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リヒテンシュタイン 華麗なる侯爵家の秘宝 (感想前編)【国立新美術館】

1週間ほど前の土曜日に、乃木坂・六本木の国立新美術館に行って、「国立新美術館開館5周年 リヒテンシュタイン 華麗なる侯爵家の秘宝」を観てきました。充実した内容となっていましたので、前編・後編にわけてじっくりとご紹介しようと思います。

P1060064.jpg

【展覧名】
 国立新美術館開館5周年
 リヒテンシュタイン 華麗なる侯爵家の秘宝

【公式サイト】
 http://www.asahi.com/event/liechtenstein2012-13/
 http://www.nact.jp/exhibition_special/2012/liechtenstein/index.html

【会場】国立新美術館
【最寄】千代田線乃木坂駅/日比谷線・大江戸線 六本木駅


【会期】2012年10月3日(水)~12月23日(日・祝)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間30分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日14時頃です)】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
開催して初めての土曜日に行きましたが、すんなりチケット購入&入場することができました。しかし会場内は結構混んでいて、列を組んで鑑賞するような感じでした。

さて、今回はリヒテンシュタイン侯国というスイスとオーストリアの間にある国(日本の小豆島と同じくらいの面積の小さな国)を治めるリヒテンシュタイン家のコレクション展となっています。リヒテンシュタイン家は12世紀には名前が登場したオーストリアの名門貴族だそうで、ハプスブルグ家の重臣として活躍し、1608年に「候」の爵位を授与され、1719年に現在の侯国の国土に当たる領土の自治権を神聖ローマ皇帝から与えられました。歴代のリヒテンシュタイン家では芸術の庇護を家訓としたそうで、代々 美術品を収集し、1810年にはウィーン郊外のロッサウに「夏の離宮」という所でコレクションの公開を始めたそうです。しかし第二次世界大戦を機にそのコレクションは侯国の首都ファドゥーツに秘蔵され、2004年の夏の離宮の再公開まで一般の目に触れる機会はごく僅かとなっていたそうです。そのコレクションは1600点の絵画や工芸などを含め総数は3万点にも及ぶそうで、今回はその中から特に充実しているバロック美術を中心にルネサンスから19世紀前半までの作品が並んでいました。様式や時代によって章ごとに分かれていましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介しようと思います。


<エントランス>
まずエントランス付近はマルカントニオ・フランチェスキーニという画家の大作や、彫像などが並ぶコーナーです。17世紀末、リヒテンシュタイン候のヨハン・アダム・アンドレアス1世はロッサウに夏の離宮の造営を始め、その際にフランチェスキーニに2組の連作絵画を注文したそうです。それにより2組26点の絵画が作られたそうですが、ここにはそれぞれの組から2点ずつが出品されていました。宮殿の1室のような展示会場となっているのも雰囲気を盛り上げてくれます。

84 マルカントニオ・フランチェスキーニ 「大蛇ピュトンを殺すアポロンとディアナ」
かなり大きめの作品で、地面に這いつくばる大蛇?に向けて弓を構える赤い衣をまとったアポロンと、同じく弓と矢を持ち 屈んで怪物を見ているディアナが描かれています。鮮やかな色彩(特に赤が映える)で、2人の肌は滑らかな感じに見えたので、どこかルーベンスのような肉体表現に思えました。
この隣には「アポロンとディアナの誕生」という同じ連作の作品も並んでいました。

81 マルカントニオ・フランチェスキーニ 「アドニスの死」
こちらも大きな作品で、仰向けに倒れている若者が、覆いかぶさるように襲ってくるイノシシに槍を向けて抵抗している様子が描かれています。これはヴィーナスの恋人のアドニスで、かなり必死の形相をしています。周りには3匹の犬や逃げ惑うキューピッド(ヴィーナスの息子)も描かれ、動きや緊迫感があるように思いました。結局この時にアドニスは死んでしまうわけですが…。
この隣には同じくアドニスの連作の「死せるアドニスの変身」もありました。


<バロックサロン>
続いては今回の展示の中でも特に驚かされるバロックのコーナーです。バロックとは16世紀末から18世紀初頭にヨーロッパに展開された芸術様式で「歪んだ真珠」が語源とされています。この言葉は18世紀の中頃に使われ始め、ルネサンスの古典の美から逸脱したという批判の意味を込めて呼ばれました。その後、否定的な見方は19世紀まで続いたようですが今日では古典主義と相対するもう1つの美学として評価されているようです(私はむしろバロック絵画の方が好きですw) バロックの特徴は劇的な表現で、絵画では強い明暗表現や対角線を活かした動きのある構図、鮮やかな色使いが際立つそうです。また、建築においてはルネサンスが円を構成の中心に据えたのと異なり、楕円から導き出された曲面・曲線が多用され、躍動感に満ちているようです。バロック期の教会や宮殿は過剰な程の装飾も特徴らしく、天井画や漆喰装飾で壮大に飾られているそうです。

そしてこの「バロックサロン」についてですが、ウィーンでは1700年頃に政局が安定し建築ブームが起きたそうで、こうした流れの中でヨハン・アダム・アンドレアス1世候はウィーンに「都市宮殿」と「夏の離宮」を造営しました。いずれもイタリアの美術家の協力でバロック様式で構想され、バロックの造形原理の1つである「左右対称性」に基いて設置されたタペストリーや天井画が嵌めこまれているようです。ここではその室内様式と展示様式を再現していて、宮殿の大広間のような展示室となっていました。…確かに作品の配置も左右対称性に基いて置かれています。

86-89 アントニオ・ベルッチ 「絵画の寓意」「占星術の寓意」「彫刻の寓意」「音楽の寓意」 ★こちらで観られます
4枚の天井画で、楕円形の絵が天井に嵌めこまれて展示されています。それぞれは芸術の寓意を表しているようで、絵を描く半裸の女性とその先生らしき人を描いた作品(絵画)、ノミを持って彫刻像を作る若者を描いた作品(彫刻)、コンパスを持つ老人と話す女性を描いた作品(占星術)、音楽を奏でる人々を描いた作品(音楽)となっています。いずれもバロック様式らしい色の鮮やかさがあり、生き生きとした雰囲気でした。4つ並ぶと天井が高く抜けるように見えるのもこの頃の作品の特徴とのことです。

この部屋はタペストリーが周りを囲み、机、陶器、時計、燭台、彫刻、テーブル、長椅子など様々なものが置かれていました。見事な配置で本当に宮殿に入ったような感覚ですw

138 「枝付き大燭台」 ★こちらで観られます
巨大な塔のようになった燭台で、人物像が支えているような台座に中国や日本の染付が載せられ、そこに燭台の装飾がつけられています。壺や皿などは東洋で、金色の装飾はバロック風というのが面白いです。東洋と西洋が組み合わさったようで、その大きさと相まって見栄えがしました。

107 フィリッポ・パローディ 「悪徳の寓意」
腕とお腹を鎖で繋がれた男性の裸体の胸像です。大きく口を開けて上を仰ぎ見る表情は苦しそうに見えます。髪の毛は物凄い勢いで逆毛立っていて、迫力とインパクトがありました。何でこんなものをこの部屋に置いたのだろうか…w

ここには他にも飾り枠付きの鏡やコンソールなど、ちょっとやりすぎとも思えるくらいの装飾の作品が並んでいました。装飾のバロックはあまり好みじゃないかなw


<リヒテンシュタイン候爵家>
続いてはリヒテンシュタイン候爵家についてのコーナーです。先述の通りリヒテンシュタイン家はハプスブルグ家の重臣だったそうで、1608年に当主カール1世が神聖ローマ皇帝ルドルフ2世から「候」の爵位を授けられました。美術品の蒐集が本格的になったのもこの頃だそうで、その後17世紀後半のヨハン・アダム・アンドレアス1世は候国の礎を築き、2つの宮殿を造りました。ここには年表や家系図、地図などと共にリヒテンシュタイン候爵家に関する品が並んでいました。

5 マッティン・ファン・マイテンス(工房) 「女帝マリア・テレジアの肖像」
笏?を持ち白いドレスを着た女帝マリア・テレジアを描いた肖像です。こちらをじっと見る目は威厳に満ちていて、頭や首、腕などには様々な宝飾が光って見えました。まさにハプスブルグ家の栄光が伝わってくるようです。ちなみに、この女帝はかの有名なマリー・アントワネットの母でもあります。意外と家庭的な所もある人だったようです。
 参考記事:マリー・アントワネット物語展 (そごう美術館)

3 作者不詳 「ヨハン・アダム・アンドレアス・リヒテンシュタイン1世候の肖像」
黒い甲冑に赤いマントの男性の肖像です。この人が何度も名前が出てきたヨハン・アダム・アンドレアス1世で、経営・財政の手腕に秀でていて、審美眼にも非常に優れていたそうです。凛々しい雰囲気でしたが、凄いボリュームの巻き髪でモコモコしているのが気になりましたw 

この辺には夏の離宮を描いた作品も並んでいました。これも左右対称に見えます。


<名画ギャラリー>
続いては名画のコーナーです。リヒテンシュタイン家のコレクションの中核はバロック期の作品で、特に歴代の侯爵はルーベンスに魅了されていたそうです。また、バロック期に先立つルネサンスの充実にも注いだそうで、このコーナーにも何点か展示されています。 さらに18世紀後半の新古典主義や、19世紀前半に中央ヨーロッパで隆盛した「ビーダーマイヤー」様式の絵画も蒐集されたようです。この章は前半後半に分かれ、様式ごとに小コーナーに分かれて展示されていました。

[ルネサンス]
まずはルネサンスです。リヒテンシュタイン家ではバロックに比べて手薄だったので、19世紀にルネサンス作品を積極的に購入したそうです。

22 ルーカス・クラナッハ(父) 「聖エウスタキウス」 ★こちらで観られます
赤い甲冑を着た騎士が跪いて上を向き、祈るポーズをしています。その目線の先には崖の上に立つ鹿がいて、鹿の角の間からは磔刑のキリスト像が生えています。周りでは犬や馬が休んでいて、狩りの帰りの途中のようです。 解説によると、これはローマの将軍エウスタキウスだそうで、このキリスト像の鹿と出会った奇跡をきっかけにキリスト教に改宗し、後に殉教して聖人となったそうです。これはまさにその奇跡の瞬間で、非常に色鮮やかで緻密に描かれています。犬や馬の毛並みが分かるほどに細かく写実的なのですが、全体的に理想的な美しさや気品が感じられました。

18 ラファエッロ・サンティ 「男の肖像」 ★こちらで観られます
これは初期のラファエロの肖像作品で、帽子をかぶりこちらをじっと観ている男性が描かれています。やや斜めに身体を向けているのはこの頃の特徴のようです。ラファエロらしい知的な雰囲気があり、鮮やかで明るく見える色彩が見事でした。内面まで伺わせる表情も流石です。解説によると、これはウルビーノ公を描いたものと考えられてきたそうですが、現在では否定され誰だかは分かっていないとのことでした。


[イタリア・バロック]
続いてはイタリアの多様なバロックについてのコーナーです。

24 グイド・レーニ 「マグダラのマリア」
香油壺を持ち上を仰ぎ見る髪の長い女性を描いた作品で、これはマグダラのマリアで、香油壺はキリストの足に香油を塗ったことに由来します(伝統的な絵画で香油壺を持っている女性像を見たらマグダラのマリアと考えて良いと思います) 上から光が差し込むようなドラマチックな明暗がつけられ、髪も光を反射していました。その表情も劇的です。 解説によると、この作者は17世紀ボローニャ派の巨匠だそうです。

25 クリストファーノ・アッローリ 「ホロフェルネスの首を持つユディット」
髭もじゃの男性の生首の髪を掴んで持ち上げる女性を描いた作品で、これはユディットが敵将のホロフェルネスの首を取った直後のシーンです。(ユディットはホロフェルネスに下るふりをして酔わせ、寝ている隙に首を取って持ち帰ったという人物です。)
ユディットは右手には剣を持っていて、こちらに冷淡な目を向けています。右にはやや年老いた侍女がユディットの顔を覗き込むような感じで描かれ、怯えているように見えました。2人の表情の違いが対比的でユディットの落ち着きがより強調されているように思えます。解説によると、このユディットのモデルは画家自身が報われない恋をした女性だったようで、哀れな自分をホロフェルネスに見立てているとのことでした。こんな目で見られるなんてよほど冷たくされたのかな…w

この辺の休憩室では7:40の映像を流していました。リヒテンシュタイン家やコレクションについて知ることができるので、ここまでの復習にもなります。


ということで、まだ「名画ギャラリー」の章の途中ですがこの辺で半分くらいなので今日はここまでにしておこうと思います。後半は前半以上に好みの作品が多かったので、次回はそれについてご紹介しようとおもいます。


   → 後編はこちら



 参照記事:★この記事を参照している記事

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