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ドビュッシー 、音楽と美術ー印象派と象徴派のあいだで (感想前編)【ブリヂストン美術館】

先日ご紹介した三井記念美術館の展示を観た後、京橋のブリヂストン美術館にハシゴして「オルセー美術館、オランジュリー美術館共同企画 ドビュッシー 、音楽と美術ー印象派と象徴派のあいだで」を観てきました。

P1020948.jpg

【展覧名】
 オルセー美術館、オランジュリー美術館共同企画
 ドビュッシー 、音楽と美術ー印象派と象徴派のあいだで

【公式サイト】
 http://debussy.exhn.jp/
 http://www.bridgestone-museum.gr.jp/exhibitions/

【会場】ブリヂストン美術館
【最寄】JR東京駅・銀座線京橋駅・都営浅草線宝町駅

【会期】2012年7月14日(土)~10月14日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日15時頃です)】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
結構お客さんが多く入っていましたが、混雑しているというほどでもなく自分のペースで観ることができました。

さて、今回の展示はフランスの作曲家ドビュッシーを主役にして、その周辺の芸術家を紹介するという趣旨で、パリのオルセー美術館・オランジュリー美術館との共同企画となっています。私は今年のゴールデンウィークにオランジュリー美術館に行って、この展示を観てきたのですが、多少の違いはある(特にブリヂストン所蔵の作品など)ものの、大体は同じような内容だったのではないかと思います。

ドビュッシーはフランスの代表的な作曲家で、伝統的な楽式・和声を超えた自由な音の響き等の特徴から音楽における印象派と呼ばれたそうです。1888年のフランスアカデミーでそう呼んだそうですが、必ずしも美術との関連から呼んだ訳ではないそうで、伝統手法を無視した作曲を非難するためだったようです。また、現在の音楽史の通説では印象派というよりは象徴派に位置づけられているそうで、ドビュッシーが活躍した時代は印象派と象徴派が拮抗しながら影響しあう時代だったようです。ドビュッシーの創作には同時代のジャンルを超えた芸術からの影響があったらしく、この頃は音楽・美術・文学・舞台芸術が共鳴しあい共同で作品を作ることもあったようです。

展覧会はそうしたドビュッシーに影響を与えたものや人物などをテーマに10章に分かれていましたので、詳しくは各章ごとにご紹介していこうと思います。


<第1章 ドビュッシー 、音楽と美術>
まずはドビュッシー自身や美術との関係を解説するコーナーです。ドビュッシーは「音楽と同じくらい絵が好き」と述べていたそうで、若い頃から芸術や詩人に興味を持っていたようです。ドガ、ホイッスラー、ターナー、ルドン、詩人のボードレール等々と頻繁に会っていたらしく、その交流の背景には彼の困難な時期を支えた3家族の存在がありました。それは画家のアンリ・ルロール、作曲家のエルネスト・ショーソン、高級官僚アルチュール・フォンテーヌで、彼らとの交流でナビ派などの絵画も目にする機会も得たようです。

マルセル・バシェ 「クロード・ドビュッシーの肖像」 ★こちらで観られます
これはドビュッシーの肖像です。口ひげを生やした黒髪の人物で、ややワイルドな雰囲気もあるかな。解説によるとこれはローマ賞を受けてローマへ留学していた頃の姿のようです。
近くにはドビュッシーの写真もありました。


<第2章 《選ばれし乙女》の時代>
ドビュッシーは同時代のラファエル前派やウィリアム・モリスのアーツ・アンド・クラフツの作品に魅せられていたそうで、ローマ留学の送付作品の1つにロセッティの詩「祝福されし乙女」を選んだそうです。その詩に共感したドビュッシーが作曲した「選ばれし乙女」は、彼の言葉によると「神秘的で少し異教的な雰囲気のあるささやかなオラトリオ(聖譚曲)」だそうで、批評家のウィリーは「画家フラ・アンジェリコ(ルネサンス期の画家)による調和の取れたステンドグラスをそこに観てとった」そうです。そしてこの「選ばれし乙女」の初演を観たオディロン・ルドンは感激し、自らの作品をドビュッシーに贈ったとのことでした。ここには軽やかで妖しい魅力のある女性像の作品が並んでいました。

モーリス・ドニ 「ミューズたち」 ★こちらで観られます
木々の並ぶ戸外で椅子に腰掛ける女性たちや背景で散歩?する女性たちを描いた作品です。アール・ヌーヴォー風の葉っぱや曲線、木々の直線など単純化された中にも装飾性とリズムがあり、地面はまるで絨毯のようです。落ち着いた色合いで神秘的な雰囲気に思いました。解説によるとこの女性たちはどこかドニの妻に似ているそうです。

この隣にはドニの「木々の下の人の行列」もありました。両方とも最近観た覚えがあるのでオルセー美術館展だったかな??
 参考記事:オルセー美術館展2010 ポスト印象派 感想後編(国立新美術館)

エドワード・バーン=ジョーンズ 「王女サブラ」 ★こちらで観られます
戸外の柵の向こうに沢山の花が咲いているのを背景に、赤い衣を着た女性が小さな本を開いて立って読んでいる様子が描かれた作品です。右手では衣をつまみ、静かで優美な雰囲気があります。柔らかい色合いだけど鮮やかに感じるのは師匠のロセッティと通じるものを感じるかな。解説によると、この女性は聖ゲオルギウスの物語で竜の生贄にされる王女らしく、この後に彼女に降り注ぐ苦難を考えると一層に清純で儚い雰囲気に思えました。
 参考記事:
  バーン=ジョーンズ展-装飾と象徴 感想前編(三菱一号館美術館)
  バーン=ジョーンズ展-装飾と象徴 感想後編(三菱一号館美術館)

この隣にはロセッティの「祝福されし乙女(習作)」もありました。これが着想源となったようで、羽ペンを持って首を傾げた女性の半身像となっていました。習作なので描きかけの感じです。また、ドビュッシーの写真やドニの挿絵入りの伴奏譜なども展示されています。


<第3章 美術愛好家との交流-ルロール、ショーソン、フォンテーヌ>
1887年にローマ留学から戻ったドビュッシーは、象徴派の画家たちと交流したそうです。また、ドビュッシーはカフェや独立芸術書房(アール・アンデパンダン)でほぼ毎日過ごしたらしく、この書房はルドンの作品を展示し、ドニの挿絵入りの本を刊行するなど象徴派を積極的に紹介する発信地だったようです。
1890年代になると3人の友人(ルロール、ショーソン、フォンテーヌ)とその家族がドニとドビュッシーを支援したようで、彼らは親戚関係で、3人の妻たちはいずれも音楽家で画家のモデルにもなったそうです。彼らの邸宅ではまだ無名であったアンドレ・ジッドやポール・ヴァレリーといった作家と知り合ったり、ドガやルドンの作品を目にし、実際に彼らとも出会うことが出来たそうです。 この章にはその3家族に関する品が並んでいました。

ピエール=オーギュスト・ルノワール 「ピアノに向かうイヴォンヌとクリスティーヌ・ルロール」 ★こちらで観られます
今回のポスターにもなっている作品で、白いドレスの女性がピアノを弾き、その隣で赤いドレスの女性が楽しそうに見守っています。背景にはドガの踊り子の絵と競馬の絵が画中画として描かれていて、これはルロールの家の中の様子と彼の娘たちのようです。(ピアノを引いている方が姉) 何とも幸せそうな光景で、優雅な雰囲気がありました。
解説によるとこの頃ドビュッシーは恋愛スキャンダルを起こして多くの人が周りから去ったようですが、ルロール一家は変わらぬ付き合いをしてくれたそうで、ドビュッシーはルロールの娘に曲も捧げているとのことでした。

アンリ・ルロール 「室内、ピアノを弾くルロール夫人」
自身も画家でコレクターでもあったルロールの作品で、ドア越しに向こうの部屋が見えていて、そこで夫人がピアノを弾いている様子がややぼんやりした感じのタッチで描かれています。手前の部屋は無人で、静かな中に音楽が聞こえてきそうな感じが出ていました。 ルロールの作品も予想以上に良くて結構好みです。

この辺にはルロールとドガの写真もありました。交流があったのがよく分かります。


<第4章 アール・ヌーヴォーとジャポニスム>
ドビュッシーは近代性を愛し、アール・ヌーヴォー様式を高く評価してピアノ曲でアラベスクを作曲したそうです。彼のアパルトマンにはアール・ヌーヴォーの陶器などがあり、アール・ヌーヴォー・アラベスクの部屋と呼ばれたらしく、彼はジークフリート・ビングの店(アール・ヌーヴォー発祥の店)の馴染み客だったそうです。その為か、ドビュッシーの「版画」、「塔」、「そして月は廃寺に落ちる」、「金色の魚」といった作品には日本などの遠方の国々の音楽の響きや調和が引用されているとのことです。

モーリス・ドニ 「ファランドール」
横長の作品で、3人の女性が手を取ってどこかに歩いて行くような光景が描かれています。背景には広々とした川や町が広がり、収穫物?が入ったカゴを持ち上げる女性の姿などもあります。手を取り合う3人の女性の顔は曖昧でよく分かりませんが、どことなく楽しげな雰囲気で、淡く水色やピンクの多い画面は幻想的に見えました。

エミール・ガレ 「海」
玉ねぎの上のほうを伸ばしたような形の青い器で、側面に粒のようなものがあり、胴の部分には貝を思わせるものが飛び出ています。その為、海の飛沫や岩などを彷彿させました。色合と意匠が合って面白い作品です。

この隣には葛飾北斎の「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」も並んでいました。これは後の方のコーナーにもあったので、関連性については後編で書こうと思います。また、北斎の この作品を参考にしたカリエスの花瓶・水筒・壺、ロダンやクローデルの彫刻、ショーソンのピアノ曲の楽譜、ガレのガラス器など様々なものが並んでいます。

モーリス・ドニ 「木の葉に埋もれたはしご(天井装飾のための詩情に満ちたアラベスク文様)」
大きなハシゴに登る4人の女性を描いた作品で、女性たちはオレンジがかったドレスを着ていて背景には単純化された緑の葉が画面を覆っています。ハシゴに登っているのですが、見上げる構図のためか何となく昇天図を思い起こしました。葉っぱやドレスの曲線が優美で、ちょっと陶酔したような女性の表情が色っぽく見えました。

この先には最近ブリヂストン美術館に収蔵されたカイユボットの作品や、ドビュッシーがショーソンの家で観たシャヴァンヌの作品などもあります。その為アール・ヌーヴォーのコーナーという感じはあまりしないかも…。というか、アール・ヌーヴォーのコーナーは2つに分かれていて、後半にもう1度展示室があります。後のコーナーのほうがアール・ヌーヴォーらしい感じです。

5章に向かう途中の通路にはドビュッシーの肖像画やマスク、胸像などがありました。


<第5章 古代への回帰>
若いころのドビュッシーはバンヴィルの近代ギリシャの詩に基づく曲を作ったそうです。そしてその後、ステファヌ・マラメル(詩人)の依頼によって「牧神の午後への前奏曲」という曲を作り、これは30代の傑作となりました。さらにその10年後、この楽曲に魅せられた天才バレエ・ダンサーのニジンスキーがバレエを生み出し歴史に名声を残します。ニジンスキーはその振り付けを考える際、ギリシャの壺絵を観察してアイディアを得ていたそうです。
また、1890年代にギリシャのデルフォイ遺跡の発掘が成功した際、フランスでも大きな話題となったそうで、1900年のパリ万博ではそれらの彫刻が展示され、その後にルーヴル美術館に展示されたそうです。ドビュッシーもそれに熱狂し、「デルフォイの舞姫」という曲が生み出されたとのことでした。
ここにはそうした古代文明への熱狂を伺わせる作品が並んでいて、「牧神の午後のための序曲」の楽譜や、牧神を演じるニジンスキーの写真、バレエのシーンを撮った写真などが展示されていました。少し進むとテラコッタ製の「カノーポス」というエジプトのミイラを収めた壺や、エトルリアの壺などもありました。
 参考記事:大英博物館 古代エジプト展 感想前編(森アーツセンターギャラリー)


ということで長くなってきたので今回はこの辺にしておきます。ドビュッシーは印象派と呼ばれているようですが、この展示ではナビ派(というかドニ)や象徴派、アール・ヌーヴォーなどの要素が強いようにも思えました。後半にも色々と影響を与えたものが展示されていましたので、次回は最後までご紹介しようと思います。



   → 後編はこちら



 参照記事:★この記事を参照している記事

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