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森と湖の国 フィンランド・デザイン (感想前編)【サントリー美術館】

前回ご紹介した展示を観た後、同じミッドタウンの中にあるサントリー美術館で「森と湖の国 フィンランド・デザイン」を観てきました。メモを多めに取ってきましたので、前編・後編に分けてご紹介しようと思います。

P1070586.jpg

【展覧名】
 森と湖の国 フィンランド・デザイン

【公式サイト】
 http://www.suntory.co.jp/sma/exhibit/2012_06/index.html

【会場】サントリー美術館
【最寄】六本木駅/乃木坂駅


【会期】2012年11月21日(水)~2013年1月20日(日) 
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日15時半頃です)】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
結構お客さんは多かったですが、混んでいるというほどでもなく自分のペースで鑑賞することができました。

さて、今回の展示はフィンランドのデザインについてということで、とりわけガラスを中心とした内容となっています。フィンランドのデザインは機能性・合理性を重視し、使いやすさと美しさの双方を誇っているそうで、Timeless design product(時代を越えた製品)をコンセプトに作られているようです。また、フィンランドを代表するガラスメーカーの「イッタラ社」が「Lasting design against throwawayism(使い捨て主義に反する永遠のデザイン)」というメッセージを掲げているように、その姿勢は常に地球に優しく自然とともにあり続けるものらしく、今回の展示でも自然を感じさせる品々が並んでいました。展示は章ごとに時系列的に展示されていましたので、詳しくは各章で気に入った作品と共にご紹介しようと思います。


<プロローグ: 18世紀後半~1920年代 黎明期>
まずはフィンランドでガラスが作られ始めた頃の黎明期のコーナーです。フィンランドに最初のガラス工房が出来たのは1681年で、西フィンランドの海に面したウーシカウプンキという町でした。しかし、本格的にガラス製造が開始されたのは18世紀半ばになってからで、当時のフィンランドはスウェーデン王国の支配下にありボトルやボウル、窓ガラスなどの日常品がスウェーデン市場に出荷されていったようです。その後、1793年創立のヌータヤルヴィをはじめ 1809年のロシア帝国による併合の前後(特に1850年)にはイッタラ、カルフラ、リーヒマキなどフォンランドのガラス会社が設立されていったようですが、当時のフィンランドのガラスはヨーロッパの中でも遅れていたようで、ドイツやフランス、ベルギーなど中央ヨーロッパの製品を模したものが主流でした。
1920年代になるとスウェーデンのガラス会社オレフィスが優れたデザイナーを雇ったことでデザイン性が加わり、こうした造形はフィンランドのガラスにも大きな影響を与えたそうです。やがて1928年にはフィンランドのサーヒマキ社が「日常使いのシンプルなガラス器」と銘打ってデザインコンテストを実施し、ヘンリー・エリクソンの「H.E.セット」が優勝したそうで、それは翌年のバルセロナ万国博覧会でも見事にグランプリに輝いたそうです。(それでもその作品もスウェーデンの影響を受けていた) ここにはそうした歴史転換点といえる作品も並んでいました。

まず入口にオーロラを思わせるインスタレーションがありました。ここだけは撮影可能でした。(後のほうにもいくつか撮影可能な場所はあります)
2012-12-15 15.46.14
幻想的な雰囲気で、音楽も神秘的な感じでした。


1 「ボトル」
丸い胴と首のフラスコみたいなボトルです。これはオランダ風のシンプルなデザインだそうで、18世紀後半~19世紀初め頃の品のようです。特に芸術性を感じるわけではないですが、外国から影響を受けていた様子が伺えました。

この辺には他にもヴェネツィアのレースグラスを思わせる品などもあり、模倣が伺えます。若干素朴な感じの作品もあるかな。
 参考記事:あこがれのヴェネチアン・グラス ― 時を超え、海を越えて (サントリー美術館)

7 「フィンランドの紋章入りプレスガラス・プレート・タンブラー」
透明のプレートとタンブラーのセットで、プレートにはライオンが描かれた紋章が入っています。解説によると、フィンランドは1917年にロシア帝国から独立したそうで、このガラス器にも民族意識が反映されているらしく、これはフィンランドの紋章のようでした。フィンランドの歴史は知らなかったのですが、結構苦労の多い歴史ですね…。

この隣にはフィンランドの国民的詩人の肖像の入ったタンブラーもありました。

9 ヘンリー・エリクソン 「H.E.セット」
これがデザインコンテストで優勝しバルセロナでも評価された作品で、薄紫色で薄手のグラスやガラス瓶のセットです。グラスは口の方が広くなっているシンプルなデザインですがどこか優美に感じます。透明感と色が美しい作品でした。 


<第I章: 1930年代 躍進期>
続いてはフィンランドのガラスが躍進した時期のコーナーです。1917年の独立以降、1920年代も近隣ヨーロッパ諸国の影響を受けていたフィンランドのガラス製品は、1930年代には国内のコンペティションや国際的な展示会への出品の機会にも恵まれ、次第に機能美を兼ね備えた優れたデザインへと成長していったそうです。コンペティションは4部門(ドリンキング部門、プレスガラス部門、トイレタリーガラス部門、アートガラス部門)あり、この時期特にアートガラス部門を牽引したのはアルツ・ブルマーやグンネル・ニューマンといったデザイナーだったそうです。また、1930年代に誕生し現在も健在なガラス製品ではアイノ・アールトとアルヴァル・アールトの夫妻の作品などがあり、彼らの作品はミラノ・トリエンナーレやパリ万博などにも出品されたそうです。こうしてフィンランドの機能美は1930年代に築かれたようで、ここにはその頃の品が展示されていました。

20 アイノ&アルヴァル・アールト 「アールトフラワー」
ガラスで出来た器が4つ重なっている作品で、その様子が花のように見えます。これは今なお作られているようで、その曲線が非常に美しく面白い意匠でした。解説によると、これは1939年のニューヨーク世界博覧会のために夫妻で共同でデザインした品のようです。

12 アイノ・マルシオ=アールト 「プレスガラス4056/4052/4056/4644」 ★こちらで観られます
側面にしましま状に波紋ができているような(同心円状に輪が並んでいる)ピッチャーとグラスです。これもシンプルなデザインですが積み重ねできる機能美があるそうです。こちらは1936年のミラノ・トリエンナーレで金賞を受賞したそうで、今なお作られているそうです。確かに時代を越えても古臭さは感じません。それって凄いことですね…。

この隣にもパリ万博で評価を受けた不定形の花器もありました。


<第II章: 1950年代 黄金期>
続いてはフィンランドガラスの黄金期のコーナーです。第二次世界大戦の際、フィンランドはロシアに対抗するためにドイツと手を組んでいたのですが、戦時中はガラス製造が中断し、さらに敗戦すると経済が困窮しガラス製造にも多大な影響を及ぼしました。当時のガラス産業では原料を輸入に頼っていたため、戦後の復興を取り巻く環境は非常に厳しい状況だったようです。しかし、この逆境がかえってフィンランド人のアイデンティティをかき立てたようで、共産主義国にはならないこと、質の高い製品を海外に示すこと を目指し努力したそうです。そして1946年以降のガラス製品は全てプロのデザイナーが手がけるようになりました。
当時は生活用品が不足し ガラスの価格も国に統制されていたようですが、アートガラスについては国内外の展示に活発に出品され、特に1950年代は国際的な名声を得たようです。1951年のミラノ・トリエンナーレに出品されたイッタラ社のタピオ・ヴィルッカラは展示デザイン・木彫り・ガラスの3部門でグランプリを受賞し、フィンランドに明るい未来への期待と、デザインの必要性・向上を促したそうです。ここにはそうした時代の作品が並んでいました。

28 タピオ・ヴィルッカラ 「カンタレッリ(アンズタケ)」 ★こちらで観られます
透明な「カンタレッリ」(アンズタケ)というキノコをモチーフにしたガラス器です。その形も面白いですが、曲線が美しく流れるような線が入っているのも優美に感じます。また、フィンランドではキノコ狩りがポピュラーなレジャーらしく、自然との関わりを感じさせました。解説によると、この作品ははミラノ・トリエンナーレにも出品されたとのことでした。

40 タピオ・ヴィルッカラ 「氷山3525/3825」
ギザギザした側面と分厚いガラスで出来たガラス器で、その名の通り大きな氷のかち割りを思わせる作品です。重厚で力強い印象を受けると共に、寒いフィンランドならではのモチーフに思いました。

33 グンネル・ニューマン 「吹き流しGN18」
縦長で口のほうが細くなっているガラス器です。ガラスなのに柔らかい印象で、中に螺旋状の白い線が入っています。どのように使うかは分かりませんでしたが、流麗な印象を受けました。

結構こうした不定形なものが多いので、日本人の美意識に通じるものがありそうです。

53 カイ・フランク 「ピッチャー5601(100cl)」「タンブラー5023(35cl、18cl、6cl)」 ★こちらで観られます
赤、薄い黄色、うぐいす色、紫など色とりどりの重ね置きできるカップのセットです。これはToive(希望)という名の紙製のパッケージに入れられてプレゼント用に考案されたものだそうで、気品のある色合いが魅力的です。こんなプレゼントを貰ったら嬉しいだろうな…。 解説によると、こちらの作品はニューヨーク近代美術館のコレクションにもなっているとのことでした。

この辺にはカイ・フランクのテーブルセットなどもありました。こちらはセットだけど揃い物ではないという面白い作品です。また、「プリズマ KF215」という作品では虹かオーロラを思わせるような幻想的な色使いとなっていました。

57 ティモ・サルヴァネヴァ 「蘭 3568」 ★こちらで観られます
これは今回のポスターにもなっている一輪挿しで、ミラノ・トリエンナーレで金賞を受けた作品です。縦長で先の方が細くなっていて氷や氷柱を連想するかな。中に空洞があるのですが、これは樹の枝を刺して、その水分を蒸発させて作っているとのことでした。どこか未来的なものすら感じる面白いデザインでした。

68 ティモ・サルヴァネヴァ 「iガラス i-103/i-401/i-104/i-102」
落ち着いた紫や青の徳利やお猪口を思わせる形のガラス器で、当時、日本の伝統的なデザインは高く評価されていたので、この作品にも影響を与えたと考えられているようです。解説によると、1950年代半ばから 1点ものではなく量産品の気運が高まっていたらしく、これはシンボル的な存在で、この作品がイッタラ社のロゴのきっかけになったとのことでした。量産できてデザインも良いとは、その理念にも驚かされます。


ということで、今日はここまでにしておこうと思います。フィンランドのデザインはシンプルながらも面白さを感じさせ、確かに普遍性を感じさせます。この後も素晴らしい作品が並んでいましたので、次回は最後までご紹介しようと思います。


   → 後編はこちら


 参照記事:★この記事を参照している記事

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