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生誕100年松本竣介展 (感想後編)【世田谷美術館】

今日は前回の記事に引き続き、世田谷美術館の「生誕100年松本竣介展」の後編をご紹介いたします。前編には初期の作風なども記載しておりますので、前編を読まれていない方は前編から先にお読み頂けると嬉しいです。


 前編はこちら


P1070620.jpg

まずは概要のおさらいです。

【展覧名】
 生誕100年松本竣介展

【公式サイト】
 http://www.nhk-p.co.jp/tenran/20120925_155300.html
 http://www.setagayaartmuseum.or.jp/exhibition/exhibition.html

【会場】世田谷美術館
【最寄】東急田園都市線 用賀駅

【会期】2012年11月23日(金)~2013年1月14日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間30分程度

【混み具合・混雑状況(日曜日15時半頃です)】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
前編では1940年~41年頃に作風が変わったことについて触れましたが、後編の3章からはそれ以降の晩年(36歳)までのコーナーです。


<第3章 後期:風景>
画風を大きくさせた竣介は、風景画も精力的に描いたそうで、抑制された静謐な画面は後に「無音の風景」と呼ばれたそうです。ここでは題材ごとに節に分かれて展示されていました。

[3-1 市街風景]
竣介は東京各所を歩きまわって風景を採取したそうで、ここには市街の風景画が並んでいました。

P078 松本竣介 「丸内風景」
丸いドームのある建物と鉄塔、中央辺りには黒い人影が描かれた作品です。全体的に褐色がかっていて暗く、幾何学的な感じを受けます。静かでどこかシュールさすら感じるかな。たまにアンリ・ルソーを彷彿とする作風です。


[3-2 建物]
続いては建物のコーナーです。画風の変遷のいかんに関わらず竣介にとって建物は最大の関心事であり続けたそうで、ここには建物を描いた作品が並んでいました。(とは言え、その解説通り建物の作品は全編に渡って展示されていますが…)

P084 松本竣介 「市内風景」
塀に囲まれた三角屋根の建物が描かれた作品で、右端の塀際には3人の人影が描かれています。これは竹橋付近を描いた作品だそうですが、ガランとした印象を受けて、色も土気色で寂寞とした雰囲気でした。

この頃の作品は1人から数人の人物が描かれていて寂しい感じの作品が多いように思えました。


[3-3 街路]
竣介は道のある風景も好んで選んでいたのが見て取れるそうで、建物と合わせて主要な構成要素だったそうです。ここにはそうした道を描いた作品が並んでいました。

P086 松本竣介 「議事堂のある風景」
右下あたりに大きくカーブしている道があり、その背景にはそびえるような国会議事堂が描かれた作品です。左には煙突や建物、手前にはリアカーを引く人影も描かれていて、深く暗い青色で覆われているためか、寂しげな印象を受けました。解説ではカーブしていく道が国会に吸い込まれるようだとのことでしたが、確かにそう感じられる構図が面白かったです。


[3-4 運河]
この頃の東京には運河が多かったそうで、竣介は運河にかかる橋も好んでモチーフにしていたそうです。

P089 松本竣介 「橋(東京駅裏)」
川にかかる橋を描いた作品で、周りには街灯かなにかの柱が立ち並んでいます。その垂直の線がリズムを生んでいるのですが、橋は冷たく重い印象を受けました。東京駅の裏なのに、人っ子一人いない静寂の雰囲気です。これは以前何処かで観た覚えがあるのですが、何処だったか思い出せず…。


[3-5 鉄橋付近]
竣介には鉄橋付近を描いた作品がいくつかあるようで、これは五反田駅へつながる鉄橋と目黒川が交差する辺りの風景と考えられているそうです。ここには同じような風景の作品が並んでいました。

P092、P091 松本竣介 「鉄橋付近」「鉄橋近く」
92は鉄橋近くの建物を描いた作品で、排水口や電柱など幾何学的な要素も多い画面となっています。全体的に褐色がかっていて、ちょっとどんより重苦しい感じをうけるかな。その隣の91は92と同じ下絵をもとに描かれている作品ですが、こちらは空が大きく取られ全体的に青みがかった色合いとなっていました。その為、こちらは幻想的というか、ちょっと寂しげながらも惹かれるものがありました。

ここにはスケッチなどもありました。似た風景画が並んでいます。


[3-6 工場]
竣介の視線は都会の裏側に向かっていったと考えられるそうで、無機的な工場を描いた作品もそういった傾向の一端を担っているそうです。ここには工場を描いた作品が並んでいました。

P093 松本竣介 「工場」
沢山のビルのような建物が密集している工場を描いた作品です。この辺りに展示されている作品は青や褐色で統一された色合いとなっていますが、この作品は建物のそれぞれに色がついている感じで、一見してちょっと他と違って観えました。ざらついた質感があり、以前の作風も想起するかな。まだ画風が変わっているようにも思いました。


[3-7 Y市の橋]
「Y市の橋」とは横浜駅近くの新田間川にかかる月見橋のことで、竣介は横浜まで足を運んでスケッチしていたらしく、とりわけこの橋を気に入っていたようです。また、竣介は生活のために1944年ころから理研化学映画に入社したそうで、東京大空襲の後には勤務地が大船に移り、落合から数時間かけて通っていたそうです。しかしその間にも横浜も大空襲を受け、この橋の辺りも被害が出たそうです。このコーナーには変わり果てた橋を描いた戦後の作品もあり、様々な角度・時期に描かれた「Y市の橋」が並んでいました。
 参考記事:
  東京国立近代美術館の案内 (2010年12月)
  岩手県立美術館の案内 (番外編 岩手)

P097 松本竣介 「Y市の橋」
これは東京国立近代美術館の常設にある作品で、倉庫か工場のような大きな建物を背景に川にかかる橋が描かれています。橋の上には黒い人影があり、深い青色が静かな雰囲気です。細い線で描かれた欄干など写実的な感じがありつつもちょっとシュールな感じも受けました。
この近くには褐色のY市の橋もありました。また、100「Y市の橋」(戦後の1946年作)には、ぼろぼろになって鉄がへし曲がっている無残な様子が描かれていて、空襲の被害を感じさせました。


[3-8 ニコライ堂]
竣介はニコライ堂も気に入って何度も描いていたらしく、ここにはニコライ堂をモチーフにした作品が並んでいました。
 参考記事:ニコライ堂と神田明神の写真

P103 松本竣介 「ニコライ堂と聖橋」
手前にアーチ状の橋があり、奥にニコライ堂が見えている風景を描いた作品です。全体的に青く落ち着いた色使いで、若干沈んだ雰囲気に思います。また、ざらついた質感があり、堅牢な印象を受けました。解説によると、これは実景にはない角度のようで、配置を変えて描いているようでした。

この辺には様々な角度から描いたニコライ堂の作品が並んでいました。全体的に赤っぽい色合いの作品もあります。


[3-9 焼け跡]
東京大空襲の後、竣介は家族を疎開させたようですが、自分自身は東京に残りました。20歳の頃に耳の障害を理由に兵役は免除されていたものの、多くの知人・友人が戦地へと送られていく中で、東京に留まることを自身の姿勢として選択していたそうです。その後、自宅の周辺だけは奇跡的に助かったものの、落合も焼け野原になり生活は困窮していったようですが、それでも絵を描いていたようで ここには空襲の焼け跡を描いた作品が並んでいました。

P110 松本竣介 「神田付近」
高いところから見下ろすように描かれた神田付近の風景画です。地平線が低く全体的に赤みがかっていて、所々に建物が残っているものの廃墟そのものといった感じで、寂しく不穏な雰囲気があります。人の姿が無いのが逆に怖いような…。

この近くには兵隊風の人物の肖像などもありました。また、その次の部屋には資料が並んでいて、絵入りの手紙や、前編でご紹介した「雑記帳」の原稿、たくさんのスケッチ帳、美術雑誌の「みずゑ」(美術は時局に関係なく自律的普遍的 意味があると訴えた記事)、麻生三郎ら仲間に宛てた手紙などがありました。スケッチにはY市の橋やニコライ堂の様子も描かれていて参考になります。


[2-6 童画]
このコーナーは小部屋で、ここだけ2章の内容となっていました。ここには童画と呼ばれる作品があり、これは幼い次男が描いた絵を元に制作されたものらしく、次男はよくアトリエに来て絵を描いて遊んでいたそうです。

P074 松本竣介 「汽車」
辛うじて線路と汽車の形を見て取れるものの、抽象的な感じの作品です。暗い背景に白で描かれていて、素朴で力強い印象を受けるかな。いかにも子供の絵のように見えますが色合いなどは竣介らしい感じに思いました。

この辺には象、牛、セミなどを描いた作品もありました。


<第4章 転換期>
最後の章は終戦前後の晩年のコーナーです。竣介は家族を疎開させた後も東京に残ったのですが、物資困窮の生活を余儀なくされ、生活のために仕事に忙殺され続けたようです、しかしそんな状況でも新たな文芸誌創刊の計画に奔走し、美術家組合の結成を呼びかけ、絵を描いていたそうです。
戦後の1947年には近しい新人画会の画友と共に自由美術協会の再建に参入し、それを機に新たな主題と画法の作品を発表して周囲を驚かせたそうです。それらは戦中に庭の土中に埋められていた赤褐色の絵の具を地色としたもので、大胆な黒の線描をもって人体を抽象的に描いたようです。しかし、再び新しい画風の端緒を見せ始めた36歳で病死してしまったようで、ここには最晩年までの作品が並んでいました(巡回によっては絶筆も展示されたそうです)

[4-1 人物像:褐色に黒]
新たな画風は赤褐色の背景にキュビスム的で大胆なデフォルメで描かれた力強い黒の線が特徴らしく、ここにはそうした作品が並んでいました。

P112 松本竣介 「人」
赤褐色の画面に人らしき姿が描かれた作品です。黒く太い輪郭線で描かれているのですが、人はどこがどの部分か何となく分かる程度で抽象的な感じを受けます。燃えるような赤の色が強く、色の持つ力強さが印象的でした。

この辺は似た雰囲気の作品が並んでいました。


[4-2 新たな造形へ]
晩年の竣介は、持病の気管支喘息に加え結核にも蝕まれていて、さらに過労が重なり病臥していたそうですが、それでも弛まず未来を展望し続け、新しい絵画を模索していたようです。荒々しい筆致で性急に抽象化を推し進めた後、西欧の古典芸術への憧憬を模索し始めていたようです。ここにはそうした晩年の作品が並んでいました。

P122 松本竣介 「彫刻と女」 ★こちらで観られます
高い台に乗った人物の頭部の彫刻と、それを撫でるような女性の立ち姿を描いた作品です。やはり背景は赤黒い感じですが、彫刻と女性は具象的で、表情も読み取れるような感じでした。独特の力強さと静けさを湛えた作品でした。


ということで、1階2階をフルに使った本格的な個展となっていました。時系列で初期から晩年まで俯瞰でき、さらに代表作も観ることができたので満足できました。今まで以上に松本竣介を好きになれる展示でした。


 参照記事:★この記事を参照している記事

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ありがとうございます。
こんにちは。
今年も残りわずかでございますね~。
興味深く、楽しい記事をた~くさんご提供下さってありがとうございます。
おかげさまで、たくさん勉強させて頂きました。
また来年も楽しみにしております。

それから、私の拙いブログにも、いつも来て頂き大変感謝いたしております。これからも頑張って行きたいと思います。
ありがとうございます。

応援ポチさせて頂きますね(^o^)

ありがとうございます。

Re: ありがとうございます。
>カラリストりんこさん
コメント頂きましてありがとうございます。
年末忙しくてちょっと更新が止まってしまいましたが、末日まで記事を書いていこうと思います。
また来年も良い展示がありそうなので楽しみです。
今後共よろしくお願い致します。ポチもありがとうございました^^
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