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ユベール・ロベール-時間の庭 (感想前編)【国立西洋美術館】

前々回前回と国立西洋美術館の常設をご紹介しましたが、常設を観る前に特別展「ユベール・ロベール-時間の庭」を観てきました。私には馴染みの薄い画家だったこともありメモを多めに取ってきましたので、前編・後編に分けてじっくりご紹介しようと思います。

P3073267.jpg

【展覧名】
 ユベール・ロベール-時間の庭

【公式サイト】
 http://www.tokyo-np.co.jp/event/bi/robert/
 http://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/current.html#mainClm

【会場】国立西洋美術館  ★この美術館の記事  ☆周辺のお店
【最寄】上野駅(JR・東京メトロ・京成)

【会期】2012年3月6日(火)~5月20日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況(平日14時頃です)】
 混雑_1_2_3_4_⑤_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
有給休暇を取って平日に行ったこともあり、空いていてゆっくり観ることができました。

さて、今回の展示はユベール・ロベールというフランスの画家の個展となっています。今回が日本で初めての本格的な個展であり、あまり日本では馴染みのない画家なので先に簡単に略歴を説明すると、ユベール・ロベールは「廃墟のロベール」として名高い風景画家で、18世紀のフランス革命の前後に活躍しました。「国王の庭園デザイナー」という称号も持っていたそうで、革命前の王室や貴族のために様々な理想的風景の庭園のデザインも手がけていたようです。
この展示では世界有数のユベール・ロベールのコレクションを誇るヴァランス美術館の作品(特にサンギーヌという赤チョークの素描が中心)が130点ほど並んでいました。こんなに貸してもらえたのは2013年にリニューアルオープンする為に閉館中というのも理由のようです。 
内容は時代やテーマによって6章に分かれていましたので、詳しくは章ごとに気に入った作品と共にご紹介しようと思います。なお、今回の展示は作品リストは作っていないようでしたが、公式サイトでダウンロードできるようです。似たような名前の作品もあるので、番号を併記しておきます。
 参考リンク:作品リスト(pdf)


<第1章 イタリアと画家たち>
まずはユベール・ロベールが影響を受けた17世紀の画家たちのコーナーです。ユベール・ロベールは1733年に公爵の侍従の息子としてパリで生まれました。1754年に公爵の息子がイタリアに大使として赴任した際に随行し、ローマで11年間を過ごします。ここでイタリアの芸術や風景に触れて研鑽を積んだようで、ここにはそうしたロベールの美術的語彙や理想的風景の範例を感じさせる作品が並んでいました。

1 作者不詳、エリザベト・ヴィジェ=ル・ブランに基づく 「ユベール・ロベールの肖像」
これは冒頭にあった作品で、ロベールの友人であった女性画家のルブランが描いたロベールの肖像を模写した絵です。パレットを持ち右を向いた姿で描かれ、普段着を着ています。灰色の髪で知的な表情をしていて、これは50歳半ば頃の姿のようでした。ロベールは社交的でラテン語も理解するインテリだったらしく、この歳くらいが画家として最も輝いていたそうです。しかし、この後フランス革命が起きて、王家の仕事を手がけていた為にしばらく投獄されたそうです。
 参考記事:
  マリー=アントワネットの画家ヴィジェ・ルブラン -華麗なる宮廷を描いた女性画家たち- 感想前編(三菱一号館美術館)
  マリー=アントワネットの画家ヴィジェ・ルブラン -華麗なる宮廷を描いた女性画家たち- 感想後編(三菱一号館美術館)

ここから先が1章の内容です。まずは非常に緻密なクロード・ロランの版画が6点並んでいました。クロード・ロランはロベールより100年前の画家です。

8 クロード・ロラン 「笛を吹く人物のいつ牧歌的風景」 ★こちらで観られます
これは静岡県立美術館所蔵の油彩画です。淡い赤色に染まる河岸で牧童たちが楽器(笛?)を奏で、その脇で牛が草を食んでいます。その奥にはローマ遺跡のような建物があり、柔らかな空気感で理想的な風景となっていました。解説によると、こうした作風はロベールにも共通点があるそうです。

この辺は理想化された古代風の風景画が並んでいました。

13 ジョヴァンニ・パオロ・パニーニ 「古代建築と彫刻のカプリッチョ」
円柱の立ち並ぶローマの古代遺跡の周りにいる人々が描かれた作品です。高いところにある筋骨隆々のヘラクレス像?に向かって身振りをして話している人物や、それを見て笑っている兵士たち、休んでいる人々など様々です。解説によるとこの人物は哲学者のディオゲネスではないかとのことでした。背景の雲なども含めて理想化された風景で、この後出てくるロベールの作風に大きな影響を与えたのが分かります。


<第2章 古代ローマと教皇たちのローマ>
続いてはロベールのイタリア時代の作品のコーナーです。ロベールはフランスの国費留学生たちとともに、フランス・アカデミーでの寄宿と勉強が許され、絵画を学びます。この章ではローマのフォロ・ロマーノ周辺の古代遺跡を始め、カピトリーノ美術館などローマの街で描かれた作品が並んでいました。

16 ユベール・ロベール 「セプティミウス・セウェルス凱旋門のヴァリエーション」
ローマに到着して最も早い時期に描かれた作品の1つです。荘厳な門を下から眺めるように描かれていて、門はあちこち壊れていますが細かい彫刻が施されています。手前には槍を持った2人の兵士が崩れ落ちた彫刻を指さして話しているようでした。解説によると、仰ぎみるようにクローズアップしているのは壮大さを強調してためのようです。また、明暗が強めに表現されていたのですが、これは前章でご紹介したパニーニやピラネージの影響を受けているようでした。一見緻密で写実的に思えますが、実景には拘っていないようで、3つある門のうち2つは省略されたり、離れた場所のピラミッドが描かれているとのことです。
 参考記事:ピラネージ『牢獄』展 (国立西洋美術館)

この辺から赤っぽい素描作品が多くなります。ここにはローマの古代遺跡を描いた作品が並び、門が題材にしたものが多かったように思います。

27 ユベール・ロベール 「カピトリーノ美術館の素描家」
沢山の彫刻が立ち並ぶ美術館の中の様子を描いた作品です。女神像の前に座って素描している人物がいるのですが、これはロベール自身を描いたもののようです。周りには犬や親子連れの姿もあり、のんびりした雰囲気がありました。所蔵品は細かく立体的な陰影で描かれているように思いました。

32 ユベール・ロベール 「サン・ピエトロ大聖堂の柱廊の開口部の人々」 ★こちらで観られます
大聖堂の巨大な開口部(窓のような)を内側から描いた油彩画です。縁のような部分に白い布をかけて座る人々との対比からその開口部の大きさが伺えます。左手前の人物は暗めに描かれ、右下から左上に向かって光が当たっているような陰影がありました。石の質感も見事で、荘厳な印象を受けました。


<第3章 モティーフを求めて>
続いても版画中心のコーナーです。イタリア時代のロベールは、古代遺跡や教会建築ばかりではなく、郊外で半ば打ち捨てられた16~17世紀のヴィラ(上流階級の邸宅)の庭園なども重要なモティーフだったようです。仲間たちとともにローマから足を伸ばしてイタリア各地でスケッチをしたそうで、ここにはそうした作品も並んでいました。

37 ユベール・ロベール 「ヴィラ・ジュリアの中庭」
16世紀に教皇の為に作られた別荘の中庭を描いた作品です。18世紀には打ち捨てられローマ庶民の生活の場となっていたそうで、円柱がカーブ状に並び奥にアーチのある回廊には人々が座ったり話したりしています。人の顔が描かれていないなど、結構あっさりした描写のところもありますが、明暗や遠近感があり、奥行きを強調するような構図や柱のリズム感も面白かったです。

42 ユベール・ロベール 「打ち捨てられた庭園の噴水のそばの女たち」
右下のほうで女神像が立つ噴水(ライオンの口から水が出ている)と、そこで水汲みをしている2人の女性が描かれています。画面の3/4くらいは多くの木々や葉っぱで埋まっていて、噴水だけがぽつんと残っているような感じです。この隣には倒木を描いた作品もあり、自然を描こうとする姿勢が伺えました。(倒木はヴァニタス画に通じるものとされていたようです)

50 ユベール・ロベール 「ティヴォリの滝」
大きな滝とその上に立つ神殿や別荘、手前には河岸の岩場でくつろぐ人々が描かれています。滝は豪快な水流で迫力があり、これは実景に基づいて描いているようでしたが岩場の部分は創作で描いているようです。奥の神秘的な雰囲気に対して、手前は牧歌的な雰囲気となっていました。

この辺には普段は西洋美の常設にあるジャン=オノレ・フラゴナールの「若い熊使い」と「丘を下る羊の群れ」が展示されていました。ロベールとフラゴナールは連れ立ってローマ近郊の景勝地でスケッチしていたそうで、主題や様式も近くしばしば混同されたそうです。フラゴナールの素描もあったのですが確かに画風も題材も似ていました。

61 ユベール・ロベール 「ユピテル神殿、ナポリ近郊ポッツオーリ」
これは油彩で、左側と奥に古代の建物の壁が続き、手前には円柱が円形に立ち並ぶ建物の遺構が描かれています。手前の遺跡は褐色ですが、奥のほうが青みがかっているなど空気感の表現も緻密です。背景の空を含めて柔らかな明るさがあり、のんびりとした風景でした。解説によると、これはナポリ近郊の遺跡らしく、1760年代はナポリ周辺では重要な考古学的発見が続いたとのことでした。


ということで長くなってきたので今日はこの辺にしておこうと思います。あまり観る機会がない画家の作品ですが、こうしてまとめて観るとそのルーツや背景も分かってきて非常に参考になります。次回はその真骨頂とも言える奇想の風景画や庭園の仕事のコーナーをご紹介する予定です。


  →後編はこちら




おまけ:
この記事が1000記事目になりました。ちょうど3年なので、1年333記事くらいかなw 次の1000記事もこのペースで出来れば良いですが。

 参照記事:★この記事を参照している記事

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Comment
祝1000記事
おめでとうございます。
3年で1000記事なんて素晴らしいですね。
これからも楽しみにしています。
また、先日はありがとうございました。楽しんできましたので
また彫刻の写真をのぞきにきて下さいね。

Re: 祝1000記事
>MARSさん
コメントいただきありがとうございます^^
ものぐさな私がよく1000記事も書いたものだと自分でも驚きですw

西洋美など楽しまれてきたようですね。今後の記事を楽しみにしております^^
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