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巨匠たちの英国水彩画展 (感想後編)【Bunkamuraザ・ミュージアム】

今日は前回の記事に引き続き、Bunkamuraザ・ミュージアムの「マンチェスター大学ウィットワース美術館所蔵 巨匠たちの英国水彩画展」の後編をご紹介いたします。前編には混み具合なども記載しておりますので、前編を読まれていない方は前編から先にお読み頂けると嬉しいです。


 前編はこちら


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まずは概要のおさらいです。

【展覧名】
 マンチェスター大学ウィットワース美術館所蔵
 巨匠たちの英国水彩画展

【公式サイト】
 http://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/12_manchester/index.html
 http://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/12_manchester.html

【会場】Bunkamuraザ・ミュージアム
【最寄】渋谷駅/京王井の頭線神泉駅

【会期】2012年10月20日(土)~12月9日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日17時頃です)】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
前半は4章までご紹介致しましたが、後半は5~8章をご紹介します。

<第5章 幻想>
5章は写実ではなく幻想の絵画のコーナーです。詩人であり画家でもあったウィリアム・ブレイクは、詩や聖書に見られる幻想的なイメージを視覚化したそうで、多くの芸術家の発想のきっかけとなったようです。そして1829年にウィリアム・ブレイクに出会ったサミュエル・パーマーは彼の作品に触発され、自然をより幻想的な眼差しで描いたそうです。ここにはそうした画家の作品が並んでいました。
 参考記事:ウィリアム・ブレイク版画展 (国立西洋美術館)

ウィリアム・ブレイク 「『ヨーロッパ』図版1、口絵、《日の老いたる者》」 ★こちらで観られます
これはブレイクが考えた神話の中に出てくる「ユリゼン」という神が邪悪な暴君として描かれている作品です。背景に赤い球があり、身を乗り出して手を足元に伸ばし、コンパスで何かを計っているような長い白髪の裸の老人が描かれています。赤黒い太陽やたなびく雲と相まって異様な迫力があり、力強い印象を受けました。

この隣にはミルトンの詩の挿絵もありました。これも異様な幻想風景です。

ヨハン・ハインリヒ(ヘンリー)・フュースリ 「夢の中でポンペイウスの前に姿を現すユリア」
顔を抑えて仰向けになっているポンペイウスと、亡霊となって夫のもとに現れた妻のユリアを描いた作品です。ユリアは半裸で、両手を上げて衣をなびかせながら頭上を舞っています。人を脅かすような仕草だけでなくその顔も恐ろしげで、背景も暗くて何とも不気味な感じがしました。

この隣には幽霊を描いた作品もありました。

サミュエル・パーマー 「カリュプソの島、オデュッセウスの船出」 ★こちらで観られます
これはホメロスのオデュッセイアの挿絵として描かれた作品で、手前に出発する船が描かれ背景に太陽が神々しく輝いています。左下にはここに留まれば永遠の命を与えると言ったニンフが見送り、船ではそれを断って妻と子の元へと帰るオデュッセウスの姿があります(船が難破して7年もここに留まっていた) 光の表現が強く感じられ、劇的で神話的な場面となっていました。

この近くには恐ろしげながらも美しい光景の「マンフレッドとアルプスの魔女」という作品もありました。


<第6章 ラファエル前派の画家とラファエル前派主義>
続いてはラファエル前派に尽力した画家や運動の発展に寄与した画家のコーナーです。(ラファエル前派はダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ、ウィリアム・ホルマン・ハント、ジョン・エヴァレット・ミレイの3人によって結成された芸術団体で、その後ロセッティの弟(批評家)など4人を加えた7人が初期メンバーとなっています。その活動方針は、イタリアの巨匠、ラファエロよりも前の時代(初期ルネサンス)に範をとり、自然の入念な観察に立ち返るという理念を持っていて、中世の文学を題材にした作品や、聖書・聖人を主題とした作品が多く、細密な描写と鮮やかな色彩に特徴があります。) ここには主要メンバーの水彩画が並んでいました。
 参考記事:
  ラファエル前派からウィリアム・モリスへ (横須賀美術館)
  ラファエル前派からウィリアム・モリスへ (目黒区美術館)
  バーン=ジョーンズ展-装飾と象徴 感想前編(三菱一号館美術館)
  バーン=ジョーンズ展-装飾と象徴 感想後編(三菱一号館美術館)

ジョン・エヴァレット・ミレイ 「ブラック・ブランズウィッカー」 ★こちらで観られます
黒い軍服にドクロマークをつけた男性と寄り添う女性を描いた作品です。女性の顔には憂いがあるようで、目をじっととじて静かながらも男性を気遣う心情が伝わってくるようです。解説によると、タイトルはドイツと英国でナポレオン軍を撃退するために募られた義勇軍のことだそうで、ドクロはそのトレードマークのようでした。これから男性は戦争に出るのかな…。お互いの気持ちがよく表れているように思いました。

ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ 「《ダンテの夢》のための棺の付き添い人の習作」
これはダンテ・アリギエーリの「新生」を主題にした作品で、手を組んで座る女性が描かれています。じっとどこかを見つめる目は意志が強そうに見えるかな。柔らかいタッチですが細密な描写で、ロセッティらしい色合いでした。好みの作品です。

エドワード・バーン=ジョーンズ 「坐る女性奏者《哀歌》のための習作」
赤い布をまとった女性が台形の弦楽器を持って、石の欄干のような所に座っている様子が描かれた作品です。どこかをぼんやり見つめていて思索に耽っているように見え、鮮やかな赤と相まって優美な印象でした。

この隣のフォード・マドックス・ブラウンの「ロミオとジュリエット」も好みでした。他にもミレイの風景画やラファエル前派を擁護したジョン・ラスキンの作品などもありました。


<第7章 ヴィクトリア朝時代の水彩画>
続いてはヴィクトリア朝(1837年~1901年)の頃の作品のコーナーです。水彩の描き方は19世紀半ばに激変したそうで、これは当時の美術評論家ジョン・ラスキンの影響が大きいらしく、ラスキンは画家に自然の中に歩み入り間近から描くことを奨励したそうです。さらに1834年に酸化亜鉛で作った白色顔料が売り出されたことも水彩を一変させたそうで、それまでの透明な色彩の代わりに顔料に白色を混ぜて作られた不透明な色彩の技法は、「グワッシュ」と呼ばれ油彩と間違われることもあるほどの色合いで描かれました。
また、ヴィクトリア朝の水彩画家の多くは中産階級の顧客の期待に応え、英国の懐かしい風景を正確な描写で表す一方、エドワード・ポインターのようにフランスの同世代の印象派などに影響を受けた作品を描いた画家もいたようです。ここにはそうした時期の作品が並んでいました。

アナ・ブランデン 「リザード・ポイント、コーンウォール」
海、砂浜、崖を描いた作品で、砂浜には2人の人物が小舟を海に運んでいく姿もあります。全体的に色が強く感じられ、海は青や緑、紫が混じって美しい光景でした。

ヘンリー・ムーア 「ペンザンス付近」
こちらは1872年の作品なので、有名な彫刻家とは別人かな。水面を行く2人の漁師の小舟と、紫がかった山が描かれた作品です。広々としてその色合いが何とも美しく、2人の舟の舳先には飛び跳ねる魚らしきものもいます。よく観ると船の周りには縄が張られ、漁をしているようでした。穏やかな印象を受ける作品です。

チャールズ・ウェスト・コープ 「黒板をもつ少女」
これは小さめの黒板を持った少女の横向きの姿を描いた作品です。着ている服はちょっとくたびれた感じなので貧しい娘なのかな。細密な描写で真剣な表情が描かれ、手に血管が浮き出ているのが分かるほどの写実性がありました。解説によると、グワッシュならではの表現も使われているようでした。

ヘレン・アリンガム 「収穫の進む畑、ケント州ウェスターハム近郊」
縦長でなだらかな山を背景に、金色に染まる畑で収穫する農夫と農婦が描かれ、後ろでももう1人が作業をしています。穂の1本1本まで見えるような緻密な描写で、穏やかな色合いが美しく、神々しい雰囲気すらありました。

この辺にはエビ漁の様子や井戸掘りの作品など、労働者を描いたものが何点かありました。


<第8章 自然>
最後は自然についてのコーナーです。18世紀には風景画は絵画の中で最も格下の題材でしたが、19世紀初めに自然主義的な風景画家がロイヤルアカデミーで認められると、各地で風景画が頻繁に描かれるようになったそうです。ここにはそうした作品が並んでいました。

トマス・ゲインズバラ 「ブナの木、ヘレフォードシャー州フォクスリー、彼方にヤゾー教会を望む」
少し土が盛り上がった所に立つブナの木を描いた作品で、左奥には塔のような教会?が描かれています。これは屋外でスケッチしたそうで、堂々としてブナの生命力を感じさせる描写となっていました。解説によると構図も巧みとのことです。

デイヴィッド・コックス 「木の習作」
これは木を描いた作品のようですが、近くで観ると線が集まっているような抽象的な作品に見えます。かなり実験的な作風で、ここまで観てきた作品と明らかに違っていて驚きました。印象派の先駆けともみなされているようで、大胆で色彩が強い為、インパクトもありました。

アンドリュー・ニコル 「北アイルランドの海岸に咲くヒナゲシとダンルース城」 ★こちらで観られます
こちらは長く細い茎のヒナゲシやヒナギクなどが描かれた作品で、赤や青が鮮やかで上品かつ幻想的な雰囲気があります。かなり精密な画風ですが、絵の具の表層をかき取って下塗りの色を顕にする技法を使っているそうで、背景が透けて見える葉っぱなどもありました。これはちょっと驚き。

この辺りには植物を拡大して描いた作品なども並んでいました。

ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー 「濡れた浜辺に沈む夕陽」
これは夕方の海辺が描かれた作品で、夕日の光がかなり淡く、人の形が亡霊のようにぼんやりと描かれています。光の色合いが美しく、やや抽象的なところが情感豊かに感じられました。


ということで、英国の水彩の魅力をじっくり楽しむことができました。最初の方よりも後半に印象深い作品が多かったように思います。 油彩とはまた違った面白さがあるので、水彩好き・イギリス絵画好きの方には楽しめると思います。


 参照記事:★この記事を参照している記事


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Comment
No title
やっと行ってきました。
前半、後半と、しっかり読んでいって、見終わってからまた読みました。解説をいつもありがとうございます。
水彩画展と言うのはあまりないので、とても参考になりました。
今は、紙も絵具もすごく良くなって、私たちは幸せですね~
Re: No title
>nobukotsさん
コメント頂きましてありがとうございます。参考にして頂けて嬉しいです^^ 
確かに水彩展ってあまり無いですね。独特の透明感があって好きです。

紙も絵の具も時代とともに進化して、表現の幅も広がっていきますね。
逆に現代は何をやっても新しくないという別の悩みがありそうですが…w

できればもう一度行きたいけど、行けるかなあ。
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