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大エルミタージュ美術館展 世紀の顔・西欧絵画の400年 (感想後編)【国立新美術館】

今日は前回の記事に引き続き、国立新美術館の「国立新美術館開館5周年 大エルミタージュ美術館展 世紀の顔・西欧絵画の400年」の後編をご紹介いたします。前編には混み具合なども記載しておりますので、前編を読まれていない方は前編から先にお読み頂けると嬉しいです。


 前編はこちら


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まずは概要のおさらいです。

【展覧名】
 国立新美術館開館5周年
 大エルミタージュ美術館展 世紀の顔・西欧絵画の400年

【公式サイト】
 http://www.ntv.co.jp/hermitage2012/
 http://www.nact.jp/exhibition_special/2012/hermitage2012/index.html

【会場】国立新美術館 企画展示室2E  ★この美術館の記事  ☆周辺のお店
【最寄】千代田線乃木坂駅/日比谷線・大江戸線 六本木駅
【会期】2012年4月25日(水)~7月16日(月・祝)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況(日曜日13時半頃です)】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
前編では17世紀のバロックまでご紹介しましたが、後半は18世紀から近代までとなっていました。

<第3章 18世紀 ロココと新古典派:革命の世紀>
3章は18世紀のコーナーで、主にフランス王朝時代のロココからフランス革命前後の新古典主義あたりまでの作品が並んでいました。

ジャン・ユベール 「ヴォルテールの朝」
ベッドの前で着替えをしながら指をさして机に向かう人に何か指示している男性を描いた作品です。これはフランスの哲学者ヴォルテールの日常を描いた連作の1つらしく、ロシアの女帝でエルミタージュの礎を築いたエカテリーナ2世によって依頼されたそうです。(エカテリーナとヴォルテールは文通相手だったようです) 秘書に口述筆記させているらしく、着替え中までアイディアを出している様子が面白かったです。

エリザベト=ルイーズ・ヴィジェ=ルブラン 「自画像」 ★こちらで観られます
これは去年観た覚えがありました。(似た作品かもしれません) 絵筆を持ち、黒い服に赤い布を結んで頭も白い布で巻いている女性画家の自画像です。この画家はフランス革命の後フランスから逃れロシアにも招かれてアカデミー会員となったようです。写実的でありながら柔らかく気品のある雰囲気となっていました。
 参考記事:
  マリー=アントワネットの画家ヴィジェ・ルブラン -華麗なる宮廷を描いた女性画家たち- 感想前編(三菱一号館美術館)
  マリー=アントワネットの画家ヴィジェ・ルブラン -華麗なる宮廷を描いた女性画家たち- 感想後編(三菱一号館美術館)

ジョシュア・レノルズ 「ウェヌスの帯を解くクピド」 ★こちらで観られます
これは今回のポスターにもなっている作品で、作者はロンドンのロイヤル・アカデミーの創設者にして初代院長だった画家です。左ひじをあげて顔を隠すポーズをした横たわるビーナスが描かれ、傍らではキューピッドが腰の紐を引っ張って見上げています。こちらも優美で柔らかいタッチですが、明暗が強めに思いました。こちらをチラッと見る表情が魅力的です。
解説によると、これはエカテリーナ2世の重要なパートナーだったポチョムキン・タヴリーチェスキー公爵のために描かれたそうで、人気作になり繰り返し模写されたようです。

ユベール・ロベール 「古代ローマの公衆浴場跡」
回廊状に柱が並ぶローマ風の建物を描いた作品です。中庭の部分には巨大なプールのような浴場があり、手前では建物の中で休んでいる様子が描かれています。アーチごしに見る構図や古代の理想的な風景はユベール・ロベールの特徴じゃないかな。のんびりした雰囲気がありました。
 参考記事:
  ユベール・ロベール-時間の庭 感想前編(国立西洋美術館)
  ユベール・ロベール-時間の庭 感想後編(国立西洋美術館)

ピエール=ナルシス・ゲラン 「モルフェウスとイリス」 ★こちらで観られます
この画家はロマン派のドラクロワとジェリコーの師匠ですが、伝統的な画風の新古典主義の画風です。裸体の虹の女神イリスが夢の神モルフェウス(こちらも裸体)を起こしている様子が描かれていて、イリスの背には半透明の羽のようなものがはえていて背景に虹があります。横になっているモルフェウスは伸びをしているような感じかな。どこかルーベンスを思わせるような肉体表現が美しく、ドラマチックな場面となっていました。

オラース・ヴェルネ 「死の天使」 ★こちらで観られます
ベッドの上のロザリオを首から下げた白い服の金髪の女性が天を指さすようなポーズで、その背後には女性を持ち上げるような黒い翼の天使?が描かれています。ベッドの脇には祈るポーズの女性がいて、どうやら死の天使が白い服の女性を迎えに来たようです。ちょっと怖い場面ですが、上から光がさして神聖な雰囲気がありました。
解説によるとこの画家はベルサイユ宮殿の「戦争の間」の装飾を手がけた画家だそうです。また、この作品の6年前に娘をなくしているとのことでした。


<第4章 19世紀 ロマン派からポスト印象派まで:進化する世紀>
続いてはロマン派、写実主義、バルビゾン派、印象派、ポスト印象派など近代のコーナーです。各画家の作品は数点ずつですが、有名画家の作品が並んでいました。

ジョゼフ・ベイル 「少年料理人」
椅子に座って足を伸ばし、右手にワイングラスを持つ少年が描かれた作品です。白い帽子や赤と白の服装からして料理人のようですが、悪戯っぽく笑い酔っ払っているように見えますw 左手は大きな金属製の鍋に触っているのですが、金属がテカテカ光った感じの写実的な表現でした。左に描かれた樽の上にはよく似た2匹の猫が少年を見ているのもちょっと可愛かったです。

この辺にはドラクロワの作品などもありました。

ジュール・ルフェーヴル 「洞窟のマグダラのマリア」
岩にのけぞって肘を上げている裸のマグダラのマリアを描いた作品です。表情は見えませんがポーズから苦しそうな感じを受けました。滑らかな肌や光の当たった表現などは神話的な感じも受けました。

アンリ・ファンタン=ラトゥール 「水の妖精ナイアス」
水中をかき分けるように歩く裸婦を描いた作品で、これは水の妖精ナイアスのようです。ぼんやりとした表現で表情は見えませんが全体的に幻想的な雰囲気がありました。

カミーユ・コロー 「森の中の沼」
森の中の沼を描いた作品で、沼のほとりで赤い帽子?の人物が釣りをしています。森の木々そのものが主役のような絵で、空気感はコローならではの柔らかさでした。

この隣にあったT・ルソーの作品も好みでした。

アルフレッド・シスレー 「ヴィルヌーヴ=ラ=ガレンヌ風景」
水平に流れる川の岸の木陰から対岸を観たような風景画です。対岸には家々が並び人の姿もちらほら見えて明るくのんびりした雰囲気です。手前は影が落ちて暗くなっているせいか一層に明るく思えました。いかにも印象派という感じで心休まる風景です。

クロード・モネ 「霧のウォータールー橋」 ★こちらで観られます
これはポスターにもなっている作品で、霧に包まれたロンドンのウォータールー橋が描かれています。水面にはぼんやりと2艘の船が浮かび、1つはアーチの下をくぐっているようです。よく観ると背景には高い煙突もぼや~っと見えるかな。霧が青や紫で視界を覆っているのが抽象画のようで、繊細な色の使い分けで表現されていました。

ポール・シニャック 「マルセイユ港」
港とそこに浮かぶ帆船が描かれた作品です。オレンジ、水色、緑、紫などの点描で描かれタイル画のような感じにも見えます。色の対比的な置き方は流石で、シニャックの点描技法が遺憾なく発揮されていました。

この近くにはヴァロットンやドニ、ルノワール、セザンヌなどもありました。


<第5章 20世紀 マティスとその周辺:アヴァンギャルドの世紀>
最後は20世紀のコーナーです。素朴派、フォーヴィスム、キュビスムなどの作品が並んでいました。

アンリ・ルソー 「ポルト・ド・ヴァンヴから見た市壁」 ★こちらで観られます
曇った空の下、左側に白い壁、右側に木々が並ぶところを描いた作品です。何故か中央に空にかかるようにハシゴが立っているように見えます。また、周りには何人か散歩しているのですが、オモチャの人形のようでどこかシュールなものすら感じます。恐らく実際の光景だと思うのですが、ルソーにかかると幻想的な雰囲気になるのが面白かったです。

アンリ・マティス 「赤い部屋(赤いハーモニー)」 ★こちらで観られます
これは今回のポスターにもなっている作品で、結構大きめです。鮮やかな赤で室内を描いていて、果物の乗った台を持つ女性や、テーブルの上の果物、花瓶なども描かれています。 テーブルの模様と壁紙の模様が両方とも植物で似ていて、色もほぼ同じなので平坦に見えるかな。左上には窓(画中画?)があり、そこには緑の野が広がっているのですが、補色関係のためか赤がより一層引き立って見えました。解説によると、元は青い部屋だったものを完成後に赤く塗り替えたそうで(絵にもその痕跡がある)、マティスは「色彩を歌わせることしか考えなかった」と語っていたそうです。

パブロ・ピカソ 「マンドリンを弾く女」 ★こちらで観られます
ピカソのキュビスム時代の初期に描かれた作品で、マンドリンを弾く女性が椅子に座っている様子が描かれています。キュビスムらしい幾何学的・多面的な感じで、女性の顔はこの頃に博物館で観たアフリカの彫刻に影響を受けているようです。控えめな色でまだ具象性があるかな。右下には果実とナプキンが置かれていたのですが、これはセザンヌを意識したものでは?とのことでした。

最後にはデュフィの作品もあり、それも好みでした。



と言うことで、私としては後半のほうがより楽しめる内容となっていました。ロシアの美術館ですがこの展示はヨーロッパ美術の歴史そのものという感じです。既に大盛況のようでしたが、会期末になると混みあう可能性があるので、気になる方はお早めにどうぞ。


 参照記事:★この記事を参照している記事


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