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清水晃・吉野辰海 漆黒の彼方/犬の行方 【埼玉県立近代美術館】

もう2週間ほど前のことですが、土曜日に埼玉県立近代美術館へ行って「清水晃・吉野辰海 漆黒の彼方/犬の行方」を観てきました。

P3033204.jpg

【展覧名】
 清水晃・吉野辰海 漆黒の彼方/犬の行方

【公式サイト】
 http://www.momas.jp/3.htm

【会場】埼玉県立近代美術館  ★この美術館の記事  ☆周辺のお店
【最寄】北浦和駅

【会期】2012年2月11日(土・祝)~2012年3月25日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間00分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日14時頃です)】
 混雑_1_2_3_4_⑤_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
空いていてゆっくり観ることができました。

さて、今回の展示は清水晃 氏と吉野辰海 氏の2名のコーナーから成る内容となっていました。両氏は1960年代の反芸術の流れを担い、その後独自の作風を築いたそうで、それぞれのコーナーで足跡を紹介していました。各章ごとに気に入った作品などと共にざっくりとご紹介しようと思います。


<清水晃 漆黒の彼方 第1章 闇のフロッタージュ>
まずは清水晃 氏の「漆黒から」というシリーズが展示された部屋です。これはトレーシングペーパーにコンテで描かれた素描のような絵で、1970年代後半から始めて15年以上で1000点を超える作品が作られたそうです。自らの内面に潜むイメージをどのように捉えていったかが分かるそうで、とんがり帽子の人形から沢山の線が放出されているような感じの絵などが並んでいました。他にもダ・ヴィンチのヘリコプターを彷彿とするようなものから線が放出されている作品、円錐にハサミのようなものが描かれた作品など、具象と抽象の間のようなシュールな印象を受けました。ハサミは清水晃 氏にとって重要なモチーフらしく、この後にもハサミをモチーフにした作品が並んでいます。

また、この部屋の中央には真っ黒に塗られた木のオブジェもありました。まるで絵の中に描かれたオブジェがそのまま立体になったようなもので、幾何学的で針金のようなものが沢山飛び出していました。 どこか冷たく耽美な印象を受けました。


<清水晃 漆黒の彼方 第2章 反芸術の只中で>
続いては1960年~70年頃の作品のコーナーです。1960年代始め、若い世代の美術家は廃物による作品やハプニングなど、既成概念を打ち破るような制作を試みたそうです。それらは読売アンデパンダン展などで発表され「反芸術」と呼ばれ、美術が多様化したきっかけとなりました。清水氏も既製品を組み合わせた作品を制作し、地図やヌード写真をコラージュした作品などにも挑戦したそうです。そして、色盲検査表を使った作品では賞を取ったらしく、ここにはそうした作品も並んでいました。

清水晃 「色盲検査表No.5」 ★こちらで観られます
様々な大きさの赤と緑の円が集まり大きな円となっているお馴染みの色盲テストの表を作品に取り入れたものです。中央に大きく緑で5と描かれているのですが、その周りの円には沢山の写真が張られていて、外国の人物や風景、漫画のようなものまでありました。発想が面白くてストーリー性があるのかな?と想像してみたり。
この辺には同じようにNo.6とNo.8の色盲検査表の作品がありました。8の方は円が切り抜かれたところもありました。

清水晃 「リクリエーション」 ★こちらで観られます
部屋の中央にあったベッドを使った作品です。掛け布団の中央に穴が開いていて、そこに鷹の剥製が頭を突っ込んでいました。全く意味は分かりませんが、シュルレアリスムの絵をオブジェにしたような奇妙な光景で面白かったです。

この部屋の壁には地図に頭の無い裸体の女性の写真がコラージュされた作品が並んでいました。これもシュールでエロティックな雰囲気がありました。

清水晃 「ブラックライト」
三角形の狭い部屋に扇風機や鳥籠、自転車の車輪、ペンキの缶などが転がっている作品で、そこに蛍光塗料が飛び散るように塗られています。しばらくそれを眺めていると白色蛍光灯からブラックライトに照明が切り替わり、ガラクタに見えたものがブラックライトによって非常に幻想的な光を発するオブジェに見えてきます。緑、赤、青など色鮮やかで美しいのですが、また白色蛍光灯に切り替わるとゴミにしか見えなくなるのが面白かったです。

この辺にはポストを題材にした作品も数点ありました。ポストの中に入って歩いたり、ポストを食べる(?)作品などもあります。また、「焔」という焦げ跡を用いたシリーズも何点か展示されていました。


<清水晃 漆黒の彼方 第3章 原風景へ>
清水氏は1971年にコラージュ作品集「目沼」を発表すると1960年代の作風から一転して、記憶を遡るような内向的表現となったそうです。そのきっかけは土方巽などの舞踏家との交流だったらしく、富山の風土や幼少期の体験がインスピレーションとなった作品を生み出していきます。

ここには海を背景にしたコラージュ作品などが展示されていました。巨大なハサミとカニが海岸線に突き刺さって並んでいたり、海岸に大きなカエルが5重に重なっていたり、かなりシュールな雰囲気です。海以外にはカマキリが稲妻をキャッチしている様子などもあったのですが、これは富山の鰤起こしと呼ばれる冬の稲妻をモチーフにしているようでした。

その先には須坂というシリーズの作品もあり、こちらは不穏でちょっと怖い作風でした。また、先ほどのハサミとカニの写真はポスターの図柄としても使われたようで、舞踏公演のポスター(魚が口で稲妻をキャッチしている様子)と共に展示されていました。

この部屋の中央には舞踏公演に使われた赤い着物の作品もありました。この着物には沢山の石が貼りつけられていて、背中にもびっしりとつけられていました。舞踏公演の方も斬新なものだったのかも?


<清水晃 漆黒の彼方 第4章 漆黒から>
清水氏は1970年代後半の「漆黒から」の素描と並行して1983年からは立体のオブジェも作ったそうです。富山の海岸で漁に使う道具のゴミなどを拾ってきては作品に使っていたようで、ここにはかなり大きめの作品も展示されていました。

三角の土台に円形や針金などが取り付けられた、撮影機材か機銃のような姿の大きなオブジェや、釣りの錘やハサミ、針金などを使って黒く塗られた作品が数点並んでいます。これらはメカニカルで、どこか妖しく耽美な感じでした。


<清水晃 漆黒の彼方 第5章 闇をぬけて>
清水氏は1990年代に「漆黒から」のシリーズに終止符を打ち、それに代わって紺色を基調としたシリーズを制作したそうです。画面は極端に横長になり、オブジェやモチーフを水平方向に連ねていくのが特徴らしく、ここにはそうした作品が並んでいました。

抽象的な絵が描かれた横長の板に、ピンポン玉や竹ひご、謎の品々がついた作品が何点かあり、漆黒からシリーズと同じように拾ってきたものを使っているようでした。しかし、こちらはカラフルな印象を受け、より自由な雰囲気がありました。これまでの漆黒の作品とはだいぶ違って見えます。


以上で清水氏のコーナーは終わりで、続いては吉野辰海 氏のコーナーです。


<吉野辰海 犬の行方 第1章 犬、犬、犬>
吉野辰海 氏はネオ・ダダに参加するなど1960年代から精力的に活動していた芸術家です。1970年代に自らの原点を見つめ直したそうで、そこで浮かび上がったのは幼い時に一緒に過ごし終戦時に行方不明になった犬だったそうです。犬と共に戦後の風景を思い起こしながら制作を行っているらしく、ここにはそうした犬の作品が並んでいました。
 

まずは、やたらと長い人間のような身体の巨大な犬の像が数点並んでいました。顔や身体がひしゃげていて、苦しそうな表情に見えます。 ★こちらで観られます
かなり異様で怪物っぽい雰囲気すらあり、むしろ犬が嫌いなのではと勘ぐってしまうほどですw 口からは長い舌?が出ていて、そこにも小さな犬の像などがありました。ちょっと怖いですが、圧倒されました。

吉野辰海 「投影装置の犬」
犬の像の片目がスコープのようになっていて、その中を覗き込むことができる作品です。作品の足元にあるペダルを踏むとスコープの中にぼんやりした映像が映るのですが、キラキラ輝くものと赤い何かが現れ、ちょっと怖いような幻想的な雰囲気でした。解説によると、これは作者の原風景を犬の中に入れているとのことでした。

この辺には言葉では説明しづらいシュールな絵画作品や投影装置の犬のプランなども並んでいました。絵でも犬の頭をくっつけたり犬をモチーフにしています。


<吉野辰海 犬の行方 第2章 SCREW 飛べ!>
吉野氏は1980年代以降、犬の立体作品を集中的に制作してきましたが、1997年から新機軸を打ち出したそうです。引き続き犬の作品もありますが、人物像やカマキリなどの生き物、むき出しの臓器などをモチーフにして物語性をもたせているようです。(中にはアメリカの同時多発テロの日付が刻まれた作品もあるそうです) この頃から唐辛子やバナナをモチーフにした作品も頻繁に作られたそうで、ここにもそうした作品が並んでいました。

吉野辰海 「SCREW 唐辛子犬」 ★こちらで観られます
これは1章との境にあった今回のポスターにもなっている作品です。黄色い大きな犬の頭に赤い唐辛子が突き刺さっているような彫刻作品で、何ともユーモラスな雰囲気です。犬と唐辛子は吉野氏の作品によく出てくるモチーフのようなので、これは代表的な作風なのかもしれません。

吉野辰海 「SCREW 飛べ!」
イカダの舳先でロケットを背負って飛び立とうとしている裸の男性の彫像です。マストには犬とキューピーみたいな像が釣り下げられていて、人間はどこか頼りなさげでへっぴり腰に観えました。

ここら辺には十字架のようなものに犬が逆さ吊り、首吊りのようになったもの、そのかたわらに内蔵や脳みそ、目玉のようなものがありました。不気味で死を感じさせます。


<吉野辰海 犬の行方 第3章 象少女>
続いては2009年からの新たなシリーズのコーナーです。象少女という、首から下は少女の裸体、首から上は極彩色の巨大な象の頭(犬の頭のも)というちょっと不気味な作品が並んでいました。(★こちらで観られます)これはどこかで観た記憶もありますがどこだったか思い出せず。 解説によると吉野氏は母親の最後の姿が象に重なる夢を観たそうで、それが発端となりこのシリーズを制作したそうです。ここには大小の象少女が並び、痩せた少女の白い肌と派手で歪んだ象の頭の取り合わせが異様な雰囲気となっていました。中には象の頭から犬の頭蓋骨や膝を抱えて座っている人が出てきているようなものもありました。


<吉野辰海 犬の行方 第4章 出発点としての1960年代>
最後は吉野氏の20代の頃のコーナーです。20代でネオ・ダダに加わったそうで、その頃の作品が並んでいます。歯車をモチーフに永久機関を思わせる作品や、歯と口が描かれた大きな袋、読売アンデパンダン展とネオ・ダダ展に出品した作品の写真やネオ・ダダのメンバーの写真などがあります。

出口付近は2章の内容の作品が並んでいて、大きな唐辛子の上に立った犬がマントのような翼をつけられて飛ぼうとしている像や、犬の頭の上に唐辛子を担いだ人が乗っているシュールな作品がありました。犬と同じサイズの青いカマキリが犬を羽交い絞めにしている(ダンス?)作品も異様な雰囲気でした。


ということで、現代アートが苦手な私でも楽しめる内容となっていました。深い意味もありそうですが、ぱっと見て何だこれ!?と驚ける作品があるのが面白いです。もうすぐ会期が終わってしまいますが、気になる方は是非どうぞ。

おまけ:
この日も埼玉県立近代美術館の常設も観てきたのですが、以前ご紹介した内容と同じでしたので今回は割愛します。
 参考記事:MOMASコレクションⅣ 2012 (埼玉県立近代美術館)

 参照記事:★この記事を参照している記事


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象少女
こんばんわ、吉川です。

リンク先を見てみましたが、
吉野辰海さんの作品は、
象少女、を筆頭にちょっと怖かったですが、
独特の世界観ですね。

まさに、なんだこれ?、という感じですね。

とても、ユニークだと感じました。
Re: 象少女
>吉川さん
コメント頂きましてありがとうございます^^
ダダやシュルレアリスムの流れをくんでいるようなので、
こうした奇妙ながらも強い印象を受ける作品が多くて面白かったです。
本当にユニークですよね^^
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