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巨匠たちの英国水彩画展 (感想前編)【Bunkamuraザ・ミュージアム】

前回ご紹介した展示を観た後、Bunkamuraザ・ミュージアムにハシゴして「マンチェスター大学ウィットワース美術館所蔵 巨匠たちの英国水彩画展」を観てきました。この展示は作品点数が多く、見応えがありましたので前編・後編に分けてご紹介しようと思います。

P1060564.jpg

【展覧名】
 マンチェスター大学ウィットワース美術館所蔵
 巨匠たちの英国水彩画展

【公式サイト】
 http://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/12_manchester/index.html
 http://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/12_manchester.html

【会場】Bunkamuraザ・ミュージアム
【最寄】渋谷駅/京王井の頭線神泉駅


【会期】2012年10月20日(土)~12月9日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日17時頃です)】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
はじまって1週間程度だったこともあってか、空いていてゆっくり観ることができました。

さて、この展示はイギリスの水彩画を集めた展示で、英国屈指の水彩・素描コレクションを誇るマンチェスター大学ウィットワース美術館の所蔵品から、70人150点もの作品が出品されています。中には英国水彩画の父と呼ばれるポール・サンドビーや幻想画家ウィリアム・ブレイク、巨匠ウィリアム・ターナー、ジョン・エヴァレット・ミレイといった18~19世紀に活躍した錚々たる画家たちが含まれ、150年に渡って流れを観ることができる内容でした。展覧会は8つの章に分かれていましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介しようと思います。


<第1章 ピクチャレスクな英国>
まず1章は「ピクチャレスク」という風景画のコーナーです。18世紀以降の英国では愛国心や歴史への傾倒から大聖堂や城砦など名所旧跡の風景を主題とする水彩が多く描かれたそうで、道路が整備され観光旅行が盛んになると、水彩画の多くは銅版画におこされ旅行案内書の挿絵にも用いられたようです。18世紀半ば頃には絵にするのに適した光景を意味する「ピクチャレスク」の概念が発達し、起伏に富んで唐突に変化し 不揃いなものこそがピクチャレスクな風景とされて多くの作品が描かれたようです。ここにはそうした作品が並んでいました。

ポール・サンドビー 「南西の方角から望むコンウェイ城」
手前のなだらかな斜面で羊や牛がのんびりとしていて、奥の方に堅牢な城が描かれた作品です。この画家は英国水彩画の父と呼ばれる人物で、北ウェールズの景勝地を描いているようです。写実的な作風で、広々とした雰囲気がありました。
この隣には同じ城を描いたターナーの作品もありました、城の近くで見上げるような視点の構図で、こちらの作品とだいぶ違って観えました。

ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー 「ビルドウォズ修道院、シュロップシャー」
廃墟となった修道院を描いた作品で、アーチの中に収まるように奥のほうにもアーチや廃屋らしきものが見え、遠くには山も描かれています。どっしりとした感じや繊細な表現が巧みで写実的でした。解説によるとこれは20代の頃の作品なのだとか。

この近くにはターナーと共に研鑽を積んだトマス・ガーディンの作品もありました。見上げるような聖堂が描かれた作品など、聖堂を描いたものが何点か並んでいます。ガーディンは27歳で亡くなったそうですが、ターナーは自分以上の実力と考えていたほどだったようです。理想的な風景のようで静かで厳かな雰囲気がありました。

フランシス・ニコルソン 「ゴーデイル・スカー峡谷の滝、ヨークシャー」
両脇に切り立った崖のある滝を描いた作品で、白い飛沫を上げて勢いを感じさせます。その近くには岩場を登る人物がかなり小さく描かれていて、岩と滝の大きさを引き立てているように観えました。両脇の崖が迫り来るようで、自然の偉大さを感じさせます。


<第2章 旅行:イタリアへのグランド・ツアー>
続いては「グランド・ツアー」というイタリアへの旅をテーマにした作品が並ぶコーナーです。1740年代になるとアルプス山脈を経由する観光ルートが開かれたそうで、多くの画家がイタリアを訪問しました。また、18世紀始めには水彩画材を携帯する専用箱も手に入るようになったようです。そしてこの時代の上流階級の子弟の間では教育の仕上げとして、イタリアを中心とした隣国の文化を体験する「グランド・ツアー」が流行したらしく、これはローマやナポリを訪れてスイスを経由して英国に帰るルートだったようです。貴族の子弟は訪れた各所の景観を描いた水彩を注文したそうで、画家もその地で素描や水彩を描きました。そうして描かれた絵の中にはロイヤルアカデミーなどで一般の人々にも公開されたものもあり、コレクターの間でも人気を博したそうです。グランド・ツアーの最盛期には水彩画の洗練も増し、1790年代まで盛んに行われていたのですが、フランス革命やナポレオン戦争がおこると衰退していったようです。ここにはそうしたグランド・ツアーにまつわる作品が並んでいました。

アレグザンダー・カズンズ 「山の峡谷」
白黒の濃淡で描かれた作品で、木々が生い茂る山を描いています。一見すると細かい描写に見えますが、それだけでなく「染み」を使っている表現が独特で、濃淡だけでも空気感が伝わってきました。モノクロの為か、日本や中国の山水みたいな情感でした。

サミュエル・プラウト 「ヴェネツィアの運河のカプリッチョ」 ★こちらで観られます
これはヴェネツィアの運河とその周りの建物を描いた作品です。ゴンドラやアーチが描かれ、建物の装飾などは豪華で立体感があり浮き出るようなリアルさを感じます。しかし、これは実在の建物を想像力を働かせて描いた架空の景観「カプリッチョ」だそうで、理想的な穏やかさがあるように観えました。

ウィリアム・パーズ 「ネミ湖」
丘の上から湖を見下ろすような光景を描いた作品です。このネミ湖は古代の女神ディアナの信仰の地らしく、「ディアナの鏡」と紹介されることもあったそうです。湖面には向こう岸の街が映り、その名の通り美しい水を湛えています。手前の丘では手を伸ばして指さしている男性と坂を登る女性の姿があり、楽しげな雰囲気でした。

この辺りにはネミ湖を描いた作品が何点かありました。


<第3章 旅行:グランド・ツアーを越えて、そして東方へ>
続いては更に遠くまで旅したグランド・ツアーのコーナーです。1815年にナポレオン戦争が終わりヨーロッパの道が再び開かれると、画家たちはイタリアより更に遠方に目を向けるようになりました。ドイツやスペインの他、1830年代以降は大英帝国の領土拡大と交易に伴ってエジプトなどの中東にも足を運んだそうで、ここにはそうした作品が並んでいます。中にはインドや中国を描いた作品もありました。

クラークソン・スタンフィールド 「ベレンの塔、リスボン」
海際に建つ立派な塔と、手前で荒波の上に浮かぶ舟が描かれた作品で、緻密に描かれ動きも感じられます。また、空の雲の表現が見事で透明感や明暗は写真のようでした。

ジョン・フレデリック・ルイス 「闘牛開催日のグラナダ近郊」
これはスペインの街の一角に沢山の人々が集まっている様子が描かれた作品です。美女2人を連れた闘牛士らしき人物を始め、酒を飲む男や馬に乗った人たち、修道僧など様々な階級の人が描かれていて賑わいを感じます。不透明なグワッシュを多用しているようで、それが色鮮やかで力強い雰囲気を出していました。当時のイギリスでも高い評価を受けたそうで、活気に満ちた作品でした。

ウィリアム・ホルマン・ハント 「シオンの丘からレファイム平野を望む、エルサレム」
丘から眺める広々とした赤っぽい大地を描いた作品です。これはエルサレムのシオンの丘だそうで、所々に緑の木々がぽつぽつと生えています。画面左下の丘には子供を抱きかかえる男ともう1人の子が描かれていて、何か物語性があるようです。解説によると、これは斜面の下から石を投げられるのを庇っているそうで、ダビデ王を暗示しているのではないかとのことでした。
この辺にはナザレ(イエス・キリストが育った地)を描いた作品もありました

ウィリアム・ホルマン・ハント 「岩のドーム、エルサレム、ラダマンの期間」
エルサレムの夜の街を描いた作品で、中央にドーム状の屋根を持つモスクらしき建物があり、中から灯りが漏れています。左手前には女性が立っていて、これも何かストーリーがありそうに観えましたが分かりませんでした。解説によると、作者のハントは絵を描くために月の光線が得られるまで辛抱強く待ち続けたそうで、その時のことを「詩的でうっとりするような光景だった」と語っていたそうです。その為か神秘的な雰囲気があるように観えました。

レジナルド・バラット 「日没時のスフィンクス、エジプト」
手前にやや斜めから見たスフィンクスが描かれ、背景には2つのピラミッドが描かれた作品です。この頃のスフィンクスはまだ胸から下は砂に埋まっていたらしく、頭以外は岸壁みたいな感じを受けます。近くには人がいて、その大きさが伝わって来ました。悠久の歴史を感じさせる1枚です。

この隣にはカイロの奴隷市場を描いた作品や、中国、インドを描いた作品もありました。


<第4章 ターナー>
続いては英国の巨匠 ターナーのコーナーです。ターナーは油彩だけではなく水彩でも多くの作品を残しているそうで、初期の作品はトマス・ハーンらの地誌的な水彩の影響が見られるそうです。また、水彩絵の具の表現力を活かしたジョン・ロバート・カズンズの描き方に魅力を感じ、信奉していたようです。
1790年代からロイヤルアカデミーでも水彩画を展示し始めたそうで、次々と新しい技法を取り入れて顧客を増やしていきました。ここには活動期間全般を網羅するターナーの作品が並んでいました。

ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー 「旧ウェルシュ橋、シュロップシャー州シュルーズベリー」 ★こちらで観られます
これは19歳頃の作品で、崩れかけた建物が乗っている橋と、その下の川を描いた作品です。橋の下のアーチの中に奥の新しい橋が作られているのが見える面白い構図で、繊細な色合いで描かれています。舟が水面に写りこむ透明感がある様子や、橋がボロボロで崩れ落ちそうな感じがよく出ていました。若い頃からかなりの力量があったことを伺わせます。

ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー 「ウォリック城、ウォリックシャー」
手前に水辺があり、奥に城が描かれた作品です。川岸には帽子の男性ともう1人の男性の姿があり、空にはちょっと暗めの雲がかかっています。淡く繊細な色彩の変化が幻想的に見えたのですが、解説によると暑さが伝わってくるようだとのことでした。

ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー 「アップナー城、ケント」 ★こちらで観られます
これは今回のポスターの作品で、夕日(朝日?)に染まる港が描かれています。右の方に城があるのですが、これがアップナー城らしく、当時は火薬庫だったようで、画面下にはライフル銃が描かれていてそれを暗示しているそうです。大きな2隻の間にある太陽が神々しく、画面を金色に染めた光景はどこか懐かしさも感じました。水面の反射も美しく まさに傑作です。解説によると、ターナーはクロード・ロランの作品に感激していたらしく、この作品にも影響を受けているとのことでした。(確かにロランのこういう光と船の作品を見た覚えがあります)
 参考記事:ルーヴル美術館展 17世紀ヨーロッパ絵画(国立西洋美術館)

ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー 「ルツェルン湖の月明かり、彼方にリギ山を望む」 ★こちらで観られます
これは60代の頃の作品で、湖の水面と月が描かれた風景画です。背景には青い山が描かれ、全体的にぼや~っとしています。その光と空気が融け合うような感じが幻想的で、神秘性を感じました。この作品はターナーの水彩画の最高峰と呼ばれることもあるそうで、こちらも大変見応えがありました。


ということで、前半からターナーの傑作をはじめ好みの作品が並んでいました。後半もラファエル前派など見所がありましたので、次回は展示の最後までをご紹介致します。



  → 後編はこちら



 参照記事:★この記事を参照している記事


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