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バーン=ジョーンズ展-装飾と象徴 (感想前編)【三菱一号館美術館】

先週の土曜日に、東京・有楽町の三菱一号館美術館に行って「バーン=ジョーンズ展-装飾と象徴」を観てきました。満足度の高い展示でしたので、前編・後編に分けてじっくりご紹介しようと思います。

P1020797.jpg

【展覧名】
 バーン=ジョーンズ展-装飾と象徴

【公式サイト】
 http://www.mimt.jp/bj/

【会場】三菱一号館美術館
【最寄】東京駅・二十橋前駅・有楽町・日比谷駅


【会期】2012年6月23日(土)~2012年8月19日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日14時頃です)】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
予想していたより空いていて、快適に鑑賞することができました。こんなに充実した展覧会なのにある意味驚きです。

さて、今回の展示はイギリス絵画の巨匠エドワード・バーン=ジョーンズの個展です。
バーン・ジョーンズと言うとアーツ・アンド・クラフツ運動の旗手ウィリアム・モリスとの繋がりや、師匠のロセッティからの流れでラファエル前派の文脈で紹介される機会が多いように思いますが、意外にもバーン=ジョーンズの個展は日本で初めてだそうです。展覧会はバーミンガム美術館の所蔵品を中心に、国内外の厳選された作品が80点ほどの集まった濃い内容で、主題となる題材ごとに章分けされていました。詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介しようと思います。
なお、ラファエル前派やアーツ・アンド・クラフツに関する解説は少なめでしたので、ご存じない方は参考記事を読んで頂ければと思います。
 参考記事:
  ラファエル前派からウィリアム・モリスへ (横須賀美術館)
  ラファエル前派からウィリアム・モリスへ (目黒区美術館)
  ウィリアム・モリス ステンドグラス・テキスタイル・壁紙 デザイン展 (うらわ美術館)


<ポートレート-画家と自画像>
まず最初にエドワード・バーン=ジョーンズの肖像画がありました。

ジョージ・フレデリック・ワッツ 「エドワード・バーン=ジョーンズの肖像」
同時代のワッツによるエドワード・バーン=ジョーンズを描いた肖像で、暗闇に浮き上がるようにヒゲが長い初老の男性の顔が写実的に描かれています。知的な雰囲気があり、穏やかそうな顔でした。解説によると、バーン=ジョーンズはワッツが庇護を受けていたプリンス家の芸術サロンに通い、美術批評家のジョン・ラスキンやワッツから様々な影響を受けていたそうです。


<旅立ち-「地上の楽園」を求めて>
バーン=ジョーンズは早くからギリシア神話、アーサー王の物語、チョーサーの詩、トリスタンとイゾルデなど複数の物語に興味を持っていたそうで、ここはその出発点を示すコーナーです。
親友のウィリアム・モリスは神話や伝説を独自の解釈でアレンジして長編詩「地上の楽園」を書きました。その際、バーン=ジョーンズが挿絵を描く計画があったようですが、結局挿絵は実現せずテキストだけで出版されました。しかし、バーン=ジョーンズはこの「地上の楽園」から主題の提示と暗示を受けて、多くの作品を制作したようです。解説ではバーン=ジョーンズの生涯は、モリスが活字で実現しようとした「地上の楽園」を絵画で具現化する歩みと言えるとのことでした。

エドワード・バーン=ジョーンズ 「迷宮のテセウスとミノタウロス-タイル・デザイン」
石を積み上げた迷宮の中、アリアドネの糸と剣を持って進むテセウスが描かれた作品です。角を曲がった奥には頭だけ覗かせてじ~~っと待ち構えるミノタウロスの姿もあり、物語的な雰囲気があります。しかしミノタウロスはちょっと可愛く見えるかなw 足元には小さな花?や骨が沢山転がっている描写も面白かったです。

近くにはアーサー王や、トリスタンとイゾルデの物語を描いた作品もありました。そして次の部屋の最初には「オックスフォード・ケンブリッジ・マガジン」という本があり、これは7人の同志を結成して刊行した全12号の本(展示は1号と2号)で、キリスト教社会主義の理想を唱えているようです。ここでバーン=ジョーンズは優れた文才も発揮したそうで、最初期の挿絵も入っていました。(絵はコピーのみ)

エドワード・バーン=ジョーンズ 「慈悲深き騎士」 ★こちらで観られます
粗末な建物の中で跪いて祈る姿の黒い鎧の騎士と、それを向かい入れるように手を差し伸べるキリストを描いた作品で、背景には森や花々などが描かれています。これは11世紀のフィレンツェにいた聖グアルベルトの逸話を題材にしたものだそうで、聖グアルベルトが兄弟の仇を討とうとした際、相手が命乞いしてきたので相手を赦しました。するとその後立ち寄った教会(粗末な建物に見えますが)でキリストの祝福を受けたらしく、これはまさに祝福のシーンのようです。ラファエル前派の特徴を受け継いでいるとのことで、確かに色鮮やかで緻密な描写や、草花への視線はそうした雰囲気が強かったように思います。

この辺は素描などが展示されていました。


<クピドとプシュケ-キューピッドの恋>
1865年にウィリアム・モリスが書いた物語詩「クピドとプシュケ」は、バーン=ジョーンズに本のデザインを任せたそうですが、様々な理由によって見送られたそうです。しかしバーン=ジョーンズの描いた原画はその後、クピドとプシュケとを主題にした作品の源になったそうです。ここにはそうした作品が並んでいました。

エドワード・バーン=ジョーンズ/ウォルター・クレイン 「泉の傍らに眠るプシュケをみつけるクピド」-連作「クピドとプシュケ」(パレス・グリーン壁画)
木?で出来たテラスのような所で、だらんと寝転んでいる上半身半裸の女性プシュケと、その隣でプシュケの顔を覗き込むように立つクピドが描かれた作品です。クピドの背には青い羽が生え、手には弓を持ち、肩には衣が丸くなったものが掛かっています。クピド(キューピッド)は意外と大人っぽく描かれ、流れるような衣のひだの表現などが見事でした。
解説によると、これは1872年に裕福な地方貴族のジョージ・ハワードによってモリス商会に依頼されたそうですが、バーン=ジョーンズは多忙で数年後にウォルター・クレインに引き継いだそうです。しかしその出来に満足できず、結局自分で修正の筆を入れて、完成したのは10年も後だったそうです。
この隣にも同じシリーズの「プシュケを山へ運ぶゼフュロス」という作品もありました。また、「クピドとプシュケ-11点一組の水彩習作」という習作もあります。

次の部屋にはウィリアム・モリスの「地上の楽園」の本もありました。全8巻で24編あるそうです。


<聖ゲオルギウス-龍退治と王女サブラ救出>
この章では聖ゲオルギウスの龍退治に関する作品が並んでいました。聖ゲオルギウスは伝説上の聖人で、リビアのシレーヌで毒を持ち生贄を要求するドラゴンを倒し、王女を助けたとされる人物です。(後にマクシミリアヌス帝治下でキリスト教弾圧で殉教)
 参考記事:ベルリン国立美術館展 学べるヨーロッパ美術の400年 (国立西洋美術館)

エドワード・バーン=ジョーンズ 「闘い:龍を退治する聖ゲオルギウス」-連作「聖ゲオルギウス(全7作品中の第6)」
黒い鎧に赤いマントを羽織った騎士が、足元の黒い怪物(龍)の口に剣を突き刺すシーンが描かれた作品です。隣には祈るようなポーズで見守る白い服の王女の姿もあります。龍はトカゲか犬のような姿で這いつくばり、キバで応戦しています。一方、騎士は冷淡な感じの表情で、王女は不安げな顔をしていました。解説によると、龍は異教、王女はキリスト教を象徴するそうです。ちなみにバーン=ジョーンズは画家になる前は聖職への道を志していたのだとか。

この辺には兜や、槍で怪物を刺す裸体像の素描などもありました。

なお、バーン=ジョーンズは学生時代に美術批評家のジョン・ラスキンと親交を得たことにより、イタリア15世紀の画家たちに関心を持ったそうです。1859年に初めてイタリアを訪れた際にはヴェネツィアでカルパッチョの絵を模写していたようです。
 参考記事:
  世界遺産 ヴェネツィア展 ~魅惑の芸術-千年の都~ 感想前編(江戸東京博物館)
  世界遺産 ヴェネツィア展 ~魅惑の芸術-千年の都~ 感想後編(江戸東京博物館)


<ペルセウス-大海蛇退治と王女アンドロメダ救出>
続いてはギリシア神話のペルセウスを題材にした作品のコーナーで、この話もモリスによって物語詩に翻案されたそうです。バーン=ジョーンズは1875年に政治家に新居の装飾を依頼され、大量の準備デッサンを制作したそうで、その出発点はモリスの挿絵本のための下絵や大英博物館での壺絵の研究だったようです。
 参考記事:
  大英博物館 古代ギリシャ展 究極の身体、完全なる美 感想前編(国立西洋美術館)
  大英博物館 古代ギリシャ展 究極の身体、完全なる美 感想後編(国立西洋美術館)

エドワード・バーン=ジョーンズ 「果たされた運命:大海蛇を退治するペルセウス」-連作「ペルセウス」 ★こちらで観られます
今回のポスターにもなっている1.5m四方くらいある大きな下絵で、左に背を向ける裸婦(アンドロメダ)、右に長く渦巻くような青い大海蛇と、それと戦う鎧をまとったペルセウスの姿が描かれています。グアッシュで描かれ やや淡い色合いですが、非常に見栄えがします。1枚にぴったり収まるような構図でありながら大胆な構成で、蛇の力強さや闘いの緊張感が伝わって来ました。これはかなりの傑作だと思います。

この隣にあった「メドゥーサの死 Ⅱ」(★こちらで観られます)もかなりの緊迫のシーンでした。どちらも政治家の家の装飾のための下絵です。近くには連作ペルセウスの7枚の写真があり、どれもドラマチックなシーンとなっていました。


<トロイ戦争-そして神々>
ここは神話に取材したその他の魅力ある作品のコーナーです。バーン=ジョーンズはイタリア旅行で触れたルネサンス絵画から様式だけでなく主題の選択にも影響を受けたと推察されるそうで、ここにもそうした作品が並んでいました。

エドワード・バーン=ジョーンズ 「ステュクス河の霊魂」
真っ暗な背景に白い体の人々がお互いに肩を組んだりしている様子が描かれた作品です。まるで亡霊が彷徨っているようだと思ったらまさしくそのとおりで、これはギリシア神話の中の、あの世とこの世を分ける川(日本で言えば三途の川みたいな)の岸らしく、船賃がなく向こうに渡れない者たちが川岸で取り残されているそうです。見ていて不安になるようなちょっと怖い作品でした。

この辺にはボッティチェリから影響を受けた三美神などもありました。

エドワード・バーン=ジョーンズ 「ペレウスの饗宴」
横長の油彩画で、長いテーブルを中心に沢山の神々(裸が多い)が描かれ、皆が右の方に注目しています。右端にはコウモリのような羽を持つ青いドレスの女性が描かれ、これは宴席に呼ばれなかった不和の女神エリスのようです。その近くには使者の神メリクリウスが「最も美しいものへ」と描かれた巻物とりんご(何故か金でなく赤)を持ち、左のほうではユーノー・ウェヌス・ミネルヴァの3人が、我こそが相応しいとばかりに手を伸ばしていました。これが発端となり、3人の女神のミスコンとも言える「パリスの審判」に繋がり、ウェヌス(ビーナス)がパリスへの見返りとしてスパルタ王の妻ヘレネを与えると約束したことがトロイア戦争につながっていきます。 この絵は色鮮やかで、動きを感じる肉体表現からは確かにルネサンス絵画を彷彿させました。今後の戦争を予兆するようなエリスの不穏な雰囲気も面白いです。


<寓意・象徴-神の世界と人の世界>
この章は先の部屋にあるのですが、1点だけ大部屋に展示されていました。

エドワード・バーン=ジョーンズ 「運命の車輪」 ★こちらで観られます
縦長で、左に運命の女神フォルトゥナが立ち、画面いっぱいに描かれた車輪を回しています。その車輪には上から順に、鎖でつながれた奴隷、笏を持つ王、月桂樹の冠の詩人が磔になっていて、これはどのような身分の者でも栄枯盛衰の輪からは等しく逃れられないということを表しているようです。こちらの作品も肉体表現が見事で、筋肉の付き方がリアルです。解説によるとミケランジェロの模写をしたりしていたようで、確かにミケランジェロの「瀕死の奴隷」などを思い浮かべる作品でした。


ということで、前半から見所の多い展示となっています。特にペルセウスと運命の車輪は見応えのある作品だと思います。後半にはさらに驚きの作品が待っていましたので、次回はそれについてご紹介しようと思います。


   →  後編はこちら



おまけ:
この日は先日ご紹介したPAUL(ポール)でランチをとってから三菱一号館美術館に行きました。またハムのクレープを頼んでしまった…w 最近のお気に入りです。
 参考記事:PAUL(ポール)(東京駅界隈のお店)


 参照記事:★この記事を参照している記事


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