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バーン=ジョーンズ展-装飾と象徴 (感想後編)【三菱一号館美術館】

今日は前回の記事に引き続き、三菱一号館美術館の「バーン=ジョーンズ展-装飾と象徴」の後編をご紹介いたします。前編には混み具合なども記載しておりますので、前編を読まれていない方は前編から先にお読み頂けると嬉しいです。


 前編はこちら


P1020792.jpg

まずは概要のおさらいです。

【展覧名】
 バーン=ジョーンズ展-装飾と象徴

【公式サイト】
 http://www.mimt.jp/bj/

【会場】三菱一号館美術館
【最寄】東京駅・二十橋前駅・有楽町・日比谷駅

【会期】2012年6月23日(土)~2012年8月19日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日14時頃です)】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
前編は上階の大部屋までご紹介しましたが、今日は残りの後半についてです。前半同様に題材ごとに章分けされていました。


<トロイ戦争-そして神々>
この章は前編でもご紹介しましたが、次の部屋にも続いていました。

エドワード・バーン=ジョーンズ 「牧神の庭」
石に腰掛けて芦で出来た笛を吹く裸体の牧神パンと、その近くで身を寄せて座る裸体の男女が、笛の音を聴いている様子が描かれてます。背景には緑豊かな山が描かれ、若干遠近感が奇妙に思えましたが、細かい描写の草花や柔らかい陰影のついた人体表現が好みでした。この作品は完成までにだいぶ時間がかかったようです。

近くには郡山市立美術館が誇る名品「フローラ」もありました。こちらは何度観ても華やかな雰囲気があります。
 参考記事:
  ラファエル前派からウィリアム・モリスへ (横須賀美術館)
  ラファエル前派からウィリアム・モリスへ (目黒区美術館)


<寓意・象徴-神の世界と人の世界>
バーン=ジョーンズは19世紀後半に広がった象徴主義の画家の1人とされていて、ここには寓意画や唯美主義的な傾向の作品が並んでいました。解説によると、これらはウォルター・ペイターが提示した「すべての芸術は音楽の状態に憧れる」というテーゼをジョーンズなりに具現化したものと言えるそうです。

エドワード・バーン=ジョーンズ 「魔法使い」
バーン=ジョーンズが亡くなった年に描いた作品で、青いローブをまとった魔法使いの男性と、紫のローブを着た娘が描かれています。2人は一緒に凸面鏡に映しだされた嵐の中の船を見ていて、これはシェイクスピアの最後の戯曲「テンペスト」を思わせるそうです。戯曲テンペストでは元はミラノ公だった魔法使いが、自分を追いやった者たちの船を魔法で難破させるそうで、それを娘に語っているシーンを描いているものと考えられるようです。また、この頃のバーン=ジョーンズは人前に出ることがなかったそうで、画中に魔法使いは自分をモデルにしているらしく、これは自らの制作活動を魔術的な秘技になぞらえているのではないかとのことでした。 そう言われてみると男性はどこか隠者めいた雰囲気です。また、暗い背景に半開きの扉から光が差し込む様子なども描かれていて、全体的に神秘的で意味深な感じがしました。
 参考リンク:テンペスト(シェイクスピア)のwikipedia

この近くには細かい描写で幻想的なエッチング作品なども並んでいました。


<ピグマリオン-「マイ・フェア・レディ」物語>
続いてはキプロス人彫刻家(元の話では王)のピグマリオンの伝説に基づく作品のコーナーです。この話はピグマリオンが自分で作った女性像に恋し、ウェヌス(ヴィーナス)に祈って像を人間の女性にして貰うストーリーで、ここにはそれを題材にした4点の連作が並んでいます。

エドワード・バーン=ジョーンズ 「ピグマリオンと彫像(恋心、心抑えて、女神のはからい、成就)」 ★こちらで観られます
4枚セットの油彩で、ピグマリオンの話が4つの場面で表されています。まず「恋心」では腕を組んで思索に耽るピグマリオンが描かれ、結構な美男子で女性かと思いましたw 色鮮やかながら落ち着いた雰囲気で、細密な描写です。 その次の「心抑え」では女性像と顎に手を当ててそれをじっと見るピグマリオンが描かれています。女性像の滑らかな体は優美で色気があります。一歩踏み出して今にも動きそうです。 そして次の「女神のはからい」では薄い衣と植物の冠を被ったウェヌスが現れ、女性像がウェヌスに倒れこむように手をかけています。既に「ガラテア」という人間の女性となったようです。そして最後の「成就」では裸婦のガラテアに跪いて手を握り締めるピグマリオンが描かれていました。ガラテア(女性像)は若干目が虚ろに見えましたが、ピグマリオンは深く感激しているように思えました。この中で一番の好みは「心抑えて」で、人間と像の違いを巧みに描き分けているのに驚きました。
なお、この絵は注文されて作られたのですが、バーン=ジョーンズはその注文主の娘のマリア・ザンコバという女性の虜となり、道ならぬ恋に落ちたそうです。(彼女の自殺未遂騒動を経て、女がパリに去るまで関係が続いたそうです。) 実はピグマリオンの女性像の下絵はマリア・ザンコバの横顔らしく、その素描も展示されていました。凄い美人で気持ちはわからんでもないw


<いばら姫-「眠れる森の美女」の話>
グリム童話にも収められた「いばら姫(眠れる森の美女)」は、バーン=ジョーンズにおいても重要な位置を占める物語だったようで、30年に渡ってこの主題を繰り返し描いたそうです。ここにはそれを題材にした作品が並び、今回の展示の目玉とも言える作品もありました。

エドワード・バーン=ジョーンズ 「王宮の中庭・習作」-連作「いばら姫」
6枚のグアッシュの習作で、1枚に1人ずつ女性が眠っている姿が描かれています。機織りしている途中に寝たり、壁に持たれて寝ていたり、水汲みの途中で寝ていたりしていて、どれも突然に深く静かな眠りについたような感じがします。習作ですが完成度は高いようで、物語に合った面白い作品でした。

エドワード・バーン=ジョーンズ 「眠り姫」-連作「いばら姫」 ★こちらで観られます
これは今回のポスターにもなっている作品で、横が2mくらいありそうな大画面となっています。ベッドのような所で横たわる姫と、その脇や足元で眠る3人の女性たちが描かれ、背景には緑の幕や野薔薇が描かれています。全体的に落ち着いた色合いで、眠る女性たちは穏やかな表情を浮かべています。幕や姫の衣の表現が流麗な印象で、神秘的な雰囲気がありました。解説によると、画面の右上には止まった砂時計が描かれ、これは永遠に少女のままでいることを暗示しているとのことです。
この絵は本当に素晴らしくて10分くらい観ていましたw どこか耽美なせいかラファエル前派のミレイのオフィーリアを観た時と似た感覚を覚えました。これが観られるだけでも価値の高い展覧会だと思います。


<書籍-学生出版から世界最美の本へ>
続いての部屋には大きな旧約聖書があり、バーン=ジョーンズはそのうちの1枚を担当したようです。これにはセガンティーニやシャヴァンヌなど各国の錚々たる画家が動員されたらしく、バーン=ジョーンズはキリスト降架の場面を描いていました。
 参考記事:
  アルプスの画家 セガンティーニ  -光と山- (損保ジャパン東郷青児美術館)
  オルセー美術館展2010 ポスト印象派 2回目感想後編(国立新美術館)

ここには他にもウィリアム・モリス著「世界の果ての旅」もあり、こちらは植物文様の装丁が非常に美しかったです。


<チョーサー「薔薇物語と愛の巡礼」>
続いてはイングランドの詩人チョーサーの物語を題材にした作品のコーナーです。チョーサーの物語は古代神話をかなり素材に使っているらしく、当時は俗語とされた英語(ラテン語・フランス語が中心だった)で書かれたためにイギリス近代文学の祖と呼ばれるそうです。また、バーン=ジョーンズはオックスフォード時代にモリスと共に夜を過ごす時はチョーサーを読んでいたそうで、昼間は2人で図書館で中世に関するものは何でも読んでいたそうです。

エドワード・バーン=ジョーンズ 「[怠惰]の戸口の前の巡礼」
チョーサーの薔薇物語のワンシーンで、詩人が散歩に出かけた際、閉ざされた庭に行き付きノックして待つと、怠惰を擬人化した女性が彼を招き入れたという場面を描いています。戸口に青い頭巾と衣の男性が立ち、両手の掌を上にして何かを訴えているような感じです。その視線の先には門から出てきた女性が手を差し伸べていて、緑の衣に薔薇の花輪を被った姿をしていました。全体的に色鮮やかで、物語がそのまま絵になったようなストーリー性を感じます。この後の話は分かりませんが、背景にはがれきのようなものにカラス?がとまったりしていて何となく不穏な空気も感じました。

この近くには結構大きなタペストリーもあり、これも緻密で色鮮やかで見栄えがしました。


<旅の終わり-アーサー王・聖杯・キリスト>
バーン=ジョーンズは障害を通してステンドグラスの作品も残していたそうで。ステンドグラス用の下絵から水彩や油彩に発展したものも少なくないようです。ここには聖杯を追うアーサー王の伝説や、キリスト教を題材にした作品が並んでいました。

エドワード・バーン=ジョーンズ 「種を蒔くキリスト」「波を鎮めるキリスト」
2枚対になるように展示されていた作品で、タイトル通り種を蒔くキリストの絵と、船に乗って様式化された波を鎮めようとしているキリストが描かれています。太い輪郭とデフォルメされた画風でステンドグラスを思わせました。波の様式化にはデザインセンスを感じます。

エドワード・バーン=ジョーンズ 「聖杯堂の前で見る騎士ランスロッドの夢」
暗闇の中、井戸のようなものにもたれかかって眠るランスロッド(アーサー王の騎士で随一の槍の使い手)が描かれ、その右には聖杯のある教会から出てきた羽の生えた天使が描かれています。ランスロッドはアーサー王の妻と不倫していたらしく、その罪ゆえに聖杯を手に入れることはできないと夢のなかで悟らされ、天使はここから去るようにと告げているようです。兜を脱ぎ剣を置いて眠っているのですが、背景にある木にかかった盾は聖杯入手に失敗した象徴とのことでした。背景が暗いこともありやや不吉な雰囲気があり、解説によるとバーン=ジョーンズは周りの夜の雰囲気に苦心したそうです。また、これはもともとタペストリーの連作だったそうですが、この1枚だけを絵画化したそうです。

この辺には世界的にも貴重な郡山市立美術館の「アヴァロンにおけるアーサー王の眠り」もありました。

今回は久々に1階にも展示が続いていました。

エドワード・バーン=ジョーンズ 「東方の三博士の礼拝」
かなり大きなタペストリーで、東方の三博士がイエス、マリア、ヨセフの聖家族のもとに礼拝しに来た様子が織られています。東方の三博士は宝を捧げ、背後には手の中に光を持つ天使の姿があり、周りはゆりや薔薇などたくさんの草花が覆っていて装飾的な雰囲気です。タペストリーとは思えないくらいの鮮やかさで、各人の表情も緻密に表現されていました。これも生で観ると驚きの大きい必見の作品です。

最後には戯画的な自画像もありました。実は結構ユーモアのある人だったようですが、作品にはそういう雰囲気は出していなかったようで、脱力系の自画像は意外に思えました。


ということで、かなり見応えのある内容で、特に「いばら姫」には感動しました。あまりに好みだったので図録も買いました。空いていて快適に観られたのも良かったです。今期お勧めの展示です。


おまけ:
この展示の公式サイトには私も大好きなジョジョの奇妙な冒険の作者 荒木飛呂彦 氏の対談も載っています。
 参考リンク:荒木飛呂彦氏の対談(PDF)
 参考記事:岸辺露伴 新宿へ行く 展 (グッチ新宿)

先日発売されたダ・ヴィンチ誌では蕭白に似ていると言われていましたが、今度はバーン=ジョーンズと共通点があるのでは?という内容でした。バーン=ジョーンズも荒木氏もミケランジェロに影響を受けたから似ているのかも。 それにしても本当に荒木氏は若々しいですw 今年は美術個展にアニメ化に対談にと各方面で大活躍ですね。


ダ・ヴィンチ 2012年 08月号


 参照記事:★この記事を参照している記事

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Comment
No title
こんにちは。

この記事の最初に出ている展覧会のポスター(?)の絵を、
30年近く昔の展覧会で観ました。
「ラファエル前派とその時代」展というものでした・・・
懐かしいです。
Re: No title
>りーさん
コメント頂きましてありがとうございます。
この作品は以前に日本に来たことがあるんですね。
私はラファエル前派がかなり好きなので、その流れを組むこの作品も好きになりました。
予想以上に大きかったのも見栄えがしました。
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