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三都画家くらべ 京、大坂をみて江戸を知る (前期 感想前編)【府中市美術館】

ついこの間の日曜日に、府中の府中市美術館で「三都画家くらべ 京、大坂をみて江戸を知る」を観てきました。この展示は前期・後期で大きく内容が変わるようで、この日観たのは前期の内容でした。好みの作品が多くメモも多めに取りましたので前編・後編に分けてご紹介しようと思います。

P4083507.jpg

【展覧名】
 三都画家くらべ 京、大坂をみて江戸を知る

【公式サイト】
 http://www.city.fuchu.tokyo.jp/art/kikakuten/kikakuitiran/santo/index.html

【会場】府中市美術館  ★この美術館の記事  ☆周辺のお店
【最寄】京王線府中駅/京王線東府中駅/JR中央線武蔵小金井駅など

【会期】
 前期:特集「花と動物」  2012年03月17日(土)~04月15日(日)
 後期:特集「人物画くらべ」2012年04月17日(火)~05月06日(日)
  ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況(日曜日14時半頃です)】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
私の行った日時は講演会をやっていたこともあり、講演終了直後などはちょっと人が多かったですが、それ以外は空いていてゆっくり観ることが出来ました。

さて、今回の展示は江戸、大坂、京という江戸時代の3つの都市を取り上げ、それを比べることでそれぞれの特色を観るという内容となっています。特に江戸中期~後期の作品が多く、題材によって章分けされていましたので、詳しくは章ごとにご紹介しようと思います。なお、冒頭に書いたようにこの展示は前期・後期でほとんどの作品が入れ替わるので、お目当ての作品がある方は公式サイトでチェックしておくことをお勧めます。
 参考記事:出品リスト(PDF)


<冒頭>
まず冒頭に三都それぞれ1枚ずつハイライト的に作品が展示されていました。

京 円山応挙 「鶴図」
振り返るように立つ鶴の姿を描いた作品です。細やかかつ優美な姿をしていて、ここにあった大坂・江戸の作品と比べると雅な雰囲気があるように思えました。


<三都に旅する>
この章では三都の特徴について作品を通じて紹介されていました。天皇が住み寺社の多い歴史と文化の街である京、経済の中心で町人たちが自ら運営する面が強い大坂、新興都市で文化的に遅れていたけれども幕府が置かれた江戸 の3つは、その背景からか大きく文化が違い、その感性も作品に反映されているようでした。

江戸 歌川豊広 「両国夕涼ノ図」
これは肉筆の掛け軸で、河岸で散歩している白い着物の女性と黒っぽい着物の女性、その後ろに傘を持って荷物を背負う小僧らしき姿もあります。白い着物の女性は線が細くスラっとした等身で涼し気な雰囲気です。背景に描かれた橋などには遠近感があるように思いました。

京 山口正鄰 「岩倉・松ヶ崎村祭礼図」
これは2幅対の掛け軸で、岩倉村という所で7/14~7/15に行われた灯籠踊りという祭りを描いています。右幅には頭に大きな灯籠(というよりは盆栽などに観える)を乗せた女性が描かれ、頭が灯籠になったような奇妙な光景です。その周りでは男たちが音楽を鳴らして踊っているように観えるかな。 それに対して左幅では太鼓を叩いている男を中心に踊っている男女が描かれているのですが、こちらも一風変わった姿勢をしていました。解説によるとこれは法華経の題目を唱えて踊り、妙法の文字の送り火をする祭りだそうです。祭りも変わっているのかもしれませんが、絵も奇抜な感じに思えました。

大坂 中村芳中 「盆踊図」
これは掛け軸で、簡略化したゆる~~~い感じの画風で盆踊りする人々が描かれています。その表情はじつに楽しげで、観ている方にも伝ってきそうです。緩さゆえか軽やかな感じもあり、不思議な魅力の作品でした。


<特集 花と動物>
続いては前期のみの特集のコーナーです。
京には古くから伝わるやまと絵があり、土佐派や俵屋宗達・尾形光琳はそれを継承する流れにあります。江戸時代中期には円山応挙のように西洋の遠近法などを取り入れた絵師も登場しましたが、応挙もまた京の美の範疇と言えるそうです。
 参考記事:円山応挙-空間の創造 (三井記念美術館)

大坂は中国絵画への信奉が絶大で、京の優雅さとは無縁だったようです。江戸中期に来日した中国の絵師 沈南蘋(しんなんぴん)からの影響が強かったそうですが、それを平板化したような作風もあるようです。
 参考記事:
  三井記念美術館 館蔵品展 (三井記念美術館)
  博物館に初もうで (東京国立博物館 本館)

江戸は当初ほとんど伝統的な文化はなかったようですが、狩野探幽が京からやってきて幕府の御用絵師となると、元来の中国風の画風からさっぱりとした画風に転向したようです。絵師を目指す者はまず狩野派を学ぶため、探幽の影響力は強く江戸時代の終わりまで美意識の底流となったそうです。
 参考記事:東京国立博物館の案内 (2012年03月)

京 土佐光起 「布袋・松に鶴・菊に鶉図」
3幅対の作品で、中央に子供にじゃれつかれている布袋、右に松の下の鶴、左は白い菊とウズラが描かれています。非常に精密な描写からは中国からの影響も感じられますが、優美さがあるのはやまと絵の伝統からの影響かな? ちょっと楽しそうな雰囲気でした。

この隣には光琳の団扇もありました。

京 俵屋宗達 「春日野図」
これは水墨の掛け軸で、地面に伏せている鹿が描かれています。丸っこくデフォルメされていて、キャラクターのような可愛らしさがある一方、どこか雅な雰囲気がありました。濃淡の柔らかさも好みです。

京 岸駒 「牡丹に孔雀図」
牡丹と岩の上にいる2羽の孔雀を描いた作品です。沈南蘋と南蘋派を思わせる精密かつ写実的な作風で、強めの陰影で濃厚な色合いに見えます。解説によると、空間の広がりの大きさなどには独自の感性があるようで、広がりを求めるのは京画家の特徴かもしれないとのことでした。壮麗で華やかな雰囲気の作品でした。

この近くにあった京の吉村孝敬「竜虎図」も好みでした。応挙が描く竜虎図に似ています。

大坂 上田公長 「牡丹に孔雀図」
2羽の孔雀と牡丹を描いた作品です。先ほどの京の岸駒と同じような主題ですが、比較するとこちらはやや簡略化されて色が面で表現されているような感じに見えます。あっさりしていて、優雅というのとはちょっと違うかな。比べると確かに京と大坂では嗜好が違うことがよく分かりました。

大坂 森狙仙 「猿図」
大坂では森派という動物画で人気を得た一派があったそうで、この人はその中心人物です。2匹の猿が描かれ、1匹は手の毛づくろい?をしていて、もう1匹はその背中に肘を置いている姿が描かれています。フワフワっとした感じで輪郭線が無いように観えるかな。解説によると沈南蘋の精密な描写を取り入れているそうで、動物をよく観察していたようです。どこか観ていて和むような作品でした。
隣にはタヌキの絵もありました。

江戸 狩野探幽 「四季花鳥図」 ★こちらで観られます
こちらは4幅対の作品で、右から春夏秋冬の花鳥が描かれています。細やかに描かれているところもあれば簡略化されたところもあって、独特のリズムと生き生きとした感じを受けました。解説によると、探幽は豪放な画風から余白や余韻を持たせた穏やかな画風に変わったそうです。

江戸 宋紫石 「蓮池水葵図」
これも掛け軸で、池に生えるピンクの蓮の花のつぼみと、斜めに伸びる茎と葉っぱが描かれています。その茎の斜めに横切っている構図が大胆で驚きました。また、葉っぱはにじみを使った表現となっていて味わい深い色合いです。解説によると、全体的には精密で南蘋派からの影響があるようですが、上部に大きく取られた余白は江戸ならではの感性のようでした。

江戸 酒井抱一 「白梅雪松小禽図」
これは2幅対の作品で、右幅は左に向かって枝を伸ばす壺に入った白梅、左幅は右に向かって枝を伸ばす松に雪が積もり鳥がとまっている様子が描かれています。対となるような構図ですが、こちらも(特に右幅)余白の使い方は江戸っぽいのかな。琳派らしさもあって凛とした雰囲気の作品でした。
 参考記事:
  酒井抱一と江戸琳派の全貌 感想前編(千葉市美術館)
  酒井抱一と江戸琳派の全貌 感想後編(千葉市美術館)

江戸 葛飾北斎 「宝珠を搗く月兎」
北斎の肉筆の掛け軸で、大きな満月の中で餅つき?をしている擬人化されたウサギが描かれています。赤い目をしたウサギはあまり可愛くなくてちょっと怖いw 杵の中は何故かビリヤードの玉そっくりなのも謎でした。宝珠?

江戸 柴田是真 「四季の花図」
この人は漆絵などで有名な人ですがこれは漆絵ではなく、岩の近くに咲くリンドウ、桔梗、なでしこ、福寿草、すみれ等の花が描かれています。1つの画面に春夏秋冬の花が同時に咲いているようですが、特に違和感はないかな。解説によると是真は京の円山派に学んだそうですが、こちらは京とは違った野趣が漂うとのことでした。
 参考記事:柴田是真の漆×絵 (三井記念美術館)


ということで今日はこの辺にしておこうと思います。有名な絵師の作品もありつつ、知らなかった絵師の興味深い作品もあり、非常に参考になります。好きな作品と覚えておきたい作品をメモしようとしたら、ほとんどの作品になってしまいそうな勢いでしたw 後半も面白い作品が並んでいましたので、次回は残りをご紹介しようと思います。


  → 後編はこちら


 参照記事:★この記事を参照している記事

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