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マックス・エルンスト-フィギュア×スケープ 時代を超える像景 (感想前編)【横浜美術館】

10日ほど前の土曜日に、横浜美術館へ行って「マックス・エルンスト-フィギュア×スケープ 時代を超える像景」を観てきました。やや難解な作品が多くメモを多めに取ってきましたので、前編・後編に分けてご紹介しようと思います。

P1010545.jpg

【展覧名】
 マックス・エルンスト-フィギュア×スケープ 時代を超える像景

【公式サイト】
 http://www.yaf.or.jp/yma/jiu/2012/ernst/index.html

【会場】横浜美術館  ★この美術館の記事  ☆周辺のお店
【最寄】JR桜木町駅/みなとみらい線みなとみらい駅


【会期】2012年4月7日(土)~6月24日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日14時頃です)】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
私が行ったのは開港記念日で無料だったこともあってか、お客さんは多めでした。それでも特に混んでいるというほどでもなく、自分のペースで観ることができました。

さて、この展示はシュルレアリスムの画家、マックス・エルンストの個展となっています。冒頭の趣旨によると、今回はシュルレアリスムという枠を一旦外して、エルンストの「フィギュア(像)」と「スケープ(風景)」というモチーフから検証しなおすものだそうです。
エルンストの作品には鳥、天使、あどけない顔の者たち、グロテスクな怪物的存在など様々なフィギュア(像)が登場しますが、中でも「ロプロプ」というエルンストの内なる自我と鳥と人の合体した姿はたびたび作品中に出てくるようです。しかし、その姿は偶然に見つけた形を元にしているので変幻自在らしく、下地の空間表現(スケープ)とは形でも意味でも強く結びついているとのことで、今回の展示でもそれを確認することができます。
展示構成は時代ごとに3章に分かれていましたので、詳しくは章ごとにご紹介しようと思います。

 参考記事:
  シュルレアリスム展 感想前編(国立新美術館)
  シュルレアリスム展 感想後編(国立新美術館)
  シュルレアリスム展 2回目 (国立新美術館)


<第1章 フィギュアの誕生 1919-1927>
まずは初期のコーナーです。エルンストは正規の美術教育は受けておらず、ボン大学では哲学、心理学、美術史を学んだそうです。しかし、父のフィリップはドイツロマン派の伝統を受け継ぐ日曜画家でエルンストを絵画に導いたようです。エルンストは1914年の第一次世界大戦に従軍し、その後1919年にヨハネス・テオドール・バールゲルトらとケルン・ダダのグループを立ち上げます。デ・キリコに触発され「流行は栄えよ、芸術は滅びるとも」という作品を制作したのですが、そこに描かれたマネキン状の人物は人格を捨象され肖像画とは違う次元に存在していると考えられ、このような像が最初に登場したフィギュアと言えるようです。また、1919年はコラージュの発見の年でもあり、エルンストも挿絵や写真を見て呼び起こされた幻覚を観たとおりに図版に加筆する作品を制作し、それをコラージュと呼んだそうです。ここにはそうした作品が並んでいました。

1-1~1-9 マックス・エルンスト 「流行は栄えよ、芸術は滅びるとも」
これは先述したマネキンのような人物が出てくる9枚の作品のシリーズで、様々な動きを見せるマネキンたちや形而上絵画のような雰囲気は確かにデ・キリコの作風を思わせます。また、直線が多用されていて、所々に数式や文字が描きこまれているなど意味深な感じでした。幾何学的で人間(人形?)に個性が無い作品です。

4~5 マックス・エルンスト/ポール・エリュアール 「反復」
これはエルンストとポール・エリュアールの合作の詩画集です。1921年にエルンストの個展が開かれた際、それを観たフランスの詩人ポール・エリュアールに詩を捧げて貰ったそうで、その後ポール・エリュアール夫妻がケルンのエルンストを訪れると、生涯の友情に繋がっていったそうです。そして2人の最初の共同制作がこの作品で、2つ並んで展示されています。1つは謎の機械を摘む指が窓から出てくる様子や、足跡が重なったり花を持つ手などが描かれていて、右側には橋も描かれています。そしてもう1つは人の後ろ姿や倒れた人々の塊? 角に何かささった鹿?などちょっとよく分からない感じです。 意味有りげでしたが結構難解に思えました。なお、これはマグリットが所蔵していた品のようでした。

3 マックス・エルンスト 「聖対話」
これはケルンで製作された最も重要なコラージュだそうで、2人の人物が描かれています。右は女性の胴体と足、頭には横向きの鳩が描かれていて、左は男性で、解剖人形のような胴体で腰のあたりに鳩、肺は可動翼式の実験航空機の写真のようです。ちょっと機械的なような神秘的なような、相反する印象を受けました。
なお、展覧会の最後の方にはこの作品を下敷きに描いた「美しき女庭師の帰還」という作品があるのですが、その前に「美しき女庭師」という作品もあったそうです。「美しき女庭師」はナチスに押収され「頽廃芸術展」(近現代の前衛芸術をやり玉に挙げて嘲笑する展覧会)に展示され、その後行方不明となったとのことで、「美しき女庭師の帰還」はそのリメイクのようなものみたいです。(次回の記事で後述します)


<第2章 採掘されたフィギュア・スケープ 1925-1952>
続いて2章は両大戦間のフランスと、第二次世界大戦中以降にアメリカで制作した作品のコーナーです。エルンストは1924年頃、フロッタージュ(すり出し)技法が精神の奥底に豊富に埋蔵されたイメージを引き出す有効な手段であると突き止め、その成果を「博物誌」という版画集にまとめ「自然」という意味を与えたそうです。また、絵の具を置いたキャンバスの下に凹凸の素材を敷いて、パレットナイフなどで絵の具をすり落とす「グラッタージュ」という技法や、画面上に塗られた絵の具をガラス板などで押しつぶして染みを作るデカルコマニーという技法なども開発したようです。こうした偶然を活かした技法がエルンストにとって「自然」とのことで、ここにはそうした作品が並んでいました。

11 マックス・エルンスト 「怒れる人々(訴え)」
これは油彩画で、中央に顔の周りに赤いものを被ったような人物が描かれ、手を挙げているのかな? 背景は黒で抽象的なせいか、観ていてちょっと不安な気分になってきますw ざらついた感じで、これがグラッタージュかな?

14 マックス・エルンスト 「籠の中の鳥」
これは小さな油彩で、青い柵の中にエルンストによく出てくる目の丸い鳥が収まっているように見えます。何故か柵の方が奥にあり、どことなく虚無感のようなものがあるように思いました。
解説によると、1925年頃にこうした籠の中の鳥という主題に集中的に取り組んだそうです。この辺りには数点そういった作品が並んでいました。

20 マックス・エルンスト 「石化した森」
岩山のような石化した森が描かれ、その背景に白いリング状のものが描かれた作品です。これはエルンストが3歳の頃の体験から魅惑と恐怖を感じていた森と、「蝕」(金環日食みたいな)の天体を描いているようです。辺りが暗いこともあり、ちょっと重くて神秘的な雰囲気がありました。これも観ていて不安を感じますw
この辺には似た作品がありました。ざらついた感じの木と言うか岩というか…。

12-2~12-35 マックス・エルンスト 「博物誌」
すり出し技法の「フロッタージュ」で描かれた30枚以上から成る版画作品です。確かに生物や植物、鉱物などの自然物を思わせるような、どこか奇怪なものが描かれていて、それぞれのタイトルも「魅惑的な糸杉」「種痘されたパン」など面白い名前になっています。解説によると、これは聖書の「創世記」になぞられているそうで、深い意味がありそうでした。

その後はコラージュのコーナーでした。コラージュは一時中断していたそうですが、1928年から再開し、「百頭女」「カルメル修道会に入ろうとしたある少女の夢」「慈善週間または七大元素」の3部を制作して「コラージュ・ロマン(コラージュの小説)」と呼んだそうです。展示はその3部の本やコラージュが並び、意外とヨーロッパの古くからの画風の作品を使ってコラージュしていえうようでした。

少し進むと彫刻も2点ほどありました。植木鉢を形として使ったもので、トーテムポールや埴輪を彷彿とします。

この部屋の最後の辺りにはポール・エリュアールの為の挿絵や、アンドレ・ブルトンの為の挿絵なども並んでいました。


ということで、まだ2章の途中ですが、この辺で半分くらいなので今日はここまでにしておきます。若干難しい内容となっていて、パッと見て理解できない作品も結構ありますが、意味を考えるよりも感じることに集中したほうが良いかもしれません。後半には今回の目玉になるような作品もありましたので、次回はそれをご紹介しようと思います。


  → 後編はこちら


 参照記事:★この記事を参照している記事


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Comment
No title
こんにちは。

開港記念日の無料開館、混んでいるかと思い行かなかったのです。。。
元々シュルレアリスムがあまり好みではないのもありまして。
そんなに混雑していなかったなら、せっかくですし行けばよかったですね…
Re: No title
>naotomomoさん
コメント頂きましてありがとうございます。

この日は開港記念日であちこち混んでいたのですが、
不思議とこの展示はそこまで混雑感はありませんでした。

この展示は版画も多いし、シュルレアリスムが苦手な人にはピンとこない作品もあるかもしれませんw
とは言え、シュルレアリスムは心の中を覗くような不思議さがあるので、私は面白く感じました。
まあ、人それぞれ好みはありますからね^^
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