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大正・昭和のグラフィックデザイン 小村雪岱展 【ニューオータニ美術館】

先日、平日のお昼休みに赤坂見附のニューオータニ美術館で「大正・昭和のグラフィックデザイン 小村雪岱展」を観てきました。

2012-11-21 13.30.37

【展覧名】
 大正・昭和のグラフィックデザイン 小村雪岱展

【公式サイト】
 http://www.newotani.co.jp/group/museum/exhibition/201210_komura/index.html

【会場】ニューオータニ美術館
【最寄】東京メトロ 赤坂見附駅・永田町駅


【会期】2012年10月6日(土)~11月25日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間00分程度

【混み具合・混雑状況(平日12時頃です)】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
お客さんは結構いましたが混んでいるわけではなく、快適に鑑賞することができました。
さて、今回の展示は小村雪岱という大正から昭和にかけて活躍した画家の個展です。小村雪岱は装幀、挿絵、舞台美術や商業広告で活躍した画家で、この時期は印刷の量産技術の発達で印刷美術の時代が到来していたようです。展覧会はテーマによって章分けされていましたので、詳しくは章ごとに気に入った作品と共にご紹介しようと思います。
 参考記事:
  小村雪岱とその時代 (埼玉県立近代美術館)
  大正イマジュリィの世界 デザインとイラストレーションのモダーンズ (松濤美術館)


<第一章 泉鏡花との出会い -- 花開く才能>
まずは小説家の泉鏡花との関係についてのコーナーです。小村雪岱は憧れていた泉鏡花と知遇を得て、1914年(大正3年)に出版された小説『日本橋』の装幀を手がけました。この装幀が好評を得たようで、小村雪岱は一躍注目を集めます。また、泉鏡花を介してその信奉者とも交流し、彼らの装幀も手がけるようになりました。そしてその付き合いは1928年に始まる「九九九会」へと発展し、そのメンバーには水上瀧太郎(小説家)、里見弴(小説家)、久保田万太郎(俳人・小説家)、鏑木清方(日本画家)、岡田三郎助(洋画家)、三宅正太郎(法曹界)らが名を連ねていたようです。この親睦会の名前の由来は9円99銭の会費からつけられたそうで、毎月23日の夜になると日本橋の料亭「藤村」に集まっていたようです。この会は泉鏡花が亡くなる年まで続けられ、この席に呼ばれた芸姑の中には美人画の元になっている人もいるとのことでした。この章では泉鏡花の装幀と共にそうした九九九会のメンバーの装幀本などが並んでいました。
 参考リンク:泉鏡花のwikipedia

小村雪岱 「星祭り」
これは入口付近にあった掛け軸で、地面に置いた黒いタライ?をしゃがんでじっと見つめる桔梗模様の着物の女性を描いた作品です。七夕の日に水を張って星を映して観ているところらしく、この女性は九九九会の馴染みの芸姑のようです。ほっそりした感じの色白の美人で、色っぽくて品がありました。背景は無く、じっとみつめて静かな雰囲気でした。

この近くには東京美術学校日本画科選科の卒業制作の「春昼」という作品もありました。その後はずら~っと本が並んでいます。

小村雪岱 「泉鏡花 著『日本橋』」 ★こちらで観られます
本が開いて展示されていました。表紙には横一直線に流れる川と、その上下に並ぶ沢山の蔵、川を行き交う何艘の小舟が描かれ、画面中に赤や紫の蝶が舞っています。その光景が可憐で幻想的な雰囲気です。一方、本の中には外から眺めた座敷の様子が描かれていて、誰もいない座敷の畳の上には鼓と三味線が置かれています。外は雨が降り、何とも風流で人のいた余韻が感じられました。この本だけでも好みの挿絵ばかりでテンションが上がりますw

小村雪岱 「泉鏡花 著『愛染集』」
これは見開きのページが開かれて展示されていました。中央に小さなお堀(水路)があり、右に背の高い屋敷?、左に雪の積もる道と低めの建物が描かれています。道には着物の女性が歩いていて、画面全体に白い点々があり、雪が静かに降り積もる様子を表しています。建物や構図に幾何学的な簡潔さがあり、空や建物は鉛色~黒の色面で表現されているためか、しんみりとした叙情性がありました。

小村雪岱 「紅梅図着物」
これは九九九会の席に呼ばれた芸姑のために小村雪岱が手描きした着物です。黒紋付で裾は鶯色となっていて、紅梅が描かれています。清廉な印象を受ける意匠となっていました。

小村雪岱 「里見弴 著『多情仏心』」
これは本の見開きで、大きな屋敷を斜め上から見た構図で描かれた作品です。外は夜なのか、家の中からは障子越しの光が感じられます。非常に大胆な構図が面白く、すっきりした感じなのに情感がありました。解説によると、里見弴とは泉鏡花の紹介で知り合い、この多情仏心の新聞連載を始めるにあたり小村雪岱を強く推薦してもらったそうです。そして小村雪岱はこれを契機に挿絵画家としての活躍が始まりました。

この部屋の中央にも本がありました。

小村雪岱 「泉鏡花 著『紅梅集』」
窓が3つあるガランとした部屋の中に、青い獅子舞の面?だけが置かれている様子が描かれた作品です。これは以前見た覚えがありますが、何ともシュールな雰囲気が印象深く、他の作品とは違った魅力がありました。


<第二章 舞台とのかかわり -- 戯曲本と舞台装置原画>
続いて2章は舞台との関わりについてのコーナーです。小村雪岱は1924年(大正13年)の「忠直卿行状記」を皮切りに200あまりの芝居の舞台装置を手がけたと言われているそうです。歌舞伎の仕事を多く行った他、前進座、新国劇、新派などの舞台装置にも関わりました。今では原画や記録写真で当時の様子を想像するしかないようですが、舞台の情感を余すこと無く伝える装置を数多く手がけ、名優たちからの信頼を得たようです。ここには装幀した戯曲や役者の自伝などと共に舞台装置の原画が並んでいました。

小村雪岱 「『東京の昔話』舞台装置原画」
横長の4枚の舞台原画で、それぞれの場面になっています。川の近くの家々を背景にした場面、川にかかった橋が背景の場面、長屋を改造した道具屋の場面、中央に鳥居があり奥に並木と石灯籠が続く神社の場面 となっていて、いずれもその場の情感を感じさせる絵となっていました。若干、暗い雰囲気に思えるかな。

この辺には戯曲の本などが展示されていました。

小村雪岱 「『一本刀土俵入』舞台装置原画」
これも4枚セットの作品で、江戸時代頃を思わせる家々が並ぶ様子や、ススキの野、船のとまる川辺、森の中の小屋などが描かれています。野や川はのどかでしみじみした雰囲気なのですが、家々を描いた作品では漆喰壁に鶴が描かれているなど、細部までこだわりを感じさせました。この家の描写は今でも踏襲されているのだとか。

この部屋の中央にも戯曲の本や舞台の写真の本などが並んでいました。

小村雪岱 「演芸画報」
この章の最後あたりの壁には11点ほど「演芸画報」という冊子が並んでいました。いずれも着物の美人が描かれているのですが、特に好みだったのは「演芸画報第32年第8号」で、楓模様の着物に蝶柄の帯をした女性の後姿が描かれていました。膝を曲げて首を垂れ、何とも色っぽい仕草で、気品のある女性像でした、

この隣には掛軸の作品もありました。


<第三章 挿絵 -- 共鳴する画文>
続いて3章は挿絵のコーナーです。初めて挿絵を手がけたのは1922年の時事新報に掲載された里見弴 著『多情仏心』(1章でご紹介した作品)ですが、コンテによる洋画風の挿絵は賛否両論があったそうです。小村雪岱の模索はその後も続き、次第に線描を主体とした表現へと集約していったそうで、1932年~1938年にかけて挿絵の仕事は最盛期を迎えました。特に1933年9月から東京朝日新聞に連載された「おせん」の挿絵で成功し、挿絵画家としての地位を確立したようです。ここにはそうした挿絵の原画などが並んでいました。

小村雪岱 「おせん 挿絵下図」
これは東京朝日新聞に連載された「おせん」の挿絵の下絵で、6点あった中で特に面白いのは第28場面でした。画面全体に傘をさした沢山の人々が並び、中央の2人だけが傘から顔を覗かせています。その為、自然と視線がそこに向うと共に、周りの円を重ねた構図が幾何学的で非常に面白く感じました。

小村雪岱 「お伝地獄 挿絵原画」
こちらも何点か原画があったのですが、一際目を引いたのは川の場面でした。細い白い線で波を表した真っ黒な川の中、中央に川から出された女性の足だけが描かれています。足には若干角度がつけられていて、泳いでいるのかな?? 白く艶かしい足で異様な妖しさがありました。

この辺には「突っかけ侍」という本とその挿絵原画も並んでいました。


<特集 -- 装幀の妙>
奥の小部屋は特集コーナーとなっていて、1~3章で紹介しきれなかった小村雪岱の装幀本の中から、代表的な作品が並んでいました。小村雪岱の意匠の源泉となっているのは大和絵や浮世絵、伝統的な江戸小紋や古代中国・ペルシャ文様などだそうです。ここにはそうした要素を感じさせる作品も並んでいました。

小村雪岱 「白石実三 著『瀧夜叉姫』」
長い黒髪の十二単の女性の後ろ姿が描かれたもので、十二単が表紙の両面にわたって広がり、しなやかな髪と共に妖しく気だるい雰囲気を感じます。背景には何もなく、ぼんやりした暗闇があるのも神秘的でちょっと不穏な感じすらありました。

この部屋もずらりと本が並んでいました。

小村雪岱 「村松梢風 著『梢風情話集』」
これは見開きが展示されていて、対角線上に雪の積もる大きめの通りが描かれ、その両脇には雪をかぶった家々が立ち並んでいます。道には2人の女性だけぽつんと描かれ、右上の家の2階からそれを見ている?人の姿もありました。しんしんと雪が降り積もり、ちょっと寂しげな感じもしますが冬の情感がよく表されていました。


<資料/その他>
最後に資料としてわかもと製薬が販促用に作った団扇や、弟子が作った木版画などがありました。こんな団扇が貰えるなら薬も買いたくなるかもw


ということで、久々に小村雪岱の作品を楽しむことが出来ました。どことなく郷愁を誘う独特の画風が耽美で好みです。この記事を書いた時点でもう残り半日となってしまいましたが、間に合いそうな方は是非どうぞ。


 参照記事:★この記事を参照している記事

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