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映画「メリエスの素晴らしき映画魔術&月世界旅行」(ネタバレあり)

先週の土曜日に渋谷のシアター・イメージフォーラムに行って、映画「メリエスの素晴らしき映画魔術&月世界旅行」を観てきました。 今回は中身についても詳しくご紹介しようと思いますので、この映画を予備知識なしで観たい方はご注意ください。

P1040638.jpg P1040635.jpg

【作品名】
 メリエスの素晴らしき映画魔術&月世界旅行

【公式サイト】
 http://www.espace-sarou.co.jp/moon/index.html

 シアター・イメージフォーラム
 

【時間】
 メリエスの素晴らしき映画魔術 : 1時間00分程度
 月世界旅行 : 0時間15分程度

【ストーリー】
 退屈_1_2_3_④_5_面白

【映像・役者】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【総合満足度】
 駄作_1_2_3_④_5_名作

【感想】
私が行った時、この映画はこの劇場しか上映していない(しかも1日に朝夜の2回のみ)ということもあって、混んでいて満席に近い状態となっていました。
今後は他の地域でも上映されるようですが、関東ではここだけのようです。
 参考リンク:「メリエスの素晴らしき映画魔術&月世界旅行」の上映劇場

さて、この映画は2本立てとなっていて、1本目は110年前にジョルジュ・メリエスによって作られた映画「月世界旅行」に関するドキュメンタリーで、もう1本がカラー版の「月世界旅行」となります。以前「月世界旅行」の映画の白黒版を観たことがあるのですが、昨年カラー版が修復されたそうで、気になって脚を運びました。

ドキュメンタリーなのでネタバレと言うのか分かりませんが、簡単にどんな話かご紹介しておこうと思います。ちょっとうろ覚えの所もあるので、間違った所があったらごめんなさい。
 参考記事:アンリ・ルソー パリの空の下で ルソーとその仲間たち (ポーラ美術館)
 参考リンク:ジョルジュ・メリエスのwikipedia

まず1本目の「メリエスの素晴らしき映画魔術」ですが、こちらはジョルジュ・メリアスの偉業やその後の顛末、月世界旅行の修復についての話がメインとなっています。メリアスは元々奇術師だったのですが、リュミエール兄弟によって映画が発明された際、それを観て将来性を感じ、自らも映画制作へと進んでいきます。奇術師ならではの豊かな発想で世界初のSFXと言える映像作品を作っていたらしく、この映画でもその映像を楽しむことができます。1つずつは短い作品のようですが、現代の我々が観ても面白さを感じるコメディタッチの作風で、その発想力に当時の人達が驚いたのも頷けます。

そしてついに1902年に世界最初のSF映画とも言える「月世界旅行」が発表されると、たちまちのうちに大人気となりました。これは複数のシーンから成るストーリーのある作品で、今では当たり前のようでも当時の映画界ではこれは大変画期的なことだったそうです。撮影現場の再現映像などもありましたが、当時は撮影できるのは明るい昼の時間だけで、しかも編集も無いのでストーリーに沿った順序で撮影が勧められたようです。撮っては現像して確認するというのを繰り返したので、制作日数も当時としては異例の長さとなりました。
このように「月世界旅行」はまさに映画史上に燦然と輝く偉業と言えますが、あまりに人気だったのですぐに海賊版も出たらしく、せっかく成功したのにそれに見合った金銭的成功では無かったそうです。また、メリアスの成功によって模倣者も現れる事態となりました。

それでもその後もしばらくメリアスは人気を博し、数分程度の短い作品も合わせると500作品も作ったらしく、スタジオを購入(新築だったかも)するなどして事業の拡大を図りました。当時は白黒映画の時代ですがカラーも存在した(ライバル社でやっていた)ようで、これは300人もの女性を雇ってフィルムに着色する作業によって作られ、白黒に比べてえらく手間がかかり費用も相当だったそうです。カラーがあるというのも驚きですが、その実現方法の遠大さに仰天しました。

そうした各社の競争の中、時代とともに観客はメリアスの作品に飽きて行ったようで、ニュース映画やよりリアルな映画、音声付きのトーキーなどが出回るようになるとメリアスの映画は受けなくなり、やがてスタジオは閉鎖され彼自身も映画の世界から去っていきました。そして、何を思ったのか過去の自分の作品を燃やしてしまったようで、これが原因で永遠に失われた作品も多いようです。作家としての自殺とも言える行動は、絶望だったのか、彼なりの時代への反抗だったのでしょうか…。

その後、メリアスは駅で売店をやってひっそりと生きていたようですが、彼を見直す動きもあり、彼の作品を集めた上映会も企画されたそうです。しかし時既に遅く、多くの作品が失われたため尺が足りず、他の映画で穴埋めするなどちょっと中途半端な感じだったようです。何とも悲しい話です…。

そうした経緯でメリアスの作品の多くは失われたのですが、今回のカラー版「月世界旅行」は奇跡的にコレクターのコレクションから見つかったそうです。メリアスの信奉者である語り部もその存在を知らなかったようなので、相当に貴重なものであるのが伺えます。 …しかしフィルムは経年の劣化でカチコチに固まっていたらしく、映画の後半はその修復作業についての内容となっています。

修復作業はまずテープの密着を和らげ、1コマづつ剥がしては写真を取るという気が遠くなりそうな作業から始まります。結構ボロボロで、欠けていたり破片に分かれてしまっているものもあるようでした。 そして何とか写真に収め終わると次のステップへ…とは行かず、技術的な問題があり数年間データを保管したまま時を待ったようです。 月日が経ちようやく再開されると、試行錯誤を繰り返し白黒版と同じコマを突き合わせて番号を振っていき、欠けたコマは白黒版を参考に前後の色などから判断して合成して作っていったようでした。また、そもそもの色も劣化で褪せているので、コンピューターによって当時の色を再現するなど、繊細な作業を根気よく行なっている様子がよく分かります。この修復作業によって新たに発見もあったそうで、映画の歴史を発掘しているような感じに見えました。

そして十分に価値と有難味が理解できた所で、修復されたカラー版の「月世界旅行」が始まります。こちらもざっくりとストーリーを紹介すると、沢山の博士たちが集まって月世界への旅行が議論されるシーンから始まり、議論が白熱して喧嘩になるものの、最終的には月旅行が決定されます。そして大砲の弾を宇宙船として作成するシーンが映された後、沢山の人に見送られながら大砲の中に入って月へと発射されます。
月に徐々に近づいて行くと、今回のポスターにもなっている月の顔に突き刺さるという象徴的なシーンになります。これは後に様々なオマージュも生まれているシーンなので是非観ておきたいところです。
次のシーンでは6人の博士一行が無事に月に着き、地球を眺めた後、野宿をします。すると怒った星の神々が夢に現れて雪を降らせます。博士たちはその吹雪を避けて穴の中へ進むと、そこには不思議な世界があり、月にすむ原人(月人)たちと遭遇します。博士たちはすぐに月人と戦い、何人か倒したものの結局捕まり王宮にひきたてられていきます(先の映画ではこのシーンについて、怪しい者をすぐさま攻撃する様子を当時の帝国主義的だと評していました。)

沢山の月人の王宮に連れてこられた博士たちですが、博士の1人が縄を解き、月人の王に襲いかかってこれを倒してしまいます。さらに混乱に乗じて王宮から逃げ出し、大砲の宇宙船へたどり着き、しがみついてきた月人もろとも崖から落として地球の海に戻っていきます。地球の海に落ちる所などは後のアポロ計画を彷彿とさせました。

そして最後は、博士たちを乗せた大砲の弾が船に曳航されて無事帰還し、月人を引き連れてパレードが行われます。勲章のようなものを授与され、女性たちが踊って映画は終わります。

ストーリーはこんな感じで、肝心の色については非常にカラフルかつ手彩色の感じが出ていて、当時の映像もこうだったのだろうと思わせました。色がついていると白黒と大分印象が違って、華やかかつ幻想的で、絵画的な雰囲気がありました。なお、映像には音楽もつけられていたのですが、音楽のほうは現代的過ぎな気がしましたw


ということで、予想以上に楽しめる内容となっていました。映画の中の解説や構成も非常に分かりやすくて、メリアスと「月世界旅行」がどれだけ偉大な存在であるのかも理解できました。これだけ苦労して修復された映像を観られるのは貴重な機会だと思いますので、特に映画好きの方は映画の歴史を知る上でもチェックしてみるのもよろしいかと思います。


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