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アール・デコ 光のエレガンス 【パナソニック 汐留ミュージアム】

この前の日曜日に、新橋のパナソニック 汐留ミュージアムで「アール・デコ 光のエレガンス」を観てきました。

P1030835.jpg

【展覧名】
 アール・デコ 光のエレガンス

【公式サイト】
 http://panasonic.co.jp/es/museum/exhibition/12/120707/index.html

【会場】パナソニック 汐留ミュージアム
【最寄】JR/東京メトロ 新橋駅  都営大江戸線汐留駅


【会期】2012年7月7日(土)~9月23日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間00分程度

【混み具合・混雑状況(日曜日14時頃です)】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
快適に鑑賞できて、混んでいるというほどでもありませんが、結構お客さんは多かったように思います。

さて今回の展覧会は1910年代~30年代頃に流行したアール・デコ様式に関する内容となっています。アール・デコという名前は1925年にパリで開催された現代装飾美術産業美術国際博覧会(略称アール・デコ博覧会)に由来しているそうで、幾何学的で落ち着きのある洗練された雰囲気のスタイルです。この展覧会では特に電気照明を多めに110点ほど展示していましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。


<第1部 プロローグ-カラフル>
まずはランプが多く並ぶコーナーです。1920年代を中心としたアール・デコ期には、電気照明が普及していたようで、電気照明を利用したシックでモダンなインテリアが生活環境を一変させたそうです。そして、この章ではカラフルな色彩をテーマに、当時流行した「パート・ド・ヴェール」というガラス技法による作品を紹介していました。これは古代エジプトに起源を持つ技法で、色ガラスを砕いて粉状にしたものを鋳型に入れ、釜の中で溶かして焼き上げる製法らしく、1880年代中頃にフランスで再興され1920年代に人気を博したそうです。

12 ガブリエル・アルジィ=ルソー 「ランプ(ガゼル)」
キノコのような形のランプで、傘の部分に振り返るガゼルが象られています。渦まく蔓や植物もあり、アール・デコの前に流行ったアール・ヌーヴォーの要素もあるように思います。柔らかいオレンジ色の傘と意匠から気品を感じました。解説によると、「パート・ド・ヴェール」の技法は一般的に素地の仕上がりが厚く、照明器具には向かないそうですが、この作家は素地が薄く熱変化の影響を受けにくいためランプ制作を得意としていたそうです。

この作家の作品は古代ギリシア風の作品もありました。

19 アマルリック・ワルター・原型アンドレ・ウイヨン 「犬猫手付鉢」
薄い青色の鉢で、両端に犬と猫の小さな像があり 淵にしがみつくような感じで配置されています。それが何とも可愛らしいw また、素地の色・材質も美しく落ち着いた雰囲気がありました。

この隣にはカミキリムシの文様の鉢もありました。これは蛍かと思ったw そして部屋の中央には小さめの常夜灯が8つほど並んでいました。これらには内部に香料皿があるそうで、電灯の熱を利用して香りを出していたそうです。


<第2部 サロン-シック>
アール・デコはピカソらが打ち立てたキュビスムや 抽象芸術から強い影響を受けていて、幾何学的な形の処理や色数を抑えたシックな意匠を特徴としています。そしてシンプルで装飾性を抑えたインテリアの中で浮かび上がったのが、様々な素材(木、磁器、石、ガラス、金属、漆、象牙など)が持つ質感の魅力で、電気の光は明るさや角度も調整しやすいので、素材の魅力を引き出したようです。この章では国立セーヴル製陶所の作品や、アール・ヌーヴォー時代とは一味違うドーム工房のアール・デコ作品など、素材の使い方に特徴のあるものが並んでいました。

34 マリウス=エルネスト・サビノ 「テーブル・ランプ」
これは2脚対で展示されていたランプで、傘が3段になった噴水をイメージしたデザインとなっています。側面に透明と半透明の縦の線が並び、流れるような優美な印象を受けました。解説によるとアール・デコ博覧会は噴水がシンボルだったそうで、これもそれにちなんだものだそうです。銀色に輝く台は、当時開発されたニッケルメッキが使われているらしく、台も幾何学的文様となっていてこれぞアール・デコ!といった感じでした。

38 国立セーヴル製陶所 造形アンリ・ラパン 「蓋付壺《ラパンNo.21》」
卵を逆さにして蓋をつけたような形の大きな壷です。上から下に向かって濃くなる青の釉薬がかけられていて、パッと観た時に海の青を連想しました。絵付けはなく釉薬のムラのようなものがあり、それが良い味わいとなっています。解説によると、19世紀後半に装飾を極めた反動で、この頃には東洋の影響を受けた無装飾の色釉磁器が現れていたそうです。華やかさと落ち着きが同居するような美しさでした。

26 ジャン・デュナン 「球形花瓶(金、赤)」 ★こちらで観られます(pdf)
丸い形の花瓶で、側面に朱色の三角形と共に金と黒の縞模様が描かれています。幾何学的でシャープな印象を受けますが、全体的にどこか和風な感じにも見えます。というのもこの作品には漆が使われているようで、色の取り合わせなどからもそう感じるのかもしれません。解説によると、1枚の金属板を槌で打ち立体に作り上げる鍛金技法で作られ、色漆と緑青仕上げで文様を施しているようでした。以前どこかで観た覚えもありますが、かなり気に入りました。

72 ドーム 「手付杯」
両端に取っ手のついた大きな杯で、深い青色のガラスでできています。側面には波を交互に繰り返すようなシンプルかつダイナミックな文様があり、アール・ヌーヴォー時代のドームの作品とは一線を画す印象を受けました。解説によると1930年代に入るとドームのデザインはこうした純粋な幾何学模様のスタイルになったのだとか。
 参考記事:世紀末、美のかたち (府中市美術館)

63 アリスティード・コロット 「彫刻《キリストの横顔》」
ごつごつしたクリスタルの側面にキリストの横顔が彫りこまれたような作品です。茨の冠や髪の毛などでカクカクした感じの単純化が見られ幾何学的な感じです。これは中々斬新な雰囲気がありました。

この辺はドームのアール・デコ作品や、フォーヴィスムの画家でもあったモーリス・マリノの花瓶などもありました。これも良い作品です。

53 ローゼンタール 原型ゲルハルト・シュリープシュタイン「立像《プリンス、プリンセス》」
これは10頭身くらいありそうなスラリとした印象を受ける真っ白な陶器の人物像で、2つ並んで展示されていました。いずれも足を踏み出し動きのあるポーズで、優美な雰囲気があります。どこかキュビスム絵画を思わせ、滑らかな曲線が好みでした。

この辺は陶器で作った彫刻が並んでいました。いずれも見事で見応えがあります。

65 ドーム 「テーブル・ランプ」
これは山型の傘と胴を組み合わせたテーブルランプで、表面がざらついたような質感をしています。そこに内側からの光が当たると、金色に輝くように見えて神々しいくらいですw シンプルな形ながらも質感とフォルムの両方を楽しめる作品でした。


<アール・デコ博覧会 現代装飾美術産業美術国際博覧会>
冒頭にも書きましたが、アール・デコは1925年に開催され博覧会の略称「アールデコラティフ」の語を取って名づけられました。この展覧会は工業の改革と第一次世界大戦後の産業の復興に役立てようというものだったそうで、パリのセーヌ川を挟んだ中心部で行われ、23ヘクタールの敷地で21ヶ国150の建物が並び、6ヶ月間で1500万人もの人が訪れたそうです。

ここには当時の様子を伝える品が並び、アントワーヌ・ブールデルによる現代装飾美術産業美術国際博覧会のポスターなどがありました。
 参考記事:
  アールデコの館 旧朝香宮邸編(東京都庭園美術館)
  所蔵作品展 アール・デコ時代の工芸とデザイン (東京国立近代美術館 工芸館)

少し進むとアールデコの室内の再現のコーナーもありました。こんな装飾品に囲まれて生活してみたい…w


<第3部 ダイニング・ルーム-モノトーン>
現代インテリアの基調とも言えるモノトーンな色使いはアール・デコ期の1920年代に芽生えたそうで、かつては豊かな色使いが高級感を生み出す重要な要素とされていましたが、印刷技術や染料の普及によって必ずしも色は贅沢示すバロメーターではなくなったそうです。そして都会的な洗練を追求する中から色彩とは対極の単彩のインテリアが生まれたそうです。ここいはダイニングルームに使われた品々などが並び、ルネ・ラリックの作品が中心となっていました。
 参考記事:
  生誕150年ルネ・ラリック─華やぎのジュエリーから煌きのガラスへ 感想前編 (国立新美術館)
  生誕150年ルネ・ラリック─華やぎのジュエリーから煌きのガラスへ 感想後編 (国立新美術館)
  生誕150年ルネ・ラリック─華やぎのジュエリーから煌きのガラスへ 2回目感想前編(国立新美術館)
  生誕150年ルネ・ラリック─華やぎのジュエリーから煌きのガラスへ 2回目感想後編(国立新美術館)
  箱根ラリック美術館 館内の案内
  ラリック家の女神たち (箱根ラリック美術館)
  東京都庭園美術館の写真その1
  

82 ルネ・ラリック 「テーブル・センターピース《三羽の孔雀》」 ★こちらで観られます(pdf)
横長のガラスのついたてで、非常に細かな彫りで3羽の孔雀が象られています。台座に仕込んだ電灯によって下から白い光が当たり、陰影が付いて浮き上がるように見えました。華麗で優美、まさに洗練の極みといった感じです。

90 ルネ・ラリック 「花瓶《オラン》」
乳白色のオパールのようなガラス「オパルセントガラス」で作られた花瓶で、側面には大胆な凹凸で丸い花が象られています。ガラスでありながらも宝石のような高級感があり、柔らかく滑らかな印象を受けました。
参考写真 (※この写真は以前、庭園美術館で撮影可能な時に撮ったものです。今回の展覧会は一切撮影禁止です
DSC_1853.jpg

この辺には今回のポスターにもなっているラリックの「常夜灯《インコ》」もありました。また、「花瓶《つむじ風》」など斬新なデザインの作品もあります。

84 ルネ・ラリック 「電気式パフューム・ランプ《バラ》」
波のような文様のランプの胴体と、それを囲うように日本刀の鍔を思わせる装飾がついた作品です。鍔のような部分にはバラが描かれ、胴体部と合わせると花瓶の中に生けられているようなデザインです。このランプの中には香水を入れるところがあるそうで、熱で香りを発散させるのだとか。デザインと機能の両方が面白い作品でした。

この辺にはラリックのガラス器が並ぶテーブルセットがありました。「トウキョウ」や「ニッポン」といったシリーズで、ガラス粒が真珠のように見える面白い作品です。


<第4部 エピローグ-レディエンス>
最後の章は乗り物などについてのコーナーです。この時代にはラジオ、電信電話、自動車、列車、飛行機など、新しい技術が普及したそうで、機械の躍動感や金属的質感に共感を覚え、電光や稲妻を連想させるデザイン、スピードを表すモチーフはアール・デコの象徴だったそうです。

107 ルネ・ラリック 「カーマスコット《勝利の女神》」 ★こちらで観られます(pdf)
これはガラス製で翼のような髪をした女神の形のカーマスコットです。これは自動車の先端にあったラジエーターキャップに取り付ける装飾で、スピード感あふれるデザインになっています。優美かつ先進的な雰囲気でした。

参考写真 (※この写真は以前、庭園美術館で撮影可能な時に撮ったものです。今回の展覧会は一切撮影禁止です
DSC_1863.jpg

この辺にはノルマンディー号の食器やランプ、ノルマンディー号関連の書籍や雑誌の特集、写真などがありました。私の大好きなカッサンドルのノルマンディー号のポスターや北極星号のポスターもあります。

参考写真 (※この写真は以前、東京国立近代美術館 工芸館で撮ったものです。今回の展覧会は一切撮影禁止です
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と言うことで、元々アール・デコが大好きな私にとっては満足できる内容でした。アール・ヌーヴォーも好きですが、アール・デコの方が奥深いように思います。 デザインやインテリアが好きな方に特にお勧めの展示です。


おまけ:
アール・デコと言えば東京都庭園美術館(旧朝香宮邸)は館内まるごとアール・デコですが、2014年くらいまで改装でお休みのようです。
 参考リンク:東京都庭園美術館 公式サイト
  


 参照記事:★この記事を参照している記事


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Comment
No title
はじめまして。美術ブログをはじめました、辛くんと申します。

ごあいさつに参りました。よろしくお願いします。
Re: No title
>辛くん さん
コメントいただきありがとうございます。
私と似たテーマで書いていかれるようですね。
ブログを続けるのは中々大変ですが頑張ってください。
美術展巡りの参考にします
はじめまして。今日和。
美術・博物展を巡るのがとても好きで、このたびブログをはじめることにしました。
こちらで紹介されているところへも、足を運んでみようと思います。

これからのご活躍を楽しみにしています。
No title
こんにちは!

アール・デコ好きなので行きたいと思っていました♪
こちらのミュージアムは行ったことがないので勝手に小さい展示なのかと思っていたら
結構作品があるようですね…!!
ラリック好きなので嬉しいです。
ますます行きたくなったので早めに行ってきます!
Re: 美術展巡りの参考にします
>ek03さん
はじめまして、コメント頂きましてありがとうございます。
美術館・博物館をめぐるのは楽しいですよね^^
是非色々周って楽しんでください。

今後もできるだけ頑張っていこうと思いますのでよろしくお願い致します。
Re: No title
>naotomomoさん
コメント頂きましてありがとうございます。

アール・デコいいですよね~。華やかさと落ち着きのバランスがとても好みです。
こちらのミュージアムはそんなに広くないですが、小物が多いので作品点数はそこそこありました。
やはり後半のラリックの作品が並ぶ後半が見所ですが、前半も個性的でした。
是非足を運んでみてください^^
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