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維新の洋画家 川村清雄 (感想後編)【江戸東京博物館】

今日は前回の記事に引き続き、江戸東京博物館の「維新の洋画家-川村清雄」の後編をご紹介いたします。前編には生い立ちや後に大きな影響を与えた留学についてなども書いておりますので、前編を読まれていない方は前編から先にお読み頂けると嬉しいです。


 前編はこちら


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まずは概要のおさらいです。

【展覧名】
 江戸東京博物館開館20周年記念特別展 
「維新の洋画家-川村清雄」

【公式サイト】
 http://www.edo-tokyo-museum.or.jp/exhibition/special/2012/10/index.html

【会場】江戸東京博物館
【最寄】JR両国駅/大江戸線両国駅

【会期】2012年10月8日(月・祝)~12月2日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間30分程度

【混み具合・混雑状況(日曜日13時半頃です)】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
前編は資料多めで留学から帰ってきた頃までの内容をご紹介しましたが、後半は絵画中心で晩年までのコーナーです。

<第3章 江戸の心を描く油絵師>
3章は油彩画家でありながら日本画のような感性を持った作風に関するコーナーです。川村清雄は日本洋画界の振興のため明治美術会の設立に加わり、自身も画塾を開いて後進を育てると共に、あくまで油彩画としての構図やモチーフを徹底的に研究した上で、背景に金箔・銀箔を使用したり日本に古来から伝わる文様や伝統的な色彩を用いる試みを行ったそうです。キャンバスに描くことにも拘らなかったようで、絹本や紙本、漆塗りなど日本の伝統的な素地を使うこともあったそうです。
清雄はそうした洋画の技法に日本画の感覚を融合させた独特で気品溢れる作品を制作していったのですが、明治中頃になると黒田清輝の白馬会が勢力を強めて外光表現が支持を得るようになると、日本画、洋画、工芸といった理念区分も急速に進んでいったそうです。
 参考記事:
  近代日本洋画の巨匠 黒田清輝展 (岩手県立美術館)
  黒田記念館の案内 (2010年11月)

そうした中で日本的な油彩技法や故事を踏まえた特異な寓意表現は中々理解されなかったようで、1899年に日本美術院で開催した個展の評判は芳しくなく、清雄を落胆させたそうです。清雄自身も画家としての生き方は器用な方ではなかったらしく、完璧を期するために納期が送れることもしばしばで、依頼主を怒らせることもあったようです。 そうして次第に清雄は展覧会や美術教育から遠ざかって行ったようですが、旧幕府関係者や江戸の威風を慕う文化人には清雄の人物と絵は愛されたそうで、ここにはそうした時期の作品も並んでいました。

この章の最初の方には清雄の弟子たちの作品や個展会場のスケッチ、個展の日誌などが並んでいました。

115 川村清雄 「貴賤図(御所車)」 ★こちらで観られます
手前に川辺で佇む母子が描かれ、奥には道行く牛車と貴族風の人たちの一行が通りかかり、その遠い先には塔の姿も描かれています。淡い色合いで水に透明感があり、爽やかな印象を受けるのですが、当時これはコローの作風と比べられることもあったそうです。確かに緑と水のあたりはそう見えなくもないかな。解説によると、この作品は息子のように可愛がってくれた勝海舟の死後に庇護してくれた小笠原家で描かれたそうで、描いている時に日本画の大家の橋本雅邦がこれを観て大変褒めたそうです。それがきっかけで個展を開いたのですが世間の評価は芳しくなく、小笠原家に対して申し訳なくなり家を出ることになったそうです。

162 川村清雄 「ヴェニス図」
ヴェネツィアのゴンドラに乗った白い服の女性が遊び人風の男に声をかけている所を描いた作品で、背景には建物のシルエットがあり、手前では鳥が低空を滑空している様子が描かれています。瑞々しい色使いで柔らかい印象を受け、どこか夢の中のような幻想的な雰囲気がありました。美しい思い出の中の風景といった感じでしょうか。

この辺はヴェネツィア(ヴェニス)の風景画が並んでいました。弟子の話によるとヴェネツィアの話が始まると憧憬の念が禁じ得ないようで、夜中の1時2時までその生活を語っていたそうです。よほど留学時代が懐かしかったのかな…。

149 川村清雄 「福澤諭吉肖像」
椅子に座った晩年の福沢諭吉を描いた肖像画です。紋付袴姿で、顔はよく知るお札の顔そのものなので、観てすぐに福沢諭吉だ!と分かりますw 背景には植物文様の壁紙があり、そのせいか重厚な印象を受けました。

166 川村清雄 「水辺の楊柳」
横長の作品で、徳川宗家に伝わる清雄の代表作だそうです。水辺とその近くの木々、洗濯しているのか川辺にいる女性たちなどが描かれていて、特に水の透明感に目を奪われます。また、葉っぱの部分は厚塗りされていて葉が重なったような感じを出しているのが面白かったです。叙情性のある作品でした。

この辺にはコローとの関わりについての解説があり、清雄はパリ留学時代に晩年のコローを訪ねた事があったそうで、その影響を受けているようです。絵の具を薄く塗り重ねて水の透明感や煌めきを表現している辺りにそれが見て取れるようでした。

少し進むと家族に関するコーナーもありました。時代に翻弄され苦労した姉や従兄弟、清雄に代わって家を守っていた父についても紹介されていました。

193 川村清雄 「鶏図」
籠に入った卵を温める鶏と、5羽のひよこが描かれた作品で、周りには葉っぱヤカンなども描かれています。色鮮やかで日本画のような滲みの表現も使われていて、葉っぱやヤカンの質感が見事です。ひよこは可愛らしく、それを見守る母の視線が微笑ましく感じられました。解説によると、この作品は大晦日で借金に困っていた時に親しくしていた人に買って貰ったのですが、息子に持たせて行った時には親鳥しか描かれておらず、後でひよこも描きますと手紙に書いていたそうです。後日その家に出向いてひよこを苦労してスケッチしたとのことで、また大晦日の借金苦か!と ちょっと愉快な清雄の性格が伺えそうなエピソードでした。

171 川村清雄 「波」
岩にぶつかるに高い波と飛沫が描かれた作品で、今まさに飛沫が上がったかのような臨場感があります。一見するとシンプルな構図ですが、様々な技法が使われているそうで、清雄の技量が伺える作品のようでした。

この近くには一見すると抽象画のようにすら見える「浪に小禽」という作品もありました。大胆な厚塗りで表現されていて、今までの画風とちょっと違って見えました。

170 川村清雄 「滝」
これは流れ落ちる滝を描いた作品で、水煙が立つような柔らかい表現や、厚塗りされた表現が混在しています。その表現の違いによって勢いと滝周辺の空気感を見事に表現しているのが面白いです。清雄は滝の絵をよく描いていたそうで、「ざー、ざー」と言いながら描いていたので周りの人は驚いていたのだとか。

176 川村清雄 「梅と椿の静物」 ★こちらで観られます
梅の枝が活けられた古い釣瓶とその側に置かれた紅白の椿を描いた作品で、手前には小さな蒔絵の箱も置かれています。これは絹本に描かれた油彩で、背景は金箔でまるで日本画のような題材と色使いに見えます。西洋画が1つ上という価値観の中で日本の美を見直し大事に守りぬいていた清雄の姿勢を伺わせるような作品でした。また、この近くには板に描かれた作品もあり、確かにキャンバスだけではないことがよく分かります。

少し進むと明治大正期のコーナーです。清雄は明治30年頃から書籍の装幀や挿絵を数多く手がけたそうで、江戸趣味の作風が人気を得て表紙になると雑誌がよく売れたそうです。 また、出版界を通じて文士たちとの交流も広がったとのことでした。 ここにはいくつかの雑誌が並び152「新婦人」表紙(正月飾り)などが展示されていました。

156 川村清雄 「素戔鳴尊図屏風(左隻)」
六曲一双の屏風のうち左隻のみが展示されていて、スサノオが八岐の大蛇の首をはねるシーンが描かれています。血の付いた刀を両手で持っって振り下ろすスサノオと、口を開け龍のような恐ろしい顔をした八岐の大蛇が戦っています。お互いに勢いのあるポーズで、劇的な印象を受けました。こちらもいかにも日本の金地の屏風といった感じに見えますが、油彩というのが面白かったです。

194 川村清雄 「花鳥図」
布を敷したテーブルの上に置かれた 壺、花束、勾玉、銅鏡のようなもの、鉢とその淵にとまっている2羽の鳥などが描かれた作品です。色鮮やかな布が明るく、西洋的な静物画に見えますが、よくみると日本的なモチーフがあったりするのが面白いです。中々見栄えのする静物で好みでした。

この辺には魚や鳥などを描いた作品や、富士山や扇など日本的なモチーフの作品が並んでいました。


<終章 ≪建国≫そして≪振天府≫>
最後は晩年に関するコーナーです。清雄は晩年、世間の評判をよそに絵の世界に没頭していたそうですが、そんな折に聖徳記念絵画館の建設の議が起きたそうです。これは明治天皇の生涯を80の場面に分けて描くという壮大な計画で、その選定会議の際に会長を務める徳川家達(かつての主君)は自身が奉納する絵画として世に忘れ去られつつあった清雄の名を真っ先に指名したそうです。そして清雄は日清戦争を記念する皇居内の「振天府」という倉庫を画題として与えられ、緻密な取材と長い準備期間を経て1931年についに絵画館に奉納したそうです。
一方、振天府の製作中に上野で開かれた清雄の個展を訪れたフランスの東洋学者シルヴァン・レヴィは清雄の作品に感激し、パリのリュクサンブール美術館に清雄の作品を収めたいと希望したそうで、清雄はこれに応えて日本神話を題材にした「建国」を描き、贈呈しました。その模様はフランス・日本の両国の新聞で報じられ注目をあつめたようです。
清雄はその後も休むことなく絵を描いていたそうですが、天理教の中山みきの肖像を制作しに関西に赴いた際、病に倒れ現在の天理市で息子に看取られながら83歳で亡くなったそうです。ここには晩年の作品が並んでいました。
 参考記事:重要文化財指定へ わが国初期の美術館建設の軌跡 (聖徳記念絵画館)
 参考リンク:御府のwikipedia

203 川村清雄 「建国」 ★こちらで観られます
今回のポスターにもなっている作品で、これがフランスに贈られ今はオルセー美術館の所蔵となっているようです。これは天の岩戸の物語の一場面で、金地を背景に上向きの鶏が描かれ周りには勾玉をつけた祭礼の道具のようなものが描かれています。鶏の毛は厚塗されていて質感があり、日本画のような感じと洋画らしさが混在しているように思いました。解説によると、フランスではこの鶏をフランスのシンボルである「ガリアの雄鶏」と解釈したそうですが、清雄はそれを念頭に描いていたのではないか??と推定しているようでした。実に見事な作品です。

この辺には建国の受贈式典の演説の原稿や、210「《振天府》下絵」、振天府を制作している時の写真、振天府の完成を祝う詩、完成記念式の写真などもありました。最後には近代日本洋画の年譜や清雄の葬儀の際の諄辞まで展示されていました。


ということで、実は何度か作品を観ていた画家でしたがこの機に詳しく知ることができました。文化にも欧化政策の影響が観られる中で、日本の美を守りつつ西洋の画風を取り入れようとしたのは独特な試みだったのではないかと思います。こちらの展示はもう終わってしまいましたが、今後の鑑賞にも参考になる内容でした。


 参照記事:★この記事を参照している記事

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