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ボストン美術館 日本美術の至宝 (感想前編)【東京国立博物館 平成館】

この前の春分の日に、上野に行って開催初日だった東京国立博物館140周年 特別展「ボストン美術館 日本美術の至宝」を観てきました。充実の内容でしたので、前編・後編に分けてご紹介しようと思います。

P3203376.jpg

【展覧名】
 東京国立博物館140周年 特別展「ボストン美術館 日本美術の至宝」

【公式サイト】
 http://www.boston-nippon.jp/
 http://www.tnm.jp/modules/r_free_page/index.php?id=1416
 http://www.tnm.jp/modules/rblog/index.php/1/category/15/

【会場】東京国立博物館 平成館  ★この美術館の記事  ☆周辺のお店
【最寄】上野駅(JR・東京メトロ・京成)

【会期】2012年3月20日(火) ~ 2012年6月10日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 3時間00分程度

【混み具合・混雑状況(祝日13時半頃です)】
 混雑_①_2_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
まず混雑状況ですが、初日で既に混んでいてどこも人だかりができるような感じでした。特に2章あたりは大渋滞といった様相で、観るのにも非常に時間がかかります。入場規制などはありませんでしたが、お花見の頃や会期末は一層混雑することも予想されますので、ご興味あるかたは早めに行っておいたほうが良いかと思います。

さて、今回はボストン美術館が誇る日本美術の里帰りとも言える展覧会となっています。 2010年のボストン美術館リニューアルの際に、西洋画が一気に日本にやってきたのも記憶に新しいですが、ボストン美術館は日本美術も10万点もの所蔵品があるそうで、その質・量ともに世界有数のコレクションとなっています。そのコレクションは、主にフェノロサ、ビゲロー、岡倉天心の3人によって収集されたらしく日本に残っていれば国宝級の作品も含まれているようでした。詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介しようと思います。

 参考記事:
  ボストン美術館展 西洋絵画の巨匠たち 感想前編 (森アーツセンターギャラリー)
  ボストン美術館展 西洋絵画の巨匠たち 感想後編 (森アーツセンターギャラリー)
  ボストン美術館展 西洋絵画の巨匠たち 2回目(森アーツセンターギャラリー)
  ボストン美術館 浮世絵名品展 (山種美術館) 
  
  
<プロローグ コレクションのはじまり>
まずはプロローグです。前述の通りボストン美術館の日本美術作品は、明治時代にお雇い外国人として日本にやってきた「アーネスト・フェノロサ」、フェノロサと共に来日した日本美術コレクターの「ウイリアム・スタージス・ビゲロー」、フェノロサに薫陶を受けビゲローに援助を受けた「岡倉天心」の3名のコレクションが礎となりました。当時の日本は廃仏毀釈(仏教を廃して神道を国教化する動き)によって仏教文化の破壊、欧化政策による日本文化軽視が進んでいた時期で、貴重な仏教美術品・日本美術品も打ち捨てられたり二束三文で売り飛ばされていました。それを救おうとしたのが彼らで、日本文化の保護活動を行い、日本美術界に大きな足跡を残しています。特にフェノロサに至っては狩野派に師事し狩野永探理信という号まで貰うほど日本美術に傾倒し、東京美術学校の設立や文化財保護法の前身である古社寺保存法にも関わっています。まさに日本美術の救世主と言っても過言ではない存在です。そして、フェノロサは帰国後にボストン美術館の日本美術部長となります。また、その弟子の岡倉天心も1904年に中国・日本美術部長に就任したそうで、より一層のコレクションの拡充を図ったようです。ここではそのコレクションの成り立ちの説明があり、ビゲローの肖像や岡倉天心の像などが展示されていました。
 参考リンク:アーネスト・フェノロサのwikipedia

2 平櫛田中 「岡倉覚三像」
入口にあった平櫛田中による岡倉覚三(岡倉天心)の像です。中国風の格好で長い竹竿を持っていて、落ち着いた雰囲気の人物に見えます。これは中国後漢時代の厳光という人物になぞられ、平櫛田中の代表作「五浦釣人」に倣って制作されたそうです。隠者風の知性が感じられました。

この辺にはビゲローの肖像画の他に、フェノロサと深い交流のあった狩野芳崖の作品などもありました。


<第1章 仏のかたち 神のすがた>
続いては主に仏教美術のコーナーでした。ここには日本に残っていれば国宝級という作品も展示されていました。

6 「如意輪観音菩薩像」
これは仏画で、4本の腕を持ち座っている如意輪観音(にょいりんかんのん)が描かれています。手には宝珠や法輪を持っていて、緻密かつ柔らかな線で描かれていました。これは平安時代の作のらしく、優美な顔つきが印象的です。

この辺には仏画の掛け軸が並び、平安時代の作品もありました。

12 「大威徳明王像」
水牛の上に乗った多面多臂(ためんたひ 顔や手足が沢山ある)姿の五大明王の1つ大威徳明王の仏画です。沢山の頭蓋骨を装身具のように身に付け、光背は炎が燃え盛っています。さらに剣を振り上げ口を開いた形相は恐ろしげでした。迫力と動きを感じる作品です。

5 「法華堂根本曼荼羅図」 ★こちらで観られます
これは東大寺法華堂に伝来した作品で、日本に残っていれば国宝級という作品です。赤い袈裟を着た釈迦が、霊鷲山(りょうじゅせん)で法華経の説法を行なっている様子が描かれていて、その両脇には菩薩、背後には弟子たちの姿がありました。さすがに経年の劣化によって剥落が進んでいますが、上部には浄土らしき風景もありました。こんな貴重なものまでコレクションしていることに驚きです。
この隣には赤外線で分析した写真なども展示されていました。

16 重命 「四天王像」
元は障壁画だったとされる4枚セットの作品で、右から順に多聞天(毘沙門天)、広目天、増長天、持国天と1枚1体ずつ描かれています。特に広目天は迫力があり邪鬼を踏みつけて目を見開く表情、光背の炎、様式化された荒波など力強さが感じられました。

21 「地獄草子断簡」
大きな黒い釜の中、炎に包まれながら焼かれる人々が描かれた地獄絵です。その左には大きな怪物のような者が口を開けて箸で人々をつついています。これは一銅釜地獄(いちどうふじごく)らしく浄土信仰を背景に描かれたそうです。奈良国立博物館にこの作品と同様の作品があり、本来は合わせて一具だったと考えられるそうです。

23-1 快慶 「弥勒菩薩立像」 ★こちらで観られます
元は奈良の興福寺に伝わったもので、現存する作品の中で最初期のものとされる快慶の仏像です。花瓶に入った蓮の花を持つ弥勒菩薩の立ち姿で、金色の身体で優美な体つきをしています。慶派はダイナミックなイメージがありますが、これは穏やかな雰囲気があるように思います。目には玉眼が象嵌されていて見通すような表情をしていました。
この作品の隣には「弥勒菩薩立像 像内納入品(弥勒上生経、宝篋印陀羅尼)」という像内に入っていた書があり、快慶のサインがありました。快慶自身の発願によって作成されたようです。

24 康俊 「僧形八幡神坐像」
快慶の東大寺の僧形八幡神を元に作られた作品です。印を組んで座りやや下を向いています。ちょっと厳しい表情ですが、リアルで動き出しそうなくらい生気がありました。


<第2章 海を渡った二大絵巻>
続いては2つの絵巻のコーナーです。いずれも最高傑作として天皇や公家、寺社に守り伝えてきましたが近代の社会情勢の変化で美術市場に放出されたそうです。ここにはずら~~~と絵巻が広がって展示されていました。

26 「吉備大臣入唐絵巻 第一巻~第四巻」 ★こちらで観られます
遣唐使として唐に渡った吉備真備の冒険譚(創作)を描いた絵巻で、元は24mもあったそうですが今は4巻に分けて保管しています。連続するように右から物語に沿って場面が描かれていて、最初は船に乗っている様子や唐の使者の出迎えが描かれているのですが、案内されて着いたのは鬼が出ると言われる楼閣で、そこに幽閉されてします。夜になると鬼が現れたのですが、その正体は唐で客死した阿倍仲麻呂の霊で、真備は仲麻呂の子孫の様子を聞かせると鬼の協力を得ることになります。(実際の仲麻呂は真備と同期の遣唐使で、中国で官僚となり彼の地で客死) 皇帝に遣唐使が到着したのを伝える姿なども描かれていました。

この辺は特に混んでいて進むのが大変なくらいです。

次の展示ケースにも続きがあります。鬼の案内で楼閣を抜けだした真備は2人で空を飛んで宮殿に向かいます。真備は「文選」という難文を読むテストを受けることになったのですが、こっそり試験内容を盗み聞きしている真備たちが描かれています。その次の場面では楼閣に集まった使者たちが真備が文選を知っていることに驚き、あまりのショックで従者に持たせるはずの傘を自分で持っている使者の姿などが描かれています。さらに真備は囲碁の名人と勝負することになります。真備は囲碁を知らなかったのですが鬼に格子天井を碁盤に見立てて教えて貰います。そして名人と勝負すると相手の碁石を飲み込んで勝負に勝ちました。石が足りないことに気づき疑われた真備は下剤を飲まされましたが、胃の中に碁石を留めて切り抜けます。絵巻には井戸のようなところで鼻を押さえて碁石を探す3人の人物も描かれていましたw この後も様々な難題があったそうですが絵巻は碁の名人が負けたことを皇帝に伝えているところで終わっています。ちょっと可笑しくて面白いストーリーで心情表現も緻密で良かったです。こうして文選や囲碁が日本に伝わったことを表しているようでした。

27 「平治物語絵巻 三条殿夜討巻」 ★こちらで観られます
平治物語の三条殿の急襲と後白河法皇の拉致の場面を描いた絵巻です。右のほうには三条殿の炎上を聞いて慌てて駆けつける公卿たちが描かれているのですが、沢山の牛車や貴族、馬に乗った人などが右往左往していて大混乱の様相となっています。中には牛車に轢かれている人までいるほどの乱れぶりです。次の場面には牛車を寄せて後白河法皇を拉致する様子が描かれ、周りは物凄い勢いの炎で沢山の武者が集まっていました。こちらも死んだ人がいるなど緊迫した雰囲気がありました。


<第3章 静寂と輝き―中世水墨画と初期狩野派>
続いては水墨画のコーナーです。禅僧たちが中国の宋・元時代の作品を手本にした頃から応仁の乱以降に中心を担った狩野派の作品などが並んでいました。

33 祥啓 「山水図」 ★こちらで観られます
鎌倉の建長寺の僧であった祥啓の代表作です、湖とその上の舟、岸にある切り立った崖や家などが描かれています。背景の山々の様子などシャープな印象がありつつ濃淡で幽玄な感じも受けました。解説によると京都で学んだ南宋の夏珪(かけい)の様式に拠って描かれているとのことでした。

36 狩野元信 「白衣観音図」
白い衣を着た観音を正面から描いた作品です。岩のような所に座り、両側は崖で後ろに円形の光背らしきものが見えます。色鮮やかで太めの輪郭が強い存在感に思えました。解説によると、これを買ったフェノロサは元信の最高傑作であると考えたほどだそうです。

この辺には元信の作と伝わる作品や弟子のものと考えられる作品が並んでいました。

29 拙宗等揚 「三聖・蓮図」
拙宗は雪舟が45歳まで使っていた名前だそうで、雪舟の作と考えられている3幅対の掛け軸です。右は蓮の葉、左は蓮の花、中央には3人の人物が描かれていて、この3人は仏教、儒教、道教の象徴とされているようです。大胆にデフォルメされた蓮や3人の着物などが面白く、濃淡の表現も見事でした。私は雪舟に詳しいわけではないですが、雪舟にこういう作風があるとはちょっと驚きでした。

40 伝 狩野雅楽助 「松に麝香猫図屏風」 ★こちらで観られます
狩野元信の弟が描いたとされる屏風です。元は一双だったそうですが、一方はボストン美術館、もう一方は日本のサントリー美術館に伝わっているようです。水辺に面した立派な松の木の下でふわふわした尻尾のジャコウネコと白猫が描かれています。白猫はメス猫らしく身構えているのですが、この視線の先にはサントリーに伝わったもう一方の隻にオス猫が描かれているそうです。背景には水墨ですが、色鮮やかな花などもあり落ち着いた雰囲気の中にも華やかさがありました。
この辺には屏風作品が並んでいました。

ということで、前半から貴重な品々が並んだ展示となっています。ボストン美術館は作品保護の観点から展示期間を厳しく制限しているらしく、この展示も5年間もの準備期間を必要としたというのですから、滅多に観られる内容ではなさそうです。後半ではさらに世界初公開となる修復された大作もありましたので、次回はそれをご紹介しようと思います。


  → 後編はこちら


 参照記事:★この記事を参照している記事


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