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メトロポリタン美術館展 大地、海、空-4000年の美への旅  (感想前編)【東京都美術館】

この前の日曜日に、上野の東京都美術館へ行って「メトロポリタン美術館展 大地、海、空-4000年の美への旅」を観てきました。かなり見応えのある内容となっていましたので、前編・後編に分けてじっくりご紹介しようと思います。

P1060091.jpg

【展覧名】
 【特別展】メトロポリタン美術館展 大地、海、空-4000年の美への旅
 Earth, Sea and Sky: Nature in Western Art; Masterpieces from The Metropolitan Museum of Art

【公式サイト】
 http://met2012.jp/
 http://www.tobikan.jp/museum/2012/metropolitan2012.html

【会場】東京都美術館
【最寄】上野駅(JR・東京メトロ・京成)


【会期】2012年10月6日~2013年1月4日
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間30分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日14時頃です)】
 混雑_①_2_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
開催2日目に行ったのですが、入場制限などは無かったものの会場内は混み合っていて、ほとんどの場所で列を組んで観るような感じでした。中々進まないので時間に余裕を持って観に行ったほうが良さそうです。(恐らく今後も混雑すると思います)

さて、今回の展覧会はニューヨークにあるメトロポリタン美術館の所蔵品を紹介する内容となっています。メトロポリタン美術館は1870年の創設以来「Met(メット)」の愛称で親しまれていて、17もの学芸部門に約200万点の所蔵品、年間来場者数500万人、敷地20万平米を誇る世界最大級の美術館です。今回はその中から12部門133点の品が出品され、自然をテーマに7つの章に分かれていましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品をご紹介しようと思います。 なお、今回の展示は時代も場所も脈絡のない順序で並んでいますので、作品の制作年代と作者の出身地を併記しておきます。


<第1章 理想化された自然>
まずは理想化された自然についてのコーナーです。西洋文化における自然のイメージは目の前の世界よりも古典文学との関わりや芸術家の想像力から生まれていたようです。理想化された田園風景である「アルカディア」の概念など、理想を追求していたようです。ここにはそうした理想化・擬人化された自然に関する作品が並んでいました。

[1-1:アルカディア-古典的な風景]
クロード・ロラン 「日の出」 1646~1647年頃 フランス ★こちらで観られます
日の出の山を背景に、手前にはヤギたちを追う男性や馬に乗る男女が描かれ、奥には大きな木が立っています。全体的に牧歌的な雰囲気で、遠く霞む空には奥行きを感じました。どこか懐かしいようで神話的な美しい光景でした。

4 トマス・コール 「キャッツキル山地の眺め-初秋」 1836~1837年 アメリカ
山を背景に川が湾曲して流れる様子が描かれた作品で、手前にはシート?を広げて座っている人と花を持ってきた女性が描かれ、川にはボートを漕いでいる人の姿もあります。また、向こう岸には馬を追う人、右には登山しているような人も描かれていました。大きめの作品なのですが緻密に描かれていて、画面は光り輝くような明るさです。地平線が低いせいかかなり広く感じられ、穏やかで雄大な雰囲気がありました。
解説によると、この画家はニューヨークを拠点に活動したハドソン・リヴァー派の創設者だそうで、文化や国家のアイデンティティの表明としてアメリカの風景を描いていたようです。

この辺は絵画作品が並んでいました。

[1-2:擬人化された自然]
9 レンブラント・ファン・レイン 「フローラ」 1654年頃 オランダ ★こちらで観られます
春・花・愛の女神であるフローラを描いた作品で、頭に草花を載せた帽子をかぶり、白い服と黄色いスカートの姿で頭だけ左を向いて描かれています。伏し目がちで憂いを感じさせる表情で、スカートには摘み取られた花をくるんでいるようです。背景は暗く、女性には光が当たったような明暗がつけられ、気品ある雰囲気でした。
解説によると、この絵は10年前に早くして亡くした妻のサスキアを理想化して描いた姿と推定されるようです。また、摘み取られた花は儚さを意味しているのではないかとのことでした。


<第2章 自然のなかの人々>
続いての2章は自然と人間の関わりについてのコーナーでした。ここからは絵画以外にも様々な作品が並んでいて、この章の始めには古代彫刻の頭部(キプロスBC 5世紀頃)、野人のステンドグラス(南ネーデルラント 1510~1530年頃)、エデンの園のタペストリー(イギリス16世紀末)、船団をモチーフに七宝と鍍金が施された飾り板(フランス1530~1535年頃)などが並んでいました。モチーフもバラバラで幅広いです。

[2-1:聖人、英雄、自然のなかの人々]
21 ヤン・ブリューゲル(子) 「冥界のアエネアスとシビュラ」 1630年代 フランドル
これは小さめの絵画で、冥界を描いた作品です。遠くに見える山からは火が昇り、川岸では沢山の人々が苦しむようなポーズをとっています。中央には女性と青い鎧の騎士が描かれ、女性は男性を制止するように後ろを指さしているような感じに見えました。そしてその近くには悪魔か妖怪のようなものが描かれていて、奇想の絵となっています。まさに「地獄のブリューゲル」と行った感じかな? 色鮮やかなのですが、ちょっと暗い雰囲気で不気味な感じがありました。

23 ウジェーヌ・ドラクロワ 「嵐の中で眠るキリスト」 1853年頃 フランス ★こちらで観られます
荒海の中、小さな船に10人もの人がぎゅうぎゅうになって乗っている様子が描かれています。両手を挙げて驚いている人や、オールを漕いでいる人などが描かれているなかで、舳先の辺りでは頭から光が出ているキリストが頬杖をついて眠っています。解説によると、これは新約聖書の場面らしく、嵐に翻弄される船の中で怯えた弟子に起こされたキリストは、神への信仰が足りないと言ったそうです。全体的に筆が大胆で空が暗いせいか、不穏な雰囲気がありましたが、ドラマチックな描写に思いました。

24 ポール・ゴーガン 「水浴するタヒチの女たち」 1892年 フランス ★こちらで観られます
これはタヒチの3人の女性たちを描いた作品で、後ろ髪を押さえて立つ裸婦の後ろ姿が大きく描かれ、その右側には座り込んでいる女性の後ろ姿があります。もう1人は左の辺りでちらっとこちらに目を向けていて、その奥には川も描かれていました。画面は色面で分かれるような感じで、黄色・緑・青・足元の布の赤と黄色など色が対比的です。また、平面的で構図も面白さを感じさせました。
 参考記事:ゴーギャン展2009 (東京国立近代美術館)

この隣にはルノワールの作品もありました。穏やかな光景です。


[2-2:狩人、農民、羊飼い]
26 「実った大麦のレリーフ」 エジプト新王朝時代、アマルナ時代、第18王朝、アクエンアテンの治世
これは石灰岩に大麦が浮き彫りにされたもので、エジプトのアクエンアテン(ツタンカーメンの父)の時代のレリーフです。大麦がたわわに実って揺れているような表現が生き生きしていて、見事でした。古代エジプト人は動植物の観察に驚くほど長けていたそうで、その一端が伺えるように思いました。
 参考記事:
  エジプト考古学博物館所蔵 ツタンカーメン展 感想前編(上野の森美術館)
  エジプト考古学博物館所蔵 ツタンカーメン展 感想後編(上野の森美術館)
  

この近くには細かい牙彫の飾り板(フランス1350年頃)や、鍍金され超細密な模様のついた皿(ポルトガル1500年頃)、大きなタペストリー(南ネーデルラント1500年頃)なども並んでいました。

33 ジュール・ブルトン 「草取りをする人々」 1868年 フランス
地平線に半分消えていく夕日を背景に、広く平坦な畑?で草むしりをしている沢山の農婦を描いた作品です。膝をついて一心に草むしりしたり、立って腰を抑えているなど農家の労働をつぶさに描いているような感じです。一見してミレーの落穂ひろいを連想させるのですが、当時からよく比較されていたそうです。

34 ジャン=フランソワ・ミレー 「麦穂の山:秋」 1874年頃 フランス ★こちらで観られます
広大な畑に麦の穂で出来た3つの山のようなものがあり、手前には沢山の羊たちが描かれています。一見のどかですが遠くの空には黒い雲が広がり、嵐が迫ってきているようです。全体的に落ち着いた色合いで広々とした印象を受けました。陰影のドラマ性といい、流石です。

36 フィンセント・ファン・ゴッホ 「歩きはじめ、ミレーに拠る」 1890年 オランダ ★こちらで観られます
小さな畑の脇で、手を前に伸ばす小さな子供と、その後ろで支える母、子供の目線の先にはしゃがんで向かい入れるポーズをしている農夫が描かれています。全体的に薄い緑色をしていて、明るく爽やかな色合いに見えます。画題も微笑ましい光景で温かみがありました。近くで見るとうねるようなタッチで厚塗されていてゴッホらしさを感じます。
 参考記事:
  ゴッホ展 こうして私はゴッホになった 感想前編(国立新美術館)
  ゴッホ展 こうして私はゴッホになった 感想後編(国立新美術館)


<第3章 動物たち>
続いて3章は動物をモチーフにしたコーナーです。先史時代に洞窟の壁画にも描かれたように、動物は芸術の重要な主題であり続けているようで、単に動物学上の種として表されるだけではなく神として表されたり象徴的な意味を持っているようです。ここには主に立体作品が並んでいました。

[3-1:ライオン、馬、その他の動物]
42 「猫の小像」 プトレマイオス朝時代 エジプト ★こちらで観られます
耳がピンと伸びた猫のブロンズ像です。かなり前足が長くスラっとした印象を受けます。エジプトでは猫は豊穣と多産の女神バステトと同一視されていたようで、信仰の対象となっていたようです。この作品の中は空洞で、そこに猫のミイラを収めるための容器だったらしく、地位の高い人物のバステト女神への捧げ物と考えられるとのことでした。

48 「ライオンの皿」 1500年頃 スペイン
朱~茶色のモノトーンの大皿で大きなライオンが描かれているのですが、私には怪物に見えました。細かい文様が皿をびっしりと覆っているので見栄えがします。さらに角度を変えてみると黄色や紫に輝いて見えるラスター彩(若干発色が鈍いかも)となっていました。大ぶりで面白い意匠です。

52 フランソワ・ポンポン 「シロクマ」 1923年頃 フランス ★こちらで観られます
これは大理石でできたシロクマで、いくつか同じものを観たことがあります。手足が大きく頭は小さめで、歩いているように踏み込んでいます。また、表面がキラキラと輝く様子が雪と氷を彷彿とさせるのが面白かったです。

47 「ライオンの頭の兜」 1460~1480年頃 イタリア ★こちらで観られます
これはライオンが大きく口を開けているような意匠の兜で、金色で表面は毛並みまで表現されています。また、目はガラス玉が入っていてリアルさを出しているのですが、そもそもの顔がちょっと間抜けで可愛らしいかもw 被った人はライオンの口の部分から目を出す感じでした。解説によると、これはギリシア神話でヘラクレスに退治されたヌメアのライオンを表しているらしく、このライオンには人間の武器は効かない程だったようです。その後ヘラクレスがこれを退治すると、その武勇を誇示するために毛皮をまとったりしていたようです。それに倣っているのか、これはパレード用なのだとか。

[3-2:鳥]
55 「ネクタネボ2世を守護するハヤブサの姿のホルス神を表す小像」 エジプト末期王朝時代、第30王朝、ネクタネボ2世の治世
頭に冠をかぶっていて、足と足の間に小さな人物像を挟むようなハヤブサの姿のホルス神の像です。曲線・フォルムが滑らかで、近現代の作品か?と思えるくらい洗練された単純化が観られました。まるでアール・デコやキュビスムのようなデフォルメのセンスが好みでした。

61 ルイス・コンフォート・ティファニー/ティファニー・スタジオ 「ハイビスカスとオウムの窓」 1910~1920年頃 アメリカ ★こちらで観られます
2羽の青いオウムがハイビスカスの木にとまっている様子がステンドグラスのようになった作品です。花は乳白色で背景は黄緑~黄色でその色の取り合わせが美しいのですが、色はいくつか重ねているようでマーブル状の模様がついているのも面白かったです。横から見ると結構凹凸があって、表面が盛り上がっているのが分かりました。


ということで、テーマこそ同じでも時代も地域もまったく異なる品々が一同に介しているのが特徴的な展覧会です。同じ自然をこうも違う感性で捉えているのかと面白さを感じる一方で、そこが若干分かりづらいところでもあると思います。最初の方はちょっと地味かな~と思った所もありましたが、後半になるにつれて好みの作品が多くなっていましたので、次回は特に満足した後半についてご紹介しようと思います。


   → 後編はこちら



 参照記事:★この記事を参照している記事

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Comment
No title
先週見に行ってきた息子が、豪華ですごく良かったと言ってましたので、私のブログにも案内を載せたところです。
こんなに説明していただくとほんとにうれしいです。ありがとうございます。
21世紀のxxx者さんの、感想が聞けたらもっと楽しいです。この絵が気に入った~とか~
Re: No title
>nobukotsさん
コメント頂きましてありがとうございます。
この展示は多岐にわたる作品が並んでいて見応えがありましたよ。
一応、後編の本文にも書いていますが、最後の辺りにある
ホッパー、オキーフ、ホーマーあたりが特に気に入りました。
ちょっと混んでいますが、是非もう一度観に行こうと思っています。
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