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セザンヌ―パリとプロヴァンス (感想前編)【国立新美術館】

この前の日曜日に、乃木坂の国立新美術館へ行って、「セザンヌ―パリとプロヴァンス」を観てきました。かなり充実の内容となっていましたので、前編・後編に分けてじっくりとご紹介しようと思います。

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【展覧名】
 国立新美術館開館5周年 セザンヌ―パリとプロヴァンス

【公式サイト】
 http://cezanne.exhn.jp/
 http://www.nact.jp/exhibition_special/2012/cezanne2012/index.html

【会場】国立新美術館 企画展示室1E  ★この美術館の記事  ☆周辺のお店
【最寄】千代田線乃木坂駅/日比谷線・大江戸線 六本木駅

【会期】2012年3月28日(水)~6月11日(月)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況(日曜日14時半頃です)】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
展示が始まって初めの日曜日(前日の土曜日は嵐のような日)でしたが既に人気の展示となっていて、序盤は列を組んで鑑賞するような混み具合でした。とは言え、列もせいぜい1列程度で、後半はさほど混まなかったので、少し離れて鑑賞すれば自分のペースで観て回ることができました。 恐らく会期が進むに連れて混雑も増してくると思われますので、気になる方はお早めにどうぞ。経験則から狙い目は金曜の夕方~夜あたりじゃないかと推測します。

さて、今回の展示は近代絵画の父とも呼ばれる巨匠セザンヌの個展です。ポスターには林檎に「100%セザンヌ」なんて果汁みたいなマークが入っていますが、約90点がすべてセザンヌ!しかも世界中の名だたる美術館から名品が集まって国内過去最大級の展示となっています。ちょっと変わっているのが、故郷のフランス南部エクス=アン=プロヴァンスと、晩年まで20回ほど行き来したパリ(北部)を対比させるという意図があるようで、解説でもちょくちょくその点に触れていました。(キャプションの色も違っています) 初期から晩年まで題材などによって章が分かれていましたので、詳しくは章ごとにご紹介しようと思います。


<第1章 初期>
まずは初期のコーナーです。ポール・セザンヌはサロン(官展)での成功を夢見て、エミール・ゾラ(中学の時から親友で後に小説家となった。パリ出身)に連れられてパリに出ました。パリではルーヴル美術館や、同時代の作品が並ぶリュクサンブール美術館に足繁く通い、独自の絵画を模索したようです。また、アカデミー・シュイスに学び、そこでカミーユ・ピサロやアルマン・ギヨマンらと交流し、その後ピサロからは大きな影響を受けています。
初期の特徴はパレットナイフを使った絵の具の厚塗りだそうで、後年のセザンヌはこの画風を「クイヤルド(睾丸の大きな)」という名前を与えたようです。この画風で自らの激しい気質を表現したようですが、サロンでは評価されず落選続きだったそうです。ここにはそうした作品が並んでいました。

[1-1 形成期:パリとプロヴァンスのあいだで]
ポール・セザンヌ 「砂糖壺、洋なし、青いカップ」 ★こちらで観られます
黒を背景にした静物で、タイトル通り洋なしや砂糖壺、青いカップが描かれています。離れてみても分かるくらい厚塗りされていて、表面に凹凸があります。ただ、ちょっとぐにゃぐにゃした印象を受けるかな。解説によるとこの青いカップは贅沢品だったらしく裕福な家庭であるのが絵からも分かるようでした。

ポール・セザンヌ 「ピアノを弾く少女(「タンホイザー」序曲)」
左向きでピアノを弾く白いドレスの女性と、奥で椅子に腰掛けて編み物?をしている母親らしき女性、右には花柄の椅子が描かれています。この2人はポール・セザンヌの妹と母と考えられているらしく、椅子は父が座っていたものだそうです。全体的に落ち着いた色合いで平坦な印象を受けました。解説によるとセザンヌは自分でも演奏するほどの音楽好きで、エクスにいる時にドイツ人にまだ無名だったワグナーを聴かせて貰って気に入ったそうです。作品名をワグナーの曲名にするほど相当好きだったのかな。

ポール・セザンヌ 「林間の空地」
紅葉する庭のようなところを描いた作品です。強い光と影があり、ちょっと抽象画のような雰囲気があるように思いました。(後のナビ派みたいな…)
この辺は模写などもありました。初期は作風がバラバラでセザンヌと言われてもわからないくらいです。色々と模索していたのが分かります。

[1-2 ジャス・ド・ブッファン]
ポール・セザンヌ 「四季 春」 「四季 夏」 「四季 冬」 「四季 秋」 ★こちらで観られます
左から順に春夏冬秋の順で並ぶ4枚セットの大きな壁画のような作品です。これは父が買ったまま放っておいた別荘の広間に飾るために描いたもので、春は朝で花束を持つ赤い衣の女性、夏は昼で藁を持っている女性、冬は星空の下で焚き火で暖まっている女性、秋は夕方で頭に果物籠を乗せている女性が描かれています。よく観ると、冬の焚き火の中央辺りには薄っすらと人物の影があり、これは描き直した跡のようです。全体的に古風に思えましたが、装飾画ということだけあって華やかな印象を受けました。各作品にはInGRE(アングル)とサインされているのですが、これは20歳の頃の師匠がアングルを絶賛していたので遊び心で書いたのでは?とのことでした。


<第2章 風景>
続いて2章は風景画のコーナーです。セザンヌは1870年代にパリとその周辺地域のイル=ド=フランスという地域を風景画制作の地にしたようです。アカデミー・シュイスで知り合ったピサロに戸外制作と印象派の技法を教わった後、フォンテーヌブロー近くのムランという地で「構築的筆触」という独自の画風を確立しました。これは方向を揃えた斜めの短い筆触のことで、ここにはそうした画風の作品が並んでいました。

[2-1 北:1882年まで]
ポール・セザンヌ 「首吊りの家、オーヴェール=シュル=オワーズ」 ★こちらで観られます
これは第1回印象派展に出品した風景画で、坂道から下の家や、屋根の合間に見える山や野などが描かれています。全体的に斜めの線が多いのが構成的に観えるかな。これは戸外で描かれピサロに学んだ印象派の技法を使っているようで、光が感じられるような明るさがありました。

この辺には明るい雰囲気の作品が並んでいました。

ポール・セザンヌ 「ベルヴュから見たピロン・デュ・ロワ(イル=ド=フランスの風景)」
こちらのタイトルが2つの地名となっているのは、製作地について諸説があるからのようです。この展示では( )のイル=ド=フランスの説を採用しています。絵自体は、高い位置から山の麓の村を描いたもので、この頃から使い始めた「構築的筆触」があちこちに観られます。木々や山に点描を斜めに伸ばしたような筆跡があり独特のリズムがありました。全体的に四角っぽい形も多いかな。

[2-2 南:1882年まで]
ポール・セザンヌ 「サンタンリ村から見たマルセイユ湾」 ★こちらで観られます
こちらは南仏のマルセイユ湾を描いた作品で、左側から奥にかけて陸があり、右下には青い海が広がっています。岸には沢山の家々があり、セザンヌは青い海と赤い屋根の家がトランプのようだと言っていたそうです。全体的にやや単純化されて平坦に観えるかな。ここまでは様々な画風がありましたが、この辺りから馴染みあるセザンヌらしさが出てくるように思いました。
解説によると、この頃マルセイユで父には秘密で妻と子供をもうけていたらしく、それが親にバレると、家賃の援助を打ち切られて友人のエミール・ゾラの援助でほそぼそと生活していたそうです。(後に妻とは正式に結婚し、親も結婚式に参加しています。しかしあまり嫁姑の折り合いは良くなかったようです。また、父が死ぬとセザンヌは遺産を受け継いだようです)

[2-3 北:1882年以降]
ポール・セザンヌ 「風景」
これは昔から好きな大原美術館所蔵の作品で、久々に観られました。高い位置から街を見下ろすように描いた風景画で、中央に高い木が生えて周りには赤い屋根の家々が描かれています。それがリズミカルに観えて構成も面白いです。塗り残しの部分が多く描きかけのように観えるのもセザンヌらしいかな。

[2-4 南:1882年以降]
ポール・セザンヌ 「ガルダンヌの村」
中央の上部に丘の上に建つ教会、その下には赤い屋根の家々、手前には森が広がる風景画です。ここでセザンヌは自然の中にある客観的な構造から絵画を構築する方法を模索したらしく、この作品では家や森が連なり積み重なるような感じを受けました。これも塗り残しが多めに見えますが、この構図は非常に面白いです。

この近くには西洋美の「葉を落としたジャス・ド・ブッファンの木々」もありました。

ポール・セザンヌ 「サント=ヴィクトワール山」 ★こちらで観られます
左右に松の樹があり、その枝葉が枠になるように上部を囲い、その下にはサント=ヴィクトワール山と裾野の村が描かれています。松の葉は山の輪郭に沿うように曲がって描かれているのが面白く、全体的に明るく穏やかな印象を受けました。
この隣にはその10年後に描かれたサント=ヴィクトワール山の絵があり、こちらと比べると山はより大きく雄大に描かれ、木々は抽象的で色も対比が強くなっているように観えました。時代を越えた比較は分かりやすくて良かったです。


ということで、前半から見所の多い展覧会となっています。さらに後半にはこれぞセザンヌ!と感動できる傑作も展示されていましたので、次回は残りの3章~6章をご紹介しようと思います。


  → 後編はこちら


 参照記事:★この記事を参照している記事


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