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福田平八郎と日本画モダン 【山種美術館】

先週の日曜日に、恵比寿の山種美術館へ行って「特別展 生誕120年 福田平八郎と日本画モダン」を観てきました。この展示は前期・後期に期間が分けられていて、私が行ったのは後期の内容でした。

P1020759.jpg

【展覧名】
 特別展 生誕120年 福田平八郎と日本画モダン

【公式サイト】
 http://www.yamatane-museum.jp/exh/current.html

【会場】山種美術館  ★この美術館の記事  ☆周辺のお店
【最寄】JR・東京メトロ 恵比寿駅


【会期】2012年5月26日(土)~7月22日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況(日曜日14時半頃です)】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
予想以上に混んでいて、あちこちの作品に人だかりができるような感じでした。

さて、今回の展示は大正から昭和にかけて活躍した日本画家、福田平八郎と同時代の画家たちがテーマとなっていました。
入口辺りに簡単な略歴があり、それによると福田平八郎は大分県生まれで、1910年の中学3年の際、留年したのをきっかけに画家を目指すようになり、京都市立絵画専門学校別科に籍を置きました。その翌年には京都市立美術工芸学校に入学し、竹内栖鳳ら京都画壇の教授陣の指導を受けます。1915年には京都市立絵画専門学校のに再入学し、1917年に卒業しました。 その後は第1回帝展に入選するなど早くから才能を開花させ、京都市立絵画専門学校の助教授や京都市立美術工芸学校の教諭にも就任したそうです。
福田の画風はシンプルで、色面を使いデザイン的な要素がありますが、最初からそうした画風ではなかったらしく、20~30代にかけては写実性と細部描写に強いこだわりがあったそうです。しかし、昭和に入る頃にスランプに落ち入り、そこから脱却したきっかけは1928年の中国旅行と1930年に結成した六潮会への参加でした。六潮会には洋画家や美術評論家など所属も出身もことなるメンバーが集まり、京都画壇しかしらなかった福田平八郎の研鑽の場となっていきました。

展覧会は2つの章に分かれ、前半が福田平八郎で、後半は六潮会のメンバーを含む同時代の画家たちの作品が並んでいました。詳しくは各章ごとに気に入った作品をご紹介しようと思います。


<第1章 福田 平八郎>
まずは福田平八郎のコーナーです。若いころの作品から晩年まで様々な時期の作品がならんでいました。

福田平八郎 「筍」
これは冒頭に展示されていた福田平八郎の特徴がよく分かる作品で、2本のタケノコが描かれています。漆のような茶色い表面で節々から緑の葉が出ていて、背景は薄い線で竹の葉が一面に敷き詰められている様子が描かれています。タケノコは写実的で、単色で輪郭だけの葉っぱと対比的な感じを受けました。シンプルな形にされたデザイン感覚が面白いです。解説によると、これは戦時中に絵を描くのもはばかれる中で、こっそりと京都の竹林で写生していたとのことです。

福田平八郎 「鮎」
赤い半円を背景に、11匹の鮎が泳いでいる様子が描かれています。写実的なようで意匠化されたように見え、身を捻っている姿に動きを感じました。背景が何で赤なんだろう?とちょっと疑問もありますがその理由は分かりませんでした。

この辺は鮎を描いた作品が何点か並んでいました。福田平八郎は釣りが好きだったらしく、釣りをしながらスケッチを描いていたそうです。

福田平八郎 「青柿」
柿の木の1本の枝が描かれた作品で、枝には無数の葉っぱがついています。その葉っぱは非常に明るい青が使われていて、まずその色彩感覚に驚きました。葉脈の部分は黄土色で描かれ、所々に滲みを使った表現も使われているなど、色へのこだわりを感じます。色のインパクトのためか大振りな葉っぱからは強い生命力を感じました。
当時これを見た正井和行氏は、福田平八郎から「君、この絵が分かるか?」と訊かれ、それまでの日本画にない色彩の分割に理解できず「分かりません」と答えたそうです。これは確かに驚く作品でした。

福田平八郎 「花菖蒲」
淡い空色を背景に、2本の青い花菖蒲が並んでいる様子を描いた作品です。しかし、よく観ると根本は3本あり、真ん中の菖蒲は茎も伸びず葉っぱだけ描かれていることがわかります。こちらも単純化されたデザインのようになっていますが、濃淡はつけられているようでした。青と葉っぱの緑が鮮やかで、清純な雰囲気がありました。

近くには花菖蒲のスケッチもありました。スケッチは色鉛筆を使っていたらしく、形や線よりも色を強く感じていたそうです。

福田平八郎 「雨」 ★こちらで観られます
今回のポスターになっている作品で、屋根瓦が並んでいる所をトリミングしたような大胆な構図となっています。瓦の表面は風化したようなざらつきを感じさせ、染みのような丸い点が所々にあります。これは大粒の雨が瓦に落ちてきたのを表現しているらしく、雨が落ちたばかりの所は白い点、染み込んでいる所は黒っぽい点 という感じ1つ1つが違っています。この斬新な構図のリズム感も面白いですが、雨の情感が溢れる繊細な表現力と発想も見事でした。

福田平八郎 「桃と女」
これは24歳の頃に描かれた6曲1隻の屏風で、2人の前掛けをした農婦と、その周りに緑豊かな葉をつける桃の木が描かれています。木は単純化されているようにも見えますが、女性の顔には陰影が付けられ写実性があるようでした。右下には「九州」という落款があり、これは大分出身ということで何気なしにこの名前にしたとのことです。

近くには「牡丹」もありました。この作品はこの美術館でよく観るかな。
 参考記事:百花繚乱 -桜・牡丹・菊・椿- (山種美術館)


<第2章 日本画モダン>
明快な色面と単純化された形態、斬新な構図 といった福田平八郎の打ち出した新しいスタイルは、1930年代以降の日本画壇の傾向でもあったそうです。この章では5つのポイントに分けて同時代の画家を紹介していました。なお、この章のタイトルにもなってる「日本画モダン」というのは本展覧会にあたり監修者の山下裕二氏が考えた造語だそうです。 この章を観てみると的確な名前だと思います。


[琳派へのオマージュ]
加山又造 「涛と鶴(小下絵)」
2枚セットで、図案化された渦巻くような波濤と、その上を舞う無数の銀の鶴たちが描かれた作品です。黒と銀の線の波と 鶴たちの色は落ち着いていて、どこか雅なものを感じました。確かに琳派を思われる色と意匠化があるかな。
ちなみにこの作品は山種美術館の入口を飾っている銅板の壁画の下絵だそうです。

ここには俵屋宗達と本阿弥光悦の合作「四季草花下絵和歌短冊帖」もありました。全然 時代は違いますが、意匠化という点では偉大な先輩かな。
 参考記事:ザ・ベスト・オブ・山種コレクション [前期] 江戸絵画から近代日本画へ (山種美術館)

[主題の再解釈]
ここは後期は落合朗風の「エバ」だけ展示されていました。何度かご紹介したことがあるので今回は割愛。
 参考記事:
  日本画と洋画のはざまで (山種美術館)
  ザ・ベスト・オブ・山種コレクション [後期] 戦前から戦後へ (山種美術館)

[大胆なトリミング・斬新なアングル]
奥村土牛 「北山杉」
土牛の晩年の作品で、手前にゴツゴツした2本の古木があり、横に伸びる枝からはまっすぐ上に伸びる細い木々が大胆な構図で描かれています。淡い色彩と相まって、幻想的で不思議な光景となっていました。

守屋多々志 「慶長使節支倉常長」
これは6曲の屏風で、黄色い屋根の並ぶローマの街並みを背景に、市松模様の床と丸みのある柱が並ぶ回廊が描かれています。その回廊の縁には刀を杖のように持った侍、白黒の猟犬?、右の方にも真っ黒で毛の長い犬の姿もあります。これは江戸時代はじめに伊達政宗がローマに派遣した慶長使節の支倉常長を描いたものだそうで、ちょっとミスマッチな感じが面白いです。きりっとした表情でローマの様子を観ていて、孤高な雰囲気があるように見えました。柱や回廊には影が付けられ、立体感・遠近感があり広々とした奥行きを感じます。日本画と西洋画の中間のような作品でした。

中村岳陵 「晴れし海」
この画家は六潮会のメンバーで、ゴツゴツした岩とその奥にちょっとだけ海が観えている様子を描いています。岩の上には細かい金粉のようなものが散らされていて、ざらついた質感や風格を感じさせました。結構、陰影も強く写実的です。

[構図の妙]
杉山寧 「榕」
青暗い夜の中、複雑に絡み合ううねった木と、オレンジの鳥が描かれています。これは沖縄で写生したガジュマルと、エジプトなどで見たヤツガシラという鳥だそうで、鳥はトサカと長いくちばしが特徴的に見えます。ガジュマルの木は奇妙な形ですが生命力があるように思えました。背景の色のせいか夜の静けさも感じます。

山口蓬春 「榻上の花」
この画家は六潮会のメンバーで、元は洋画科だったものの日本画科に転向した経歴を持っています。この作品は、窓辺の椅子に乗ったアジサイと洋なしが描かれ、見た目やモチーフは洋画そのものです。というのも、山口蓬春はマティスやブラックの作風を日本画に取り入れようとしたそうで、カーテン?の単純化された模様からはマティスからの影響が観られるとのことでした。この和洋折衷は面白くて好みでした
近くには以前見たことがある「夏の印象」(★こちらで観られます)もありました。
 参考記事:文化勲章受章作家の競演 日本絵画の巨匠たち (ホテルオークラ アスコットホール)

[風景のデザイン化]
加倉井和夫 「冱田」
灰色っぽい画面に茶色っぽい四角が規則的に並んだ様子が描かれた作品です。抽象画か?と思ったら、田んぼの稲の刈株を描いたものだそうで、所々に白くなっているところは水が凍っている様子のようです。そう言われて観ると、やや氷が溶けているところや青空の反射なども確認できて、春が近いことを思わせるような光景でした。これは構図の選択や発想も面白かったです。

中村岳陵 「緑影」
川の中を泳ぐ10匹程度の鯉を描いた作品です。列をなして泳ぐ様子は動きを感じさせ、ゆるやかなカーブを描いているのが優雅です。水面には青い空や岸の様子?が反射し、透明感や水のゆらめきを感じました。湖底に影が落ちていたりもするので表現が巧みです。今の時期にぴったりの涼しげな雰囲気の作品でした。

続いて第二会場です。

正井和行 「流水」
福田平八郎の唯一の弟子と言える人の作品で、手前に砂浜に立つ細い杭、そして奥に向かって蛇行していく白い川が描かれています。これは大井川の河口だそうで、広々として、川が光って観えます。神秘的な一方で、全体的に灰色っぽいせいか少し寂しげな雰囲気がありました。単純化されたところは先生に似ているように思えます。


ということで意外と福田平八郎の作品は少なく、代表作の「漣」は前期のみで観られなかったのが残念でしたが、それでも楽しむことができました。もうすぐ終わってしまいますので、興味がある方はお早めにどうぞ。


 参照記事:★この記事を参照している記事


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