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ZESHIN 柴田是真の漆工・漆絵・絵画 【根津美術館】

前回ご紹介した根津美術館の紅葉を観た後、同じ根津美術館で「特別展 ZESHIN 柴田是真の漆工・漆絵・絵画」を観てきました。この展示は前期・後期に分かれているようで、私が観たのは前期の内容でした。

P1070045.jpg

【展覧名】
 特別展 ZESHIN 柴田是真の漆工・漆絵・絵画

【公式サイト】
 http://www.nezu-muse.or.jp/jp/exhibition/index.html

【会場】根津美術館
【最寄】表参道駅


【会期】
  2012年11月01日(木)~11月25日(日)
  2012年11月27日(火)~12月16日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況(日曜日14時頃です)】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
結構お客さんが多くて、細かい作品の周りなどはちょっと人だかりができるくらいでしたが、ほんの少し待てば自分のペースで見て回ることができました。

さて、今回の展示は幕末から明治にかけて蒔絵師として、また絵師としても活躍した柴田是真についての展覧会となっています。柴田是真は文化4年(1807年)に江戸に生まれ、11歳の時から蒔絵の技を習得して、16歳からは四条派の絵画を学びました。特に蒔絵では従来は分業されていた下絵から蒔絵までの製作工程を自らの手で一貫して行い、洒脱でウィットに富んだデザインと漆芸技術を融合させたそうです。さらに、蒔絵絵という絵画と蒔絵の技を併せ持った作品を作り絵画・工芸の枠を越えていくことになります。今回はそうした品々140点を一同に集め、全貌をたどる内容となっていましたので、詳しくはいつも通り気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。

 参考記事:柴田是真の漆×絵 (三井記念美術館)


<漆工>
まずは漆工(蒔絵)工芸品が並ぶコーナーです。

21 柴田是真 「扇面蒔絵書棚」
これは是真の漆工作品としては最も大きな作品で、全体を黒漆で覆った引き出しのついた書棚です。棚板と天板があり、棚板には扇が「青海波塗り」という技法(変塗の1種で波の文様を表すもの)で表され、波と岩が描かれています。周りには虹色に光る螺鈿が散らされ、落ち着いた雰囲気と高い技術を感じました。

この隣にも同様の棚がありました。また、金属の青銅の色と質感を出した「青銅塗り」という変塗の作品なども並んでいました。

13 柴田是真 「軍鶏蒔絵文箱」
これは竹を籠目模様に編んだような蓋と、箱の底に軍鶏が描かれている文箱です。恐らく閉じると軍鶏が網籠の中に入っているような感じになるのだと思います。その意匠も面白いのですが、軍鶏がかなり精密に描かれていて、離れると肉眼では観えないような細かさなのも驚きでした。

この辺にはいくつかこうした文箱がありました。

68 柴田是真 「鉋屑漆絵菓子器」
黒い蓋付きの容器で、木目に見える塗り方をした地に、表面と側面にカンナくずがクルクルと丸まっている様子が表されています。螺旋状となっていて、地がかすれて見える所があり、それがカンナくずの薄い部分を表しているように見えるのが面白いです。どうしてこんな意匠にしようと思ったのだろうか?という点も含め、遊び心を感じました。

この辺には箱の作品が多いようでした。その後は頓骨(とんこつ)という食べ残しを持ち帰るための小さな容器などが並んでいました。

1 柴田是真 「青海波塗柳流水蒔絵重箱」
これは5段の重箱でそれぞれの段の色が違っているという変わった作品です。黒、灰色、深紅、オレンジ、藍色?など色は違いますが、蓋から側面を通り底に向かって川が繋がって描かれています。金銀の蒔絵で柳などが表され、重厚かつきらびやかな雰囲気がありました。

3 柴田是真 「烏鷺蒔絵菓子器」 ★こちらで観られます
これは2つの四角が重なったような形をした菓子容器です。それぞれの面には真っ黒なカラスと、銀色っぽいサギがぎっしり描かれていて、その対比が目を引きます。容器の形も意匠も変わっていて驚きの作品でした。

87 柴田是真 「鬼鍾馗蒔絵印籠・酒瓢蒔絵根付」
印籠の側面が彫り抜かれ、そこに鍾馗?が描かれています。そしてその前に格子状の細い棒があるので、まるで小さな庵の中から鍾馗が外を見ているようなデザインでした。また、裏も4つ足の生き物?のシルエットが格子の中に入っていました。発想が面白い作品です。

この辺の部屋の中央には印籠が並んでいました。

19 柴田是真 「朝顔蒔絵小蓋」
倒れた円筒型の木?の側面から朝顔が生えてくる様子を蒔絵で表した作品です。黒く艶のある花、金から黒色で変色した感じに表された葉っぱ、優美な曲線を描く蔓など、朝顔の美しさを素材や技法の使い分けで表現した感じを受けます。構図も中央よりやや右寄りに花が配置されているなど、面白さを感じました。

この辺にはキセル筒や香合などもありました。

18 柴田是真 「凧蒔絵煙草盆」
角が丸まった四角く黒いお盆で、底の部分に艶のある黒でカラスの形をした凧が描かれています。その喉元と腹あたりから金の糸が伸びていて、糸を辿って行くと盆の側面にある糸巻きに繋がっています。その意匠も面白いですが、黒地に黒のカラスを質感の違いで表現されているのも驚きました。

47 柴田是真 「紅葉狩蒔絵板戸」
木の板に蒔絵を施したもので、岩と岩の間に枝を掛け やかんをぶら下げてモミジで焚き火をして湯をわかしている様子が表現されています。やかんは非常に質感があり、その下の火も写実的に感じます。煙や周りの岩などまるで絵画そのものといった表現力でした。

この辺で一旦前の方に戻って行きました。(ガラスケースから見ていくと部屋の逆側の作品を見落としそうになるw)

9 柴田是真 「業平蒔絵硯箱」 ★こちらで観られます
これは是真が尾形光琳の硯箱を譲り受けた際に模造した作品で、烏帽子をかぶった在原業平が描かれた品です。隣にはその元になった作品もあったのですが、かなりそっくりで忠実に再現しているようです。解説によると、狩衣を錫の板を貼って表したオリジナルに対して、こちらの作品では錫の粉や灰ずみで表しているそうです。これも是真の卓越した技術を感じる作品でした。

62 柴田是真 「瀬戸写茶入」
朱色の小さな茶入で、どうみても陶器で出来ているように見えます。しかし、実はこれは竹で出来ているそうで、漆で土の肌合いや釉薬の色・質感を表現しているようです。こうした作品を「騙し漆器」と呼ぶそうで、すっかり騙されましたw 遊び心がありそれを可能にする技術に驚かされる作品です。


<漆絵>
続いては漆で絵を描いた作品のコーナーです。

55 柴田是真 「果蔬蒔絵額」
栗、梨、かぼちゃ、柿、ブドウなど秋の野菜や果物が描かれた作品です。青銅塗を背景に、油彩画のような色合いで描かれ、見た目は静物画そのものです。柿の側面には小さな蟻が這っているなど、自然への愛着も感じられました

54 柴田是真 「枇杷烏蒔絵額」
オレンジのビワの実がなる枝と、そこにとまる真っ黒なカラスが描かれた作品です。背景も黒っぽく、フチを銀蒔絵で縁取り、ビワの木はそのフチを飛び出して描かれています。これは「描き表装」という掛け軸の枠まで自作する手法の応用のようですが、だまし絵的な感じです。緊張感のあるカラスの顔やビワの鮮やかさなど、絵としても面白い作品でした。

126 柴田是真 「漆絵花瓶梅図」
これは縦長の作品で、紫檀の板に梅を活けた花瓶が描かれています。…というのは騙されていて、実は木製のように見えるのは変り塗の一種の「紫檀塗り」を使って描いているようで、さらに枠の木目も「木目塗り」となっているようです。どう見ても木目にしか観えないですが…w これも騙されて驚きました。解説でトリックアート的と説明していましたが確かにそういう要素もあります。

125 柴田是真 「漆絵秋色野辺茸狩図」
真っ赤になった葉をつける楓の木から吊るされたヤカンとキノコが描かれた作品です。ヤカンの下には火があり煙をだしているのですが、その煙には濃淡があり空気に溶け込むような感じを見事に表現していました。色鮮やかで線の細い描写は絵画にしか観えないですが、漆でこんなにも透明感を出すとは…。解説によると、漆では光沢を抑えて表現するのは難しいらしく、この作品ではその技法が使われているようでした。

この部屋の中央には漆絵の小さな画帖がありました。花鳥風月が描かれ、その多くは雅さがありました。また、写生帖もあり海老やキノコを超細密かつ正確に描いていました。高いスケッチ力がよく分かる品です。


<絵画>
最後の部屋は絵画作品が並んでいました。冒頭に書いたとおり、是真は絵画も修行したのですが、円山派と四条派の画家について学んだ是真は、絵師として屏風など大画面の作品も手がけていたようです。

137 柴田是真 「正月飾図」
朝日が昇る光景を描いた掛け軸の前に、海老と扇子をつけた正月飾りが掛けられたような感じの作品です。これは前述の「描き表装」の技法で、むしろ絵の旭日よりも表装の正月飾りの方が主役のようになっているのが面白かったです。もしや写生帖にいた海老かな?w

この辺には「鯉図屏風」という6曲1双の屏風もありました。鯉たちがのんびりしていて、ほのぼのした雰囲気を受けました。また、「雛図」(★こちらで観られます)という、夫婦雛と描き表装で雛道具を描いた作品がありました。

139 柴田是真 「師承過去帖」
これも描き表装の作品で、中央には紫の地に金字で5人の師匠の戒名が書かれています。一方、表装の部分には極楽を思わせる光景が広がっていました。解説によると、師匠の1人の岡本豊彦の戒名が分からないうちに是真も亡くなってしまったようで、未完成となっていたのを後に長男が深川本誓寺の住職に書を依頼して完成させたそうです。

130 柴田是真 「瀑布図屏風」
6曲1双の水墨の屏風で、左右の滝から水が流れ、凄い勢いを感じます。また水煙が烟るような感じや岩肌などが緻密に表現されていました。画技でも高い力量を感じさせます。


ということで若干解説は少なめでしたが、やはり是真は凄い…と感嘆する内容でした。ただ技術があるだけでなく茶目っ気のある遊び心が感じられるのも面白いところです。ちょうど紅葉の時期と重なっていたので、合わせて楽しめました。



 参照記事:★この記事を参照している記事


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行かなくちゃ!
こんばんは!
柴田是真、三井記念美術館で見てから私もすっかり虜です。(*^^*)
超絶技巧だけでなく、センスも抜群なんですよね。大好きですv-238
前後期入れ替えありでしたか。あぶない、今週末行かなくちゃ。
日曜美術館で25日やるので、その後は混むでしょうね。
お庭の紅葉も楽しめたようで、お天気よかったようで、羨ましいです。^^
私が行くときは雨かな・・・;;
Re: 行かなくちゃ!
>めいさん
コメント頂きましてありがとうございます^^
おっしゃるとおり、是信は技術も意匠も卓越していますよね。
観ていて面白い!と思わせるものがあります。
前期・後期の入れ替えは公式サイトから作品リストを観ることができるので、
お目当ての品があったらチェックしてみてください。

今週はちょっとお天気が心配ですね。土日は一応、晴れマークが出てますが。
楽しんできてください^^
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