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猪熊弦一郎展 『いのくまさん』 【そごう美術館】

先週の平日に有給休暇を取って横浜で美術館めぐりをしてきました。まずはもうすぐ終わってしまう そごう美術館の「猪熊弦一郎展 『いのくまさん』」をご紹介しようと思います。

P1040869.jpg P1040867.jpg

【展覧名】
猪熊弦一郎展 『いのくまさん』

【公式サイト】
 http://www2.sogo-gogo.com/common/museum/archives/12/0726_inokuma/index.html

【会場】そごう美術館
【最寄】横浜駅


【会期】2012年7月26日(木)~9月9日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間00分程度

【混み具合・混雑状況(平日17時頃です)】
 混雑_1_2_3_4_⑤_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
平日の夕方ということもあり、空いていて自分のペースで観ることができました。

さて、今回は「いのくまさん」こと猪熊弦一郎の個展となっています。2年ほど前に同じタイトルの展示を東京オペラシティアートギャラリーで観ましたが、構成が似ていたので、もしかしたら巡回なのかも?? 以前観た時はよく理解できませんでしたが、今回はそこそこ解説があったので以前よりは分かりやすかったように思います。展覧会は谷川俊太郎との絵本『いのくまさん』に合わせた章分けで、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館の所蔵作品が120点ほど並んでいました。詳しくは章ごとに気に入った作品とともにご紹介しようと思います。
 参考記事:猪熊弦一郎展『いのくまさん』 (東京オペラシティアートギャラリー)


<こどものころから えがすきだったいのくまさん おもしろいえを いっぱいかいた>
まずは子供の頃からのコーナーです。猪熊弦一郎は1902年に香川県の高松市で生まれ、東京美術学校で藤島武二に学んだそうです。学生時代から帝展に入選するなど若くして頭角を現し、1936年には小磯良平らと共に新制作派協会を結成します。そして1938年に念願の渡仏を果たすと、アンリ・マティスを訪ね指導・助言を受けました。戦後はニューヨークにアトリエを構えて20年間ほど活動したそうで、その後は東京とハワイを拠点としたそうです。
このコーナーの最初にはハイライト的な作品があり、その後は子供時代の作品などが並んでいました。

猪熊弦一郎 「顔2猫2鳥8」
これは恐らく後の時代の作品で、冒頭のハイライト的な感じで展示されていたのだと思います。 タイトル通り、白を背景に顔が2つ、猫が2匹、鳥が8羽描かれた作品で、鳥はあちこちに様々な種類が描かれています。一見すると落書きのような、もしくはキュビスム的でピカソのようなデフォルメされた画風に見えるかな。猫の体の側面が格子状になり○×が描かれているなど、幾何学的な面がありつつ自由奔放でちょっと奇妙な感じが面白かったです。

この隣も油彩で、その後はインクによる素描など小さめの作品が並びます。9歳の頃に描いた武者絵、鶴の紋のような絵などからは子供時代でも卓越した描写力を感じます。また、その後には亡くなる前年に描かれた作品もあったのですが、むしろこちらの方が子供が描いたような…w
さらに、近くには丸亀中学校時代の麦、魚、本などのスケッチが並んでいます。質感豊かに描かれ、絵の右上には「甲上」と赤字で成績がつけられていて、先生に教えるほどの腕前だったというエピソードも紹介されていました。


<いのくまさんは じぶんでじぶんの かおをかく>
続いては自画像のコーナーです。

猪熊弦一郎 「自画像」
これは頬に手を当てる19歳の頃の自画像で、髪は短く濃い眉で、優しそうな表情をしています。写実的で落ち着いた色合いの作風で、後の自由奔放な作風とはだいぶ違って観えました。

その後は東京美術学校時代の素描の自画像が続きます。毎日1枚、1年間に渡って自画像を描いていたそうで、さらっと描いたものや睨んでいるようなものなど、描き方も表情も様々で面白かったです。

猪熊弦一郎 「自画像」
これも学生時代の作品で、藤島武二に学んでいた頃の自画像です。平たい帽子をかぶった姿で、赤を背景にして、全体的にも赤みがかっています。こちらを見据えた表情は意志が強そうな感じに観えました。 若干、簡略化されたような印象を受けたのですが、解説によると、この頃 藤島武二からデッサンが悪いとの指導を受けたそうで、いのくまさんは物を正確に描くのではなく、物を理解して描くことが重要であると気づいたとのことでした。


<ほかのひとのかおもかく>
続いては自画像以外の肖像のコーナーです。

猪熊弦一郎 「サクランボ」
白い器に入ったサクランボの1つを摘む白い服の女性を描いた作品です。背景は水色地と黄色地が中央で分割されているような感じで、かなり単純化が進んでいて色もさっと描いたように見えます。よく観ると腕の辺りが透けて肌が見えているなど、巧みな部分もありますが、細部よりも全体的な色の明るさが印象に残りました。この作品の頃にはマティスの薫陶を受けたらしく、その影響が感じられるようでした。

いのくまさんはパリに遊学していた頃、マティスやピカソを範にとった作品を描いたりして様々な試みをしていたそうです。しかしその作品は40年以上封印されていたらしく、1982年の回顧展で初めて発表されたとのことでした。

猪熊弦一郎 「マドモアゼルM」 ★こちらで観られます
青い背景に青い服の女性が描かれた作品で、膝を抱えて座るポーズをしています。色は背景も服も同じような感じですが、顔はリアルに描かれ、キリッとした目で右側を見つめています。落ち着いた色合いのせいか、知的で意志の強そうな雰囲気がありました。
解説によると、いのくまさんは35歳の時にフランスに渡ったのですが、その頃第二次世界大戦が始まりパリは空襲を受けたそうです。そんな中でも何とか良い絵を1つ残したいと考えたそうで、この絵は帰国直前まで描いていたというエピソードが紹介されていました。

この近くにはマティス風の作品も展示されていました。


<たくさんたくさん かおをかく>
続いても顔を描いた作品のコーナーですが、一気に簡略化が進んで沢山の顔が描かれた作品が並んでいました。

猪熊弦一郎 「顔15」
ほぼ正方形の画面を縦4枠・横4枠に分割して、そこに1つずつ顔が描かれている作品です。右下に1つだけ2枠使って裸婦が描かれているので、合計で15の顔となります。太い輪郭で落書きのような単純化(髪や耳がなく、円の中に眉、目、鼻、口だけ)となっていて、若干キュビスム的な雰囲気もあります。1つ1つ顔が違っていてどれも個性的なので、あまり理屈を考えずに観ていると楽しい作品でした。

この辺には同様の作風の作品が並んでいます。

猪熊弦一郎 「Face80」 ★こちらで観られます
先ほどの15の顔の作品を、さらに9×9のマスにした作品です。1枠だけ緑のパネルのようになっているので80の顔が並んでいます。こちらも顔はそれぞれ違っていて、これだけ並ぶと人々に囲まれているような気分になりましたw 中々に迫力があります。

解説によると、いのくまさんは1988年に文子夫人に先立たれ、突然 顔を描いてみたいという衝動に駆られたそうです。近くには顔を描きだした頃の作品もあるのですが、最初は陰影がついて立体的な感じで、唇には紅がさされ女性像のように見受けられます。これは夫人の面影を追い求めていたのではないか?と推測されるようでした。


<いのくまさんは とりがすき>
続いては鳥を描いたコーナーです。鳥は好んで描いたモチーフの1つで、少年時代に丸亀城の森に群れるゴイサギの美しさに心を奪われた経験がきっかけではないかとのことでした。

猪熊弦一郎 「黒鳥の休日」
空色を背景に、単純化された鳥たちが描かれた作品です。周りには四角や丸など抽象的な図形があり、鳥たちは何の鳥かよく分かりません。解説によると、これは頭の中の鳥だそうで、自由奔放でリズミカルな印象を受けました。

この辺は鳥が群れている作品が並んでいました。小さい鳥の模型?も展示されていて、いのくまさんのコレクションのようでした。

猪熊弦一郎 「帰る 太陽のもとへ」
スケッチブックのようなものに描かれた作品で、幾重にも円を重ねて描かれた太陽の下、7羽の鳥が縦に並んでいて、いずれも右から左へと飛んでいる姿で描かれています。何の鳥かはわかりませんが、淡く色付けされ生き生きとした感じで、ちょっとキャラクター的な可愛さもありました。
この作品はページを見開きで展示していたのですが、左のページには太陽の鳥と書かれ、枝に止まるハート型のフクロウのような鳥も描かれていて、こちらも愛嬌がありました。


<いのくまさんは ねこもすき いっぱいいっぱい ねこをかく>
続いては猫を題材としたコーナーです。猫は戦時中も疎開に連れて行っていたそうで、多い時は1ダースもの猫を飼っていたそうです。ここにはその猫好きを感じさせる作品が並んでいました。

猪熊弦一郎 「題名不明」
1954年頃に描かれた作品で、白地に白猫3匹と縞々の猫1匹が描かれています。背中を向けたり、毛づくろいしたり、警戒していたりと猫の習性をよく捉えているように思います。解説によると、いのくまさんは猫の可愛さだけではなく、野性味ある自立した生き物として猫を描いていたそうです。

この辺は沢山の猫を描いた作品が並んでいました。喧嘩をしたり、丸まっていたり、猫の家族のような作品もあって、のんびりした雰囲気で見ていて幸せな気分になりました。


<いのくまさんは おもちゃがすき>
続いては玩具やコレクションのコーナーです。いのくまさんは海辺で拾った石から値打ち物のアンティークまで、美しいと感じたものは何でもコレクションしたそうです。その為、ここには動物の形の陶器や置物、車の玩具、石など 様々な品が並んでいます。どこかノスタルジーを感じる品が多いかな。
私が特に驚いたのは部屋の中央にあった「対話彫刻」(★こちらで観られます)という自作の玩具?で、これは針金や飴の包み紙などで作られたものです。いのくまさんは1日に100本ものタバコを吸っていたのですが、夫人に心配されてタバコをやめ、その指先の寂しさを紛らわせる為に、こうした玩具?を作ったそうです。人と会話しながら作れるので「対話彫刻」と呼んだようで、虫のようなものや現代アート風のものなど、ちょっと脱力系ながら流石と思わせるものもありました。…使い終わった薬の包みとか紐とかゴミみたいなもので作られているのも面白いですw

この先には いのくまさんが手がけた壁画の写真が並んでいました。川崎市の市役所、慶應義塾大学、帝国劇場、東京會舘、半蔵門線の三越前駅などの写真があります。(この先にあるワークショップの部屋の中にも続きがあります)


<いのくまさんは かたちがすき こんなかたち あんなかたち>
<かたちはのびる かたちはまがる かたちはつながる かたちはかぎりない>
続いては幾何学模様に関するコーナーです。いのくまさんは1965年にニューヨークに渡り、それまでの具象表現から抽象へと作風を変えたそうです。ここには丸、四角、×が多用された作品が並び、ビルや都市を彷彿とする作風となっていました。

猪熊弦一郎 「都市誕生」
空色を背景に黒や赤で、四角、四角の中に×、丸などを描いた作品です。タイトルのせいか鉄骨を連想しましたが、自由気ままに描かれたような感じも受けました。赤が鮮やかでリズミカルな雰囲気です。

この辺には大都会を彷彿とする作品もありました。

猪熊弦一郎 「宇宙は機械の運動場No.1」
深い青を背景に、宇宙船のような輪郭のものや丸など、幾何学的な枠が描かれた作品です。いずれもふちがハシゴ状になっていて機械っぽさがあるかな。タイトル通り、宇宙を旅する宇宙船のように観えました。解説によると、この頃 いのくまさんは宇宙に強い関心を寄せていたそうです(そう言えば以前、スターウォーズが好きだったというエピソードが紹介されていました)

この辺はカラフルで強い色と幾何学的なモチーフを使った作品が並んでいました。中には1987年の沖縄での金環食を描いた「金環食」(★こちらで観られます)という作品もあり、宇宙への憧れが感じられました。


<ぬりえをしよう>
ここは小・中学生向けのワークショップのコーナーで、白黒のシートを渡して貰い色鉛筆で色を塗って遊ぶことができます。

ここには いのくまさんの手がけた壁画の写真の続きがあり、多度津町町民会館。、上野駅中央改札、日本IBM幕張事業所 の写真もありました。


<いのくまさんは いろもすき こんないろ あんないろ>
<いろがうまれる いろがささやく いろがさけぶ いろがうたう>
続いては色に関するコーナーです。ここはかなり抽象的な作品が並んでいました。

猪熊弦一郎 「The City(Green No.1)」
緑を背景に、縦横に沢山の黒いハシゴ状の模様が描かれた作品です。その1つ1つがビルのような感じで、他にも長方形と線で地図のような表現があったりして、都市を思わせます。色が2色しかなく、緑が眩しいほどでした。

この辺はカラフルな作品の方が多いかな。原色が使われ、力強さと軽やかさが絶妙なバランスです、

猪熊弦一郎 「夜を飛ぶ」
黒地に白い円や赤い四角など様々な色の幾何学模様が描かれた作品です。これらは飛行機や月、街の灯りを思わせるとのことで、確かに夜の街のような場面でした。解説によると、これは1980年にニューヨークでピカソ展に3日通い詰めた直後に描かれた作品だそうで、ピカソから創作に対するエネルギーを受けたのではないかとのことでした。


<いのくまさんはたのしいな>
最後は今回の塗り絵にもなっている「鳥達の隣人」を含む、色無しの素描のコーナーでした。点数が3点くらいしかなかったので感想は割愛。

ミュージアムショップにはいのくまさんグッズも売っていました。結構、ゆるキャラみたいな感じですw


ということで、いのくまさんの世界を楽しむことができました。単純なようで非常に個性的で記憶に残る画風です。前に観た時よりは理解できたかな?w もうすぐ終わってしまいますので気になる方はお早めにどうぞ。


 参照記事:★この記事を参照している記事

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