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「東京都美術館ものがたり」展 【東京都美術館】

前回ご紹介した展示を観た後、同じ都美で「東京都美術館ものがたり」展を観てきました。こちらも最終日に行ったので既に終了していますが、参考になったのでご紹介しておこうと思います。

P1050726.jpg

【展覧名】
 「東京都美術館ものがたり」展

【公式サイト】
 http://www.tobikan.jp/museum/2012/tobi-story2012.html

【会場】東京都美術館
【最寄】上野駅(JR・東京メトロ・京成)


【会期】2012年7月15日(日)~ 9月30日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間00分程度

【混み具合・混雑状況(日曜日14時半頃です)】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_③_4_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_③_4_5_満足

【感想】
こちらはそんなにお客さんは多くなかったですが、会場があまり広くないのでちょっと混雑している感じでした。

さて、この展示は東京都美術館のリニューアルに合わせてその歴史やそれに関する美術品などを紹介する内容となっていました。東京都美術館は元々は東京府美術館として1926年に設立されたのですが、当時それまで日本に美術館が存在せず、創設が待ち望まれていたそうです。この展示ではその創設についても取り上げていましたので、詳しくは章ごとに簡単にご紹介していこうと思います。


<第1章 美の殿堂 最初の公立美術館>
まずは創設当時についてのコーナーです。先述の通りこの美術館は1926年(大正15年)にオープンしたのですが、当時は美術館1つ無ければ文化水準において西洋に遅れを取ると考えられていたそうで、その悲願は九州の石炭商 佐藤慶太郎による100万円(現在で32億円に相当)の寄付によって実現しました。
オープンすると官展を始め在野の美術団体等も展覧会を開き作家の発表の場となっていったそうですが、美術館の構想段階では美術団体の発表の場であると同時に作品を収集し常設展示できる施設が望まれたようです。しかし、東京府の方針で展覧会本位のギャラリースペースとなっていったそうです。

[百万円と佐藤慶太郎]
こちらは100万円を寄付した佐藤慶太郎についての小コーナーです。佐藤は新聞で美術館待望論を訴えているのを読んで寄付したそうで、「公私一如」という考えを持っていたそうです。これは自分の財産は社会からの預かり物で、世の中に返すのは当然という考えだったようで、佐藤はこの考えの通りに生きた人でした。美術館の寄付以外にも国民の健康生活の改善の取り組みなどもしていたそうで、まさに偉人と言える存在です。

ここには佐藤慶太郎の肖像がありました。ヒゲを生やしていて威厳があり、その人格が伺えます。 また、他には定礎式で使われた金の槌や定礎の時の写真、佐藤が提唱した規則正しく質素な暮らし「新興生活」について書かれた本、佐藤の寄付に感謝して贈られた色紙サイズの作品集(小屏風仕立ての日本画で作者も様々)などが展示されていました。

[「育ての親」としての正木直彦]
佐藤が生みの親とすると育ての親は正木直彦という人物だそうで、この人は東京美術学校の5代校長を務めていたらしく、美術館の設立に尽力し人と人の間に立って創設の柱となったそうです。

ここには椅子に座った正木の像や、設立当時の様子を書いた本の原稿用紙、落成式の時の写真、正木の日記などが展示されていました。当時の東京府美術館は今とは異なり神殿のような外観だったようで、模型や断面図も展示されていました。ちなみにこの神殿のような建物は1970年代に取り壊されたそうです。私は旧館の写真を観たことがなかったので、これはちょっと驚きでした。

[旧館と岡田信一郎]
こちらは美術館の設計を手がけた岡田信一郎のコーナーです。旧館は堂々たるヨーロッパ古典主義の建築だったそうで、ここには図面や写真がありました。パルテノン神殿のような円柱が6本並んた入口で風格を感じさせます。
また、岡田信一郎の他の作品の写真もあり、黒田記念館、東京芸術大学の陳列館、大阪市中央公会堂なども手がけているようでした。
 参考記事:黒田記念館の案内 (2010年11月)

[ステンドグラスと小川三知]
続いてはステンドグラスを設計した小川三知のコーナーです。旧館の内装にはステンドグラスが用いられていたそうで、アメリカで最新の技術を学んできた小川三知が手がけました。

小川三知 「便殿窓」
これは2面のステンドグラスで、黄色のガラスとオパルセントガラス(乳白色で半透明のガラス)が主に使われています。斜め格子の模様と円形があり、円形の中に馬の上で弓を弾く騎士と、それに襲いかかるようなライオンが象られていました。これは格調高い主題らしく、色鮮やかさと同時に落ち着きがあるように感じられました。

この先には小川の他の作品の写真などもありました。国立科学博物館の日本館のステンドグラスも小川三知が手がけているようです。
 参考記事:国立科学博物館の案内 (日本館)

[工芸家具と梶田恵]
1章の最後は家具を設計した梶田恵のコーナーです。梶田恵は美術館の家具を全て設計したそうで、皇室を迎える便殿の家具には皇帝を意味する「アンピール様式」を基調としたそうです。
ここには椅子、花台、テーブルなどが置かれていて、特に椅子は草花文で落ち着きと高級感があり、格調高さは目を見張るものがありました。 また、近くにはその設計図も並んでいました。


<第2章 森に溶け込む美術館 新館開館>
続いては旧館に代わって建てられた今の建物についてのコーナーです。1960年代後半になると展覧会の数は増え、美術館は手狭になって鑑賞環境が悪化していったそうです。さらに地震の際に十分な安全が確保できないことから新館を建てることが決まり、旧館は取り壊されたようです。
新館の設計はル・コルビュジエやアントニン・レーモン等に学んだ前川國男が行い、新館には新たに学芸員が配置され、国内外の近現代美術の名品を紹介する企画展を開催するようになりました。また、収蔵作品展も精力的に開催していたそうで、さらに日本初の公開制美術図書室がオープンするなど様々な変革もあったようです。

[新館と前川國男]
こちらは前川國男に関するコーナーです。前川國男は新たな美術館に3つのコンセプトを設けたようで、それは
 ・展示された美術品に対してあくまで「中立平静」な背景を提供する
 ・外部環境の阻害をできるだけ避ける
 ・耐久性を考慮した素材および工法を用いることで平凡な素材によって非凡な結果を創出する
というものだったようです。ここにはスケッチや当時の写真、図面などがあります。これはよく知っている姿かな。
また、打ち込みタイルのサンプルもあり、陶製のタイルにコンクリートを流し込み、射体と一体化させ耐久性を高めているとのことでした。

その隣には前川國男の他の作品の写真があり、埼玉県立歴史と民俗の博物館、福岡市美術館、熊本県立美術館などが紹介されていました。
 参考記事:
  大宮公園の写真
  埼玉県立歴史と民俗の博物館の案内 (2011年11月)
  江戸東京たてもの園 の写真 その1 (江戸東京たてもの園)


[コレクションと企画展]
1975年の新館オープンを機に、日本の近現代 特に戦後の同時代の作品を紹介・収拾するという方針が明文化されたようです。ここには公開制作や造形講座といった取り組みの写真などが展示さてていました。

[リニューアル・オープンと「アートへの入口」]
ここは今年終わったばかりのリニューアルについてのコーナーで、1/100の模型が置かれていて新館の改修前・改修後を比べてみることができました。中央棟を1層 増築してレストランやショップを充実させたようで、企画棟も一回り大きくなっています。また、屋上には太陽光発電のパネルが置かれるようになりました。
 参考記事:M Cafe(エムカフェ) 【上野界隈のお店】


<第3章 美術家の晴れ舞台 ニッポン・アート史ダイジェスト>
続いての3章はこれまで東京都美術館(東京府美術館)に出品された作品のダイジェストのコーナーで、近現代の作品が並んでいました。

佐伯祐三 「広告"ヴェルダン"」
外にテーブルと椅子が並ぶレストランの風景を描いた作品で、右の方に白地に青字で大きく「VERDUN」と書かれた広告が描かれています。ざらついた感じの表面で、さっとかかれた文字、重厚な色合いなどから佐伯らしい個性が感じられました。解説によると、佐伯の作品は東京府美術館で開催された第13回二科展で特別陳列されたらしく、当時の日本の画壇を震撼させ興奮を巻き起こしたそうです。

この辺には梅原龍三郎の紫禁城を描いた作品や朝倉文夫の「餌食む猫」というブロンズ像などもあり、そちらも好みでした。また、少し先には片岡球子の作品などもあります。

岡本太郎 「森の掟」
チャックのついた魚か獣のような赤い生き物が、突然真ん中に乱入してきたかのような印象を受ける作品です。口には人間らしきものをくわえていて、左上には謎の生物達が逃げ出し、右下には猿のような3匹の生き物あ耳をふさぐように隠れています。これは岡本太郎の提唱する対極主義を鮮明にした作品のようで、相反する要素の対立を強調しているそうです。特に色のぶつかり合いが面白く、暴君が現れたかのようなインパクトがありました。
 参考記事:生誕100年 岡本太郎展 (東京国立近代美術館)

この先には豊道春海の書に関する品などもありました。

東郷青児 「望郷」
顔に手を当てて目をつぶる少女を横から見た構図の作品です。滑らかで丸みを帯びた人体表現からはキュビスム的な要素と、いわゆる「萌え」的な要素を感じますw タイトルの通り望郷の思いに駆られているのか、悩んでいるように見えました。また、背景には神殿のようなものがあり、それがシュールさを出しているようにも思いました。
解説によると、東郷青児は戦時に解散した二科会の再建の中心になったそうです。

この近くには読売アンデパンダン展や東京ビエンナーレに関するコーナーもあり、旧館の前で演じられた寺山修司の「釘」という演劇の写真も展示されていました。

舟越桂 「白い歌を聞いた」
これはポニーテールの女性の彫刻像で、ややざらついた質感で風格を感じさせます。無表情でまっすぐ観る目はちょっと怖くて、舟越桂の独特の作風がよく出ているように思いました。

この近くには藝大の卒業制作展に関するコーナーもありました。

[ポスターでたどる展覧会の歩み 1975-2010]
最後は新館で行われた展覧会のポスターが並ぶコーナーでした。私も2000年代はぼちぼち分かるのですが、結構昔から面白そうな展示を幅広くやっているようでした。

ちなみに過去の入館者ベスト5は、
 1位:2008年のフェルメール展
 2位:1996年のオルセー美術館展
 3位:1997年のルーヴル美術館展
 4位:2003年の大英博物館展
 5位:2006年のプラド美術館展
だそうです。この中には2012年のマウリッツハイスは含まれていなそうなので、早速 記録を更新したのでは??


ということで、よく行っている割に知らなかった東京都美術館について詳しく知ることが出来ました。リニューアルされてさらに快適に鑑賞できるようになったので、今後も東京都美術館の展示に期待したいです。


 参照記事:★この記事を参照している記事
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