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ストラスブール美術館展 世紀末からフランス現代美術へ 【横須賀美術館】

先週の土曜日に、横須賀まで足を伸ばして、横須賀美術館で「ストラスブール美術館展 世紀末からフランス現代美術へ」を観てきました。

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【展覧名】
 ストラスブール美術館展 世紀末からフランス現代美術へ

【公式サイト】
 http://www.yokosuka-moa.jp/exhibit/kikaku/1002.html

【会場】横須賀美術館
【最寄】馬堀海岸駅、浦賀駅、JR横須賀駅など


【会期】2012年7月21日(土)~9月2日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日15時半頃です)】
 混雑_1_2_3_4_⑤_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
空いていて、ゆっくり観ることができました。

さて、今回の展示はフランスのストラスブール美術館の作品を集めた展覧会となっています。ストラスブールはドイツとの国境近くのアルザス地方にある都市で、古くから交通の要衝であると共に、ドイツとの戦争の舞台にもなった地でもあるそうです。そのためフランスでありながらドイツ的な側面もあるようで、展覧会ではそうした独特の地であるストラスブールを活動拠点にした作家の作品も多く並んでいました。 61作家101作品が近代~現代にかけて大まかに流派ごとに6つの章に分かれていましたので、詳しくは章ごとに気に入った作品を通してご紹介していこうと思います。
なお、ストラスブール美術館展は2010年にも文化村でも行われていましたので、見覚えのある作品もちらほら並んでいました。
 参考記事:ストラスブール美術館所蔵 語りかける風景 コロー、モネ、シスレーからピカソまで (Bunkamuraザ・ミュージアム)


<第1章 象徴主義>
まずは象徴主義のコーナーです。とは言え、象徴主義の先駆けとなったラファエル前派のやナビ派の作品が多かったように思います。

ダンテ・ガブリエル・ロセッティ 「解放の剣にキスをするジャンヌ・ダルク」
ロセッティはラファエル前派の画家です。この絵は剣を持ち剣にキスしている女性の横顔が描かれていて、これはジャンヌ・ダルクのようです。背景には磔にされたキリストの足も見えています。写実的でありながら優美な雰囲気で、鎧の上に着た衣が装飾的でした。

モーリス・ドニ 「室内の光」
室内でテーブルに向かって座る2人の女性と、果実の乗ったお皿を運ぶ女性、そして花束を持って目をつぶる女性が描かれた作品です。背景には窓があり、大きく開いて開放感のある空が広がっています。全体的に平坦でオレンジがかった画面なのはドニらしいかな。解説によるとこれはドニの妻と3人の娘たちだそうで、背景の壁に描かれた捧げ物をしている人物と、娘のポーズがリンクしているような感じでした。
これは観たことがあるような気もします。

ポール・ゴーギャン 「ドラクロワのエスキースのある静物」 ★こちらで観られます
テーブルの上の皿に入った果実や瓶などを描いた静物です。これはカリブ海のマルティニーク島に向かった年の作品だそうで、平坦で奥行きがなく、強い色合いに思います。解説によると、背景にはドラクロワのアダムとイブの楽園追放をテーマにした下絵があり、熱帯地方の果実の清純さと対比されているようでした。

この辺にはカリエールの作品も数点ありました。また、エルノスト・ランカーというストラスブールの画家が描いた「母親の死」という大きな作品には骸骨の死神のようなものが描かれていてインパクトがありました。


<第2章 印象派からフォービスムへ>
続いては印象派、新印象主義、フォービスムなどのコーナーです。印象派はあまり多くありません。

ロタール・フォン・ゼーバッハ 「ウジェニー・ランドルトの肖像」
手を組んで座る青~灰色の服を着た金髪の少女の肖像で、こちらをじっと観ていてあどけない雰囲気です。解説によるとこの画家はストラスブールで活躍した人らしく、アルザス地方の印象派とみなされるようですが、クールベやマネなどの影響があるようで、どちらかというとマネのような感じの作風でした。

アルフレッド・シスレー 「家のある風景」 ★こちらで観られます
これは以前のbunkamuraの展示でポスターになっていた作品です。緩やかな緑の斜面とそこに生える木々、奥には赤い屋根の家があり、そこに向かっていると思われる母子の姿が描かれています。青々とした空にもくもくした雲が浮かび、爽やかで穏やかな雰囲気です。解説によると、手前の坂道と林の配置・形が中央の家に視線が向かうようになっているとのことでした。(以前もそう解説されてたのを思い出しました)

この辺にはルノワールのモノクロのリトグラフなどもありました。続いて次の部屋に続きます。

アンリ・マルタン 「雪化粧のパリ」
冬のパリを見下ろすように描いた作品で、屋根には雪が積り、紫の空はどんよりした雰囲気です。解説ではモネに倣った筆使いとのことでしたが、新印象主義の点描のような筆触に思えました。冬のパリの情感がある作品でした。

ポール・シニャック 「アンティーブ、夕暮れ」 ★こちらで観られます
港と帆船を描いた作品で、シニャック独特の大きめの点描で描かれています。緑、青、紫、オレンジなどがタイル画のようになっていて、ちょっと離れると色が混ざって見えるのが面白いです。また、この港の岸に描かれている建物は後にピカソが住んだそうで、今はピカソ美術館になっているとのことでした。これぞシニャック、これぞ新印象主義という感じの題材・表現の作品です。

モーリス・ド・ヴラマンク 「都市の風景」
白壁の赤い屋根の家が立ち並ぶ様子を描いた作品です。色が強くフォーヴ的な感じですが、幾何学的な構成がセザンヌからの強い影響を感じさせます。風化したような壁や強い陰影なども面白く、何ということも無い街角が、こんなにも面白く見えるのかと感心しました。(確かこれも2年前に見た覚えがあります)


<第3章 キュビスムとエコール・ド・パリ>
続いて3章はキュビスムとエコール・ド・パリの作品が並ぶコーナーです。このコーナーあたりから知らないストラスブールの画家の作品も増えてきます。

マリー・ローランサン 「マリー・ドルモワの肖像」
黒いチョーカーをつけた青い服の女性の肖像で、これは小説家ポール・レオトーと建築家のオーギュスト・ペレの秘書で愛人でもあった人物のようです。単純化され淡い色彩が使われているのはローランサンならではの雰囲気ですが、解説によると女性はふっくらした顔をしていて、顎の細い華奢な人物像といういつもの様式とはならず、モデルの特徴を伝えているとのことでした。
ローランサンはもう一点エッチングがありました。素朴派のアンドレ・ボーシャンの作品などもあります。

パブロ・ピカソ 「座る女性の胸像」
今回のポスターにもなっている胸像で、80代の頃の作品だそうです。モデルは2番目の妻らしく、横向き顔と正面向きの顔が混ざったようなキュビスムの表現となっています。右は白い髪、左は黒い髪で、下の方には乳房があって裸体なのかもしれません。晩年の作風がよく分かる作品でした。
ピカソは大きめの「編み物をする女とそれを見る人」という作品もありました。

この他に、レジェやブラック、ユトリロの友人で後に義父となったアンドレ・ユッテル、ストラスブール出身のマルセル・カーンの作品などもありました。マルセル・カーンの「ギターと扇子」(★こちらで観られます)という作品も好みです。


<第4章 両大戦間の写実主義>
4章は第一次世界大戦と第二次世界大戦の間のコーナーです。20世紀初頭の具体的な形を取り戻した動向について紹介されていました。

フェリックス・ヴァロットン 「水辺で眠る裸婦」
ヴァロットンはナビ派で、これは大きめの作品です。水辺で膝を立てて寝ている裸婦が描かれ、その奥には草むらが広がります。また、右上の背景には白いボートを漕ぐ3人の白い服の男性たちも描かれていました。最初、神話の絵かと思いましたが現代的な雰囲気もあってギャップが面白いです。解説によると背景の葉っぱの形などはアンリ・ルソーを思わせるようでした。どことなくシュールで不思議な作品です。

この辺はアルザス地方の画家の作品が多いかな。第一次世界大戦の後、アルザスが写実主義の重要な中心地だったそうです。

グスタヴ・ストスコプフ 「オーベルゼーバハの衣装を着たマルタン・ズィリオックス」
手を組んで座る黒い帽子に黒い服、中に赤いチョッキを着た老人を描いた作品です。結構リアルな画風で、頬のたるみや髪の毛、皺、肌の質感など写実的に描かれているのですが、何故か全体的には平面的に感じるような…。特に解説はありませんでしたが、色鮮やかでどことなくデューラーを思い浮かべました。


<第5章 抽象からシュルレアリスムへ>
続いての5章は抽象やシュルレアリスムのコーナーでした。

ジャン・アルプ 「ダンサー」
茶色を背景に、青、赤、黒、灰色、白の色面で人物?らしきものが描かれています。これは不定形のようで、不思議な形をしています。若干、足っぽいのは分かるかなw やや抽象的でデザインのような作品でした。

フランシス・ピカビア 「女性の肖像」
これは両面が展示されていた作品で、表は胸を顕にする金髪の女性が描かれ、歯を見せて笑い、エロティックで品の無い感じを受けます。それに対して裏側は単純化された青い手が描かれ、抽象的な要素がありました。解説によると、この女性像はポルノやポスターを参照にしたそうで、手の方はマルセル・デュシャンを踏襲したようです。また、手はのぞきみたい・触れてみたいという欲望に関係があるようでした。

マックス・エルンスト 「視野の内部」
たまご型の円形の中に、滑らかな曲線の生物?たちが描かれ、上の方ではその生物が玉を食べているような感じの絵です。エルンストがよく描くロプロプという鳥らしき姿も見えるかな。意味は全然わかりませんが、色面や曲線のリズムが心地よく感じられました。

ルネ・マグリット 「旅の思い出」
額縁がついた絵のような感じで、白い山を背景に女性の首から脚まで(手は無し)の裸の胴体部が描かれています。そしてその胴は薄い殻のようで割れたように表現されていました。これも意味は分かりませんでしたが、シュールな雰囲気の作品でした。

この近くにはヴィクトール・ブラウナーという画家のコーナーもありました。キュビスムのようなシュルレアリスムのような色々な画風の作品です。 また、他にもマッソンやマッタの抽象的な作品もありました。


<第6章 コンテンポラリーアート>
最後は1960年代以降の現代アートのコーナーです。

A.R.ペンク 「システム構築」
旧東ドイツ出身の画家の作品で、灰色の画面に、棒人間のと言うか記号人間のようなものやAAAAAAなどのアルファベットの文字が描かれた作品です。これは原始時代の壁画を思わせるとのことでしたが、確かにそんな印象を受けます。よくよく観ると労働や戦いをしているようで、若干不穏なものを感じました。

エド・パシュク 「商業主義的」
青~緑がかった背景に、2人のタキシードの人物らしきものが描かれた作品です。ネオンのような表現で、ノイズにかき消されるように眼や口が横に伸びて消えているのが独創的かな。ちょっと電子的な雰囲気の作品でした。


ということで、様々な作品が並んでいました。思ったよりも現地の作家や素描・リトグラフが多かったですが、近現代の美術の潮流を観ることができたと思います。ここは美術館自体も綺麗なので、残り少ない夏休みで行ってみるのも良いかもしれません。


 参照記事:★この記事を参照している記事

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