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野村仁 変化する相―時・場・身体 【国立新美術館】

週末の会社帰りに、国立新美術館で「野村仁 変化する相―時・場・身体」展を観てきました。
この前、ラリック展を観た時、時間切れ&体力切れで行けなかったんだけど、会期末が迫っていたので、仕事をさくっと切り上げて行ってきました。

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【展覧名】
 野村仁 変化する相―時・場・身体

【公式サイト】
 http://www.nact.jp/exhibition_special/2009/03/nomura.html

【会場】国立新美術館
【最寄】千代田線乃木坂駅/日比谷線・大江戸線 六本木駅
【会期】2009年5月27日(水)~ 7月27日(月)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。
 ※写真はコンパクトデジカメで撮影しました。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度(実際は1時間しか観ていませんが普通に観たら1時間半くらいです)

【混み具合・混雑状況(金曜日18時頃です)】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
この野村仁氏は、この前「ヴィデオを待ちながら」展で「カメラを手に持ち腕を回す:人物、風景」 という作品を観て、その発想が面白かったので、個展も気になっていました。そして、今回の展覧を観て思ったのは、映像は彼のほんの一部で、様々なユニークで独創的な発想と科学的な視点を持っているということでした。


会場に着いたら、18時半から野村仁展とのコラボで国立天文台の縣秀彦(あがた ひでひこ)氏のトークがあったので、まずはそれに参加してきました。作品を観る前にトークを聞いてしまったのですが、野村氏の作品を天文学的な見地で素人の私にもわかるように解説していて、大変楽しめました。(そのトークの内容は各作品の感想の所でご紹介します) 縣氏が言うには星を毎日みている天文学の人たちよりも星を見ているんじゃないか?というくらい、野村氏はよく観察しているとのことでした。
また、2009/07/22の11時過ぎにトカラ列島付近で起きる皆既日食についてのトークがあって、日食の仕組みと観測の際の注意点を説明していました。東京でも7割くらいの日食が見られるようですが、専用の観測用具を使わないと目に見えない赤外線で目をやられるとのことでした。 詳しくは国立天文台のサイトで読んでください。 
 (丁度この記事を書いたのが日食のあった日になってしまいましたが、残念ながら曇りで見れない地域も多かったようです。私も観られませんでした。。。)

トークが終わったのは19時くらいだったので、閉館まで残り1時間で急いで展覧会を観てきました。トーク参加者は200円引きで800円とお得でした。

部屋ごとに気に入った作品をいくつかご紹介。

<第1室>
「Tardiology:東京」
でっかいダンボールのオブジェです。四角いダンボール段重ねになっています。部屋には屋外に作った同様のダンボールの写真が何枚かありました。その写真は、最初はきっちり建っているんだけど、自重で潰れていって最後はぐちゃぐちゃになっていく様子がわかります。自分でコントロールできない形の変容を表しているのだとか。順に見ると、止まっている筈の写真に変化と時間を感じられました。

<第2室>
「Dryice:1969」
第1室と同じように、物の形が変化していく様子を捉えた写真が並んでいます。ドライアイスが小さくなっていく様子が面白いです。

「道路上の日時」
交差点の様子を撮り続けた作品です。写真には日時が書かれていて断続的に写真を撮っているのがわかります。これも物の形の変化と同じく、時間を感じる作品でした。

この部屋には他にも液体窒素の入った筒?みたいなのもありました。解説は忘れましたが、やはり同じような主題なのかな??と思ってみていました。

<第3室A>
「HEARING」についての特別資料室
ここにも連続写真が並んでいました。水面に顔をつけている写真を横から見たかのような写真では、口をあけて空気が出てくる瞬間や、水の中で目を開けたり閉じたりしている様子が連続した写真でわかります。

他にも、特別資料室ということで、CDなんかもありました。いくつか聴いたのですが、一番記憶に残っているのは、普通に買い物に行って、店主に「こういうビニールが欲しいんだけど」と相談している音源。 これって普通の日常会話じゃ?? と思いましたw どこら辺がアートなのかは分かりませんが、日々の生活をアートととらえる視点を持っているんだなと感心していました。

<第3室B>
「TEN-YEAR PHOTOBOOK 又は 視覚のブラウン運動」
時間がなかったのでここは飛ばしていったのですが、フォトブックの貸し出しをして、そこで読めるようなコーナーでした。図書館のカウンターみたいな感じかな。何人か借りて読んでいました。

<第4室>
'moon' score:宇宙は収縮に転ずるか?
この部屋はぷわ~~んぽわ~~~んって感じの宇宙っぽい音楽?がずっと流れていて、何だろって思っていたのですが、これも作品でした。壁には月の写真が並べられていて、それぞれ日によって月の高さが違いがあります。その写真に五線譜を引っ張って、月を音符に見立てています。 そして出来上がったのが、この部屋で流れている音楽です。 月の高さを楽譜にしたらこんな宇宙的な音楽になるなかーと結構な驚きでした。この五線譜を引く作風は後の方でも出てきますが、不思議と心地良い感じです。

「宇宙は収縮に転ずるか?」
似たようなタイトルの作品がいくつかありますが、これはガラスと大理石で作られた作品。クラゲみたいなガラスに同じ形の小さなクラゲが入っているような見た目をしています。これと同じような作品は第5室・第6室にもあって、それぞれ野村氏の宇宙館を表現したものだとか。特に解説はありませんでしたが、超ひも理論の膜宇宙を想起します。それともフラクタルを表現したのかな?

<第5室>
「正午のアナレンマ '90」 ★公式サイトで観られます
事前のトークで解説を聞いた作品です。空に8の字を描いたいくつもの光点があります。何だろこれ?と思ったら、これは同じ場所で正午の太陽を1年間撮り続けた作品です。その発想も凄いけど手間も凄いw
国立天文台の縣氏が解説してくれましたが、8の字の上の方が夏で、頂点には夏至があるはずなのですが、恐らくその日は曇ってたせいか頂点はありません。逆に一番下は冬至で、交差しているところは秋分または春分です。これは私の推察ですが単純に上下していないで8の字を描くのは地軸の傾きのせいでしょうか。 それにしても、観測もここまでくると尊さを感じます。

「北緯35度の太陽」
これもトークで解説して貰いました。これは「正午のアナレンマ '90」よりさらに壮大な作品です。 一見、眼鏡みたいな∞の字を描いているオブジェなのですが、実はこれは365日分の太陽の軌道写真を繋げたものです。毎日、日の出から日の入りまでシャッターを開きっぱなしにして弧を描いた写真を撮り、前の日の日没の場所と今日の日の出の場所、今日の日没の場所と明日の日の出の場所… というようにどんどんくっつけていくと、∞と螺旋を組み合わせたような作品に仕上がります。 ・・・読んでてお気づきかと思いますが、これを作るのは何年もかかります。もし今日雨が降って日が出なかったら今年は諦めて来年に託しますw そんな感じで5年かけて作成されたようで、これは正に偉業といって良いかも。 よく観ると、右側と左側で螺旋の大きさが違っていて、右は冬の時期なので日が短い分、回転するのに多くの日を要するためゆるやかです。逆に夏は回転が小さくてすみます。春分秋分は直線でした。と、自然現象をこんな切り口でアートにしようという発想に驚かされっぱなしです。アートと科学が融合したような作品は初めての経験なので、この部屋の作品郡はかなり楽しめました。

<第6室>
「COWARA(電磁波と放射)」
大きな電気メガホンがいくつも上をむいています。でっかいキノコみたいにも見えるかも。そして、ゴーーーーーー ゴトンゴトンという工事現場か工場みたいな音を発しています。実はこれは宇宙からの電磁波を音に変換した音らしいです。さっきの月の楽譜ほどは風情がないかもと思いましたが、メガホンの機械っぽさとマッチしていました。

「軟着陸する隕石'97」 「軟着陸する隕石'96」
人工衛星の翼の上に隕石のような石が乗っかっている作品です。生命は隕石が運んだというのを表現しているものだったと記憶しています。またこの2つの作品の間には「Cosmo-Arbor '06」というDNAを模したようなプラスチックの作品(この記事の最初の写真の作品です)もあり、生命と宇宙の関わりを表現しているようでした。このあたりの部屋は宇宙好きの私としては最高に面白いです。

<第7室>
「赤道上の太陽」
先ほどの「北緯35度の太陽」と似ています。こっちは赤い∞を描いています。これも赤道上の太陽を撮り続けたものなのかな?? ちょっと解説が無かったので憶測です。

「結晶体:隕石・大理石・マントル」
9の字にDNAの螺旋が絡まっているような感じの作品でした。前にあった「Cosmo-Arbor '06」もそうですが、DNAのような科学的なものをアートに取り込むというのは斬新な感じです。

<第8室A>
「映像 Elliptic score:in falling」
この映像は4時間48分もあるらしいですw この部屋に来た時点で閉館まで15分を切っていたのでさらっと観ただけですが、ここも写真に五線譜をつけて音楽を作っていました。

<第8室B>
「'Grus' score ・・・」
Grusというのは鶴のことらしいです。鳥の群れの写真が楽譜になっています。この曲?はピアノでポロンポロンという感じで軽やかな感じのメロディに仕上げていました。 聴きながら音符や楽器を選ぶのも含めて作品なんだろうなーと考えていました。

<第9室A>
「Chromatist Painting」
絵文字で表現したら↓こんな感じでしょうかw
 ■□□■■□■■
 ■■□■□■■□
色とりどりの正方形が縦2段横10個くらいにならんでいます。中には正方形の中で縦に2分割されて別々の色になっているものもあります。これは一種の言語となっているそうです。・・・法則性がありそうでないような。。。普通に綺麗なデザインに見えましたw  まるで暗号みたいです。

<第9室B>
「Plagiophyllum & NGC 2007+IC 2163(1.63億光年)」
この辺りは化石を使った作品が並んでいたのですが、これは1.63億光年離れた星の写真と、その頃の時代の化石がセットになっている作品でした。今見える星空は何億年も前の輝きだったりするんですよね。。。感慨深いです。
みんなのうたにあったこの歌を思い出しました。。。



<第10室>
「映像 HAASプロジェクト-ソーラーカーによるアメリカ大陸横断」
この人はどこまでマルチな才能の持ち主なんだろうかw ソーラーカーでアメリカを横断したときの映像を観ることができます。そのソーラーカーも展示されていてよく観ると傷や汚れがあって実際に使われた様子が伺えます。実際に通った地図やソーラーカーのコラージュ写真?みたいな作品もあり、ソーラーカーへの情熱を感じることができるコーナーでした。

<第11室>
「植物を育む言語又は'反射している'を見る」
ガラスケースに植物が入っていて、青・オレンジ・紫などの光を当てて、その色に染まっているかのように見せている作品。当てる光の色によって植物の成長の早さが違うのだとか。また、タイトルの通り、光が物に当たった際に吸収されずに反射された光線が「色」として認識されているというのをこういう形で表現しているということでした。(元は全部普通の緑らしいです。) 知っていても普段意識しない色の原理について再認識する共に、この人はやはり科学とアートが融合した作品が多いなと思いました。


ということで、1時間ちょっとしか見ていない割りに凄い充実感でした。特に科学・宇宙に興味がある方にはお勧めの展覧会です。事実の積み重ねである科学と、感性中心のアートという、相反するような2つが融合している作品郡はきっと心に残ると思います。おすすめです。
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