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マリー・ローランサンとその時代展 【ニューオータニ美術館】

先日、所用で赤坂見附に行った際、お昼時にニューオータニ美術館で「マリー・ローランサンとその時代展」を観てきました。この展示は前期・後期で入れ替えがあるようで、私が行ったのは後期の内容でした。

P1040393.jpg

【展覧名】
 マリー・ローランサンとその時代展 巴里に魅せられた画家たち

【公式サイト】
 http://www.newotani.co.jp/group/museum/exhibition/201207_marie/index.html

【会場】ニューオータニ美術館
【最寄】東京メトロ 赤坂見附駅・永田町駅

【会期】
 前期:2012年7月14日(土)~8月19日(日)
 後期:2012年8月21日(火)~9月30日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間00分程度

【混み具合・混雑状況(平日11時半頃です)】
 混雑_1_2_3_4_⑤_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
平日だったこともあり空いていて快適に観ることができました。

さて、この展覧会は「エコール・ド・パリ」と呼ばれる20世紀前半にパリに集まった個性的な画家たちの中の1人、女性画家マリー・ローランサンについての展示です。とは言え、タイトルに「とその時代」と付いているので個展ではなく、ローランサンは1/3くらいであとはエコール・ド・パリやその時代の日本の画家などの作品が並ぶ内容となっています。構成は大きく3つの章に分かれていましたので、詳しくはいつも通り気に入った作品と共にご紹介しようと思います。


<1章>
まず最初はローランサンの作品が並ぶコーナーです。ローランサンはパリのアトリエ「バトーラ・ヴォワール(洗濯船)」でピカソやブラックからキュビスムの影響を受けた画家で、30歳前後からはキュビスムと距離を取り、独自の画風を確立して行きました。ドイツ人男爵との結婚の直後に発生した第一次世界大戦により、7年間のスペイン・ドイツへの亡命生活をしますが、1921年に離婚してパリに戻ってきます。そしてそれからはそれまでの繊細で思いつめた表情の女性像から、幻想的で華やかな女性像へと転換し、舞台芸術などにも応用して人気を博したようです。
この章はローランサン美術館の作品が多く、以前ご紹介した作品も結構ありました。(以前の方がかなり詳しい解説があったので、ローランサンについて詳しく知りたい方は参考記事をお読み頂ければと思います。)
 参考記事:マリー・ローランサンの扇 (川村記念美術館)

マリー・ローランサン 「パブロ・ピカソ」
横向きで肩から上のピカソを描いた肖像画です。単純化され黒髪に黒目で、キュビスム的というかエジプトの壁画みたいな感じを受けるかな。色もハッキリしていてその後の作品とはだいぶ違った印象でした。解説によると、これは「アポリネールとその友人たち」という作品の習作だそうです。
ちなみにアポリネールはローランサンの恋人だった有名詩人で、洗濯船の仲間でもあったのですが、モナ・リザ盗難事件の際に冤罪で捕まり、それを理由に母親に別れさせられてしまいました(それでもローランサンは死ぬまでアポリネールを想っていた節があります)

マリー・ローランサン 「優雅な舞踏会あるいは田舎での舞踏」
白い肌をした3人の女性が描かれ、黒の衣の女性とピンクの衣の女性が手を取り合って抱きあうように踊っています。また、その隣で足を組んだ女性が弦楽器を持っている姿も描かれ、その足元あたりには菱形の線が引かれています。以前この絵を観た際に、こうした幾何学的な表現はオルフィスム(キュビスムの一派)を取り入れていると解説されていたのを思い出しました。その為か全体にリズムがあるように感じ、柔らかい色合いは既にローランサンの代表的な作風に近づいているように感じました。

マリー・ローランサン 「アンドレ・グルー夫人(ニコル・ポワレ)」
黄色い服を着た女性像で、これはポール・ポワレの妹のニコルを描いた作品です。単純化されていますが気品ある風貌で、黄色が非常に鮮やかでした。これだけ強い色使いはちょっと珍しいかも??

この辺には「舞台についての対話」という挿絵本があり、水彩を原画とした作品も展示されていました。文字が書かれ物語があるようですが、私はフランス語を読めません…w

マリー・ローランサン 「三人の若い女」 ★こちらで観られます
今回のポスターの作品で、10年かけて完成させたそうです。3人の女性が三角形を作るように並んでいて、横に手を伸ばす黄色い衣をまとった半裸の女性、赤い衣を被って頬杖をつく女性、ギターを持って座る青い服の女性となっています。そして背景にはアーチ状の橋のようなものが描かれていました。3人の服の色がそれぞれ引き立てるような感じで全体に華やかで優美な雰囲気があるように思います。キュビスムから影響を受けただけあって簡素ながらも幾何学的な構成の妙もあるのではないかと思いました。

マリー・ローランサン 「シュザンヌ・モロー(青い服)」
住み込みの家政婦で、後にローランサンの養女となった女性を描いた作品です。白の織物?持ってそれを見つめる青い服の女性で、ちょっと虚ろな感じすら受けます。静かな雰囲気であまり華やかさは感じませんでしたが、解説によるとローランサンはブルーは最も好ましい色として挙げていたそうで、愛情を持って描いているのが伝わってくるようでした。


<2章>
続いての2章は同時代の画家やエコール・ド・パリの画家の作品が並ぶコーナーです。

モーリス・ド・ヴラマンク 「花束」
花瓶に入った赤や白の花束を描いた作品です。緑を背景に長方形の筆跡が並ぶように描かれ、抽象的に見えるくらい大胆な筆使いとなっています。ちょっと野暮ったい気もしますが、色も対比的で力強さがありました。解説によると、この作品はサロンでフォーヴ(野獣)と評された年に描かれたもので、アポリネールが所蔵していたそうです。

この隣には約30年後に描かれたヴラマンクの「雪景色」(★こちらで観られます)もありました。こちらはお得意の画題でスピード感があります。また、この辺にはパナソニック汐留ミュージアム所蔵のルオーの「裸婦 悪の華」「裁判官たち」「飾りの花」などもありました。

藤田嗣治 「仰臥裸婦」 ★こちらで観られます
ベッドで仰向けになり、目を見開いて右手を上げる裸婦が描かれた作品で、細い線と胡粉のような滑らかな白で表現されています。全体的にやや暗めに見えましたが、大きな作品で見栄えがします。乳白色の裸婦で人気を博した頃の藤田らしい題材・画風に思いました。

この近くにはドンゲン、キスリング、ユトリロなどもありました。

シュザンヌ・ヴァラドン 「座る裸婦」
ユトリロの母が描いた作品で、腰掛けて前屈みで俯く裸婦が描かれています。やや強めの黒い輪郭や、肌の陰影を緑・オレンジなどで表現しているなど、力強くちょっと無骨なくらいの印象を受けました。56歳の頃に描いた作品なので、もうユトリロも画家として活動していた頃かな。

この辺にあった展示ケースにはディアギレフ率いるバレエ・リュスの公演で使われたローランサンやユトリロのデザイン画や公演プログラムなどが並んでいました。


<3章>
最後の章は1910年~1930年頃に渡仏した日本人画家のコーナーです。彼らはフランスの作家と関わったり、バレエ・リュスの興行などからも影響を受けていたそうです。

徳永仁臣 「瞑想」
白いベッドに横たわりこちらをじっと観る裸婦画描かれた作品です。黒い眉にキリッとした目で写実的に描かれています。どことなくゴヤのマハの絵に似た雰囲気があり、実際に徳永はゴヤの作品を観ていたそうです。解説によると徳永はアカデミー・ジュリアンでは解剖学を基礎とした人体描写を習得していたらしく、その力量が伺える作品でした。
 参考記事:プラド美術館所蔵 ゴヤ 光と影 感想前編(国立西洋美術館)

児島虎次郎 「和服を着たベルギーの少女」
横向きで手を重ねて座る白い和服を着たベルギーの少女を描いた作品で、静かで優美な雰囲気を感じます。背景は全体的に赤く、ピンク、緑で幾何学的な模様が描かれていて、背景の赤と少女の白の対比が強く感じられました。ややざらついた質感に観えるのも独特な感じです。
児島虎次郎は他にも「裸婦と椿」という作品もあったのですが、こちらはラファエル・コランの「フロレアル」を彷彿とするポーズの女性が描かれていました。
 参考記事:
  ぬぐ絵画-日本のヌード 1880-1945 (東京国立近代美術館)
  東京美術学校から東京藝術大学へ 日本絵画の巨匠たち (ホテルオークラ アスコットホール)

佐伯祐三 「扉」 ★こちらで観られます
これは佐伯が屋外で描いた最後の作品の1つで、青みがかったグレーの門が描かれています。太い輪郭で描かれているためか重々しい雰囲気があり、柱には引っかき傷のようなものがあり風格を感じさせました。
佐伯はもう1枚あり、荻須高徳も3枚くらいありました。

児島虎次郎 「手鏡を持つ婦人」 ★こちらで観られます
赤い椅子に座る赤い服とスカートの女性像です。背景にも赤い布が掛かっていて、赤だらけの画面となっているのですが、それぞれの色合いが違っていて落ち着いた雰囲気に見えるのが面白いです。また、緑の手鏡、エメラルドグリーンのネックレス、緑のスカートの裾などの取り合わせもアクセントになっているように感じました。右の方をチラッと見ている表情もどこか知的な雰囲気で好みでした。
この辺は児島虎次郎の作品が並んでいました。結構、画風が変わるので驚きます。

小磯良平 「青衣の女」
青いドレスの女性が座って手の上に顔を乗せて振り返っている姿を描いた作品です。簡潔で若干フォーヴィスムのような雰囲気の色合いに見えるかな。構図も面白い作品でした。
小磯良平も何点かあり、画風も様々でした。

三岸節子 「もや」
紐?を持って踊るアイヌの衣装の2人の人物が大きく描かれ、背景には赤い炎のような雲が浮かび、何人かの人の姿もあります。赤い雲の中には黒い鳥の影があり、神秘的というかちょっと怖さも感じるかな。シュールで心に残る作品でした。
最後は三岸節子の作品も数点並んでいました。


ということで、久々にローランサン美術館所蔵の作品を観ることができました。ローランサンの作品は思ったより少なかったですが、もう一度観たかった作品もあって良かったです。2章・3章は若干強引なチョイスにも思えますが、楽しめたのでこれはこれで良かったかなと思います。


 参照記事:★この記事を参照している記事

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