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マックス・クリンガーの連作版画―尖筆による夢のシークエンス 【国立西洋美術館】

前々回前回とご紹介した西洋美術館の特別展を観た後、常設展も観て来ました。常設内にある版画素描展示室では「マックス・クリンガーの連作版画―尖筆による夢のシークエンス」が開催されていました。

P1070972_20130118012534.jpg

【展覧名】
 マックス・クリンガーの連作版画―尖筆による夢のシークエンス

【公式サイト】
 http://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2012max.html

【会場】国立西洋美術館 版画素描展示室
【最寄】上野駅(JR・東京メトロ・京成)


【会期】2012年11月3日(土・祝)~2013年1月27日(日) 
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 0時間30分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日15時半頃です)】
 混雑_1_2_3_4_⑤_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
空いていてゆっくり観ることができました。

さて、今回はマックス・クリンガーという19世紀末から20世紀初頭に活躍したドイツの画家の版画の展示です。マックス・クリンガーはウィーン分離派やベルリン分離派にも参加していた画家で、版画にも強い関心を持ち多くの作品を残したそうです。著書の中では版画(銅版、木版、リトグラフ)や素描をなどを「尖筆芸術」と呼び、絵画や彫刻よりも空想の力が発揮しやすいと述べていたそうです。この展示ではそれを感じさせる連作などが並んでいましたので、詳しくは気に入った作品を通じてご紹介しようと思います。なお、この展示ではルールを守れば写真を撮ることができましたので、それを使っていこうと思います。

マックス・クリンガー 「眼鏡をかけた自画像」
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これは自画像のエッチング。ちょっと神経質そうな顔をしているように見えましたが、細やかで陰影が巧みに思います。

マックス・クリンガー 「私室での陵辱」
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これは西洋美術館が所蔵する唯一の素描で、優美なロココ調の部屋で陵辱が行われている様子が描かれています。手を挙げて抵抗している感じがするなどちょっと生々しい。部屋の雰囲気と対比的でした。


少し先には「手袋の取得に関するパラフレーズ-それを失くした婦人に捧ぐ」という全10点の連作が並んでいました。これは21歳だったクリンガーの実質的なデビュー作らしく、画家自身の自伝的な内容のようです。

マックス・クリンガー 「行為」
P1070996.jpg
今回のポスターにもなっている作品です。これはちょっと前に観た覚えがあるのを思い出しました。ローラースケート場で女性が手袋を落としたのがきっかけで、青年は女性への想いを募らせるというストーリーで、これはその出会いの場面を描いています。リズムを感じる配置が面白いですが、何処と無く不安になる歪みを感じました。
 参考記事:ルドンとその周辺-夢見る世紀末展 感想後編(三菱一号館美術館)

マックス・クリンガー 「凱旋」
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これは青年の妄想の中の場面。手袋が美しい馬車に乗っていて、優美な雰囲気があります。手袋は恋する女性そのものとして扱われているようです。
以前このシリーズを観た時に、手袋にまつわる機知を効かせた作品かと思っていましたが、こうして改めて観ていくと妄想と葛藤の作品なのかも?と考えが変わりましたw 

マックス・クリンガー 「不安」
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こちらは一転して手袋に押しつぶされそうになっている場面。悪夢のようで、叶わぬ恋に苦しめられているのかも知れません。

この先にもこのシリーズの妄想と歪んだ愛を感じさせる作品がありました。また、その先にはアモールとプシュケの物語の本なども展示されていました。


続いてはオヴィディウスの変身物語を題材にした連作「オヴィディウス『変身物語』の犠牲者の救済」。こちらは先ほどの手袋とほぼ同時期に作られているそうで、神話もクリンガーの想像力の源泉だったようです。

マックス・クリンガー 「第一間奏」
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これはブランコに乗る女性が宙を待っている様子です。背景が幻想的に感じるせいか、不安な雰囲気があるように思えました。解説によると、こうしたブランコに興じる人物像はゴヤの作品を想起させるとのことでした。
 参考記事:
  プラド美術館所蔵 ゴヤ 光と影 感想前編(国立西洋美術館)
  プラド美術館所蔵 ゴヤ 光と影 感想後編(国立西洋美術館)

マックス・クリンガー 「アポロンとダフネ III」
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アポロンが牛を飛び越えてダフネに迫ろうとしたところ、牛が走りだしアポロンを乗せていったという場面のようです。アポロンは後ろ向きに座っていて驚いているのかな? 右のほうでダフネがぽか~んと見ているのが面白かったですw


続いては「死について II」という連作のコーナーです。死はクリンガーにとって重要なテーマだったらしく、「死について I」を作ったものの完結せず、続編としてこちらが作られたようです。かなり時間をかけて作られた連作のようで、ショーペンハウアーやダーウィンからの影響も受けているそうです。

マックス・クリンガー 「生に清く・・・」
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中央の巨人は時間の擬人化で、手には空しさを意味する砂時計を持っています。崖に居るのはモーゼ、キリスト、ブッダで、いかなる宗教も時間の前には無力であると暗示していると考えられるそうです。そして手前の人物は死を恐れぬ人の象徴なのだとか。キリストをこういう姿で描くとはちょっと驚きでした。

マックス・クリンガー 「ペスト」
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病室に紛れ込んだカラスを追いやる十字架を持った女性が描かれています。タイトル的にこれはペストや死の象徴だと思いますが、十字架を振り回しても意味が無いとでも皮肉っているのかな??

マックス・クリンガー 「死せる母親」
P1080121.jpg
死んだ母親の上にいる赤ん坊という、悲惨な場面を描いた作品のはずですが、あまり暗さを感じません。クリンガーは「個は死に、種は生きる」という生物学的な思考を持っていたそうで、この絵でも背景の若い植物と共にそれを暗示しているようでした。


ということで、幻想的でちょっと不安な気分になる作品が並んでいました。あまり知らなかった画家だけにこれは貴重な機会でした。版画室の展示は毎回面白いので、西洋美術館に行く際にはこちらも観るとより楽しめると思います。


 参照記事:★この記事を参照している記事

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