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草原の王朝 契丹 ―美しき3人のプリンセス― (感想前編)【東京藝術大学大学美術館】

先週の土曜日に上野の東京藝術大学大学美術館で「東京藝術大学大学美術館」を観てきました。情報量の多い展示でメモを多めに取ってきましたので、前編・後編に分けてご紹介しようと思います。

P1050334.jpg

【展覧名】
 日中国交正常化40周年記念 特別展 草原の王朝 契丹 ―美しき3人のプリンセス―

【公式サイト】
 http://www.tbs.co.jp/kittantokyo/
 http://www.geidai.ac.jp/museum/exhibit/2012/kittan/kittan_ja.htm

【会場】東京藝術大学大学美術館
【最寄】上野駅(JR・東京メトロ・京成)など


【会期】2012年7月12日(木)~9月17日(月・祝)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 3時間00分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日14時頃です)】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
もう会期も残り少ないですが、意外と空いていて快適に観ることができました。

さて、今回の展示は「契丹(きったん)」という唐の時代の後に広大な領土を誇った国についての展示です。
今から1100年前の東アジアは、中国の唐王朝の滅亡を受けて各地に新たな国が登場した「変動の時代」と呼ばれるそうで、そうした中で国づくりにいち早く着手したのが遊牧の民である契丹の諸部族を統括した耶律阿保機(やりつあぽき)でした。10世紀初頭に国家の体制を整えた契丹(国の名前は遼)は、巧みな騎馬戦術や北宋・高麗・西夏・ウイグルなど周辺国との活発な交流によって富み栄え、現在の北京や内モンゴル自治区、モンゴル、ロシア、カザフスタンに至るまで広がったようです。その後、契丹は1125年に女真族の金に滅ぼされるのですが、現在でもロシア語の「キタイ」や英語の「Cathey(キャセイ)」のように中国大陸を示す言葉に残っているようです。
この展示ではその契丹の文化について、3人の皇族女性にまつわる品を中心に構成されていました。初公開の品も多いようでしたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介しようと思います。
 参考リンク:
  契丹のwikipedia
  遼(契丹の王朝)のwikipedia


<入口>
入口には契丹の文字についての解説がありました。契丹の言語は日本語や朝鮮語と同じアルタイ語系(wikipediaでは日本語・朝鮮語をアルタイ語系に入れるか微妙みたいな記載がありますが…)らしく、大文字・小文字があるそうです。大文字は初代皇帝の耶律阿保機が制定し、小文字はその数年後に弟の迭刺(ていら)が作ったらしく、朝鮮語のハングル文字のように複数の原字を組み合わせていたそうです。表意・表音の両方があるようですが未だに分からないものもあるようで、今も研究が進んでいるとのことでした。
 参考リンク:アルタイ諸語のwikipedia

また、この辺りには契丹の地図があり、その大きさに驚かされました。


<第1章 馬上の芸術>
契丹は馬にまたがり平地を求める遊牧の民で、5世紀頃に歴史の表舞台に姿を表しました。中華王朝に良馬を差し出す時もあれば反旗を翻す時もあったそうで、時局を睨みつつ立場を変えていったようです。そして10世紀始めの唐王朝の滅亡を好機と捉え、モンゴル草原を拠点として大帝国を作りました。
契丹は唐など中華世界の礼制に倣いながらも、遊牧民の習俗や死生観を保っていたそうで、契丹の皇族の墓には美しい馬具や狩猟道具が収められ、特に馬具は南に対峙した宋朝からも天下第一と評価されるほどだったようです。また、契丹人は死んだ人の魂は「黒山」と呼ばれる霊峰に向かうと考えていたそうで、生前と同じように馬と共にある暮らしを思い描いていたようです。この章ではそうした馬具を始め、装飾品・副葬品が並んでいました。

18 「琥珀首飾り」
今回のテーマである3人のプリンセスの1人目、陳国公主(ちんこくこうしゅ)がつけていた首飾りです。大きな琥珀を数珠つなぎにしたもので、結構重そうに見えるかな。自前のミュージアムスコープで拡大して観てみたところ、大きい玉には彫りがあるのが確認できました。これは分かりづらいですが中国の吉祥紋様である龍や蓮華、鳥、魚、動物などのようで、モチーフに中国からの影響も感じさせます。
契丹は琥珀を愛用していたようで、この展示には琥珀を使った品が何点かありました。琥珀好きに関しては中国の嗜好とは違いがありそうでした。

20 「龍文帯金具」
これも陳国公主の品で、8枚の金の板を繋げたような帯飾りです。それぞれに昇り龍が彫られ、背景には荒波と岩が彫られています。金ピカで彫りが細かく、モチーフに迫力があるので分かりやすいお宝っぽさですw ここでも中国からの影響が感じられ、この後もずっと中国っぽいな~という品々が続きます。

この辺には陳国公主の腕輪や皇帝の髪飾りなどもありました。確かに琥珀が多めかな。 中には西域から献上された真珠も使われた品もあり、交易があったことが伺えます。

02 「鍍金仮面」
金色の顔が彫られたマスクで、耳もついています。これは埋葬の際に死者にかぶせる仮面らしく、宋時代の文献にも契丹貴族の特異な埋葬習俗として記録が残っているそうです。また、これは鍍金(ときん。メッキ)されていますが、こうした仮面は身分によって材質が違うとのことでした。この辺は独特な文化を感じさせます。

この近くには10「鳳凰文冠」(★こちらで観られます)という立派な冠もありました。また、この辺りで1人目のプリンセスの陳国公主について解説されていました。それによると、陳国公主は5代皇帝 景宗の孫娘で、18歳の若さで亡くなり夫の墓に夫と共に埋葬されたそうです。1986年に発掘された際、契丹国最盛期に相応しい豪華な装飾をつけていたそうで、ここには当時の写真も展示されていました。(★こちらで観られます

11 「金製仮面」 ★こちらで観られます
陳国公主が埋葬された際につけていた金のマスクで、生きていた時の顔に似ていると考えられるそうです。丸顔で目が小さめで、耳が大きめに見えます。 解説によると、これは死んだ時に作ったものではないようで、結婚した時に用意されるとのことでした。

この隣には「銀糸葬衣」(★こちらで観られます)という亡骸を覆っていた網目状の服や、埋葬の時に履いていた鳳凰と唐草文様の「鳳凰文靴」(★こちらで観られます)もありました。

25-26 「龍文化粧箱」「合子・小かん」 ★こちらで観られます
金メッキが施された円筒形の化粧箱と、その中に入っていた銀の容器です。これは陳国公主の亡骸にあったものだそうで、上面に渦巻く龍、側面に鳳凰が彫られ、かなり細かく鱗も1つ1つ表現しているようでした。龍に鳳凰、やはり中華世界からの影響が色濃いように思えます。

この辺りには狩猟道具や飾り帯などがありました。そしてその後に馬具装飾のコーナーが続きます。クツワ、手綱、障泥(あおり)という泥よけ、鞍、胸帯、鐙(あぶみ)など様々な品が並びます。

06 「鞍飾・尻懸」
馬の形に彫られた白玉(はくぎょく)が並ぶ帯が10本くらい連なった飾りで、これは馬の腰と尻を飾るための帯だそうです。1つ1つの白玉への彫りは簡素ですが、これだけあると見応えがあります。玉(ぎょく)は中国人が珍重する綺麗な石ですが、この辺を観る限り契丹でも多く使われていたのかもしれません。白玉を使った装飾は何点かありました。
なお、解説によると平安時代の日本にもこれと同様の飾りがあったとのことでした。

27 「家形木槨・床・机・椅子」
木でできた小さな小屋で、その前に小さな机と椅子が置かれています。解説によると契丹の皇族は地下の墓室に寝台付きの木製の小屋や供物台になる机を置いたそうで、この小屋はその1つのようです。小屋の棟木の両端には龍の頭が彫られ、豪華さは感じないものの安らげる住まいのような佇まいがありました。

この近くには墓室に描かれた壁画の28「山岳群人図壁画」もありました。これは唐時代の画風や唐時代以降の水墨画的な画風が見られるようで、中国の文化を取り入れている様子がわかる品のようでした。


<第2章 大唐の威風>
続いては前時代の唐との関わりについてです。10世紀初頭に唐王朝が滅亡すると、それと共に大契丹国が産声をあげました。唐の滅亡の年を建国の年と位置づけることで、自らが唐の継承者であるとする気概があったと考えられるようです。その為、契丹は唐の文化を否定せずにむしろ積極的に取り込んでいきました。
唐時代の芸術(特に金属工芸)は緻密で深みのある技法と、対称性の強い意匠を得意としていましたが、契丹はそれを継承しつつも見た目も技法も大らかなものが主流を占めたようです。この大らかさを簡略化や粗悪化とする見方もあるようですが、10世紀の契丹工芸はそのことは当てはまらないらしく、唐時代に無いような伸びやかな表現となっているそうです。ここにはそうした唐からの継承や唐との違いを感じさせる作品が並んでいました。

29 「彩色木棺」 ★こちらで観られます
これは「トルキ山古墓」で2003年に発掘された2層構造の大きな木棺です。台座があって、そこに梯子のようなものと欄干があるので、小さな寺か神社のような感じに見えます。また、木棺の正面部分は屋根が少し高くなっていて、これは鮮卑貴族の棺と共通し、唐の仏伝図にみる釈迦の棺や舎利容器の形と一緒と考えられるようです。その為、契丹が鮮卑や唐の文化と繋がっていたことを示す品のようでした。
これは部屋の中央を占めるように置かれていて圧巻です。この部屋の映像ではこの棺の修復の様子も流していましたが、よくこれだけ綺麗に修復できたものだという驚きもありました。

なお、この中には30代前半の黒髪の女性が入っていたそうで、初代皇帝の耶律阿保機に近しい人物(妹かも??)と推定されるそうです。


37 「獅子文盒」
上蓋に2頭の獅子が渦巻くようにお互いを観ている様子が打ち出されています。周りには沢山の草花があり、よく観ると超細かく魚子模様(鱗みたいな模様)がついていて、獅子の鬣や尻尾も毛並みまで表現されています。また、解説によると伸びやかで躍動感に富む表現となっているとのことで、確かに獅子にはそうしたものを感じました。…契丹の文化が粗悪化だなんてとんでもない!w

この近くには先ほどのトルキ山古墓の女性が埋葬の時に履いていた35「鳳凰文錦スカート」や埋葬品の30「木製枕」、漆の机などもありました。

36 「鏡箱・鸚鵡牡丹文鏡」 ★こちらで観られます
鏡と輝石や玉を散りばめた箱で、トルキ山古墓の女性が生前に愛用していた品のようです。箱の内側には細かい文様がつけられ、鸚鵡や蝶が描かれたものと、中国風の楽人たちとその音楽を聴く夫婦(持ち主の夫婦?)の姿がありました。こうした図は唐で流行ったものだそうで、やはり唐からの影響を感じさせます。また、これだけの品が残っているということは、トルキ山古墓の女性はかなりの身分だったのだろうと素人でも感じられました。

この辺にはトルキ山古墓から出土した耳飾りや首飾り、指輪も展示されていました。

続いては52歳で亡くなった耶律羽之(やりつえし)という大臣職を務めた皇族のコーナーです。この人の墓は1992年に発掘されたそうで、硯、竹林七賢をモチーフにした七角杯、板絵などが並んでいました。

64 「四神」
北の玄武、南の朱雀、東の青龍、西の白虎 の四神を象った木の彫刻で、棺の四周に取り付けられたものだそうです。結構その形が面白くて、カクカクしたようなデフォルメとなっていました。解説によると、青龍や白虎が胸を張って疾駆する様や、朱雀と玄武が正面を見据えた姿はこの時代の特徴とのことでした。

この辺りには西方の壺の形の55「孝子図壺」や、契丹らしい琥珀の首飾り、唐時代の銅鏡をコピーした品など。様々な文化からの影響を感じさせる品が並んでいました。


ということで、この辺で上階は終わりですので今日はここまでにしようと思います。何となくモンゴルっぽい展示なのかと思ったらかなり中国風で、唐の後継者(の1つ)としての側面が伝わってくるようでした。下階にも貴重な品が並んでいましたので、次回はそれをご紹介しようと思います。


 参照記事:★この記事を参照している記事

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