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森と湖の国 フィンランド・デザイン (感想後編)【サントリー美術館】

今日は前回の記事に引き続き、サントリー美術館の「森と湖の国 フィンランド・デザイン」の後編をご紹介いたします。前編には混み具合なども記載しておりますので、前編を読まれていない方は前編から先にお読み頂けると嬉しいです。


 前編はこちら



まずは概要のおさらいです。

【展覧名】
 森と湖の国 フィンランド・デザイン

【公式サイト】
 http://www.suntory.co.jp/sma/exhibit/2012_06/index.html

【会場】サントリー美術館
【最寄】六本木駅/乃木坂駅

【会期】2012年11月21日(水)~2013年1月20日(日) 
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日15時半頃です)】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
前回は黄金期を迎えた1950年代までご紹介しましたが、今日はそれ以降の現在に至るまでの内容についてです。


<第III章: 1960・70年代 転換期>
1961年にフィンランドが欧州自由貿易連合の準加盟国となると、輸出入の規制が緩和されガラス製品も広く普及するようになったそうです。そして1960年代はエレガントで繊細なデザインが主流だったフィンランドガラスに新たな造形が加わった時期でもあるようで、型吹きガラスの製法が普及すると、ティモ・サルヴァネヴァは氷のような表面のシリーズを発表し、それまでと異なる美意識の作風を示したようです。大型作品の製造も可能となったようで、卓上の美からオブジェに渡る彼の作品は国際巡回展を果たし人気を博しました。また、国際的にポップアートが流行すると、ヌータヤルヴィ社のオイヴァ・トイッカは生き生きと色彩センスを取り入れた作品などを作ったようです。
しかし、1970年代に入るとオイルショックでフィンランドのガラスも多大なる打撃を受けたようで、製造方針の転換を余儀なくされ、イッタラ社の色ガラスの製造中止などの影響が出ました。一方、そんな中でもヌータヤルヴィ社はプレスガラスの生産のオートメーション化や、新たに職人技を重視したオブジェシリーズ「アート」を導入するなどの動きも見せていたようです。 1972年にはオイヴァ・トイッカによるバードシリーズが誕生し、現在までに500種類以上も作られる人気作となっているそうで、この章にはそのバードシリーズを含め、そうした時代の作品が並んでいました。

82 ティモ・サルヴァネヴァ 「フィンランディア3356/3354」
側面に凹凸があり氷のような質感のガラス器です。これは焦げた木型にガラスを吹き込んで作っているそうで、それが独特のキメになっているようです。この作品の展示ケースは照明の色が変わっていく仕掛けとなっていて、様々な色合いで観られるのが面白い趣向でした。

83 オイヴァ・トイッカ 「霧のしずく5325/5125/5125」
円形のお皿?で、同心円状に無数の丸い粒が並んでいるデザインの作品です。まるで真珠飾りのようにも見えるのですが、これは朝露を見てインスピレーションを得たそうで、輝きが綺麗で清廉な印象を受けました。

この隣には竹の幹のような形の大きな花器もあり、名前を見たら「竹」となっていて納得しましたw フィンランドの自然が取り入れられた作風です。

96 カイ・フランク 「賞杯N540,973」
厚めのガラスの器で、台座がついた賞杯のようです。真っ赤な賞杯と緑の賞杯があり、台座は違う色をしています。いずれもかなり強めの色で、ここまでの作品とは違った鮮烈さを感じ、ちょっと驚きました。

この辺には上下でツートンカラーになっている作品が多いかな。ちょっとやりすぎな感じもしますw 近くには伝統的なヴェネツィアのガラス工房とのコラボ作品などもありました。この辺で上階は終わりです。

階段を下ると、撮影可能なフロアとなっていました。

ハッリ・コスキネン 「きわみの光」
2012-12-15 17.19.42
これは今年作られた作品なので、このコーナーの趣旨とは違うのですが、ランプらしきものが無数に釣られていて神秘的な雰囲気でした。この高さの違いにも何か意味があるのかな??

オイヴァ・トイッカ 「トナカイの集会」
2012-12-15 17.18.24
トナカイらしき形のガラスや、団扇状のガラス(これは木かな?)が並んでいて、何となくクリスマスっぽい感じを受けました。単純化された形が面白いです。ちょっとトナカイがべっ甲あめみたいな…w ポップで可愛らしい雰囲気です。

これがオイヴァ・トイッカの鳥シリーズ。
2012-12-15 17.20.24
ズラッと並んで群れみたいなw

横から見るとこんな感じ。
2012-12-15 17.20.31
目や尻尾のあたりの色が違うのが芸が細かいです。これも形は単純ですが、見事に鳥らしさが出ていました。

次の展示室からまた撮影禁止です。

107 オイヴァ・トイッカ 「ヒタキ 546」
これは鳥の形の置物で、赤紫の胴に緑のくちばし 水色の羽といった感じでカラフルな印象を受けます。デフォルメされた形が可愛らしく、これがバードシリーズの原型となったと考えられているようです。このシリーズは現在でも人気を博しているようなので、まさに時代を超えるデザインと言えそうです。

104 タピオ・ヴィルッカラ 「フィンランディア・ウォッカ瓶」
「FINLANDIA」というメーカーのウォッカの瓶で、側面に先ほどの氷を思わせる質感の技法が使われています。ウォッカが氷の中に入っているような感じが面白く、こんな洒落たものが売られていたのかと妙に感心しました。 …あまりこの作品には関係ないですが、フィンランド産のウォッカというのを初めて知りました。やはり良くも悪くもロシアとの付き合いが深いからかな??


<第IV章: フィンランド・ガラスの今 Art&Life>
最後は現在に至る時代についてです。1960年代後半にアメリカに端を発したスタジオ・ガラス・ムーブメント(個人作家の工房によるアートガラス制作の動向)は1980年代にフィンランドのガラス界にも波及したそうです。また、企業デザイナーも会社のバックアップを受けて個展を開催し、国内外にデザイン性を披露していたようですが、経済状況の悪化によってガラス業界は合併や閉鎖など厳しい環境へとなって行きました。そうした中、ヘルシンキ芸術デザイン大学をはじめ教育機関による職人とデザイナー育成が開始されたそうで、これによって企業の活性化が期待されたようですが、雇用問題や多くの卒業生が個人のデザイナーとして自由な表現の場を求めたこともあり、2000年になる頃には個人の作家の数が企業デザイナーの数を圧倒的に上回っていたようです。しかし企業とデザイナーが決別したわけではなく、企業と若手デザイナーのコラボの機会も見直されているようです。ここにはそうした最近の作品が並んでいました。

132 ティモ・サルヴァネヴァ 「海 547.01」
楕円形の青いお皿で、真ん中の方は緑がかった色をしています。その色合いが深い海を思わせ、力強くも神秘的な雰囲気を持っているように思いました。何とも美しい色をしています。

141 アルマ・ヤントゥネン 「盆栽」
これはその名の通り盆栽をガラスで表現したような作品で、マットな質感で木がデフォルメされた感じで作られています。しかし、そんなに堅苦しい雰囲気でもなく、遊び心が感じられました。

この辺には1980年代生まれの若手作家の作品などもあります。また、バードシリーズの最近の作品などもありました。

147 アンッティ=ユッシ・シルヴェンノイネン 「竹 206.060.45」
琥珀色、緑、透明などのお猪口のような形の器で、それを重ねて展示しています。その重なり方が竹の節のように見えるのが非常に面白く、色が重なると竹っぽい色合いになっているのも感心させられました。


出口付近にもバードシリーズがありました。こちらは緑の鳥。
2012-12-15 17.42.28
これは唯一見た目で何の鳥か分かりました!w トキですね。逆側には赤のトキもいました。

フクロウ(ミミズク?)だっています。
2012-12-15 17.42.50
これも特徴をよく捉えた単純化が面白いです。

この辺で展示は終わりです。ミュージアムショップでは以前ご紹介したヒンメリを売っていました。この展示に因んだものだったのかな?
 参考記事:MIDTOWN CHRISTMAS 2012 (ミッドタウンクリスマス2012)


ということで、フィンランドのガラスの歴史を詳しく知ることができました。そもそもフィンランドの歴史も知らなかったので、一挙両得といった感じです。難しいことを考えなくても綺麗なガラス器が並んでいるだけでも面白いと思いますので、気になる方は是非どうぞ。お勧めの展示です。


おまけ:
この展示を観た後、夕飯はイマカツで摂りました。最近は夜だけでなくお昼でもちょくちょく通っていますw
 参考記事:六本木 イマカツ (六本木界隈のお店)


 参照記事:★この記事を参照している記事

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