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浮世絵猫百景-国芳一門ネコづくし- (前期 感想前編)【太田記念美術館】

10日ほど前の日曜日に、原宿の太田記念美術館で「浮世絵猫百景-国芳一門ネコづくし-」を観てきました。この展示は前期・後期で大きな入れ替えがあるそうで、この時観てきたのは前期の内容となります(既に前期は終了) メモを多めに取ってきましたので、前編・後編に分けてご紹介しようと思います。

P1010921.jpg

【展覧名】
 浮世絵猫百景-国芳一門ネコづくし-

【公式サイト】
 http://www.ukiyoe-ota-muse.jp/H240607nekozukushi.html

【会場】太田記念美術館  ★この美術館の記事  ☆周辺のお店
【最寄】原宿駅、明治神宮前駅


【会期】
 前期:2012年06月01日(金)~2012年06月26日(火)
 後期:2012年06月30日(土)~2012年07月26日(木)
  ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日14時頃です)】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
思った以上の賑わいで、通路が狭いこともあり結構混雑した感じでした。特に2階は混み合っていて、場所によっては作品を観るのにちょっと待つくらいです。逆に地下はスペースに余裕があるのでさほど気にならない程度でした。

さて、今回の展示は、タイトルに「猫百景」や「ネコづくし」と入っているように猫を描いた浮世絵が前期後期合わせて243点も集まるという内容で、まさに猫が主役の展覧会となっています。主に歌川国芳とその門弟の描いた作品が中心(門下でないものもあります)で、猫好きで奇想の絵師だった国芳の魅力が存分に発揮された作品が多かったように思います。主題などで章分けされていましたので、詳しくは各章で気に入った作品と共にご紹介しようと思います。

 参考記事:
  歌川国芳-奇と笑いの木版画 (府中市美術館))
  破天荒の浮世絵師 歌川国芳 前期:豪傑なる武者と妖怪 (太田記念美術館))
  破天荒の浮世絵師 歌川国芳 後期:遊び心と西洋の風 感想前編(太田記念美術館)
  破天荒の浮世絵師 歌川国芳 後期:遊び心と西洋の風 感想後編(太田記念美術館)
  奇想の絵師歌川国芳の門下展 (礫川浮世絵美術館)
  没後150年 歌川国芳展 -幕末の奇才浮世絵師- 前期 感想前編(森アーツセンターギャラリー)
  没後150年 歌川国芳展 -幕末の奇才浮世絵師- 前期 感想後編(森アーツセンターギャラリー)
  没後150年 歌川国芳展 -幕末の奇才浮世絵師- 後期 感想前編(森アーツセンターギャラリー)
  没後150年 歌川国芳展 -幕末の奇才浮世絵師- 後期 感想後編(森アーツセンターギャラリー)
  月岡芳年「月百姿」展 後期 (礫川浮世絵美術館)


<肉筆>
まずは座敷に上がるコーナーで、ここは作品リストの上では各章に組み込まれていますが、様々な画題の肉筆の掛け軸が並んでいました。

43 月岡雪鼎 「髪すき」
これは掛け軸で、こたつに向かって髪を結ってもらいながら長い手紙を読む女性が描かれています。その左には手紙にじゃれつく三毛猫の姿があり、ほのぼのした雰囲気です。猫らしい手の動きも面白かったw

36 月岡芳年 「歌川国芳肖像」
こちらも掛け軸で、簡素に描かれた国芳の肖像が描かれています。座って振り返るポーズで、その傍らには白い猫の姿もあり、のんびりした雰囲気が出ています。猫好きだった師匠への月岡芳年の愛情が感じられる作品でした。


<第一景 猫百変化>
まず1章は猫たちが様々に化ける様子を描いた作品のコーナーです。擬人化された猫や、猫が集まって別のものを表す作品などが並びます。

1 歌川国芳 「猫の当字 かつを」 ★こちらで観られます
これは国芳展があると高確率で目にするシリーズかも?w 猫が「かつを」という文字に見えるように集まっている様子を描いたものです。袋を被っていたり、鰹を食べていたり、喧嘩していたりと猫たちも様々な様相です。ちょっとトボけた猫たちが何とも可愛らしく、発想・構図も非常に面白い作品でした。

4 歌川芳藤 「小猫をあつめ大猫とする」 ★こちらで観られます
これは今回のポスターにもなっている作品で、たくさん(19匹)の猫たちが集まって振り返る三毛猫の姿になっている作品です。若干、集まり方が無理やりな感じがしないこともないw こうした何かを寄せ集めて別のものにする作品はジャンル化され「寄せ絵」と言うそうですが、師匠の国芳も「みかけはこはゐがとんだいゝ人だ」という作品のように人が集まって大きな人になる作品を残しています。そのため、この絵は猫好きで寄せ絵を得意とした師匠譲りの作品のように思いました。

この隣には猫と鈴が集まって化け猫になる5「五拾三次之内猫之怪」などもありました。

10 歌川国芳 「流行猫の曲鞠」 ★こちらで観られます
擬人化され裃を着た10人の猫の侍たちが、鞠を蹴ったり背中に乗せたりと鞠の曲芸を行なっている様子が描かれた作品です。これは曲鞠の名人である菊川国丸の実演姿を猫に見立てたそうで、何とも楽しげです。ぽんぽん蹴ってるような動きが感じられるのも面白いでかったw

17 歌川国芳 「猫の百面相 忠臣蔵」
これは擬人化された猫の肖像が7人分描かれた団扇で、忠臣蔵を演じた役者の顔に見立てて描かれています。キリッとした表情が猫っぽくなくて何か可笑しいw これは恐らく天保の改革で役者絵を禁じられた頃の作品じゃないかな? これは役者絵じゃなくて猫です!と言い張るための擬人化ではないかと。解説によると、これはシリーズもののようですが4図しか確認されていないそうです。隣にその1つが展示されていました。

26 歌川国芳 「初雪の戯遊」
3枚セットの続き絵で、右と中央の2枚には雪で作った大きな猫の像があり、その周りには着物の女性たちが裸足に素手で雪猫を作っている様子が描かれています。みんな楽しそうな表情をしていて、非常にハツラツとした印象を受けました。初雪が嬉しくて喜んでいるのかな?

この近くには白猫が集まって骸骨の模様になっている服を着た人物画30「国芳もやう 正札附現金男 野晒悟助」(★こちらで観られます)もありました。

142 牧金之助 「佐賀夜桜猫退治」
これは紙を繰り抜いて作るジオラマのような作品で、佐賀の化猫騒動に取材しているそうです。(佐賀の化猫騒動については後の章でご紹介します) 屋敷の庭に2又の猫が大勢の武者に囲まれ戦っている様子で、立体になっている為 臨場感がありました。おもちゃ絵みたいな感じで面白い仕掛けです。


<第二景 猫の一日~遊んで眠ってしかられて>
2章からは2階です。2章には猫の日常を描いた作品が並んでいました。2階は狭い通路の両側に展示品が並ぶので、特に混んでいます。

49 鈴木春信 「水仙花」
こたつに座る2人の着物の女性と、こたつの上で寝る猫を描いた作品です。左の女性はこたつの先にまで足を伸ばしているのですが、それを右の女性がくすぐっているのが微笑ましい光景です。猫はそんなことお構いなしでゴロっとしていて気持ち良さそう…。平穏な雰囲気の漂う作品でした。

65 喜多川歌麿 「針仕事」
布をたたんでいる?母親と、傍らの子供が描かれた作品で、母親が相手をしてくれないせいか、子供は鏡を持って猫に見せています。猫は自分の姿を観て威嚇する姿勢(前かがみで腰をあげるポーズ)をして警戒しているようでした。猫にはちょっと可哀想ですが、犬猫を飼うと誰もが1回はこれをやるんじゃないかなw 悪戯心を感じる作品でした。

62 歌川国芳 「七小町 雨こい小町」
前かがみで下を向き、手に持つ徳利を覗きこむ着物の女性と、その足元の2匹の猫を描いた作品です。1匹は女性にじゃれつき、もう1匹は忍び足で女性に近づいてきます。女性のポーズを含めて楽しげな雰囲気です。右上には小野小町が雨乞いの歌を詠んだところ雨が降ったという伝説を描いた画中画もありました。

72 歌川国芳 「艶姿十六女仙 豊干禅師」
手を裏返しに組んで伸びをする女性と、腰を高く上げてあくびをする虎猫が描かれた作品で、眠さがシンクロしている感じかな。そして、右上には寒山・拾得の師匠で虎を従えていたとされる豊干禅師が描かれています。豊干禅師、虎、寒山、拾得が寝ている四睡図は日本画でもよく題材にされますが、それを美人と猫に関連付けているのが面白いです。さらに賛には寅の刻(16時)に起きたという書かれているようで、虎・猫づくしの1枚でした。

58 月岡芳年 「風俗三十二相 あつたかさう 寛政年間町家後家の風俗」
月岡芳年の○○さうのシリーズの1枚で、こたつに本を置いて美女の未亡人(後家)が温まっています。そしてその上に猫が寝転がっているのですが、ちょっと変な姿勢に見えるかな。これも冬の穏やかな時間を思わせる、心まで温まりそうな作品でした。
 参考記事:東京国立博物館の案内 (2009年11月)


<第三景 猫のお化け>
続いては化け猫を描いた作品のコーナーです。猫は夜行性でふらっと出かけたり謎めいた行動をとること等から、歳を重ねた猫は人語を解す尾の分かれた猫又になると考えられてきたようです。ここにはそうした猫のお化けを描いた作品が並んでいました。

93 歌川国貞(三代歌川豊国) 「八代目市川団十郎の伊東壮太 四代目市川小団次の後室さがの方 四代目尾上梅幸の愛妾胡蝶」
これは鍋島(佐賀)の化け猫騒動を題材にした作品で、3枚続きで1枚に1人ずつ役者が描かれ、中央と右には屏風の中から猫と子供が抜け出して踊りを踊っている様子が描かれています。妖怪とは言え可愛らしく、特に今まさに絵から出てくる猫が面白いです。

今回の展示で何回か出てくる鍋島の化け猫騒動についてですが、これは佐賀藩の2代目当主である光茂が臣下を惨殺したのを機に起った騒動だそうです。臣下の母は飼っていた猫に悲しみの胸中を語り自害し、その母の血を舐めた猫が化け猫となり、城内に入り込んで光茂を毎晩苦しめたそうです。最後は忠臣の子守半左衛門によって退治されるのですが、この騒動は歌舞伎の題材にもなったそうで、藩から上演中止の申し立てがあったそうです。どこまで本当か分かりませんが、当時の絵師たちのインスピレーションにもなった様子がよく分かります。

このコーナーには85歌川国芳の「五拾三次之内 岡崎の場」もありました。


ということで、序盤から猫の可愛さ・可笑しさが表現された作品が並んでいます。後半は猫の役割のようなものを描いた作品もありましたので、次回はそれをご紹介しようと思います。


  → 後編はこちら


 参照記事:★この記事を参照している記事

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