩画を使ったアニメーションとなっている点です。まず最初に役者たちが普通に演技を行ったのを、わざわざ油彩画にし直すという非常に凝った手法になっています。そしてその各シーンはゴッホの描いた名画をモチーフにしているので、ゴッホ好きなら あの絵だ!!と思うことも多々あると思います。これらの絵は何と1秒に12枚の油彩を描いたそうで、総勢125名によって6万2450枚もの油彩画を使っています。(メインはカラーの油彩画、回想シーンは白黒という切り分けも面白いです) その色、そのタッチ すべてがゴッホ風で観たことがある絵が動くのは本当に驚きと感動がありました。ストーリーも映像も非常に素晴らしい内容となっているので、ゴッホが好きな方は是非観ておきたい映画ではないでしょうか。有力2サイトで取り扱い無しとは意外…。



永遠の門 ゴッホの見た未来
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参考記事:映画「永遠の門 ゴッホの見た未来」(ややネタバレあり)
Netflix:取り扱い無し
Amazon:有料レンタルあり

【総合満足度】駄作_1_2_3_④_5_名作

こちらもフィンセント・ファン・ゴッホの画家としての活動をテーマにしたもので実写映画となります。アルルを目指す少し前から死ぬところまでの物語となっているので、先述の最期の手紙 よりは時系列の範囲が広い感じです。ストーリー自体はゴッホの生涯を辿っていくので特に意外性はありませんが、あまり説明的ではなく 前後不覚で自分の耳を切った事件は直接描かれない等 ゴッホの主観のような感じで進むので、ゴッホの生涯を全く知らないとストーリーは理解できないかもしれません。一方で人々(特にゴーギャン)との芸術論のやり取りのシーンなどは厚めとなっているので、ゴッホの芸術に対する考え方はよく分かるようになっています。精神に異常をきたしてからは画面の一部がボヤけたりしてきて、映像もゴッホの主観を取り入れたような感じとなっています。また、セリフがなく絵を描いたりするシーンが多いのも独特かな。広く一般に受けるような映画とは思えませんが、ゴッホの内面を重視しているのでゴッホ好きには面白いと思います。



ゴーギャン タヒチ、楽園への旅
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参考記事:映画「ゴーギャン タヒチ、楽園への旅」(ややネタバレあり)
Netflix:取り扱い無し
Amazon:有料レンタルあり

【総合満足度】 駄作_1_2_3_④_5_名作

こちらはポスト印象派の巨匠として名高いポール・ゴーギャンについてです。ゴーギャンと言えばとんでもない性格で、そのクズっぷりは絵画ファンにはよく知られているところですが、この映画を観るとちょっとゴーギャンに対して悪い印象を持ちすぎていたのかも?と思える内容になっています。1回目のタヒチ移住の直前あたりから物語が始まり、楽園を夢見たものの現実に直面するといった内容で辛くても芸術に対してのストイックな所が随所に出てきて、良くも悪くも純粋な人だったのかも?と思う一方で 頑固さが状況を困難にしている感もあり、観ていてもどかしいところが多いように思います。ハリウッド映画のように明確に伏線を張るのではなく、演技や仕草でそれとなくその後を予見させる演出もさりげなくて、たまに有名な名画を描いているシーンなんかもあるので、ゴーギャン好きの人は一層楽しめるのは間違いないです。特にノアノアの版画なんかを観たことがあると、絵の中のタヒチのイメージと映画でのイメージを照らし合わせることもできて楽しいと思います。原始の楽園だと思っていたら予想以上に西欧化した光景なので、ゴーギャンが奥地を目指した気持ちも理解できる気がしました。これを観ると今後のゴーギャン作品を観る上でも参考になると思います。



セザンヌと過ごした時間
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参考記事:映画「セザンヌと過ごした時間」 (軽いネタバレあり)
Netflix:取り扱い無し
Amazon:プライム特典で視聴可能

【総合満足度】 駄作_1_2_3_④_5_名作

この映画は近代画家の父と呼ばれ現在でも絶大な影響力を持つポール・セザンヌを主人公にしたもので、史実を下敷きに最近の研究結果なども考察して作られた物語となっています。幼少の頃に地元のエクス・アン・プロヴァンスで友達になったエミール・ゾラ(後の有名小説家)との友情を主軸に、苦労した若い頃と、仲違い後に久々に再会した頃の2つの時間軸を行ったり来たりするような構成となっています。2人の友情がどうなってしまうのか、結果を知っている人にはストーリーが読めてしまうと思いますが、それよりも心情表現が深くてそこに面白味があると思います。お互いの歯に衣着せぬ応酬が観ているこっちまで心苦しくなってくる感じです。ストーリー以外でも楽しめる点としてこの映画の登場人物にはマネや画材屋のタンギー爺さん、画商ヴォラールなど近代絵画史で有名な人物も沢山出てきます。しかしそれらを知らなくても十分にストーリーは分かるので、知っていたらより楽しめる要素と言った感じかな。また、セザンヌがモデルに対してじっとしていることを強要するシーンなどはセザンヌのエピソードとしてよく紹介されているので、そういった所も細かい配慮を感じます。映像や役者も当時の風景や本人そっくりな感じなので、強烈な個性を堪能できますw これを観ておけば、今後セザンヌの絵を観る時により感慨深いものになるかも。



ル・コルビュジエとアイリーン 追憶のヴィラ
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参考記事:映画「ル・コルビュジエとアイリーン 追憶のヴィラ」(ネタバレあり)
Netflix:取り扱い無し
Amazon:プライム特典で視聴可能

【総合満足度】 駄作_1_2_3_④_5_名作

この映画は近代建築3大巨匠のル・コルビュジエと、女性家具デザイナー アイリーン・グレイの名前を冠したタイトルとなっています。ちょっとネタバレをしてしまいますが、このタイトルだけ観るとこの2人が主軸の映画のようですが、半分そうと言えますが半分は違っているように思います。というのも、主人公はアイリーン・グレイとその恋人で建築家・批評家の評論家ジャン・バドヴィッチ(ル・コルビュジエの仲間)で、ストーリーは2人の人間ドラマと、アイリーン・グレイの代表作である「E.1027」という家を如何に作り、その家がどうなって行ったかという話が主な筋書きです。勿論、その中でル・コルビュジエとアイリーン・グレイがお互いの建築論をぶつけ合う所なども非常に重要なポイントになってきますが、基本的にはアイリーン・グレイとジャン・バドヴィッチの視点で描かれ、ル・コルビュジエは狂言回しのような感じで出てきます。この「E.1027」は長年ル・コルビュジエの建物と勘違いしていた人も多かったのですが、それにはいくつか理由がありそれがアイリーン・グレイのル・コルビュジエへの愛憎両極端の理由とも言えます。この映画の中では2人の考えの違いなんかも分かるようになっていて、ル・コルビュジエの入れ込み具合なんかも分かりますw 事前にこの2人について知っておいたほうが楽しめると思いますので、ご興味ある方は簡単にでも2人の作品や生涯について調べてから観ることをお勧めします。



写真家ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと
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参考記事:映画 「写真家ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと」
Netflix:取り扱い無し
Amazon:有料レンタルあり

【総合満足度】 駄作_1_2_3_④_5_名作

こちらは写真家のソール・ライターをタイトルに冠した作品で、ソール・ライターはbunkamuraで2017年と2020年に大規模な回顧展が行われ多くのファンを獲得したと思いますが、晩年の2011年頃にイギリスのトーマス・リーチという監督がソール・ライターに密着して数々の言葉を引き出したものとなっています。一般的にイメージする映画というよりはドキュメンタリーといった感じのもので、時系列に追っていく訳ではなく一緒に生活している中であれこれエピソードを思い出して語るような感じの構成になっています。(ちょいちょいと章立てのように13個のテーマが出てきて、その話をする感じ) 色々とこだわりがあるちょっと頑固なおじいちゃんですが、亡くなった奥さんへの愛情が深く 助手の女性の言うことには素直だったりと優しい面もあってちょっと微笑ましいところもあります。技術的な話などはほぼ無くソール・ライターがどういう光景に興味を持っているのかに主眼が置かれているように思えます。しかしそこで撮った写真は映画内で観られないのが残念かな。一方でソール・ライターへのオマージュ的な映像が入るところも見どころで、最後はソール・ライター自身もこの映画を気に入ってくれたようです。短編ですがソール・ライターの人となりがよく分かる内容で、完全にファンの方向けの作品です。



メリエスの素晴らしき映画魔術&月世界旅行
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参考記事:映画「メリエスの素晴らしき映画魔術&月世界旅行」(ネタバレあり)
Netflix:取り扱い無し
Amazon:プライム特典で視聴可能

【総合満足度】 駄作_1_2_3_④_5_名作

この映画は2本立てとなっていて、1本目は110年前にジョルジュ・メリエスによって作られた映画「月世界旅行」に関するドキュメンタリーで、もう1本がカラー版の「月世界旅行」となります。まず1本目の「メリエスの素晴らしき映画魔術」ですが、こちらはジョルジュ・メリアスの偉業やその後の顛末、月世界旅行の修復についての話がメインとなっています。1902年に世界最初のSF映画とも言える「月世界旅行」が発表されると、たちまちのうちに大人気となりました。これは複数のシーンから成るストーリーのある作品で、今では当たり前のようでも当時の映画界ではこれは大変画期的なことでした。しかしその後大半のフィルムは失われ、奇跡的に見つかったフィルムの修復作業などが紹介されます。そして十分に価値と有難味が理解できた所で、修復されたカラー版の「月世界旅行」が始まります。映画の中の解説や構成も非常に分かりやすくて、メリアスと「月世界旅行」がどれだけ偉大な存在であるのか実感できるので、特に映画好きの方は映画の歴史を知る上でもチェックしてみるのもよろしいかと思います。



ミッドナイト・イン・パリ
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参考記事:映画「ミッドナイト・イン・パリ」(ややネタバレあり)
Netflix:視聴可能
Amazon:有料レンタルあり

これは娯楽映画で、アメリカ人の主人公がふとしたきっかけでタイムトラベルする話です。ちょっとコメディテイストもあり1920年代のパリに憧れる脚本家の主人公が実際に過去に行ったらどうなるか?みたいな感じで話が進んでいくのですが、出てくるメンツがかなり面白いです。最初のほうでF・スコット・フィッツジェラルド(グレート・ギャツビーなどの作者)と妻のゼルダ・セイヤー(この人も作家)が出てきて、その後もアーネスト・ヘミングウェイ、ガートルード・スタイン(芸術サロンを開いていた女性詩人)といったパリに行っていたアメリカの文豪が次々と出てきます。特にヘミングウェイの男気溢れるところなどはイメージぴったりで面白いです。
文豪だけでなく、ジャン・コクトー(名前だけ出演)、ピカソ、ダリ、マン・レイ、ルイス・ブニュエル(ダリとアンダルシアの犬を作った映画監督)、ロートレック、ゴーギャン、ドガなど芸術家もどんどん現れてきては主人公と交流を持っていく感じです。 他にも思い出し切れないほど沢山の芸術家・音楽家・文豪・舞踏家などが出てくるので、観る側にもある程度以上の知識・見識が無いとなんのこっちゃとなるかと思います。しかし、それを知っているとその設定や時代考証の緻密さに引き込まれると思います。役者が驚くほどに本人に似ていて、ピカソやダリ、ロートレックなどは出てきた瞬間に分かるほど似ていました。(さらに各芸術家の性格もよく把握していて言動がいちいち面白いw) パリの美しい町並みも楽しめるし コメディ的な小ネタもウィットに富んでいるので、芸術好きの方には特に楽しめる作品ではないかと思います。



ということで、いくつか挙げてみました。映画館で観ていないものやブログ休止中に観た映画は割愛していますが、そのうちまた同じようにご紹介するかもしれません。せっかくのお盆休みがこんな状況となってしまいましたが、その時間を有効に使う方法を考えたいところですね。


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《最果タヒ》 作者別紹介

今日は作者別紹介で、独特なセンスで注目を集める若手の女性詩人 最果タヒ(さいはて たひ)氏を取り上げます。学生時代からブログで詩作を始め、SNSなどで話題となり21歳の最年少で中原中也賞を受賞しました。漫画家やイラストレーターと共作した作品もあり、詩集を発表すると異例の部数を記録しています。2019年には横浜美術館での個展、2020年には さいたま国際芸術祭2020や大都市での個展など今まさに注目を集めるアーティストです。今日も過去の展示で撮った写真とともにご紹介していこうと思います。

最果タヒ 氏は1986年に兵庫県神戸市で生まれました。2004年にインターネット上で詩作を始めブログを開始します。2005年からは現代詩手帖(思潮社)の新人作品欄に投稿を始め、翌年には第44回現代詩手帖賞を受賞しています。そして2007年に第1詩集『グッドモーニング』(思潮社)を出版すると、これが第13回中原中也賞を受賞しました。さらに2009年から別冊少年マガジン(講談社)創刊号から詩の連載『空が分裂する』を開始し、各回で絵を漫画家やイラストレーターが担当しています。2012年からは別冊少年マガジンで連載小説『魔法少女WEB』を開始するなど、活躍の幅を広げています。また、現在でもtwitterや公式サイトで情報発信を続けられていて、独特の詩をwebで楽しむこともできます。
 twitter:https://twitter.com/tt_ss
 公式サイト:http://tahi.jp/

近年では美術館での個展も開催されるようになり、2019年には横浜美術館、2020年には大阪パルコなど4会場で個展が開催されています。今日はその2019年の展示を振り返る形で、当時の記事で使わなかった写真を追加しながらご紹介してまいります。なお、作品名や解説などは特にありませんので私の簡単な感想のみとなります。
 参考記事:氷になる直前の、氷点下の水は、蝶になる直前の、さなぎの中は、詩になる直前の、横浜美術館は。 ―― 最果タヒ 詩の展示 (横浜美術館) 

こちらは当時の会場風景
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この時は詩の森のような感じで展示されていました。

最果タヒ氏の詩は読点で終わるものが多くて、他のパネルと繋がっているのかと思ったのですがそうでもなかったかな。

例えばこちら。
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それは過冷却水じゃないだろうかと考えてしまう私には詩を解する心が無いのかもw

中途半端な感じで終わるのは、読み手が詩の空白を埋めることで詩が完成するという意図があるようです。

こちらも気になるところで終わる作品。
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美しくなれないのか、なりたくないのか… 打ち消し語で終わると言葉の背景が気になりますね。

一方でこんな作品も。
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え、そういうこと?w この2つを繋げて考えてはいけないのかもw

ちょっと毒のあるような作風も特徴かな
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サディスティックなのかマゾヒスティックなのか。

一方で生活感のある作品もあります。
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これをやってたらなんか嫌なことでもあったのかと心配しそうw

こちらは生活感がありつつ哲学的な感じ
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牛乳好きなのかな?w やや後ろ向きな雰囲気

こちらは文章になっている長めの詩です
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儚い印象と内向きな雰囲気があるように思えました。

こちらも長めの作品
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ロマンティックで情熱的な印象を受けるかな。2人だけの世界みたいなイメージ?

こちらも長文。当時の会場もこんな感じで明暗が強めであえて読みづらくしているようでした。
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恋人たちについて詠っているようで、愛が信仰の対象となり余計に孤独になった という部分がなるほどを思ったり。

こちらは気になるパワーワードw
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気分どん底って感じがヒシヒシと伝わってきます。

こちらも何があったのかちょっと心配になるワード
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こういう時あるよな…と共感してしまうのが流石ですね

こちらは深くて胸に来ました
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確かに絆というのはいつも何処かで作られ続けていますよね。

こちらは4つとも気になった作品
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割とストレートで平易な言葉を使っているのも特徴なのかも

これも非常に気になりますw
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言霊的な怖さがありましたw

こちらも意味は分からないけどインパクトのある作品。
DSC03925.jpg
言葉の裏の物語を想像させます。

こちらもドラマチックな雰囲気の作品。
DSC03927_202108050124441cf.jpg
好きな人でも探しているのでしょうか。不安な気持ちも含まれているように思います。

こちらはセットで面白かった作品。
DSC03932.jpg
水族館で魚を観て美味しそうって言う人を思い出しましたw どういう意味でこういう詩を書いたのか気になります。

たまに謎の詩もあったり
DSC03929.jpg
環境問題の話?と思うのは考えすぎでしょうかw この一種変わったセンスが面白い


ということで、独特の世界観の詩を作られています。ネットから生まれたというのも新世代っぽいし、観られる機会も増えてきていますので今後の動向に注目したいアーティストです。


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